大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 吉野課長のヘアースタイルで盛り上がる第二特務課、そして結果それは無かった事になったかも知れない。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2018/03/01
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたMWKURAYUKI様、orione様、じゃーまん様、有難う御座います、大変助かりました。


狸が熊を手玉に取り、Xになる。

「成る程、捷号作戦の次段階に於ける概要は把握した」

 

 

 重々しく一言述べた壮齢の将官は椅子に深く腰掛け、口をへの字に曲げつつ睨むかの様な視線をその場に只一人立つ男に向ける。

 

 大本営執務棟中央会議室。

 

 

 軍の頭である将官九名、その内大将五、前線基地司令でも最前線と呼ばれるエリアで取り纏めをしている少将一と中将三。

 

 実質軍を動かしている者全員がそこに集結していると言っても良い異常事態。

 

 

 その九人が座るテーブルの末席で一人立つのは大本営第二特務課々長である吉野三郎中佐。

 

 今回の捷号作戦の第二段階を立案・進言し、一応ではあるがそれを進める為の中核を担う艦隊の長である。

 

 

 その吉野に対し、言葉を発したのは幌延泊地指令にして北方海域を取り纏める男、河合幹夫(かわい みきお)中将。

 

 今回の会議は捷号作戦の次段階に於ける作戦説明と、それに伴う戦力配置と役割の分担についての質疑応答の為に設けられていた。

 

 

 捷号作戦(概要)

 

 一つは現有戦力の再配置、捷号作戦初段階に於いて日本近海に配置されている戦力の幾分かが余剰戦力となる可能性が高くなったので、それを前線基地へと配置。

 

 この際打たれ強く火力が高い艦種を南方へ優先的に配置し、北方及び東方は防御に徹した編成へ再配置する。

 

 この際北方戦線は主に足の速い水雷戦隊を配備し、更に基地の数を増やしてエリアをカバーすると同時に、戦艦級や重巡級を駆逐艦や軽巡と置き換えて完全防衛体制に移行する。

 

 第二に、戦力を集中させた南では、現在懸念されている 『エリアを跨いで攻めてくる深海棲艦上位個体』 を集中的に迎撃、それにより鹵獲された個体を引き込む、若しくは鹵獲したまま拘束する。

 

 第三は現在支配下に置いている海域に湧き出る深海棲艦の頭目と予想される個体を撃破し、その個体と現在日本と友好関係にある上位個体とを置き換え(・・・・)、日本近海と同じく不可侵条約を結ぶ。

 

 第三段階の状態を観て良好ならばこれを繰り返し、領海の拡大と安定を図る。

 

 

 つまり現存する深海棲艦を駆逐するのが不可能という事実を肯定した上で、話の判る個体に縄張りを任せ、そこに共存関係を築こうという内容になっていた。

 

 

「吉野中佐立案のこの作戦、確かに上手くいけばこれ程有用な物は無い、しかし、だ」

 

 

 河合中将はそこで言葉を切り、ジロリと吉野を睨む、誰がどう見てもそれは好意的な物では無く、明らかに不満と敵意の色が浮かんでいた。

 

 手に持つ作戦概要が記された紙束を指で弾きつつ、面白くなさ気な声色で言葉を続ける。

 

 

「この作戦立案の根拠となる情報、特に艦娘の深海棲艦化と深海棲艦の発生プロセス、これは今君の処に身を寄せている深海棲艦から得た情報という事だが?」

 

「はっ、中将殿が仰られるとおりです」

 

 

 本来報告では無くこの様な会議であるなら、序列による席の配置はあっても立ったままの状態での質疑応答は在り得ない。

 

 しかし今吉野は立ったままそれに受け答えをさせられている、一応の処作戦として認められ、後は各所の承認を得られれば本格的に作戦は発令となるのだが、その承認を得るべき場で待ったを掛けた一派、主に北方戦線を支える将官三人の不満は相当な物のようで、それが会議に於いてもこの様な形で表れていた。

 

 その他の者は比較的興味を示す内容の情報と作戦内容だったのだが、やはり情報源が深海棲艦からの物とあっては少なからず懐疑的にならざるを得なかった。

 

 

「確かにここ数日、日本近海に於ける深海棲艦の出現数は減少し、それに伴い被害状況も格段に良くなったと聞いている、しかしこの結果が深海棲艦から得た情報を信じるに値するという根拠にはなんら関係性は無いと思うのだが?」

 

「確かに中将殿が仰られる事も御尤もな話だと思います、自分も盲目的にその情報を鵜呑みにするつもりはありません」

 

「なら、この作戦概要はどう云った意図で作られた物なのか?」

 

「先ず、彼女達から得られた情報の真意を確かめる為に現在南方で猛威を振るっている 『エリアを跨いでくる個体』 を迎撃し、接触、若しくは鹵獲というプロセスを踏んで深海棲艦の生態を確認する事から始めようと思っています」

 

 

 実際の処、日本近海の状況を見るに朔夜(防空棲姫)から得た情報の幾つかには信憑性が出ている、そして敵対していた(空母棲鬼)も同じ認識であった処から、吉野はこの情報にはかなりの信憑性があると思っていた。

 

 しかしそれは南鳥島で実際戦って得た感想であり、現場に居なかった人間からすれば、朔夜(防空棲姫)(空母棲鬼)が裏で共謀してるのでは無いかと思われても仕方なく、それ故実際に南方で暴れている個体をどうにかして納得させようとしているのであった。

 

 

「ふむ、それはいいのだが、試しにと言う割には北の戦力を割いてまで南方へ戦力を注がんでも現有戦力と、本土が抱えている余剰戦力でどうにかなるのではないのかね?」

 

「今回の作戦は戦闘行為が必ず含まれます、そしてそこで艦娘が沈めば深海棲艦化する確立が上がります、なら同じ戦うにしても"沈み難い艦種"を充てるのが最良かと、矛では無く盾としての彼女らの能力が今回の作戦の肝になると思います」

 

「だから北から高耐久の艦を抜き、入れ替えで小型艦を配置すると? ならもしこちらでその艦に何かあった場合どうするつもりだね? 聞けばその防空棲姫も元は駆逐艦と言うではないか」

 

「何かあった場合とはどういう意味でしょう?」

 

「何を言っているのか! もし海戦が発生した場合、小型艦ばかりだとこちらの艦隊で沈む艦が増える確率が高くなると言っておるのだ!」

 

 

 書類をテーブルに叩き付け、身を乗り出して河合は怒鳴りつける、このやり取りは他の者も多少は納得しているらしく、それに対する吉野の言葉に注目していた。

 

 そして当の吉野は、筋骨隆々な中将の一括を物ともせず、逆に何を言ってるんだコイツ的な雰囲気を敢えて出しつつ淡々と話を続ける。

 

 この様な腹に一物を持つ者達、特に権力を持った者が会する場では言質を取られる事は命取りで、更に感情的になった場合、それが正論であっても言わないでいい一言を漏らしてしまう。

 

 

「確率ですか、ならお聞きしますが北方と南方での戦闘回数の比率は御存知ですか?」

 

 

 吉野の言葉を聞いて河合は思わず苦い顔になる、本来この場は確率や数を出して比較検討する場では無く、作戦内容の根拠のあやふやさと、それを軸とした合理性の低さを突いて艦娘の再配置の不合理さを唱えるつもりでいた。

 

 しかし確率、つまり『数』の話になると内容はガラリと変わってしまう、軍としての体裁や道理は関係なく、只のデータでしか語れない場になってしまうのだ。

 

 

「比率で言うと北方1に対して南方5です、そして戦闘回数が五倍になるなら、艦娘が沈む可能性、一艦隊六隻と計算すると数にして北方6、それに対して南方は30になりますね、この時点で桁が一桁も増えていますね」

 

 

 吉野の言っている事は単純な数の話であり、艦娘の性能比を無視した只の屁理屈である、しかしその話は『中将から問われた確率の話に合わせ答えた』だけであって、特に責められる内容では無い。

 

 本人の腹の中ではどう思っていようとだ。

 

 

 そして屁理屈とは判っていても比率五倍、数にして6:30という物は頭では判っていても、言葉にするとそれは数倍重く感じてしまう。

 

 河合は拳を握り締めながらも反論は出来ない、自分から確率という話を振ったという言質は取られている、そこにそれとはまったく正反対な道理という精神論を持ち出す訳にはいかない。

 

 

「いやしかし"北の大熊"さんに真っ向から舌戦を仕掛けますか、あの剣幕を受けた上、更に怒らすとは…… 大将の育てた狗は中々どうして肝が据わってらっしゃる」

 

 

 河合の向かい、真っ赤になって歯噛みしている様を眺めつつ、隣に座る大隅巌(おおすみ いわお)にだけ聞こえる様に呟くのは南方の最前線、リンガ泊地司令であり、この場に居る将官の中で一番階級が低い少将、名を斉藤信也(さいとう しんや)という。

 

 若干三十代で基地司令に任命され、四十にならずに将官になった男であるが、武勇と実績の割には線が細く、言葉遣いも軽い為に軽く見られがちだが、実際は目の前の大男より数段気質が激しい現場叩き上げの軍人であった。

 

 斉藤自身戦力配置で優遇される立場にあっても、この会話を見ての心情は河合寄りの考えではあるが、この様な各所のトップが集う場所で迂闊な言葉を吐き、更に中佐風情に理詰めで押さえ込まれようとしている目の前の大男を見ると、一拠点を指揮する者としては聊か頼りないとさえ感じてしまい、情けなさで溜息が出る心境になっていた。

 

 

「アイツにゃ張れる程頑丈な体は無ぇからな、無い知恵絞って悪巧みするしか無いんだろうよ、平気な顔しちゃいるがありゃ内面ガクブルだと思うぜ?」

 

 

 冷めた目で二人のやり取りを見つつ大隅は憮然と呟いた。

 

 本人は立場上中立で無ければならず、北方方面から不満が噴出していると聞いていたので会議はややこしい物になるだろうと覚悟をしていたのだが、蓋を開けてみれば吉野の挑発に乗った大男が墓穴を掘り、早々に茶番と化しているこの会議に辟易としていた。

 

 

「ついでに言いますと、北方ではテリトリーを行き来する上位個体は今まで一度も確認されておりません、よって状況的には戦線に大きく影響する不測の事態が発生する確率は低く、これまでと変わらす海域の維持に注力すれば良いはずです、中将殿程の手腕がありましたら(・・・・・・・・・・・・・・)、『位置と勢力が判明している相手』をどうにかするのは例え戦力配置があっても充分に可能では無いかと自分は愚考致します」

 

「あ~あ、一番言わせちゃいけない言葉を言わせちゃったか、これじゃ熊さん条件丸呑みしないと自分が無能だと認めてしまう事になりますね」

 

 

 斉藤の言葉にフンと鼻息一つ鳴らした後、ゴホンとわざとらしく咳を一つ吐いて大隅はその場を見渡した。

 

 一応大将五人の内の一人であり他に四人存在する者と階級は同じだが、その中でも取り纏めをする事が多い大隅がわざとそう見せた(・・・・・・・・)のだから、他の者は次に出るであろう言葉を待つしか無い。

 

 河合も顔を上気させながら黙って席へ座り直し、吉野は相変わらずの表情でそこに立ったまま大隅を見ていた。

 

 

「吉野中佐、聊か言葉が過ぎるぞ、言っている事は判るが慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度は控えるように、さて河合中将」

 

 

 大隅は吉野を一睨みして苦言を呈し、河合へ話の水を向ける、話を振られた本人はまだ怒りの表情を露にしているものの、それは一旦振り上げた拳を下げる事が出来ず困っている状態であり、大隅の言葉に少なからず安堵している事も確かであった。

 

 

「一応現段階では異常が発生している海域をどうにかする為極端な戦力の振り分けとなるが、流石にその後上手くいったとしても南方へ戦線を延ばし続ける事は物理的に無理だ、よってこの状態は一時的な物と矛を収めてはくれんか?」

 

「はっ…… いやしかし……」

 

「河合君、君の言いたい事は判っている、判っているがしかしこんな無理を他の者に頼む事は出来ん、すまんが暫くの間割り当てられた戦力で北を死守してはくれんか?」

 

 

 この一連のやり取りは一応河合自身の面目は保てている様に見えるが、端から見れば大隅は河合を容赦なく叩いた吉野を(いさ)め、その河合を持ち上げる事によって本人は体面を保ったものの、そこに『大将自らのお願い』という駄目押しまでされてはもう何もいえない状態になっていた。

 

 この吉野と大隅のやっている事は世間一般で言う処の『マッチポンプ』以外の何物でもなく、事前に打ち合わせをしていた訳では無いが、上司部下とはいえ長い付き合いである、吉野が撒いた状況を見て大隅がそれに乗っかっただけの話であったが、こと悪巧みに対する二人の連携は目を見張る物がある、色んな意味で。

 

 

 結果、わざとらしい茶番と判っていても河合を始め北方を指揮する者達は二の句を続ける事はできず、更に他方面の指揮官も口が出せなくなってしまった。

 

 

「あ~あ、やだやだ、熊が狸に化かされる、こんな茶番見る為にわざわざ内地に飛んできた訳じゃないんだけどな」

 

 

 そんな場を心底つまらないという目で見つつ苦言を吐く斉藤は、早くも戦力再配置に伴う艦隊編成を頭の中で始めたのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「はい、これが提督の要求に答え轟天号に搭載する事になりました武装です」

 

 

 第二特務課秘密基地前岸壁に浮かぶ高速揚陸艦轟天号、その甲板中央に一機の単装砲が据えられている。

 

 砲室にカバーはされておらず前部から横までを囲う形の鉄板のみで防護されたそれは、酷く原始的で無骨な姿をしていた。

 

 砲基部は稼動範囲を稼ぐ為か、複数のモーターが組み込まれており、発砲時の衝撃を回避する為だろうか、様々な機器は本体から分離した脇に置かれ、様々なチューブやコードがそこより砲へ接続されている。

 

 

「ふむ、これは50口径14cm砲か? 懐かしいな」

 

 

 轟天号の見学に来ていた長門が腕を組み、前世の自身にも搭載されていたであろう形の砲を繁々と眺めながら何とも言えない表情をしていた。

 

 オリジナルである50口径14cm砲が実戦配備されたのは1915年辺り、2016年現在からすると実に100年程前の兵器になる。

 

 艦娘が持つ武装もその辺りの兵装を小型・簡略化して使用しているが、実サイズの物となると今更感が拭えず、長門のする微妙な表情も頷ける。

 

 

「現代砲は火器管制や給弾が全てオートになってますから、カバー内の砲室はゴテゴテとカオスな状態になってます、ただ対深海棲艦用武装になるとロックオン用の電子機器なんかは無駄(・・)になってしまいますから、その部分を省くと必然的に前大戦の武装とほぼ変わらなくなってしまいますねぇ」

 

 

 夕張が言う様に、深海棲艦に対し、それまで人類が使用してきた兵装の内、電子機器を使用した物は殆ど使用不可能になっていた。

 

 人と変わらない大きさ、且つ電波を吸収してしまう彼女らはレーダーには掛からず、人肌程度の熱しか発していないので熱源探知も難しく、画像認証からの誘導装置も妖精さんの謎技術全開で数十メートルがやっとという有様。

 

 狙う距離が最低でも20,000m以上、そして狙う的は人と同じ程の大きさ、更に機械の補助無しで狙いを定めないといけないとあっては現用兵器では殆どの物が役に立たない状態である。

 

 

「会戦初期には色々と試作されてはいたんですが、私達艦娘が台頭してきてからは"人間が深海棲艦と戦う為の武装"の開発は事実上されてませんしねぇ、コレ(・・)も当時試作されたまま倉庫の隅で死蔵されてた物を引っ張り出してきてちょちょっと改装しただけの物なんですよ」

 

「成る程な、しかし今更何故こんな骨董品を持ち出して船に積んでいるのだ?」

 

「それはですねぇ、提督から『船から直接海戦の援護が出来る武装を装備させて欲しい』と指示がありまして」

 

「援護? コレで出来るのか?」

 

「弾頭を陸奥鉄なんかで補強した特殊弾にすれば駆逐艦並みではありますが援護射撃は出来ますね、ただまぁ火器管制は人が行わないといけませんから、かなり難しい物になってると思います」

 

「火器管制…… 要するに手動で砲を操って狙った位置へ撃つという事か? こんなデカブツで海の上を走る深海棲艦を相手にそんな事が出来るとは思えんな」

 

 

 懐疑的な長門に夕張は、一丁の狙撃銃のような(・・・・・・・)代物を見せた。

 

 それは吉野がいつも使っている(XM109ペイロード)に酷似した物になっているが、銃身の部分が本体の端の部分でバッサリと切られた様な形になっており、その部分はレンズ状の物体でふさがれている。

 

 マガジンが装填されるはずの部分には箱型の何かが固定されており、その側面には幾つかの端子が埋め込まれていた。

 

 そんな妙ちくりんなモノを見て首を傾げる長門の向こうからは、更に妙ちくりんな格好をした男、午前中に一仕事終えてきた(・・・・・・・・・・・・)第二特務課々長吉野三郎が姿を現した。

 

 その姿はいつものくたびれた二種軍装では無く、薄灰色の全身スーツに黒いブーツとグローブといったナリで、スーツの胸の辺りには赤くて細長いブロック状の謎物体が何本か張り付いている。

 

 正直に言うと銃っぽい何かは妙ちくりんだが、吉野の格好はそれよりも更に妙ちくりんであった。

 

 

「えっと夕張君…… コレって……」

 

「あ、対爆スーツどうです? サイズは合ってるみたいですが、着心地なんかは?」

 

「ああうん、着心地は悪くないんだけど、このデザイn」

 

「じゃこっちが防護ヘルメットになります、スコープからの画像が網膜に直接投影されるモニターが左右独立で仕込んでありますので、これ被らないと超長距離狙撃は出来ませんからね」

 

 

 吉野の質問をぶった切りつつ、夕張は銀色に輝く半帽タイプのヘルメットを吉野に押し付けた。

 

 そのデザインは黒いV字アンテナが額の辺りに固定されており、その根元には更に小さく赤いV字アンテナが張り付いていた、そしてそのアンテナを挟むように赤い卵型の物体が左右対を成して並んでいる。

 

 そのヘルメットにも何か言いたげであったが、夕張の有無を言わせぬ勢いに思わずそれに従いヘルメットを被る吉野、そしてソレを何故か薄笑いの表情で眺める長門、これまであった色々な経験則で、吉野にはこの時既にもう嫌なパターンが始まっているのではと肌で感じ取っていた。

 

 

「ヘルメットは固定できましたか? それじゃ最後に通信機兼防塵用のフェイスガードを付けて下さい」

 

 

 手渡された黒と銀に塗り分けられたソレを顎下から装着しようとしたが、その吉野の手にそっと手を添えて、夕張は首を何故か左右に振っていた。

 

 

「提督、パーフェクターを装着する時はちゃんと 『セッターップ!』 って言ってくれないと」

 

「やっぱXか!? 仮面ラ○ダーXなのか!?」

 

「違いますよ提督、X○イダーです」

 

「ナニその訳の判らない呼び方への拘り!?」

 

 

 そう言いつつも吉野は既にセッタップを完了した状態であり、端から見ればXなライダーが夕張に全力で突っ込みを入れているシュールな絵が展開されていた。

 

 

「では私がそんなライダーさんの主題歌で場を盛り上げてやろう」

 

「やめてナガモン歌うの禁止!」

 

「む? 何故だ?」

 

「JAS○ACさんに怒られるデショ!! むしろ長門君なんでそんなの知ってるの!?」

 

「うむ、Xは唯一海で戦うライダー(・・・・・・・・)、改造人間では無くカイゾーグだからな、知ってて当然だろう」

 

 

 改造人間とサイボーグを掛けてカイゾーグ、ちょっと字ずらはキャプテンキソーが反応しそうなオヤジギャグ風味だが、実際そう呼ばれていたので仕方ない事実ではある。

 

 そして熱弁を垂れ流した長門は誇らしげにドヤ顔をしつつフンスと腕を組み、その横では夕張がうんうんと頷いている。

 

 確かに某Xな仮面のライダーは海で戦うのが得意な深海開発用ライダーさんであるが、艦娘がそれを知ってるのは常識でもなければ当然という事でも無い。

 

 繰り返し言おう、そんなトンチキな常識はどこにも存在しない。

 

 

 むしろ肉体派で砕石場で延々と殴り合うというのがデフォという昭和ライダー達の中では格闘も中途で、武器も半顔出しの某ライダー男さんより貧弱で、細っこい棒一本をピシピシやってるような微妙ポジライダーさんがXさんなのである。

 

 世間では名前は知られていても実際どんなライダーさんなのかと問われれば首を捻る、そんなライダーさんを熱く語れる者はもはやマニアックでコアなファン以外の何物でもなかった。

 

 以前の時雨に伝授したという長門流極限空手といい、妙に夕張に並ぶマニアックさといい、もしかするとこの長門はナガモンの中でも特に特殊な個体なのかも知れない、吉野はそう思った。

 

 

「中途半端で微妙というイメージも提督にピッタリだと思いますよ?」

 

「微妙? 夕張君今提督の事微妙って言った? ねぇ!?」

 

「それでは私が場を盛り上げる為に一曲Xさんの主題歌を……」

 

「だからナガモン歌うのダメぇ! むしろ自然に歌ネタに走ろうとしても提督誤魔化されませんからね!!」

 

 

 その後三番までフルコーラスで長門のアカペラを聞かされる吉野であったが、それは大人の事情で無かった事にされた。

 

 

 そして銀の仮面に黒いマフラーの吉野は狙撃銃の様な何かに次々とコードを接続し始めると、夕張が仕立てた単装砲の性能試験を行う為の準備を始めたのであった。

 

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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