大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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2016/11/30
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたテリオスZ様、有難う御座います、大変助かりました。


秘書艦着任、その名は時雨

「僕は白露型駆逐艦、「時雨」。これからよろしくね」

 

 

 黒いお下げと特徴的に跳ねた髪、その髪と同じ色のセーラー上下に身を包んだ少女。

 

 白露型駆逐艦二番艦時雨は、掌を見せない形で軽く脇を締めた形の、所謂海軍式敬礼を取りつつ着任の挨拶を口にした。

 

 

 ここは大本営執務棟二階にある新設された第二特務課事務室である。

 

 

 部屋の中には木製の少し造りが上品な物が一つ奥に置かれており、その前にスチール製のいかにも事務机といわんばかりの物が六つ並べられている。

 

 また来客時や休憩に使われる為の応接セットが少し離れた場所にパーティションで仕切られた状態で置かれており、部屋の広さは凡そ30畳程と中々広い。

 

 

 時刻は現在0700、新設された第二特務課がその業務を開始した瞬間である。

 

 

「はじめまして、この課を預かる事になった吉野三郎中佐だ、自分も今日着任になるので君と同じく新任となる、まぁ宜しく頼むよ」

 

 

 吉野は敬礼を解かずにこちらを見る少女に対し、答礼では無く握手の意味を込めて右手を差し出した。

 

 その差し出された右手と吉野の顔を交互に見詰め、差し出された右手の意味が判らないという事であろうか、時雨は敬礼の姿勢のまま小首を傾けた。

 

 

「あー、仕事をやっていけば大体判ってく事だろうけど、ここはちょっと他から見れば特殊な部署でね、形式的な物や手続きに必要ない余分な部分を出来るだけはしょって実を取る形にしている、なので基本同じ部署の者同士では上下関係含め敬礼は省き挨拶は口頭で」

 

 

 それを聞いた時雨は右手をそのまま降ろしたが、視線は差し出された手を凝視したままの状態である。

 

 

「はい握手、初めまして、宜しく。」

 

「成程、小児愛好的な意味とか女性に触れてみたい為の行動かと思ったけど、握手してって意味だったんだね?」

 

 

 そう呟いた時雨は、納得したかの様に微笑みつつ、差し出された手を握り返した。

 

 

「握手を求めただけで、どうして性犯罪者的扱いを受けないといけないのかな?」

 

「提督って立場の人は多かれ少なかれペドっ気がある人が大半だと思っていだんけど……」

 

「ちょっと時雨さんモニターの向こうの提督達に謝って!? いたいけな駆逐艦の口から夢も希望も無い言葉の刃物を突き付けられるとダメージハンパ無いからね!?」

 

「そうなんだ?」

 

「後ペドとかロリとかタダで食う飯は美味いか? とかそんなキーワードも禁止の方向で、いいね?」

 

「君たちには失望したよ…」

 

 

 多少の精神的ダメージは受けつつも、お互いの見解の相違を埋めつつ着任の挨拶を交わした二人は部屋の隅にある応接セットの処迄移動していた。

 

 

「時雨くんは朝食は摂ってきたのかな?」

 

「うん、初めての転任だったから先に食事は済ませて来た方がいいかと思って、少し早めだったけど食堂が空いててよかったよ」

 

「ああここは前線と違って24時間どこかしらの部署が動いてるからね、酒保や食堂は基本閉まる事は無いよ」

 

「そうなんだ、でも流石に明け方から牛丼が食べれるなんて思ってもみなかったかな」

 

「うへ、朝一に牛丼? 時雨くんって結構食事関係はガッツリ系?」

 

「ううん、大本営からお知らせが来て、四月の九日迄はなるべく食事は牛丼関係をお願いしますって…」

 

「ああ○き家……いやうん、大変だね君達も……」

 

 

 そう言いつつ応接セット脇の給湯設備の前に移動した吉野は…

 

 

「時雨くんは飲み物は温かいの? 冷たいの?」

 

 

 どんな飲み物がいいのかという意味で時雨に質問をしたつもりだったが、当の時雨はソファーに腰掛ける事なく吉野の傍に着ていた。

 

 

「僕の仕事は秘書艦って聞いてたんだけど、それが間違いじゃないならお茶を淹れるのは提督じゃなくて僕がやるべきじゃないかな?」

 

 

 自分の部下を持った事の無い吉野には人を使うと云う行為に違和感があり、その為無意識でやっていた行動であったが、秘書艦という立場にある時雨からしてみればそういう細々した雑務は自分がやるのが当然の事であり、立派な職務の内であるとの事を聞かされた吉野は

 

 

「成程、じゃお願いしていいかな? 自分はドクペで、そこの冷蔵庫に入ってるから、コップはいらないよ?」

 

「ドクペ?」

 

 

 時雨は怪訝そうな顔をしつつ流しの横に据えてある冷蔵庫を開け、中で冷やされている物を確認してみる、するとそこには各種清涼飲料水に混じって独特な赤いメタリックな色の缶が何本か収められていた。

 

 

「これかな?」

 

 

 恐らくそれてあろう缶を吉野に見せると、肯定という意味で首が縦に振られたのを確認した時雨は、自分の分の飲み物も冷蔵庫から取り出すと、吉野の向かいでは無く隣に座りながら飲み物を手渡した。

 

 

「ん? なんで隣?」

 

 

 対面にあるソファーに座るものだと思っていた時雨が、それが当たり前の様に隣に腰掛けたのを見て吉野は疑問を口にした。

 

 

「え? 何が?」

 

「他にも席空いてるんだけどなんで隣?」

 

「え? 秘書艦なのに隣以外の席に座るの?」

 

「んんんん?」

 

 

 

 隣でジュースの缶を両手に握り、こちらを見上げながら小首をかしげる時雨を見る、ついでに周りも見渡してみる。

 

 周りにはテーブルを挟んで二人掛けのソファーが一脚、なのに横に座る時雨。

 

 そう言った時雨が手にしている飲み物は世間ではドクターペッパーに勝るとも劣らない評価を受けているサスケであるのだがまぁ別にこれは……え? サスケ? まだ生産されてたの!?

 

 

「ナニ? サスゥケェ?」

 

 

 唐突にカットインされた神父が受話器に向って放った片言の台詞の様な言葉を吉野が呟いたのを聞いた時雨は、会ってから初めて心から出たであろう満面の笑みを浮かべたのである。

 

 

「ダメモトで明石さんに作ってってお願いしたら自分用に作った物があるからってお裾分けして貰ったんだ、凄いよね、でも提督もこれ知ってたなんてびっくりだよ」

 

「何? 明石ってマニアックなのは知ってたけどウチ担当の明石ってそっち方面にマニアックなの? 確かに自分のドクペも明石に頼んで入れて貰ってるけど、何でもかんでも都合の悪い部分を明石フィルター通してそれでOKな風潮はヤバくない?」

 

「こうでもしないとコーラの前を横切る冒険活劇飲料は手に入らないんだから、仕方ないんじゃないかな?」

 

「あーあーメタいメタい、そーゆー懐古ネタは人を選ぶのでよしなさい、で、君が隣に腰掛けているのはどうしてなのかな?」

 

「秘書艦だから」

 

「え? なにそれどこの常識?」

 

「僕の居た泊地の秘書艦が言ってたんだけど、秘書艦はおはようからお休みまで提督の全てを見守る存在で……」

 

「何その歯ブラシとか洗剤とか小脇に抱えてそうな秘書艦……」

 

「三度の食事は常に隣に居て、アーンとか食b」

 

「はーいストップー、いきなりアウトから始まっちゃってる感じがするんだけど、それってそこの提督が命令してやらせてるの?」

 

「命令と云うか、普通に秘書艦が当たり前にやってた事だけど?」

 

「秘書艦から?」

 

「うん、雷とか早霜とか瑞鳳とか如月とか…」

 

「駆逐艦に挟まれたその他一人の名前にグループ分け的な違和感を感じないのは自分だけでは決して無いはずだという一抹の不安は横に置いとくとして、時雨くん?」

 

「何かな?」

 

「秘書艦ってのは確かに提督の補助をする立場の存在という事に関しては【お世話をする人】と云う言い方は正しい事なんだけど…」

 

「うん」

 

「あーんとか、お背中お流ししますとか、添い寝は宜しいですか? とかは秘書艦業務には含まれてないし、出るとこ出ちゃうとケンペイ=サンに俳句を強要されるハメになっちゃうから…」

 

「そうなの? 今言ったあーん以外の良い大人の発言としてはちょっとどうかなって事は別として、あっちじゃそれが当たり前だって聞いてきたし、別にケンペイ=サンにお世話になったとか聞いた事ないからちょっと今困惑してるかな?」

 

 

 手に持った怪しい飲料の缶を見つめつつ何か思案している時雨を横目に、吉野は一つの提案をしてみる。

 

 

「とりあえず時雨くんが事前に仕入れてきた秘書艦の情報は心の隅に仕舞っておいて、ここでは主に自分の補佐的な仕事をしてくれればいいよ、ぶっちゃけこっちから何かを頼んだ時以外は声が届く範囲でなら自由にして構わないし、何か問題が起きた時はその都度指摘するから」

 

「それって命令以外の事は好きにすればいいって事かい?」

 

「常識の範囲内、でね」

 

 

 

 再び思案顔をした時雨であったが、何を思ったのか無言で立ち上がった後、吉野の向かいのソファーまで移動して座ってみる。

 

 

 

「……」

 

 

 

 更に何かを思案するかの様に小首を傾げていたが、何か納得したのか一度誰に見せるでも無く頷いた後、また吉野の隣に戻り先程の位置に座り直した。

 

 それを見た吉野はどこぞの小動物……特徴的な癖毛からイメージすると柴犬か紀州犬辺りだろうか、そのワンコに初めて作った小屋を与えたものの、結局そこはお気に召さず自分の傍から離れない……

 

 

 

「……」

 

 

 

 横に座り、自分の事を下から見上げる秘書艦に対しては随分失礼な事を思ったもんだと苦笑しつつも、確認の為時雨に声を掛ける。

 

 

 

「結局そこなんだ?」

 

「うん、ちょっと言葉じゃ説明はしにくいんだけど、なんとなくここがいいかなって」

 

「君がそこでいいならまぁいいか、で早速で悪いんだけど仕事の話に移ろうか?」

 

 

 

 一度頷いた時雨の雰囲気は先程とは変わらないものの、こちらの発する言葉を聞き逃すまいという真摯な気持ちはその眼に現れていた。

 

 それを見て納得したのか、吉野三郎中佐(28歳独身貴族秘書艦というワンコ付き)はこの第二特務課初になるであろう仕事を始める事にした。

 

 




 再掲載に当たりサブタイトルを変更しております。


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