大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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唐突に始まりましたコラボ回。

 ごません様作『提督はBarにいる。』一周年記念の催しに乗っかり、初のコラボを書かせて頂く事になりました。

(※)御注意

 上記にあります様今回はごません様の作品世界とコラボレートしたお話になります。
 
 作中設定はあちらさま準拠であり、拙作の世界観とは恐らく大幅に異なっております。

 また登場人物像や性格等もそれに伴い違う物になっております。


 以下の内容に興味が無い、又は趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨になります。


 それではどうか宜しくお願い致します。


2016/08/02
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたMWKURAYUKI様、orione様、有難う御座います、大変助かりました。


『提督はBarにいる。』一周年記念コラボ
そして南の鎮守府へ


「うぉぉぉいメロン子! メロン子はいずこぉぉぉ!!」

 

 

 大本営第二特務課出撃ドック。

 

 吉野にしては珍しく怒りの相を露にし、曲がりくねった鉄パイプっぽい束を担ぎながら施設管理担当の夕張を探しドックの中を闊歩していた。

 

 外へのゲートは開け放たれ、差し込む日差しと初夏の風、港湾施設内とあって殆ど起伏の無い波は平和そのものであったが、その雰囲気をぶち壊すかの如き勢いの吉野を前に、丁度休憩でもしていたのであろう、妖精さん達が多数わらわらと足元に集って来る。

 

 

「ああ妖精さん、夕張メロン子どこ行ったか知らないかな?」

 

 

 眉尻をピクピクさせ、肩に何かを担いだ吉野を怪訝そうに見上げながら、少し引き気味の妖精さんは、どうした物かという雰囲気で吉野とドック脇に寄せられたコンテナ群とを交互に見つめている。

 

 

「……成る程、そうかメロン子、そこか…… そのまま座してデストロイされるのがいいか、ここまで自分の足で来てデストロイされるのがいいか、選ばせてあげようじゃないか……」

 

「それ、どっちにしてもデストロイという結果しか無いじゃないですかぁ」

 

「今日出掛けようとガレージ行ったら床にマフラーとシートだけ転がってたんだけど、確か自分、前に私物に手出すなって言たよね、バイクどこ?」

 

 

 愛車CBX1000に装着されていたエキパイを肩にフルフル怒りに震える吉野に対し、微妙な笑顔でドックの片隅にプカプカ浮かぶ何かを指差す夕張。

 

 その何かに目を向けた後、フゥと一度深呼吸をした吉野はニコリと笑顔を漏らし、夕張にゆっくり近付いていった。

 

 

「あの…… 提督? ちょっと笑顔が怖いんですが……」

 

「夕張君、人ってのは不思議な生き物だね、怒りが突き抜けると540°回って笑顔しか出せなくなるとか提督一つ勉強になりました」

 

 

 そんな笑顔の吉野と涙目の夕張、後にはドックに響き渡る悲鳴と、何かを殴打するパシンパシンという音が幾らか聞こえ、それを見る妖精さん達は深い溜息を()きつつ再び休憩をする為特等席であるドラム缶の上へ戻っていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「こ……これが緊急脱出艇、松風でしゅ……」

 

 

 何故か尻を押さえ涙目で前屈みな夕張が指す処には、全長3m程の小型艇、跨って乗船するそれは世間一般で言う処の水上バイクちっくな何かがプカプカ浮いていた。

 

 色は夕張ダイスキいつもの漆黒、二人乗りを想定したシートが据えられたそれは、バイクの物を流用したのが見て取れる数々の部品と共に、恐らく収まりきらなかったのだろう直列6気筒空冷DOHCの銀色に輝くエンジンブロックの一部が露出している。

 

 

「メロン子」

 

「夕張です…… 酷いですよ提督ぅ…… 何も全力でお尻ペンペンする事無いじゃないですかぁ、それも生尻で……」

 

「事と次第によっては尻ペンからケツバットになる可能性があります、これは……ナンデスカ?」

 

「え? 提督のCBX1000の部品を流用した緊急脱出艇ですよ? まぁ形は既存の水上バイクですけどね」

 

「そっかぁ…… 水上バイクなのかぁ、うんそっかぁ…… で? あれは?」

 

 

 吉野が指差す方向、水上バイクのフロントノーズ、そこはなだらかな形にカーブする曲線のカバーがあり、ハンドルまでの間に何故かブリキで作ったのかというクオリティのお馬さんの頭が据えられていた。

 

 よくコント等で見掛ける、棒だけの本体にくっ付いているあのお馬さんの頭が。

 

 

「いえ、一応松風ですから」

 

「答えになってないよ!? てか何で馬!? むしろ色が黒なら松風じゃなくて黒龍王じゃないの!? ねぇ!!」

 

「え、鎧武者が乗るなら馬なのは当然ですし、色が黒いから黒龍王とか安直過ぎるじゃないですか?」

 

「自分の対爆スーツとセットなのコレ!? むしろこの取って付けたクオリティって明らかに後付け装備だよね??」

 

 

 ライダースーツとヘルメットに続き犠牲となった吉野のバイクは、コントクオリティなお馬さんな形の船首像(フィギュアヘッド)が取り付けられた、花のなんとかさんの乗馬の名前がおごられた水上バイクにトランスフォームさせられていた。

 

 結論としては、いつものメロン病が暴発した結果、吉野の私物が水上バイクに姿を変え、色々調べた結果余りにも手を入れ過ぎた為に元の形に戻す事は不可能という妖精さんの答えにより、更に尻ペンを追加された夕張の悲鳴がドックに響き渡ったという。

 

 そして暫く後、もう仕方ないからと無理やり自分を納得させた吉野は変わり果てた元愛機に跨り、それが使える物なのかの性能テストをする事になったのであるが、それがまさかあんな非科学的かつ非常識な結果を生む事になろうとは、存在自体が非常識な妖精さんでも予想すら出来ない結果を生み出す事になるのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 全身漆黒、戦国武将を彷彿させる対爆スーツに身を包んだ人物が、コントちっくなお馬さんの飾りが付いた水上バイクに跨るという訳の判らない状態で出撃ドックの端にプカプカと浮いていた。

 

 鎧武者の後ろでは手持ちの小型端末片手に夕張が座っており、何やら手元のそれを操作しつつ諸々の説明と注意点を吉野に告げている。

 

 無骨な見た目の鉄の塊から聞こえる音は、それからイメージされるのとは程遠い整えられた排気音とダブルオーバーヘッドカムシャフトが奏でるメカノイズ。

 

 心地良い振動に陶酔しそうになるが、前を見ればお馬さん、全てがぶち壊しである。

 

 

 兜然のヘルメットの中で少し表情を歪めながら、それでも変わり果てた愛機を慈しむ様にアクセルをジワリと開け船体を前に進める。

 

 

 慣れ親しんだ音と共に、アスファルトでは無く海を走る事になったそれは、元々装着していた物を流用したのであろうビトーR&D謹製FCRキャブの空気を吸う微かな音をカウル内から響かせ、多少波を切る度に上下の揺れを感じさせながらも思ったよりスムーズに風を切っていく。

 

 

「エンジンに手は入れてませんけど、速度を稼ぐ為に過給器仕込んでますからバイクの時よりトルク管理に気をつけて下さいねー」

 

 

 夕張の言葉を肯定するかの如く、タコメーターの針が半分に近い位置を示した辺りから甲高い音が鳴り響き、尻の下に埋め込まれた65mmの電動タービンが本格的にパワーを吐き出し始めた。

 

 排気を利用せず、モーターを利用してパワーを搾り出すこのシステムは、排気による熱の影響を受けずカウル内にクローズドされた形の配置にはもってこいであったが、特性がスーパーチャージャーに近く、またターボの様なメリハリのあるパワー特性も無い為パンチに欠けている。

 

 しかし敢えて夕張がこの中途半端な過給器を採用したのには訳がある。

 

 それはモーターから発生する電力を回生してチャージする為この船は所謂ハイブリット的なシステムを構築する形になっており、バイクというやや燃費の悪いエンジンを積むという構造上の欠点を幾らか補い、一応用途的な性能の確保には成功していた。

 

 

 中々考えられたシステムだとは思うが、そんな色々諸々手を掛けるより、既成の水上バイクを流用した方が何かと便利かつ高性能な物が出来るのではと思うだろうが、そこはメロンクオリティ、利便性の為の性能付加では無く、ロマン装備を常用する為の技術投入の結果生まれたのがCBX1000改松風。

 

 何気にフィギュアヘッヅなお馬さんも飾りでは無く、それは手繰ればタービンに空気を送る為のダクトに繋がっており、筒状の口の蓋がパカっと開き、マヌーな見た目とは反してゴォォォと野太い空気流入の音を響かせていた。

 

 

 そんな訳の判らない、色々なメロン技術を詰め込んだお馬さんが、既存技術の流用だけに留まる事が無いのはもはやお約束である。

 

 

 吉野が握るハンドルグリップ、右のそれに隣接する赤いボタン。

 

 黄色と黒の縞のライン、所謂Dangerカラー(危険色)に縁取られ、嫌でも目に付く赤いボタン、そっと親指を伸ばせば触れるというあざとい位置にそれはあった。

 

 そんな物、このメロン子謹製のブツに取り付けられているとなれば普通触らぬ神に祟りなしである、絶対触れてはいけない地獄の片道切符なのは間違いない。

 

 しかし、しかしである、伝説として語り継がれる熱湯風呂、そこで繰り広げられるもはや様式美とも言えるお約束。

 

 

 『押すなよ? 絶対押すなよ?』

 

吉野三郎は理詰めで動く常識人である、日々美女と称しても支障の無い艦娘に囲まれつつも堕落は見せない鉄の意志を持つ男である。

 

 しかしその実、振られたネタには反応してしまう悲しい性を持ち合わせ、それの為に破滅的な経験をした数は枚挙に(いとま)がないのは事実である。

 

 プルプルと吸い込まれる様に動く親指、判っていても止められない。

 

 

「提督~ ハンドル脇のボタンは緊急脱出用のニトロスイッチですから押さないで下さいね~ まだエンジン負荷とかテスト中ですから爆発の恐れが……」

 

 

 そんな物騒なシステムを発動するボタンをちょっとした手違いで押してしまいそうな位置に配置するのは何故だろうか。

 

 爆発オチを誘発させる様なブツを搭載するのは間違い以外の何物ではないのではなかろうか。

 

 そして何故、まだテスト中にも関わらずニトロタンクの中身は満タン充填されているのであろうか。

 

 

 色々突っ込みたい処だらけではあったが、それをするには既に遅し、Dangerボタンを押した後の吉野の思考は既に急加速し、波間を盛大にウイリーするお馬さんの松風という水上バイクの挙動制御に全てを持ってかれ、自然と乾いた笑いを口から搾り出していた。

 

 

「何で水上バイクでロデオなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 

 

 暴れ馬から薄い煙が上がり、漸く停止した水上バイクに鎧武者が突っ伏し、そして髪の毛ボンバーヘッドで半分放心状態のメロンの耳には何故か緊急時に鳴り響くサイレンの音が聞こえる。

 

 そして周りを見ると見慣れた形の、それでも初めて見る突堤と青い空。

 

 

 サイレンの音にのろのろと首をもたげれば何故か周りには艤装を展開し、鎧武者を取り囲む艦娘達。

 

 

「Heyそこの…… ン~そこのサムライ? ここは軍事施設デス、一般人の立ち入りを固くお断りしている禁止区域なのデース、速やかに武装解除して投降するネ、もし抵抗すれば身の安全は保障出来ませんヨ、Do you understand?」

 

 

 突堤の先にこれまた艤装を展開するルー語ちっくな言葉でこちらに投降を促す女性。

 

 改造巫女服にフレンチなクルーラー然のお団子ヘアー、間違い無くその女性は吉野も知ってる金剛型一番艦金剛。

 

 という事はアレか、暴走した水上バイクが走り回り、大本営と同敷地内にある横須賀鎮守府棟の港湾区域に紛れ込んでしまったのかと吉野は思ったが、周りを見渡すとさて、知っている景色とは別な風景、そして何より微かに見えるレンガ造りの建物。

 

 横須賀鎮守府棟も赤レンガではあった物の、軍として再編された創世記では大本営も入っていたとあって、執務棟は五階建てであり、そして今は使われてはいないがヘリポートとして利用する為の設備が並んだ別棟にある特徴的な造りになっているハズである。

 

 そしてそれとは恐らく別の赤レンガ、そして良く見れば取り囲む艦娘の中には明らかに横須賀所属ではない艦娘もチラホラ散見される。

 

 

 そろそろと両手を挙げ、"?" を頭上で点滅させつつ周りを見渡す吉野三郎(28歳独身異邦人)が居る場所。

 

 

 其処は南シナ海にあるブルネイ泊地。

 

 軍では一部伝説として囁かれる料理人兼バーのマスターという金城大将が指揮するブルネイ泊地。

 

 

 吉野がそれを知り、理解するのはこの後武装解除し、拘束された後数時間の尋問を経た更に後になっての事であった。

 

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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