大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 捷号作戦が凍結され第二特務課には新たなる任務が下された、その準備の為動き出す吉野達、大きく動き出した同課の日々が今始まる。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2020/08/05
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました黒25様、頭が高いオジギ草様、有難う御座います、大変助かりました


新たな拠点

「提督お待ちしていました、拠点諸々の準備はほぼ完了しています!」

 

 

 珍しく夕張が真面目な相で敬礼をし吉野を迎える。

 

 場所は大阪湾南部、泉州と言われる泉佐野沖約2Kmに浮かぶ人工島旧大阪鎮守府。

 

 そこが施工されたのはまだ深海棲艦が表れる以前、日本で初めての本格的な洋上国際空港として建設された。

 

 

 瀬戸内海と紀伊水道に挟まれたその海域は水深もそこそこで波も穏やか、更に淡路島と和泉山脈という陸の盾に挟まれているので風雨の変化が少ない場所である。

 

 当時バブルの好景気を背景に本格的な国際航路を誘致し経済の更なる発展を狙い、大阪府南端の山を二つ程丸々削って土砂を投入、当時の建築技術の粋を結集して作られたそこは数々の独自の運用をしていた空港としても有名であった。

 

 

 開港当初から沈下を見越してターミナルや商業施設が入る建物は上部への建て増しが可能な基礎構造を有し、更に基礎の下には部分的に巨大なジャッキが埋め込まれていた。

 

 風向きによって離発着の方向を南北切り替える関係上滑走路の保安施設も方向切り替え式の物が配置され、通信設備の巨大アンテナは南北へ首が振れるドーム式を採用。

 

 そして何より洋上空港であっても国際線に用いられるジャンボジェットが常時離発着しても安定した運用が可能な様滑走路は過剰な程強固な造りをしていた。

 

 

 消石灰由来の地盤改良剤で土砂を徹底的に固め、島に仮設されたコンクリートプラントから膨大な量のコンクリートを供給し高強度の特殊コンクリートを通常滑走路に施工される倍程の厚みに敷き詰め、更に高速道路よりも分厚く精度の高いアスファルトが敷設された。

 

 空港島へのアクセスは少数の船舶が定期航路として運行され、車では前島及び阪神高速湾岸線から直接乗り入れ、同時に私鉄とJRが複合的に配置された物が連絡橋一本に集約、陸からのアクセスラインを一本に絞ったこの空港島は、深海棲艦の出現と共に空路の使用が限定された時点で用を成さなくなり閉鎖された。

 

 その後軍が徴発した際は橋一本でのアクセスという管理的な容易さと、陸から僅かに離れた洋上であった為に近隣へ戦火の影響が少ないと判断された為要塞化を経て大阪鎮守府へと変貌する。

 

 

 主要施設は滑走路のアスファルトを撤去し、強固なコンクリート層の上に築かれ、更にそのコンクリート層を蓋として地下構造区画を作って重要施設を内包した。

 

 元々あった商業施設やターミナルは職員宿舎や養育施設など生活区画として解放され、島の中で全てが賄われる形として運用されていた。

 

 そして滑走路を中心に重要建造物を設置した経緯の為通常拠点の様に執務棟を中心に方円状に各施設が配置される形とは違い、大阪鎮守府では各施設が滑走路の上に並べられた直線状に配置されるという建物配置となっていた。

 

 

 壊滅時には地上区画は悉く薙ぎ払われ更地の如き様相を呈していたが、地下区画は殆ど被害を受けておらず、閉鎖後も作戦拠点として度々利用されてはいた。

 

 

 今回ここを再整備し鎮守府として再利用する際、一旦地下区画の設備を最新の物と入れ替え、更に地上施設を任務に適した施設を並べるという施工を大本営が主導し、現場の総指揮を夕張が執るという形で行われ、僅か半月程で運用可能な状態まで仕上げていた。

 

 繰り返し言うが、これだけの膨大な建築施工を半月で完了させたという。

 

 

 吉野の目の前にはズビシと敬礼をする現場監督姿の夕張、その後ろにはズラッと並んだ赤煉瓦の建物群。

 

 その周りには芝生が敷き詰められちょっとした遊歩道や公園が見え、更にその向こうにはグランドや屋内運動場の様な建物も見える。

 

 

 三度(みたび)言うがこれら建物群の総施工日数は半月、二週間、15日で竣工を終えている。

 

 

「夕張君……」

 

「はい、何でしょう?」

 

「えーと……これカキワリと言うか墨俣城(すのまたじょう)的なブツとかじゃないよね?」

 

「いえ、ちゃんとした立体構造物です、それも妖精さんの最新技術をふんだんに使用した超要塞的拠点になっています」

 

 

 妖精さん、そして超要塞、そんな言葉が夕張の口を吐いて出てくる、同時に吉野の不安度メーターの針がレッドゾーンへグングン振れていく。

 

 

「へ……へぇ、妖精さん技術かぁ……、因みに要塞ってどんな風なカンジ?」

 

「超要塞です、えっとそうですね、例えばこの一番手前の建物、ここは食堂や食料備蓄庫が入った建物なのですが」

 

 

 ズビシと夕張が目の前の赤煉瓦の建物を指差す、それは見た目モダンな倉庫的建物になっていたが、正面から見ると大きめの窓が幾つも配置され、そこからちょっとシャレオツなフードコートっぽい空間が見えている。

 

 

「見た目ただの赤煉瓦ですが、超硬々焼結セラミックの積層壁になっておりますので、榛名さんのラムアタック程度では傷一つ付きません」

 

「メロン子……」

 

「はい何でしょう?」

 

「何で飯食う場所にそこまで強度を求めた?」

 

「妖精さんがした事ですので私に聞かれてもお答え出来兼ねます」

 

 

 ごはんを食べる憩いの場は、艦隊最高戦力の攻撃でさえ余裕で耐える超防御力を有した要塞と化していた。

 

 ここでそうならズラッと建ち並ぶ赤い煉瓦造りの建物群は全てそうなのだろう、因みに遊歩道脇に設置された東屋(あずまや)は大和砲の直撃に耐える設計になっているらしい。

 

 

「ちなみに有事の際はここに敵を誘い込み、窓や入り口の耐圧シャッターを降ろして幽閉、内部の空気を抜く事で真空にして無力化をするという事も可能です」

 

「なんでお食事処にそんな過剰な防衛設備が必要な訳!? てかシンクウってナニ!? 何目指してるの妖精さん!」

 

 

 防衛力はおろか迎撃設備も完備したという殺伐感MAXな食堂には青い暖簾が掛かっており、そこには白抜きで『間宮』という文字が染め上げられている。

 

 此処は現在第二特務課の者しか居ない状態だが、鎮守府という規模での拠点運用を前提されており順次人員が増員される予定である、その為各施設には他拠点と同じく間宮や大淀という運営専門のスタッフも配備される事になっていた。

 

 食堂施設を指差し盛大な突っ込みを入れている吉野の前からは、暖簾を潜り一人の女性が現れる。

 

 少しレトロな洋装の上に膝まである割烹着、赤いリボンで長い髪をポニーテールに纏めたバインバインの女性は給糧艦間宮、拠点の食を司る責任者であり、全ての艦娘のモチベーションを維持する甘味処の主である。

 

 

「何か騒がしいので出てきたのですが夕張さん、もしかしてそちらの方は吉野提督ですか?」

 

「あ、はい、今日鎮守府へ着任されたので施設の御案内をしている処です」

 

「まぁまぁまぁお久し振りです、私こちらで給糧業務を取り仕切らさせて頂く事になりました間宮です、宜しくお願い致します」

 

「あ、どうも艦隊司令官の吉野と言います、初めまs……お久し振り?」

 

「はい、大本営では度々お顔は拝見致しておりましたが、言葉を交わした機会はそれ程ありませんでしたよね」

 

「大本営……」

 

 

 吉野は間宮を凝視する、ニコニコとしているその顔は確かに見覚えはあるものの、間宮という存在はそこそこの拠点では配備されているのが当たり前の存在である為、目の前の間宮に顔見知り的な事を言われても何処の間宮さんなのか判断がつかない。

 

 なんとなく暖簾へ視線を移す、そこには間宮という文字の横に小さく『元祖』という文字が染め抜かれている。

 

 元祖、本家、色々言葉があるが、意味は同じく"一番最初"という物を指す、そして元祖という文字……何故わざわざそんな記述を暖簾に刻んでいるのだろうか。

 

 

「はい、大本営でも色々融通は効くのですが大阪は流通の要所ですし、何より食の街と言われています、色々食材の調達や研究をするならこちらの方が都合が良さそうだったので、弟子に大本営を任せて本店をこちらに移転させて頂く事にしたんです」

 

「本店を移転……大本営の間宮……って事はまさか……」

 

 

 一筋の汗が吉野の額から流れ落ちる、目の前の間宮の向こうからはガラガラと扉を開けて二人の艦娘が姿を現す、一航戦の青いのと鋼鉄の胸部装甲を持つ大和型一番艦である。

 

 

「やはり元祖の本練り(羊羹)は一味違いますね、気分が高揚します」

 

「ですね、アイスの口溶けも心なしか軽く感じます、流石間宮界の頂点に立つお方ですね」

 

 

 暖簾を潜って出てきた二人はこちらに気付いたのか、加賀はズビシと右手を上げて合図をし、大和は駆け寄って吉野の元に来る。

 

 二人共思う存分甘味を堪能したのか盛大にキラが付いており、心なし砂糖の様な甘ったるい香りを漂わせていた。

 

 

「提督流石です! 色々手練れとはお聞きしておりましたがまさか大本営の間宮さんを引き抜いて来るなんて、大和感服致しました」

 

「引き抜きぃ? なぁにそれぇ?」

 

 

 ニコニコと笑う間宮、キラキラの大和、眉根を寄せて固まる吉野の前に居る割烹着姿の給糧艦は元祖間宮、軍にいる間宮の頂点であり間宮界のドンであった。

 

 何故ドン間宮なのか、どうしてそこに居るのか判らないが、大和の中では吉野が間宮を引き抜いてきたという認識であるなら周りの者の認識もそれに近い物である可能性が高い。

 

 甘味というのに執念を燃やす艦娘は少なくない、その供給源である間宮を取り込んだという情報が拡散すると色々な意味で吉野はピンチになる、むしろ危険が危ない。

 

 

 しかし既に着任して活動しているという事は既にそれは手遅れの状態であり、この時点で吉野は色々な人物の恨みを買うという立場に立たされる事になった、主に甘味的に。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「何か色々短時間で寿命を磨り潰した気がする……」

 

 

 夕張による施設の案内を片手間程度で軽く終えた吉野は己に宛がわれた執務室の机に上半身を投げ出し、口から魂を漏らす様な濃密な溜息を吐いていた。

 

 この拠点では他拠点と同じ建物構造になっており、今までの様な艦娘と吉野の机が並ぶ事務室然とした造りでは無く、提督専用の執務室は独立して存在している。

 

 そしてその部屋には秘書艦二人が常駐し、事務関係の仕事の大半はそれ専任の者……主に妙高と大淀が処理した上で吉野が最終的にチェックするという形になっている為、部屋の中心にはパーティション代わりの本棚で仕切られた形で事務処理を行う二人の机も配置されていた。

 

 

「お疲れ様提督、何か色々大変だったみたいだね」

 

「あーまぁ大変というかいつものと言うか、色々頭痛が痛いよ……」

 

「おやびんオヤツ、疲れた時は甘い物」

 

 

 ぐったりした吉野の前に時雨が持って来た絶望炭酸と呼ばれる物が入った赤いメタリックの缶が置かれ、その横には(潜水棲姫)が胡麻団子を盛った皿を並べる。

 

 ここ最近色々趣味嗜好が固まったのか(潜水棲姫)は食事の際握り飯を好んで食し、甘味は胡麻団子という物が鉄板になっており、龍鳳に師事しつつ自作もする様になっていた。

 

 

 黒を基調にした色のメイド服を着た(潜水棲姫)と、淡い水色のメイド服を着た時雨の二人が脇を固めるというのが執務室の当たり前となりつつ風景であり、吉野自身も最初はそれに苦笑いで応じていたが最近は慣れたのか極普通の受け答えをする状態になっていた。

 

 

「何か大本営から妖精さんとか間宮さんが大移動してきたみたいで、後々の事考えたらもう溜息しか出ないよ」

 

「ここは色々な意味で規格外の物が集中してますから、比較的自分の身の振り方が自由な方が集まってくる状態になってるみたいですね」

 

「間宮さんとか妖精さんて普通自由にあちこち移動するモンじゃないと思うんだけどねぇ」

 

「まぁ極めた方達がヘソを曲げてしまうと上の方も扱いが困る様ですし、渋々といった状態で許可を出しているみたいです」

 

 

 ドクペを啜る脇には何時の間にか妙高が赤の炭酸が入った瓶片手に立っており、何時の間にか執務机の周りは人口密度が偏ったお茶会の様相を呈していた。

 

 これもまた以前の拠点から続くいつもの風景になりつつあり、第二特務課の日常と言える物になっている。

 

 気を利かせた時雨が全員分の椅子を用意して吉野を中心に新しい拠点についての情報交換が行われ談笑に華を咲かせていたが、その時扉を四回叩く音に続き失礼しますとの女性の声が聞こえてくる。

 

 妙高が応対の為に席を立ち、扉を開いた先に居たのは黒髪の眼鏡を掛けた女性であった。

 

 

 スカートの腰横部分の布が開き肌が露出するという少し扇情的な見た目の制服が特徴的で、白いカチューシャを頭に乗せた女性はある意味提督という立場の者には縁深い存在である艦娘、大淀。

 

 妙高と二言三言交わしにこやかに挨拶をすると、吉野の執務机の前にやってきて微笑みと共に着任の言葉を口にする。

 

 

「大本営より派遣されました大淀です、事務処理や対外処理はどうかお任せ下さい」

 

 

 堂々とした雰囲気を漂わせる彼女はクイッと眼鏡の位置を直し、手にしていた封筒を机の上に置いて早速と言わんばかりに業務の伝達と処理すべき案件を報告する。

 

 理路整然と判りやすい説明は流石任務娘と言われるだけはあると吉野は感心し、少しばかり業務的な会話をした後茶会に誘い世間話の輪に参加させる。

 

 彼女もこれより妙高と共に事務要員として執務室に詰める事になるので円滑な人間関係の構築が必要だろうとの配慮であったが、事の他受け答えが自然で話の内容も面白かった為すぐに彼女は輪に溶け込んでいった。

 

 

「しかしウチは特殊な立ち位置になるから、これから君達二人にはかなりの負担を強いる事になるだろうけど宜しく頼むよ」

 

「今更ですね、提督と行動していると無茶とかその辺りは日常ですし」

 

「酷いな妙高君、事務処理関係で頭を抱える原因は自分じゃなくてメロン子とか加賀君が殆どじゃないか」

 

「いえいえ決算関係や人事の類で持ち込まれてきた物にも色々無茶が多くて各所への調整はいつも難儀していたんですよ?」

 

「マジで? 大淀君にも色々迷惑掛けてたんだねぇ…… ん? 大淀君って大本営でウチの事担当してたの?」

 

「第二特務課と言うか大本営の事務方(じむかた)を取り仕切ってましたから、必然的に関わる機会が多かったですねぇ」

 

「……事務方(じむかた)を取り仕切ってたぁ? 大本営のぉ? なぁにそれぇ?」

 

「え? いえ前任は大本営事務総括をしていましたから、直接顔を合わせる機会は無かったですが書類関係はいつも処理とかさせて頂いてましたよ?」

 

 

 固まる吉野、ニコニコと微笑む大淀。

 

 心なしか似た様な事が最近あった気がしないでもない、確かマミーヤさんとかその辺の関係で。

 

 

「えーっと確認させて? 大淀君ってもしかして大本営のあのoh淀さん?」

 

「提督が仰る大淀がどの大淀かは判りませんが、私は大本営執務棟で事務総括をしてました大淀です」

 

 

 目の前でニコニコと胡麻団子を頬張り、世間話をする黒髪眼鏡。

 

 話を総合すると目の前に居る艦娘は、大本営眼鏡序列一位であり大将はおろか元帥すら恐れ(おのの)くと言われたカーストの頂点であるあのoh淀だという。

 

 何故そんな大本営の影の支配者がここで胡麻団子を食っているのか、どうして事務担当でここに着任したのか。

 

 

「な……何でoh淀さんウチに着任してんの?」

 

「はい? 明石が軍の酒保機能の中枢をここに移すついでに移動するから一緒に来ないかと誘ってきたものですから……」

 

「ぁぁぁぁあああああかしぃぃぃぃぃぃ! 酒保機能移動ってなにしてんだ明石ぃぃぃぃぃぃ! 何ついでに大本営の大黒柱引っこ抜いてきてんだあああかしいいいぃぃぃぃぃ!!」

 

 

 残像が発生する程の速度で吉野が机を叩きまくる、時雨と妙高は慣れた物なのかそこに置いてあった飲み物や胡麻団子の皿を掴んでヒョイと持ち上げている。

 

 

 こうして何故か軍中枢に居たカーストの頂点クラスの人員をスタッフとして迎え、第二特務課の新しい拠点となる旧大阪鎮守府は『第二特務課大秘密基地』として活動を開始する事になった。

 

 

 ちなみにこの拠点にはまだ吉野が知らない妖精さん謹製の260の秘密が隠されているという事はまだ発覚していない。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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