大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 大本営から伊良湖さんがやって来た、そしてドイツからオッパイ空母もやって来た。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/10/14
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、拓摩様有難う御座います、大変助かりました。


明石セレクション

「っかし大名行列のメンツ増えたよなぁ」

 

 アイスを掬ったスプーンを含み、行儀悪くモゴモゴと上下させながら摩耶は目の前で休憩の合間に甘味を採りに来ていた一団を前にそう呟いていた。

 

 

 場所は第二特務課大秘密基地改め大坂鎮守府間宮本店。

 

 大本営側から名前が長すぎな上に胡散臭いからどうにかしろと通達があり、涙目の夕張を横目に改称したこの名前は壊滅した時の旧称が一般化していたのと、それをそのまま使用するのはちょっとという一部の意見を取り入れ、『大阪』では無く『大坂』と文字を変えて名付けた物である。

 

 

 時間は15時過ぎ、この鎮守府ではまだ本格的に稼動はしていないが教導任務が中心活動となる為、一日の業務時間(=教導時間)がやや通常の軍事拠点とは違う形で設定されている。

 

 総員起こしは一般的な軍事施設のそれと変わらず0600だが、そこから二時間の間を持たせて業務開始は0800からとなる。

 

 これは起床から食事、更にその後に始まる教導までの間に打ち合わせや準備等を行う時間に余裕を持たせ、各所間での諸連絡やコミュニケーションを積極的に取って貰い、業務時間内での申し送りや報告の手間を少なくして訓練時にはガッツリと集中して貰う為の処置であった。

 

 そして昼食は1100から1300、二時間という長い時間を取っているのも午後からの訓練に集中して貰う為であり、食事を採った後は体を休めたり、生徒間での話し合いを推奨したりとショートレクリエーション的な意味合いも持たせている。

 

 更にここからはもっと特殊な時間の区切りになる。

 

 1300から1500までは通常座学や装備の整備実習等を行い、1500からはお茶休憩という独特な中休みを1時間程設けてある。

 

 

 これは艦娘の戦意高揚としての時間であると共に、後に大坂鎮守府名物と言われる事になる『昼夜通し』と呼ばれる夕方から夜に掛けての長時間演習に備えて設けられた休憩時間である。

 

 

 夕方から夜に掛けての微妙な時間帯、航空戦力が幅を利かせていた戦場が水雷戦隊中心の夜戦へと変貌するこの時間帯は、どの時点で夜戦へと切り替えるか、どうやって戦うのか、その時点での艦隊の構成や残弾数、そして艦隊員の被害状況を考慮した上で、更に先を読んで行動しなければならない時間帯になる。

 

 逢魔ケ時(おうまがとき)と呼ばれるその時間を超え、昼から夜へと突入するその時間帯は戦況がガラリと変わる魔の時間帯とも言える。

 

 ある意味百戦錬磨の艦娘達でも一瞬で足を掬われるそんな時間を想定して演習を行うというのは実は余り一般的では無いというのが実情であったが故に、大坂鎮守府ではこの様な特殊且つ戦況に大きく影響するシチュエーションを想定した数多くの教導メニューを軸に活動する事になっていた。

 

 

「大名行列? 確か昔参勤交代とやらで権力層の者が中央へ出向く際に行っていた軍事パレードだったか?」

 

「何だその妙にズレた面白知識は」

 

 

 グラーフの言葉を聞き片眉を顰め、摩耶は目の前に居並ぶ面々をツイッとスプーンでなぞって大名行列と揶揄した集団を見渡した。

 

 

「先ず提督が茶をしに執務室を出るだろ? んでその後ろには必ず時雨と(潜水棲姫)とグラ子が続く訳だ」

 

 

 吉野の左右に座る水色と黒のメイド服二人が揃って首を傾げ、何故か中心に座るヒョロ助の頭の上に豊満なバストを置いたグラーフが最中(もなか)片手に首を捻る。

 

 

「で、この鎮守府は他のトコと違って建物がズラっと直線状に建てられてるから、執務棟からココに来るまでに提督を発見するモンが多い、で、それ見たヤツらがソコに合流する」

 

 

 メイド二人の更に隣には、摩耶に言われてか首をコクコクと縦に振る時津風とニコリと笑うポイヌ(夕立)が居る。

 

 

「行列ってか一団はこれだけだが、甘味時間だけあって間宮の中にも誰かしら居る訳だし、提督が店に入って席に着いたらその周りに何故か皆ワラワラと寄ってくる」

 

 

 摩耶の左隣に座る一航戦の青いのが羊羹を頬張りつつムフーと鼻息を荒くし、右隣には若干ムスっとした表情の朔夜が片肘を突いてアイスが入った器をスプーンで突いている。

 

 そして吉野の膝の上では本日のジャンケンフェスティボーの覇者である朝潮が茹でダコの様に真っ赤になりながら、白目を剥いて震えていた。

 

 

「冷静に解説しつつも摩耶だっていつもジャンケンの輪の中に入ってるじゃない?」

 

「バッ、ちげーよ! あたしは席順がどうのこーのじゃなくて、ジャンケンに強くならないといけねーんだ」

 

 

 朔夜のツッコミに眉根を寄せスプーンをじっと見つめる摩耶の顔は、何故か思い詰めた物になっており、その思考の先はいつか勝つと心に決めた宿敵の顔を思い浮かべていた。

 

 むしろその宿敵は隣のテーブルの摩耶が見える位置に座っている訳だが、それを直視出来ない彼女の心境を何となく理解している大鳳は、苦笑いの相を浮かべ器に入ったぜんざいに口を付けてジュルジュルとそれを一気飲みしていた。

 

 

「まぁ提督が居ないとツッコミが居ないから会話が上手く回らないし、仕方ない事だと僕は思うんだ」

 

 

 時雨の容赦ない言葉に吉野の口から乾いた笑いが漏れ出てくるが、既にそんな人間関係が出来上がってしまってる以上それを覆す事はもう不可能の領域に入っているのは確かである。

 

 溜息を付きつつ何気なく横を見る吉野、そこにはメイド服の胸ポケットから鈍く黄金色に輝く缶を取り出しテーブルに置こうとしていた(潜水棲姫)の姿が見える。

 

 ヒュンと微かに風を切る音。

 

 それに続きスカンと小気味良い乾いた音が続き、(潜水棲姫)の手にあった缶に魚焼き用の串が一本貫通する。

 

 

 ダパダパと貫通した穴から漏れ落ちる緑の液体、ビーンと振動するテーブルに突き刺さった銀色の串。

 

 

「あらあらあら、テーブルが濡れてしまいましたねぇ」

 

 

 時が固まった集団の中で、缶を手にプルプル震える(潜水棲姫)の横から笑顔の間宮が雑巾片手に現れる。

 

 涙目の(潜水棲姫)の手にある缶を自然な仕草で取り上げ、それを大きく振り被ってゴミ箱にストライク、テーブルをフキフキして刺さった串を抜く。

 

 そしてニコニコしつつ去り際に(潜水棲姫)の耳へ口を寄せて、極自然な営業スマイルのままボソリと甘味処の主は一言呟くのである。

 

 

『ウチの店で毒飲料は許しまへんぇ……』

 

 

 自然と流れる様に行われた惨劇、後に残された面々は暫くオブジェの様に固まったまま動けずに居た。

 

 何故トルネード投法なのか、時速100マイルの剛速球にも関わらず液体が飛び散らないのはどうしてなのだろうか。

 

 甘味処の主は京言葉で一言告げて、その場を去った。

 

 

「……ちょっとちびった」

 

 

 大坂鎮守府食堂兼甘味処間宮、其処に棲む一人の艦娘。

 

 軍で伝説と言われている艦娘の内の一人であるその店主は味に拘りを持ち、更に命を掛けているとさえ言われる味の匠だが、同時に深海棲艦の姫級にお漏らしをさせる程の胆力の持ち主であり、更にノモさんばりのフォームでランディなジョンソンさんに迫る剛速球を投げる多彩な才を持つ艦娘でもあった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 居た(たま)れず間宮をスゴスゴ出た一行は、施設群前にある多目的グラウントの中央に敷き詰められた芝の広場に移動し、其々寝転んだり座ったりと秋の空を楽しむ事にした。

 

 そうは言ってもやはりというか何と言うか、その集団は吉野を中心とした形で集う形になっており、まだジャンケンフェスティボーの効力は続いているのか吉野の膝の上には相変わらずカクカクと不審な動きをする真っ赤な朝潮が据えられている。

 

 

「おい……間宮さんの前で毒飲料はヤバいって……」

 

「ん……しくじった、すまぬ……」

 

 

 青い顔をした摩耶は涙目の(潜水棲姫)の背中をナデナデしながら嗜めている、最近妙に被害者体質で予備ツッコミ要員な彼女だが、普段は何かと面倒見が良く、更に色々思う処があるのか(潜水棲姫)に対しては普段から何かと世話を焼く関係になっていた。

 

 そんなちょっとおかしな日常を展開する集団は何かタガが外れたのか各々色々な飲料や食べ物を片手にだらけた姿で寛ぎ始める。

 

 心なし少し離れた青い暖簾が掛かった建物から不穏な気配が漏れ出てきている気がするが、魔獣はテリトリーを犯さなければ特に害は無いのだ。

 

 

「怖いっぽい、死ぬかと思ったっぽい……」

 

「大丈夫だよ夕立ちゃん、もう縄張りから離れたから安心していいよ」

 

 

 ポイヌ(夕立)子犬(時津風)の会話は、心なしか動物と言うかぶっちゃけ犬っぽい内容の物になっているのは気のせいだろうかと思う吉野の頭の上には相変わらずグラ子のバインバインが乗ったままであった。

 

 何故最近自分の頭がチチ置き場になっているのだろうと基本的な謎が頭を過ぎるが、その思考を邪魔する存在がトコトコ遊歩道を進んでこちらに近付いて来るのが視界に入る。

 

 

 爪先から頭までの基本色が明るい緑、背中には何かと言うか恐らく甲羅を模したブツを背負った何か。

 

 そしてその隣には黒と黄色の全身縞柄の尻尾付きの何か。

 

 更にその隣には最初の緑の何かに酷似しているが、頭頂部だけやたらと白い状態になってる何か。

 

 

 人外風味の三つの何かは吉野達の傍らまでやって来ると、片手を挙げてフレンドリーな仕草を見せるとそのままドカリと芝の上に腰を降ろした。

 

 

「……長門君、何で真っ昼間から寝巻きで徘徊してんの?」

 

「うむ? いや仮眠室で寝ようとしていたのだが、窓から提督達が芝の上で寛いでいるのが見えたもんでな、たまには外で昼寝も良いかと思って出てきたのだ」

 

「です、榛名も久し振りに外で昼寝をとお付き合いする事にしました」

 

 

 吉野の前でカメの着ぐるみから真顔を見せる長門の横では虎の着ぐるみからニコニコした顔を覗かせた榛名が並んでいる。

 

 怪訝な顔のまま視線をその先に移すと、そこには長門に酷似した緑の着ぐるみを着た大和らしき姿が見える、しかし何故かその頭部には白い円盤状のモノが乗せられており、それがアニモー風味を破壊して人外風味を醸し出す様相を呈している。

 

 じっとソレを見る吉野に、視線に気付き何故だか顔を赤らめクネクネとするカッパ、そう、大和は何故かカッパの着ぐるみを着ていた。

 

 

「ほ……本当は大和も師匠(長門)とお揃いの物が欲しかったのですが、カメは期間限定品らしくて在庫は無いと……仕方なくそれに近い物をと……」

 

 

 理由を聞くと可愛い乙女のソレ聞こえなくもない、しかし元々タッパがある大和がカッパになっているのだ、タッパのあるカッパなのである、カワイイと言うより迫力が先にイメージされても仕方ないのではと吉野は心の中で呟いた。

 

 

「……Admiral」

 

「チガイマス」

 

 

 頭上のオッパイから戸惑い交じりの言葉が聞こえるが、すかさず否定の言葉を口にする吉野。

 

 遥か異国から来たドイツのオッパイに、目の前で繰り広げられる惨状が日本のスタンダードと勘違いされた上で拡散されるとなるととても良くないと思った末の言葉である。

 

 

「うわ~ 大和さんそれ明石セレクション秋の新作?」

 

「はい、ちょっとお値段は張りましたが思い切って買っちゃいました」

 

「いいなぁ、僕も後でチェックして来ようかなぁ」

 

 

 話の内容は正に女子会、オシャレな服を見てキャイキャイと話が弾む極一般的な婦女子の会話である。

 

 しかし頬染めて話をする中心に居るのがタッパのあるカッパである、どう見ても感性というかオシャレ的な基準がおかしいと思うのは気のせいだろうか。

 

 

「……Admiral」

 

「チガウンデス」

 

 

 再び頭上のオッパイから何か言いた気な言葉が漏れ出てきたがその言葉を最後まで言わせる訳にはいかない。

 

 何故ならここで完全否定しておかねば日本の艦娘全ての感性が疑われる、そんな事を危惧した末に出た吉野の言葉である。

 

 

「いや、私も明石セレクションのファンなのだが、日本ではあんな感じの物が売れ筋なのだなと思ってな」

 

「ナニソレ君もアニモー系なの!? てか日本ではってドイツでも明石商売シテンノ!? マジで!?」

 

 

 まさかの明石ワールドワイド展開、更にドイツではそれを愛着している者が居るという事実に驚いた吉野はビクリと体を振るわせる。

 

 タユンと揺れるオッパイに、膝の上でバウンドする虚ろな目をする朝潮、もう訳が判らない。

 

 

「……ちなみにグラーフ君てどんなの着てるの?」

 

「うん? 私は海の生き物シリーズが好みだな」

 

「う……海の生き物……」

 

「うん、ちなみに今はクリオネを着ている」

 

「クリオネェ?」

 

 

 クリオネ

 

 裸殻翼足亜目ハダカカメガイ科クリオネ属に分類される巻貝の一種。

 

 巻貝といっても成長過程でそれは自然と失われ中身がそのままフユフユと水中を漂うという形で生息する軟体生物である。

 

 日本では北海道沿岸、それも北端付近に生息し、水温が低い海域で見られるこの生物はほぼ透明な体をしており、翼足と呼ばれる対になった足を用いて水中を移動する。

 

 その泳ぐ様は光を透過する見た目も相まって『流氷の天使』若しくは『氷の妖精』と呼ばれ親しまれる海洋生物である。

 

 

 繰り返し言おう、光を透過する体を有した海洋生物である。

 

 

「シ……シースルー……」

 

「うむ、これが中々着心地が良くてな、思わず三着も買ってしまった」

 

「へ……へー……着心地いいんだ、そ……そうなんだぁ」

 

「確かアレはドイツ本国の限定販売だった筈……ふむ、明石に頼んでこっちでも販売して貰うか」

 

「ヤメてオッパイ! これ以上ウチの拠点にそんなヤバそうな新たな風を吹き込まないで! 提督からのお願い!」

 

 

 必死にもがく吉野の頭上ではバインバインと縦揺れのオッパイと膝で跳ねる朝潮、いつになったらジャンケンの特典は終了するのだろうか。

 

 

「グラーフさんも一緒に酒保へ新作チェックしに行きませんか~」

 

「うむ、付き合おう、ついでにドイツで流行の物も販売して貰う様話もしてみたいしな」

 

「え~ ドイツのパジャマ、いいなぁ、しれぇも見に行こうよぉ」

 

「ヤメロー! ウチのワンコちゃん達をクリオネるのはヤメロー!」

 

 

 

 明石セレクション

 

 数々の艦娘の要望を取り入れつつも独自のファッション性を備え、世界数カ国に販路を持つ最先端ファッションブランド。

 

 販売される物は見た目のプリティさや独自性に飛んだ逸品が多く、世の艦娘を魅了するワールドワイドな存在である。

 

 

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。


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