大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 第二特務課初の教導依頼が舞い込んだ、が、しかしそれが開始されるのはまだ後日です。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2017/12/03
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたsat様、対艦ヘリ骸龍様、有難う御座います、大変助かりました。


第二特務課水雷戦隊発足(1)

「こいつらちょっとおかしいクマ……」

 

 

 球磨型一番艦 球磨

 

 横須賀鎮守府より大坂鎮守府へ送られて来た球磨型軽巡洋艦五姉妹の長女。

 

 阿賀野型や改二川内型と比較するとやや地味目の彼女だが、その能力の多くは次点の物が多く、更に燃料・弾薬も能力の割には軽いというある意味エリート層に入る軽巡洋艦である。

 

 夜戦火力に秀でた軽巡や防御に尖った型など一部性能で一段下に見られがちだが、対空対潜は並以上、火力値や雷装値は何気に川内型に迫るという、戦力の総合値は軽巡最強という艦娘である。

 

 

 横須賀では大本営麾下の艦隊に欠員が出ると臨時的に穴埋めの艦娘を出すという協力をしていたがその多くはそのまま定着する事が多く、ある意味大本営の予備人員を育てているという側面を持っている。

 

 そしてこの球磨という個体は幾度か大本営の艦隊に編入された経験があったが、横須賀鎮守府の提督の希望で都度呼び戻され鎮守府の水雷戦隊を長らく支えてきた。

 

 今回の異動人事の際もその辺り色々揉めた部分もあったが、ずっと後方所属で前線に出る機会が少ないのと、第一艦隊の木曽繋がりで吉野とは旧知の仲であった為に異動を決意、調整を経て先日大坂鎮守府に着任と相成った。

 

 

 そして現在、ある程度育成は進んでいたが水雷戦隊としての教育課程が遅れ気味な大坂鎮守府所属の駆逐艦達を任され、艦隊行動や水雷屋としての基礎を一から叩き込む為に訓練に取り掛かったのだが、球磨から見たこの鎮守府所属の駆逐艦達は他拠点の者達と比べ随分毛色が違うという印象を受けたという。

 

 

 現在の大坂鎮守府水雷戦隊の構成は、旗艦球磨、副艦不知火、以下陽炎、朝潮、夕立、時津風という編成になっている。

 

 不知火は身体的ビハインドによる装備選択が特殊な為平時は哨戒専任という位置付けではあったが、アンダマン湾での戦闘で色々思う処があったのか雷撃・対潜装備を時折身に纏っては演習に参加、元々目に頼らない戦い方をしているとあって攻撃の命中率はそれなりだが敵を捉える精度が尋常では無く、球磨が偵察機を積まなくとも索敵範囲をカバー出来るという能力を発揮していた。

 

 艦隊の先頭は夕立、時津風が勤め、他の個体もそうである様に突貫癖がある夕立が切り込むのはデフォとしてもその脇を固める時津風の勘の良さから来る小回りの良さが相まって、能力以上の突進力を生む結果となっている。

 

 更にその二人の後ろには陽炎が控え、元々の運動性の高さからやや広い範囲での牽制力を発揮し、それを朝潮がカバーするという形で横からの攻撃に強い艦隊となっていた。

 

 

 個々の役割や性質だけを述べると高いレベルに纏まった物に聞こえるだろうこの艦隊は、実はとんでも無く異質な艦隊員の寄せ集め的な集団になっていた。

 

 

 先ず夕立は集中育成という結果短期間で第二改装まで終え戦闘力が大幅に上がったが、ついでに凶暴性も大幅に上がってしまい、しかも突貫を開始すると近接戦闘をおっ始めてしまったり、敵の砲撃に身を晒しても回避を捨てて先ず叩きに出るという悪癖が表に出る様になっていた。

 

 時津風がカバーに回っている為に敵に囲まれるという事は中々ないが、逆にそれが悪癖を助長するという結果に至っている。

 

 

 陽炎は陽炎で援護という面では優秀と言えなくもないのだが、全開で戦闘にのめり込むと味方ですら読めない動きをする為に指揮をする側にとってはとても扱い辛い駒となっている。

 

 そして朝潮なのだが、基本陽炎のカバー的位置に居るものの責任感が過ぎるという陽炎との性格の違い故か、大抵陽炎が動き出すと前に居る三人全てのカバーに回る傾向が強く、大抵はキャパオーバー気味に陥り精神的損耗が激しい状態にある。

 

 

 それでも何故か艦隊が崩壊せず形を保っているのは、彼女達をここまで鍛えたのは叢雲、長門を始め第二特務課の艦娘という在る意味歴戦の者であった為だがしかし、戦略的な担当は叢雲であった為に最低限の艦隊行動を仕込まれなんとかそれを保ってはいるが、戦力化を急ぎ、急激な錬度上昇を主眼に置いたシゴキの数々は彼女達を他の駆逐艦と呼ばれる者と比べやや違う方向性で育てるという結果をもたらした。

 

 

 イケイケなのである。

 

 

 それも超イケイケ、なんせあの榛名や長門が全力でシゴくのである、そこに理知的な物も効率的な訓練も無い、敵は叩き潰すという目的の元日夜色々叩き込まれた彼女達は立派な武闘派へと変貌していた。

 

 更に根性という精神論が先行したそのシゴキはあろう事か彼女達の体力を激しく上昇させる結果となり、多少無茶な展開をしつつ長時間戦ってもその勢いが衰えないという馬鹿げた結果を生んでしまった。

 

 

 イケイケ且つ体力バカなのである、しかも超高次元のレベルに足を突っ込んだ状態の。

 

 

 球磨がこの艦隊を率いて暫く様子見のつもりで色々訓練状況を見た当初、余りにハイペースな戦い方をしていたのでペース配分の教育から取り掛かるかと思った物であったが、いつまで経っても彼女らは止まらない、それどころか時間経過と共にヒートアップし馬鹿げた勢いでの戦闘を繰り広げるという展開を見せる事になった。

 

 それを見た球磨が述べた感想が冒頭の台詞である。

 

 

 スタミナのバケモノで戦いもそれなり以上と聞けば中々良いのではという印象を持つだろうがしかしそれは違う。

 

 タガの外れた、しかもやたらと継戦能力があるくちくかん達である、始末に負えない。

 

 

ポイヌ(夕立)突っ込み過ぎクマ、もう少し下がるクマ」

 

「ん、どれ位下がればいいっぽい?」

 

「今トッキー(時津風)が居る位置からもうちょい後ろ、その辺りに展開しないと充分な魚雷の散布角が取れないクマ」

 

「え~ それじゃ敵に攻撃が届かないっぽい!」

 

「このアホイヌ、何でわざわざ殴る蹴るでケリ付けようとするクマか! ちゃんと砲撃もするクマよ!」

 

 

 ポイヌ(夕立)が主に師事していた艦娘は金剛型三番艦 榛名である、そのファイティングスピリッツは余す処無く受け継がれていた、しかしそれがとても残念な結果になってるとかは口が裂けても言えない球磨である。

 

 

トッキー(時津風)もわざわざ敵の砲撃を正面から受けに行く事は無いクマ、もっと回避を心掛けて立ち回るクマ」

 

「え~ でも砲弾とか飛んできたら避けるより艤装で射角調整して弾く方が楽じゃないかなぁ」

 

「待つクマこのバカイヌ、どこの世界に重巡の砲弾をカンカン弾く駆逐艦が居るクマか! キモいクマ!」

 

 

 子犬(時津風)の師匠は鉄壁の異名を持つあの大和である、相手の砲弾を真っ向から受け、手に持つ12.7cm連装高角砲の砲カバーに浅く砲弾を当てて器用にそれを逸らす様は見る者をとても不安にさせる光景であった。

 

 

 一事が万事戦艦やそれに類する戦い方、それも他の艦娘から見れば異質と呼ばれた者達が全力で仕込んだ物である。

 

 駆逐艦が取る戦い方という面以上にそれは既に曲芸の域、もしくは狂人レベルまで高められており、それを纏めて水雷戦隊という形にするのはもはや骨が折れるというレベルでは無かったりした。

 

 

「……ところで朝潮は何してるクマ?」

 

「はい、色々勉強になりそうな部分は忘れない様にとメモを取っています!」

 

「いや演習中にメモとか何してるクマか……ちゃんと戦うクマよ」

 

 

 余談であるが朝潮を仕込んだのは大鳳であった、互いに生真面目な部分が合って結構理知的な育ち方をした朝潮だったが、生真面目という部分が過ぎる程に助長された結果一生懸命が空回りするという残念な成長を遂げていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「球磨ちゃんどんな感じ?」

 

「あ゛ー吉野っち……じゃなかった提督、もう色々と手遅れかも知れないクマ……」

 

 

 午前の訓練が終わった休憩時間、球磨はお気に入りである電ファームのベンチに体を横たえてリンゴに齧りつきつつ渋い顔をしていた。

 

 球磨が着任してからまだ四日目、艦隊行動を主眼に置いた演習を集中的に行ってはいるものの結果は芳しくなく、一応集団行動は取れてはいる物のそれは水雷戦隊というよりくちくかんによる水上打撃部隊という物になっていた。

 

 

「いやいや、今までの彼女達の動きと比較してもなかり形になってると思うよ、叢雲さんとかも錬度上げに必死で基本的部分叩き込んで無かったから矯正は難しいって半分匙投げてたし、それ考えたら随分進歩したんじゃないかなって思うんだけどねぇ」

 

「矯正って意味ではちょっとづつ可能かも知れないクマ、でも時間が足りないし何より無理にそんな事をしちゃうと其々の持ち味を殺してしまって逆に勿体無いクマよ」

 

「あー…… でもその辺りって幾らかは妥協しないとダメなんじゃない?」

 

「ん~ 色々考えてみたクマが、あの娘っ子達はスタンダードな水雷戦隊の運用より、いっそ突貫に比重を置いた運用をした方かいいかも知れないクマ」

 

「突貫?」

 

 

 球磨の言う突貫重視と言うのは、元々砲撃で注意を逸らし、雷撃で止めを刺す一撃離脱を旨とする水雷戦隊の運用法をもっと踏み込んだ形で行う艦隊運用案であるという。

 

 速度を生かしてのピンポイント攻撃では無く、艦隊その物で敵陣の真ん中を突貫する、若しくは至近を通ってそのまま直線を駆け抜ける、普通なら自殺行為と呼ばれてもおかしくは無い戦法を球磨は提案してきた。

 

 

「突破力のある夕立を前にヘイトを稼ぐのが上手い時津風、この二人はただ突っ込むだけじゃなくて回避の面で言えばはっきり言って異常な程能力が高いクマ、だからこの辺りに敵の注意を引き付けつつ陽炎や朝潮にバックアップさせて、不知火に安全な通過ルートを指示させるクマ」

 

「うわぁ…… もぅイケイケを地で行く戦法だけど大丈夫なのそれ?」

 

「大丈夫じゃ無いクマ、でも先ずは集団での連携を覚えさせる為にギリの戦法で戦わせながら、徐々に通常の水雷戦隊の戦い方に振っていって丁度いい折り合いのポイントを見つけるクマ」

 

「ふむ……そうなると彼女達の今使ってる装備は更新したり入れ替えて調整した方がいいかも知んないねぇ」

 

「そうクマね、その辺りちょっと夕張と相談してみるクマ、予算的な物は後から大淀を通せばいいクマか?」

 

「うん、ヘタに自分が噛むよりそうした方が話は早く済むと思うからその方向で」

 

「……提督は大物なのかバカなのか良く判らないクマねぇ」

 

 

 こうして第二特務課水雷戦隊は色々な調整を経て独自的な戦い方をする艦隊として発足する事になったのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「……で、色々調整した結果がこれだと?」

 

「クマ…… 仕方なかったクマ……」

 

 

 あれから数日、球磨が色々と工廠側と調整を重ね、駆逐艦達の装備を調整し終わりお披露目の為に吉野は工廠へ呼び出されていた、が、その顔がとても……物凄く怪訝な物になっていた。

 

 

 先ず一番手前でポイポイとご機嫌な相のポイヌ(夕立)の姿が見える。

 

 右腕には12.7cm連装砲B型改二が装備され、腿には先陣を切る為だろう通常セットされる物とは違う61cm五連装酸素魚雷という強力な物が装備されていた、通常の物よりも無骨に見えるそれは目立つ装備の筈であったが、左腕に装備されたモノが目立ち過ぎて吉野の視線はそっちに向いていなかった。

 

 

「夕張君……あの夕立君の左腕のアレ……ナニ?」

 

「ああ、アレは時雨ちゃんのコレクションのパイルバンカー(炸薬式射出杭)ですね、元々駆逐艦サイズの物でしたので調整は楽でした!」

 

 

 誰が作業工程の説明をしろと言ったのか、むしろその杭打ち機の持ち主は己の小さな秘書艦であったと聞いて軽く眩暈がした吉野であった。

 

 そして夕立の左腕を良く見れば無骨な箱型機械がマウントされており、その先端部からは僅かばかり鋭利な金属杭の先端が飛び出しているのが見える、誰がどう見ても立派なパイルバンカーがそこにあった。

 

 

「この駆逐艦用パイルバンカーは炸薬量最大での貫通力はなんとル級の艤装にも突き刺さる威力を誇ります!」

 

「ムテキっぽい!」

 

「いやちょっとなんでそんなバイオレンスな装備付けてるワケ!? てかル級にぶっ刺すとか駆逐艦がチョイスするターゲットとか用法とか色々それおかしいよね!?」

 

 

 駆逐艦装備というより艦娘装備としてはどうなのかというその装備は駆逐艦サイズの武装なのだという。

 

 サイズという表現をするという事は同じブツの戦艦用とかあったりするのか、もしそうなら武蔵殺しな例の金剛型三番艦とかにそれが感知されてしまうととても不味い事になるのではと吉野は戦慄した。

 

 

 最早突っ込みすら忘れた吉野と球磨の視線は更に向こうに居る子犬の手に装備されたブツへと移動する。

 

 特徴的な五角形に近い形状、やや暗いグレーに塗装された鉄板、それは正しく……

 

 

「……何で時津風君に飛行甲板?」

 

「盾です」

 

「いやあれ師匠とか左手に持ってる飛行甲p」

 

「盾です」

 

 

 吉野の言葉をぶった切る様に夕張は頑なに盾と言葉を連呼する、怪訝な表情の吉野は子犬(時津風)の左手に装備されたそれをしげしげと観察すると、その盾と称する物体の裏には『明石酒保謹製:北辰一刀流M』という文字が掘り込まれているのが見える。

 

 

「ちょおまっ!? これいつぞやの北辰一刀流セットの一つじゃん!?」

 

「盾です」

 

「メロン子……ちょっとこっち向いて説明してみようか? この明石酒保謹製って書いてるブツ、明らかに飛行甲板だよね?」

 

「盾デス」

 

 

 頑なに盾という物体であると譲らない夕張は生尻をペシペシと殴打されても盾ですと繰り返すばかりで話が進まなかった、結果時津風の左腕に装備されたそれは盾という事で運用される事になった。

 

 しかし良く考えてみればパイルバンカー始め時雨に近接武器を押し付けたのは明石であり、北辰一刀流セットの販売元は明石酒保である。

 

 なる程、色々あったが諸悪の根源はあのピンクかと吉野は夕張の生尻を叩く回転数を更に上げるのであった。

 

 

「提督…… 実はまだ装備作業中クマが、残りの連中も色々その……」

 

「……え、もしかしてコレってオチじゃなかったんだ……」

 

「むしろ掴みの部分とか思った方が精神衛生上いいと思うクマ……」

 

 

 そんな苦渋の表情を浮かべる球磨の向こうからは、新たなる装備に身を固めた誰かがこちらへ来る姿が見えた。

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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