大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 第二特務課にもとうとうカッコカリの嵐が吹き荒れる、艦娘達の想いと思惑が吉野を無視して吹き荒れる、この騒動は一体どうやって収束するのだろうか、それとも崩壊してしまうのであろうか。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2018/07/11
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました黒25様、K2様、有難う御座います、大変助かりました。


Let's Fight  -Two-

「Admiral、少しいいか?」

 

「ナンデスカおっぱい、て言うかこの状況でも君は相変わらずなんだね……」

 

 

 大坂鎮守府第一講義室

 

 現在そこでは棚田然とした席から半身を乗り出し威嚇と言うか、殺意の波動と言うか、そんな物を振り撒く数名の艦娘同士が一触即発の状態で対峙していた。

 

 生の戦場を経験した事が無いくちくかんズはその修羅場に怯え球磨の影に隠れてガクブルし、それ以外の者はこの殺人的空気の中でも平然と茶菓子をモリモリと消費しつつ、毒飲料でそれを胃に流し込んでいるというカオス。

 

 そんな中、何故か椅子に固定されている景品もとい吉野の後ろに立つグラーフは、ここ最近もう普通となってしまったオッパイを吉野の頭に乗せる状態で喧々囂々(けんけんごうごう)とする面々を見て首を傾げていた。

 

 

「彼女達は何故あの様に臨戦態勢のまま相手を牽制しているのだろうか? まさか室内戦の訓練でも始めるのか?」

 

「あー、えっとその色々問題が発生していると言うか、ケッコンカッコカリの件で調整が上手くいってないと言うか……」

 

「ケッコンカッコカリ? 何だそれは?」

 

「え、今さっき長門君説明してたでしょ?」

 

「うむぅ?」

 

 

 ケッコンカッコカリは実装されてもうかなり時間が経つシステムである、それは一応ドイツでも導入されている筈であり、それをグラーフが知らないというのはどういう事なのだろうと吉野は少し首を捻った。

 

 頭の位置が変わるとおっぱいの位置もプヨンと変わるのだが、その感触を側頭部に受けつつ色々考えていると、oh淀がスタスタとグラーフの横に近付きコショコショと何かを彼女に囁き始める。

 

 棚田とやたら温度差がある教壇付近、oh淀の言葉にうんうんと首を上下するグラーフ、当然オッパイもプルンプルンする訳で、それは何と言うか例の総統閣下が言うあのノルマが数回達成されるのではという勢いである。

 

 

「提督……」

 

「何だろうか大淀君」

 

「一応グラーフさんにシステムの詳細を説明致しましたが、どうやら彼女は今までずっと周りからハブ……ゴホン、一人で行動している事が多く、情報が些か伝達不足の状態であった為、カッコカリ等のシステムを良く理解されておられなかったみたいです」

 

「グ……グラ子……」

 

「一応本人もカッコカリを受け入れる事に前向きな意思を示している様ですし、これから手続きをして参りますので……」

 

 

 oh淀に連れられ歩いていくグラ子の背中を眺めつつ、思わず目頭が熱くなりそっと手でそれを拭う吉野にスマホからの軽やかな着信音が聞こえてくる。

 

 それを胸ポケットから取り出し画面を確認すると『デチ』の文字、それは大本営潜水艦隊旗艦である伊58からの着信を示す物であった。

 

 

「はいこちらナイスガイ」

 

『おいコラ丁稚』

 

「む、いきなり何をヒートアップしているのかねデチ公君」

 

『何をとゆーか、丁稚が拠点の艦娘をぜーんぶ嫁にしてハーレムを築こうとしてるって話を聞いたでち』

 

「おいマテ、ちょっとマテ、今デチ公大本営に居るんだよな? 何でそんな話を……」

 

『何でもナニも執務棟は今色んな意味で厳戒態勢に入ってるでちよ、てかハーレムとかそこんとこどうなってるでちか?』

 

「げ……厳戒態勢ぃ? 執務棟がぁ? なぁにそれぇ?」

 

 

 スマホ片手に怪訝な表情でゴーヤの話に耳を傾ける吉野、いきなり大本営という単語に危機感が募り嫌な汗が再び噴出し始める。

 

 プルプル振るえつつ固まる吉野の手からスマホをスイっと奪い、スタスタとそれに何かを告げつつ少し離れた場所まで移動する黒髪眼鏡。

 

 いつもと変わらぬ無表情からはその感情は読み取れないが、淡々と何かをゴーヤに告げて時折首を小さく縦に振っているのだけなのは辛うじて判別できた。

 

 

 怪訝な表情でそれを見る吉野を前に暫く何事かを告げていたoh淀ではあったが、ふぅと溜息一つ、気のせいか少しやり遂げた感を滲ませつつ、手にしたスマホをとても良い笑顔で吉野へ差し出すのである。

 

 

「提督、作戦成功です、おめでとう御座います!」

 

 

 一体何の作戦が成功したのだろうか、何がめでたいのだろうか、怪訝な表情のまま吉野はスマホを受け取り、話の続きを聞く為に未だ繋がったままのそれを耳にあてる。

 

 

『えっとぉ……さ……サブローさん』

 

「ちょ……どどどどうしたのかなゴーヤ君、一体ナニがアリマシタカ?」

 

『大体の話は聞いたでち、えっとその……暫くは別居生活の形になっちゃうけどもぉ、ゴーヤも頑張ってそっちに行く努力をするでち、不束者でちが宜しくお願いするでち』

 

「ナニナニ何の話なの!? ねぇちょっとゴーヤさん!?」

 

 

 キャーという声と共に一方的に終了される通話。

 

 唖然とした表情の吉野の向こう側では黒髪眼鏡が珍しくも笑顔を浮かべサムズアップしている、何故だかとてもヤバイ感じが鎮守府以外に飛び火した気がするのは気のせいだろうか。

 

 

 再び着信音を奏でるスマホ、焦ってそれに出る吉野。

 

 幾ら吉野でも先程のゴーヤの言葉が何を意味するのか理解出来ない程バカでは無い、むしろ鈍感系主人公などラノベやら妄想の世界にしか存在しないファンタジー生物なのだ。

 

 と言うかこの場合気付かないと吉野は危機に立たされる、主に生命的な意味合いにおいて。

 

 

「ヘイちょっと待て、確かに自分は君に対して好意はあるが、それがLOVEなのかLIKEなのかとかは別として、もう少しお互いの将来設計と言うか未来の明るい家族計画というか、そんなカンジをもっとじっくり考えて行動した方が良いと思うのだがどうだろうか!」

 

『……大佐』

 

 

 とりあえず暴走していると思われたゴーヤを諌める為に言葉を選んでやんわりと説得を試みた吉野の耳に、ゴーヤとは違うダンディズムに溢れた渋い声が聞こえてくる。

 

 

『いやその……大佐、君のその性的な嗜好に何かを言うつもりは無いのだが、公務の時間帯にそういった行動に走るのは私はどうかと思うんだがね……』

 

 

 そろそろとスマホを耳から外し、画面に浮かぶ文字を確認するとそこには『坂田』という二文字が表示されている。

 

 そして吉野のスマホに登録してある坂田という名を持つ人物は、記憶が正しければ海軍元帥大将の坂田一ただ一人だけだった筈である。

 

 

「チガイマス、チガウンです元帥殿……」

 

『そうかね、まぁ何と言うかそれなら色々と私の方も安心出来るというか、シクシク痛みが続く胃のダメージの幾らかは軽くなりそうな気がするんだがね……』

 

 

 史上初、真っ昼間から海軍元帥へ愛のベーゼを囁く海軍士官という恐ろしい存在になる事を回避した吉野は、一度大きく深呼吸して気持ちを切り替えると再びスマホに耳を付け元帥からの用件を確認する事にする。

 

 

「大変失礼致しました元帥殿、現在色々立て込んでおりまして、お恥ずかしい処をお見せして申し訳御座いません」

 

『ああ、色々大変そうだね君も、いや本来なら拠点間の通常回線にて色々連絡を取るべき事なのだが、急ぎ確認したい事があったので個人回線へ連絡させて貰った』

 

「確認……でありますか?」

 

 

 心なしかとても嫌な予感がゆんゆんする、むしろ現況に加え先程のゴーヤの連絡である、もう話の内容はソレ系にほぼ決まってると言って良い。

 

 艦娘主導で行われているといってもそれは事実ではあったが、まだソレは諸々の調整も完了していない現在進行形の話であり、まだこの話が勃発して一時間も経っていないのである。

 

 話が伝わるのが早すぎる─────

 

 吉野は情報漏洩という危機管理的な物を警戒し、厳しい表情のままスマホから聞こえる坂田の言葉に集中する。

 

 

『いや、つい先程なのだが事務方(じむかた)から大坂鎮守府より大量のカッコカリの報告書面が送られてくるという報告を聞いてだね……』

 

「……は?」

 

 

 基本ケッコンカッコカリは戦力の強化と質の向上という物で区分されており、それは其々の拠点の責任に於いて成され大本営の許可等は必要とされていない。

 

 ただ各拠点の戦力を把握しておかねばならない関係上、それを行った場合は必ず大本営には報告する義務が定められている。

 

 つまりケッコンカッコカリとは各拠点で任意に行われ、それが終了した時点で大本営へ報告するという流れが出来上がっているという訳である。

 

 

 繰り返し言おう、大本営に報告が行くという事は、既にケッコンカッコカリが成立した後になってからである。

 

 

 眉を顰め前を見る吉野。

 

 そこは一触即発の睨み合いが続く中、せっせとFAXに何か紙を次々と投入する妙高の姿が確認出来る、吉野が懸念していた情報の漏洩元が確認出来た瞬間であった。

 

 そのンゴーンゴーと音を立て動く機械にinされているブツは多分、恐らくそうなのだろうと思った吉野はそこから思わず目を背ける。

 

 ちなみに一拠点からカッコカリの報告が大本営に届くのは大抵一度に一枚、多くとも二枚辺りが普通であり、過去一度に纏めて五枚を送り付けた提督は益荒男(ますらお)と呼ばれ、その人物は今も大本営の事務方(じむかた)では伝説として語り継がれていた。

 

 

『本当ならおめでとうと先に言ってから話題に入る処ではあるのだが……まぁ書式も捺印も正式な物である事は確認は取れてはいるものの……何と言うか』

 

「も……申し訳ありません、今その手続きと言うか話し合いをしている最中ではあるのですが、何分艦娘サイドの話が一部ややこしい事になっていると言いますか何と言いますか」

 

『そうかね、まぁそうだろうね、いやしかし君このカッコカリ艦には大淀や間宮等の名前が含まれているのだが……』

 

「何と言うかそれは、お……oh淀君がその……」

 

『ふ……ふむ、そうか、そうだったね、その辺りの事務手続きは彼女が取り仕切っていたのだったか、なら……うむ了解した、吉野大佐』

 

「はっ、何でしょうか元帥殿」

 

『色々何だ……その、この先大変だろうが励む事だ、頑張りたまえよ』

 

「……は!? あの元帥殿?」

 

 

 無情にも終了される通話。

 

 プープープーという音を残すスマホを片手に固まる吉野、大本営に新たなる益荒男(ますらお)の名前が刻まれた瞬間であった。

 

 

 放心する吉野の椅子はそのままズルズルと引き摺られ、殺人的な空気が濃密に漂う真ん中に据えられる。

 

 自然と鳥肌が立つ感覚にはっとして前を向くと、銀髪になった時雨が真っ赤なオメメで(空母棲鬼)と額を付き合わす程の距離で睨み合いをしている、即座にそれから視線を逸らすと叢雲がヤンキー宜しく例のアンテナもどきの槍を肩に担ぎ、いつから居たのか漣がスタン的なエレキがビビビと出るブツ片手にニコニコと立っていた。

 

 

「修羅場だな」

 

「はい、修羅場ですね」

 

「ちょっとぉナガモンにホテルさんそれ判ってて提督を紛争地帯のド真ん中に連れて来ないで! ヤバいから! コレ物理的に死んじゃうから!」

 

「しかし提督、このままだとこの艦隊は発足直後に内紛で消滅というとても不名誉な終焉を迎える事になる」

 

「ですよねぇ、ここは提督の人徳と愛の成せる技で事を収めて貰うしか……」

 

 

 一体どこの超人がG級リオレイアをマフモフ装備とハンターナイフ一本で討伐に行くというのだろうか、愛と勇気しかフレンドが存在しないあのアンコのパン的なヒーローですらそんなクレイジーな事はしないだろう。

 

 掲示板を確認して討伐依頼かと神おま含むガチ装備でルームに入ってそこを見れば、地雷臭漂うオポンチ装備のハンターがポツンと立っている、そんな者を見れば普通無言でルームから即オチ必至の状況である。

 

 もはや今吉野には、鎧玉をありったけつぎ込んでマフモフ装備を最大強化し、リオレイア相手にセレクトボタン連打のキック攻撃で抗うソロプレイを慣行する程の絶望しか残されていなかった。

 

 

 プルプルと捨てられた子犬の如くG級が臨戦態勢で牙を剥く様と、傍にいる長門を不審者の如くカクカクと交互に見る吉野。

 

 気のせいだろうか徐々にだが目の前の彼女達はジリジリと僅かに足を踏み締め、必殺の間合いを計る体勢に入っている様に見える。

 

 ゴクリと唾を飲み込み吉野は色々と覚悟を完了するがその時、ふぅと溜息を吐きつつパンパンと手を叩き徐に長門が『ちゅうもーく』と声高らかに呼び掛ける。

 

 

 流石世界のビックセブン、何かこの絶望的ハンティングを終了させる手を思い付いたのだろうかと吉野は期待の視線を頼もしい艦隊総旗艦へと向け、次の言葉を待つ。

 

 

「提督からお前達に何か重要な話があるそうだ、全員傾注する様に、では提督お願いする」

 

 

 世界のナガモンが問題解決の為に取った策は、清々しい程問答無用の投げっ放しであった。

 

 またしても静まり返る室内。

 

 未だ殺意が消えない視線を向け、吉野の言葉を待つ艦娘達。

 

 

「……ええと諸君、何と言うかそのアレだ、要するにだ、人類皆兄弟、無益な争いはその、とても無益で、うん無益だと思うので提督はちょっとそれはどうかなと思うのでその……」

 

 

 突然の裏切りというか無茶振りに対し慌てて行動のリソースの殆どを思考に回している為に物凄く残念な日本語を発している吉野、一瞬oh淀シールドの発動も考えたがそれは一時凌ぎで結局は根本的な解決にならない、幾らアイルーが奮闘しても肝心のハンターが大八車で輸送されればキャンプへと撤退する他は無いのである。

 

 

「そ……その、本妻と言うか序列的な物は公平に日替わりとかその辺りで……」

 

「流石提督! その手があったか!」

 

 

 どこぞの食堂で仕入れた食材が予算の関係で偏ってしまい、適当なネーミングで売り出したら高評価を得た的な状態になってしまった本妻騒動。

 

 基本仲間意識が高い彼女等にしてみれば提督の特別という物を独り占めにし、尚且つそれを公平に皆と共有出来る手段として何故かその案を好意的に受け入れる結果となった。

 

 しかし無意識にそんな提案をしてしまった吉野はニコニコと色々な詰めを行う彼女達を前に頭を抱えていた、何故なら今の提案をした事は、自ら重婚を積極的に受け入れますという意思表明をしたと同じであるのだ。

 

 

 そんな吉野の肩をポンと叩く艦隊総旗艦、青い顔でそれを見る吉野に止めの集中砲火が炸裂する。

 

 

「まぁ我々カッコカリ済み勢もシステムは適用されてはいるが、嫁的なポジションに居た訳では無い」

 

「ですね、私も師匠(長門)も戦力的な意味合いでそうしてきただけですし、この際彼女達の本妻ローテに混ぜて貰う事に」

 

「そうね、明石とゴーヤも嫁ぐと言う事だし、同僚の中で私だけ行き遅れになるのはとても頭にきます」

 

「いや君達ちょっと待って!? そんなどこかのButchさんみたいに乗るしか無いみたいなノリで参加するの提督どうかと思うんだけど!?」

 

「何だ? 我々だけハブると言うのか提督よ」

 

「決めた理由が全員おかしいよ!? ナガモンちょっと!?」

 

「三郎さん、世の中には一蓮托生という諺があるのを知っていて?」

 

 

 こうして地獄の第二ラウンドを辛くも生き延びやっと自コーナーに辿り着いた吉野を待っていたのは、既にギバップ用のタオルを処分してしまい殺る気満々で待機しているセコンドの面々であった。

 

 

 そうして一応このカッコカリ騒動は収まる処には収まるというか無理やり押し込んだ的な状況にはなったが、まだ色々問題は孕んだ状態のまま後日談へ話は続くのである。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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