大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 ケッコンカッコカリ大戦勃発、そして会議場は狩場と化していた(尚ハンターは撤退済み)


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/10/26
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、拓摩様、有難う御座います、大変助かりました。


Let's Fight  -The signal-

 宵闇が辺りを包み、十六夜が星明りと共に地を照らす。

 

 大坂鎮守府艦娘寮屋上、その隅に設けられた屋根付きのテラスでは数名の艦娘が集い酒や肴を嗜みながら、中空に浮かぶ光を愛でていた。

 

 午前に始まったケッコンカッコカリ騒動は物理的ないざこざこそ無かった物の、数々の言い争いと問題点の摺り合わせを経て未だ大量の問題が解決されない状態にあった。

 

 ただケッコンカッコカリというシステム自体は行われており、それに端を発する諸問題、特に個人的な立場や感情に拠る物はまだ議論を尽くす物であるという認識の下、実務関係だけが進められた状態で、残りは後日改めて話し合うという事で一応の決着を付けている状態ではあった。

 

 

「揉めるだろうとは思っていたが、まさか一日を費やして殆ど話が進まないとは思ってもみなかったな」

 

「まぁそれだけ皆さん思う処はあるんでしょう、師匠(長門)は苦い顔をしていますが大和としては良い事だと思いますよ」

 

「まぁ原因は提督と我々側にある覚悟の違いなのは間違いないのだがな……」

 

 

 長門は手にした杯を煽り、ほぅと溜息を吐きつつそこに居並ぶ面々を眺める。

 

 この夜に行われている酒宴を囲む者は、長門、大和、大淀、間宮、そして情報部の実務的な実習と、漣が持つ(つて)に対し顔繋ぎをする為鎮守府を出ていたあきつ丸の五人である。

 

 

「覚悟の違い……ですか?」

 

「ああそうだ、我々は基本提督に対し忠義を尽くし、付き従う立場を取ってきた、それが恋慕を元にした物か忠義から来る物かは別としてな」

 

「ですねぇ」

 

 

 長門の空になった杯に酒を注ぎつつ微かに笑いを浮かべた間宮が相槌の言葉を漏らす。

 

 苦言を吐いてはいるがいつも長門の基準は提督にある、それは他の者も等しく感じている物だが何故かその本人だけは認識が薄いのだろうか、わざと吉野を責める口調にはなっている物のそれを見る第三者はとても微笑ましくもおかしい感じに見えている様である。

 

 

「しかしそんな我等に対する提督の答えは会議冒頭の言葉に全て集約されていた、提督はあの時この拠点の主は我々でそれが全てだと言った、しかしそこに提督自身は含まれてはいない」

 

「我が艦隊は特殊な立ち位置に居ます、そして今提督は軍の内部のみならず、元老院の幾らかと国外……特に大陸に関係深い筋に命を狙われる立場になりました、あれはそれを見越しての発言なのだと思います」

 

「だから我々との(えにし)を有耶無耶にし、カッコカリという公式に紐付けされる事を避け続けてきた、自分に何かあった時でも残された我々が周りに併合され易い様に」

 

「そうですね、実際どうであったかという事は無視しても強力な戦力はどこも手が出る程欲しいでしょうし、余計な()がついて無ければ異動時に私達が選択する道が増えることは間違いないですから」

 

 

 大淀の言葉に厳しい相を浮かべる長門、周りに居る者の反応はまちまちだがそのどれもこれもは長門と同じく好意的な物では無かった。

 

 現況吉野は大量の戦力と深海棲艦を取り込み一拠点を構築してはいたが、それは先ず大本営から諸々の問題を遠ざけ、同時に何かあった場合鎮圧が速やかに行われる国内に飼い殺しとして置くという意味合いも含まれている。

 

 捷号作戦をそのまま実施していけばそれを成して深海棲艦という戦力を取り込む事は目に見えている、ならばそれは日本に対し利とは成り得るが世界という見方としては戦力の一極集中という観点では好ましくない。

 

 そこから導き出された答えの結果、現状対外関係を重視する元老院の一部の強い働き掛けで第二特務課は鎮圧時に被害が拡大し難く、更に呉・舞鶴・大本営が即座に精鋭を投入可能な人工島、大坂鎮守府に押し込むという形で現在を迎えていた。

 

 

「あきつ丸よ、そっちの動きはどうだった?」

 

「既に陸が幾らか動いて不穏分子の排除、そして組織の切り崩しに掛かっているでありますが、元が大陸側からの介入であります故……事の根絶は無理でありますな」

 

「海はどういう反応をしている?」

 

「特に何も、人相手は陸の縄張りでありますし、元々提督殿は海より陸の方が評価が高いお方でありますから……」

 

「そうなのか?」

 

「はい、提督殿は諜報専任で単独で活動されてましたから海軍では横の繋がりが薄くて無名といってもおかしくは無い状態でありました、しかし陸軍はその情報を元に動いていた関係上水先案内やアドバイザー的な要請を提督殿にお願いしていた様でありますから」

 

「これはオフレコですが、以前陸の軍務局長から直に大隅大将に提督をくれと幾度か打診があったと聞いています、ですからあきつ丸さんの情報はあながち間違いでは無いと思いますよ?」

 

「まぁ戦争は海が、内側は陸が担っているからな…… あきつ丸や大淀が言うおかしな関係が出来上がってても不思議では無いか」

 

「そうして提督が余計な気を回して私達との関係に線を引く、そしてそれを良しとしない師匠(長門)が大淀さんと明石さんに働き掛けてカッコカリを強引に推し進めたと」

 

「それもある、しかしその提督の心情を汲んで己の情を殺してきた者、特に捷号作戦以前からここに居る時雨に榛名、そして妙高を見るのは忍びなかった、幾ら我々の為とは言え提督がその情を殺していい筈がない」

 

「それが提督の演説に対する長門さんの複答の言葉であったと」

 

 

 やや含んだ笑いの間宮に苦い顔で頷き、再び杯を煽る長門。

 

 空になった杯に視線を落としながらも、誰に聞かせるでも無く酒の力を借りてこの場限りの愚痴と、思いの丈を口から零していく。

 

 それは本来艦隊総旗艦としては口にしてはいけない言葉なのであろう、しかしそれは長門だけでは無く第二特務課の面々の中にある想いと重なっているが故に誰も異を唱える者は無い。

 

 

「ここまで引っ張ってきておいて、覚悟をさせておいて、自分一人だけのうのうと矢面に立とうというその心根は気に入らん、あれは滅私では無い、我々に対する侮辱だ」

 

「その意趣返しに全員で囲んでフルボッコでありますか? 随分と長門殿も大人気ないでありますなぁ」

 

「あきつ丸よ、我々はただの道具では無いのだ、選択肢は少なくともその中から何かを選ぶ権利はある、そして誤解している様だがこの長門……仕事の為だけに自分を切り売りする程安い女では無い」

 

「……酔った勢いで色々吐露するのはいいのでありますが、その……御乱心が過ぎると後々御自分で後悔されるのでは……」

 

「私はあの時自分の中にある女の部分に従った、それを何故恥じねばならない? それ以上に私はあの朴念仁に言ってやりたい事がある」

 

「あの……師匠(長門)、もうそろそろその辺で」

 

 

 己の言葉にヒートアップしたのか長門は飲酒によるもの以上に顔を赤くしていた。

 

 これはダメだと周りの者は諌めに入るがそれは止まらない、酒は百薬の長、ストレス発散のアイテムとしては優秀であるが、その余波を受ける周りの者は逆にストレスが溜まるという諸刃の剣でもあるのだ。

 

 そしてそれは必ずという程威力を増して己に帰って来る、人はそれをブーメランと呼ぶ。

 

 

「あの男が最後にカッコカリを容認するに至った切っ掛けが何か判るか? 我々の想いでは無く間宮や大淀もカッコカリをしたと知ったからだ」

 

「ああ…… 間宮さん達がカッコカリをしていれば軍内部だけじゃなくて元老院側に対しての抑止力も多少は働きますし……」

 

「ですね、間宮伊良湖と言えば艦娘の間では色々特別視する傾向にありますし、その代表格であるお二人に何かあれば艦娘側の潜在的な心証が悪くなるのは目に見えてますからね……」

 

「我々が慕う気持ちより、実を優先した話ならば仕方なし……そうアイツは判断したんだぞ? 私はそこが気に入らん!」

 

「容認したと言うか諦めたのでしょう、私や伊良湖さんは基本提督がどうこうする事は出来ませんし、既に大淀さんが関わっているとなれば結果は見えていますから……」

 

「こんないい女達が周りに居るというのに諦めたとは何事か! 何だ? 何が不服なのか? グラ子みたいにバインバインすればいいのか? 秘書艦ズみたいにメイド服を着ればいいのか!」

 

 

 酔った勢いで暴走する艦隊総旗艦は完全にナガモン化していた、むしろメイド服を着て吉野の頭にバインバインを敢行する長門を想像すると、周りの面々からは苦笑いを通り越した形容のし難い表情が滲み出すという結果を生み出している。

 

 そして酒宴はヨッパーなビッグセブンを囲む面々がまあまあと消火活動を繰り広げつつも、少しづつストレスを蓄積するというダメな集いに変貌しつつあった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 その日吉野は此処最近の中で一番怪訝な表情で執務机の向こうを見ていた。

 

 結局未だ本妻のローテは決まっておらず、現在執務室は事務方(じむかた)の妙高に大淀、秘書艦の時雨と(潜水棲姫)の四人が詰めている。

 

 そしてグラ子であるが現在彼女は鎮守府付近の哨戒任務に就いており、平時の執務室としてはそこに吉野を加えた五人が居る形が普通と言える。

 

 しかし今はそれに加え二人の人物が執務机の前に立っていた。

 

 一人はあきつ丸、彼女は外で得た情報の報告を吉野にすると共にそれに対する打ち合わせと今後の動きの指示を仰ぐ為にそこに居た。

 

 

「以上が収集してきた情報であります、現在漣殿が各所に裏を取っている最中でありますが概ね緊急を要する物は無いと判断するであります」

 

「あ……ああうん、そう……そうなんだ、ご苦労様、それであの……あきつ丸君」

 

「何でありますか?」

 

「その……その後ろの、その」

 

 

 両眉を盛大に顰め、じっと凝視する吉野の先にはあきつ丸の影に控える長門がモジモジしているのが見える。

 

 吉野の目が正常であるのなら、その艦隊総旗艦はピンクを基調とした色のミニスカメイド服に白いニーソ、服と同じくラメ入りピンク色のヘッドドレスを装備していた。

 

 

 怪訝な表情のまま頬を力一杯つねってみる……無茶苦茶痛い。

 

 いやそれ以上に目の前にいるピンクの艦娘を見ると心が痛いのは何故だろうか。

 

 

「長門殿であります」

 

「あ、うんそれは判ってるんだけど、何と言うかその……」

 

 

 時雨や(潜水棲姫)が着用するメイド服は実務を想定した物なのか、過度な装飾はされておらず割とシンプルな作りになっていた。

 

 しかし目の前に居るビッグセブンの着用しているそれは、裾や袖にヒラヒラのレースが縁取られた装飾が施され、ニーソに至っては半スケのレース仕様となっていた。

 

 

 吉野は思った、これはカワイイとかそういう類の物では無く、イメージしちゃうクラブ的な場所で着るアレ的な物なのでは無いのかと。

 

 そのクラブ的な物を略称しないのは吉野の良心から出る物なのか、それとも現実逃避から出た物であるのかは謎である。

 

 

「長門殿であります」

 

「そ……そうでありますか……てか長門君?」

 

「待て、提督これは違うんだ」

 

「……何が?」

 

 

 何か言いそうになる長門の手を取り部屋の隅へ連れて行くあきつ丸、その手には何と言うかボイスレコーダー的な物が握られていた。

 

 そして暫く二人はコショコショと話をしていたが長門が肩を落とすのが吉野から見えた。

 

 それが会話の終了なのだろうスタスタと二人は再び執務机の前に戻って来たが、あきつ丸の表情は先程と同じであり、何故かピンクな長門は何かを吹っ切ったのか、いつもの如く胸を張ってその横に立っていると言うか威圧的な雰囲気を醸し出して仁王立ち状態である。

 

 

「長門殿であります」

 

「私が、戦艦長門だ。よろしく頼むぞ。敵戦艦との殴り合いなら任せておけ」

 

「何が!? 桃色のメイド服で誰を殴るっていうのビッグセブン!? ちょっとどうしちゃったの!? ねえっ!?」

 

 

 吹っ切れた方向がどうもおかしな方向に向いてしまったビッグセブンは、ピンクのメイド服で腕を組み、更に邂逅時のセリフを口にして吉野を睨みつけていた、何故だ。

 

 そして吉野と同じ位怪訝な顔で傍に控えていた時雨と(潜水棲姫)は大淀に手招きされコショコショと何かを告げられていた。

 

 

 暫くその会話は続いたが、秘書艦ズは何かを納得したのか大淀の言葉に何度か頷いた後スタスタと吉野の傍に戻ってくる。

 

 その顔は先程とは違いニコニコした物なのは気のせいでは無い筈であるが、何故そんなにニコニコしているのか、どうして何も言わないのかという謎が吉野の不安度ゲージをグングンと上げていた。

 

 

「長門さんだね」

 

「ん……ナガト」

 

「ちょっとoh淀さん!? 秘書艦ズに何吹き込んだの!?」

 

 

 吉野の突っ込みに一度本棚脇からヒョイと顔だけを出した大淀はニコリと黙って微笑み、そのままスススと無言でフェードアウトしていった。

 

 無言の室内、ピンクで胸を張るビッグセブンといつもと変わらぬ面々。

 

 怪訝な表情のまま再び長門を見る吉野、それをじっと見詰め返す長門、とてもカオスな空間がそこに広がっていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「提督よ」

 

「……ハイナンデショウカ」

 

「疲れてはいないか? 肩を揉んでやろうか?」

 

「ア、ハイオネガイシマス……」

 

 

 あれから長門は特に何をするでも無く執務机前のソファーに腰掛けていたが、暇なのか何なのか時折茶を淹れたりと雑務をこなしていた。

 

 そしていつもそんなポジションに居る筈の秘書艦ズは今日は何故か教導任務の詰めと言う事で現場へ出ていた。

 

 そして不自然かつ危険極まりない秘書艦代理はいそいそと雑務をこなしていたのだが、元々艦隊旗艦に就く彼女であった為に自然と色々気遣いできる艦娘であったのは良いのだが、ドロリ濃厚という表現がピッタリな何かを淹れてみたり、(空母棲鬼)をリスペクトしてか判子に朱肉を付ける際力加減を間違えたのかインクをブジュルと吹き立たせて書類を駄目にしてしまったり。

 

 要するに長門は元々不器用な者では無かったのだが、色々諸々見た目平然とした顔をしてはいたが内心緊張でもしているのか些か行動が暴走していた状態になっていた。

 

 まぁ長門的には些かというレベルの物であったが何せ世界のビッグセブンである、それの些かというパワーレベルはヒョロ助には命の危険に直結する程の物なのであった。

 

 そして数々の失敗は悪循環となって雪だるま式に積み重なり、それはとてつもないプレッシャーとなって執務室の空気(主に吉野周辺)を重くさせ更なる被害の呼び水になる原因に繋がっていく。

 

 そんな重い空気を払拭しようと気合を入れて肩を揉んだ長門であったが、気合を入れ過ぎた結果メシメシメリメリという嫌な音と共に吉野の悲鳴が執務室に響き渡り、またしても長門の心遣いの空回りがダメージとして吉野の体に刻まれる結果となった。

 

 

 

 

「で……電ちゃんヘルプ……」

 

 

 肩の治療の為と称して医局に一時退避していた吉野は余りにも追い詰められた状態であった為に珍しく助けの手を電に求めていた。

 

 溺れる者はなんとやらである、そしてそんな吉野に頼られた電は満面の笑顔で『電に任せておくのです』という言葉と共に天使の様な微笑みを浮かべ、薄い胸をドンと叩いてみせる。

 

 その時吉野は電の背中に白い羽が見えると呟きながら涙を流して感動していたという。

 

 

 しかし吉野は後に述懐する、『何故自分はあの時混乱していたとはいえ悪魔に助けを求めたのであろうか』と。

 

 

 

 

「よ! 提督、頑張ってっかあ? 今日もこの摩耶様と、ひと暴れと行こうぜえ!」

 

 

 吉野の窮状に電が動き、何故か派遣された援軍である番長は片手をスパッと上げて満面の笑みで吉野の前に立っていた。

 

 

「どうして摩耶様がそんな格好でココに来てらっしゃるのでしょうか……」

 

「電にジャンケンで負けたから」

 

「ジャンケンてそんな重い罰ゲームを伴うハードな物だったとは提督初めて知りました……」

 

 

 そんなジャンケンの結果派遣されて来た摩耶であるが、何故か黄色を基調としたメイド服、それも色以外は長門と同じデザインの例のイメージしちゃうクラブ的なアレを着込んでおり、もはやそこには何者かの悪意が介在しているのではなかろうかという疑いを吉野が持ってしまう程のカオスな様相が展開されていた。

 

 何故番長なのか、どうして電が手配して彼女が来るのか、そしてそんな真っ黄っ黄なメイド服を着たままどこで暴れるというのだろうか。

 

 母港にログインした際口にするセリフを述べる摩耶を見つつ突っ込みを入れようとする吉野であったが、長門が涙目で『摩耶……マイフレンド』と呟いてるのを見た吉野はその言葉を飲み込みつつ頭を抱えるしかなかった。

 

 

 そして数が二倍になった秘書艦代理ズであるが、数が二倍になったからといって能力的な物が二倍になった訳では無い。

 

 逆に摩耶という同志を得た為か長門のブレーキ的な物が緩んでしまった結果暴走に拍車が掛かり、更にそれを摩耶が倍加させるという恐ろしい図式が出来上がってしまっていた。

 

 不安一杯で前を見るとニコニコとしたキラキラ光を反射する桃色と黄色、まだ午前中であるにも関わらずそこだけはサタデーナイトフィーバー状態である。

 

 

 吉野は熟考する、結果はアレだが目の前のイメクラを彷彿するメイド二人には悪意は微塵も無く、行動原理は善意から来る物だというのは理解している。

 

 そんな二人を目の前にカエレとか言うのは口が裂けても言えないし、ましてや誰かに助けを呼ぶ言葉を発するのも躊躇われる。

 

 

 暫く考え抜いた結果吉野は徐に机の上にあるベルをリンリンと叩き事務方(じむかた)の妙高を呼び寄せる。

 

 そして手にした書類を妙高に手渡し『急ぎの案件なのでお願いします』と一言付け加え縋る思いで視線を投げ掛けた。

 

 

─────────

 

【報告を受けた拠点防衛設備増設に関しての修正案】

 

ぼう衛設備増設の案件に於いて、それらを精査した結果

すぐ着手する必要性は無い物と判断するが、部分的強化の必要性は認む物である

けい過観察を以って更なる詳細情報を収集し

てき時これに対応する様細分化を実施し、此れに当たる様ここに記す

 

─────────

 

 

 縦書きである。

 

 一体どこの基地司令官が事務員に対してこんな救難要請をするのだろうかと問い質したくなる状態であるが、今の吉野が精一杯抗える手段はもうこの程度しか残されていなかった。

 

 余りに追い詰められていた為に"たすけて"と書くべき言葉が"ぼすけて"となっているが、それを見た妙高はその内容を理解したのか真面目な相で一度相槌を打ち、書類を持って奥へと消えていった。

 

 

 

 

「私の顔に、何かついていて?」

 

 

 そして妙高が手配し待ち侘びた援軍が吉野の目の前でログイン時に発する意味不明な言葉を呟きつつ立っていた、航空母艦加賀である。

 

 どうして援軍を要請して止めを刺されるのか、何故よりにもよってオチ要員的に彼女を妙高は派遣したのか。

 

 黙って前を見ると、そこにはパーソナルカラーの青を基調としたもう説明不要なイメージしてしまうクラブ風味のメイド服を着た一航戦のポンコツがこちらを凝視している。

 

 それは長門達と同じデザインではあるものの、ラメの代わりに細かなスパンコールが全身に縫い付けられており、それがそよ風に揺られてチャラチャラと音を奏でていた。

 

 一体いつの間に彼女は演歌歌手からシャンソン歌手へ転向したと言うのだろうか、そして何故スカートがミニでは無くマイクロミニという攻めっ気たっぷりな代物を着ているのだろうか。

 

 何から突っ込めば良いのか戸惑う吉野を見て何故かニヤリと笑いつつ加賀は腰に手を当てポージングをしている。

 

 

「私の格納庫に何か御用? そう…んっ…大概にしてほしいものね」

 

「えっと……今更提督は加賀君に羞恥心というものは何かと説くつもりは毛頭もアリマセン……」

 

「五航戦の子なんかと一緒にしないで」

 

「五航戦の人達はそんなハレンチな格好はしないと思います」

 

 

 絶望の眼差しの先には加賀・摩耶・長門、青色黄色桃色と経年劣化で色ボケした信号機状態な色素が展開されている。

 

 そんな三方をキラキラしたカラフルな絶望に囲まれつつ、プルプルと震える小動物は何も言えずにただただ嵐が過ぎ去る事を願いつつ命からがら執務をこなすのだが、このカッコカリを発端にしたカオスな世界はまだ始まったばかりというのはこの時まだ誰も気づいてはいなかった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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