大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 大坂鎮守府に紳士淑女が集う新たなスポットが設置されたと思ったがそうではなかった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/10/27
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました黒25様、ギオス様、有難う御座います、大変助かりました。


Let's Fight  -Me is a cat-

「なぁ……ちょっと聞いていいか?」

 

「ん? どしました?」

 

「なんつーかあの……さっき艦隊総旗艦さんとか一航戦に会って話したんだけどよぉ」

 

「……何か問題が?」

 

「いや……問題っつーかなんつーか……フフフ怖い……」

 

 

 大坂鎮守府執務室、時間は1340。

 

 (かね)てより第二特務課水雷戦隊の総仕上げ的意味で友ヶ島警備府に水雷戦隊同士での演習及び戦闘指南を打診していた吉野であったが、その調整が大体整った事を受けて今日は友ヶ島基地司令長官の唐沢隆弘と、同基地艦隊総旗艦の天龍型一番艦天龍が大坂鎮守府へ打ち合わせに来ていた。

 

 先ずは挨拶もそこそこに天龍は早速と水雷戦隊の訓練を見学し、髭爺はそれに暫く付き合っていたがその後電ガーデンでずっとフルーツ収穫をしつつ電と茶飲み話に華を咲かせていた。

 

 そして昼食後の現在、訓練を軽く見学した友ヶ島艦隊総旗艦と基地司令長官は実務的な詰めをする為執務室を訪れていた。

 

 

「あ? 何だ天龍青い顔してよぉ、何か問題があったのか?」

 

「いや……問題っつーかちょっとなぁ……」

 

 

 歯切れの悪い言葉を漏らしつつ乾いた笑いを漏らす眼帯の軽巡を前に首を捻る吉野と髭爺、竹を割った様な性格の天龍が珍しく言い淀む程の何かがあったのかと髭爺は首を傾げるが、ここは大坂鎮守府である、ここでは何があっても不思議では無いという認識はあったので、大方元大本営艦隊の旗艦やら元祖の名を関する給糧艦の艦娘を目の当たりにして萎縮でもしているのかと思っていた。

 

 何せそこは都市伝説がリアル闊歩している人外魔境、既に自分はそれを体験しているからある程度は耐性はあったが、天龍には驚きの連続だったのだろうと髭爺は当たりを付けてニヤリと笑ってその様を見ていた。

 

 そんな折、秘書艦ズが持って来た茶を啜ろうと湯飲みに手を伸ばした時、来室を告げるノックの音が聞こえ、何者かが執務室へ入ってきた。

 

 

「打ち合わせ中すまない、午前の訓練を見た水雷屋の感想が聞きたくてな、私も同席してもいいだろうか」

 

「人修羅さんかい、ああいいぜまぁ座んな……よ……」

 

 

 ビクリと肩を震わせる天龍に何となく優越感を感じつつ髭爺は入室してきた長門を見る。

 

 そして薄ら笑いを浮かべた顔のまま固まった髭爺の前に現れたのは、ピンクのキラキラしたミニスカメイド服を着つつも武人然とした雰囲気を漂わせた艦娘、大坂鎮守府艦隊総旗艦のナガモンであった。

 

 邪魔をすると一言、スタスタと何食わぬ顔で近付き吉野の隣に座るビッグセブン、その立ち振る舞いに無駄は無く、それだけで只者では無いと普通は感じる処だろうが、その格好は友ヶ島基地の二人を別な意味で只者では無いという印象を与える格好をナガモンはしている。

 

 

「な……長門さんよぉ、ちょっくら聞いていいかい?」

 

「む? 何だろうか?」

 

「えっとそのよぉ、なんつーか……そいつぁ何だい?」

 

「ああ、これはメイド服という物で、私にとっては第二の戦闘服というべき物だな」

 

 

 誰が服の解説をしろと言ったのか、幾ら髭爺でもメイド服くらいは知っている、むしろ"何故"そんなイメージしちゃうクラブ然な周囲に混乱呪文をオートで振り撒く危険な格好をしているのか聞きたかったのだが、余りにもそれを着る元大本営第一艦隊旗艦の自然さに二の句が告げない髭爺。

 

 髭に隠れた口をモゴモゴとする髭爺と何故か青い顔で目を逸らす眼帯の正面では、吉野が目のハイライトを薄くして乾いた笑いを口から漏らしていた。

 

 

「……長門君、それ気に入っちゃったの?」

 

「ん? 気に入ったと言うか、私が率先してこれを着る姿を見せれば他の者も抵抗無く着用出来るのではと提案されたものでな」

 

「明石?」

 

「うむ」

 

 

 吉野は無表情のままローテーブルに設置してある電話に手を伸ばし、ピポパとボタンを押してどこぞへと連絡を取る。

 

 

「明石酒保? あ、妖精さん? 自分自分、え? 最近妙に常連気取って名前言わないヤツが増えてきて困ってる? いやそのほんとサーセンした……提督ですが……うんそうそうその提督、明石居る? 取り込み中? え? 何してんの? 彫金? ひとつ彫っては父のため、ふたつ彫っては母のため? ナニそれ怖い賽の河原なの!? 恐山なの!? え? カッコカリ用オーダーメイドのリングが多過ぎてパンク寸前? うん……あそう……そうなんだ……うん、そう、そっかぁ……」

 

 

 黙って受話器を置いて難しい表情の吉野、その傍にはいつの間に来ていたのかoh淀がニコニコして立っている。

 

 

「通常明石セレクションのデザインリングは高価な物で提督の給料三ヶ月分ではちょっと購入は難しいのですが、電ガーデンのフルーツ出荷、夕張重工のパテント契約料、そして間宮の通信販売の売り上げで得た収益でそれらは充分賄われますので心配御無用です」

 

「ナニソレ何の話!? てか提督の給料三ヶ月以上のブツを人数分てどんだけボロ儲けしてんの君達!? 一応ここ軍事拠点よ!? ちょっと商売展開デーハーし過ぎじゃないかなぁ!? ねぇ!?」

 

「実弾は幾らあっても困る事はありませんから、色々安定するまでギリのラインで貯蓄に励む様にしています」

 

 

 何をギリのラインでしているのか、むしろ軍事拠点で商売とか既にラインオーバーをしているのでは無かろうか、ゲンナマの事を実弾と生々しい呼び方をする黒髪眼鏡は唖然とする吉野にニコリと微笑むと、そのまま奥へと消えていくのである。

 

 大坂鎮守府、そこは軍内有数の魔窟であったが同時に政治的圧力に強く、資金力に長ける一大拠点として育とうとしていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「あーそっか、カッコカリかぁ、だからナンか今日は娘っ子達がソワソワしてたんだな」

 

「えぇまぁお恥ずかしい限りで……」

 

 

 黒髪眼鏡から衝撃の事実を聞いた後、一時呆然としていた集団であったが取り合えずは水雷戦隊関係の話を終え、時間的に午後の休み時間になった処で長門が拠点の案内を兼ねて天龍を間宮に連れ出し、執務室には髭爺と吉野が世間話をするという和やかな場があった。

 

 二人は対面に座り、吉野の両脇には秘書艦ズの二人が(潜水棲姫)手製の胡麻団子を頬張りつつ茶……というかサスケとタヒボベビーダを啜るというちょっとした茶会的な雰囲気の中、話題の中心は長門のイメージしちゃうメイド服の説明を発端に自然とケッコンカッコカリの物になっていた。

 

 

「いやなんつーか、あの人修羅って恐れられた艦娘がその……なんだ、あんな格好を自らとか本当にぶっ飛んだ鎮守府だなここは」

 

「自分の趣味では無いのですが、色々無垢な彼女達に入れ知恵する邪悪が数々存在してまして……」

 

「まぁ本人が納得してりゃいいんじゃねーか? 女に尽くして貰うってのは男冥利に尽きるだろうしそこはドンと構えてりゃいいやな、まぁ……アレはちょっと表に出さない方はいいと思うがな」

 

「ご尤もです、周りの艦娘さんにもその辺り周知徹底しないとちょっとヤバい感じですので後で何かしら手を打っておきます」

 

「周知徹底? って事は何だ? ボンは今回重婚したってのかい?」

 

「ええまぁ、そうなりますね」

 

 

 髭に手を当てニヤニヤとしつつ茶を啜る髭爺を前に、吉野は頭をボリボリと掻いてバツが悪そうな相を表に貼り付ける。

 

 割と和やかに茶飲み話は進んでいた、初めて会った時は主に髭爺からの一方的な拒絶の色が濃かった事もありギスギスした雰囲気しか無かった両者であったが、時間を掛け数度の会合を経て頑固なこの友ヶ島基地司令長官も色々思う処があったのか、現在は多少冗談を交わす程度の関係性は築けていた。

 

 そんな執務室にまた来客を告げるノックの音が聞こえてくる、応対に時雨が席を立ち戻ってきた時そこに居たのは電と叢雲、髭爺からしてみれば恩人とも戦友ともいうべき特別な艦娘二人であった。

 

 

「おお電ちゃんに叢雲ちゃん……か?」

 

 

 二人の声に好々爺(こうこうや)の色を滲ませて振り向いた髭爺であったが、二人の姿を見てそのまま固まった、そして吉野も怪訝な表情のまま時間が停止した様にそのまま電と叢雲の姿を凝視する。

 

 先ず電は時雨達と同じデザインのメイド服を着ており、それは少し暗めの黄色に縞が入った色合いをしている、そして叢雲は黒を基調としたメイド服。

 

 ただ秘書艦ズの物とそれとは明らかに違う部分があり、頭に乗せているのはヘッドドレスの代わりにネコミミカチューシャが、そして腰からはメイド服と同色の尻尾が垂れていた。

 

 

 ネココスメイド服である。

 

 

 (かつ)て滅亡寸前の日本を救い、救国の象徴とまで(うた)われ最初の五人として今も伝説として語り継がれる艦娘が、チャトラとクロネコのコスチュームプレイなメイド服を着てるのである。

 

 電の尻尾には御丁寧にもリボン付きの鈴が装備されており、スタスタと歩くたびにチリンチリンと音が響き、時間が停止した執務室に響き渡ると同時に異空間を展開させていく。

 

 それは見た目プリティなくちくかんであったが、深海棲艦との戦いが始まってから生き抜いて来た者という事はそれだけ歳は取っている事になる、つまり中身は30年物なのである。

 

 ロリBBA、合法ロリ、そんな一部特殊な性癖を持つ提督達が反応しそうなジャンルのくちくかんがにこやかに登場し、髭爺はギギギと音を立てそうな動きで正面へ視線を向け、それに対し吉野は至極真面目な相で右掌をブンブンと顔の前で振って髭爺の視線から来るモノを否定する。

 

 

「明石セレクション秋の新作、アニマルメイドシリーズ"ちゃとらん"なのです」

 

「同じく"黒猫のタンゴ"よ、どう?」

 

 

 どうと言われても何と答えればいいのであろうか、確認しておくがそこは軍事拠点の中枢である提督執務室である。

 

 そこで見た目幼いくちくかん四人がメイド服を着て基地司令長官二人を囲んでいる少し犯罪臭がしないでも無い状況、先程長門が居た時はイメージしちゃうダメなアダルティの雰囲気漂う空間だったのだが、現在そこはちょっとそんな性癖を持ったダメな大人が集う秘密倶楽部的な物に変貌していた。

 

 

「……なぁボンよぅ」

 

「違います、自分は無実です」

 

「いやそうじゃなくてよぅ」

 

「自分は極めてノーマルです、幼女愛好家でも無ければコスプレ大好きダメな大人でもありません、これはどこぞの邪悪が企てた陰謀です」

 

「お……おぅ、そうかい、まぁナンだ……大変だなそっちは……」

 

 

 髭爺の生暖かい視線が痛かった、それ以上に色んな意味で中身30年物の艦娘を前に吉野の心は痛かった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「はぁ!? 拠点の全艦娘といっぺんにカッコカリしただぁ!?」

 

「ええ……まぁそのそんな感じで……そんな風味で……」

 

 

 ピカ○ュウ風味のプラズマとクロネコヤ○トなムチムチくちくかん二人について弁明を述べるついでと言うか、大坂鎮守府の現状を説明しないといけなくなった吉野の話は、髭爺のふっさふさの両眉を跳ね上げさせる程の効果はあった。

 

 髭に半分隠れた口をパクパクとさせつつ唖然とする髭爺、頭をボリボリと掻いて渋い顔の吉野。

 

 そして何故か時雨と(潜水棲姫)は吉野の膝の上にチョコンと座り、両隣にはプラズマとむちむちくちくかん、髭爺の向かいにある三人掛けのソファーはくちくかんで埋もれる吉野というカオスな状態になっていた。

 

 

「って事はナニかい、ボンは電ちゃんや叢雲ちゃんも娶ったってことかい?」

 

「あー、最初の五人で言うとここに居ないけど漣も嫁になってるわね」

 

「ああ? 漣ってあの子もここに着任してんのか!? ってその子も嫁だとぅ!?」

 

 

 叢雲の言葉に何故かプルプルと震える髭爺、それを見て揃って首をチョコンと傾げるくちくかんズ、恐らくその原因だろうと自覚のある吉野は既に現実逃避の姿勢に入っており、真顔でくちくかんに囲まれたまま無反応状態である。

 

 暫く無言のまま時間が流れる執務室ではあったが、何故か徐々に俯いていた髭爺からゴゴゴゴという擬音が背中に見える様な雰囲気が滲み出し、黒い瘴気の様なモノが立ち上る。

 

 一体何事とその気にあてられ吉野が正気に戻りそこを見ると、ふっさふさの眉の奥からギラリと殺気を帯びた目で自分を睨む髭爺、どうしたのかと様子を伺うと老躯はバンとローテーブルを両手で叩きつつその歳を感じさせない勢いで立ち上がり吉野を睨んだ。

 

 

「許さん……許さんぞ若造ぉ! 誰に断りを入れてウチの可愛い孫に手を出してるんでぇ!」

 

「孫ぉ!? ナニナニ唐沢司令どうしちゃったんです!?」

 

「うっせぃべらんめぇ! ちっと鎮守府の一つや二つ任されたからっつってチョウシに乗ってんじゃねーぞ! その程度でウチの電ちゃんや叢雲ちゃんを嫁にってフザケンのも大概にしやがれっ!」

 

「おじーちゃんヤメテ! もう電は三郎さんのお嫁さんになる事を決めたのです!」

 

「え!? ナニコレ一体何の話になっちゃってんの!?」

 

「爺ちゃん、影が薄いからってさらっと漣の事忘れないであげて頂戴!」

 

「いやそこのむちむちもナニ暴走に乗っかってるワケ!? 提督にも判る様にこの状況説明して!?」

 

 

 髭爺の癇癪に電の悪乗りが煽る形で乗算され、更に叢雲が混沌に叩き込むというカオスが展開される、そして汗をダラダラと流す吉野を余所に膝の上でポワポワと御満悦の秘書艦ズ。

 

 そんな喧々囂々(けんけんごうごう)とした執務室に更なる混沌が気配を殺してテーブルの脇に降り立つ。

 

 いつの間にそこに来たのか、それに気付いた面々はピタリと動きを止め突然現れた人物に視線を向ける。

 

 そこにはイチゴ模様のミニスカメイド姿の漣がニヤリと立っている、そのメイド服はプラズマやむちむちと同じデザインのネコネコとした物であったが、胸の部分はニャンコの形に切り抜かれうっすい胸を強調させる形になっており、手足にはネコの物を模した肉球付きモフモフが装備されるというあざとい造りになっていた。

 

 

「お・ま・た・せ」

 

 

 そうして午後の茶会はくちくかんが織り成すカオスなネコ集会へと変貌していき、暫く髭爺がヒートアップしていたが次第に好々爺(こうこうや)然とした雰囲気にシフトし、そこに埋もれた吉野の精神をゴリゴリと削っていく魔窟へと変貌していくのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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