大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 普通とはちょっと違う、大坂鎮守府の妖精さんの昔話。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


ロボ、そして更なるメイド服の可能性

「こ……これが拠点防衛ロボTOYOTA GA-70スープラ改めスプーでしゅ……」

 

 

 不自然にシリを突き出しつつプルプル震えながら、夕張が拠点南側の閑散としたコンテナヤードにて新たなる防衛システムのプロトタイプと言うかロボを前に説明を始める。

 

 そのガンメタリックに輝く5mを超える鉄の巨体は車がそのまま逆立ちし、そこから手足が生えてバケツを置いた様な、判り易く表現すると昭和初期のブラウン管から飛び出してきたかの如くひたすらバタ臭いロボロボとしたブツであった。

 

 そしてそれは先日黒ツナギの妖精さんが秘書艦時雨を通じてリークされた秘密兵器と言うかぶっちゃけ吉野の愛車の末路であり、見た目がまんま逆立ちスープラ然としているのでそれを見た吉野の精神的ダメージはCBXの時より大きな物となっていた。

 

 

「……メロン子」

 

「違いましゅ……今回私は戯れに設計図を書いてみただけで実行犯は別にいましゅ……」

 

 

 そんなプルプル震える夕張の向こう側では、ケツから薄い煙を立ち上らせ、orzな状態で綺麗に横一列に並んだ黒いツナギの小人達がメロンと同じくプルプル震えていた。

 

 

「戯れに何故提督の愛車がロボ的なブツにという設計図なのかという説明を聞いても?」

 

「そりゃ目の前にこう……メカメカしいブツがあって、それが軍の備品じゃないなら誰だってこう……想像を掻き立てられて設計図くらい書いちゃうとは思いませんか?」

 

 

 まるでシャブ中が末期の幻覚に酔って口にする戯言の様な言葉を吐きつつ、吉野的には理不尽極まりないメカジャンキーの独白的理由が吐露される。

 

 その結果更なるケツペシが実施され、orzの列に緑のメロン柄のメイド服のメカジャンキーが追加される事になった。

 

 

「て言うか何で君メイド服なワケ? まだ三時休憩じゃないデショ?」

 

「いやぁ、何か工廠に引き篭もってたら知らない間に提督の嫁になってて、それ知らされた時これ渡されたんですが、嫁はメイド服を着ないといけないという掟があるって聞かされましたので」

 

「知らない間にとかキミそんなのでカッコカリ承諾したの!? てかナニその病的な掟!? 提督初耳なんですけど!?」

 

「いやぁ、実の処割と提督の事嫌いじゃないですし、まぁ明石さんがわざわざ届けてくれた物なら着ないと悪いかなぁとか」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああかしいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ! ナニデリバリーシチャッテンノあかしいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! やっと落ち着いた話混ぜっかえすなあかしいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

 いつの間にか吉野をorzが囲む形でプルプル振るえ、その中心で高速地団駄を踏む吉野という奇妙な部族ダンスが展開される。

 

 

「しかしいつも夕張さん懲りないわよね、シリペシで悶絶するの判ってるでしょーに」

 

「ん~ でも世の中裸土下座がデフォな航巡もいるっぽいし、ケツペシ位普通っぽい?」

 

「……なにその頭のおかしい航巡」

 

 

 ポイヌ(夕立)がポケットからスマホを取り出すと、それをツイツイと操作して例の鎮守府裏掲示板を陽炎に見せる。

 

 其処にはやはりTOPには大坂鎮守府のスレが来ていたが、そこに続くスレッド名も負けず劣らず基地司令官が見てしまうと多分やさぐれてしまうのでは無かろうかという文字の羅列が並んでいた。

 

 

─────────

 

【鎮守府裏掲示板】

 

【メイド服が制服】大坂鎮守府総合Part99【受け専提督】 【元祖益荒男】ブルネイ泊地メシテロ大将Part205【夜の帝王】 【世紀末】修羅が棲む鎮守府タレコミスレPart1919【縦社会】

 

─────────

 

 

 たった先頭から三つばかりのスレタイを見ただけなのに陽炎は眉を顰めて溜息を吐いていた。

 

 

「この三つ目のスレだけ何で4桁も進んでんのよ、ってうわ……マジだ、って言うかゾーンとか毒コーヒーとかって何の事?」

 

「良く判んないど多分秘密兵器の暗号だと思うっぽい」

 

「いや秘密兵器の名前が全裸土下座ってどうなのそれ?」

 

「夕立に聞かれても判らないっぽい、でも何かここ最後まで使われる事がなかった最終兵器とか言われてるっぽい」

 

「ってよりこのブルネイスレの中身……これR18ネタしか書かれて無いんだけどいいのこれ?」

 

「ん、20レスの内に一回くらい料理の話とか入ってるっぽい」

 

「ちょっと何でスレの中身が夜のお悩み相談室になってんのよ……うわぁ……うわぁ……」

 

「このスレだけ話題が何だか生々しいっぽいぃぃ」

 

 

 鎮守府裏掲示板、そこには日々艦娘を夜戦で轟沈させてしまう益荒男的な提督の話や、世紀末な艦娘が蠢く大坂鎮守府をより投げっ放しにしたかの様な鎮守府の話題が目白押し状態な、そんな都市伝説が日々暴露される情報発信の場になっていた。

 

 

「と……兎に角ですね、このスプーは凄いんですよ、隠しギミック満載ですし、ほら、ここなんて41cm連装砲なんかも装備しちゃったり」

 

「何でビッグセブンのメイン武装流用しちゃってるワケ!? 確か予備武装って開発してなかった筈だよね!? 任務の時どうするつもりなの!?」

 

「え? 長門さんなら今連装砲の変わりに艤装へ子犬(時津風)ちゃんと不知火ちゃんをコンバートして哨戒に出てますよ?」

 

「ナニしてんのナガモン!? 幾ら何でもくちくかんがメインウエポンとか病的にも程があるデショ!」

 

 

 その日大坂鎮守府近海では、艤装にチョコンとくちくかんを装備させた戦艦が妙にクネクネしつつ哨戒をしている姿を物資輸送の為その海域を通過したタンカーが目撃したという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ではスプーの勇姿をご覧に入れましょう」

 

 

 フンスと鼻息荒く、夕張は首からベルトでぶら下げた箱型の何かをポチポチと操作しつつ吉野の元愛車のロボのデモンストレーションを始めた。

 

 その箱からはぶっといレバー二本が生えており、用途不明なダイヤルが三つ横並びで付くという形の物だった。

 

 

「行け! スプー!」

 

 

 夕張の言葉と共に昭和臭漂うムサいロボは、最近改ニが実装されたあの軽巡がする様なガッツポーズを取りつつ、『ガオー』とバケツ然とした頭に埋め込まれたスピーカーから雄叫びを轟かせた。

 

 

「スプー パンチだ!」

 

 

 再び『ガオー』と雄叫びを上げつつロボがスイっと拳を突き出すが、それは車に無理やり変形機構を組み込んだ形のせいか、勢いも威力もないただのグーを出した状態にしか見えなかった。

 

 

「スプー キックだ!」

 

 

 もういい加減他のパターンが無いのかと思う様な『ガオー』に続き、キックと言うか、小学生が学校の帰りに路傍の石を蹴るのに夢中になっちゃってるのをイメージさせる様な足捌きをするロボ。

 

 そして吉野は気付いてしまった、操作している夕張の手元、先程からロボを操作しているというのにその手元は動いていない。

 

 

「頑張れスプー!」

 

 

 頑張れという物凄く抽象的な命令に対して再び鬼怒のポーズで『ガオー』とガッツポーズなロボ、外観は兎も角命令に対するロジックは優秀なロボになっているのかも知れない。

 

 

「……メロン子」

 

「何です提督」

 

「そのコントローラーって……もしかして飾り?」

 

 

 見詰め合う二人、どちらも微動だにしない向こうではオニオコポーズのままガオーガオーというロボが見えるという、ある意味カオスな世界が展開されていた。

 

 プイっと横を向く夕張の脇ではくちくかんズが何故かキラキラした表情でロボを見詰め、『カッコイイ』という理解不能な言葉を呟いていた。

 

 

 人の感性といえば年月を掛けて色々な情報を取り込み、更にそこへ好みや周りの影響が働いて完成していく物である。

 

 そして大坂鎮守府生まれのくちくかんズは戦闘は一人前にこなせてもまだ生まれて間もない存在である、例えそれが車を縦にして手足を無理やりくっ付けたナニカであってもロボ=ヒーロー的な印象を受けても仕方が無いのである。

 

 

「夕張さん! 夕立もロボ操縦してみたいっぽい!」

 

「こ……この駆逐艦朝潮、拠点防衛の装備ならば使いこなしてみせます! どうかこの朝潮にお任せ下さい!」

 

 

 くちくかんズの感性の基礎部分がスプーを基準にした物になってしまった瞬間である。

 

 

 ワラワラとくちくかんに囲まれつつ苦い顔で頬を掻くメロン、その向こうではロボがガオーガオーと雄叫びを上げ続けていた。

 

 

「あー、ごめんねぇ、ちょっとセキュリティの関係で音声入力の認証私の声しか登録してないの」

 

「ってやっぱりコントローラー飾りなの!? 鉄人みたいな風味持たせといて無駄なブツに資源つぎ込むの禁止!」

 

「む、このコントローラーはちゃんと機能するんですよ! 無駄なブツなんかじゃありません、ほら!」

 

 

 夕張が首から下げたレバーの生えている箱の上部をパカンと取っ払って中に仕込んであった物を吉野に見せ付ける。

 

 それはワンレバー6ボタンタイプの何と言うかぶっちゃけ格闘ゲーマー御用達のアレ風味な風貌をしている。

 

 何故軍事拠点の防衛を担うロボのコントローラーが格ゲーコントローラーなのか、レバーをカカッと同じ方向に入力するとダッシュでもするとでも言うのだろうか。

 

 黙ってそれを手渡す夕張、コントローラーとメロンを交互に見る吉野、恐らく操縦出来るというのを実証しようとでもしているのだろう、仕方無しにベルトを首に掛けてそれを固定、レバーを握ってロボの操作をしてみる事にする。

 

 

「パンチのコマンドは『→←↙↓↘→+P』、キックは『弱P・弱P・→・弱K・強P』です」

 

「……おいユウバリンコ」

 

「夕張です提督、何でしょう?」

 

「何でたかがパンチやキックに超必殺技クラスのコマンド入力が必要になるのか聞いても? しかもこれパンチが覇○翔吼拳でキックが瞬獄○だよね?」

 

「変形機構が複雑化した事に伴って制御系も複雑化してしまいました、仕様です」

 

「スープラを縦にして手足生やしただけだよね? 何でそれで複雑化しちゃうワケ?」

 

「車モードでも実用に足る性能を維持しつつ、変形してロボにするにはそうするしかありませんでした」

 

 

 恐らく夕張は夕張なりに気を使ってそんな設計をしたのだろう、しかしそれは吉野が平時ロボに変形しちゃう車を乗り回すという用途を想定した物であり、それはちょっと買い物の為に出掛けた時についうっかり操作を間違えると、道路のド真ん中でロボになっちゃうという危険性を孕むという可能性を秘めていた。

 

 むしろそんな余計な気を使うならロボにしなくても車のまま武装を乗せたり装甲を厚くした方が余程有用なのではと思うだろうが、手段の為には目的を選ばないメロンの中にはそんなロマンの欠片もない選択肢は存在してはいなかったのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「あらあらそれは大変でしたねぇ」

 

 

 三時の昼休憩、この日は色々疲れた頭に糖分を補給する為吉野は間宮で珍しくも羊羹を突いていた。

 

 周りには時間が空いた深海組が陣取り、それを囲む様に他の艦娘が座っていたが、何故か吉野の右隣だけは不自然に空いた状態である。

 

 

「いやまぁはい…… いつもの事なので……」

 

「それでも懲罰的な物を与えない提督は優しい方ですね……と言いたい処ですが、余り甘やかすのもどうかと思いますよ?」

 

 

 ニコニコと緑茶の湯飲みを持ち、間宮はそう言いつつも何故か吉野の右隣に空いた場所に腰掛ける。

 

 ごく自然にスっと座る彼女はいつもと同じ割烹着姿に見えたが、何故かその中に着込んでいるスカートの裾がかなり短い物になっている、ミニスカである。

 

 そして間宮は吉野の前に置かれている皿を取り上げると、一口大に切り分けた羊羹に楊枝を挿してスイっと吉野に差し出した。

 

 

「……えっと間宮さん?」

 

「はい、どうぞ」

 

「……んんんん?」

 

「実は三時のクジを引き当ててしまいまして、折角ですのでご奉仕でもしようかと」

 

 

 一瞬で嫌な汗が噴出す吉野、手を添えて羊羹を差し出したままの間宮。

 

 まさかそれはアーンという行為なのか、何故割烹着ミニなのか、もしかしてそれは新たなるメイドスタイルとでも言うのだろうか。

 

 思いもよらなかった方向から現れた伏兵にピクピクと眉を痙攣させ固まる吉野、その口に半ば無理やり詰め込んだ為か羊羹の欠片が床にポトリと落下した。

 

 

「ほらちゃんとアーンしてくれないから羊羹が落ちちゃいましたよ」

 

 

 ちょっと頬を膨らませた間宮が床に落ちたそれを拾い上げようと屈んだ瞬間、吉野の視界に飛び込んできたのは、何故か丸見え状態になった間宮の背中。

 

 

 

 ミニスカオープンバック割烹着という攻めの着衣が生まれた瞬間である。

 

 

 

 何故背中全開なのか、どうしてそんなにオープンなのか。

 

 なまじプルンプルンという直接攻撃が飛んでくるより、背中という通常では見せる事の無い部分を武器にアダルティーな攻め方をする間宮、流石歳の功というか策士である。

 

 盛大にプルプル震える吉野に再びヒョイヒョイと羊羹を口に放り込む背中見せ割烹着の間宮、まさか軍の間宮界のボスがそんなクジシステムに参戦してくるとは思わなかった吉野の思考はそのまま停止し、されるがまま最終的には数本の羊羹を口に放り込まれ続けた。

 

 

「殿方相手にこういうのは正直どうかと思っていましたが、やってみればこれは中々楽しいものですね」

 

 

 にこやかにそう呟いた甘味の女王は、この時今までに感じたことの無い感情を以って新たな世界に目覚めたという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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