大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 交わる筈の無い物語、邂逅する筈の無い者達が集う事になる世界、そんな非日常が緩やかに始まった。

(※)御注意

 今回も引き続き坂下郁様の作品世界とコラボレートしたお話になります(未だ邂逅前)。

坂下郁 様 連載
【逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-】
https://novel.syosetu.org/98338/

 一応内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、別作品との絡みという話では無く、どちらかと言うと今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指した展開にしようという試みで進行する努力を致します。

 また『大本営第二特務課の日常』側ではこのコラボ展開に絡む話は、サブタイトルは『日常という名の非日常の始まり』に統一する予定で御座いますので、それを目安に読んで頂けたらと思います。
 
 以下の内容に興味が無い、又は趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨になります。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/11/06
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたじゃーまん様、orione様、有難う御座います、大変助かりました。


日常という名の非日常の始まり(2)

「おいアレマジか」

 

 

 摩耶が海に浮かぶ白い人型を見つつ渋い顔でそう漏らす。

 

 場所は大坂鎮守府西側の演習に割り当てられている海域、そこにはうつ伏せ(伏射)状態で(XM-109)を海へ向けて構える吉野と、その隣には吉野の傍で中腰のまま海を見る摩耶が居た。

 

 その二人が見る先には約1,000m程沖に(空母棲鬼)が立ち、これから運動でもするのであろうか屈伸運動をしている状態である。

 

 

「んと……何と申しますか、自分は極ふっつーに射撃訓練しようと準備してたんだけど……」

 

「ああ」

 

「何か(空母棲鬼)君が以前コレで狙撃された事に何か思う処があったみたいで……その……」

 

「……それが何でアレになんだよ?」

 

 

 今も念入りにストレッチを続ける(空母棲鬼)は、額に的当てで良く見る丸いアレを装備し、胸にも同じブツを二つ並べてブラジャー状に装備しており、更にはシリにも同じブツと、恐らく動くターゲットとして己を見立て準備したのだろう、ぶっちゃけ的当てブラとパンツという出で立ちで海に待機状態であった。

 

 更に両手には棒にぶっ刺したでんでん太鼓的なブツも握られており、何と言うか割と真剣に正気を疑うような格好のまま真剣な相で吉野達を睨んでいる。

 

 

「何か勝負という事らしくてね……ルールは自分が撃った弾を彼女が両手の的で受け止める、そして20発射撃して体に着弾した数と、両手のアレに当たった数の多い方が勝ちだという……」

 

「砲弾とかなら構えた砲身とか飛翔音で大体のアタリ(・・・)はつくけど、それ精密に受けるとかムリじゃね? しかもその(XM-109)の弾ってちっさいしさぁ」

 

「何か彼女は猛特訓してきたって鼻息荒かったし、さっさと海に出ちゃうし……まぁ自分としてはお手並み拝見ってカンジなんだけどちょっとアレは……」

 

「ん? 何か問題でもあんのか?」

 

「いや、ぶっちゃけ的の面積が多過ぎて、適当に狙ってもどこかの部位にHITしちゃう気がしてねぇ……」

 

「お……おぅ……」

 

 

 そんな微妙な表情の吉野はマガジンに弾薬を装填し、海の向こうの(空母棲鬼)の表情を基準にしてスコープの調整を繰り返す。

 

 

「なぁ提督、一応教導時は付近の海上封鎖をしてやるって事だからいいけどさ、今はそんな事してないよな? アイツ()が一般人に見られるとマズいんじゃないのか?」

 

 

 現況はまだ深海棲艦の鹵獲やその間に交わされた不可侵条約の締結等は一般には発表されておらず、深海棲艦組の存在はトップシークレット扱いとなっていた。

 

 ただ大坂鎮守府周辺海域は広い範囲を航行禁止という形で制限しており、更に鎮守府に程近い前島の殆ども現在軍の管理区域になっている為に、彼女達が海に出ない限りは一般の者に見られる確率は極めて低い状態で保たれている。

 

 しかしそれでも絶対という保障はどこにも無いので教導時には管轄海域外の管理をしている呉へ予定を入れ、更に近隣を通過するであろう貨物船等の航行を大きく制限する事が義務付けられていた。

 

 

「実は今の時間って呉には教導時に於ける艦隊行動の演習って事で連絡は入れてあった枠なんだよね、でもちょっと最近ほら……周りがきな臭いじゃない? だから大事を取って中止にする筈だったからさ……」

 

「ああ、そんで海に出る予定のヤツらが居ないから狙撃訓練でもしようって事になったのか」

 

「そそそ、一応コレ(XM-109)も1,000m超えの精度があるしさ、風がそこそこある状況で訓練するには丁度いいって事で準備してたんだよねぇ」

 

「で、それを聞きつけたアイツが的に立候補してきたってワケかぁ」

 

 

 ブレていた(空母棲鬼)の姿が一つに重なって見える事を確認した吉野はマガジンを銃へ叩き込み、人型と判るその白い姿をじっと眺めている。

 

 吹く風の強さは凡そ8m/s、大阪湾という海でのそれは荒れていなければ標準と言える程度の物であり、遮蔽物も無い海の上に居るターゲットを狙うならばそれ程難易度は高くないミッションである。

 

 

 それが動く物でなければ、であるが。

 

 

 動標的に対するスナイピング、しかも相手がこちらを認識している場合は精密射撃の技術よりも心理戦が主体の物となる、技術が伴うのは当然の上に、全ての環境と相手の心理を読んだ上で吉野はその行為を成立させねばならない。

 

 相手との間に1,000mの海を挟んでの戦いを前に、白い鬼は不適な笑みを浮かべ、地に伏せる狙撃手はその視線を真正面から受け止める。

 

 

「それじゃ空君、準備はいいだろうか?」

 

「バッチコイよ、今日は"あの時"の借りを絶対に返してやるんだから」

 

 

 薬室に初弾を送り込む、ただ避けるのではなく手にした物でそれを受け止めるという(空母棲鬼)の動きはどういった物になるのか、また久し振りに撃つそれの弾道は自分のイメージ通りの軌跡を描くのか。

 

 それを確かめる為の一発目が銃口から放たれた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……何でこんな結果になるのよぅ」

 

「いやそれ自分に言われてもですね……」

 

 

 用意された4マガジン、20発全てが海へと放たれた後、(空母棲鬼)がしょぼくれた状態で戻ってくる。

 

 結果として命中弾13発、そして(空母棲鬼)の手にある的には1発のペンキがこびり付いていた、本来なら体に受ける命中弾はもっと少ない筈であったが、それを手にした的に受けなければならない関係上(空母棲鬼)は全力回避をする事が出来ず、更に体の的をガードすればもっと結果は違った筈なのだが、それではプライドが許さなかったのだろう、彼女は最後までガードの姿勢を見せる事は無かったのであった。

 

 

「なぁ……それってガードすりゃ良かったんじゃねーか?」

 

「それってテイトクの射撃精度を利用してるだけで私の実力なんかじゃないから、それじゃ意味がないのよ!」

 

「ああうんそれは潔いと言うか何て言うか……てか(空母棲鬼)君さ、何か特訓で極意掴んだって言ってた気がするんですが……」

 

 

 ムスっとした(空母棲鬼)は脇に置いてあったトートバッグをゴソゴソと弄り、中に仕舞ってあったCDと思われる物を吉野に手渡した。

 

 その渡されたCDケースに印刷されたタイトルを見ると、そこには 『だれでも簡単達人シリーズ:蝶の様に舞い蜂の様に刺す』 という胡散臭い文字がデカデカとプリントされていた。

 

 無言でそれを裏返すと、目の部分に雑なモザイク処理がされた某モハメドなちゃんぴおんがファイティングポーズをとっている姿が印刷されており、その横には『一日四時間、寝てる間に聞けば貴方も世界チャンピオン』という今時小学生でも引っ掛からないレベルの怪しい言葉が記載されている。

 

 

 怪訝な表情で中身を取り出す、そして同じく(空母棲鬼)から携帯CDプレイヤーを受け取っていた摩耶にそれを無言でスルーパスする吉野。

 

 何となく嫌な予感がする、むしろそのCDケースに記されている『明石エンターテインメント』の文字を見てそれが普通と思うのは何も知らないパンピーか、若しくは学習能力が無いオポンチ位のものである。

 

 そんな怪しい虹色の円盤を携帯プレイヤーにinしてイヤホンを耳に装着する摩耶。

 

 そして暫く、始めは吉野と同じく怪訝な表情だった彼女は耳から聞こえる何かを聞くと更に何とも言えない表情になり、徐に耳から外したイヤホンを吉野に無言でキラーパスした。

 

 

 吉野もそれを耳に装着すると、そこから聞こえるのはやや甲高くテンション高めな声の米国語。

 

 

 Float like a butterfly,Sting like a bee(蝶のように舞い、蜂のように刺す)

 

 

イヤホンから聞こえるソレは某アリさんの例の名言が延々とリピートされるという、ある意味洗脳されちゃうのではという内容のブツであった。

 

 そんなアレを睡眠時に延々と聞かされるとか普通は精神的にヤバくなってしまうのではなかろうかと前を見れば、何故か『アイムビー アイムビー』と呟き虚ろな目でシャドーを繰り返す(空母棲鬼)の姿。

 

 

 その日、大阪湾では秋空の下、煌めく一枚の円盤が虹色の尾を引いて空高く飛んでいくのを休憩中の妖精さん達が目撃し、暫くUFOが飛来したという話題が飛び交った結果、急遽拠点防衛ロボ・スプーに対空兵装が実装される事になったという。

 

 因みに追加装備された対空武装は12.7cm高角砲+高射装置が二基、その勇姿を眺めご満悦なメロンの横では何故かorz状態で突っ伏した対空番長な重巡の姿があったという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「何でまたメイン武装をロボに装着させたワケ?」

 

「し……仕方ねぇだろ、電にジャンケンで負けちまったんだから……」

 

「一体君と電ちゃんの間にはどんな因縁があるの? てか君いっつもジャンケンで負けてない?」

 

 

 吉野の口から極普通に出た疑問にプイっと横を見る摩耶様、何故かこの番長と電の間には他者が足を踏み込む事が出来ない因縁めいた何かが存在している様である、主にジャンケン的な。

 

 そんな彼女は射撃訓練を終えた吉野が工廠の隅で(XM-109)の整備をしている傍でパイプ椅子に座り、その様子をぼんやりと眺めつつ世間話的な話題を振っていた。

 

 周りには既に仕事を終えたのか黒ツナギの小人がワラワラと集まっており、男が居る作業台付近は何やらカオスな雰囲気となっている。

 

 

「摩耶君さ、自分に何か話があるんじゃないの?」

 

「あー……まぁなぁ、聞きたいって言うか……何て言えばいいのかなぁ」

 

 

 パイプ椅子の背もたれに顎を乗せ、胸の内にある言葉に出来ない何かを持て余し、対空番長と揶揄される艦娘は目の前で作業に勤しむ男から視線を外せないでいた。

 

 アンダマンで経験したあの戦い、姿こそ殆ど見なかったが目の前の男は自分にできない事を平然とやってのけた。

 

 それだけでも異質だと感じるに充分であったが、それをするという事は己の命を天秤に掛け、更には艦隊指揮を手放すという結果が確実な行為と判ってても尚それを実行した。

 

 艦隊指揮を長門に任せていると言ってもそれは現場指揮だけであり、艦隊全ての決定権を艦娘に委譲するというのは、現実問題人と艦娘という関係上在り得ない選択肢であった筈である。

 

 そんな自分の存在意義を否定する行為、信頼があったとしても軍人としては超える事は許されない一線、何故それを越えてまでこの男は全てを艦娘という存在に預ける事が出来るのか。

 

 

「あん時さぁ、提督が支援してくれたお陰であたしは死なずに済んだ訳だろ? それでさぁ……」

 

「君にしては珍しく歯切れの悪い言い方だねぇ」

 

「自分でも何を聞けばいいのか正直整理がついてねーんだけどさ、提督はあの時艦隊の全権を長門に任せるつもりでアレを使った訳じゃん?」

 

「あー、まぁねぇ」

 

「運良く最後は任務が成功したって結果になったけどさ、何であんな賭けみたいな事したのかなって……いや、違うか、全指揮権の委譲をすんのに何の躊躇いも無かったのかなって……んー、何が聞きたいか今一あたしにもちょっと判んねーんだけどさぁ」

 

 

 思いつくまま疑問を並べてみたが、相変わらずそれが今一つしっくり来ない事に眉根を寄せて、小人を頭に乗せた男を見る。

 

 実の処今摩耶が第二特務課に転任をしたのは、あの作戦の後の混乱の中有耶無耶に行われた物だと当時本人は思っていた。

 

 しかし先日カッコカリの意思確認をしてきた大淀と話をした際、その辺りの事情を知っていないかと思った摩耶は、特に気にしてはいなかったその事情を世間話程度で大淀に聞いてみたのである、そして返って来た答えは転任指示を吉野から告げられた時に聞いた軽い理由とは全然違う別の物であった。

 

 

 軍では作戦が終了した際、艦娘が前線で戦う関係上戦闘記録はデータレコーダーに記録され、それを元に報告書が書き起こされる、そしてデータレコーダの中身と共に報告書が中央へ送られ、それらの戦闘記録は改ざん不可の状態で記録されるシステムになっていた。

 

 そしてあの戦いの中摩耶が取った行動は命令違反という物を逸脱し、故意に艦隊を危険に晒した行為として問題視され、更にそれまで前線行きを嘆願する際に起こした数々の問題行動が仇となった結果、摩耶は武装解除の上大本営に呼び戻され待機戦力という末路を辿る筈だったのだという。

 

 現状戦える状態の者は解体命令が出される事は殆ど無いが、その代わり武装を解除され予備に置かれるという事は、通常任務に就く事は許されず、もし再び戦場に出れたとしても、そこは損耗率が高いと判断される作戦へ捨石として投入される運命にある。

 

 そしてその扱いを決定するのは軍の中枢、艦隊本部であり、そこで決定された命令はまず撤回される事は無いと言える。

 

 

「あの時は驚きましたよ、まさか艦隊本部に直接、それも将官が出した異動命令発令後に真っ向から異議申し立てをする佐官が居るっていうのですから」

 

 

 そんなバカに興味を引かれ、大本営で事務方を仕切っていた眼鏡の艦娘が調べた処、その佐官は使えるコネを総動員し、更に難癖を付けたバカを装って様々な裏工作を労した末に一度発令された命令を撤回させてしまったという。

 

 結果として対立派閥に真正面から喧嘩を売り、将官の顔に泥を塗った形の佐官は立場上更迭にはならなかった物の、大本営を追われ飼い殺しとなり、更には主導していた大規模作戦が中止に追い込まれるという結末に至った。

 

 

「そうまでして得たのは跳ねっ返りの重巡ただ一人、バカにも程がありますよね……そしてその人に対する中央での評価は当然の事ながら散々な物になりました、おまけに対立派閥からだけじゃなく上官に逆らった不埒者という事になって周りは敵だらけ、でもね、それを知った艦娘達は思ったそうですよ、その跳ねっ返りが経験してきた戦いを……心情を汲めば艦娘なら誰でもそうなったんじゃないか、そんな戦友を守ってくれたのなら今度は自分達がその人を守る番なんじゃないかって」

 

 

 そう話した眼鏡の表情は、何かに呆れた、それでも普段は見せる事は無い感情を表に出した物であったのを摩耶は見た。

 

 そんなバカが起こしたバカバカしい騒動があったが為に、元祖と呼ばれた艦娘が、大本営を長年支えてきた任務娘が、この大坂鎮守府へと集う結果へと繋がったのである。

 

 

「摩耶君、『運』なんていうあやふやな物はこの世には存在しないよ」

 

「あやふや……ってどういう事だ?」

 

「物事の結末は、必ず何かが積み重なった末に出た結果でしかない、運良く被弾を免れた、運よく死ぬ事はなかった、それは運って物が関わったモンじゃなくて、日々積み重ねてきた努力と、念入りに段取りをした上で引き寄せた結果でしかない」

 

 

 淡々と語る吉野の顔はいつもと変わらず、銃の手入れを手伝った妖精に報酬の金平糖を配りながらも言葉を口にする。

 

 口調は軽く、しかしそれは不思議と反論を許さない雰囲気を纏い、自然とそれはこのバカが信念を元に口から言葉として吐き出されている物だと摩耶にも理解が及ぶ程の気持ちが込められていた。

 

 

「運良く最後は任務が成功したって君は言ったけど、その結果を引き寄せたのはそこに至るまでの数々の事象の積み重ねと、死を掛けて戦った君達がもぎ取ってきた結果だし、それが出来ると思ったから自分は迷う事無く長門君に後の事を任せる事が出来た」

 

「じゃあアレか、提督はハナから長門とかに全権委任すれば勝てるって判ってたからそうしたってのか?」

 

「いやいやいや、流石にそんな先が読める程自分は戦慣(いくさな)れしてないからね」

 

「じゃ何であんな投げっ放しな事したんだよ」

 

「事前にやれる事は全てやった、予想される危機に対しての指示は事前に出した、そしてあの時自分の前にはやるべき事があった、だから全部やる事はやって長門君に後を任せた……その結果が作戦を成功させた、ほら、そんなに難しく考える事じゃないと思うんだけどねぇ」

 

 

 そうしてパイプ椅子の背もたれに顔を乗せて不可解な相をしている番長に顔を向け、ニヤリと笑うバカが言う。

 

 

「そうやって命一杯やった後に勝ちを拾う事を、世間では『運も実力の内』って言うんだよ、摩耶君」

 

 

 悪餓鬼の様な笑いを浮かべる提督にまるで煙に巻かれた気がする摩耶だったが、それでも不思議と嫌な感じはしなかった、そして同時に自分の中にあるもやもやとしていた聞きたい事が、その言葉のお陰で一つ片付いたお陰ではっきりと言葉として心に浮かんでくる。

 

 それはあの戦いで指揮を途中で投げた行為では無く、艦娘に対してそれを託した事では無く、モヤモヤとした気分を心に感じさせていたそれは極単純に個人的な理由から来る物だった。

 

 

「えーっと、それじゃぁさあ……何で提督は上のモンに喧嘩を吹っかけてまであたしをココに引っ張って来たんだ?」

 

「……この艦隊を率いていけば、時雨君の事や朔夜(防空棲姫)君達の件でいつか艦隊本部とは事を構える結果になるのは目に見えていた、そしてあの時自分の前にはやるべき事があった、いつかやり合うのが確実なら、その時でも後からでも結果は変わらない、そう思ったから動いただけなんだけどね」

 

「やるべき事?」

 

「戦場で命を掛けて戦った部下を捨石にする事なんてさぁ、黙って見てる事なんて出来るワケないよね?」

 

 

 そんな事を言う男を前に摩耶は言葉を失った。

 

 どうでも良い人間だと気にもせず、あの戦場で青瓢箪と称した男は今確かに自分の事を部下だと言った、たった一言も言葉を交わす事も無く、命令違反をしたにも関わらず。

 

 そして今言った言葉は、摩耶を第二特務課へ引き込む為にやった行動が、その言葉が嘘ではないという充分過ぎる程の証明になっている。

 

 

「部下?……そんな事考えてたのか」

 

「ん? それに付いて何か不服が? でもざーんねーん、君は今第二特務課所属になっちゃってるから拒否権はありませーん」

 

 

 妖精を頭に乗せたままドヤ顔をする提督を見て摩耶の心に浮かんだ物は、目の前に居る男はバカを通り越した真性のバカなのではないかという思いと、それ以上に"あの時"大淀が最後に言った言葉だった。

 

 

「提督は艦隊本部の者に対して『軍の長たる者が護国に身を捧げた英雄を捨石にするのは恥ではないのか』って啖呵を切ったそうですよ」

 

 

 自分の感情に流され、戦地でわざといざこざを起こしては南を目指し、最後は敵諸共海に沈むつもりで突っ走った自分を、それでも軍の長達の前で英雄と言った者は、間違い無く今目の前で妖精と戯れる男だったのだと摩耶はこの時漸く納得したのである。

 

 

 

 そんな諸々があった日の夜、誰も居なくなった工廠に黒ツナギの妖精さんを訪ねる艦娘が一人。

 

 そのヘソ出しボブカットの重巡は、酒保で買って来た金平糖を手土産に妖精さん達にあるお願いをしたという。

 

 

 大坂鎮守府所属の艦娘の体に刻まれる艦隊旗、それは肉が削げ、潰れても修復した際は肉体と共に蘇る黒ツナギの妖精さん謹製の特別な印であった。

 

 

 そしてまた一人、恐らくこの拠点最後になるであろう艦隊旗を刻む事になった艦娘は、ジャンケンに弱く、運が実力に結びつかない困った者であったが、同艦隊に所属する防空棲姫と共に艦隊の空を守るもう一枚の盾として艦隊員から頼られる存在になっていった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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