ちょっと仕事が立て込んでまして執筆から離れてた為に感を取り戻す的に投稿した話になります。
この後コラボ話はクライマックスへ向かいますが、その前のちょっとした小話的に、大坂鎮守府の日常です。
2018/07/25
誤字脱字修正反映致しました。
ご指摘頂きました黒25様、酔誤郎様、有難う御座います、大変助かりました。
「しかしアレだ、これはまいったね……」
吉野の前にはトランプが二枚、表に出ているカードには9の数字が刻まれ、伏せられたもう一枚はの7数字。
前を向くと黒髪メガネがクイクイとフレームを弄り、その隣では武装事務員がトランプに視線を落としつつ難しい顔をしている。
其々の前にはカードが配られ、賭けのチップの代わりに爪楊枝が置かれた状態、それは俗に言うブラックジャックというカードゲーム。
爪楊枝1本は間宮券一枚とレートは割りと高く、お遊びとしては中々緊張感のあるゲームとなっていた。
場所は提督執務室1418、現在そこでは色々な処理に追われた挙句、出前を取っての遅めの昼食を採った後の休憩時間。
その時間も時間であった為に他の者の業務の妨げにならぬよう、事務方二人と吉野は執務室で休憩がてらカードゲームに興じているのである。
そんなブラックジャック没頭中の現在、親は吉野であり手札は先にも言った通り9と7、合計は16であった為にこのまま次のカードをドローせずに相手の自滅を待ってもいいが、現在ここまでの勝数は二勝四敗、爪楊枝換算では既に間宮券が二枚マイナスであり、大淀が五勝一敗の状況。
更に妙高に至っては三勝三敗の五分とあり、ここで吉野が消極的手段で勝ちを拾おうとしても二人がそれに乗ってくる確率はかなり低い。
吉野としてはやっと回ってきた親である内に勝負を掛けて爪楊枝の数を増やしておきたいところであるが、現在の手札合計は既に16、次に5以上のカードを引いてしまうと自滅である。
そんな微妙なカードの状況にジリジリと悩まされ、脇に置いてあるドクペの缶を手探りで掴んで中身を一口飲み干しどうするかという思考に没入する。
そんなある意味何でもないこの休憩風景の中でした己の行動が、ドミノ倒し的に執務室で起こる惨劇の引き金になるとはこの時吉野は思ってもみなかった。
コトリとテーブルに置かれる缶、その横には電話の子機が充電器に立てられている、そして缶を置いた際誤ってその子機のあるスイッチに掠り、オンフック機能がONになる。
そしてそれは偶然にも鎮守府内の全館放送へと繋がるという悲劇。
「フフフ……流石の提督も親になってしまうといつもより慎重になっちゃうみたいですねぇ、もっと攻めてきてもいいんですよ?」
勝負に勝っている大淀は気分が高揚でもしているのであろうか、そこには普段から感じられる事務的な印象は微塵も無く、更に休憩時間という事もあり多少砕けた雰囲気のまま挑発的な声色で吉野に語り掛ける、ついでその言葉が大音量で拡大される。
『フフフ……流石の提督も親になってしまうといつもより慎重になっちゃうみたいですねぇ、もっと攻めてきてもいいんですよ?』
『う……うん、う~ん……』
突然鎮守府に大音量で流れる大淀のちょっと挑発の色が滲む言葉に続き、吉野の唸る様な溜息が続く。
スピーカーから聞こえるその言葉に色めき立つ一部の艦娘、休憩時間という開放感と悪乗りにより出た黒髪眼鏡の言葉が惨事の幕を開ける事になった。
「おおおおおお……親!? 提督が親ってどういう事です!? 親って提督がパパになったって事ですかぁ!?」
先ずはグラウンドでランニングしていた榛名が言葉の意味をそのまま誤訳して叫びを上げる、そして普通なら首を捻って言葉の意味を考えるだろう周りに居る艦娘もその叫びに釣られ波紋が広がる様に動揺が伝播していく、集団心理が引き起こす悲劇がそこに発生した。
「パパになったから慎重にするって……ナニを慎重にするって言うの!?」
そこに耳年増の合法ロリであるむちむちくちくかんの叢雲が油を注ぐ事により、更に冷静さを欠く者が増えていく結果になるというコンボ。
何故かこの数秒で吉野はパパになり、更にその上で何か大淀との秘め事真っ最中のガンバルマンという認識をされてしまうという状態になってしまう、トランプをしているだけなのに。
『まぁ状況的に提督は私達二人に攻められている形になっていますし仕方ありませんよ、根を詰めてるというのも余り良くないでしょうし少し休憩でも入れましょうか?』
「3P!? 二人イッペンに根を詰めてナニをしちゃってると言うの!?」
妙高の気遣いの言葉に
そんな善意から出た筈の言葉が更なる不幸を呼び込む結果になるとは妙高はこの時思いもしなかっただろう、トランプをしているだけなのに。
「今の大淀さんと妙高さんっぽい!? 皆が一生懸命訓練してるのに執務室で何してるっぽぃぃ……」
そんな榛名のオカシイ勘違いから始まった混乱だが、その中でもカオスに毒されていない艦娘がそこに居た、鎮守府唯一の良心、水雷戦隊旗艦の球磨である。
「……一体どう聞いたら今の会話からそんな妄想を発動するクマ、ちょっとお前ら普段から欲求不満を溜め込み過ぎじゃないかクマ?」
身も蓋も無い正論である、しかしそれ以上にそれは真実の言葉となって周りの者へ突き刺さりこのカオスは終了する筈であった。
しかしそんな正論で周りが冷静になる前にスピーカーから新たな爆弾が投下される。
『いえいえ妙高さん、折角盛り上がって来た処ですし、ここは提督の男気を見せて貰っても良いと思うんですけどぉ』
『アハハ……流石大淀さんですね、私は
『いやちょっと待って君達、今マジでヤバいから……う~ん提督さっきから立て続けに放銃しちゃったんでちょっとほら、ねぇ……』
掛けているのは間宮券とはいえそれは勝負事である、既に負けが込んで後が殆どない吉野に精神的プレッシャーを掛けてくる大淀、流石難解な交渉事をこなしてきた眼鏡である、勝負事には遊びであっても手を抜かない。
そしてそれに対して吉野はタジタジである、トランプ勝負でここまで真剣になるのはいい大人としてはどうなのかと問いたくなる状況であるが、そこはそれ本人達にとってそれはプライドを掛けた真剣勝負なのである。
そしてそんな大人気ない言葉の応酬が勘違いと欲求不満からくる妄想に火を点けて、鎮火が不可能な山火事を発生させてしまうのである。
「立て続けに放銃……二人相手に何回致したというのだ提督は……」
長門の疑問に答えるのなら合計六回、二勝四敗である、ブラックジャックの回数であるが。
「経験が殆ど無いって……それって今まで
「久々にって言ってるじゃない、なら今回が初めてって事じゃ無いって事よ、しかも現在絶賛真っ最中であの眼鏡がおねだり中……何て事なの……」
むちむちくちくかんが驚愕の表情で肩を震わせ、
「いや待つクマ、何でそうなるクマ」
そんな突っ込みを入れる球磨の向こうから定期健診帰りの小さな秘書艦とそれに付き添っていた
「あれ? 皆なにしてるの? 訓練は?」
「……時雨か、いや……今の放送は聞こえていたか?」
「あー、今の放送? 執務室のマイクオンにしたまま気付いてないみたいだけど、まだ誰もそれ知らせてないの?」
キョトンとしている時雨にボショボショと妄想から来る話題を吹き込むむちむちくちくかんとエロ防空棲姫。
そんな妄想の言葉を両耳から聞かされても時雨は苦笑いの相を浮かべるだけで特別な反応を見せなかった。
何故なら彼女は第一秘書艦である、提督の傍に控え、多くの時間を共にしてきた彼女は己の主という存在に絶対の信頼を置いている、例え状況がどうであっても、ムチムチとかダメな姫からの戯言程度ではこの少女の中にある提督への信頼は揺らぐ事は無いのである。
「あっ……ごめん、我慢してたんだけどそろそろヤバそうだからちょっと……申し訳ない」
親というポジションで勝負に挑んでいた為我慢をしていたが、事の外勝負が長引いている為に、尿意が限界に達しつつあった吉野が右手を顔の前にかざして詫び告げつつ席を立つ。
執務室には提督私室が併設されている、そして大抵吉野は用を足す時はこのトイレを使用している為に割りとギリまで我慢しがちになるという癖がこの後更に混沌を深める事になる。
「んもぅ……仕方ないですね」
勝負事には流れという物が存在し、それは何が切欠で流れが変わるのか判らない、それを熟知している大淀は仕方が無いと判っていても中座する吉野に対し少しむくれた表情で拗ねてみせる。
賭け事や勝負に拘る彼女は熱くなった為に言葉の端々に素の反応を含ませる物になったが、そのアレなニュアンス的な言葉と共に吉野が立ち上がる際に発生したソファーがギシギシと軋む音、更に続く
妖精さん謹製の無駄に高性能な通信機器はそんな小さな音すら逃さない、それに続く聞き逃してしまう程微かに吐いた眼鏡の悩まし気な溜息さえも。
それを聞いた小さな秘書艦からは目のハイライトと提督への信頼が消え失せた、もはや手遅れである、色々と。
「くっ……まさかこんな真っ昼間からこんな情事をリアルタイムで聞かされるとは……」
「わーーーー!? 朝潮がーーーー! 朝潮がひっくり返ったまま痙攣してるクマーーーー!」
「
「提督……僕は色々と失望したよ……」
朝潮を介抱する為にメディックを要請する球磨、orzの姿勢で鼻血を垂らす
そんな中心で騒ぎを拡大させたむちむちくちくかんと
更にそこから少し離れた遊歩道では艤装を展開した武蔵殺しと、ポン刀両手に銀髪赤目が殺気を纏わせつつ執務棟へ侵攻を開始する姿が見えた。
それは昼食後に行われた暇つぶしの為のカードゲームを発端に雪だるま式に危険を呼び込み続け、ドミノ倒し的に鎮守府崩壊の危機を招いてしまった結果であった。
その後提督執務室にセットされていた46cm砲にも耐えるという対爆仕様の扉はラムアタックで砕け散り、更にポン刀の滅多切りという問答無用の蹂躙が行われた結果、中断していたブラックジャックの続きは執務室の半壊という形を以って有耶無耶になってしまったという。
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「なぁ……何でアイツらあんなトコで正座なんてしてんだ?」
「ああ、あれは事務員と眼鏡二人の逆鱗に触れた方達が罰を受けている最中らしいです」
「何だそりゃ?」
メロン子の横で首を捻る番長の向こうでは、夕日を背にした突堤に正座で居並ぶ"修復"というバケツを頭に被った虚無僧の如き一団の姿があったという。
これが後に大阪鎮守府名物と言われる"バケツ正座"という風景が生まれた瞬間である。
誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。
また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。
それではどうか宜しくお願い致します。