大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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(※)御注意

 今回も引き続き坂下郁様の作品世界とコラボレートしたお話になります。

坂下郁 様 連載
【逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-】
https://novel.syosetu.org/98338/

今話はあちら『#37.本質』の続きとなります、話の補完をされる場合は先ずそちらから拝読して頂けたらと思います。

 このコラボは内容として互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、別作品との絡みという話では無く、どちらかと言うと今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指した展開にしようという試みで進行する努力を致します。

 また『大本営第二特務課の日常』側ではこのコラボ展開に絡む話は、サブタイトルは『日常という名の非日常の始まり』に統一する予定で御座いますので、それを目安に読んで頂けたらと思います。
 
 以下の内容に興味が無い、又は趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨になります。

尚、今回もまた挿絵用素材を頂きました

『無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~』
https://novel.syosetu.org/83197/
作者様、たんぺい画伯です、有難う御座います!

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。

2018/09/23
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました鷺ノ宮様、柱島低督様、有難う御座います、大変助かりました。



日常という名の非日常の始まり(7)

「それでは大坂鎮守府主催、大本営査察部隊接待大宴会を開催する」

 

 

 長門の音頭で乾杯をする面々が集うのは、大坂鎮守府艦娘寮にある大広間。

 

 上座には重ねられた座布団に座る吉野と南洲が並び、その前には艦娘達がズラっと並んで座る光景。

 

 それはさながら温泉旅館へ団体旅行に来た一団の如くの様相を呈していたが、居並ぶ者の姿、特に艦娘達はそれぞれ色とりどりのメイド服や寝巻きを着用するという、ある意味眼福でありながらも上座の二人にとって目に優しくない世界が展開されていた。

 

 

「なぁ吉野さんよぉ」

 

「何でしょうか」

 

「今長門はおもいくそ"接待"とか言ってなかったか?」

 

「……えぇまぁその、彼女は非常に真っ直ぐな性格をしていると言うか、嘘が付けない性格と申しますか……」

 

 

 今回の宴会は、双方の誤解と第三者の介入からなる揉め事によってこじれた関係性の修復と、長門が言う接待的な意味合いで開催された宴会であり、基本それは大坂鎮守府流の『無礼講』という形を踏襲した物になっていた。

 

 一応吉野&南洲という"主役"を上座に置いての交流会的な形を取っているが、そこはそれ、現在は"大坂鎮守府流"と銘打ってはいるが、何のことは無い以前もあった例の祝勝会の時と同じ宴会が開催されているに過ぎなかった。

 

 

「なぁ吉野さんよぉ……」

 

「何でしょうか」

 

「アンタがグラーフのチチを頭に乗せているのはいいんだけどよ、何で俺の頭にビスマルクのチチが乗ってるんだ?」

 

「さぁ? 何と言うかそれはお国柄なんじゃないかとか思いますが、その辺りはご本人にお聞き頂いた方がいいんじゃないかと思います」

 

「わらしのバストに何か不服があるのAdmiral?」

 

「ビスマルク……お前飲み過ぎじゃねーか?」

 

「フフフ……もっと褒めてもイイノヨ?」

 

 

 上座に座るヤロー二人は過剰に料理が盛られた座敷テーブルを前に、すごく真顔でチチを頭の上に乗せていた。

 

 吉野の頭にはいつものグラーフが、南洲の頭にはビス子のパイパイが、それぞれドイツ製のプルルンが鎮座している。

 

 周りを見ればキワドイ服装の乙女達がキャイキャイとしており、一見温泉旅館でコンパニオンのオネーサンを呼んでヒャッハーみたいな世界と言えなくも無いが、そもそもコンパニオン側と客の比率がおかしい。

 

 

 具体的に言えば客二人に対してコンパニオン二十四である。

 

 

 因みに牢名主の如く重ねられた座布団に座り、チチを頭に乗せた二人の格好は南洲が青い(かみしも)姿、裃と言うのは例の遠山のあの人がお白州でべらんめぇする際着ているアレ、浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)さんが吉良上野介(きらこうずけのすけ)さんに殿中でゴザルをしちゃった時に着ていたアレである。

 

 対して吉野は紅白縞模様の三角帽子、同色のピエロの様な服に丸眼鏡、所謂昔道頓堀で太鼓を叩いていたあの太郎さん人形の如き格好である、但しその顔面は眼帯をしており、丸眼鏡も相まってとても珍妙な絵面(えずら)になっている。

 

 

「なぁ吉野さんよぉ」

 

「何でしょうか」

 

「何で俺は大名みたいな格好させられているんだ? って言うかアンタのそれは何だ?」

 

「大坂鎮守府での宴会に於ける由緒正しい正装らしいです」

 

「……らしい?」

 

 

 この辺りになると既に吉野の受け答えはかなり適当な物になってきている。

 

 何故なら何度もこの様な宴会を経験してきた吉野にとって、そろそろ己に降り掛かるだろう不幸の為に覚悟をしないといけない時間帯である為、それ以外の事に構っていられないというのが本音であった。

 

 

「なぁ吉野さんよぉ」

 

 

 目の前に広がるメイド集団の事に付いて質問を投げようとした南洲の呟きに返事は無い。

 

 なるべくチチポジを崩さず固まっていた南洲は、壊れたロボの如くギギギと隣に座っている筈の吉野を見ようとするが、何故かそこに食い倒れの姿はなく、膝立ちのままのグラーフのチチがプルルンと揺れたままというアレな状況と、その向こう側で榛名に引き摺られていく哀れな男の姿が見える。

 

 

「……おい」

 

「あー、とりあえず提督は一週目に出ちゃったから、その間南洲さんの接待は僕とハルがしようかな」

 

 

 気配すら感じさせずに高速で拉致られて行った大坂鎮守府司令長官を怪訝な表情で見る特務少佐の前には、主の代わりに接待を買って出た小さな秘書艦と、それに並び南洲の相棒である春雨がやってくる。

 

 

「一週目?」

 

 

 時雨の言葉にギギギと正面を向いた南洲の前には、胸がわんこの形に切り抜かれた黒いゴスロリタイプのメイド服に犬耳カチューシャ、黒ニーソに長手袋という格好の白露型くちくかんの二人が立っている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その姿に固まる南洲の前で春雨のしっぽがどういう原理か判らないがフリフリと揺れており、真っ直ぐスタスタと近寄って来たと思えば胡坐をかいているそこにポスンと納まって『はふぅ』とため息を吐く。

 

 

「ちょおまっ、ハル!?」

 

「大坂鎮守府ではこれがデフォと教わりました、はい」

 

 

 裃を着たベ○セルクのガッ○にワンコ春雨がINし、更に酔ったビス子の押し付け度が増したチチを頭に乗せるという、正にゲッター状態である。

 

 そんな南洲ロボ(仮)が誕生した瞬間、吉野はと言えば榛名・長門の戦艦コンビのアーンの猛攻を受け小破、そのまま『世○の車窓から』のテーマに乗って妙高に引き摺られていく最中であった。

 

 

「ハルから聞いたんだけど、南洲さんてお酒大好きなんでしょ? だからコークハイを作ってきたんだ、はいどうぞ」

 

 

 コークハイ

 

 ウイスキー等の蒸留酒を水の変わりに市販されているコーラと称される清涼飲料水で割った飲み物であり、割とポピュラーな飲み物である。

 

 分類的にはハイボールと言われる蒸留酒の炭酸水割りの一種になるが、無味の炭酸水とは違い甘い味わいと口当たりの良さから広く市民権を得た飲み方である。

 

 

 差し出されるグラス、取り敢えず膝上と頭上の物体に戸惑いながらも黙ってそれを受け取る南洲、確かに彼は酒豪と呼べる程酒を嗜み、量だけでは無くそれを好んで飲むという人物であった、更にこの異常事態に掻き乱された心を落ち着かせる為に手渡されたグラスを煽り一気に喉へ流し込む。

 

 

 喉に感じる炭酸の感触、鼻に抜けるフルーティかつ不自然なフレーバーとウイスキーの風味。

 

 車の灰皿から漂うが如き香りと薄い甘みがアルコールとブレンドされて喉から口へ、そして鼻を蹂躙する。

 

 

「グブオッ!?」

 

 

 時雨が差し出したそれは、サントリーのオールドをコーラの横を駆け抜ける冒険活劇飲料サスケで割ったという『サスケハイ』である。

 

 

 むせ返る南洲ロボ(裃)、なまじその風味はアルコールとブレンドしてしまったが為に不自然なフレーバーが倍加され、かつ炭酸がゲップとなって二次被害を生む事になる。

 

 尚何故時雨がコークハイとしてそれを作ったかと言うのは、サスケという清涼飲料がいつも彼女が愛飲する飲料であったというのが第一、そして第二にサスケ本来の製造元がサントリーであった為、つまりウイスキー(サントリーオールド)もそれを割る清涼飲料水(サスケ)もサントリーである為、相性が抜群では無いだろうかという彼女なりの心遣いの結果であった。

 

 そしてその心配りが生んだ結果は別な意味で相性抜群な飲み物として生成され、サスケハイを一気したロボ(裃)は別な意味でハイになってしまう結果になっとしまった。

 

 

 そしてロボ(裃)が毒飲料の洗礼を受けているその時、吉野は妙高達のフルーツパーティの接待を受け中破、更にそのまま戦艦棲姫姉妹に拉致られ部屋の三角コーナーに追い詰められていく処であった。

 

 

「あらあら提督さん大丈夫ですかぁ」

 

「グフッ……お、おい鹿島、待て、今ちょっと……ゴホッ」

 

 

 盛大にむせ返るロボ(裃)を介抱する為査察艦隊所属の鹿島が駆け寄ってくる、なよなよと。

 

 そんな練習巡洋艦は何故か胸元が例のセーターの如くカットされたピンクのナース服に、白いレースのガーターセットという色んな意味でヤる気満々の格好をしており、介抱といいつつしれっとロボ(裃)にペットリとくっついては上腕二頭筋を愛おしそうにナデナデしている。

 

 ロボのパーツが新たに追加された瞬間がそこにあった。

 

 

「提督さんお注射しますぅ? あ、逆に鹿島がお注射おねだりしちゃってもいいですか? ふふふっ」

 

「酒臭っ!? お前どんだけ飲んでんだよ!?」

 

 

 そんな主役メカがパワーアップを果たしている時、吉野はコーナーの隅で色んな意味での死闘を演じていた。

 

 

「ゲッフ……お、おい」

 

「何? あ、お代わり作ってこようか?」

 

 

 差し出された毒飲料に付いて突っ込みを入れようと思ったロボの前では天使の表情をしたくちくかん、幾ら不死身のロボであってもその表情を曇らせるのは本位では無く、さりとて再びサスケハイというブツを飲むのは心が折れてしまう。

 

 

「い、いやそれはいい、と言うかお前の提督はどこ行ったんだ?」

 

「提督? あ、そろそろ一週目から戻ってくる頃かな、ほら」

 

 

 適当な話を振って話題を逸らそうとしたロボ(裃)が見る先では、朔夜(防空棲姫)冬華(レ級)を担いで戦艦棲姫シスターズに向かってシューする処であった。

 

 射出される白い弾丸(冬華)、大和型に匹敵する膂力から放たれたそれ(冬華)は部屋の隅に潜む戦艦棲姫姉妹のド真ん中に着弾し薙ぎ倒す、正に超エキサイティンである。

 

 

 そんな惨事を経て死屍累々な部屋の隅からサルベージされた食い倒れ吉野は、再び世界の○窓からのテーマと共に朔夜(防空棲姫)に引きずられたまま上座へと据えられる、当然状態は大破であるのは言うまでもない。

 

 

「ただいま戻りました」

 

 

 爽やかな笑顔でそう言う吉野、しかし出発した時は極普通の医療用眼帯を装備していた筈であったが、帰還した現在何故かそこには刀の鍔を流用した柳生な十兵衛さんがしていそうなそれが装備されていた。

 

 そしてその向こうではその眼帯とおそろの物を装着した(空母棲鬼)がニヨニヨとしている、これもペアルックというのであろうか。

 

 

「お……おう」

 

「時雨くん、ちょっと悪いけど飲み物くれないかな? 喉渇いちゃって」

 

 

 ヘロヘロな食い倒れ十兵衛に小さな秘書艦は、胸の辺りからスススっとドクペの缶を取り出してそれを手渡す。

 

 いつもは普通にポッケから出す彼女であったが、特別仕様のメイド服にテンションが上がったのか、何かアピールする目的があったのか、どちらにしてもそんな異次元収納から飲み物が出る光景を目の当たりにするロボ(裃)の表情は怪訝なままである。

 

 

 そんなくちくかんの胸ポケットから取り出された、消費者からは風邪シロップ炭酸と呼称されるそれをゴクゴクと飲む食い倒れ十兵衛は、みるみる大破状態から回復していく、まるで高速修復剤を使用する艦娘の様に。

 

 

「なぁ吉野さんよぉ」

 

「何でしょうか」

 

「今その……それどこから出てきたんだ? と言うか今それ飲んでアンタおふぅ!?」

 

 

 ロボ(裃)の謎に対する疑念は左腕に絡むピンクのナースが押し付けてきたパイパイの感触がアレだったのか、最後まで言葉にならなかった。

 

 そんな様を見る吉野は今ターゲットになっている人間が自分だけでは無いのだと少し感動して生暖かい目で隣の南洲、春雨、ビス子、鹿島の四体合体した勇者王なロボ(裃)を見ていたが、そこに更なるパワーアップに繋がる存在が現れる。

 

 

 漆黒の皮で出来たピッチリしたメイド服、足元はハイカットのピンヒールブーツ、そして網タイツストッキングに何故か鞭装備。

 

 ボンテージメイド服を着込んだ羽黒がプルプルと震えつつそこに立っている。

 

 

 何故ボンテージなのか、どうして女王様がメイドなのか謎であるが妙高型四番艦であるボンテージメイド重巡はおどおどしつつ鞭をピシャーンと床に叩き付けてこちらを見ていた。

 

 よく見るとその後ろには朔夜(防空棲姫)が控え、ボショボショと何やら小声でボンテージへ呟く姿が見える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「は……羽黒?」

 

「さ……さぁ苛めて欲しいブタはどこにいるんだい」

 

「ファッ!?」

 

 

 再びピシャーンと床を叩きプルプル震えるボンテージ、そして再び黒子の様にソソソっと朔夜(防空棲姫)が後ろに近寄り、ボソボソと何かを告げている。

 

 

「な、何だいその目は、コレが欲しいのかい、フフフ……えっと、この欲しがり屋のブタが」

 

「お……おまっ、何を言ってるんだ?」

 

 

 ロボ(裃)の言葉にビクッと肩を震わせたボンテージはおろおろしつつピシャンピシャンと鞭で床を叩く、するとまたしても朔夜(防空棲姫)が寄ってくる。

 

 もしかして鞭で床を叩くのはヘルプのサインなのではなかろうかと吉野は怪訝な表情でそれを見ていた。

 

 

「ほぉらもっといい声で鳴きな、……んっと、ブヒーと言えばご褒美をあげるよぉ」

 

 

 頭にビス子のパイパイを乗せたまま南洲は吉野の方を向き何かい言いたそうにしているが、その視線を受けた吉野はプイッと横を向いて関わらない事にした。

 

 恐らくそれは愛情表現から来る何かしらのアッピールなのではという予想は付くが、流石の吉野であっても女王様の心境は判らない、むしろ関わると危険だという警鐘がさっきから頭の中で鳴り響いていた、君子危うきに近寄らずである。

 

 

「なぁ吉野さんよぉ」

 

「無理デス」

 

「いやそうじゃなくてよぉ」

 

 

 判り易く現在の状況を説明すると、大坂鎮守府の査察に訪れた特務少佐は現在裃を着込んだ侍状態で、頭に酔ったビス子のチチを乗せ、胡坐の内側にはゴスロリわんこメイドの春雨がINし、左腕にはピンクのナースが絡み付き、更にそこへボンテージメイドが右腕に絡みついてきたのを横で食い倒れの格好をした鎮守府司令長官が見ている状況である。

 

 結論としては、勇者王的なアレから五体合体コンバ○ラーへ進化を果たしていた。

 

 そんな状態で動けず真顔のロボ(裃)が見る先では、またしても(空母棲鬼)に引き摺られ今夜二週目の旅へと出る食い倒れの姿、神は死んだ、特務少佐はその時思った。

 

 

「なぁ、ちょっちええかな?」

 

「ん? ああ龍驤……か?」

 

 

 そんなコ○バトラーの前には査察艦隊最後の艦娘、軽空母龍驤が立っている。

 

 体育館で履く様な上履き、ボンボンが付いた白いソックス、そして着ている物は朝潮型駆逐艦が着る白いブラウスにサスペンダー型スカート。

 

 一体彼女に何があったかは判らないが、ほんの数時間の間に園児龍驤は小学○へと成長を遂げていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あ、これ? いや~さっきほら間宮でゴタゴタあったやん? そん時飲みモンひっ被ってもーてなぁ、着替え用意してもろたんやけど、なんやすぐ用意出来る替えがのーてな、ほら、ここに朝潮って子おったやん? あの子が気ぃつこて改二になる前に着てた制服持って来てよかったらどうぞって、ハハハ……」

 

「お……おぅ」

 

「いやホンマやったらこう、明石に頼んでもっとこう……ビシッとした服とか頼もうか思てたんやけど、折角の好意を袖にするんもナンやと思てな、ちゃうんやで? もっと小洒落たヤツもあってんマジで」

 

「そ、そうか……」

 

「せやねん……」

 

 

 特務少佐は目の前の朝潮型軽空母が言う言葉に熱くなった目頭を押さえつつ、黙って相槌を打っていたという。

 

 結果、南洲と同じく朝潮型軽空母を生暖かく見つめていた春雨が膝の片方に移動し、空いたそこに小○生なまな板が座った結果、コンバト○ーが更に進化して六神合体ゴット○ーズが完成したという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで吉野さんよ」

 

「何でしょうか」

 

「アンタんとこはいつもこんな感じなのか?」

 

「えぇまぁ大体は」

 

 

 宴が終わった大広間、殆どの者は潰れてしまい部屋へ運ばれるかその場で雑魚寝という状態の中、二人の男が並んでその様を見ていた。

 

 格好は相変わらず裃とチンドン屋風味であったがしかし、言葉も少な気なその様は互いの普段見せない内面を滲ませた異質を醸し出す空間となっている。

 

 

 片方は寄るのが戸惑う程に尖った空気を、その隣では何を考えているのか読めない胡散臭い雰囲気を。

 

 並んでいて尚真逆の空気がそこにあった。

 

 

 立ち位置で言えばこれも真逆、本来交じり合う事のない線が交差するという事態が展開された結果、この二人が並ぶという結果に至っている。

 

 

 南洲はウイスキーが入ったグラスを傾け、その横では吉野が煙草を(くゆ)らせる、そこには意味のある言葉は殆ど存在しない。

 

 

「煙草、やるんだなアンタ、もっと優等生な外面を演じてると思ってたぜ」

 

「暫くやってなかったんですけどねぇ、何と言うか、色々と……まぁ素を出す事にしまして」

 

「そうかい」

 

「ええ」

 

 

 恐らく今回交わった互いの線はこの先再び交わる事は無いだろう、何故なら南洲が属している派閥と吉野が居た派閥は敵対関係にある。

 

 そしてタイプは違えど互いの根っこにある部分は軍に在りながらも異質、今回に限っては叩くべき対象が共通していた事もありこうして並んではいるが、そうでなければ互いに相食(あいは)む関係である。

 

 

 前夜から始まった小競り合いは鎮守府に移動した時点で更にこじれ、そこに別口からの思惑が絡み混沌を深める。

 

 この時点で吉野は一旦その対処に動くが、結果として己が感知していなかった方面からの侵入者をこの特務少佐率いる艦隊がフォローに入った形で一旦事無きを得るが、未だそれは終息しておらず。

 

 

「昼に少し節介をしちまったが、後の始末はアンタんとこでどうとでもなるだろ?」

 

「ええ、有難う御座いました、この借りはまた何れ」

 

 

 それだけの会話で全てが終わる、軍事拠点に対して外部からの襲撃があったとしても"その程度"、それは相手が人だからか、それともこの二人の感覚が常人とは違い壊れているのか。

 

 

 

 結局この夜、人ならざるモノ二人が交わした言葉はこれだけだった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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