大本営第二特務課の日常   作:zero-45

93 / 329
(※)御注意

 今回も引き続き坂下郁様の作品世界とコラボレートしたお話になります。

坂下郁 様 連載
【逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-】
https://novel.syosetu.org/98338/

 このコラボは内容として互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、別作品との絡みという話では無く、どちらかと言うと今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指した展開にしようという試みで進行する努力を致します。

 また『大本営第二特務課の日常』側ではこのコラボ展開に絡む話は、サブタイトルは『日常という名の非日常の始まり』に統一する予定で御座いますので、それを目安に読んで頂けたらと思います。
 
 以下の内容に興味が無い、又は趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨になります。

 尚今回でこのコラボレートの話は終わりとなりますが、途中で体調を崩し一時中断したにも関わらず、最後まで色々と対応して頂いた坂下様と、読んで頂いた皆様には感謝の念が絶えません、本当に有難う御座いました。

 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2018/09/23
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、柱島低督様、有難う御座います、大変助かりました


日常という名の非日常の始まり(了)

「ちょっと寒いけど、雲も殆ど無くていい感じに空が開けているね」

 

 

 毛布に身を包んだ時雨が白い息を口から漏らしつつ、体を後ろに預け目の前に広がる星明りと、鎮守府前島周辺に見える光の粒が織り成すコントラストを楽しんでいる。

 

 場所は大坂鎮守府執務棟屋上、そこの端からはメンテ用の扉が二箇所設置されており、そこを潜れば屋根上に上がれる仕組みになっている。

 

 

 そんな屋根上では時雨が毛布に包まって吉野の懐に、そして吉野もまた毛布を被って夜景を楽しんでいる。

 

 

「や~っと事後処理が終わったから今日からゆっくり出来るよ、時雨君も色々付き合って疲れただろ?」

 

 

 査察部隊MIGO、その一団が大坂鎮守府へ来訪し、数々の諸問題が発生して既に五日、当該部隊は査察らしい査察は行ってはいない状態に見えたが、それでもこの大坂鎮守府の実情は見えるだろうといった数々の出来事を経て、現在はその辺りの監査結果の知らせを待っている状態というのが表の現在。

 

 裏はその査察結果の状況を軽く探りながら、大陸系組織からの干渉と見られる襲撃の事後処理と折衝が漸く片付きつつあるといった状況である。

 

 

「僕は何もしてないよ、お茶を入れたり書類とか運んだり、その程度しかしてないもん」

 

「それでも自分が執務してる間ずっと横に居たでしょ? ここ二日程殆ど寝て無いんじゃない?」

 

「提督はほんとに……放っとくとご飯も食べないし、寝ないし、いつか倒れても知らないからね」

 

 

 己の懐で頬を膨らませて憮然としいているだろう小さな秘書艦に謝罪の意を込めて頭を撫でくり回すと、溜息とも吐息とも付かない息遣いと白い物が目の前に漂う。

 

 かの査察部隊が引いたあの日は特に実務と執務に追われ、槇原南洲率いる部隊の見送りすらままならない状況であった。

 

 

「でも良かったの? 今回の件、陸軍に全部引き継いでも」

 

「あ~ アレね、今回の件は深海棲艦絡みじゃないし、先の事を考えたら海より陸に押し付けた方がいいよ」

 

「大陸系の組織、だったっけ?」

 

「そそ、元々ウチの師匠から連絡は来てたからね、今回諸々の引渡しをしたのはそれ(情報提供)のお返しと、今後の働きに期待してって感じで」

 

「情報を生き残りから引き出したのはいいんだけどその身柄も全部陸軍にってなると、大本営から睨まれたりしないかな?」

 

「睨まれてるのは今に始まった事じゃないさ、それに相手が組織立ってこれだけ派手に動き回ってたら大本営も情報はある程度掴んでいた筈、でも一切こちらにその情報は流れて来なかったし注意勧告も無かった、そんな知らん振りしてる状態でウチを放置してる相手に情報を上げる義理は無いね」

 

「もう……」

 

 

 時雨は再び頬を膨らませ、ペシペシと軽く吉野の足へチョップを入れる、それほど時間は経っていない筈であったが随分と久し振りなやり取りがそこにあった。

 

 

 現況のおさらいをしておくと、大坂鎮守府に対し行われた査察自体はそれを指揮していた特務少佐・槇原南洲の立ち振る舞いを見た限りでは問題は無いだろうと吉野は踏んでいる、もしその件に関して何か問題が発生する可能性があるとしたら、彼では無くその後ろにある一派、艦隊本部周辺から(もたら)される事が予想されるので、その周辺を監視する事に拠って警戒するとして保留状態。

 

 そして鎮守府へ襲撃を掛けてきた組織に対しては生き残りの一人を尋問し情報を抜き、更にその身柄を陸軍へ引き渡して事後を任せつつも陸軍と情報交換しつつ関係組織の動向を伺うという事でこちらも様子見の色が濃い。

 

 結果として元々敵対している各所が表に出てきた事で関係性がはっきりと見える形になったという事と、その為にこれまでとは違い実際に手を出してくる土壌が出来上がってしまった訳であるが、ヘタに水面下で面倒な動きをされる位ならまだ目に見える形でアクションを取られる方がまだましだと吉野は思っている。

 

 

「まぁ今回は査察なんて難癖付けられたけど、結果的には収穫が大きかったね」

 

「僕も色々と勉強になったよ、友達も出来たし」

 

「友達……ってーと春雨君とか?」

 

「うん、後は秋月とかも」

 

「どっちも駆逐艦かぁ、そう言えばその秋月君ってば終始目立たない様に立ち回ってたみたいだけど」

 

「だね、何のかんのってあの子が一番周りを良く見てたんじゃないかな、防空に強い子だけあって一歩引いた所から全体を見る様な感じで動いてたし」

 

「艦娘並みの戦闘力を持つ特務少佐に、その盾となる駆逐艦、周りは矛になる存在も居てそこに秋月君みたいな動きが出来る人材が居るとなると……最小単位での艦隊としてはある意味全てが単体で完結している部隊……とも言えるね」

 

「僕としては敵として相手にはしたくない感じかな、多分ウチと同じで軍令よりも南洲さんを行動の指針にしてる感じだから」

 

「一連托生……か」

 

 

 時雨の言う『ウチと同じ』という言葉に少し眉根を寄せつつも、似た様な有体だからこの先関わればかの部隊とは互いに磁石の様に反発はするだろうと予想する。

 

 そんな訪問者に思いを馳せつつ、吉野と小さな秘書艦は其々愛飲している飲み物を啜りつつ、ここ最近忙しくて碌に出来なかった交流を深めていくのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「それで、明日には岩川基地から二人ここに着任するんだよね?」

 

「そそ、龍驤君と鳳翔君だね」

 

「空母系かぁ、どんな人なんだろ?」

 

「さぁ? でも向こうでは重要なポジションに就いていた感じだし、20年以上国内の要所で活躍していた艦娘さんだから、能力的に優秀なのは間違い無いだろうねぇ」

 

 

 査察や襲撃に絡む一連の騒動は取り敢えずの終息を向かえた訳だが、実の所吉野にはまだ次に処理しなければいけない案件が幾つか残っていた。

 

 一つは岩川基地の司令長官である染谷文吾(そめや ぶんご)少将が勇退した為に発生した人事で、同基地に所属する艦娘を大坂鎮守府へ迎え入れる事。

 

 これは派閥的事情が絡み、半ば保護的意味合いも含むので異動してきた艦娘のメンタリティや扱いの心配より、周りから来ると予想される圧力や揉め事を警戒する事が必要と予想される。

 

 

 次に、大本営から呼び出しを受けている件。

 

 これは正直そこで話をせねばどういう状況になるか判らないが、現況掴んでいる情報と、呼び出しに関して元老院の使者がその場に同席するという事を考えると、この先大坂鎮守府の有体や行動が大きく変化するという事態が予想される。

 

 恐らくそこで話し合われるであろう件が上手く纏まれば吉野の望む環境へ大きく近づく事になるだろうが、もしそれが上手くいかなかった場合、最悪は己の死、若しくは鎮守府丸ごと国外へ脱出という事も予想される。

 

 

 更に副次的ではあるが、岩川基地の後任人事に始まった派閥の変動に元老院側のアプローチが重なり、現在は国内拠点での戦力配置の変動や運用が大きく動いている状況にある。

 

 そこから端を発した皺寄せは大坂鎮守府にも余波を及ぼすと予想される、ある意味有益な、同時に厄介事の種として。

 

 

「ついでに言うと着任は岩川から二名は確定だけど、他からももしかしたら艦娘さんがウチに着任するかも知んないんだよねぇ」

 

「え? 岩川以外からも?」

 

「そそ、こっちはまだ調整中だけど国外からの要請も絡んでてややこしくなってるみたい、まぁほぼ決定みたいなもんだからその辺りは近々皆に詳細は話せるとは思うよ」

 

「……何だかウチって居場所の無くなった艦娘の受け皿みたいになってない? まぁそれの第一号みたいな僕が言う事じゃ無いと思うんだけどね」

 

 

 それほど時間は経過していないが、時雨は己が第二特務課へ着任した時の事を思い出し複雑な表情を滲ませていた。

 

 第二特務課に居る艦娘は、着任が古い者程事情が複雑で立ち位置も特殊な者、言い換えてしまえばどこにも行き場所が無く、寄せ集め的に編成されたと言っても良い部隊であった。

 

 確たる目的も存在せず、大本営の片隅で細々とやるにはやや異質な部隊、それが第二特務課という存在であったが、そこに深海棲艦が加わり無理やり形を整えた現況、今度は厄介事があれば取り敢えず第二特務課に振れば良いという形が大本営の中では出来上がりつつあった。

 

 

 面倒この上ない今なのは確かだが、それでも時雨はそれを楽しんでいる、戦いも在り、仲間も多く、そして毎日が変化に富んでやり甲斐があった。

 

 そして何より、司令長官である吉野が自分達に歩み寄りを見せ、また自分が一番その傍に居る事が出来る、それは一度全てを諦めた彼女にとって生き甲斐を得た喜びに他ならなかった。

 

 

「まぁウチは自他共に認める番外地だし、来る者を拒む程選り好みが出来る立場じゃない」

 

「そんな事を言ってたら大本営の大物とか着任しちゃって苦労が増えちゃったと」

 

「……ああうん、そこは何と言うかまぁ、余り深く考えない事にして……と言いたいとこなんだけど、今進行している人事もちょっとそれに近い事になっちゃってて……」

 

「……え?」

 

「えっと事情は後から話すけど、ほら、横須賀って艦隊総旗艦はずっと金剛さんが張ってたじゃない?」

 

「うん」

 

「でさぁ、ちょっとした事情があって彼女、その任から降りるみたいな感じで……」

 

「……それってまさか」

 

「後はこの前の大規模作戦の時、その海域で新しい潜水艦娘と邂逅したって話知ってる?」

 

「う、うん、確か伊号型の……名前忘れちゃったけど」

 

「伊号26潜水艦って言うんだけどさ、まぁその関係で大本営の潜水艦隊でも人事の整理が行われたみたいなんだけど、あのその……デチ公がその時色々ゴネたみたいで」

 

「ゴネ……ああ、確か彼女も提督とカッコカリしたんだっけ? え、……まさか」

 

 

 肩を落として時雨の頭に己の顎を乗せて溜息を吐く吉野と、怪訝な表情のままその懐に納まる小さな秘書艦は、暫く無言のまま互いの体温を感じつつ夜景を眺めていた。

 

 空に散りばめられた瞬きと、地上の瞬きが混在するそこは、ささやかではあったが平和と平穏が生み出した人の営みを感じる風景。

 

 見ようによってはそんなロマンチックな絵面(えずら)も吉野が漏らした人事の話題で微妙な感じになっている。

 

 

「それで、結局岩川以外から着任してくる人って誰と誰なの?」

 

「……横須賀鎮守府からは金剛さん、大本営からはデチ公……かな?」

 

「……うわぁ」

 

 

 横須賀鎮守府と言えば大本営に併設される、謂わば国内本拠の防衛の要であり、そこの艦隊総旗艦と言えば実質大本営含む国内最重要拠点の"守りの顔"という存在。

 

 更に大本営潜水艦隊と言えば何か作戦が発動されれば国内外問わず、真っ先に情報収集の為戦場へと投入される尖兵である、その頭を長年張っていた艦隊の旗艦が伊58であった。

 

 

「ねぇ提督」

 

「……何かな?」

 

「ウチって行き場の無くなった艦娘の受け皿っていうのは確かだけど」

 

「うん」

 

「それでウチに来る艦娘がどうして超大物とか、中央で要職に就いてた人ばかりなの?」

 

「……そんなの提督が聞きたいです」

 

 

 国内の兵站を集積し、前線へ振り分ける最重要拠点を支えてきた艦娘二人と、中央の守りの顔である艦娘、更に大本営お抱えの潜水艦隊旗艦までもが大坂鎮守府へ着任するという非常事態が展開されようとしていた。

 

 主に吉野的にのみ緊急事態であるが。

 

 そんな頭の上で繰り返し溜息を吐く主に、小さな秘書艦は苦笑いをしつつも新しい出会いと、そこにあるであろう数々の未来に思いを馳せ期待に胸を膨らませていた。

 

 

「ああそう言えば時雨君」

 

「……何?」

 

「はいこれ」

 

 

 そんな小さな秘書艦の目の前に、吉野が差し出したキーホルダーが付いた鍵がプラプラ揺れている。

 

 頭越しにそうされている為吉野の表情は伺えないが、声色からは特に変わった様子は感じられない、そして目の前に揺れる鍵は彼女にも見覚えのある形状の物。

 

 

「鍵……これって、武器ロッカーの?」

 

「そそ、自分の武器ロッカーのヤツね、これはマスターキーも兼ねてるから予備は無い、だからこれを君に預けておく」

 

「提督のロッカーの鍵……何で僕?」

 

 

 吉野が使用する全武装が入ったロッカーの鍵、この世で唯一それを開く事が出来る鍵。

 

 やろうと思えば予備を作る事も可能だが、武器ロッカーはその性質上妖精さんの技術が投入された物であり、予備キーを作成するならば吉野個人でも工廠を通して作らねばならない物でもあった、そして運用上その鍵の複製は認められておらず、各々のロッカーキーは拠点の司令長官が管理するのが普通である。

 

 そんな鍵を預ける行為、そして意味。

 

 

「今後自分は基本全ての戦闘行為は君たちに任せる事にする、例えそれが如何なる存在に対してであってもだ、そして自分がその場へ出る時、武器が必要になった時、その時は君達に対してちゃんと断りを入れて、納得して貰ってから使える様に」

 

 

 ポトリと時雨の手に落ちる銀色の鍵は、星明りを微かに反射するちっぽけな物であった。

 

 

「……もう、君達を置いて往こうなんてするつもりは、無いよ」

 

 

 しかしそれは彼女にとって何よりも変え難い信用と、それと同時に吉野三郎が自分達に歩み寄り、共に生きていくという事を形にした証であった。

 

 

「……うん、判った、じゃコレは僕が管理するよ……それと、提督」

 

「うん?」

 

 

 その鍵を握り締め、胸に添えた手、その指には握る鍵と同じく微かに光を反射する指輪が嵌められている。

 

 改めて全体重を後ろに預け、少女は今までの事を思い出し、微かに笑うと共に一筋の涙を(こぼ)す。

 

 今まで長い長い時間の様に思える僅かな日々が、生きる事に意味を見出した今が、そしてこれから続くだろう厄介事が続く日々と、共にそれを過ごすであろう時間。

 

 

「ありがとう」

 

 

 彼女が言う一言には、全ての想いが詰まっていた。

 

 

 

 こうして数々の思惑と企みが絡んだ大坂鎮守府での査察騒動。

 

 それは第三の介入と共に一時鎮守府を混乱に陥れる事態へと発展していった。

 

 しかしそれを情報の面で制する事に終始した為吉野は図らずも片手落ちの行動をする結果になり、それを本来敵対してもおかしくは無い査察側の部隊が救った事になる。

 

 

 更にそれに端を発し、今まで見えてなかった第二特務課の歪な関係は改善されるに至り、結果としてこの査察自体吉野達の有体を大きく変えていく転機となった。

 

 

 そしてこの後時勢の変化と共に大坂鎮守府は更なる立ち位置の複雑化と混迷を深め、吉野の頭髪は禿げ散らかしていく事になるのである。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。