あたしと比企谷の友達Diary   作:ぶーちゃん☆

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メリークリスマス(*> U <*)


活動報告でクリスマスになにかしら投稿しますと宣言しましたが、それがまさかのコレでした!

コレが来るとか誰一人として思ってなかったでしょうけれど、もしも予想が当たったという読者さまには八万ポイントプレゼント☆





恋人Diary
恋人日記特別ページ 恋人たちのメリークリスマス


 

 

 聖なる夜の街に煌めくキラッキラなイルミネーション。そして、そんなイルミネーション達をさらに輝かせてくれるノリノリなクリスマスソングと、どこからともなくしゃんしゃんと聞こえてくる鈴の音。

 うん、やっぱこう、雰囲気ってのは視覚だけじゃなくて、聴覚とか嗅覚触覚、五感を総動員して目一杯楽しむもんよね。味覚は帰ってからのお楽しみだけど。

 

 視覚はもちろん今まさに視界いっぱいに広がってる綺麗なイルミネーション。聴覚は街のあちこちで流れまくってるクリスマスソングと鈴の音。んで嗅覚は、さっき買ったばっかのパーティーバーレルから漂ってくる殺人的な香りである。

 ちなみにこの嗅覚を楽しませてくれているアイテムは、あと数時間後には味覚を楽しませてくれる最高のアイテムに変わってくれるという、とびっきりの優れ物だ。

 

 

 ……そして触覚。

 ひひー、そりゃもちろん、今あたしの右手に握られてるこいつの左手にきまってんじゃん。

 

 

 

 あたし折本かおりは本日、人生で初めてとなる彼氏とのクリスマスナイトってやつを目一杯満喫中!

 

 

× × ×

 

 

 修学旅行から帰ってきたあの日。あたしと比企谷は結ばれた。結ばれたとか言っちゃうとちょっとむず痒いけど。

 

 駅まで迎えにきてくれてた比企谷のチャリの荷台に乗りながら、一日ぶりの再会を果たしてからずっとそわそわしてた比企谷の背中に向かって、思い切って聞いてみた。

 

『で? で? 昨日の答えはー?』

 

 そしたらヤバイくらいチャリがふらつきはじめて、これどっかの壁にでも激突しちゃうんじゃない? とか心配してたら、こいつは言ったのだ。

 

『……ま、まぁ、その……なんだ。……よ、よろちく』

 

 もうね。あたしに初めて彼氏が出来た記念すべき瞬間を返せと思ったね。なによよろちくって。

 もうおっかしくておかしくて、もし比企谷の答えがYESだったら感動して涙を流しちゃう準備とか心構えとか済ませといたってのに、あんとき出てきた涙は笑い死に寸前の涙だっての。

 ホントウケ過ぎて死ぬかと思って、家に着くまでずっと比企谷の背中ばしばし叩いて涙ぼろぼろ流してたっけなー。

 やばい、思い出しただけでニヤけてきた。

 

 

 そんなこんなでついにこいつとカレカノな関係になれたわけだけど、なる前となった後ってこんなに変わらないもんなの!? ってくらい、二人の関係は一向に進んでない。

 ホントこいつ照れ屋すぎ。ちょっといい雰囲気になると、すーぐ赤面してそっぽ向いちゃうんだもん。

 ま、ヘタレな比企谷だししゃーないか。ヘタレキングな比企谷は、そういうトコもまた可愛いんだよねー。

 

 ぶっちゃけ、比企谷との恋人ライフには初めからそういう甘い生活の期待はしてなかったし、予想の範疇といえば予想の範疇だったりする。でもせめてキスくらいしてくればいいのに、このヘタレめ。

 付き合って二ヶ月近く経つのにキスもしてないとか、普通のカップルとしたらどうなの? って感じ。カップルになったの初めてだから知んないけど。

 

 

「……なぁ、パーティーは明日でも良かったんじゃねーの?」

 

「はぁ? マジ信じらんないんだけど! せっかくの初めてのクリスマスだってのに、なにウケること言ってんの?」

 

「全然ウケてねぇだろ……」

 

 

 と、こっちは内心そんなこと考えてやきもきしてるってのに、当の本人はこれだもん。

 恨みがましくギロリとひと睨みしてやると、師走を全力で走り抜けたサラリーマンくらい疲れ切った顔を晒してるあたしの彼氏が、めっちゃキモくびくっと震えた。

 ホントこいつってばムードもへったくれもないよね。初めてのクリスマス、しかもこれからウチに彼氏をご招待できるのをワクワクしてる可愛い彼女に、普通そういうこと言う?

 

 ま、とはいうものの、比企谷がこう言うのも少しは分からないではない。だってついさっきまで総武高校最寄り駅前のコミュセンでクリスマスイベントやってた帰り道だからね、これ。

 そしてそのイベントというのがホント大変だった。主にうちらの生徒会のせいで。

 

 我らが海浜総合高校と比企谷の総武高校、二つの学校の合同にて行われたクリスマスイベント。

 うちの生徒会って総武に妙な対抗意識持ってるから、向こうの生徒会に対してどうしてもイニシアチブが取りたかったみたいで、ホントぐっだぐだな会議を繰り返す羽目となった。

 

 あたしは友達の誘いで手伝いに行っただけなんだけど、はっきりいって会長の玉縄達がなに言ってんのかさっぱり分かんなくて、それある! くらいしか言えなかったというね。まぁあたしのそれあるで連中をノリノリにしちゃったトコもあるから、ちょっと反省してるけど。

 

 それにしても、まさか向こうの生徒会長があの相模さんとは予想外すぎてウケた。もうめっちゃ笑ってたら、相模さんにマジギレされた。ウケる。

 てかなんか相模さんがあたしに異様に敵意向けてきてたんだけど、なんで?

 さらにそれに加えて副会長は一年生の女子というね。そりゃ会長達の猛攻(猛口?)についてけるわけがない。

 

 おかげで会議は超紛糾。いや、会議が始まってからの一週間は一歩たりとも前に進まなかったから、紛糾とか言ったら紛糾さんに失礼ってレベル。

 でもそんなぐだぐだのおかげで、ギリギリのラインで相模さんが歯ぎしりしながら比企谷達に助っ人を頼みにいってくれたから、結果的にイベントを超楽しめたわけだし、ま、プラマイで言えばめちゃプラスかな。今なら会長達に感謝しちゃってるまである。

 てかそもそもあたしが総武との合同イベントの手伝いに行くってのは事前に報告しといたんだから、相模さんに泣き付かれる前に自分から参加するべきだかんね、彼氏さん?

 

 で、比企谷が……ていうか比企谷達か。雪乃ちゃんが来てから会長が死んじゃうまでがほんの一瞬で、そこからは超スムーズに事が運んだんだよね。やばい会長死んじゃった、ウケる!

 ただそこまでがあまりにも計画が押しまくっちゃってたから、そこからの巻き返しが本っ当に大変で、今日のクリスマスイブ当日までは毎日がめっちゃ修羅場だったぁ……。比企谷と一緒にイベント進めるの楽しかったからいいけどねー。あたし達がイチャイチャしてる時の雪乃ちゃん結衣ちゃん相模さんの目が恐くてびくびくしてたけど。比企谷が。

 

 

 てなわけで、ようやく大変だった合同イベントが無事終了したばっかの今日に、二人でクリスマスをお祝いするというのはなかなかに無理があるのだ。元気くらいしか取り柄のないあたしでさえヘトヘトなんだもん。働きたくないと豪語する比企谷が早く家に帰りたくないわけがない。

 

 でもざーんねん。今日は帰さないよー♪

 

 

× × ×

 

 

「あ、比企谷ー! ケーキ売ってるよケーキ! あそこで買ってかない?」

 

「いやお前さっきまで雪ノ下が作ったケーキばくばく食ってたじゃねぇか……」

 

「いやいや、女の子にとってケーキは別腹だから」

 

「……それ別腹になってないんだけど」

 

 我が家までの帰り道。商店街の一角でクリスマスケーキを路面販売している店があった。

 この寒いのに一日中寒空の下でケーキ売るとか軽く死ねるよね。もし比企谷がコレのバイトなんてしたら、速攻でバックレそうってくらいにキツそう。

 よし、これは売り上げに貢献してあげなければ! 別にあたしが食い意地張ってるってわけではないのだ。そこんとこ分かる? 比企谷ー。

 

 てか危うく流しそうになっちゃったけど、愛する恋人に向かってケーキばくばく食ってたとかかなり失礼じゃない? ホントウチの彼氏はデリカシーなさすぎでウケる。仕方ないじゃんねぇ、雪乃ちゃんのケーキめちゃめちゃ美味しかったんだもん。

 

 とりあえず、寒空の下ミニスカサンタのコスプレをしてるお姉さんを少しでも早くお家に帰してあげる為に、ホールケーキを一個ご購入。ホントは二個買ってあげたいんだけど、あたしと彼氏の二人で食べる分だけだからごめんね?

 お姉さんも今日は早く帰って、彼氏と幸せなクリスマスを過ごすんだよー! 大好きな彼と過ごすクリスマスとか、めっちゃ幸せだからさっ! あれ? あたしなんか幸せオーラ振りまきすぎててウザい?

 

「よっし! ケーキも買えたし、早くウチ行こ」

 

「へいへい……」

 

 本当なら、初めてのクリスマスだし、こうやってケンタ買ったりケーキ買ったりじゃなくて、あたしだって雪ノ下さんみたいに美味しい手作りケーキとかを比企谷に振る舞いたかったって気持ちもあんのよね。

 でもイベントが忙しくて、そんな余裕がどこにもなかったというのが今回の断念の理由。あ、そもそもあたし、まだ料理なんてほとんど出来なかったっけ。ウっケる!

 

 ケーキの購入を終えたあたしの右手は、また迷わず所定の位置に戻る。

 付き合い出してからの約二ヶ月。比企谷とのラブラブな関係の中で進んだ事といったら、ようやくこうやって外で手を繋げるようになったことくらい。それもいつもあたしから比企谷の左手の自由を奪いにいく格好で。……関係進まなすぎでしょ。

 でもあたしはそれでもすっごい幸せ。だってさ、好きなヤツの手を独占出来てるんだもん。あ、もちろん手だけじゃなくて心もね。あとはもうちょっとだけ積極的になってくれたら文句無しなんだけどなぁ。

 あーあ、せめて一度くらいはムードたっぷりのキスとかしたいなー。

 

 でもま、繋いだ手をにぎにぎしてチラリと隣を覗くと、愛しの彼氏の横顔が赤く染まってるからいっか。

 クリスマスの夜、あたしの左手にはクリスマスケーキ。比企谷の右手にはパーティーバーレル。んでもってあたしの右手と比企谷の左手には、お互いの最愛のパートナーの手が大事そうに握られてるっていうこの構図。これ以上に幸せな光景なんてある?

 

「ふへへ〜」

 

「なにニヤニヤしてんだよ……」

 

「べっつにー?」

 

 おっと危ない危ない。つい気持ちが顔に出ちゃってやんの。周りを歩いてるお一人様から「あの女、幸せオーラ撒き散らしやがってウゼェ」とか思われちゃってないかしら。へへー、羨ましいっしょ?

 

 

「やー、にしても無事にイベント終えられてホントよかったよねー」

 

 と、ニヤついちゃっただらしない顔を誤魔化す為に、ここでお喋りタイムを持ち掛ける。ここからはまだウチまで十分ちょいは歩くしね。

 

「だな。まさかあの進行具合でこうも無事に済むとは思わなかったわ。もっとも俺は無事ではないけど。主に生徒会に酷使されすぎて」

 

「あはは、比企谷相模さんと副会長ちゃんに扱き使われまくってたもんねー、ウケる」

 

「全然ウケないから……。いやほんとマジであいつらなんなの? 手伝いじゃなくて小間使いかよってレベルだろ、あれ。しかも雪ノ下と由比ヶ浜も加わって四人で人を馬車馬のように使いやがって……。……なんであいつらあんなにイラついてんだよ」

 

 そりゃあんた、あたしらがイチャイチャしてたからに決まってんじゃん。

 ホントこいつってば、いつまで自分はモテないぼっちですって顔してんのかねー。どうせ本心ではなんとなく察してるクセに、気付かないフリしてんでしょ? 自意識過剰な俺キモいわー、勘違いしてあとで恥辱に悶えんのやだわー、とかってさ。

 

「いって! え、なに?」

 

「べっつにー?」

 

 なんか可愛い女の子ばっかにモテてる彼氏にちょっとムカついたから、にぎにぎしてる左手をほんの少しだけつねってやった。へっへーん。ざっまぁ。

 

「まぁそれはそれとしてさー」

 

「どれがそれだよ」

 

「比企谷がそこまでお疲れなのって、そもそもあたしらの生徒会と会長のせいなんだよね。なんかゴメンね、ウチの生徒会が迷惑かけちゃってさ」

 

 そ。なんだかんだ言って、実はあたしなりに申し訳なく思ってるトコもあるわけよ。なにせ身内の不始末を部外者に尻拭いしてもらっちゃったみたいなトコがあるし。あたしなんてそれあるー! しか言ってないし。

 

 

「別に折本が謝る事ではねぇだろ。アレはアレだ。ちょっとあの連中が特殊すぎただけだ。たぶん雪ノ下が粉砕しなかったら終わってたろ、あのイベント」

 

「それあるー! やー、マジ雪乃ちゃんがウチの会長を叩き潰したときめっちゃ恐かったよね」

 

「ごっこ遊びがしたければ余所でやってもらえるかしら」

 

「ブッ! なにそのゆきのん物真似! ク、クオリティー……た、たかすぎっ……ブーッ!」

 

「覚えたての言葉を使って議論の真似をするお仕事ごっこがそんなに楽しい?」

 

「や、やめっ……ちょ、もうやめてっ……! ぶはっ! あはは! ちょ、比企谷っ! 死ぬ! 死んじゃう!」

 

「これ以上、私達のじか」

 

「もういいってば! クリスマスイブに彼女を笑い死にさせる気かっての!」

 

 ずびしっ! と比企谷の頭をはたいてやった。

 いやマジ調子に乗り過ぎでしょこいつ。ウケたのが嬉しかったのは分かるけど、イブの街ゆく人たちの目がある中で、最愛の彼女を笑い転げさせてどうすんのよ。あー、恥ずかしい!

 

 

 

 そんなこんなで、バカみたいに騒ぎながらも幸せな帰り道。あー、楽しいなぁなんて思いながらほくほくしていると、不意に比企谷がなにかを思い出したかのように「あ」と呟いた。

 

「ん? どうかしたー?」

 

「あー、まぁ……なんだ」

 

 と、どこか言いづらそうな比企谷。

 あたし知ってるよ。比企谷がそういう態度取るときって、なんか照れくさい事でもあんでしょ?

 

「だからなによ。ん? ん?」

 

 だからあたしは面白がって比企谷に続きを促す。こいつが照れ臭くて悶えてる時ってめっちゃ可愛いんだもん。

 

「……あ、いや、玉縄で思い出したんだが……」

 

「へ? 会長?」

 

 一体どんな照れくさい事を言うのかとニヤニヤしていたら、なんとまさかの玉縄トーク。

 いやいや、比企谷が会長の事で照れてるとか、字面だけ見たら超ウケないんだけど。

 

 

 ──でも、なんとも照れ臭そうに目を泳がせる比企谷の口を衝いて出てきた言葉は、むしろあたしを照れさせる言葉だったのだ。

 

「……その、なんだ……。れ、例の件は、問題ないのか?」

 

 

 ……あ。

 

 

 

 ヤバい……。もしかして比企谷、あたしに嫉妬とか心配とかしてくれてる……?

 

 

× × ×

 

 

 比企谷がクリスマスイベントに顔を出すようになってから少しして、あたしは会長に告られた。

 コミュセンの帰り道、ちょうど二人になった時に突然こんなことを言われたのだ。

 

『お、折本くん。ぼ、僕とステディな関係にならないかい?』

 

『は?』

 

 いやもう最初なに言ってるのかよく分かんなかった。なによステディな関係って。申し訳ないけど超ウケた。

 

 ま、なんとなーくそんな気はしてたんだけど、どうやら会長は前から結構あたしに気があったみたいで、なんか急に湧いてきた比企谷とあたしが仲良くしてるトコを見て、どうやら焦っちゃったらしいのだ。

 もちろん即お断わり。そりゃ当然でしょ。大好きな彼氏が居るんだもん。

 で、その日帰ってから、比企谷に電話で一応報告しといたってわけ。

 

 ……うん、まぁ告られた事を人に話しちゃうってのは、あんま良くないことだってのは今は自覚してる。なにせ中学のとき、他ならぬ比企谷の事を友達に話しちゃって、比企谷に嫌な思いさせちゃったわけだし。

 

 あの頃はあまり深くそういうことは考えてなかったし、大体あたし、別に比企谷に限らず、たとえそれが誰であれ……人気のあった先輩であれクラスの中心人物であれあんま話した事のない別クラの男子であれ、今まで何度か告られた時は仲のいい友達には相談してたし、あたしに限らず、友達同士でそういう相談を交換すんのなんて至って普通の行為だったから、比企谷だけ誰にも話さないなんていう選択肢自体、誰に対しても態度を変えないのが信条のあたしには考えられなかった。だってそれって、逆に比企谷だけ差別してるって事になっちゃうし。

 

 だからそれで比企谷だけが言い触らされちゃったのだって、そりゃ多少はチクッとしたけど、それは比企谷がそういうのがウケるキャラなんだろうってくらいにしか考えてなかったし、当時は……ってか三ヶ月前に比企谷と友達になるまでは、罪悪感とかもないままだったんだよね。

 でも比企谷と総武の屋上で色々話して友達になって、それから昔の事とか友達関係の事とかをよく考えるようになってから、ようやくあの時の罪悪感が芽生えはじめた。

 

 仲良くなって何度か比企谷の家に遊びに行くようになった時、思い切ってその話をしてみた事がある。当時の心情、現在の心情、もろもろ含めて全部。

 そしたら比企谷言ってた。それは俺がそういうキャラだったってだけだから気にすんな、むしろ気にされると気持ち悪い、って。

 

 だからあの時の件についてはそこで完全に打ち切り。あたしが気にしてると比企谷も気にしちゃうから、“それについて”はもう考えるのはやめた。

 でもやっぱり、告白された事とかを簡単に人に話すと碌なことになんないって考えだけは頭に残っちゃったから、例えそれが友達同士では普通のやりとりなのだとしても、これからはもう気軽に友達に話すのはやめようって思ったんだよね。

 

 とはいえ、とはいえなのよ。友達に話しちゃうのはアレだけど、やっぱ愛する彼氏に報告しないのはどなの? って話。あたしだって比企谷が誰かに告られたとしたら話して欲しいし。

 だからちゃんとその日に報告したってわけ。

 

 でも比企谷ってば電話越しに「そうか。まぁ断ったんならいんじゃね?」くらいしか言わなかったから、あ、別に気にしてないんだねー、って思ってちょっぴり残念だったんだけど、…………なーんだ、こいつってば、実は結構気にしちゃってんじゃーん!

 ヤバい、顔がニヤける。

 あたしは握っていた比企谷の手を一回離して、今度は指と指を絡ませ合うように繋ぎ直す。そして突然の恋人繋ぎ状態に動揺してる隣人の顔をにまにまと覗きこんだ。

 

「なになに比企谷、実は気にしちゃってんのー? え、もしかして嫉妬? ジェラシー?」

 

「ばばばばっかお前、そそそそういうんじゃにゃくてだにゃ……」

 

「動揺しすぎウケる」

 

「……ウケねぇよ。……あ、あれだ。ああいう意識高そうな奴って無駄にプライド高いから、下手したら逆恨みで付き纏われたりとかすっかもだろ……」

 

 ぼそぼそとそう言う比企谷がどんな顔してるのかは、あたしの位置からでは全然見えない。だってこいつ、ずーっとそっぽ向きっぱなしなんだもん。

 でも耳が尋常じゃなく真っ赤だから、余裕で想像できちゃうよ? 比企谷の照れっ照れな顔が。

 

「だーいじょーぶ! 会長ってああ見えて、まぁ……いい人だから、あれ以来あたしにちょっかい掛けてきてないよ。でも、へへー、心配してくれてありがとね」

 

「……おう。……ま、別に心配ってわけではないがな」

 

 でった捻デレ! 最後に余計なの入れなきゃいい雰囲気のまま終われるのに、なんで比企谷ってこうなんだろ?

 たく、マジで可愛いヤツめ!

 

 

 

 

 

 ──あー。やっぱあたし、比企谷のこと大好きだわ。なんかもうスルメって感じ? 最初は味が無くてつまんないヤツー! とか思ってたのに、いざ噛んでみると噛めば噛むほど味でまくりで、今じゃもう比企谷無しでの晩酌とか考えられないってくらいハマッちゃってんだもんね。あたしが雪乃ちゃんならスルメ谷くんとか呼びそう。ウケる。

 ……んー。さっきまで、こうやって手を繋いで歩いてるだけでこれ以上の幸せなんかないよねー、とか自分を誤魔化してたけど、やっぱそろそろ……我慢の限界かも。

 だってさー、今とかめちゃくちゃいい雰囲気だし、周り見たらイルミとかすっごい綺麗だし、なんか胸とかぽかぽかしちゃってるし。ここを逃しちゃったら、多分あたしは一生後悔しちゃうと思うんだ。

 

「ねー、比企谷ー」

 

「おう」

 

「キスしよう」

 

「……は?」

 

「だからキスしようって言ってんの。てかして。今。ここで」

 

「」

 

 ヤバい。比企谷の顔がめっちゃ面白い事になってやんの。

 まぁそりゃそうよね。だって付き合って二ヶ月、未だキスもしたことのない奥手カップル。もっとも奥手なのは男の方だけだけど。

 唯一したのなんて、まだ付き合う前の京都駅の屋上で、ほっぺに軽く唇つけたくらい。

 それがあたしんちの近所の商店街、しかもさっきから通行人がわんさか行き交ってるここで急にキスしろとか、比企谷からすれば死刑判決と同じレベル。

 ……でもね、あたしもう無理っぽい。あたしだって、こう見えて普通の女の子なんだよ?

 

 だからあたしは、んん! っとわざとらしく咳払いをすると、少し声のトーンを落として比企谷に迫るのだ。

 

「比企谷?」

 

「は、はい」

 

「あたし、こう見えてこの二ヶ月の間ずっと待ってたんだけど。いつキスくらいはしてくれんのかなー? って」

 

「う、うす……」

 

「分かる? ヘタレな彼氏からの初めてのキスを今か今かと待ち続けて、でも結局二ヶ月近く肩透かし食らってる女の子の気持ち」

 

 いやマジで。

 ま、ヘタレな比企谷だししゃーないか。ヘタレキングな比企谷は、そういうトコも可愛いんだよねー。……とか、あれホントは超嘘だから。女の子だってめちゃめちゃエロい妄想とかしてるから。大好きな彼とキスとかめちゃくちゃしたいから。

 

「……ス、スンマセン」

 

 目を細〜くして深く溜め息を吐いてやると、さっきまでちっちゃく縮こまってたこいつは一層小さくなっちゃった。

 

「……でもね、今あたし思ったの。この二ヶ月弱の付き合いでキスもした事なかったのは、きっとこの瞬間の為だったんじゃない? って。普段あんま好きって気持ちを表に出してくんない比企谷が、ちゃんとあたしのこと考えてくれてるんだなーって分かって、でもって今あたしはめっちゃ胸がぽかぽかしてて、比企谷が愛おしくて溜まんなくなっちゃってて。そしてそれがイブ、さらにこんな綺麗なイルミに囲まれちゃってんだよ? 今しないでいつすんの? って感じじゃん?」

 

 そりゃ商店街だから通行人の皆さんは結構居るし、お惣菜屋さんの揚げ物の香りとかすごいしてくるけど。

 あれ? よくよく考えたらあんまムードなくない?

 

「だから今ここでキスしてくれたら、今まで何十回もガッカリさせられてきたあたしの傷だらけの心は許したげる。……ど? なかなか悪くなくない?」

 

 悪くないどころか、うちの会長風に言うとWIN-WINってやつじゃない? これ。

 でも比企谷は、あたしがこんなにもお得な譲歩をしてあげてるってのに、当然のように「ぐぬぬ」と難色を示してる。ホントどんだけヘタレなのよ。

 

 だから仕方ないので、あたしは比企谷の弱点を容赦なくついてやることにした。

 比企谷の弱点、それは押しにすこぶる弱いこと。それも涙と甘えが加わると、その弱さは豆腐並みの強度になるのだ。

 

 そしてあたしはここで一気に畳み掛けるべく、不安げに眉を下げた潤々の上目遣いで、難攻不落な本丸を一気に攻め落とす!

 

「……あたしだって、こんなムード満点のイルミに囲まれたトコで、大好きな彼氏にファーストキス捧げたいって乙女心くらい、あるんだかんね……?」

 

「い、いや、これムードあるか……? 人すげぇ歩いてるけど……」

 

「……は? なんか問題ある?」

 

「ないです」

 

 まぁそんな潤々な上目遣いを持ってしても、この状況下でこのヘタレが折れるわけがないなんて最初っから分かってたから、結局こうして強制になっちゃうんだけどね。ウケる!

 

 もうこんなヘタレの了承なんか知ったことかと、あたしは一方的に目を閉じて、王子様からの口づけがやってくるのを待ち構える体勢に入った。

 

「ほら、ほら、んー。んー。」

 

 唇をつんと尖らせてキス顔で待機するあたし。うん。やっぱムードとか全然無いかも。比企谷とのステディな関係で、甘い雰囲気を求めるってこと自体がそもそも間違いだったわ。

 あー……もうムードなんかどうだっていいや! とにかく絶対今キスする。キスしてやっかんね。

 

 

「言っとくけど、キスするまであたし一歩もここから動かないかんね。はい、んー!」

 

「……ぐっ! マ、マジか……っ」

 

 目を閉じて視界を遮ってるから、今のあたしの感覚は聴覚だけが特化してる。

 そんなあたしの耳に入ってくる音は、比企谷のボヤく小さな声と、比企谷があたしに顔を近づけようとしたり、でも躊躇って離れたり、辺りの様子を窺うようにキョロキョロしているであろう衣擦れの音だけ。

 もう比企谷の一挙手一投足に集中するあまり、さっきまで聞こえてた道行く人の足音も話し声も笑い声も、それにムードたっぷりのクリスマスソングも、しゃんしゃん鳴る鈴の音だって聞こえやしない。

 

 うわやっば。なんか今さらながらにすっごいドキドキしてきちゃった。

 アレよね。勢いって恐い。ノリと勢いでここまで突っ走ってきちゃったけども、いざ比企谷の唇がすぐそこまで迫ってるって思ったら、頭はくらくらするし身体中あっついしで、なんかもう夢の中にでも居るのかってくらい、自分がふわふわ浮いてるみたい。

 なんだ、あたしって意外と乙女なんじゃん、とか思うと、場違いにもほどがあるけど、なんか笑えてくる。

 

 

 そしてついに、比企谷があたしの両肩に手を添えた。恥ずかしい事に、ちょっとビクッとなっちゃった。あたし乙女すぎでしょウケる!

 これはもうホールドされたも同然。どこにも逃げ道なんてない。いやいや逃げてどうすんだって話よね。あとはもう観念した比企谷が、あたしの唇を奪うのを黙して待つのみ。

 

 男の子の唇ってどんなだろ。やっぱあたしのより固いのかな。意外と柔らかい? あ、でも今は冬だし、こいつ唇のケアなんてしてないだろうから、結構ガサガサかも……、なーんて思いながら待つこと数秒数十秒。

 

「……?」

 

 しかし、待てど暮らせどあたしの唇にはなーんの感触も襲ってこない。どんだけ焦らすのよ比企谷。

 

 いつキスが来ちゃうかもしんないとドキドキして、必要以上にギュッと瞑っていた両目。でもいい加減我慢出来なくなってしまい、恐る恐る片目だけを薄く開けてみた。すると──

 

「……」

 

 そこで見た光景は、未だにあっちをキョロキョロこっちをキョロキョロ、さらには頭を抱えんばかりに「うおぉぉ……」とキモく悶え続けている最愛の彼氏の情けない姿だった。

 

「……はぁぁぁ」

 

 それを見たあたしは、比企谷に聞こえないように小さな……、でも深〜い溜め息を吐き出した。

 あのさぁ比企谷ー。たかがキスひとつでいつまでもそんなに悶えてるキモい姿を見せられたら、普通の女だったら百年の恋だって醒めちゃうかんね?

 

 ……ぷっ、なんかもう緊張が吹き飛んじゃったじゃん。

 マジで比企谷はあたしがそういう普通の女じゃないことに感謝すべき。なかなか居ないよ? そのキモくてしょーもない姿を見せつけられて、より一層愛おしく感じてくれるイイ女なんてさ。

 

 

 ──しょーがない。今日のところはここまでにしといてあげよっかな。

 うん。残念だけど今日はここまで! 比企谷なんかにキスを強請るなんて、土台無理な話だった。むしろちょっと虐めすぎちゃったかもねー。ごめんごめん。

 だからさ、比企谷からはいつかしてくれればいいよ。比企谷からしてくれるの、あたしゆっくり待ってるから。

 

 

 

 

 

 

「……んっ」

 

「むぐ!?!?」

 

 

 そしてあたしは、未だもじもじウジウジしてる比企谷の顔を両手で挟んでがっちりホールドし、この二ヶ月間の鬱憤を晴らすかのように、こいつの唇に思いっきり唇を押し付けてやった。それはもうぶちゅ〜っと。それはもうむっちゅ〜っと。そしてちょっぴりレロッと。

 

 そう。“比企谷から”はいつかしてくれればいい。

 でもさ? それをあたしが待ってる必要なんてなくない? だって、もうしたくてしたくて堪らなかったんだもん。じゃあそりゃするでしょ。比企谷からしてくれないんなら、いつか比企谷からしてくれるようになるまで、あたしからしまくればいいだけの話ってね。

 

 

 

 ──はじめてのキス。それはもう堪らなく幸せいっぱいだった。

 思ってたより柔らかい唇。ケアとかしてないんだろうけど、思いの外つるんとしてる唇。でも十二月の夜の寒さのせいか、想像してたよりひんやりしてる唇。

 その全てが愛おしくて愛おしくて堪らない。だから突然の事態に固まってしまった彼氏をいいことに、そんな柔らかくてつるんとしてひんやりしてる愛しい唇を、あたしの唇で色んな形に変えてみたり、上唇と下唇ではむはむっと挟んでみたり、あとはアレを絡ませてやったりとやりたい放題。なにこれめっちゃ楽しい。

 

 なんかさ、自分のこと意外と乙女じゃない? とか思ってたのに、はじめてのキスがコレってどうなの? めっちゃフレンチなんだけど。

 でもそれは仕方ない。これは別にあたしにエロの資質が秘められてるからとかそういうんじゃなくて、散々お預けを食らわせてあたしをムラムラさせてきた比企谷が悪いのだ。

 

 

 もう唇を重ねてからどれくらい経っただろう。多分せいぜい数十秒くらいだとは思うんだけど、ほんの一瞬のような、それでいて物凄く長い時間のような不思議な感覚。

 このまま永遠に唇を重ねときたかったんだけど、なんか周りから「うわぁ〜……!」とか「若いっていいわねぇ」なんて声も聞こえてきちゃったし、残念だけどそろそろやめとく事にしようかな。……ちっ、やっぱウチに着いてからすれば良かったかも。

 あたしは平気でも、多分これ比企谷が死んじゃうよね。

 

 名残惜しむ唇をそっと離すと、目の前には赤々と染まった比企谷の顔と、ちょっとテカっちゃった比企谷の唇。

 うっわ。目を瞑ってたから気にしなかったけど、こんなに近くで比企谷の顔見んの、なにげにはじめてじゃない? こいつってホント目が腐ってるんだね。可愛いけど。ウケる。

 

「お、おまっ……、な、なんてことしやがる……!」

 

「なんでー? キスするって言ったじゃん。でもヘタレな彼氏がいつまで経ってもしてこないから、あたしからしただけだけど?」

 

「……ぐっ、で、でもお前、し、舌まで入れてきやが──」

 

「んー? 比企谷全然抵抗してこなかったけどぉ?」

 

「うぐっ……」

 

 へっへー。そりゃね? 抵抗出来るわけないよねー。可愛い彼女からの濃厚なキスなんて、気持ち良くないわけないもんねー? あたしもすっごい気持ち良かったし。

 雰囲気を楽しむ為の五感のうち、味覚だけは帰ってからのお楽しみとか思ってたけど、帰る前に比企谷の味で味覚を楽しんじゃった。なにそれウケる!

 

「し、しかしコレはいくらなんでも、だな……」

 

「あーもーうっさいなぁ。いいじゃん、キスくらい。減るもんでもないし」

 

 発言だけ見るとあたしって超ビッチっぽくない? ちょっと? 周りの通行人さん方? あたしこう見えて身持ち結構堅いからね? 意外と今のがファーストキスですからね?

 

 そんなこんなで、道行く人達に向けての言い訳を済ませて自己満足したあたしは、まだ納得出来ないのかぶつぶつ呟いている比企谷に、にひっと笑顔を向けて、ピッと人差し指を立てるのだ。

 

「へへー、京都駅で言ったよね? ダメダメな比企谷の人格形成を超スパルタでしてあげるって。ダメでヘタレな彼氏持ちになった以上は、こんくらいしなきゃいつまで経っても先に進まないってばー」

 

「……ス、スパルタすぎだろ……」

 

 ヒクッと顔を引きつらせ、うんざりした様子の比企谷だけども、未だ恥ずかしくてあたしの目を真っ直ぐに見れないご様子。

 んー、ファーストにしては、ちょーっと熱烈すぎたかな?

 

 

 

 ……とか言って、こんな風に軽口を叩いたり適当な空気を出したりしてはいるものの、実のところはあたしだって心臓がどっこんどっこん五月蝿かったりしてる。顔だってめちゃめちゃ赤くなってんだろうなー。

 してる最中は夢中だったからあんま気にならなかったけど、こういうのって、し終えてからの方が凄いハズいのね。マメチが増えちゃった。

 やー、キスでこんなんじゃ、いざアレの後だとどんだけハズいんだか。ぶっちゃけ興味津々だけども。

 

「……おっし、そんじゃまぁそろそろウチ帰ろっか」

 

 でもあんだけ彼氏をヘタレヘタレと馬鹿にしておいて、実は迫った本人が一番照れてましたー、とか知られるのは、イイ女的には非常に不本意なわけで。

 なのでそんなちょっとした乙女心をこの唐変木に決して悟られないよう、くるりと回れ左したあたしはすぐさま比企谷の左手に指を絡ませて、颯爽と我が家への道のりへ歩を向けるのだ。もちろん横顔を見られちゃわないように、比企谷をぐいぐい引っ張る形でちょっと前を歩いてく。

 あっぶな〜。ショートボブとは言っても耳が隠れるくらいの長さがあって助かっちゃったよ。これが千佳とか相模さんくらいのベリーショートだったら、照れまくっちゃってんのバレバレだったかもね。

 

 

 未だ冷めやらぬ興奮と戦いつつも、ずんずんとイルミネーションの中を歩くあたしと比企谷。

 まだ胸はドキドキしっぱなしだけども、十二月の冷たい空気が火照った頬も身体もいい感じに冷ましてくれて、かなり助かる。

 

 そんな冷めはじめてくれた頬のひんやりさを感じていると、沸騰してしまった脳もようやく少しクールダウンしてきたのか、ふと比企谷にまだ言ってなかったことがある事を思い出した。

 

「あ、そだ、比企谷ー」

 

「な、なんでしょうか……」

 

「なにその反応、ウケる」

 

 あたしはちょっとずつ冷静になってきたみたいだけど、どうやらうちの彼氏さんは未だ興奮冷めやらぬご様子。ついさっきまでめちゃくちゃエロく絡み合ってたあたしの唇から放たれた声に、すんごいビクッとしちゃった。やばい可愛い。

 

 でもごめんね比企谷。多分あたしが今から言っちゃうセリフは、今の比企谷にとってはそれはもう凄い衝撃になっちゃうに違いないんだー。

 さっきまでの唇の感触の記憶と相まって、もしかしたら前屈みになっちゃうかもよー? 前屈みとかウケる!

 

「今日さぁ、どうせ比企谷、いつもと同じように親が帰ってくる前に帰るつもりでしょ? それまでにチキンとケーキ食べちゃってさ」

 

「お、おう」

 

 うちの両親は共働きで、いつも結構帰りが遅いのだ。

 だから比企谷があたしんち来る時は、いっつも逃げるようにさっさと帰っちゃうのよね。

 

「でもねぇざーんねん! まだ言ってなかったけど、実は今夜、両親はクリスマスデートしてて帰ってきませーん! てか昨日のうちから帰ってくんなって追い出しちゃったまである!」

 

「は?」

 

「だから今夜は慌てて帰る必要とか無いからね。つーかお泊まりけってーい!」

 

「い、いやいや、帰るからね? てかそれはさすがにまずいでしょ……?」

 

「ん? 比企谷に帰るとこなんてないよ? もう小町ちゃんに許可とってあるから、帰ってきても家に入れてもらえないってさー。んふふー、良かったねぇ比企谷! ウチに泊まるか寒空の下で野宿するかの二択が選べるよー」

 

「マジ……かよ……」

 

「……へへー、今夜は寝かせないぜ?」

 

「」

 

 

 なんかもう、今夜はこのまま色々と行っちゃうトコまで行っちゃうんじゃない?

 まぁ所詮比企谷だからそこまで期待はできないけど、もしも比企谷が求めてくるんなら、あたしはいつでもオールオッケーよ?

 

 

 

 目の前で自分よりも慌ててる人が居ると冷静になれちゃうって法則はどうやらホントらしく、ここまできてようやく調子が戻ってきたあたしの耳には、久しく聞こえてなかったクリスマスソングがすっと流れこんできた。

 どうやらキス前後から、あたしの耳が……てか頭が、まともに作動してなかったみたい。

 んー、明るくて楽しくてノリノリで、今のあたしの心境にピッタリの曲だなぁ。恋人たちのクリスマス。

 

「〜〜♪」

 

 英語なんか全然わかんないけどなんか嬉しくって、スキップ気味な足取りでついついハミング。気分はマライアだけど、もちろん歌詞はうろ覚え。

 

 

 ──こんな最高のクリスマスを大好きな恋人と過ごせるなんて、あたしはなんて幸せ者なんだろう。

 はじめて過ごす恋人とのクリスマス。はじめて交わした愛情たっぷりな熱烈キス。はじめて一晩中ずっと一緒に居られる特別な夜。

 どれもこれもがスペシャルすぎてハッピーすぎて、明日の夜はシャーペンが止まりそうにないなぁ。あの日から……京都駅で比企谷と話したあの日から書き始めた新しい日記、『あたしと比企谷の恋人ダイアリー』。そこの新しいページに、今日明日で書き込まなきゃならないことがあまりにも多すぎて。

 超やばいよね、そろそろ新しいノート新調しなくちゃかも!

 

 

「あ」

 

 適当な歌を口ずさみながら、クリスマスの想い出を書き込む時の歓びに想いを馳せていると、またしても、ふとある事を思い出した。

 今日はイベントで何度も何度も言ってたけど、そーいや肝心の恋人にはまだアレ言ってないじゃん。

 なんか改めて言うのも照れるし、そもそも帰ってからチキンとケーキ食べる時にでも言えばいいんだけど、なんか今すぐ言いたくてたまらなくなってしまった。

 

「あ、そだ、比企谷ー」

 

「……なんすかね」

 

「なにその反応、ウケる」

 

 まぁ無理もない。今度はこいつなに言いだすんだよ……って、思いっきり顔に書いてあるもん。

 でも大丈夫大丈夫。今度はまともなこと言うからさ、安心してよね。

 

「んとね、そーいやまだ言ってなかったなぁって思っちゃって。……ぷっ、あたしと比企谷って期間だけ見たら結構長い付き合いなのに、これ言うのなにげに初じゃない? 超ウケる」

 

 

 

 

 

 ──そしてあたしは言う。しっかりと手を繋ぎ、のそのそ隣を歩く愛しの比企谷の横顔に、にししっとあたしらしい笑顔を向けて。

 ごめんね? キリストさん。あたしたち日本人は、別にあなたの誕生日をお祝いしてるつもりとか全然ないのよ。

 それでも、あなたの誕生日をお祝いするこの言葉、言わせてもらうね……

 

 

 

「メリークリスマスっ!」

 

 

おわりん☆

 





というわけでありがとうございました!メリークリスマス♪


まさかまさかの一年四ヶ月ぶりの更新でした!もうみんなこんなの忘れてるに決まってんだろΣ(゚□゚)
しかもただ帰り道にキスするだけのお話というね。それに一万五千文字使うってどうなのん?(白目)



本編はああいう感じで終わりましたが、あれからも順調に折本の尻に敷かれてるようで良かったですね☆



本当にお久し振り、しかも今宵かぎりの復活ではありましたが、最後まで読んでいただきましてありがとうございました!


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