このすば*Elona   作:hasebe

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ここまでのあらすじ

あなたは核をぶっぱした
第四層さん「(;^ω^)」

あなたは終末を起こした
第四層さん「( ゚д゚)    (゚д゚)」

あなたはメテオの魔法を詠唱した
第四層さん「▂▅▇█▓▒░('ω')░▒▓█▇▅▂ うわあああああぁぁぁぁ」


第148話 永すぎた悲劇に結末を

【7】

 

 

 

 アーデルハイドが世界を統一し、一年が経ちました。

 世界中に広がった戦役の傷は未だ癒えていませんでしたが、それでも人々は平和が訪れた事を実感出来ていました。

 

 

 

 アーデルハイドが世界を統一し、十年が経ちました。

 辺境の開拓が始まりました。

 星全体と比較すればまだまだ人々が生きる世界は狭苦しいものでしたが、それでも女王の下、人魔はおっかなびっくり手を取り合い、力を合わせて少しずつ世界を広げていったのです。

 

 

 

 アーデルハイドが世界を統一し、三十年が経ちました。

 この頃になると人間とそれ以外の諍い、争いといったものは目に見えて激減していました。

 隣人として人間でないものがいる事が当たり前になりつつあったこの時代、もはや他種族への無理解、差別意識からなる嫌悪を持つものは少なく、互いにとってちょうど良い距離感が自然と構築されていたのです。

 

 

 

 アーデルハイドが世界を統一し、五十年が経ちました。

 既に寿命を迎えていてもおかしくない年齢でしたが、女王はいまだ壮健であり、自身の寿命がまだ先のものであると理解していました。

 同時に、それでも自分が生きている間では、きっと間に合わないとも。

 開拓も、治世も、融和も、道半ば。

 

 自分がいなくなってしまった後の世界は、緩やかに、しかし時計の針を戻すように全てが元通りになっていくのだろうと理解していました。

 そして、彼女に後を託せる者はいませんでした。

 

 女王が愛した唯一の人。彼女と比べればずっと平凡で、だけど勇敢で、優しい人。

 子供の頃から共に在り、アーデルハイドと同じ夢を見ていた人。

 それは、ゲヘナとの戦いで永遠に失われてしまっていたから。

 

 だから、彼女は、黄金の英雄王は。

 呪法を以って、不老の体を手に入れました。

 

 ゲヘナとの戦いの他、更に数名が寿命でこの世を去ってしまっている、かけがえのない盟友たち。

 そんな彼らと頑張って作った国、世界を、失いたくなかったから。

 

 

 

 アーデルハイドが世界を統一し、百年が経ちました。

 憂いをなくした女王の治世は加速の一途を辿ります。

 豊かになる暮らし。いつまでも続く平和。衰えない名君。

 誰もがそれを当然のものとして受け入れ、歓迎していました。

 

 

 

 アーデルハイドが世界を統一し、三百年が経ちました。

 女王の盟友である天使と悪魔が偶然同じタイミングで来訪し、遠いいつかのように楽しく仲良く喧嘩を始めます。

 老いを忘れた女王は心からの笑顔でそれを眺めていました。

 

 

 

 アーデルハイドが世界を統一し、五百年が経ちました。

 もはや人魔による戦乱など遠い過去の話。

 当たり前のように数多の種族が共に生きる世界がそこにありました。

 女王とその仲間達の理想は、長き時を経てここに結実したのです。

 

 

 

 アーデルハイドが世界を統一し、千年が経ちました。

 もはや彼女の治世と世界平和、黄金の繁栄に微塵の揺らぎもなく。

 彼女が治める国は千年王国と名付けられました。

 

 

 

 アーデルハイドが世界を統一し、千百十一年が経ちました。

 女王は発狂し、絢爛なりし王国は一夜のうちに滅び去り、黄金の時代は終わりを迎えました。

 かくして世界に新たな脅威が、最悪の不死王が生れ落ちたのです。

 

 

 

 

 

 

 

『聞こえる……大地の悲鳴が……嘆きが……恐怖が……』

 

 戦いの最中、唐突にゆんゆんがびっくりするほど純度の高い電波発言を繰り出した。

 常なら笑い飛ばすところだが、現在彼女が身を置いている環境が環境だ。ゆんゆんinモンスターボールin四次元ポケット。どこの何から何を受信しているのか本気で分かったものではない。

 はっきり言って厄さ満点の激ヤバ台詞である。紅魔族が大興奮する的な意味で。

 驚きのあまりあなたの思考停止スウォーム連打こと全自動殲滅モードが解除されたほどだ。

 ハーブか何かやつておられるとしか思えない。あなたをして普通にドン引きだった。

 

 当然一瞬の隙を晒したあなたは、これで十組目である英雄部隊に死ねよやー! みたいな勢いで全身をメタメタのメッタ刺しにされた。

 日々魔王軍と鎬を削りあう人類の上澄みでも確殺は免れないであろう必滅の包囲網だが、ハリネズミと化したあなたをウィズはちらりと軽く流し見するだけで済ませたし、事実次の瞬間、英雄部隊は一人残らず魔剣の露と消えた。

 物語であれば英雄達による命を賭した挺身に感涙せずにはいられない、乾坤一擲の特攻であなたが負ったダメージはそれなり。同じ攻防が百回続けば死ぬかも、といった程度。また一つ貴重な手札が消えたアーデルハイドのクソがよぉ……と楽しそうな声が聞こえてくるようだ。

 

 だがここで驚嘆すべきはあなたの耐久力ではなく、一般兵の中に精鋭を紛れ込ませ、あまつさえあなたの僅かな隙を見事に突いたアーデルハイドの指揮能力だろう。

 直前までのあなたが雑に範囲即死攻撃をぶっぱなしていた以上、英雄部隊も雑兵に混じってゴミのように散っていく可能性は非常に高かったというのに、アーデルハイドは見事に仕事をさせてみせた。

 

 そしてこれは初めての事ではない。

 あなたが今まで相対してきた数々の英雄部隊。

 アーデルハイドは、その全てにあなたに手傷を与えるという大任を完遂させている。

 いずれもあなたにダメージを与えられる最小限の人員で構成されていた。これ以下の人数では無為に散るだけだったところを、紙一重で戦力として数えられるように編成しているのだ。

 手を打つタイミングといい、戦力配分といい、素直に舌を巻くしかない、全てが神がかった采配である。

 それにしたって今の襲撃のタイミングは未来予知が必要なレベルだった。あるいはあなたに隙を作るべくゆんゆんに毒電波を飛ばしたのもアーデルハイドなのかもしれない。あなたはそんな事を考えた。

 

 アーデルハイド本人が知れば噴飯モノの風評被害はさておき、彼女の指揮能力は疑いようも無くあなた達の領域に達している。

 

 改めて説明するまでもないが、あなたとウィズは共に歴戦の冒険者であり、共に冒険者としてパーティーのリーダーを務めていた。あるいは現在進行形で務めている。

 つまり相応の指揮能力を有しているという事だ。

 ウィズに関しては聞いた事がないのであなたは知らないが、あなたの指揮能力、つまり十全に仲間の能力を活かせるという意味合いでの同時連携可能な最大数は15。

 これは今もノースティリスで思い思いに過ごしながらもあなたの帰りを待っているペットの数と同値だったりする。

 つまるところ、あなたが本当に本当の意味で己の全てを以って戦う場合、必然的に16人パーティーになるという事だ。現状でもかなりキャパシティが限度ギリギリいっぱいなので、今のあなたでは17人パーティーになった瞬間確実に指揮が破綻するだろう。

 

 だがあなたはこの素晴らしい世界でベルディアというペットを手に入れた。よってあなたがこの先ペット同伴で戦う場合、誰か一匹が控えに回る事になる。

 あなたはそれを普通に嫌だと思っているので、改めて自身を鍛え直す必要が出てくるだろう。

 とはいえベルディアが他のペットと同等に強くならなければ普通に足手纏いになるだけなので、軽く年単位で先の話になるだろうが。それでもたったの年単位で追いつけるあたりがベルディアの類稀なる非凡さの何よりの証左である。

 非凡だろうが天才だろうが至るまでの過程で死にまくるのはご愛嬌。ベルディアへの精神面への負担は考慮しないものとする。

 

 結構な難題だという自覚はあったが、あなたには割とやる気があった。

 あなたにとって自己鍛錬はライフワークであり、余っているモンスターボールの数的にもまだペットは増える予定だからだ。

 

 以上があなたの指揮能力についての全てだ。

 総括すると、あなたは将の器ではない。

 現在進行形でやっているように、単騎で万の軍を撃滅出来るが、万の軍を率いる事は出来ない。

 

 だからこそ、あなたは認めるのだ。

 アーデルハイドの指揮は、全くもって恐ろしいと評価する他無く、歴史に名を残す綺羅星の如き将帥ですら白目を剥いて卒倒しかねない、神技と呼ぶに相応しい手腕であると。

 

 そんな神技を全霊で振るってくる魔王との戦いの中、絶え間なく、そして視界一面に広がる剣林弾雨を弾き、防ぎ、避け、時に全身に浴びる。浴びながら全てを薙ぎ払い、進軍を続ける。

 だが、終わりの見えない戦いの中、あなたはふと思った。

 アーデルハイドは何を目論んでこんな事をしているのか、と。

 

 延々と手駒をぶつけ続ける事でこちらのリソースを消耗させる。それはいい。あなたもウィズも重々承知の上で相手に付き合っているのだから。

 問題はその先。遅かれ早かれ無貌の底は尽きるわけだが、その後にアーデルハイド自身があなた達を相手取れる手段を持ち合わせているのか否か。

 アーデルハイド単独での戦闘力はウィズに比肩する程度であり、現状ではウィズが単独で死闘の末に紙一重の差で辛うじて勝てる。

 永劫の停滞と鬱屈で錆付いた戦闘勘を取り戻せば多少は勝率が変化するだろうが、それもあなたが加われば確実に負ける程度でしかない。

 まさか下僕だけで勝てるなどと思い上がっているわけではないだろう。

 現在あなた達の消耗はおおよそ二割五分といったところ。そしてリッチーとして不死者の気配を感じ取れるウィズ曰く、相手の兵力は既に半分から六割ほどにまで漸減されている。

 敵陣に浸透すればするほど亡霊の強さは上がっていっているが、そんなものはあなた達にとって誤差に等しい。

 たとえ英雄部隊を何度ぶつけようとも、あなたに単独で傷を与えられるゲヘナ(準廃人)級をダース単位で抱えていようとも、相手の底が見える方が絶対に早い。

 

 

 

 

 

 

「こちらの底が見える方が確実に早い。そんな事を考えていそうな顔だ」

 

 嵐すら消し飛ぶ彼方の虐殺を見据えながら、黄金の魔王が静かにひとりごちる。

 あなたの考えは間違いなく正しい。女王が率いる無貌の軍勢(一つの時代)ではたった二人の魔人(ネバーアローン)に勝てない。

 そして、それはアーデルハイドも端から承知の上だった。だがそれは勝負を捨てている事を意味しない。むしろ逆。

 

「これしか勝ちの目が見えないとはいえ、我ながら何とも不細工な用兵だ。私だったらこんな将の指揮で戦うのは死んでも御免だな」

 

 捨て駒前提の全軍特攻。

 常軌を逸した怪物を相手に、あまりにも形振り構わない消耗戦を強いる自分自身を嗤う。

 こんな帥は彼女の価値観において下の下未満、論ずるに値しない愚物だった。

 全てを自らの手で終わらせた民無き国の王となって久しい身ではあるが、それはそれとして、王たるもの、こんな手段は間違っても取るべきではないと理解するだけの分別くらいは残っている。

 事実、遥か遠い過去にゲヘナと戦った時も全身全霊で犠牲は最小限に留めようとしていた。生まれついての絶対強者、超越者の領域に足を踏み入れていた漆黒の邪竜を前に、それが達成出来たかは別として。

 

「そう、ゲヘナだって呆れ返るに決まってるわ。ねえ、そう思うでしょう?」

 

 あまりにも唐突な口調の変節。

 アーデルハイドは、無垢な年頃の少女のような声色で、傍らに目をやって、朗らかに笑いかけた。

 誰もいない場所に向かって。

 

「あれっ?」

 

 目を向けた方向に誰もいない事がさも意外とばかりに目を瞬かせる。

 周囲を見渡せば、背後に十三体の無貌が佇んでいた。

 彼女はそれに向かって誰かの名を呼ぼうと、口を開く。

 

「……?」

 

 だが、誰かしらの名前が出てくる事は無かった。

 そんな自分に強い違和感を覚えて首を傾げる。

 何かを求めるかのように虚空に右手を伸ばす。

 

「…………?」

 

 口を開く。虚空に手を伸ばす。

 口を開く。虚空に手を伸ばす。

 口を開く。虚空に手を伸ばす。

 

 何度でも彼女は繰り返す。

 遠い昔に失った誰かを探して。

 遥かな過去に存在した誰かを求めて。

 何度でも、何度でも。

 だが、しかし。

 麗しの少女が目当ての人物を見つける事も、開かれた口から誰かの名が紡がれる事も、終ぞ無かった。

 

「――――ああ」

 

 幾許かの後、小さく呟いた少女の瞳は濁り、腐り果てていた。

 

「無様、なんて言葉では到底足りない。我ながら心の底から嫌になる」

 

 正気から狂気に落ちてしまったかのような痛ましい姿であるが、実際は逆である。

 ごくごく短い間、彼女は確かに狂っていたのだ。

 在りし日、最も満たされていた時の自分に戻るという形で。

 

「本当に、本当に度し難いな。これでは呆けた老人と何ら変わりない。……いや、今の私はまさしくそれそのものだったか」

 

 己への深い絶望と侮蔑と諦観から完全なる虚無と化した美貌には、もはや自嘲の笑みすら浮かばない。

 赤い空を仰ぎ、若かりし頃、いつだって賑やかな仲間達に囲まれていた遠い過去に想いを馳せる。

 

「私は人間でいられるうちに死んでおくべきだった。本当にそう思うよ」

 

 今の己に侍るものは物を言わず、感情を持たない無貌のみ。

 愛おしき全ては失われて久しく、今はただ孤独と永劫に押し潰された哀れな不死王のみが此処に在る。

 

「それにしても、なあ、私はどの面下げて誰に声をかけるつもりだったんだ?」

 

 狂気と正気の狭間で揺れる女王は、今ひとたび誰かの名前を呼ぼうと試みる。

 全てが無意味だと理解していながら、求めずにはいられない。

 

「もう、みんなの顔も声も、思い出せないくせに」

 

 再び後ろを振り返れば、物言わぬ亡霊達が静かに佇んでいた。

 それは彼女の輝かしい過去の残骸であり、最精鋭の手駒であり、捨て去れない未練だった。

 

 アーデルハイドは覚えている。まだ覚えていられる。

 彼らをとても大事に想っていた事を。あるいは、彼らが大事だった者達の子孫である事を。

 それでもやはり、誰かの名前が呼ばれる事は無かった。

 

「…………」

 

 一度目を瞑り、己の罪業の証から顔を背け、再び戦場に意識を向ける。

 二人の冒険者を見つめながら一人ごちる。

 

「強く、勇敢なヒトたち。どうか私を死なせてください。殺してください。お願いします、どうか、どうか、私を終わらせてください」

 

 強く、強く祈り、乞い願う。

 自分では終わらせられない、悪夢のような現実に終焉が訪れる事を。

 

 

 

 

 

 

 これで何度目だろうか。

 苛烈になった敵の攻勢を跳ね除けたタイミングで、一息ついたウィズは自身の直感が正しかった事を確信した。

 

(やっぱり、少し前から戦いの流れというか、戦場の空気が変わってきましたね)

 

 原因は間違いなくアーデルハイドだ。

 指揮の質がそれまでと比較して明確に変化した。悪い意味で。

 過去現在未来において並ぶもの無き帥の指揮は更に鋭く、深くなりつつある。

 だが、そんな事はウィズが抱く懸念に比べれば誤差に等しい。

 

(指揮から人間味が消えた。空気に強い腐臭が混じり始めた。空の色が変わった)

 

 これまでは一手一手に熱があった。

 挑んでくるような必死さがあった。

 高揚が、期待が、歓喜が、希望があった。

 永劫の果てに会遇した、自身を殺し得るものたちとの闘争を楽しむという形とはいえ、前向きな感情で満たされていた。

 

 だが、今はどこまでも暗く、重く、冷たい虚無と絶望だけが伝わってくる。

 

 領域自体も支配者であるアーデルハイドの心象に影響されているのか、大地から湧き出す瘴気が濃くなり、赤い空に至っては黒と紫が混じり、不気味に蠢いている。

 立っているだけで正気を失いそうな、世界の終末を疑う様相である。

 

(こっちの底が見切られた、私達に勝ち目が無いと認識された、というのは少しばかり悲観的でしょうか)

 

 とにかく嫌な空気だ。不吉の気配が迫りつつある。

 間違いなく取り返しのつかない事が起きようとしている。

 敗北とは違う、しかし強い胸騒ぎを覚えたウィズは、指輪を通じてあなたに注意と警戒を促す。

 返答は不穏な感情交じりの肯定、そして星の剣に燈る蒼い灯火だった。

 

 最早見慣れた魔法剣の発動。

 蝶を彷彿とさせる蒼く眩く煌く四枚の光翼があなたの背後に展開される。

 火炎属性付与(エンチャント・ファイア)超過駆動(オーバードライブ)とウィズが密かに呼んでいるスキルだ。

 無駄に火力が高くて普通に味方を巻き込むのでパーティーで使うべきではない魔法剣筆頭。

 

「うわっ」

 

 あまり良い思い出の無いスキルに思わず言葉が口をついた。

 一体何をするつもりなのか。頼むからクソバカ肩車だけは勘弁してほしい。

 そんな事を思いながらウィズが問いを投げる前に、光翼は解けるように儚く霧散し、そのまま神殺しの大剣に吸収される。

 

「えっ」

 

 光翼を纏った(リミッターを解除した)魔法剣が原初の姿を取り戻す。

 結果として顕現するのは蒼い炎の柱。

 天高く立ち上るそれは呪怨の空を祓い、更には竜の谷の狂った時空間をすら容易に割断せしめ、局所的に空に青色を取り戻してすらみせた。

 

「ちょっと嘘でしょう!?」

 

 突然の凶行に目とあなたの正気を疑うウィズだがさもあらん。

 今までは徹底的に抑えていた魔法剣の出力を最大にした上で機動力と攻撃力の配分を攻撃力に全振り。

 錬度不足により未だ完全に制御しきれていないそれは暴走状態に等しい。

 耐性を貫通するエーテルの炎は当然のように術者の全身を焼き焦がし、その余波だけで押し寄せる軍勢を焼失させる。

 全力で防御を選択したウィズもまたゴリゴリと防壁が削られており、冷や汗を流さずにはいられない。

 意図的に制御を手放した星の焔は、氷を得意とする不死者である自分の命を容易に脅かすと知っているがゆえに。最早無貌の相手をしている場合ではない。それほどの危機が目の前に迫っていた。

 

「なんですかマジですかどういう事ですか血迷ったんですか!? 熱が盾貫通してて本気で熱いんですけど!?」

 

 半泣きでぶちまけた抗議への返答は気付けに一撃ぶっぱなすのでかけ声を頼むという淡々としたもの。

 冷たい声色はともかく内容は暢気だった。間違っても現在進行形で消し炭一直線な人間が発して良い台詞ではない。

 

「かけ声!? っていうか絶対に巻き込まないでくださいねリッチーでもかなりガチめに死ねますよこれは火葬ですよ火葬!! ……焼き払え! 薙ぎ払えっ!!」

 

 文句は言いつつ要望には律儀に応えるあたり、ウィズもまたなんだかんだでノリが良い人間なのは間違いないだろう。

 

 かけ声とともに奔る蒼穹の火閃。

 横薙ぎに振るわれたエーテルの炎を纏った斬撃は、尾を引くようにどこまでも伸びながら、地平線の彼方に至るまでの一切合財を等しく抹焼した。

 

 神殺しの魔剣から放たれた天地を分かつ焔。

 広大な大地は赤熱、融解し、切り開かれた青空からは暖かく眩しい陽光が降り注ぐ。

 奇しくも第二層、白夜焦原を人の手で再現したかのように。

 

「…………」

 

 魔法剣を解除し、無言で佇むあなたの背を見つめるウィズは言葉を失っていた。

 

 血糊を払うようにあなたが剣を振るえば音も無くエーテルの火の粉が空に溶ける。

 英雄譚の一幕と呼んで何ら差し支えない光景。

 幼い頃から英雄譚に強い憧れのあるウィズは、冒険者として羨望の対象である廃人の勇姿に全力で脳を焼かれていた。

 それどころか若干お姫様願望とでも呼ぶべき、頼れる異性に守られたいという年頃の少女じみた欲求を持ついい年を通り越してリーゼロッテ(かつての学友)からババアと呼ばれる程度の実年齢に達しつつあるこの不死者の王、今この瞬間だけではなく、実はあなたが正統派ヒーロームーブを見せるたびに脳をばっちばちに焼かれていたりする。

 彼方であなたを見ているもう一人のリッチーもまた同様に。好感度は青天井。

 

 ちなみに立っているステージが三人とは違いすぎるゆんゆんは、あまりのオーバーパワーっぷりに普通にドン引きしていたし、ベルディアは人間時代の部下達が緑色の悪魔に死と再生を繰り返す無限のデスマーチを強制されるという地獄の悪夢を見て滅茶苦茶うなされていた。

 

 

 

 

 

 

 魔法剣を解除したあなたは一息ついた。

 灼熱地獄と化した戦場に僅かな静寂が訪れる。

 

 一見すると開幕の号砲の焼き直しのような展開であり、破壊規模と結果もまた類似しているものの、これは核やメテオといった玩具とは訳が違う。

 何が違うかといえば威力の桁が違う。

 

 ゆんゆんが密かに星火属性付与(エンチャント・スターフレア)と呼ぶ魔法剣、その最大出力は正真正銘、あなた達と同格の存在にも通じ得る。

 いや、通じるどころか命に届きすらするだろう。

 超威力、超射程、耐性貫通、超広範囲と盛りに盛りまくった代償に習得難度は廃人級。

 間違って生半可なレベルで習得出来たとしても、回復する間も無く自傷で即死するので習熟する事すら不可能。敵味方識別機能無し。馬鹿と冗談と浪漫をこれでもかとばかりに詰め込んだドブ川煮込みと化している。爆裂魔法の方が余程実用性が高い。

 

『く、クソ技!! 知ってたけどこれはあらゆる意味で紛うことなきクソ技っ! 見てめぐみん、情け無用ファイヤーな世界の破壊者がここにっ!』

 

 だがゆんゆんが言うとおり、正しくこれは必殺技。

 ダーインスレイヴに私怨を燃やした愛剣が求め、強化魔法でブーストして殴るしか能が無かったあなたがこれまで持ち得ていなかったもの。

 仮に今のウィズが本当の本気で殺しに来た場合、ブラックロータスを全力稼動させてステータスを爆上げしたり強引に詠唱時間をスキップした上で爆裂魔法ぶっぱ連打という、悪魔のように残機制じゃないと普通にどうしようもないというか今のあなたをして運に身を任せるしかない地獄の確殺コンボが飛んでくるわけだが、それに十分匹敵する殺傷能力と言えるだろう。

 これをノースティリスに持ち込んだ瞬間、廃人達の戯れは次のステージに進むとあなたは確信していた。

 同時に貫通無効などという吐き気を催す邪悪が蔓延しない事をあなたは願っている。

 貫通無効無効以下略の不毛な無限ループが始まる未来しか見えない。

 

『なんかもうクソ技すぎて、これ雑にぶん回すだけでいいのでは? お手軽簡単ジェノサイドになるのでは?』

 

 融解した世界に対するゆんゆんの感想である。

 一理ある、と言えなくもないのだが、このスキルはまだまだ未熟の域を出ていない。

 鍛錬風景を見続けていたゆんゆんも知ってのとおり、今も全く制御出来ていないのでフレンドリーファイアが余裕で発生する。

 雑にぶん回すと当たり前のようにウィズにも流れ弾が飛んでしまう。先程彼女が散々喚いていたのは伊達や冗談ではない。本人も言っていたように、本気で命の危機を感じ取っていたがゆえのものだった。

 

『ああ、確かにそれはダメですね。世界が滅びちゃう』

 

 ゆんゆんの言葉通り、当然の帰結として世界が滅びる。あなたが滅ぼす。あまりにもマッチポンプが酷すぎるがまあ順当に滅びる。

 ついでにあなた自身も魔法剣の自傷ダメージが地味に馬鹿になっていない。

 

『実際滅茶苦茶燃えてましたからね。ウルトラ上手に焼けましたーってバカ! みたいな。見ててうーわってなりましたようーわって。っていうかさもオマケみたいに言いますけど、普通は自傷ダメージが使えない理由のメインになると思うんですよね』

 

 具体的には一秒につきギロチン一回分くらいの耐性貫通ダメージを受ける。これはウィズの全力ドレインタッチをノーガードで食らうに等しい威力だ。

 秒毎核十発は素直にしんどいと思えるダメージである。平時ならさておき、治癒能力が著しく低下している今、あまり使いたい代物ではなかった。

 

『即死じゃないですか』

 

 確かに一般人なら即死だが、生憎とあなたは一般人ではないので、ギロチンが十回や二十回無防備な首に直撃してもそこまで痛手にはならない。

 

『流石にギロチン食らったら普通に死んでおきましょうよ、人間として。言っちゃなんだけど、私は一般人じゃないですけど絶対死にますからね』

 

 いかにもベルディアが言いそうな台詞だとあなたは感じた。

 そんなベルディアもまた傑出した騎士であり英雄だったわけだが、ギロチンの一撃で落命している。

 これは別にベルディアが弱いとか生命力が低いというわけではなく、単純に生命としての位階の問題である。

 あなた達のように色々な枷をぶっちぎってしまった存在の強度は、常人とは完全に別物と化してしまっているのだ。今となっては自身の心臓をぶち抜いて祭壇に捧げても余裕で死なないし放っておいても新しい心臓が生えてくる程度には人間離れしている。

 廃人随一のしぶとさを誇るあなたを首狩りで即死させたければ、それこそヴォーパル並に概念レベルで首狩りに特化する必要があるだろう。

 それに人間として死んでおけと言うが、どうせいつかはゆんゆんもあなた達と似た感じになる。

 

『強くはなりたいけど、それは普通に嫌』

 

 無理であり、不可能である。

 未来のゆんゆんは是非も無くギロチン一発程度で死ぬ事が出来る儚い生命を羨むだろう。

 そしてかつては自分も同じように脆弱な命の持ち主だった事を思い出し、とうの昔に後戻り出来ないところまで来てしまった事に懐古と寂寞の念を抱くのだ。

 既に過ぎ去って久しい、遠い過去のあなたと同じように。

 

『絶望的に不吉な宣告やめてくれません!?』

 

 少女の嘆きを無視し、あなたは折角なのでウィズに問いかけてみた。

 リッチーはギロチンを食らったら一撃で死ぬのかと。

 

「えっ、なんで急にギロチンの話を……? とりあえずあのギロチン剣だけは止めてください。アレは完全にアンデッドを殺すための剣なので、びっくりするほど効きます」

 

 モンスターボールを片手にゆんゆんがギロチンに興味津々だったので、と答えると、ウィズはモンスターボールを通じてゆんゆんに形容しがたい視線を向けた。

 まあ紅魔族ですもんね、みたいな声が聞こえてきそうだ。

 

『この言い方ですよ。とてつもない誤解を受けている気がしてならない』

「とりあえず魔力が付与されてないギロチンなら普通に効きません。仮に付与されていても、一撃で死ぬかというと……まあよっぽどの代物じゃない限りは死なないんじゃないですかね? 試した事は無いですし、この先も試す予定はありませんが」

『いや、確かに人間として死んでおきましょうと言ったのは私ですけど。だからってウィズさんを引き合いに出すのは反則だしあまりにも卑怯すぎません?』

 

 当たり前のように放たれたウィズの言葉に、ゆんゆんは苦々しい声で負け惜しみ全開の捨て台詞を吐いた。リッチーはアンデッドなので人間じゃないです、などという血も涙も無い言葉を吐いたらギリギリ死なない程度にアイアンクローの刑に処していたので実に賢明な判断といえる。

 そんなこんなでネバーアローンにおけるギロチンで死ぬ派は1、死なない派が2。

 首を分離させる事でギロチンを徹底的にメタった存在(デュラハン)であるベルディアはもちろんのこと、オブザーバーの妹も当然その程度では死なないので、ギロチンで死なない派であるあなた達の完全勝利と相成った。

 

『ふぁっきゅー!』

 

 勝利の味は甘美だが、いつだって虚しい。

 ニヒルに笑いながら毒(属性)電波と化したゆんゆんと戯れていると、あなたはどこからか呆けたような視線を感じ取った。

 当然の権利のように首狩りのエンチャントを持つ愛剣を見つめて寒気を覚えたのか、首筋を擦るウィズのものではない。遥か遠くから、誰かがあなたを見ている。

 

 視線の正体などとっくにお見通しであるあなたは再び赤に染まりつつある虚空(青空)に目を向け、口角を上げて手招きした。

 ちゃんと気が済むまで遊んで(死ぬまで殺して)やるから全てを捨ててかかってこいと。

 監視者に向けてどこまでも不遜に、上から目線で挑発的に。

 

 果たして、どこからか聞こえてくる穏やかな微苦笑があなたへの返答だった。

 どうやら無事に毒気は抜けたらしい。周囲の環境も急速に沈静化しつつある。

 殺しあう相手、それもあなたのような人間にメンタルケアをさせるなど正気の沙汰ではない。全く手間がかかるリッチーだとあなたは呆れた。

 

 余談だが、先程の魔法剣と挑発に込められたあなたの意図を文章化すると以下のようになる。

 

 ――正々堂々互いに全力を出してルールとマナーを守って楽しく殺し合おうって話だったのにいきなりヘラってんじゃねーぞオラァッ! 真面目にやれ吊るすぞ!!

 

 アーデルハイドが満足死しない限り千年王国の所有権は得られないので、欝状態のままぶち殺すのはどう考えてもアウト。満足もクソもあったものではない。そういうわけであなたはあなたなりに彼女のメンタルを真剣に案じていた。

 戦う喜びを思い出すんだ、みたいな前向きでちょっと感動的な要素は一切存在しない。それどころか私情に満ち溢れていた。

 最悪サンドバッグの刑に処すしかない。あなたはアーデルハイドのメンタルが回復するまで全身全霊誠意をこめてボコボコに殴り続ける所存である。

 

 そもそも精神的に病んだ状態であなたとウィズに勝てるわけが無い。

 指揮から人間味が消えたとウィズは言うが、そんなものはただの惰性であり捨て鉢な諦めに過ぎない。

 あなたが読み合いで勝てないからと雑にスウォームぶっぱ連打していたのと何ら変わりなく、指揮官の思考停止は即ち敗北を意味する。

 何より、思考停止状態の戦闘においてあなたに勝るものなど、この世界には存在しないのだから。

 

 

 

 

 

 

 そうして、どれほどの時間が経っただろうか。

 長く喧騒に満ちていた戦場に、静寂が訪れる。

 

 無限にも思えた亡霊兵は、たった二人の冒険者を相手に、ほぼ全てが駆逐されていた。

 かつて世界の平和と希望を一身に背負って不死王に戦いを挑んだ名も無き英雄達(敗残兵)は、僅かに女王の周囲に数を残すばかり。

 

 そして今、最後の英雄部隊、大隊規模のそれが消失した。

 

 もはや空っぽの棺に等しい、赤き呪いで閉ざされた世界に、二つの風が吹く。

 

 全てを凍て付かせ終わらせる、優しく冷たい葬送の風。

 そして、おぞましく死と血の臭いに満ちた蒼い星の風が。

 静かに瞑目する女は風から死闘の予兆を感じ取っていた。

 かつて経験した全ての戦いは、これから始まるそれと比較すれば他愛の無い児戯に等しくなるだろう、と。

 覚悟を決めたアーデルハイドが静かに瞳を開けば、二人の冒険者。

 

「来たか。待ちくたびれたぞ」

 

 果たして、それはやってきた。

 アーデルハイドが仕向けた、ありとあらゆる障害をただひたすらに正面から粉砕し、蹂躙し、撃滅し尽くした果てに、たった二人の冒険者が女王の前に立つ。

 

 アーデルハイドが後にも先にもこれ以上は現れないと確信する、破格の戦闘力を有した冒険者。

 神と悪魔が揃ってこれ以上の手出しは無用と匙を投げた史上最強最悪の不死王をして決死の覚悟を決めさせる修羅の名はネバーアローン。

 その片割れ、慈悲の元に葬送を行う不死王が暗く澱みきった瞳でアーデルハイドを見つめていた。

 殺意とも敵意とも違う。ただただ澱んでいた。

 

「なんか、滅茶苦茶目が荒んでないか?」

 

 え、大丈夫? 私と戦う前から闇堕ちしてない? 戦う前に休憩する?

 思わず精神状態が心配になったアーデルハイドがそんな事を思わず口走りそうになる程度には、ウィズの目は腐りきっていた。

 どう考えても数百万の軍勢を休み無しにぶつけ続けていた自分が言っていい台詞ではないと分かっていたので自重したが。

 

「おかげさまで、味覚の退路を断った状態で長いこと戦わされましたからね。やっと終わったっていう精神的疲労が貴女を見て一気に来ただけです」

 

 軽く頭を振り、じっとりとした目で傍らの相棒を見やる氷の魔女。

 別にウィズは終わりの見えない戦いに疲弊して病んだわけではない。

 無論相応に疲弊はしているが、今回のこれは無貌の軍勢との長期間に及ぶ戦闘中の食事が、早く手軽に満腹になれて栄養満点で味が終わっているハーブ、ストマフィリア一択だったせいである。

 つまりだいたいあなたが原因だった。

 

「ああ、たまに草を食んでいるな、とは思っていたが……」

「私の食料事情はどうでもいいんですよ」

 

 若干やさぐれ気味なウィズが吐き捨てて周囲に視線を向ける。

 アーデルハイドの傍に侍るは十三体の無貌。

 一目で彼らが他とは違うと理解したウィズの目は厳しい。

 十三体の正体について見当がついていたから。

 

「彼らがあなたの最後の砦ですか」

「まあ、そういう事になるのかな」

 

 千年王国においては黄金姫の冒険譚、あるいは建国神話として語り継がれているが、遥か遠い昔、アーデルハイドには特別な仲間、かけがえの無い十三の盟友がいた。

 あるいは種族の代表者たち。

 人間、エルフ、ドワーフ、人魚、妖精、竜、ゴブリン、鬼、ラミア、ハーピー、精霊、天使、悪魔。

 奇しくも、あなた達の眼前にたちはだかる無貌達と同様の顔ぶれである。

 

「本人もいるし、彼らの子孫も混じっている。それでも私が最も信を置く手駒といえるだろう」

「仲間とは呼ばないんですね」

「これは最早ただの過去の残骸だよ。確かに深い思い入れがある事は認める。こうして傍に置いているわけだしな。だが決して仲間とは呼べない。こんなものを仲間と呼ぶべきではない」

 

 女王は最後に侍るものたちを一瞥もせずに断言する。

 全てはただの感傷に過ぎないのだと。

 

「だから、こういう事も今の私は平気で出来てしまう」

 

 最後の無貌は、一瞬で消滅した。

 あなたも一度は飲まれた闇の牙によって、跡形も無く。

 

 十三体は他の無貌とは一線を画す、間違いなく最精鋭の手駒だった。

 一目見て分かる程度には手を加えられていた。

 一体一体はゲヘナに並ぶほどではないが、それでもアーデルハイドの指揮であればそれなりに手を焼かされていただろう。

 それを捨てた。あまりにも呆気なく。

 

「言いたい事はわかる。彼らは私が最も大事にしていたもの達だ。あなた達にぶつければそれなりに良い勝負にはなったのだと思う。だが、それでは勝つ事は出来ない」

 

 それでいいのか、と言外に問うあなたの視線に、アーデルハイドは答える。

 これでいいのだ、と。

 

「過去に幕を引くのであれば自らの手で、という気持ちも無いではないが、もう少し切実な理由だな。彼らを下手に残されたくなかった。こうする事が一番私の勝率が高くなるんだ」

 

 全ての無貌が消え去り、たった一人の不死王が残される。

 孤独の王は静かに立ち上がり、厳かに宣言した。

 

「嘘偽りなく私の手駒は払底した。最早残ったのはこの身一つ。そして、そんな今だからこそ、発動条件を満たすスキルというものがある」

 

 瞬間、アーデルハイドが放つ圧力が跳ね上がった。

 驚愕に目を見開くあなた達に笑顔を向けて、最後の女王は淡々と告げる。

 

「民無き愚王の孤独な挽歌。従える者を全て失った時、全ての能力が上昇する。たったそれだけの、どうしようもないスキルだよ」

 

 幾千幾万の軍勢と引き換えにすると考えれば、割に合わないにも程がある。

 本人も言うように、所詮はただの最後の悪足掻きに過ぎないのだろう。

 

 スキルの使用者がアーデルハイド以外であれば、の話だが。

 

 自己強化を封じられた状態で、戦士としてウィズと互角に戦える実力の持ち主が強化された。

 この事実は重い。いっそ致命的なまでに。

 強化倍率こそ不明だが、跳ね上がった圧からして恐らく二倍程度。

 脅威と受け取るかしょぼいと受け取るかは人それぞれだが、ここに強化解除と能力固定が加わると話は大きく変わってくる。ノースティリス基準でもふざけんなそれはダメだろインチキだろとブーイングを食らうレベルだ。

 間違いなく現在の相手はあなたたちを能力面で優に上回っているだろう。

 

 だが一つだけ疑問が残る。

 アーデルハイドは従える者全て、と言った。

 だがあなた達は城下に溢れていた無貌、つまり非戦闘員と一度も交戦していない。

 これはどういう事なのだろう。ダメで元々と問いかけてみれば、アーデルハイドは普通に答えた。

 

「城下の亡霊は野良だ。そこらへんで自然に湧いては滅びていくアンデッドがいるだろう? それと同じ。私の影響下にあり、生殺与奪の権利を握られてこそいるが、兵のように隷属させているわけではない」

「国民を私たちにぶつける、という考えはないんですね、少し意外でした」

「利点があればやっていたさ。だが非戦闘員を玉砕させたところで得られるものが無い。そちらのリソースは削れないし無駄に長引くばかりで互いが意味も無く辟易するだけだ」

 

 話はこの辺でいいだろう。

 そう言いながら黄金の不死王が黒呪の神剣を抜く。

 

「始めようか。頼むから簡単に死んでくれるなよ」

 

 果たして相手はどれくらい強くなっているのか。

 あなたはそれを確かめてみることにした。

 

 愛剣を地面に突き刺す。

 そして瞬きの間も無い刹那の後、あなたの手にはダーインスレイヴが握られていた。

 

「その剣は――」

 

 見覚えがあるのか、軽く目を見開いた相手を無視したあなたは魔剣を抜刀。続けざまに六連流星。初手ぶっぱは基本である。

 音すら置き去りにした白刃が空間を奔る。

 ダーインスレイヴからすればアーデルハイドは親の仇。せめて一太刀くらい浴びせさせてあげようというあなたなりの思いやりだ。一太刀というか六太刀だが。

 

「見えているぞ」

 

 しかし相手も然る者。

 あろうことか、真なる体得に至った不可避にして神速の絶技の半分を受け流し、あまつさえ咎めるようにカウンターを合わせてきたのだ。これはウィズにもついぞなしえなかった芸当である。

 カウンターといっても体を切り裂かれた程度だが、驚嘆に値する反応速度と言っていいだろう。ダーインスレイヴを仕舞いなおし、再び愛剣を装備したあなたは相手の脅威度を上方修正させた。

 やはりというべきか、この領域まで来るとダーインスレイヴでは少しばかり火力不足になってくる。思考停止で六連流星を垂れ流しても殺しきれない可能性が高いし、そのうち完全に見切られて対処される未来しか見えなかった。

 

「見えているのと完全に防げるかが別問題になるあたり、我ながらどうにも格好が付かないな。それでも今の私であればこの程度は出来るさ」

 

 自嘲する女王は、バラバラに切り裂かれた全身を一瞬で再生させていた。

 王城で相対した時よりも遥かに再生力が上がっている。

 

「正真正銘、これが本当に私の最後のカードだ。少しはお気に召してくれただろうか」

「…………」

 

 かつてない激戦の予感に、ごくり、とウィズが喉を鳴らす。そして、ぱぐしゃあと耳に障る音を奏でてあなたの頭蓋が内側から爆砕した。

 盛大に弾ける血漿。飛散する脳漿。

 一瞬で頭部の大半を消失させたあなたを、臨戦態勢のウィズと軽くドヤ顔を浮かべていたアーデルハイドが「えっ!?」と二度見する。突然のショッキング映像にゆんゆんはモンスターボールの中で卒倒した。

 致命傷。人間であれば完全に即死。

 これがアーデルハイドの恐るべき剣技によるダメージである事は疑いようもない。呪われた黒剣の力かもしれない。あなたは笑顔で身構えて警戒をあらわにした。

 

「いや絶対に違うし酷い冤罪なんだが!? 今私が食らわせた百倍はダメージ受けてるだろ! なんなら戦い始めて今までで一番死にかけてる! っていうかその状態で普通に生きてる貴方が怖い! 致命傷通り越して即死だろどう見ても! あと笑顔が怖い!」

 

 随分テンションが高いな、と血まみれで友好的な笑みを浮かべるあなたは思った。

 あなた的にはいつもの事だが、少なくとも殺し合いに興じる相手に対する台詞ではない。

 

 能力面においてあなたを明確に上回った瞬間でもあったのだが、当のアーデルハイドはダメージを与えた事を誇るでもなく、モザイク必須になったあなたの頭部を見て滅茶苦茶びっくりして慌てていた。

 実際これはアーデルハイドが原因ではなく、蛇蝎の如く嫌うダーインスレイヴをこの土壇場で使われたせいでちょっと愛剣がNTRやんけー! とばかりに癇癪を起こしただけなのだが、この程度は愛剣を使うのであれば日常茶飯事。あなたからすれば犬に噛まれたうちにも入らない。

 何よりもこの程度ではあなたの命には届かない。全身ミンチ程度なら余裕でセーフラインである。日常的に心臓含めた内臓が愛剣によってフードプロセッサーにぶち込まれているのだから、それが全身になったところで何の変わりがあろうか。

 おっやっべっちょっと死ぬっ(死なない)みたいなノリだ。痛いは痛いが放っておいてもそのうち治って元通りになる。

 

 再度繰り返すが。

 心臓を丸ごと抉られた程度では。頭を吹っ飛ばされた程度では。

 あなたは死なない。癒しの女神の狂信者は死ぬ事が出来ない。

 だからこそ愛剣の愛情表現も過激になる。

 

「酷い話だ、私が言うのもなんだが狂ってる」

「ほんとですよ。本当にほんとですよ」

「というかそんな碌でもない武器さっさと捨てなさい!」

「ほんとですよ。本当にほんとですよ」

 

 敵であるはずのアーデルハイドに同調して爆速で首を縦に振るウィズはどっちの味方なのだろう。

 

「あなたの味方だからこそですよ。分かってください」

「……いや、なんでそっちはそんなに冷静なのか聞きたいんだが」

「そりゃまあ、思う所が無いでもないですが。むしろありまくりますが」

 

 あなたの無駄に凄惨な姿を横目で眺めながら、ウィズはざわつく心を落ち着かせるように息を吐く。

 

「実際問題、この程度で殺せるなら苦労しないんですよ」

 

 苦々しさを隠そうともせず吐き捨てる。

 仲間と自分がベルディアから解除不可能な死の宣告を受けた時すら優に上回る、後にも先にもこれ以上は無いであろうと確信出来てしまうほどの本当にどうしようもない絶望と挫折を叩きつけられた時の事、つまり廃人ブートキャンプ十二日目の悪夢を思い出しながら。

 間違っても仲間であり並々ならぬ激重感情を抱く相手に向ける言葉ではないが、さもあらん。彼女はそれだけの衝撃的な経験をしていた。

 

「違いない。これは相当に骨が折れそうだ。色々な意味でな」

 

 言葉とは裏腹に、アーデルハイドは気丈に笑う。

 頭部をほぼ消失させた中、蠢く肉塊から微かに覗く左目だけを爛々と輝かせ、壮絶にしておぞましい血染めの微笑を浮かべるあなたを見て微かに気圧されながら。

 あなたが纏う空気は人間とは思えないほどに不吉で禍々しく、魂の奥底にまで染み付いた死臭が全身から滲み出てきている。

 その奈落の如き瞳には、不屈の闘志、強敵への尽きぬ感謝と歓喜と敬意と思慕、そして純粋すぎる殺意が渦巻いていた。絶対にお前を剥製にしてやるのだと。

 およそ人間の放つ雰囲気ではなかった。在り方があまりにも混沌としすぎている。それでいて矛盾が無いあたり始末が悪い。

 

 ――アレは英雄と呼ぶにはおぞましく、勇者と呼ぶには壊れすぎている。アレは正義も大義も持たず、ただ純粋に闘争を求める狂った殺戮の化身だ。

 

 これで何度目になるだろう。一足先に相対した仇敵が遺した末期の言葉が今一度アーデルハイドの脳裏に過ぎる。

 黄金の女王から見て、男の精神は決定的な破綻をきたしていた。

 本当の本当に、目の前のこれがどうしようもなく終わっている、人の世にいてはいけない存在なのだとあらためて実感する。邪悪とかではなく、ただひたすらに終わっていた。

 だがしかし、だからこそ、こんなにも狂おしいほどに愛おしい。ずっとずっと待ち望んでいた、自分を殺してくれる人だから。

 それはそれとして、アーデルハイドは本当にあなたが人間なのか疑い始めていた。いくら異世界人とはいえ、あまりにも根本的な部分が、命としての在り方が自分達と違いすぎるがゆえに。

 

「楽しそうで何よりです。でも見ていて痛々しいので早く回復してください」

 

 ウィズにせっつかれ、楽しくて忘れていたと回復魔法を連打すれば、あなたが負っていた、死に至らなければ生命として間違っている傷は瞬く間に再生した。

 さながら時を巻き戻すかのように綺麗さっぱりと、何事もなかったかのように。

 

「真面目な話、あなたは死ぬというか、死ぬ事が出来るのか? ……いや、回復魔法を使っている以上不死身や無敵というわけではないのか。すまない、愚問にもほどがあった」

 

 あなたは強いが、殺されたら死ぬ。余裕で死ぬ。

 確かにあなたは廃人の中でも一際しぶといが、それでもあなたは人間なので首を切り落とされると普通に死ぬ。一方でリッチーは首を切り落とされても死なない。

 この差は非常に大きいものだ。

 

「首から下の全て、あるいは首から上の全てが消滅した場合は?」

 

 アーデルハイドの言葉に、彼女は何を言っているのだろうとあなたは心底呆れ果てた目を向けた。

 あまりにもトンチンカンな問いかけである。彼女は比類なき万能の天才のはずではなかったのか。

 首を切られたわけではないのだから死ぬわけがない。当たり前の話だ。

 

「そうか、そうだな。なんか急に頭が痛くなってきた」

「大変ですね、もう一回凍らせてあげましょうか」

「折角だが遠慮しておく」

 

 殺る気に満ち溢れた人生エンジョイ勢を置き去りに、二人の不死王が互いに奇妙な親近感と連帯感を抱く中、バケモノたちの、バケモノたちによる、バケモノたちのための、血で血を洗う闘争が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 雪が降る。

 はらはらと、はらはらと。

 人ならざるものの領域、幻想で編まれた異界に雪が降る。

 

「思ったより、だいぶ強いみたいだね」

 

 異界の主、つまりあなたの妹が空を見つめながら、ぽつりと呟く。

 妹から一方的に結ばれた契約、そして魂の繋がりを通して兄の感情が伝わってくる。

 不屈の闘志、強敵への尽きぬ感謝と歓喜と敬意と思慕、そして純粋すぎる殺意。

 

 兄の感情を受け、妹は小さく微笑みを浮かべた。

 大切な人の幸せを願い、純粋に喜ぶ。そんな無垢で、可憐で、穏やかな少女の微笑。

 かくあれかしと人々の祈りで生み出されたものならではの、人ならざる、しかし万人が目を奪われずにはいられない笑顔。

 

 だが余人がこの光景を見れば目を奪われるどころか、間違いなく目を背けるだろう。

 なにせ、両手に鮮血の如き真紅の包丁を握った妹の周囲には無数の人影が倒れ付し、びくびくと痙攣しているのだから。とんだ大惨事である。

 

 雪景色で彩られた箱庭の中、無惨な姿を晒しているのは全身を漆黒の鎧で固めた兵士達だ。

 無念と悲憤に突き動かされていた亡者による、苦痛に満ちた呻き声が白い静謐を汚染する。

 死屍累々といった有様の下手人は言うまでもなく廃人のペットであるあなたの妹。

 妹はたった今、息の一つも切らすことなく新人教育という名の一仕事を終えたところだった。

 亡霊兵たちはこの冒険が終わった後、ベルディアが面倒を見る予定になっている。つまりあなたのペットの部下になるわけで、妹にとってはベルディア同様に新人の後輩である。ちょっと今後のために何回かぶち殺すね、こういうのは早いほうがいいでしょ、と問答無用で襲い掛かる程度には脆弱極まる後輩たちに対しての情があった。ノースティリスで生きていくのなら、死亡耐性は実際大事であるがゆえに。

 現在ゆんゆんもモンスターボールにぶちこまれているが絶対に同じ事はしない。それどころか唾を吐いて中指を突き立て、そんな義理は無い、死にたきゃ勝手に一人で死ねと罵声を飛ばすだろう。

 

「完全に嫌味なんだが!? こちとらボロ雑巾なんだが!? たった一人に手も足も出ない俺達は存在価値の無いクソザコで蛆虫なんだが!?」

 

 まだ辛うじて余力のある亡霊の一人がヤケクソになって叫んだ。

 確か副団長とか自己紹介してたっけ。そんな事を考えながら頭を強めに蹴飛ばす。当たり前のように首がもげて明後日の方向に飛んでいった。どうせ復活するので問題は無い。

 

「だがだがうるさいなあ。雑魚なのは今更でしょ。今のは外の話。お兄ちゃんが戦ってる。戦いになってる。お兄ちゃんが楽しそうで私も嬉しいよ」

 

 兄を想って無邪気に笑う妹は見た目相応に愛らしい姿だったが、亡霊達には背筋が凍る話だった。

 聞けばお兄ちゃんとやらはこの緑色の悪鬼を従えているという。そんな常軌を逸した超存在と戦えるものがいるなど、彼らからしてみれば悪い冗談でしかない。

 

「相手は神とか大悪魔なんです?」

「ちょっと数百万単位で亡霊を従えてるだけのただのリッチーだよ」

 

 亡霊は一斉に震え上がった。

 

「俄然聞き捨てならねえー!」

「今ちょっとって言った? だけのって言った? ただのって言った?」

「それもう神や大悪魔と同じようなものですよね?」

「インチキチートデスマッチ確定じゃないですかやだー!」

「死んでも巻き込まれたくないんですがそれは」

「死んでる! 私達死んでるし現在進行形で死にまくってる!!」

 

 口々に喚き始めた亡霊に、妹は意外と元気があるみたいだからもう少しギアをあげても大丈夫かな、と思った。

 あなたが得意とする精神と肉体を徹底的に破壊して再構築する拷問、もといノースティリス式デスマーチは当然のように妹も身に着けている。慈悲は無い。

 

「もうちょっと優しくしてください!」

「大丈夫大丈夫。ベルディアおじちゃんが日頃やってるのよりはずっと楽だよ。私はこう見えて仲間に優しいんだから」

 

 驚くべき話だが、妹は嘘を言っていない。慈悲は此処にあったのだ。

 相手がそれを慈悲と受け取るかは別の話というだけで。

 

「これが優しいって何やらされてんだよあの人……」

 

 慄然とした震え声に妹は平然と返す。

 終末狩りだよ、と。

 

「あまりにも字面が終わっておられる」

「具体的な中身は絶対知りたくないんですがそれは」

「知りたくなくてもどうせそのうちお前らも一緒に味わう事になるんだから安心していいよ。おじちゃんとまた一緒に戦えるってのはそういう事だから。良かったね、そんな惨めで空虚な姿に成り果ててもそれを望んでたんだから嬉しいでしょ? お兄ちゃんの慈悲深さと偉大さをあらためて理解できたよね? できたならお兄ちゃんに無限の感謝と忠誠を捧げろカス共。さあ休憩終わり、続きを始めるよ」

 

 存在の核である朽ちた剣がある限り、漆黒の亡霊兵に消滅という名の安息は決して訪れない。

 それを理解するがゆえに、妹はベルディアの旧友である部下達を殺す。己の死を無数に積み上げる事で鍛え上げるという、自分達のやり方を徹底的に叩き込む。

 何度でも、何度でも。

 お前らを死ぬまでボコボコにするし死んでもボコボコにするという、あなたが聞けば妹のあまりの親切さ、思いやり、人格的成長に感涙を禁じえない処刑宣告。

 雪原に、絶望の慟哭が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「ははっ、ハハハハハッ!! 強い、本当に強いなあ! まるで夢のようだ!!」

 

 孤独な女王が狂喜を隠そうともせずに剣を振るい、魔法を唱える。

 二人の冒険者を相手に、一歩も引かずに真正面からの命のやりとりに興じる。

 昂ぶりに呼応されるかの如く、爛々と、煌々と、黄金の魂が在りし日の輝きを再現するかのように激しく燃える。

 朽ち果て腐り堕ちてなお、失われぬその輝きこそが彼女の根幹であり所以。

 後にも先にも終ぞ続くものが現れる事はなかった、この世界において最初で最後、そして最大最高の勇者(魔王)姫が吼える。

 この生と死の狭間で自分と踊ってくれるものがいる。これでいい。これだけでいい。他には何もいらない。

 

「きっと今の私なら神や大悪魔ですら簡単に殺してしまえるのに! ここまでやってもあなた達は死なないのか! ここまでやっても殺せないのか! ここまでやらないと勝負にならないのか!!」

 

 互いに命を奪い合い、攻防がめまぐるしく入れ替わる至近距離で蒼と黒の魔剣が幾重にも交差し、音速を超えた剣戟という名の絶技の応酬が火花を散らし、純粋すぎる暴力の応酬に時間と空間が悲鳴をあげる。

 光を除く全属性の破壊魔法が星々のように煌き、極彩色の光輝が全てを塗り潰していく。

 途切れることなく乱れ飛ぶ剣と魔法はその余波だけで枯れ果てた荒野を抉り取り、瓦礫と化して天高く舞い上がるは砕け散った大地。

 廃人と魔女対魔王の戦いは、余人の介入を許さない破滅の嵐がただひたすらに吹き荒れるばかり。

 

 戦況はほぼ互角。

 ネバーアローンとアーデルハイドは限りなく拮抗している。

 

 そう、限りなく拮抗している。

 もう少し正確に表現すると、ほんの僅かにだが、あなた達のほうが押されている。

 

『嘘でしょ……二対一なのに……』

 

 何やらゆんゆんが絶望しているが、アーデルハイドには序盤からやりたい放題されているので、あなたとしてはあまり驚きは無かった。むしろこれくらいはやってくれないと困るとすら思っていた。

 かくいうあなたも友人達と戦う時、泥仕合耐久地獄を終始強要できれば、同時に二人相手までなら勝てたりする。滅茶苦茶頑張る必要があるしゲロを吐くほどしんどい思いをする事になるが、それでも一応勝てる。

 これはあなたが特別強いわけではない。他の友人達も同様に、自分の強みを全力で押し付けて押し潰せば、同格が相手でも二対一までなら辛うじて勝てる、そういう絶妙なパワーバランスになっているというだけだ。ちなみに三人同時は無理だ。普通に死ぬ。

 

 体感だが、あなたの回復魔法と治癒能力は平時の1%にまで性能が落ち込んでいる。

 一方で相手の再生力は黒と蒼の不死鳥夫妻に匹敵する域に達していた。

 これでウィズの回復力まで同等に上がっていたら話は多少変わっていたのだが、残念な事に変化は無い。フィールド効果でコンディションが絶好調になっているだけだ。

 そしてこの再生能力に仕掛けは無い。真正面からの力押しで殺し切るしか選択肢が存在しない。

 終わりは確かに存在するが、あなたとウィズをもってしても終わりは見えない。

 

 相手の能力強化、もしくはあなた達にかけられている能力固定化。

 これらのどれかをどうにかしない限り、このまま互いのリソースを削りあうだけの状況が続くだろうとあなたは睨んでいた。

 泥仕合はあなたの十八番だが、そうなると恐らくウィズがもたない。

 

 四次元に封印されし究極必殺兵器(アルテマウェポン)、黄金の林檎を口にぶちこめば容易に天秤はあなた達に傾くだろうが、アーデルハイドを真正面から打ち破って満足死させるという勝利条件は確実に満たせない。あなたにも気に入る勝ち方と気に入らない勝ち方くらいはある。一度封印したものは潔く封印したままにしておくことにした。

 

 さて、そんなアーデルハイドであるが、まさしく世間のリッチーの評判を裏切らない畜生戦術やスキルを散々っぱら使ってあなた達を苦しめておきながら、当の本人は正々堂々の超絶ガチンコ仕様だった。

 邪悪なりし不死王としてあるまじき話だが、あなたと打ち合うアーデルハイドの剣は、どこまでも正道であり、王道のそれである。

 すなわち、速く、鋭く、柔軟で、攻防に隙が無い。

 気高さすら感じられる、芯の通った鋼の如く、折れず曲がらず欠けの無い、真っ直ぐで実直な剣術。

 シンプルイズベスト。最高峰のスペックを持つ万能の天才は、結局のところ余計なことをせず普通に戦うのが一番強いという事なのだろうか。

 性質が悪いとしか言いようがないが、芸術品にも等しいそれは、まさしく見るものの目を奪う眩き黄金の英雄の剣であり、勇者の剣であった。

 

 一方の魔法についてだが、あなたが言える事は特に無い。

 あなたと戦いながら、同時に純粋な後衛として立ち回るウィズと対等に渡り合っている。

 説明としてはこれだけで十分すぎるだろう。

 

 つまるところ、ただひたすらに完璧だった。

 アーデルハイドはあなたなどでは到底及ばない、完璧な魔法剣士である。

 あなたはここまで剣と魔法を両立させた戦士を見た事が無かった。

 

 恐るべき技量。恐るべき才覚。恐るべき不死王。

 強敵。何より得難いもの。ハンティングトロフィー。最上位の剥製候補。

 お前も博物館に飾ってやるってんだよ!

 

 高揚と共に、あなたの殺意のボルテージが上がる。

 現状はそれなりにピンチといえる。

 それでもその表情から凄絶な笑みは消えない。少なくともあなたの意識が物騒な遊び(日常茶飯事)の域を出る事は無い。

 今は、まだ。

 

 

 

 

 

 

 アーデルハイドは心の底からあなた達との戦いを楽しんでいた。

 だが、今の彼女が熱に浮かされて状況を見誤ることは無い。

 心のどこかでもう一人の自分が冷静に見定め、呟きの声をあげる。

 

(状況は私が若干優勢といったところか)

 

 過小評価でもなく、過大評価でもない。

 アーデルハイドは現在の戦況を誰よりも正確に把握していた。

 二対一の状態でもなお自分が押している。優勢であると。

 それは間違いなく、疑いようも無い事実だ。

 

 勝負の土台に立てている、なんてものではなく、確かな勝ち目が見えている。

 その事実を、しかしアーデルハイドは心底恐ろしいと思わずにはいられない。

 

(ここまでやって、ここまでやってようやくだ。形振り構わない初見殺しと運否天賦の全てを成功させて、ようやくだ。間違いなくこれ以外に私の勝ち筋は存在しなかった)

 

 自分が圧倒的に有利なフィールドで、相手の強化の一切を封じて、全ての手駒をぶつけて少なからず心身を疲弊させ、自分を理論上最大の状態まで強化した。

 その上でようやく有利を得られている。

 逆に言えば、これらのどれか一つでも覆された瞬間にアーデルハイドの敗北が確定する。

 薄氷の上で踊り狂うような、奇跡的なバランスでの立ち回りを強いられている自覚があった。

 

 それでも現在優勢なのは確かなのだから、アーデルハイドからすれば一気呵成に勝負を決めたいところだったが、中々そうもいかせてくれない。

 相棒であるリッチーを守る形で立ちふさがる剣士が、恐るべき魔王のあらゆる攻撃を正面から受け止め、痛みや疲れなど知らないとばかりに反撃し続けているからだ。

 

 希望を砕く呪われた神剣から繰り出される剣技も。

 無数の英傑を容易く塵芥にしてきた大魔法も。

 高位天使と爵位持ち悪魔(かつての仲間)を狂死させ、隷属させた不死王のスキルも。

 たった一人の人間を殺しきることが出来ない。

 

 当然ながら剣士は激しい戦いの中、これまでの比ではないペースで傷を負っていくのだが、あらゆる攻撃も呪いも即座に命までは届かないし、生きているならどうにでもなるとばかりに回復魔法を連打してくる。

 引かない。止まらない。膝を突かせる事が出来ない。絶えず浮かべている喜悦と殺意に満ちた笑みを打ち消す事が出来ない。

 遅滞戦闘。泥仕合。耐久地獄。リソースの削り合い。

 字面だけでげんなりする、ろくでもない言葉の数々が脳裏に過ぎる。

 

(よく我慢強く凌ぐと思ったが、これは違う)

 

 ただ単純に、同格以上との対戦経験に慣れているというだけなのだ。

 それも自分たちのような絶対強者にありがちな、今の強さを手に入れるまでの経験ではない。そういうズレが全く感じられない。

 つまり、今の強さを手に入れた後で、濃密と呼ぶ事すらおこがましいほどに、同格の相手との戦闘経験を繰り返し、積み上げてきている。

 自身で出した結論にちょっと待て、と思わずツッコミを入れずにはいられない。

 

(こんな世界を破壊出来るバケモノの得意分野が泥仕合で? 殲滅戦からの耐久地獄も上等の構えで? おまけに同格以上と戦い慣れている? 才能自体は見るべきところのない凡人? なんだそれ。盛りすぎだろ。普通に許されないだろうが……!)

 

 剣を交えれば分かる。

 単純に素質だけで物を言うと、戦士としての彼は決して凡庸の域を出る事はないのだと。

 無貌の中でも最下級、名も無き一般兵のような有象無象であり、吹けば消し飛ぶ路傍の石のような価値しか持たない人間が、不朽の黄金と対等に渡り合っている。

 神々や精霊、悪魔といった超越存在から力を得て一足飛びに強くなったのではなく、ただひたすら愚直に剣を振るい、強さを積み上げてきたのだろう。そういう、地に足が着いた強さをしている。

 だが、凡人がここに至るにはどう考えても積み上げる過程で数え切れないくらい死ぬ。死んでいなければおかしい。

 

 あまりにも理不尽が過ぎる。どんな狂った世界からやってきたというのか。

 美貌の魔法剣士はこんなインチキ狂戦士呼ぶんじゃないよ絶対制御しきれてないだろバカがよふざけやがって、と神々に呪詛を送った。

 その瞬間、世界のどこかで水の女神と幸運の女神が全く同じタイミングで右足の小指を思い切りぶつけて悶絶したのだが、不死王の呪詛との関連は定かではない。

 

 

 

(相方も相方だ。魔法使いに対する殺意が高すぎる)

 

 王城で軽くやりあった時は互いに探り合う様子見の段階であったし、何より近接戦闘を交えていたので明確な有利不利は無かった。

 だがしかし、完全に後衛に徹している現在のウィズはアーデルハイドをして鬼畜の一言に尽きた。

 

(私が使う魔法に対して常に有利な属性で上から殴ってくるというのは、その、なんだ。無慈悲が過ぎる)

 

 そうでもしないとステータスの関係で力負けするから、という切実な理由があるのは分かるのだが、それにしたってあまりにも才能の暴力で殴られている感が凄まじい。

 アーデルハイドも魔法を使う際、無数にフェイントを交えたり発動を偽装したりと手を変え品を変えウィズの魔手を掻い潜らんと足掻いたのだが、全ては徒労に終わった。今では開き直って普通に戦っている。それ以外の手が無かったともいう。完全に匙を投げるしかなかった。

 

 ウィズは自分が呼吸をするようにできる魔法の相殺合戦をただの児戯、大道芸と称していた。

 そんな彼女が真面目に魔法使いと戦うとこうなる。相手を冷徹に、機械的に圧殺する作業と化す。

 やっぱり氷の魔女じゃないですか! とウィズが聞けば涙目で俯いてぷるぷる震える感想をゆんゆんが抱くのも当然と言えた。

 

 こと近接戦闘を介さない純粋な魔法戦において、本気になったウィズとの間に駆け引きや読み合いという概念は余程の事が無ければ成立しない。

 魔力の流れを読み解くウィズの瞳と知識、そして圧倒的な詠唱速度。これらが未来視にも等しい絶対的有利を彼女に約束するからだ。

 

 ゆえに、勝機を求めるのであれば、物量火力出力といった純粋な能力面で彼女を上回る必要がある。

 最上位の悪魔ですら素直に認めざるを得ない、歴史に名を残すほどに卓抜した才能を持つ魔法使いを相手に。

 もしくは無詠唱爆裂魔法といった超速攻超火力の(机上論にも値しない)一撃必殺で跡形も無く消し飛ばすか。

 

 前者であれば、ウィズの幼少期に血を吐きながら追随してくる自称ライバルがいた。狂気にも似た精神性の前に遂には折れたが。

 後者も天才にして天災じみた、どこぞの頭のおかしい紅魔族のみが有資格者足りえるが、これまたどこぞの頭のおかしい異世界産冒険者が趣味と実益を兼ねてウィズの心身をガチガチに鍛えこんでしまったので、今のところ勝ち目は絶無だと言わざるを得ない。

 当のウィズ自身もリッチーになった直後、バニルに会うべく魔王城に単独で真正面からカチこみをかけ、流れ作業のようにいとも容易く、幹部数名を含む魔王軍の最精鋭を不殺で制圧出来てしまったせいか、これ以上無駄に強くなっても仕方ないですよね、みたいな無意識の傲慢さ、あるいは一足飛びに理外の力を得た自分への恐れがどこかにあったのだが、今となっては嘘のように払拭され、真剣に自己研鑽に勤しんでいる。

 それ以前も趣味の範囲でオリジナル魔法の研究こそやっていたが、隠居した氷の魔女が一人の戦士として本格的に返り咲いたのは、間違いなく異世界廃人が盛大に焚きつけたせいだ。

 

 私がこれ以上強くなっても、あなたは私を孤独にしない。

 私は決してあなたにだけは置いていかれたくない。

 私はいつまでもあなたと共に在りたい。

 そんな、切なる願いと祈りがあった。

 

 閑話休題。

 

 幸いというべきか、最大強化状態のアーデルハイドは能力面でそれなり以上にウィズを圧倒している。だからこそ魔法戦においても拮抗に等しい形で推移しているわけだが、素面の能力で魔法戦は絶対にやりたくないというのが勇者にして魔王の率直な感想だった。

 しばらく立ち直れない程度には心とか矜持とかがバキバキに圧し折られるという嫌な確信があった。

 

 強敵こそ自分が願い望んでいたもの。文句などあろうはずもない。

 それはそれとして、これで異世界人でないというのだからちょっとどころではなくおかしい。

 どんな環境で生まれ育ったというのか。

 アーデルハイドはこんなクソバカ性能のアンデッドを放置してるんじゃないよ世界の管理者を自認するなら真面目に仕事しろアホがよふざけやがって、と神々に呪詛を送った。自身の脳天に特大のブーメランが直撃しているのはご愛嬌。

 そしてその瞬間、世界のどこかで悶絶する水の女神と幸運の女神が全く同じタイミングで左足の小指を思い切りぶつけて七転八倒、世の無常を呪ったのだが、不死王の呪詛との関連はやはり定かではない。

 

 

 

 

 

 

 傍目にはアーデルハイドと五分の魔法戦を繰り広げ、圧倒的な暴威を振り撒きながら、しかし忸怩たる思いを抱く一人の女がいた。ウィズである。

 彼女は誰よりも理解していた。このままでは自分が一番最初に脱落すると。

 あまねく生者に苦痛と絶望を与えて呪い殺し、廃人にすら枷を嵌め、アンデッドに最大限の恩恵を与えるこの大地だが、いくらなんでも永久無限に戦い続けられるほどの活力を与えるわけではない。

 その証拠にこれまでの戦いで既にブラックロータスは八つを使用しており、消耗は激しいの一言。更に加速する激戦の中、リソースの枯渇が真剣に現実味を帯びてきている。

 かつてない長期戦闘により、精神的な疲労も無視出来ない程度にはあった。

 

 最初からアーデルハイドと戦えていればこうも苦労する事態には陥っていなかっただろうが、その仮定は無意味が過ぎるというものだろう。

 仕上がった十全のリッチーと戦うとはつまりこういう事なのだと、赤子に等しいリッチーは否が応でも痛感させられている形になる。

 

 翻って、戦うと元気になるタイプの相方は現在進行形でアーデルハイドと文字通り血で血を洗う切った張ったを繰り広げており、真面目に人間なのか疑わしくなってくる。

 おまけに速度差という絶対的な優位をあえて捨てた状態で戦っている。他ならぬウィズがいるがゆえに。

 

 だからといって、私の事は気にせず、速度を最大まで引き上げてください(私の事は置いていってください)、などとウィズが言えるわけも無く。

 考えただけで自分への怒りと失望で目眩がする提案だった。

 何より、一人で戦わせてしまったが最後、このパーティーは遠からずして瓦解するという予知にも似た確信があった。

 ウィズは決してあなたに見切りを付けられる、とは思っていない。その程度には信頼も信用もしている。自分が追いつくまで気長に待ってくれるのだろうと考えている。

 ゆえに懸念すべきはあなたではない。むしろ逆。ウィズは、自分が自分に見切りを付けることを何よりも恐れていた。

 

 今回の旅が始まる直前、ウィズはあなたと一つの約束を交わしている。

 いつかバニルが本懐を遂げ、店を畳んだ後。風の吹くまま、冒険の旅に出ようと。

 それは不死者である自分と同じ時を生きると、他の誰もが逝ってしまった後であろうとも自分と共に在ってくれるのだという確約。

 

 きっとこの先二度とこんな出会いは無い。そんな確信がある。

 自分一人では、出会いと死別を繰り返し、やがて以前のように静かに隠遁して、人々の平和で温かい営みを心のどこかで羨みながら見守り、たまに再会した長命の者と昔の思い出話に興じる。そんな未来が続いていくのだろうと思う。

 それが悪いとは言わない。

 ただ、少しだけ寂しいと、そう感じる。

 大事な人と一緒に、子供の頃から憧れていた、自由な冒険の旅に出る事よりは、ずっと。

 

 だから、約束は、果たさなければならない。

 その時のために、あなたに追いつかなければならない。

 少しでも早く、あなたの隣に立たなければならない。

 

 状況を打開する手段について、思い当たる節があるといえば、ある。

 だが、それはリッチーのスキルであり、今のウィズには決して会得出来ないもの。

 別にリッチーのスキルを使いたくないとか人間として戦いたいとか、そういった理由ではない。

 ウィズは使えるものは遠慮なく使う派である。

 

 では何が問題なのかといえば、純粋にリッチーとしての格が足りていないのだ。

 そしてこれは単純にレベルを上げてどうにかなる問題ではない。

 

 リッチーとは不死王の名が示すとおり、アンデッドの王である。

 配下を持たぬ王など、所詮は王を僭称する者でしかない。

 つまるところ、冒険者(最弱職)のスキルアンロック条件がスキルを自分の目で見る事であるように、配下にしたアンデッドの数と質こそがリッチースキルのアンロック条件だった。

 

 言うまでもないが、現在ウィズが従えているアンデッドの数はゼロ。

 悲しいかな、リッチーが最初から覚えられるスキルしか身に着けていない。

 素材収集の折、手ごろな人足として仕留めたモンスターをアンデッド化して手駒にするくらいはやっていたが、それらも用が済んだらさっさと昇天させていた。

 

 そもウィズは彷徨えるアンデッドを昇天させる事を己が使命と定めている。

 自身の手駒として永遠に縛り付けるなど言語道断の話だった。

 

 それを踏まえた上で、今だけは支配下のアンデッドを増やす必要がある。

 可能な限り早く、そして大量に。

 だが全滅させた無貌を含め、この地に湧き出るアンデッドは等しく最古にして最強のリッチーの影響下に落ちる。赤子のリッチーが手を出せるはずもない。

 

 だから、ウィズは。

 あなたに向けて一つの念話を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 ウィズからの念話、つまり要請を受け入れたあなただったが、いかんせん余裕というか相手に付け入る隙が無い。

 近接戦闘による削り合いという、あなたが自身の得意分野に徹底してなお現在の状況なので、ウィズの手が一時的に空くような状況はあまりよろしくない。

 回復魔法の連打でごり押しすれば何とかならなくはないが、どれくらい時間が必要になるのか分からない以上、少しばかりリスクが高い。現在のあなたは攻撃や補助魔法の数々すら封じて回復魔法のために魔力を温存しているような状態だ。

 つくづく自己強化が封じられているのが痛い、とあなたは改めて感じた。

 ノースティリスの冒険者にとって、自己強化魔法は装備と同じく使って当たり前のもの。なのでペットも使わず完全に素面の能力のままではこの領域で戦うには少々厳しいものとなる。

 

 だがそれはそれ、これはこれ。

 得がたい強敵相手に不満などあろうはずもない。

 

 贅沢な悩みにあなたが頭を痛めていると、それは起きた。

 あまりにも予想外かつ突然の出来事だった。

 本当の本当に何の前触れも無く、あなたの視界がノイズで埋め尽くされたのだ。

 

 いや、視界だけではない。

 ざりざり、がりがりと。聴覚と思考にも強いノイズが走っている。

 こんな真似が出来る、というかするような相手はアーデルハイドしかいないが、恐らく彼女の仕業ではないとあなたは認識していた。あなたを相手にこんな無茶を通せるのなら、もっと早い段階でやっているだろう、というのが主な理由である。

 それでいて弱体化や呪いの類でもない。

 純然たる異常現象だが、そうなるとやはりまた女神エリスの仕業だろうか。この際強制送信されてくる毒電波(スパム)については何も言わないので、せめて視界ジャックは本気で止めてほしいとあなたは思った。この状態でも戦えないわけではないが、普通に邪魔だし戦闘妨害が酷い。抗議も辞さない構えである。

 

 苛立ちながら直感に従って剣を振るうあなただったが、ふと、ノイズで殆ど潰れた視界の隅に鮮やかな緑色が見えた瞬間、その思考は完全に空白と化した。

 

「えっ!?」

「まっ、おい!?」

 

 動きを止めて完全に無防備の棒立ちと化したあなたは、当然のようにアーデルハイドから痛恨の一撃を受けた。即死しないと理解していたがゆえの暴挙ではあるが、今まで負ってきた傷とは比較にならない深手である。

 あまりにも意味不明な行動。二人の不死王から強い焦りの気配が伝わってくるのは当然だろう。しかし今のあなたはそれどころではなかった。

 自身の治療とアーデルハイドの相手もおざなりに、ざらついたノイズの先に全ての意識を集中させる。

 まるで、自分はここにいるのだと、声高に叫ぶかのように。

 

 戦闘を放棄したとしか思えないあなたの姿には、無論だが理由がある。

 目の前の強敵というご馳走を二の次とするほどに、それは最優先しなければならない事柄だった。少なくとも、今のあなたにとっては。

 

 緑色から微かに感じたのはあまりにも見知った気配。

 妹のものではない。狂おしく、懐かしく、温かく、愛おしい何か。

 

 どこかから、何かが届こうとしている。

 誰かが、他ならぬあなたに向けて何かを届けようとしている。

 それが分かっていたから。

 

 そして。永遠にも等しい数秒の後。

 遥か遠い空の果て。

 宇宙の深遠すら越えた概念の向こう側。

 世界を隔てる見えない壁に、小さな、本当に小さな、ひとつの穴が開いた。

 

 向こう側から、何かが来る。

 あなたは超自然的な直感でそれを理解した。

 

 何かが来る。

 神も悪魔も認識していない世界。

 本来であれば決して繋がる事がなかった、繋がるべきではなかった世界から。

 

 そして。

 

 

 

 

 ――a。

 

 聞こえる。

 

 ――moi。

 

 少しずつ晴れていくノイズの先から。

 誰かの声が、聞こえてきた。

 

 ――…………っもい! 重い!

 

 あなたの耳には、少女のような、誰かの声が聞こえている。

 あなたの目には、少女のような、誰かの姿が見えている。

 

 ――負荷が滅茶苦茶重いし、なんか死ぬほど神託(電波)の通りが悪い! 異世界だからって明らかにおかしいし、これ絶対に時空間の狂った変なとこにいるパターンでしょ……!

 

 癒しのジュア。

 あなたが信仰する女神がそこにいた。

 

 幻覚なのでは、などという愚にもつかない思考はあなたに存在しない。

 いと尊き癒しの女神の声が、幾年の時を経て、異邦の地で戦うあなたに届いたのだ。

 ノイズが晴れたあなたの視界の隅に、ミニチュアサイズの自身の姿を投影するというサービスつきで。

 

 ――負荷3117%!? こんなの初めて見るっていうか完全にバカの数字でしょ!! ……あ、繋がってる。……ちょっと、聞こえてる!? 見えてる!? 生きてる!? よし生きてるわね! もう、長いこと連絡もよこさないで心配ばっかりかけて! 今どこで何やってるの!?

 

 ぷりぷりと頬を膨らませながらも、あなたの安否を確認する声を届けてくる、三頭身のマスコットと化した脳内女神。

 表情とは裏腹に、頭と背中に生えた羽がぱたぱたと嬉しそうに動いている。

 

 ジュア様は最高でおじゃるな!!

 

 その姿のあまりの可愛らしさと尊さに、癒しの女神の筆頭信者は、頑健さで知られるピンク色の巨大リザードマンよろしく断末魔じみた絶叫をあげ、盛大に吐血して膝から崩れ落ちた。

 それは、内臓がミンチになっても、頭蓋が弾け飛んでも、どれほどの深い傷を負っても、あなたが決して晒すことの無い姿だった。

 年単位で欠乏していた信仰を原液で直接ぶち込まれた結果、あなたの全身はこの世界に来て最大の多幸感(ダメージ)を受け、この世界に来て最大最高の致命傷を受けたのだ。

 致命傷で済んだのは半ば奇跡だろう。全身が弾け飛んで回復する間も無く死亡しても決しておかしくはなかった。愛剣を杖に片膝をつき、血涙を垂れ流して神に感謝を捧げる。

 

 ――ああ、うん。なんかあなたのそういう他の子みたいなちょっとアレな反応ってだいぶ懐かしいわね。とりあえず元気みたいで良かったわ。

 

 きっしょ、これだからジュアの狂信者は嫌なんだ。信仰がキマってやがる、みたいな謂れの無い誹謗中傷を受けがちな信者の姿には癒しの女神も苦笑い。

 明らかに半死半生を通り越して九割九分死んだ筆頭信者に向ける台詞ではなかったが、イルヴァという命がペラ紙より薄い世界で生きるあなた達のノリは基本こんな具合である。

 

 

 

 

 

 

 あなたが脳内で狂喜乱舞する中、外野は大変な事になっていた。

 事情を把握していないゆんゆんとウィズ、ついでにダーインスレイヴは虚ろな目でぴくりとも動かない、限りなく死体と化したあなたの姿に悲鳴をあげているし、まさかこれで終わりなのか、嘘だといってくれとアーデルハイドの顔は悲痛と絶望に歪んでいた。

 あなたをエリー草で治癒すべく、あなたに必死に駆け寄ろうとするウィズ。

 本気であるがゆえに手を抜けず、暗く淀んだ目で無慈悲に回復を妨害するアーデルハイド。

 そして、戦場を怒号と絶望の空気が支配する中、ガタガタと震え、顔面蒼白になりながら、人知れず覚悟を決めようとしていたゆんゆん。

 

 そう、お世話になった師の為、一瞬でも相手の隙を作る為、モンスターボールから飛び出して、己の命を投げ捨てる覚悟を。

 

 あなたは一目見て限界を超えた姿を晒したのだ、三者の反応も無理は無いだろう。

 実際のところ、限界は限界でも違う意味の限界だったが。

 すれ違いが引き起こす、傍から見れば完全にバカの織り成す光景だった。

 

 バカの光景とはいえ、実際悲劇が起こる寸前だったのは間違いない。

 あなたは事実死に掛けていたし、癒しの女神は異世界特有の命の重さを知らないし、ゆんゆんの献身は何の意味も成さない。どうしようもなく犬死にで終わる。

 ベルディアであればバーッカじゃねえの!? このコント全然笑えねえんだけど!? くらいは言うだろう。言わないわけがない。

 

 だが、諦観に染まったアーデルハイドがあなたに止めを刺さんと剣を振り上げ、ウィズの目の前が真っ暗に染まり、ゆんゆんが悲壮な覚悟を決めたその瞬間。

 あなたの全身に、温かく柔らかな光が降り注いだ。

 降り注いだという言葉は比喩ではない。質量すら感じられる密度の光はあなたの全身を隠して塗り潰してあまりあるほどであり、さながら光の滝のよう。

 

「――――ッ!?」

 

 極めて強い神気を発する聖なる光輝を前にしたウィズとアーデルハイドは瞠目し、全力で後方に飛び退いた。

 それは完全に反射的な行動であり、退避であった。

 色々な意味でよく見える目を持つ二人は、この光に傷を癒す効果があるという事を瞬時に看破していた。

 同時にこの光が、今まであなたが使っていた回復魔法とは違い、自分たちのような魔に属する者に対して恐ろしく覿面に効くであろう事も。

 

 古く、強い力を持つ光。そして荘厳で圧倒的な何者かの気配が周囲に満ちる。

 明らかな高位神格による介入に、ウィズは知り合いである水の女神、アクアを想起するが、即座にこの光は別の存在によるものだと判断した。

 アクアは水と癒しを司る女神だが、この光には水の気配が欠片も含まれていない。

 

 水ではなく、光。

 傷を癒し、闇を晴らす。あまねく不浄を祓う破魔の力。

 それはまるで、あなたが持つ、信仰する女神から賜った神器であると自慢げに話していた純白の槍にも似た。

 

「まさか、あれは――」

 

 何かに勘付いたウィズの小さな呟きには窮地を脱したことによる安堵の色が濃い。

 だが同時に、彼女自身気づいていない感情もまた内包されていた。

 それは本当にほんの僅かな、しかし確かな不安と懸念。

 

 ウィズの内心を置き去りに、光の波濤が収束し、あなたが立ち上がる。

 満身創痍だった筈の体は完全に回復しており、戦い始める前の完璧なコンディションを取り戻していた。

 そして何よりの変化として、真っ直ぐにアーデルハイドを見据えるあなたからは、ずっと浮かべ続けていた笑みが完全に消えていた。

 

「――っ」

 

 思わず息を飲む。

 それは、遊びも、殺意も、狂気も含まれていない、どこまでも真剣な表情であると同時に、ウィズが過去に一度だけ見た事があるもの。

 かつてアクセルの共同墓地で自分を滅ぼそうとしてきた水の女神と相対した時、あなたがこんな顔をしていた事を、彼女はよく覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 ジュアの祈り、という技能がある。

 癒しの女神の名を冠する事から容易に想像出来るように、傷を癒すスキルだ。

 単に回復するだけなら魔法でいいだろうという話だが、このジュアの祈り、なんと効果量が信仰の深さに比例する上、魔法のようにストックという概念が存在しなかったりする。

 連打しても疲労困憊するくらいしかデメリットが存在しないのだ。

 

 つまりどういう事かというと、あなたのような極まった狂信者が対人戦で使うと、一気に無法の産物と化す。泥仕合メーカーであるあなたを支える屋台骨だ。

 信仰対象の声すら聞こえない異世界に迷い込んでからは使えなくなってしまっていたのだが、女神から戦闘中みたいだし(無駄に)深手だしちょっと確認したい事があるから使ってみなさいよ、と有無を言わさぬ声色で促されたので使用した次第である。

 どうやら女神の声が届く現在の電波状況では使用可能らしい。音の出るゴミ(不燃)と化した願いの杖も今なら使えるのかもしれない。

 おまけに著しく弱体化した回復魔法と違い、回復量が一切低下していない。不死王の領域による回復阻害を貫通している。

 ホーリーランスがウィズに効果抜群だったあたり、癒しの女神由来の力はこの世界の不死者に対して強い効果を発揮するようだ。いかんせん愛剣との相性が絶望的という言葉すら生温い有様なので併用は絶対に出来ないが。

 

 ――よし、いつも通りの回復量ね。……別に浮気を心配してたわけじゃないけど!? もちろん信じてたけど、一応確認しておかないと、色々困るでしょ!?

 

 そんなスキルを使った女神の反応がこれである。

 何が困るのかあなたには全く分からなかったが、とりあえず雑に流しておく事にした。

 まさか本気で改宗を疑われていたわけではないだろうが、何かしら懸念すべき要素はあったのかもしれない。

 かくいうあなた自身、心当たりが全く無いというわけでもない。

 具体的には水、幸運、怠惰と暴虐の女神から意識的、無意識的問わず粉をかけられた経験がある。

 中でも幸運の女神エリスからは変装姿である包帯頭を通じて凄まじいアプローチが送られていた。放っておいたら包帯頭がエリス教の名誉聖人認定されそうな勢いで。

 ふと思い立ったあなたは、久しぶりに使ったスキルの光が全身に降り注ぐ中、折角の機会だからと祈りを捧げておいた。あなたは全回復した。地味に三割程度にまで減っていた魔力も全回復して眠気もスッキリである。

 

 ――コホン。あんまり時間も無いからさっくり本題に入るけど。こっちにはいつごろ帰ってこれそうなの?

 

 中々実家に帰省しない息子に対する母親のような物言いだとあなたは感じた。

 帰ってくる気があるの? とは当然のように聞いてこない。

 さておき、あなたは心配をかけてしまった事、長い間連絡出来なかった事を謝罪し、現状帰還の目処が立っていない事を正直に伝えた。

 

 ――やっぱりそんな事だろうとは思ってたわ。言っておくけどこっちから引き戻すのは無理だからね。あなたがなんとかして帰り道を見つけて、自力で帰ってきなさい。

 

 あまり無茶をすると互いの世界を隔てる壁が崩壊したり、神々による戦争が起きたり、最悪二つの世界の法則が混ざり合って宇宙規模で混沌や虚無に飲まれて大変な事になるらしい。

 それはそれで楽しそうではあるが、神による異世界への干渉自体に問題は無いのだろうか。

 

 ――私が完全顕現するのは100%アウト。でもこうして小さい穴を開けてごく短い時間だけ神託を届けるくらいなら、多分大丈夫。向こうにもばれてないはずだし。一回くらいは大丈夫だといいなあ……。

 

 愛くるしい姿の脳内マスコットは冷や汗を流してそっと目を逸らした。

 あまり大丈夫じゃないのかもしれない。

 眷属から絶対止めろと釘を刺されていてもおかしくはない。

 

 ――うん、まあ、そこはほら、ね? あなたは私の一番の信者でしょ? 察して。察しなさい。

 

 あなたは察した。

 

 ――よし。

 

 女神エリスがザッケンナコラー! スッゾコラー!! とキレ散らかしそうなやりとりだったが、とりあえずそういう事になった。

 

 ――そういうわけだから、久しぶりにあなたの声を聞いて顔が見れてよかったけど、あんまり長く神託の接続は出来ないの。仲間とか友達に伝言はある?

 

 少し考えた後に、あなたは答えた。

 自分は異世界でも元気にやっている事。そのうち帰るので心配しないでほしい事を。

 

 ――ん、了解。って言っても何度かこっそり覗いたり防衛者から様子を聞いた感じだと、全然心配してないっぽいからそこは安心していいわよ。

 

 まあそうだろうな、とあなたは思った。

 あなたが彼らの立場でも絶対心配しないので当然である。

 あと目の前を通り越して目の中にいる相手への伝言も忘れてはいけない。

 異世界産の綺麗な鉱物や美味しい甘味の現物やレシピを大量に仕入れているので楽しみにしてほしいと。

 

 ――うん。

 

 いっそ無愛想とも思える短い返事だったが、目が滅茶苦茶キラキラしているし羽がばっさばっさ動いている。とても喜んでくれているようだ。本当はもっと色々言いたかったけど神の威厳を保つために頑張って全てを凝縮した言葉が「うん」になっただけなのだ。

 癒しの女神に日常的に癒しを提供する筆頭信者の優しい視線を受け、誰より癒しを求める苦労人の女神はこほん、と咳払い。

 

 ――どうせそっちで楽しくやってるんだろうけど、あんまりこっちのノリで人様に迷惑かけちゃダメよ?

 

 無論あなたもその件に関しては最大限努力している。

 その証拠に不慮の事故、故意を含めてまだ一人も無辜の民、いわゆる一般人を殺していない。

 

 ――えっ、嘘でしょ。

 

 デフォルメされた女神は圧倒的真顔でそう言った。

 全く信じられていないがガチである。

 信仰に誓って犯罪になる殺しはやっていないし人里を更地にもしていない。

 

 ――どうしちゃったの!? そっちの世界の邪神に洗脳でもされたの!?

 

 全身全霊で本気の驚愕だった。さもあらん。

 それはさておきあなたに洗脳や魅了の類は基本的に効かないと理解していながらこの言い草である。

 癒しの女神の敬虔な信徒は狂気に耐性を得る。そして洗脳や魅了は相手の正気を損なわせるものなので、当然のように効かないという理屈だ。

 あとあなたに関しては冒涜的歌姫こと幸運の女神の狂信者との付き合いのおかげで特別耐性が強いというのもある。

 

 狂気とか洗脳に強いのってジュア信者が素面で狂いきってるしジュア信者が洗脳する側だからじゃねえの? とかのたまう不信心者はサンドバッグに吊るせ。

 ジュア信者鉄の掟の一つである。

 

 とはいえ、いくらなんでも洗脳扱いは心外と言わざるを得ないあなたは、新しく出来た友人の意向であると告げた。

 

 ――それなら納得。新しく友達が出来たのは割と驚きだけど。やっぱり強いの?

 

 無論強い。

 しかも絶賛フリーの身だ。色々な意味で。

 

 ――ふーん、ちょっと興味あるかも。

 

 ご神体も乗り気だし、ここぞとばかりにウィズを自分と同じ信者にするチャンスだろうか。祭壇は常に持ち運んでいるので24時間365日対応で洗礼は可能だ。

 そんな事を考えた瞬間、再びあなたの視界にノイズが走った。

 更に原因不明の激痛が全身に走る。愛剣の癇癪に慣れ親しんでなお軽く死が脳裏によぎる痛みだ。

 

 ――あ、時間切れみたいね。流石に場所が悪すぎるか。聞こえてたかもしれないけど、今あなたがいる場所ってやたら電波の通りが悪くて神託の負荷が重いのよね。だからあと一分くらい接続してたらあなたの全身はチリも残さず消し飛ぶと思うわ。

 

 至高神による突然の死の宣告があなたを襲う。

 驚きである。流石のあなたもこれには困惑せざるを得ない。何が“だから”なのか。素直に勘弁してほしかった。

 女神に手ずから殺されるのは完全にご褒美以外の何物でもないのだが、タイミングが悪すぎるというレベルではない。

 あなたは自他共に認める狂信者だが、別に癒しの女神に対して常時全肯定というわけではないのだ。

 イエスマンではないので、乞われるままにお菓子やケーキを与えたりはしない。女神の眷属からはあんまりジュア様をべたべたのでろでろに甘やかさないでください後が大変なんですいや本当にマジで、と懇願されているが、イエスマンではないのだ。あなたは女神の心身を癒したいと心から願い、実践しているだけである。とにかく徹底的に優しくして誉めそやして甘やかしてこまめに気を配る。アンタ恋人や嫁や子供が出来ても絶対ここまでやらんでしょ、そんなんだからジュア様が入り浸るんですよ……と眷属に言われるくらい執拗にやる。あなたは自身のお手製のお菓子を何の憂いもない少女のような笑顔でぱくぱく食べる女神の姿を見るのが大好きだった。

 

 ――はいはい。じゃあ接続切るから。無事な姿を見れてよかったわ。また今度ね。ばいばい。

 

 そんなリフレッシュもこの世界に来てからご無沙汰になっていたが、特に問題は起きていないようだ。

 死ぬ前に接続を切ってほしいと請われた女神は、最後に癒しを体現するかのような優しい笑顔で手を振りながら姿を消した。

 ぶつり、と。

 どうしようもなく大切で、致命的な何かが途切れた感覚。そして胸をかきむしられるような喪失感があなたを襲う。最早あなたの祈りは届かないし、回復の御業も再び失われた。

 繋がるのが突然なら、去っていくのも突然だった。

 望外の、奇跡としか呼べない刹那の邂逅は終わりを迎え、温かく柔らかい神気の残滓があなたの心を掻き乱すばかり。

 それすら間を置かず儚く消えてしまうだろう。あなたが信仰する女神は既にこの場から去ってしまったのだ。

 

 ――戦ってる相手はまあまあ強いみたいだけど、あなたなら勝てない相手じゃないでしょ? あなたは私の最愛で自慢の信者なんだから、あんなのに負けちゃダメなんだからね。茶髪の方はまだ引き返せるだろうけど、金髪の方はもう救いようが無いって見てて分かるはず。ちゃんと責任をもってあなたが終わらせて(殺して)あげなさい。

 

 最後に、脳内妄想と完全に一致した激励の言葉だけをあなたに残して。

 

 

 

 あなたは立ち上がり、アーデルハイドを見据えた。

 いと尊き女神から抹殺指令を受けたからといって、あなたの強さが跳ね上がるとか、あなたの殺る気が青天井になるとか、そういった事は起きない。

 強敵との戦いを全力でエンジョイしていたとはいえ、今までも十分真面目に戦っていたし殺る気も満々だったのだから当然だろう。

 速度だって据え置きだ。あなたがウィズを置き去りにする事は無い。

 

 それでも変化を挙げるとするならば、あなたから遊びの意識と感覚が薄れ、闘争の喜悦に歪んだ笑顔がどこかに引っ込み、ちょっと真剣に戦おう、みたいな気持ちになった。

 本当に、ただそれだけである。

 

 

 

 

 

 

 復活した男は放つ圧力を著しく変質させていた。

 ウィズとアーデルハイドがそれを理解するのに、一瞬の間すら必要とはしなかった。

 

 ごくり、と喉を鳴らしたのは、果たしてどちらなのか。

 ウィズか、アーデルハイドか。あるいはその両方か。

 まるで別人。

 あれほど撒き散らしていた狂気と愉悦がごっそり抜け落ちて、どこまでも真剣な戦士の姿がそこにはあった。

 

「何が起きたとは今更問うまいよ。望外の幸運や奇跡には散々私も世話になった身だ。それが神々による無粋な介入だとしても」

 

 アーデルハイドの言葉にあなたは訂正を入れた。

 神の介入はあったが、回復自体は理由があって使えなかったものが、今の一時だけ使えるようになっただけだと。

 

「この世界の神々が介入するならもっと早い段階でやっていただろう。となると、今の気配はあなたの世界の神か。あれほどの神気だ。よほど愛されていると見える」

 

 否定する余地はない。全くもってその通りであるとあなたは自慢げに首肯し、後方のウィズに一つの物品を投げ渡した。

 全回復した今であれば単独での時間稼ぎも問題なく行えるがゆえの行動だ。

 

「……ご武運を」

 

 完全に眠気も覚めたし問題ないと軽く手を振り、あなたはアーデルハイドに襲い掛かり、戦いを再開する。今度はたった一人で。

 

「回復魔法だけでなく、当たり前のように攻撃や妨害魔法まで使ってくるのか! ははっ、たまらないなあ!」

 

 それは必然的に、速度を除けば現在可能な全開状態での戦闘を強いられる事を意味していた。

 ただでさえ回復に常の100倍の労力が必要な状況において、魔力というリソースの消耗を完全に度外視した半ば特攻のような行為だが、あなたに躊躇いは無い。

 むしろ今のあなたは、ウィズが必要以上に手間取るのであればこのまま殺し切るつもりですらあった。

 

 急がなければならない。置いていかれないために。

 自身を結界で完全に隔離したウィズは静かに目を閉じ、あなたから受け取ったもの、すなわち、亡霊達が巣食う朽ちた剣に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

「……ここは」

 

 目を開いたウィズが立っていた場所。

 それは、古戦場跡とでも呼ぶべき平原だった。

 

 青い空。温かい空。静かに風に揺られる草花。

 かつて砦であったのだろう、半壊した石造りの建物。地面に突き刺さる無数の武器。

 

 人の気配が無く、静かで寂しい、墓所のような場所。

 だが予想していたよりもずっと穏やかな空気だと感じつつ、ウィズが油断無く周囲を見渡せば、少し離れた小高い丘に突き刺さった大剣と黒い旗を発見した。

 

「あそこですね」

 

 間違いなくあの大剣は朽ちる前の姿だろう。無数の気配が感じられる。

 つまり空間の核であると目星を付けて足早に向かう。

 

「…………」

 

 殺傷した魔物ではなく、人間の亡霊を従える。配下に加える。

 初めての経験。

 永い時を彷徨い続けた彼らは、生前のベルディアの部下であろう彼らは、果たして自分に力を貸してくれるだろうか。

 

 迷いを振り切るようにウィズは手を伸ばし、剣の柄を両手で強く握り締め、声を投げかけた。

 

「肉体が朽ちてなお終わりを拒む彷徨える魂たちよ。私はウィズ。リッチーです。あなた達にお願いがあってやってきました。どうか私の話を聞いてくれませんか?」

『すんません、今の今まで死にまくっててみんな死ぬほど疲れてるんで用事があるなら後にしてください……』

「ええっ!? 急いでいるのでそれは困りますってみなさんもう死んでますよね!?」

 

 聞こえてきたのは男の声だった。

 それはそれとしてちょっと予想していなかった反応が返ってきたので、さしものウィズも思わずブラックジョークじみたツッコミを入れずにはいられなかった。

 あまり時間をかけたくないのだ。ただでさえ相方が珍しくガチになっているのだから。

 どれだけ剣に呼びかけてもうんともすんとも言わなくなったので、焦った不死王は大剣を杖で殴り始めた。ウィズはそういう事をする。

 殴打殴打殴打。青空に硬質な打撃音が響き渡る。借金取りが「出て来いオラァ! いるのは分かってんだぞ!!」と扉を殴って怒鳴り散らすかの如く。剣の本来の持ち主が見ればマジで止めろバカアホおたんこなす! と半泣きで止めに入る非人道的な光景だった。

 

「やめてください……やめてください……分かったからほんとやめて……折れちゃう……」

「やっと強制地獄巡りが終わったと思ったのに……」

「ここまで乗り込んできて死体蹴りとかどんな鬼畜なのよ……」

「あまりにも、あまりにも人の心が無さすぎる……」

「クソ外道がよぉ……」

 

 剣から次々に現れる無数の亡霊達にボロクソに貶されてウィズはちょっとだけ傷ついた。

 そして疲れているという言葉に偽りは全く無いようで、出てきた彼らはノロノロとした動きで草原に転がった後、死んだように動かなくなった。

 地獄のデスマーチ明け。そんな言葉がウィズの脳裏に過ぎる。

 

「副団長、あとはよろしく。俺らは無理だ死ぬ死んだ死んでる」

「はいはい了解」

 

 比較的気力が残っているのか、苦笑いを浮かべた壮年の亡霊があぐらをかいてウィズに相対した。

 

「すみませんね。揃いも揃ってご覧の有様で。かくいう自分も立つ気力すら沸かない有様でして」

「いえ、なんかこちらこそお休み中に申し訳ないです……」

「で、何用でしょうか。天下に名高い不死王様にこんな敗残兵の群れの巣にまでご足労いただき誠に恐縮ですがね。力を貸せと言うならお断りさせていただきますよ。そもそも我らの力が必要だとは思えませんが」

 

 自虐交じりに眼光鋭く釘を刺してくる男は古強者の風格を漂わせている。

 無貌と化すまで後僅かという、限りなく自我が喪失していたとは思えない姿だった。

 

「お願いします。貴方達の力を貸してください」

 

 無数の亡霊が転がる丘の中心で、ウィズは頭を下げれば、副団長と呼ばれた男は頬を引きつらせた。

 死体と化した亡霊がごろごろと丘から転がり落ちてウィズから離れていく。

 

「……あの、人の話聞いてました?」

「聞いていましたし、多分そう言われるだろうと思っていました。それを理解した上でこうしてお願いしています」

「無理ですって、いや本当に無理ですから」

「お願いします。今の私にはあなた達しか頼れる相手がいないんです!」

 

 ウィズは詰め寄って手を握る。

 副団長は滅茶苦茶嫌そうな顔をした。

 

「そういう情熱的な台詞は生きてる時に言われてみたかったなあ! おいお前ら逃げんな! 俺を一人にするな!!」

 

 副団長は投げやりに叫んだ。

 あーだのうーだの言いながらウィズから逃げる形で丘から離れていく兵の姿は出来の悪いゾンビのようだ。

 

「貴方達の素性はなんとなくですが把握しています。ベルディアさん以外には従わないであろうという事も。それでも、ほんの一時だけでも……」

「いや、それは割と今更なんで別に構わないんですけど。他の奴は知らんけど俺個人としては問題ありません」

「えっ」

「でもあれでしょ、外でやってるとかいうドンパチに混ざれって話でしょ? 無理です。俺らはゴミクズです。何も出来ません。壁にもなれません」

 

 死んだ目で自虐が始まった。

 周囲からは己の無力を嘆く嗚咽が聞こえてくる。

 ここって古戦場じゃなくて愁嘆場でしたっけ? ウィズは思った。

 

「いえ、戦ってほしいわけではなく、リッチーのスキル習得のために一時的に私の麾下に入ってほしいだけなんですが」

「ああ、そういう……うん、俺の勘違いで良かったです。良かったけどすげー複雑な気分」

 

 他人の心を折る事に定評のある女、ウィズ。

 彼女は全くの悪意無く亡霊達にトドメを刺した。

 

 

 

 

 

 

 全員で話し合いたいので少し待ってほしい。

 そう言われたウィズは離れた場所で亡霊達の会議の終わりを待っていた。

 

「…………」

 

 焦燥感を沈めるように深呼吸を繰り返す。

 一秒でも早く戦場に戻りたいという気持ちは勿論ある。

 だが彼らを急かす事はない。

 少しでも多くの亡霊に納得して力を貸してほしいから。

 

「あのー、ちょっといいですか?」

 

 一人佇むウィズに、おずおずと一人の亡霊が近づいてきた。

 年若い少女の兵士だ。

 

「不躾で恐縮なんですが、貴女は団長とはどういう関係なんです?」

「あー……」

 

 視線を彷徨わせ、少しの間返答に窮したウィズ。

 だが嘘を言ったところで遅かれ早かれバレるのだからと、正直に客観的な事実を伝えることにした。

 

「元同僚兼同居人兼友人、ですかね」

「同居!? ほとんど恋人って事ですか!?」

 

 叫び声を聞いた兵士達がざわつき、一斉にウィズに視線を向けた。

 とんでもなく不本意な誤解を受けていると察したウィズは冷たい声で断言する。

 

「違います。本当にただの友人です」

「おおっとぉ、なんという真顔。不快です死にますとか言いそう。これは間違いなく脈無しですね間違いない。アンデッドだけに。私もですが」

 

 返答に困るウィズだったが、少女はとっくに割り切ってるんでお構いなく、と笑う。

 

「私達の団長は、ベルディア様はどうしていますか? 今も元気にやっていますか? 処刑された後、デュラハンになって国を出奔した後、魔王軍に入ったっていう風の噂は聞きましたけど、結局会えずじまいだったんです」

「そうですね、しばらく会っていませんが、今も元気でやっていると思いますよ」

「なんか終末狩りとかいう軽く字面が終わってる無限地獄をやらされてるって聞いたんですけど」

「そ、それに関しては私は一切関与していないので……あと一応本人の強くなりたいっていう希望に沿っているだけらしいですし……」

 

 ウィズは目を逸らした。

 非常に苦しい擁護なのは本人も大いに自覚している。

 

「あ、ベルディアさんはもう魔王軍は辞めてますよ?」

「らしいですね、教えてもらいました。なんかいつの間にか幹部になってたとか聞いてびっくりしましたよ。まあベルディア様なら当然ですけどね」

 

 剣を回収した後にあなたから聞いたのだろうか、とウィズは思った。

 実際は違っているが。

 

「あれ? じゃあ元同僚っていうのはつまり……」

「……まあ、はい。お察しの通りかと」

「マジですか。人類の敵の方でしたか。ああ、でもリッチーなら当たり前なのかな」

「いえその、私はなんちゃって幹部といいますか、殆ど名義貸ししているような状態といいますか人類に敵対しているわけではなくてですね」

「でも現役の魔王軍幹部なんですよね? 魔王城の結界の要を担当しているというだけで十分人類の敵に値するのでは?」

「うっ……はい、仰るとおりです……」

 

 ぐうの音も出なかった。

 今となっては自殺する気も無いのでなおさらに。

 しょぼくれたウィズを見かねたのか、少女は焦ったように声をかけた。

 

「ああすみませんすみません、誤解させちゃいましたか。別に貴女を責めているわけじゃないんです。そりゃあ私達も魔王軍と戦っていましたが、今となってはもう人類の敵云々はどうでもいいっていうか、むしろ人類に見切りを付けたっていうか」

「へっ?」

「だってそうでしょう? 団長に、ベルディア様に、私達の誇りにつまらぬ嫉妬で無実の罪を着せて謀殺した挙句、全てを貶める真似を良しとした愚劣極まる人類にどうして味方しないといけないんですか? 私達の声は誰にも省みられる事無く、終に私達の騎士団の名前は禁忌になった。名誉は残らず簒奪され、あの輝かしき日々は呪われ、もう二度と帰ってはこない。私達から全てを奪ったやつらなんて、みんな、みんな苦しみぬいて死んでしまえばいい。だから私は、私達はあの日、全員で集まってもう一度、魔王軍にいるっていう団長の元に」

 

 けらけらと笑う少女の瞳には消えぬ憎悪と狂気、そして何よりも狂信が渦巻いている。

 だがこの程度でウィズが気圧される事は無い。ただ痛ましいものを見る目を向けるだけだ。

 

「気持ちは分かるがちょっと落ち着け」

「へぶしっ」

 

 いつの間にか近づいていた副団長が少女の頭を引っぱたいた。

 

「すみませんね、こいつは特に団長に懐いてたやつの一人でして。なんか知らんけどあの人、この手のメスガキにやたらと好かれるんですよね」

 

 だが彼女の言葉は全員の総意に違いないのだろう。

 狂気も、憎悪も、狂信も同様に。

 ウィズはそんな言葉を飲み込み、朗らかに微笑んだ。

 

「分かります。ベルディアさんってそういうとこありますよね。本人に自覚は無いみたいですけど」

「ね。本人の女性の好みは全然違いますし。まあバカ丸出しのセクハラとか大好きなんで全然モテないんですが」

「分かります。ベルディアさんってそういうとこありますよね。私も何回か頭の悪いセクハラを受けた事がありますし、魔王軍にも被害者は多いと聞いた事があります」

 

「へへっ、今の聞いたか? 魔王軍でセクハラ三昧だってよ」

「あろうことかリッチー相手にやらかしてんのか」

「たまんねえな、それでこそ俺達の団長だぜ」

「びっくりするほどいつもの団長で安心する」

「悪ふざけが過ぎて娼館出禁になったあの頃からまるで成長していない」

「あの人相変わらず女の敵やってんのね流石だわ流石の見下げ果てたクソ野郎だわ」

「今だから言えるけど処刑された理由の1%くらいにセクハラが混じってそう」

「カスとクズの暗黒奇跡合体」

 

 口々に敬愛する相手をこきおろす亡霊達は、しかし誰もが嬉しそうに笑っていた。

 

「……話し合いは、終わったみたいですね」

「ええ、おかげさまで」

 

 漆黒の武具を身に着け、かつて無双と謳われた英雄に率いられた重装兵と騎兵が整然と並び、ウィズに相対する。

 亡霊に敵意は無い。

 しかしそれは彼らの従属を意味するものではない。

 ただ純粋な戦意のみがあり、それはウィズ一人にぶつけられていた。

 

「一応聞いておきますが。交渉決裂というわけではないんですよね?」

「勿論です。アレと貴女の言葉が全て真実だというのであれば、俺達はあなた達にこの先も返しきれないであろう礼と恩がある。いや、人格を引き上げてくれたというだけでも力を貸すには十分すぎる理由になる。ただまあ俺達も騎士の端くれ。こういう流儀で生きてきた人間なんで。力を貸してと言われてはい喜んでとは中々どうしていかない次第で。だから、力を求めるのであれば、我らを従えるに足る力を示せ。かつて団長が俺達にやってみせたように。つまりはそういう事です」

「道理ですね。不服はありません。了解しました」

 

 頷き、杖を抜くウィズに油断や慢心は無い。

 不死者の王として、率いるものとして。彼らに自分の全力を見せ付ける。ただその強い意思だけがある。

 

「伝説が相手か。今更だけど正気の沙汰じゃねえやな。ぶるってきやがった」

「果たしてどこまでやれるものか。思えば遠くまで来たもんだ」

「俺らを放ってどっかに行った団長が悪いよ団長が」

「ねー。いくらデュラハンになったからって部下に何も言わずに消えるとかありえないでしょ」

「私も悪徳貴族ぶち殺し祭に混ぜてほしかったなあ」

 

 亡霊達もまた各々の武器を構える中、ある一人の兵士が口を開く。

 最初に妹の館で目覚め、最初に殺された兵士だ。

 

「なあみんな、今気づいたっていうかちょっと言い忘れてた事があるんだけど」

「どうしたいきなり、今必要な話か?」

 

 つまり、この中でたった一人、彼のみがウィズの戦う姿を目撃している。

 

「あの人俺達を一撃で消し飛ばせる程度には強いぞ。さっきまでの可愛がりが本気で優しく思えてくるレベルで。あと多分だけどお兄ちゃんさんのパートナーだ。格下の部下とかじゃない」

「えっ」

 

 彼を除く全員の血の気が引いた。

 数百万の亡霊を従えるリッチーと戦う、狂った怪物のパートナー。

 つまり怪物である。

 

「嘘だろお前、お前、嘘だろ」

「あれに力を示せとか正直副団長はギャグで言ってんのかなって思ってた。でもよく考えたら俺しかあの人が戦ってるの見てなかったわ」

「そういうのはもっと、もっと早く言ってよ! もしくは最後まで黙ってなさいよ!!」

「それに関しては本当にすまん。でもリッチーだし強いのは最初から分かりきっていたのでは?」

「限度があるだろ限度が! こっちは緑色の悪魔と同レベルが精々だと思ってたのに!」

 

 騒然とする兵士達に構うことなく、ウィズは宣言した。

 

「申し訳ありませんが、外で仲間が待っているんです。全力で行かせてもらいます」

「ちょ、待っ」

「どこからでもどうぞ。三秒後に始めます」

 

 宣言と同時に青い魔力が迸る。

 言葉無く、しかし誰もが瞬時に悟った。あっこれダメなやつだ。緑色の悪魔()の時みたいに問答無用で始まって俺らが問答無用で死ぬやつだ。

 

「……総員突撃ー!!」

「ばんざああああああい!!!」

「団長に栄光あれええええええ!!!」

 

 やけっぱちの雄たけびをあげて迫り来る亡霊達に向けて、慈悲深い不死王は無貌やアーデルハイドに向けて何度も使ってきた魔法を行使した。

 

「スタークエイク! シューティングスター! メイルシュトローム! クリムゾンフレア!!」

 

 地震、流星、津波、火炎。

 あなたが使うメテオほどではないが、間違っても人前で使ってはいけないオリジナル魔法によって天変地異が巻き起こる。

 悲鳴すら残さない力の奔流が一瞬で全てを押し潰し、消し飛ばす。

 何を考えてこんな破壊魔法を作ったんですか? という質問にウィズはこう答えるだろう。

 趣味です、と。

 

 戦闘開始から僅か0.12秒。

 かつて氷の魔女と呼ばれた不死王は、漆黒の亡霊兵団計768名の全てに上下関係とトラウマを刻み込み、心をバキバキに圧し折って従属させる事に成功した。

 

 

 

 

 

 

 半日。

 あなたとアーデルハイドが真っ向からの一騎打ちに興じていた時間であり、全開状態のあなたが二割ほど消耗するのに要した時間である。

 余力は十分残っているが、一度全回復していなければそろそろ真面目に危険だった。そういうラインである。

 

「形振り構わなければ一人でも十分私と対等に戦えるか。それも仲間を護りながら。全く、つくづく恐ろしい(愛しい)男だよあなたは」

 

 だが相手もまた相応に疲弊していた。

 無限に思えた再生能力にも少しずつだが陰りが見え始めている。

 剣と魔法を使い全力で殺し続けてきた甲斐はあったという事だ。

 

 あと数日は必要になるが、このまま行けば恐らく自分が勝つというのがあなたの考えだ。

 地獄の泥仕合の末に粘り勝つ。

 勝てはするが、その場合、封じられた王国の所有権は手に入らないかもしれない。

 祈りによる全回復をアーデルハイドがどう受け取るか次第になるだろう。

 

 常ならばさておき、今のあなたに限ってはそれも仕方がないと割り切れる程度には冷静だった。

 後で確実に悶え苦しんで死ぬほど後悔する破目になるだろうが、勝利には代えられない。いのちだいじに。

 

 だがきっと、このまま泥仕合で終わるという結末は誰一人として望んでいなかったのだろう。

 あなたも、アーデルハイドも、あるいは目に見えない運命という世界の流れですらも。

 

『すみません、今戻りました!』

 

 だからこそ、ウィズは際どいタイミングとはいえ戦場に戻ってきた。

 体感では一時間にも満たない間しか離れていなかったというのに、外では半日が経っていた事、それだけの時間あなたに戦わせていた事に絶句、痛切な謝罪をした彼女はしかし手ぶらで帰ってきたわけではない。

 

 彼女はリッチーのスキルという己の力をもって戦局を打破しようとしていた。

 確かに賭けではある。ただし分の悪い賭けではないとも思っていた。

 

「やあ、随分と遅かったじゃないか。悪いが本気でこのまま終わるかと思っていたぞ」

「ええ、はい。本当にお待たせしました」

「彼との二人きりでの逢瀬は楽しかったし、個人的にはそれでも全く構わなかったんだが。それで? 新しい力は手に入ったか? 彼のように高く高く積み上げていない、習熟すらしていない付け焼刃の技で私の命に届くのか?」

「届かせます。無理矢理にでも」

 

 決意と共に、黒い蓮の花がまた一つ咲き誇り、音も無く散った。

 

「――ヴォーテクス!」

 

 上空に発生したのは魔力の渦。

 果たして、その効果は。

 

「……ああ、そうか」

 

 神々や大悪魔に連なるような、伝説に謳われる強大な存在のみが持ち得るスキル。

 あなた達の苦戦の何よりの原因となったスキル。

 凍て付く波動、雲散霧消、ディスペル。

 呼称こそ様々だが、その効果は同一である。

 すなわち、あらゆる魔法効果の解除。

 

「彼らは、貴女をそこまで届かせたのか。きっと、捨て置くべきではなかったんだろうな」

 

 この魔法をもってしても、アーデルハイドの圧力は一切減じていない。民無き愚王の孤独な挽歌と彼女が呼んだスキルは解除出来ない類のものなのだろう。

 だが今この瞬間、あなた達にかけられていた能力固定化は確かに解除された。

 

 だから、あなたがやる事は最初から決まりきっている。

 

 あなたは知者の加護(魔力上昇)の魔法を詠唱した。

 あなたは英雄(攻撃力上昇)の魔法を詠唱した。

 あなたは聖なる盾(防御力上昇)の魔法を詠唱した。

 

 あなたのステータスの()が変化した。

 骨身にまで染み込んだ感覚が取り戻され、ウィズもまた数々の自己強化魔法を自身にかける。

 そして。

 

「タイムシフトッ!!」

 

 ウィズは速度同期の魔法を詠唱した。

 あなたは自身の速度を最大に引き上げた。

 

「――――」

 

 加速する時間の中、あなたが見たのはアーデルハイドの笑顔。

 屈する事無く、諦める事無くあなた達を迎え撃つ彼女の、全ての憑き物が落ちたかのような、静かで、穏やかで、優しい微笑。

 

 

 

 

 

 

 どんな物事にも、いつか終わりは必ずやってくる。

 

 楽しいお祭りにも。

 胸躍る冒険譚にも。

 永遠の繁栄が約束された理想郷にも。

 悪夢のような現実にも。

 終わらない筈の悪夢にも。

 

 どのような形であれ、等しく終わりは訪れる。

 終わりが無いものなんて存在しない。

 

 そしてまたここに新たに一つ。

 古き永劫の呪いが、尽きぬ黄金の嘆きが、終わりを迎えようとしていた。

 

「ここまで、か……」

 

 大地に縫い付けられる形でエーテルの魔剣に胴体を串刺しにされたアーデルハイドが、小さく呟いて力を抜いた。

 もう再生はしない。魔力も生命力も底の底まで尽き果てている。流れる血液が地面と全身を汚し、黄金が鮮やかな赤に染まっていく。

 

「あれだけ願っていたというのに、いざそれが目の前に来ると、存外、悔しいものだな……」

「そういうものですよ、きっと」

「そうか、そうだな。違いない」

 

 しぶとい。本当にしぶとかった。

 トドメを刺したあなたの偽らざる本音である。

 

 くつくつと笑い、それまでが嘘のように和やかにウィズと談笑するこの不死王だが、なんと彼女、敗北が確定したその瞬間、あろう事か更なる覚醒を果たしたのだ。

 覚醒というよりも死の間際で本来あるべき自分を取り戻したといった方が正しいのかもしれない。

 同時にそれは、完全なる敗北と死が確定した状況でなければ決して起き得ない奇跡でもあった。

 いずれにせよ驚きの生き汚さである。どれだけ負けるのが嫌なのかと、思う存分戦いを楽しんだあなたはそれはそれとして呆れた。聞けば誰もがお前が言うなと吐き捨てる事請け合いの感想だった。

 

「口惜しさはあるが、まあ、いいさ。十分満足のいく結末で、満足のいく敗北だ。私なんかに与えられるのはもったいないくらいに」

 

 そう言うと、彼女はゆっくりと一つの指輪を外し、あなたに軽く放った。

 

「望みのものだ。もはや民すら無き泡沫の国だが、あなたの好きにするといい」

 

 あなたは千年王国の所有権を手に入れた。

 満面の笑みで渾身のガッツポーズを決めるあなたに女王は苦笑いを浮かべ、次いでウィズに目を向ける。

 

「同胞よ。強き者よ。嘗て在り、先に逝く者として貴女に言葉を遺そう」

「はい」

「貴女は優しい人だ。本当にそう思う。叶うのであれば、私がまだ人間だった頃に出会いたかったほどに」

「そう、ですね。きっといい友達になれたのかもしれません」

「だろう? そっちの彼は断じて御免だがね。当時の私にはあまりにも劇物が過ぎる」

「ふふっ、ノーコメントでお願いします」

「繰り返すが、貴女は強く、優しい。きっと貴女のようなリッチーは今後二度と現れないだろう」

 

 アーデルハイドは、穏やかな微笑を浮かべ、言った。

 

「だからいつかきっと、貴女も私のようなバケモノになる」

 

 ウィズの表情が凍る。

 それはきっと、どんな武器や魔法よりもウィズに突き刺さる言葉だったから。

 

「私達は殺されない限り決して滅びない。全ては私達を置き去りにしてしまう」

「…………」

「とうに理解しているはずだ。血を分けた親兄弟、支えあった友、心を捧げ愛を囁いた者。全ては時の流れの中に埋もれてしまう。例外なく、全て」

「……理解して、経験しています」

「だろうな。だがそれはほんの始まりに過ぎない」

 

 女王は語る。

 己が狂った直接的な原因を。

 

「今はそうでなくとも、いつか、少しずつ。だけど確かに忘れていくようになるんだ。大切だった事を、大切だった人達の事を、思い出せなくなるんだ。声も、顔も、何もかも。大切に想っていたはずの全てが色褪せ、手のひらからこぼれ、消えていってしまう。私は何よりもそれを恐れた。きっと貴女も、そうなのだろう? 思い出を、自分がまだ人間だった過去を愛し、大切に抱え、今を生きているのだろう?」

「…………」

 

 自分はそれに抗おうとして、抗いきれなくて、終には発狂したのだと。

 それこそが、自分がリッチーになり、全てを滅ぼした原因なのだと。

 これ以上、何も失いたくなかっただけの哀れな女王は、そうであるがゆえに全てを破滅に導いた。

 そして、全てを破滅させてまで得た力は、彼女に何の救いも与えはしなかった。

 

「確かに不死王は神や大悪魔に比肩すると言われているが、それそのものではない。精神構造までは超越者のものに作り変えてはくれなかった。その結果がこれだ。今の私に、もう人間だった頃の記憶なんて殆どない。その事実にすら殆ど心が動かない。あんなに大切で、狂うほど失いたくないと願っていたはずなのに」

 

 だから、と一人の女が言う。

 

「貴女は、そうなる前に滅びておいたほうがいい。私のように、本当の意味で不死の怪物に為って、果てる前に。せめて心だけは人間でありたいと思えているうちに」

「……ええ、そうですね」

 

 ウィズは、透き通った微笑でそれを受け入れた。

 いつの日にか必ず来る、自らの終わりの形を。

 今のように、棺が閉じる、その日の事を。

 

 

 

 

 

 

 呪われた大地から瘴気が霧散していく。

 赤い空が満天の星空に塗り替えられていく。

 不死王の領域が崩壊していく。

 何の変哲も無い荒野へと変わっていく。

 不死王の死が目前まで迫ってきている。

 

「まあここまで長々と自分語りをさせてもらっておいてなんだが、そこの彼がいればそんな末路は辿らないんだろうけどな」

「えっ」

 

 いきなり全力で梯子を外されたウィズは絶句した。

 

「いや、どう考えても彼は絶対寿命なんかで死なないし、貴女を孤独にもしないだろうし……精神的にもリッチーが裸足で逃げ出すバケモノだし……見ろ、我関せずとばかりに私の装備品をひっぺがして検分してるぞ。なんなの、話の最中も全然手を止めなくてびっくりする」

 

 水を向けられたあなたはお構いなく、と適当に答えた。

 今のあなたは戦利品を楽しむ事で手一杯なのだ。

 

「じゃ、じゃあなんだってあんな事を!? 私滅茶苦茶悲壮な覚悟とか決めちゃってたんですけど!?」

「本心からの忠告が半分、嫉妬からの嫌がらせが半分。私も彼みたいな楽しく殺し合いが出来る彼氏が欲しかったなあ。今からでもいいからちょっとくれない?」

「ぶっ殺しますよ!? マジでぶっ殺しますよ!?」

「残念ながらあと十秒くらいで死ぬんだな、これが」

 

 けらけらと楽しそうに笑うアーデルハイドは、他の不死者のように昇天はしない。

 最古の不死王は胴体に突き刺さったエーテルの魔剣に魂を喰らい尽くされ、完全なる消滅という結末を迎える。

 強すぎる魂は浄化され輪廻したとしても、時に前世の記憶が甦る事がある。

 万が一にでもそうなりたくないという彼女自身の望みだった。

 あとアーデルハイドが天界送りになったらウィズがリッチーだと確実にバレるので、それを防ぐ形にもなっている。

 

「まあ、それでも半分は間違いなく、死にゆく私の本音で警告だよ。だからどうか忘れないでほしい。こんな無様で愚かな人間がいたという事を」

「はぁ……安心してください、死ぬまで忘れませんよ。そうですよね?」

 

 同意を求められ、あなたは笑顔で頷いた。

 彼女もまた得難い強敵だった。ヴォーパルや黒翼同様、あなたの記憶から消え去る事は無いだろう。

 いつか剥製を手に入れる的な意味でも。

 

「そっか……なら、良かった……ああ、これでやっと、終わる事が出来る……」

 

 ふっと吐いた安堵の息を最期に。

 一人の少女は、剣に吸い込まれるように、跡形も無く消失した。

 

「……おやすみなさい、アーデルハイドさん」

 

 残されたもう一人の不死王は、静かに祈りを捧げる。

 私達に祈りを聞き届けるような神がいるはずもないけれど。

 どうか、貴女の眠りが安らかなものでありますように、と。

 

 

 

「よし、そろそろ行きましょうか」

 

 しばらくの後、月光の下で祈りを終えたウィズがあなたに笑いかける。

 

「まずは王国が封じられていた、あの遺跡の入り口探しから始めないとですね。この広い範囲を探索すると考えただけで軽く憂鬱になりますけど」

 

 全ての物事にはいつか必ず終わりが訪れる。

 不死王にも、廃人にも、悪魔にも、神にも終わりはある。

 そして今回の冒険もまた、同様に。終わりの時が来る。

 

 それでも、今はまだその時ではないと知っているから。

 あなた達冒険者は、ネバーアローンは真っ直ぐ前に進むのだ。いまだ見えぬ終わりを目指して。

 

「……あのう」

 

 歩みを始めたあなた達をおずおずとした声で止めたのはゆんゆんだ。

 アーデルハイドとの戦闘開始後は完全に沈黙していた彼女は、既にモンスターボールから解き放たれている。

 

「どうしました?」

「いや、なんというか本気で今更ながら、私が場違いってレベルじゃないというか、なんで私はここにいるんだろう的な考えが浮かんでとまらないというか……」

「え? どうしてって、ドラゴンを仲間にするためですよね?」

「まあ、はい。はい、そうですね」

 

 二人の師のガチンコ戦闘を眺め続けていた少女は、「ふー……」と深い息を吐き、星空を見上げて呟いた。

 

「遠すぎてちょっと素でめげるわ」

「ゆんゆんさん!?」

 

 

 

 後にゆんゆんはこの地についてこう書き残している。

 

 ――彼の地での全てが終わりを迎え、棺の蓋が閉じた、まさにあの時こそが。きっと、私が二人の師の庇護を離れ、自立を果たさなければならないと本当の意味で決意した、その瞬間だったのだろう。

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