俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
気持ちは分かるがちょっと悲しい。
単独でアメリカの都市部に侵入しペンタゴンの副局長を脅迫した危険人物との合同作戦。
それが名もなき部隊に与えられた任務である。
第一目標は篠ノ之束博士の確保、第二に当危険人物の捕獲又は殺害。
優先されるのは篠ノ之束博士なので、道中は警戒されない様に同行者以上の感情は表に出さない。
もちろん裏では人物を特定、解析する為の観察は密にしたが……相手の詳細がますます分からなくなっていた。
人柄――話を振れば答えるしダガー小隊を心配をする面を見せる。いたって普通と言える範囲の性格でとても単騎でアメリカに乗り込んできた人間には見えない。
年齢――不明。仮面とマントで風貌は分からないが、唯一露出している手を見た限り若い。12~15歳と予測。
技術――本人が隠す気がないのか、それとも人を騙す手管に優秀なのか……どう見ても素人である。だかそれは生身の話でISの操縦技術だけは違う。部分展開、拡張領域からの武器の出し入れ、瞬時加速の滑らかさ、全てが高水準で国家代表クラスに匹敵すると思われる。
IS――開発国の割り出しは非常に困難。自分たちが知る各国の開発色とは明らかに違い、その完成度も既存のものとは一線を画す。国ではなくどこかの組織や研究所が独自開発した機体の可能性が高い。
現時点の情報で推測される人物像――恐らく次代の兵士の卵と予想。戦闘訓練よりISの操縦を重点的に鍛えた存在。ゲリラの少年兵などに見られる暗い危うさが見当たらない事から比較的まともな組織で鍛えられたと考えられるが、ISに対する新しいアプローチとして玩具の様にISを与え、あえて無垢に育てた可能性もあるので注意が必要。
◇◇ ◇◇
『しー君』 ――力で振らない! 遠心力で殴れ!
『しー君!』 ――目線を動かし過ぎ! 観の目なんて日常の生活で鍛えられるでしょうが!
『しーくーん!』 ――ブサイクに足をバタつかせない! 軟弱なクセになんで省エネで戦わないのかな!?
おうおうおう……ASMRの束さんの声と後方腕組み束さんの声が重なって最悪や。
血と肉に塗れて必死に戦ってる俺に対してこの扱い……泣きたくなりますよ!
「うっとしい指示厨やめろしッ!」
『だって暇なんだもん』
「こっちは必死に戦ってるんですが!?」
『戦い? それは冗談だとしても笑えないよしー君。ちーちゃんなら生身でもノーダメクリアできる程度だよ? それを戦いとか大仰に……ぷぷっ』
がぁぁぁぁ笑ってるだろうがこのクソが!
人工的に作られた戦いの天才と一般中学生を比べてんじゃねぇ!
『それに改めてしー君を客観的に見ると体の動かし方があまりにも下手で……ついね?』
「そりゃそうだろうよ! てかロクに喧嘩したことないガキの割には頑張ってる方では!?」
『IS使ってのゴリ押しって点が気に食わない』
束さんの気に入る気に入らないは知ったこっちゃないんだよ!
飛び掛かって来るゾンビの頭をハンマーで潰し、後ろから近付いて来るゾンビに鉄板を振るう。
手に伝わる肉を潰す感触にも飛び散る肉片にも慣れた。
やっぱ人間の定期応力は偉大だな。
今日一日で完璧なグロ耐性が付いたんじゃないか?
『なんか調子に乗ってそうだけど、お腹の中までただの肉のゾンビと違って本物はもっと目に映る景色は凄いよ?』
ホルモン食えなくなるような話はやめろ!
謙虚! 大事! 了解!
「ちな束さん! 篠ノ之束ASMRの邪魔だから黙っててくれないかなッ!?」
『見てるだけは暇だから却下。ほら力だけでハンマーを振り抜かない! しっかり手首返して遠心力使え下手くそっ!』
一匹一匹潰すのが精一杯で体捌きまで意識できねーよ!
『流石にゾンビの噛み付きで流々武の装甲は砕けないけど、歯型くらいはつくと思うよ? 傷物にしたくなきゃしっかり動く!』
絶え間なく襲って来るゾンビの相手で脳ミソが焼けそう……糖分を! 糖分補給の時間を!
『かぁっ! しー君の必死な顔を見ながら飲むコーラが美味いっ!』
オマエゼッタイユルサナイ
『あっ、油断』
あっぶな! 噛み付き攻撃の歯が掠った!?
頼むから集中させてくれませんかねぇ!
『え? しー君程度の凡人が数時間集中して戦うってマ? 普通に無理だと思うけど……もしかして秘めたる力が覚醒とかしちゃうパターンっ!? ドキドキ! ワクワク!』
はいすみません。
人間の集中力がそんなに長続きする訳ないですもんね。
軽口叩きながら動くくらいが一番精神的に長持ちしそうだわ。
でも俺の脳内勝手に読まないでおくれ!
『口を開く余裕あるの?』
ないよ。
ゾンビ共は倒す数より集まる数の方がやや多いみたいで、数を減らして余裕を作るどころかむしろ余裕がなくなっていく。
思考を言葉にする余力はなくなり、歯を食いしばる為に口は閉じている。
束さんの助言に従い体を動かし、事務的にゾンビを砕いて行く。
思考は段々と単純化され、束さんのASMRの声も遠くに聞こえる。
『うーん、どうも足捌きが汚いのが治らないなー。流れる様に……ってのはしー君程度じゃ口で説明しても無理か。予定変更して一歩一歩しっかり踏み込む動作を意識して行こうか』
了解。
踏む込みをしっかりするのは柳韻先生の道場に通ってた時に言われたな。
ハンマーを拡張領域にしまって両腕で鉄板を握る。
『指示は分かりやすく方向と剣術の基本八種でやったげる』
助かります。
『正面に真向切り』
剣道の面、鉄板を振り下ろす。
『そのまま右に左一文字斬り』
『後ろに袈裟切り』
――左一文字斬り
――逆袈裟切り
――真向切り
束さんの声に従って淡々と鉄板を振るう。
段々と思考が鈍くなり、束さんの声だけが脳に響いた。
自分の身体なのに信じられないくらいスムーズに動く。
企みか優しさか、はたまたその両方かは分からないが、この戦いの経験は自分にとってプラス………………になるか?
えー、あー、うーん? 単純作業中に言葉でってさ、それは洗脳の手法では?
こいつさりげなく佐藤神一郎育成計画してやがる!?
そういったのは私生活でR18禁指定でお願いしたい! 最悪R15でも可! イチャイチャ青春プリーズ!
脳ミソが元に戻ったのはいいけど、これからどうする?
束さんから教えてもらえるなんて得難い経験、これはこれでいいかと思うが――そもそもこの場で戦闘技術を磨いたとして、それって将来の役に立つの?
だってゾンビ相手に無双したとして……それ、束さんに通じるの? 通じないよね?
なら俺がしてるのは無駄な努力ってことでは?
なんか思考が冴えてきた。
馬鹿真面目にゾンビ相手に戦闘訓練なんてしないで、俺らしく盛大におふざけしながら戦ってやる!
『ちっ、思考が正常に戻りやがった。往生際の悪さは流石と言うべきかな。でも大人しく指示に従わないと大怪我するよ?』
そーなんだよなー。
もう遊んでる余裕なんてないのだ。
空中に逃げる程度なら出来るんだけど、ミサイルがねー?
友達割引で判定甘くしてくれないかな。
『そこ余裕で射程圏内だから飛ばない方がいいよ?』
ですよね。
おら早く指示だせよ。
天災トレーナーの力を見せてみろ。
『素直でよろしい』
大人しくする! だからエサを寄こせ……脳ミソが蕩ける様なボイスとかッ!!!
何事も飴と鞭だと思うのです!
『しょうがないなにゃー。ほーら、お耳ふーふー』
ふぅぅぅぅぅ! 俺の耳が束さんにふーふーされてるぜっ!
いいよ、これ凄く良いよ。
やっぱ何事もムチよりアメだよなぁ!?
頑張る……俺、頑張るよ!
「ゾンビがなんぼのもんじゃぁぁぁぁ!」
『うんうん、ノリが良いしー君は好きだぞ』
好きだぞ頂きましたひゃっほーう!
ゾンビを袈裟切りにし、手首を返して飛び掛かって来た二匹をまとめて一文字斬りで切り払う。
束さんの指示通り、斬る動作の基本である八種の型をしっかりと意識。
人型のゾンビなら最大で三体程度は薙ぎ払える。
焦らず一振りを丁寧に。
呼吸はテンポよくリズミカルに。
束式洗脳術はやめてれくたが、それでも戦いは続く。
『……洗脳に適した状態って疲れた時なんだよねぇ』
まだ諦めてない束さんに決して隙を見せるな俺!
『でもあれだね。しー君が力尽きたらアメリカチームにバトンタッチするとして……結果が分かりきってる戦いになるから見ててつまらないね」
動きが少ない防衛戦になるよね。
代り映えの無い同じ映像を長時間見てたら飽きそう。
一応ギミックとして外の幸せ映像と身内の顔したゾンビとかもあるけど、それだって慣れるだろうし。
長丁場にしたのが失敗では? こっちは必死だけど見てるだけの束さんが飽きるなんて当たり前じゃん。
『だからヒントあげちゃう。ゾンビはね、無限増殖じゃないんだよ」
限りがあると?
『そもそもリサイクル率100%なんて普通は有りえないだよ? 私はできるけど。でもこんな使い捨ての施設でそこまで頑張る気になれなくてさ、ぶっちゃけゾンビの数は徐々に減ってはいく』
粘ればゴールはあると?
『まぁしー君の処理能力じゃ普通に制限時間いっぱいまで戦い続け事になるけど』
だめじゃん。
『だけどそれはなにも手を打たなかったらの話。リサイクル工場……ってほどの大きさじゃないけど、施設がこの階層にあるから、そこを潰せばゾンビが増える事はないよ』
潰せって言われてもな……ゾンビ相手に必死で戦ってる俺じゃそこまで手が回らないぞ。
スター1たちに頼むか? つってもミサイル配備で制空権が失われる以上、地面を走り回る事になる。
俺の頼みでケガでもされたら後悔しそう。
『素人のザコが厳しい訓練を乗り越えた軍人相手に杞憂とかマ? 傲慢通り越して理解できない能無しの発想なんだけど?』
すっげー刺してくるじゃん。
はいごめんんさい。
ちょっと調子に乗ったクズの発言でした。
そもそも俺は束さん相手なら生身でテロリストに身柄を渡しても大丈夫だと言い切る男。
俺程度でも対処できてる人工ゾンビ相手にプロの軍人をぶつけるのになんの問題があろうか。
ちなみに製造工場って何ヶ所あるの? 場所も教えてプリーズ。
『更なるヒントをご所望? 場所と何ヶ所あるかは言えないけど……民家のガレージや倉庫が怪しい、とだけ』
おっけ了解。
丁度良い所にミキサーマシン後輩が近付いてくるじゃん。
ここは餌場と化してるもんね。
足元を気にしてる余裕なんてないから、早めにその辺の肉片を片付けて欲しい。
……ところでミキサーマシン後輩は俺に襲い掛かってこないだろうな?
スカベンジャーなのに生身の俺に向かってきたポンコツ疑惑がある。
おい開発者、ソフト面にバグがあるぞ。
『それはもう大丈夫だよ……ぷすす』
テメーさては遠隔操作で俺にちょっかい出したな!?
これだから束さんは油断ならん。
だが束さんへの怒りは今は忘れる。
まずはミキサーマシン後輩だ。
あ、ちなみに続けて壊したら更なるペナルティーとかあるので?
『ないよ』
それは嬉しい情報だ。
壊す度にゾンビが強化されたらたまったもんじゃないからな。
ならミキサーマシン後輩を全機破壊する方向でもクリア可?
『多段階強化は少しは考えたんだけど、流石にそこまでやるのが面倒でやめた。ミキサーマシンを全部破壊すればゾンビが出なくなるは正解。施設か回収役、どっちを狙うかはお好みで』
これ以上の事態の悪化がないなら安心してアメリカチームにお願いできる。
瞬時加速でゾンビの隙間を縫うように走り抜け、一時の時間稼ぎ。
呼吸を整えコアネットワークを介して通信を行う。
『余裕がないので手短に。この階層にゾンビを製造している施設があり、そこを壊せばゾンビは増えません。またはゾンビを回収するミキサーマシンの破壊でも状況は好転します。なのでどちらかをお願いしたい』
『――了解だ。それなら走り回りながら暴れてくれないか?』
『その心は?』
『満腹になった獣は巣に帰るからな』
あらオシャレな言い方。
意外とノリが良くてびっくりだよ。
ミキサーマシン後輩を満腹にさせ、ゾンビの製造工場に向かわせる。
その後を付けて施設を見つける作戦か。
どっちものクリアも狙える一石二鳥作戦だね。
暗部が軽いノリ……嫌いじゃないぜ。
ならこの調子で暴れるとしよう。
『了解です。そちらは任せます』
『任されよう』
通信が切れたよね?
束さんや、ミキサーマシン後輩ってキツネみたいに巣の場所を誤魔化す行動取らないよね?
『流石にそこまでの意地悪はしてないよ。まったくしー君はどれだけ私の性格が悪いと思ってるのさ』
中学一年生を入学式にも参加させず長時間地下に閉じ込めてるよね?
『お金で自分の時間売ったの誰だっけ?』
俺です。
なんもかんも貧乏が悪い!
ぞして後先考えず金を使い込んだ自分が悪い!
はぁ……労働頑張りますか。
『寂しい青春してるしー君にサービスして、ゲームぽく敵の残機を表示してあげるよう』
わーい、視界の右上に【356】の数字が見えるぞ~。
多いのか少ないのかわからんのだが?
本格的にリアル無双ゲーと化したな。
あ、数字が増えた。
どこかでゾンビが生まれたらしい。
と思ったら数が減った。
これはアメリカチームの方で接敵したのかな?
かなりの数が此処に居るけど、それでも全部じゃないだろうし。
問題は最後まで俺の体力が持つか、なんだねー。
まぁなんとかなるでしょ!
『ほらほらしー君、考え事してると囲まれて噛み付かれるよー』
ういっす。
後は頼んだアメリカチーム!
んでこちらはラディカルグッドスピード!
剣道の時間は終わりだ。
サクラ大戦世代の力を見せてやる。
イメージするのは常に最強の大神一郎! 快刀乱麻くらいな使えるはず!
ついでに束さんは姿を見せろ。
『ふぁ~……なんで?』
だってほっといたら寝そうじゃん。
さっきから言葉に眠気が混ざってるんだよ。
責任もって最後まで俺の相手しろし。
『しょーがないなー』
並走する形で束さんのホログラムが現れる。
いいね、やっぱり会話をするなら姿が見えないと。
『付き合ってあげるけどお喋りの相手くらいはしてよね。退屈を感じたら私は寝る』
地面を滑りながら戦うなら、立ち止まって戦うよりはマシか。
少し喋る程度の余裕はあるだろう。
「ここって嫉妬がコンセプトですよね? なんか嫉妬の種類がおかしくないですか? 素直に嫉妬できない」
『嫉妬ってさ、持たない者が持つ者に対して現れる感情だよね? つまりそう言う事だよ』
「他人を羨む感情なんてそうそう感じなさそうですもんね」
だから試練で出てくる嫉妬の種類がおかしいんだな。
自分が大変な時に遊んでるやつを見れば嫉妬をするってのは結構な人間が体験するあるあるだけど、それってつまり束さんが嫉妬を感じた体験ってその程度ってことだ。
それ以外だと、俺が千冬さんや一夏と仲良くしてるのを見た時とかかな。
「精神性が化け物なのに感情をお題にした試練を選んだのは間違いでは?」
『そこは反省してる。でも嫌いじゃないでしょ? 七大罪』
「嫌いじゃないよ、七大罪」
最初に話を聞いた時はワクワクさんが止まらない状態だったからね!
迷宮のお題を決めるのに、日本男子なら否はない選択だ。
でも今は少し後悔してる。
だって残りって『傲慢』と『強欲』でしょ?
この二つと篠ノ之束の組み合わせって微妙だよね。
天才故の凡人とは違う傲慢。
少し良い大学を出た程度のイキリキッズなんかとは傲慢のベクトルが違うだろう。
世界を渡る天才の強欲。
凡人の様な欲しがるだけの幼稚な強欲ではなく、欲しければ手に入れる為の手段を用意するだろう天才の強欲。
この二つがどう試練に繋がるのか想像もできんな。
ま、できるだけ頑張ってみますか。
◇◇ ◇◇
「さて、フォックスからの情報だが、あの巨大ミキサーマシンを全機破壊するかゾンビの製造工場を破壊する事で現状を打破できるらしいのだが……アイツがどうやってその情報を得たのは聞いてはダメか?」
「見てる分にはただゾンビと戦ってるだけで、その情報を得た手段は不明ですからね」
ダガー1が苦笑する。
恐らく篠ノ之博士から直接聞いたのだろうと想像はできるが、なぜ篠ノ之博士がフォックスに接触したのかの謎が残る。
「たぶんアレ、戦闘訓練的な事をされてませんです? 基本的には素人のそれですが、途中から動きがマシになりましたです」
「それ自分も思いました。なんか途中から剣道に近い動きになってましたよね」
篠ノ之博士の関係者説が濃厚になったな。
ならこれまでの試練はフォックスを育てる為に? だがそれにしては序盤の試練は意味が分からない。
謎が深まるな。
まぁその謎も最下層にたどり着けば分かるだろう。
「ダガー小隊はこの場に残ってフォックスの近くに居るミキサーマシンを監視、対象が移動したらそれを追跡し製造工場の場所を突き止めて破壊しろ。問題が起きた場合は敵機の撃破を認める」
「「「了解」」」
「スター小隊は外でミキサーマシンを探す。結構の数のゾンビの死体があるフォックスの前に一機しか姿を見せていないのは行動範囲に制限があるからだろう。フォックスが暴れた後を追うぞ」
「「了解」」
フォックスがどこまで戦い続けられるか不明。
アイツの情報は色々と欲しいが潰されても困る。
ここは真面目に仕事に勤しむとしよう。
スター1とスター2を連れて隠れていたビルから外に出る。
フォックスをマーキングし動きを確認。
元々は西の壁際に付近に居たフォックスが徐々に北西に移動を開始した。
「私たちまでゾンビの相手をする必要はない。いざとなればISの使用は許可するが最小限の運用に徹しろ。無難に考えるならミキサーマシンは四方に配置されてる可能性が高いか? スター3、フォックスの現在地から北側までの移動を監視できる建物はあるか?」
「ある」
「よし、移動を開始する。ゾンビ共は群れるが爆発はしなくなったのがありがたいな。汚れずに済む」
たまに遭遇するゾンビを片付けながら目的のビルの中に入る。
中央が吹き抜け式の作りだったので、一瞬だけISを纏い一気にショートカットして上へ。
読み通り建物内部ではミサイルのロックオン判定外だったな。
窓の外を見れば地面を走るフォックスの姿が見える。
……妙だな?
「ISの足が変わったか?」
「本当です。やや細くなってシャープな感じで、足の裏にローラーが付いてる様に見えるです」
地面を滑らからに走り、速度を武器に大剣でゾンビを薙ぎ払っていく。
あれならそうそう大事にはならないだろう。
しかし対空ミサイルがあるこの環境に対して随分と都合がいい装備だな。
やはり篠ノ之博士と繋がりがあると見るべきか。
「出た」
望遠鏡で周囲を監視していたスター3からの報告。
仮説通りあのスカベンジャーは担当地区は割り振られている。
フォックスがしっかり役割を果たしてくれれば発見は難しくなさそうだ。
「この場はスター2に任せる。予定通り追跡と監視だ頼んだぞ」
「了解です」
東にダガー小隊
北にスター2
西にスター3
南にスター1である私。
各自がそれぞれの目標を追跡し、一軒家のガレージの中、ショッピングモールの倉庫などでゾンビの製造工業を見つけた。
ゾンビの製造工場などと言うと血生臭いイメージがあったが、実際は整然と機械が並びイメージとは真逆。
ゾンビも巨大水槽に浮かんでいると思ったが、実際は数台の機械が流れ作業で組み立てるだけ。
人型の金型に金属の骨と部品が置かれ、そこにドロドロの肉片を注ぎプレスして完成である。
……バーガーだってもう少し人間の手が入るぞ?
この施設を押収したらISとは別の意味で戦争形態が変わりそうだな。
さて――
『ごふっ……町を一周しましたが……そっちの進展は……どう、です?』
興味が尽きない篠ノ之博士の技術力だが、息も絶え絶えのフォックスをこれ以上待たせるのは悪いな。
先に施設を発見、侵入したメンバーがこの施設を最小の破壊で無効化する場所を見つけている。
ミキサーマシンが集めた具材を機械に送り込む為の注ぎ口、そこから繋がるホースなど、時間を掛ければ自分達で修復可能な範囲で破壊する。
修復不可能なレベルで破壊したら責任を問われそうだからな。
それにこれで作戦が終了と言うわけでもない。
最小の破壊で最大の効率を、現場では何事も省エネが基本だ。
『こちらスター1、私が最後だ。他の施設は活動停止している』
『了解です。一旦集合しますか? それとも各自で出口を目指す感じで?』
『中央にも施設がある可能性がある。一度中央で集合だ』
『了解です』
私以外のメンバーは既に破壊活動を終わらせ中央に向かっている。
手持ちの手榴弾をパイプなどに糸で括り付る。
物陰に身を潜め、ピンに巻いた糸を引っ張り一斉に起爆させる。
爆破の衝撃をやり過ごし、機能が停止してるか確認する為に機械の前に立つと同時に……けたたましいサイレンが鳴り響いた。
◇◇ ◇◇
ゾンビ共と打ち込みの練習してローラースケートで町の外周を一周して……もう俺は疲れてるんだよ! なんだよこのサイレン!?
いやまぁタイミング的にはゾンビ製造工場を破壊したタイミングだと思うけど、こんなの聞いてないぞ!
「説明しろオラッ!」
『まぁあれだね。ぶっちゃけ飽きたから色々早めた』
中央に集合と言うことで疲れた体に鞭を入れて移動する俺の横で、ホログラムの束さんが欠伸を噛み殺しながらそう言い放った。
『ここで使ってる技術はアメリカに渡す気はなかったから、最後は爆発させて諸々処分するつもりだったんだよ? 本当は24時間経過して試練クリア! に合わせるつもりだったんだけどね』
食べれるゾンビ肉とかまだ人類には早いもんね。
まずは生ダッチワイフとして流通させ忌避感の緩和から始めるべき。
『だけど流石にだるくてさ。製造工場って中央にもあるんだけど、ここまで来たら壊されるだけだしもう終わらせちゃっていいかなって』
結果見えてるからってそんな適当な。
爆発オチ……爆発オチかぁ……。
「一応聞きますけど、人死にが出るレベルですか?」
『場合による? 地面の下に爆弾があってさ、爆発する事で建物を一気に崩す感じなんだよね。だから落ちてきた瓦礫に頭をぶつければ死ねるね』
お前さてはダガー小隊の存在が目に入ってないだろ?
生身なんですよ彼らは!
「全速全身ダッ!」
ダガー小隊が潰れたら流石に許さん!
疲れる体に鞭を入れて集合場所に走る。
『あ、流石に一斉爆破は可哀想だから南から順に爆発する様にしてあげるよ』
南って事は今危険なのはスター1か。
専用機持ちなら問題ないだろう。
地面の揺れを感じる……始まったか。
「見えたっ!」
町の中心を走る大道路の交差点。
そこにスター1以外のメンバーが集まっていた。
突然のサイレンと地面の揺れという事態でも冷静な様子。
プロってすげーは。
「お待たせしました」
「お疲れさですフォックスさん。ところでフォックスさんは地震の経験って多いです? 建物の中に入った方がいいか迷ってるです」
そっか、事前情報がないと地震と警報って受け取るのか。
アメリカじゃ地震少ないらしいから対処に困るよね。
束さんから聞いてなかったら俺でもそう思ったかも。
「この程度なら問題ないですよ」
「そうですか。ならこのまま隊長を待つです」
「……地震に慣れてる?」
ニコニコなスター2とは対照的にスター3から訝し気な視線が……あっれ? さりげなく個人情報探られてる?
まいったな。
束さんは……いつの間にか姿が消えている。
寝てないよね? 責任者としてゴールまで見届けろよ!
いやまずはダガー小隊の安全の確保か。
む? ビルが崩れるので危険ですってどう説明したらいいんだろう。
束さんが爆弾を仕掛けてるなんて知らないだろうし、俺が知ってるのはおかしいよな?
どうすっぺ……おん? 丁度いいタイミングだ。
『こちらスター1! 全員聞こえてるな!? 今すぐ出口のゲートに向かえ!』
スター1の緊迫した声が響く。
まずは無事でなにより。
『やられた! 篠ノ之博士はここの施設を全て破壊する気だ! その場に留まるな! 巻き込まれるぞっ!』
スター1の叫び声を聞き、全員が反射的にスター1が居るであろう方角を見る。
そして俺たちは見た。
遠くで土煙が上げながらビルが崩れる姿を。
「ビルが崩れてる?」
「これって相当不味い状況では――」
ダガー小隊の足に力が入る。
崩れるビルがこちらに向かってる来る様は圧迫感があって怖いな。
『私は無事だ! だがISを持ってギリギリだ! ダガー小隊を抱え今すぐ出口に向かえ!』
ISでかっ飛ばせばギリギリ逃げれるスピード了解!
束さんの性格の悪さは天下一品だよ本当に!
近くに居たダガー2とダガー3を左右の腕で抱える。
スター2がダガー1を抱え、言葉を交わすことなく土煙に背中を向けた。
「自分たち三機のISは基礎性能は同じですがそれぞれ適正に合わせてイジってあるです。隊長のISは他の二機よりスピードが出るタイプ……それがギリギリなら」
「追いつかれたらそのまま飲まれる」
普段は無表情系のスター3の顔に緊張が見える。
ギリギリの戦いを強いられてるな。
「基本は低空飛行で! いざとなれば飛ぶです!」
「えっ? ちょ、ISの加速に生身の人間が絶えっ――ぐぼっ!?」
スター2に抱えられたダガー1が肺の空気を潰された様な声を最後に視界から消えた。
アメリカ軍ってすべての兵士がGに対する訓練してたりするのか? あの様子を見るにしてなさそう。
いや仮にしてても瞬間加速した瞬間に気絶確定だな。
「こっちは出来るだけ安全運転で行きますね」
「「頼む」」
未来の自分の姿を見て震える二人を抱え、俺は前を行く二人の後を追う。
束さんの性格を考えると、出口間近で追いつかれるだろう。
これでも俺の琉々武さんは篠ノ之束印のIS。
本気を出せば前を走る二人を追い抜けるし、疲れていようとゴールまで余裕だ。
だが俺は――
「これは……ッ、結構キツイな!」
「あぁ! 体全身が押しつぶされるっ!」
この腕の中のか弱い命に配慮しなければならない。
いやマジで。
自分の腕の中で動物が圧死したらトラウマもんですから!
「徐々に追いつかれてる。でも今のままなら間に合う」
荷物がないスター3が後方を確認してくれてるが……そうか、間に合うか。
……これは絶対にもう一波乱あるな。
俺は束さんに詳しいんだ!
「敵性反応っ!? 上っ!!」
ダガー3が拡張領域からアサルトライフルを取り出し上空に向けて撃つ。
ビルの屋上からこちらに向かって飛び降りてくるゾンビたちが見えた。
姿消してたと思ったらこの仕込みしてたな!?
ってか地味な嫌がらせだけどこれ、意外とやばいのでは?
「ダガー小隊って車並みの速度で突っ込んでくる肉塊にぶつかっても平気だったりする!?」
「それは流石に」
「無理だ!」
「ですよね! 避けるだけならできるけど――」
「時間のロスになる。それに左右に激しく動くのは生身の人間には危険」
「スター3、撃ち落とせるです?」
「数が多くて全部は無理だが援護はする。スター2は?」
「こっちは自分で対処できるです」
「ならフォックスは後ろへ」
ロリの背中とお尻を合法で見れるってマジですか!? ひゃっほーい! って言いたいけど腕の中の小さな命二つが俺におふざけを許されない。
だって腕の中の彼ら、約60㎏の落下物が落ちてくる中でジェットコースターに乗ってる様なものだからね。
出会ったばかりのよくわからん人間に命を預けるなんて恐怖でしかないわな。
「……追いつかれる」
そうだねスター3。
スター1との距離がジリジリと縮まっているね。
崩れるビルの巻き込まれる恐怖と上空からのゾンビアタック。
ここは地獄か? 嫉妬とはいったい?
「サラぁぁぁぁ!!??」
「暴れると危ないです」
なんかスター2たちがあたふたしておる。
ダガー1が上空に向かって手を伸ばして映画のワンシーンみたいだ。
「サラって?」
「確か元カノがそんな名前だったな」
「オレ会った事あるよ。いい子だった」
「元カノが肉片になるのを見ちゃったか……」
ここは地獄かッ!?
束さんの嫌がらせがここで大成功だよ!
本格的に嫉妬の存在意義ないなった。
「フォックス!」
スター2の声で飛んでいた思考が戻る。
なんだかんだ疲れてるな。
えっとあれだ……残りのゾンビを最後に一斉投入してきたね。
青が3で黒が7!
落ちてくるゾンビ共がこっち見てて怖い!
「そのまま進め!」
背後から飛んできた銃弾が落ちてくるゾンビの数を減らす。
いつの間にか追いついたスター1が合流した事で弾幕が厚くなり青の割合が増えた。
IS四機が二列になって穴が開いた空間を進む。
「ご無事でなにより! でも会いたくなった!」
「酷い言い草だなフォックス」
「だってスター1が追い付いたって事は――」
チラリと肩越しに後ろを見る。
大迫力映像Fuuuuuuu!
今にでも土煙に飲まれそうでドキドキしちゃうよ!
いやこんなん巻き込まれたら普通に死ねるだろうがい!
「出口見えたぞ! だがあれは――っ!?」
正面に見える出口。
壁に穴がぽっかり空いており、上から下に壁が下りてくるタイプの作り。
ゾンビ映画……ギリギリの脱出……開閉式の門……そこから導かれる答えは?
「門が降りてきてる!? このままではマズイぞっ!」
「降下スピード、残りの距離、今のスピード……ダメです! ギリギリ間に合わないです!」
「ダガー小隊を捨てれば間に合いそう」
おいこらスター3! そんなこと言っちゃダメでしょ!
見ろよ俺の手の中の小さな命を。
足手まといになるくらなら――みたいな顔しちゃってるじゃん!
俺ならどうにかできる。
できてしまう。
仮にここでダガー小隊を見捨てるとしよう。
死の責任って俺と束さん、どっちにあると思う?
正解は“一緒に作ったダンジョンなので責任は双方にある”でした!
「スター1任せた!」
「あっ、おい!?」
腕の中の二人を並走するスター1に押し付ける。
咄嗟の事で驚いたスター1がついといった感じで二人を受け取った。
瞬間加速を使用し三人を置き去りにして前に飛び出る。
徐々に降りてくる門の真下に到着。
これはあれだ、束さんからの俺へのサービスだと思っておこう。
「ここは任せて先に行けぇぇぇぇ!」
まさかのこのセリフを言える日が来るとはな!
今の俺は最高に輝いている! きっと! たぶん! メイビー!
降りてくる門を両手で押さえる。
絶妙に重い! 琉々武の馬力でなんとかなる絶妙な力加減だよバーロー!
「全機速度をギリギリまで上げろ! ダガー小隊は気を失うくらいの覚悟をしておけ! 死ぬよりはマジだ!」
うごごごっ、早めにゴールしておくれ。
こう見えても体は疲れ切って手足が震えてますねん。
あ、爆発音が徐々に近付いてくる。
「よくやったフォックス!」
「助かりましたです」
「グッジョブ」
三機のISが横を通り抜ける。
よし後は俺が――
「ごっ――!?」
背中からダンプに突撃された様な衝撃が当てられ、肺の空気を吐き出しながら穴の奥へと吹き飛ばされる。
情けなく地面を転がり、何回転してやっと転がるのやめた。
爆風で吹き飛ばされたか? 琉々武の各部をチェック。
幸い致命的なダメージはなし。
後背部にダメージはあるが動けはする。
しかしゾンビと戦い少なからず血糊を浴びてる上で地面を転がった為、なんかもう全身が酷い有様だった。
あのさー、うちの琉々武さんは奇麗好きで有名なんですよ?
ちゃんと磨いて常にカッコいい状態を維持してるの。
それがこんな血と砂が混じった物を全身に付けちゃてさー。
……束さんや、ISを汚された事と吹き飛ばされた痛みで――自分ちょっとオコですよ?
た「爆風で吹き飛ばされて地面を転がる姿を見て大爆笑のち、ちょっとやりすぎたか心配になる」
し「(#^ω^)ピキピキ」