笑顔仮面のサディストがダンジョンに潜るのは間違ってるっすか?   作:ジェイソン@何某

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今話から一気に短くなります。
これからが一番農業大変な時期なので…許してクレメンザ(ゴッドファーザー感



第28話『デートのお誘いっす』

 

 

「うぐぅぉぉぉぉ……」

「ヘスちゃん、女の子が出しちゃダメな声っすよ、それ」

 

 いやまぁ、昨日もっとヤバイ声聞いてるんっすけどね。などと呑気に宣いながら、ルプスレギナは水の入ったグラスをベッドの横に置く。

 

 ベルとリリルカの浮気(ヘスティア目線)が原因での自棄酒は、案の定翌日の彼女に強烈な頭痛を催していた。

 

 ベッドの上で呻き悶えるヘスティアに呆れたように肩を竦めたルプスレギナに対し、その後ろでヘスティアの様子を窺っているベルは困惑顔である。まぁ、昨日夜遅くにルプスレギナがヘスティアをお姫様抱っこして帰ってきたかと思いきやこの有様なのだから、困惑するのも当然か。

 

「あ、あのルプーさん…神様、大丈夫でしょうか?」

「あー……」

 

 昨晩のヘスティアが酒臭かったのは知っていただろうが、何故こんなになるほど深酒をしたのか、その理由についてベルは知らない。しかしながら敢えてその理由を聞かず、純粋にヘスティアの体調を心配するベルの言葉にルプスレギナは眉尻を下げながら頬を掻く。

 

 正直言って大丈夫ではないだろうが、ヘスティアの苦痛を取り除く方法は無くもない。多分ではあるが、《大治癒(ヒール)》を使えば状態異常――つまりは二日酔いも治すことはできるだろう。

 ただ、現在精神の不安定なヘスティアの体調を魔法で治そうものならば、彼女は復活次第ベルに詰め寄るか、最悪再び自棄酒に走りかねない。自分の主神に対してそれはどうなんだと思わなくもないが、まぁ今回は反省の意味も込めてしばらくは大人しくしてもらうとしよう。

 

 

 ……そう思っていたのだがこの女神、思っていた以上に転んでもタダじゃ起きなかった。

 

 

「うぅ~…ベルくぅん…」

「はい、神様。僕は此処にいますよ」

 

 昨日の自棄酒を止めずにいた為、その責任を負って今日1日のヘスティアの看護…というか、介護というか…を行うつもりのルプスレギナであったのだが、ベルもまたヘスティアを心配して一緒に居ると言い出したのである。

 いや、先程問題とか言ったが、別に大きな問題という訳ではない。ただ純粋に、これを機にひたすらベルに甘えようとするヘスティアと、無自覚ながらそれに応えるベルの2人によって形成される空間にちょっとばかり居辛さを覚えているだけだ。

 

「神様、リンゴを剥いたんですが食べられますか?」

「…う~ん、ちょぉっとだけ、辛いかなぁ…? 食べさせてもらえるかい?」

「はい、それくらいならお安い御用ですよ」

 

 二日酔いの辛さは本物だろうに、ベルが皿に乗せたすり下ろしリンゴを持ってくると、何故かわざとらしく額に腕を乗せて“辛いですアピール”を始める。そんな真似しなくとも普通に頼めばいいだろうに…スプーンで掬ったリンゴをベルに食べさせてもらったり、その後棒読みの演技でベルの方に倒れ、抱きしめてもらったり…このあまあま空間を堪能すべく、冷たく半目で見つめてくるルプスレギナを、ヘスティアは全力で気付かない振りした。

 

 

……

 

 

「…………ごめん、今なんて…?」

「いえ、ですから、その…ご一緒にどこかで豪勢な夕食でも、と…」

 

 咥えていた食べかけのリンゴがポロリと口から零れて膝の上に落ちたことも気に留めず、ヘスティアはベルに聞き返す。

 意を決して告げた言葉を改めて口にしたベルは、頬を赤く染め若干しどろもどろになりながらも改めて彼女に誘いの言葉を投げかけた。

 

 その後も硬直してしまったヘスティアを見て妙な焦りを抱いたベルが早口に誘いを掛けた理由やらなんやらを叫んでいたが、まぁ間違いなくヘスティアの耳には届いていなかっただろう。

 夕食…つまりはデートに誘われたと理解したヘスティアは、『ボンッ』という音と共に顔を真っ赤にするも、その表情は喜色満点で。

 

「それでいつ行くかなんですけど、神様のバイトがない日を教えてくれたら…」

「今日っ!!」

「……え? いや、でも…」

「今日行こうっ! 今日行くんだっ!! 今日しかないって!!!」

 

 すっかり二日酔いで生じた頭痛など気にならなくなったヘスティアは、勢いよくベッドから身を乗り出してベルに迫ると、有無を言わせずに夕食(デート)の日にちを今日にする。

 

 

 しかし…

 

 

「……あー…ん、ん゛んっ!!」

 

 

 そんなやり取りを蚊帳の外から見ていたルプスレギナが、此処で蚊帳をぶち破るように己の存在をアピールする。2人の視線が己に向けられたところで、彼女はにこやかに笑みを浮かべた。

 

「えーとぉ…? 今夜の予定が決まった? 今夜の予定が決まった?」

 

 同じ言葉を繰り返しているが、1回目はベルに。2回目はヘスティアに向かって投げかけたものだ。

 

 そして、2人ともおずおずと頷いたところで、ルプスレギナは真顔のまま自分を指差し。

 

「居るんですけど」

 

 その時の2人の反応はなんとも分かりやすいものだ。

 

 片や忘れていたことを気まずそうに、でも「今夜は遠慮してほしいなー…」なんて本音がチラチラと表情に出ている女神。

 片や心底不思議そうに首を傾げている天然スケコマシ。

 

 前者はさておき、後者のこの反応…もしかして、ルプスレギナも一緒に来ればいいと考えているのだろうか。

 

 まぁ、ベルがヘスティアにディナーの誘いを掛けたきっかけが『昨日、サポーター(リリルカ)と一緒に夕食を食べに行っていた事を知ったヘスティアがやきもちを焼いたから』なので、ルプスレギナを含めた3人でというのはもともとベルの中で決まっていたのかもしれない。

 

 

「(これは…ベル君の表情からヘスティア様が真意に気付く前にフォローしとこう…)」

 

 ああは言ったものの、2人で過ごせる機会を邪魔するほど自分は無粋ではない。

 鼻から息を吸い、深く吐き出したルプスレギナは、右手をひらひらと振って

 

「冗談、冗談っすよ。私は適当にどこかで済ませちゃうんで、2人でゆっくりじっくりねっとりと、楽しんでくるといいっすよ」

「え…? でも、ルプーさん…」

「ね、ねね、ねっとりって……ぐぬぬぬ…でも、その…も、もしかしたら……」

 

 やはり、元から3人で出かけるつもりだったらしいベルはスルーして、自分の世界に入り込みそうなヘスティアの肩を叩いて正気に戻させると、ベルに背中を向け、ずいっと顔を近付ける。

 

「うわわっ…ル、ルプー君?」

「……」

「うっ……ルプー君、顔っ…顔が近っ…」

「……ヘスちゃん」

 

 反射的に仰け反ったヘスティアだったが、肩に置かれていたルプスレギナの手がいつの間にか背中に回されており、後退することが許されない。

 さらに少しずつ顔の距離が近づけば、美の女神顔負けの美女であるルプスレギナに見つめられていると変に意識してしまい、ヘスティアは顔が熱くなっていくのを感じていた。

 

「(だ、ダメだよルプー君っ! ボクの“はじめて”はベル君にっ…!!)」

 

 先程とは違った形で混乱するヘスティア。

 そんな彼女を見つめながらも、ルプスレギナの唇はヘスティアの唇を……スルーして、耳元へ。

 

「…お風呂、入った方が良いっすよ」

 

「………は?」

 

 

 またもや硬直したヘスティアだったが、その言葉の意味を先程よりも早く理解し硬直の解けた彼女は素早く自身の体臭を確認する。

 思えば、昨日はクタクタになるまでバイトした挙句そのまま大酒を浴びて、気付いたらベッドに寝ていたのだ、酒臭くないわけがない。

 

「…むむ…」

 

 ならばシャワーを浴びるかと考えるが、折角のデートなのだ、シャワーで体を清めるだけなんて、ちょっと嫌だ。ならば、普段は使わない神聖浴場(あそこ)を利用しようかとも考えたが、一方でヘスティア的には折角のデートを夕食“だけ”で終わらせたくないという思いもあった。

 

 デートの前の準備とか、さらに欲を言うならば夕食時間の前から2人でこう、街を宛てもなく散歩するだとか、そんなことがしたかったのである。それを考えると、神聖浴場まで行くのは時間が…そんなヘスティアの逡巡に気付いたのだろうルプスレギナは、小さな溜息を零し呟いた。

 

「…《洗浄(クリーン)》」

「あっ…」

 

 本人曰く『お風呂に浸かるのは好き、でもシャワーだけで濡れるのは嫌っす』というルプスレギナがよく愛用している魔法は、着ている服と共に一瞬でヘスティアの体を清める。ご丁寧に、優しい石鹸の香り付きだ。

 

 

「うん、これでよし…ベルっちとのデート、楽しんで下さいっすよ」

「…! うん、ありがとうルプー君!」

 

 呆然としていたヘスティアに思わず小さく噴き出しながらも満足げに頷く。

 やがて表情を明るく輝かせたヘスティアは、ルプスレギナに抱き着き礼の言葉を告げてから、此方のやり取りを不思議そうに眺めていたベルに向き直った。

 

「ベル君っ! 今日のお出かけはお昼の1時からにしよう! 今日の為の準備として、やりたいことはまだあるからねっ! アモールの広場で集合しようぜ!」

「えっ!? あぁ、えっと…わ、わかりました!」

 

 驚きながらも了承の返事をしたベルに満足げに頷いて、ヘスティアはコートを片手に外へと飛び出していった。

 

 

 

 

「……い、行っちゃいましたね」

「行っちゃったっすねぇ…」

 

 出て行ってしまったヘスティアを見送り呆然と呟いたベルに、先程ヘスティアの為にベルが剥いたリンゴを食べながらルプスレギナも同じ言葉を返す。

 

「…え、えぇっと…あ、そうだ。ルプーさん、本当に良かったんですか? 今日の、その…」

「いいんっすよ、別に。私のことは気にしないで、ヘスちゃんと2人っきりのデートを思い切り堪能してほしいっす」

 

 奇妙な気まずさに視線を彷徨わせていたベルは、先程流されていたルプスレギナの不参加について触れる。シャリシャリとしたリンゴの瑞々しさと甘さを堪能していたルプスレギナは、ひらひらと右手を軽く振りながらもそれに返事をするが…うっかりしていた。

 

 今回の夕食を“デート”と言葉に表したのは、これが初めてだ。

 

 

「で、でで、で、デートぉッッッ!!?」

「…あ、やっべ」

 

 そして、これを“デート”だと正確に認識していなかったベルは、案の定顔を真っ赤にして狼狽える。

 今思えば、ヘスティアに夕食に行きましょうと誘いを掛けた時に妙に緊張していたのは、自分が無意識のうちにデートの誘いをしていると気付いていたからなのかもしれない。そして今、それをはっきりと意識してしまった。

 

「うわ…うわー…ど、ど、どうしましょう!? ぼ、ぼ、僕、デートなんて初めてで…っ!?」

「(うん、見ればわかるよ。あぁでも、慌てはしても『デートじゃない』って否定したり、『付いてきて』とか言わないあたり、満更でもないのかもね。ヘスティア様、ワンチャン…と言わず、やっぱ結構チャンスあるでコレ)」

 

 取り敢えず、今更ながらに着ていく服とかを意識しだしたベルのことを、ルプスレギナはニマニマと眺めることにしたのであった。

 

 




【ベルの剥いたリンゴ】
 ウサギさんで剥いてもらうとベルと被ってしまい食べれなくなるから、普通に剥いてもらったのは此処だけの話。


【《洗浄》の魔法、大(?)活躍】
 結果としてベルとのデート開始時間が長くなる&デメテル達にデートが知られなくなりました。

※烏瑠様、誤字報告ありがとうございますosz
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