【アグライア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の
「負けてしまったね……」
フィンが派閥の敗北を告げるもその顔と声には悔しさなど微塵も感じさせなかった。アイズ達も派閥の敗北を素直に受け入れてはいるが悔しい気持ちがないわけではない為にフィンの態度には少しだけ疑念が生じるもロキの言葉によって納得した。
「せやな。けどうちらにも得るものはあった。なぁ、フィン」
「そうだね。ようやく僕もあの二人に追いつくことができた」
「団長、それって……ッ!」
「ああ、【ランクアップ】して僕もLv.7に到達した」
【
「ありがとう。だけど喜ぶのは後にして欲しい。今はまだやることが多いからね」
【ロキ・ファミリア】団長の【ランクアップ】にお祝いしたい気持ちはあるも今は
「でも敗北は敗北だ。素直に認めて敗者らしく勝者に従おう。問題は誰が【アグライア・ファミリア】に行くかだけど、ベートは――」
「行かねぇ!! 俺は絶対に行かねえからな!!」
強い拒絶。絶対に行っては堪るかと吠えるベートにフィンはそうだよね、と苦笑する。
ベートのゾッコンのアマゾネス、レナがいる【ファミリア】にベートを行かせたらもしかして二人の間に子供ができる可能性もなくはない。
常日頃から
「あの、どうして自分が呼ばれたんっすか?」
恐る恐ると手を挙げ、どうして自分がここに呼ばれたのかと尋ねるラウルにフィンは答える。
「ああ、実はねラウル。ミクロ・イヤロスから君に勧誘があってね。ラウルを鍛えてみたいそうだ。ラウル、どうやら君は【
「お、恐れ多いっす……というか怖いっすけど」
「ラウルさん……」
ラウルの反応は正しい。
一度ミクロの訓練を受けたことのあるレフィーヤは同情の眼差しをラウルに向けるしかなかった。
「はいはーい! ならあたしが行くよー!」
「ダメや」
ティオナが【アグライア・ファミリア】に行こうとするもそれをロキが間髪入れずに止めた。両手でバツを作って反対の意志を見せるほど。
「なんでさー!?」
「ダメに決まっとるやろ!! ティオナがアグたんのところに行ったら来年には【
それが理由らしい。
それを聞いてティオナは思わず想像してしまう。ミクロとミクロの赤ちゃんを抱く自分の姿を。
「えへへ」
「これはダメね……」
顔が蕩けているほど嬉しそうに笑みを見せる妹に姉であるティオネは呆れるように息を漏らす。同性から見ても幸せそうな顔をするティオナはひとまず置いておいて話を続ける。
「レフィーヤ。お前はどうしたい?」
「わ、私ですか……?」
リヴェリアはレフィーヤに尋ねる。
「彼等は信用できる。ここではない環境に身を置くことで新しい発見にも繋がるかもしれん」
未だ成長途中のレフィーヤを別の派閥に入れて成長を促す。
勿論リヴェリアもレフィーヤの意志を最大限尊重するつもりだ。その上でどうするのかをレフィーヤ本人に決めさせる。
「……」
レフィーヤも考える。
自分にはまだまだ足りないものは多い。それに一度だけとはいえ、ミクロのおかげで並行詠唱のコツも掴めることができたのも事実。今よりももっと強くなれるかもしれない。
「……フィン」
そこでアイズは一歩前に出た。
「私、行ってみたい。ミクロのところに」
アイズからの希望。アイズがそれを口にするとは思っていなかったフィン達は驚くように目を見開いた。
「ダメやダメや!! アイズたんはどこにもいかせへんで!! ちゅーか、うちがイヤや!! 行かんといて―! アイズたん!!」
ロキは駄々を捏ねる。
「……ロキの言葉に賛同するかはともかくとしてアイズ、僕も反対だ。その理由はわかるだろ?」
「……」
事情がわからないティオネ達はフィンの言葉に首を傾げるなか、アイズは無言で返す。
「君が自分からそう言ってきたのは正直嬉しく思うし、ミクロ・イヤロスは信用も信頼もできる。だけどそれとこれとは別だ。君の
一時的であろうとも
「……アイズが行かないとなると」
自然と視線がレフィーヤに集まる。本人はえ、え? と一人困惑するなかでフィンは苦笑しながら申し訳なさそうにレフィーヤに言う。
「すまないね、レフィーヤ。必然的に君しかいない。一年間だけ我慢して貰えるかな?」
「は、はい! 色々と学んできます!」
こうしてレフィーヤは一年間だけの期間限定で【アグライア・ファミリア】に
それから数日後。
「ここが【アグライア・ファミリア】の
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。さぁ、入りましょう」
「は、はい!」
一年間だけの期間限定とはいえ、今のレフィーヤの主神であることに変わりないアグライアと共に
足を踏み入れた新たな
「わぁ……」
【ロキ・ファミリア】の
子供のように目を輝かせるレフィーヤにクスリと微笑むアグライア。するとレフィーヤの耳は何かを拾った。
「戦闘音……?」
聞こえたのは武器が交える音や悲鳴や喧騒など。それを聞いたアグライアはああ、と告げる。
「今は訓練の時間ね。せっかくだし、レフィーヤも見て行かないかしら?」
「お、お邪魔ではないでしょうか……?」
「大丈夫よ。むしろごめんなさいね」
「え?」
何故謝罪するのかわからず首を傾げるレフィーヤはその謝罪の意味もわからないままついていくと『庭』に辿り着く。広大な『庭』。敷地内の四割は占めているその『庭』で【アグライア・ファミリア】の団員達は団長であるミクロに刃を向けていた。
「くたばれぇ!! 団長ぉ!!」
「
「自分ばかりモテやがってちくしょうが!!」
怒り、恨み、嫉妬を込めた団員達の刃がミクロを襲う。
「え、えええええ……」
それを見て啞然とするレフィーヤ。しかし、彼等は止まらない。それこそ日頃の鬱憤を晴らす絶好の機会といわんばかりに自派閥の団長に武器を向けて魔法を放つ。
ブッ倒してやる!! という気迫がレフィーヤにまで伝わってきていた。
「な、なんなんですかこれは……?」
「……色々と思うことがあるのよ」
主神はどこか遠い眼差しでそう言うしかなかった。
「レ、レフィーヤ……?」
「この声、セシルさん? ……ってどうしたんですか!?」
聞き覚えのある声にそちらを見れば満身創痍でボロボロになっていたセシルと既に意識のないベルが庭の隅で横たわっていた。
「そ、そっか、今日だったんだね……」
「は、はい、いえそれよりも何なんですかこれは!?」
「……訓練という名の団長であるお師匠様に対する八つ当たり、かな?」
「どうしてそんなことになっているんですか!?」
「いや、基本的にこんな感じだよ? 一週間に一回だけだけど」
「ええええ……」
何を言えばいいのかわからなくなった。
聞けば一部を除いたLv.4以下の団員は一週間に一度、ミクロを相手に集団戦をすることになっていて今日がその日だったのだ。そして皆の力を合わせて日頃から自分達を振り回してくれる団長に鬱憤を晴らそうと団員達は攻撃を仕掛ける。
「ちなみに私とベルはコレを付けてお師匠様と訓練……」
見ればセシルとベルの両手両足には見慣れない
「なんですかこれは?」
「動けば動くほど身体が重くなる
それを聞いてレフィーヤは訓練中のミクロを見た。確かにセシルとベルと同じ物が付けられているにも関わらずその動きに変化らしい変化は見受けられない。
「これ凄く重いんだよ……五分ぐらい戦闘しただけでもう動きが鈍くなるもん」
しかし実際に身につけているセシルの言葉にレフィーヤは目を疑った。全然動きが鈍くなっているようには見えない。むしろ団員達の猛攻を軽やかに避けている。
「今! 魔法攻撃!!」
「【ディソル・ナパール】!!」
「【フラーバ・エクエール】!!」
「【ゲイル・ネーヴィ】!!」
「ちょっ!?」
炎、雷、氷雪の魔法攻撃を前にレフィーヤは思わずギョッとする。いくら第一級冒険者を相手にしているとはいえ、自派閥の団長にしていい攻撃ではない。だがしかし、ミクロは直撃したにも関わらず平然と立っている。
「いい攻撃」
「平然としている団長が言うなぁ!!」
「理不尽の権化か!! あんたは!!」
「少しは痛がるふりでもしてくださいよぉ!!」
「俺達の戦意まで壊す気か!!」
物理攻撃も魔法攻撃も通じない理不尽かつ不条理の存在であるミクロに団員達は叫ばずにはいられなかった。
「……ちょっと痛かった」
「取ってつけたように言うな!!」
「全然堪えてないでしょう!!」
「もっとだ! もっと攻撃を続けろ!!」
団員達はもはや階層主、いやそれ以上の怪物と死闘を繰り広げているほどの気迫にレフィーヤは頬を引きつかせていた。
「……セシルさん」
「なに?」
「私、【ロキ・ファミリア】に帰ってもいいですか?」
「ダメ♪」
仲間♪ 仲間♪ と道連れにできる仲間ができたかのように嬉しそうに拒絶を口にするセシルにレフィーヤは逃走を図るも……。
「レフィーヤ。よく来た」
「ひゃわっ!?」
不意に正面から現れたミクロにレフィーヤは思わず奇声を上げる。
「ミ、ミクロさん……」
突如現れたレフィーヤにとって新しい団長。その団長を前に後ずさるもそれよりも先にミクロがレフィーヤの腕を取った。
「ついでだ。レフィーヤも参加する」
「え、ええ……」
「皆と訓練するいい機会」
引っ張られる。
訓練場という戦場に引っ張られるレフィーヤは逃げようとするも【
「レフィーヤ」
「セシルさん……ッ!」
助けてくれる! そう思ったレフィーヤが見たのは満面の笑みで親指を立てるセシルだった。
「ようこそ【アグライア・ファミリア】へ」
「ここでそれを言わないでくださいッ!!」
こうして【アグライア・ファミリア】