生徒会戦挙などという、いかにも少年ジャンプあたりで出てきそうなこのイベントは。
志布志に言わせれば、どこに出しても恥ずかしい、生粋の負け組集団であるマイナス十三組にしてみれば結果の見え透いた茶番もいいところだったが……正直な所、『今回は案外なんとかなりそーだな』って楽観的な気持ちもあった。
アウェーでこそ高まるマイナス十三組の
なんやかんやで結構うまくいってるチームワーク。
作戦も、なんだかそれっぽくてイイ感じ。
そしてなにより、マイナス十三組には球磨川がいる。これが一番デカい。
これだけ状況が整っていることはかつて無い。多分人生初だ。
だったらちょっとくらい……イヤ、大いに自惚れたって構わないハズだ。
まあ、警戒に値するヤツらは確かにいる。
黒神めだか。
阿久根高貴。
宇城奏丞。
古賀いたみ。
球磨川も言っていたメンドーな四人。
その中でも、桁外れの再生力を持ついたみは志布志の唯一の天敵である可能性が高かった。
古傷を開く志布志のスキル自体は問題なくいたみに通じるだろう。全身を手術している改造人間など、古傷が無い所なんてどこにも無いに違いない。
しかし、問題なのは再生力だ。
いたみの再生力であれば開いた傷もすぐに塞がる懸念があり、負傷の痛みも精神力でこらえて殴りかかられると、一般女子生徒並みの身体能力で武術の心得も皆無な志布志では成すすべがない。
「古賀さえいなけりゃもう書記戦なんざ消化試合同然かと思ってた……」
そう考えていたものの、結局はいたみが戦挙に参加しないことが決まり、ましてや自身の相手が非戦闘員のくじらになったことは志布志にとってますます都合の良い話だった。いたみの相手をしなくていいのであればこの書記戦、何の苦労も問題もなく、勝利が約束されていたハズだった――
「――だが、甘く見ていた……!」
だからこそ、不敵に笑って自身を見下ろすくじらの姿など……志布志はこれっぽちも想像なんてしていなかった!
「生徒会側で本当に厄介なのは『改造された古賀』の方ではなかった! 真に厄介なのは……!! この『古賀を改造したヤツ』の方だった!」
「戦慄してるトコ悪いが志布志後輩ちゃんよ!? 確かこの書記戦! 全裸に剥かれたら負けなんだったよなぁ~?」
何が言いたいのかわからないが、くじらのあからさまに挑発的な物言いに苛立ちが募る。
「……それがどうしたってんだよ黒神先輩よぉ!?」
「こうするってことだよ!」
尻餅をついた志布志にそう言って、くじらは勢いよく顔に巻いている包帯を取り払った!
それだけではなく、制服も靴も、パンツまでも次々と脱ぎ捨てていく!
「ななな、なにやってんだあお前っ?!」
「ナニって公開ストリップショーさ! やれやれ恥ずかしくって仕方ねえぜ!」
「理解不能! 理解不能!」
「あーららバグっちゃったかい? お嬢ちゃんにゃあ刺激が強過ぎたかねェ!
……おっと、こんなもんもそーいや下に着てたんだったな」
躊躇無く、あっという間に服を脱ぎ捨てたくじらに残ったのは。
「……な、なんだその真っ黒なアンダーウェア? ラバースーツかよ?! テメー服まで変態か!?」
「んなわきゃねーだろ失礼だな! こいつは戦挙対策で用意してた、ありとあらゆる環境に耐えうる全方位型実験服――白衣ならぬ黒衣! 『
「くじら師匠ー!? 俺のバトルの時はそんなのくれなかったですよねー!?」
「わりーな善吉ちゃん。お前に渡して見られたら
「お、お姉さま!? まさか庶務戦が始まる前から戦挙にエントリーすることを決めていたということですか?!」
「正確にはマイナス十三組とやり合えるなら試合内でも試合外でもどっちでも良かったけどな!」
ファイアー&アイスが力いっぱい黒衣を引っ張ってみるが、どうやら腕力では破れそうにない。スタンドのパワー自体はC相当(人間並み)なのでそれは仕方ないのだが。
「超高温と超低温を連続付与ッ! ヒートサイクルを繰り返すことでェッ!」
ファイアー&アイスは触れた物の温度を操る。徐々に変化させることもできるが、一瞬で高・低温にすることも可能。それを繰り返せば繰り返すほど……膨張と収縮の
頃合いを見計らって再度スタンドに力を込めれば……バリィッ! といっそ気持ち良いほどの音で、蛹の殻が破れるように『
そうしてくじらは今まさに、生まれたままの姿になったのである!
「なるほど、この解放感! 兄貴とめだかの脱ぎ癖は常々クソだと思ってたが、こーしてみるとわからねーではねえな! スタンドで自分の体温を操作したから、真夏のよーにホットだしよ! それでいて傷口は凍らせたままにできてるし、器用なスタンドなのは大変結構なことだぜ!」
「バカか!? バカなのか!? 試合放棄しやがったのかお前!」
「く、黒神くじらさま! 全裸になってしまいましたので試合は終了です! この書記戦、志布志さまの勝利です!」
「おう、審判ご苦労さんでした! ってことで試合も済んだところで続きをしようか!」
『!!?』
くじらのまさかの発言に、その場の全員が驚いた!
「庶務戦見といて良かったぜ~。試合が終わった後はルールも委員会も関係ないって前例があるからな! 今からいくら暴れたって個人の裁量ってことだ!」
「『……うーんこれは一本取られたね!』『試合運びも能力についても』『何から何まで計画通りってわけだ』『挙句僕をお手本にされたんじゃあ文句も出ないよ!』」
「ハッハー! 良かったな球磨川の旦那ァ! 試合に勝てたおかげで箱庭学園を去る必要はなくなったじゃねーか!」
「お姉さま!! 最初からこうするつもりだったのですか!? スタンドを手に入れたら試合放棄するつもりで!?」
「そもそも俺の目的は試合に勝つことじゃあなかったからなあ。
でもめだか……愛する妹よ。大事なお姉ちゃんが無事で帰って来るなら、なんだって構わないんだよな?☆」
「ぐっ、ぐぐううううううぅぅぅぅ……!?」
「めだかちゃんが今まで見たことのない苦悶の表情してるー!?」
「が、我慢すんな! いいんだぞ! お前は師匠にありったけ文句言ったって許されるぞ!?」
「スタンドってそんな手術でなれるもんなの……? じゃあ矢とかいらないじゃん……量産し放題じゃん……もうダメだぁ、この世の終わりだぁ……その内とんでもないスタンド使いが現れて世界は崩壊するんだぁ……」
「奏丞まで壊れたあ!? 二人ともしっかりしろー!」
「『しめしめ』『今のうちに裸体を写メって(グシャッ)あー!』『ひどいじゃないか奏丞ちゃん!』『もー』『携帯壊さないでよね!』」
「流石に止めるに決まってんだろボケッ!」
「…………(ぽかーん)」
「(奏丞の驚愕は期待通りとして……なんだ、江迎の反応は?)」
くじらが目についたのは怒江の表情だった。
とても驚いたとばかりにポカーンとしている。
それ自体は当たり前のことだが……同じスタンド使いという土俵に上がって来たくじらに対して、焦りとか忌々しさとかの感情があまり見られない。
是非とも歯ぎしりして悔しがって欲しかった所なのに……ただただ純粋に驚いただけって感じだ。
あれはどういう表情なのだ? 世界で二人きりのスタンド使いという立場は怒江にとって重要なはずじゃなかったのか? 眼中になかった奴に気付けば追い上げられてる時にする表情じゃあない。
怒江の心境が気にはなるが……何にせよ、まずは目の前の志布志だ。
「ほらよ(ガシャッ)」
「…………はあ? んだこれ、テメーの道具か?」
くじらは手持ちのメスやら注射器やらハサミやらを取り出し(全裸なのにどこから出した……?)、志布志の目の前にまとめて放り投げた。
それ自体はなんの変哲もない医療用具で、しかし志布志が隠し持っているカミソリの刃よりはよっぽど凶器になりそうだ。
「体調が悪そうだな? ここは寒いもんなァ。可哀想に、可哀想に……使えよ。早く勝負決めないと、お前が冷凍飛沫になっちまうぜ」
「! ……ひひ、ナメんじゃねーぞ全裸の変態め! お前みたいな変質者に見下されるなんて!」
志布志は目の前の道具を両手で掴めるだけ掴み取り、思いっきりくじらに投げつけた。
当然刃引きなどしていないため、全裸のくじらでは当たれば大怪我は必至!
だが無論、問題はない。
『NOWAAAAAAAAAAAAAAY!!』
ファイアー&アイスがラッシュを繰り出し、飛んできた道具は全てキャッチ!
志布志が気付いた時には、既に道具はくじらの手に戻っている!
「なんだってェ!? くぅ、また妙な手品を……!」
「い~いスピードだぜ。
「っ……だからナメんじゃねえって言ってんだろ!
破れかぶれの志布志の攻撃だが、それでもくじらの身体には新しい傷が走る。
……しかしその傷も一瞬で凍り付き、血の一滴もこぼさない。
「いってッ!? ……流石に傷ができちまうこと自体は防げねえなあ」
「いてェで終わらせんな! クソッ、やっぱり傷ができた端から凍ってやがる!? だがどーゆーことだ。てめえには今も絶え間なくトラウマが襲ってるはずだ! そんなに平然としてられるワケがねえ!」
「おう。まあ確かに次から次へと思い出されてるぜ。それもスタンドで頭を冷やして冷静になれてるからってのはあるが……」
思い出してみれば悲しくも健気な
客観的に見れば原因がノンデリ野郎だけではなく、くじらの日頃の行いが悪過ぎたせいと言う人もいるかもしれないが……今のくじらの辞書に『自業自得』という文字はない!
「注射の痛みに泣き叫んでたガキも、大人になりゃあ黙って予防接種を受け入れるもんだ。俺の精神は過去を凌駕したんだ! 今更そんな攻撃されたってカンフル剤にしかならねーぜェ!」
「そっ、そんなことが……!? んなわけねぇ、トラウマをそんな簡単に……!」
「信じられねえかい? トラウマに潰されたヤツはさぞ見て来たんだろうが、トラウマを乗り越えたヤツは初体験だったかい!」
「『飛沫ちゃん』」
「! 球磨川さん!?」
顔を向けると、いつものような球磨川らしい笑顔を浮かべている。
「『試合はもう終わったんだ』『だからもう』『飛沫ちゃんの好きに暴れていいんだよ』」
「!!」
『
志布志本人が説明した通り他人の古傷を開くスキルではあるが、奥の手はトラウマ攻撃だけではない。ここで言う『他人』には、なんと無機物も該当するのだ!
今回の戦いの舞台となった古い冷凍倉庫には、長年利用されている内にできた傷もあれば、補修された箇所もある! なんなら組み立ての痕すら傷と見なす!
無差別にそれらの傷を抉り出せば倉庫は倒壊し、当然試合どころではなくなっていただろうが……球磨川の言ったように、既に試合は終わっている!
「……OK! 自由に
「…………」
「喰らいなあたしの『
全力で過負荷を使おうとして――志布志の身体が大きくぐらついた。
意識がまとまらない。なぜだか瞼が降りて来て、目を開けようとしても、顔をつねってみても、なかなか開かない。
「なんだ、意識が……? 寒さのせいか、体力の限界か……過負荷が、うまく使えねえ……!」
「お前の過負荷。昔はどうか知らねーが、こーして使いこなしてる今はONにして使うタイプのスキルみたいだなあ。やろうとしたことを見る限り、無意識でONになるなら寝てる間に家に潰されちまうもんなあ」
「…………?」
「面と向かってよーいドンなら、俺のスタンドの方が速かったぜ」
楽しげなくじらの声が辛うじて聞こえてくる。目がしっかり見えていれば、全裸のくせに胸を張って、ニヤァァァ、と憎たらしい笑みで自分を見ている顔も見えただろう。
だがそれでも、不調の原因がくじらにあることだけはぼやけた頭でもなんとか理解できた。
「あたしに……なに、を……」
「ちょーっとお前の頭にある『視床』をね? 涼しくさせてやったのさ♡」
視床は脳の一部位、全身の感覚情報や意識に関わる重要部位だ! そして人体のスペシャリストであるくじらは当然、その機能、その位置を十二分に把握している!
そして視床が急激に冷やされ活動が低下することで発生する感覚・意識障害! 志布志を襲う朦朧の正体はそれだ! くじらのファイアー&アイスが志布志の視床を冷やしているのだ!
「精神エネルギーの塊だから物理的な障害には意味がない! 皮も肉も骨も! スタンドはスタンドでしか倒せないって理屈も納得できるな!
その割には物理的な干渉もこっちからは可能だからつくづく反則くせー能力だが……メス入れなくても手術できそうなもんで、ますます俺好みな能力だぜ☆」
「くそ……がぁ……」
もう志布志は意識を保っていられない。
しかしそれでもとくじらに手を伸ばして。
「……フーン? ここまで追い詰めてやったのに向かってこようとするなんて…………負け組自称するわりにはなかなかガッツあんじゃねーか」
「あっ……」
志布志の伸ばした手が掴まれた。何に掴まれているかも既にわからないほど朦朧としていたが、一つだけ感じ取れたことがある。
「(……………………あったけぇ)」
極寒の地獄で感じた温もりを最後に、志布志の意識は静かに落ちていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「やーっと外に出られたぜ。けっこー諦めの悪いヤツで長引いちまった。さっさと治療してやんな。このままだとコイツの手足、切り落とすことになるぜ」
「『いい試合だったよ飛沫ちゃん』『勝負は負けたかもしれないけど』『試合に勝てた以上は紛れもなく大金星だ』」
試合も勝負も終わったことで、ようやくくじらは気絶した志布志を引きずりながら倉庫から出て来た。
それを出迎えた球磨川は優しい声で志布志を受け取り、凍傷になった体を
「(……ちぇ、俺が苦労して与えたダメージも一瞬で治しちまったか。やはりヤツの能力も負けず劣らず厄介だぜ)」
「ごっ、ご無事でっ、何より、です……! お姉さま……!」
一方のめだかはというと自身の上着を脱ぎ、傷だらけの全裸を未だに晒しているくじらに着せている……が、その表情は無理矢理笑顔を作っているようでぎこちない。
言いたい文句が山ほどあるが、『無事に帰って来てくれればなんだって構わない』と言った手前、口から漏れ出そうな文句をなんとか飲み込もうと奮闘している顔だった。
「おー、愛する妹。上着さ~んきゅっ。だけど笑顔が固いよん? こーゆー時はハイタッチで迎えてくれるんじゃねーのかい?☆」
「あがっ、あがががががっ……!?」
「アレアレェ、まるで言いたいことがあるけど言えなさそーなPOISON顔じゃーん? おお妹よどーしちゃったの「やめんかい(パシッ)」イテッ」
からかうくじらの頭を奏丞がはたいた。
呆れた目で見降ろす奏丞に、くじらはニンマリとした笑みで返す。
「無茶な奴……俺以上に無茶苦茶な奴だな! めだかなんていつ乱入してもおかしくない程取り乱してたんだぞ」
「おっとそりゃあ悪いことしたなあ。反省反省。で、お前はどーなんだよ。思春期男子にとっちゃさぞ興奮した試合じゃなかったかい?」
「この世の終わりが近づいてることがわかって、今もハラハラしてるぞ」
「どーゆー意味だ! とゆーかスタンドの方じゃねーよ! ハダカだよハーダーカー! 乙女の裸体見たんだからそれ相応になんかあるだろ! オラッ、正直に吐け! 感想を述べよっ!」
「期待してるとこ悪いけど……寒そう過ぎて興奮なんかなかった」
「しまった、コイツ真冬のミニスカ女子見たら心配になるタイプだった……」
冬の北海道より寒い冷凍庫の中で血塗れになって戦っている女子の裸を見てエロい気持ちになれるヤツはなかなかの変態である。残念ながら奏丞はそこまで業が深くなかったので、くじらのアピールは当然失敗だった。
というかそんな極限状況でそんなアピールしようとすんな。
「なんかアナタって色んな意味で可哀そうになってくる人ね……空回ってる感ハンパないわ」
「……テメェッ」
『オオオオオッ!』
「おいコラ待てい!?」
怒江の顔を見たくじらは、奏丞の制止も気にせず即、ファイアー&アイスを繰り出した!
それに対し、怒江も
「ふん、貧弱貧弱ぅ」
『シャアララララララッ!』
この世界で初となる、スタンド使い同士の戦いである!
スタンドの殴り合いの余波を受け、倉庫からは正しくポルターガイスト現象のごとくビシバキと嫌な音が響き始める。スタンドが見えない大多数の者達には今何が起こっているかわからず、異常音が鳴り響く倉庫内を不安げに見回しているが、スタンドが見える者にとっては見えていることが逆に恐怖だった。
「クッソこうなったら俺も乱入するか……!」
「なんだこのイカした姿は!? これがスタンドってヤツか!?」
「……え、善吉今なんつった?」
「(この腐れ女のスタンドは……パワーもスピードもファイアー&アイス以上か。長年使ってるからか動きも俺よりスムーズな感じがするぜ)」
「(『なりたて』にしては結構器用に使うわね。正面からの殴り合いならラブラフレシアの方が強いけど、能力を使いこなしてきたら厄介になりそう)」
意外なことにくじらと怒江は互いに冷静で、小手調べとばかりにスタンドの特殊能力を使わずに殴り合っている。
そして、押されているのはくじらのファイアー&アイスの方だった。長年愛用され、成長していた怒江のラブラフレシアの前ではさすがの魔王くじらでも分が悪い。
「確かに使い慣れてるだけはあるな! だがそれも時間の問題だ! スタンドを使えるようになった以上、こっちもいずれ慣れちまえば関係ねェ! てめーの優位はもはや無いも同然だぜ!」
「……う~ん? 何が言いたいんでしょーねえ?」
「同じスタンド使いってだけででかい顔はできなくなったってことだ!」
「
「…………はっ?」
動揺の瞬間、ファイアー&アイスの両腕のガードを、ラブラフレシアがそのパワーでもって弾き上げる!
「なにッ! ガードが!?」
「フンッ! ボディからアゴにかけてガラ空きになったようねェ~」
その隙を逃さないラブラフレシアの拳が無防備になったファイアー&アイスの腹部に迫り……ピタリと寸止めした。
「精神が揺らげばスタンドも揺らぐ。だからアンタのスタンドは弱っちいのよ」
「……なんでだ」
「そりゃあ、こんなお遊びで怪我した、されたなんて言うつもりなかったですしぃ? 奏丞くん悲しんじゃうかもだしぃ?」
「寸止めしたことじゃねえ!! この世でたった二人のスタンド使いってのはお前の強みじゃなかったのかよ! こーして新しいスタンド使いが増えたんだぞ! お前にとっちゃ脅威だろ! なのになんで……カケラも動揺してねえ!?」
「えっ、聞きたい!?」
「!?」
怒江は冷静な表情から一転。実に嬉しそうに、その問いかけに食いついた。変わり身の早さに、くじらは不意を突かれる。
「もーそこまで気になるなら仕方ないわね! だったらどれだけ私達が思い合っているかをじっくりと話して……あげたいところだけど」
チラリと怒江は奏丞を見る。さっきから二人のやり取りを聞いて気まずそうにしている姿を見て、ふふっ、と笑った。
「本人がいるところで話すのもアレだしねえ?♪ 今度お茶でもしながら自慢してあげるわ! 私もあなたとちゃんと話さないとって思ってたからちょうどいいでしょ! 予定、空けといてね~」
「…………」
「じゃあ球磨川さん、蝶ヶ崎さん、行きましょう! 来週の会計戦の作戦会議もしないとだしね! あっ、志布志さんなら私が運ぶわ! 終業式の時のお礼も兼ねてね!」
「『そうだね行こうか!』『飛沫ちゃんの奮闘で白星を勝ち取ったんだから』『祝勝会も盛大にしないとね!』
『…………』『ねえ奏丞ちゃん』」
「……なんすか球磨川パイセン」
去り際に球磨川が、奏丞に小声で話しかける。
「『実はもう君達って付き合ってたりする?』」
「……いや、付き合ってはいない……はず……」
「『じゃあ告白したりされてたりする?』」
「……世間一般の告白的なものも、これまでなかった、はず……」
「『そのわりには怒江ちゃん』『かなーり強気じゃない?』『絶対前になんかあったでしょ』『なんか心当たりないのぉ?』」
「……わからん。言質取られるようなことは手紙に書いてないはずだし、勘違いしてるとかならなおさらわかんねぇ」
「『はーやれやれ』『結局なんにもわかんないんじゃないか』『これだから乙女心エアプは困るね……』」
「アンタ乙女心既プレイなん?」
マイナス十三組は悠々と去って行った。
試合上では生徒会の敗北かもしれないが、結局最後までくじらの思い通りの試合運びになっていたはずだ。
なのに当のくじらは今、大きな不安を覚えている。生徒会戦挙で初めての不安だ。予想外の怒江の態度に得体の知れないものを感じている。
「…………なんだってんだよ、くそっ」
いつもの傲岸不遜な魔王フェイスが今は、見る影もない。
最近真面目なお話が多い気がするので、次回は小休止回。