歯車式 2026年07月22日(水) 13:28
一つの作品へ複数回感想を投稿するのは、思えば初めてかもしれません。14〜16話の、サイトの改稿システムを用いず、寄せられた感想ごと全消去からの改稿作業に巻き込まれた分を含めれば三つ目になります(話毎の感想自体は消えた様に見えるだけで、全件感想からは見れたりする訳ですが)。
さて、創作とは自由です。巧拙はどうあれ、自分の好ましい概念を満足するまで追求し、形を成していくものだと私は認識しています。例えばここハーメルンでは、数百年以上前の古典作品を原作として2次創作する事だって散見されます。また、このサイトや二次創作に限らず、衝動的な一次創作や、文章という形へ落とし込むのが困難な概念を見事に小説と成した例は枚挙に暇がありません。
賛否あるでしょうが、ともあれ、我々読者は作者の「好き」を見に来ている訳です。少なくとも私はそうでした。そういう意味では、作者様のこの作品を見かけた時、掘り出し物の……(1942文字省略されています)様な、煌めく何かを感じ取った気がしたのです。1920年台のアメリカを、百年先の、現代の音楽理論と幾許かの歴史の知識で苦悩を乗り越えながら成り上がるというオリジナリティの強い作品だ、と。百年前のアメリカ及び世界の文化・歴史・情勢・経済・政治に加えて、音楽の文化や技術の隆盛、そしてそれらが重なり合った複雑な紋様を描いてくれるのだろう、と。
ことマニアックな題材を扱った作品に於いては、限度こそあれ、私は巧拙をあまり気に留めない方です。そういった、作者がこれまでの人生で積み重ねてきた趣味や好物から搾り出された文章は、何であれ読んでいて楽しいものですので。事実、序盤は割と楽しんでいました。しかし、何と言えば良いのでしょうか。いくら読んでも、文章から作者様の「好き」が伝わってこない様な気がしたのですよ。
一話あたりの文字数はちょうど良く、著しい誤字脱字があるわけではない。けれど、ただ複数の物語を接合したかの様な、何人かのキャラクターの希薄さがまず目に付きます。まあ、そこは別に問題ではありません。1920年台のアメリカを舞台に置いたなら、赤貧音楽家を主役に据えたなら、現地の様々な人々と共に覇権を目指していくのであれば、もっとじっくりねっとり書いても良いと思うのです。全二十話は短過ぎますし、印象に残っているといえる人物は主人公ぐらいなものです。つまり何が言いたいかといいますと、掘り下げがなく、軽薄な印象を受けました。
軽薄であるだけならば余裕で許容範囲なのですが、これに加えて会話や発言の矛盾、似通った表現の多様、間延びした説明的文章など、少々見過ごし難い欠落があるのも事実です。また、英語で考えて日本語で無理矢理書いたかの様な不自然な文章構成や表現も、こうなってくるとえくぼも痘痕の様に見えて来ます。勿論、改稿を経てある程度は改善されたのですが、最後まで執筆済みだという作品を二十分割して毎日定時投稿していたのに途中で改稿するぐらいなら、隔日投稿にして一日を投稿前推敲に充てるか、あるいは十分な推敲後に毎日投稿を始める方が、作者・読者共に幸せになれると思われませんか。
巧拙は気に留めないと言った側から、とお思いでしょうが、限度があるとも申しました。言動の意図しない矛盾は一度や二度までなら読み飛ばせますが、頻繁に現れるとそもそも読解が難しくなります。似通った表現の多さは、演出意図がなければ退屈ですし、より良い表現の探索を放棄していると見られかねません。間延びした説明的文体はもはや小説ではなく説明書であると言っても過言ではないでしょう。英語を訳したかの様な文章という形式も、ことこの時代のアメリカを舞台とするならば寧ろ滋味になり得ていたでしょうが、翻訳調と呼ぶには少々、いえ、割と致命的なまでに不自然な直訳的文章と成り果てており、読書速度に何度も急ブレーキがかかる様な感覚さえ覚えます。また、こういう事はあまり指摘したくはなかったのですが、『五線譜と密造酒』というタイトルと二十話分の実態に著しい乖離がある様に思われます。終盤へ向かうに連れて、五線譜の名を冠するには作曲関連のシーンが乏しく 、密造酒の名を冠するには中盤でマフィアとの関連性は解決しており、そして終盤は大恐慌を利用した株取引ばかりが描写の中心となってしまっています。更に、序盤に25ドルで自身の曲を売り飛ばした事を作中で何度もくどいほどに言及しています。加えて、株取引の仲介者が大切に持っている懐中時計、象徴的な存在ではありましたが、これに対する言及が異様な程に頻繁だったにも関わらず、物語に劇的な変化を齎したわけでもありませんでした。これでは『五線譜と密造酒』ではなく『25ドルと株と懐中時計』と呼ばざるを得ません。感覚としては神聖ローマ帝国という国名に近い気はします。一方で、WW2についての言及が途中にありましたが、二十話に至ってもなお、WW2へ舞台が突入する事はなく、ただのフレーバーとなってしまっており、チェーホフの銃の真逆を行っており非常に残念です。
もし、作者様がWeb小説向けに肩の力を抜いていらっしゃったのであれば、些か脱力し過ぎだったかも知れないと具申します。しかし、いずれにせよ、小説に限らず媒体は何でも良いですが、作者様には近代や現代の名作を視聴・読解して、心の滋養をつけて頂きたく存じます。いわゆる名作と呼ばれる作品や数十年読まれ続けた作品は、構成や表現が色とりどりであり、ただ流すだけでも強く影響を与えますので、そこから得られる何かは十分以上にあると思われます。
長くなりましたが、完結まで読んだ感想を一言で纏めます。非常に惜しい作品でした。次作もお待ちしております。
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20話 報告