おじさん、今年で36歳になるんだけれども (ジャーマンポテトin納豆)
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おっさん、IS動かして監禁されちゃったよ。

他の作品で結構悩むことが多くなってきたこの頃。
息抜きにフリーダムで書いてやろうと思っての投稿。
連載になってはいるけれども続くかは分からない。

見切り発車、グダグダ、キャラ崩壊注意です。


「あれ?俺ってばやらかしちまった?」

 

呑気な声で話すこの男、佐々木洋介は今年で36歳。世間で言うサラリーマンをやっている。彼女無し。童貞です。

 

その男が触れている物、いや身に着けてしまった物と言った方が正しいか。

それはIS。正式名称 インフィニット・ストラトス。

英語で書けよと言われても分からんもんは分からん。勘弁して。

 

 

大天災と名高い篠ノ之束博士の手によって作り上げられた、『無限の成層圏』の名を持つ世界最強の兵器。そして同時に十全たる道具にすらなれなかった兵器。

元々は宇宙空間での作業用スーツとして開発されたものが今では兵器である。

 

兵器とは一部の特殊な物を除いてある程度訓練すればだれでも使えるように設計されているものである。しかしこれは一部の人間にしか扱えないと言う方に当てはまる。いや、当てはまってしまった。しかもより酷い形で。

 

 

女性にしか起動、操縦する事が出来ない。

 

 

そう、何故だか女性にしか扱えないのだ。

整備や開発と言う観点であれば男性でも問題なく携わる事が出来る。しかし書いてある通り、起動、操縦となるといくら何をしてもどうやっても起動すらできないのだ。

開発者も、

 

「いや~、どうしてだろうね?束さんさっぱり分かんないよ」

 

と言った形で世界中の研究者がその謎を突き止めようとするも謎が深まるばかり。そもそもIS自体が謎の塊なのだ。何だコアって。ブラックボックスもいい所。構成素材すら分からないし製作方法もウサギさんしか知らない。開発者たちはそんなんでISをいじっているのだ。

 

そしてそんな世の中でいきなり現れた男性操縦者である。

どうなるかは察していただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべぇな……俺トンデモねぇことしちまったぞ」

 

やぁやぁどうも佐々木です。今年で36歳になるがこんなおっさんにいきなり降って来た人生で最悪な状況がこれ。

 

俺ってばIS使えるらしい……

 

俺も混乱してるしなんだったら世界中が大混乱。

私、現在身柄保護という名の監禁中。

まぁーた面倒な事になってしまったものだがどうすりゃいいんだねこれ?

 

ふざけるのはこのぐらいにしてしっかりと状況を把握しよう。

まず、俺自身を簡単に言ってしまえば転生者という者である。

まぁチートなんて貰ってないし、容姿も極普通。脳みそは前世で勉強していたおかげか多少はマシ程度。身体に関しては身長177cmと至って普通。

書けるとすればちょっとした事情で武術が多少できる事ぐらい。

 

交友関係は何故だかブリュンヒルデ一家と大天災一家との謎の交友がある。

いや、交友関係が出来た原因は俺にあるんだけども。

 

 

 

そもそもの始まりが俺が19歳の時。この時既に社会人として働いていたんだけども俺が住んでいるボロアパートにまだどう見ても小学生な千冬が居たわけだ。しかも赤ん坊を連れていると来た。しばらく見ていたが親らしき人間は現れないしそもそも居るのかすら怪しい。どう考えたって訳アリもいい所のヤバい匂いがプンプンしている。しかしこりゃいかんだろと思い、と言うか普通だったら警察なり児童相談所に相談するがあんまし信用ならない奴らな訳だこれが。だからどうするか悩んだ挙句、近所という事もあってか世話を焼き始めた。

 

だって日に日に痩せていく千冬と遠目から見ても栄養状態が良いとは言えない一夏。それを見たら普通は助けますよ……

 

しかもこの時最悪な事にこのボロアパート、俺と千冬と一夏しか住んでいなかった。だから他の人間は気付きゃしないし気付く人間が俺しかいなかった。大家さんは滅多に顔出さないし。と言うか俺も会ったのは此処に入居するときに鍵を渡されたときだけだし。

 

そんな感じで余りにも酷くて助けたんだがな。

最初は敵意丸出しでおっかない事おっかない事。でも流石にあれは不味いから根気よく付き合っていく事1か月。まさかの千冬がぶっ倒れたのだ。そこで子供に欲情する趣味は無いから健康状態を素人ながら見させてもらったが、千冬も一夏も最悪だった。がりがりにやせ細っていたし、部屋には少なくとも千冬が食事をした痕跡は無い。俺が買って渡していた弁当は食べたのだろうが此処まで酷い状況とは思っていなかった。一夏に与えるための粉ミルクはあったがそれすらも残り少ない。

 

良く生きていたと思ったがそれも危うい状況。病院に行こうとしたが千冬は行きたくないの一点張りで困っていたが流石に素人ではどうしようもない。何とか説得して急いで近くにある御年75歳の爺さんがやっている診療所に二人を抱えて駆けこんだ。

この爺さんとは昔からの知り合いで良く世話になっていたのだ。年は取っているが腕は確かで平日の昼時になれば結構な人が診察に訪れる。

しかし今日は休日な為にやっていないが電話をしてなんとか見てもらう事になった。内科と小児科の医者だから見せてみて正解だった。

 

「なんじゃこりゃ……こんなひどい状態は見たことが無いぞ……」

 

二人を見た先生はそう言うと急いで栄養剤の点滴を行ってくれた。

 

親が恐らくいない事などの事情を説明すると泣きながら怒りながら聞いてそして診療代をタダにしてくれた。

そして二人が静かに寝ている横で二人の容態を説明してくれた。

 

 

 

 

 

「二人だがな、極度の栄養失調だな。此処まで酷いのは相当だぞ?お前さんが連れてこなけりゃ間違いなく死んでいただろうさ。疲労も相当な物だろう。今は栄養剤を点滴している。取り敢えず姉の方は少しづつ食事を摂れば問題ないが問題は下の子だな。赤ん坊と言うのもあって下手なことは出来ん。点滴と栄養価の高い栄養剤を経口投与してある程度回復するのを待つしかないな。幸いにも他に異常は見られんかったからその点に関しては安心せい」

 

「そうですか……」

 

「しっかしなんでわしの所に来た?でっかい病院に行きゃよかろう」

 

「それが、この状況ですから彼女たちの部屋に保険証を探すために入ったんです。ですがいくら探しても見つからなかったんです。この状態で大きい病院に行くとただでさえこの状態なのに余計にややこしくなると思いまして。それに姉の方が病院には絶対に行きたくないと言って聞かなかったんです。だから何とか説得して此処に」

 

「確かにそうだな。そもそも保険証が無いってのがおかしい。無くしたとかなら分かるがそうでないとなると……」

 

「はい。本人も話してくれませんし、1か月前ぐらいからどんどん痩せて行ったので弁当の差し入れを偶にしていたんですが、此処までとは……」

 

「そうか……でもその差し入れのお陰であの子たちは生きていると言ってもいいだろうな。それが無かったら間違いなく死んでいただろうよ」

 

 

 

 

二人でこれからどうするのかを話していると千冬が起きてきた。

そして少しの間周りを見ると、急に起き上がって点滴を抜いて帰ろうとしたのだ。止めようとして先生が立ちはだかると、フラフラとしながら

 

「周りに迷惑を掛けられない……お金を払う事が出来ないのにこんな事……」

 

と、弱弱しい声で言った。

そんな状態で良く言えたものだと思ったが流石にこのまま返すわけには行かないので落ち着かせて座らせて事情説明。

 

すると、千冬は泣き出してしまった。

その後は疲れたのか眠ってしまったので先生が再び点滴をしてそれが終わった後はどうしようもないので取り敢えず俺は家に帰った。

しかしどうも気になって落ち着かず再び診療所へ。

 

そして先生は、

 

「なんだ、戻って来たか。ま、お茶でも飲んで待っとれ。もう少しすれば目も覚める」

 

そう言ってお茶を出してくれると再び俺と一緒に二人の様子を見ていた。

改めてみると本当に酷い。

 

顔は痩せこけて、手足は異常なほど細い。

これで良く生きていたものだと改めて思う。そして一夏の方を見ればこっちも酷い有様。赤ちゃんとは思えない見た目をしておりどうして生きているのか分からないぐらいには酷い。

 

そして日を跨いで7時間ほど経った頃。千冬が目を覚ました。

少し顔を動かして周りを見ると俺が居ることに気が付いたのか小さな声を掛けて来る。

 

「あの、此処は何処ですか……?」

 

「此処はアパートの近所にある診療所だよ」

 

答える時も出来るだけ不安にならないように、怖がらせないように優しく接することを心掛けた。

何処に居るのか、どんな状況かを説明すると、

 

「良かった……ッ……!一夏が無事で本当に良かった……!」

 

一番最初に発した言葉はそれだった。

泣きながら顔を手で覆って。その時の俺は取り敢えず頭撫でといた。

今思い出しても本当に妹思いな姉だと思ったよ。

と言うか俺はこの時点で一夏の性別を知らなかったんだな。先生は知っていたようだけど。

どうも先程起きた時の記憶は無いらしく、こっちとしてはそんなに追い詰められていたのかと再認識させられた。

しかしその後に発した言葉は衝撃的だった。

 

「助けてくれてありがとうございます……でも病院……お金払えないです……」

 

この状況ですらその心配をするのだ。家計は追い詰められているなんてレベルじゃないんだろうな。

 

「それは気にしなくても大丈夫だよ。今はしっかり身体を休めて回復させること。それにだけ集中してくれればいいよ」

 

「でも……」

 

そう言ったのに尚も食い下がって来るからそれから20分ぐらいかけて説得した。

 

 

 

それからは先生とどうするのかを話し合って、ひとまず俺が面倒を見ることになった。

今日は日曜日だから明日は仕事がある。しかしこんなん放っておけないから有休を取って色々と調べたりした。

戸籍関連も調べたがどうやら戸籍自体が存在しないという事が分かった。

これならば保険証が無かったのも頷ける。

しかしこれはいよいよ面倒事になってきたと思ったよ。

なんせ戸籍が存在しないのは明らかに不自然だ。日本では出生後2週間以内だっけ?までに届けなければいけないのにそれが行われていないという事は可笑しいなんてレベルじゃない。

 

下手をすれば犯罪絡みもあり得るがそれを確かめる手段は警察に行くしかないが、そうしなくても大丈夫だった。先生の知り合いに伝手があるらしくそれを頼りに戸籍の方は何とかしてもらった。

 

その週は仕事をして再び土曜日。

診療所に行って千冬の様子を見に行くと、いくらか元気になっていた。

 

先生によるとあと1週間もすれば普通に生活しても大丈夫だそうだ。ただ一夏の方に関しては赤ちゃんだという事もあってかもうしばらくは気を付けなければいけないと言われてほっとしたのをよく覚えている。

 

 

 

 

1週間が過ぎて自宅に戻ると取り敢えず事情を聴いた。

 

なんでも親は暫く前にお金と置手紙を残してどこかに消えてしまったんだそうだ。それからは8歳の少女がなにか具体的な手段を取れる訳も無く残されたお金で何とか食いつないできたがそれすらも無くなった時に俺からの差し入れ、と言う流れらしい。

それでも残り少ないお金は全部一夏の粉ミルク代として使って自分は水道代も払えず光熱費も払えず、公園の水しか飲んでいないという事だった。

 

思わず泣いてしまったがそれは許してほしいね。

 

 

 

 

 

 

それからは二人の面倒を見ながら、と言う感じだ。

いやぁ、二人とも立派になって嬉しいね。千冬はブリュンヒルデになった。料理できんけど。

一夏の方は家事全般が大得意。炊事洗濯掃除裁縫なんでもござれ。特に料理は本当に上手でプロにも負けないぐらいの腕を持ってるし関係無いがめちゃくちゃ頭もいい。

よくもまぁこんなに立派に育ってくれたものだ。

こりゃ嫁に行くとき泣いちゃうね。

 

昔を思い出すのはこれぐらいにして今俺がどうするかを考えるとすっか。

 

今は馬鹿でかい高級ホテルに監禁されてる。

脱出は無理かなぁ……だってここ80階あるホテルの最上階なんだもん。飛び降りたらスプラッタ間違いなしよ?ドアのところにも黒服が立ってるし。

 

詰んだなこりゃ。

 

 

早々に脱出を諦めました。だってもう無理だとしか思えない。

やることも無くベッドの上でゴロゴロしながらテレビを見ればニュースで俺の何ともありふれた顔がずっと流れてる。

誰が楽しくて自分の顔が流されてるニュースを見なければならんのか。

俺はナルシストじゃありません。

 

するとドアの向こうから誰かがやって来る。

 

『失礼します』

 

そう言って入って来たのは千冬だった。

 

「お?どったの?急に来て」

 

呑気に聞くとそれまでのクールなお顔が怒った顔に。

 

「どうしたの?じゃないです!あなた何してるんですか!?いきなり連絡が来たと思ったらISを動かしたって言われて!」

 

「いや、それが俺にもさっぱりなのよ。ポカンとしてたらあれよあれよと今の状態に落ち着いた」

 

「なんでそんな呑気なんですか!?落ち着いたじゃないですよもう!……あぁもう!」

 

お怒りの様ですね。まぁ俺が原因なんだけども。

 

「今どんな状況か分かってます!?」

 

「そりゃ勿論分かってるよ?世界中のありとあらゆる国家、組織が俺の事を狙ってるって事とか、解剖しようとしている奴らとか女権団が色々やらかしそうな事とかそりゃもう盛りだくさんだな」

 

「はぁ……そう言えばそうでしたね。貴方は聡い人ですから分かっていますか……」

 

溜息をつきながらそう言う千冬。

 

「で、本当に何の用で来たんだ?全く見当もつかないんだけど」

 

「なんですか?家族の心配をしてはいけないと?」

 

「いや、そうじゃないけど、多分俺関係の事で色々迷惑かけたんじゃないの、と思って」

 

「確かに一夏を含めて大変でしたよ?でも今までの恩を考えればどうってことは無いですし」

 

そう言う千冬は何故か嬉しそうな顔をしていた。

なんでだろう?生まれてから女心なんざ分かった試しがない。

 

「それと、報告です」

 

「絶対そっちの方が重要でしょうよ。先に言いなさいって」

 

「いいんです。家族の方が大事ですし、この報告が無ければ会えなかったんですよ?」

 

「いやまぁそうなんだろうけども……」

 

「それじゃ決まったことを言います」

 

3日も経ってりゃそら色々と決まるでしょうよ。本人の意思をガン無視ってのがムカつくけど。

なんか嫌な予感しかしないのよね。生徒として放り込まれたらどうしよう。

 

「へーい」

 

「まず、佐々木さんにはIS学園に入学してもらいます」

 

「え?入学?マジで言ってんの?」

 

「本当ですよ。IS委員会で正式に決定しました」

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

何となく予想してたけどこれは辛い……!

一年間留年しただけでも相当だって聞くがそれがいきなり35歳を生徒としてぶち込むなんざ正気の沙汰じゃねぇ!

 

「気持ちは分かります。でもISに関しては素人もいい所なんですからこの際しっかりと学べって事です」

 

「それにしてもさぁ!?今年で36になるおっさんを高校生としてぶち込む!?普通もっとやりようはあったでしょ!?教師としてとかさぁ!」

 

「そんなこと言われてもどうしようもないです」

 

そう言ってふっと笑うと悪魔が如き一言を吐いた。

 

「一夏と同学年ですね」

 

「ぐわぁぁぁぁ!!??やめろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

もう何も言うな!言うんじゃねぇ!俺のライフはもうゼロよ!!

へこんでいるとそんなのお構いなしに話を続ける千冬。

 

「で、続きですが、取り敢えずIS学園に居ろって事で纏まったのでそれ以上はありません」

 

「はぁ……どうせどこの国に所属するかとかで揉めまくったんだろ?その結果がこれって事だ」

 

「流石ですね。よく分かっていらっしゃる。補足をしておくと在学している3年間の間にどうするのか具体的に決めるそうです。良かったですね、解剖まっしぐらじゃなくて」

 

「わーってるよ。と言いつつも千冬が守ってくれたんだろ?」

 

「っ!?……なんで分かったんですか……?」

 

「そりゃ分からない方がおかしいだろ。優しいからな、千冬は。口で悪態ついてても本当は内心真逆だろうがいっつも」

 

何年家族やってると思ってんだ。

育てた人間として言わせてもらえば此処まで感情表現豊かな奴はそうそう居ないと思うけどな。

直ぐに顔赤くしたり怒ったり泣いたり笑ったり。

 

そんでもってその顔を見てみればおやぁ?真っ赤ですなぁ。

 

「どうしました千冬さん?お顔が真っ赤でございますよ?」

 

「っ!うるさい!」

 

「へぶぁ!?」

 

少しからかっただけなのにビンタくらわされた。

 

「はぁ、おちょくるのは辞めてください」

 

「分かったよ……」

 

「ん……」

 

謝罪ついでに頭をわしゃわしゃと撫でると千冬は目を細めて嬉しそうにした。

 

 

 

 

「それでは私はまだやることがあるので帰ります」

 

「おう。気を付けてな」

 

「はい。それでは」

 

そう言って千冬は帰ってしまった。

また暇になってしまった。と思ったそばから次の来客が。

 

「おじさーん!」

 

「うべっ!?」

 

いきなり現れて抱き着いてきたのは大天災篠ノ之束。

こいつどっから現れた?急に出てきたぞまじで。

まぁそんな些細なことは置いておいて。今はもっと重要な事がある。

 

それは顔面に押し付けられるおっぱい!

 

流石束。その胸すらも大天災だった!

ちょっと顔を動かせば温かくて柔らかくて良い匂いのするおっぱいがむにょんむにょん。此処は極楽浄土か?

 

「あんっ!おじさんってばえっちなんだから~!」

 

わざとらしいけどエッロい声を出す。

辞めてね?これでも男だから性欲はありますよ?

 

「いや押し付けてんのは束でしょうよ。いいからそろそろ離してくんねぇかな?我慢できなくなっちゃう」

 

「え~?おじさんならぜんぜんウェルカムなんだけどな~」

 

「惜しいけど千冬に殺されたくないからパス」

 

本当に殺されかねんからね。一度付き合ってると疑われたときは捨てられるんじゃないかと思った千冬が殺しに来るぐらいだった。

あれはやばい。結局千冬の勘違いだから丸く収まったけども。いや、丸くじゃなかったけど。

 

「とか言いながらただヘタレなだけでしょ?」

 

「うるせぇ」

 

と言いながら離れる束。

ヘタレで悪かったな。

しっかしこいつ……またデカくなりやがったな。何喰ったらそんなに育つんです?

 

「んふふ、どうどう?前会った時よりもおっきくなったんだよ?」

 

こいつはなんで俺の考えを読めるんだろうか?

鈴辺りに見せたらとびかかって行きそうなものだが。

 

「うるせぇやい」

 

「ま、おじさんも男って事でしょ?」

 

「もとから男だよ。一緒に風呂入ったことあるでしょうが」

 

「え~?でもそれって私がまだ小学生の時だよね?もしかして欲情してた?」

 

「んな訳あるか。親父さんにぶっ殺されるしそもそも俺はボンキュッボンがタイプだからな」

 

「じゃぁ今の私だね!さぁばっちこい!」

 

「行かないって言ってるでしょ。で?用件は?なんかあったんじゃないのか?」

 

一応用件を聞いてみるがどうせないんだろうな。

束の行動原理なんざ分からないし。

 

「束さんの行動原理は家族かちーちゃんかいっちゃんかおじさんだよ?」

 

「だから人の思考を読むんじゃないっての」

 

「んー、でも来たのはおじさんに会いたかったからなんだよね」

 

「そらなんで?」

 

「だっていきなりIS動かすし理由を突き止めたくてっていうのと、本人は能天気で心配だったし。これでもおじさんの事を愛して長いからね!」

 

「まじか。成長したんだな束……今まではいきなり現れては嵐のごとく暴れまわっていたのに……おじさん泣きそうだぜ」

 

「酷い事言われてるけど許しちゃう!」

 

「あんがとさん」

 

こんなんだが束はやるときゃやる奴だ。実際その頭脳でISを基礎理論から一人で作り上げたのだ。

まぁ最初の資金に関しては俺が親父さん達に内緒で出してあげたけど。だって設計図や理論なんかが余りにも具体的すぎてこりゃ行けるんじゃね?と思った結果である。しっかりと危ない事はしないとか色々約束させたうえでの事だ。後悔はしてないが反省はした。後々親父さんにバレてしこたま怒られたんだけれども。

 

「で、結局束も俺の身柄を守るためにいろいろとやってくれたって訳か」

 

「うん。でもね?怒らないで聞いて欲しいんだけど……」

 

「別に怒りなんかしないよ」

 

そう言うと少し申し訳なさそうな顔で言った。

 

「その、ちーちゃんと一緒におじさんの事を守ったはいいんだけどね?それで元々ちーちゃんとの繋がりで色々あったんだけどそこに私まで加わっちゃったから余計におじさんの事を狙うやつらが増えちゃって……」

 

「Oh my god!!」

 

「なんでそんなにいい発音なの?まぁいいや。で、今のところは大丈夫なんだけど強硬手段に出て来る奴らも居るから気を付けてねって事なんだ。……その、ごめんなさい……」

 

「謝る必要なんてこれっぽっちも無い。俺の為にやってくれたんだろ?それで今は俺が生きている。これで十分。これからの事はこれから考えりゃいいさ」

 

「でも……」

 

それでもしょげている束。

しょうがねぇなぁ。見た目は巨乳美人だが中身はまだまだ子供だな。千冬も束も。

 

「あーあー気にしない気にしない。そんなに気にするんだったらこれからも俺の事を助けて欲しいんだけど」

 

「うぅ……おじさんがそれでいいならそれでいいけど、おじさんはもっと危機感を持つべきだと思います!」

 

「それに関しては千冬にも言われたが自分じゃ危機感は人一倍あるつもりなんだけど」

 

「うぅん!おじさんゆるゆるだよ?」

 

ゆるゆるなんて言わないで欲しいんだけど。変な気分になる。

 

「そうか……?」

 

「そうなんだよ?だからもうちょっと気を付けた方がいいと思うよ」

 

「分かりました。今後は気を付けます」

 

「よろしい。それと女心とかも気を付けた方がいいよ?じゃないとその内後ろから刺されるかもよ?」

 

「えっ。俺ってそんなやらかしてる?」

 

「やらかしまくりだよ」

 

「気を付けよ。刺されたくないし」

 

「うん。それじゃ用件も終わったから帰るね」

 

「あぁ。束も身体には気を付けろよ」

 

「うん。じゃあね」

 

そう言って再び何がどういう原理なのか全く分からんが消えてしまった。マジでどうなってんだあの娘は?

そんなことを考えてもこの脳みそは全く役に立たないから考える事を止めた。

 

さて、これから何するかな……

電話も出来んから一夏に無事を報告できないし箒とも連絡取れないし。

そもそも連絡手段が一つも無いんだった。

 

しょうがねぇ。寝るか!

てことで寝ました。はい。

 

 

 

 

 

 

起きたら朝でした。やべぇな。何もしないで4日目だよ?この調子じゃ会社は退職と言う名のクビだな。せめてもの救いは退職金が幾らか入る事か……

 

佐々木洋介、35歳にして無職になりました。しかも再就職先はまさかの高校生です。

 

こうして現実を見ては打ちひしがれながら入学までの時を過ごした俺でした。

 

 

 






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なんで35にもなって高校生やんなきゃいけないのか分かりません。

主人公、ブリュンヒルデ一家と親交があるとかいってるけど家族やんけ。


 

 

 

 

ホテル生活ってもんは意外と楽だったんだなと思っているこの頃。

なんでかって?ホテルから引きずり出され高校に行かなくてはならないからだ。

 

絶望の嵐でしかないけどまぁしょうがない。こうなったら諦めることしか出来ないがオジサンの胃は限界を早くも迎えそう。

朝いきなり来た千冬にたたき起こされ連行され車に放り込まれ向かうはIS学園。名前だけだったら、いや名前だけでも物騒だけども。そこは世の男共とマスコミが入りたくて入りたくてしょうがない楽園、らしい。

 

いやいやちょっと冷静に考えてみれば分かるだろうけどこの世の中風潮だぞ?女尊男卑なるわけわかめな思想が蔓延り挙句の果てにISは女にしか使えないとかいう事で選民思想にとらわれたアホ共の巣窟と化しているだろうから俺からしたら間違いなく世界で1番危険な場所に違いない。因みに2番目は怒っている千冬の隣。怒ってる原因は俺だからだけど。

まぁ、一夏と千冬が居るからマシっちゃマシか。

 

そんなあほな事を考えていれば見えて来たのは馬鹿でかい橋。片側5車線ってなに?アメリカのハイウェイかよ。まぁ搬入機材とかを考えればそうなるんだろうけどもいくらなんでも金をかけすぎじゃね?それに加えてモノレールまであるんだからよく分からん。

 

これが俺達の税金で賄われていると。しかも他の国は支援すらせずに高みの見物と来たもんだ。…………納税者としては虫唾が走る。

ま、それのお陰か分からんが他国は下手にIS学園に介入出来ないんだろうよ。金払ってねぇくせに、ってな感じでな。

全く世の中嫌なもんばかりだな。

 

そうじゃなくて。橋を渡り切った先にはこれまた無駄に豪華な校舎を含めた敷地が出て来る。いや、俺こんなところで生活すんの?……おうち帰りたい。

 

 

 

 

どうやら今日は入学式らしい。

なんで?普通教えてくれるもんでしょ?と千冬を見たら、

 

「しょうがないじゃないですか。色々と佐々木さん関連の事で奔走していたら何時の間にか今日になっていたんですから。連絡を怠った私達が悪いんですけど」

 

確かに俺のせいで迷惑かけてることは確かだから何も言えん。

でも社会人は報・連・相だぜ?

 

「迷惑かけてるからな。それは気にしない。つかこの時間で入学式間に合う?どう見ても遅刻確定な時間なんだけど」

 

現在時8時半!明らかにやべぇですな!初日から遅刻とはいい度胸をしてるぜ俺。

 

「あぁ、大丈夫ですよ。入学式には参加しませんし。制服と教科書の受領を行ったりと他にやることは沢山ありますから」

 

「そうかい。それよりもさぁ」

 

「なんです?」

 

「その敬語止めない?どうしちゃったの千冬ってば。変なもんでも食った?」

 

千冬に敬語使われるとか心が耐えられない。かわいいかわいい妹分が久々に会ったら敬語とか兄貴としてはボコボコな訳ですよ。

 

「ぶっ飛ばしますよ?それに好きで敬語を使っているんじゃありません。家族とは言え学校に入れば立場としては私の方が上ですが年齢で見れば佐々木さんの方が上です。おいそれといつもの様に、とはいかないんです。本当は敬語も使わない方がいいんですがそれは嫌なので」

 

「だろうと思ったよ。あのな、千冬は考えが硬すぎるんだっての。考えてみ?一夏はお構いなしに突っ込んでくるだろうよ。物理的に」

 

一夏はな、もう身体全体で飛び込んで来るから若いうちはどんとこいだったんだけど30過ぎてからは結構大変なんだなこれが。

 

「それは、そうですけど……」

 

そう言って説得すると言い澱む。

こりゃあと一押しすれば行けますね。千冬はちょろい。

 

「だから千冬も家にいる時みたいでいいんだぜ?あ、一時期呼んでたお兄ちゃんって呼んでもぶふっ!!」

 

「次余計なことを考えたり言ったりしたら本気で行きますよ?兄さん」

 

なんで考えることがわかるし。束もだけど俺の周りはニュータイプが多くて困っちゃう。

 

「すんません。それと敬語もやめて。悲しくて泣いちゃう」

 

「そんな弱いとは思わない」

 

「いや、こう見えて豆腐メンタルよ?それに家族にいきなりそんな事されたら誰だってダメージデカいって。授業中とかも敬語禁止な」

 

そんな話をしながら制服を受け取り、教科書を受け取り着替えて教室に向かう。

途中鏡があったから試しに自分の姿を見てみたが、精神衛生上見るんじゃなかったと思いっきり後悔したことを此処に記しておく。

だっておっさんが高校生のカッコしてるって事実だけで結構ダメージあるのに鏡なんか見ちゃったらもうね。崩れ落ちたよ。千冬は似合ってるとかかっこいいとか言ってくれたけど。

 

二人で教室に向かうが廊下は静か。そりゃ今は授業中だから静かだな。

しっかし内装も高校生が授業するとは思えんな。金銭感覚麻痺るぞこれ。

おじさん貯金ないのに困ったもんだね。

 

「それじゃここで待っていて。呼んだら入って来るように」

 

「あいよ」

 

そう言って教室に入って行く千冬。

はー、あいつのスーツ姿初めて見たが中々様になってんじゃないの。俺よりも似合っているな!俺のスーツはヨレヨレだし。10年間の苦楽を共にした相棒よ、忘れないぜ……

 

『『『『『『『『きゃぁぁぁぁぁ!!!!!』』』』』』』』』

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!???」

 

よく分からん妄想に耽っているといきなりの大絶叫。

思わず叫んじまったぜ。つーか人の声で此処まで空気揺れるって。ビリビリしてた。ピカ〇ュウかな?

 

『えぇい!うるさいぞお前達!』

 

『そんな!怒られてしまった!でもそれもいい!』

 

『怒った千冬様のお顔も素敵!』

 

『踏んで!そして罵って!でも偶には褒めて欲しい!』

 

教室からはよく分からん問答が聞こえて来る。うちの妹って大人気なんだね。まぁブリュンヒルデだから仕方ないか。

中には不穏な発言してる輩もいるけど。でも女子高生半端ねぇな。生命力持ってかれそう。胃薬買わなきゃ(使命感)

 

『あ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!話が進まん!少し静かにしろ!』

 

千冬が頭抱えてるのがよく分かるぞ。(愉悦)

ま、苦労が多そうな仕事だししょうがないのだろうが。教師なんてやるもんじゃないな。

 

『いいか!?私が静かにしろと言ったら静かにしろ!こんなこと毎回やっていたら何も進まん!分かったか!?』

 

『『『『『『『はいっ!!』』』』』』

 

鼻息あーらげふがふがって所か。

あんまし怒ってばっかいると小じわが増えるぞ千冬。

 

そして10秒程するとドアが開いた。

何だこのドア。プシュッて言いながら開いたぞ!?手動じゃないのか!?

 

「兄さん、入ってください」

 

「あいよ」

 

顔を出した千冬に呼ばれ中に入れば、視線と言う名のビームが集中砲火。

ははっ。身体と胃に穴開きそう。

 

「諸君、彼が世界で唯一ISを動かす事が出来る男性の佐々木洋介さんだ。自己紹介を」

 

「えー、佐々木洋介35歳。今年で36歳。なんでかIS動かしちゃってここに生徒としてぶち込まれました。歳は離れていますがどうぞよろしく。質問があればどうぞ」

 

当たり障りのない自己紹介をしてこれ以上考えるのが面倒だから質問形式にしました。だって何しゃべりゃいいのか分からんし。

 

「はーい」

 

「はいそこの萌え袖」

 

「布仏本音でーす。さっき織斑先生が兄さんって言ってましたけどどういう事ですかー?」

 

手を上げてきたのは萌え袖こと布仏本音ちゃん。

ちっこいがおっぱいはデカそうだな!この束や千冬で鍛えられた目に狂いはないッ!

 

「いい質問だね君。さっき兄さんて言っていたのは……千冬、説明頼む」

 

語彙力皆無の私説明なんてできません。決して面倒だからとかじゃないですはい。

 

「なんでここまで来て私に丸投げする?ん?」

 

「いや、本人からの説明の方がいいかなーと」

 

「はぁ……教えん。個人情報だからな。」

 

「はーい」

 

教えないと言うと素直に引き下がる布仏。

 

「よし、個人情報関連じゃなけりゃなんでも答えるぞ。ばっちこい」

 

こっからは質問の嵐だった。

一部を紹介するとこんな感じ。

 

「彼女はいますかー?」

 

「いませーん。ハイ次」

 

「此処に来る前は何していたんですか?」

 

「普通にサラリーマンでーす。ハイ次」

 

「特技は何ですか?」

 

「ちょっとばかり武術が出来まーす」

 

 

とまぁこんな感じだったんだけど千冬に長引きそうだから後で個人で行けって言われてお開き。

しょうがないっちゃしょうがないんだけど。なんせ入学式初日から授業があるもんだからそんなのんびりしてられないって事だろうけどさ、なんで入学式の日まで授業ぶっこんで来るかな?俺の学校は入学式だけでそれが終わったらあとは帰って終わりだったぞ。偏差値70越えは伊達じゃないって事か。

 

そこそこ程度の脳みそしか持たない俺じゃ此処の授業について行けるか怪しいぜ全く。このままじゃ留年しちまうかもなぁ……それだけはダメだ。

とか言ってる場合じゃない。早速授業が始まるから死ぬかと思ったがISの条約やらそう言う関連の授業が殆どを占めていてそこに午後の授業を使って一般教養をやるらしい。これなら何とかなりそう。

IS方面は束との付き合いで結構出来るのだ。どっちかってーと暗記系だからな。機能やらなんやらの名前だし。

 

 

 

とか思っていた時期が俺にもありました。(結局何とかなりました)

 

 

 

 

 

授業を受け持つのは千冬と副担任の人らしいんだが、あの副担任どう見ても中学生ぐらいにしか見えねぇんだけど。頑張って背伸びしてる感半端ないったらありゃしない。

胸だけはワールドクラスだけど。あれ、束よりも大きいんじゃね?

世界は広かったんだな。

 

その副担任、山田真耶と言うらしくワタワタオドオドしている。教師としての威厳どころか成人しているかすら怪しいもんだが、これがまた優秀だった。教え方は上手いし生徒への気配りも出来ている。主に俺だけど。他人からすればIS素人な俺。そんなおっさんを心配してくれるとは何ともいい子だ。

 

「佐々木さん、此処までで分からない所とかありますか?」

 

「今のところは問題無しです」

 

「そうですか。分からない事があったらどんどん聞いてくださいね!」

 

「へーい」

 

と言った感じ。

しっかし授業は楽しいが視線が凄いね。真ん中あたりに俺の席があるんだけど後ろからは背中と後頭部に視線が突き刺さってる。真横はチラチラと見て来るし、前の席のお嬢様方は隙あらば見て来るから気が休まらない。

 

おじさんこの年になってモテてもなぁ……

しかも女子高生とか犯罪やんけ。手錠待ったなしからの実験解剖コースまっしぐらだけは勘弁してほしい。

 

 

 

「ぐおぉぉぉ……」

 

授業が終わり声を上げながら背伸びをするとあちこちからボキボキと音が鳴る。

年を取ったもんだな。四捨五入すれば40か……

 

なんて打ちひしがれてると声を掛けられる。否、何かが飛んできた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「グゲッ!?」

 

こんなことをするのは2人しかいない。しかもそのうちの一人は此処にいないという事を考えると必然的に1人になって来る。それは……

 

「だから飛びつくの止めろって言ってんだろ!一夏!」

 

「んふ~。ごめんなさーい」

 

謝って来るがその顔は嬉しそうに笑っているだけで謝罪でもなんでもないだろこいつ。いっくら言っても辞めないもんだから不意打ちでかまされると結構しんどいのだ。

 

「もう俺年なんだから勘弁してくれ。死んじまう」

 

「えー?そんな事無いと思うけどなぁ。お兄ちゃんはまだぴちぴちだよ?」

 

「中身はそうじゃねぇの。あとぴちぴちとか言うな」

 

俺がぴちぴちとか気持ち悪いわ。どう考えたってカサカサかギトギトの間違いだろうに。俺はそうじゃないけど。……そうじゃないよね?だよねっ!?

 

「でも心配したんだよ?いきなり電話かかってきてお兄ちゃんがIS動かしましたなんて言われて」

 

「そりゃ悪かったな」

 

「ほんとだよ。しかも連絡取れないし何処にいるかも分からないし家にはマスコミとか新聞記者とかよく分からない研究者とか来るし」

 

「だから悪かったって。許してくれ」

 

「えー。どうしよっかなー」

 

こいつ、何かねだってやがるな……

くそぅ、俺が強く出れないからってこいつ……

 

「あぁわーったわーった。今度どっか連れてってやるから」

 

「ホント!?絶対だよ!?約束だよ!?」

 

「あーはいはい。おじさん約束破ったことなんか一度もありませーん」

 

一夏は何故だかものすっごく俺になついている。そりゃもうこれでもかっていうぐらいに。いや嬉しいんだけども。もうちっと俺の気持ち考えて欲しい。

そして当の本人は俺に抱き付いたまま鼻歌を歌っている。そろそろ頭の上からそのでっかいお胸をどかしてもらえませんかね?

 

いや、べつに嫌じゃないんだよ?オジサン男だし。でもさぁ、こんな周囲の目がある中でそれをやられると視線が痛いわけだ。幸いにも此処は女子高。俺が居るから一応共学になんのかな?色恋沙汰には目が無い嬢ちゃんたちばっかりだから好奇心の視線ばっかりだから心配することはないだろうけど、中にはそうでない奴もいるわけだ。

 

「ほれ、そろそろどいてくれ。首が取れちまう」

 

「えー」

 

「えー、じゃねぇっての。ほらどいたどいた」

 

「もうちょっとだけだから」

 

「だめです」

 

そう言って説得するとしぶしぶどいてくれた。

全く。ちっとは自分をよく見た方がいいぞ?中身も外も完璧なんだから俺なんかに構ってねぇで彼氏作ったらどうなんだ?それはそれで俺が納得いかんけど。

もし千冬と一夏が結婚するとか言ったら取り敢えず相手を一発ぶん殴るかもしれん。というか殴らせろ。

それでも何故だか膝の上に座ってくるあたりよく分からん。いいとは言ってないんだが。まぁこの段階じゃ何を言っても無駄な足掻きにしかならんから諦めた。

 

すると傍に誰かが近付いてくる気配。

そっちを見れば黒髪ロングポニテ巨乳美少女と、なんともまぁ属性てんこ盛りのような気がしなくもない女子が。

誰だあれ?知り合いに居たっけか?しかも女子高生に。……うん、居ねぇな。俺犯罪者じゃないもん。

 

と言いつつも不安になるおじさん。

 

そして俺の前にやって来ると言った。

 

「洋介兄さん、久しぶりです」

 

んん?誰だこの子?マジで覚えが無いんだけど?俺は記憶の無いうちに女子高生に手を出した変態だったのか?

つーか俺の事洋介兄さんって呼んだ?そんな呼び方すんのは一人しか知らんぞ?

……………………ハハッ。まっさかぁ。

 

「………………箒、であってます?」

 

「ッ!はいっ!」

 

名前を呼ぶと心の底から嬉しそうに、そりゃもう満面の笑みで答えた。

いや、誰やねん。こんなん俺の知ってる箒ちゃうぞ。

 

 

 

 

ちょっとばかしの思考停止はあったもののおじさん復活しました。

といっても授業が始まりそうだったからいったん解散になっただけなんだけども。

はー、機体維持警告域とか救命領域対応とか束に説明されたことが無かったらぜってぇ分かんなかっただろうね。後でお礼しなきゃ。

 

因みに山田先生はついさっきなんも無い所でずっこけてました。

おっぱいの揺れ方が超次元だった。俺の目に録画機能があれば……!クソッ!

 

んなこと考えながら授業を受けていると終わっちまった。

しょうがねぇ。男は煩悩の塊なんだよ。むしろあれほどの物を見せつけられてどうにかならない方がおかしい。

 

 

 

 

と、再び休み時間。話しかけて来るのは一夏と箒?ぐらいなもんだ。

そりゃこんなおっさんに話しかけたいなんて物好きな女子高生なんて普通居ないって。

……自分で言ってて悲しくなって来たぜ。

 

「洋介兄さん、改めましてお久しぶりです」

 

「おう。で、本当に箒なのか?」

 

「むしろ私以外に誰が洋介兄さんと呼ぶんですか」

 

「いやだってよ、全く別人だぜ?髪は伸びてるし、背も伸びてるし。あと胸がスッゴイデカくなった」

 

「胸は余計です。でもそれは成長しますよ。最後に会ったのが小学4年生ですから」

 

「そりゃそうか。にしてもホントに立派になったなぁ……色々と」

 

「胸とかしか見てないくせに何が色々ですか。視線が丸わかりです。取り敢えず太ももから目線を私の顔に持って来てください」

 

しょうがないじゃない。手は出さないけど見るぐらいならオッケーだと思いたい。

え?見るだけでもセクハラになっちゃうの?……気を付けよ。

 

「すまんね。おじさん男なもんで。……でも本当に変わったな。美人さんになったもんだ」

 

改めてみればその顔は、とびっきりの美人だ。小さい頃も何となく将来は絶対美人になるような感じだったが、ここまでとは。黒髪に大きな切れ長の目、顔立ちはシュッとしていて雰囲気は落ち着いている。……変わりすぎだろ。

 

「洋介兄さんは変わりませんね。昔と同じで」

 

「悪かったな変化が無くて。これから先俺は老けていくだけでよ」

 

「そんなことは無いです。優しそうで、温かくて」

 

「……照れるだろ。やめてくれ」

 

本当に照れちまうじゃねぇか。おじさん責めるのは好きだけど責められるのはダメなんです……

にしても本当に変わったな。身体的特徴は勿論だが性格がまるっきり正反対だ。

 

「あの、一夏を引っ張り回していっつもどっかしらに絆創膏張ってた箒が此処まで変わるとは。人間分からんな」

 

「う……それは言わないで下さい……」

 

そう、小さい頃の箒はそりゃもうやんちゃという言葉がピッタリだった。

実家である神社の敷地内を一夏を連れ回しながらあっちへこっちへ。帰ってくれば何故か一夏は泣いているのに箒は頭にクモの巣くっつけて楽しそうに笑っていたり、海に連れて行けばはしゃぎすぎて沖の方に行き過ぎて流され慌てて回収しに行ったりと、取り敢えず思い出すだけでも疲れるような子だった。

 

「あ、箒だ。お兄ちゃんに声掛けられたんだ」

 

「あぁ、兄さんと話す一夏を見ていたら、な」

 

どっかに行っていた一夏が戻って来る。おじさんは紳士だから余計なことは考えないのさ。

2人は楽しそうに話す。

暫く前まではもう一生見れないと思っていた光景が目の前にある。

 

「2人はちょくちょく会っていたのか」

 

「うん。今は同じ部屋だけど」

 

「そうか。仲が良いことは良きかな良きかな」

 

「何を急に言っているんです?」

 

「気にすんな。独り言だよ。この年になると増えるからな」

 

そうして短い休み時間はまた終わった。

そして次の授業からは千冬が担当するらしい。でも千冬人に教えること出来んのか?教師としての姿を見たことが無いから分からん。

 

「---------で、そしてこれはこの様になっている」

 

おぉ、立派な教師じゃねぇの。

心配は杞憂に終わる、ってか。なんだかどんどん俺の手から離れて行くみたいで寂しいねぇ。ま、それも人生の楽しみの一つって事か。

 

なんか感傷に浸っていればまた授業が終わっちまった。

駄目な生徒ですんません。

また一夏と箒が来るかと思いきや来たのは金髪の嬢ちゃんだった。

どちら様だよ。今回ばかりはこんな知り合い居ないぞ。そもそも海外になんざ行ったこともねぇし。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「いえ、よろしくないんでお引き取り下さい」

 

「そうですか。ではまた後で……そうじゃありませんわ!」

 

ん?対応間違った?そう言うコント的な流れかと思っていたのだが。

おっかしいなぁ?

 

「貴方なんですのその態度!?返事もなっていませんし!」

 

いやおじさんにそんな事言われても困っちゃうんですけど。

一夏と箒、はよ帰ってきて……

 

「この私に対する態度ではありませんわ!」

 

「ちょっとばかし質問。おたく、どちら様で?少なくとも私の記憶には無いんですが」

 

「まぁ!?なんですって!?この、私を、知らない!?」

 

「だから知らないって。自己紹介をどうぞ」

 

「全くしょうがないですわ。そんなに聞きたいのでしたら聞かせてあげますとも!」

 

あ、自己紹介すんのね。てっきりしないかと。

 

「私はセシリア・オルコット!栄えあるオルコット家現当主にしてイギリス国家代表候補生ですわ!」

 

「ほーん。一夏と同じだな」

 

「まぁ!?なんですのそのお返事は!?」

 

と言い放って続けざまに理不尽な罵倒。おじさん分かっちゃったぞ。これはあれだな。女尊男卑思考ってやつだ。

じゃなけりゃ質の悪いかまってちゃん。

ひとしきり言いたいことを言って満足したのか自分の席に戻って行った。何言われてたのか聞き流してたから全く覚えていないけど。

 

そして再び授業。

千冬の授業は寝られない、サボれない。やった時どうなるか怖くて出来ません。場違いな考えをしている時点でアウトな気もするけど色々と考えちゃうんだなこれが。

だっていきなり授業始まる前に、

 

「あぁ、何か忘れていると思ったらクラス代表を決め忘れていた。よし、今決めるぞ。誰かやりたい奴は居るか?」

 

なんて言い出すんだもん。おじさんじゃなくても混乱しちゃうよ?

だってほら、急に言い出したもんだからざわざわしてるし。

ま、俺には関係ないことだな。選ぶことは出来るけど選ばれたり立候補したりなんてあり得んし。

と、ボーっと見ていると誰も手を上げないからしびれを切らした千冬は、

 

「なんでこういう時ばかり消極的なんだ……はぁ、自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

すると待ってましたとばかりに挙げられる名前。

 

「はい!織斑さんがいいと思います!」

 

お、一夏を推薦するとは目の付け所がいいね!

俺としてもさっきの金髪嬢ちゃん、オルコットだっけ?の実力を知らんから安定の一夏押です。なんたってあれで代表候補生だからね。

 

「え!?私!?」

 

驚いているがそりゃ指名されても仕方ないだろう。なんたってうちの一夏だからな。というのはほぼほぼ本気だが理由は別にある。というのもどうやら一夏は日本代表候補生の中でも屈指の実力を誇っている。確か聞いた話じゃ代表候補生には専用機持ちが二人いるがそのうちの1人が一夏なんだとか。つっても過保護を炸裂させた束から無理矢理押し付けられた機体らしいけど、それでも納得して余りある実力があるんだそうだ。

それを考えれば妥当と言った所だろう。

 

「私弱いよ?」

 

「織斑さん日本代表候補生の中じゃトップクラスじゃない。それのどこが弱いの?」

 

「え?だってお兄ちゃんの方が強いよ?生身で勝てた事無いし、ちふ……織斑先生にも勝てたことが無いし」

 

む、嫌な予感。一夏絶対余計なこと言うぞ。

こっそり逃げだそ……

 

「兄さん、椅子に戻ってください」

 

「いや、俺やっぱり場違いかなぁって……」

 

逃げ出したいがあっさり見つかってしまい抵抗するもいい笑顔で千冬は椅子を指差している。

……私は悲しい……(ポロロン)

 

そして進む会話。あぁ、さらば平穏な日々よ……

 

「いやいや、比較対象が違うからね?でも、佐々木さんって強いんだ」

 

「うん。お兄ちゃんすっごく強いよ?」

 

「へぇ。どれぐらい?」

 

「一夏、頼むからそれ以上は言わないでくれ。頼むから」

 

「………………ふふっ」

 

言わないように頼み込めば悪い顔をしていらっしゃるなぁ!?

アイツ絶対に言う気だぞ!もうどこにも連れて行ってやらん。

 

「織斑先生と張り合うぐらいかなぁ」

 

言いやがった!!クソが!

もう本気で怒ったぞ!マジで何処にも連れて行ってやんねぇからな!覚悟しておけよ!

 

「うっそだぁ」

 

あれ?

 

「流石にそれは無いでしょー」

 

お?これは?皆さん信じていらっしゃらない?

よっしゃこのまま行けば……!

 

「嘘じゃないよ?ね、織斑先生」

 

ハイ終わった。千冬に聞くのは反則だって……1対2なんて言い合いじゃ負けるに決まっとるがな。

 

「私を巻き込むんじゃない……だが、確かにそうだな。兄さん、佐々木さんは私と同じくらい強い。確か勝った回数じゃ同じくらいだったはずだ」

 

「千冬さん千冬さん、俺の首を絞めるのは辞めて貰えませんかね?」

 

「ん?別に何も悪いことは言っていないし事実だが」

 

「くっ……!」

 

駄目だ……!純粋に話しているだけだから責める事が出来ない!

 

「ね?言ったでしょ?お兄ちゃんが一番強いって」

 

そう言う一夏は物凄く自慢げにしている。うん、俺としては誇りに思ってくれているのか自慢できる家族として見られていて嬉しいよ?

でもさ、さっきからオルコット嬢が滅茶苦茶睨んできているんですけれどもそれはどうしたらいいでしょうか?

 

「さて、今は候補が2人だが他に居ないか?居ないのならば正と副と言う形で決定にするが」

 

「千冬よ、俺はやりたくないんだけども辞退と言うのはありでっしゃろか?」

 

辞退したいんだけどダメ?と聞いたら帰って来たのは、にっこりと微笑みながら、

 

「ダメだ」

 

「ウソダドンドコドーン!」

 

叫んでしまったがオジサンは悪くない。

しかし悲しいかな、それで収まらないのがこの世の中。

 

「冗談じゃありませんわ!!」

 

後ろの方から聞こえてきたのはオルコット嬢の怒鳴り声。

いや、高い声だから全く不快でもなんでもないんだけど。

 

「そもそも!そこの男が織斑先生よりも強いなどと言う確証はあるのですか!?織斑先生自身は強いと仰っていますが少なくとも私は信じられませんわ!」

 

「いいぞもっと言ってやれ!そして俺をクラス代表から遠ざけてくれ!」

 

「はぁ!?あなた何を言ってますの!?」

 

やっべ思わず口に出ちまった。

お陰で千冬からも一夏からも思いっきり睨まれておりまする。箒はニコニコとこっちを見ている。今まで静かにしてたのに!俺にどうしろって言うのさ!?

 

その後も何か言っていたが要は、

 

・なんで俺みたいなぽっと出の訳分からん男が代表に選ばれるのか。そして何故自分が選ばれないのか。

 

・こんな態々極東の島国まで来て俺達の下に就くのが納得いかない。

 

と言った所だろうか?

日本の事を猿の集まりだとかなんだかんだ言っていたが、俺としてはそんな事よりも千冬と一夏、箒が怖くてそれどころじゃねぇんだってば。

なんでか知らんけど成長してくる二人に逆らえなくなってきているこの頃。これ以上口を開いても墓穴を掘って掘って掘りまくるだけだろうからもう黙ってます。

 

でもなんで怒ってんだろうね?極東のサルって言われたから?

 

 

 

 

「おい、セシリア・オルコット。それぐらいにしておけよ?」

 

久々に口を開いた千冬の声はおっかないもんだった。

あんな声家でも出した事無いんじゃねぇの?あ、いやあるな。俺に彼女居る疑惑持ち上がった時はあれよりもやばかった。

ハイライトさんどっかに行っちまってたし。

 

「っ!?ですが!」

 

「はぁ……まだ分からんのか?いいか?周りをよく見ることだ。お前は今どこにいる?どんな人間に囲まれている?」

 

「う……そ、れは……」

 

「そしてお前の立場なんだ?責任の重さはどうなんだ?」

 

「………………」

 

「もう一度言うが、周りをよく見て自分の発言に気を付けることだ。いいな?」

 

「…………はい」

 

千冬はこう言いたいんだな。

此処は日本、周りは日本人、貴方は外国人。日本馬鹿にするなよ?お前国家代表候補生、発言には気を付けなよ?

 

という事ですな。オルコット嬢はそれに気が付いたのか周りの視線が厳しい物だと認識して自分が此処にいる人間を敵に回したことを悟ると静かになった。

ま、俺は別に気にしちゃいねぇんだけど。高校生の世間知らずなお嬢ちゃんの言葉を一々真に受けてへこんでいたらやっていけねぇって。

 

「それで、お前は立候補するのか?自薦することも可能だからな」

 

「いえ……辞退いたします……」

 

千冬、流石にそれは酷ってもんだぜ?今の状態状況で立候補できる奴はいないだろうよ。居るとしたら余程の馬鹿でしかない。

 

「よし。それでは織斑一夏、佐々木洋介をクラス代表の正副として採用する。異論があるやつはいるか?…………よし、では授業を始める」

 

俺に今この状況でやりたくねぇなんて言う勇気は無かったよ……

結局俺がクラス代表になるとか言う恐ろしい事態を阻止できずに終わってしまった。正にだけはならねぇ。意地でもそこだけは貫いてやる。

 

 

 

 

 

 

そしてお昼。うん、飯なんか持って来ていなかったからね。食堂に行くか購買で買うしかない訳だが昼休みになった瞬間に一夏と箒に取っ捕まって食堂に連行されたから購買という選択肢は消えた。

分かり切ってはいたけど女子高生2人にずるずると引きずられていくおっさんという何とも情けない光景だが。

 

 

「お兄ちゃんは何食べるの?」

 

「俺は……何でもいいや。全部美味そうだし」

 

「じゃぁ私が選んで持って来てあげるから先に席取っておいてよ」

 

「おう。任せた」

 

「任されましたー」

 

席を探すが流石はIS学園。

人の数が多くて開いている席なんてありゃしない。

 

あっちへウロウロこっちへウロウロ。

さながら冬眠前の熊みたいに席を探して彷徨い続けるが中々見つからない。

暫く探すと奥の方に丁度3人分座れそうな席があった。

いやぁ、2人が来る前に見つかってよかった。

 

その席に座って二人が来るのを待つ。

ボケーっとして周りを見てみればどこもかしこも女子ばかり。男なんて見えやしない。俺は本当にIS学園に居るんだなぁ……

なんて思ってみたりしていると2人がこっちに来る。

 

「お待たせ。はいどうぞ」

 

「あんがとさん」

 

一夏が持って来たのはステーキ定食(ご飯大盛)。

この学園、食事にも金賭けてんのな……何だこの肉の厚さ。普通に店で食ったら数千円だぞ。

此処の奴らは自分達が恵まれているって絶対分かってないだろ。俺が再教育してやらねば。

 

「「「頂きます」」」

 

3人で手を合わせて。

うーん、懐かしいこの感じ。何年ぶりだろうか?一夏とは毎日だったがそこに箒が加わるのは久方ぶりだ。

最近は千冬も仕事で忙しくて月に2、3回しか帰って来れなかったし。

 

「それにしても驚きました。テレビを見ていたらいきなり洋介兄さんの顔が出てきてISを動かしたって」

 

「それは本当に私も驚いたよ。私も学校に居ていきなり呼び出されたと思ったらお兄ちゃんがそんな状況ですとか言われて」

 

「俺もびっくりだよ。まさか動かせるなんざこれっぽっちも思っていなかったからな。その後は黒服共に連れていかれてホテル暮らしだ」

 

「千冬姉もすっごい心配してたよ?電話してる時ワタワタしてたし」

 

千冬が慌ててるなんざ簡単に想像できる。普段焦ると表情なんかは変わらないんだが行動がポンコツになる。それを超えて慌てるなんてそうそうある事じゃない。

 

「知ってる。ホテルに来た時に怒鳴られたし」

 

「洋介兄さんはISを動かせることに心当たりとかないんですか?」

 

「それが全くないんだよ。いっくら考えてもわかりゃしねぇ。束に今度検査してもらおうかと思ってるけどそれも望み薄いしな」

 

心当たりも何も俺はごく普通のおっさんサラリーマンだったんだぞ?あるわけねぇって。

昼飯食いながら雑談をする。

今まで何をしていたのかとか色々。

 

「本当に性格変わったよな、箒は」

 

「そこまでですか?」

 

「うん。箒すっごい性格変わってるよ?昔と正反対だもん」

 

「なんたってなぁ、一夏を連れ回して山ん中うろついて頭にクモの巣引っ付けたり海ではしゃぎすぎて沖に行き過ぎたり、あのやんちゃ坊主みたいなのがこんな美人になるなんざ予想してねぇよ」

 

「っ!美人、ですか」

 

「おう。とびっきりの美人だよ」

 

「む~……」

 

そう言うと嬉しそうに笑う箒とは対照に何故か不機嫌になる一夏。

俺は何か変なこと言っちまった?女心ってのは難しいもんだ。

 

 

 

 




なんかすげぇ長文になってる。
これを他の作品でやればいいのにとか思うだろうけどそう簡単じゃないのよ……


あとすっごい勢いでお気に入りが増えててやばい。


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私の兄は世界一 (千冬)

今回は千冬視点をお送りいたします。
次回は一夏視点かな?
いや、主人公視点を進めてもいいんですけど個人的には書きたいかなぁって。
だっておにゃのこ一夏とかロリ千冬とか最高じゃないですか。







ーーー私にとっての兄さん?---

 

ーーーふざけたり冗談言ったりからかったりするのが好きだけどーーー

 

ーーー世界で一番格好良くて、優しくて、強くて、命の恩人でーーー

 

ーーー世界で一番大好きな、愛している人ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑千冬。

その名前を聞けば誰だって顔が浮かんでくるぐらい私は有名人になった。なってしまった。

 

 

 

 

ーーーーーーー別になりたくてなった訳じゃない。

 

 

 

 

ーーーーーーー兄さんの負担を少しでも軽くしたくて。

 

 

 

 

ーーーーーーーもっと私の事を見て欲しくて。

 

 

 

 

ーーーーーーー兄さんが胸を張って自慢の妹だって言えるようになりたくて。

 

 

 

 

-------いままで沢山の物を、形のある物、形のない物関わらずくれた恩返しをしたくて。

 

 

 

ーーーーーーーまた、あの優しい手で「よく頑張ったな!」って言って撫でてもらいたくて。

 

 

 

ーーーーーーーただそれだけの為に、がむしゃらに進んでいたらブリュンヒルデと呼ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族は3人。

いや、正式には私と妹の2人なのだが。

もう1人は、私達姉妹の育て親でもあり、兄でもある佐々木洋介。

この人を説明しろと言われると物凄く困る。何故ならいっつも真面目なのか飄々としているのか分からなくて、ふざけて冗談を言ったり、そして私達をからかったり、なのにとっても優しくて温かくて強くて。

私達に何かあれば、嬉しいことだったら思いっきり喜んで褒めてくれて、悲しいことだったら一緒に泣いて、怒ってくれる。一言では表せない、一緒に生活しないと分からない人、というのが兄さんだった。

 

 

 

 

 

何故苗字が違うのに家族なのか?育て親なのか、兄なのか。

それは私が8歳の頃に遡る。

 

 

 

 

当時私と一夏は親が居なかった。

いや、もっと詳しく言えば私達は自然に生まれた子供ではない。簡単に言えば、人造人間とでもいうべき存在だった。

 

織斑計画〈プロジェクト・モザイカ〉

そう呼ばれていた研究によって私は、一夏は生まれた。

完璧な人間の創造。そんな普通の人間が聞けば馬鹿々々しいと一蹴するような内容。でもそれを本気でやろうとした人間が居た。

そしてその結果私達は生まれた。無数の犠牲の上に。

私と一夏は姉妹として扱われていた。当然私も計画の事を知るまでは一夏の事を本当の妹だと思っていた。

 

 

 

両親は勿論居なかった。研究所で来る日も来る日も実験だった。でも、何故かは知らないが一人の研究者が私達を連れて逃げたのだ。記憶は朧気だが多分、女性だったと思う。

何故私達を逃がしたのか、今も当時も理由は分からないし知る術も無い。

 

その人は何処からかの伝手でボロボロのアパートに私達を置いて、そのまま消えた。

幾らかのお金と手紙を残して。

 

その手紙になんて書いてあったのか、どんな思いが綴ってあったのかもう思い出せないが、それでも生きなければ、一夏を生かさなきゃと強く強く思ったことだけは覚えている。

 

少ないお金を少しずつ、使いながらなんとかやっていたがやはりある物は無くなると言うのだろう。お金はどんどん無くなって行った。

 

そして2か月程経った頃、お金も無くなって来てどうする事も出来ず、一夏の為の粉ミルクだけは何とか買える金額しかなかった。

水道、ガス、電気は既に料金の支払いが出来ていないのだろう止められていて、私は何とか公園の水道の水で飢えをしのいでいたが、そこに現れたというか食べ物を与えてくれたのが兄さんだった。その時は完全に怪しい奴だと思っていたが空腹には勝てずに時折渡してくる弁当を食べていたが、それでもこの体を維持するのには無理があった。

一夏も私も痩せて行って自分でも誰なのか分からないくらいにまでなっていた。

 

そしてとうとう限界が来た。

私は栄養失調で倒れてしまったのだ。それはそうだろう。そもそも公園の水道水と兄さんが偶に持って来てくれる弁当しか口にしていないのだから。

 

その時、偶々兄さんが近くに居た。心配した兄さんは病院に連れて行こうとしてくれたがそもそもそんなお金は無かったから必死に抵抗して病院にだけは行くまいと訴えたが一夏は赤ん坊だったからそうはいかなかった。

 

そして説得された私は一夏ともども兄さんに担がれて近くにある診療所に連れて行かれたらしい。

 

というのもあの時の記憶が全くないのだ。あるのは目を覚ましたら目の前に兄さんが居たことぐらい。

目を覚ましたらまず見たことが無い天井。そして周りを見れば兄さんがベッドの横の椅子に座っていた。それからは今の状況や私達の容体をお爺ちゃん先生に説明された。

 

一夏共々酷い状態でもう少し此処に来るのが遅かったら二人共死んでいたと言われたりして、一夏が助かったことに泣いたりして。

その時、兄さんは私の頭を優しく撫でてくれたのはしっかりと覚えている。

 

それからは何があったのか知らないが兄さんが私達の面倒を見てくれることになった。

学校にも通えることになったし、兄さんも私も平日は居ないから一夏を保育園に預けることにもなった。

休みの日で兄さんが仕事があれば先生の所に預けられていたが、6時にはいつも迎えに来てくれていた。どれだけどれだけ遅い時間になっても必ず迎えに来てくれた。

保護者としては当然なんだろうが私達からすれば、いや、一夏は赤ちゃんだったから分からないが私にとっては当然では無かった。

 

 

因みにだが診療所の先生、今も現役で診療所を開いている。確か今年で91歳だったか?元気な人で偶に顔を出すととても嬉しそうに出迎えてくれる。私達からすればお爺ちゃんなのだ。煎餅をくれるし私達の話を聞く時の顔は孫が可愛くて、そんな孫がいろんな話をしてくれるのが嬉しくて仕方ないと言った顔をする。小さい時、兄さんが休日に仕事でいない時はお爺ちゃんの所に預けられていたが、釣りだったり公園だったり色んな所に連れて行って貰った。

 

今でも休みの日は顔を出す。

多分、今日も笑いながら診療所で患者さんを診察している事だろう。

 

 

 

 

 

 

そして小学校に編入という形で入ると兄さんは更に働くようになった。私達を養うための生活費や食費、その他諸々のお金を稼ぐために。

それでも必ず一夏を迎えに行って、早い時間帯に帰って来る。そして慣れていないであろう料理を作ってくれて、私達の事を思いっきり撫でて、褒めて、優しく抱きしめてくれた。

授業参観があれば必ず有休を取って見に来てくれたし、運動会や持久走と言ったイベントなんかも絶対に見に来てくれた。

そして終わって家に帰ると必ず、

 

「凄かったな!千冬!」

 

そう言って褒めてくれる。

 

寝る時も一緒に寝たいと言えば二つ返事で受け入れてくれた。

悪いことをしても怒鳴ったりしないで、何がいけないのか。どうすればよかったのか、優しく教えて諭してくれた。怒る時もあったが最後には必ず頭を撫でてくれた。

 

 

そんな兄さんが一度だけ本気で怒ったことがある。

 

小学校に通い始めてから一年ほどたった頃、三年生の中頃ぐらいからだろうか?

何が理由かは分からないがいじめられ始めたのだ。その時の私は兄さんに迷惑が掛かると思って我慢していたのだ。

しかし、ある時、何で叩かれたか分からないが大きな痣を作ってしまった事があった。当然一緒に生活している以上隠し通せるものではなく、それを見た兄さんは私の事を問い詰めた。

 

何故そんな痣が出来ているのか。

誰にやられたのか。

何故黙っていたのか。

 

等々。それはもう散々問い詰められて怒られた記憶がある。

そして次の日、朝から何度も電話しているなと思ったら会社を休んでちょっと一緒に学校に行くぞと言われたときは何故だか分からなかったが、それでも一緒に学校に行った。

その前に一夏を保育園に送ってからだが。

 

この人は、何をする気なんだろう?

 

普段と変わらない様子で隣を歩く兄さんは、少し目が怒ったような感じがした。それでも通学路で私と一緒に並んで手を握って歩いて、いつも通り優しく話してくれた。

 

 

学校に着いた私と兄さんは教室ではなく会議室に向かった。

この時私は本当に何をするのか全く分からなかった。でもどこか普段とは違う兄さんを見て何かあるんだろうとは思っていたが……

 

 

それから暫くすると担任の先生や学年主任、校長、教頭が入って来た。

そしてその瞬間、兄さんがブチ切れた。

 

「てめぇらふざけてんのか!?お前ら言ったよなぁ!?九時に会議室に来てくれってよ!?あ”ぁ”!?それが何でお前らは呑気に話しながら一時間も遅刻してやがる!?舐めてんのか!?」

 

「い、いえ……その、こちらにも都合がありましてですね……」

 

「自分達が九時に此処に来いって言ったんだろうが!!それで遅れたら都合があるだぁ!?ふざけんのも大概にしやがれよ!?遅れたんだったら遅れたなりに誠意を見せるのが普通なんじゃねぇの!?ちんたらちんたら呑気に笑いながら歩いてきやがって!」

 

「それは……」

 

「それはなんだよ!?おら言ってみろよ!!あ!?そもそも今日俺が此処にいる理由分かってんのか!?」

 

「ですから……」

 

「ですからじゃねぇ!!俺が!此処に!居る!理由を説明しろっつってんだよ!!」

 

こんな兄さんは見たことが無かった。

その後、暫く怒鳴っていた兄さんは落ち着いたのか本題に入り始めた。

 

「で?なんで俺が電話をしておたくらに集まって貰ってるか理由は分かってんのか?」

 

この時の兄さんは他人と話す時は必ずと言っていいほど敬語を使うのにこの時ばかりは一切使っていなかった。正直今思い出せば思うが校長達の態度は悪かったと言っていい物で、少なくとも私は敬語を使うに値しないと思っている。兄さんがどういう心境で敬語を使わなかったのかは分からないが。

 

「その顔は分かってねぇ、というよりは分かっているけど言いたくねぇって顔だな?」

 

「い、いえ、そのような事は……」

 

「なら言ってみろよ。ほら、どうぞ」

 

そう言って発言を促す兄さんだが校長達は顔を俯かせているばかりで何も話さない。

 

「あー、もういい。時間の無駄だ。いいか、よく聞いとけよ。------」

 

兄さんはそれから、

 

・私がいじめられている事。

・何故気が付いていながら対策を取らなかったのか。

・何かしらの連絡を入れないのは何故か。

 

と色々と言っていたが細かく覚えているのはあまりない。

それよりもどうして此処まで心配してくれるんだろうか?という思いの方が強かったのだ。正直な話、心のどこかでまだ遠慮して、少し警戒していたのかもしれない。

 

「しかし私共はそのような事が起きているとは把握しておりませんし織斑さんから何も聞かされていないものですから……」

 

それでも白を切る校長に、兄さんは呆れてしまったのだろう。というよりも話しても無駄と悟ったのだろうか?

結局校長達に、

 

・該当する生徒に対して聞き取り調査を行う事。そしてその結果を明日までに知らせる事。

・それで解決することが困難だと判断した場合、教員が動こうとしなかった場合、法的措置を取る事。

 

それを認めさせたうえでその日は解散となった。

 

私はそのまま学校に残り、兄さんは家に帰っていった。

その時、

 

「今日は迎えに来てやるから、校門のとこで待っててくれ」

 

そう言って頭をわしゃわしゃと撫でられた。

今思えば過保護な気がするが……それでもとても嬉しかったのは確かだ。

 

 

放課後、私は校門で待っていた。

すると家の方に続く道の方から兄さんが歩いてきた。

なんだか嬉しくなって駆け寄って抱き着いたのはいい思い出だ。

 

そして家に帰って疑問に思っていた事を聞いてみた。

 

 

ーーーどうしてこんなに心配してくれるの?ーーー

 

ーーーどうしていつも私と一夏を撫でてくれるの?---

 

ーーーどうしてそんなに優しいの?---

 

ーーーどうして私達の為に色んなことをやってくれるの?---

 

純粋な疑問であったから聞いてみた。ただただそれだけ。

そして聞かれた兄さんは困ったように笑いながら言った。

 

「そりゃ家族だからに決まってるでしょ。いいか?確かに血は繋がっていない。けどな、家族になったらそんな事関係ねぇの。二人が俺の事を兄として慕ってくれているんだ。だったらしっかりと応えてやんなきゃなんねぇのが兄貴ってもんだ」

 

私の事を抱き上げて、椅子に座ってそう言った。

 

「それに可愛い可愛い妹の為だったら何でも出来ちまうのが兄貴だからな。例え何があっても俺はお前たちを守る。それが相手がどんな奴だろうと関係ねぇ。でも、悪い事をしたらちゃんと怒ったりもするぞ?でも良い事をしたり凄い事をしたら思いっきり褒めてやる。もしかしたら何でも言うこと聞いちゃうかもな?」

 

「だから、もっと思いっ切り甘えて来い。遠慮なんてするな。泣きたかったら思いっきり泣け。笑いたかったら思いっきり笑え。やりたいことがあったらやらせてやる。だから、遠慮なんてするな」

 

笑いながら兄さんは言った。

同時に頭を撫でながら。その時にはもう思いっきり信用していた。がしかし。

まさか数年後にこの兄さんを異性として好きになるなんて思ってもみなかった。

その日から暫くの間、兄さんの布団に潜り込んでいたのは一夏や束、箒には秘密だ。

 

 

 

そしていじめ問題は結局、先生方が色々と奔走して解決した。

後々聞いた話だと兄さんが先生達を脅したとか、相手の生徒を含めた家族をビビらせたという噂が流れたがそれは無いだろう。

と同時に私の兄を怒らせると大変なことになると言う噂が流れていた。

 

 

 

 

そしてなんやかんやあったが小学4年生になった時、唯一無二の親友……いや、悪友と言った方が正しいかもしれんな。篠ノ之束と出会った。

というよりはなんだろう……適切な表現が分からない。本当に、偶然、偶々出会ったのだ。

最初はよく分からん奴だと思っていたがそれは束が天才などと言う言葉では表せない程の頭脳を持っていたからだろう。

それからちょくちょく付き合っていくうちに束は頭脳だけでなく身体能力や全てにおいて超越していることが分かった。

いや、私も身体能力に関しては束と同等ぐらいだったが……

出会って一か月もすれば他の友人よりも遥かに仲が良くなっていた。

 

行動も突飛な物で良く驚かされていたがまぁ楽しかった。

束が話す事、知っている事は私が知らない事ばかりで、特に宇宙に大きな興味を持っている事。

そして家が剣道の道場をやっている事。

 

何故だか分からないがその道場に連れていかれて、その日の内に竹刀を握らされ、師範から筋が良い、天才的だなんだと言われ、剣道をやってみないかと誘われ。

だがこれ以上兄さんに負担をかけるわけにもいかないし……と悩んで悩んで悩んだ挙句、師範が家まで来たのだ。何とか説得しようと言うらしい。

 

そして一度兄さんと相談することになった。

 

兄さんは、やりたい事があるんだったらやっていいと言ってくれたが、小学生ながらも兄さんに負担を掛けているのではないかと思っていたからそれを理由に断ろうとしたのだが兄さんは、

 

「あのな?千冬と一夏を養うために負担が大きくなったのは事実だ。でもな、それは幸せな負担なんだよ。あー、なんて言えばいいんだろうな。別に仕事が辛かろうときつかろうと家に帰れば二人が居るってだけで十分。それに好きな事をやって楽しそうにしている千冬を見るのが一番の楽しみなんだよ。だから、前にも言ったけど遠慮なんてすんな。思いっきり迷惑掛けろ。思いっきり俺の事を困らせろ」

 

そう言って私が剣道をやる事の後押しをしてくれた。

そして私は剣道をやることに決めた。

それを師範に伝えると、事情が事情だから少しだけ月謝を安くしてくれたり、防具や竹刀と言った道具を私にタダでくれたのだ。そして休みの日に兄さんを連れてきて欲しいと言われた。

師範曰くそんなに妹思いの優しい兄さんを見てみたくなったんだそうだ。

 

道場に兄さんを連れて行けば、早速師範と話をし始めた。最初は練習している所を見て貰えるかもと期待したが、話に夢中でそうはならなかった。

その日は家に帰って若干不機嫌だった私だがまぁ、しょうがない。

 

 

そして何がどうしてどうなったのかよく分からないが兄さんまで何かを習い始めたのだ。最初はよく分からなかったが、現在でも武術が使えるのはこれのお陰だ。

 

何時だったか聞いたことがある。

元々篠ノ之流は合戦剣術、殺人剣術だったんだそうだ。しかし戦国時代でもあるまいしそんなものを使う機会など普通は無い。という事で剣道として人を殺すのではなく、武道としての道を歩み始めたのが今の篠ノ之流らしい。

 

そして何故素手を主な攻撃方法に持つものがあるのか。これは元々の剣術だった時に刀が使えなくなっても戦えるように、という事らしい。

その修業は見ているだけでも辛そうな物ばかりだったが元々私達と生活し始めるずっと前から鍛えていた為か身体の方はそれなりに完成していた。ならばそれを実戦で通用する肉体に変えていくだけでよかった。だから肉体を実戦向きにすることと、技を覚えることの2つに絞って行く事が出来た。

しかし途中、仕事が忙しくなってきたりと時間の都合で辞めざるを得なかったがそれでも教えられた事を出来るだけ毎日継続して練習していた。そして出来たのが素手での近接戦闘ならば私でも普通に負ける兄さんという訳だ。

少しばかり剣も使えるが我流で癖が強いため滅多に使わないが。

 

 

 

確かに最初はきつかったけど、それでも続けた。

1年もすれば大会で優勝することが一度。

それからは年を重ねていくごとに優勝する回数は増えていき、中学生になればその年の大会を全て優勝するように。

 

そして当たり前のように試合があれば応援に来る兄さんと一夏。

活躍すれば我が事のように一夏と大喜び。

嬉しかった。

 

 

 

 

あぁ、束の話だったか。かなり脱線してしまった。

その束だが、初めて兄さんに会った時は無関心。でも私の兄だから少しは、という感じの対応だった。流石に社会人として生きてきているから分かったのか家に帰ってから結構凹んでいた。

それから暫くはそんな感じだったのだが、4年生の二学期辺りから急に束の態度が変わり始めた。

理由は知らんが、やたらと仲が良くなっていた。

今じゃ完全に異性として見ている目だぞあれは。本当に何があった?

そして兄さん自身も平然と受け入れてどんどん仲良くなる始末。

 

 

そんな現状を見て中学三年生頃に兄さんの事が好きだと自覚し、頭を抱えて思いっきり悩む。そこで思い出したのが兄さんの

 

「思いっきり迷惑をかけろ」

 

だった。ならばもう止まることはしなくてもいいという事で普通にアピールしたりするが当の本人はそう受け取っていないからどうしたものか。

 

 

 

 

そして高校生。私は藍越学園に進学した。

この高校を選んだ理由は私立高校であるのにも関わらず学費が驚くほど安い事。そして就職するのがとても有利になる事。

 

 

 

しかし、そうはならなかった。

その頃既に束はなにかを開発し、その部品などの製造を開始していた。小学生の頃と変わらず宇宙に魅せられた親友。その為の開発だそうだ。そんな親友を放っておくことも出来ず手伝ったりしていたのだ。

学校が終われば部活か束の手伝い。

そんな毎日を送っていた。

 

 

そしてついに完成したのがIS。

 

 

そして親友の開発したものに喜んでいたらテストパイロットになって欲しいと言われ2つ返事で承諾。

結構軽い気持ちで受けたこの提案がまさか今の自分につながるなんて当時の私は夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

 

そしてその直後に起きたのが白騎士事件。

あれのお陰でISは兵器扱い。

束の夢は、潰れてしまった。

それから暫くしてからだった。束が消息を絶ったと世界的にニュースになったのは。

しかしその束は普通に我が家に来ていた。

世界各国の軍隊、警察、捜査機関の目をかいくぐってだ。

しかも我が家に来る理由が兄さんに会いたいと言うのだから。

 

それでも兄さんは束を昔と変わらない態度で接した。

家に来れば食事を一緒に食べて、笑って話をして、何故だか頭を撫でて。

元々兄さんを異性として見ていた束が確実に兄さんを狙い始めたのはこの頃からだろう。

 

 

それを見て私はやっぱり兄さんは兄さんだと安心した。

私としては複雑な心境だったが。

 

 

 

 

そして私はISの操縦者に。

その時既にアラスカ条約という名ばかりの条約によってISの軍事利用は禁止され、スポーツとして普及し始めていた。

推薦してくれたのは束だが適性がSという事もあってあっさりと決まった。

 

訓練なんかで家に帰る事が遅くなることもしばしば。

それでも兄さんは笑って出迎えてくれた。

 

 

 

 

第1回モンド・グロッソに出場が決まった。

本人以上に喜んでいたと思う。

出発する時も笑って

 

「会場に行けねぇけど生中継で見てるからな。怪我すんなよ?」

 

「それじゃ、行ってこい」

 

そう言って送り出してくれた。

大会が始まって順調に勝ち進み、私は優勝した。

 

インタビューの時に、

 

「誰にこの優勝を、プレゼントしたいですか?誰に一番感謝したいですか?」

 

そう聞かれたのだ。

そんなもの決まっている。

 

「私の事を愛情をたくさん注いで育ててくれた兄です」

 

即座に答えた。

その後にどんなお兄さんですかと聞かれ、

 

「どんな時も笑っていて自分の事を後回しにして、生活だって苦しかっただろうけど、それでも私と妹の事をいっつも一番に考えていてくれる、強くて優しくて世界で一番かっこいい兄です」

 

胸を張って答えた。

すると記者の人達は言った。

世界で一番なんですね、と。

そうだとも。

誰よりも、この世界で一番私を笑顔にしてくれて、強くて優しくて温かくて楽しくて。

そんな今見てくれている兄さんに向けて。

今までのどんな笑顔よりも、とびっきりの笑顔と共にこの言葉を贈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の兄は世界一です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




千冬
24歳

主人公の妹という立場。
だけど思いっきり異性として認識している。
夜、帰りが遅くて次の日仕事な兄が寝ているとき、こっそりと布団に潜り込んだり、抱き締めたりしているけどそれが自分しかやっていないと思っているが実は一夏も同じ事をやっていたりする。
頑張れ千冬。恋のライバルは多いぞ!






第一回モンド・グロッソでの優勝インタビューでとびっきりの笑顔を見せてしまってからそれまでのクールでかっこいいお姉さまというイメージに笑顔のギャップが半端ないプラスされてしまって原作よりも老若男女問わず大人気になってしまった模様。

ついでと言っては何だけど兄は世界中からあんな笑顔を向けられるなんてうらやまけしからんと恨みを買うのでした。




追記
なんか日刊ランキングにランクインしてる……
しかも赤バーだし……
皆様ありがとうございます。

追記の追記
日刊7位になってた……
皆様ありがとうございます。


追記の追記の追記
日刊ランキング2位ってどういう事や……
見た事ないぞ。
おじさん好きすぎじゃない……?
皆様ありがとうございます。


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寮生活なんて一言も聞いてないんですけど!?

あ”ぁ”……やっと一日が終わったって感じだぜ全く……

こんなに長く一日を感じた事なんて初めてだ。

 

昼飯の後は一般教養科目、所謂普通の学校で習うような数学や国語と言った教科の授業だった。偏差値70越えだからどんな高レベルな授業かと思っていたが意外と何とかなった。それでもレベルが高い授業なのは確かだ。

 

 

 

「ぐ”ぉ”ぉ”ぉ”……」

 

伸びをすれば情けないことに身体中がボキボキと音が鳴る。そりゃ一日中座っていたんだから当然っちゃ当然なんだけども。

仕事でもこんなに疲れることなんてここ最近じゃ滅多にないってのに。

女子に囲まれてるって環境もあるんだろうが、やっぱり慣れてない環境は普段の数倍は疲れるもんなんだね。やっぱり年取ったなぁ……

 

「それじゃ、帰るか」

 

のんびりと、だけども少し急いで帰る支度をする。

流石に送り迎えしてくれてる人達を待たせるのも悪い。

 

 

ふと外を見てみれば夕焼けで空は綺麗な茜色になっていた。

そう言えばこの学園は海の上にあるんだっけな……

なんだって俺はこんな所に居るのか。あのままサラリーマンとして人生を送って、千冬や一夏の事を見守って生きていくつもりが気が付けば世界で一人しか存在しない、ISの男性操縦者という絶滅危惧種になっちまった。いや、これからも見つからないと断言はできないがそう易々と見つからないだろう。下手をすればその男性操縦者に成りえる人物はもう死んでるとかで存在しないのかもしれないし。

 

なーんて柄にもないことを考えたりしてみたりするが、待たせている事を忘れていた。とっとと行くか。

 

軽く一夏と箒と挨拶を交わして学園大橋と呼ばれる片側5車線のでっかい橋の所に向かう。道中、少しばかり敵意を感じたりしたけど、特に何かされる訳でも無く。

まぁ襲ってきても返り討ちもいい所だな。小娘達に負ける程弱くはない。寧ろ蹂躙してくれるわ!

 

 

 

 

 

「あれぇ……?誰も居ないんだけど?」

 

学園大橋に到着。したのはいいんだけどだーれも居ねぇの。居るのは守衛の女性だけ。確か帰りは此処で待ち合わせのはずなんだけどな……なんかあったんかな?

 

ま、ここで待ってるか。その内来るだろ。

 

 

 

 

 

 

 

「誰も来ねぇ!!」

 

なんでや!?三十分も遅れるとか嘘だろ!?社会人としてダメじゃないですかねそれは!?もしかして忘れられてる?おじさん忘れられてるの?

いくら待っても来ないお迎え。

 

まだ春先だから日が沈み始めて暗くなり始めると寒くなって来る。

しかしここで待つ以外に選択肢は無いから沈んでいく太陽をボーっと眺める。

 

 

 

 

 

 

「あ!お兄ちゃん!やっと見つけた!」

 

「んぉ?」

 

ふと聞き慣れた声がした。その声の方を見てみると我が妹の一夏が。

なんだ?なんかあったのか?

 

「どうしたよ?そんなでっかい声出して」

 

「千冬姉が呼んでるからずっと探してたんだよ!」

 

「千冬が呼んでる?どういう事?」

 

「分かんない!でも取り敢えず千冬姉の所に行こう!」

 

「おぉぉぉ……分かったからそんなに引っ張るなって」

 

千冬が俺を探す理由?

……………………駄目だ。分かんない。駄目な兄ちゃんでごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

道中、千冬に連絡した一夏に連れられてやって来たのは、何故でしょう?IS学園の生徒寮でした。

 

「ここってどう見ても寮だよな」

 

「そうだよ?それがどうかした?」

 

「いや、どうかした?じゃねぇって。なんで俺をこんな所に連れて来るのさ?」

 

「分かんない。千冬姉が此処に連れて来いって」

 

「千冬さん……俺にもわかるように説明してよ……」

 

訳も分からず一夏に引っ張られて寮に入るとそこはとんでもなく場違いな場所だった。

なんだここ?めっちゃええ匂いするやんけ。

 

こんなとこに俺が居ても犯罪者とかにならないですよね!?

あ、今は一夏に連れられてるから加害者じゃなくて被害者か?

 

いやそんなことはどうでもいい。いや、どうでもよくはねぇけど。そもそも千冬は、なんで俺をここに呼び出したし。

 

 

 

 

 

一夏について行くと、寮長室と書かれた部屋の前に連れてこられた。

 

「失礼します。織斑先生、お兄ちゃんを連れてきました」

 

「あぁ、すまんな」

 

「妹に連れてこられましたー」

 

そう言って中に入るとそこに居るのは千冬ではありませんか。

 

「さて兄さん。なんでここに連れてこられたか分かるか?」

 

「全く持って分からんね。てか俺が此処に入ってよかったのかすら分からんし」

 

「それは大丈夫だ。寮長である私の許可があるし、それにこれからここで生活していくことになるんだからな」

 

うん。千冬は寮長。それは納得。でもその後になんか物騒な事を言ったように聞こえたけど気のせいだよね。おじさんの耳が遠くなったから聞こえた空耳だよね。

 

「ほー。千冬寮長なんてやってたのか。だから土日とかもあんまし帰って来なかったのね。で、肝心の用件は?」

 

そんなことはない、ありえへんやろ……

と心の中で思いながら改めて用件を聞いてみる。どうか居るかもわからない神様仏様千冬様。私めに祝福を。

 

「今ポロっと言っただろう」

 

「俺はそんな事聞こえなかったけどな」

 

「よし。ならばその耳元で言ってやろうではないか」

 

ゆっくりと、しかし確実に俺に近づいてくる千冬。

恐ろしくなり、聞きたくないからドアを開けて逃走を図るも何故か開いてくれないドア。

 

「アレ!?ナンデ!?ドアサン、ナンデアイテクレナインデスカ!?」

 

ガチャガチャと虚しい音が響くだけ。

そして俺の耳元に口を寄せてくる千冬!絶体絶命!助けて一夏!

 

「いやいい!言わなくていい!ちょ、やめ、やめろーー!!」

 

逃げようとするもがっちりと肩を掴まれ、どっからそんな力が出て来るのか分からんぐらいの馬力で抑えられる。

ジタバタと身体を動かして脱出を試みるも虚しく。

 

「兄さんは、今日から、このIS学園の、寮で、生活するんだ」

 

「ウソダァァァァァァ!!!!」

 

その日、IS学園の寮におっさんの絶叫が響き渡った……

ちょっとばかり千冬の声と息が耳に当たってこそばゆかったです。

 

 

 

 

 

 

 

「あー!あー!聞こえねぇなぁ!なんにも聞こえねぇよ!」

 

耳を手で覆って抗議をするおじさん。

傍から見れば何とも見苦しく、きったないもんかは俺が一番よく分かってる。そりゃもうよーく分かってる。でも、男にはプライドや恥や外聞を全て殴り捨ててでもやらなければならない時があるのだ。

 

そう!今この瞬間こそ!革命を起こすのだ!!

 

 

 

 

そもそもなんでこんな俺みたいなおっさんが女子高生しかいないこんな所で生活しなければならないのか。どう考えても事案でしょうよ。

 

おいこら。「千冬と一夏と一緒に暮らしてたやんけ」って思った奴、オジサン怒らないから正直に手を上げなさい。

 

 

…………よろしい。素直な子にはおじさん飴玉あげちゃう。

 

 

 

いやいやいや。そうじゃねぇ。一人でコントやってる場合じゃない。

まず千冬と一夏は別なのだ。そもそも家族だし妹だし。俺は妹に欲情するようなフレンズではない。世界は広いからそんなフレンズが居るけども。

 

少なくとも俺はそうでない。

…………そうでないと信じたい。

 

 

「千冬!俺は家に帰る!それが駄目ならホテルでもいい!だから頼む!女子高生と同じ場所に住まわせるのだけは勘弁してくれ!」

 

土下座をしながら必死に懇願するも無情にも千冬は、

 

「駄目だ。それに私ではなく国とIS委員会が決めた事だ。文句があるならそっちに言ってくれ」

 

笑顔で一蹴されましたよ。えぇ。

 

「それに安全上の関係もあってそう易々と学園の外に出すわけには行かないんだ。それに比べて此処にいる人間は最低限の情報があるし、もし敵対する人間だとしても対策や対応を取りやすい。それに比べて外は不特定多数が多すぎて対処するのも大変なんだ。だからどうか納得してほしい」

 

そう言って頭を下げる千冬。

そこまでされては流石に納得せざるを得ない。というか千冬が頭を下げているのに此処で納得しなかったら俺はクソ兄貴になってしまう。男としてもいかがなものか、という訳で。いや、散々駄々を捏ねて今更、と言われると耳が痛いんだが。

 

「分かった分かった。そう易々と頭を下げるな」

 

「そうか。良かった」

 

「おう。で?俺は何処の部屋で寝泊まりすんの?まさか一夏とかが一緒って言わねぇよな?」

 

流石に妹とは言え一緒の部屋ってのはかなりキツイ。身体的に。あいつ何度注意しても飛びついてくるし普通に腰やら膝に負担が掛かるのだ。

別に一夏が嫌いとかではない。寧ろ最高に愛している。ただ俺の年を考えて欲しいのだ。軽いとは言え40、50kgの物体が飛んで来てそれを受け止めるとなるとなぁ……

 

「その辺りは心配しなくていい。私と同じ部屋だからな」

 

「………………ん?今なんつった?」

 

「私と同じ部屋だ」

 

「悪い。俺は空耳が聞こえる様になっちまったらしい。もしくは難聴になった」

 

「そうか。なら耳元で大きい声で言ってやろう」

 

現実から逃れようとすると再び俺に近づいてくる千冬。

 

「すいませんでした。だから取り敢えず許してください」

 

「なら私の言ったことがわかるな?」

 

「イエス」

 

「よろしい。荷物は既に詰めて送って貰っている。今週末には一応の外出許可が出るはずだからそれまでは私が最低限持って来た荷物があるからそれで我慢してくれ」

 

流石俺の妹。やる事きっちりですな。

 

「準備が宜しい事で。因みにここに住むって決まったの何時?」

 

「昨日の夜に急に通達された。だから今日迎えに行くのが少し遅れたのは兄さんの荷物を取りに行っていたからだ。流石に女子生徒と同じ部屋にするのも不味いからそこは私と同じ部屋に無理矢理ねじ込んだ。向こうには警護云々言って無理矢理納得させた。それに兄さんも下手に一人部屋になるよりは気が楽だろう?」

 

「わぁお。委員会のこっちの事を全く考えない行動に惚れ惚れするね。ま、確かに家族が居るって安心感あるから多少はな。でも俺と一緒でよかったのか?一人で部屋を広々使えた方がいいんじゃねぇの?」

 

「いや?私は兄さんと一緒に居る事が出来て嬉しいからそんなことはない。それに狭くても兄さんが居れば関係ないさ。それに教職についてからは兄さんと会う機会がめっきり減ってしまったから。それはその分だと思ってくれ」

 

まぁ確かにここ数年は千冬は忙しくて家に帰って来ることも珍しくなっていたしな。

月に2回帰って来られればいい方で帰って来られない、なんて時もままあった。

それを考えればそれもそうなのか。

 

「おぉう、そうかい。そりゃ兄貴としちゃ嬉しいね。ま、これからよろしく頼むよ。つっても家と大して変わらんだろうけど」

 

「ん。よろしく、兄さん。それじゃ夕食に行くとしよう。明日から本格的に授業が始まるし、慣れない環境だろうから早めに休んだ方がいいだろうからな」

 

「了解。因みに食堂は何時まで?」

 

「六時から九時までだ。そうだ、ついでだから今説明してしまおう。朝は五時から七時まで食堂はやっている。その後は昼休みまで今日と大して変わらないが、夜はさっき言った通り六時から九時まで。大浴場があるが今の所兄さんは使用不可だ。すまんが部屋のシャワーで我慢してくれ。十一時には消灯だ」

 

「結構時間の余裕はあるのな。もっとこう、カツカツかと思ってたぜ」

 

「ここは軍隊じゃないんだ。まぁ不本意とは言えISを兵器として扱っている以上はしっかりと規律は守ってもらうがな」

 

「それもそうか」

 

話ながら歩いていると食堂に到着する。

晩飯は何にするか。あ、あの日替わり定食っての美味そう。決めた。今日は日替わり定食だな。

注文して食事を受け取って席を探す。

 

運良く空いている席があった。

 

「お、あそこ空いてるからあそこにするか」

 

「私は何処でも構わない」

 

2人で席について合掌。

 

「「頂きます」」

 

そして食べ始める。

うん、うめぇ。ここは無駄に金掛けてる所が多すぎだが。

でも一夏の作る飯もうめぇんだよな。そうだ、今度作って貰うか。

なんか知らんけど部屋にキッチン台もあったし。

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

「ん?おぉ、一夏と箒。二人も飯か?」

 

「うん。席を探してたところ」

 

「ならここに座るか?千冬が良けりゃだけど」

 

「ん……私は構わんぞ。座るといい」

 

そして一夏と箒は同じ席に座って飯を食べ始める。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、今日1日どうだった?」

 

「クッソ疲れた」

 

「そうなの?」

 

「そうなんだよ。訳も分からず女子高生に、いや自分以外が女な状況だぞ?普通に疲れる。お前達元気良すぎ」

 

今日1日の感想を言ったり。

 

 

 

 

「洋介兄さんは結局どこの部屋に住むんですか?」

 

「寮長室」

 

「え!?何それ千冬姉!聞いてないんだけど!?」

 

「言ってないからな」

 

「ずーるーいー!私も箒もお兄ちゃんと同じ部屋が良かった!」

 

「お、おい一夏。勝手に私の名前も上げるな」

 

「え?箒お兄ちゃんの事大好きでしょ?」

 

「いや、そうなんだが……」

 

「そんな事しなくてもくればいいでしょうに。俺目的だったら一々許可取る必要無いんじゃねぇの?」

 

「ん?まぁそうだな。別に来ても構わないぞ」

 

「ホントに!?やったー!」

 

一夏と箒に同じ部屋が良かったと文句を言われ、部屋に好きな時に来ていいとなったり。

つか一夏食いつきすぎじゃね?そんな嬉しいの?あ、そうすか。

4人で食事を済ませその後は部屋に戻って風呂に入るなりなんなり。

千冬は仕事があるって言ってどっかに行っちまったけど。

 

 

そうなると部屋には俺一人。

そして予想されるのは一夏と箒の来訪ってなわけで。

なんて考えているとドアを叩く音。

こりゃ早速来たな。

 

「あーい」

 

「お兄ちゃん、入っていい?」

 

「おーう。いいぞー」

 

「失礼しまーす!」

 

「お、お邪魔します」

 

そう言って入って来たのは堂々とした一夏と、それとは反対におずおずとした箒。いや、ホントにお前ら性格入れ替わったんじゃねぇの?と思ってしまうぐらい昔見た時とは大違い。

 

「何となく予想してたけど早速来たか」

 

「そりゃ来るに決まってるよ」

 

「すみません、いきなり……」

 

「何、気にすんな。許可を出したのはこっちだしな。千冬に怒られない程度なら許す」

 

「やったー!」

 

そう言って俺の座っているベッドに飛び込んでくる。

ドフン!という音と共に俺の身体が浮き上がる。

 

「あんまし暴れんな。千冬にバレたら怒られんぞ?」

 

「えー?でもお兄ちゃんはそんなことしないでしょ?」

 

「まぁな。別に怒ったりなんざしねぇよ」

 

「だったらお兄ちゃん限定って事で」

 

俺限定ってそれどうなん?

千冬との対応と大して変わらんじゃないの。

 

「洋介兄さんすみません……荷物とか整理することも沢山あるだろうから直ぐに行くのは流石にどうなんだと言ったのですが……」

 

箒は申し訳なさそうに言う。

本当に変わったな……昔だったらいの一番に突っ込んできたのは箒だったのに。

昔を懐かしんじまうのは、歳を取った証拠だな……

 

「ん?あぁ別に気にするような事はないって。箒も寛いでくれ」

 

「……はい。それじゃぁ失礼します……」

 

「おう。で、何故に俺の隣に?」

 

「寛げと言ったのは洋介兄さんじゃないですか」

 

「それが何故俺の隣になるのさ」

 

「私にとって一番落ち着いて寛げると言ったら洋介兄さんの隣ですから」

 

「……そうかい」

 

「ふふ、そうなんです」

 

どうしてだか嬉しそうに笑いながら俺の隣に座る箒。

ま、慕われてんのは嬉しい事だがね。

 

「あ!お兄ちゃんと箒がイチャついてる!ずるい!」

 

「何言ってんだ一夏」

 

「ふふん、良いだろう?」

 

「箒は何故煽った?頼むから止めてくれ」

 

そう言った俺の言葉も虚しく、俺挟んでの言い合いに。と言っても俺からすれば微笑ましいもんだが、抱き着いてきたりするのはなんでや?おじさん、この状況をどうすりゃいいの?誰か教えて。

 

 

 

 

 

 

箒と一夏の言い合い(笑)から暫くすると落ち着いたのかそれぞれ今まで何をやっていたのか、などと昔語りが始まった。

 

箒は要人保護プログラムという事で各地を転々としていたんだそうだ。

引っ越す前に聞いた説明と変わらず、しかし結構な苦労もあったようだ。

基本的に短い期間しかその場所に留まる事が出来ず、友人は出来たが、親しくなることは無かった。親しくなる前に国から別の場所への移動命令が出てしまうからだ。

しかしその間も一夏とは会える事が出来たらしい。それでも頻度は数年に一度程度だったが。そう言えば2年ぐらい前に会ったとか言っていたな。

俺、そんなこと知らなかったんだけど。

箒が言うには何故か俺は国に信用されていなかったらしい。

その辺の理由はよく分からんが、恐らく不特定多数の一人として見られていたんだろう。どういう基準なのかは知らんが……それにおいそれと国にとっての最重要人物の妹にホイホイ誰かを会わせることは避けたかったんだろう。しょうがないと言ってしまえばそうなのだろうが、個人的には小学生をそう言った環境に置くことが信じられん。普通だったら性格の1つや2つ、捻じ曲がってしまっても可笑しくはないだろうに、よくもまぁこんなに立派に育ったもんだ。

 

ついでに言っておくと束とは一応連絡は取っているらしい。

監視の目があるから堂々とは行かずにコソコソと言った感じらしい。仲が悪いという訳でもなく、良いという訳でもないだそうだ。

 

一夏は言わずもがな、と言った所だろう。

日常は俺と暮らしていたし、学校にも普通に通っていた。友人も沢山居たし、その中でも特に親友というような人間が居た事も知っている。

変わったと言えば代表候補生ぐらい。

まぁそう簡単になったわけじゃない。確かに才能はあるだろう。でもそれだけで慣れる程簡単なものではないはずだ。その為にして来た努力は知っているからな。

 

 

 

そうこう話しているとそろそろ就寝時間。

 

「ほら、そろそろ良い子は寝る時間だぞ」

 

「まだお兄ちゃんと話したい!」

 

「そう言ってもよ、時計見てみ?」

 

「………………」

 

「千冬に怒られんのが嫌だったら部屋に戻った方がいいぜ?」

 

「そうだぞ、一夏」

 

俺と箒に説得されて頷く一夏。

しかしどこか残念そうにしているのは気のせいじゃないんだろうが……

 

「分かった」

 

「そう気落ちする必要ないだろうよ。また明日にでも来ればいいだけの話だろ?」

 

そう言ってやると嬉しそうに笑って部屋を後にした。

あぁいう所はまだまだ子供だな。それもその内見られなくなるんだろうけどな。

……さて、そんな辛気臭いこと考えてないで俺も寝ないとな。千冬に何言われるか分からんからね。

 

 

 

 

 

 

 

「ねみぃ……」

 

大きな欠伸をしながら起きる。

時計を見れば四時半。随分と早く起きたな……

 

 

ん?腕ってこんな重いもんだっけ?

思わずそう思うほど腕が重く感じた。しかもなんか掛け布団が膨らんでるし。

捲ってみると……

 

 

「なんで千冬が居んの……?」

 

そこには腕に抱き付いて寝ている千冬の姿があった。

いや、自分のベッドあるやんけ。どうして態々俺のベッドに、しかも俺に抱き付いてまで寝ているんです?

 

そうしてせめて腕を抜こうとすると抱き締める力が強くなる。

 

「んぅ……」

 

いや、離してくださいよ……

 

何度か試して何とか腕を引き抜くことには成功したがそれ以上はどうにもならなかった。いや、千冬を引きはがすとなると結構本気にならないといけないが、そうすると起こしてしまう訳で。

千冬を見てみると、幸せそうな顔で寝ている。時折腕に頬ずりをしてくる。

こんな顔で寝てる奴を起こせるわけがない。

 

ま、いいか。

教職に就いてから今まではそう簡単に会えなくなっていたから、こんぐらいは許してやるか。

 

そう思いながら頭を撫でると我が妹は嬉しそうに抱きしめる力を強めるのだった。

 

 

 

 




いやもう驚くほどの評価が付いてて怖い……
あんなん見た事ねぇですはい。

皆さんのお陰です。ありがとうございます。
てかお気に入り4000件って何?
友人にも日間ランキングどころか月間ランキングにも名前が載っていると言われ、

( ゚Д゚)ハァ??ナニヲイッテイルンデスカ?

となっってしまいました。

なんでこんな適当に書いてるのが評価高いんや。
皆さんオジサン好き?それとも妹好き?





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おじさん、家に帰る。

何の捻りも無いサブタイ。

それと今回は生徒会会長が登場しますが殆ど出番はありません。
好きな人は申し訳ない。


あ、それとしっちゃかめっちゃかかもしれないです。
気を付けて。安定したクオリティの低下。


入学してから早くも一週間が経った。今日と明日は家に帰って服等の生活に必要な物を取りに行く事になっている。

所謂外泊と言うやつだ。個人的にはもっと長期間家に帰れないだろうと思っていたから嬉しいね。

 

 

 

 

 

 

それはそうとして……千冬と一緒に来たこの子誰?

 

 

橋の所で一夏と一緒に待っていると千冬が一人の女子生徒、だと思う。を連れて来たのだ。

見た目としては水色の髪の毛に少し釣り目の、何故か扇子を持っているという正直よく分からなさ過ぎてよく分からん。

俺も何言ってんのか分かんなくなってきた。どうしよう。

うん、本当に分からない。誰マジで?

 

「初めまして、佐々木洋介さん。私は更識楯無です。この度は日本政府からあなたの護衛を命じられました。これからよろしくお願いしますね?」

 

そう言って自己紹介してくるが、うん、困惑していてそれどころじゃねぇ。

そもそも護衛ってなんや?いや、自分の立場とかが分かってない訳じゃないよ?でも小市民なおじさんはいきなり護衛だなんだと言われても実感湧かない訳さ。

 

「兄さん、今日から私の代わりに護衛に着くことになった更識だ。私も学校での仕事なんかも色々あってそう簡単に付いて行く事が出来ないんだ。その代わりにこいつの出番という訳だ」

 

「つってもよ、随分と急だな」

 

「ま、国の方でもそう言った人選で時間が掛かったんだ。下手な人間を付ける訳にも行かないからな」

 

「えー?今日千冬姉一緒に来ないの?お爺ちゃん喜ぶよ?」

 

「すまんな、今度開催されるクラス別代表トーナメントの方が忙しくて手が回らなかったんだ。お爺ちゃんには宜しく言っておいてくれ」

 

「分かった。千冬姉の分もお菓子食べて来るね!」

 

そう言って一夏は既に先生の所に行った時の事を想像してニへニへ笑っている。

こいつは能天気と言うか、楽観的というか……

 

「兄さんも、すまない」

 

「ん。別に気にすることじゃねぇって。仕事は大事だからな」

 

「ありがとう。それでは更識、兄さんと妹を頼んだ」

 

「はい。お任せください」

 

そう言うと千冬は行ってしまった。

まぁ、普通の学校でも仕事量は多いと聞くが、この学園の教師ならそれも数倍なんてレベルじゃないんだろうな。専門的な事に加えて一般教養、実技、その他諸々を加えればテストだけでも嫌になる。俺だって嫌だし。それに各種イベント。地獄のような忙しさだろう。身体だけ気を付けてくれればいいが。

 

「それでは行きましょうか。車も既に来ているようですから」

 

「お願いしまーす!」

 

そう言って車に飛び乗る一夏。

 

「わ!お兄ちゃん凄いよこの車!座席がフカフカ!」

 

「分かったからあんましはしゃぐんじゃないの。少し落ち着けって」

 

「えー?でも乗ったら分かるよ!ほら早く早く!」

 

「分かった分かった」

 

そう言って車に乗って椅子に座る。

 

「おぉ、本当にフカフカだな。なんだこれ」

 

「でしょでしょ?」

 

すっごいフカフカ。思わず驚いて声が出てしまうぐらいにフカフカだ。

なんだこれ、何で出来てんの?羽毛?いや、羽毛だと座った時にべちゃってなっちまうか。

 

「お気に召していただけたようで何よりです。それでは出発しましょう。車を出して頂戴」

 

「畏まりました」

 

そして車は我が家に向かって出発した。

通り過ぎていく景色は段々と見慣れたものになって行く。

我が家は学園から程近い場所にある。時間としてはレゾナンス辺りが混んでいたりしなければ20分もあれば到着できる。

 

この家、俺が購入した訳ではない。

千冬が国家代表となった時の収入と第一回モンド・グロッソの優勝賞金で購入したのだ。しかも購入した時、

 

「この家は、今まで沢山お世話になった兄さんへの恩返しの一つ。だからどうか受け取って欲しい」

 

俺は今までのオンボロアパートに住もうと考えていたのだがそれを千冬は止めて、

 

「何故その考えになったのか分からないが、兄さんへのプレゼントでもあって恩返しでもあるんだ。だから一緒に住もう。兄さんが嫌だと言うなら私と一夏は別に家を探すが……あ、因みに税金関係なんかの心配は要らないぞ。私が払うからな」

 

と言って来たのだ。

まぁ恩返し云々の話を聞いていない時の考えだったから聞いた瞬間に思いっ切り覆った。その後は住み慣れたオンボロアパートを出て今の家に三人で住み始めた。

三人で住むには十分すぎる広さの家で驚いたことに俺の職場からも距離としては近いし、一夏の学校も近かった。しかも広めの庭もあるしでよくもまぁこんなにいい物件を見つけたもんだとその時は思ったね。

 

 

いやぁ、思わずその話を聞いた時は泣いちまったよ。

こう何度も思う事だが立派になったなぁ……と感慨深くて泣いてしまった。

千冬と一夏はそんな俺を見て笑いながら

 

「これからもっと沢山の恩返しをしていくからな。泣くことも多くなるから覚悟しておけよ?」

 

と言った。いやぁ、おじさん心配だよ。

 

とそんなこんなで家に到着。

大体二週間ぶりだろうか?懐かしい感じがするよ。

 

「あぁ……なんか家に帰って来たって感じがすっげぇ強いな」

 

「そっか、お兄ちゃんはずっと帰って来てなかったもんね」

 

「おう。いやぁ……なんかこう、色々と思う所はあるが取り敢えず家に入るか」

 

「うん。あ……」

 

一夏が鍵を開けようと鍵を探してバッグを漁るがやっちまったみたいな顔してこっちを向いた。

 

「お兄ちゃん、鍵持ってる……?」

 

「あるぞ。監禁されてからずっと持ってるからな」

 

「じゃぁお願いしていい?鍵忘れてきちゃった」

 

だろうと思ったよ。

こいつ、料理も出来るし家事も完璧なのにどうしてか意外とズボラと言うか抜けている所があるのだ。本当に偶に、えぇ……?と思うような失敗をすることもある。

うぅん……こいつ将来社会に出て大丈夫だろうか?多分大丈夫なんだろうけど心配だ。

 

「えぇ……お前なぁ、そういうとこだぞ?あぶねぇからしっかりしろよ?」

 

「はーい」

 

 

鍵を開けて家に入る。

すると、見慣れた光景が目に飛び込んできた。

 

「あぁ……ただいま」

 

思わず、返答する人は誰も居ないのに、出てしまうこの言葉。

 

「おかえり、お兄ちゃん」

 

帰って来ないはずの返答は俺の後ろから聞こえる。

振り向くと一夏が笑ってそこに立っていた。

 

「ほら、お兄ちゃん。早く入って入って」

 

「おう……そうだな。とっとと準備してのんびりするか」

 

一夏に言われリビングに入ると、懐かしい、二週間ほどなのだがそう感じてしまう光景だった。部屋に行って持っていくものを纏めねぇと。

衣類と、後はパソコンぐらいか?あぁ、写真も何枚か持っていくか。

 

「そうそう。それにお爺ちゃんの所にも行かなきゃ」

 

「あー、そうか。連絡はしたのか?」

 

「うん?とっくにしてあるよー。すっごい嬉しそうな声だったよ」

 

「それなら早く行ってこい。早めに行ってなるべく長い時間一緒に居たいだろ」

 

「うん。取り敢えずお兄ちゃんの準備が終わったら行こうかなって。明日もここに居れるし」

 

それはそうなんだけど、俺も一緒なの?

別にこの待っている時間も俺なんか気にしないで行ってくればいいのに。

 

「俺の準備なんて待たなくても行ってきていいぞ?」

 

「何言ってるの?お爺ちゃん、ずっと心配してたんだから顔ぐらい出さなきゃ。一緒に行こうよ」

 

当たり前だと言わんばかりにそう言って来る一夏。

確かに心配掛けたから元気な顔を出す、というのは間違いじゃぁないしな。

 

「それもそうか。なら少し待っててくれ。多分一時間もありゃ終わる」

 

「うん。それじゃリビングに居るから」

 

そう言って一夏はリビングに行った。

俺は、とっとと準備をしますかね。先生も一夏の顔を見たいだろうし。

 

 

 

 

 

 

それから一時間と少し。

俺の準備は終わって先生の家兼診療所に向かった。

 

道中はやはり車。

本来ならば歩きの方が楽なんだが生憎と俺は一夏の様に専用機を持っている訳じゃないから襲撃されても何の対処のしようも無い。ましてや狙撃なんかになると余計だ。

まぁ流石にそこはこの更識って嬢ちゃんが対応している。

車なんかだと市街地じゃあまり速度は出せないが戦車とかでも引っ張り出してこない限りはどうとでもなるぐらいの防御力を持っているらしいこの車。

 

……俺はどこぞの国の大統領かよ。

 

なんて思ったり思わなかったり。

子供の頃だったら純粋にすげー、ってなるんだろうが大人になってからだと嫌だと言う方が上回っている。あ、別に車が嫌な訳じゃないぞ?ただ俺の事をそんなにしてまでも狙っている奴がいると思うとなぁ……

 

おじさんモテモテで困っちゃう。

 

ホントに困ってるんだって。なんで本人に、

 

〔是非、生きた状態で解剖させてくれ!〕

 

なんて頼み込んでくる奴にモテなければならないのか。

他にも女権団は、

 

〔神聖なISに男が乗るなんてふざけんな!死ね!〕

 

と態々電話してくる始末。

俺はこんな奴らにモテたくないね。

というか何が神聖だ。元々は一人の女の子の夢を乗せて羽ばたく筈だったんだ。

それを勝手に兵器にした挙句、神聖だなんだと言い始めやがる。

 

ふざけるな、はこっちの台詞だっての。

 

 

 

そんな事を考えていると見えて来たのは、俺の仕事の都合で休日に二人を預けたり、お爺ちゃんに会いたいと言う二人を連れて行ったり体調を崩した一夏と千冬を連れてよく行った、この近所では有名なお爺ちゃん先生が開いている診療所。

 

「わー!久しぶりだね!お兄ちゃん!」

 

どうしてこいつは此処に来るたびにこんなに目をキラッキラさせるんだろうか。

随分とまぁお爺ちゃんっ子に育ったもんで。

 

「ホントに久しぶりだよ。つってもお前はしょっちゅう来てただろ」

 

「お兄ちゃんがIS動かしてからは来てませんー。だから二週間ぶりぐらいなんですー」

 

「そうですかい」

 

あーだこーだと言い合っている内に家の目の前まで到着。

一夏はドアを開けて玄関に飛び出していった。

 

「おーじーいーちゃーん!きーたーよー!」

 

 

無駄に足が速いで……でっかい声で先生の事を呼びながら。

足が速い事速い事。ちょっと待て。

あの速さで毎回毎回俺に突っ込んで来てんのか……本当にその内、腰とか逝っちまうんじゃ……?

 

少しばかり恐怖を感じたりしたものの、奥から出てきた先生。

相変わらず元気そうだ。あの年なのにもかかわらず背筋はしっかり伸びているし結構運動もする。見た目だけでも70台で通用しそうなのにな……あれ?本当に91か?

 

奥で楽しそうに話している二人。

何度も見たことある光景だが、こう、本当にもう見られないかと思っていた光景だから帰って来てから感慨深く感じることが多くておじさんそろそろ泣いちゃうかも。

 

 

 

「おう、元気にしてたか?」

 

「はい。お陰様で。先生の方はどうでしたか?」

 

「ん?そりゃ元気に決まってんだろう」

 

と挨拶を交わす。どうやら元気そうで何よりだ。

 

「それにしても、驚いたぞ。なんでまたあんな事になっちまったんだ?」

 

「それが自分もさっぱり分からないんですよ。気が付いたら、というのが正直なところです」

 

「ま、今日は取り敢えずゆっくりしていけ。一夏の方は冷蔵庫に羊羹があると言ったら飛んで行っちまったからな」

 

あいつ……なんだろう、最近思うのが中身小学生なんじゃないんだろうか?

本当にどうしてあぁなっちまったんだ……

いや、いい子なんだよ?何度も言うけど料理は出来るし家事全般も超が付く程の腕前だし性格も良いと来た。

……ん?これって別に問題なくね?俺の気のせいか……

 

「毎回すみません……」

 

「何、気にすんな。千冬はどうした?」

 

「仕事が忙しいようで、今日は来れないと」

 

「そういや教師だったな」

 

「えぇ。お爺ちゃんに宜しく、と言っていました」

 

「おう。また今度来いって言っとけ。ほれ、茶を出すから座れ。そこの嬢ちゃんもどうだ?」

 

「いえ、やらなければならない事があるのでお構いなく」

 

「そうか。それじゃ行くか」

 

やはり千冬が来ていないと言うと少し残念そうにする。

更識さんを誘うも仕事があるからと断られてしまった。

多分、周辺の安全の目視確認とかなんだろう。

というか先生、今更だが孫馬鹿になりすぎじゃ?いや、本当の孫じゃないんだけどさ。可愛がりすぎじゃない?

 

 

 

奥に行くと一夏が既にお茶と羊羹を出して食っていた。

はえぇなおい。しかも俺と先生の分まで出してあるし。

 

「あ、お爺ちゃんこの羊羹スッゴイ美味しいよ!どこの?」

 

「ん?あぁ、貰いもんだから知らん」

 

「えぇ……これ絶対箒好きだから今度買って行こうと思ったんだけど……」

 

「それならもう二本あるから持っていけ。両方とも持って行っていいぞ」

 

なんて二人で会話している。

羊羹がどうこう、煎餅もあるぞとかなんとか

千冬は今頃仕事をしているのだろうか?ここ最近部屋に戻って来ることが遅い気がするんだが、顔には出さないタイプの人間だ。でも雰囲気とかで俺は分かるんだけど。

ただ、毎晩毎晩俺のベッドに潜り込むのは何故なんだ。普通に自分のベッドで寝た方がいいと思うんだけど。

 

「そういや今何やってんだ?女子高生に囲まれてどうだ?」

 

「何言ってるんですか先生……」

 

「冗談だ冗談。ほら、煎餅も食え」

 

「あ、ありがとうございます」

 

その後は昼飯を一夏が作って三人で食べて晩飯も一緒に食った。

まぁ本人には悟られていないと思っているんだろうけど顔は終始ニコニコ顔だった。

いや、バレバレですからね?言わないけど。

そして一夏は呑気に菓子を食ったり話をしたり。そして晩飯を食い終わって暫くすると家に帰った。

 

「お爺ちゃん元気そうで良かったね」

 

「そうだなぁ」

 

嬉しそうに今日の事を一夏はとても嬉しそうに話す。

ま、楽しかったんなら何より。

 

その後は特に何かあったと言う訳ではなく、久々に自宅の風呂でゆっくりと湯船に浸かって満喫した後は一夏のいつも通りの構ってくれ攻撃が炸裂し、負けた俺は一夏と話していた。

 

その後は俺が寝落ち。いや、二時やぞ?眠くて仕方なかったのに此処まで耐えた事を褒めて欲しい。朝起きたら一夏が布団の中に居たけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、一夏の布団in事件(慣れた)から朝飯を食って一夏は友人の下へ。

俺はのんびりと家でゴロゴロ。

 

するとどこぞの天災ウサギさんが音も気配も無く我が家へやって来た。

現れたウサギさんは当たり前のように俺に抱き付いてくる。おっきなおっぱいが押し付けられてありがとうございます。

 

「お・じ・さ・ん!こんにちは」

 

「はいこんちわ」

 

「むぅ。最初の頃みたいに驚いてくれないね?」

 

「いや、十分驚いてるって。いっつもどうやって現われてんのさ?」

 

「え~?ひ・み・つ。ちょっと不思議な女の方が魅力的じゃない?」

 

「元々不思議だらけでしょうが。寧ろ分かってることなんて少ない方なんじゃねぇの?」

 

本当にこの娘は不思議だ。

そもそも今何をやっているのかすら分からないし。

世間様から雲隠れする前は何をしているのか普通に知ってたけど。

 

「おじさんになら教えてあげるー」

 

「遠慮しまーす。なんか束以外知らない事ばっかの国家機密みたいなこと教えられても困るわ。それに性格云々なら今までの付き合いで知ってるつもりだしな」

 

「えへへ、おじさん嬉しいこと言ってくれるね!お礼にキスしちゃう!」

 

そう言って顔を近づけてくる。うん。止めようか?束はまぁ美人だ。それもずば抜けて美人だと思う。一夏も千冬も箒も美人だがベクトルが違うのだ。

おじさんとしてはドギマギしなくもないけど妹みたいな存在がこんな事をしてくるなんて色々と心配でしょうがない。

 

「だからそう言うのは止めなさいって」

 

「何度も言ってるけどおじさんだけにしかやらないってば。そもそも親しい男の人なんておじさんとお父さんしかいないし」

 

「だからってそう言うわけには行かんでしょ」

 

何時も通りあーだこーだ会話しながら時間は過ぎていく。

そう言えば束も随分と変わったもんだ。初めてあった頃はものすっごい敵対していますって目で見られた。しかも千冬の兄貴だから、まぁしょうがねぇ、挨拶ぐらいはしてやるかと言った感じだったからもう、心が圧し折れた。それが今じゃ抱き着いてきて逆セクハラみたいな事をしてくるぐらいには好かれている。何があったのか俺にも良く分からん。

 

「そういや俺の護衛の人達は?気づきそうなもんだけど」

 

「そこはご心配なく。おじさんは此処に存在するけど私は存在するけど存在していないことになってるからね」

 

「………………どういう事?」

 

束は存在しないことになっている?おじさんの脳みそじゃ理解できねぇわ。

 

「うーんとね、私って言う存在を書き換えたんだ。私って言う存在が此処ではなく別の場所にあるように改竄した、って事かな?ぶっちゃけて言えばおじさん以外に私の存在を認識できなくしたんだ」

 

「よし、お前が凄いって事を改めて理解したわ」

 

「でしょー?」

 

そう言って笑う束は俺に頬ずりをしてくる。

最初は頭、そこから首筋へと移動していく。

くすぐってぇなぁ!こいつ髪の毛さらっさらだから余計なんだよ!

しかもお肌モチモチスベスベやんけ!

 

「あー……おじさんの匂いがするー……んー……」

 

お前の方がいいにおいするよ!何だこの匂い。シャンプーか?いや、元々の束の匂い?

 

「絶対に臭いだろ。加齢臭とか」

 

「え?全然?寧ろいい匂いだと思うけど」

 

そう言う束は嘘を言っているようには見えない。

……まじか。こんなおっさんの体臭好きって変態なんじゃ……?いや、俺も束の匂いをどうたらこうたら言ってる時点で変態じゃねぇか。

 

「おじさん、私は変態じゃないよ。おじさんが好きだからそれに関わる全てが好きなの」

 

「そうですかい」

 

「あ、信じてないな?」

 

何故思考が読めるん?本当にニュータイプやんけ。

まじで変なこと考えられへんぞ。

 

「まぁな。だってよ、おっさんの体臭が好きとかちょっと信じられませんな」

 

「えー?でもちーちゃんとかも好きだって言うと思うよ?」

 

「んな訳……」

 

いや、言うかもしれん……特に一夏は危ういな。いや千冬もまぁまぁ。

……我が家は変態一家。ははっ。笑えねぇなちくしょう。

 

「ね?」

 

「……俺の妹たちは大丈夫だろうか」

 

「分かんない」

 

無責任な奴だなおい。

 

「んー、でもおじさんも私の匂い嗅いでたからいいでしょ?」

 

「ばれていやがる。なんでだ」

 

「女の子は好きな人の考えることは分かっちゃうんだよ?」

 

「何それ初耳すぎて怖い」

 

 

 

 

 

驚愕の事実にビビったり、妹達の性癖を心配したり、自分はまともな性癖のはずと頭を抱えたり、今日一日で色んな感情を一度に味わえた。

 

 

あの後束と一夏が帰って来るまで延々と会話して、学園に帰らなければいけない時間になった。

 

「お兄ちゃん、今度は千冬姉と一緒に帰ろうね」

 

「おう。先生の所にも千冬は連れて行かねぇとな」

 

そう会話すると一夏がおもむろに顔を寄せて小さな声で話し始めた。

 

「そう言えば今日束さん来たでしょ」

 

「……なんで分かるんですかうちの妹。俺言ってなくない?」

 

「だって束さんの匂いがお兄ちゃんからするんだもん。私は別にいいけど千冬姉拗ねちゃうから部屋に帰ったら速攻でお風呂に入った方がいいよ」

 

「よし、もうこの際お前が匂いを嗅いだって事は気にしない。いや、後でちゃんと聞かせてもらうけど。別に束の匂いが付いてたって問題ないだろ」

 

そう言うと一夏はむっとした顔になって不機嫌そうに言った。

 

「えぇ……?お兄ちゃん本気で言ってる?多分、間違いなく拗ねると思うけど……まぁお兄ちゃんが大丈夫だと思うんだったらいいんじゃない?私はちゃんと忠告したからね」

 

「なんだそれおい。怖いから色々と教えてくれ。一夏さん、何故無視するんですか?あの、こっち向いてくださいって」

 

「ふん……」

 

だめだぁ……窓の外向いちまったぁ……

どうすりゃいいのよこれ。

 

 

 

 

 

結局一夏の機嫌が直る事は無く、学園に戻った後も寮にそのまま向かってしまった。

妹はお兄ちゃんに何を求めてるの……?

 

 

 

「只今帰りましたー」

 

「ん、おかえり。どうだった?久々の家は」

 

「最高だったね。結構感傷に浸っちまうぐらい」

 

「そうか。それは良かった……?」

 

「どうしたよ、急にそんなに見つめて」

 

歩いてベッドに向かう時に千冬とすれ違った瞬間に何故か俺を見つめてくる千冬。

俺どっか変なとこあります?

そんな呑気に考えていた俺をぶっ飛ばしたい。近づいてきた千冬は俺の匂いをクンクン嗅ぎ始めた。

おう、まじかよ。姉妹揃って匂いフェチか。別にダメとは言わんけど何故俺の匂いなんだ。

 

そして顔を上げて俺を見た千冬は、

 

「……兄さん、束と会っていたな……?」

 

「えっ。なんで分かったし」

 

「そうか……兄さんは妹が仕事を頑張っている時にそんな事をしていたのか……」

 

「いや、千冬さん……」

 

「ふんッ!」

 

まじかよ。本当に機嫌が悪くなっちまったぞおい。あ、あのお顔は拗ねてしまっていますね。

流石一夏だな。姉の事をよく分かっていらっしゃる。なんて一夏に感心している場合じゃねぇっての。なんでこういう時俺は余計な事を考えちまうんだ。これをまた千冬に読まれたら余計に大変なことになるぅ!

 

 

拗ねてしまった千冬はベッドの上で膝を抱えてしまった。しかも窓の方を向いてだ。

あ、これは完全にやらかしたわ。

 

 

それからというもの、完全に拗ねてしまった千冬は一切口を利いてくれず、必死になってご機嫌を取ったのは言うまでもない。

取り敢えずその日は一緒に寝ることで手を打ってもらい、後日二人で出かけることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、千冬や」

 

「どうした?」

 

「ちょっとくっ付き過ぎじゃないかね?」

 

「うるさい。このぐらい罰としては丁度いいだろう」

 

「そうっすね……もう好きにして……」

 

「最初からそのつもりだとも」

 

「さいですか……」

 

 

 

 




個人的な意見を言わせてもらいたい。

ちーちゃんかわいい(語彙力喪失)
束はえっちぃ(言語力低下)
一夏は天使(安定のおさるさん化)
箒はママン(安定の変態、訳分からん)



気にするな。作者の脳みそは大体こんなことしか考えてないから。
脳みそは多分ジャーマンポテトじゃなくてマッシュポテトが詰まってるんだ。

よく分からねぇこと言いやがって。と適当にあしらってください。








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私のお兄ちゃんは世界一! (一夏)

おにゃのこ一夏ぎゃんかわ。





題名が千冬の時と違う?
一夏は可愛いからこれでいいんだよ!


私はお兄ちゃんの事が好きだ。世界で一番好きだ。

当然家族として。

兄としての好きも含まれているけれど一番大きいのは異性としての好きかな。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー抱き上げてくれる腕が大好きだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー何時も背負ってくれる背中が大好きだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー私の名前を呼んでくれる声が大好きだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー私の事を見て嬉しそうに笑う顔が大好きだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーそんなお兄ちゃんの事が大好きだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー何時からだったか。兄の背中に、私もあんな風になりたいと憧れ始めたのは。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー何時からだったか。憧れが、家族としての好きが異性としての好きになっていたのは。

 

 

 

 

だってあんな姿を見せられ続けたらそりゃ憧れるし好きにもなる。

あんな生き方をしている人なんていない。お兄ちゃんだけの生き様だもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だけど私とお兄ちゃんは年が離れている。20歳差。

千冬姉ですらお兄ちゃんと11歳も離れている。

 

そもそも本当の兄妹ではない。

それを知ったのは小学生の時。何時お兄ちゃんから言われたのか忘れちゃったけど。

いきなり千冬姉とお兄ちゃんに話があるとか言われて聞いてみれば、

 

本当の兄弟じゃないー、とかなんとか言われて。

 

その時は結構混乱したけど少ししたら気になんなくなっちゃった。

確かに血が繋がっていない事とか、どうして今こうやって一緒に暮らしているとか衝撃的だったのは本当。

 

でもそれでもお兄ちゃんは私と千冬姉の事をとっても、この世界で一番って言うほど愛してくれているのは考えなくても普通に分かるぐらい。

それに血が繋がっていないのは好都合。これで問題無く結婚出来るもんね。

 

 

 

 

お兄ちゃんはとっても不思議な人だと思う。

どこか掴みどころが無いと言うか、こう、飄々としてるって言うのかな?その時その時によって顔とかが全部物凄く変わるんだ。

 

ふざけてるときもあるし私達をからかう事もある。そのくせ怒られるととっても弱いし、私達の事になるととんでもなく優しくて温かくて、強くなる。

そんな、とってもとっても不思議な人。

それが私のお兄ちゃん。

 

 

 

 

 

 

それじゃぁちょっとだけ昔話。

私が赤ちゃんの時からずーっとお兄ちゃんは私の傍に居た。

一番古い記憶の時から、物心着いた時にはお兄ちゃんは傍に居た。

千冬姉も傍に居てくれた。

 

 

毎日仕事に行く前に私を保育園に送って、それから仕事。その仕事も早めに切り上げて私を迎えに来てくれた。

一日の中で一番の楽しみは保育園でお迎えを待っているとき。待っていて先生が、

 

「お兄ちゃんが来たよ」

 

って言ってくれるのが一番嬉しい瞬間だった。

その瞬間に立ち上がって走ってお兄ちゃんの所まで走る。そして思いっきり飛びついて抱き着く。それを毎日やっていた。

 

そしたら今でもお兄ちゃんに飛びつきながら抱き着くって癖が付いちゃった。

でもなんだかんだ言いながらお兄ちゃんはちゃんとしっかり受け止めてくれる。

偶に不意打ちになっちゃうこともあるけど……

 

帰りは並んで手を繋いで帰る。

今日は何があった、誰々が怒られてた、何があった、明日は何をやるのか。

 

笑いながらそれを分かってほしくて必死になって説明をしてた。

そんな私の話をお兄ちゃんは聞きながら嬉しそうに笑って聞いてくれる。

時にニコニコ、時には大きな声で、時には堪えるように。

 

お兄ちゃんが居るだけで毎日が楽しくて楽しくてしょうがなかった。

 

 

 

 

 

休みの日は必ず何処かに遊びに連れて行ってくれた。

海に行ったり、公園に行ったり、プールに行ったり、時には遊園地に行く事もあった。

お兄ちゃんは絶対に顔に出したり、言葉に出したりはしなかったけれど、お金も無くて、仕事も忙しかっただろうに、とっても疲れていただろうに。

 

それでも私達を一番に考えて必死になって成長する事を支えてくれた。

どんな時も笑っていて、優しかった。

 

 

 

 

千冬姉は剣道をやっていた。

その応援には必ずお兄ちゃんと一緒に行った。

そしてその練習について行った時に知り合ったのが束さんと箒。

正直な所、束さんはよく分かんない人だった。本当によく分からない、というか分からなさすぎる人だった。いや、良い人だっていう事は分かるんだけど、どうも行動が……

 

だっていきなり飛んできたと思ったら私の事を箒と一緒に撫でまわしたり、もう色々と規格外すぎて。まぁ暫くすればこの人はこういう人なんだって納得しちゃったけど。

 

箒は、何というか物凄く元気が有り余っている、って感じの子だった。

基本、箒が私を連れ回す。そんな感じでよくお兄ちゃんと遊んでいた。

 

いやぁ、本当に箒にどれだけ泣かされた事か。

いきなり神社の山の中に連れていかれた時は普通に大泣きしたし、山に一緒に入って遭難しかけた事もあるし、海に行けば何故か沖に流される。

 

でも、そんな時は必ずお兄ちゃんが助けてくれた。

何処に居ても必ず来てくれた。笑って迎えに来てくれる、いや、助けに来てくれると言った方がいいのかな?

 

毎回必ず怒るけどその後は必ず笑って、

 

「今日は何を見つけた?何があった?どんなものを見てきた?」

 

そう言って話を聞く。

私達は泣いているよりも、凹んでいるよりも話を聞いて欲しくて。

どんなものを見て、触って、どんなことが起きたのかを聞いて欲しくて。

その時にはもう泣き止んで、我先にと話を始める。二人いっぺんに話すものだからお兄ちゃんは毎回困った顔をする。

それでも私と箒はそんなことはお構いなし。

お兄ちゃんは帰る時は私達を抱き上げて話を聞きながら嬉しそうにしながらも困ったように笑う。

 

そんなお兄ちゃんの顔を見るのが楽しくて、話を聞いてくれるのが楽しくて。

毎日が、一日一日が最高に楽しくて幸せな時間だった。

 

 

 

とても楽しくて、幸せな日々。

家に帰ればお兄ちゃんが居て、千冬姉が居て。

神社に行けば箒と遊んで、束さんに捕まって撫でられて。

 

 

毎日そうやって過ごしていたけれど、大きな変化が訪れた。

 

 

束さんが開発したインフィニット・ストラトスによって世界が大きく変わってしまったのだ。

まぁ直接的な変化と言えば箒が転校してしまった事と、同時に私が通っていた篠ノ之道場が閉まってしまった事ぐらい。後は鈴が転校してきたことかな?

剣道は千冬姉に憧れてお兄ちゃんにせがんでやっていた。

そう言えばお兄ちゃんが道場で一時期、短い間とは言え習っていたことを聞いた時はびっくりしたな。

道場が閉まって師範が居なくなっても、それでも門下生は師範に許可を貰って道場を使って練習をしたりしていた。

 

千冬姉は束さんの推薦で国家代表になった。それでも選抜とかを勝ち抜いて国家代表になったんだけどね。

そしてISが登場して暫くすると束さんは姿を消した。

そりゃもう大ニュースなんてレベルじゃないぐらいに世界中が大騒ぎ。それはそうだ。開発者が居なくなるとか訳わかんないもん。

でも何故だか我が家には頻繁に来てたけど。

しかもいきなり何もない所から現れるから最初の内はかなりびっくりしてた。あれは間違いなく心臓に悪い。

それはそうと束さんのお兄ちゃんを見る目が完全に女の目だ。狙ってる目だ。

 

 

 

 

そして千冬姉が国家代表になってから第一回モンド・グロッソが開催された。

お兄ちゃんと私は学校の都合と仕事の都合で行けなかったりしたけれど、録画をして暫くの間はずーっとお兄ちゃんは見ていた。

 

その顔には、これが俺の妹だぞ!誰よりも、世界で一番の妹だぞ!って顔をしていた。その時はちょっと、むっ……としたけどそれが何なのかよく分からなかった。

 

千冬姉は決勝戦まで快進撃を続けた。

そして決勝戦。千冬姉は勝った。

 

そう、優勝したのだ。

 

そしてインタビューで、あの何時も感情を外に出さない千冬姉がまさかあんな顔をするなんて思っても居なかった。

 

とても嬉しそうにしながらお兄ちゃんの事を話した。

 

最後には満面の笑みで、とびっきりの笑顔でテレビを見ているお兄ちゃんに贈った言葉。

 

「私の兄は世界一です」

 

そう言って笑っていた。

お兄ちゃんはそれを聞いて、見て、感動のあまり泣いてたけど。

小さい私はズルいな、と思ったけど何も言わなかった。

 

 

 

それからは学校も、友人関係も絶好調だった。

鈴って言う最高の友人は出来たし、悪友の弾と数馬も居た。この二人はまぁやんちゃ坊主って感じだった。

私と鈴、そして弾と数馬の四人で色々とやったなぁ。

お兄ちゃんの事もあの三人は知ってるし、何度か一緒に怒られたこともある。

あの時は普通にお兄ちゃんが怖かったよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二回モンド・グロッソ。

 

 

 

私はお兄ちゃんと一緒に千冬姉に招待されて観戦に行った。ドイツまで。

最初ははしゃいでた。日本とは違う空気、街並み、人、食べ物。

 

何もかもが新鮮で、始めてみる物、初めて知る事ばかり。

千冬姉の試合も間近で見られて本当に楽しかった。

 

 

 

でも最後までそうならなかった。

私は、簡単に言えば誘拐された。されてしまった。

あの時の事はよく覚えていない。気が付いたら既に誘拐された後だった。

怖かった。何も出来ない。お兄ちゃんはいない。

今考えるとなんで私が狙われたのかは何となくだけど分かる。多分、私が子供だから。お兄ちゃんを狙うよりは遥かに簡単に狙えるし攫う事が出来るから。

何処に連れていかれるのかも分からず、何が目的なのかも分からない。

到着した場所もよく分からない所で、何処かの部屋に私は連れていかれた。

多分だけど廃工場か何かだと思う。

 

 

怖くて、不安で。

でも一番に考えたのはお兄ちゃんにもう二度と会えなくなるんだって事。

千冬姉に会えなくなるんだって事。

お爺ちゃんにもう会えなくなるって事。

 

まだ、私はお兄ちゃんと千冬姉から貰ってばかり。お爺ちゃんに可愛がって貰ってばかり。皆に何も返せていない。何時も私の傍に居てくれたお兄ちゃんに、なんにも恩返しが出来ていない。

それがとても悔しかった。悲しかった。

 

このまま殺されてしまうんじゃないかって思った。

でもお兄ちゃんは助けに来てくれた。たった一人で。

 

 

いきなり私が入って来た扉が開いた。犯人が私を殺しに来たのかと思ったけど、そっちを向いたらお兄ちゃんが居た。

私を見てお兄ちゃんは駆け寄って縄を解いて、思いっきり抱きしめてくれた。

 

「あぁ……!良かった!無事で……何処か怪我はあるか?気分は?」

 

もう、そんなに心配しなくても大丈夫だよって言うぐらい心配をしてくるから逆にこっちが心配になっちゃった。

その後、お兄ちゃんは謝っていた。

 

俺がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかった、って。

ごめんな。怖い思いをさせたな。って

 

そんな事はないのに、お兄ちゃんは……

 

 

 

 

 

その後にした事は不安で、震えている私に寄り添う事だった。

 

 

「大丈夫。兄ちゃんがついてるから。絶対に助かる。一夏の事は何があっても助けるから」

 

何時もよりずっと優しい声で、そう言った。

そして私は聞いた。なんで私は誘拐されたのって。

お兄ちゃんは言った。

 

「千冬の足を引っ張る為だろうなぁ……多分だけど、千冬が優勝することを何としてでも阻止したい奴らは沢山居るからな」

 

犯人は誰か分かるの?

 

「いや、正直な所心当たりが多すぎて分からんね。何処かの国の仕業かもしれないし、個人のせいかもしれないし、会社とかみたいな組織の可能性もある」

 

どうやってここから出るの?

 

「さぁなぁ……でも少なくとも可愛い妹に手を出したんだ。俺の妹の邪魔をしようとしたんだ。唯で済むと思うなよ……」

 

そう言ったお兄ちゃんの声は、顔は、今まで見たことが無い物だった。

あんなに怖い顔をしたお兄ちゃん。初めてだった。怒った時はあるけれど、それでも優しさがあった。でもあの時は純粋な怒りと殺意だったと思う。その雰囲気を私は知らなかったから、思うとしか言えないけど。

 

「一夏、悪いが此処から自力で脱出する。何とかしてついてきて欲しい。行けるか?」

 

そう聞いてくるお兄ちゃんに私は強く頷いた。

 

「よし。そんじゃぁ行くか」

 

それからはもう凄かった。

お兄ちゃんは普通に銃を持っている相手に普通に素手で勝ってるし、ナイフを向けられようが何だろうがお構いなしに倒していった

お兄ちゃんが強いことは知っていたけど此処まで強いなんて知らなかった。

いつものお兄ちゃんとは違って、あんな状況だけど凄くかっこいいって思っちゃった。

でも、そんなお兄ちゃんも少しずつ傷付いていった。

それでもお兄ちゃんは私を助けるために立ち続けた。

 

今考えれば普通は警察とかが解決するのを待つんだろうけど、ほら、お兄ちゃんは家族の事になると普通じゃなくなるから……

そんなところが最高なんだけど。

 

 

 

 

それからは外に脱出して、暫くお兄ちゃんに抱きかかえられながら移動すると千冬姉と合流した。

ISを、千冬姉専用機である暮桜を纏って。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「いやぁ……悪いね千冬……流石に疲れちまったぜ……」

 

「何を言ってるんだ兄さん……こんなにボロボロになって……」

 

「それで……決勝はどうだった……?」

 

「勝ったに決まっているだろう?私は兄さんの妹だぞ?」

 

「千冬姉、態々助けに来てくれたの?」

 

「当たり前だろう。自分の妹が攫われたんだぞ?まぁ、試合が終わってからこの事を報告されてすっ飛んできたんだ」

 

「え!?お兄ちゃん本当に1人で来たの!?」

 

「おう……?まぁなぁ……いてもたってもいられなくてね……」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

それからは合流した千冬姉と一緒に帰った。

その後は本当に忙しかった。

 

千冬姉は表彰式に参加しないで飛び出して来たものだから記者達に質問攻めにされて、私とお兄ちゃんは警察とかに事情聴取。

 

なんとか終わって日本に帰るとそこからまたマスコミとかから質問攻め。

 

千冬姉は現役を引退して世界中を騒がせた。

我が家にも毎日のようにマスコミが押し寄せて来るし、お兄ちゃんは仕事に行くのも一苦労。私も学校に行くのが暫く大変だった。

 

 

あぁ、あと千冬姉がドイツに行ったりもした。

私を助ける時に情報提供とかを受けたり色々と借りが出来たから一年間軍隊に教官として行く事になったらしい。

 

 

 

そしてお兄ちゃんと私は家で今までと変わらずに過ごした。

 

 

それから落ち着いてから考えたけど、お兄ちゃんって物凄く危ない事をしたんじゃ?となった。

 

いやだって、銃で武装している相手、しかも沢山いるんだよ?それに素手で、とかハリウッド映画もびっくり。

せめて千冬姉と一緒なら分かるけど……

それを本当にただただ妹の為だけにそんなことできるなんてとんでもない。

 

少し気になって聞いてみたら、

 

「あぁ、ま、可愛い可愛い妹の為なら何でも出来ちゃうのが俺っていう兄貴なんだよ。それによ、家族の為に命を懸けられる。それは普通の事だと俺は思う。千冬の助けは、まぁ正直な所、あればもっと楽だっただろうし安全に事を進められただろうよ。でもまぁ、あいつにはあいつのやらなきゃならない事があった。なら俺が体張って、命掛けりゃいいだけの話なんだよ」

 

あまり長くは言わなかったけど、その言葉には私の事を、千冬姉の事を本当に大切に思っていてくれていることが直ぐに分かるぐらいの想いが込められていたのは簡単に分かった。

 

普段の生活からも簡単に想像出来るように、お兄ちゃんは私達の事を一番に考えてくれている。自分の事よりも、自分の趣味、生活よりも。何よりも私達が一番。

 

何時も笑っているし、仕事で疲れていても必ずご飯を作ってくれて、遊びに連れて行ってくれる。

 

私が料理を始めた理由は、疲れて帰って来てご飯を作るお兄ちゃんの負担を減らして少しでも楽をしてほしくてって言う物だったな。

 

最初は酷い物で焦がすなんて当たり前だった。

それでもお兄ちゃんは嬉しそうにありがとう。美味しいよって言って食べてくれた。

千冬姉も顔に出てたけど食べてくれた。

 

 

だからもっと美味しく作れるようになって、喜んで欲しいと思って。

そしたら美味しく作れるようになっていた。今は趣味でもあるし、お菓子も作ることもある。

 

 

そう考えると、私は本当に沢山の物をお兄ちゃんから貰っている。

 

剣道は教えてくれたのはお兄ちゃんじゃないけど習わせてくれたのはお兄ちゃん。

 

本人はそんな事を思っていないんだろうけど、生き方を教えてくれたのもお兄ちゃん。

 

優しさを教えてくれたのもお兄ちゃん。

 

 

こんなにも沢山の物を貰っている。

これは私にとって大きな誇りだ。人生で一番の誇りだ。

お兄ちゃんが居たからこそ今の私は存在している。

 

 

 

 

そうやって自分を知らず知らずのうちにお手本にされているなんて思っても居ないだろう。それどころか知ったら俺を参考にするなんて止めておけ、なんて言いそう。

 

 

 

だからこそ私は思う。

 

 

 

ーーーーーーー私のお兄ちゃんは世界一なんだ、って。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーでもそれを言う予定は今のところ無い。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー何故なら私はまだ胸を張ってお兄ちゃんの自慢の妹だぞ!って言えないから。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーお兄ちゃんはそんな事はないって言うだろうけど私はまだまだそうだとは思わない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーだからこの言葉は何時か胸を張って言えるその時が来るまで胸の奥に秘めておこう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーその言葉は----

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のお兄ちゃんは世界一!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




千冬のより短くなっちまった……
でもまぁね!一夏が可愛いから許してくれるよね!



一夏(おにゃのこ)
15歳

お兄ちゃん大好きっ子(お兄ちゃん愛してます)
今作では一夏君は一夏ちゃんに。
息子は遥か彼方へ、何処かの時空へ消えている!おっぱいおっきいよ!こんな妹が居たら作者間違いなくダイコーフン(タイーホ待ったなし)
料理は完璧、掃除洗濯もお手の物。
因みに中学生になってから告白される事が多くなってびっくり。

鈴ちゃんは

「この乳が!この乳がぁぁぁ!」

と恨んでます。
千冬よりも大胆にアピール中。それが実るのは何時になる?分からない!
千冬含めてライバル多め。
中学で告白されたときの断り文句は、

「私はお兄ちゃんの物だからごめんね」

完全に狙ってやった。後悔はしてないよ!
ついでに兄は中学で妹に手を出しているド変態という扱いに。
ウソだと知っているのは弾と数馬、鈴ちゃんだけ。
その三人も本気で兄の事を異性として好きなのは承知済み。

見た目は黒髪で、千冬みたいに癖があるけどフワフワサラサラ。
きょぬー。
優しい目つきで男子からの人気は天元突破。ついでにバベルの塔もけんぞうぁぁぁぁぁぁ!!!???(去勢拳!!)
誰からも慕われる天使。千冬が戦女神だとしたら一夏は慈愛の女神(意味不明)








一夏は可愛いんだよぉぉぉぉぉ!!!
ウへへへへへ……
おにゃのこ一夏可愛すぎて大変だぁ!
皆メロメロ一夏ちゃん!


イカれた作者の脳内です。


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人生って物は色んなことがあってこそ輝ける物になる。……俺の人生色々ありすぎじゃないですかね?

サブタイと本編の関係性があるのかないのかよく分からなくなってきたこの頃。
でもそれでいいのだ!だって一夏と千冬可愛いんだもん!
その内箒と束可愛い!も出て来るヨ!鼻血を出す準備は出来ているか!?



追伸
俺もこんな妹欲しかった……


早くも入学してから一か月が経とうとしていた。

もうそろそろ学年別クラス代表トーナメントなるものが開催される。

これが面倒なこと極まりない。

クラス代表な俺は一夏と共に必ずどちらかが出場なきゃいけない訳なんだが。

 

 

 

 

「お兄ちゃん!トーナメントに出てよ!」

 

「嫌だっつってんだろ!?」

 

「なんで!?皆からちやほやされるかもなんだよ!?」

 

「こんなおっさんを出場させるとかただのいじめじゃねぇか!?ちやほやのちの字もありゃしねぇ!」

 

「そんな事無いよ!だってお兄ちゃんじゃん!」

 

「何その信頼!?お兄ちゃんだからって何でも出来ないよ!?晒されるだけだよ!?」

 

妹からの謎過ぎる信頼が辛いですはい。

そもそもの事の発端は3日前。千冬の発言から始まった。

 

 

 

 

「そうだ、お前達どっちが代表トーナメントに出場するのか決まっているのか?」

 

「「……え?一夏(お兄ちゃん)じゃないの?」」

 

見事に聞かれたことに対してのハモリ。

いや、本当に何を聞かれているのか分からずそう答えてしまった。多分一夏も同じだったと思う。

 

「はぁ……その様子じゃ決まっていないようだな。3日後までに決めておいてくれ。決まらなかったらこっちで勝手に決めさせてもらうからな」

 

「え!?いやちょ……行っちまったぜおい」

 

いう事を言ってどっかに行ってしまう千冬。流石我が妹。去る姿も何故かかっこいい。

多分職員室に仕事しに行ったんだろうけど。

 

「……どうするお兄ちゃん?」

 

と言った感じで始まったこの問題。

最初はすぐに決まるだろうと思っていたのだが全然そうならない。

 

片やお兄ちゃんを自慢したい妹。

 

片や年寄りを労ってくれと兄。

 

そんなんで何時まで経っても決まらない。ずっと平行線を行く為に言われた三日後はあっさりと今日になってしまった。

いや、本心は他にあるんだけどさ。

 

俺と一夏の激しい攻防は続き、埒が明かない。

一緒に居る箒は手に負えんと言わんばかりにただニコニコと見てるだけ。

俺の事を助けて欲しいなぁ!?

クラスの皆はまぁーたやってると慣れてしまった。

 

「なんでやりたくないの!?」

 

「え!?お前俺の話聞いてた!?」

 

「聞いてたよ!でもなんでやりたくないの!?」

 

「ぜってぇ聞いてなかっただろ!?」

 

「聞いてたもん!」

 

と、こんな感じで話がずれることもしょっちゅう。

 

「二人共、話がまたずれたぞ」

 

その度に箒が元に戻す。

それをこの三日間ずっと繰り返している。

 

「お兄ちゃんのヘタレ!」

 

「へ、へへへ、ヘタレちゃうわ!」

 

「このヘタレ!だから出場出来ないんだよ!」

 

「関係ねぇだろぉ!?もう俺の心を抉るのは止めてくれませんかねぇ!?」

 

「佐々木さんってヘタレなんだ……」

 

「ねー。なんか色々と凄いかと思った」

 

「おいそこぉ!」

 

妹の言葉により女子高生にヘタレ認定されて、心を抉られ。

つーかなんでこの妹は俺をヘタレだと断定してんの?そんな事無いから!……そんな事無いんだからぁ!?

 

 

 

 

「俺はもう駄目だぁ……あとは一夏に任せるぜ……ゴフッ……」

 

「お兄ちゃん、トマトジュース吐き出してもダメだから。絶対に出場してもらうから」

 

「ちくしょーーーー!!!!」

 

無茶だと分かっていながら芝居で何とか許してもらおうとしても普通に容赦なくぶった切られ。

 

 

 

 

とうとう本当に締め切り間近。

あと一時間で決めなければ本気で千冬の手によってランダムで決められてしまう。

 

「お兄ちゃん、本当にどうするの?このままじゃ決まらないよ?」

 

「何平然と言ってんの。代表候補生の一夏がやればいいでしょ」

 

「やだ」

 

「嫌だってなんでよ?俺よりはISの操縦に慣れてるだろ。勝ち確じゃねぇか」

 

「それは別問題なの。皆私よりお兄ちゃんが強いって疑ってるんだもん。千冬姉が強いって言ったからある程度は信じてくれてるけど」

 

「だからって何の関係があるんだ?」

 

「お兄ちゃんが馬鹿にされてるみたいで嫌だ。ムカつく。だからお兄ちゃんが出場して強いって事を証明すれば……って考えたの」

 

「でもよぅ……俺ISに乗ったのなんて起動させた時だけだぜ?しかも生身とじゃ大違いだろうよ」

 

「でも、それを証明出来ればお兄ちゃんの事が嫌いな奴らも下手に手を出そうってならなくなると思う。……あいつらは別として」

 

ま、こいつなりに俺の事を色々と考えてくれているんだろうがなぁ……

 

「正直な事を言わせてもらうとキツイ」

 

俺の声がおふざけではなくちゃんとしたものに変わったのを察すると一夏もちゃんと聞く姿勢になった。

此処まで妹に言われて、と思うかもしれないがそれにはちゃんとした理由がある。

それを取り敢えず説明させてもらおう。

 

「まず俺がおっさんだという事。いや待って待って!別にふざけてる訳じゃないから!これもちゃんとした理由だから!」

 

家の妹達は何故怒る時に目があんなにも怖くなるんだろう?

普通におっかない。

 

「はぁ……ふざけてるのかと思うような事を言うのは止めてよ」

 

「んな事分かってるよ。そんなに俺を信用できない?」

 

「うん」

 

「即答かよこん畜生!」

 

俺ってば信用本当にねぇな!そこまでの事をした覚えは無いぞ!?

……いやあるわ。山ほどありすぎて困るぐらいあるわ。

じゃねぇってば!

 

「ま、いいや。そんで、理由の一つだけど俺がおっさんだって事。単純な意味で体力、気力共に確実に劣ってる。長期戦になった場合は間違いなくこっちが負ける。短期決戦となれば勝機はあるだろうが……あ、それとは別の理由もちゃんとあるぞ?」

 

そう。何を隠そう私35歳です。そんなおっさんが女子高生の闘争に放り込まれて一緒になって暴れまわれると思います?

少なくとも俺は思わないしやりたくもない。だっておっかねぇんだもん。

筋トレとランニング、師範に習った事は毎日欠かさずやっているがそれでも体力の低下は否めない。

 

「別の理由って何?」

 

「さっき一夏は俺が出場すればー、なんて言ったけどな、あれはあくまで勝てた時の場合のみだ。これが負けた時の場合を考えてみ?俺が馬鹿にされるぐらいだったらいいけど最悪の場合、直接的な手段に出て来る輩も少なからず居るだろうよ。これが一夏と千冬に危害が及ぶってんなら話も変わって来る。千冬なら返り討ちにしてアジトまで乗り込んでいって殲滅しそうだけどな」

 

そう。

俺が、もし負けたとしたら?

これは勝った時よりも重要で確実に面倒事が絡んでくる。

どうせ勝っても俺の事が目障りな連中は難癖付けて来るだろうよ。

そこで一夏と千冬が出てくれば、兄のくせに妹に守って貰っている情けないクズ野郎とでも言われるんだろうさ。この今の世の中は世知辛いねぇ……

 

「ま、唯一のメリットが無いわけでもない」

 

「メリット?聞いてた感じ無さそうだけど……」

 

「ま、まだまだおこちゃまって事だーな。一夏は」

 

「む!そんな事無いよ!ほら!」

 

「おこちゃまとおっぱいは関係ねぇ!」

 

何故一夏と話すと毎回脱線するんだろうか?

俺が原因でしたね。すんません。

だから手で胸を持ち上げるの止めてください。(社会的に)死んでしまいます

 

「はぁはぁ……なんで話してるだけでこんなに疲れにゃならんのだ……」

 

「それはこっちの台詞だよお兄ちゃん……」

 

2人して余計な事に体力を使って疲労する。

こういう会話は我が家の伝統なのだ。

……知らず知らずの内に伝統になっちまってた。悪気はない。本当に気が付いたらなんだよ……百パー俺のおふざけが原因だけども。

 

「で、なんだっけ……あぁそうそうメリットの話だ。このメリットって言うのはな?まず俺の生身での戦闘力を知られないって事だ。これは出場するにしろしないにしろあるメリットだ。正直な所、ISでの戦闘力は俺はあんまし気にしていない。何故なら襲われるとしたら生身の時だから。堂々とIS纏って襲撃するなんざ自分の正体を明かしているようなもんだからな。それにそんな事が出来るってなると限られた組織でしか出来ない。国家ぐるみにしろそうでないにしろ簡単にバレちまうからな。街中で襲うなら間違いなく近接戦闘のプロになって来る。それか狙撃。狙撃でやられると手の打ちようが無いからどうしようもないが少なくとも素手での戦いとなったら負ける気がしないからな。でも考えてみろ。IS同士の戦いってのはステゴロ出来るか?殆どが銃火器を使うだろ。俺は使ったこともないし触ったこともない。刀なら一応使えるが、ブレオンは千冬だけで十分だろ」

 

長々と理由を説明すると一夏は難しい顔で悩む。

別に面倒だから出場したくなくて妹に押し付けようとかではない。断じて違う……と思う……

 

「確かにそうだけど……うーん……」

 

「それに、相手として出て来るのは間違いなく専用機持ちだろうよ。俺が勝てる見込みはあると思うか?」

 

「あるとは思うよ?でも、操縦時間とかを考えるとなぁ……結構厳しいかも」

 

「だろ?だったら完全に俺の実力を隠せる出場しないって選択の方が圧倒的に安全なんだよ。よしんば勝てたとしてもどうせズルをしたとか汚い手を使ったって言われるのが落ちだろうからな」

 

完全に消極的な考えだが少なくとも負けた時のデメリットを考えれば戦わないと言う方を取った方が安全かつ確実。

 

「ま、博打って事で俺が勝つってのに賭けるのもアリだ。そっちの方が今後色々とやりやすいのは確かだしな」

 

ここまで言って一夏は悩む。

こいつは頭が良いから色々と悩んでいるのだろう。

出ても構わないのだがさっきから言っている通り、リスクがデカい。出なくてもなんだが出て負けた時の事を考えれば……って事だ。

 

「想定されるのはほぼ確実に専用機持ちが出張ってくる事。それを前提条件として考えるとやっぱしキツイってのが本音だな。まぁやりようによってはいけなくもないけど」

 

一応そう言っておく。一夏が俺を出場させるか、それとも自分が出場するのかを選択出来るように。まぁでもキツイって言っている時点で答えを押し付けているようなもんだが、こいつはそんなことを考えずに答えを出す。間違いなく。15年間一夏の兄貴やってんだ、それぐらい分かる。

 

「………………お兄ちゃん、もし今私が出て欲しいって言ったらどうする……?」

 

「んぁ?んー……そうだな、ま、出るだろうな」

 

「なんで?」

 

「そりゃ妹に此処まで言われてんだ。此処で断ったら兄貴なんて笑える」

 

「それで……もし負けたら?」

 

この言い方からして俺が負ける訳が無いとか思っているんだろうなぁ……この妹は何故俺が勝てると確信しているのか分からんがまぁいいや。

 

「ハッ!出場するには負ける訳ねぇだろうが。そも、俺が負けて妹に恥をかかせられるかよ」

 

言い切ってやる。

なんせ俺はこの二人の兄貴なのだ。二人が勝てると言ったら俺は勝てるし負けると言っても勝ってしまうスーパーマンなのだ。

 

「そっか……よし!じゃぁ今回はお兄ちゃんに任せてもいいかな?」

 

結局俺になるんかい。

……ま、これも人生の山あり谷ありの一つって事か。

 

「おう。任せとけ。お前の兄貴が大活躍するところをしっかり見とけよ?」

 

「うん!」

 

という事で長きに渡る(3日)戦いは幕を閉じたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「そういや一夏」

 

「なーに?お兄ちゃん」

 

「なんで俺の事を無駄に信頼してんの?」

 

「何意味の分からないこと言ってるの?」

 

「そのまんまの意味」

 

「……まぁどうしてその考えが出てきたのか分からないけど、信頼してるのはお兄ちゃんだから。これだけで無条件に信頼できちゃうの。それにお兄ちゃんは、あの時たった一人で私の事を助けに来てくれたでしょ?」

 

「だからってよぉ……」

 

「いいの!お兄ちゃんだからなの!はいこれで納得して!」

 

「釈然としねぇけどまぁいいか」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あ、それと知らないだろうから言っておくけど私もブレオンだからね?」

 

「え!?お前マジで言ってんの!?」

 

「本当だよ」

 

「マジカヨ……ここにもブレードオーガが居やがった……」

 

「千冬姉に教えておくね。お兄ちゃんが私達の事をブレードオーガって言ってたって」

 

「すみませんでしたお願いします止めてください死んでしまいます」

 

「ふふ……だぁめ」

 

「ウワァァァァ!!!」

 

突然の一夏ブレオン発覚に驚いて口を滑らせた挙句千冬にも報告されてしっかりと拗ねられてご機嫌を取るのにまた一苦労した。

妹心は難しいよ……

 

 

 

 

 

 

 




前書きでふざけているのにも関わらず本文はしっかりシリアスしていくとかいう訳の分からなさ。
しかもちゃっかりおふざけも入っていやがるもんだから質が悪い。

自覚はしているとも!反省はしていないがな!



一夏ちゃんがお兄ちゃんをヘタレ断定しているのは度重なる自分だけではないアピールを受けても一切そういう事が起きないから。


因みに作者はウェルカムよ!(もう逮捕されろよ)


あと今回結構グダグダと言うかこう、纏まってない感すっごいし、しかも短い……
けどこれが安定の独イモ納豆クオリティーって事で。


次回は今回結構シリアス?だったのに速攻でおふざけギャグに戻るとかいう高低差の激しい制作になっております。
お気を付けください。
作者は一切自重しませんので悪しからず。




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災難(知り合い)は突然やって来る。

鈴ちゃんかわいーーー!!!
思いっ切り可愛がって恥ずかしがらせた後に怒られたい。




あと、前話と被るけどやってみたいネタ。

読者達!!鼻血の貯蔵は十分か!?



因みに今回は鼻血出るかどうかしりません。
どこぞの紳士淑女(ロリコン)は出るかも。








そういや皆さんこの作品行き当たりばったりって知ってます?
一応書こうかな、って話は一話書き終わる毎に考えてますけど。



こんちわ、おじさんでござる。

入学してから早いもので、既に二週間。クラス代表トーナメントもこれからあるし結構忙しい。

あ、因みに俺は訓練機で出場することになりました。うん、ドギツイです。毎日のようにISに乗っては慣れる為の訓練の繰り返し。

 

慣れてきたと言えば慣れてきているし普通に操縦できる。ただ、問題が一つ。

俺、武器なに使えばええの……?

 

いや、結構真面目に悩んでるんだって。射撃なんかやったことないから当たらないし、刀は使えるけどブレオンなんて御免だ。

そう考えると一番得意なステゴロになるわけだが機体がそういう戦い方を想定していないからやるとなると結構厳しい。確実に自身へのダメージが出て来る。

 

そんな感じで毎日戦い方の模索中。

そうして日々を送って、今日も今日とて朝から授業があるもんだから教室に向かうと何処か騒がしい。いや、いっつも騒がしいんだけど今日はマシマシぐらいで騒がしい。

なんかあったのか?

あ、因みに今日は一夏を置いてきました。珍しく寝坊したもんだから先に行っててくれって事で飯も済ませて先に来ちまいました。

 

「あ、佐々木さんだー。おはよーございまーす」

 

「おはようお嬢さん方。ところで騒がしいけどなんかあった?」

 

「えーとですね!なんと二組に転校生が来るらしいのです!しかも専用機持ち!」

 

「なにそれ何処情報?」

 

と聞こうとした瞬間に教室のドアが思いっきり開いた。

あれって自動だよな……?壊したら千冬に怒られるっていうのに度胸のあるやつだな……おじさんはそんなことおっかなくて出来ません。

 

「このクラスに織斑一夏と佐々木洋介って人いる!?」

 

ん?どっかで聞いたことのある声。こんな子供みたいな声なんてしてるやつ居たっけか?そんなん知り合いに居るはずが…………いや、居たわ。一人ちっこい奴居たわ。小学生みたいなのが居るわ。正確には一夏の友人だけど。

 

「おう、どうした鈴そんなでっかい声出して」

 

「あ!居た!洋介さん!」

 

「はい洋介です」

 

お?これはこれは、まさかうそだろおい……

 

「鈴……身長全く伸びなかったのか……」

 

「なぁ!?そんな事無いわよ!二ミリ伸びたわよ!」

 

「フッ……二ミリ……」

 

全く持って成長が感じられない奴だなおい。

しかも二ミリ身長伸びたぐらいで喜ぶとか、一年間で二ミリとか絶望的やんけ。これはもう一生そのまんまかなぁ?

 

「うにゃぁぁ!!」

 

「おっと、まだまだお前さんには負けはしないぜ」

 

俺が頭の中でからかっているのが分かったのか飛び掛かって来るちびっ子。

しかぁし!そもそものリーチで負けているのだから俺に届くよりも先に手で頭を掴めてしまう。つかその声猫かよ。

 

「なぁぁぁぁ!!??離しなさいよぉぉぉ!!」

 

「そりゃ無理ってもんだぜ鈴。自分に飛び掛かって来る爪丸出しの猫を何故態々自分の懐に招き入れなきゃならんのだ」

 

「それもそうね……ちょっと待って。爪丸出しの猫ってもしかして私の事?」

 

「鈴以外に誰が居る?」

 

「このぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ヘイヘイヘイヘイ!!!おじさんに勝とうなんて百億万年早いぜ!ヘイヘイヘイヘイ!」

 

御自慢のツインテールを逆立たせながらフシャー!とでも言いそうな勢いで突っ込んでくる猫(馬鹿)を片手で押さえながら煽る。

 

「フシャー!!」

 

いや、今言ったわ。こいつマジで猫やんけ。

こいつ煽れば煽るほどいい味出してくれるからついつい煽っちゃうのだ。

 

「お兄ちゃん、何やってるの?」

 

「お、一夏。こいつ何とかしてくれ。いきなり飛び掛かって来やがった」

 

「あ!鈴だ!またお兄ちゃんと喧嘩してるの?もー」

 

「にゃぁ!?ちょっと何すんのよ!?って一夏!?」

 

一夏に俺から引きはがされ鈴は文句を言おうとして一夏の方を向き、そして驚く。

しかしそのまま飛び掛かるかと思ったが鈴は少し止まって一夏を見た。主に胸を。

これは多分あれですね。飛び掛かって行きますね。

 

「あんた……また……デカくなった……?」

 

「え?何が?」

 

「…………この、この乳めぇぇぁぁぁぁ!!!」

 

「へっ!?」

 

叫んだと思ったらやっぱり一夏に向かって飛び掛かった。

しっかりとピンポイントで胸を狙って。

 

「ちょっ……鈴!?どうしたの急に!?」

 

「えぇいこのデカ乳がぁぁ!!どうしたの急に、じゃなーい!持たざる者の気持ちを知れぇぇ!!」

 

そう言う鈴は血涙を流す勢い。

そこまで恨むか。こいつなんか知らんけどホント面白れぇ。

 

「ひゃぁ!?ちょっと待って鈴!そんなにいきなり!」

 

「ちくしょぉぉぉ!!!」

 

「ひゃん!ちょ……鈴、そこだめ……んぅ……」

 

「はいそこまで!流石にそれ以上はアウトでっせ!」

 

一夏がお座敷向けではない声を出し始めたので強制中断。兄貴としても妹のそんな声は聴きたくねぇ。しょうがないから鈴を引きはがしす。

 

「グルルルル!!!」

 

「野生に戻っていやがる……檻にぶち込んどくか?」

 

牙(八重歯)丸出しで唸る。

 

「お、お兄ちゃん……」

 

「一夏は任せてください。洋介さんはそちらの、猫?人?をお願いします」

 

「おう。悪いな箒」

 

「いえ。ほら、行くぞ一夏」

 

「うん……」

 

って事で一夏は箒と一緒に自分の席へ行ってしまった。

そして俺に脇の下からがっちり掴まれながらもジタバタ暴れる猫、もとい鈴は未だに正気を失っている。

 

「おーい鈴、そろそろ元に戻れー」

 

声を掛けても全く戻る気配が無いから面倒になって前後に揺さぶってみた。

 

「あ”ぅ”あ”ぅ”あ”ぅ”あ”ぅ”あ”ぅ”あ”ぅ”あ”ぅ”!!!???」

 

「これぐらいで大丈夫か?」

 

「………………きもち……わるうぅぃ……」

 

揺さぶるのを止めて顔を見てみるとそれはそれは真っ青な顔の鈴が。

うぇっぷうぇっぷ、としてる所を見るにこれは完全に吐きそうですな。

……うん!やり過ぎたぜチクショウ!!

 

「冗談じゃねぇぇぇ!!鈴!今トイレに連れてくからもう少し我慢しろぉぉぉぉ!!」

 

抱えてトイレに向けて走り出す。

 

「あぅ……むり……」

 

「我慢しろぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

今日も私達は元気です。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

その後は大人しくなった鈴をクラスまで送り届け自身もクラスに戻った。

吐いたのかって?そこらへんは紳士淑女として察していただきたい。乙女の尊厳の為にも。男子トイレか女子トイレかどっちに入ったのかとかも聞かないでくれ。鈴が正気を失わなければ良かった話な訳で。元凶は俺なんだけど。

 

 

そして午前の授業が終わり昼飯。

頭使うと腹が減る。これはどんな人間も同じらしく、教室の前で鈴が仁王立ちで待っていた。

 

「来たわね!お昼一緒に行くわよ!」

 

「はいはい。お前本当に元気だなおい。さっきあれだけぐったりしてたのによ」

 

「うっさいわね。いいでしょお腹すいたんだから」

 

「へーへー」

 

そんなこんなで四人で食堂へ向かう。

注目を集めるのは仕方が無い。こんなおっさんが美少女三人を連れて歩いてんだから。いや、周りからすれば侍らせてると言った方がいいのか?

いっちばんクソ野郎じゃないですかやだー!

 

 

 

 

 

 

「今日は何食べるのお兄ちゃん」

 

「そうだな……」

 

考えていると鈴が視界に入った。

……よし、今日は中華で行こう。ギョーザと炒飯、ラーメン食いたい。

晩飯はレバニラと青椒肉絲とかにしよう。結構高カロリーになるがまぁ操縦訓練をやったりするから大丈夫だろ(慢心)

 

「今日は昼晩と中華で行く。なんか食いたくなった」

 

「えぇ……絶対カロリー高いよそれ。それに脂っこいけど大丈夫?」

 

「多分大丈夫だろ。よっしゃ食うぞ」

 

一夏は心配してくるがまぁ、大丈夫なはず。

運動もするし、まぁ午後の授業を犠牲にしかねないが、そんときゃそん時。千冬に怒られるとしよう。

 

「先に行って席取って来るね。鈴とお兄ちゃんは時間掛かりそうだし」

 

「おう、あんがと」

 

一夏と箒は先に飯を受け取って席取りに行った。まぁ正直な話、この混み具合だと席を探すのも一苦労だからな。有難い。

すると唐突に服を引っ張られる。見てみると相変わらず身長の足りない鈴だった。そして鈴は俺を見上げて言う。

 

「ねぇ、中華料理の注文、絶対あたしを見て思ったわよね?」

 

「おう。悪いか?」

 

「別に?ただ気を付けなさいよ?あんま言いたくないけどもう歳なんだから」

 

「グハッ……!?おめぇ……それは言っちゃいけねぇよ……」

 

この娘、千冬や一夏よりも遥かに的確にえげつない言葉をサラッと言い放つのだ。おかげでおじさんの心はズタボロよ!

 

「どうだか。堪えてるようには見えないけど。けど今でも身体鍛えてるんでしょ?」

 

「まぁな。毎日の日課だ。今じゃやる事なんて限られてっからな。身体鍛えたりとかしか休みの日はやってねぇよ。家にも許可が下りてないから帰れねぇしな」

 

「でもって帰ってもやることは鍛える事でしょ?」

 

「よくお分かりで」

 

「伊達に四年間の付き合いじゃないわよ」

 

それもそうなのか?

それにしても初めて会った時とは大違いだ。片言で日本語を話していたころは今とは違ってオドオドしてて可愛かったんだが今じゃこんなんだ。

まぁこれもこれでいいけど。あと、時偶一夏とバチバチやっているが大体は一夏の胸のせい。それで行くと間違いなく箒の胸にも飛び掛かって行くだろう。

今はそうでもないけど教室の前で箒と出くわした時一瞬だけどスゲェ顔してた。ありゃ間違いなく飛び掛かるだろうな。

 

「ほら、料理が出て来たわよ。早くしないと後ろが詰まるわ」

 

「わーってるよ」

 

促されるがままに料理を受け取って一夏達を探す。

しかし本当に飯時になると食堂はごった返すな。少しは自炊したらどうなんだねお嬢さん方。まぁ俺もなんだけど。

 

「お、居た」

 

こっちに向かって手を振っている一夏。あいつ本当に高校生か?行動が幼く感じることがあるんだけど。

俺と鈴は二人が待つ席に向かい、そして座る。

 

「それじゃ食べよっか」

 

「「「「頂きます」」」」

 

「それにしても驚いたよー。何の連絡も無しにいきなり転校してくるなんて」

 

「まぁね。驚かそうって訳。って言いたいところなんだけどねぇ……」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「元々入学式にもちゃんと参加するはずだったのよ。なのに上の連中が直前になって私を入学させることを渋り始めたのよ。だからそれの説得とかで手間取ってたらこの時期になっちゃったって訳。しかも編入扱いにされたから試験も受け直し。堪ったもんじゃないわよ」

 

「へー。そうだったんだ」

 

2人は楽しそうに話す。

そこへ箒が俺に小さい声で聞いてきた。

 

「洋介兄さん、彼女は誰なんですか?」

 

「あぁ、そういや箒は知らないのか。あいつは鳳鈴音。箒が転校した後に中国から転入してきたんだよ」

 

「そうだったんですか。どうりで親しい訳ですね」

 

「どうしたよ、兄貴取られて焼き餅?」

 

「そうですよ?よく分かりましたね。普段は絶対に分からないだろうに」

 

「…………マジで?」

 

「マジですよ。私は洋介兄さんが大好きですから。他の女の子と仲良くしてるのを見ると焼き餅を焼いちゃうんです。だからちゃんと構ってくださいね?」

 

「……うっす。気を付けます」

 

「えぇ。ふふっ」

 

本当にこの箒は箒なんだろうか?こんなにお淑やかに笑うなんて……

しかも少し、いやかなり嬉しそうにしている。

人って何年も会ってないと変わるんだね。俺は皺って言う変化があったけど。

ははっ……悲しい。

 

「そうだ、私、二組の代表になったから」

 

「うぇ?マジで?」

 

なんか鈴が代表に代わっていたでござる。

いきなりすぎて変な声出ちまったぜ。

 

「本当よ。で、一夏が代表トーナメントに出るの?」

 

「え?違うよ?今回はお兄ちゃん」

 

「……うそ」

 

「ほんと。あ、これ美味しい」

 

「何それ勝てる訳……」

 

なんか一人で絶望してやがる。

そういやなんでまたクラス代表なんかになったんだ?

 

「なんでクラス代表になったの?」

 

「うちのクラス専用機持ちが居なかったから元々の代表の子に頼まれたのよ。専用機持ちが居るならそれに頼った方がいいって」

 

「あー、そういう事か。つか鈴、お前専用機持ってんのか」

 

「まぁね。向こうに戻ってから適性検査受けたらA判定で、給料も出るって事で代表候補生選抜課程に入ったの。ま、殆ど軍人みたいなもんなんだけどね。それからは死に物狂いで勉強したりしてたのよ。やるなら一番取らないとね」

 

「お前ってそう言うとこは偉いよなぁ」

 

「でしょ?」

 

「おう。ご褒美にギョーザ一個上げちゃう」

 

「やっすいわねー。ま、有難く貰っとくわ」

 

「お兄ちゃん、私にもちょーだい?」

 

「おう、言いながら持っていくのやめーや。まぁいいけどさ」

 

頑張ったご褒美にギョーザを上げる。しかしそれを見て機嫌を悪くした一夏に横から残っていた最後の一つを掻っ攫われた。

いいけどさぁ、口臭とか気にしねぇの?鈴は俺からあげといてだけど。

おじさん?おじさんは後でブレ〇ケアすっから良いの。ニンニク好きの味方。かどうかは知らん。人による。

 

「まぁでも、洋介さん相手だとかなりキツイかなー。今の所幾つかイメージしたりしてるけど全く勝てるイメージが湧かないし」

 

「買い被りすぎだっての。おじさんISに本格的に乗り始めてまだ浅いぜ?それがたったの一年半で代表候補生に上り詰めた様な鈴にこそおじさん勝て無さそうなんだけど」

 

「どうだか」

 

鈴がやたらと俺の事を強く思っているみたいだからそんな事は無いと否定すると肩を竦めて言った。

どうだか、はこっちの台詞だっての。

 

鈴は運動神経が良い。いや、運動神経もさることながら、何というか……そう、一番近い表現をするならば野生の勘。

 

俺や千冬は経験や特訓によって磨かれた物に対して鈴のは正に本能とでもいうべきものだ。経験を培っている相手も厄介だがこの本能で身体が動くタイプもかなり厄介なのだ。

しかも鈴はそこに数多くの経験も併せ持っていると思って間違いないだろう。

何故なら一年半程で代表候補生になってしまうほどの才能とそしてそれに甘える事のない努力。

 

これを考えれば鈴が強いのは間違いない。

そんな奴と戦わなきゃいけないとかおじさんには重すぎる気がするんだけど。

ま、決まっちまったもんは仕方ない。精々優勝してやるとしますか。

じゃねぇと殺される。

後々知ったのだがどうも優勝したクラスには食堂のスイーツ三か月分無料券が配布されるらしく。

 

ここの食堂の飯は美味い×そして同じ場所で提供されるスイーツも美味い×そしてここに居るほぼすべての人間は女子。=甘いものに目が無い。

 

という上記の方程式が成り立つ訳だ。

一夏も例に漏れず、何だったら箒も甘いものが好きな訳で。

一夏と箒に何としてでも優勝してスイーツ無料券を勝ち取って来て欲しいとお願いされてしまったわけだ。周りに居た嬢ちゃん方もうんうんと頷いていた。

そうなると可愛い妹二人からのお願いを叶えない訳には行かない。そうすると、

 

おじさん妹達にお願いされる×妹に弱い(自覚済み)×かっちょいい所を見せたい=頑張っちゃうぞぉ!!

 

となるわけだ。

うん、俺ってばホントに単純ね。単細胞と言ってくれても宜しくてよ!

 

 

 

 

あ、因みにおじさんは甘いものは普通です。別に食わなくてもいいと言う感じ。あんま食べるとほら、もう年だから……

 

 

 

 

 

まぁその後は特に何かあったわけではない。

あ、そういや鈴が時間ギリギリまでうちの教室に居ようとして千冬に声を掛けられてツインテールが妖怪レーダー宜しく逆立って居た事ぐらいだろうか?直後にスッゴイ速さで走り去っていった。相変わらず元気のいい奴である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そろそろあのお嬢ちゃんも助けた方がいいかもしれんな。

あんな事があったからしょうがないとは言え流石に酷い。助け船の一つや二つ、出した方がいいだろうな。

 

 

 

 






小さい身体に大きな心!でもおぱーいは小さいよ!
大きな胸には全力の攻撃(乳揉み)を食らわせる!

一夏のセカンド幼馴染。というよりは悪友その1の方が百パー表現は合ってる。
一夏がおにゃのこになっている為勿論恋愛感情は一夏には無い。

おじさんとはしょっちゅう一緒に遊んでいたし、なんなら一夏含め弾と数馬と共に怒られたりもした。
おじさんとの関係?それは後々……




最初の二千字以上を鈴ちゃんとのおふざけで終わるとかいう。真面目に書く気はあんのかこいつ。

まぁでも仕方ないよね!鈴ちゃん可愛いから仕方ないよね!





次回予告をするならばおじさんの人生相談炸裂です?






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おじさん、人生相談の巻(果たしてこれを人生相談と言っていいのだろうか)

時間が掛かった癖にクオリティは察して欲しいレベルの出来栄え。
今回思いっ切りシリアス回です。おふざけはありません。
そこんとこヨロシク。


それと内容ですが好き嫌いが分かれると思われます。
御了承ください。


さて、どうやって接触していくかなんだがなぁ……

あの嬢ちゃん、完全に塞ぎ込んじまってるし。

 

あぁ、因みに俺が接触を図ろうとしてんのはセシリア・オルコット。

あの時、クラスメイト全員が居る前で盛大にやらかしてしまった為に、思いっきりハブられている。しかもその噂が学年全体に広まっちまってるもんだから地獄だろう。

 

まぁ、飯を食ってるときのあの背中を見ちまったら放ってはおけねぇなぁ。

千冬も態々俺に相談に来るぐらいには酷いし、そも、教師になって日が浅いこの学園の教師陣じゃ荷が重いと言うか……

 

別に先生方が使えないとかではない。こういった場合の対処法を知らない事、そしてそれを教えられる存在となるベテラン教師が居ない事を考えれば荷が重いと言っても仕方が無い。

 

学園自体が開校してから日が浅い事と、それに加えてISという専門分野そのものを学ぶ上で未だに発展途上であることも大きく関係しているだろう。その発展途上過ぎる故に教える側のマニュアルすら満足に完成しているわけでは無い。

ISそのものが未知と言っても良いことばかりで教えるための教科書なんて殆どあってないような物だ。

俺達に配られている教科書ももしかしたら普通に変わるかもだし。

 

しかも教師陣にも問題がある。いや、別に先生方の性格とかの事では無い。今のところ知っているのは千冬と山田先生しかいないが。

教師陣に問題がある、というのはその構成に問題があるという事だ。

元々この学園の教師は目指して教師になった訳では無く、千冬なんかがいい例だろう。元国家代表で現役引退後此処に来た。しかもその殆どが新任と言われてもいいような人達ばかりでベテランと言われる人間が一人も居ない事がデカすぎる。

 

俺自身も教師って訳じゃねぇからあんま言えないけど、それでも千冬と一夏をここまで何とか育ててきたのだから少なくとも経験はある。

 

……子育てだけど、無いよりはいいだろ。

 

それに千冬関係でまぁこう言った事の経験はある。

身内だったが今回もそれが通じるかどうかが心配だ。殆ど別物と考えても良いだろうなぁ……

 

 

 

 

 

それからどうしようか迷っていたが上手い手が見つからずしょうがないので行動に移すことにした。一応作戦もあるぞ。名付けて

 

「諦めて今は取り敢えずコンタクトを取るよ作戦(~その後はその時の自分に任せます)」

 

というもう如何にもオジサンらしさ溢れる思い切った作戦。天才軍師と褒めてくれてもいいぞ。おじさんが喜ぶだけだけど。

 

さてさて?今日の昼飯の時にでも会いに行くとしよう。確か食堂の方には来ていたはずだ。何度か見た事がある。

 

 

 

 

 

昼飯は一夏達に断りを入れてオルコットの所に向かう事にした。三人には、

 

「また女の子の事を落しに行くんだ」

 

なーんて揶揄われたが断じてそうではない。そもそも生まれてこの方ナンパとかの経験は無いんだぞ?一番近くにいたお前達がよく分かっているだろうに。

その後、三人は何故か少し笑って、

 

「人助けはお兄ちゃんの専売特許みたいなものだもん。納得だよ。ほら、早く行ってあげて」

 

なんて言ったが、理由を説明してないのに何故分かったし。

というか人助けとは限らないし。

妹達は何故か俺の考えとか思っている事が分かるらしい。

……本気でエスパーを疑っちまうぞ。

 

 

 

 

 

食堂でオルコットを探していると、結構端の奥の方で一人でモソモソ飯を食っているのを見つけた。

その背中は15、16歳の少女とは思えない物だった。

 

「お隣宜しいかな?お嬢さん」

 

「……!貴方は……」

 

「あれ、駄目だった?」

 

「……既にお座りになっているでしょう?……お好きになさって下さいな」

 

「そりゃ失礼。んじゃ頂きます」

 

そこからは互いに無言で飯を食っていた。

別に俺なんかは気にしないんだが、お隣さんはそりゃもう俺の事をチラチラ気にしているようで。

 

「……何故態々私の隣に来たのですか……?自分でも、あまり言いたくは無いのですが……その……」

 

「周りから避けられてるってか?」

 

「っ!!…………そうですわ……」

 

綺麗な顔してんのに今日までで随分と酷い顔になっちまったなぁ……

今も会話している間、暗い顔と小さい声で喋っている。

 

「……それに、私はあの時貴方に……」

 

「あぁ、あの時の事ね。それ、別に気にしちゃいねぇよ?」

 

「……え?」

 

「あのなぁ、別に俺が嬢ちゃんとどう関わろうと俺の自由だろうが。一々周りに流されたり指図されるほど馬鹿じゃねぇよ。それに暴言云々は自分よりも年下にあーだこーだ言われて気にしてたら生きていけねぇよ。……千冬とか一夏に臭いとか言われたらめっちゃ凹むけど」

 

「そうですか……それでは私はこれで……」

 

「あぁ、ちょい待ち。少し話あっから隣に座って待ってろって」

 

「え?ですが私と一緒に居たら……」

 

この嬢ちゃん、この前はあんなんだったが根っこはめっちゃいい子なんじゃね?

態々俺の心配をしてどっかに行こうとする当たりそうなんだろう。

 

「だから、そんなこと気にしねぇって。いいから待ってろ」

 

「…………分かりましたわ」

 

あ、因みにこの食堂、今日は午後貸し切りとなっております。

千冬に聞いたらOKだって言って借りてくれた。

食堂のおばちゃん達、ご迷惑をお掛けします。

午後は丸々オルコットの事で時間を使うと決めている。

 

 

名付けて、「チキチキ!おじさんの人生相談!」

 

うん、何がチキチキなのか全く分からんけど細けぇこたぁいいんだよ。

さてさて、ゆっくりと時間稼ぎをするように飯を食う。

うん、今日も美味いね。

 

ちょっと横を見てみれば俺が気になるのか、それとも別に理由があるのか、こっちを小さくなりながらチラチラ見ながら大人しく座っている。

その顔は不安で仕方が無いって顔だなこりゃ。だから別に俺は気にしちゃいねぇって言ってるんだがなぁ……

 

そして食ってる時に聞こえてくる小さな声。

 

「ねぇ、あれ」

 

「なんで一緒に居るんだろ?」

 

「知らない」

 

あぁ、どうせ自分達が嫌っている奴が何で俺と一緒に居るのか不思議でしょうがねぇんだろう。……下らねぇな。

隣を見てみればやはりと言うか、肩を震わせて俯いている。

 

「やはり、私と一緒に居たら……」

 

そう言いながら立ち去ろうとする。

 

「だから、俺は気にしねぇから、そのまま座って待ってろ」

 

「ですが……これから貴方にも色々と迷惑が掛かって……」

 

「あのねぇ……迷惑云々ならこの学園にぶち込まれた時点で既に、って感じなの。女子高生から文句言われるぐらいどうって事ねぇよ。それに千冬に一夏、箒に鈴も居るし、あと名前を出せんけど頼りになる奴も居るし、意外と俺には頼れる人間が多いからな。だからとは言わんけど俺がどうこう、ってのは気にすんな。って事で座ってなさいよ」

 

取り敢えず説得して椅子に座らせる。殆ど無理矢理な感じがしなくもないけど座ってくれたから良しとしよう。

 

 

 

 

 

それからのんびりと飯を食う俺に、時計を見てソワソワし始めるオルコット。

俺が態々呑気に飯を食ってる理由?そりゃオルコットも周りに出来るだけ人間が居ない方が話しやすいだろうしな。

 

「あの、早くしないと授業に遅れて……」

 

「大丈夫だよ。その辺は問題無いから安心してコーヒーなりお茶なり飲んで待ってなさいって」

 

そう言うと言いたいことはあるのだろうが大人しくなった。

うん、今ので確信したわ。この子根子はホントに良い子なんだよ。

授業にもちゃんと参加しようとするし。今までも授業を欠席した所なんて見た事も無い。

あ、でも今回欠席させちまったのか。これは申し訳ないことをしたな。後でしっかりと謝っておかねば。

でも何があったのか知らんが女尊男卑思考になってたわけだ。

だけどあの件があってから改心したのかそうではなくなっている。

 

「さて、食器返してくるから逃げちゃだめだぜ?」

 

「此処まで来たのですから逃げも隠れもしません」

 

「そうかい。それじゃちょっとばかし待っててくれ」

 

食器を返して、オルコットの所へ戻る。

ついでに自分の分のお茶とオルコットの分の紅茶を持っていく。

イギリスがどうこう言ってたから多分紅茶で大丈夫なはず。パックだけど。

 

「ほい。お待たせしちゃって申し訳ないね。お詫びと言っちゃあれだけどこれどうぞ」

 

「あ……その、大丈夫ですわ。ありがとうございます」

 

「そんじゃ早速お話ししようか」

 

周りには誰も居らず、おばちゃん達が食器を洗ったり晩飯の分の仕込みをしている音ぐらいしかしない。そのおばちゃん達からは柱が丁度いい位置に立っている為双方共に見えない。この状況ならばある程度の声で話しても問題無かろう。

 

「その、お話すると言っても何を……?」

 

「ん?今までの会話で大体想像はついてるんじゃない?」

 

「……私の現状について、ですか」

 

「大当たり。おじさんはそれを改善する為にこうしてお話してるって訳だ」

 

「それは……何故、ですか?やはり私一人を助ける為にしては余りにもデメリットが大きすぎるのでは……?」

 

「ま、さっきから言ってるけど気にしてない。っつっても納得できてないんだろ?」

 

多分これだけじゃ納得してくれないし、これ以上理由を説明しても本当に納得してくれるかどうかは分からない。だが実際気にしていないってのは本当だ。

あんまり言いたくないが、世の中に出ればこれよりも遥かに酷い奴らばかり。正直な所俺が務めていた所にも女尊男卑思考の奴は少なからず居たがそう言うのは確実に会社を辞めていくか問題を起こしてクビになる。

というのもマジで女権団のコネだか何だか知らんがそう言うので入ってきたりするのだ。しかし大抵は使い物にならない。

 

だから俺はセシリア・オルコットと言う少女にそうなってほしくない。そうなれば一時は良いだろう。だがやって来るのは確実に破滅だ。

 

でもこの少女はそうではなかった。しっかりと自らの行いを反省し、こうして今の現状に至るという訳だ。だからこそ相談されたときも、人生経験はこの学園に居る人間の中では多い方という事で引き受けた。

 

 

そして納得できない、していないであろうオルコットは俺の問いに頷く。

 

「……えぇ」

 

「そうだな、理由を説明しろって言われてもな。ただ単に見ていられなかったから」

 

「何故ですか?」

 

「そうだなぁ……お前さん、普段自分がどんな目をして、どんな雰囲気出してるか知ってるか?」

 

「いえ」

 

「死んでた」

 

「え……」

 

「死んでるんだよ。目も、顔も、雰囲気も、何もかもが」

 

この一か月、ちょくちょく見ていたがその度にどんどん死んでいくのが分かった。

それでも俺が手を出さなかったのは教師達にもメンツがあり俺が下手に介入してしまうとそれを潰してしまう恐れがあるから。流石に何もしないんだったら自分から行く事を考えたが千冬と、山田先生が居る時点で何もしない、という事は有り得ない。だからこそ今の今まで何もしてこなかった。

 

つっても、聞く人間によっちゃ文句の一つを言いたくなるようなもんだとは俺も思っている。

 

「びっくりしたよ。オルコットの背中は、15、6の子供がしていいような背中じゃなかった」

 

「そうですか……そんなに……私もまだまだですわ。自分のせいで自分をこのような状況にしたのですから耐えようと決めていたのに……」

 

「そんだけ辛かったって事だろ。別によ、辛かったら辛いって言っていい。苦しかったら苦しいって言っていい。悲しかったら悲しいって言っていい。一人で抱え込むようなもんじゃねぇのよ?そう言うのは」

 

「ですが……私は……」

 

「そうだな。オルコットは日本人が居る場所で日本人を馬鹿にした。国を馬鹿にした。熱心な、とまではいかないにしろ少なからず自分の生まれ育った国をな。それにオルコットの立場は?代表候補生だろう?その言葉には責任がある。下手をすればイギリスそのものの意見として取られかねない」

 

確かにオルコットの言い放った言葉は本当に行くとこにまで連絡や報告が行ってしまえば国際問題になってしまう訳だ。

 

「……はい」

 

それを指摘されたオルコットは小さく頷いて返事をした。

 

「まぁこれに関しちゃしっかりと反省してるようだし俺から言う事は一つだけ。何時でもいいからしっかりと皆に謝っておくこと。いいかい?」

 

「はい」

 

「よし、それさえ分かってくれりゃ俺はオルコットの味方だ。色々とあったんだろうからそれを聞かせて欲しい。まぁ話したくないとか言われたらどうしようも無いんだけどさ」

 

「…………いえ、ここまで来たのですから全てお話させていただきます」

 

「あいよ。それならこっちもしっかりと聞かにゃならんな」

 

しっかり聞く姿勢を取る。

わざわざ時間を取らせて話してもらうんだ。

 

 

 

 

 

「まず私の家の事から説明致します。大元を辿ればそこに要因があるわけですから。私の家は所謂貴族と言う物です。そして母方の家系は代々王家にも仕えたりしているような名門貴族。対して父方はそうでもない辺境貴族のようなものでしたわ。母方は後継ぎとなる男児が居なかったことから母が家を継ぎました。その時既に御爺様が始めた各種事業も引き継いでオルコット家当主となりました。その後、跡取りが居ない事もあって父はオルコット家に婿入りという形で母と結婚しました」

 

「父は元々大貴族に婿入りしたと言う負い目もあったのか、ある時から卑屈になり始めました。それまでは母との関係も良好で、仲が良かった。でも卑屈になって行った……それからは母の顔色ばかり伺っておりました。私はそんな父が、嫌いだった。いえ、この時点ではまだ好きだった。そんな父でも、私に対しては優しかったですし周りから見ればいい父親だったのでしょう。事実、手を出される事も、八つ当たりなどされたことはありませんから」

 

「だからこそ私は疑問に思った。何故そこまで卑屈になって、母に媚びるのか。不思議で不思議でしょうがなかった。そして歳を重ねるごとにそれは疑問から嫌悪になって行った。そして世界中にISが発表されてからはより一層父は母に媚びるようになって行きました。周りの男達もそう。母に媚び諂って、街中ですらそうやって簡単に頭を下げてばかりいる男達ばかり。暫く前は随分と威張り散らしていたのにISが登場してから掌を簡単に返しているようなあの態度」

 

「私は……情けないと思った……誇りも無く、自信も無く、只管に母の顔色を窺っているばかりで、周りに馬鹿にされてもその態度を変えることが無い。ただ笑っているだけ。言い返すことも無く只々力なく、ヘラヘラと笑うだけだった。それなのに父は母と常に一緒に居た。母もそんな父を邪険にするでもなく、でも時折鬱陶しそうにしているだけだった。でも私はそんな事はどうでもよくなっていた。そう思うよりも少し前に父に言ったことがあるんです」

 

「どうして何時もそうなのですか?昔のお父様に戻って欲しい、って。でも父は何も言わずにただ力無く笑って私の頭を撫でて「ごめんね」と言うだけだった。それからは失望して、絶望しました。何故?何故?何故?ひたすらに疑問と共にこんな男なんて嫌いだと言う思いしか湧かなかった」

 

「それから暫くして、二人は亡くなりました。理由は欧州横断鉄道での脱線事故。二人共、即死だったそうです……原因は不明。一部ではテロの可能性もあるそうですが……それからは私の周りの環境が大きく変わり始めた。二人の残した遺産を狙って多くの人間が寄って来たのです。貴族、企業問わずに」

 

「そんなとき私は思ったのです。母の残した物を守らなければならないと。それからは只管に努力をしてきました。経営から始まってありとあらゆる事を学びましたわ。辛かったけれどこれで守ることが出来ると信じていたから。それからです。私にIS適性があると分かったのは。我武者羅に何でもやった。誰の手も借りずに。周りに味方なんて居るはずも無かった。居たのかもしれませんが少なくともその時の私は、そんな周りに味方を探す余裕なんて欠片も無かった」

 

「周りを見てみれば今まで私に子供だからと大きな態度を取っていた大人の貴族、人間ですら私に媚び諂う始末。そして何の力も持っていない、ただ女性と言うだけで大きな態度を取る人間。それを見て、心の底から情けないと思いました。だから私は誓った。私はその様な人間にはならない。そして少なくともそんな男性を伴侶としたくない」

 

「だからあの時、ヘラヘラしている貴方に苛立ちと、怒りを覚えて暴言を吐きました……そのまま勢いが止まらずに……この国と、人と、文化を馬鹿にして、差別発言までして……」

 

オルコットは話し続けた。

聞いているに中々にハードモードな人生を送って来ているらしい。

 

「それからあの時は織斑先生が納めてくれましたが……その後からは……」

 

「今みたいな状況って事か」

 

「……はい。最初の内は私も、謝罪をしよう、と思っていました。でも、拒絶されたら?罵倒されたら?そう考えると怖くて、何も出来なかった……その内に無視されるようになって、それからはずっと……」

 

そう言って下を向く。

やはり拳は握られていて目尻には涙が溜まっている。

大元の原因はオルコットとは言え、今の状況は幾ら何でもあんまりすぎる。だからこそこうして俺が話を聞いているんだけど。

 

「そっかぁ……辛かったか?」

 

「ッ……はい……」

 

「そっか。それなら別に我慢しなくてもいいんだぜ?」

 

「え……?」

 

「素直になった方がいいって。貴族として色々あるのは分かるけどさ、少なくとも今ここに居るのは俺だけだから。別に泣いてもおじさん、誰にも言ったりはしないから」

 

肩張って意地張ったりするのもいいけどおじさん、時には泣いたりするのも必要だと思うんだよね。だけどその点、オルコットは親を亡くしてからずっと張り詰めて生きてきたようなもんだろうし、この学園に入学してからは周りに味方が誰も居ないのだから尚更。そこに今回の件が入って来ていると来た。弱いところを見せられる人間が居なかったのだ。さっき色々と聞かせてくれたけどそんな感じだったし。

 

 

「はい……はい……!」

 

そんな事を思って口に出したら俺の顔を見て段々と泣き出し始めてしまった。

泣いていいよと言った張本人である俺もびっくりの泣きっぷり。色々溜め込んでたんだろう。昔、泣いている千冬や一夏にしていたように頭を撫でてやると余計に勢いが増して来た。

 

「ごめんなさい……!ごめんなさい……!」

 

「おう。謝んなくていいから好きなだけ泣け」

 

それ以上何も言わずに、ただ待っていた。

 

 

 

 

 

 

「グス……その、お見苦しい所を……」

 

「だから気にすんなって。さっきも言ったけど泣きたい時は素直に泣くのが一番」

 

「はい。その、ありがとうございます。とても軽くなりましたわ」

 

「おう。それと、大元の用件なんだけどそっちに関してはさっきも言った通りにクラスの面々にしっかりと謝っておくこと。そうすれば今よりは遥かに態度は柔らかくなるだろうし。もしそれでもなんかあるようだったら言ってくれ。またこんな感じで話聞くから。まぁでも心配しなくても大丈夫だと思うけどな。一夏と箒は間違いなく気にしてないだろうし鈴は「別に私日本人じゃないし」とか言いそうだしな」

 

「はい。分かりましたわ。それでは今日中にでも謝罪しますわ」

 

「そんじゃおじさんは見守り役に徹するとしますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば、疑問に思ってた事聞いてみるか。

 

「そういえばなんでご両親は一緒に居たの?あ、答えたくないんなら別にいいけど」

 

「いえ、別に構いませんわ。そうですわね……正直、全く分からないのです。本当に不思議なのですが、今思えば何故母は父と常に一緒に居たのか今でも分かりません……」

 

「そっか。まぁもし機会があったら遺品とか色々見てみるといいよ。新しい発見があるかもしんないし」

 

まぁ俺が言う事じゃないだろうけど多分スッゴイご両親に愛されていたんだと思う。

探せば手紙とか見つかりそうだし、聞いた感じ嫌いだったらお互いに近づいたりしなかっただろう。にも拘らず揃って傍に居続けた。なんか色々理由はあったんだろうけどそれを話す訳にはいかなかった。って感じがする。

 

「そう、ですわね……実家に帰ったらそうしてみますわ」

 

「ん」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「オルコット、今日は時間を取らせちまって申し訳ない」

 

「いいえ、お気になさらず。こうして私の悩みも何もかも打ち明ける事が出来てとても心が軽くなっていますもの。そうなれたのは小父様のお陰ですわ。それにとても有意義でしたもの。それとセシリアとお呼びくださいな」

 

「そうかい?なら良かったんだが、その小父様って呼び方止めてくんねぇかな?なんかむず痒いし、犯罪臭半端ねぇ。呼び方については分かった」

 

「そうですか?それならそうですわね……お兄様、とか?」

 

「お前は千冬達に喧嘩を売る気か?それとも俺を殺す気か?」

 

「ふふっ。こんな言葉を知っていまして?【Aⅼⅼ iS fair in love and war】、ですわ」

 

「……何?ごめん日本語でお願いしても?」

 

「駄目です。ご自分でお調べになってくださいな」

 

そうして俺と会話するセシリアの顔は少し恥ずかしそうに頬を赤らめていたが、とても生き生きと笑っていた。

うん、この方がいい。元が美人だから笑ってる方がやっぱりいいや。

 

でもよぅ……調べるにしても発音がネイティブ過ぎて全く聞き取れなかったからどうしようもねぇんだけど。英語話せる人、誰か助けて。

 

まぁでも、やっぱり美人は笑ってるのが一番だね。さっきまでとは大違いの顔付きだ。うんうん。めでたしめでたし。

 

 

その後、セシリアはしっかりと謝罪してクラスの面々もあっさりそれを受け入れた。元々謝ってくれれば別に気にしないと言う感じだったらしい。

こうして騒動は収まった。

 

 

 

かに思われたがその後、セシリアの俺に対する小父様呼びとかで一悶着あったのだが。

思い出したくないのでこれで終わりにすることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いやぁ、清々しいまでのシリアスでしたね(意味不明)

それはそうと、感想でもセシリア出ないのとか言われたりしてたんですけど、ちゃんとしっかり絡ませていく予定でした。ただ、どうやって絡ませていくのか、という問題が出てきまして……
初登場の時に試合参加って形にしとけば此処まで苦労することは無かったんですが……
しかも初登場から此処まで一切の絡み無しという、一番苦労する展開で来てしまったものだから余計に……

それからどうやって登場、接触と行くか思いっきり悩んでいました。
結果、今話のような形に落ち着いたわけです。
ただ、文章、内容共に滅茶苦茶になってしまった……
挙句の果てに内容が好き嫌いが分かれるかもしれないって言う……

本当に手に負えねぇな……


それでも読んでくださるのであれば幸いです。




あ、それと全く関係の無い話なんですがパソコンのネット回線が切れると言う謎現象が発生しました。下手すると今後しばらくもそのような状態が続くと思われます。

やったね!更新が遅くなるよ!

いや、別にふざけてる訳じゃないんです。ふざけてますけど。
取り敢えず一応ここに書いておきます。



それとセシリアの紹介は後日別で書きます。




書いてて思ったんですけどやっぱりセシリア、チョロイン過ぎない?
可愛いから許すけど。
これでなんで料理が出来ないんや……!





追記
アンケート取ります。多かった順に書いて行こうかなと思ってます。
あ、他にも書いて欲しいとかあったらどうぞ。



追記の追記
アンケートですが一週間目安にして行こうと思います。
投票数によっては早めに切り上げたり延長したりするかも。
誰だってロリな千冬達を見たいはず。
……見たいよね?

注※ロリとは限りません。(ロリコンホイホイ作りてぇなぁ)


追記の追記の追記
お主ら束さんの事好きすぎじゃない?
まだ3時間ぐらいしか経ってないのにこれって……
ま、まぁしょうがないよね!





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クラス代表トーナメント戦始まるよ!!(始まるとは言ってない)



おじさんが活躍する!……かもしれない。


 

 

 

 

はてさて今俺が居るのは学園の敷地の中に幾つか存在する巨大なアリーナ。

 

……の中にある選手待機用のピット。選手だけじゃなくてIS自体を訓練で使ったりする時に点検をしたりする為の場所でもあるんだなこれが。

中は俺が触ったら間違いなくぶっ壊しちゃいそうな難しそうな機械ばかり。コントロールパネルみたいなのやISを載せて格納庫にしまったり出したりする為の台車とレール、他にも色々とあるが今日は関係無いし使わないから割愛。

 

 

そんなおじさんが何でこんな所に居るのかと言うとクラスの代表として試合しなきゃいけねぇからなのよ。(分からない人はこれよりも前の話を読んでみてね!)

 

で、そんな俺はピットで入場してくださいね的な事を言われるのを待ってるわけだ。

専用機?何それ美味しいの?普通に訓練機ですが何か?

 

 

ハッ!こんぐらいどうって事ねぇよ!ハンデだハンデ!お嬢ちゃん相手に本気出すほど大人気無くないです!(震え声)

 

 

ウソつきました。ごめんなさいでもちょっと考えてみようぜ?

学年ごとにクラスは全部で四クラスある訳だ。一年生の俺達はその内の3クラスは国家代表候補生がクラス代表な訳だ。

んでもってこのトーナメントは最下位決定戦まで行うんだが、勝とうが負けようが必ず代表候補生と当たるわけですね。そもそも一回戦から代表候補生とか笑うしかねぇわ。

 

はい詰んでますね。

 

3組の子は専用機持ちじゃないとはいえ代表候補生なんだからもうね?うん、実力の差なんて丸わかりなんですわ。

 

明日の新聞の一面の見出しは「おじさん、女子高生に叩きのめされる」なんて感じだったりして。笑えねぇ冗談だなちくしょう!!

あの時は一夏に頼まれて出場したのはいいけどどう考えても荷が重すぎるッ!どうしてだ!?どうしてあの時首を縦に振ったんだ俺は!?

 

 

一応一夏と訓練はしたし付け焼刃よりも何割かマシ程度にセシリアに射撃も教えて貰ったがやっぱりステゴロが一番しっくりくるんだよなこれが。

そんでもって俺は一夏とセシリアの手を借りながら四苦八苦。

鈴は今回は敵って事で居なかった。本人曰く、

 

「洋介さんは確かに強いけど正々堂々戦いたいし。態々手の内を前もって知っておかなきゃ不安ってわけでも無いから。それに私だけ知ってるのは不公平でしょ。そしたら私の手の内も教えなきゃいけなくなるじゃない。そんなの面倒だもん」

 

なんて言っていたが大方最後の面倒って言葉が8割ぐらいな気がする。

 

 

 

 

 

俺が今回乗るのは打鉄。理由はこいつの方が頑丈そうだから。ラファールよりもステゴロで殴った時に壊れにくそうだし。うーむ、我ながら脳筋思考に驚きを隠せませんなぁ!

武装は今のところ射撃武器としてアサルトライフルを2挺、葵とかいう日本刀を同数。

貧弱ではあるが下手に積み込むよりはいいだろう。試合中に打てる手の数や策なんかは減るが武器の多さ故に混乱したり選択ミスをすることも無いだろうし。

 

撃つか斬るか。単純明快でよきかなよきかな。

 

それとは別に隠し玉を一つ持っているんだけどこれは後ほど。

 

 

 

 

 

そんなこんなで本日トーナメントを迎えました。

ふぅ、アリーナは何故だか満員御礼ってな訳でして。生徒のみならず各国、各企業、各研究所の視察団なんかも見に来てる。

確か三年生のスカウトがどうのこうのってのと1、2年生の出場選手の実力判定とかも兼ねているんだとか。

つっても代表候補生は例外だろうからどうせ目的は俺なんだろうなぁ……

 

 

俺の事をどうやって引き抜こうとか、実験材料にしようとか考えてんだろ。後はデータ収集って感じか?ついでに俺を取り込めば千冬と束との間接的なパイプもゲットできるとかそんな感じだろう。

俺としては何処にも行きたくないのでお引き取り願いたいんだがね。

 

 

 

 

そんな感じで今日までの事を考えながらピットで待機。今は鈴と4組の代表候補生が試合中でテレビでの中継を見ている感じなら鈴の勝ちで終わるだろう。

4組の子は確か日本代表候補生で専用機を持っているうちの一人だったな。まぁうちの一夏もなんですがね!

 

鈴はバリバリの機動格闘戦タイプ。相手の専用機は確か機動性能を重視してるらしい。

 

 

鈴は砲弾が見えない武器で弾をバラ蒔いたり威力が高そうな弾を撃ったり。あれって威力の調整できんのか。両手に持った剣で斬りかかったり。

かたや4組の子はミサイルを一度に何十発も撃ち出したり。薙刀みたいなので鈴を迎撃したり反転攻勢を仕掛けたり。

 

見ていて鈴の攻撃は実に多彩だ。砲撃、斬撃。それも色んな種類の方法でだ。それに少しづつだが相手が翻弄され始めている。鈴はそんな相手を更に翻弄する様に動き回りながら攻撃を仕掛けている。

ほー、鈴の奴昔よりも随分と動きが早いな。ISに乗っていると言うのもあるだろうが格段に良くなっている。4組の方も動きが良い。多分なんかやってたな。

正直な所おじさんが鈴の動きについて行けるか不安でしょうがねぇんだけど。

 

 

 

お、決着が着いたっぽいな。

鈴の勝ちか。正直どっちが勝ってもおかしくはなかったんだがな。

これで決勝にコマを進めたのは鈴って訳だな。

そしたらこれから俺の試合か。

 

 

まぁ、精々必死になって足掻くとするか。あわよくば一勝ぐらいはしてやろう。泥臭い?上等だ。俺にはかっこいい勝ち方なんて出来無いからな。

 

 

 

 

 

 

それから暫く。

アリーナの準備が終了した。やっぱり一夏に出場させりゃよかったかもな。でもちっとはかっこつけても怒られないだろ。

 

さぁて!いよいよおじさんの出番だ!

 

 

 

 

 

アナウンスの、と言っても山田先生がオペレーターみたいな事をしているらしく、その指示に従ってアリーナ内のフィールドへ向かって射出される。なにこれガ〇ダムかよ。

 

おじさん、いっきまーす!

 

違ったわ。あんなに強くねぇし相手はシ〇アじゃないし。機体は赤くないし。

ん?鈴の機体は赤っぽかったな……はっ!?これはもしかすると鈴はシャ〇でおじさんがア〇ロだった……?

 

 

すいませんふざけました許してください。

 

 

そしてアリーナに文字通り放り出されると眼に飛び込んできたのは満席の観客席。そしてその一部にあるVIP席に踏ん反り返っているクソ役人とマッドサイエンティスト共。あ、あの顔知ってるぞ。態々俺の所まで来て気色悪い笑みを浮かべながら是非生きたまま解剖させてくれ!!とか言って来た奴じゃないですか。

 

生徒、教師、来賓問わずに興味津々と言った顔で見て来る。そりゃまぁ世界で一人しかいないIS男性操縦者(絶滅危惧種)ですから?何かと注目を浴びるのは分かっている。しかも今回は公式戦、いや学園の中の試合だから公式戦になるのか?どちらにせよ公の場で試合を初めて行うと来たもんだから注目度は倍増なんてレベルじゃないんだろうなぁ。

 

データ収集も俺のデータなんか開示されていないだろうし。そもそも俺に無断で開示したらうちの妹達が黙っていないぜ!

 

そんな中で試合しないといけないとかもうね。察して。

 

 

 

あぁ……今更だけどおじさん今年で36歳なんだがなぁ。お家に帰りたいぜこんちくしょう……

 

 

 

辞世の句を今すぐにでも詠んでしまいそうなクソ雑魚豆腐メンタルおじさん(本日限りかもしんない)

 

そんなこと考えていてもしょうがない。目の前には相手の子が。名前は知らん!だっておじさんだもの!皆も同じクラスの人の名前は覚えるけど他のクラスの人の名前は余程親しい人間じゃないと覚えすらしない。まぁおじさんはクラスのメンツも結構うろ覚えで名前と顔が一致してなかったんだけどネ!え?そんな事ない?そっか……

 

おじさん鳥頭なのかな?俺は物覚えが悪いフレンズだったのか。だから千冬に怒られるのか(今更何を言ってるんだこいつは)

 

 

 

「佐々木さん、今日はお願いします」

 

「え?あぁ、お願いします?」

 

互いに挨拶を交わして、そして山田先生の指示によって位置に着く。

 

『二人共、準備はいいですか?』

 

「俺は大丈夫です」

 

『大丈夫です』

 

『分かりました。それでは試合を開始します』

 

そう言って山田先生との通信が切れる。

その後に流れてきたのはやたらとハイテンションな実況とそれに応じてハイテンションな観客の声だった。

 

〔っしゃぁぁぁ野郎共ぉぉぉぉぉ!!〕

 

「「「「「「わぁぁぁぁ!!!!!」」」」」」

 

〔世界でただ一人の男性操縦者の勇姿を見る準備は出来ているかぁぁぁぁ!?!?〕

 

「イエェェァァァ!!!」

 

「早く見せろォォォ!!」

 

「データ取らせろぉぉぉ!!!」

 

「是非生きたまま解剖をぉぉぉぉ!!!」

 

おい待てコラ!物騒な言葉が余裕で聞こえて来るんだけど!?解剖はさせねぇって言ってんだろ!?あ、摘まみ出された。つーかあの顔は絶対にやべぇ奴だ。恍惚とした表情ではぁはぁしてるとか。クソ、ハイパーセンサーで何てものを見てしまったんだ……!しかもなんでよりによって男なんだよ!?せめて綺麗なお姉さんにしてほしかッ!?

 

………………これ以上考えるのは止めとこう。とんでもねぇぐらいの悪寒が……

 

明日風邪ひくかも。

 

 

 

 

そんなおじさんの恐怖を知ってか知らずか。いや、絶対に知らねぇな。分かるわけがない。会場全体を煽りに煽りまくった実況が言い放った。

 

〔それじゃぁいくぞぉぉ!!試合開始5秒前ぇぇぇ!!〕

 

うおまじかよこんなに急に始まんのか!!

オジサン的にはカウントダウンしますぐらい言ってほしかったなぁ!

 

「「「「「「「「「4!!!」」」」」」」」」

 

大合唱でござる。

 

「「「「「「「「「3!!!」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「2!!!」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「1!!!」」」」」」」」

 

〔試合開始ィィィィ!!!!〕

 

その合図と共に一気に距離を詰める。

その瞬間に打鉄に元々装備されている装甲をパージ。

右手に葵を展開しながら相手に向かって思いっきりブースターを吹かす。今回使っている打鉄は装甲の数をパージすることによって代わりにブースターの数と腕部装甲を厚くしたものだ。

ラファール・リヴァイヴに比べれば機動力は低いがそれでも追い付けなくはないと言うぐらいには速度を上げる事が出来た。幸いな事に今回の相手は打鉄を使っているから機動力に関してはこっちが勝っている。

 

ブースターと腕部装甲に関しては元から取り付ける必要があったがそんなものは些細な事だ。まぁ取り付けをやってくれたのは一夏とセシリアなんだけどね!

 

と言っても腕部装甲は肘より先の部分にしか追加していないからとてつもなく不格好な打鉄になってしまっているがそこはしょうがない。かっこよさを求められるほど今の俺は強くはないし。

 

 

 

さて、なぜ手に葵を展開して突っ込んだのか?

理由は簡単だ。俺は端から葵を使う事とアサルトカノンを使う事をしないと決めているからだ。もしかしたら使うかもしれないがそうなった時はほぼ詰んでいる状況だろう。

そして単純に俺と相手の実力だと間違いなく射撃では圧倒的差があるから。当たり前だ。

そもそも一般社会で生きてきた俺にとって銃火器を触る機会なんてあるわけがない。あったとしたらヤバい。

ISの操縦技術ですら圧倒的差があるのにそこに態々戦い方や武器なんかで差を広げる必要はない。

 

だからこそ、篠ノ之道場で学んだ徒手格闘と我流の強すぎる刀を使うのだ。

と言っても刀の方は癖が強すぎてあんまし使いたくない。見る人間が見れば篠ノ之流が元になっている事は分かるだろうし。ただそんな贅沢は言えない。さっきも言ったが今の俺に実質的に使いこなせて実戦レベルとなると徒手格闘しかない訳だ。実戦レベルで使えると言うのは証明されている。一夏が誘拐された時に図らずとも。あくまで生身の人間に対してだが。それでもISは人間が搭乗して操縦している人型だ。だからこそ人間に出来ない動きは出来ない。それならば人間同士の戦いになるわけだから通用するだろう、と言ったわけなんだが如何せん予測の域を出ない。そもそもISでステゴロするとか誰も考えない。一夏とセシリアに話した時も、

 

「ちょっと何言ってるかわかんないですね」

 

みたいな顔されたし。

でも、だからこそそこに勝機はあると思う。誰も考えないような事をやらなければ勝てる可能性なんて無いのだ。

……千冬には通用しないだろうけど。

 

 

 

 

 

「突っ込んできた!?」

 

「こんにちはってなぁ!!」

 

思いっきりブースターを吹かしながら突っ込む。

代表候補生なら対応できそうなもんだがそこは素人が突っ込んできたことに驚いているんだろう。それでもしっかりと対応してくるあたりは流石だな。しかしそれでも反応は遅れてしまった。

 

 

俺は、そこに反応が遅れた相手に思いっ切り葵を振りかぶって斬りかかる……

 

 

ふりをした。

 

 

 

葵を振り下ろす瞬間に手を離してそのまま殴り掛かると見せかけて右足で蹴りを叩き込んだ勢いで左足で回し蹴りをお見舞いする。

想定していなかった攻撃に目を見開くお嬢ちゃん。でももうその時にはおじさんの攻撃を食らった後。

 

〔えぇぇぇ!?なにそれ今の攻撃何それ!?そんなんアリかよ!?〕

 

実況が何か騒いでいるが気にしない。

10メートルほど吹っ飛ばされた相手が体勢を立て直す前に追撃に掛かる。

 

自分の知ってる全ての方法で殴る。

 

自分の知ってる全ての方法で蹴る。

 

 

 

これを見た奴らはこう言うだろう。野蛮だと。そんな戦い方で恥ずかしくないのかと。

 

 

確かに優雅さもへったくれも無いのだろうが知った事か!野蛮だと?上等!これが俺の戦い方だ!

 

 

 

「ぐぅ!!」

 

相手は苦しそうな声を上げるがそれでも動きは止めない。止めた瞬間に俺の敗北が決定する。

 

しかしそこは代表候補生。片手に葵とはまた別の、ロングソード?と言われる物を展開して斬りかかってきた。

 

 

 

そうかそうかそうか!!態々それで俺と戦うか!一番の愚策で!

 

 

 

その瞬間に相手には申し訳ないが俺は勝ちを確信した。

 

 

 

さて、ここで篠ノ之流無手ノ型を少しばかり教えるとしよう。

まず編み出された経緯だが戦国時代よりも前、確か平安時代だったか?そのぐらいの頃は鉄砲なんてものは存在しなかった。火薬と言う物すら日本には無かった。そんな時代の戦いの主力となる武器とは何か。

 

誰もが思い描くであろう槍と刀、そして弓だ。弓は銃よりも遥かに射程は短いが遠距離戦の武器として十分に使える時代だ。

しかしハンドガンやアサルトライフルの様に乱戦になっても使える、という訳ではない。

 

その時代の近接戦闘は結構勘違いしている人が居るが、刀よりも槍の方が圧倒的に強かった。それもそうだ。弓よりははるかに攻撃できる距離は短いが刀よりも長い。

その槍を前面に並べて刺し合うと言うのが普通。

 

でも槍が折れたら?槍で攻撃することが難しいさらに近距離の戦いは?

この段階になって漸く刀の出番という訳だ。しかしその時点で既に敵味方ごちゃまぜの乱戦状態。当然刀が無ければ攻撃手段なんてあるわけがない。

 

刀を使って戦っていた。でも刀が使えなくなってしまった。

 

さてどうするのか。勿論落ちている刀を拾えば、なんて思うだろうが戦場と言う物はそんな時間や隙を与えてくれる程の優しさも何もない。ただ背中を見せれば、隙を見せれば殺される。それだけ。

 

そして編み出されたのがこの篠ノ之流無手ノ型という訳だ。

元々は篠ノ之流は道場剣術ではなく合戦剣術、簡単に言えばルールが決められたスポーツではなく、ただひたすらに人を殺すための技術としてあったのが篠ノ之流だ。

 

しかし先程も説明した通り刀が無くなってしまえば折角磨いたその腕も、命も無くなってしまう。紆余曲折したがそこで考案されたのが無手ノ型だ。

 

此処までくればもう分かるだろうが篠ノ之流無手は刀が使えなくなっても戦う為に、生き残るために編み出された。

 

 

 

刀を持った相手でも素手で殺せるように

 

 

 

 

まぁでもこの技術も剣術も江戸時代の頃から徐々に衰退していった。平和になったのだから人を殺すための技術を磨かなくてもよくなったのだ。それでも戦争を想定して続いてはいたが。そして今では細々と見込みのある人間にだけ伝えると言った形で残っている。

 

 

 

 

 

 

そして戦いに戻るが俺が言いたかったのは、素手で刀を持っている相手を殺す技に対して少なくとも俺の目から見ればまだまだあまちゃんの域を出ない剣で俺に反撃すればどうなるか明白だって事だ。まぁ見てきたのが師範や千冬とか鬼よりも強いのばっかだったからあてになんないけど。

 

 

 

 

強く、堅く、そしてしなやかに。

 

 

それが俺の教えられたものだった。

 

しなやかに受け流す。そして強く、堅い一撃一撃を放つ。

 

 

 

ただそれだけ。しかしそれだけでも何物よりも強くある。

 

 

 

相手が振るう一撃を受け流し、時には装甲で受け止める。そして出来た隙に拳を、蹴りを叩き込む。

それでも相手は必死になってその攻撃を受け止めようと、回避しようとする。でもそれは出来ない。させてなるものか。

 

 

 

今この機会を逃せばあるのは己の敗北のみ。

 

 

 

 

 

そしてどれほどの時間が過ぎたかは分からないが遂にその時が来た。

 

 

 

 

 

『シールドエネルギーエンプティを確認!!試合終了!!勝者、佐々木洋介!!』

 

 

ワァァァァ!!!!!!!

 

 

 

 

 

放送が終わると同時に大きな歓声がアリーナ全体どころか学園全体を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今、絶望している。

絶望の原因は目の前に居る世界でただ一人のIS男性操縦者。

その人の目は試合という事を忘れさせるほどの迫力を持っていた。その時既に私にまともな思考は残っていなかった。距離を取って銃を使えばいいのに。

それでもそんな考えに至れるほどの余裕はなかった。

 

 

 

 

振るわれるその一撃は、受け流され弾かれる。お返しと言わんばかりに重く、強い一撃が何度も叩き込まれる。

 

それでも、その絶望していても、振るわれる、繰り出されるその技の中に私は何故だか惹かれるものがあった。

 

 

 

 

どんな攻撃よりも強く。

 

どんなものよりも堅く。

 

そして同時にしなやか。

 

 

 

 

訳が分からない。

それでも我武者羅に剣を振るうがそのどれも届くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今私が見ている物はなんなんだろう?

織斑先生が兄として慕っている、あの優しい佐々木さんは今、見た事も無い顔で戦っていた。

 

隣に立っている織斑先生が私の顔を見て説明してくれた。

 

 

「篠ノ之流無手ノ型。それが、兄さんの最も得意な戦い方だ。あの兄さんは普段とは全くの別人と言ってもいいぐらいだろう?」

 

そう言われて首を縦に振ると織斑先生はにんまりと笑っていた。

 

 

 

 

 

気が付けばシールドエネルギーが切れていた。

勝ったのは佐々木さん。誰もが驚く結果だ。戦い方も何もかも。

それでも試合終了を告げた直ぐ後にはいつもの優しい顔の佐々木さんが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






今回の話の戦闘シーン、おじさんのキャラ変わりすぎィィ!!

因みに最後のはおじさんの対戦相手と山田先生です。

山田先生、説明してくれたって言ってるけど実はただ単にちーちゃんがお兄ちゃんじまんしたかっただけなんだよ!
戦ってるかっこいいお兄ちゃんを見て我慢できなくなった模様。うーん、可愛い。



すいません、この話一回ミスで投稿しちゃいまして。途中までしか書いてなかったので大慌てで削除して書きました。申し訳ありません。
エンターキーを連打したら……なんでだろうね、作者はエンターキーを連打したくなってしまうのです。




次回!!ちっびっこ大決戦!!(題名は百パーセント嘘です)





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ア〇ロ(おじさん)VSシァ〇(鈴ちゃん)   だからガン〇ムじゃねぇって言ってるだろぉ!?



決勝戦でござる。戦闘描写は苦手でござる。


 

 

 

 

天気晴朗ナレドモ波高シ。

 

 

 

まさに今のおじさんの現状にピッタリな言葉である。いや、電文か。

一回戦を勝ちで終えたのはいい。だけどその後が問題だった。

 

オジサン的には派手にやったつもりは微塵も無かったんだけど周りはそうじゃないらしく質問の嵐と役人共と研究者共に集られる始末。

 

質問攻めはいいが役人と研究者、オメーらはダメだ。

 

千冬と一夏は助けるどころかむしろもっと質問してやれと言わんばかりの態度。一夏なんて踏ん反り返ってんムフー、と自慢してたし。ムフーなんて初めて聞いたぞ。

箒と鈴、セシリアあたりも助けてくれるだろうなと思っていたのに寧ろ質問攻めする側に寝返りやがったもんだから尚更手が付けられない。

 

こんなことになると知っていれば全速力で逃げていたのに呑気に、態々自分から肉食獣の前にノコノコと出て行ってしまうとは……!某、一生の不覚でござる!

 

とかなんとかそんなことを考えている間にも質問の嵐は止むことはない。寧ろどんどん苛烈になって行くばかり。

 

 

「もう無理!」

 

「あ!逃げた!」

 

「者共であえー!」

 

「フハハハハ!!おじさんを摑まえるなんざ百億万年ぐらい早い!」

 

質問に耐えきれなくなったので逃げることにしました。逃げるが勝ちってよく言うよね。

 

 

つーかなんで決勝戦前にこんなに追いかけられて体力消耗せにゃならんのだ。まさか鈴の作戦か?……いや、ありえねぇわ。あいつはそこまで頭良くないし。

 

 

 

 

 

 

 

結局この後逃げ切ったはいいが盛大に迷子になった挙句、何故か死を覚悟した俺は試合時間がとうに過ぎているのに一向に帰って来ない俺に連絡を寄こした千冬の指示によって無事保護されましたとさ。

でもしょうがないと思うんだ。だってこの学園広すぎなんだもの。

 

 

皆さま誠に御迷惑をお掛けしました。

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、何やってたんだ……」

 

「本当に申し訳ない……ガチで迷子になってたんだよ。この学園広すぎ……」

 

「はぁ……取り敢えず決勝戦の準備をしてくれ。凰はもう準備が出来て待機中だ」

 

「本当に悪かった……」

 

千冬に軽く怒られた後に準備をする。

と言っても機体のチェックは終了しているし弾薬も一発も使ってないから積み込む必要はない。後は俺の準備なんだけどそれも特に無いから五分程で試合を開始できる状況になった。

 

 

 

 

〔それではぁぁぁ!!!試合を開始したいと思いまぁぁす!!〕

 

「「「「「「「わぁぁぁぁ!!!」」」」」」」

 

 

 

アリーナ内に出れば再びの大歓声。

離れたところには鈴が自分の専用機を纏ってそこに佇んでいる。

 

『逃げたかと思ったわよ?』

 

「んな訳ないでしょ。迷子になってただけですー」

 

『それもどうかと思うんだけど……まぁ洋介さんだからしょうがないか』

 

「おい待てそれどういう事だ詳しく聞かせろ」

 

『私に勝ったらね』

 

プライベート・チャネルで軽口を叩きながら試合が始まるその時を待つ。

というか迷子になったのは俺じゃなくて広すぎる学園が悪いと思うんだ。

 

 

 

〔試合開始ぃぃぃぃぃぃ!!!〕

 

 

 

 

実況が試合開始の合図を叫ぶ。それと同時に、いや一文字目を言った瞬間に俺も鈴も動き出す。

 

一回戦で装甲をパージしたままでの出場だ。だって一々付け直すの面倒だし付けてもどうせパージするなら別に最初からなくてよくね?って言う。

一回戦では奇襲とかの意味合いがあったけど今回通用するとは思わない。鈴はさっきの試合の映像を見ているし、警戒してこないはずがない。ならば最初から身軽にしていた方がいいという訳です。

 

 

鈴は青龍刀みたいな厳つい剣を両手に構えて突っ込んでくる。これは流石におじさんも予想外。さっきの試合見てたなら近づかせずに遠距離で叩くのが正解なのに態々突っ込んでくるかよ。

 

「態々おじさんの懐に飛び込んでくるたぁ良い度胸してんじゃないの!」

 

「別に遠距離からでもいいんだけどそれじゃつまらないじゃない!?それに昔よりも強くなったんだからそれを見てもらいたいし!」

 

「随分と言うようになったじゃないの!」

 

なんて口では言っているが実際鈴は物凄く強い。強くなった。

昔、日本に住んでいた頃はもっとへっぽこだったのだが一年そこらで此処まで強くなれたのは鈴自身が才能に恵まれていた事とそれに胡坐をかかずに努力した結果と言える。

青龍刀を振り回しながら蹴りを放ってきたり至近距離で見えない砲弾を撃ってきたりする。

 

斬撃や蹴りなんかは対処できるが見えない砲弾は不味い。如何せん砲弾が見えないから避けることも出来ないし撃つタイミングもよく分からない。しかも二つもあるんだから余計に厄介だ。

 

そうなればやることは決まった。一番最初に砲塔をぶっ壊す。ワザと砲塔に攻撃する様に誘っているかもしれないが警戒さえしておけば何とかなる。攻撃が当たったとしても被害を減らすことは出来るはず。

 

「フッ!!」

 

「させるかっての!!」

 

砲塔を狙って拳を放つが思った通り弾かれる。とでも思ったか!こっちは腕の装甲強化してあるからこれぐらいじゃビクともしない。だから、無理矢理押し切って砲塔をぶっ壊す!

 

「ハァ!?何それ訳わかんない!」

 

なんて驚いている辺りしっかりと奇襲にはなったようだ。その隙にもう一つを破壊する。

今更だけどこの数日で随分とおじさんの思考が脳筋になっていて戦慄を隠せないんですがそれはどうしたらいいでしょうか。

 

 

 

それからは俺の防戦一方に見える状況になった。

攻撃が出来ないのではなく攻撃をしない。ただそれだけ。さっきの砲塔は至近距離での攻撃が危険だったから、という理由があるから攻撃をした。でも今は?

攻撃を仕掛ける意味が無ければ攻撃をしないのだ。

そんな無意味な攻撃を仕掛けたところで消耗するし。こっちの方が断然消耗が少なくて済む。ただ、装甲は少しずつ、少しずつ削られていく。

 

 

 

右から来た斬撃を左へ受け流す。

左から来る斬撃を斜め上に受け流す。

正面からの突きを後ろへ、左右に、上下に受け流す。

 

 

斬撃だけではない。蹴りを。拳を。

 

 

 

只管に受け流して、時には弾いて。

 

 

 

ちょっとした隙が出来れば拳と蹴りをカウンターで叩き込む。

普通の武装で攻撃するよりは遥かに与えるダメージは低いだろう。

だけどこのISにとっては武器で攻撃されるのが普通なのにいきなりステゴロで攻撃してくる奴がいるなんて考えられない。一回戦はまさにその隙と油断を突いての物だったが今回は警戒されている。でも、心理的な影響は少なからずある。

どれだけ小さい物でも、「塵も積もれば山となる」ということわざ通り、必ず大きな影響が出て来るのだ。

 

それを待つ。その時が来るのを待つだけでいい。それまでは今まで通り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だってこの人はこうも人外みたいな動きをするのよ!?

普通じゃない!昔から知っていたけどやっぱり強い!強すぎる!

 

今だって私が攻めているように見えているけどその気になれば攻守なんて簡単に入れ代わるだろう。攻めているのに攻撃は当たらない。全て受け流されて弾かれている。

 

手数で攻めても意味は無く、一撃一撃の重さで勝負しても簡単に受け流されてしまう。

私が使っている青龍刀、双天牙月は連結させることが出来るがそれをする隙なんて無い。その隙を見せたが最後、完全に向こうのペースになってしまって一方的にやられて終わりだ。

 

今は私の方から攻撃を仕掛けているからこんなことを考えていられるけどそれも何時まで持つか分からない。

 

それに私にだって疲労はあるからそれも考えればもっと短くなる。その前に決着をつけたいけど完全な守りの姿勢というか、そう言うのに入った洋介さんを崩すのは私には難しい。いや、正直に言えば無理だ。不可能。少なくとも今の私には出来ない。周到に準備した上で更に奇襲となるような状況でもなければならない。

まぁ千冬さんなら余裕だろうがその千冬さんですら洋介さんに負ける事があるし。そんな相手の最も得意な戦い方、距離でどうしろというのか。

 

私らしくないとは思うがそう思ってしまっても仕方ないと許してほしい。

実際に今までそれを崩す為に幾つか策を出した。

衝撃砲を試したけどあっさり突破された挙句、衝撃砲自体も破壊されてしまった。

お陰で使えるのは双天牙月だけ。

 

 

 

始まる前に啖呵を切ったのはいいけど、これじゃ勝つのは難しい。いや、無理か。

何とか策を練って出してみるけど、その策すら今は考えられないし、そんなことをするぐらいなら正面から切って掛かった方がいいに決まってる。何かしらの策を打たれないように策を私が出す前にそれを潰しに来る。

これを聞いて殆どの人がありえないと言うだろう。でもそれこそが有り得ない事なのだ。

多分本人は無意識だろう。本能と経験だけでそれを潰してくるから更に質が悪い。

 

左から斬りつければその勢いのまま右に受け流されて、右から斬りつければ左に受け流される。

正面から突きを放てば何処かの方向に受け流される。

 

受け流されるだけじゃない。弾かれることもある。

今のところの救いと言えば反撃をしてこない事だが、それはさっきも言った通り完全に守りに入っているから。自分の消耗は少ないけれど、相手に与える消耗は大きい。

 

 

多分、最初の段階で何とか出来なかった私の負けね。それでも。

 

 

最後の最後まで私の戦い方を見せて!足掻いてやるんだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その守りが崩れ解かれる事は決して無い。堅牢で、頑丈。強靭で難攻不落の要塞の様に。攻撃を撥ね退け全てを意味のなさない物にしてしまう。堅く、堅く、ひたすらに硬く強く。しかし時にしなやかに。柔軟に。そして来るべき時まで耐えて相手が崩れた時にのみ、その守りが崩れ解かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう俺が教えられたのが篠ノ之流無手ノ型。

全てを学んだわけじゃないけど、少なくとも今俺はそれを実践出来ているだろうか。

それが分かるのは多分師範だけ。でも師範に会うことは出来ない。だからこそ学んだことを、学んだ通りに復習し、なぞる。

 

 

 

 

今、鈴は全力で俺に向かって来ている。それが持つのは何時までだろうか?五分?十分?分からない。

だが、体勢が崩れるまで待てばいい。

 

 

 

 

 

そしてその時はやって来た。

疲労なのかそれとも別の物なのか、鈴の剣先が少しだが、ぶれ始めた。本当に少し。それだけ。でもその隙さえあれば、勝てる。

 

 

 

 

さぁ!反撃の開始だ!!

 

 

 

 

攻撃をいなした瞬間にカウンターを叩き込む。

左足を軸に突きを躱してそのまま右足のかかとで回し蹴りをお見舞いする。

右からの斜め切りを躱して拳を叩き込む。

 

 

そうして一気に攻め立てる。

相手に反撃の暇を与えずに。的確に急所を叩く。時に飛んでくる攻撃は今までの様に対処をすればいい。

 

 

 

 

そして、勝利の時はやって来る。

 

 

 

 

『シールドエネルギーエンプティ!!試合終了!!勝者、佐々木洋介!!』

 

 

 

 

 

 

ワァァァァァァ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までよりもずっと大きな歓声が学園中に、学園の周囲に轟いた。

 

 

 

 





今日は前書きも後書きも特に無し!!
何も思いつかなかったからネ!! 


追記

7000字は書いたと思っていたのに実際は5000字行ってないっていう。短くてすんません。


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閑話その1 〜おじさん、束とデートする。

おいこれどういう事や……?
思ってたアンケート結果と全然ちゃうぞ……?
お主ら束さん好き過ぎじゃない?

まぁいいや。
あ、でも内容とか展開とかには期待しないでね。
他の話よりも薄っぺらいような感じがしなくもないから。
だって束さんとの絡みはこれから濃くなって行くだろうし。
臨海学校とかねぇ……?

それとは別問題だろって?
まぁまぁ。誰もデート回が1話で終わるとは言ってねぇだろ?2回目3回目とあるかもしれないから期待しておけって。


それと投稿が遅れたのはモンハンワールド:アイスボーンとエスコン7にどハマりしちゃって……
めっちゃモンスター強くてクソがぁぁぁ!!なんて叫んでたよ。
ジンオウガ強かった。それ以外も強かったです。



 

 

 

おじさんは今現在、隣にめっちゃ気合入ってるのが分かる様な格好の束と一緒に歩いていた。

 

 

イタリアの街を。

 

 

……うん、不思議だよね。

おじさんもホントに訳分からないんだよね。!!納得したけど。

 

 

さて、まずは何故こんな事になっているのか思い出してみよう。

遡る事凡そ五分ほど前。

 

はいそこ、ついさっきじゃんとか言うんじゃありません。

こういうのには大体マリアナ海溝よりもふかーい理由があるもんなのだ。

まぁ別に無いんだけども。

 

 

今度こそはちゃんとその時を説明すっから。静かに聞いていてくれたまえよ。

 

 

 

 

 

別に何かやっていたわけでも無く、休日をのんびりと過ごしていた。

千冬、一夏共に出掛けちまった。家に居るのは俺だけって事だ。まぁこんな時は大体束が来てもおかしくないんだが今は八時。

なんか今日は来なさそうだしこのまま身体を何時も通り動かしたらのんびりとするとしよう。

 

 

 

 

 

それから一時間後、ランニングと筋トレ、身体を動かして汗をかいた俺はシャワーを浴びてソファに座っていた。するといつも通り何も無い空間からいきなり束が現れた。

そして当たり前の様に後ろから抱き着いてくる。

……後頭部に胸を押し付けて。毎度の事だけどなんで態々?

おぉ、めっちゃやわらけぇ。

 

「おーじさん!おはよう!」

 

「はいおはよう。相変わらず急に出て来るね」

 

「えへへ」

 

「今日は来るのがいつもより随分と遅いじゃないの。来ないかと思ってたぜ」

 

「えー?私の事がそんなに恋しかった?」

 

「そりゃもう。寂しくて死んじまうかと思ったぜ」

 

「ほんとー?」

 

束は嬉しそうに笑いながらより一層ギュっと俺の頭を抱きしめて来る。そしてむぎゅぅっと押し付けられるお胸。うん、ここは天国だったんだね。

 

「本当だって」

 

「ならそんなおじさんに超耳寄りなお話があるんだけど、聞きたい?」

 

「何それ超聞きたい」

 

俺が聞きたいと言うと嬉しそうにしかしチェシャ猫みたいな笑みを浮かべてスルスルと対面座位になる束。よく表情が変わる事。嬉しそうにしたり恥ずかしそうにしたり。本当にコロコロと変わる。それを見ているこっちはそれが楽しくてしょうがない。

しかし、なぜ今ここでその笑みなんだ。なんかヤバそうな関係?

 

「それはねー、今から私とデートに行きましょう!」

 

「……デート?」

 

「うん!」

 

「デートかぁ……」

 

「ダメ?」

 

上目使いで俺の事を見て来る束。

それはズルいぜ束さんよ……勝てる訳ないじゃないですか……

元々断る気なんて無かったんだけど。

 

「よっしゃ行こう」

 

「ほんと!?やった!」

 

「それで?どこに行くのさ」

 

「ふっふーん!それは到着してからのお・た・の・し・み!」

 

「なら早く準備しなきゃな。出来るだけ長く一緒にあちこち見て回りたいしな」

 

「そうそう。あ、ちょっと見てて。多分ビックリするよー」

 

そう言うと何故か束はその場で一回転。

何をしたいんだと思ったその瞬間、束の何時もの格好から随分とまぁ気合の入った服装に大変身。あの束がこんな格好をするなんて……

おじさん、びっくりしすぎて声も出ねぇ。

 

「……何今の」

 

「ISの粒子変換技術の応用です!どうどう!?凄くない!?」

 

「おうすっげぇわ。技術の無駄遣いが」

 

「え~?そんなこと言わないでよ~。技術って言うのは無駄遣いするためにあるんだよ?」

 

「そんなん初めて聞いたわ」

 

「それに、これを使えば仮面ライダーとかになれちゃうかも?」

 

「なにそれすっごい気になる。ちびっ子たちにバカ売れしそう」

 

「でしょでしょ?」

 

「うん。ドイツ語みたいに無駄にカッコいいわ。憧れる」

 

「照れるな~。それじゃおじさんも着替えてきてよ。それで早くイチャイチャしようぜ!」

 

なんて盛り上がっている場合じゃない。部屋に着替えに行って。

そこまでオシャレな服なんて持って無いもんだから適当に見繕って着る。

 

「お待たせしましたおじさんでございます」

 

「おー。おじさんの私服久々に見たなー」

 

「そうかー?」

 

なんて会話する。

すると束は何故かステッキを何処からか取り出してクルリと一度回してから言った。

 

「それじゃぁデートに行きましょう!これから起きるは世にも不思議な世界を巡るデート。瞬き一つで何処にでも!そんなデートにご招待!それでは一度瞬きをしてみて!」

 

うん?訳が分からん。というか世界って言った?

取り敢えず言われた通りに瞬きした。してしまった。

そして目を開いた瞬間にどこかテレビなんかで見覚えのある光景が広がっていた。

いやいやいや……んなはずは……でもあれって多分コロッセオとか言われているやつじゃ?しかし今自分の身に起こっていることが信じられずに恐る恐る束に聞いてみた。

 

「ここどこ……?」

 

「ここはイタリアの首都ローマだよ!」

 

「そっかぁ……ローマかぁ……随分と遠くに来ちゃったなぁ……」

 

やっぱり規格外な束の行動に自分でも分かるぐらい遠い目をしながら街並みを眺める。

うん、やっぱりここローマだわ。コロッセオある時点で明らかにじゃんか。あんなサッカースタジアム見た事ねぇもん。

 

「……嫌だった?」

 

束は少し不安そうにこっちを見上げて来る。

あ、俺の反応がイマイチだったからか。

 

「いんや?嫌じゃねぇけど。まさか海外に連れて来られるなんて思っても見なかったからびっくりしただけだって」

 

「それじゃあ嬉しい?」

 

「まぁ嬉しいけどもさ」

 

「良かった~!」

 

「でも不法入国とかにならんの?」

 

「その辺は大丈夫だよ!この束さんが対策も何もしない訳ないでしょ?」

 

「……それもそうか」

 

「うん!それじゃぁ早速行こう!時間は限られてるからね!」

 

 

 

 

こうして最初の時に戻るんだけど。

それからはもう凄いぜ?コロッセオから始まり街をブラブラ歩いたりトレビの泉、フォロ・ロマーノって言う遺跡にも行ったりした。ピサの斜塔、にも行ったりフィレンツェ、バチカンにも行ったぞ。取り敢えずあちこち行ったわ。

 

 

 

 

「うぉ、まじで傾いていやがるぞ。どうなってんだまじで」

 

「おぉー、直で見るとなんか凄いねー」

 

ピサの斜塔が本当に斜めっているのに驚いたり。

 

 

 

 

「なんだこの噴水」

 

 

 

トレビの泉に行って縁に座っている束が妙に、やたらと美人に見えて思わず何枚か写真を撮ったり。

 

 

 

 

 

 

なんかフォロ・ロマーノとか言う古代ローマ時代の遺跡に行っておぉ……と何とも言えぬ感動を覚えたり。

 

 

 

フィレンツェでは束の案内によりフラフラと歩き回って。

 

なんか飯はめっちゃ美味い店でピザとか色々食ったり。俺イタリア語なんてわからんから知らん。美味かったです。

 

 

 

 

そんなこんなであちこちを巡る旅はとても楽しかった。移動手段が瞬間移動なのはご愛嬌って事で。あれは慣れないぞ。こう、とんでもなく不思議な感覚だ。せめてどこでも〇アにしてほしい。

 

 

「あ”ぁ”……疲れた……」

 

「どうだった?楽しかった?」

 

「そりゃ勿論楽しかったぜ?見た事無い物、触った事のない物ばっかりで、食い物も全然違ったし」

 

「それなら良かった。結構心配だったんだよね。こんな外国にまで連れて来ちゃって。楽しく無いんじゃないかなー、とか」

 

「束が俺に色々してくれた時、有難いとか嬉しいとか楽しいとか思う事はあっても迷惑だとか嫌だなんて思った事なんて一度もねぇよ。心配すんなって」

 

「うん。おじさんがその言葉を言ってくれて安心した」

 

 

束は結構周りの反応とかお構い無しって感じのタイプなんだが、意外と豆腐メンタルだったりもする。さしずめ寂しがり屋のウサギさんってとこだな。そのくせ周りの目を気にしたりしなかったり。

今でこそしっかりとちゃんとした格好をしているが昔はそれすら面倒くさがって同じ服を着続けたりしてヨレヨレだったり風呂には入らず飯も食わずなんてのが当たり前だった。

 

それが今ではこんなにちゃんとしている。

服どころか化粧までしているし。人間変わればとんでもないぐらいに変われるもんなんだな。束を見ていて改めて思う。

 

しっかし本当に黙って歩いてりゃこんなに美人なのか。

薄化粧で普段ノーメイクな時よりも、一層際立っている。

しかも何故か知らんが男が一番心をくすぐられるようなやり方をしているからタチが悪い。

こう見えて束は凝り性な所がある。それも他の人よりも数倍増しで。だから何時ぞや聞いたことがあるがISの開発に必要な知識や技術以外にも数多くの知識と技術を持ってる。

それは化粧という分野でも遺憾無く発揮されているようで……

 

並んで歩いている横顔を見てみればその飛びっきり美人な顔がある。こっそり見ているつもりなんだがどうせ束にはバレてる。正面から見てもどの角度から見ても変わらず。

 

事実今日だけでかなりナンパされていた。まぁ一人になったらなんだけど。

これで少しばかりの落ち着きと家事が出来りゃ完璧なんだがなぁ……その気になれば料理なんてお手の物だろうに。まぁでも夢の事もあるからそうは行かないんだろうけどな。

あれちょっと待て。こいつ普段何食ってんだ?……急に束の食生活がとてつもなく心配になって来たぞ。

後で聞いておこう。酷かったら一夏に頼んで作って貰おう。

 

 

 

 

 

それからのんびりまったり二人で歩く。

すると唐突に束が俺の手を握って話し始めた。

 

「おじさんはさ……すっごく優しいよね……」

 

「急にどうした変なもんでも食った?」

 

「違うよ!もう、真面目に聞いてってば」

 

「そりゃすまん。それで?」

 

「えーっとね、今までおじさんと一緒に居てそう思ったの。色んな意味で私ってコミュ障だったでしょ?周りを拒絶して受け入れようとしなかったし、周りも私を拒絶して受け入れなかった。でもおじさんは何故だかそうじゃなかった。私と普通に話して接してくれたし」

 

「そんなん俺的には普通だと思うけど。コミュ障の部分はまぁ……」

 

「ひどーい。おじさん私の事コミュ障だって思ってたんだー。否定して欲しかったんだけどなー?」

 

「んなこと言っても」

 

「まぁ、心当たりは沢山あるから仕方ないんだけどね。ほら、私って周りの子とは全然違かったからさ。距離を置かれるなんて優しい方だったし。化け物扱いされるなんて日常茶飯事。教師達も表向きはそうじゃなかったけど裏じゃ私が居ないからって好き放題言ってたし。束さんにはあちこちに耳と目があるって言うのにね」

 

「そんな環境でよくこんなにまともに育ったな。流石師範」

 

「うーん……確かにお父さんも私をちゃんと育ててくれたよ?でも一番の要因はおじさんの存在なんだよね」

 

「俺はなんもしてねぇよ」

 

「そう思っているのはおじさんだけ。私が変われたのはおじさんのお陰。おじさんが居てくれたから」

 

「そうでもねぇよ」

 

「そうなの。初めて私と会った時の事、覚えてる?」

 

「そりゃ勿論。幼女にあんな対応された事なんて初めてだったからなぁ。結構傷付いた」

 

あれは人生の中でもトップクラスに苦い思い出だ。

家に帰ってから幼女にあんな対応される俺って……と自問自答したし。

 

「うっ……それは悪かったけど、理由があったの。あの時の私ってさ、この世界に絶望してたんだよね。誰にも考えを理解して貰えない。受け入れてくれることすらしてくれない。どれだけ私が努力しても拒絶されて化け物呼ばわり。そんな時にちーちゃんと出会って、少しは希望が出来た。でもちーちゃんは身体能力は私と同じでも、それ以外は普通だった。私の事を理解しようとしてくれたけど、理解出来なかった。私はまた希望を失って周りは真っ暗。でもまた希望が来た。それがおじさんだよ」

 

「俺はそんな立派なもんじゃねぇよ。ただのお節介なだけだ」

 

お節介を焼いて、偶々それが良い方向に向いたに過ぎない。

誰だって出来るようなちょっとした、人によっては迷惑だと思うようなお節介。

 

「そうかもしれないね。でもそのお節介のお陰であの時私って言う存在は、人間は救われたんだ。泥沼に嵌って、いや、底無し沼の方が合ってるかもしれないね。絶望してた私を引っ張り上げてくれたのはお父さんでもお母さんでも箒ちゃんでもちーちゃんでもいっちゃんでも無い。他でも無いおじさんだったんだ」

 

「そうか。でも束なら自分だけでも変わる事なんて出来ただろうよ」

 

「それは無いかなぁ。あれでもまだ小学生だったし。変わってたとしても人格とか思いっきり歪んでたと思う。今考えればお父さんもお母さんもちーちゃんも居たのにその存在に気が付けて居なかった時点でおかしいでしょ?」

 

「それもそうか。それでも俺はあくまで束が変わる為に背中を軽く一押ししただけだ。助けた記憶なんてこれっぽっちもありゃしない」

 

「そう思ってるのはおじさんだけだよ!だってさ!」

 

束は俺の手を握って、前に出る。そして満面の笑みを浮かべて言った。

 

 

 

 

「私が今こんなにも幸せで心の底から笑ってるんだもん!それが一番の証拠だよ!」

 

 

 

 

不覚にもその笑顔に見とれてしまった。

こいつは普段からよく笑うがそのどれもが魅力溢れる笑顔だ。今のはそんな何時もの笑顔の何億倍もの魅力を持っていた。

 

おじさんじゃなかったら惚れてたぜ。危ねぇ危ねぇ……

 

そして手を離すとくるりと一回転すると俺の目を見て笑って言った。

 

「おじさん、私の事をこんなにした責任、ちゃーんと取ってもらうからね!」

 

その笑顔も魅力的だった。

そんなプロポーズみたいなこと言われても……嬉しいけどさ。

 

「わかったよ。ちゃんと責任は取らせて頂きますぜ?」

 

「うん!」

 

そう嬉しそうに返事をすると抱きついてきた。

 

「やっぱりおじさんはあったかいね」

 

「そりゃ生きてるからな」

 

「そうじゃなくて……まぁでもいっか。今はそれでも。そのうち絶対に私があったかいって言った意味、分かってもらうんだから」

 

そう言って手を握ってくる束。

その手は俺からすればとても小さい手だった。

束はご機嫌そうに鼻歌を歌いながらニギニギと俺の手を握ってくる。

そういやまだ束も千冬も小さかった頃こんな風に手を繋いで歩いたっけなぁ。あん時は皆小さかったんだが気が付けばでっかくなったなぁ……

 

なんでだろうか、やっぱり感傷に浸ってしまう。

 

 

 

 

それからはしっかりと楽しんだ事もあり結構疲れていたから束と一緒に家に帰った。と言っても一瞬で家の玄関前に立って居たんだけども。

 

 

その後、我が家で晩飯を一緒に食った束は暫くのんびりした後いつも通り、

 

「じゃーねー!」

 

なんて言いながら帰っていった。帰り方はあのいきなり現れたり消えたりするやつ。本当にどうなってんだあれ。

 

 

 





どうでした?皆さんの性癖満たせたかなぁ?


それでは今回の感想をば。

いやはや、デートって難しいね!

うん、本当に難しかった。
そもそも作者自身に経験があまり無いから余計に……

アンケート結果が予想外過ぎてどうすりゃいいのか悩みに悩んだ結果がこれです。
難産だったぜぇ……

しかも束さんの性格というか行動を考えたらですね、そもそも普通のデートをあの束さんがするのか?なんて考えたり考えなかったり。
その結果が主人公、海外進出ってなワケです。

結局後半の方なんかデート要素あったっけ?もうイチャつかせりゃ良くね?デレ束とか最高やんけ。
デート?知らない子ですね(すっとぼけ)

何故か後半デート要素皆無、迷走してる。



関係無いけど大事だから言っておく。ヤンデレはないぞ。そもそも書けないし。嫌いじゃないけど。ヤンデレはないぞ。大事だから二回言った。



それと二人の私服だけど敢えて書かなかった。
だって作者ファッションセンス壊滅だし。読者の皆さんに自由に妄想してもらったほうがいいんじゃね?なんて思ったり(面倒だからとかでは無い)

そして読者の皆様が束さんに着せた洋服を出来れば感想に書いてくれたら個人的に嬉しいなー、なんて思ってるからどうぞヨロシク。


それではまた次回。










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トーナメント その後

 

 

 

試合終了後、それはもう大騒ぎになった。そりゃそうだ。ISに初めて乗ってから一か月そこらのおっさんが代表候補生に勝ったんだから。

初戦とは比べ物にならないレベルで追いかけ回され、再び盛大に迷子になったのは言うまでもない。

結果としては俺が優勝。鈴が準優勝でそれに続いて四組、三組と言った形だ。

 

 

 

ただね、おじさんも予想外過ぎる結果に大混乱しているんですけど。

 

 

 

 

だってまさか自分自身が優勝するなんて誰が考えるよ?俺自身もクラスメイトも優勝どころか一回も勝てずに終わるなんて考えても仕方ないぐらいだったんだぞ?

いやまぁ若干3名ほど何故か俺が優勝すると信じて疑わなかったのが居るんだけど気にしないったら気にしない。

 

結局優勝した俺には表彰状とクラスの皆に食堂のスイーツ食べ放題券数か月分が渡された。

 

ついでに俺に対する各国各企業、各研究所からの勧誘とかその他諸々の接触なんかが莫大に増えた事もここに書いておこう。

だから俺は何処にも属さないって言ってんだろ。特に研究機関、おめーらはダメだ。何処の組織もダメだ。

 

 

 

 

 

質問の嵐と勧誘(脅迫込み)を振り切って今は放課後。

因みに勧誘して来た奴らは軒並み学園から叩き出されていた。

 

結局その日はそれで終わり。解散して俺自身も疲れていた事もあってか部屋でゴロゴロしていたら寝落ちして起きたら朝でしたと言うオチ。

 

 

今日、トーナメントの次の日は運良く休みだった為にやることやってのんびりするか。

俺はISを格納庫に返納した時のその為の諸々の書類を記入したりして千冬の所に持って行って、あー疲れた二度寝してやろうそうしよう。

 

 

なんて思っていたら一夏と箒、セシリアが部屋に来て何事かと思ったら拉致られて食堂に連れていかれてオイオイ何だこれどういう事だ何故に食堂?

 

 

しかもクラスの面々全員に加えて普通に他クラスのメンバーも居る。鈴も居るしどうしてだかこの前家に帰った時に護衛をしてくれた生徒会長さんも居るじゃないですかやだー

なんでやろな?

 

「せーの!」

 

「「「「「「「「佐々木さん、優勝おめでとう!!」」」」」」」」

 

突然の事過ぎておじさん大混乱。

なにこれ何がどうしてこうなった。詳細な説明を求めます!

 

「お、おぅ。ありがとさん。で、これは何事?」

 

「えー?見て分からないの?優勝したお兄ちゃんをお祝いして讃えてあげようって事でパーティーを開きました!」

 

「あ、うんそうなのありがとう」

 

「なんか反応薄いよお兄ちゃんもっといい反応してよ」

 

「あのねぇ、いきなりこんな事されたら驚くに決まってるでしょうが。それとも俺にアメリカ人並のリアクションをしろと?」

 

「出来ないの?」

 

「出来る訳ねぇだろ。お前は本当に俺を何だと思ってるの?」

 

「お兄ちゃん」

 

うん、一夏は何時も通りだったわ。

 

 

その後、優勝記念パーティーがどうこうで大騒ぎがしたかっただけなんじゃないかってぐらいの置いてきぼりを食らった俺はのんびりと端っこで皆を見ながらお茶を啜ってましたとさ。

 

お茶美味しいなぁ……女子高生パワフル過ぎて付いて行けなかったよ。元気良すぎじゃない?こんなもんなの?

 

そしてしこたま大騒ぎして解散となった訳だ。

その後は特に何も無い。強いて言うならいつも通り一夏達の来訪で若干騒がしかったぐらいか。

 

 

 

 

 

またまた次の日。

おじさんはのんびりと部屋でごろ寝中。だって昨日あれだけ動いたんだから今日ぐらいはいいよね。と言いつつも家にいる時も休日は運動したり一夏や千冬に付き合って買い物行く以外こんなもんだけど。

 

 

 

「くぁ……あぁ寝みぃな……」

 

寝たいが今寝てしまえば一夏に見つかった時面倒だしなぁ。

欠伸を噛み殺しながらベットから起き上がり頭をボリボリと掻きながら冷蔵庫の中に何かないか探してみるも何もない。それもそうか。

一夏が料理をするようになってからは滅多に料理をしなくなった俺と料理の才能、センスがマイナスに振り切っている千冬の二人の部屋だ。あるわけがない。あったら怖い。怪奇現象を疑っちゃうぐらい。

 

どうすっかなぁ……十時か。この時間じゃ食堂は締まってるし、開くにしてもまだ二時間はあるから……あれ?俺って飢えるしかないのでは?

 

終わった……俺はこのまま死ぬのか……

 

 

 

なんて訳分からない絶望をしながら冷蔵庫を漁るが入っているのは麦茶ぐらい。

やべぇな、腹減ったぞおい。どうすんだ。

 

 

麦茶飲んで誤魔化すか。

 

 

 

もういいや。取り敢えず水分だろうが何だろうが口に出来ればいっか。

その考えの元、麦茶をがぶ飲みするべく手を伸ばそうとしたところで部屋のドアが叩かれる。

休日に態々やってくる人間なんざ一夏とか箒辺りぐらいだろ。

 

なんて思いつつも返事をしながらドアを開ける。

するとそこに居たのは予想外にもセシリアと箒と言う組み合わせだった。

驚きつつも部屋に招き入れる。飲もうとしていた麦茶を二人に出しながら話す。

麦茶美味しいぃ……

 

「珍しい組み合わせだな。どうしたのさ?」

 

「小父様のお顔を見たくて、と言ったらどういたしますか?」

 

嬉しいこと言ってくれるねぇ。最近の子はお世辞もおべっかも上手だこと。

ま、そんなこと言われて喜んじゃう俺はちょろいって事だぁね。

 

「素直に喜ぶことにしとくよ。二人の美人さんが俺に会いに来てくれたんならな」

 

「ふふ、お上手ですこと」

 

「洋介兄さん、それはいいのですが取り敢えず着替えたらどうです?」

 

「んぉ?あぁこりゃ失礼。今さっき起きたばっかでね。許して頂戴」

 

俺の格好を見て箒も思う所があったのか注意してくる。

いや、誰も来ないかななんて思ってたから短パンにタンクトップって言う格好なのだ。

ここ最近段々と温かくなって来ているのに千冬ったらそれでも俺のベッドに潜り込んでくるもんだから暑いのだ。千冬を押しのけることも出来るけど俺関係で結構面倒掛けてるし本来の仕事も忙しそうにしているからまぁこんぐらいはいっかと受け入れているのだ。

今の時期、暑いんなら俺が薄着になればいいしこれからもっと暑くなっていくだろうがそうなったら冷房ガンガンにすりゃいいだけの話だ。

 

まぁ一夏には内緒なんだけど。だって知られたら絶対に面倒な事になる。下手すりゃ千冬の反対を押し切ってでも一緒に寝ようとするだろう。

妹達に好かれるのは一向にかまわないし嬉しいが暑くて寝るときに全裸にならなきゃいけないのは流石に勘弁してほしい。

 

 

 

 

「それ一夏が見たら絶対に怒りますよ?」

 

「知ってる。だから二度寝は諦めたんだけど一夏が居ないって知ってたら二度寝してた」

 

「という事は朝食も食べていないと?」

 

何故この妹達はこうも俺の行動や考えを読めるんだろうか。束辺りならそんな装置やらを開発していてもおかしくはなさそうだが。

 

え?おじさんが単純なだけ?そんなことは無いと思うけどなぁ。

 

「大当たり。良く分かったね」

 

「なら何か作りましょうか?昼食もあるので軽めの物ですが」

 

「マジで?いいの?というか飯作れるの?」

 

「勿論です。これでも一夏程とはいきませんがそれなりに作れますから」

 

「箒お前……本当に変わったなぁ……お兄ちゃんは嬉しいぜ」

 

「ありがとうございます。それで、どうしますか?」

 

「頼む。腹が減って死にそうだった。麦茶で凌ごうなんて考えてたし」

 

「洋介兄さんはしょっちゅう訳の分からない考えに至りますね……少し待っていてください。今部屋に材料を取りに行ってくるので」

 

俺がそう言うと箒は呆れた顔をしながらもやはり嬉しそうに部屋に一度戻って食材を持って来てキッチンに向かう。

 

「それなら私は後日にしましょう。今日は箒さんに出番をお譲りしますわ」

 

「お?料理できる系女子?」

 

「いえ、でもマニュアル通りにやればなんてことはありませんわ」

 

「ほー」

 

この英国淑女のいう事を真に受けたが、料理の腕が壊滅的で作ってくれた料理を食べた俺がぶっ倒れることになるのをまだ知らない。

 

箒が料理を作っている間、セシリアとのんびり会話しながら待っていた。

といってもここ最近の学園生活はどうだとかそんなもんだ。

クラスの皆とも打ち解けているようで何より。

 

「そりゃ良かったじゃないの。学生生活ってのは楽しんで盛大にふざけたりするもんなんだからな。少なくとも15、6の時は訳分からん理由で怒られたりもしてたし。部活も最高に楽しかったしな」

 

「それなら小父様も二度目の学生生活を楽しむおつもりですか?」

 

「そりゃ勿論。最初は嫌だったが過ごしてみればどうして中々悪くない。寧ろ良いね。こんな機会二度と無いだろうからこの年で学生ってのも変だが精々楽しむことにするさ。まぁ部活に関しちゃ色々と理由があって所属できないけど」

 

部活、やりたいのだがこの学園は女所帯という事もあってか男の俺が所属出来る様な部活は残念ながら存在しない。いや、剣道部とかなら個人でいけるんだろうが残念ながら女性に囲まれてまで部活をしたいとは思わない。この学園に居る時点で今更なんだけど。

 

「そうですか。なら私はそんな小父様についていくとしますわ」

 

「自分の好きな事やって楽しんだ方がいいぜ?」

 

「私にとって楽しいというのは小父様と一緒に居ることですわ。小父様の近くに居るだけで自然と私は笑いが溢れて来ますもの」

 

「やめろよ照れるだろ……」

 

何故か俺に対して惚気て来る。うーむ、本当に変わりすぎじゃないですか?というか俺にそういう事を言うぐらいならもっと良い相手が居るだろうに、なんて思ってしまうが口には出さない。出したが最後、今日一日セシリアのご機嫌を取らなければいけ無くなってしまう。そんなヘマはしないのだ。

 

 

 

そうこうしているうちに箒お手製のサンドイッチが出来た。

何だこれ、めっちゃ美味そうやんけ。

 

「どうぞ」

 

そう言って差し出してくるサンドイッチからは食欲をそそる良い匂いが。

 

「おぉ……!」

 

「これは、とても美味しそうですわ」

 

「ベーコンとほうれん草を炒めて挟んでマスタードを塗ってみた。食べてみてくれ」

 

「イタダキマァス!」

 

「頂きます」

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

セシリアと2人でサンドイッチを食べる。

おぉ!こりゃ美味い!

 

「うん!美味い美味い!こりゃ美味い!」

 

「とても美味しいですわ」

 

腹が減っていて美味い物を食った影響で語彙力皆無になった俺と、上品に、しかしとても美味しそうに食べるセシリア。

そしてそれを見ながら嬉しそうにする箒。

 

これってなんの図?

 

いや、幸せなんだけど。

なんとも奇妙な組み合わせの3人だなぁ。

 

 

 

 

 

それからサンドイッチを食べ終わった俺達3人は昼飯までのんびりと部屋で過ごしていた。

なんかこうやってまったり過ごすの随分と久々な気がするのはなんでだ。

 

 

……一夏が毎日騒がしいからか?あれはあれで無いと寂しいもんだが、そう考えてる辺り手遅れなのかもしれんな。

 

 

 

 

 




次回は何書こうか。
次のイベントとかに進んでもいいような気もするけど、なんか挟みたい。


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閑話その2 海に行く。

サブタイ通り。
季節外れなんて言葉は受け付けません。だって可愛いに季節なんて関係ないのだからッ!



 

 

 

 

唐突ですが今日は海に行きます!

うん、意味が分からないって顔してるね君ぃ。そんな君に何故海に行く事になったのか教えてあげよう。

 

事の発端は一週間ほど前。

 

 

 

 

 

 

その日は休日で仕事が休み。

基本、家事全般は俺の仕事となっている。でも、ここ最近どこで覚えて来たのか掃除と洗濯を千冬が度々やってくれるようになったのだ。

料理もやってくれようとしたのだが悲しいかな、どうやら千冬は料理のセンスと言うか、そう言う物が完全にマイナスに振り切れているらしく、本人は諦めて他の事をやってくれるようになった。

 

千冬の料理を食べた、あの時の一夏の顔はすさまじかった。何とも形容しがたい顔で、絞り出すような声で、

 

「ちふゆねぇのごはん……まずい……!」

 

と言ったのだ。あの時は千冬には申し訳ないが一夏の顔が面白すぎて爆笑してしまった。

 

そして拗ねてしまった千冬のご機嫌取りに必死になったりとまぁ大変だった。

と言っても一緒に寝ると言うお願いを聞いたらあっさり機嫌を直して鼻歌まで歌い出したので

 

(我が妹ながらチョロい)

 

なんて思ってしまったのは口が裂けても言えない。

そんなことを言ったらまた機嫌が悪くなってしまうだろう。まぁ一緒に寝て欲しいとかそんな感じでまたあっさりと機嫌を直すんだろうが。

 

 

 

 

そんなわけで、洗濯とかは早めに終わらせてのんびりとしていると一夏が言った。

 

「おにいちゃん、わたしうみにいきたい」

 

という一夏からの突然のお願いが炸裂。

一夏を抱き上げて椅子に座りながら話を聞く。

うーん、唐突なのは何時も通りなんだがまさか海に行きたいなんてお願いが出て来るとは。これはお兄ちゃんも予想外です。

 

「どったの急に」

 

「えっとね、きのうテレビでみたの」

 

「あー、テレビで海を見たら行きたくなっちゃったって訳か」

 

「うん」

 

確かに昨日一夏がテレビを見つめる目はとっても熱かった。

そっかー、海に行きたいかー。でも確かに海に連れてってやったことないもんな。

そうやって話していると、千冬がやって来る。

 

「一夏、お兄ちゃんはお仕事で疲れてるんだからわがまま言っちゃだめだぞ」

 

「ちふゆねぇは、うみにいきたくないの?」

 

「それとは話が別だ。疲れてるお兄ちゃんをもっと疲れさせるのはいやだからな」

 

「千冬、そんなこと気にしなくていいんだぜ?お兄ちゃんは元気いっぱいだからな。本当は海に行きたいんだろ?本当の事言って欲しいんだけどなー」

 

そう言って随分と成長した千冬を手招きして膝の上に乗せる。

そう言えばもう小学校高学年なんだから驚きだ。身長も随分と伸びたし。

そろそろ反抗期かなぁ……

あ、悲しくなってきた。千冬に近寄るな、なんて言われた瞬間に人生に絶望するしかない。

 

それにしても千冬は俺と触れることを嫌がらない。それどころかむしろ向こうから寄って来る。学校とかで他のお父さんお母さん方の話を聞くと、そりゃもう反抗期だそうだ。男女問わず。

それに比べて千冬は反抗期どころか、俺と喧嘩したことすらない。いや、俺が一方的に悪くて怒られた事は何度もあるんだけど。

小学生に怒られる社会人の図。情けないやら恥ずかしいやら絵面が不味いやらで大変だ。

 

 

「う……海に行きたいです……!」

 

「よっしゃ!そんじゃ決まりだな!流石に今日はもう行けないから行くとしたら来週だな。来週から俺も夏休みだし」

 

今は世間一般で言う所の夏休みというやつだ。

まぁ学生にとってはだが。俺は今週の金曜日までお仕事です。

 

「ほんと?おにいちゃんうみにつれてってくれるの?」

 

「おうよ。一夏と千冬のお願いを断るわけねぇだろ?」

 

「やったー!ありがとうおにいちゃん!」

 

「お兄ちゃん、ありがとう」

 

二人が嬉しそうに笑うのを見てこっちも思わずニッコリ。

 

 

あぁ、我が家の妹達は天使なんやな……

 

 

 

 

 

 

と、そんなことがあったのが一週間前。

それで箒や束にも話して自慢したらしく、二人も付いてくる事に。うん、全然かまへんで。

 

「おにいちゃん!」

 

篠ノ之神社、束と箒の家に迎えに行くとワンピースを着た箒が俺に向かって駆け寄って来る。

 

「おー、おはよう箒!」

 

「おはよう!」

 

駆け寄って来たのを抱き上げる。

今日も元気一杯、天真爛漫と言った言葉がよく似合う元気な女の子。それに続いてやって来るのは篠ノ之家長女束。天才少女なんて言葉がピッタリな子だ。

まぁちょっとテンション高めで行動も突飛なんだけど、今でも十分美人と言われれば誰もが頷く容姿をしている。

 

「おにーいちゃん!おはよう!」

 

「うん、おはよう束」

 

「あー!なんか箒ちゃんと対応の差を感じるー!」

 

「えー……そんじゃこんな感じ?」

 

「やってみてやってみて!」

 

「おはよう束!今日も最高に可愛いね!」

 

「いやー!そんなことあるんだけどー!照れちゃうなー!」

 

「ひゅーひゅー!よっ、世界一の美少女束!」

 

「もー!そんなに褒めてもハグしかしてあげないんだからー!ギュー!」

 

と言いながら俺の後ろに回り込んで飛びついてくる。そしてギュー!なんて言いながら頬をスリスリしてくるのが恒例。

このままでもいいんだけどそうすると海に行く時間がどんどん遅くなっちゃうし、千冬の機嫌が悪くなったりするので切り上げて、車に乗るのを促す。

 

「はいこれで終わり。ほら車に乗った乗った」

 

「はーい」

 

すると服の裾を誰かに引っ張られる。

見ると車に乗せるために下ろした箒だった。

 

「ん?なんかあったか?」

 

「おねえちゃんにかわいいっていったのにわたしにはいってくれなかった!」

 

あー、そういうことね。束に可愛いって言ったんだから私にも言って欲しいと。

そんなほっぺを膨らませても可愛いだけで全く怖くないぞ箒。でもここでご機嫌を取っておかないと後々大変なことになりそうだからな。まぁでも箒って結構物で釣れたりするからこのまま膨れっ面の箒を眺めてるのもいいんだけど。

 

箒の前でしゃがんで頭を撫でながら、

 

「箒、今日も可愛いぞ!」

 

「うん!」

 

満面の笑みでにっこりと笑って嬉しそうにする。

すると、

 

「わたしもかわいいっていってくれたおれいにギュー!ってしてあげる!」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとだよ!」

 

「そりゃ嬉しいね。そんじゃお願いしてもいいかな?」

 

「うん!ギュー!」

 

「ギュー」

 

なんて束の真似をして俺に抱き付いてくる。

あぁもう本当にかわいいなぁもう!

 

 

 

 

 

「ふふ、本当に仲が良いわね」

 

「あ、おはようございます」

 

声を掛けてきたのは束と箒のお母さん、華さん。年齢不詳。

この人、マジで二人も子供産んでるとは思えないぐらいに若々しく美人さん。

多分二十代で余裕で通じる人だ。

 

あらあらうふふ、って感じの和風美人で近所じゃその見た目と、見た目からは想像がつかないような怪力と薙刀の腕で有名人。まぁこの神社自体が全国的に有名なんだが。

夏祭りの時に神楽舞をやっているし。そのやっている人がとんでもない美人だって事でテレビの取材が来ることも。

 

余談だが俺が華さんの事を奥さんとかそう言う感じで呼ぼうとしたらなんか変な感じがすると言われてしまった。

娘達が兄と慕っているのだからお母さんと呼んでもいいのよ?なんて言って来たが流石に遠慮した。

 

 

そんな感じの華さんだが、千冬の剣道関連やらなんやら、その他諸々の事でしょっちゅう世話になっているのだ。

今日も俺達の見送りと言った所だろうか。

 

「今日は二人の事、宜しくお願いしますね」

 

「はい。それにしても急に申し訳ありません」

 

「あら、いいんですよ。束と箒もお兄ちゃんと一緒に遊べるって大喜びでしたから。あの様子を見れば簡単に想像できると思いますが」

 

と談笑しているとそこに現れたのは篠ノ之道場師範、篠ノ之神社神主とかもう色んな肩書を持っている、束と箒の父親、篠ノ之柳韻。

俺は師範って呼んでるけど。

温厚で優しく、何時もニコニコと優しい笑みを浮かべているイケメンさん。

ただ剣道とかの指導となると人が変わったように厳しくなる。

俺も篠ノ之流無手ノ型を教わった時に味わったから本当におっかなかったぜぇ……

 

まぁ仕事の事情で辞めざるを得なくなったんだけど時折顔を出している。

会うのは三か月ぶりぐらいか?殆ど束と箒がアパートに来てるからね。あんまし機会が無いんだよね。

 

でもさぁ、改めて見ると篠ノ之一家どうなってんだ。美男美女率100%とか。どんな魔法だよ。

因みに我が家は75%。何でかって?俺が居るからだよチクショウ。65%ぐらいの間違いじゃないかって?うるせぇ。少しぐらい希望を持ってもいいだろ。

 

 

「洋介君、久しぶりだね」

 

「お久しぶりです、師範」

 

「うん、元気そうで何よりだよ」

 

この人もこの人でよく我が家の事を気にかけてくれている。

本当に頭が上がらない。

 

「……うん、教えた事の反復練習もしっかりとしているようだし、何よりも健康そうで良かったよ」

 

「はは、貴重な事を教えて貰って、そのことを無下にするような事は出来ませんから」

 

「君は相変わらずだねぇ」

 

「おにいちゃん!早く行こうよー!」

 

おぉっと、束からお呼びが掛かっちまったぜ。

 

「すまないね、引き留めて」

 

「いえ。それでは行ってきます」

 

「あぁ。四人とも、しっかりと楽しんでおいで」

 

「「「「はーい」」」」

 

「それでは」

 

「うん、娘達を頼んだよ」

 

そう言って二人に見送られながら車に乗り込んでエンジンをかけて出発する。

因みに車はレンタカーです。流石にちびっ子四人を連れて電車とバスはキツイ。

 

「おーし、ちゃんとシートベルトしたかー?」

 

「したよ!」

 

「箒ちゃん!シートベルトしないと海に行けなくなっちゃうよ?」

 

「えー、なんでー」

 

おうおうやってるやってる。

なんだかんだ言いながら四人ともちゃんとシートベルトをしたのを確認してから車を発進させる。

 

「ねーねーお兄ちゃん」

 

「んー?」

 

「今日は何処まで行くの?」

 

なんて束にどこまで行くのか聞かれたりしながらも俺は車を運転していく。

山越え谷超え、何てことは無く五人でワイワイ騒ぎながら(主に興奮した箒とそれを抑えようとした束によって)の道中。

 

それから一時間程後に海水浴場に到着。

駐車場には予想してはいたがやはり数多くの子連れの家族や、友人同士、恋人同士で来ている他のお客さん達が。

 

あー、こりゃ一夏と箒が間違いなくはしゃいで迷子になるやつだな。

気を付けねば。

 

「着いたぞー。さっさと着替えて海行くぞー」

 

「「「「はーい」」」」

 

そう言うと四人は更衣室に向かって歩き出した。

さてと、俺も着替えるとするか。つっても車の中でなんだけどね。だって態々更衣室に行く必要無いし。まぁ千冬と束が居るから問題無いだろ。

 

さっさと着替えて四人を待つ。

暫くすると着替えた四人が戻って来た。

 

千冬はビキニタイプの白色の水着。束はめっちゃフリッフリのピンクのやつで一夏と箒はワンピースタイプの色違いの水着。一夏が水色で箒が赤色。

名前はよく分からんけど多分会ってるはず。

 

「お待たせお兄ちゃん。それじゃ行こう」

 

「おう。行くか」

 

そう言って行こうとすると、早速箒が走り出す。

 

「うみー!」

 

「待て待て待て」

 

追いかけて箒を捕まえると、離した瞬間に再び走り出しそうだったのでそのまま抱き上げて行く事にした。

こんな人混みの中で何時も通りに箒を放ったらどうなるか……迷子になるなんて必然だし。

そこらの子供よりも遥かに元気なもんだから、しょっちゅう神社の敷地の中を縦横無尽に駆け回るなんて当たり前。しかも敷地には山も含まれているのに、だ。

それに毎回一夏と一緒に行くもんだからもう大変だ。帰ってくれば何故か蜘蛛の巣を頭に引っ付けていたり、泥だらけなんて当たり前。

箒は楽しそうに笑っているのに一夏は大号泣なんてしょっちゅう。

 

二人共この年にして絆創膏と大親友になっているのだから凄いやら怖いやら。なのに大きな怪我をしないのだから不思議でしょうがない。将来どうなってしまうんだろうか。楽しみやら恐ろしいやら。

そんな箒を一人で行動させたら、と思うとゾッとする。勝手知ったる篠ノ之神社の敷地内ならばいいが此処はそうじゃない。

 

そんなことを考えながら再び海に行こうとすると、海パンを引っ張られる感触が。

振り向いてみると一夏だった。

 

「どうした?」

 

「わたしもだっこー」

 

「おっしゃ任せろ」

 

「おにいちゃんちからもちー!」

 

「だろー?」

 

「お兄ちゃん、代わりに荷物持とうか?」

 

「ん?あぁ、大丈夫だって。レディにそんな事させられねぇって」

 

「えー?レディだなんてお兄ちゃんは嬉しいこと言ってくれるねー」

 

一夏を抱き上げて歩いていると肩に荷物を掛けて、両手にちびっ子を支えている俺を心配した千冬と束が荷物だけでも持ってくれると言って来た。有難いのだがそうなると一夏と箒を一回降ろさなきゃいけないからね。それにまだまだこのぐらいの重さなら問題ナッシング。

 

「ほら、行くぞ。早く行かないとシート引く場所が無くなっちまう。なんかもう手遅れな感じがしなくもないけど」

 

「えー?お兄ちゃんなら何とでもしてくれるでしょ?」

 

「無理に決まってんでしょ。束は俺の事をスーパーマンか何かと勘違いしてない?」

 

「私の中じゃどんなヒーローよりもお兄ちゃんが一番のヒーローだもーん!」

 

鼻歌を歌いながらスキップをして歩く束。

 

「そうですかい。あぁ、箒暴れないでお願いだから」

 

「はやくうみはいりたい!」

 

海に入りたくて暴れる箒。

この、こいつ本当に元気だな!

 

「あー、わかったわかった。肩車してあげるからちょっと大人しくしてお願いだから」

 

「かたぐるま!?やったー!」

 

「ほら、しっかり掴まっとけー」

 

「おにいちゃん、わたしもー」

 

箒を見て自分も、とせがんでくる一夏。

だろうと思ったよ。でもいくらお兄ちゃんとは言え流石に二人を肩車は無理があるからね。

 

「帰りは一夏の事を肩車してあげっから、今は我慢してな」

 

「うー……わかった。やくそくだよ?」

 

「おうよ。なら指切りげんまんしとかないとな」

 

「うん。ゆびきりげんまんかたぐるましてくれなかったらはりせんぼんのーます!ゆびきった!」

 

「よし、これでいいな。そんじゃ行こう」

 

漸く出発。箒を落ちないように抑えながら砂浜に向かう。

うおー、久々だ海に来たの。しっかし滅茶苦茶混んでんな。パラソルとか海の家で借りようと思ってたけどもしかしたら借りれねぇかもな。

取り敢えず砂浜に降りてシートを広げられそうな所を探す。

お、あそこなんか良さそうだ。

 

「よっしゃ、そんじゃシート引くから手伝ってなー」

 

「お兄ちゃん、こっちを持っておく」

 

「お、あんがと千冬。あ、箒の奴今にも海に飛び出しそうだな。束、悪いんだけど一夏と箒の事見ててくれ。流石にこの人の人数で勝手にさせるのはマジで不味い」

 

「りょーかい!箒ちゃん、いっちゃん、お姉ちゃんと手繋いでようねー」

 

「えー?わたしうみにいきたい!」

 

「お兄ちゃんが後で連れてってくれるからそれまで待っててね?もしかしたらいい事あるかもよ?」

 

「おい束、変な事吹き込むなって。後々大変だろうが」

 

「ごめんなさーい」

 

「ったく……」

 

シートを引いてその上に荷物を置く。

これで風が吹いても飛ばされたりはしないだろ。まぁ今日は風は無いようなもんだし心配しなくても大丈夫だと思うけど。

そんじゃ海の家にパラソル借りに行ってくっか。

 

「ちょっとパラソル借りに行ってくるからここで待っててな。戻って来てパラソルぶっ立てたら海入ろう」

 

そう言って千冬と束に一夏と箒を任せて海の家に借りに行く。

幸いな事に一番近い所で借りられたため直ぐに戻る事が出来た。

ついでに浮き輪を二つ借りてきた。どうせ沖の方までつれてってくれと言うに違いない。そんな時に浮き輪が無いと俺の背中とかに乗っかってくる未来が簡単に想像できる。流石に海の中は勘弁してくれ。

 

 

 

「よし、パラソルも立てたからな。そんじゃ海入るか!」

 

「やったー!」

 

浮き輪を持って俺が言った瞬間に走り出す箒。

うん、知ってた。取り敢えず勝手にどっかに行かないように追いかけてとっ捕まえる。

 

「勝手に行くなって。ったく」

 

「そーだよー箒ちゃん。迷子になったりー、溺れちゃったりするかもよー?」

 

「えー?わたしまいごにならないよ?それにちゃんとおよげるもん」

 

束が軽く脅すもそれすらも意に返さず。

てか体力も筋力も無いんだから流されたら一発アウトだろうが。束か千冬が傍に居れば大丈夫だろうけど子の二人もまだ子供だからね。無理があるだろうよ。

 

「はい、皆さんお約束です!お兄ちゃんが一緒じゃないと海に入ってはいけません!特に箒!一番心配です!」

 

「だいじょうぶだもん。ちゃんとやくそくまもれるもん!」

 

「じゃぁ約束破ったらお仕置きな。はいけってーい」

 

「千冬と束はまぁ、深いとこに行き過ぎなきゃ行ってきても良いぞ」

 

「「はーい」」

 

「んじゃ入るぞー」

 

そんな感じで入水!

あー、ちょっと冷たいかも?でもあっついから問題無し。

チビ二人は浮き輪で大はしゃぎ。

 

浮き輪から手を離して潜ったりしている。

すると一夏と箒は俺の手を引いて、

 

「おにいちゃんあそぼうよ!」

 

「分かった分かった。あんまし引っ張らないでくれ」

 

と言って来る。

あっちの方まで連れてって、次はあっち、次はそっち。

そんな具合で浮き輪に掴まった二人の指示によって右へ左へ泳がされる。

 

はしゃいでいる箒はもうすっごい。あっちへこっちへと泳ぎ回り、一夏や俺を連れ回す始末。千冬と束は競争だとか言って泳ぎまくってる。事前に昼飯時には帰って来いと言っておいて正解だった。

あの様子じゃ二人共思いっきりはしゃいでるから夢中になったら暫くどころか一日中帰って来なさそうだし。

 

「おにいちゃん、わたしうきわのうえにたってみたい!」

 

「ん?いやどういう事?」

 

箒がまた訳の分からんことを言い始めたぞ。

浮き輪の上に立って見たい?あれか?忍者みたいなことしたいって事?

 

「あー、そりゃいいんだけど難しくない?」

 

「だいじょうぶ!おにいちゃんがつかんでくれればおちないよ!」

 

「うん、まぁやってみるか」

 

何がどうしてその考えに至ったのか分からないけどもやりたいってんならやらせてみるか。墜ちても地面じゃないから衝撃は無いし溺れたりしなきゃ大丈夫だろ。

 

「おっしゃ、浮き輪掴んでてやっから乗ってみ」

 

「うん!」

 

うんしょよいしょと必死になって浮き輪の上に立つために登ろうとしているが液体の上でバランスを取ることがどれほど難しいのかなんて箒は知る由も無いんだろう。波も穏やかとは言えあるし。

でもこんな光景を見ていて一番幸せだと思っているのは俺なんだろう。

何時かはこうやって海に一緒に行けることも無くなって来るのだろうし。

 

浮き輪を抑えて見守っている間も必死になって登ろうとしているがひっくり返って落ちたり、頭から前のめりに海に突っ込んだりと、中々上手く行かないどころか多分乗れないんじゃないかと思いながらも飽きるまでやらせる。

言っても止まらないのだ。思う存分やらせた方が良いに決まってる。

 

 

 

 

 

 

それから暫く、浮き輪の上に立つ事が出来なくて若干拗ねている箒。

その隣では一夏がどこで拾ったのか海藻で遊んでいる。

 

「そろそろ一旦上がって昼飯にすっか。腹減ったぜ」

 

「ごはん?」

 

「おう、お昼ご飯だ。何が食いたい?」

 

「おにぎり!」

 

「うどん!」

 

二人は口々に食べたいものを言っていく。

俺は、たこ焼きとかかなぁ。

 

そう思いながら浮葉を引いてシートの所まで戻ると既に千冬と束が居た。

 

「あ!やっと帰って来た!」

 

「お兄ちゃん、随分と遅かったな」

 

「すまんすまん」

 

「もう一時だぞ?お腹空いたから早く何か買いに行こう」

 

「まじか。随分と待たせちゃって悪いな」

 

と言ったことで四人を連れて海の家に向かう。

あー、腹減った。なんでこんなに俺は疲れているのに一夏と箒はあんなに元気なんだよ。おかしくない?

 

子供の体力はすげぇな……置いてかれちまうぜ。

 

「おーし、食いたいもんなんだー」

 

「ラーメン」

 

「私はカレー!」

 

「うどんー!」

 

「おにぎり!」

 

千冬がラーメン束がカレー、箒はうどんで一夏がおにぎり。

んで俺は、たこ焼きとラーメンにするか。

 

「注文おねがいしまーす!」

 

「はーい!」

 

結構混んでいるにも拘らず早めに注文で来た。

まぁ一夏のおにぎりは焼きおにぎりになったけど、焼いたか焼いてないかの違いだからね。本人は焼きおにぎりで良いってさ。

 

「お待たせしましたー!」

 

そう言って注文した物が運ばれてくる。

何故か海に入った後に食べる物ってのは異常に美味しく感じるのだから不思議だ。束に質問すりゃ答えは返って来そうなんだけど。そこまで気になるわけじゃないからいいや。今は美味いもん食えるってだけで十分。

 

「んじゃ食うか」

 

「「「「いただきます」」」」

 

「はい召し上がれ。っても俺が作ったんじゃねぇんだけど」

 

よほど腹が減ってたのか四人とも一斉に食べ始める。

そんじゃ俺も食うか。

 

「いただきます」

 

 

 

 

 

それから昼飯を食べ終わって暫く休んでから再び遊び始めた。と言っても休めと言っているのに砂遊びをし始める箒と一夏。それからも海に入りたい、魚捕まえたいなどもう大騒ぎ。

それに付き合ってあっちへこっちへ振り回されて千冬も束も俺も、流石に疲れたからちょっと休憩とパラソルの下で一休みしたのだが、これが大間違いだった。

 

うっかり気持ちよく寝ていると誰かに揺り動かされる感覚がする。しかも結構強く。何事かと思いながら目を開けてみるとそこに居たのは束だった。

 

しかし何時も通りの表情では無く、焦っていることが十分に分かる表情だった。

 

「どうした?そんなに慌てて」

 

「箒ちゃんといっちゃんが居ないの!」

 

「……はぁ!?」

 

その束の言い放った言葉の意味が一瞬意味が分からなかったがその意味が分かった瞬間に思わず大声を上げてしまったのは仕方が無い。

 

「どういう事だ!?」

 

「分かんない!お兄ちゃんと一緒に居るのかと思ってたら居なくて、何処か近くで遊んでいるのかなって思って探したけど居なくて、それで何処にもいないから探し回ってたんだけど見つからなくて……」

 

焦っているのがありありと分かる表情や言動。

それもそうだろう。自分の妹がどっかに行ったら普通は焦る。俺も焦っているが俺よりも不安なのは千冬と束なのだ。

 

「ライフセーバーの人にはこの事言ったか?」

 

「今ちーちゃんが行ってる」

 

「そっか。ありがとう。偉いな、ちゃんと俺を起こしてライフセーバーの人に報告しに行って」

 

安心させるように、わしゃわしゃっと頭を撫でてやる。

 

「大丈夫だ。見つかるからそんな不安そうな顔すんなって」

 

「うん……」

 

「よっしゃそんじゃ探すぞ。何処まで探した?」

 

「この辺とあの監視塔からあの監視塔までの間は探したよ。もしかしたら見落としがあるかもしれないけど……」

 

「うん、そしたら一回千冬と合流しよう。多分ライフセーバーの人も探してくれてるはずだからその方がいいだろ」

 

「うん」

 

「そんじゃ行くか」

 

そう言って千冬が報告しに行ったと言う監視塔の方まで走る。流石に束も精神的な物もあってか疲れているらしく、抱きかかえて走った。

 

 

 

 

「すいません!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「千冬!」

 

本部の方に案内されるとそこには千冬が居た。

そしてそこに居た係員の人が俺と千冬のやり取りを見て言った。

 

「あぁ、保護者の方ですか?」

 

「えぇ、そうです」

 

「それは良かった。それではこちらにどうぞ」

 

「すいません」

 

「それで、今ですが係員に連絡して海水浴場全体を探しています。念の為千冬ちゃん達が探してくれた所も探していますが見つかっていません」

 

状況を説明してくれるがやはりまだ見つかっていないそうだ。

そもそもこの人混みの中なのだ。そう簡単に見つかる訳も無い。寧ろ見つけにくいんじゃないだろうか?同じような背格好をしている子供なんて幾らでも居る。

 

「そうですか……」

 

「まだ探せていない場所もあります。ただ結構範囲が広いので時間が掛かるかもしれません。海の方も探していますがそちらでも見つかってはいません」

 

「分かりました。ありがとうございます。その、自分も捜索に参加させていただいても宜しいですか?」

 

「え?参加ですか?うーん……」

 

「お願いします!」

 

「二次災害の恐れもあるのでここで待っていて貰いたいんですが……」

 

「お願いします!」

 

居てもたっても居られず、捜索に参加させてもらえないかお願いしたのだが渋る係員さん。それもそうだろう。二次災害の恐れもある。

 

「……海岸線に沿ってならまぁいいでしょう。こちらで発見した場合は放送でお知らせします。もしそちらで発見したのならば近くの係員に言ってください」

 

「分かりました。ありがとうございます!」

 

なんとか参加させてもらえることになった。

 

「それじゃ探してくるから、二人は此処で待っててな」

 

「私達も……!……いや、分かった。お兄ちゃん、二人の事頼んだぞ」

 

「おう。任せとけ」

 

また不安そうな顔をしている千冬と束。

安心するかどうかは知らないけど、頭を撫でる。チョロいと思うかもしれないがうちの妹達はこれで何とかなる。

 

「よし、それじゃ行って来るわ」

 

そう言って探しに出る。

 

 

 

 

暫く探したが、本当に何処にもいない。

 

「マジで何処に行ったんだあいつら……こんだけ探してんのに見つかんないとかおかしいだろ」

 

ふとそう言ったが、そもそも海岸に居ないんだったら他のとこに居るんじゃね?

そもそも二人が大人しく砂遊びをするか?って言う話になって来る訳で。

 

……まさか海に入ったんじゃないだろうな?

 

いや、でも有り得るぞ。一夏だけならいざ知らずあの腕白坊主箒が一緒なのだ。今までの行動を考えると砂遊びよりも海で遊んでるって言う方がしっくりくる。

 

マジか。そしたら取り敢えず高い監視塔かなんかにお邪魔させてもらって双眼鏡かなんかで探せば見つかるかもしれん……いやでもこの人混みだし双眼鏡だと範囲が限られるから近距離だと効果薄いんじゃね?まぁいいや。取り敢えず協力してもらおう。

 

 

「すいません、今迷子になってる二人の保護者なんですが……」

 

「あぁ、どうかされましたか?」

 

「もしかしたら、海に入って遊んでるかもしれないんですけど、その為に双眼鏡をお貸し頂ければと思いまして」

 

「そういう事ですか。分かりました。少々お待ちください」

 

そう言って双眼鏡を取り出して渡してくれる。

うーん、やっぱり作業効率悪いな。近距離だと大した範囲を捜索できない。

そもそもこの海岸近くで泳いでいたらとっくに見つかっているはずだし。

 

……まさか沖の方に行ったんじゃないだろうな?

いや、だとしたらこんだけ探しているのに見つからないのも頷ける。

 

 

 

そう思い双眼鏡を沖の方へ向けて再び探し始めた。

 

「!居た!!」

 

アイツらやっぱり海に入って遊んでいやがったのか!

しかもだいぶ流されてるじゃねぇか!?

 

大慌てで監視員の人に報告する。しかし流石にこんなことは想定外なのかあんな場所までそう簡単にはいける訳も無く。

 

するとなんとボートがあるのでそれで助けに行きましょうという事になった。

それで助けに向かったのだが、もう二人は大泣きで手が付けられない程だった。

顔を鼻水やら涙やらでドロドロにして俺に縋り付いて離れない。

 

「こ”わ”か”っ”だよ”ぉ”ぉ”ぉ”!!!!」

 

「お”に”い”ち”ゃ”ぁ”ぁ”ん”!!!」

 

「あー分かった分かった。よしよし、怖かったな」

 

「「う”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ””!!!」」

 

暫くの間二人をあやしていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わってちびっ子二人組。

 

その頃、自分達が探されているなんて露程も知らない二人は兄との約束をすっかり忘れて海で遊んでいた。

一夏は危ないから止めておこうと言っていたのだが、遊びたい盛り、やんちゃ、腕白、と知り合い全員からそんな感じで受け止められている箒を一夏一人で止められるはずも無く。

 

最初は砂浜の近くで遊んでいたのだがそのうち段々と楽しくなってきた二人はどんどん沖に流されていることに気が付く様子は全く無い。

 

漸く一夏が流されて沖に向かっている事に気が付き箒に相談するが箒は、

 

「ねぇほうき」

 

「なに?」

 

「すなはまがすっごくとおいよ?」

 

「だいじょうぶだよ!およいでかえれるきょりだからだいじょうぶ!」

 

なんて箒は言う。

まぁでも山に行ったりしてもちゃんと帰れてるから大丈夫かな。

なんて箒の言葉を信じたのが大間違い。その後も二人できゃっきゃと遊んでいたのだがふともう一度浜の方を見てみると先程見た時よりも遥か遠くに居たのだから。

 

「ほうき!すなはまがあんなにとおいよ!?」

 

「え?ほんとだ……どうしよう」

 

ここに来て漸く不味い状況なのが理解できた箒は、流石に遊ぶ事を止めて一夏と共に浜に向かって泳ぎ始める。しかしどれだけ泳いでもたどり着けず、体力を消耗していくばかり。

 

そして二人は感じた。もはや自力で浜辺へ戻れる距離では無いのだと。

幸いな事に二人は浮き輪で浮いている為に早々にどうにかなってしまうという訳ではないが、それも時間の問題だろう。

 

「どうしよう……」

 

「だいじょぶだよ!おにいちゃんがきてくれるもん!」

 

二人は段々と不安が募り涙目になって行く。

このまま死んでしまうんじゃないか。そう考えるとどんどん涙目になってしまう。終いには二人して大泣き。

何よりも二人が辛かったのは家族にもう会えないのではないかという事。

 

父も母も姉も兄もお爺ちゃんも。

 

会えなくなるのは嫌だと大泣きしながらこういう時は何時も助けてくれる兄の事を泣き叫びながら呼ぶ。

 

そうすればもしかしたら何時もの様に困ったように笑いながら助けに来てくれると思って。そう信じて泣きながら兄を呼ぶ。

 

 

そこにどこか聞き覚えのある声が。

しかも段々と近づいてくるではないか。そっちの方を見るとボートに乗ってこちらに向かってくる兄。

 

 

そこからは安心したやらまた兄に会えたやらで再び大号泣。

その後は無事二人揃って助けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探してくれた係員やライフセーバーの人にお礼を言って周り、それからどうするかとなったがあんなことがあってから流石にこのまま遊ぶのもなぁ……という事で三十分程後にシートやらパラソルやらを撤収して帰り支度。

 

 

着替えるためにシャワーを浴びようとしたのだが一夏と箒は俺から離れようとせず、ぴったりと抱き着いてくる。

 

「おにいちゃんといっしょがいい!」

 

「いやーだー!」

 

流石にこれには俺も千冬も束も苦笑いするしかなく。

 

「箒ちゃん、お姉ちゃんと一緒は嫌?」

 

「いや!おにいちゃんがいい!」

 

「グハッ!?……お兄ちゃん、この恨みは消えることは無いだろう……」

 

「何言ってんだ。それよりも説得手伝ってくれ……」

 

「ほら一夏、お姉ちゃんと一緒にシャワー浴びに行こう?」

 

「やー!」

 

千冬が優しい声で一夏に言うも俺の腕に引っ付いて断固拒否。

これにはさすがの千冬でも手の打ちようがない。

 

「よっしゃ、しょうがないから二人共一緒にシャワー浴びるか!」

 

「ほんと!?」

 

「ほんとほんと。どうする?」

 

「「いく!」」

 

今回ばかりはこっちが折れてもいいだろう。

千冬と束はそれぞれ呆れたような、でも嬉しそうな目で俺を見て来る。

 

「という訳で一夏と箒は俺に任せて千冬と束はゆっくりシャワー浴びて来い」

 

「分かった」

 

「お兄ちゃんってばやっぱり私達に対して甘々だよねー」

 

「うっせ。ほら、早く行け」

 

「はーい」

 

そう言って二人を見送ってから俺達もシャワー室に向かう。

幸いな事に時間が早かったからか空いていて助かった。これが混んでいたりしたら大変だった。

 

 

 

帰りの車の中で四人とも遊び疲れたのか寝てしまっていた。

まぁ一夏と箒は完全に泣き疲れてって言うのもあるんだろうが。

あ、一夏と箒は後でお説教だな。

 

まぁ俺も目を離してしまったのも原因なのだが。それとこれとは別問題だ。約束を破っているのだからしっかりとお灸をすえてやらねばなるまい。

 

多分俺も師範と華さんに怒られるんだろうけど、自分の事をこの年にもなって怒ってくれる人が居ると言うのは幸せなもんだ。

 

 

 

 

「只今帰りましたー」

 

そう言って師範の家の扉を開く。

すると奥から華さんが出迎えてくれた。

 

「お帰りなさい。海はどうでしたか?」

 

ニッコリと笑いながらそう聞いてくる。

 

「楽しかったですよ?水温も冷たくなかったですし」

 

「そうですか。それは良かった。お風呂を沸かしてありますから皆でどうぞ」

 

「有難く頂きます」

 

「えー?さっきしゃわーあびたよ?」

 

「あれは流しただけだからちゃんと風呂で体洗ったりしなきゃダメなの。ほら、行くぞー」

 

「はーい」

 

その後は俺を含めて五人で風呂に入った。

今更ながら千冬と束は俺と一緒で嫌じゃなかったのだろうか?そう思って聞いてみると、

 

「全然嫌じゃないぞ?寧ろもっとこういう機会が増えて欲しいな」

 

「私も同意見だよ?ただでさえ一緒に住んでないんだからこういう機会は貴重だしね!」

 

好意的でびっくりしました。

 

その後は晩飯を食べ終わった後に今日の事を報告。

案の定俺は師範と華さんに、一夏と箒は俺と師範、華さんの三人にしっかりと怒られることになりましたとさ。

 

 

 

 

「そうだ、今日は泊まって行きなさい」

 

「え?でも良いんですか?」

 

「勿論だとも。用意はしてあるから好きにしていいよ」

 

その日は師範と華さんのご厚意で泊まることになった。

俺は一人で寝るもんだと思っていたのだが何故か五人分の布団が引かれていて驚いたがまぁいいや。

 

という事で久しぶりに俺と千冬、一夏、束、箒の五人で寝ることになった。

 

しかし一夏と箒は疲れていて布団に入ってすぐに寝入ってしまった。

 

「お兄ちゃん、今日はお疲れ様」

 

「ん?あー、ホントになぁ……今日は一段と疲れたよ……」

 

「ふふ」

 

「二人も今日はありがとうな。それとすまなかったな、俺が目を離したからあんなことになっちまって」

 

「えー?そんなことは無いと思うけどなー。でーもー、申し訳ないと思うんだったらお願い一個聞いてくれると嬉しいなー?」

 

「はぁ……束、お前と言うやつは……」

 

束は何故か俺に何かをねだろうとして千冬はそんな束に呆れるという見慣れた光景が出来ていた。

まぁ実際今日は迷惑かけたからそれぐらいなら別にいいんだけどさ。

 

「しょーがねーなー。ほら、何がお望みだか言ってみな。叶えてあげちゃうかもだぜ?」

 

「ほんと!?それじゃ今日は一緒の布団で寝よう!」

 

「おう、良いぞ。ほら」

 

もう皆で疲れてるから早めに寝ようって事で布団に入っていたからそのぐらいのお願いならお安い御用だ。

 

「わはー!」

 

「暴れんなって」

 

「はーい!んふふふ」

 

嬉しそうに笑う束。だが何故か千冬は段々と機嫌が悪くなる。

 

「どうした千冬?」

 

「お兄ちゃん、私にも一つだけお願いをさせてもらおう」

 

「えぇ……お前さっき束に文句言ってたやんけ……」

 

「なんだ、束は良くて私はダメなのか?そうか、悲しいな……」

 

こいつ、何処で涙目になるなんて技を覚えてきやがった。

まぁ断る気は無かったんだけど。

 

「別に構わねぇよ。ほら、何がお望みだ?」

 

「む、その言い方だと私が悪いみたいになってしまうがまぁいい。私も一緒に寝る」

 

「あぁはいどうぞ」

 

なんか何時も俺の布団に勝手に潜り込んでるのにそれでいいのかと思いながらも俺は布団に招き入れる。

 

「んー……」

 

「ほら、いい子は寝る時間だ」

 

「ん」

 

それからは気が付いたら皆寝てしまった。

 

 

今日も一日騒がしくも楽しかった。色々あったけど皆無事でよかった。

 

 

 




思ったよりも長くなった。
本編よりも圧倒的に長いってどういう事や?

え?ロリな皆が可愛いから?そうか、それならば仕方が無いな。


それと一夏と箒の助け方なんですけど、流石に幼児二人を抱えて浜まで泳ぐのはおじさん的にもキツそうって事でボートでの登場にしました。

おい、文字数どういう事だ。本編の二倍書いてるやんけ。これを本編でやりやがれやマジで。

何て思っても感想に書いたりしないでね。


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おじさん、久々の平穏な日常。でも残念でした!面倒事は次から次へとやって来るヨ!胃薬と妹達に泣きついてもいいんだよ!

サブタイで胃薬と妹達に泣きついても良いって書いたけど、胃薬なら分かるけど妹はダメじゃね?そもそも泣きついたが最後、もう後戻りできなくなってましたー!とか有り得そうだし。

頼れるし頼もしい妹達だけど泣きついたが最後、一生離してくれなくてそのままずるずると行ってしまうんだ。

ははっ、結局おじさんには胃薬しか頼れる味方は居なかったんや……






 

 

いやぁ……

なんかやっと暫くぶりの平穏が訪れた気がする。

ISを初めて動かしてから監禁生活に始まり唐突のIS学園への強制入学。

訳が分からず女子高生と同じ寮にぶち込まれてホワァァァ!?とか犯罪だけは勘弁して!なんて言ったり言わなかったり。何故かクラス代表になったり鈴が転校してきて騒がしさがマシマシになって、セシリアの人生相談モドキをしてクラス別トーナメントに出場して優勝しちゃって追いかけ回されて迷子になったり。勧誘やら解剖させてとか言われてファ〇クとか思ったり。

 

 

今更だけど濃すぎない?これ、よく胃袋に穴開かなかったな。普通だったら過労で倒れてても仕方ないぞ。

 

ここは一言、善良な一般市民として平凡な一般人として言わせてもらおう!

 

 

IS学園ブラックじゃねぇか!?待遇の改善を要求する!

 

今更蒸し返すとか情けねぇと思うけどまぁここは言わせてほしい。

そもそもの話!なんで俺はISを動かせるの?百歩譲ってこれはいいとしよう。だが、なんでIS学園に入れられたのさ!?しかも生徒としてとか馬鹿なんじゃないの!?アホなの死ぬの!?

 

いやまぁ実際死にかけていると言うか一歩間違えればあの世行きなのは間違いないし待った無し!なのはどう考えてもあるのだ。

 

 

 

俺は平穏な人生を送りたかっただけなのに……妹達に彼氏恋人紹介されてちゃぶ台返ししたりなんだかんだあって妹達のウエディングドレス姿とか見て泣いたりとかしたかっただけなのに……老後の人生のんびり送ろうとか考えてたのに……

 

 

 

ホントにマジでどうしてこうなった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてネガティブな事を考えちゃったり。

しょうがないよね。だってこんなに短期間で人生変わるほどのイベントが盛り沢山だったら誰だってこうなっちゃう。特にクソ雑魚豆腐メンタルなおじさんにはきっつい冗談程度にしてほしいぐらいなのだ。そろそろ度重なる訳分かんない状況で怯えて死んじゃうかもしれない。

 

まぁそんなことは無いんだけども。

キレた千冬に追いかけられた時の方がよっぽど怖い。妹は怒らせると怖いんやでぇ……

 

 

それはそれとして、今日はまぁホントに平穏だよ。なんでだか知らないが今週は実技系の授業が何故か無いから毎日座って教科書開いてお勉強。個人的には身体動かしたいです。まぁでもこんなのもいいかもしんないね。

 

今日も今日とて椅子に座って教科書開いている。

そんでもって午前の授業が終わればやっとこさ昼飯の時間。何時も通り食堂に向かおうなんて考えていると一夏に呼び止められる。

 

「お兄ちゃん、ちょっと待って」

 

「ん?なんぞ?」

 

「今日はさ、天気も良いし屋上で皆でご飯食べない?」

 

「おー、いいぞ。そしたら購買で飯買ってくるからちょっと待ってろ」

 

「あ、それなら心配ご無用!なんと皆でお弁当作って来たからね!」

 

うせやろ俺に何の連絡も無しにお弁当とかサプライズ過ぎてびっくりやんけ。なにこれ俺の事を餌付けするつもりか?一夏に対しては俺も千冬も、もう手遅れな感じだけど。

 

「ほ?マジですか?」

 

「うん!私と箒と鈴とセシリア。皆でそれぞれ作って来ようって」

 

「それを俺は分けてもらうという事ですね分かります」

 

「そういう事だよ。それじゃ先に屋上に行っててくれる?ちょっとお弁当取りに行って来るから」

 

「りょーかい。んじゃ先に行って待ってから。ゆっくりでいいかんなー」

 

「はーい」

 

しっかし一夏だけじゃなくて箒も鈴もセシリアもか。

一夏はその腕を知っているからいいけど、箒と鈴、セシリアはどうなんだろう。

鈴に関しちゃ実家が中華料理屋だったしそれの手伝いしたりしてたから、まぁ心配無いだろうけど箒はそもそも料理が出来るのかって話だし、セシリアもこの前本を見れば簡単だとか言ってたけどちょっとばかり不安が残る。流石に人が食えないようなものは出してこないだろうし心配する必要も無いとは思うんだけど。

 

なんて考えて若干不安になりながらも屋上に向かう。幸いな事に今日は快晴で絶好と言ってもいいような空。そして気温もまだ心地良いと言えるようなものだから結構過ごしやすい。屋上には何故だか芝生が植えられているもんだから寝転がれば最高。

 

「あー……いい感じー……」

 

ごろんと横になれば抜けていくような青空が広がっている。青から段々と濃くなっていく色合いは、その向こうに宇宙が広がってる。

そう言えば束と会ったばかりの頃、こんな感じで空を一緒に見上げたっけなぁ。

あん時の束は自分の夢を話していて、その目はどんなものよりも輝いていた。

 

 

あの宇宙には何があるんだろう。

 

どんな存在が在るのだろう。

 

どんな生物が生きているのだろう。

 

 

あんなに目を輝かせて楽しそうに話していたのは印象に残っている。

なぜなら俺だって何度かあの宇宙に行ってみたいなぁ、とか思ったりしたものなのだから。

誰だって未知への恐怖はあるだろう。でもそれ以上に好奇心や探求心という物が上回るのだ。簡単な事を言えば無重力ってどんな感じなのかな、とか宇宙人は本当に居るのかな、とか。

こんな些細なものでも大人になってからも少しは気になるものなのだ。

 

個人的な意見を言えば人類ってのはその好奇心が無かったら此処まで発展することは無かっただろうと思う。

 

確かに最初は未知への恐怖だっただろう。例えば伝染病なんかがそうだ。

沢山の人々を救いたい、という思いも当然あるに決まっている。しかしその根底にはこれはどうなっているのか、という好奇心とそして理解したいと思う探求心があると思う。

 

そして束はそれが誰よりも圧倒的に強く、そしてそれを満たせるために必要以上の能力があった。束の事を常識が無いとかいう奴も居るがそれは大間違いだ。

 

そもそもの常識とは何なんだろう?

確かに社会常識なんてものもあるがそれもいい所と悪い所の両面を持っている。

科学なんかは最たるものだろう。幾らでも変わってくものなのだ。科学という物は。

 

老科学者が出来ない、不可能だと言った事は必ず出来る事なのだと俺は思う。

 

数年前に常識としてあったことが数年後の今じゃ非常識だなんて当たり前のこの世の中。そんな中で常識を叫ぶ奴はそれこそ非常識なのだろう。

まぁそんなことを考えている俺もそうなのだろう。

 

そんな俺ですら興味を持って、知りたいと思うような存在なのだ。宇宙という物は。束の気持ちもこれ以上、いや計り知れない物だったのだ。それを抑えろと言う方が酷だ。

それを考えれば今の世の中は束にとっては生きずらいのだろう。

 

 

まぁこんな事を考えていても仕方が無い。

今は一夏達が持って来てくれる飯の方が重要だ。

 

 

あー、空が青い。

するとフッと暗くなる。急な視界の変化に付いて行けないがよく見ると一夏だった。

笑いながら俺の事を見下ろしている。

周りには箒も居る。

 

「お兄ちゃん、何見てるの?」

 

「空。いや、宇宙かも」

 

「どっち?」

 

「分からねぇよそんなもん。どっちでもあるんだよ」

 

「そうなんだ」

 

そう言うと一夏は俺の横に座って言った。

 

「お兄ちゃん、お腹空いたでしょ?早く食べよ」

 

「そうだな……うん、腹減ってるしそうするか」

 

「うん!」

 

起き上がって一夏から渡されたお絞りで手を拭く。

そしてその後に渡された箸を受け取ると見覚えのある箸だった。

 

「これ、俺が家で使ってたやつか」

 

「うん。こんなこともあろうかと思って持って来ておいたんだ。二本あるから一本は家に置いてきてあるけどね」

 

「そっか。ありがとう一夏」

 

「うん、どういたしまして」

 

この一夏の事だ。そう簡単に家に帰れない俺に気を使っての事だろう。

少しでも家の事を感じられるようにって所だろうか。いっつも俺に飛びついてくる癖にこういう細かい気配りが出来るのだから立派なもんだ。

 

「セシリアと鈴には悪いが腹減ったんで先に食っちまおう」

 

「そうだね。あ、でもちゃんと二人のお弁当も食べてあげてね?」

 

「当ったり前よ。んじゃ、頂きます」

 

「はい、召し上がれ」

 

手渡された俺用の弁当箱。小さいのは他の三人の物も食べられるように、という配慮だろうか。

蓋を開けてみるとそこに入っていたのは生姜焼きとほうれん草とベーコンのバター炒め、それとベイクドポテト。

あぁ、これ俺の好きなものだ。一夏が家に居る時に作ってくれたものと同じだ。

 

「おぉ、久々の一夏の飯だ」

 

「でしょ?だからしっかりと味わって感謝して食べるんだぞー?」

 

「おうよ。むぐ……やっぱし一夏の飯はうめぇな」

 

「ふふん、そうでしょうとも!なんたって愛情たっぷりだからね!」

 

「そりゃ嬉しいね」

 

と話しながら、むぐむぐと食べ進めていく。

うーん、やっぱり一夏の作る飯は美味いな。俺も一夏が料理が出来るようになるまでは毎日千冬と一夏の飯を作っていたのだがこんなに美味くなかったぞ。やっぱし才能か。くそぅ。

 

隣で座ってる一夏はニコニコとしながら俺を見ているばかりで自分は食べようとしない。

 

「食わねぇの?」

 

「んー?自分の作った料理を美味しそうに食べてる顔を見れるのは作った人だけの特権だからね」

 

「そうなのか?」

 

「そうなの」

 

サッパリ意味分かんないね。まぁ嬉しそうだからいっか。

うん、うまいうまい。

するとそこに遅れて箒達がやって来る。

 

「お待たせしました。あ、やっぱり先に食べてましたね」

 

「おー、悪い悪い」

 

「いえ、気にしなくて大丈夫ですよ。それでは私達も」

 

「そうねー。お腹空いちゃったわよ」

 

「私もですわ。流石にこの時間になるとしょうがないですわね」

 

と口々に言いながら持って来た弁当を広げる。そして俺の分の弁当を渡してくる。ほー、これはこれは……

 

「私は酢豚とご飯よ。ほんとはもう一品作ろうかと思ったんだけどこれでも十分だと思ったから止めといたわ。脂っこいし」

 

「いや、これでも十分だ。いやしかしここまで上達しているとは思ってなかったわ。国に帰った時よりも明らかに上達したろ?」

 

「そりゃ勿論よ」

 

「頂きます……うん、うまいうまい」

 

口の中に入れれば酢豚特有のあの酸っぱさと甘さが。

うん、やっぱしうめぇな。

パクパクと食べ進めていく。気が付けば酢豚は無くなっていた。

 

「あー、こりゃ美味かった」

 

「そ。ならよかったわ。ほら弁当箱寄こしなさい」

 

「ん。あんがとさん。ふぃー」

 

手渡されたお茶を飲んで一息。うん、お茶が美味いね。相変わらずお茶を入れるのが上手いのな、箒は。そして箒も弁当箱を渡してくる。

 

「洋介兄さん、私のもどうぞ」

 

そして蓋を開けてみるとなんともまぁ考えられないぐらいの美味そうなおかずが詰められている。

 

「おー、これまた随分とすげぇな」

 

「でしょう?」

 

中に入っていたのは唐揚げに卵焼き、ほうれん草の胡麻和えと言った物だ。

なんじゃこりゃ、箒はこんなに料理が出来たのか。まぁ取り敢えず食おう。

 

「頂きます」

 

「召し上がれ」

 

「……唐揚げうめぇ!」

 

ふぅ……それは良かったです。他のも食べてみてください」

 

「うん……お、卵焼きも美味いね。しょっぱくて俺の好きな味だ。よく知ってたな?」

 

「それは勿論昔から見ていましたから。知らない訳が無いです(本当は一夏とかに聞いたりしたんだけど)」

 

自慢げに言う箒。嬉しそうに微笑みながらのその表情はやはり幼い頃とは随分と変わって天真爛漫元気一杯、なんて感じではなくなっていたがそれでも兄貴として贔屓目に見ても十分に魅力的だと言える。うーん、何が此処まで箒を成長させたんだろう?(←この変化が自分が原因だなんて思っていないおじさんの図)

 

はてさてそんな三人が作って来てくれた弁当を堪能した訳だが最後にセシリアも作ってきているのでそれもいただこう。どんなのを作って来たのかさっぱり想像がつかない。まさかとは思うがフォアグラとかキャビアなんてもんを持ち出してきたりしてないよな?

 

「それでは私の番ですわね。こちらをどうぞ小父様」

 

そう言って差し出して来たのは小さめのバスケット。

これは、多分サンドイッチか?

開けられた中身を見てみるとそこにはいくつかのサンドイッチが詰められていた。しかも想像していたよりも何十億倍も美味そうなものが。

 

「私はサンドイッチを作って参りましたわ」

 

「まじか。こんなに美味そうだとは思っても見なかったわ。なにこれ魔法でも使った?」

 

「むぅ!失礼ですわ!ちゃんと自分で作りましたの!」

 

「誰の手も借りずに?」

 

「勿論です!まぁ料理本を開いたりはしましたがそれぐらいですわ」

 

「そうなんか……そんじゃ頂きます」

 

「はい!」

 

そう言いながら一つ取って口に近づけていく。

うーん、セシリアってこんな完璧お嬢様だったのか。百パー料理なんてできないと思ってたからたまげたぞおい。でもなんでだろうな?どう見てもBLTサンドなのに滅茶苦茶辛そうな匂いがすんのは。うん、気のせいだな。そうだ気のせいなんだ。

 

一口、口に運ぶとBLTサンドの味が広がった……と思うだろ?

残念ながらそうはいかなかったんだな。

 

 

 

「うぎゃぁぁぁあ!?」

 

 

 

「え!?お兄ちゃん!?」

 

「洋介兄さん!?」

 

「え!?何!?」

 

「小父様!?」

 

 

 

「あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”!?!?!?なんだこれ滅茶苦茶辛い!?ゲホッガホッ!?へぁぁぁ!?」

 

 

 

 

「箒!お、お茶!」

 

「洋介兄さんお茶です!」

 

 

「ング……!?ブホァァ!?」

 

 

「ちょ!?噴き出さないでよ!」

 

「小父様ぁぁぁぁ!」

 

箒が渡してくれたお茶を飲もうとしてもそれを受け付けない。それどころか思いっきり噴き出してしまう。

皆して大慌てで大混乱。そりゃそうだろう。目の前の人間がいきなりこうなったら誰だってそうなる。

 

 

 

「ひぃー……ひぃー……な、なんらこえからすひらろ……」

 

「セシリア?一応聞くけどソースに何入れた?」

 

「え?赤みが足りないような気がしたのでデスソースやハバネロ等を入れましたが……」

 

「どう考えてもそれでしょ……いい?セシリア。BLTサンドにデスソースもハバネロも、取り敢えず辛い物は入れないの」

 

「その、申し訳ありませんでしたわ……」

 

ぐったりとしている俺の横で会話を繰り広げる四人。でも俺にそんな余裕は無く只々ぐったりとしているだけ。おじさん辛いもの得意じゃないんだよ。まぁ寿司にわさびつけるとかファミレスの担々麵ぐらいの辛さならいけるけども。

  

「小父様、本当に申し訳ありませんでした……」

 

「うん……気にしなくていいから……今度からは気を付けてな……」

 

そう言いながらセシリアのバスケットをこちらに引き寄せて中のサンドイッチを食べ始める。

 

「小父様!?」

 

「お兄ちゃん何やってんの!?」

 

「死ぬわよ!?」

 

「ゴフッ……作って来て貰ったんだから食うのが道理だろ……」

 

「小父様……」

 

「洋介兄さん、お茶はここに用意しておきますから」

 

なんて会話をしたところまでは覚えているんだがそっから記憶が無い。気が付いたら保健室で寝てたんだもん。

だって卵サンドが何故かとてつもなく苦かったり、マスタードを挟んでいるはずなのに何故か死ぬほど甘かったり訳が分からないよ。

 

 

 

敢えて言うなら俺は何故か宇宙を見た気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

はてさて気絶サンドイッチ事件(今命名)の数日後。相も変わらず平穏な日常を送っていたのだがそんなものは当たり前の様にぶち壊されていくのがこの学園での生活。

 

今日も今日とて朝起きて顔洗って着替えて飯を食って。毎日やっている事と変わらずに行ってから教室に向かう。そんでもって授業が始まるまで一夏達やクラスメイト達と話をしたりする。ここまでは良かった。ここまでは良かったんだ……

 

教室に入って来る千冬と山田先生を見ながら今日も一日が始まりましたなー、なんて考えていたのにそんな平穏を叩き壊して蹂躙して来たのは他でもない千冬だった。

 

「おい二人共。教室に入れ」

 

「「はい(はっ!)」」

 

うん、この時点では転校生なんだろうな、なんて感じで済ませられるんだけどそれが二人てなんじゃそりゃおいどういう事やねん。

 

しかも明らかに返答の仕方がおかしい子が一人いるよね?

はっ!って何?お主は何者?って思うじゃん。

 

入ってきて更に、驚き桃の木山椒の木。こりゃビックリたまげたなぁ。

金髪と銀髪なんだが、金髪の方は何故だか俺と同じような男子みたいな格好してるし銀髪の方は眼帯してるしもう何が何だかマジで分からん。

 

しかも銀髪っ子の方明らかに機嫌悪そうな顔してるんだよなぁ。ツンツントゲトゲ。ツン120%デレがマイナス120%とか頭悪そうなことを考えても仕方が無いよね。

 

 

だってさ、その銀髪っ子が俺を滅茶苦茶睨んでいるんだもの。そうだこれは夢なんだ。俺はまだ気絶して目が覚めていないんだ。うんそうだきっとそうなんだ。

 

そしてそれよりも遥かにヤバそうな匂いがプンプンしているんだ。何あれ男用の制服なんで着ているんですかねぇ?男装趣味でもあんのかい?

 

そんな事を考えて自分でも分かるぐらいの全力現実逃避をかましていても残念ながら変わる事のない現実ッ!

千冬の声によって進められる転校生紹介。つっても自己紹介しろってだけなんだけど。

 

「ボーデヴィッヒ、デュノア、自己紹介をしろ。名前だけで構わん。他は休み時間にでも各々聞きに行くといい」

 

さっすが千冬!こんな状況なのにあんなに冷静だなんて惚れちゃうわ!

いやでも教師だから二人の事は知ってて当然って事ですか。でも同じ部屋に住んでんだからちょっとぐらい教えてくれても良かったんじゃなくて?お陰でお兄ちゃんの胃はハリケーン並みに荒れ狂うこと間違い無しなんだからね!(情緒不安定)

 

そして始まる自己紹介。

まぁ希望はあるよね。俺はこのまま平穏無事に凪いだ海を手漕ぎボートで進むが如くの生活をおく……

 

「えっと、シャルル・デュノアです。一応言っておくと男です。よろしくお願いします」

 

はい詰んだ。

なんでやねん!?おかしいやろおい!どう見たって女じゃねぇかちくしょー!?

もうどう考えても事故案件でしかないじゃんか!?

骨格とか身体つきとかどう考えても男じゃねぇし、よくよく考えてみたら俺がIS動かした時に出て来るはずだろぉ!?それが今になって出て来るなんて訳アリもいい所なレベル!!

 

 

そして急に冷静になって考えてみる。

 

ううん?これはどう考えても地雷ですね分かります。そして俺はそれを踏み抜いて全力で死にに行くしかないのか。

 

 

 

もうおじさんつかれたよ……

 

 

 

 

 

 

人知れず死にかけていく俺なんて知らんと言わんばかりに進んでいく。

 

 

 

「ど、どういう事!?」

 

「知らないわよ!でも……」

 

「「「「「金髪美少年キターァァァ!!」」」」」

 

フフフフ……お主らそれでええんか……

もうダメだぁ……

おじさんの事など知ったこっちゃないと言わんばかりに大騒ぎになる教室。そして頭を抱える千冬。何だこれもう分かんねぇな。

 

「やっぱりこうなったか……えぇい!お前達少し静かにしろ!」

 

頭を抱えながらも事態の鎮静化を行う千冬は大きな溜息を吐きながら言った。

 

「ボーデヴィッヒ……自己紹介をしてくれ。手短にな……」

 

「はっ!」

 

「返事ははい、だと言っているだろう……」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

千冬の言ったことをしっかり守ってるね。うんいい子いい子。でもさぁ、その滅茶苦茶不機嫌そうな顔が無ければ百満点だったのにもったいねー。

 

 

それで終わると思ってたんだ俺は……なんでこんな簡単に気を抜いてしまったんだちくしょう……これが無ければ俺は死ぬことも無かったのに。

 

 

あー、自己紹介終わりましたねはい授業しますよー、的な感じだったのにどうしてだかボーデヴィッヒはツカツカと俺の元へ歩いてくる。

 

「およ?どうかしたかねお嬢さん」

 

「この……」

 

「ん?」

 

 

 

「この……シスコンがッ!!!」

 

 

 

でっかい声でそう言い放ったのだ。

うん、おじさん分からないよ……どうして俺は初対面の銀髪美少女にシスコン認定されてるのか分からないよ。

 

 

 

 




作者は寝っ転がって空を見るのが好きなんです。なんだか空に手が届きそうな感じがするのがとても好きです。



それと皆ラウラの所でビンタかまされると思ったでしょ!?残念でしたー!プークスクス!ねぇ予想を裏切られて今どんな気持ち!?ねぇどんな気持ち!?


すんません。調子に乗りました。

いやでもね?ぶっちゃけ千冬は二連覇してるしどうやってもビンタ案件にはならないねん。だから滅茶苦茶でもおふざけに走ったというわけさ!
そして安定の中途半端感半端ないよね。気にすんな、何時もの事だからさ!

あ?シリアス?多分あるんじゃねぇの?(適当)



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最近は銀髪幼女にロリコン扱いされ金髪美少女が男装するのが流行っているらしい。 もういい加減にしろ!おじさんの胃には穴が開きそうなんだよぉ!

 

 

 

 

「一夏ぁ……俺ぁもうダメかも知れねぇ……ガクッ……」

 

「おにいちゃぁぁぁぁん!!!」

 

「もうやだこのクラス……」

 

「あらー」

 

「まぁ実際その通りだから言い返しようがないな。洋介兄さんはそろそろ気付いてくれていいと思う」

 

「佐々木さん、愛されてるねー」

 

「まぁ佐々木さんの過保護っぷりはすっごいしね」

 

 

俺は口撃で撃沈する。だって見た目銀髪幼女にあんなこと言われたら一部のド変態を除いて誰だってダメージを負うよ。

 

そんな俺を抱き抱えて泣き崩れる一夏。やっぱしお前はいい子だよ。それがジョ〇ョの一部シーンみたいな顔じゃなけりゃ様になってたんだけど。流石我が妹よ。おふざけの才能に磨きが掛かってきているな。

 

俺達に絶望して顔を手で覆って天を仰いで嘆く千冬。天井しか無いんだけどそれでいいのか。取り敢えずいいからこの混乱を治めて頂戴。

 

呑気に頬に手を当てて微笑と共にあらあらまぁまぁなセシリア。頭いいし美人だし、料理はあれだけど完璧に程近いセシリア。でもやっぱしこの子結構マイペースなんじゃね?

 

箒は援護どころか敵に回る始末。お前はお兄ちゃんが好きじゃないのか。というか最後の何?俺は何時でも愛してるぜのに?

 

クラスメイト諸君、それは無いんじゃないかな?過保護じゃないよ、普通だよ。

 

 

 

 

はてさて、一体全体どうして、何故我がクラスがこんなカオスな状況になっているのか。

出来ればおじさんの心がこれ以上持ちそうにないから説明したく無いんだけどまぁしょうがない。

 

 

 

発端はちょくちょく出てきた銀髪幼女ことラウラ・ボーデヴィッヒちゃん。

見た目は完全に手を出したらアウトですね。身長も鈴と同じかそれ以下。銀髪で何故だか右目に眼帯をしている。ス〇ークでもリスペクトしてるのか?十人中十人が美少女だね、とでも言いそうな感じだが。だがしかぁし!

我がクラスがこんな事になった元凶は何を隠そう彼女なのだ。

 

ラウラちゃん、恐ろしい子ッ!

 

 

 

しかも一番最初に放った言葉が、

 

「この……シスコンがッ!!!」

 

なもんだからおじさんの心は一瞬にして引き裂かれて消し飛んで椅子から崩れ落ちた。だって誰だって初対面のお嬢ちゃんにそんなこと言われるぐらい周知の事実だなんて、おじさん恥ずかしい! 

 

穴があったら入りたい、とはまさにこの事よ。

 

さっき言ったけど教室は阿鼻叫喚。俺は死んだふりをしてそんな俺を抱きかかえてウソ泣きする一夏。そんなことが毎回起きる担当クラスに絶望した千冬はアハハハ!!と笑い、箒は事実だと肯定して、セシリアはあらあらまぁまぁ。クラスメイトは別の意味でもそうじゃなくてもお騒ぎ。

 

駄目だ……このクラス、狂ってやがる……

 

 

と言わんばかり。

既に収拾なんて無理だよね。おじさんにはこれを収めることは出来ねぇ。

そしてこの混乱を招いた本人は、なぜこうなったのか全く分かっておらず。

 

「む?む?」

 

とキョロキョロと周りを見ている。

もう諦め気味の千冬と、千冬が収められないのなら無理ですよねと言わんばかりの山田先生。

 

「はぁ……後で落ち着いたらまた連絡事項を言いに来る……一応ここに予定表を張っておくから見たい奴は見てくれ……」

 

そう言って疲れた顔でフラフラと職員室に戻ってしまった。

これはまた夜になったら泣きついてくる未来が手に取るように見えますね。

 

まぁそんな妹も大歓迎なんですけどね。可愛いから許しちゃう。

 

 

そんな当の本人の目の前にジャジャーン!とケロッと回復、おじさんが登場。

 

「お嬢ちゃん」

 

「む……私はお嬢ちゃんでは無いぞ!ラウラ・ボーデヴィッヒだ!」

 

「あぁそう……じゃなんて呼べばいい?」

 

「少佐だ!」

 

フンス!と無い胸をババーンと張って言った。

おいまじか少佐ってガチモンの軍人さんじゃないっすか。ていうかこの年齢の子供を軍で働かせてるとかアウトじゃね?まぁそんな事なんてそこら辺にゴロゴロ転がってんだろうけどさ。俺も巻き込まれそうになったし。あ、現在進行形か。

 

でも少佐っつってもよ、俺は軍人じゃねぇし部下でも無いんだけどなぁ。

 

「俺は軍人でも君の部下でもないんだけどねぇ」

 

「む、そうだったな……しかし少佐としか呼ばれたことが無いぞ」

 

おう、マジでか。まぁそりゃそうか。自分の上司を気軽にラウラちゃーん!なんて呼べる訳もねぇか。

 

「んじゃ好きに呼ばせてもらっても良い?」

 

「いいだろう」

 

「そんじゃボーデヴィッヒとラウラどっちが良い?」

 

「……ラウラでいい」

 

少し考えて名前呼びを許してくれた。

 

「そんじゃラウラで。そんでちょっと聞きたいんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「なんで俺の事シスコンだなんて言ったのさ?俺君に会った事なんて一度も無いし話したことも無いぜ?」

 

そう、俺はこの嬢ちゃん、ラウラにマジで会ったことが無いのだ。

 

もしかして会った事がある?いやでも全く分かんねぇしな……

あれぇ……?俺ってばそんなに記憶力悪かったっけな?でもこんな綺麗な銀髪見たら絶対に忘れないと思うんだけどな……日本人なんて黒とか焦げ茶が殆ど……いや、そんな事ねぇわ。束とかいるし。まぁ気にした事ねぇんだけど。綺麗だしやたらと良い匂いしてるしまぁそんなもんよね程度にしか思っとらんかった。何時も抱き着いてきておっぱいが凄くて忘れがちだけど。

 

あ、生徒会長さんも水色っぽい髪だし。まぁあんまし繋がりは無いからあれだけどさ。

内のクラスにもいるよな。本音嬢ちゃんとか。

 

……あれ?思ったよりも黒髪少ない……?

 

いや今はそれどころじゃないな。

まぁ確かに日本人の黒髪離れは個人的にもっと問題になってもいいような気がするけどそうじゃない。今は目の前のラウラに会った事がないのに俺の事を一方的に知っている事だった。

 

 

うーーーーん…………

 

うん、会った事ねぇわ(適当)

 

今一度聞いてみる。

 

「なんで俺のこと知ってんのよ?マジで会った事無いぜ?」

 

「それはそうだろう。私は軍の基地の外を見た事が無いからな」

 

「おぅ……」

 

図らずもなんだか重いことを聞いてしまったよ……

反応に困る事をサラッと言ってくれっちゃって。でも本人はそれが当たり前だと思ってるもんだから疑問に思っていないのだ。何つーか、話は別だけどよ、同い年の妹を持ってる身としちゃ何だかな……

 

 

 

 

 

「それで、なんで俺を知ってるのさ?」

 

「ん?知らないのか?テレビやニュースで良く映っているぞ?」

 

「あぁそりゃね……勿論知ってるよ。ま、自分の顔が映ってるもんなんて見たかねぇけど。そんで?俺はどんな風に言われてる?」

 

世間で俺はなんて言われてんのか。まぁ一応有名人だし?気になっちゃうよねー!

 

「人によるな。ある奴は女尊男卑を無くす希望だと言っていたし、ある奴は研究所で飼い殺しにしろ、とも言っていた。政府で保護するべきだ、国連で共同管理するべきだ、色々だな」

 

残酷だ……!しかも研究所で飼い殺しとか、国連で共同管理とかもう完全に人間扱いされてねぇじゃねぇか畜生。

 

「はっ、相変わらずこっちの都合なんかを一切考えない物言いだな。ホテルで軟禁されてた時、俺がIS使えるって分かる前から変わりゃしねぇ。俺は俺のもんだ。誰の物でもねぇってのによ」

 

「そんな事を言っても立場が許さないだろう。まぁそういう事を言った奴は度合いも様々だが軒並み酷い目に合っている」

 

それに関しちゃ何となく誰がやったのか想像が付く。

俺の妹達を舐めるなよ?マジで。舐めてかかると痛い目見るぞ。俺は実際そうだったぜぇ。(経験者は語る……)

 

「そんなこったろうと思ったぜ。束辺りがやったんだろうよ」

 

「そんなに驚かないんだな?妹のような存在だ、と聞いていたが」

 

「妹の様な、じゃない。妹なんだよ。あいつも。どうせ違法な事はしちゃいねぇよ。大方悪さの証拠を搔き集めてそれを暴露したとかそんなとこだろ」

 

アイツは何があっても、誰が何と言おうと俺の大事な妹なんだ。

まぁ向こうはどう思ってるか知らねぇけどさ。昔はお兄ちゃん呼びが今じゃおじさん呼びだ。

俺が言うとラウラは驚いたように言った。

 

「おぉ、大当たりだ。女権団から科学者、政治家、軍人連中なんて叩けば幾らでもそう言うのは出て来るからな」

 

「だろうな」

 

「……今更だが私は貴様を何と呼べばいいのだ?」

 

「あ?本当に今更だな……あー、好きに呼んでくれ」

 

「ふむ……ならば織斑教官に習ってお兄ちゃんと……」

 

「はいストップ。それ以上言うのは止めましょうねー。主に俺の身に危険が迫るから」

 

「む。ならばササキでいいか」

 

「それでいいよ。……ん?ラウラって千冬の知り合いなの?」

 

「そうだ。一時期教官がドイツに居た頃にお世話になった」

 

「あー、あんときの……」

 

確かに千冬は1年ぐらいドイツに行ってたな。一夏が誘拐された時に千冬に情報を

提供したとかなんとか。

でも護衛を担当してたのドイツ軍だし護衛出来ずに一夏誘拐されてんのよ?なのにあれっておかしいだろ明らかに。

 

「初めてササキの存在を知ったのはその時だがな」

 

「え?なんで?」

 

「教官がよく写真を見ていた。何枚か持っていたようでな。あの鉄面皮だなんだと言われていた教官がその時だけは全く別の顔をするんだ。電話をしている時も相手によってだが物凄く嬉しそうな顔をしていたぞ。兄さん、と言いながらな」

 

「初めて聞いたぞ妹のドイツでの生活」

 

「なんだ、聞いたことなかったのか」

 

「あんま話さねぇのよ。あの時は電話でただ世間話しただけだしな」

 

「そうなのか。なら私が教えてやろうか?」

 

「ん?あー、良いよ別に。知りたいっちゃ知りたいけど」

 

「そうか。聞きたくなったら何時でも来ると良い」

 

そう言うとラウラは自分の席に戻って行った。

あ、そう言えば金髪の子の事忘れてた。

 

……うん、完全に取り囲まれて揉みくちゃになってますね。うちのクラスメイトは団結力が強いんだ。

 

あ、こっち見た。助けて欲しいと訴える様な目をしているが残念だったな!俺にはそんな猛獣の檻に飛び込んでいく勇気は無いッ!

 

だからすまんが自分で何とかしてくれ。後でお詫びするから。

 

って感じの事を目で伝えたら絶望したような顔をした。

うん、俺は何も見てない。

 

 

 

 

 

ホームルームが終わり、さぁ授業となった訳だが?

まぁ別に特筆するような事も無いので飛ばしましょう。だっておっさんの授業風景とか見たい?

 

あ、でも今日は久々にISの実習があるんだったわ。

まぁ俺は専用機持って無いからどうってことは無いんだけど。

後を付いていくだけだし。でもその内無理矢理渡されそうなんだよなぁ……データ収集がどうこうとか色々理由を付けて。

はぁ……嫌になっちゃうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

「これで授業を終わりにする。次は実習だ。遅れるんじゃないぞ」

 

「起立、礼」

 

「「「「「「「ありがとうございました」」」」」」」

 

待ちに待った実習の時間。別に楽しみじゃないんだけど。結構疲れるんだよ。

 

「あ、あの……」

 

「んぉ?おぉ、誰かと思えば転校生くんじゃないっすか。どうした?」

 

俺に遠慮がちに声を掛けてきたのは今朝女子達に揉みくちゃにされてたシャルル・デュノア君。

いやしっかしこれで男?………………いや、女だろこれ。骨格とか諸々が男の物とは全くの別物だし。ま、なんか色々とヤバそうな匂いするからあんまし突っ込まないでおこ。藪蛇はおっかないぜ。

 

「朝、挨拶出来なかったので……」

 

「あー、色々あったからな。ま、気にすんな」

 

「ありがとうございます。シャルル・デュノアです。宜しくお願いします」

 

「おじさんは佐々木洋介ってんだ。そんなに固くならなくていいぜ?」

 

「あ、えっとその、分かりました」

 

「おう。そんじゃ行くか!」

 

「え?どこに行くんですか?」

 

「そうか、説明されてねぇのか。これから実習だろ?女子連中はこの教室で着替える。だけど男子は今のところ俺らだけ。だから教室は使えない。んでもって男子更衣室は何処にも無い。でもアリーナには更衣室がある」

 

「まさか……」

 

「今からアリーナに行って着替えるんだよ。暫定的にアリーナの一部の更衣室が男子用になってっからな。でも距離があるから走るぞー」

 

って事で俺達は着替える為にアリーナに向かう。つーか更衣室ぐらい作って欲しいもんだが二人しか使う人間がいないから勿体無いって事なんだろうけど。でもそれ考えたら俺に専用機押し付ける方がよっぽど勿体ない気がするんだけど通じねぇんだよな。都合良いこって。

 

「はぁはぁ……佐々木さん、速い……」

 

「ぬははは!おじさんもう慣れた!」

 

(いや、佐々木さんの体力が凄いだけなんじゃ……)

 

「おら、とっとと着替えんぞ。遅れたら千冬にドヤされるからな。俺は勘弁だ」

 

話ながらもぱっぱと着替える。

俺、制服の下にパイロットスーツ着たくないんだよな。あちぃしなんか落ち着かんから。

 

「んじゃ、俺は先に行ってるぜー。早くしろよー」

 

「あ、はい」

 

ま、俺が居たら着替えらんねぇだろ。

男の格好してるとは言え中身は丸っきり女の子なんだ。だって俺が着替える時めっちゃ顔赤くしてたもん。スパイにしろ何にしろおざなりすぎやしませんかね?歩き方も話し方も女のまんまだし。

あ、因みにおじさんには着替えを無理矢理見せたりして興奮するような性癖はありません。だからロッカーのドアで出来るだけ隠したつもりです。

俺だって女子高生に自分のブツを見られたくねぇよ。そんな話が出回ったらマジで死ぬ。本気で死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、それでは授業を始める。山田先生お願いします」

 

「はい!それでは皆さん、授業を始めますねー」

 

相変わらず実習の時はイモジャーな千冬と何故か毎回ISを操縦するわけでも無いのにパイロットスーツに着替える山田先生。ホントに何の意味が?

 

千冬は座学に関しては教えるのが上手いんだが実技になると途端に下手糞になる。なんで擬音が出て来るんだ。おかしいだろ。だから本人はどっちかって言うと監視の意味合いが強い。千冬の目の前で危険な事をする奴は居ねぇもんな。俺も無理。

 

これから行う授業は専用機持ちの下にそれぞれ班ごとに集まって訓練機を一機ずつで操縦訓練を行う。

あ、因みに俺は一夏の班な。

 

「それでは班ごとに分かれてISをそれぞれ持って来ましょうねー!あ、機体はラファールと打鉄が二機ずつなので早い者勝ちですよー」

 

指示に従って機体を取りに行く。

どっちでもいいって事だから残った奴でいいや。

闘争は俺に似合わないんだぜ……

 

 

 

って事でおじさんの班は打鉄になりました。

 

「佐々木さん、ありがとうございまーす」

 

「あいよー」

 

まぁ俺は別に乗らなくても良いんだけどね。だってトーナメントの時も散々乗ったし挙句の果てに俺は何故か訓練機を優先して貸し出されることになってるから別に今乗らなくても良いんだよな。って事で他の皆に譲りました。

今回も特に問題無く授業は終わりました。

 

 

 







ぶっちゃけ原作通りのキャラだと無理があると思って全体的にもう面倒だからマイルドにしちまおうってなったらこうなった。

シャルル?知らない子ですね(すっとぼけ)




ちょっと今回は短いけど許して。


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今日は銀髪、明日は金髪

今日はいつも以上に一日が大騒ぎだった。

朝から転校生が二人も来たと思えば?そのうちの一人は男(女)で?もう一人は俺の事をシスコン呼ばわりして?

 

もう字面だけで何が何だか全く分からねぇな。

まぁでもラウラは何となくだけどシスコンの意味を分かって無さそうだったけどな。

 

まぁそんな訳で今日は大忙しだった。

そんな一日が終わりを告げて、今はのんびりと自室でゴロゴロしている。

 

しっかしあの二人、完全にヤバい匂いがするな。

ラウラは問題無さそうなんだけど、本国のドイツが物凄くクセェ。

そもそもあの年齢の嬢ちゃんを正規軍人としていること自体がおかしい。いや、鈴もセシリアも一夏も専用機持ちには基本的に有事の際に出張らなきゃいけないってなっている。

だが、あくまでもこれは緊急事態のみに限られる。軍人としての訓練は受けてはいるが軍人ではない。

 

と言うのが国の考えらしい。

まじでよく分からん。軍事訓練を受けたらその時点でおかしいじゃないですか。

ISを軍事利用しないって条約どこに行った。仕事しろ。

 

まぁよく考えれば確かに少数精鋭のISを個人に渡しているし、それを無駄に出来る訳が無い。

しかぁし!それとこれとは話が別じゃい!

 

 

あとシャルルって言う子!

どう見ても男じゃねぇだろ!?皆馬鹿なの!?そんなに気が付かないぐらい変装上手くないだろ!どう考えてもバレる事前提みたいな雑さじゃねぇか!

 

やるんだったら徹底的にやってくださいよ!?

髪の毛伸ばしたまんまだし、明らかに話し方も歩き方も、日常における全ての動作が女のそれなんだよ。

 

俺だって丸っきりの素人じゃない。

一応無手ノ型を習った時に人体関連の事を色々と教えられた。

急所、急所の潰し方、関節、関節の可動域とかについて色々と。

身をもって叩き込まれたのだ。

 

素人じゃどうか分からんが多少の知識がある奴が見れば丸分かりなのだ。

どうやったらバレないと思ったんだあれで。ちょっと酷すぎるぞ。

マジで何がしたいんだレベル。炎上待ったなしな気がする。

この学園にはそう言った事に関しての知識は最低限ある筈だ。

予想で言えば千冬は間違い無く気が付いている。

千冬の師匠は俺と同じ師範だ。教えられていない訳が無い。

 

 

 

なんてアホな事を考えていると千冬が部屋に入って来る。

で、話があるとか言い出して部屋で話すことに。

 

「今日転校してきた二人、詳しく言うことは出来ないが兄さん、気を付けてくれ。何か企んでる」

 

「言われなくても分かってる」

 

「なら良いんだ。無警戒でホイホイ付いて行かれては堪ったもんじゃないからな」

 

「それにしても目的って何なんだろうね。俺なのは間違いなさそうだけど」

 

「分からない。学園側から束に依頼という形で調査を依頼してある。それが終わるまでは何とも。凡その目的は兄さんだろうとしか言えない。もし何とかしようとしても証拠が無ければ何も出来ない」

 

「そりゃそうでしょうよ。ま、それに関しちゃ俺は千冬と束を信じてっからなんも言わないよ」

 

「ありがとう兄さん。あ、それとデュノアの事、気が付いているだろう?」

 

「そりゃモチのロンよ。俺は師範から直接色々と叩き込まれてんだぜ?分かんない訳無いだろ」

 

「それもそうか。でも気を付けてくれ。もし何かあったら私が動く前に束がフランスを海に沈めるだろうからな」

 

「ははははなにそれ笑えない冗談ですね」

 

俺が笑えないなと思って言ってみると千冬は真顔で答えた。

 

「冗談も何もあるか。束ならやりかねないし何だったら私も手を貸す」

 

「……やめて。お兄ちゃんに無駄な胃痛を感じさせるのをやめて」

 

思わずそんな光景を思い描いたらちょっと、いやマジで普通に頭痛と胃痛が痛くなって来た。あ、日本語おかしくなった。

 

「多分一夏と箒も加わるだろうな。他にも何人か手伝うだろうな」

 

「分かったから!分かったからもう止めて!」

 

千冬の言う通り何となく予想出来た。いや怖くて出来んかった。

束も千冬もやりかねないし、唆された一夏に箒、鈴ならやる。あいつら結構チョロいからね。

 

「つか学園側で何とか出来んの?」

 

「出来なくも無いが、出来ないと言った方が正しい。この学園はISを専門に教えているただの学園だ。外交能力も無いし国家とやりあうのは無理がある。今ですら表向きはどうという事は無いが、形骸化しているとはいえIS学園への国家の干渉を禁ずる、という条文が無ければ今頃はもっと酷い事になっていただろうさ。武力を以って直接的に兄さんを狙う、なんて当たり前になっているだろうさ。ま、そんな事になるぐらいだったら束と一緒に雲隠れして貰うがな」

 

帰って来た返答は何とも言えない物ばかり。

確かにこの学園は国家ではないし、自治区の様な物でもない。あくまでも特殊とは言っても一つの教育機関でしかないのだ。

外交手段を少なくとも俺が知っている範囲では持ち得ていない学園じゃ最悪、取り込まれるのがオチだ。

まぁ今の今までそう言う事が何も無かった事が不思議な位だ。よく分からん。

何かしらの方法があるのかもしれないが少なくとも俺が知る事じゃない。

 

「千冬まで束みたいな事を考えていたのか……俺としちゃ不安なんだけど」

 

「何を言っているんだ?これからももし危険が迫ったら雲隠れして貰う計画だからな」

 

「え?俺の意思は?」

 

「殺されたり解剖されたり実験動物にされたり種馬にされる方が良いのか?」

 

「いえどうか雲隠れでお願いします」

 

上げられた俺のもしかしたら有り得るよ!な未来を言い並べられて即答で雲隠れを願い出た。というか種馬って。

美人だったらいいけど女権団や政治家の厚化粧の豚共は絶対に御免だ。

 

「兄さん、余計な事は考えない方がいいぞ?問答無用で束の隠れ家にぶち込んでやろうか?ん?」

 

あらやだ千冬さんってば俺の思考を完全に読んでいらっしゃるじゃないですやだー。

考えを読まれて内心冷や汗ドバドバ膝ガクガク。

それでも何とか答える。

 

「何言ってんですか千冬さーん。余計な事考える訳無いじゃないっすかー」

 

「本当だろうな?」

 

必死に言い訳をする俺を冷えた目で見て来る。

いやそんなまさか全部筒抜け?いやそんなまさかねあははは。

 

「うへへへ……本当っすよ」

 

「……ならいい。話はこれで終わりだ。それじゃ、念を押すが本当に気を付けてくれ」

 

「わーってるよ。心配してくれてありがとうな」

 

「ん」

 

「それにしてもフランスもドイツもなのか。教え子が居るからドイツに関しちゃ問題無いとか言ってもおかしくなさそうだけどな」

 

「何を言っている?全てにおいて家族を優先させるのは当たり前だろう。教え子だろうがなんだろうが兄さんと一夏に危害を加えるんだったら敵だ」

 

「そうなのか」

 

「あぁ。それにラウラを含めた教え子はまだしも、ドイツという国自体は私は嫌いだからな。あの時のやり方と言い、軍と言い研究者共と言いあの国は嫌いな事ばかりだ。まぁ国民とかはその限りじゃないが」

 

「おいおい、そんなこと言っちゃっていいの?問題にならない?」

 

「ふん、あの国が隠していることに比べれば何てことは無いさ。それに盗聴盗撮しているんだったらそっちの方が問題だし、前提としてこの部屋にそう言うのを仕掛けるのは不可能だと思っている」

 

「国が隠している事云々はおっかないから聞かないことにしておくとして盗聴が無理ってどういう事?あ、まさか」

 

「そのまさかだ。束にそう言うのが無いか点検して貰っているからな。あいつの前じゃ無駄な努力にしかならんさ」

 

やっぱ束に電子戦なんて挑むもんじゃねぇな。

……もしかして俺の秘蔵フォルダの中身も知られちゃってる?いや、束はそんなことする筈無いよね。うん、そうだ信じよう。

 

 

 

 

それから千冬は最後にもう一度、俺に気を付けるように言って部屋から出て行った。

 

 

やっぱり考えてみると俺には勿体無いぐらいの出来た妹達だよ。全く、妹に守られていないと人として生きていられないなんてな。情けない限りだ。

 

 

何とかならないものか。

ま、今考えても仕方がねぇってことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

おじさんは特にやる事も無く、ボケーっとしていた。

だってなぁ、転校生の一人は男の格好した女の子なんだぜ?どうしろって言うねん。いくらおじさんと言えども無理やぞ。

 

 

それになんでだか避けられてるような気がしなくもないんだよね。

あれかな?もしかして女の子だって気付いている事を気付かれた?

 

昨日、着替えたりする時に気を使ったのが分かったんかな?

トイレも場所を案内する関係で付き添ったけど、別に俺がしたかった訳じゃないからとっとと帰っちまったし。

 

……もしかしておじさん嫌われた?

それはそれでなんかあれだな。

いやでもスパイに嫌われても目的は達成しようとするから意味無いじゃん。あれ?これ好かれてこっちに取り込んだ方が良いのでは?

 

…………いや、やめとこ。下手な事したら千冬と束の頑張りが無駄になっちまう。大人しくしとこ。怒られるのもヤダし。

 

そういえば、全く関係ない話だけど千冬に睨まれるのは怖いけど束に睨まれるのは怖くないのだ。

 

千冬はマジで普通に睨んでくるんだけど束はどうしても睨み切れていない。

そこが可愛くて可愛くて、怒られてる気がしない。

しかも結局束は、「しょーがなーいなー!」って言ってあっさり許してくれちゃうのだ。おまけにハグと頬にキスを付けて。

そして俺もお返しでハグをする。

 

 

いやぁ、愛されてるね!

 

 

 

さてさて、そんな事よりも今は目の前に何故か居るラウラちゃんに関してだ。いや、どういう事?俺何かしたっけ?

 

「ラウラちゃんよー、おじさんに何の用で?」

 

「いやなに、ササキと話してみたい、と思ってな。クラスメイトに言われてから気が付いたんだがどうにも私は世間知らずらしくてな」

 

「えー?俺の話を聞くのー?役に立たないかもしれないんだぜ?千冬の方が良い気がするんだけど」

 

「いや、教官は仕事で忙しいだろう?それに比べてササキは顔が暇そうだ」

 

「わぁお。俺の顔って暇そうなのか」

 

これからは忙しそうな顔をしよう。

 

「でもなんで俺なのさ?それこそさっきも言った通り千冬で良いだろうに。俺じゃなきゃいけない、なんて訳じゃないだろ?」

 

「さっきも言ったが教官は忙しいだろう?それにこの学園に居る人間の中で一番の年長者だし、なによりあの教官が唯一気を許している存在だ。家族だ。それだけで十分だ」

 

「えー……まぁ年長者ってのは分かるけどよ。でも千冬が俺に気を許しているなんてどうして分かるん?」

 

「いや、単純に第一回モンド・グロッソの時の優勝インタビューを見た感想だな。あんな笑顔の教官は見た事が無いぞ。あんな笑顔を見せるという事はそれほど、という事だ。ドイツに居た頃は常に気難しそうな顔か無表情が基本だったからな。初めてササキと電話している所を見て笑っているのを見て度肝を抜かれた」

 

「そうなんか。ま、何聞かせりゃ良いのか分からんけど適当に聞きたいことを聞いてくれや。あ、因みに女関係の事は聞かないでくれ。悲しくなる」

 

「そうか。なら好きに質問させて貰うぞ」

 

「バッチコイ」

 

それからは怒涛の質問攻め。

それに答えられる範囲で答えた。いや、昨日の今日で気を付けろと言われたんだからヘマはしない。

 

ってなわけで質問に答えていった。

暫くすると気が済んだのか、腕を組んでうんうんと頷きながら言った。

 

「時間を取らせてしまって済まなかったな。ありがとう。用件は一応終わった」

 

「おう。全然へっちゃらよ」

 

「もし何かまた聞きたい事が出来たら聞きに来るから。ではな」

 

「おーう」

 

そう言ってラウラは帰って行った。

なんちゅーか、あれでスパイなんて務まんのか?

 

…………いや、無理だな。うん。あれでスパイが出来るんだったら俺にでも出来る。

 

俺と話してる時の顔、ありゃ本当に幼児、小学生って言った方が良いだろ。軍人としちゃ優秀なんだろうがありゃ人間としちゃ子供も良い所だろ。世間知らずにも程があるんじゃねぇのかアレ。

 

 

 







今回マジで短いです。しかも内容アレだし。
まぁ感想くださいや。



追記
お気に入りが6500軽く超えてた……
まじびっくりしたんですけど?

ありがとうございます!


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外国人ってどうして日本文化を勘違いしているのか?いや、勘違いにしても勘違いしすぎなんじゃないですかね?

 

 

イエァ!

今日もおじさん元気だぜっ!

 

それはそうとラウラちゃんとここ最近よく話すんだけどさ、もうものすっごい日本に関して勘違いをしてんのよ。

それもかなり深刻なレベルで。

 

いや、いくらなんでもあれは酷いよ?

しかも全部、漫画の知識なんだよなぁ……

 

日本には海賊なんていないし、一繋ぎの大秘宝も無い。何でも願いを叶えてくれるドラゴンなんて何処にもいないし、忍者がエネルギーボールをぶん投げたりしない。そもそも忍者なんていない。

世紀末でも無い。そもそも日本のどこに荒野があるってんだ。

いや、全部漫画の中にはあるけど。

どんな想像をすればその結論に至るのか不思議でしょうがない。常識的に考えてみ?そんなんがリアルだったらこの世界終わりでしょ。

 

宇宙人なお姫様含めたヒロインにラッキースケベをかましまくる高校生も居ないし、ヤクザの息子がハーレム学校生活なんてのも無い。

 

 

 

 

 

 

それらが全部違うと否定した時のラウラちゃんの顔よ。

もう面白くて面白くて大爆笑しちまった。

 

そして今も。

 

「ブハハハハ!!!」

 

「なっ!?笑うんじゃない!まさかこれも違うのか!?」

 

「いやいやいやいやいや!!だってよ……自分の気に入った相手を自分の嫁だとかなんだとかそれはねぇぜラウラちゃんよ!!」

 

「な、な、なん、だと……」

 

「そりゃ少女漫画とかの世界でならあれかもしれんけどよ」

 

今もどういう訳か、自分の気に入った相手を嫁に出来るとかなんとか言ったし。

いやそんなん有り得へんやろ。大昔の絶対王政かよ。

 

「まさか、宇宙戦艦も無いのか……!?」

 

「当たりめぇだろ。むしろ何故あると思った」

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

頭を抱えて叫んでいるラウラちゃん。うん、宇宙戦艦も波〇砲も宇宙海賊も存在しねぇよ?そんなのがあったら今頃世界大戦に突入してるわ。いや、宇宙大戦か。

 

「……筋肉ムキムキな火星産ゴキブリは?」

 

「それも居ないな。束辺りに頼めば作ってくれるかもしれんけど」

 

「そんな……そんな……ササキは私の夢を壊して楽しいか!?」

 

「べっつにー?……ふっ……」

 

「ぬぅぅぅ!!」

 

火星産ゴキブリって。束なら頼んだらマジで作りかねんな。いや、そもそもあれどうやったら出来るんだ?

しっかし、ラウラさてはこいつオタクだな?

別に駄目じゃねぇけど幾ら何でも知識が偏りすぎだ。

 

鼻で笑ってやればポカポカと叩いてくるが痛くも痒くもない。

 

 

「そもそもどっからその情報を仕入れて来たん?漫画?」

 

「ん?いや、本国に居る私の部隊の副官だが」

 

「なるほど理解したわ」

 

「なにがだ?」

 

「いや、何でもねぇ」

 

良し分かったぞ。ラウラの世間知らずというか、そう言うのの元凶は多分その副官とやらだな。

そしてある事無い事吹き込んでいるのもそいつだ。

ラウラって真っ白なキャンバスみたいなもんだから教えられたらそれを全部信じちゃうんだよ。

だから多分俺が今ここで変なこと教えたら間違いなく簡単に騙される。

やんないけど。……やんないよ?もしかしたらやるかもしれないけど……

 

「もしかしてその人から俺がシスコンだって教えられた?」

 

「うむ、そうだぞ。教官が電話して、笑っている所を見て、それはどういうことなのか聞いたら〔日本に年の離れたお兄様が居ると聞いた事があります。その時の顔を聞いた限り、恐らく織斑教官はブラコン、で間違いないかと。そして織斑教官からの話を聞く限り、そのお兄様もシスコンだと思われます〕と言っていた」

 

「なんだその極論過ぎる解釈と説明は」

 

「ん?ブラコンは自分の兄弟が好きだという事なのだろう?そしてシスコンは姉妹の事が好きだという事だろう?事実ではないか」

 

「くっ……俺はこの純粋な目には勝てそうにないぜ……」

 

「む?何か違ったのか?」

 

「……いや、うん、それで合ってるよ。うん合ってる」

 

駄目だった……!

俺にはこの純粋な瞳で見つめて来るラウラを完全に否定しきれない!

 

「そうだろうそうだろう」

 

なんでそんなに自慢げなんだ。

言わないけどそれも間違ってるっちゃ間違ってるんだからな?

何時かちゃんと教えないと。

 

「あ、そう言えば他にも何か言っていたな」

 

「え?」

 

「小さな声で、禁断の愛だとかなんとか。禁断の愛とはなんだ?ササキ、教えてくれ」

 

「ラウラ、お前にはまだ早いぞ。その内知る事になるだろうからまだ知らなくていいんだ」

 

「む……そうなのか。ならば仕方が無い」

 

ラウラが隣でそう納得しているのを見ながら俺は一度その件の副官とやらを〆なければなるまい、と考えていた。

 

「しかし、海賊もニンジャもドラゴンも世紀末も火星産ゴキブリも、何も無いとは驚きだ……それでは私が物凄い覚悟をして来たのが馬鹿みたいではないか」

 

「なんだぁ?態々そんなもんの為に覚悟なんかしてたのか」

 

「当たり前だろう!?色んな能力を使う海賊だぞ?ニンジャだぞ?北斗七星の世紀末だぞ?寧ろなぜ日本人はこんな話を聞いて危機感を持たないのか不思議でしょうがない」

 

「いや、そりゃ日本が平和ボケしてるってのもあるんだろうけどさ」

 

 

 

 

「そもそもそれ全部漫画とかアニメの世界の話だから」

 

 

 

 

「ははは、ササキは冗談が上手いな」

 

「……」

 

「ははは、はは、は…………本当に?」

 

「うん」

 

いや、そんな信じられねぇ!ふざけるな!なんて目で見られても俺は何も言えないんだけど。文句は俺じゃなくて副官さんに直接言って欲しい。

 

「うそだーーーー!!!」

 

「あ、どっか行っちゃった」

 

なんか涙目になりながら何処かに走り去って行くラウラ。

おじさんは子供の夢を打ち砕いてしまったらしい。

 

 

……あとで謝っとこ。

 

 

あれ見た千冬とか一夏になんかお小言言われそう。

いや、セシリアと箒だな。あの二人はオカン染みて来てる気がするのは俺だけじゃないはず。

お前らは俺のかーちゃんかよ。止めてくれ、二人もかーちゃんいるとかおっかなくてしょうがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、それは別としてさっきから茂みの影から俺とラウラの話を聞いているシャルル・デュノア君に声を掛けてみるとしよう。

このまま後を付けられるのもおっかないしな。

 

「んで?そこでさっきから立ち聞きしているお嬢さん。俺になんか用かな?」

 

「っ!?……気が付いていたんですね?」

 

「そりゃぁモチのロンよ。おじさんを普通のおじさんと思わないこったな。で?俺に何の用かな?シャルル・デュノア君」

 

「………………その、えっと……」

 

何かを考えながら、苦しそうな顔をしている。

うん?調子でも悪いのか?いや、でも顔色にこれと言って問題は無いし。

 

「……少しだけ、お話しても良いですか……?」

 

「お話ぃ?少なくとも俺に何の話があるのか見当も付かねぇんだがなぁ」

 

「お願い、します……!」

 

「んー……」

 

正直な所、話を聞く義理も無ければ、話を聞いたところで俺に対してのメリットが無い。寧ろデメリットの方が大きいとさえ思う。

そもそも俺に聞いて欲しい話ってなんだ?俺に話をしてどうする?その話は聞いたところで俺に危害が加わらない物なのか?特に俺の周りの人間に影響は無いのか?

 

俺ぁ別に殴られようが何だろうが構わねぇけどよ、家族に手ぇ出されたら許さんぞ?

 

 

でもなー、考えてもどんな話なのか本気で全く予想が付かないんだよねぇ。

どうしたもんかね?俺から話す事を限定しとけば問題無さそうな気もするけど、おじさんだからなぁ……ヘマしそう。

 

まぁ聞く分には良いかもしんないね。どういう経緯で此処に男装なんかして送り込まれたのかとか情報を得ることも出来るかも。正直俺の事を話すっつっても正直テレビで流れてるのが殆どだからな。

 

あと公開してないとかってなると俺の生体データ位になるからな。口で教えられるもんじゃない。自分の遺伝子データを知ってる奴なんてこの世界に居るか?普通。

 

「ま、ええで。そんじゃお話すっか」

 

「え?良いんですか……?」

 

「お話したいって言ったのそっちでしょ。何?おじさんと話すのやっぱ嫌になった?」

 

「い、いえ、そう言う事じゃ……その、断られるかと思っていたので……」

 

……あー、こりゃ俺が女だと知っているのバレてんな。一応確認しておきたいからそんな感じのニュアンス含めて聞いてみるか。

 

「うん?どうしてそう思ったのさ?おじさん可愛い子とお話し出来るんだったら喜んでたぜ?」

 

「ほら、今も。私の事、気付いているんでしょう?だって男だと思っているのなら可愛い子、だなんて言う筈がないじゃないですか」

 

やっぱし。

ま、それとなく避けてたりしたからなぁ……気が付かないはずがないね。

 

「……まぁ、な。で?何時から俺が君の事を気が付いてるって分かった?」

 

「転校初日に気を使われたのを感じてもしかしたら、と思って。それからは態度で。確信に至ったのが一週間前」

 

「ふーん」

 

初っ端からか……まぁ気が付かれて当然か。

出来る限り気が付かれない様に、とは思っていたけど察しの良い人間なら気が付いて当然か。

 

「佐々木さん、なんで私の事、分かったんですか……?」

 

「あ?あー、どう見ても男じゃねぇしな。骨格から始まって仕草、言動なんか全部が」

 

「……そうですか」

 

「仕草とか言動だけならもしかしたら分からなかったかもしれんけど、一番の決め手は骨格だな。なんかしらのスーツかで無理矢理作ってる感が半端じゃない。一応これでも知識はある程度あるんでね」

 

「知ってます。篠ノ之流、ですよね?」

 

「お?なんで知ってんの?教えた事あったっけ?」

 

「いえ、その、調査報告書で読んだので……」

 

「なんじゃそりゃ、もうそんなもんが出回ってんのか」

 

「各国は佐々木さんの情報収集に躍起になってますから。何処の国も持っていると思いますよ?」

 

何処の国も、か。

なんだか嫌な気分なもんだが面と向かって言う訳にも行くまい。適当にお道化るか。

 

「なにそれ俺めっちゃ有名人じゃん」

 

「アハハ、そうですね。多分世界で一番有名だと思いますよ」

 

「嫌なもんだね。……で?俺に話ってなんだ?人前じゃ無理な事か?」

 

「……はい」

 

「用件はなんなんだ?俺とサシで話し合うなんざ相当リスクだろうに」

 

「それは分かってます。織斑先生も私の事気が付いているのは知っていますから。多分、学園側も。流石に先生全員が知っているのかどうかは分からないですけど」

 

ま、変装はあれだとしても流石に送り込まれるだけあってちゃんと状況を理解している。それで何故俺なのかがよく分からない。

 

「そこまで理解しててなんで俺なのさ。俺じゃなくても千冬なり学園に直接はなせばいいだろ」

 

「それじゃダメなんです。佐々木さんに直接じゃないと、可能性が無いんです」

 

「可能性?って事は話というよりかお願いって事か」

 

「……そうです」

 

「ふーん?そんじゃ言ってみ?」

 

「…………佐々木さんの、遺伝子を下さい」

 

ホワッツ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっ!?

ちょっと待った何が起こった?まさか気を失っていたというのか……!?

 

俺としたことが、抜かった!

 

でもしょうがないと思うんだよね。

 

そんないきなり面と向かって遺伝子下さいなんて言われるなんて人生でそう経験できることじゃない。

まぁ俺は経験しちゃったけどね!

 

 

 

……この年になってから初めての事経験しすぎじゃない?

すっげ、俺って何者?

 

「そんな事言われても良いですよ、なんて答えられると思うか?」

 

「無茶なのは承知なんです……!お願いします……!」

 

必死に頭を下げて来るデュノア君。

いやさ、俺も鬼じゃねぇからあれだけどよ、了承するわけには行かないんだなこれが。

 

「すまんね、残念ながらそのお願いを聞いてやることは出来ない」

 

「ッ!お願いします……お願いします……何でもします。私に出来る事ならなんでもするから……」

 

この物言い、自分の事を貶める発言だって分かって言ってんのか?

俺はそうじゃないけど、世の中悪い奴は沢山居るんだ。そんな言葉を言ったら人生終わりだ。

おい、おじさんがチキンなだけとか言うなよ。

 

「おい、嬢ちゃん」

 

「っ!?」

 

俺の声音が低くなったのを感じてびくりと肩を震わせる。

もうどうせだ。嬢ちゃん呼びでもいいだろ。俺らしかいないんだし。

 

「いいか?軽々しく何でもするなんて言っちゃいけねぇぜ?」

 

「でも、そうでもしないと……」

 

「あ?そうでもしないと、なんだ?」

 

「ごめんなさいっ!!」

 

「うおっ……なんだ?急に走って行って」

 

何を思ったのか、デュノアは何処かに走り去ってしまった。

ま、俺が首を突っ込んでも良い問題じゃないのは確かだな。

 

 

しっかし、頭で知っていても分かっていてもあんな顔をする子供がこの世界に溢れている事に驚きだ。

 

そして目の前に居た子供一人にも手を貸してやれない俺に嫌気がさす。

俺はただの一般人。ちょっと歳食ってISが使えるだけのなんにも出来ねぇ情けない大人だ。

 

もやもやするな……

 

 

 

 

 

 

なんかなー、と思いながら頭をボリボリ掻きながら部屋に戻った。

 

 

 

 

「うぅ……ひっぐ……」

 

「よしよし。お兄ちゃん酷いねー」

 

「うん……ぐす……」

 

寮に戻ったら一夏が泣いているラウラをあやして、それを見た俺が傍に居たセシリアと箒に取っ捕まり、正座させられ鈴に睨まれているという状況になった。

 

「なにこれどんな状況?」

 

思わずそんな事を言っちゃっても仕方が無いと思うんだ。

 

「どんな状況?じゃありませんわ小父様。心当たりがあるのではなくて?」

 

「心当たり……あっ」

 

「どうやら思い至ったようですわね?」

 

そこにはニッコリと惚れ惚れするような笑顔を浮かべてるセシリアが。

これでおっかない雰囲気じゃなくて目が笑ってたら最高だったんだがなぁ。

 

 

 

 

「そもそも!こんな小さな子供の夢をいきなりぶち壊しますか!?」

 

「いや、小さい子ってお前ら同い年……」

 

「何か仰いまして?」

 

「イエ、ナンデモナイデス」

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、幾ら何でもあれは無いよ……」

 

「事実を言っただけなんだけど……」

 

「あのね?優しい嘘って知ってる?」

 

 

 

 

 

「子供泣かすとか最っ低」

 

「……返す言葉もございません」

 

 

 

 

「洋介兄さん、見下げたクズですね」

 

「……すいませんでしたぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

おじさんは滅茶苦茶怒られたのでした。

本当の事を教えただけなのに。

 

解せぬ。

 

 

 






皆に蔑まれながらのお説教……


流石に気分が高揚します。


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学年別トーナメント強制参加で当日仮病使ってやろうかと考えています。 俺に世界の優しさが向けられる事はナァイ!



しばらくぶりだなぁお前らぁ!!
別の作品書いたり、寝たり起きたり食ったり色々とやってたんだぜ!


それはそうとVTシステムの絡みどうしてやろうか。



 

 

 

おうちかえりたい……

 

 

 

定期的にこの言葉を言うと精神安定効果があるらしい(大嘘)

 

やぁ皆おじさんだよ!

おじさんの言う事は信用しちゃいけないってこれでよく分かったね。

 

 

んな事はどうでも良いのさ。それよりもシャルル・デュノア君(ちゃん)の事と、迫り来る学年別トーナメントの方が問題なのだ。

 

デュノア君の方は束と千冬が今色々と情報を集めてくれているらしいから俺が出る幕はないからこれは取り敢えず放置。

 

それよりも直近の問題として学年別トーナメントが問題なのだ。

これ、全員強制参加なんだってさ。

 

 

 

しかも、おじさん専用機持って無いのに専用機持ちの特別枠でぶち込まれているらしい……

 

 

 

 

えぇ……なんでぇ……?

おじさんなんで特別枠ぅ……?

 

 

 

今日は珍しく仕事が早く終わった千冬が部屋に居るから聞いてみよう。

部屋着でベッドの上でゴロゴロしてる。

うん、最近忙しかったからね。でももうちょっと格好に気を付けて欲しいなぁ。

上がタンクトップで下はパンツだけって。一応兄貴が居るんやぞ?それでいいのか千冬。

まぁその辺の事は後でしっかりお話するとして。

 

「千冬ちゃんや。これどういう事かね?」

 

「これ?……あぁ、トーナメントか。どういう事とはどういう事だ?」

 

「いや、なんで俺が専用機持ちの特別枠で出場になってんのかなぁって」

 

千冬に聞いてみるのだ。

分からい事があったり困った事があったら、ちふエモン。ってね。

 

「なんだ小娘共に負けるとでも?」

 

「いやそうじゃねぇって。俺って専用機持って無いじゃん?なのになんでかなーって」

 

「あぁ、職員会議で決定した」

 

「おぉっと出ました職員会議。理由は?」

 

「強すぎるから」

 

「は?」

 

「だから強すぎて一般生徒じゃまともな戦いにすらならないから、と言うのが理由だ」

 

「……喜ぶべき?それとも絶望するべき?」

 

「さぁな。まぁでも上からの圧力があったのは間違い無い。各国の第三世代機と戦わせてどれほどの実力なのかを見たいんだろうさ。もし兄さんが勝ったとしてもデータが取れる。負けてもデータとついでに馬鹿にする材料が手に入る。主に女権団が色々とな。どちらにしろ奴らにとって得でしかない」

 

「まぁじでぇ……?」

 

ここでもクソ政治家に女権団共のきったねェ顔がチラ付くのかよ。

いい加減嫌になっちゃうぜ。昔っからなんだけど。

 

「何とかならんの?」

 

「ふふっ。兄さん、私が何もしなかったと思うか?」

 

「いんや」

 

俺が答えた時、にっこりと笑って千冬が言った。

どす黒い、ブチ切れてる顔と雰囲気だけど。なんでみんな笑う時ってこうおっかないのかぁ。そんなんじゃモテないよ?

 

「そしてこの決定に腸が煮えくり返っている事は分かってくれるよな?」

 

「イエスマム!」

 

声が死ぬほど怖いんですけど!?

千冬お前そんな物騒な声出せるの!?

え!?お兄ちゃん初めて知ったんだけど!?

 

思わず敬礼しちゃったよ!妹は鬼軍曹!なんつって。

 

「ま、その辺の兄さんの戦闘データ云々は束に頼んで手に入れても消すように頼んである。ついでに色々と他のデータもな」

 

「こっわ……うちの妹こっわ……」

 

「うぅん?何か言ったか?」

 

「何にも言ってません」

 

「ん。ならいい」

 

うぇーい。おじさん何にも言えないよ。

しかも束にデータ消去依頼してるって絶対やり過ぎるだろ。

 

「まぁ、やり過ぎない様にな……」

 

「流石にな。束の気分次第だが……

 

「おい最後なんつった?」

 

「……」

 

「なんでそっち向いているの?こっち向いて?ねぇ千冬こっち向いて?」

 

「おい兄さん、何故私の顔を掴む?おい放せ。この、放せ!」

 

部屋だからもう二人でわちゃわちゃ。

顔を掴んでこっちを向けようとするがそこは千冬。首の筋力もズバ抜けている。

いくらおじさんと言えども無理だった。

 

「あ、待って千冬待って待って待って!おま、お、お前ぇぇぇ!!」

 

「そうかそうかそんなに私の顔が見たいのか。ならいくらでも見せてやろう」

 

「ぐおぉぉぉぉ!?」

 

「なんだどうした?可愛い妹の顔が見たいんじゃなかったのか?ん?」

 

「やめてぇぇぇぇ!!」

 

その時、事故が起きた。

何故だか顔をブンブンと降りまくっていた。前後左右上下全てに。ガッチリ掴まれてて全く動かないんだけどさ。

 

その瞬間、顔が前に向かって抜けて行った。

そりゃもうスポッっと良い感じに。

それでどうなるのかと言うと、盛大にガッツリとぶつかりに行ったわけだ。

これがラブコメだったらキス、なんて事になるんだろうけどそこは俺達兄弟。

 

 

ゴスッ

 

 

ヘッドバットになってしまった。

とんでもなく鈍い音を出しながら。

 

「~~~~~…………っ!!!」

 

「ぬ”ぬ”ぬ”ぬ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”…………!!!」

 

患部は物凄く痛い。なので頭を押さえて転げまわる。

 

 

 

 

「痛い……」

 

「いってぇ……」

 

暫くして段々と痛みが引いて来ると、向き直る。

 

「悪かった……」

 

「すまない兄さん……」

 

それでもう色々と疲れたので寝るしかなかった。

その日もあんな事があったのにちゃんと(ちゃんとってなんだ)千冬は俺のベッドに潜り込んで来た。まぁいいけど。可愛い妹には出血大サービスです。

 

 

 

 

それから数日、おでこにでっかいたんこぶを作っている二人がよく見られたとか。

ついでに言えば一夏辺りにズルい!なんて言われて詰め寄られてそれはそれで対応に苦労したのは別の話。

 

一夏お前はデコにたんこぶ作りたいのか。それでいいのか。高校生なんだぞ?もう一度聞く。

 

そ・れ・で・い・い・の・か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、対戦表が貼り出された。

専用機持ちは、一夏、セシリア、鈴、ラウラ、デュノア君、四組の子とおじさんを含めて七人。

 

 

シード権は四組の子がゲット。

んで、肝心の一回戦で俺が戦う相手なんだけど。

 

まさかのセシリアちゃんでした。

 

うん、俺死んだわ。

 

 

 

超近接戦闘特化のおじさん相手に遠距離特化のセシリアをぶつけて来るとか完全に狙っとるやんけ。

しかも一回戦って。

あれやろ。おじさんのだっさい姿を晒そうってんだろ。

別におじさんだけなら良いんだけどさぁ?頑張って努力して勝ち取った物をぶち壊すようなことしてくれやがって。

 

ちょっと考えれば分かる事じゃねぇの?

 

 

 

 

 

でもなぁ。真面目に考えれば考える程勝ち目が無いんだよなぁ……

遠距離から釣瓶撃ちにされるのが良い所だろうし。

射撃武器の扱いなんて俺やった事無いべ?

 

 

あるぇ?これ無理ゲーじゃねぇ?

 

 

俺どうすんの?

対策立てようにも流石に直接本人に聞く訳にもいかんしなぁ……

 

クラス代表戦の時も結局銃は搭載したけど使わんかったし。

 

……あー、そういや学園の地下に射撃場があるとか言ってたな。そこを使って射撃の練習でもしとくか。

クラス代表戦の時は射撃特化の人間が居なかったから俺の戦いやすい距離で戦えたに過ぎない。

 

そんじゃまぁ、早速今日から通うとするか。

トーナメントまで二週間ぽっきりしかねぇけど、そこは俺の才能に期待するしかねぇなぁ。

 

 

 

 

 

 

放課後、授業も終わりさぁ射撃だ!という事でやって参りました射撃場。

結構広いのな。20レーンってかなりじゃね?

 

さてと、どの銃にすっかな。

ぶっちゃけ全く分からん。どれでもいいと言えばどれでも良いんだけど。

 

 

……どれにしよう。

 

 

 

 

「小父様?」

 

後ろから声を掛けられた。

振り向くとそこには首を少し傾げながら俺を見ているセシリアが。

 

「おろ?セシリアじゃないの。どったのこんな所で」

 

「それは私の言葉ですわ。私はよくここに射撃を行いに来るのですが」

 

「そうなの?てっきりISだけなのかと思ってたわ」

 

「それは有り得ませんわ。搭乗者がしっかりと銃火器を扱えなければISに乗った所で幾ら補正が掛かるとは言っても当たりませんから」

 

なにそれかっけぇ。

 

「なにそれかっけぇ」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

おぉっと口に出ていたようですね。

少し恥ずかしそうにしている。はい可愛い。

 

「うん。努力するとかめっちゃ偉い」

 

「そ、そうですか。所で小父様は何故此処に?」

 

「いやさ、一回戦俺ってセシリアとじゃん?」

 

「はい」

 

「流石に俺の戦い方じゃあれかなー、と思ってちょっとばかし人生初めての射撃をやってみようかと思った次第でございます」

 

「それで、ですか。でしたらもう銃を選んだのですか?」

 

「いんや、全く持ってそう言うのはド素人もいい所だから分からん。頭を抱えてた所だ」

 

「それならば私がお選びしましょうか?」

 

「お、マジで?敵に塩を送る事になるけど」

 

「構いませんわ。個人的には小父様も私と同じ様に射撃を嗜んでくれるのであれば嬉しいですもの」

 

にっこりと笑ってそう答える。

うーん、戦いにおいての損得しか考えてなかったオジサン恥ずかしい。

 

「……セシリア、ごめんな」

 

「え?何がですか?」

 

「汚い心のおじさんでごめんな……」

 

「そ、そんな事ありませんわ!」

 

なんて事をやりつつきっちりどの銃にするのかしっかり選んでいくセシリア。

こいつ、出来るな……

 

「小父様、何かこれと言った要望はございますか?」

 

「いんや?なーんもねーよ。セシリアにお任せするわ。ぶっちゃけ銃を撃つのに慣れりゃいい、って感じだしな」

 

「ハンドガンとアサルトライフル、スナイパーライフル、機関銃、どれをお選びしますか?」

 

「んぁ?あー、アサルトライフル一択で。スナイパーライフルとかはまた今度の機会にでも撃ってみるか」

 

「分かりましたわ。でしたそうですわね……この際ですから幾つか撃ってみましょうか。アサルトライフルはM16、M4、AK-47、G36、取り敢えず有名どころを撃って行きましょう。その中で一番の物を、という事で」

 

「よっしゃそれで行こう」

 

という事でセシリア監督の元、射撃の練習が始まった。

おじさんのかっちょいい姿を見てくれや。

 

 

 

 

「小父様は全く銃を触った事も無いんですよね?」

 

「あったりめぇよ!何てったって一般人だったからな!」

 

「そこまで胸を張る事でも無いような気もしますが……それでは構え方から始めましょうか」

 

「頼むぜセシリア」

 

先ずは構え方と銃の持ち方。いやマジでド素人だからね。

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりと握って。そう、そうですわ」

 

「セシリアさんちょっと近い……」

 

「集中しないと怪我をしますわ。しっかりと的を見て」

 

セシリアさんお胸がめちゃめちゃ当たってるんですが気にしないの?

あと首に時々当たるさらっさらの金髪がくすぐったいんですが。

 

 

 

 

 

 

 

「それでは撃ってみましょうか。小父様のタイミングで引き金を引いてくださいな。安全装置を外すのをお忘れ無きよう」

 

「おう」

 

パァン!

 

言われた通りにやって撃ってみたらあらビックリ、的にしっかりと命中した。

 

「お上手ですわ!その調子で他の銃もどんどん撃ってみましょうか」

 

「りょーかい」

 

 

 

 

 

 

 

いやー、疲れた疲れた。

あれから2時間程射撃をしてた。

動き回ったりしてなけりゃ思いの外当たるのな。

流石に偏差射撃云々は無理だけど止まった目標に止まった状態なら当てられることが分かった。

まぁそれでもおじさんステゴロで頑張るんですけどねぇ!(最初と言ってたことが違う)

 

 

いや、これはほんとに今日射撃をやってみた結果なんだって。

さっきも言ったけど止まった状態なら当てられる。点数で言えば100点中5、60点って所か。

残念ながらこの点数じゃ通用しない。偏差射撃の「へ」の字も知らん俺が銃を構えても飛び回るセシリアの後ろを弾が飛んでいくだけだって。

それに相手はあの射撃特化のセシリアさんだぞ?こっちが狙いを付けてる間に蜂の巣だわ。

まぁ狙撃銃タイプらしいから連射性能はお世辞にも良いとは言えないっぽいけど。

それでも頭ぶち抜かれて御陀仏ってな訳だ。しかもビームビットも装備しているらしく本人が射撃をしないとしてもそっちから撃たれて本当に蜂の巣になっちまう。

なんで知っているのかって?

 

おじさんはちゃんと対戦相手の事は調べるんやでぇ……

 

という事でセシリアには申し訳ないが今回は射撃武器は搭載するけど使用は見送りって事で。

まぁ何とかして接近してステゴロに持ち込めれば良いんだけどなぁ……流石に希望的観測が過ぎるか。

最悪、一切近づけずに一方的に叩かれて終わりだ。

その辺の事をどうするか考えないと。

 

まぁでももし思いつかなくてもその時の俺が何とかするでしょ!

 

 

 

なんて馬鹿な事を考えて結局その日は皆と飯食ってシャワー浴びて寝ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい皆さんこんちわ!

気が付いたらトーナメント当日で笑う事しか出来ないおじさんだよ!

 

 

 

いやふざけてる場合じゃねぇ!マジで当日だぞおい!?

どうしてくれんだ昨日までの俺ぇぇ!明日の事は明日の俺が何とかする的な事を言っといてこの様だよ!

 

いや、まだ大丈夫……おじさんには固有スキルがあるんだ……それを使えばまだ何とかなる……!

 

 

固有スキル発動!

後の事は試合しているときの自分に任せる!(現実逃避とも言う)

 

 

 

 

 

 

 

 

はいそして試合5分前になりましたね。

 

うん、なーんにも解決策浮かばなかったよ……(絶望)

 

あの時なんで俺は固有スキル(現実逃避)を発動しちまったんだ……

なんか鈴の時もこんな感じだったような気がしなくもない様な気もする。

やべぇ……焦りすぎて何言ってんのか分かんなくなってきて日本語滅茶苦茶だぜ。

 

 

あ、因みに今回も打鉄で装甲を完全に外して足と腕に追加で殴っても大丈夫なように分厚くしてスラスターを増やしました。

 

直線なら第三世代機にも負けません!(直線番長)

 

ぶっちゃけ鈴は自分から近づいて来てくれたけど今回は逃げ回られるだろうから接近するのだけでも一苦労。なんでせめて直線だけでもって事で。

スラスター積むのに夢中になってたらそれを制御する側のシステムとかをすっかり忘れてました。所謂設計ミス?欠陥機?ってやつでごぜーます。

 

打鉄よ……俺のせいでごめんなぁ……

 

 

 

 

なんてここまで来て、それでもなお現実逃避をするおじさん。もうあきれて何も言えねー。

 

こんだけ騒いでんのにね。よく言うよ。

 

 

 

 

 

しかし時間という物は、早く過ぎてくれと願う時は遅く感じるように、逆もまた然り

アリーナへの入場時間になってきてしまいましたぁ!?(錯乱)

 

あひゃひゃひゃひゃ!?!?

 

やべぇよ!どうすんだよ!?あぁもういいや!なるようになれ!

 

 

 

 






取り敢えず今回は此処まで。
次回、待ちに待ったセシリアとのイチャラブ(戦闘)回です。


正直言わせてもらうと、おじさんとセシリアを一回戦で組ませたのはミスだったかもしんない。
作者もどうやればセシリアとステゴロで戦えるのか全く思い付いてない。


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セシリアは間違い無くチョロインだと思うんです。




サブタイと本編の関連性皆無。そんな要素欠片も無いけど読んでくれたら嬉しいな。


簡単に今の状況を説明するぜ!

学年別トーナメントに専用機持ち枠で強制出場決定!

初戦の対戦相手はセシリアだった!

対策を考えたけど全く思い付かずに気が付いたらトーナメント当日だった!

もういいやと投げやりになってアリーナに入場!

試合が始まる!

ビットとセシリアの射撃から全力で逃げ惑っている!⇐今ここ。

 

 

 

 

うん、全然説明になってねぇな。

いや、でも最後のはそのままなんだよ。

 

もうちょい詳しく説明するとだな、なるようになれと飛び出してアリーナに入場したんだよ。

それで例の如く無駄にハイテンションな実況の掛け声があって会場は大盛り上がり。それでカウントが始まって0になった瞬間試合開始って訳だ。

 

おじさんも流石にそこまで馬鹿じゃないからさ?長期戦になればなるほどこっちが不利だって分かってたし、短期決戦を挑もうとしたんだよ。

そこで装甲を殆ど外して代わりにブースターを取り付けてある打鉄ちゃんを思いっきり吹かした訳さ。

 

 

そこで問題になったのが、こいつにブースターを取り付ける時にそれの制御機構とかの取り付けをすっかり忘れてたって事だ。

まぁ何が言いたいかと言うとだね、直線しか最高速度を出せないし下手に曲がろうとすると死にます。いや、冗談抜きで。

 

だから思いっきり加速して近寄ろうとしたんだけどさ、このブースターの取り付けを手伝ってくれたの、というかやってくれたのって一夏とセシリアなんだよね。

 

今回の対戦相手はセシリアさんです。当然この直線にしか進めないって欠点も分かってるわけだ。どうなったかと言うと。

 

普通に避けられて背中を見せた瞬間に撃たれましたはい。伊達に直線番長を名乗ってねぇぜ!

 

 

 

 

で、今は必死こいてビットから放たれるビームを避けているんです。

まぁ幸いなことに直線にしか進まないから避けられなくは無いんだけど、如何せんセシリア自身の狙撃を加えると五つの箇所からの攻撃を避けなきゃいけない。

 

正面を避けようとしても側面背面は当たり前。上方下方、前後上下の斜め、全てのありとあらゆる方向からビームが飛んでくるもんだからもう大変よ。

こんなことなら鏡でも持ってくりゃ良かったぜ。

 

え?知らない?ビームって鏡で弾き返せるんだぞ。(本当かは知りません)

 

 

 

つーかまじでどーするよ?

一応弱点っぽい?事は見つけたには見つけた。

 

何かって言うとビットの射撃の時、セシリア自身の銃で一回も攻撃してきてない。

もしかしたら同時に攻撃が出来ないんじゃ?とは思っている。でも罠の可能性も十分あるからな……

正直な所、これだけで攻勢に転じるか、賭けに出れるかと言われると到底その気にはなれない。

 

他にも近接用のブレードも持ってるらしいし、あと他にも不安事項がある。

確か調べた時にビームビットの数は六機って書いてあった。なのに四機しか出して来ていない。

やられたときの予備用なのか、同時に扱える数が四機なのか。それともただ出さないでいるだけなのか。

 

いや、最後のは無いか。セシリアがそんな事するようなタイプか、と聞かれるとそうだとは言えないし。

俺の勘違いなのかもしれないけどね。

まぁどの理由にしろ結論から言えば今この段階で俺が反撃をするのは難しい。

 

もしやるとするなら最低条件はビットを全部落としてから。

本当は残りの二つも引っ張り出させて纏めて叩きたいところではあるんだけどそう上手くはいかないだろうな。

そもそも四機で逃げ回っているのに六機になったらそれこそ、はいお終いってなり兼ねん。いや、間違い無くなるな。

 

しっかしマジでどうしたもんか。

最低条件すら満たせないぞこの状況。下手に一機を狙えば隙を突かれるだろうし。

SEは二回ほどしか被弾してないから十分ではあるから被弾上等でいけなくもない。

避けるだけなら問題無いんだよ。だって直線にしか飛んでこないし?実弾銃の様に連射で弾幕が張れる訳でもないから普通に避けられる。

 

だけどこれ、俺が攻撃に移った瞬間に崩れるんだよね。

 

 

このまま逃げ回ってセシリアのエネルギー切れを待っても良いような気がするけど絶対バックパックとか積んでるから短期決戦を目指している俺としては無理。まぁこんだけ逃げ回ってなんだかんだで時間が長引いているこっちとしては今更、って感じなんだけど。

 

んな事を考えながらも解決策は見つからず。

どうしたもんかな。

 

もしビームビットとセシリアの射撃が同時に出来ない、って言うのが確定すればまた状況は違うんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

試合が始まって既に二十分が経過しているのに私が小父様に当てる事が出来た攻撃はたったの二回だけ。

 

ブルー・ティアーズで死角から攻撃している筈なのに当たり前の様に避けられます。

ハイパーセンサーがあるとは言っても本来の目で見える範囲以外からの攻撃はどうしても弱くなる筈なのですが……

それを当たり前の様に避けている辺り流石は小父様、と言った所でしょうか。

 

ブルー・ティアーズ六機を全て同時運用が出来ればまた違ったのですが、残念ながら私が同時運用できるのは四機まで。現状残りの二機は予備となってしまっています。

それに私自身がブルー・ティアーズとライフルの射撃を同時に出来ないというのも今の状況を作った要因でもあります。

 

基本的にブルー・ティアーズの操作にはとてつもない集中力が必要となってきますが残念ながら私にはその二つを同時運用出来る程の物ではありません。

並列思考が出来れば一番なのですが……

 

それに他にも偏光射撃が出来ないというのもあります。これが出来れば直線だけの射撃にならずに済んだのですがそれも圧倒的な集中力が無ければ出来ない物なので今この段階でどうこう出来るという物ではありません。

多分小父様は私が同時に出来ない事は分かっていない筈。

ならば悟られない内に何とかしないと……

 

 

 

現状、私も小父様も決定打に欠けるのでこの状態がまだ続くでしょうか。

どちらかが何かしらの行動を取らない限りは。

 

仕掛けて来るとすれば私が同時に射撃が出来るかどうかの確認。

警戒しておいた方が良いでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

いや、やべぇ。マジで全くどうしようもないぞ。

ただひたすら避けているだけなんだよ、現状。

ただ、やっぱり安心なのはビームが直線にしか飛んでこないのと、セシリア自身の射撃とビームビットの同時射撃が飛んでこない事だな。

これがうねうね曲がったりしてたらとっくの昔におじさん負けてる。

 

しっかしマジでどうすりゃいいんだ。

うーん、ビームビットと同時に自身が射撃できないって事さえ確かめられりゃ良いんだけど……この際被弾上等で一発かましてみるか?

今ならビームビットでの射撃に意識が向いていそうだし多分奇襲仕掛けたら行けそう。いやでもなぁ、絶対に警戒してそうなんだよね。いや、寧ろ警戒してないとおかしい。

 

って事で警戒をしている事を前提に動くとすると間違い無く迎撃される訳で。

 

……いや、前提として一発も攻撃を受けない、って考えで行動しようとしているのが間違いなんじゃね?

まぁその考えは別に間違いじゃないんだけどさ、鈴との試合の時も普通に衝撃砲に手を突っ込んでぶっ壊したしな。

それを考えるとなんで俺、今こんなに必死になって避けてんの?

だけどビームのいなし方なんて知らんぞ。

 

…………うんまぁ多分なんとかなる?なりそう?

 

そんじゃ、取り敢えずビームビット四機を叩き落とすか。

もし残りの二機が出て来ても数が少ないから今よりは楽……だと思う。

 

 

しっかしどうすっかな?

ぶっちゃけどれから落としても変わらん気がするのだよ。

そんじゃ何となく後ろに張り付いてる奴から行くとしましょう!

 

まずは正面の奴を狙う!と見せかけて思いっきり反転全力で殴り掛かる!

やったぜ一機ぶっ壊した!!と喜ぶ未来が見えたでしょ?俺も。ところがどっこい。

 

 

あれっ!?普通に避けられちゃったぞ!?

 

どういう事や!?なんでや!?ズルいぞ!!

 

「小父様の行動くらいならば分かりましてよ!」

 

「うっそだろおい!」

 

マジカヨ此処まで読んでやがったのか!

まぁでもやることは変わんないんだけどね!

 

「ヌゥオラァ!」

 

後ろから近距離でビームを叩き込まれそうになってた物を無理矢理身体を捻ってギリギリ避けるとそのまま一度離脱する。

あのままあそこに居たら一方的に狩られるだけだし。

 

取り敢えず離脱してそのままビットを叩き落とす為のドッグファイトが始まる。

 

 

「クソが!」

 

アイツら基本的に人間が乗ってる訳じゃないから無茶苦茶な機動しやがる!

 

当然俺は付いて行ける訳も無く、普通に振り切られてる。

俺は飛行機のパイロットなんてやったことも無い。もしかすると戦闘機のパイロットならある程度の、それこそベテランにでもなれば完全、とまではいかないだろうが大方の予測は立てられるんじゃないかとは思う。

まぁ今はISのパイロットなんだけど。世界中の人間が憧れてやまないISのパイロットとは言っても所詮ぺーぺーも良い所、完璧なるド素人の俺。

なんだかんだ言って総操縦時間は全くと言っても良いほど無い。試合の時ぐらいしかまともに乗ってない。

 

だって専用機無いし、なにより申請を出してまで乗ろうとは思わない。

だって俺が乗るよりも嬢ちゃん達に思いっ切り乗って貰いたいじゃないの。今現在は決まってないとはいえ間違い無くパイロットなんかになるわけじゃねぇんだし。

だったら、という考えなのだがまぁ文句は言わないで欲しい。

 

 

おっと話が逸れた。

どうやってあのビットを落すか。フツーに殴り掛かったら避けられたし。

んー、でも見た感じビットの四機はビュンビュン動いてっけどセシリア本人は殆ど動いてないのよね。こりゃビットと同時に何か別のことは出来ないで間違い無い、かな?

 

……ちょっとばかし驚かせてみるか。

 

 

それじゃちょっと準備、と言いますか?始めましょう!

少しづつ、少しづつセシリアの方に近づいて行く。もしビットの操作にのみ集中しているんならやっぱし、どうしても他の事が疎かになってるって訳だ。

 

言っちゃ悪いが同時並行で物事を進めて何食わぬ顔をしているのなんて束ぐらいにしか早々出来ないと思う。普通の人間がそんな事をしようとすればどうなるかなんて火を見るよりも明らか。

千冬ですら書類の山と格闘して疲れているんだから、比べるのは間違いだと分かっちゃいるが今のセシリアに同時に何かをやる事なんて出来ないと思う訳さ。

 

 

そんな訳で少しづつ少しづつ近づこうとしたんだけど。

まぁやっぱり気が付かない訳が無いよね!

 

普通に距離を取られてしまいました。

えー……これどうすればいいのさ?どうやってセシリア本人に接近すりゃええねん。

まぁ取り敢えずビームビットをどうにかしなけりゃこの先もどうにならんぜ。

 

まぁ正直、基本的な機動が曲線的ってな訳だけで直角に曲がれないという訳でもない。て事はだな、こうやってあっちこっちに高速で飛び回っている。

 

いやマジでどうすればいいんだこれ。

流石に遠距離との相性悪すぎてもうどうしようもないぐらいに追い詰められていると言っても違いない状況だ。

接近出来なきゃ話にならないし、先ずその前にこのビット共を何とかしない事には接近も何も無い。

 

何でもいいから盾が欲しい。

それさえあればぶっちゃけ何とでもなりそう。

正直、腕部に追加で取り付けた装甲が無けりゃビームを弾くことも出来なかっただろうからな。

これがあるだけマシってもんだが……

 

……あ、盾ならあるやん。セシリアって言う丁度お手頃なサイズの盾が。

 

まぁ卑怯と取るか否かは個人個人だけど少なくとも俺はやる。

まぁ立ち回りの問題なんだけどさ。要はビットの射線上の間に常にセシリアを置いておけばいいだけの話なんだよ。

セシリア自身の攻撃をセシリアに当てる事が出来れば最高なんだけど。

それでも最大三機のビットがこっちを狙ってるんだけどさ。一機減っただけでも十分に隙が出来る。

しかも撃墜した訳じゃないから四機までしか操作できないとすれば残りの二機が出て来ることも無い。

 

そんでその隙を狙ってビットをちょちょいのちょいと落として行ってやるのだ。

 

 

 

 

 

そんでもってその作戦を実行しました。

幸か不幸かまぁ上手く嵌った訳だ。そらもう見事なまでに。

 

見てみればセシリアの顔はやりずらそうな顔で俺を見ている。

まぁそりゃそうか。多分集中力に限界が近づいてきたのか、ビットの動きが先程までよりも随分と緩慢になり始めてる。

 

こりゃそろそろ思いっ切り攻勢に出ても大丈夫そうか……?

長引くとなれば多分俺はこのまま逃げ続ければいいのだと思う。あれが演技?なのだとしたら相当なもんだろ。見た目も十分だからハリウッドで通用するんじゃねぇの?

まぁ要は集中力をちょっとでも遂げれさせちまえばいいって訳だ。

 

 

よっしゃ、一丁やったりますか!

 

 

て事で今まで逃げ回って溜まっていた鬱憤を思う存分に晴らすとしようじゃないか。

段々とビットの操作に綻びが出始めた。

今だな。

 

「おぉっとこんな手頃な場所にビットが!!」

 

「んなっ!?」

 

一機目破壊!

流石に今の今までビットに手を出せていなかったからか物凄く驚いた表情を浮かべる。

おっとセシリアさんの集中力が思いっきり途切れましたね!これは盛大なミスです。

しかしおじさんにとってはこれは大チャンス!

 

「あらよっと!」

 

「くっ!!」

 

続け様にもう一機も落とす。

流石にこれ以上はやらせてくれない。ビットの方も動き出す。

すると先程よりもビットの動きが良くなってきているではないか。

多分四機から二機に減ったからなのだろうが、そこでセシリアは二つ目のミスを犯した。

 

何かって言うとセシリアは予備のビットを繰り出して来たのだ。

四機のビットを再び操作しなければならなくなった為に高い集中力を必要としたのだが残念ながらそんな集中力は残されちゃいなかった。

うん、これはもうカモですわ。ビットの操作もだがセシリア自身の射撃も動きも悪い。流石にこの状態の人間に梃子摺るほどじゃぁない

 

 

 

 

「こんにちわ!」

 

「この!!」

 

「残念!!」

 

セシリアは必死になって狙撃にビットからの射撃を撃ってくるがそんなヒョロヒョロ弾には当たらんぜ。

 

 

 

 

そんな感じでそれからは簡単。

ビットを落さずにセシリアを直接叩くことも簡単だった。

 

射撃の密度もそこまでではなくなっていたし単調になって来ていたから掻い潜っていくのも簡単簡単。

 

 

 

 

で、接近して普通にぶっ飛ばしました。

 

 

 

 

大人気無いとかそんな事を言われても困る。

だってクラス別トーナメントの時も思いっきりぶん殴ったし。

それに俺の戦い方の性質上、殴らないと決着が着かないんだよまじで。

 

 

 

 

てことで勝ちましたはい。

 

 

 

 

 

 

 







今回会話が極端に少ない気がする(気のせいじゃない)

まぁこんなのがあっても偶には良いよね。




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第二回戦!……ではなく問題発生。本当にこの学園問題に事欠かないな!?

久しぶりィ!
元気だった?ねぇ元気だった?

投稿が遅い?何の事です?(すっとぼけ)






独自設定多分に含んでます。





 

 

一回戦、セシリアに勝利を収めたのは良かった。

まぁでもそれが結構ギリギリというか、かなり逃げ回ってやっと勝てたと言った物だった。それでまぁ、勝てたから二回戦に進出となったわけなんだが、対戦相手が決まってないのだ。

 

可能性としては一夏かラウラのどちらかなんだけど。

今現在は鈴とシャルル君がドンパチやってるわけだ。この二人の勝者のどちらかがシードの四組の子とやり合う訳だ。

 

で、それで今は休憩中ってな訳なんだけど。

そんな俺の所に千冬と束がやって来た。もっと詳しい事を言えばなんかめっちゃ厳しい顔してやって来た。

 

「……なんかあった?めっちゃ怖い顔してっけど」

 

美人が怒ると怖いというがまさにそうだと思う。だってこの二人、兄貴として言うのは同かと思うけどやっぱし超絶美人な訳でそれが普段俺にお説教する時の何百倍もおっかない顔してりゃ普通に怖い。

一応用件を聞いてみると、なーんだかとんでもなく訳の分からない事を言い始めた。

 

「問題が起きた。トーナメントは中止だ」

 

「は?どういう事だ?」

 

トーナメントを中止するほどの何かが起きたのか?

でもここIS学園だぞ?……いや、IS学園だからこそか。騒ぎには事欠かないしなぁこの学園。

 

「いいか?よく聞いてくれ。ドイツのクソ野郎共が遂にやらかした」

 

「ドイツがやらかした?どういうこっちゃ?」

 

またドイツかよ。あの国いっつも何かしらやらかすなおい。勘弁して欲しいぜ全く。

 

「束、説明を頼めるか?」

 

「うん。おじさん、よく聞いてね。私ってば超優秀だからあの転校して来た金髪っ子の方の調査をしてたんだよね。で、ついでだからって銀髪っ子の方も色々と調査した訳さ。するとビックリなんてもんじゃないよ。正直あの場でキレなかった私を褒めて欲しいぐらいなんだけど、ちょーヤバくてナンセンスな兵器が搭載されてたんだよね。おじさんなんだか分かる?」

 

「……核爆弾とか?」

 

「うーん、このヤバい物兵器=核爆弾という思想……ヤバいことには変わりないんだけど違うんだよね。VTシステムって知ってるかな?」

 

「何それ。名前的にはそこまでヤバそうじゃないけど」

 

「聞いた感じはね。正式名称はValkyrie Trace System。まぁ簡単に行っちゃうとモンドグロッソ優勝者の戦闘能力を機械でコピーして自分の物にするって言うやつ。というかコピーするって言った方が早いかな。しかも条約で禁止されているやつを乗っけてる」

 

「あ?コピー?それに条約違反だぁ?」

 

「コピーだけならね問題無いんだけどこのシステムに欠陥があって開発全面禁止になったはずだったんだけどまぁ守る訳無いよね。裏で幾らでも出来るし。それにコピーしたのがちーちゃんのだからなぁ」

 

「千冬の?」

 

「おじさんってちーちゃんと正面切って殴り合えるし勝てるから分からないだろうけど世界中のほぼすべての人間がちーちゃん、おじさん、そして私以下の身体能力。これで同じようにやったらどうなると思う?」

 

ちょっとだけ考えてみる。

今、サラッと人外認定されたような気がしなくもないけどそれは置いておこう。まぁ後でしっかり聞くとして。

千冬と同じような動きをそれ以下どころか足元にも及ばない身体能力の奴が同じ動きをしたら……

 

「……身体ぶっ壊すんじゃね?」

 

「大正解。使うと操縦者の身体だけじゃなくて精神的にも色々と問題が出て来るんだ。良くて廃人、最悪死ぬ」

 

「なんだってそんなもんをドイツのクソ野郎共は搭載した?」

 

「科学者と軍上層部の独断かな。多分一部の政治家も噛んでるっぽい。こいつらは自己顕示欲の塊だから研究成果の確認と手柄関連かな。基本的に目先の利益にしか興味が無いような連中の集まりだから。多分だけどこれをまともに扱えるようになって戦力化出来れば、なんて考えたんじゃないかな?」

 

「まぁ理由云々は置いといて、どうすんの?そのまま放置、なんて訳にゃいかんだろ」

 

「そこはさっきちーちゃんが言ったようにこのトーナメントを中止にするしかないかな。起動条件がまだ分かってないし、ちーちゃんとおじさん、私だけなら何とでもなるどころかスクラップに出来るんだけどここじゃそうはいかないからねー」

 

「つか束がこっそり何とか出来ねぇの?トンデモ技術のオンパレードなら何とかなりそうだけど」

 

「それが無理だったんだよね。どうやったのか知らないけどコアとかなりしっかり結びついちゃってるんだ。このISを作った時から搭載されてると仮定すると数年単位。定期的なメンテナンスで搭載したとしても数か月から一年ぐらいは間があるし。報告を先にって事でそこら辺はまだ調べ終わってないんだよね。しかもさっきも言ったけど起動条件が全く分からない。操縦者の意思って言うのが一番無難なんだろうけどそれを知らされてるわけじゃないし、最悪何処からかボタン一つで起動できるかもしれない。VTシステムを無理矢理引き剥がそうにも一回コアそのものを取り出さないといけないんだけど、そんな事したら速攻でバレちゃうし。あー、こんな事ならそう言う道具でも開発しておけばよかったよ」

 

「そう言う事ね。まぁ別に俺は構わんけどなんでまた俺に話した?」

 

「心の底から本当に不本意だが、もしも万が一VTシステムが起動した場合には何とかして足止めを頼みたい。本来なら兄さんは真っ先に守られなければならない立場だし、私情を持ち込むとそんな真似はさせたくはない。だが……」

 

なるほどそーゆーことね。

理解したわ。

 

「あー、まぁいいぞ」

 

「……兄さん、もう一度よく考えて発言してくれ。自分で言っておいてあれだが本当にちゃんとよく考えてくれ」

 

肩を掴まれて揺さぶられながら聞かれる。

もっかい考えてみよう。

 

起動条件分からない。

ボタン一つで起動できるかも。

起動したら操縦者は廃人か死ぬ。

周りへの被害が見当も付かない。

 

おじさんは盾になる。

うーん、こんな危険な仕事妹には任せられんだろ。

よって答えは決定。

 

「……いいぞ」

 

「考える時間が短い……!」

 

「おじさんだしねー……」

 

「俺だからな。OKOK」

 

「こんなでいいのか……いや良くない筈だ……よし、兄さんやっぱり今言った事は無しだ。冗談だ。気のせいだ空耳だ」

 

「ちーちゃん幾ら何でもそれは無理があるよ……」

 

「こんな事なら何も言わずに私が出るべきだった……あぁでもそうすると万が一の時の指示が出せなくなる……」

 

「おじさん、あとでちーちゃんの事慰めてあげてね」

 

「ウィッス」

 

ちょっとだけ現実逃避した千冬も戻って来た。しかしそこで更におじさんを驚かせる様な事を聞かされることになる。

 

「えーと、予想されるスペックは全盛期のちーちゃんと一緒かな?」

 

「今なんつった?」

 

「全盛期のちーちゃんの実力と一緒。まぁ初代ブリュンヒルデって言ったらちーちゃんの事だし。その代表だった時のをコピーしてるって考えるとねー」

 

「まぁ……千冬の癖なら分かってるし、ブレオンだからやりようはあるけどよ。流石にキツイぞそりゃ」

 

セシリアみたいに遠距離特化じゃないから自分のリーチで戦えるが、何だっけか、千冬が使ってたあの武器ってかなり厄介だった気がする。エネルギー無効だっけか?流石に物理無効となったら打つ手無いだろうし。

それに全盛期の千冬だと、千冬本人ですら勝てるかどうか分からん。

 

「私自身だってキツイ。現役引退から何年も経ってるからな。流石に全盛期の自分とやり合っても勝率は4:6、いや3:7と見ておいた方が良いかもしれん」

 

ほれ見ろ。

本人が勝率が三割かそれ以下って滅茶苦茶厳しいぞ。

 

「まぁそこは何とかして貰うしかないかなぁ……取り敢えず起動したら何とかして停止させて貰うしかないし。じゃないと私も近寄ってコアを取り出せないからね」

 

「一応私も起動した場合は諸々の指示を終わらせたら兄さんの応援に行けるように全力

は尽くす。だが絶対じゃないからな。最悪教師の鎮圧部隊が到着するまで持ち堪えてくれれば何とかなるかもしれんが……幾ら数を送り込んだところで無駄だとは思うがな……」

 

「だろうな。物量作戦は多分通じねぇと思う」

 

「私もおじさんと同意見かな。ちーちゃんに挑むんだったら短期決戦の方が絶対良いに決まってる。それに操縦者の事を考えると長くは戦えないよ。それを一切無視で良いんなら話は変わって来るけどさ」

 

操縦者の事を無視すれば幾らでも戦える、ってか。

んな事許す訳ねぇだろ。

制限時間は十分ありゃ良い方か?

 

「そんな事許すわけないだろう」

 

「だよねー。まぁそこはおじさんとどれだけ早く応援が駆け付けられるかに掛かってるかな」

 

俺が言うよりも早く千冬が言った。

まぁ一応ドイツに居た頃の教え子だし今も教え子だからな。

 

「束、予想されるタイムリミットは?」

 

「そーだねー……長くても十五分かニ十分が限度かな。これは操縦者の身体が頑丈で精神が強ければ強いほど長くなるから詳しくは分からないけど持ってニ十分って考えておいた方が良いかも。それ以上になると身体機能に何かしらの影響が出始める。それを超えると精神に影響が出る。さらにそれ以上だと良くて植物状態か最悪死ぬ」

 

「……思ったよりも時間は多いな。もっと五分十分の話になるのかと思ってた」

 

個人的には十分あれば良い方なのかな、と思ってたからこれには驚きだ。

ラウラは軍人だし身体は鍛えてるのは勿論、精神面でも強いと予想される。

だからある程度の時間は持つだろうがそれ以上はやはり危険って事だろうな。

 

「でも五分ぐらいしかプラスされてないけどね」

 

「という訳だ。兄さん、もしもの時は頼んだ」

 

「おう。それと千冬、気にすんなよ」

 

「ありがとう兄さん。それじゃ私と束は管制室に行くから。ピットに待機していてくれ」

 

「りょーかいです」

 

そう言って二人は管制室に向かった。

……束が現れて山田先生驚かんのかな?

 

 

この心配は的中、驚いた山田先生が腰を抜かすというちょっと個人的には見てみたかったことが起きた。

 

 

 

 

 

 

 

さーて、そんじゃ俺はピットの方に行くとするかね。

一応打鉄もメンテが終わって万全になった、とは言えないがそれに近い状態にまでは持っていく事が出来た。

 

避難が始まった理由は伏せられたがピットに向かうと、段々と避難が始まっている様子がモニターで確認する事が出来た。しかし既にその時、一夏とラウラの試合は始まっていた為にその場で即座に中止。両名とも速やかにピットに戻るように言われ、一夏は反対側のピットへ、ラウラは俺の居るピットへ戻って来た。

それぞれが千冬の指示でピットに戻る。

ラウラに関してはいざという時即座に抑えられるように俺の居るピットへ。

ついでに言っておくと物凄く慌てているドイツの連中と思われる奴らも確認出来た。

 

ザマァwww。

 

 

なんて緊張はするも何処か余裕を持って居たのは此処までだった。

最後の悪あがきか、いきなりラウラが苦しみだした。

 

「あ”ぅ”!?」

 

「ん?おいラウラどうした?」

 

「う”ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”!?!?」

 

自分の身体を腕で抱え、抑え込むように蹲るラウラ。

顔からは滝の様に汗が流れ出て、顔色も急激に悪くなる。

咄嗟に支えたはいいがそれ以上何も出来ない。

 

「おい!?ラウラ!しっかりしろ!クソッ!おい千冬!」

 

『どうした兄さん!?何があった!?そこで急激にエネルギー反応が大きくなっているぞ!?』

 

千冬に連絡を取るも向こうは向こうで焦っているのか言葉が少しおかしい。

 

「俺だって分からねぇよ!いきなりラウラが苦しみだしたんだよ!」

 

『なんだと!?おい束!』

 

千冬との通信に割り込んできた束が大きな声で言った。

 

『おじさん今すぐそこから逃げて!早く!』

 

「はぁ!?どういう事だよオイ!」

 

いきなり逃げろったって意味が分からん。

しかし次の言葉で逃げろと言った意味が分かった。

 

『VTシステムが起動し始めたの!』

 

「はぁ!?だけど逃げろったってラウラはどうする!?」

 

『いいから早くーーーーー』

 

【う”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ァ”ァ”ァ”ァ”!?!?】

 

通信を遮って何かの絶叫が響き渡る。

その瞬間から待機状態のISから灰色、それも黒に限りなく近い方のナニカが流れ出る、というよりは這い出て来ると言った方が良いか。這い出て来た。

 

端的に言って気持ち悪ぃ。

ウネウネウニョウニョ触手見てぇな動きしやがって。

いや……スライムっぽくもあるな。

 

そんな馬鹿な事を考えていると急速に肥大化を始めた。

ラウラを引っ張り出そうにもどういう訳か離れない。そもそもISからこいつが出て来て待機状態の物を身に着けているのだから引っ張り出そうにも引き剥がそうにも無理な話だ。

 

もう既に首から下は覆われてしまって、今口と鼻を覆った。

最後にとても苦しそうに閉じられていた目が少しだけ開いたかと思うと、助けて欲しいと訴えると同時に逃げて欲しいとも読み取れる様な目をしていた。

 

「あぁクソッタレ!何にも出来やしねぇ!」

 

『兄さん!』

 

どうすればいい?俺はどうすればいい?

千冬に言われた通りの事をやるか?だがこのクソ狭いピット内で?

 

そんな事を考えていたら、あの液体の様なスライムの様な奴が何かの形を作り始めた。

 

「今度は何だってんだ!」

 

逃げようにも残念ながらまさかの扉側にラウラ、いやVTシステムが陣取ってやがる。その脇をすり抜けようにも生身で横から一撃を貰ったら本気で肉片になりかねない。

ISを纏おうにもそんな悠長な事をやっている暇は無さそうだな……

 

こんな事なら予め搭乗しておくんだったなこりゃ。

だけど下手にラウラの不安を煽りたくなかったからISに搭乗してなかったのが裏目に出たか……

 

とっくにラウラは飲み込まれてどんどん形を作っていくVTシステム。

暫くするとそれが収まった。

 

なんだぁ……?次は何が起こるってんだ?

 

するといきなり無駄に元気に動き始めた。

 

「うぉ!?気持ち悪ッ!」

 

思わずそう言ってしまったのも仕方が無いがそんな悠長な事を言っている場合ではない。

そのVTシステムが形作ったものは、コピーしたと言われた千冬の姿だった。

しかも現役の時の試合をしていた機体、格好でそこに立って居るのだから驚きなんてもんじゃない。

こんなあからさまに千冬リスペクトってここまで来ると凄いというか何と言うか、

 

「マジで予想外にもほどがあんだろ……」

 

本当に予想外だった。

もう本当にモンド・グロッソの時の千冬のまんまだ。

あれだな、若さとかもしっかりと再現されてる。最近の疲れ気味千冬には無い肌のハリとか。

いやこんなとこまで再現してどうすんだよ。

右手には唯一の武装である剣を持っている。

 

取り敢えずは何とかしてこいつからラウラを助け出さないと。

いや、その前にISに乗らなきゃいけないか。

今の所動き出してはいないし何とかなるかもしれない。

 

そう考えて居た時、VTシステムが動き出した。

 

「あぶねぇ!?」

 

こいついきなり右手に持っている剣を振るってきやがった!?

もしかして近くに居る人間を手あたり次第って事かよ。

マジで厄介なもんを開発してくれたなドイツ!

しかもこのデカさじゃ出られる場所が無いと分かったのか出口を探し始めた。

アリーナ側に立つ俺を攻撃すんのは当然の流れか。

するとそこに通信が入って来る。

 

『兄さん!』

 

「千冬!今すぐに隔壁を閉めろ!こりゃただ事じゃないぞ!」

 

今すぐに隔壁を閉じないと大事になる。

そう判断した俺は隔壁を閉める様に千冬に頼むが渋る。

 

『兄さんはどうする!?』

 

「どうにもならねぇ!そもそも今も逃げるので必死だ!」

 

『ISに乗っていないのか!?』

 

「大当たりッ!?あっぶねぇなぁおい!」

 

『ならば尚更そんな事出来るか!』

 

「良いから早く閉じろ!こいつ外に出るための道を探してやがるんだよ!外に出たらただ事じゃなくなる!今なら被害は二人で抑えられる!」

 

『だがそんなこと出来る訳が無い!それに今教員の鎮圧部隊が準備をして向かっているからーーーーー』

 

まぁ許してくれるはずもないよな。

ってなわけで、このピット内にいざという時に手動で隔壁を閉じるためのボタンがある。

 

「ポチッとなぁ!!どうだこれで逃げれ無くなったぞ!」

 

それを押してやった。

ここに閉じ込める事には成功。

 

必死に逃げ回るも、そもそもISと生身の人間だ。速度に置いて完全に負けているのだから簡単に追い詰められてしまう。

 

 

「おぐぅ!?」

 

挙句の果てに左からの蹴りを一発まともに食らっちまった。

でも咄嗟に威力を抑えるために飛んで回避したが……

 

いってぇ……!

 

冗談じゃないぐらいだ。

咄嗟に回避と同時に防御したから良かったものの、こりゃ左腕折れたな……

よく腕一本で済んだな。下手すりゃ内臓まで全部持ってかれてたかも。

しかも衝撃もかなりの物だ。なんか意識が遠くなっていくのを感じる。

 

おぃ、マジか……

 

 

 

 

意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 







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おじさんは妹達に頭が上がらないんだね。しょうがないね。

 

フッと意識が戻った。

 

 

 

……ッ!!

 

 

咄嗟に飛び起きる。

 

「いってぇ……!?」

 

のだがそう言えば左腕が圧し折れたんだっけか。

クソ、あれからどれだけの時間が経った?

今の状況はどうなっていやがる?

 

辺りを見回すと閉じた筈の隔壁は力任せに破られたような跡がある。

こりゃぁやべぇな。

 

これしか言えないがとにかく今の状況がかなり不味いのは確か。

外を覗いてみれば、既にもうVTシステムの姿は無く。

 

クッソ!完全にやらかした!

 

なんとか態勢を立て直さないと不味い。

何処にいる?

 

その前に何とかして千冬達と通信を取りたいが通信機器がイカれたのか、それとも管制室から避難したのか繋がらない。

多分打鉄に乗れば通信が繋がるかもしれない。でもそんな事したら間違い無く感づかれるだろうしなぁ……

 

これ普通に逃げた方が勝ちなんだがラウラの事を考えると間違い無く今すぐにでも殴り掛かった方が良いに決まってる。

 

まぁしょうがない。

打鉄に乗り込むしかないか。もし襲われたとしてもISに乗ってりゃさっきみたいに一撃で腕を圧し折られたり気絶する事なんて無いだろう。

逃げ回るのも幾らか楽になる筈……

 

 

コンソールを弄るなんてことも出来ないしそもそも使い方分からんから、打鉄にただ乗り込むしかない。

 

 

「痛てぇ……これマジで完全に折れていやがるな……」

 

乗り込むと幸いにも起動してくれた。

ありがとうよ。こっからもちょとばかし付き合って貰うが頼むぜ。

 

乗り込んで一番最初に行うのは痛覚の完全遮断。

流石のおじさんと言えども腕が折れてたら痛いのです。

 

痛覚を完全に遮断したものだから痛みは無くなった。

で、何とか通信を取りたかったんだけどその心配は無くなった。

 

何かめっちゃデカい声で俺の事を呼ぶ声が耳元で響いた。

 

『兄さん!?!?』

 

キーンッ!!ってしました。

つか声がデカすぎて音割れしてたような……

 

「耳がぁぁ……!!」

 

『あ、す、すまない兄さん……いやそうじゃない!無事なのか!?』

 

「まぁ一応生きてる」

 

『怪我は?』

 

「左腕が完全に折れた。あとは多分無事。内臓とかどうなってるのか分かんないけど」

 

『は?いや……え?腕が折れた?』

 

「うん。左腕が折れた」

 

『…………腕が折れたぁぁぁぁぁ!?!?!?』

 

「耳ぃぃぃぃ……!!!」

 

向こう側で千冬が大騒ぎしてる。

なんか束の悲鳴も聞こえるし。

 

『た、たたた、たば、束!!兄さんの腕が折れたってぇ!!あの頑丈な兄さんの腕が折れたってぇぇぇぇぇ!!!』

 

『ちーちゃん落ち着いてよ!?聞こえてたから掴んで揺らさないで!』

 

なんか向こう側で騒いでるけどそれどころじゃない。

今の状況を教えて貰わないとならない。

 

「おい二人共、落ち着けって。今の状況を説明して欲しいんだけど」

 

『……ちーちゃんがちょっとご乱心だから落ち着くまで私が対応するね』

 

「おう。まぁ千冬には無事だって言っといてくれ」

 

あいつなんで普段は冷静なのに偶に今みたいに壊れる事がある。

特に問題がある訳じゃねぇんだけどこういう時は勘弁してちょーだい。

 

『うん。で、今なんだけどおじさんと通信が途切れてからまだ二分ぐらい。避難は完了済み。VTシステムはピットから出た後、アリーナ内の隔壁を全部閉じたからか暴れまわって外に出ようとしてるみたい。ってのが今の状況だね』

 

逃げ出したVTシステムが外に出ようと暴れ回ってるって訳ね。

 

「で、今そっちはどうなってる?」

 

『取り敢えずは避難が完了してるから、教員の鎮圧部隊の準備が整うまで専用機持ちのいっちゃん達で警戒してる。こっちから攻撃仕掛ける訳にも行かないし、しかも閉所だから数の利を生かせないから。もし突入しても閉所だから強制的に一対一に持ち込まれる事になるし、いっちゃんがギリギリ抵抗出来るかなってぐらい。他は文字通り瞬殺だね』

 

それを聞かされると警戒が一番の戦術なのだろう。

あん時俺が気絶せずにここで足止め出来てたらと思うとやっぱし大失態だな。

 

「ラウラはどうなってる?」

 

『観測が出来ないから分からないけどこのままだとどちらにしろ危ないよ』

 

「鎮圧部隊はあとどれくらいで突入できる?」

 

『早くてもあとニ十分』

 

「ラウラは持つか?」

 

『無理だね。取り込まれてからもう五分経ってるからついさっき話したけど長くても十五分かな』

 

「間に合わねぇよなぁ……」

 

『いっちゃん達が突入させろって言ってるけど』

 

「何が何でも抑えとけ。つか俺は脱出出来んの?」

 

『いやー、無理そうだね。そもそも隔壁全部閉じちゃってるんだけどなんか暴れている時に配線かなんかをぶった切っちゃったのか全く動かせないから脱出も何も無いね』

 

「どうすりゃ脱出出来る?」

 

『VTシステムの後を付けてって外に出たら出れるだろうけどその時はもう色々とアウトだよ』

 

「……そんじゃまぁやれることは此処で大人しくしとくか、VTシステムに喧嘩売るしかないって訳だ」

 

何その究極の二択っぽい感じ。

ラウラを見捨てて俺は助かるか。これなら確実に1人は助かる。

それともVTシステムと殴り合ってラウラを助けるか。助けられなかったら俺もラウラも死ぬ。

 

まぁ考えるまでもないよね。

 

助けに行くに決まってんだろ。

まだ束と話している途中だけどVTシステムの所に向かうとするか。

早い方が良いに決まってる。死なせさえしなけりゃどうにでもなるからね。

 

『そーゆー事だねー。でもおじさん腕折れてるんだよね?それじゃまともに戦えないでしょ?』

 

「痛覚を完全遮断してっから違和感あるけど大丈夫」

 

『まぁそりゃこっちでも一応確認出来てるけど痛覚遮断も万能じゃないよ?遮断出来る痛みにも限界があるしそれを超えたらヤバいよ?神経焼き切れちゃうかもだし、そもそも違和感ある時点でアウトだと思うんだけど』

 

「マジで?」

 

『マジもマジ。大マジだよ。二度と動かなくなっちゃうかもよ?』

 

腕が二度と動かなくなる、かぁ。確かに想像すればそれがどれだけおっかない事なのか分かる。35年間連れ添った相棒なんだ。無くしたくは無い。だが命に比べりゃ軽いって。

 

…………ちょっと考えたんだけどでも束なら腕の一本簡単に生やしてくれそうなんだけど。いや、割と本気で死にさえしなければどうにでもなるかも。

 

「そりゃ嫌だけどよ……でも万能束ちゃんなら腕の一本や二本治せるし、なんだったら生やせるんじゃね?」

 

『よく分かるねおじさん。死んだりしなければ、私にとってはお茶の子さいさいなんだけど』

 

ほらね?

言ったでしょ?うちの束ちゃんは凄いんだぜ。

 

「じゃぁいいじゃん」

 

別に良くない?

死ななければどうにでもなるんだし。

でも束はそうじゃないらしくて。

 

『違うよ。おじさんに怪我をしてほしくないんだよ』

 

「んなこと言ってもよぅ……」

 

『好きな人が死に掛ける所なんて見たくないの』

 

俺の事が好き、ねぇ……

兄貴としては最高なんだがね。

……認めた方が楽になる?何を言ってるのかちょっと分かりませんね。

 

「でも目の前で人間が死ぬのは見たくねぇ。ってのは駄目か?」

 

『うん。駄目だね。だってそれでおじさんが怪我をしない、死なないなんて確証はないでしょ?』

 

「まぁそりゃ確約なんて出来ないし」

 

『それに正直な事を言っちゃえばおじさんが無事なら他はどうなったっていい。駄目かもしれないけどおじさんが居なくなるよりもそっちの方がずっといい』

 

『死ななければどんな状態でも治せるけど、死んじゃったら私でももう無理なんだよ?そこんところ分かってる?』

 

そうやって必死に訴えて来る束の声は心なしか震えているようにも聞こえる。

というか驚きの事実が発覚したぞおい。

 

「死者蘇生が出来ないとは驚きなんだけど」

 

『おじさん、私が幾ら天才で万能だからって死者蘇生なんて出来ないよ……』

 

さっきとは打って変わって呆れたような声でそう言って来る束。

……そろそろVTシステムに接敵してもおかしくは無い頃合いだ。

ブースターなんて室内じゃ使えないから出来るだけ静かに走って来たんだがバレてないよな?

いや、でもバレてるだろうなぁ。

 

と思いながら束にちょっとレーダー見てみ、という意味を込めて軽く言う。

 

「まぁでもこの会話も意味無いんですけどね」

 

『え?それどういう事……ねぇおじさん、おじさんの反応がVTシステムの方に近づいて行ってるんだけど』

 

「おう。だってぶん殴る為に追っかけてっからな」

 

『……おじさんのぶわぁぁぁか!!!』

 

さも当たり前の様に行ってやると束は少し黙ってからデカい声で馬鹿と言い放った。

 

「え!?」

 

『こっちは心配してるのに何でなの!?』

 

「だってこの事態が解決するまでピットで座ってるとかヤダもん』

 

『そうじゃないでしょぉぉぉ!?』

 

頭を抱えて、うがぁーーー!!!なんて叫んでる叫んでる。

あ、いまおじさん本当に馬鹿なんじゃないの!?って言いやがったぞ。

……後で謝っとこ。

 

でも放ってはおけんよなぁ。

 

「それにさぁ」

 

『……それに何?』

 

「VTシステムにラウラが飲み込まれて行く時に、なんでだか俺の方を最後に見たんだよ。そん時の目が自分の方が辛いに決まってるのに一丁前に俺の心配をして逃げろって目で見てきやがった。しかも同時に助けて欲しいともな」

 

あんな目で見られちゃどうしようもないって。

それに、15の子供に心配される程、俺は弱くは無い。

 

『……だから?』

 

「まぁ見捨てられんよな、って話です」

 

『……おじさんは馬鹿だね』

 

束は此処まで来るともう完全に呆れている声だ。

顔も怒りを忘れて呆れているだろうよ。

 

「知ってるよ」

 

『それもとびっきりの馬鹿だ。私が見て来た人間の中で一番だって断言できるぐらいに馬鹿だ』

 

「束さん、おじさんとしては罵倒されるより励まされたいんですけど」

 

ここは普通頑張って!とか言って励ますシーンじゃない?

 

『いいから最後まで聞いて』

 

「はい」

 

『でもなんでだかその馬鹿さ加減のお陰で今の私とか、ちーちゃんとかいっちゃんが居る訳で。馬鹿に出来ないなって思っちゃったんだよね。多分私はおじさんと出会ってなかったらこんなに呑気になってないだろうし、ちーちゃんといっちゃんだってどうなってたか』

 

「……え?それ今言わなきゃダメなやつ?」

 

『おじさん死にたいの?』

 

「好きなだけ話してくださいお願いします」

 

それ今言う?と思って口に出したけど、妹には勝てなかったよ……

あんなマジトーンの束久々やぞ。

怖かったです。

 

『まぁ何が言いたいかって言うと、おじさんが助けてあげなきゃ誰が助けるの?って話。まぁ本音を言えば本気で戦って欲しくないし。しかも腕折れてる状態でとか有り得ないんだけど。万全でもあり得ないんだけど』

 

「なんか悪ぃなぁ……」

 

『まぁ一応人命が掛かってる訳だし、しょうがなくは無いんだけどしょうがないから許してあげる。ただちゃんと生きて帰って来てね。死んでなければ幾らでも何とかなるから』

 

そう言うと、束は一息吸って、念を押すように言った。

 

 

 

 

『何が何でも生きて帰ってくる事。ちゃんと取り込まれた子を助け出してくる事。私を、ちーちゃんを、いっちゃんを、周りを泣かせない事。これが守れるんだったら行ってきていいよ、おじさん』

 

 

 

 

「おう任せとけ。両足が動かせなくなっても腕が斬り落とされてもが両目が潰れようとも声が出せなくなっても内臓が飛び出しても何が何でも生きて帰ってやる」

 

『出来れば五体満足で帰って来て欲しいんだけど。おじさんのそんなスプラッタなところ見たくないよ』

 

俺だって見たくないよ。

自分の腕の切断面とか内臓なんて見たい奴居る?いないよね。

……見たいと言ったあなたは病院に行きましょう。

おじさん良い医者知ってるよ?紹介しようか?

医師免許持って無いけどどんな病気でも治しちゃう束か、滅茶苦茶荒療治に走るかもしれない近所のお爺ちゃん先生のどっちかの完全二択だけどね。

 

 

 

スプラッタになるかならないかは分からんなぁ。

だって全盛期の千冬とかそれどんなチート?

 

「そんなん相手が相手なんだから確約は出来ないね」

 

『うん。分かってる。だから、何かあっても私に任せて。死なない限りは何とでもしてあげるから』

 

「あぁ。そいじゃ、行って来るわ。千冬と一夏達の事頼んだぞ」

 

『任せといて。でも帰ってきたら怒られるだろうから覚悟しておいてね。勿論私も怒るからね』

 

それを聞いた途端に急に背筋に冷や汗がめっちゃ流れて来たんだけど。

思わず言っちゃった。

 

「……帰りたくないんですけど」

 

『張っ倒すぞ』

 

「すみません許してください」

 

ブチギレ束さんマジ怖い。

 

『はぁ……ほら!集中して!』

 

「おう!」

 

『何度も言うけど死んじゃだめだからね!?』

 

「分かってるよ」

 

そう言うと通信が切れた。

心配しすぎ、とは言っちゃいけないよな。それだけの状況って事だしよ。

 

「腕一本ぐらいで勘弁してくんねぇかな」

 

思わずぼやいたんだけどもう左腕やられてたんだった。

でも痛みは無い(痛覚遮断してるだけ)から使える……気がする。

 

動かした感じ違和感あるけど痛みは無いから余裕だな。

もう少し進むと、隔壁を破ろうと暴れているVTシステム(inラウラ)が見えて来た。

ラウラを助けてやらんとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんじゃいっちょやったりますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







追記
やっべ、なんかサブタイ消えてやがる。
すいませんでした。


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許すまじ!VTシステム!いや、この場合はドイツか。どちらにしろ覚えてろ!……束が暴走すると思うから。

タイトル通りに行かないのがこの小説の良い所(悪い所の間違い。寧ろ害悪ですらある)。


えー、今現在VTシステムの背後を取っております。

なんか知らんけどレーダーとかある筈なのに俺に構わず剣をぶん回して隔壁をブチ破ろうとしている。

 

まぁそうだよね。

俺を相手するより隔壁の方が簡単だもんな。

という事は俺の方が厄介だと言っているようなもんだ。

 

嬉しい……

 

 

 

違う違う。

ぶっちゃけなんか色々考えてどんな作戦へ行ってやろうかとか考えてたけど今まで千冬とドンパチやってた時ってそんな小難しい事一切考えずに互いに只々殴り合ってただけなんだよね。

 

 

VTシステムがどうするか分からんけど千冬のコピーってんなら同じなはず。

だから剣を持って居ようと戦い方は同じ。

俺の攻撃に対しての反応もそう変わらない筈。

 

もし自己進化するタイプの人工知能を搭載していたらちょっと不味い。そうなったらもっと素早く仕留めなきゃならん。

 

と、こんなことを考えている内に時間はどんどん無くなる。

取り敢えずは、牽制で銃弾を幾らか叩き込んでやろうか?

ただ馬鹿正直に殴りかかるだけじゃ一発KOされてもおかしくない。

 

今の残り時間は12分。

あんまし余裕は無いな。そりゃそうか。

 

ってなわけで右手に取り出しますはアサルトカノンくん。

構えてさぁぶっ放そう!

 

「ッ!?こっちを向いた!?」

 

どういう訳だか銃を呼び出した瞬間に俺に対して顔を向けてきやがった。

何だあれどういうこった?

まさか俺が銃を取り出したからか?そしたら優先度とかで目標を決めているって事か?

でもそしたらなんでISも何も無い状態の俺をあの時攻撃したのか分からなくなるがまぁいいや。取り敢えず……

 

「鉛玉のプレゼントだオラァ!!」

 

引き金を引いて、当たるかどうか分からない鉛玉をバラ撒く。

しかしそこは千冬のコピー。飛んで来る銃弾を避けるか、剣で叩き落としていく。

この狭い通路内であんな動きが出来る辺り流石は千冬コピーと言った所か。

 

そのままの勢いに任せて俺に斬りかかって来る。

 

「おいおい、お兄ちゃん大好きっ子な所はコピーされてねぇってのか!悲しいね!」

 

真上から振り下ろされたその剣筋は間違い無く千冬のものだ。

腕部に施した増加装甲で右側にいなす。

しかし流石は全盛期の千冬のコピーだ。今の千冬の一撃よりも重い。にも拘らず滅茶苦茶早い。

 

「フッ!ホッ!ヨッ!」

 

必死に右へ左へ受け流したり弾いたりするも、増加装甲が段々と削られていく。

 

「いって……!!」

 

しかも折られた左腕に感じていた違和感が痛みに変わり始めた。

 

束が言ってた痛覚遮断を超えて来てるって事か!?おいおいおい随分と限界が来るの早いじゃないの!

 

痛覚遮断のレベルをこれ以上上げることも出来ない。

MAXにしてある現状ですら痛みを訴えて来るこの腕はどうにもならなさそうだ。

しょうがない、左腕君には今回は犠牲になって貰うしかなさそうだな……!

 

「良いぜチクショウ!!左腕はくれてやらぁ!!!」

 

叫びながら殴り掛かれたら良かったんだが受け流すので精一杯。

つかこいつ機械?AI?だから疲れ知らず。

一向に攻撃の手が緩む気配が無い。

 

このままじゃぁ俺が先にバテちまうぜ。くそー、やっぱり若さっていいなぁ!

 

一夏程とは言わないから箒か鈴ぐらいは欲しいなぁ……と思いながらも無理ですよねー。

剣さえなければ純粋に殴り合いに持ち込めるから何とかなりそうなんだけどこいつの剣ってなんか手から生えてる感すっごいんだけど。

 

取り敢えずはラウラをどうするかって問題なんだけど……

これ確か中に取り込まれてるんだよな?少なくとも発動時はそんな感じだった。

なら引っ張り出しちゃえばいいじゃん?

 

幸いな事にVT千冬(今命名)は千冬と同じ身長だからあれの真ん中にラウラはいると思う。え?体重は知らんけど。もしかしたら全盛期の方が軽い……ッ!?(ゾワァッ!)

 

今物凄い悪寒がしたぞ。千冬か?千冬なのか?千冬だな?千冬じゃん?

女性に対して体重の話は禁物って身をもって体験する事になるとは。

しかも本人は傍に居ないのに。

 

まぁ例の如く話はズレたけど要はだな、中身のラウラを引っ張り出そうって事だ。そんでもって面倒だから引っ張り出したらタコ殴りにしてやろうって算段な訳だ。

 

でも問題があるんだなこれが。

そもそもラウラをどうやって引っ張り出す?って話なんだが、中に取り込まれているから手を突っ込んで、とはいかない。

あんなゲテモノ代表みたいなやつに腕突っ込むとか嫌すぎる。

 

ってのは冗談でもない冗談で。

そもそも手を突っ込んでどうこうなるようなもんじゃないと思うのよ。

そんなズボッ!ガシッ!ズルズルッ!って擬音の様に済ませられないのは確かだ。

 

取り敢えずの目標は攻撃力を奪う事だな。

って事で攻勢に転じちゃおう!

 

右斜め上から振り下ろしてくる。

それをいなし、下にそらした瞬間に俺の脇を狙って斬りかかって来る。

それを一歩前に大きく踏み込んで手首の辺りをガッチリ脇で固定してやる。

 

「はい捕まえたぁ!」

 

引き抜こうと藻掻くがしっかり挟んでガッチリと手でも掴んでいるから早々逃げ出せない。

 

「これで剣を楽しく振り回せねぇだろ!?そんじゃ次は俺の番だなぁ!!」

 

逃げようと身体を離しているのが仇になったな馬鹿野郎。

左腕は捕まえるのに使っちまってるから空いているのは右手だけ。

その右手で思いっ切りストレートを一回二回三回四回五回と叩き込む。

避けようとするがそんなものお構いなし。

 

「しっかり食らっとけ!オラァ!」

 

ゴスッ!ゴスッ!ゴスッ!ゴスッ!

 

鈍い音が連続して響く。

 

……え?妹の姿をしてるのに容赦が無い?

ははっ。こうやって練習試合染みた事をやる時は生身で殴り合うんだぜ?しかもこれは本人じゃないじゃん?手加減する理由がありませんよえぇ。

それに千冬だったらこれぐらい食らっても平然としてるし、束がどん引きするような滅茶苦茶獰猛な笑みを浮かべて反撃して来るからね。

やっぱし機械は機械。コピーはコピーなのだ。

 

あ、そういや一部始終を見てた束がこんなこと言ってたな。

 

「この兄妹おかしいよ……なんで殴り合ってるのにこんなに嬉々としてるの……?」

 

「束も兄さんと一回やり合って見れば分かるさ」

 

「いや束さんはちょっと遠慮しとくよ……というかベクトルが絶対に分かりたくない領域だし。おじさんとはあんなんじゃなくてもっとこう、甘々なイチャイチャをしたいの」

 

「そうかそうか兄さんじゃなくて私と試合がしたいか。そうかそうか今すぐやろうそうしよう」

 

「なんでぇぇぇぇ!?」

 

あいつら本当に仲良いよね。

結局束は逃げ回って千冬はそれを追いかけてを日暮れまでやってたな。

 

 

 

とそんな思い出話してる場合じゃない。

顔面に向けて八回拳を叩き込んだところで顎に向けて一番強いのをお見舞いしてやる。

 

「兄貴からの特大プレゼントォォォ!!!」

 

コ”ス”ッ”!!!

一際鈍い音が響く。

だがそこは機械。人間なら昏倒していてもおかしくはない一撃を入れた筈なんだがやっぱし効果は無いか。

 

VTシステムも左手で殴って来るが一々防御なんてしてられるか。

まぁでも流石に全く防御しないって訳には行かないから幾らか捌いてるんだけどそん時はヘッドバット食らわせたり膝蹴りを脇腹、鳩尾、股間に叩き込む。

男じゃないからって股間への攻撃が通じない訳じゃない。

まぁVTシステムに対して効果はあるかどうかは別として。

 

俺自身には一応SEの上限もあるし、絶対防御もあるにはある。

剣を持っている右手を封じたのにも理由があるし何もかも無策って訳じゃない。

 

千冬の使う剣はなんか知らんがシールド無効化なんて物騒なもんが付いてる。

それを封じるために右腕を取っ捕まえたわけよ。流石でしょ?

まぁこのエネルギー無効化攻撃は流石に常時発動って訳じゃないし、デメリットもある。

 

簡単なデメリットは自身のSEを消費しないと発動が出来ない事、攻撃力が高すぎる故に使い時が難しい事の二つ。

 

SEの上限があるからには常時発動なんてしてたらそれこそ自滅待ったなしだ。

だから攻撃が当たる瞬間のみ発動とか結構細かい操作が必要になって来る。

で、VTシステムも常時発動している訳じゃないから幾らでもやりようがある。

このエネルギー無効化攻撃、シールドだったりバリアだったりには効果絶大なんだが物理障壁、所謂装甲とかには一切効果が無い。

だからこそVTシステムに対してはこれが一番の盲点というか、弱点だ。

千冬本人なら間違い無く装甲をぶった斬れる。

斬鉄なんてお手の物だしな、千冬は。

 

ところが結構ガッツリと腕部装甲で防いでいるのにも関わらず俺の腕は未だに斬り落とされていない。

という事はVTシステムには千冬程の技量は無いという事。

まぁ機械に技量なんてあるのか、という話は別にしといてだ。

 

少なくともこいつには一撃で斬鉄を成し遂げられるほどの力は無い。

隔壁はなんというか無理矢理ぶった切った、耐えきれなくなった隔壁をぶった斬ったって感じだったから確かだと思う。

千冬がやったらそれこそ綺麗な切り口になっている筈だ。

それこそル〇ン三〇の石〇五〇門が車だったり何だったりを斬った時みたいになる。

 

今の千冬が出来るかはどうかは別として。

 

攻撃力云々は今は関係無いか。

だってVTシステム、明らかに俺を殺す気で来てるから一切出し惜しみなんてしてくれないし。寧ろ最初から最後まで全力な気がする。

 

 

って事で幾ら全盛期とは言ってもこういった所で明らかに千冬本人に劣っている面があるのは確か。

でも流石は全盛期の千冬のコピー。

一撃一撃が確かに今の千冬よりずっと重い。

顔面だけじゃなくて鎖骨や脇腹に叩き込まれる一撃は肋骨が圧し折れたと錯覚するほどだし、折れてはいないが物凄く一撃を受けるたびに激痛が走るのは錯覚じゃない。

ここはSEと絶対防御に感謝だな。

これが無かったら今頃、いやもっと早い段階で俺の骨は粉々、内臓はグチャグチャになってた。

 

これからならないって保証は無いんだけどな。

取り敢えずはVTシステムの右手を捕まえたままだからこの超至近距離で片手のみの殴り合いに発展している。

 

しっかしこいつ打たれ強いじゃぁねぇか!?どんだけだよ!

 

千冬でも多分一回か二回はぶっ倒れて立ち上がって来るレベルのダメージを与えた筈なんだが一向にバテる気配はない。

やっぱしスタミナは無制限、タイムリミットは有限ってことだな。

 

なんというクソゲーだ。もしゲームとして発売されていたら絶対に俺は買わないね。

 

 

 

と、それよりも殴る事よりもラウラを引っ張り出さにゃならんのはしんどいな。

正直、搭載してある剣があるからそれで斬ってラウラが見えたら掴んで引きずり出そうって考えてんだがVTシステムの左腕がまだまだ元気なんだよな。

これから弱るなんて気配は全く無いし

 

「ぶっ!?」

 

「グゴッ!?」

 

「ゲフッ!?」

 

無傷で勝てたらそりゃかっこいいだろうけど俺にゃ無理だな。

顔面、腹、脇腹、肩、首、胸に叩き込まれる一撃は重くてしょうがない。

 

一応致命傷になるようなのは確実に防いではいるが、防御した右腕ごと殴り抜いて来ることもある。

 

しかももう防ぎきれなくて何発も良いのを貰っちまってるんだよな……

遅かれ早かれ負けるのは俺だ。

 

ここはいっちょ無理をしてでも右腕を何とかするしかない。

 

「おい束ェ!!」

 

『え!?おじさん!?どうしたの!?』

 

「ラウラが何処に取り込まれているか分かるか!?」

 

『え!?ちょ、ちょっと待ってね!』

 

って事で困った時のタバエモン。

一度回線を開いて束を呼び出しラウラの正確な位置を調べてもらう。流石にラウラごとズバッと斬るわけには行かないし。

 

『おじさん!場所は体の中心線の位置!胸から十センチ下!丸まって取り込まれてる!』

 

「ありがとよ束!」

 

『え!?ちょーーー』

 

なんか最後に言いたそうな感じだったけど切っちゃった。

身体の中心線、胸から下に十センチだな。

 

よし、丸まってるって言ってたから腕を斬り落としても問題無し!

 

そんじゃいくぜぇ!!

 

 

横側から肩よりも少し下、上腕辺りから叩き斬ってやろう。

その間は完全に無防備になるがそこは隙を見て、だ。

顔面目掛けて殴ってきた瞬間、葵を呼び出し振るう。

 

 

ザクッ!!

 

 

よっしゃ良いのが入った!

俺の顔面を殴った左腕は、そのままだらんと力無くぶら下る。

すると思わぬアクシデント。

 

「気持ち悪っ!?」

 

なんか断面がウニョウニョ動いて再生しようとしている。

いやこれは普通に気持ち悪いわ……

 

まぁ再生何てさせないんですけどね。

繋がろうといている腕を完全に斬り落とし、そこから再生しないのを確認。

 

そしたら右腕も斬り落としちゃいましょうね。

 

「よいしょぉーーーー!!!」

 

って事でガッチリ捕まえたVTシステムの右腕を斬り落としましたはい。

まだ足が残ってるがまぁこっちは気にしなくていい。

床に張っ倒してしっかりと両足を両足で挟んで動けない様にしておく。

そんでもって葵をさっき束に教えて貰った場所に、ラウラを傷付けない様に突き刺して斬る。

 

すると小さく丸まったラウラがそこに居た。

なんだか取り込まれる前と違って違和感あるけどまぁいっか。

取り敢えず再生する前に引っ張り出しましょ。もうウニョウニョして再生し始めているしね。これ再生されたら面倒だ。

そいじゃまぁ、腕をしっかり掴んで……

 

「よいしょぉぉぉ!!!」

 

引っ張り出します!

ぬ!?思ったよりも絡みついてるな。

もうちっと力を込めてグイっと引っ張る。

するとなんともまぁ気持ち悪い、こう、ズルズルズルッ……って感じで出て来るラウラ。

せめてもの救いは粘液まみれじゃない事か。

しかしそんな事でも叫ばずにはいられないこの言葉。

 

「とったどぉぉぉぉ!!!!!」

 

黄〇伝説の様に盛大に雄叫びを上げながら引っ張り出す。

そこで気が付くさっきの違和感。

何と驚きラウラは全裸でした。

 

おいおかしいだろ!取り込まれた時はISスーツちゃんと着てただろ!

 

心の中で絶叫するが、余りの驚きによって実際には声に出ない。

いやだって服を着ていると思っていた相手が服を着て居なかったら誰だって驚かない?絶句しない?おじさんは一般人だからね、もう普通に怖いです。

 

取り敢えず此処でボケボケしてられないからラウラを脇に抱えて距離を取る。

見た感じ動き出す気配は無いから今のうちにトンズラしちまおう。

 

ラウラを脇に抱えたままアリーナの方へ向かう。

本当は千冬達と合流する事が出来ればいいんだけど隔壁全部閉じてて外に出られないからね。アリーナの方にしか行けないんだわ。

こっちはVTシステムの野郎が隔壁全部ぶっ壊してくれたおかげで通じてるし。

これって請求何処に行くんかな?

 

日本政府が立て替えといてそっからドイツに請求するのか?

何にせよドイツに矛先が向くのは間違い無いな。

 

つかラウラどうしよう……?

 

「おーいラウラー。起きろー」

 

気を失ってるのか、それとも消耗していて起きないのか分からないが全く起きない。

ペチペチと頬を叩いても起きない。

 

「おーい束ー?聞こえてるかー?」

 

『おじさん!?なんでさっきはいきなり通信切っちゃったの!?というか今どうなってるの!?VTシステムの反応が弱まったんだけど!』

 

束に連絡を取ると大騒ぎしてる。

さっき通信をブツッと切った事に文句があるようだ。

謝っとこ。

 

「通信切った事は謝る。取り敢えずラウラは救出完了。それとVTシステムはなんか知らんが動かないでその場で固まってる」

 

『……展開が早すぎて追い付かないよ』

 

状況の説明をすると本当に訳が分からないといった声で呆れかえる束。

まぁそうだよね。仕方ないね。

 

「それよか壊れてない方のピットの隔壁開けられない?」

 

『さっきも言ったけど無理。回線丸ごと持ってかれちゃったから』

 

「なら早めに助けに来て欲しいんだけどそこんとこどうなってんの?」

 

『取り敢えずシステムの復旧にあと一、二時間ってところ。ただシャットダウンされたなら十秒もあればなんとかなるけどぶっ壊されてるからそもそも物理的に修理をしないといけない段階だからね。しかも複数個所。完全に電源も落ちちゃってるしどんな暴れ方したらこうなるのか』

 

「それじゃ俺は寒空の下、何故か全裸の少女と一緒に震えるしかないって訳ね。理解したわ」

 

取り敢えず此処で待ってることしか出来ないって事ね。理解したわ。

でもそんな事より束は別の事に食いついた。

 

『は?全裸って何?どういう事?まさか……』

 

おぉっとこれは勘違いしていらっしゃる。

ちゃんと弁解せねば。

 

「言っておくが俺は何にもしてないぞ。VTシステムから引っ張り出したら何故か着ていた物が全部剥ぎ取られてました。それだけです。そもそもあんな状況で、自分の左腕がポッキリ逝ってるのにそんなことできません」

 

『……おじさん、女子高生は流石にダメだよ?』

 

「だからちげーって言ってんだろぉぉ!?」

 

なんで理解してくれないのぉぉぉ!?

おじさん何も悪いことしてないよ!?無罪だよ!?冤罪だよ!?

 

『私ならオールオッケーだよ!』

 

「何も良くねぇ!良いから早く助けに来て!?」

 

束に手を出したらそれこそジ・エンドじゃん!?

一緒に雲隠れするしかなくなるじゃん!?

 

『分かってるって。こんな会話しながらもちゃんと作業は進めてるし』

 

「ホント有能だなこいつ……」

 

『でしょ?だから帰ってきたらお説教のついでに沢山褒めてね!』

 

そしてサラッとご褒美をねだってくるあたり流石束。

抜かりないな。

 

「あーはいはい分かった分かった」

 

『あ、それとちーちゃんブチギレモードだから覚悟しておいた方が良いよ』

 

今スッゴイ物騒な言葉が聞こえて来たんだけど気のせいだよね?そうだよね?

千冬は怒ってないよね!?笑ってるよね!?

 

「は?え?おいちょっ」

 

向こう側でちょっと押し問答の様な物音がして、何故か全くの雑音も無く静かになる向こう側。

そして何処か聞き覚えがあるけど恐ろしい声が流れて来る。

 

『ニイサン?アトデオボエテロヨ?』

 

俺は何も聞こえなかった。

妹の声に似た何かの死刑宣告何て聞こえなかった。

だから幻聴だったんだ。そうだだから通信を切っちゃったのは仕方が無い事なんだ。そうだ仕方が無いんだ。

 

 

 

 

 

 

 

それから救出が来るまでの間、延々とコールサインが鳴り響いていたけどそれも幻聴なんだ。

 

 

 

 

 

 

つか今更だけど左腕の感覚が在りません。どうすればいいでしょうか?

ISを待機状態にする?でもこれでまだ痛覚が残ってたら死ぬほど痛そうだし……

 

よし、このままにしとこ。

それにVTシステムが再起動しないなんて保証はどこにもないんだし。

 

え?コールサイン?幻聴でしょ?

 

 

 

 




(ヤンデレルートは)ないです。


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第二回戦VTシステム大決戦! チクショー!?再起動しないなんて保証は無いなんて言わなきゃよかった!

タイトル詐欺はこの作品の常套手段。

結構軽めに書いているけどフツーにガッツリシリアスよ。
気を付けてね。

そう言えば皆さん大好きなあの子が初登場しますよ。




それと話は変わりますけど本当はクリスマス特別編とか投稿しようと思ってた。
でも忙しさがぶっ飛んでたのと書き始めたら止まらなくなっちゃって。
他作品の方もクリスマス特別編を投稿しようとしていただけにかなり手痛い遅れだった。
今から書くのもアリなんだけど、全部の作品を書くのは無理だから一つか二つに絞って書くことにしようかな……

それともクリスマス編を書かずにお正月特別編を書くのもアリだな……



どちらにしろ全部書くという事は作者のスキル的に無理。
だってこんだけ一話書き終わるのに時間が掛かっているんだから来年までの残りの日数を考えれば……ねぇ?

って事で書くかどうかは作者の気分とモチベ次第。
感想書いてくれたら書くかもよ……?(書くとは言っていない)





アリーナの内側にせり出してるピットの所に眠りこけているラウラと共に待つこと三十分。未だに助けが来る気配は無く、俺も腕の骨折に散々殴られた脇やら顔面やら腹やらが痛くてISから降りることも出来ず。

 

まず最初にやったのは自身の身体の確認だった。

左腕は確定で折れてる。そもそも感覚が無い。

右腕は、拳が若干腫れたり皮が剥けたりしているがそれだけだ。

顔、頭は殴られたときの痣が目の部分と口にある。あと鼻血が少し前まで出てた。

触った感じ折れてたりはしていないから問題無い。

両足は特に問題無し。強いて言えばやはり痣とかの軽傷が結構あるぐらい。

 

問題は、脇腹、肋骨と肩回りだな。

右の肋骨、何本かは分からないが、感覚が変だ。多分、ヒビが入っているか折れている。複雑骨折って感じじゃぁ無さそうだが……

肩回りは右の鎖骨が完璧に折れてる。今は痛覚遮断をMAXにしているお陰で何も感じないが痛覚遮断が無かったら折れた骨の破片や断面が肉とかに突き刺さっててのた打ち回ってただろう。

 

で、見た感じの怪我を纏めると、左腕の骨折(かなりヤバい)に拳の皮が剥けている、鼻血(もう止まってる)と右肋骨数本?の骨折、右鎖骨の骨折。

あとは全身に青痣。

 

大体こんなもんだな。

内臓に関しちゃ特に問題は無さそうだ。

折れた骨が刺さったりしない限りは、という言葉が付くがな。

 

つーかVTシステムの攻撃、絶対防御貫通してた気がする。

だってそうじゃなきゃ鼻血なんて出ないだろうし、骨も折れたりなんかしない。

そんだけのもんを食らっといて生きてる俺って人間なんかな?

まぁでも千冬と束も同じようなもんだし、俺は人間だな。まだ人間を辞めちゃいない。

 

 

 

 

 

皆来るのが遅いぞ?つーか早く助けに来て?

 

 

 

待てど暮らせど助けが来る気配は一向に無く、寝っ転がしてるラウラも流石に真っ裸のまんまじゃダメだろと思って俺のISスーツの上を着せてるけどさぁ……

 

上半身裸のおっさんと、そのおっさんの上着(殆ど下着みたいなもん)を着てる見た目小学生か中学生の明らかに血が繋がっていない、そもそも人種が違うよね?って言う女の子の二人が居る。

しかも女の子の方は意識が在りません。

 

 

はいどうみても犯罪臭しかしません。寧ろこの状況のどこに安心できる要素があるのか。ほっこりできる要素があるのか。

いい加減上半身裸は勘弁して欲しい。酒を飲んだりはしていないから腹が出ていることは無いがそれでもおっさんの上半身裸を見たいなんて人間は何処にも居るはずがない。

居ないと思う。居たら怖い。

 

 

 

 

 

……ふっざけんなよおい!何だって俺はこんな状況に居るんだよぉぉぉ!?!?

下手したらあれだぞ!?世界で唯一のIS男性操縦者はロリコンだったって世界中に報道されちまうかも!?

それで連行されて取り調べも無く有罪判決の挙句ムショにぶち込まれるんじゃなくて研究所に送られて解剖やら人体実験のハリケーンが俺を直撃するんじゃ!?

 

いやでも待てよ……?今回の一連の騒動は全部ドイツが悪いんだよな?だったら万が一俺にロリコン疑惑が出て来たらそれも全部ドイツに擦り付けちゃえばいいんじゃね?

あれ、俺って天才?

 

 

 

そんな感じで頭を抱えたり訳分からない理由で希望を見つけたりして顔を百面相して待つこと更に十分。

あんまし時間が経ってねーじゃねーか、なんてことは言わないお約束。

 

 

 

 

「……マジで助けに来ねぇぞ。でも二時間掛かるとか言ってたしな……つか腹減った。ISに非常食積めるようにした方が良いんじゃね?宇宙で活動するんだし」

 

肉食いたい。ラーメンとか。

あ、鳩サブレー食べたい。

 

 

 

座る事も出来ず、ボケーっと空を見ながら色々と考える。

 

しっかし今回の騒動は迷惑、だなんて言葉で済ませられないレベルの騒ぎだったぞ?

被害はアリーナの半壊?と俺の全身の大小様々の怪我、それにIS学園の生徒全員に危険が及んだ事、それに伴って学年別トーナメントの中止。ラウラ・ボーデヴィッヒの生命活動への危険。

あとどうでも良いけど各国の代表へ危険が及んだとか?

 

少なく見積もってもこれだぞ?

まともに探したらこれだけじゃすまない。って事はだ。

今回やらかしてくれたドイツは、まぁどうなるかはお察しという事だ。

 

軍部や研究者の独断にしろ、国家全体としての事なのかは分からないがそちらにせよデカい代償とツケを払う事になるだろうな。

ドイツの政府上層部や軍上層部がどうなろうと知ったこっちゃ無いがそれよりも心配なのは束がドイツという国を冗談抜きで沈めないかが心配だ。

 

いや、冗談とか比喩じゃなくて本気で物理的に沈めそうな所と、それを実行出来るだけの力があるから尚更、現実に起こりそうというか起こしそうだし。

 

マジでドイツがアトランティス案件になりかねない。

それか海に沈めやしないけど更地にされちまうかも。ドイツ領土だけ北〇の拳になる。

ドイツ国民がモヒカンでトゲトゲ肩パットにごっついバイクに跨ってヒャッハー!!とか嫌すぎる。

さっきも言った通り上層部がどうなろうが構いっこないけど関係の無い一般市民に被害が及ぶのは困る。良心が痛む。

精神的にダメージがデカい。だってドイツ全土が世紀末になったら普通嫌でしょ。

無駄にかっこいいドイツ語を叫びながらヒャッハー!とか考えるだけでおもし……じゃないじゃない。恐ろしい。

日本人の、特に一部の人間が大好きそうな展開だ。

 

 

 

つーか俺の分かる範囲でISの点検をしてるんだがボロボロだな。

全身傷だらけだし、なんかシステム面も色々とぶっ壊れてる。

駆動系は、無茶をしたからかガタ来てるな。

推進系はそこまでダメージは無さそうだがこの状態じゃ使えんな。使った瞬間に地面とキスするか制御出来ずにどっかに飛んで行っちまうのは目に見えている。

 

こんだけボロボロになるのも仕方が無い。

いくらISとは言えど、剣で斬り合ったり銃で撃ち合ったりすることは想定しているしその為にSEなんてものがあってバリアが張られている。搭乗者を守るために絶対防御もあるが機体を守るためにある訳じゃない。

だけどそのSEや絶対防御を貫通してくるような攻撃、しかも殴り合いだぞ?そんなものを想定して設計、開発、製造なんてされてない。

そりゃ壊れるわ。

 

むしろここまで耐えてくれた打鉄に対して感謝しかないね。

じゃなきゃ今頃俺は死んでた。骨と内臓、筋肉は全部ミンチにされて原型が残ってたかすら分からない。

 

取り敢えず、礼を言っとかなきゃなぁ。

あんがと、打鉄。だけどもう少しだけ頼むな。

 

 

まだ助けは来ねぇのかなぁ……

 

 

 

取り敢えず腹減ったのと疲れて眠い。

早く迎えに来てちょーだい。

相変わらずラウラは起きないし、呑気に寝息を立てている。

こいつさっきまで取り込まれて死ぬかもしれないって状況だったんだぞ。

 

 

なんて思っていたのもつかの間、なんかVTシステムが居る方のピットが騒がしいというか、直感だけど明らかにヤバそうな雰囲気がバリバリ漂って来ている。

 

おいおいおい……マジか?まぁあれぐらいで仕留められたとは思っていなかったがまさか回復したのかアイツは!?両腕しっかりと元通りになっているじゃねぇか!!

 

しかもなんだか若干形が崩れてるし……

表面がなんかこう、スライム?メ〇モン?というほどじゃないんだけどこう、何とも言えない状態になってる。

端的に言って滅茶苦茶気持ち悪い。生理的嫌悪がスッゴイ。

見てるとこう、ゾワゾワゾワゾワッ!?!?って鳥肌が立つ。

 

しかもなんか知らんけど滅茶苦茶こっち見てるぅ……

えぇ俺なんかした?いやしたけど。片腕捕まえて殴って両腕斬り落として腹を斬って中からラウラを引きずり出したけどさ。

 

つーか武器は何処に行った。

右手に持って居た剣はドコに置いてきた?なんで素手なんですか?

え?まさか俺が考えてることなんて起こらないよね?もう君限界だよね?

 

〔アアアアアア”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!〕

 

「ヤル気満々って事かよ!?チクショウ!」

 

アイツ初めて声?音?を出したがそれがまさかブチギレヴォイスだなんて予想できるかって!つーか声出せんのか!

 

「出来れば在りし日の千冬の様にお兄ちゃんって呼んで欲しかったぁぁ!」

 

でも声も姿も似てないからやっぱし却下で!

若干怒った時の千冬の声に似てなくもないからちょっとだけ怖いけど……

 

ラウラもまだ目を覚ましてないからここに居る訳にも行かない。

しょうがねぇな、同じ土俵に降りてやるよ。

 

「おら、同じ土俵に降りて来てやったぞ」

 

そんじゃまぁ、明らかにラウンド2をやりたそうな顔してるから付き合ってやるよ。

つーかあの咆哮?絶叫?してから一切の声を出さなくなったな。どういう事だ?

これじゃ俺が勝ってに独り言喋っているみたいじゃん。反応して?お話しようぜ?

なんならダンスでも踊っちゃう?そしたら本物の千冬にシバかれそうだけど。

 

おーおー、やる気満々って感じじゃねぇですか。

俺一応全身ボロボロなんだけど。これ以上は流石にキツいんですがそれは気にして頂けない?あ、そうですか。

 

流石に今回ばかりは勝てそうも無いか……?

まだ救助が来るまでに一時間ニ十分もあるんだぜ?

このボロボロの身体でそんだけ戦えるか?と聞かれれば答えはNOだ。その前に俺は殺されちまうに決まってる。その前に倒す事が出来れば良いが流石に無理。

 

まぁ痛覚遮断をMAXにしているから痛みは感じない。

死にさえしなければ束が何とかしてくれちゃうって事だから心配無しなのだが、ちょーっと今回ばかりは無理そうな気がする。

でもラウラにちょっかい掛けられる訳にも行かないししょーがないね、どっかしらの欠損ぐらいは覚悟しとこうかな。

斬れそうなものを持ってるわけじゃないけど、引きちぎられそう。

 

 

 

 

なんだかアイツ、動きが無いな。

なんでだ?ずっとこっち見てるだけだし。

いやでも纏ってる雰囲気は確実に俺を殺す!殺してやるぅ!って感じなんだよなぁ。めっちゃ拳ボキボキ鳴らしてるし。

お前本当は声以外、結構感情豊かなんじゃねぇの?

 

目の前にやって来るとなんかめっちゃメンチ切ってガン飛ばしてくるんだもの。

 

器用な奴だな本当に。

お前やっぱり感情豊かじゃねぇか。

 

目の前に立つと完全に殺る気満々って感じでこっちに近付いて来る。

俺も近づいて行く。

見た感じ武器を取り出すなんて感じじゃ無さそうだし、多分正面からの殴り合いになるんじゃねぇかな。

逃げ回りたいけど無理だし、それに追っかけられたら後ろからぶん殴られてそのままマウント取られて死ぬまで殴られる、なんて嫌な未来が目に見えている。

 

この身体でどれだけ保つか分からんけど。

 

こっちも何もしない訳にも行かないから適当にメンチ切ったりして威嚇。機械に通じるかなんて知りません。こういうのは気分の問題なんだよ。

 

 

 

 

 

一発、殴り掛かれば確実な一撃を入れられる距離まで近づいた。

瞬間、双方右腕で相手の顔面を狙って攻撃を放った。

当然相打ちになるかと思われたが、先に拳が届いたのは俺の方だった。

 

と言うのも、俺と千冬の体格差に関係がある。

俺は身長177cm、千冬の身長は166cm。

俺は男としては平均的な身長だ。千冬の方は女性にしたら大きい方なのだろうか?

だが、10cmの差はかなり大きい。腕の長さや足の長さも変わって来る。

 

腕の長さの違いはどれぐらいか詳しくは分からないが……

あと今ので分かったのだが、やっぱり千冬とは明らかに戦い方というか、そう言う物が違う。さっきの俺の顔面へ放った拳の時、踏み込みが甘かった。千冬じゃ絶対にそんな事はやらかさない。

俺の持論ではあるが基本的に対人戦の勝敗を決めるのは一撃目と言っても過言ではない。一撃目がどれだけ相手に対して有効打を叩き込めるか、という事に掛かっている。

 

それを千冬が分かっていない筈が無い。なのにも関わらずあんな中途半端な踏み込みをするわけがない。多分このコピー、モンド・グロッソの時とドイツに教官に行って居た時に秘密裏に収集したIS搭乗時のデータが基本となってVTシステムはその戦闘力を誇っていると思って間違い無い。

そこに千冬の格闘戦能力に関しては殆ど無いと思う。

偶に手に入れる事が出来た格闘戦能力だけだろう。それも多分この格闘戦能力を付与した人間は全くの素人だ。

多分科学者、軍人、政治家連中がこれをやったんだろうが、少なくとも格闘戦能力においては軍人の手が入っている事は無いと思う。

軍人なら格闘能力は常に高い水準で維持するべきで、まぁ特殊部隊レベルになれば間違い無く専門的な事にまで知識が及んでいる筈なんだが、なんかそう言うのが感じられない。という事はだ、VTシステムは殴り合いは出来るが俺や千冬からすればド素人も良い所って訳だ。

さてそこでおじさんから良い子の皆に問題だ。

 

こんな奴におじさんが負けると思う?

 

答えは否、だ。

こんなズブの素人に負けるなんて馬鹿はやらかさない……と言いたいところなんだが生憎と俺は左腕が完璧に折れていて使い物にならないし、肋骨も多分、いや、確定で折れている。

って事で全部まとめて考えると、勝てるかと聞かれれば厳しいって結論に至らざるを得ない。ギリギリの勝利も難しそうだ。 

ただやっぱり殴り合いに関してはそこまででは無いのか、俺はしっかりと防御出来ている。多分性能に頼っている部分が大きいと思われる。

ぶっちゃけ脇の締め方は甘いし一撃一撃も普通から見れば鋭く早いんだろうが俺からすれば大振りだし無駄が多い。

 

それを考えれば多分、持ちこたえる事はかなり厳しいが出来なくはない……と思うが正直腕一本は辛いな。足が両方とも使えるのが幸いだがそれでも厳しい。

 

しっかり防いじゃいるが、左腕が使えないから左側の防御がし辛い。足を使って何とかしちゃいるがあんまり多用は出来ない。

と言うのも普段なら片足で立つぐらい何てことは無いが左腕を使ってのバランスが取れないから最悪バランスを崩してそこから崩される事も十分有り得る。

 

 

 

「いやまじでこいつ耐久オバケだなチクショー……」

 

 

 

一旦距離を取るが、しっかりと詰めて来る。

相変わらずアイツは喋らないし俺をぶっ殺そうって事しか伝わってこない。

会話しようぜ会話。そのお口は飾りかな?あ、飾りですかそうですか。

 

束とは連絡取れない。というか取りたくない。

千冬が怖いからね。だって感じるんだよ。こう、アリーナの外から俺に向けてのさっきに近い怒気が。

ははっ、まじコイツ倒せたらアリーナに引きこもろうかな。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

あぁクソ!何時までこんな事してりゃ良いんだよ!?

 

 

やっぱり俺が防御に徹しているから俺は決定打を打ち出せないし、VTシステムは俺の防御を破れないから俺を倒せない。

こんなイタチごっこをかれこれ三十分以上続けている。もうそろそろ四十分になろうかと言う所だ。

 

あと最短救出時時間まであと四十分もありやがる。

もうちょっと早く助けに来れないものか。束達も頑張ってくれているから文句は言えないけどさ、ちょっとこの状況だとぐちや文句の一つ言いたくなるってもんよ。

そこの君も是非同じ状況になったらおじさんの事を思い出して欲しい。

あぁ……おじさんこんな心境だったんだな、って。

 

その時は多分俺の加護が受けられる!……かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

もうどれだけ殴り殴られしているのか分からない。

流石にSEも尽きてきている。あと30ちょいしかない。

でも良くここまで無補給で持ちこたえていると思う。

 

防御に徹して、右腕の増加装甲部分と必要な時に左腕も使って防ぐ。

それでもって最低限SEの消費を抑えてきたのだがそれでもこれだ。さっきも言ったが素人の攻撃だから避けられはするが、一撃が重い上当たったらそりゃ結構SE持ってかれる。

 

元々試合をしていなかったから満タンだったSEも第一ラウンドで減り、今現在の第二ラウンドで更に減って今の状況なのだがそりゃ連戦で既に二時間以上戦い続ければそうなる。

 

 

「あ”ぁ”!!早く助けに来てぇ!?」

 

 

そんな俺の叫びは虚しく響き、帰って来るのはVTシステムの拳だけ。

 

「お前の拳は欲しくない!欲しいのは助けなんだってば!」

 

なんて叫んでも来ることは無い助け。

いや現在進行形で向かって来てくれてはいるんだけどさ、まだまだ来なさそう?そもそも千冬が怖くて通信出来ない。

それもあるんだけど怪我のせいで余裕の無い戦いをしているから通信に出る余裕が無い。

 

でも千冬が怖くて出れないってのがほぼほぼの理由なんだけどね。

今だってずっとコール音が鳴り響いている訳だし、しかもコールが切れた瞬間に次のコールが鳴り始めるとかもう只の恐怖でしかない。

なんだったらVTシステムより千冬の方が怖い。

早く助けに来て欲しい気持ちはあるけど千冬に怒られるのが怖いから帰りたくないって気持ちもあるにはあるんですよね。

この気持ちを皆さんどう思います?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び暫く。

もう七十分に突入する頃だと思う。

ただ時間感覚が余り無いから正確な時間は分からない。

 

ただ、正直もう限界が近い。

SEは十分程前に尽きたし、それに脇腹に良いのを一発貰ったからか完全に二本程折れた。

左腕は動かなくなって来たし、胸の辺りに骨じゃぁ無いが違和感がある。

多分肺をやられた。流石に骨が突き刺さっている訳ではないとは思うが……

他にもかなりやられた。回し蹴りを防いだ時に防ぎきれず受けた衝撃がどっかの内臓にダメージを与えたのか、中の方も痛みが走ってる。

 

そもそも痛みを感じている時点でおかしいと思う。

痛覚遮断が利かなくなって来たのか、それともSEが切れた時に同時に切れたのか。

どちらにせよもう痛覚遮断を頼ることは出来ないし、ぶっちゃけ痛みでなんか意識がおかしい。

 

さっきまではアドレナリンがバンバン出てたからか気にならなかったが意識がおかしくなり始めてからどんどんそれもなくなって来ている。

 

 

 

 

 

 

「やべっ……」

 

一瞬意識が完全に飛び掛け、なんとか意識を引っ張り戻した時にはもう手遅れだった。

なんとか一撃目の右からの一撃を躱したがその後に飛んできた回し蹴りをモロに食らった。

 

「オ”ッ!?!?」

 

なんか出ちゃいけない声が出た。

あ、これ無理だわ。駄目だわ。

 

 

 

 

本日二度目、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 一夏 ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『兄さんなんで通信に出てくれないんだ……?まさか死んじゃった……?いやそんなことある訳がない。ウンソウダ、キットツウシンガデキナイノハコワレタダケナンダ……フフフフフ、カエッテキタラオハナシシナキャ……』

 

『ちーちゃんちょっと落ち着いて!?多分ちーちゃんがそうやって延々とコールし続けるから怖がって出てくれないんだよ!』

 

『は?そんな事無いだろう。ソンナコトアルワケガ、ナイ。ソウダロウ?』

 

『ひー!?ちーちゃんがぶっ壊れちゃったよー!いっちゃん戻って来てぇ!』

 

聞こえてくる声は千冬姉が取り乱してそれを抑えているのか怖がっているのかもう訳が分からない束さんの音声。

ていうか千冬姉大丈夫かな?いつも冷静なんだけどお兄ちゃん関連になると途端にダメになるからなぁ。

具体的には物凄く取り乱したり、なんか壊れたり。結構度合いに幅があるんだけど総じて全くの使い物にならなくなる。

 

 

 

というかなんか後ろの方から山田先生が、

 

「なんでここに篠ノ之博士が居るんでしょう……?いやでも織斑先生と佐々木さんの繋がりだから気にするだけ負け、気にしたら負け……」

 

って言ってたけど。

そう言えば束さんって今世界中で指名手配されてるんだっけ。

指名手配って言ってもどっちかって言うとこの人探してます、見つけたら情報下さいねって言う行方不明者捜索って感じだけど。

基本的に何処かに隠れてるらしいけどしょっちゅうお兄ちゃんに会いに来てたからすっかり忘れてた。

 

今は束さんのロボットがなんかガチャガチャやって隔壁を直してる。

配線とかなんか色々弄っているけどこれ全部束さんが一人で操作してるんだよね。

本当にスペック高すぎで、変人なのは否めない。

良い人だし大好きなんだけどやっぱりぶっ飛びすぎ。今日もいきなり何も無い空間から出て来たし束さんを知ってる私に千冬姉、箒は何時もの事で流しちゃったけど皆驚いてたなぁ。

 

まぁ今はVTシステムの方も束さん曰くお兄ちゃんが倒したらしいからこんな呑気にしていられるんだけど。

でも聞いた話じゃお兄ちゃん怪我してるって言ってたから早く迎えに行ってあげないと。

万一の事もあるから一応先生達と専用機を持ってる私達で来てるんだ。

特に今の所何も無いけど。

 

そんな感じで進んできたんだけど状況が一気に変わった。

 

『ちーちゃん本当に落ち着いて!?……ストップちーちゃん。なんかレーダーがおかしい』

 

「束さん?どうかしたんですか?」

 

『うっそでしょ!?VTシステムが再稼働!?』

 

「束さん?どうかしたんですか?」

 

なんか慌てて、向こうで色々と操作しているみたいだけどこっちは何がなんだかさっぱり分からない。

 

 

『いっちゃん急いで戻って来て!VTシステムが再起動したの!そこに居ると危ない!』

 

「え!?そうしたらお兄ちゃんはどうなるの!?」

 

『分かんないよ!でもそこにいたら被害が大きくなっちゃう!早く皆を連れて戻って!』

 

「……分かりました!皆、VTシステムが再起動!危険だから今すぐ戻るよ!」

 

『ちょっと一夏さん!?小父様は宜しいのですか!?』

 

「お兄ちゃんだから大丈夫!それにあれぐらいでどうにかなる人じゃ無いよ!」

 

「セシリア、そんな簡単にやられる程弱くは無いわよ。ちふ…織斑先生相手に戦って勝てるんだもん。あれぐらいの機械じゃ倒せやしないわ」

 

鈴の言った通り。

お兄ちゃんは冗談抜きで世界で三本の指に入るぐらい強い。

残りの二人は千冬姉と束さん。この二人に対抗出来ると言ったらお兄ちゃんぐらいしか思い付かない。

 

ただそれが万全な状態だったならば確実に言えるけど、今のお兄ちゃんは怪我をしてる。

それがどれだけ響いているか分からないけど、左腕と肋骨の骨折はかなり辛いはず。

腕はお兄ちゃんの戦い方が出来なくなるし肋骨は力を入れづらくなるから。

 

だけど今は指示に従うしか無い。

今このまま突っ込んで行ってもどうにもならない。それどころか束さんが言った通り被害が大きくなるだけ。

VTシステムがお兄ちゃんの方に向かうって決まった訳じゃ無いし再起動したからと言っても戦える状態かも分からない。

 

希望的観測なのは良く分かってるけど、多分お兄ちゃんは私達が怪我をする方がずっと悲しむから今は我慢。

 

 

 

 

 

 

 

 

「束!状況は!?」

 

「最悪だよ!あぁもうなんだってこんな事に!?」

 

「原因は後々調べるからどうでも良い!それより早く救援を送れるようにしろ!」

 

「分かってるって!やってるけど回線から全部修理しなきゃ隔壁が開かないんだから今すぐには無理だよ!」

 

「山田先生!VTシステムと兄さんの状況は!?」

 

「たった今交戦状態に入りました!」

 

「ちーちゃんコールしてないでこっちの映像でも見てて!映像回線だけ復旧させたから!心配なのは死ぬ程分かるからもう少し落ち着いて!」

 

戻ると千冬姉は指示を飛ばしながらコールして、束さんはひたすらキーボードを叩いて、山田先生はレーダーを見ていた。

皆が慌ただしく動いていた。

 

そんなのを見れば簡単に今どういう状況なのか分かる。

急に焦りと恐怖が襲って来て、思わず大きな声で叫んだ。

 

「何がどうなってるの!?」

 

「一夏さん!落ち着いてくださいまし!」

 

「セシリア!説明して!今すぐ!」

 

「します!しますから落ち着きなさいな!」

 

セシリアに肩を掴まれ、言われて話を聞ける状態に戻った。

 

「まず、先程再起動したVTシステムはその場に留まり、そして移動。移動方面はアリーナ、簡単に言えばVTシステム自身が壊して進んできた道を戻って行きました。アリーナ到着後、小父様と戦闘状態に突入。今現在は戦闘が継続されています」

 

「……お兄ちゃんはどんな状況?」

 

「腕や肋骨の骨折などがかなり響いているようで押されています」

 

「そっか……お兄ちゃんの戦い方だと片手使えないだけで大打撃だもんね……」

 

説明されてから絶望に近い感情が押し寄せた。たぶん、ドイツで誘拐された時と同じぐらいかそれ以上。

正直な話、お兄ちゃんの戦い方を考えれば今お兄ちゃんが負っている怪我はかなり厳しいはず。防御を片腕と両足に頼らなきゃいけなくなるし、足捌きもするから早々防御も出来ない。だから実際は腕一本で防御をしなきゃいけない。

でもお兄ちゃんの事だから足捌きをしながら足で防御をやってのけるんだろうけど……

普段千冬姉と試合?あれって試合って言えるのか分からないけど、そう言う時は基本万全の状態でやってそこから怪我したりしなかったり。

しかも今回の相手は現役時代の、文字通り世界最強になった時に近い千冬姉をコピーだから、お兄ちゃんでも結構厳しい、辛いと思う。

 

 

それを考えたら、お兄ちゃんがもしかしたら居なくなっちゃうかもしれないって変な事まで考え始めちゃって。そうなったらもうネガティブな考えが止まらなくなった。

 

「救助は?誰か助けに行ってるの?」

 

「いいえ、誰も。そもそも一夏さん達が救助部隊でしたからそれを引き返させた以上、次はありません。それに侵入ルートが先程のルートだけ。篠ノ之博士が全力で何とかしようと試みて居られるようですが、ルート上のシステム全てが破壊されていてそちらから復旧させなければならず……まだまだ時間が掛かりそうです」

 

「そっか……」

 

「救助は今暫く派遣する事が出来ません」

 

もう、何て言えばいいのか分からない。

あんな状態のお兄ちゃんが一人で、たった一人で戦ってるなんて考えられない。

 

誘拐された時は単身着の身着のままで殴り込んで私を助けに来たって言ってもあの時は言っちゃあれだけど相手は生身の人間だったから正直お兄ちゃんの敵じゃない。

 

早く助けに行きたい。

私じゃ無くても、千冬姉でも良いし束さんでも良い。

VTシステムに対抗出来る人間なんてお兄ちゃんか千冬姉、あとは束さんだけだと思う。もしかすると師範もISに乗れば戦えるかも。

ほら、世界でたった四人だけしかいない。

でも千冬姉は色々と指示を出したりしないとないし、束さんもやる事があるから無理。

師範は此処には居ないしそもそもISに乗れない。

 

お兄ちゃんを助けられそうなのはこの三人しか居ない。

もし私みたいな専用機持ちと先生達の制圧部隊を投入しても多分、勝てない。

勝てないと断言できるぐらいに絶望的だと思う。

 

 

だって千冬姉の全盛期だよ?どれだけ数を揃えても勝てない。

世界中の軍隊を総動員してゴリ押ししてエネルギー切れを狙えばもしかしたらだけどVTシステムにエネルギー切れなんて概念があるのか分からない。

 

モニターを覗いてみればお兄ちゃんが必死に、それこそ今まで見た事が無いぐらい辛そうで苦しそうな顔で戦っていた。

その顔を見たら、余計に辛くなった。

何時も助けて貰っているのに、お兄ちゃんが危険な時に助けに行けなくて。

 

「束さん、出来るだけ早くお願いします……」

 

「分かってるよ!束さんに任せて安心してなって!」

 

「はい。お願いします……」

 

束さんは必死にキーボードを叩いて叩いて叩いて。

千冬姉は今出来る事限りの指示を飛ばしている。まぁそれでもコールはずっとやってるけどあの状況じゃ出られないでしょ……

 

セシリアも、鈴もお兄ちゃんと親しい人は必死に無事を祈ってる。

箒は専用機持って無いからここには居ない。他の皆と一緒に避難した。

でも物凄く心配しているのは簡単に想像できる。

 

助けに行きたい。

でも出来ない。だから今はお兄ちゃんを信じるしか出来ない。

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ーーーー

 

 

 

 

 

ーーーー side 千冬 ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

兄さんとVTシステムが戦い始めてもう結構な時間が経った。

段々とお兄ちゃんの動きは鈍く、緩慢になって来た。そりゃ身体中ボロボロで一番最初に戦い始めてから二時間近く戦っているのだから無理も無い。

 

結構ふらふらし始めて、それでも必死になって戦って。

多分もうSEも殆ど残ってない筈。いや、とっくに切れていてもおかしくはない。

どちらにしろ切れていると思って然るべきで。

 

そんな時だった。

兄さんが一際体勢を崩した時だった。VTシステムの一撃目を躱してから追撃として放たれた回し蹴りがモロに入ってしまった。

 

思いっ切り吹っ飛ばされてかなりの距離を転がって行って、そのまま動かなくなってしまった。

その瞬間、一夏が顔を青ざめて掴み掛かってきた。

 

「千冬姉!お兄ちゃんが!!」

 

「一夏落ち着け!そんな事分かっている!」

 

「それなら早く助けに行かなきゃ!!」

 

「無理だと分かっているだろう!?オルコット!更識!コイツを抑えろ!」

 

「「はい!!」」

 

申し訳ないが二人に一夏を抑えていてもらう。

でないと一人で突っ込んで行ってしまうだろうから。

 

「千冬姉は良いの!?あのままじゃお兄ちゃんが死んじゃうかもしれないんだよ!?」

 

「そんなこと分かっているに決まっているだろう!?そもそも私がこんな状況で落ち着いていられると思うか!?」

 

「知らないよそんなの!早く助けに行かないと!」

 

「今行ったら二次被害が起きる!おい二人共!そいつをここから引きずって後ろに下げろ!束!」

 

一夏は、私が言うのもおかしいが平常心を欠いている。

そんな人間を送りこんだらそれこそ本人含めて被害が拡大しかねない。

 

次いで束に状況を確認すると宜しくない返答が返ってきた。

それでもこの短時間でここまでやってくれたのだから文句は言えない。

 

「今やってる!隔壁はあと一枚!でも間に合わない!」

 

「クソが!先生方!オルコット鳳!突入準備!急げ!」

 

束のキーボードを叩く音がより一層早くなる、

突入準備をさせるも、モニターを覗けば兄さんに近づいて行くVTシステムは、それこそモニター越しでも殺そうとしているのが分かった。

 

「束!急げ!」

 

「……ッ!ちーちゃん間に合わない!今すぐ突入させて!」

 

「隔壁前まで突入しろ!」

 

指示に従って先生方と専用機持ちで構成された制圧部隊が隔壁前まで進んだ。

その通路の狭さ故にISを展開してからだと間に合わない。

だから展開はせずに隔壁前まで自力で走っていく。

 

モニターを見れば、兄さんのISは既に解除されてしまっていてそんな兄さんの首を掴んで持ち上げた。そしてそのまま放り投げた。

 

意識を取り戻す事は無く、そのまま地面を転がっていく。

普段ならあのまま勢いを利用して飛び起きるのだが意識を失っていればそれは出来ない。頭や背中などを打ち付け、血が流れだしている。

骨折していた左腕は骨が露出して、口からは血が溢れてきている。

 

基本的にダメージは上半身に集中しているらしく、鎖骨の辺りも陥没している。

あれじゃもうまともに動かす事すらできないだろう。右腕も変な方向に曲がっていて一目見るだけで折れていることが分かる。

あの様子じゃ他にも骨折をしていてもおかしくはないし、内臓にもかなりのダメージを負っている筈。

血が口から流れてきているのを見ると、肺に折れた肋骨が突き刺さっているのかもしれないし、それ以外の臓器へ深刻なダメージを受けていると考えるべきで。

それを考慮すれば兄さんは、もう長く持たない。助けるのなら今すぐにでもなんとかしなければならないが隔壁という障害物にVTシステムという厄介な相手が残っている。

 

「束!まだなのか!?」

 

「あと十五秒で隔壁は何とかなる!」

 

「全員、戦闘準備!相手は厄介何て代物じゃないぞ!教員は専用機持ちのカバーをデュノアもそこに加われ!!専用機持ちは接近戦や格闘戦に絶対に持ち込まれるな!その瞬間に殺されると思え!良いな!?」

 

実力を考えれば教員が最前線に立つべきなのだが、VTシステムは全盛期の私のコピー。たかが一世代分程度の性能差では簡単に覆される。

第三世代機ならば良かったがそれは専用機持ちの代表候補生や国家代表クラスのみ。

あの場に居る時点で、どちらにしろ一歩どころかたったのコンマ数秒の判断ミスであの世行き。

 

今更だがVTシステムに勝てるのは兄さんか束、それに私自身ぐらいなもの。

だが私は現役から退いて数年も経っており教師としての忙しさにかまけて碌にトレーニングなんかをしてこなかった。そのブランクは埋めがたいものになっていて現役時代の私と戦えば、負ける。

 

束に関しても基本は技術方面専門だ。

道場の娘とはいっても箒の様に習っていたわけでは無く勘などに任せた戦い方になる。

それに研究に没頭してまともに運動をしてこなかったこいつが勝てるかと言われれば首を傾げざるを得ない。

 

大して兄さんはそんな私や束とは違いほぼ毎日なにかしらのトレーニングや型の練習を行っていたから数年前の実力とは大きく成長している。

実質的な強さで言えば私達よりも上だろう。だからこそ一番可能性があったのだが一番最初に、ピット内でVTシステムが発動した時の左腕の骨折と肋骨の骨折が大きく響いてしまった。

 

これによって恐らく、この世界でVTシステムを武力で止められる人間は居なくなった。

 

「ちーちゃん!隔壁開くよ!」

 

「全員!あれを倒そうなどと考えるな!救助後は二人で搬送して残りは足止めと生き残る事に徹しろ!」

 

『『『『『『『『『了解』』』』』』』』』

 

『隔壁開きました!突入します!』

 

救助部隊が突入をした。

その瞬間、VTシステムは兄さんよりもこちらの方が脅威だと感じたのかそちらに向かって行った。

その隙を突いて二人の教員が兄さんとラウラを担ぎ出す。ラウラに関しては見た感じ問題は無いそうだ。

しかし兄さんの状態は間近でみるとかなり酷かったのか顔色がどんどん悪くなった。

まぁ幾ら教員とは言っても実戦経験がある訳でも無い。

正直私も兄さんという事を除いてもあんな事になった人間を見るのは嫌だ。

 

 

兄さんとラウラを担ぎ出した二人以外はVTシステムを足止めするために、接近戦を避けて中遠距離から弾幕を張っているがそれでも簡単に避けられてしまっている。

しかも近づかれたら逃げるという行動を取ってばかりいるからかまともな狙いを付けるのも苦労しているようだ。

鳳に至っては遠距離武器が衝撃砲しかない。

本人は本人なりに追い込まれた人間を助ける為に一撃離脱攻撃を仕掛けたりしているがあれは最悪一歩間違えれば格闘戦に持ち込まれて一瞬で終わりだ。

 

こちらとしてもなんとかバックアップしたいが私は此処から離れるわけには行かないし、そうなるとやはり束に頼るしかなくなる。

 

「束、VTシステムの解体は出来ないのか!?」

 

「今やってる!でもコアネットワークからも完全に独立状態だしシステム関連含めてありとあらゆる面が滅茶苦茶すぎて直接コア自体の解体とか停止は無理!」

 

「どれくらい時間が掛かる!?」

 

「端から順序立てて解体しないといけないからニ十分ぐらい!」

 

「ならば出来るだけ急いでやってくれ!頼む!」

 

「そんなの分かってるってば!でもおじさんが戻ってきたらそっちの治療を最優先にするからね!じゃないと本当に手遅れになっちゃう!」

 

「構わん!何でもいいからあれの解体と兄さんを最優先にしてくれ!」

 

「クソドイツが!!アイツらマジで唯で済むともうなよ!?」

 

束は物凄い暴言を吐きながらVTシステムの解体と並行して兄さんがここに運び込まれた時の為に治療の準備を始めた。

 

『織斑先生!二分で到着します!』

 

「詳しい容体は!?」

 

『左腕複雑骨折!骨が飛び出ています!右腕も変な方向に曲がって折れています!触った感じは粉砕骨折かと!肋骨も左右で数本おれています!陥没していて呼吸音もおかしいですし吐血量も多い!左鎖骨が完璧に陥没しています!詳しく見たわけでは無いので外見上の判断でしかありませんが重傷どころか瀕死です!』

 

「了解した!出来るだけ急いでこちらに連れて来てくれ!」

 

『はい!』

 

やはり聞いた限りの容態は先程モニターで見て確認したものよりも重症らしい。

それどころか瀕死ですらあるとも言っていた。モニターで確認していたとはいえやはり聞かされるのでは大違いだ。

 

「束、兄さんを助けられるか……?」

 

「助けるに決まってんでしょ!?何弱気になってんのさ!?いいから自分のやれること探してやりなよ!」

 

束に怒られてしまった。

確かに弱気になっていたのかもしれない。それもそうだ。あの兄さんが死ぬ訳が無いな。そもそもあの兄さんが死んだときは、いやこの際は殺されたと言うべきだな。まぁ簡単に言ってしまえば世界の終わりだ。

私達の精神的な問題ではなく本当の意味での世界の終わりだ。

束が世界を滅ぼしかねない。

私は止める気は無い。自業自得だ。

 

「すまない……束、アイツらだけで足止めが出来ると思うか?」

 

「無理だね。百%無理だね。断言できる。私でも現役時代のちーちゃんとか御免だもん」

 

「もし兄さんの治療を優先して解体を行うとしたらどれだけの時間が掛かる?」

 

「さっき言ったニ十分+二十分か三十分。でもあの様子じゃそれ程持たない。それよりもずっと早くに全滅する」

 

「……どうすれば良い?」

 

「ちーちゃん、行きたいの?」

 

「……私には此処での指揮がある。離れるわけには行かない」

 

「あ、それなら私が何とかするから大丈夫だよ」

 

「お前、解体作業に兄さんの治療に加えてそれ以上の仕事が出来るのか?」

 

「あったりまえじゃん?私は束さんだよ?余裕に決まってんじゃん!というかちーちゃんが足止めに加わってくれないと解体も治療も間に合わないし」

 

「……すまん」

 

「良いから行った行った!というか早く行かないとマジであの子達死んじゃうよ!?」

 

モニターを見ればそこに移った皆は数的優勢があるのにも関わらず追い込まれ始めていた。

 

「束、後は頼む。山田先生、以降はこれの指揮に従うように」

 

「はい!織斑先生、気を付けてくださいね!」

 

その言葉を後に教員用ISを取りに行き、そしてアリーナへVTシステムと対峙するために向かった。

 

ISを纏ってアリーナに向かう途中、血まみれになって担がれていく兄さんを見た。

本当は直ぐに駆け寄って行きたいが束に任せると決めた。私は奴を足止めすることに専念する。

 

アリーナに突入するとそこでは先に突入をしている救助部隊が交戦をしていたがかなり押されていた。

自分で言うのもあれだが現役時代の私じゃ仕方が無い。

正直言ってどれほどの時間一人で持ち堪えられるか……

 

「お前達!一旦下がれ!体勢を立て直してからで構わん!その間は私が引き受ける!」

 

「織斑先生!?」

 

「早く下がれ!」

 

格闘戦に引きずり込まれそうになっていた鳳とVTシステムの間に無理矢理割り込み一太刀浴びせる。

この際卑怯だなんだと言っていられない。相手が素手だろうがこっちは剣を使わせてもらう。

 

しかしこの奇襲ですら防ぐか……

楽観視していた訳じゃないがこれは予想よりも遥かに厳しい。

出来れば何かしらの損傷を与えておきたかったが無傷か……

 

 

 

本当に厳しい戦いになるな。

私も腕の一本ぐらいは覚悟しておいた方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

ーーーー side 束 ----

 

 

 

 

 

ちーちゃんがアリーナの方に応援に向かった。

まぁ私が促して行かせたようなもんだから向かったって言う言葉はちょっと変だけどこの際どうでもいい。

今は両手で投影型キーボードを叩きVTシステムの解体を進めている。

ただVTシステムが発動した影響なのか元々私が構築したプログラムからハードウェア、ソフトウェア、ありとあらゆるものが滅茶苦茶だ。

 

少なくとも私じゃこんなものは絶対に作らない。絶対にだ。

そもそも私が構築した基礎的なプログラムを使わなければISは動かない。私がそうなるように設計したから。だからもし開発しようとするのなら基礎プログラムを元にしてそこから発展させたりしなきゃいけない。

それでも無限の可能性があるように作ったんだけど。

 

ただこのVTシステムはそれら全てを滅茶苦茶に壊して、それでも尚動いている。そりゃ搭乗者にとんでもない負担が掛かる。

例えるなら訓練も何もしていない只の一般人が対Gスーツ無しで音速を軽く超える事が出来る戦闘機でドッグファイトをするようなものだ。

基本的に訓練を行っていない一般人であれば平均的に6Gの加速度に耐える事が出来る。瞬間的な物であればそれ以上を耐える事が出来る。

 

だけど高Gが連続して掛かる、常に高Gが掛かり続けるなんて状況、耐えられるはずもない。

基本的にISに関しては搭乗者保護システムに加えてPICがあるからどれだけ無茶苦茶なGの掛け方をしても問題は無い。だからこそISは直進飛行中に直角に曲がる事が出来たりする訳なんだけど。

まぁそれを発展させればAICが出来るんだけどそれは今はいいや。

 

取り敢えずはありとあらゆる面で滅茶苦茶になりすぎているからコアに直接アクセスしてどうにかするって方法がとれない。

だから一番外側から崩していくしかない。コアに直接アクセス出来れば二十秒もあれば十分なんだけど、ほんっとうにめんどくさい。

 

「クソドイツ……この件が収まったら本当に覚えてろよ……あの国はいっつも後ろ暗い事ばっか隠してるからそれ全部暴露してやる……」

 

思わずそんな事を言ってしまうぐらいにはムカつく。

そもそも私の開発したISにこんな事した挙句、私の大切な、大好きなおじさんをあんな状態にしたんだから、ねぇ……?

 

それ相応の報いを受けて貰わないと。

まぁ、VTシステムの開発ってだけでも十分にヤバいのにあの国、というか転校して来た子の事を調べてたらもっと後ろ暗い、少なくとも世間様に表沙汰に出来ない様な研究とか実験やりまくってるみたいだし、思いっ切りこれ全部公開してやろうそうしよう。

 

他の国もそう言った実験研究はやってる。

でもドイツはズバ抜けてエグイ事をしているから今回の件で他の国には良い警告になると思う。

 

それは置いておいて、これ本当に厄介だなぁ……!

私だって見た事が無いぐらいにシステムがグチャグチャになってて、先ずは優先順位を付けてそこから解体作業になるんだけど、まず優先順位が一番高い奴から一番低い奴まで結構な数がある。

 

まず一番にやらなければならないのは自己防衛システムの破壊、もしくは停止。

これはシステムの方のやつでウイルス対策ソフトみたいなものだと考えてくれればいい。

ただこれが落ちてしまえば急激にシステムのコントロールを奪われてしまうから最も解体するのに時間が掛かる。ただこれさえ無力化してしまえば後は楽ちん。だって邪魔してくるやつなんて誰も居なくなる訳だから。

 

取り敢えずはこれの解体を進める。

大体二分かそこいらで解体が完了。そしたらどんどん優先順位事に潰して行こう。

おじさんの治療が加わればそっちを優先させざるを得なくなるからそれまでに出来る限り進めておく。

 

ちーちゃん達が戦いやすい様に戦闘に直結するようなシステムをダウンさせていく。

戦えなくなるわけじゃないけど性能低下は必然。

 

 

 

 

そして凡そ三分の一程度まで解体が進んだところでおじさんが運ばれてきた。

一旦解体の手を止めて容態を見る。

 

「酷い……」

 

本当に酷かった。

ギリギリ、辛うじて生きている。

寧ろ生きて居るのが不思議なぐらいの重傷。大型トラックに引かれてグチャグチャになっているのに生きて居るみたいなものだ。

左腕の骨折は骨が筋肉や皮膚を突き破ってかなり露出していて、右腕はあってはならない方向にひしゃげている。

肋骨も陥没して肺に何本か突き刺さっている。

鎖骨は粉々になって、右大腿骨も折れて。

 

骨に関しては全身の至る所に骨折、粉砕骨折、複雑骨折、ヒビがあって。

内臓にも深刻なダメージを負っている。

肺に肋骨が突き刺さり、腎臓や肝臓といった臓器も酷い有様。

 

正直このままどうにかするって手段は取る事が出来ない。

普通に治療している間に死んでしまう。

だけど私にはそんなおじさんを助ける事が出来る。

 

 

この状態じゃ解体作業と同時並行は止めといた方が良いかな。

今更だけどおじさんの命懸かっている状態じゃ好ましくないし。

 

 

まずは此処じゃ何もできないから私の秘密ラボにおじさんを運び込んで医療用ポッドの準備。

ナノマシンを大量に投入して怪我の部位の治療に当たらせる。

ナノマシンでの治療が出来ない、肝臓や腎臓、肺は摘出して、おじさんの細胞から直接内臓を作り出す。

ダメージの無い内臓は一つも無く、総取り換え。

骨や筋肉、血管、神経も使い物にならなくなっていたりするしそこも取り換え。

 

移植って言った方が良さそうなんだけど、元々おじさんのDNAや細胞から作り出したものだから取り換えるって言い方でも間違ってはいない筈。

 

……この際もう全身の骨、筋肉内蔵神経をすべて私が一から作り出して取り換えた方が良さそうだ。ダメージを負った箇所が多すぎてその箇所だけ取り換えると言うのは寧ろ手間が掛かるしおじさんへの負担も大きい。

 

幸いなのは脳がダメージを受けて居ない事。

脳はかなり面倒。

脳以外の身体を全て作ってその器に脳を移植するって方法もあるにはあるんだけどそれだと外道連中とやっている事と大して変わらない気がするから。

それにそれでおじさんが助けられたとしてもおじさんの記憶には私達はあるけど、実際に抱き上げてくれたり撫でてくれたりした手じゃない。

 

 

よし、そうなったら神経、筋肉、血管を作らなきゃ。

万が一の事を考えて内臓とかは培養しておいたんだけど血管や筋肉、神経は培養していない

だから一から培養するんだけど、そうなると結構時間が掛かる。

培養し終えるのに一週間は掛かるし移植にも日数が掛かる。流石にいくらおじさんと言えども連続して数十時間の手術は体力的に耐えられない。

だから分けて行うしかない。

最悪コールドスリープをしちゃえばいいんだけどあれって治療が困難な人間が治療が可能になるまでそのままの状態で人間を冷凍しちゃうものなんだよね。

 

でもおじさんの場合はそれは当て嵌まらない。

だって私が居るし。私なら直せない病気も怪我も無い。

それこそ私が治せない病気が出て来たら本気で人類滅亡の危機だしね。まぁそんな事にはならないだろうけど。色々と対策立てたりしているし。

 

おじさんに関してはラボにある設備で十分事足りる。

そもそも生きて居れば治せない怪我も病気も無いわけだし。

最低限やらなければならない処置を施しておく。

 

うん、これでおじさんが万が一にも死んじゃう事は無くなった。

一応念の為にモニターに心電図諸々のグラフとおじさんを映した投影型ディスプレイを周りに浮かせておく。

これでもし何かあればすぐに知らせが入るようにしておけばこれで完了。

 

「くーちゃん、お父さんの事見ててもらえるかな?一応モニター越しで私も見ているけど念の為にお願いしたいんだけど」

 

「お任せください、お母様。お父様は私がしっかりと見ておきます」

 

くーちゃんにおじさんの様子の見張りを任せて私は一度戻る。

そして解体作業の再開。

 

 

それから十分後、漸くコアへアクセスが可能になった。

見てみればやっぱりコアネットワークからも切り離されているのは驚きだった。

まぁそれのお陰で他の子達に悪影響が出なさそうなのは幸いかな。

 

 

 

 

 

 

 

コアへのアクセスが完了してからは簡単だった。一度コアを停止させてしまえば良いだけだから。

そして漸く自体は収束……とはいかなかった。

どうにもコアを停止させても暫くは動き続けられる様でそれから十分程暴れまわって、そこから段々と動きが鈍くなり、漸く停止に至った。

 

それからVTシステム自体を回収。

分析をして、証拠として保存。

 

また再起動したときはボタン一つでVTシステムを破壊出来るようにして漸く自体は収束した。

 

 

ふぅ……本当に長い一日だったなぁ……後の事はちーちゃんに任せて私はラボに帰ろ……

 

 

でも帰れなかった。

ちーちゃんに掴まってどうせなら最後まで手伝ってくれと言われちゃって。

まぁおじさんの容体も安定してるし、出血も酷かったけどちゃんと止血して輸血もしたから問題無し。

 

それで手伝いをしてあー疲れたとか言って帰ろうとしたら完全にヤバい目になっちゃてるちーちゃんといっちゃん、箒ちゃん、あと金髪の子に肩をがっしり掴まれて逃げるのに時間が掛かった。

 

 

 

 

あ、それとVTシステムに取り込まれちゃった子も色々と見たけど今は眠っているけどダメージが意外と大きかった。

それでも骨が何箇所か折れていたぐらい。あとは心肺機能が若干低下しているぐらい。これもちゃんと治療済み。

早ければ一週間ぐらいで完治しちゃうかな。

ナノマシン様様だね。開発したの私だけど。

おじさんが助けるのが遅かったら本当に危なかったかもだけど。

 

ってことでこの子も私が預かる事になりました。

 

でもやっぱりくーちゃんに似てるんだよねぇ。

というかまんま瓜二つ。

理由が理由だからあんまり言いたくは無いんだけど……

 

 

 

そうだ!どうせこの子ドイツに帰れないだろうしこうなったら、くーちゃんと同じ運命を辿って貰おう!

 

まぁもしかするとおじさんがちょーっとちーちゃん達に物理的に殺されそうになっちゃうかもだけど多分大丈夫!

 

それじゃ色々と根回しとかやっちゃおう!

 

あー、でも精神的なダメージは私でもどうしようもないし、これは本人の強さと周がりがどれだけ支えてあげられるかになっちゃうか……

勿論私も支えるけど。

 

 

そんなこんなで後始末は色々と時間が掛かったけれどなんとか収束するに至った。

怪我人が二人だけで済んだのは幸いだったね。

 

まぁ私を含めて複数人はそれじゃ済まさないけど。

さーて、どうやってお仕置きしてやろうかなー。

 

甘っちょろい事じゃ済ませないよ?

んー……こんな事する連中にコアを任せられないから全部返してもらおうかな……

それだけじゃ終わらないのは確定事項。

 

私が納得してもちーちゃん達が納得しないだろうし。

 

ドイツ死すべしシバくべし。

 

なんて考えているんだろうなぁ……

追いかけられた時の顔と目は本気でやばかった。あれはゾンビの方がまだまだマシだと思う。だってゾンビはあんなに戦闘能力高くない。

 

 

 

 

 

そんな事を考えても仕方が無いしおじさんの看病と治療に専念しますか。

 

早く元気になって貰ってまた何時も通りに戻って貰わないとね。

じゃないと私とおじさんの命が割と本気で危ないし……

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 




書きすぎた玄白。

……バカタレェ!
一万字超えとるがな!
つーか二万字突入しちゃってるしぃ!


これなら分割しても良かったかもしれない。
まぁでも後の祭りだしまぁいっか!



例のあの子の束さんとおじさんの呼び方については、作者が暴走した結果です。
そのせいでおじさんが後々酷い目に遭うんですね分かります!ってな感じで未来が見えた人は千里眼の持ち主です。




それと今更だけどこの作品の束さんめっちゃマイルド。
まぁこれも全部おじさんのせいだからね。仕方ないね。




PIC
(Passive Inertial Canceller:パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)

AIC
(Active Inertial Canceller:アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)






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閑話その3 クリスマス!

年内に間に合うか……!?
書き始めたのは十二月二十八日(マジです)。

二日ぐらいで書き終われれば良いかなぐらい……
あーでもモンハンやったりWar Thunderやったりで忙しいしちょっと無理そう。餅つきもするし。
お餅美味しいよね。
しょうゆ餅かきなこ。雑煮も美味しい。
食べ過ぎるとガチで太るけど。




前話よりも文章が遥かに短い。

飲酒描写あります。

未成年の飲酒、ダメゼッタイ!









前話の続きはまた今度。
出来れば続けて正月編も書いて行きたい。



はっはっはっはーーー!!

今日はクリスマスだぜ!別に血塗られたりしてはいない!

って事で今日はクリスマス!イブがどうとか関係無いぜ!だってうちの妹達はめっちゃ良い子だったからな!

 

そんなわけでお兄ちゃんはサンタさんに変装中です。

仕事帰りにこっそりでもないけどお着換えお着換え。

 

おぉ……さむ……

 

モコモコなのが救いか。

赤い衣装を纏って帽子をかぶり、お鬚を付けて。白い袋を担いでさぁ良い子の元へいざ行かん!

 

 

 

「あー、君ちょっとそこで止まりなさい」

 

「あ、はい」

 

「君そんな恰好で何やってるの?」

 

「妹達を喜ばせるのに変装してまして……」

 

「あー、妹さん居るのね。はい身分証出してー」

 

「どうぞ……」

 

「……はーい。それじゃ行っていいよー」

 

「有難うございましたー」

 

 

 

 

職質されました。

まぁそりゃサンタのコスプレした普通働いてる年齢の男が白い袋(四人分のプレゼント入ってて膨らんでる)担いでチャリンコ漕いでたら怪しいわな。

俺だって警察官じゃなかったら遠ざかる。引く。

 

って事で解放された俺は再びチャリンコに跨りシャカシャカとペダルを漕ぐ。

 

「まっかなおっはーなのー、トナカイさんはー、いっつもみーんなのーわーらーいもーのー」

 

トナカイじゃなくて自転車だろ、なんて無粋な発言は止してくれ。

歌を口ずさみながら漕ぐ足を速める。

これでも可愛い可愛い妹達の夢と希望を運んでいるんだから。

 

「ジングルベール、ジングルベール、すずがーなるー。きょうはーたのしいークリスマスー……さっむい」

 

一旦家に自転車を置いて歩いて行く。

今更だけど家で着替えれば職質されなかったんじゃないだろうか。

 

何時も篠ノ之神社へ向かう道を歩いて行くと段々神社がある山というか丘というか。

それが見えて来た。

階段を上がっていき、玄関に向かう。

このお家は煙突が無いからしょうがなく玄関から登場するしかないのだ。

 

呼び鈴を鳴らすと奥からドタドタと走ってくる足音が。

うーん、この足音は軽めだから箒と一夏だな?それに続いてそれよりも大きめの音があるからこっちが千冬と束だな。

 

ガラガラガラガラッ!!

 

「おにいちゃん!……じゃない!?」

 

「だれだー!」

 

一瞬一夏と箒が玄関の扉を勢い良く空け放って飛びついて来るかと思いきや誰だと大騒ぎ。周りをグルグルと走り回りやんややんやと。

後ろから千冬と束、更に師匠と華さんが続いて出て来る。

おぉっとこの空間で俺だけめっちゃ浮いてますやん。顔面偏差値的な意味で。

いや、俺はこんだけ洋風な格好しているのにお二人は普段着の浴衣みたいなやつだからそこも意外と浮いているんだけど。

 

取り敢えず箒と一夏を適当に取っ捕まえて抱き上げてサンタさんだと自己紹介。

しようと思ったんだけど。

 

「あれー?さんたさんからおにいちゃんとおなじにおいがするー!」

 

「ほんとだー!さんたさんおにいちゃんのにおいがするー!」

 

おぉっとマジですか。

え?なんで?匂い?匂いで俺の事判別出来んの?

余りの衝撃でちょっと返答を返すのが遅れた。

 

「……サンタさんだよ。良い子の皆にプレゼントを届けに来たんだよ」

 

「ほんとー!?プレゼントなにー!?」

 

「ぷれぜんとー!」

 

おいおいおい君たち大丈夫かね?

一応役作りで口調とか変えているけど声で気が付かないものなのか。

知らない人に捕まったらこんなに呑気にしてちゃいけないよ?

まぁお兄ちゃんだったから良いけどさ。今度ちゃんと教育しておかなければならない。

それと匂いでどうこう言ってたのにプレゼントをチラつかせた瞬間にアッサリとそっち流れちゃった。

これもこれでかなり心配だ。

 

「一夏ちゃんにはおままごとセットを。前から欲しがってただろう?」

 

「わぁ!ありがとーさんたさん!」

 

一夏には前々から欲しがっていたおままごとセットを

大きな包装用の箱を持ってクルクル回って喜んでいる。女の子だからね、しょうがないね。遊びのバリエーションも増えるもんね。

 

「わたしは!?わたしはー!?」

 

「サッカーボールだよ。これで思いっ切りサッカーをするといい」

 

「おぉ!さっかーぼーるだ!」

 

箒には何故か欲しがっていたサッカーボールをプレゼント。

うーん、やんちゃ坊主見たいな箒だけどまさかサッカーボールをご所望とは……

うぅん、これはそろそろ割と真面目に女の子としての振る舞いを学ばせるべきか?

いやでもこれはこれで個性って事で良いか。

その内落ち着くだろ。だってお母さんが華さんだもんなぁ……

 

続いてその後ろに控えていた千冬と束。

ただし既にサンタさんじゃなくて俺だと気づいておられます。

まぁ二人がそんな感じだって知ってるけどさ、その生暖かい目線は止めてくれない?お兄ちゃん泣くよ?みっともなく泣くよ?

 

「おに……サンタさん私にもプレゼントくださいな!」

 

「勿論だとも」

 

つーかこいつお兄ちゃんって言いかけたな?

まぁでも言い直したから許す。一夏と箒はプレゼントに夢中でそれどころじゃ無さそうだから別に良いけどさ。

 

「(あ、私達が気づいてるって知っていながらまだサンタキャラで行くんだ)何くれるの!?」

 

「(一夏と箒の夢を壊さないで上げて)君にはこれをあげよう」

 

「(りょーかい)おー!包装されてて何か分からないけど何となく私が欲しい物だって分かるよー!」

 

束は俺とアイコンタクトしてから渡したプレゼントを掲げてヒャッホー!と喜んでいる。

因みに束へのプレゼントは半田ごてセット。子供用とかそう言うんじゃなくて完全に工業向けのバリバリなやつね。

あ、行っておくけど半田ごてってそこまで高くないんだよ。

だからご所望品をしっかりお届です。

 

「あ、私のは……?」

 

「勿論有るとも!ほぉら!」

 

「おおぉぉぉ……!!」

 

千冬には意外や意外、熊のぬいぐるみを。

この前の休みに買い物に行った時、このぬいぐるみをものすっごい、ふぉぉ……!可愛い!欲しい!って目で見てたからね。

お財布事情が万年宜しくは無いがこれぐらいならオッケー。

ぶっちゃけ殆ど玩具とかそう言うの買ってあげられないからね。

まぁ人生ゲームとかオセロみたいなボードゲームはあるし、テレビもあったりするんだけどゲーム機はあっても二人はやらないし。俺が家でやるぐらいかな。それを二人が見てたりするけど飽きたらゲームは終わりで別に遊びを始めちゃう。

 

千冬も一夏もどっちかって言うと身体を動かす方が好きなタイプだからなぁ。

千冬がダンベルとか要求してこなくて心底ほっとしています。

 

「皆、喜んでくれたようで何よりだ。それでは私は次の子の所に向かうからこれで失礼するよ」

 

「えー!?さんたさんもうかえっちゃうのー!?」

 

「あそぼー!」

 

「ごはんー!」

 

「二人共、サンタさんは忙しいんだから我儘言っちゃダメだぞ」

 

「だっておにいちゃんおしごとでいないし……」

 

「おにいちゃんきょうもあしたもおしごとだもん。わたしたちはふゆやすみなのに」

 

ごめんね一夏、箒。

お兄ちゃん目の前にいるよ……

それと二十七日までお仕事があるからあと二日待って……

そうしたら冬休みに入れるから……

あと師匠と華さん、千冬に束、そんな目で見るの止めてくれませんか……?

 

これ頼んできたのお二人ですよね?

千冬と束はプレゼントでめっちゃ喜んでたでしょーが。

皆の手の平返しが早くてお兄ちゃん悲しいぜ。

 

「そうだね……一夏ちゃん、箒ちゃん、お兄ちゃんにお家に帰って来て欲しいのかな?」

 

「うん。さんたさんおにいちゃんつれてこれる?」

 

「出来るとも。それじゃ良い子で待って居られるかな?」

 

「「うん!」」

 

「それじゃちゃんといい子にしてるんだよ」

 

「「ばいばーい!!」」

 

玄関の扉を閉める。

向こう側ではちびっ子二人がお兄ちゃんまだかな!?まだかな!?と騒ぎながら待機中。

え?家の中で着替えさせてくれないの?

しょうがない外で着替えよう。

 

くっそぅ、千冬と一夏を養うためとは言え寂しい思いを少なからずさせていたのは残念だ。これからはもう少しだけ早い時間に帰って来れるように努力しなければならないなぁ……

 

箒は、まぁお兄ちゃんっ子だからね仕方ないね。

遊ぶ時は目一杯遊んでやろう。

 

 

一応玄関から見えない所まで行ってそこでスーツに再び着替える。

なんでこんな真っ暗な寒空の下でスーツに着替えなきゃならないのか。

まぁこれも妹達の為だ。

 

「ひゅっ!?あ”あ”あ”……寒い寒い寒い……!」

 

脱いだ瞬間にめっちゃ寒い。

スーツ持って来といて良かったぜ。アパートに置いてこなくてよかった。

つーか何故スーツ持って来てんだ俺。

どう考えたって邪魔でしょうよ。まぁお陰でアパートに帰る手間が省けて良かった。このクソ寒い中また往復とか嫌すぎる。

 

 

……シャキーン!!

 

お兄ちゃんスーツモード!

さて行くとしよう。

つーか俺煙草吸わないし酒も仕事帰りには殆ど飲んだ事無いのに匂いなんてついている筈も無いんだがな。なんで匂いで分かったんだ?

 

再び玄関の所に立ち、呼び鈴を鳴らす。

 

「はーい」

 

中から聞こえてくるのは華さんの返事。

それ以外に一夏と箒がお兄ちゃんだお兄ちゃんだと騒いでいる。

 

玄関がガラガラガラッ、と音を立てて開くとそこには皆が勢揃い。

千冬と束は戻ってるかと思ったんだがな。

 

俺だと分かった瞬間に箒、一夏の順で飛びついて来る。

 

「おにいちゃんだー!」

 

「おにいちゃーん!」

 

「おうふぅ……ただいま。二人共危ないから飛びつくのは止めような」

 

「やー!」

 

「やだー!」

 

「なんで!?」

 

「さんたさんすごーい!ほんとにおにいちゃんつれてきてくれたー!」

 

抱き上げるとそれぞれがわちゃわちゃと、サンタさんがお兄ちゃんを連れて来てくれた!だのなんだのと大騒ぎ。

うん、そのサンタはお兄ちゃんだよ。変装していただけだよ。

 

両腕に抱き上げた二人を相手にしながら、華さんと師範に挨拶をする。

 

「只今帰りました」

 

「はい、お帰りなさい」

 

「お帰り洋介君。随分と遅かったじゃないか」

 

「あはは……」

 

挨拶をすると華さんと師範がそれぞれ答えてくれる。

二人共ニヤニヤとしているがさっきの事だろう。

 

それに続いて千冬と束が。

束は相変わらず器用に俺の頭の付近まで登って来て、千冬は俺の鞄を持つ。お前本当に偉いな。

 

「兄さんお帰り」

 

「ただいま、千冬」

 

「お兄ちゃんお帰り!」

 

「はいただいま。でも耳元で大きい声は止めような」

 

「無理!」

 

相変わらず抱き着いて楽しそうにユラユラと揺れている。

 

「それじゃこれで皆が揃ったからご飯にしましょ」

 

「え?まだ食べてなかったんですか?」

 

「四人がお兄ちゃんが帰って来るまで待ってるって言って聞かなかったんだ」

 

「そうなんですか。てっきりもう食べ終わっているのかと」

 

「そんな事無いわ。私達だって待ってたのよ?」

 

「それはすみませんでした」

 

「こういう時はありがとうって言えばいいと思うよ?」

 

「そうですね……有難うございます」

 

そうやって会話して、リビングに向かい晩飯に移る。

俺は先に手を洗って、うがいをして。

 

席に着くと、右膝に箒、左に一夏と座って来る。

千冬と束はそれぞれ席に着く。

 

「これじゃお兄ちゃんご飯食べれないぜ?」

 

「だいじょーぶ!」

 

「何が大丈夫なのか全く分かんないなぁ。ご飯食べ終わったら一緒に遊んであげっから、今はちゃんと椅子に座って飯食おうな」

 

「じゃぁとなりにすわる!」

 

「それならOK」

 

「いすー!」

 

「あーほら持って行ってやっから」

 

「あろがとー」

 

「ありがとーおにいちゃん」

 

二人の椅子を持って行って、俺の両隣りを固めて座った。

 

「それじゃぁ食べましょうか」

 

「「「「「「「頂きます(いただきまーす!)」」」」」」」

 

神社だからか、七面鳥は無いが代わりに寿司だったりがある。洋食じゃなくて和食で豪華って感じだな。

 

 

 

 

「おすしおいしー!」

 

「そりゃ良かったな。あぁほら零すな零すな」

 

「お兄ちゃん、その烏賊取ってくれない?」

 

「あいよ」

 

「これからい!」

 

「ガリ食ったのか。あぁほらぺッしろ」

 

「箒、ジュースだぞ」

 

「うー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして食事が終わると皆で人生ゲームやトランプをやったり。

頃合いを見て、次は篠ノ之夫妻へ日頃の感謝を込めて贈り物を。

と言ってもお酒なのだが。

 

この夫婦、結構お酒が好きなタイプでかなり色々なお酒を所有している。

そこまで高くないから並べられると見劣りするが。

だから二人にはそれぞれお酒を送ることにした。

師範には寒梅という日本酒を。華さんにはカルヴァドスというブランデーを。

 

「師範、華さん、これどうぞ」

 

「ん?これは……おぉ、寒梅じゃないか。どうしたんだい?」

 

「日頃お世話になっていますから、感謝の気持ちです。華さんもお酒は飲まれるんでしたよね?」

 

「えぇ。少しだけね」

 

「良かった。華さんにはこちらを」

 

「あら、カルヴァドスね?」

 

「はい。こちらも感謝の気持ちという事で受け取って頂ければ嬉しいです」

 

「勿論有難く貰うよ。それじゃぁ早速三人で飲もうか」

 

「グラスを持って来ますね」

 

「あ、すいません気を使わせてしまって」

 

「なに、なんだかんだで洋介君と飲むのは久々だからね。確か最後に飲んだのは去年のこれぐらいの時期だったかな?」

 

「そうですね。あの時は俺が貰ってしまいましたから」

 

「持って来ましたよ」

 

「あ、注ぎます」

 

「ありがとう」

 

「でもあれだね、何回か一緒に飲んでいるけど、こうすると成人した息子と飲んでいるみたいでなんだか新鮮な気分だね」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだね。特に家は娘二人で尚且つまだ子供だからね。嬉しいものだよ」

 

「でもそう言ってくれると有難いです」

 

話ながら師範のグラスに日本酒を注ぐ。次いで華さん。

 

「華さんも、どうぞ」

 

「あら、ありがとう。それじゃ洋介君もどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

俺は俺で師範と華さんとお酒を少しばかり飲んだ。

と言っても師範は滅茶苦茶酒に強いって言うか、ザルなんじゃないかと思うぐらいにドンドン日本酒を空にしていく。

しかもそれだけじゃ足りなかったのか何処からか追加で数本日本酒とブランデー、ワインを持って来た。

 

「洋介君、これも飲んでみよう。結構前の奴だけどワインだからまぁ大丈夫だろう」

 

「あ、すみません。頂きます」

 

「美味しいわぁ」

 

華さんは俺が送ったカルヴァドスの瓶を空にしてからは酌に周っていた。

というか結構な量あったと思うんだけどそれをほとんど一人で飲み干すって華さんも大概だよなぁ……

一杯だけ師範が味見したいと言って飲んだがそれ以外を全部一人で飲み干したんだぞ?

それなのに全く表情も顔色も変わらないのだからこの夫婦は凄い。

 

俺はちょっとずつちょっとずつ飲み進めて行ってたから大した量は飲まなかった。

コップ二杯ぐらい。だって明日も仕事だしなぁ……

元々大した量は飲まない。

千冬と一夏と暮らし始めたのは19の時だが勿論未成年飲酒なんてしたことも無い。

会社での付き合いも、二人が居るし遅くまでほったらかしにすることも出来ないから飲み会何て言うのは断って来ていた。

幸いにも周りの先輩方は理解のある人達で全く咎めるどころか寧ろ妹さん達の為に早く帰ってあげなさいとも言われた事もある。

優しい人達ですよ。

 

まぁそれでも流石に全部断る訳にも行かないので年に一、二回程度は付き合っていた。

勿論その時は先生か師範の所に預かっていて貰っていた。

出来るだけ早く帰るようにして結局は遅くても十時頃には二人を迎えに行けるようにしていたから長居はしなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いちかー、ちふゆー、そろそろ帰るぞー」

 

「えー?もうちょっとー」

 

「そしたら人生ゲームあと一回だけな。それが終わったら帰るぞー」

 

「はーい」

 

「お兄ちゃんも人生ゲームやろうよ!」

 

「んぁ?俺も?」

 

「うん!ほら来て来て!」

 

束にズルズルと引きずられて行き、ボードの前に座らされる。

 

「ほらお母さんとお父さんも一緒にやろう!」

 

「そうね、皆でやりましょうか」

 

「人生ゲーム何て久しぶりだなぁ」

 

師範と華さんも参加し、七人での人生ゲームバトルロワイヤルに発展。

スタートに戻るとか何回休みとかのマスをやたらと皆で踏んだもんだからなかなか決着が着かず長引いた。

 

スタートに戻るのマスの数少ないのになんでこうも皆悉く踏んでいくんだろうか。

 

 

 

「あー!また二回休みじゃんかー!」

 

「束さっきはスタートに戻る踏んでたな」

 

「そう言うちーちゃんだってスタートに戻るを二回も踏んでるじゃん!」

 

「大丈夫だ。もうゴール目前だからな。お、十マスだな……一二三四五六七八九十。……スタートに戻る!?」

 

「あははは!ちーちゃん三回目だ!」

 

「なんでゴール目前にスタートマスに戻るなんてあるんだ!?」

 

「ちふゆねえすたーとにいっちゃった!」

 

「いちか、いまのうちにどんどんすすまないと!」

 

 

 

 

 

 

 

「うぉっ!?またスタートに戻る!?」

 

「おにいちゃんまたさいしょからー!」

 

「あはは!おにいちゃんすたーとだー!」

 

「あら、私も二回休みだわ」

 

「おや、私もスタートに戻るだね。何というか皆運が悪いと言うか、寧ろ奇跡的なほど振出しに戻るを踏みまくっているね」

 

 

 

 

 

「ごーるだー!」

 

「え!?箒いつの間に!?」

 

「わたしもごーる!」

 

「一夏も!?」

 

 

 

 

結局俺達が振り出し戻るだったり二回休むを踏んでいる間にマイペースにマスを一つ二つと少ないながらも地道に進めて行った箒と一夏が優勝準優勝を掻っ攫って言った。

結局俺が三位、束四位、華さん五位、師範六位、千冬が最下位だった。

 

千冬、その、なんかごめんな。

 

 

 

 

「そんじゃ帰るぞー。準備しろー」

 

「「はーい」」

 

二人に準備をするように声を掛けると、駄々を捏ねずに準備を始めた。

すると師範と華さんの二人はどうやら泊まっていくと思っていたらしく声を掛けて来た。

 

「洋介君、泊まってかないのかい?」

 

「そうよ。泊まって行ってしまえばいいのに」

 

「明後日まで仕事ですから」

 

そうなんだよ。

明後日まで仕事があって二十八日から漸く冬休みに入れるのだ。

だが小学生、幼稚園生はとっくの昔に冬休みに入り始めている。だから基本千冬と一夏は二人でお留守番となってしまう訳だ。

まぁそこは篠ノ之神社に来て束と箒を入れた四人で遊んでいるんだけど。

 

でも俺よりも篠ノ之夫妻はもっと凄い。

だって神社だから基本年中無休な訳で。毎朝境内中を朝早くから掃除しているし。

しかもこんなにデカい神社なのに二人だけでやっているのだから凄い。

まぁ流石に年末年始辺りは臨時で雇ったりしているし、なんなら俺も手伝っている。

いっつも千冬と一夏の事を見ていて貰っているからね。これぐらいは何てことは無いのだ。

 

「そうか、まだ休みに入ってないんだね。それなら一夏と千冬を家に預けておけばいいよ」

 

「それもそうね。お仕事でいない間は二人を家につれて来ると良いわ」

 

「いいんですか?」

 

「勿論だとも。まぁ年末の準備も粗方済ませておいたし問題は無いよ。あとはいくつかやる事があるけどそれも十分片付けられる範囲だし。それに束と箒も何か仕事が無い限りは二人だから遊び相手が増えるのは良い事だと思うしね」

 

「すいません、それでしたらお願いしてもいいですか?」

 

「いやいや、構わないよ」

 

「兄さん、準備出来たぞ」

 

「ん、一夏も準備出来たか?」

 

「できたよ」

 

「よし、そんじゃぁ帰るぞ」

 

玄関まで歩いていく。

 

「師範、華さん、お邪魔しました」

 

「いやいや、年末年始も是非おいで。忙しくて挨拶も出来るか分からないけれど屋台もでるしね」

 

「はい。それでは」

 

「うん、気を付けて帰るんだよ」

 

「おにいちゃんちふゆおねえちゃんいちか、じゃーねー!」

 

「バイバーイ!」

 

「じゃーなー」

 

そう言う訳で、帰宅しました。

それからは風呂に入り、歯を磨いて、寝る。

 

一夏は早々に電池切れで布団には言った途端に寝てしまったし、千冬も十分程で寝付いてしまった。

俺も俺で明日の朝飯用にご飯を炊いたりしてから布団に潜り込む。

基本、俺を挟んで二人は寝るものだから、入った瞬間に寄って来る。まぁ拒む理由は無いし寧ろ嬉しいので構わない。

 

でも酒臭くないのかな?普通だったら嫌がると思うんだけど。

それでも擦り寄って来る二人を抱き締めて、寝る。

あと二日。仕事頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして過ぎて行ったクリスマスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




いよっしゃぁぁぁ!!
十二月三十日に投稿完了!間に合ったぜぇぇ!!!





書いてて思ったけど神社がクリスマスって大丈夫なのか……?
いやまぁでも大丈夫だよな。うん、大丈夫。大丈夫なはず……




因みに半田ごての価格はAm〇zon基準です。
だいたい5000円あれば結構いい奴が買えちゃいます。
これ結構本気で驚いたんですけど半田ごてよりもぬいぐるみの方が圧倒的に高いんですよね。

おぉマジか!?

と思わず声を出してしまった。
作者が欲しいと思ったぐらいです。
千冬姉のプレゼント、原作準拠だとお酒一択で問題無いんだけど子供だしなぁ……
つーか千冬姉の好みってなんだ……?と結構悩んだ挙句もう何でもいいやってなった。
ちーちゃんならお兄ちゃんからのプレゼントだったら何でも喜びそうだし。
ぬいぐるみ貰って喜ぶ千冬姉とかギャップがあっていいよね。これだけでご飯4杯はイケます。


因みにですが作者はお酒が全く飲めません。
濃い匂いだけでアウトです。多分下戸というやつです。




次回、閑話お正月編。
多分間に合わない。








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閑話その4 お正月



明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




という訳で新年一発目の投稿じゃい。












 

 

今日は一月一日。

普通の家庭ならおせちを食べたり初詣に行ったりするわけだが残念ながら篠ノ之家は寧ろその参拝客達を迎える側で、俺も手伝いに来ている為かなり忙しい。ちゃんと着替えてますよ。

 

箒と一夏はまだ小さいからという事で手伝いはせずに相変わらずこのクソ寒い中元気に遊びまわっている。元論参拝客の方々に迷惑を掛けない様に。振袖だか何だかに着替えて羽子板大会に参加している。千冬と束は巫女服に着替えてお守りなんかの販売のお手伝い。

師範は宮司としての仕事が数多くあるからそっちに行ってしまっているし、華さんは華さんで巫女としての仕事。

 

ついでに言うとこの神社って全国的に有名だからか物凄く人が多い。

確かに歴史は古いし道場の方も全国クラスの人間が何人も居るレベルに強いし、夏祭りにでもなると代々その神社の巫女が神楽舞を奉納するという事でも有名だ。因みに神楽舞をやっているのは華さん。

まぁ簡単に言えばめっちゃ美人が神楽舞をやってるから男共を筆頭に引き寄せられてくるという事だ。

何時だったか態々芸能事務所がスカウトに来た事もあるぐらいだしそれは納得できる。速攻で断っていたけど。

それに師範も師範でそこらのモデルやアイドル何て目じゃないぐらいにイケメンさんだから女性のファンみたいなのも多い。

渋谷や原宿を歩いていたら間違い無く声を掛けられるレベルの夫婦が宮司と巫女をやっているのだからそりゃ話題にもなるわ。

 

今も取材も幾つか来ているみたいだし、師範と華さんはその美男美女夫婦という事で仕事の傍ら取材をされていたりする。まぁ確かにあの篠ノ之一家ホントに美人ばっかだからなぁ……

 

忙しいから人を雇っているが、それも道場の門下生に手伝って貰っているという感じだし。お年玉を貰えるという事でそれぞれがかなり張り切っていやっている。

 

お守りや絵馬、破魔矢だったりもどんどん売れていく。

俺はそれの品出しという感じで荷物を抱えて走り回っている。

 

千冬と束はさっきも言った通り販売のお手伝い。

 

「ありがとうございましたー!」

 

「縁結び守りですね。五百円です」

 

二人は両極端な性格をしているからか二人共可愛いと大人気だ。

確かに巫女服の千冬と束はめちゃ可愛い。異論は認めん。

 

ついでに言うとこんな俺がお手伝い組の全体を取り纏めていたりする。

というのも結構頻繁に出入りして一夏と箒相手に敷地内を走り回っているから色々と把握している。だから意外と都合が良いのだ。

 

色々と指示出ししながらあっちへこっちへ荷物を運んだり。

 

確か明日は明日で餅つき大会があるからそれの手伝い。

いやぁあれ楽しいんだよな。餅を突くのもさることながら食べるのも楽しいのだ。

種類が沢山あってそれはもう色々と食べる事が出来る。

 

きなこ、醤油、餡子に大根おろし、他にも色々。

 

 

そんなわけで忙しくも何だかんだで楽しく過ぎて行った日だった。

 

 

 

 

 

 

次の日、朝早くから予定していた餅つき大会を開催。

一応奉納としての意味合いもある為にちゃんとした手順やらなんやらをして、奉納の餅つきをやってから本格的に始まる。

 

「おもちだー!」

 

「わたしきなこー!」

 

「しょうゆー!」

 

一夏と箒を含むちびっ子達はどんな餅が食べたいと大騒ぎをして早く早くと催促をしてくる。

 

「はいはいまだつき始めてないんだからもう少し待ってなー」

 

「洋介君、今日も手伝って貰っちゃって申し訳ないね」

 

「いえいえ、楽しみですから何て事は無いです」

 

「それなら良かったよ。それじゃぁ早速つき始めようか。もち米も予め蒸かしておいた事だし。それにこのまま子供たちを放っておくと暴動が始まりそうだ」

 

「それもそうですね。それじゃぁ行きましょう!」

 

「そうだね。気合い入れて行かないとね」

 

気合を入れて、臼と木槌を持っていく。

そう、俺と師範の二人で餅をつかなければならないのだ。

まぁこれも一つの楽しみという事で。

 

 

それから俺と師範の二人で餅つきを行い、時折交代して数時間、延々と餅をつき続けた。

そして振る舞われる各種の餅。

俺は雑煮を食らっております。

どれもこれも華さんお手製なのでびっくりするぐらい美味しい。

餅の方も出来たてということもあって市販の切り餅なんて目じゃないくらい美味い。

 

そして餅つきを楽しんだその日の夜。

 

 

 

 

 

「一日遅れだけれどおせちを作ったから洋介君も千冬ちゃん達と一緒に食べて行って」

 

「いいんですか?」

 

「勿論よ。誰よりもお手伝いで頑張ってくれたんだから。まぁそれが無くても食べて行って貰う予定だったのよ?」

 

「束も箒もお兄ちゃんと一緒に食べたいって言っているから」

 

「そうですね。御馳走になります」

 

「良かったわ。それじゃぁ着替えてリビングで待っていて。多分四人はもう待っていると思うから。私達も着替えたら向かうわ」

 

「了解です」

 

言われた通りに着替えてからリビングに向かうとそこには既に千冬、束を筆頭におせちをテーブルの上に並べて準備を進める四人の姿があった。

 

「あ、お兄ちゃん」

 

「お疲れ様。準備はやるから座ってていいぞ」

 

「悪い。ありがとな」

 

ホンマに出来た子達やでぇ……

言われた通り椅子に座っていると準備が終わった一夏と箒が俺の方に寄って来る。

その勢いそのままに抱き上げる。

 

「よっ……と」

 

「おにいちゃん、わたしじゅんびおてつだいしたよ!」

 

「おー偉い偉い」

 

「わたしもてつだったー!」

 

「偉い偉い」

 

箒と一夏を抱き上げて膝の上に乗せると手伝った事を褒めて欲しいのかそれを自慢げに話す。相変わらず元気だ事。

昼間あれだけ羽子板大会やってたのに何故こんなに元気なのか。

俺は餅つきやって腕パンパンだしめっちゃ疲れたんだけど。師範も流石に顔に疲れの色が出ている。

だって朝から四時ぐらいまでずっと木槌振ったり、臼の中の餅をひっくり返したりしてたもん。そりゃ疲れる。

 

千冬と束は若さ故なのか疲れているという感じは無い。

束なんかは鼻歌を歌っているし。

 

「待たせたね。準備をしておいてくれてありがとう」

 

「それじゃぁ皆揃った事だしおせち、食べましょうか」

 

「そうですね」

 

「「「「「「「頂きます」」」」」」」

 

「だてまきー!」

 

「くりきんとん!」

 

挨拶をしてから食べ始める。

一夏と箒は真っ先に栗きんとん、伊達巻に手を伸ばす。すると何を思ったのか伊達巻を伸ばし始めた。あれだ、カニカマと同じような感じだ。

 

千冬は田作を、束は海老を。

俺は数の子。数の子美味いだろ?それにプチプチしててあの感じが好き。

 

「洋介君、明日は休みだろう?」

 

「そうですね」

 

「それなら飲まないかい?」

 

お誘いだ。

どうするかな。明日が休みとは言え飲んで酔っ払うのはあまり嬉しくないんだが……

まぁでも良いか。飲むって言ってもグラス二、三杯だし、多くても五杯程度で辞めておけば大丈夫か。

 

「そうですね、頂きます」

 

「それじゃ取って来るよ」

 

「すいません」

 

「なに、誘ったのはこっちだからね。これぐらいはお安い御用だよ」

 

師範はそう言うとお酒を取りに行った

華さんは予め作っておいた雑煮の汁を温めている。

 

「お雑煮食べる人ー」

 

「はーい!」

 

「わたしたべる!」

 

「お母さん私も!お餅四個で!」

 

「千冬ちゃんは?」

 

「頂きます。お餅二つで」

 

「洋介君は?」

 

「お願いします。あ、餅三つで」

 

「はーい」

 

そう言うと今日ついたばかりの餅をフライパンで温め直し、温まった雑煮の汁の中に入れてお盆の上にのせて持ってくる。

 

「はいどうぞー」

 

「いただきまーす!」

 

「おいしい!」

 

「んー!おーいしー!お正月はこれが無いとねー!」

 

「ふぅ……美味しい……」

 

「良かったわ。どんどん食べてね」

 

華さんの言った通り、おせちも雑煮もどんどん無くなっていく。

一夏も箒もパクパクと食べ進め、千冬と束もお代わりしまくりだ。

俺もしっかり頂いています。めちゃ美味しいです。

 

「洋介君、待たせたね」

 

そこに師範が戻って来た。

その腕には十本近い瓶が入った袋を持って居る。

師範、俺そんなに飲めないんですけど。

 

「それじゃぁ飲もうか!」

 

「頂きます」

 

お酒の事になると途端に普段の落ち着き払った感じじゃなくなるのは何故だ。

華さんも加わり三人で飲む。

 

ちびっ子達は食べ終わってからは人生ゲームを始め、楽しんでいる。

トランプでババ抜きや神経衰弱、七並べをやったり。

 

楽しそうで何よりだ。

大人組はお酒を飲み進めている。

まぁ俺はそこまで飲まずにセーブしているから今現在でも四杯しか飲んでいない。

それに比べ二人は何故あれだけ飲んで酔い潰れないのか不思議なくらい飲んでいる。

本当にザルだなこの人達……

 

 

 

 

 

 

それから数時間飲み続けた師範と華さんは、流石に飲み過ぎたのか師範が気分が悪いと言い始めた。そりゃあれだけ飲んだらそうなるだろうよ……

持って来た十本近い瓶を空にした師範はそれからも何本も何本も持って来ては空にしてを繰り返していたら限界が来るのもしょうがない。

なんでそんなに飲むのか不思議だが、師範は俺と飲めることが嬉しいと何度も言いながら飲み進めていたからそれが原因なんだろうな。

華さんは途中から水に変えていたから普段と変わらない感じだったけど。

 

「洋介君、今日はもう泊まって行っちゃいなさい」

 

「それは申し訳ないですよ」

 

「あら、そんな事無いわ。それに一夏ちゃんと箒はもうとっくにお眠のようだしね」

 

「あ、ホントだ」

 

言われて見てみると二人はうつらうつらと船を漕ぎ始めていた。

そりゃ仕方が無いか。

 

「すいません、今日は泊まらせて頂きます」

 

「それでいいわ。そしたら二人をお風呂に入れてくれるかしら?私はこの人を連れて行くから」

 

「分かりました」

 

「ほら、しっかり。あ、お風呂に入ったら片付けしなくて大丈夫よ。私も入るから。それじゃぁおやすみなさい」

 

「はい。おやすみなさい」

 

華さんは師範を担いで行ってしまった。

流石華さん、男一人を軽々と担いで行くとは。

それを見ながら俺は一夏と箒を抱き上げて風呂に向かう。

 

「ほら、風呂入るぞー」

 

「んー……ねむい……」

 

「おにいちゃんとねるー……」

 

「お風呂入らないとお兄ちゃん一緒に寝てあげないぞー?」

 

「ならはいるー……」

 

「はいるー……」

 

「はい偉い。そんじゃ行くぞー」

 

風呂に行こうとすると後ろから束が声を掛けて来る。

 

「お兄ちゃん!私も一緒に入る!」

 

「一人で入りなさい」

 

「やーだー!入るもんねー!」

 

そう言うとさっさと風呂場の方へ行ってしまった。

あいつあの年にもなって俺と一緒に入りたいとか、大丈夫か?

将来が心配だ……

 

「兄さん、私も一緒に入る。先に行ってるからな」

 

「千冬も!?」

 

……お兄ちゃん、妹達の将来が本気で心配だぜ。

風呂場に着くとバスタオルや下着の準備はされていて、風呂場の方から声が聞こえる。

 

「ほらばんざーい」

 

「ばんざーい……」

 

「はい、いい子だなー」

 

「一夏ー、ばんざーい」

 

「んー……」

 

「よーし入るぞー」

 

風呂に入り、一夏と箒の身体を洗って温まってから出る。

着替えてそのまま布団が敷かれている部屋に向かい、一夏と箒を寝かせる。

部屋に向かっている時に既に気持ち良さそうに寝息を立ていた。

 

千冬と束も既に布団に入って寝る準備をし始めているし。

俺も寝るかな。

布団に潜る前に、一夏と箒に掛けておいた掛け布団が少し捲れていたから掛け直してやる。

 

布団に潜ると、直ぐに両隣を千冬と束が固めた。

 

「酒臭くない?」

 

「ぜーんぜん!お兄ちゃんの匂いしかしないよー」

 

「そうだな。風呂に入ったからかシャンプーの匂いと兄さんの匂いがするだけだ」

 

「それなら良かった。臭いなんて言われちゃ堪らん」

 

「私達がそんなこと言うなんてあり得ないと思うけどなー」

 

二人は酒臭くないと言って抱き着いていて、ぐりぐりと頭を擦りつけて来る。

そして何故かクンクンスーハースーハーして来る。

うんまぁもう慣れたから良いんだけどさ。

思う存分堪能されて、気が済んだらしく。

 

「おやすみお兄ちゃん」

 

「兄さんおやすみ」

 

「おやすみ」

 

そう言ってから直ぐ、千冬と束も寝息を立て始めた。

俺はそれを見届けて、眠った。

 

 

 

 





間に合わんかったぁぁぁぁぁ!!!!!!!

年越しその瞬間に投下しようと思っていたのに無理だったァァァ!!!
クソがぁぁぁぁ!!これも全部周りに誘惑する物が多かったせいなんだぁぁ!!






因みにお餅はフライパンで水を掛けて温めるとつき立てになります。
電子レンジよりもずっといい感じで仕上がります。
これ本当です。作者はやっています。






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ドイツ許すまじ!厳罰に処してやるわ!……束と千冬がなぁ!あぁっ!?千冬のハイライト様が何処かに行ってしまわれた!?




おじさん、早く目を覚まさないと大変な事になるぞ……




 

 

 

 

ーーーー side 束 ----

 

 

 

おじさんの治療を始めてからもう三日目。

これでも治療を開始してから直ぐの時よりはずっと容体が安定している。

死なない限りは何が何でも生き永らえさせるって約束した手前、そんな事にはさせないけどそれでもおじさんの身体はおじさんの物であって私がコントロール出来る訳じゃない。

問題が起きたらその都度私が対処する。

 

実際にこの三日間、四回ぐらい問題が起きては私がそれを何とかする事があった。

でも命に関わるような問題は一回だけ。残りの三回はその場で直ぐに対処して解決しちゃえば問題は無いもの。だから直ぐに解決して、それからおじさんの治療に移る。

 

と言っても身体の器官や組織を殆ど総取り換えする。

言ってしまえば故障したロボットの部品を全部取り換えてオーバーホールするような物。

機械なら何てことは無いし、ちゃんとやっておけばそれ以降問題が起きることも無い。だけどそれはあくまで機械の話。

おじさんの身体は機械じゃない、生身の生きた人間だ。それも私にとってこの世界で最も大切な人。だからもし何かあったら大変だ。

慎重に、慎重に治療を進めていく。

 

その時、私はとっても良い事を思い付いちゃった。

おじさんは普通の、生身の人間だ。幾ら私やちーちゃんと同じくらい、もしかしたらそれ以上強いかもしれないとは言っても普通の人間なのだ。

おじさんが死に掛けたのは、あくまで『生身の人間』だったから。

ISに殴られてしまえば骨は砕けてしまうし、蹴られれば内臓はやられてしまう。

 

 

それならもし、おじさんがそうならないような身体を持って居たら今回の様な事が起きたか?

答えは簡単。起きなかったに決まってる。だっておじさんだから。

本人はもう年が云々言ってるけど肉体年齢はまだニ十歳ぐらいだし内臓年齢もお酒を殆ど飲まないしいっちゃんの健康を意識した三食のご飯のお陰でニ十歳半ば。

筋トレとかの運動のお陰で身体機能も十代。心肺機能も十代だし本人が言うほど衰えていない。寧ろ歳を取るごとに何故か若返って行くのだからある意味でおかしい。

 

だけどそんなおじさんでも今回VTシステムに殴られて、蹴られてこうなってしまった。だから私は考えた。

ならおじさんの身体をそんな事が無い様にすればいいんじゃないかって。

まぁター〇ネーターみたいにするわけじゃないし核融合炉なんて使う訳も無い。

ロボットにするんじゃない。

 

普通の人間とは段違いの強度を持たせれば良いだけの話。

例えばISの特殊装甲以上の強度があれば内臓が破裂したり、骨が折れたり筋肉が断裂したりする事なんて無い。

ついでに強度が上げるのならパワーも持久力も何もかも上げてしまおう。

そうすればおじさんは無敵。

 

そう言う訳で培養した内臓や筋肉、骨、血管その他諸々はISに私が使用してる特殊装甲以上の強度を持って居る。

私が開発した装甲だからそりゃ他なんかと比べるまでも無い強度。

多分爆弾だろうがミサイルだろうが何だろうが余裕で耐えられる。熱や寒さに対してもちゃんと対応しているし。

 

ただちょっと心配なのが内臓とかは何とかなったんだけど、無事だった脳や目と言った頭部は全く今回そう言う事を施せなかった。

まぁでも頭蓋骨の強度を一番に高めておいたし、強い衝撃があっても大丈夫なようにしてあるから滅多な事は無いと思うんだけど……

 

強度が上がったことで必然的に物を支える力、耐久力なんかの数値が軒並み吹っ飛ぶぐらい上がった。

ついでにナノマシンの投与の副作用で視力が滅茶苦茶良くなったりとかするけど問題は無い。

 

うん、まぁ、その、ちょーっと、やり過ぎちゃったかなぁ……

 

これは流石に怒られるかも……

でも元に戻すには手遅れなんだよね……だってもう五十七%は移植が完了しちゃってるし、しかも血管に関してはもう血が通い始めちゃてるからこれを治そうとするとこれまた時間が掛かるしおじさんへの負担も大きい。

 

だからもうこのまま進めちゃうしかない。

それに強くなる分には問題無いと思うんだよね。結果的に自分の身を守れることに繋がって来る訳だし。私達の事も守れる。おじさんが、私達が怪我をしたりして悲しまなくても済むからこれは必要な事なんだと思う。

 

おじさんは私達に傷付いて欲しく無いって言って、何かあれば最前線に立って戦い続ける。でも私達は、同じ様におじさんに傷付いて欲しく無い。

 

私が、私達がそれを言ってもおじさんは多分困ったように笑って頭を撫でて来るか、冗談を言って流されちゃう。だからこの力は必要なんだ。

 

 

今も滅茶苦茶に私の所に掛かって来るちーちゃんといっちゃんと箒ちゃんの電話が怖いからなんて理由じゃないよ?三人だけじゃなくて金髪の子も電話越しになんか病みそうな声で話し掛けて来るのが怖いからなんて理由じゃないよ?

 

 

……あの四人、ものすっごく怖い。

 

 

 

 

 

 

 

それとおじさんと一緒に連れ帰って治療をしている銀髪の子、ラウラちゃんだけど思ったよりも回復が早くてもう怪我に関しては回復してる。

軍人だったからなのか、それとも出生に由来するものなのかどちらなのか分からないけど。

でもやっぱり体力や気力を消耗し尽くしたのか未だに目が覚めない。

それ以外は全部正常だし、何の問題も無い。

 

私はおじさんの治療に専念しちゃって、基本的に何かあったら直ぐに対応できるように二十四時間張り付いている。だからお世話はくーちゃんに任せていている。

 

という訳で今の所は安定してるし、特に問題は無いかな。

という訳でおじさんのモニターをしっかりと見ながら、時間を無駄にしない様にクソドイツにやらかした事の責任を取らせるために色々と証拠集めをしなくちゃね。

 

ニュースを見ればチラホラと今回の件はドイツがやらかした、って言う事が流れている。多分他国も勢力争いでドイツの件の証拠を集めているけど多分得られない。

 

って言う事で私がやる。

まぁ何処かの国に渡すなんてことはしない。私が直接引導を渡してやるんだ。

これは、おじさんの敵討ちだよ。

 

 

さーてと、どれから探ろうかな?

一応学園側から依頼されていたからそれなりに情報は集まっているけどこれじゃ完膚なきまでに、二度と立ち上がれなくなるぐらいに叩きのめすにはまだまだ全然足りない。

 

というかこれ、酷いねぇ……

ドイツとフランスの上層部が癒着でもうベッタリだし、そこに女権団まで加わってもう滅茶苦茶だね。

 

一応今回のVTシステムの件を主導したのはドイツ軍の上層部と科学者の独断っぽいね。開発にはフランスのデュノア社まで関与、ついでにフランス軍も裏から資金援助、技術提供等を行っていると。

 

完成して実戦投入可能段階になったらドイツからフランスへ技術の供与、ね。

これは随分とまぁ手が込んだ計画だよ、本当に。

 

ただ君たちの失敗はその情報を紙媒体では無くて電子媒体に残していた事だ。

電子機器なんて私に掛かればチョロいもんさ。

 

IS学園の設備は基本的に私が設計、開発、建設をしたから結構時間が掛かるけどそれでも、もう何年も前の話。流石に時間が掛かるけど普通にハッキング可能だし、多分私以外じゃ侵入不可能なんじゃないかな?

 

 

それじゃ証拠として研究データを全部コピーして……と。

それが終わったら全研究データを消去してやろう。ついでに二度と修復、サルベージ出来ない様に細工をしてやる。こうすれば研究データをサルベージして修復なんかも二度と出来なくなる。

 

ついでにくーちゃんやラウラちゃんの出生関連の事やドイツフランスの後ろ暗い、少なくとも日の目を浴びる事が無いであろうデータも全部コピー。

 

最初は物理的にドイツをこの世界から消してやろうって考えてたけど、それじゃぁ罰にならない。

長く苦しみを味わて貰わないとね。

 

そうして作業を進めていると不可思議なデータを発見した。

 

「……およ?これは、何だろう……?見た事が無いなぁ……」

 

見た事が無いデータが一つだけあるな。

……うん?これはVTシステム関連だね……でも詳細が分からないな。

それ以外のデータも幾つかあるけど全部同じような感じ。

題名はあるけど中身が無い小説みたいな感じで全く分からない。

 

一応データの復元を試みてはみるけど私がやったようにデータのサルベージや復元が出来ないような処置が施されていて難しいかも。

 

難しいと言うだけで出来ない訳じゃないから何とかなる。

ただ時間が掛かるってだけの話。少なくともドイツとフランスの事を世界中に大暴露する時には間に合わない。

 

 

 

コピー状況を見てみると、殆ど終わっていた。

よし、これを後はちーちゃんに渡す用をコピーすればいいだけ。

これは十秒もあれば終わる。

 

このデータは早めにちーちゃんに渡しておいた方が良いかな。

流石に郵便で送る訳にも行かないから直接手渡しにしよう。

 

こっそり誰にも気が付かれない様に私を透明化して、ちーちゃんのスーツのポケットに入れて置こう。

 

 

 

「束の奴、何故電話に出ない……?兄さんはどうなった……?まさか死んだ?死んじゃった?いやいやそんな事はある筈が無い。あって堪るか……あってはならないんだ……でももし兄さんが死んでたら?どうしよう……あぁそうだ同じ場所に行けばいいんだ……そうすればずっと一緒……」

 

「束さん、電話に出てくれないかなぁ……お兄ちゃんとお話ししたいのになんで出てくれないの?もしかして独り占め?独り占めなの?束さん、それは駄目だよぉ……?お兄ちゃんは私のなんだから……」

 

「私は何も出来なかった……洋介兄さんがボロボロになっているのに助けてあげられなかった……何時も助けて貰ってばかりで私は洋介兄さんを助けてあげられない……?いやそんなことは無いはずだ……洋介兄さんを守るのは私なんだ……洋介兄さん、兄さん兄さん兄さん兄さんニイサンニイサンニイサン……」

 

「小父様、あぁ小父様早くお元気になってお会いしたいですわぁ……あぁ、その腕で抱き締めて、頭を撫でて欲しい……命がけで戦って私達の事を守ってくれた小父様を抱き締めて、キスをして褒めて差し上げないと。あぁでもあんなに無茶をされたのですから少しぐらいのお小言は許されますよね……?」

 

 

 

……私は何も見ていない。

ハイライト大先輩が何処かに行ってずっとブツブツ言っている親友やその妹、自分の妹や、おじさんの事を呼びながら恍惚とした表情の子なんて見てない。

 

 

ひぇぇぇ……触らぬ神に祟り無しだよぉぉぉ……

 

 

ちーちゃんだった何かのポケットにデータのコピーを入れてさっさと退散する。

あんなの関わったらその場で殺されちゃうやつじゃん……

 

おじさん早く目を覚まして何とかしてください本当にマジで。

とばっちりは御免だよ。

 

というかもう胃痛が凄いんだけど……!

キリキリキリキリずっとしてるしぃ……!そんな事ある筈ないのに……

 

 

見つからない様に自分の持てる能力の全てをスニーキングに振ってラボに帰る。

するとくーちゃんが出迎えてくれた。

 

「お帰りなさい、お母様。様子がおかしいですが何かありましたか?」

 

「……皆がハイライト消えててスッゴイ怖かった」

 

「お父様は愛されているからですね。当たり前です」

 

「くーちゃんが中々にズレた子に育っちゃったよ……」

 

おじさんはくーちゃんに会った事があるんだけど、色々と事情があってその時の記憶を消しちゃったんだよね。

確かくーちゃんが私の娘になった時は(公的な書類とかは無いんだけど)今よりもずっと小さくて、でもおじさんに優しくされて完璧に懐いちゃったんだよね。

おじさんの記憶を消してラボに戻ってきた時に、キラキラした目で、

 

「あの人は誰ですか!?お母様!」

 

なんて言われちゃってこれ下手なこと言うとライバル増えそうだしな……しかも義理とは言え自分の娘とか嫌すぎる。なんて考えて、

 

「あの人はくーちゃんのお父さんなんだよ」

 

「お父様……!お母様と夫婦という事ですね!」

 

美味い返しが思い付かず慌てて返しちゃったから

 

「えっ!?あ、あぁ、うん、そうだよ」

 

なんて訳の分からない事を答えちゃってそれはもう更にきらきら輝いた目をしちゃって……

今考えればこれは一番の地雷を踏み抜いていたのかもしれない。

 

 

ちーちゃん達とくーちゃんがエンカウントした時の地獄絵図を想像したら胃痛が酷くなった……

 

絶対バチバチやって私に飛び火するよぅ……

でも元凶を作った張本人が自分だから逃げようにも追いかけられて結局捕まるまでがワンセット……

いざとなったらおじさんに助けて貰おう。

 

「そう言えばお母様、ラウラが先程目を覚ましましたよ」

 

「そっちを先に報告しようよくーちゃん……様子はどんな感じ?」

 

「身体機能に関して言えば可も無く不可も無く、至って普通といった感じでしょうか?ですが」

 

「やっぱり精神面でダメージが大きい、か」

 

身体機能に異常は無し。各臓器、器官もちゃんと正常に機能しているしこの分ならこれから先、何かしらの異常が起きることは無い。

 

でも、やっぱり予想していた事とは言え、精神面のダメージがあるか

ダメージの大きさにもよるけれど精神の治療は限りなく難しい。

腕を失ったら唯取り換えればいい、義手を付ければいいって言う簡単な話じゃない。

心は入れ替える事が出来ない、その人しか持って居ない世界に唯一のものだから。

 

一説によれば、戦争に行った部隊の半分が戦死して、残りの半分の内の半分が心的外傷後ストレス障害に悩まされると言う。

単純に考えれば一万人の内の二千五百人はPTSDに罹るという事。

 

症状の差はあれど常に日常生活に支障をきたすレベルから、日常生活を送る分には問題無いが何かしらの要因でパニックを起こすと言ったレベルまで様々。

 

何が言いたいかと言うと、それほどの訓練された人間がこういう事になるという事だ。

ましてやラウラちゃんは軍人とは言っても十五歳の女の子。

それが周りの人の命を脅かした原因が自分ともなれば、そのストレスは計り知れない。

 

「その様です。起きてから暫く経ちますが何というか、上の空の様で、話し掛けても反応がありません。一応聞こえてはいるようなので聴覚に異常はありませんが……しかも最中の記憶があるらしく、聞こうとした瞬間に取り乱しました。今は眠っていますが」

 

「そっかー……」

 

「どうされますか?」

 

「うん、取り敢えずお父さんの治療が終わったら会おっか。話はそれからそれから。じゃないとメンタルケアも出来ないしね」

 

「分かりました。その時はお父様をどうされますか?」

 

「くーちゃん見ててくれる?」

 

「勿論です。それでは私はラウラに付いていますね」

 

そう言ってくーちゃんはラウラちゃんの所に戻って行った。

それじゃぁ私はおじさんの治療が終わるまではくーちゃんに任せておいて、私はそっちに専念しなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

三日後、おじさんの治療が完了した。

ちゃんと調整もしたから起きた時に身体を動かしたりしたときに違和感とかを感じることは無いはず。

もし感じたとしてもそれはあくまで一度無くしたものが自分の所に戻って来たって感じの違和感だからそれ程問題は無い。

 

今はまだ眠っているけどそれはあくまで体力を回復しているって事だからあと二日もあれば目を覚ますと思う。

ポッドから出て、ベットに移って貰った。

その時くーちゃんがおじさんの手をニギニギしてたけどまぁ、うん、お父さんと久しぶりの触れ合いだから仕方が無いよね。

決して変な意味は無い。と思う……

 

それじゃぁ次はラウラちゃんのメンタルケアに移ろう。

早い方が良いんだけど如何せんおじさんの方が緊急性が高かったからそっちを優先せざるを得なかった。

 

「初めましてラウラちゃん。私の名前は篠ノ之束って言うんだ」

 

「…………」

 

挨拶をしても反応は無く、ボーっと何も無い空間を見つめている。

その目に生気は感じられず、ただそこに居て呼吸をしているだけの様な感じだ。

 

うーん、これじゃ会話が出来ないんだから話を聞いて治療する事も出来ない。

今日は取り敢えず引くかなぁ……

 

こういうのは長い時間と根気が必要なんだから。

 

 

 

 

 

次の日、昨日と同じ様に私はまたラウラちゃんの所に来ていた。

挨拶をしてもやはり返事は返って来ない。ただボーっとして一点を見つめているだけ。

幾らか私が一方的に話して終わった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

今日もラウラちゃんからの反応は無かった。

相変わらずボーっとしていて動くことも無くただそこにいるだけの存在になっている。

 

 

ーーーーーーー

 

 

今日もラウラちゃんの所に行った。

やっぱり生気の無い目でボーっと何も無い空間を見つめていて、そこに私が一方的に話しただけだった。

 

 

-------

 

 

 

 

 

 

 

 

うーん、今日ぐらいにおじさんの目が覚めてもおかしくは無いんだけど。

そう思って今日はおじさんの事を見ていた。

 

あ、ちゃんとラウラちゃんの所に行ったよ?

まぁ相変わらず私が一方的に話し掛けただけだったけど。

 

それが終わってからおじさんが寝ているベットの横に椅子を置いて寝顔を見ている。

なんか、おじさんの寝顔って久々に見た気がするなぁ。

 

くーちゃんはラウラちゃんの事を任せているからそっちに付きっ切り。

でも私がラウラちゃんの所に行く時はおじさんの事を任せているからその時はとっても嬉しそうな顔で傍に居る。

 

でも私が戻るのが早いとかブーブー文句言ってたけど。

そんなこと言われてもラウラちゃんに一方的に話し掛けるだけなんだからすぐに終わっちゃうのも仕方ないってば。

 

そうやって見つめながら、何時も撫でられてばかりだった私は、なんとなーくおじさんの頭に手を伸ばしてちょっと堅めの髪の毛を撫でる。

 

「んふふふ……」

 

今じゃ容体も安定していて、ただ寝ているだけ。

 

「本当に、早く起きてくれないかなぁ……みんな心配してるよー?」

 

一人でそんな事を言いながらおじさんの頭を右手で撫で続ける。

左手はおじさんの手を握っておく。

 

すると、今まで動かなかった手がピクリ、と動いた。

気のせい?私が早く目を覚ましてほしくて感じた気のせい?

 

「おじさん?」

 

声を掛けるとまたピクリと動いた。

気のせいなんかじゃない。

 

「おじさん」

 

もう一度声を掛けると今度はピクピク、っと連続して動いた。

でもどうする事も出来ない。目を覚ますのはおじさんの力だからだ。

 

「おじさん、頑張って……頑張って……早く目を覚まして……!」

 

必死に語り掛ける。

早く目を覚ましてほしくて。

 

その願いが通じたのか、それとも違うのか。

ゆっくり、ゆっくりと目が開き始めた。

 

完全に目を開くと、少しだけキョロキョロと目だけを動かして周りの様子を確認した。

 

「おじさん!」

 

「おぶふぅ!?」

 

「わぁぁぁぁ!?おじさんごめーん!」

 

「いったぁ……くない?あれ?え?なんで?これだけの質量を受け止めて?」

 

痛みを感じない事になんだか不思議そうにしている。

うんまぁそりゃそうだよね。だってもうおじさんは普通だけど普通じゃないから……

 

「今どういう状況?何がどうなってるの?」

 

「うわーん!おじさんがやっと目を覚ましたよー!」

 

「なにこの状況!?」

 

泣き出しちゃった私を呆然と見ながらも何だかんだで慰めてくれるおじさん。

そのあと、私が落ち着いてからおじさんの身体や意識に異常が無いか確認をする。

 

結果、記憶の混濁も無く、しっかりとした受け答えが出来ていて異常無しという事になった。そりゃ私が治療したんだもん一寸の狂いも無いよね!

 

という事でおじさんが目を覚ました。

 

 

 

 

本当に良かった。

 

 

って事で早くちーちゃん達に知らせないと。

じゃないと本気で私とおじさんの命が危ない。

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 







目を覚ますのが遅れれば遅れる程身内からの危険でおじさんがピンチになるって言う……
具体亭に言うと物理的な繋がりを欲した妹達から連日貞操を狙われる様になる。

本人達曰く、

「こうすれば兄さんは私を置いて何処かに行ってしまう事なんて無くなる」

とかなんとか。

一応予め言っておきます。こんな文章書いておいてあれですが、言っておきます。
(ヤンデレは)絶対にないです

何度でも言いましょう。
(ヤンデレは)絶対にないです。






正直、くーちゃんの設定を弄りすぎたとは思っている。
だけどこれで満足しているから作者は反省も後悔も謝罪もしないッ!
だって娘なくーちゃんとか最高じゃん!?




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目が覚めたら一週間以上経ってたぜぇい!? おや、妹達の様子が……あ、すいませんBボタン押したいんですが。え?もう進化した後だから無理?ふざけんな!

 

 

 

ヘローヘロー!

 

やぁ皆元気かい?おじさんはなんだか気絶したと思って目が覚めたらベットに寝かされていて束に飛びつかれてなんじゃこりゃぁぁ!?と思っていたら身体が動かしづらくて本気で何があったのか分からず説明を要求しようとしたら俺の事をお父様と呼ぶラウラ似の銀髪美少女が居て思考を放棄したところだ!

 

そう言う訳で束から説明を受けた。

まぁ大体の事情というか、状況は把握した。

よし、そんなわけで今の感想を言わせてもらおう。

 

 

 

OH MY GOD……!

 

 

 

目が覚めたら妹達が進化していたぜ。

ハイライトが消えていたぜ。

Bボタンはもう押せなくなっていたぜ。

ガチで危機だぜ。

 

うん、まぁそう言う訳だ。

束は千冬と一夏、箒、セシリアのヤンデレ?モードに完全に怯えきっていて、目が覚めた時に抱き着いてきたのは千冬達に対する切り札が出来たから嬉しかったというベクトルの違う喜びだった。

 

うん、俺は複雑だよ……!

 

そもそもなんで妹達のハイライトが消えているんですかねぇ!?

そりゃ俺のせいだとは分かってるんだけどさぁ!そこまで大騒ぎする!?

束は束でガッツリ怯えながらもドイツに対する報復準備してるし!それどころかフランスに対しても滅茶苦茶ぶっ殺ってスタイルだし!

……なんだか身体が動かしづらいと言うか動かすのが大変だし!動かせないし!

 

極めつけはなんで俺の事をお父様とか言って来る子が居るんだよぉ!?

俺は彼女とかが居た記憶すら無いんだけど!結婚した覚えも無いしさぁ!

本当にもう何なの!?何なの!?俺をそんなに千冬達と戯れさせたいのか!普通の意味だったら全然構わねぇよ!?だけどそれが命懸けとか勘弁してくれよもうさぁ!

 

 

 

はぁはぁはぁ……

すまん、取り乱したわ……

 

いやでもさ、こうなるのも仕方が無いと思うんだよ。

改めて言うけど意識を失ってから漸く目を覚ましたと思ったら束を除き千冬達はハイライトを何処かへ追いやり、正気な束は千冬達に怯えているし。

 

それだけじゃ飽き足らず何故だか俺の事をお父様と呼んで滅茶苦茶慕って来る銀髪美少女も居る。

……これって何がどうしてもどう説明しても案件なのでは?

 

見た感じ高校生くらいだよな?

しかも面識が無いと来た。あれ?どこかで会った事あったっけ?

 

いや、少なくとも覚えている限りは無い。記憶力そこまで悪い方じゃないんだがなぁ、これで覚えていないとなると完全に初対面となる訳だが。

 

初対面の明らかに血が繋がっていない高校生くらいの女の子にお父様と呼ばれる……

 

たったこれだけの字面からでも漂う犯罪臭が凄すぎてもう思いっ切り吐いちまいそうだ。

 

「?お父様?私の顔を見つめて何かありましたか?」

 

「いんや、何でもねぇよ」

 

「そうですか。お身体の具合が変でしたら直ぐに私に言ってください」

 

「ありがとよ」

 

俺のベットの横で椅子に座り、綺麗な金色の瞳で俺の顔を覗いて来る。

それにしても見れば見る程ラウラとそっくりだな……

そっくりを通り越してそのまんまじゃねぇか。ラウラが全体的に成長した感じがこの子だな。

名前はなんつったっけか、そうだクロエだ。

 

そーもそもなんで俺の事を親父と束の事を母親だと慕っているんだ?

まぁその内束が説明してくれんだろうから今は千冬達の事と俺の身体の事だな。

千冬達の事に関しては束から聞いた通りなんだか訳分からんグッバイハイライト!という訳だ。

 

うーん、やっぱり帰りたくなくなって来たぞぅ……

これ帰ったら大変な事になるのは目に見えてるじゃねーか。

 

まぁ現実逃避しても仕方が無いから千冬達の事に関しては置いておいて、今考えるべきは俺の身体の事だ。

 

 

どうやら三十五年間苦楽を共にして連れ添った俺の身体は、どうにも別物になってしまったらしい。

 

 

なんつーかこう、動かしづらいしなんなら今は殆ど動かせない。

まぁ端的に言ってしまえば俺の身体ではあるが俺の身体ではないと言えばいいのだろうか。

こう、元々の感覚って言うのは異常が無い。だがそれではなく、何と言えば良いのか分からないが何か違うのだ。

 

どういうことなのかさっぱり分からずどうすれば良いのか頭を使っていると束が訪ねて来た。

 

「身体の調子はどう?」

 

「なんつーか俺の身体が俺の物じゃないみたいだ。今は全く動かせないしな」

 

「あー、やっぱり分かっちゃうかー……」

 

「どういう訳か知ってんだろ?つーか原因は束だろ」

 

「うん、そうだよ。まぁ元々説明する気ではあったから今から説明するよ」

 

そして説明された内容は俺を驚愕させるには十分な物だった。

 

「おぉ……マジか……」

 

「マジもマジ、本気も本気だよ」

 

うーむ、いやいやまさかバイオボーグになっているとは。ターミ〇ーターじゃなくてか、とは思ったが嫌な感じではない。

 

「迷惑だった?」

 

「いや、そんな事はないぜ?ま、相談しろとか言えない状況だったからそりゃしょうがないし俺の生死が関わっていたんだから寧ろ助けてくれてありがとう」

 

「ふふ、どういたしまして。でもこれからは本当に無茶したらダメだよ?」

 

「あぁ、重々承知したよ。下手なことすると千冬達がヤバくなるってのも身をもって知ったからな。これ以上馬鹿はやらねぇ」

 

いやもう本当に懲りた。

千冬達の映像を見せて貰ったけどあんなにおっそろしい妹達の姿は初めてだ。

 

「だね。それじゃぁさ、今の本当の気持ち、教えてくれる?」

 

俺がしみじみそう言い終わったら束の奴なんてこと言いやがる。

折角格好良く締めようと思ったのによぉ……キメ顔もばっちりやったってのにそんなこと言われたらもうダメじゃねぇか……

 

「束良くやった!この身体最高!」

 

「やっぱりそんな事考えてたかぁ……なんか本当に緊張感無いなこの人……」

 

「だってお前あれだろ!?お前の事だからただ再生させたわけじゃないじゃん!?こんな身体にしてくれやがってコンチクショウ!マジでありがとうございます!!」

 

「いやまぁ確かに滅茶苦茶な身体にしたのは確かだけどなんかこういう反応されると釈然としないなぁ……それにやった本人だけど納得がいかないと言うか……」

 

「まぁ俺もこんな反応するのはどうかと思うけど。確かに最初はナイーブな気持ちになったけど暫くしたら男としては反応せざるを得ないだろぉ!」

 

「いや普通はもっと頭抱えて悩むもんだと思うけど……?」

 

「いやいやいや、お前身体が若返っただけじゃなくて強化されてんだろ?そんなん喜ばない訳無いじゃん。年寄りからするとそんなもんなんだよ」

 

いや本当にもうこの気持ちは正直な物だ。

一夏の飛びつきで膝や腰を痛めなくて済むってのも正直な所だしな。

それに可愛い可愛い妹が俺の命を助けて挙句に二度とそうならない様にしてくれたと来た。それで俺が怒るとでも?まさか、そんな事ある訳がない。

 

そもそも命を救って貰ったのだ。そんな妹兼命の恩人には感謝はすれど、怒ったりその事実を咎めるなんてのはお門違いにも程がある。

それに、束自身も少なからず俺の身体の事で不安に思っていたようだしこれぐらいお道化てやった方がその不安を取り除くのには丁度良い。

 

「あーあ、なんか心配して損しちゃった気分だよ」

 

「おう、そんぐらいでいいさ」

 

「それで、これからどうするの?ちーちゃん達はあんな感じだし」

 

「んー、取り敢えずは俺の事を教えて、大丈夫そうだったらそのまま学園に戻る。ヤバそうだったらここに残る。どちらにしろやる事は身体を完璧に俺の思い通りに動かせるようになるまでリハビリだな」

 

千冬達の事については正直考えたくない。

だってハイライトが無い妹とか嫌すぎる。どうすりゃいいのだか皆目見当が付かん。

 

「そうだね。それじゃぁまずはご飯食べよっか。腹が減っては戦は出来ぬって言うし」

 

そういやなんも食ってないから腹減った。

束は飯を作ることは出来るがそれ以外の片付けなんかは結構酷い。

千冬と真逆だな。見た感じ自分でも何とかして片付けをしていたようだし、今は多分クロエが片付けをやっているのだろう。

 

「おう。そんじゃぁそん時にあのクロエって子の事しっかりと説明して貰うぜ」

 

「……説明しないって選択肢は無い?」

 

「無いね。そもそも何故面識の無い嬢ちゃんに親父なんて呼ばれているのか訳が分からん。何かしらの理由があるにせよ説明しろ。理由によっちゃ許可します」

 

「えー……分かったよぅ……

 

クロエの事に関してちゃんと説明して貰わにゃならん。

じゃなきゃ俺は犯罪者になりかねない。千冬達に冗談抜きで殺される。その時の説明をしっかり出来るようにしておかなければならん。

 

「あ、それとさ、ラウラちゃんの事、気にかけてあげて」

 

「ラウラ?ラウラがどうかしたのか?」

 

束は最後にそう言って台所に向かって行った。

それと入れ替わりでクロエがラウラを連れてやってきた。

 

「お、ラウラ久し……ぶり……だな……」

 

軽く挨拶をしようとしてラウラの顔を見て束の言葉の意味を理解した。

 

「お父様、お母様はどちらに?」

 

「台所に飯作りに行ったぜ」

 

「そうですか。ならお手伝いをしに行って来ます。少しだけラウラの事見ていて下さい」

 

「あいよー」

 

つってもなぁ……

今のラウラはなんつーか、あの日本を勘違いしていてその話をしていた時のラウラでは無くなっていた。

 

こう、小学生の様な見た目と変わらない無邪気で純粋だったラウラは、今は蛻の殻で、表情は無く、それこそ目を瞑っていたら死んでいるのではないかと錯覚してしまうかもしれない程。

 

簡単に言えば魂が入っていない、只の入れ物のようだ。

 

ただそこにあるだけの存在しているだけの物。

そんな感じがしてならない。

 

人間で、生きて居て、呼吸をしていて、笑って泣いて、喜んで、心配して、信じている事があって、趣味があって、楽しみがあって、旧友と笑い合っていたあのラウラではない。

 

今のラウラは生きてこそいるが人間としてではない、空っぽの中身の何も無い器のよう。本当にそこにあるだけの物だ。

 

何でそうなったのかなんて分かりきっている。

VTシステムの起動によって精神的にダメージがあったのだろう。そりゃ肉体的ダメージだけじゃなく精神的ダメージもあると想定して然るべきだ。

 

何よりも、もし俺や他の皆と戦っている時、自我があって見ていたとしたら?

自分の友人や、教師、千冬という恩師に手を上げ、最悪殺していたかもしれないのだ。

自惚れている訳じゃないが俺自身もかなりラウラとは親しかった。

そんな俺をボッコボコにして、かなり命の危機だったのだからその記憶があれば……

もし当事者が俺だったとして、千冬や一夏達相手に手を上げて、殺し掛けたとなれば多分立ち直れない。自殺する自信だってある。

 

それを考えると精神的負荷は計り知れないものだろう。

しかもそれを受けたのが幾ら軍人とは言ってもまだ十五、十六の子供なのだ。心が壊れてしまっていてもおかしくは無い。寧ろそうなって当然なのだろうか。

 

俺の様な大人ですらそうなるのだから子供がそうなるのは必然とも言える。

本当にマジでドイツのクソッタレは余計な事しやがって。

 

 

 

「ラウラ、元気か?」

 

「……」

 

声を掛けるが反応は無い。

つーか元気かなんて聞かなくても分かる。

ぼーっと何も無い空間を見つめて動かない。

 

どうしたもんかねぇ……

カウンセリングなんてやった事無いからサッパリ分からん。

 

 

「ご飯出来たよー」

 

「お父様、お食事が出来ました。腕も動かせないでしょうから私が食べさせますね」

 

「すまんな、頼むぜ」

 

「くーちゃん、お父さんの事お願いね。私はラウラちゃんの方に付くから」

 

「はい」

 

「ラーウラちゃん!ごっはんだよ!」

 

そして飯を食い始めた。

と言っても俺はクロエにラウラは束に食べさせて貰っているのだが。

本当に自分の身体を自由に動かせないのは辛いな。

 

 

 

 

「クーちゃんの事、ちゃんと説明するね」

 

「あぁ、頼む」

 

暫く食べ進めると束はクロエの事に関して切り出し始めた。

 

「くーちゃんはね?簡単に言うと人造人間、クローンって言われる存在なんだ」

 

「は?クローン?人造人間?」

 

「そう。出生はドイツに在った研究所の一つ」

 

「いや待て待て待て。何故ドイツなのか、とは聞かない。あの国の事だからどうせ碌でも無いに決まってる」

 

「まぁその通りだね。まだ私の作ったISが世の中に発表される前の話だから。まだ私とちーちゃんとお父さんの三人で休みの日にIS開発でわちゃわちゃやってた頃ぐらいかな」

 

ISがまだ開発段階って言うとまだ中学生くらいの頃か?

確かあの頃は束に渡した元手になる数万円を使って師範名義で株取引かそれ以外の方法かどうか分からんが資金を莫大に増やして幾つかの技術の開発が終わった頃だ。

 

「あー、かなり昔じゃねぇかそれ。中学三年生ぐらいの頃だろ?」

 

「うん。それで偶々くーちゃんに関する研究の事を知ったんだ。それでその時はまだ私にはどうこうする力も勇気も無くて、せめて後々どうにか出来るように見に行ったの」

 

「で、そこでクロエと出会ったって訳か」

 

「まぁ大体は。でも出会ったというよりは偶然助け出したって言う方が正しい。あそこは文字通り命を弄んでいた場所だった……」

 

束の顔色が悪くなるが、今此処で思い出したくないんだったら話さなくていい、と言うのは無粋なんだろうか。

 

「目的は戦力として使える人間を人工的に作り出す事。普通なら訓練をして、選抜をしてっていう過程があるんだけどくーちゃんの方は技術さえ完成して安定して人間を作り出す事が出来れば新米兵士をまともに戦える軍人に育てる程コストも時間も掛からない。だって作り始められたその時から戦う技術や心はインストールされているんだから。あとは普通の人間の様に服を着せて識別名を与えれば終わり。これでもう戦力は整っちゃうんだから」

 

「それじゃぁクロエは何故此処にいる?その理屈からしたらドイツ軍に居るはずだ。それに何故そう言い切れる?証拠は?」

 

「それはくーちゃんが、まぁ所謂失敗作だったから。だから本当はくーちゃんは言葉通り廃棄される予定だった。いや実際に廃棄されたんだ。使えないから捨てる。ただそれだけ。言い切れる理由はくーちゃんの髪の色。あの実験で生み出された子達は皆、銀髪なんだ」

 

「皆銀髪、ねぇ……技術者共の趣味って訳か?胸糞悪い話だな、本当に」

 

「くーちゃん以外にも同じ運命を辿った子達は沢山居る」

 

「私が把握しているだけでも第一段階の胚の成熟が出来なかったとして捨てられた子が10892人。

第二段階の胚の成熟はしたけどそれ以上細胞分裂を自力で行えなかったとして捨てられた子が8987人。

第三段階の細胞分裂に成功したけど臓器などが細胞分裂しなかったから捨てられた子が7549人。

第四段階の臓器が作られたけど機能しなかったから捨てられちゃった子が6036人。

第五段階のそれ以前の問題はクリアしたけど成長できずに死んでしまった子が5074人。

第六段階の成長まではしたけどそこで原因不明の理由で使い物にならないと判断されて殺された子が4873人。

第七段階の聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚に異常があるから殺された子が4779人。

第八段階の成長もしてちゃんと人として生きていけるのに、能力が足らないと言う理由で殺された子が4778人。

合わせて52968人が殺されちゃったんだ……」

 

52968人、か。

ふざけていやがる。正気の沙汰じゃない。完全に狂っている。

だがそいつらは口を揃えて言うんだろう。

 

『必要な犠牲だった』

 

なんて馬鹿げたことを。

国や技術の為に必要な犠牲何てある筈が無い。あって良い訳が無い。

 

「で、クロエはその中の一人って事か」

 

「そう。くーちゃんは目が見えなかったんだ。だから殺されて捨てられる……筈だった。くーちゃんが捨てられる日、私が偶々見に行ったんだ。その時、銃で撃たれて捨てられる所だった。でもくーちゃんはもうほとんど死にそうだったとは言ってもまだ息があったんだ。だから助けたの。他の子達はもう手遅れだったんだけどね……欠陥があると分かるまでは親として育てて、分かればその場ではいさようなら。そんな事が毎日毎日行われてたんだよ……」

 

ここまで話す束は、震えていた。

多くの人間が殺される光景なんて気分は最悪だなんて言葉じゃ表せないものだったろう。

幾ら束が世間で天災だ、何だと騒がれて、実際に頭のネジが何本も外れているとしても、それでも束は一人の人間で、女の子なのだ。

 

人間が殺されて捨てられる光景なんて耐えられるはずもない。

俺もその場で吐き出す自信があるし夢にも出て来るだろう。

 

「それとね、お父さんはくーちゃんに一度だけ会った事があるんだ」

 

「それはどういうこった?少なくとも俺の中の記憶には全く存在しないぞ?」

 

「うん、それは当然。だって私が記憶を消したんだから残ってない方が当たり前だよ」

 

「それはまたなんでそんな事を?」

 

「その時、連中に追われてたんだ。それも追われていると気が付いたのはくーちゃんと会った後。だから会っていた事そのものの事実を消す為に色々と動いて、万が一の時襤褸が出ない様に記憶も消して書き換えたの」

 

納得だ。

言っちゃあれだが、少しばかり違和感がある記憶がある。

多分その部分を消して、書き換えたのだろう。この説明をされるまでは特に何の疑問も無く、只違和感があるが気にせずに人生を送っていた事だろう。

 

「そう言う事か。奴らからしたら非合法実験の証拠を握られているようなもんだ。暴露されたら当然困る。そりゃどんな手を使っても消しに来る訳だ」

 

「そう言う事」

 

「でもなんで今このタイミングで俺とクロエを引き合わせた?もしまだその状況が続いているんだったら俺とクロエを間違っても会せるような事はしない筈だ」

 

「うん、まぁさっきの殺された子達、最後の最後で一人だけ成功した子がいたんだ」

 

「成功した?確かに一人だけ死んだ数に入っていなかったがその子がどうした?ドイツに居るんだろ?」

 

確かに最後の最後に死んだ子の数が一人だけ居なかった。

それを考えれば世界で一人、クロエを除く子がいる。

だが俺との直接の関係は全く無い筈だ。面識も無けりゃ俺はドイツに行った事はあるがそこで関わったのは覚えていない。

少なからず銀髪ならば何かしらの記憶に残っている筈だ。

 

「違うよ。その子はお父さんの傍にずーっといた。一人だけくーちゃんにとっても良く似ている子がいるでしょ?」

 

クロエに良く似た、と言われると一人だけ心当たりがある。

同じ銀髪、顔の作りや目、鼻、口、と言ったパーツから耳の形までそのまま。

 

「おい……おいおいおい……そりゃまさかとは思うがラウラの事か……?」

 

「そう。ラウラちゃんが只唯一の成功例」

 

マジかよ……

まぁこの話をし始めた辺りから何となくそうなのではないか、と思っていた。

 

「だが成功したんなら、その、言い方は最悪だが……量産に入るんじゃないのか?」

 

「それが無かったんだよ。ラウラちゃんの年齢は何歳だと思う?」

 

「誕生日が来ていないんなら15、そうでなけりゃ16だ」

 

「生まれてからその年齢になるまでの間に世界を大きく変えた出来事があったでしょ?」

 

その15、6年の間であった世界を大きく変えた出来事、と言われれば多分殆どの人間が一番に思い浮かべる、思い浮かんでしまう事が一つだけ、本当に一つだけある。

それを引き起こした張本人が目の前に居る。

 

「…………ISか」

 

「その通り。私の開発したISのお陰で良くも悪くも一連の計画は中止になったんだ」

 

「どういう事だ?元々の目的ならISを扱わせればそれこそ最強に成りえるだろうが。そこで中止をする意味が分からん」

 

「ISには適性があるでしょ?これが高ければ高いほどISに対して色々と有利に働く」

 

「そうだな。正直な所どれだけ知識と技術があってもIS適性がなけりゃ女だろうとなんだろうと操縦は出来ねぇ筈だ」

 

「そう、ラウラちゃんはIS適性が無かったんだ。一応他の子達の事も調べた様だけど元々IS適性なんてものを想定していなかったからか全くと言っていいほどの皆無だった。だからISが登場してから計画は中止。後々からIS適性を付与する事も考えられたけど、成功しなかった」

 

「良いのか悪いのか分からんが取り敢えずそれ以上犠牲は増えなかった?」

 

「うん、良くも悪くもね」

 

「理由は分かった。それでクロエが何故俺の事を父親と呼ぶのかが分からん」

 

そう、まだこれの説明がされていない。

出生に関しては理解したがそもそもの俺に対する父親呼びに関して全く説明されていない。

すると束は俺の方に顔を寄せてクロエ達に聞こえない様に小さな声で話した。

 

「あー……それね?おじさんと会った事があるって言ったでしょ?」

 

「おう、言ったな」

 

「その時、私がくーちゃんを連れて行って引き合わせたんだ。私がくーちゃんを引き取った時はまだ中学生だったけど引き合わせたのは高校生になってからなんだ。覚えていないだろうけどあの時のくーちゃんはとっても怯えていたんだ」

 

「怯えていた、か。まぁ聞いた限りじゃ人に対して怯えるのも無理は無い」

 

「まぁ、まだ私の所に来て半年ぐらいだったしそれにあの時は私にもまだ怯えてたから……」

 

「それがどうして俺を親父だ何て呼ぶようになったんだ?人に怯えてる子供がそう簡単に他人に懐くなんてそれこそ有り得ないだろうが」

 

「それがそうでもなかったんだよねぇ……あったのが一回だけじゃなくて五回ぐらいだったから何故かその間で滅茶苦茶仲良くなっててさぁ……」

 

「それで?」

 

「最後に会った日にここに帰って来るまでは最初の日の感じに戻ってたんだ。で、帰って来ても暫く黙ってたんだけど、その、いきなり本当にクワッ!!って感じで顔を向けて来て言ったんだよね」

 

「なんて言ったんだ?」

 

「『あの人は誰ですか!?お母様!』ってそりゃもうキラッキラに光った目で私を見つめながらさ。それでなんて返していいのか分からず、私の事お母さんって呼ぶように言ってたからまぁお父さんで良いかなぁって思ってその、『あの人はくーちゃんのお父さんなんだよ』って言ったんだよね」

 

「それで俺の事をお父様なんて呼んでるのか……」

 

納得したわ。

そりゃ俺を親父だって言う訳だわ。

母親と呼んでいる存在からお父さんだよなんて言われたら父親だなんて思うのも必然。

 

「うん。いやぁ、『お父様……!お母様と夫婦という事ですね!』って言われちゃったから、その、上手い返しが思い付かなくてうんって頷いちゃったんだよね」

 

「えぇ……おま、お前ェ……」

 

「本当にごめんね?」

 

「いやまぁ別に良いけどさ。でもまさか結婚してすらいないし彼女が居た事もないのにそれを全部すっ飛ばして娘か……しかも束と夫婦って……」

 

「嫌だった?」

 

「嫌っつーかなんつーか、十八ぐらいだろ?クロエって」

 

「十七歳だよ」

 

はい、ここで問題です。

24-17=?答えはいくつでしょう?正解は七です。

はい、もし俺がそんな束に手を出していたとしたら?答えは明白、誰が何と言おうとその単語に辿り着くはずだ。

 

そう、ロリコン。ついでに犯罪者。

 

「それだとさ、見た目云々は抜いても束が六、七歳くらいの時に生んだって考えられる訳じゃん?………………俺はロリコンじゃねぇ!!」

 

「ちょ!?いきなり何言ってんの!?」

 

「おーぉれはルォーリコンじゃねぇぇーー!!!」

 

クロエが目の前にいようが何だろうが関係無ぇ!俺はロリコンじゃないんだぁ!性癖はノーマル、ボンキュッボンのお姉ちゃんが良いんだよぉ!

そもそも七歳の時の束とかまだ出会ってすらいないし千冬と一夏にも出会ってない!

 

「そんな事分かってるってばぁ!そもそもロリコンだったら私も困るし!」

 

「…………もし俺が刑務所にぶち込まれそうになったら弁護頼むぞ……」

 

「そもそもそんな状況になんてさせないから大丈夫だよ」

 

「……すまん、取り乱した」

 

「うん、別に良いよ」

 

束に謝ると、許してくれた。

するとそれまで黙っていたクロエが口を開いた。

 

「お父様は、私にお父様と呼ばれる事は迷惑ですか……?嫌ですか……?」

 

少し顔を伏せて言うその金色の瞳には不安と恐怖の感情が渦巻いていた。

親父から見放されると思えば子供はそんなもんだし、何よりクロエは一度親だと思っていただろう科学者達に殺されかけたのだ。

 

「クロエ、顔上げろ」

 

「……はい」

 

俺の顔を見つめる。

しかしやはり怖いのだろう。

目元には少しばかり涙が溜まって瞳が震え、揺れている。

 

「迷惑でも無いし嫌でもない。やめろ、だなんて言わない。今まで通り俺の事は好きなように呼べばいい。悪さを働かなきゃ抱き着いても良いし何したって構わん。好きな時に俺のとこに来て好きなだけ居てくれて構わないよ、俺は」

 

「……はい」

 

「あー、まぁ上手く言えねぇけど今まで通りに俺を呼んで接してくれればいい。態度や呼び方を変える必要は無い」

 

本当なら頭の一つ撫でてやりたいが腕が動かせないからしょうがない。

血は繋がっていないとは言っても理由が理由で記憶が消えて今の今までまともに親父として接してやれなかったんだ、こんぐらいは良いだろう。

 

「お父様ッ!」

 

「うおっ!?」

 

「お父様、大好きです。愛してます」

 

「あー、はいはい」

 

抱き着いて、さっきまでの不安や恐怖と言った感情はもうどこにも感じられない。

俺はまだ腕を動かせないからただされるがまま。まぁでも良いだろう、こんなんでも。

 

あと心配する事と言えばもしかすると俺の妹達がちょっとばかり暴走するかもしれんけどそん時はそん時だ、何とかして説得する。きっと分かってくれるだろうさ。

 

「それじゃご飯は終わりにしよう。食器は私が片付けるからそのままでいいよー」

 

「すまん、助かる」

 

「私はお父様とラウラに付いています」

 

「はいはい、久しぶりのお父さんとの触れ合いを楽しんでねー」

 

「勿論です。言われなくてもお母様以上に触れ合いますのでご心配なさらず」

 

「それとさ、お父さんに一つだけお願いしてもいいかな?」

 

「なんだ?」

 

「ラウラちゃんの事、私が引き取る事にしたの。だけど今はその、ラウラちゃんあんな感じだから気にかけてあげて欲しいの」

 

今一瞬だけとんでもないことを言ったような気がするが束の事だからまぁそれは良い。

ラウラの事なら俺にも責任がある。

あの時俺がボコられなきゃこんなことにはならなかったかもしれんし。

 

「なんだ、それぐらい御安い御用だ」

 

「ありがと、おとーさん」

 

「止めろって。なんか照れる」

 

「これから慣れて行って貰うからねー、私達三人からお父さんって呼ばれるんだから。あ、それとも私はあなた、って呼んだ方が良いかな?」

 

「よせよせ。何だかむず痒いし、それこそ本気で千冬達に殺される」

 

それこそ夫婦じゃねぇか。

まだ結婚もしてないんだ、勘弁してくれ。

軽く冗談を言い合いながら、束は今度こそ台所に向かった。

 

「お父様」

 

「どうした?」

 

「私からも、ラウラの事をお願いします。私の大切な、たった一人の生き残ってくれた妹です」

 

「そりゃさっきも言ったがラウラに関しちゃ俺も色々と手伝うさ。でもなんで俺?」

 

「勿論私もお母様もラウラの事を助けます。ですが私もお母様も、お父様が私やお母様、千冬叔母様、一夏、セシリアの心を救ってくれたようには出来ません。だからお父様には同じようにラウラを助けてあげて欲しいんです」

 

「そう言う訳ね……ま、そう言う事なら任されちゃうぜ。可愛い可愛い娘からの頼みだ、それにラウラだって束が引き取るんだろ?そしたらラウラも俺の娘じゃねぇか。そしたら助けないなんて訳が無い」

 

それにしても千冬叔母様って……

本人聞いたらどうなるんだ……?怒るのか、それとも凹むのか?

どちらにせよ俺はその場に居たくないね。とばっちりを食らう事が目に見えてる。もしその場に出くわしたら黙って木のフリでもしておこう。

 

「有難うございます」

 

「あ、それともうちっと我儘言ってくれても良いんだぜ?あと喋り方何とかなる?もっとこう、砕けた感じで」

 

「我儘に関しては努力しますが、喋り方はもうずっとこれですから直すのは難しいです」

 

「ま、しょうがねぇか。これも一つのアイデンティティって事だ、今治せるか聞いた俺が言うのもあれだが大切にな。丁寧な敬語ってのはどこかで必ず役に立つ」

 

「はい。それではラウラを部屋に連れて行きますね。一人でも大丈夫ですか?」

 

「おう」

 

「それでは行って来ます」

 

一言最後に言うとクロエはラウラの手を引いて部屋に行った。

俺はその後ろ姿を見て、今更ながらこの家というか、束の隠れ家ラボの中を見渡す。

見た目は普通の家の内装だ。至って何処にでもある様な家の無いそうだ。ただ特筆すべきはそのサイズだろうか。

 

何というか大小様々な各種機材を置く為か家そのものが大きく、面積だけなら貴族が暮らしている豪邸の様だ。

居住区画はそこまで大きく無く、至って普通だ。

 

しかしながらそれ以外の設備、所謂工房みたいなところなどは扱う物がISと言う事もあってか滅茶苦茶にデカい。

しかもドーム型の建物まである始末。

多分この建物、天体望遠鏡じゃないか?しかも束が自分で作った世界中の天体学者が喉から手が出るほど欲しい、貸して欲しいレベルのエッグい性能のやつ。

 

……この家にある機械とか触らないようにしよう。壊したらと思うと怖くてしょうがない。

 

それと歩き回れないのに何故ここの全容を知る事が出来るのか?という質問に対しては何故か壁に架けてある、

 

『我が家の全体図』

 

なるもので知る事が出来た。

しかしここで幾つか疑問がある。

 

確かにこの部屋は家の中心部に位置していて窓が無いのも頷ける。

だから外の景色を見る事も出来ない。

 

だが、こう何というか全体的におかしい。

地球の重力を感じないのだ。いや、重力自体は感じるんだけどこう、自然じゃないと言うか何というか。

 

タイミング良く洗い物から戻って来た訳だしちょっと束に聞いてみよう。

 

「なぁ束?」

 

「なに?」

 

「お前の秘密ラボってどこにあんの?そもそも地上に存在する?」

 

「えー?今いる此処の事?」

 

「そう。なんか不思議な感じがするからもそこんところどうなんかなー、って思ってさ」

 

「うーん……」

 

「あ、別に教えたくないんだったら教えなくていいぞ」

 

「いや、教える。そもそもここの場所が分かっても手出しできる奴なんて誰一人いないだろうしね」

 

「ん?手出しできない?どういうこっちゃ?」

 

手出し出来ない場所となると地中とか海中だと思うんだがこう、そういう圧迫感は感じられないし何より天体望遠鏡がある時点でその説は無い。

とすると他に思い浮かばないんだよなぁ。

 

「えっとね、私のラボがある場所は、なんと月面です!」

 

「ごめんちょっと何言ってんのか分かんない」

 

本当にこいつは何を言っているのだろうか?

ついに宇宙に行きた過ぎて狂ったか?

 

「もーしょーがないなー。もう一回言ってあげるね」

 

「おう、頼むわ」

 

一息吸い込むと先程より大きめな声で束は言った。

 

 

 

「私のラボがある場所は、なんと月面です!」

 

 

 

おれの、のうみそはうちゅうに、なった。

 

 

 

「あれ?どーしたのー?おーい」

 

ちょっと本気で何を言ってんのかマジで訳わかんないんですが俺はどうしたらいいんだろう?

 

「束大丈夫か?夢を見たのか?」

 

「本当だってば!ちゃんと証拠あるもん!」

 

俺は束に車椅子を押されて何処かへ連れて行かれる。

そこは大きな窓がある場所だった。

そしてその外には青い青い、俺達の故郷、地球の綺麗な姿がそこにあった。

 

 

 

地球って本当に青いんだな……

 

 

 

暫くのフリーズから立ち直り、唖然とすると束は俺の顔を覗き込んでいた。

 

「どうどう?これで信じてくれた?」

 

「うん、信じたわ。なんか映像っぽくないし、それに束ならやりかねんって思ったら納得した」

 

いやぁ……本当に月にいるのか……

ニール・アームストロング船長もこんな気分だったのだろうか?状況が違うとはいえ、同じ月面に立っているという、少なくともアポロ計画以降、誰も成し遂げられていない偉業を図らずもやってしまった俺はもう、訳分からん。

 

「つーか月面なら地球からの望遠鏡で見れるんじゃね?」

 

「ふっふふっふっふ!私がその程度の対策をしていないとでも?」

 

「いや、そんなはずは無ぇな」

 

「そうだね、此処を視覚的に捉えられない様にしてある。だから幾ら望遠鏡で覗こうとしても肉眼で見ようとしても、赤外線カメラを使ってもどんな方法を使っても見えない。本当の意味での隠れ家だ」

 

「ほーん。ゴイスー」

 

「ここに来るには私と一緒じゃなきゃ来られないし入れない。どんな方法で抉じ開け様としても自己防衛機能でサヨナラバイバイ。万が一中に入れたとしても私の許可が無いとこれもサヨナラバイバイ。先ず見つける所から始めないといけないし見つけたとしても、私と一緒で尚且つ許可が無いといけないんだから攻略はほぼほぼ不可能かな」

 

聞いただけでも漂って来る無茶苦茶感とさっきまで居た居住区画の差の凄さよ。

何それ?束は何処の宇宙戦艦や銀河英雄の世界を目指しているのか?

 

そうなったらワープだぞワープ。

いや、既に好きな場所を行ったり来たりしている時点でワープはもう実用化しているのか。こいつならショックカノンとか標準装備ですけど?みたいな顔していてもおかしくないし。

 

「凄さは分かったからもう説明はいいや。これ以上されると脳みその処理機能が限界を迎えちゃう」

 

「そう?ま、詳しく説明すると長くなっちゃうしね。まずは身体をちゃんと動かせるようにならないとね」

 

「あぁ、そうだな」

 

「どうする?今すぐ始めちゃう?身体の検査はもうとっくに終わらせて異常は全く無いから今すぐにでも始められるよ」

 

「あー、そうだな。今から始めよう。早めに動けるようにして千冬達の所に行かないと」

 

「えー?奥さんと娘二人を置いて行っちゃうのー?」

 

「……俺は千冬達が病んで後ろから刺されたりしたくない」

 

「…………それもそうだね。私もとばっちりは勘弁して欲しいからそうしよう」

 

さっきまで楽しく話していたのに千冬達の事になって唐突に二人して肩を震わせ、さっさとリハビリしようって話になった。

 

 

 

 

 

それからガッツリリハビリをして二日で完全に以前と変わらないまでに回復した。

 

 

なんでそんなに頑張るのかって?だって妹達に無事だって事を知らせたいじゃん?

それにさっさと回復して復帰しないと本当に取り返しが付かないことになりかねないからだよ!

 

誰だって自分の妹が自分に向かってハイライト消した瞳を向けてくればそう思うようになるって……

滅茶苦茶怖いんやぞ……本当に後からグサッとやられたり寝込みを襲われちまうかもしれないんだから必死になるって……

 

妹に襲われて既成事実云々とかを言い争うのなんて嫌すぎる。

 

 

 

 

 




ギャグとシリアスがごっちゃになってて申し訳ねぇ。
束さんの主人公に対する呼び方はくーちゃんが居るからという事でまぁその、夢を壊さないと言うか何というかそう言う訳でお父さん呼び。



途中、大きい数字が出て来て漢数字で表されていませんが漢数字にすると読みずらいか?と思ったためです。


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~お兄ちゃんはどんな時でも辛いよ~ in戦後処理 




皆さんお久しぶりでゲス。
久々の投稿でゲスが読んでくれると嬉しいでゲス。



例のVTシステム事件から早いもので二週間が過ぎていた。

当たり前だが身体をまともに動かす事も出来ず束の月面秘密基地で俺はリハビリを続けている。束には無茶をしない様に言われている為に一時間リハビリのために身体を動かしたら三十分程の休憩を挟んでまた一時間のリハビリ、三十分の休憩を繰り返していた。

 

最初の二日は本当に動かすのに苦労した。

指先一本動かすのにも一苦労だった。まぁ束の電気治療とかよく分からんので色々と施してもらいながら身体全体を俺の感覚に馴染ませる事に注力して二日目には身体を動かせる様になり日常生活に支障を出さないレベルまで回復した。

 

今じゃ普通に一人で歩けるし箸も使えるようになった。

しかしながらやはり身体の感覚は元の物とは違う。束のお陰で以前の身体の感覚と限りなく近いとは言っても少し感覚が違う所はあった。

 

今は慣れて来たとは言っても試しに色々と型の動きをやってみたが小さい感覚の違いが指先までの動きを集中するとかなり違っていて困りものだ。うーん、以前完璧にと言ったがやはりそう言う訳では無いようだ。日常生活を送る分には問題無いが……まぁそこら辺は追々慣らして行くしかない。

 

それよりも。俺の身体が動かしづらいとかそんな問題よりももっと重要な問題がある。

その問題と言うのは我が妹達の事である。

 

 

 

そう、一番の問題は妹達の事だ。

 

 

 

ちょろっと見た時に皆の綺麗な目はそりゃもうしっかりと濁って重苦しくなっていてハイライト大先輩はとっくの昔に何処かへ逃げ去ってしまわれた。

そんなおっそろしい状態の中に突っ込んで行ける程おじさんに勇気は無かった。一日に一回通信で顔を合わせたりして連絡は取っていたがあんまり思い出したくない。

 

今はマシになってハイライト大先輩も少しづつ様子見的な感じでお戻りになって来てくれているけど何というか事あるごとに即座に逃げて行ってしまう。

 

一週間画面越しにしか会っていないからそろそろ限界が近いそうで明日急遽、皆と会う事になった。

 

いやぁ……心配掛けさせやがってと刺されないか心配でしょうがない。

 

お兄ちゃんは妹達に後ろからブスリとやられたくは無いのだ。そんなのが死因とか嫌すぎる。リア充なのかそうでないのか全く持って分からない。

 

でもお兄ちゃんはとっても頭が良いのでそんな妹達の対処法はばっちりなのです。

 

まず初めに全力でゴマすりをしましょう。

そしておべっかを立てて持ち上げまくって機嫌を良くさせましょう。そうすれば大抵の事は何とかなる筈です。ですがちょっとばかり対処を踏み外すと今までの努力が急降下で無意味になってしまうので注意です。

 

まぁぶっちゃけ最終的に妹達が暗黒面に落ちなければこっちの勝ちなんだよ!誰だって妹がヤンデレになったりするのは何が何でも防ぎたいだろ!?

と言うか何の気配も無く後ろに立たれて片手に包丁とか普通に怖いじゃん。そうじゃなくても現時点で事あるごとに尻に敷かれてひーこらひーこら言ってるんだからそりゃもうそうなってしまったらどんな未来が待ち受けているのかは明らかだ。

 

そう言う訳で今日は久々にお兄ちゃんは妹達の元に行きます。だってこれ以上流石に放っておけないしね。一応画面越しで会話したりはしているがそれじゃ千冬達の抑えが利かなさそうだ。

それに各国に対するまぁその、何というか……やられたらやり返すをしようとしている千冬達のストッパーにならなきゃならん。束は何とか説得して抑えたが説得する前は、

 

「取り敢えず見せしめにドイツとフランス辺りには物理的に海に沈んで貰おうか」

 

なんて言っていたぐらいだし。

しかも口調こそ軽かったが顔も笑っていないし本気の奴だった。だから全力で止めた。正直な話もうあの国には救いは無いとすら思い始めているしどうなったって良いんだがそれはあくまでも国を動かしたりするトップの連中や科学者、軍人の話であって一般市民に関しては全く罪が無い。なのにいきなり祖国をアトランティスの様に海に沈めたらそれこそ反感を買いまくるに決まってる。

国や軍、技術関連のトップや人員の首が全てすげ変わろうが知ったこっちゃないが。自業自得だ。

 

そんな訳で久々にIS学園へとやってきました。

いやー、久々だわー。

 

千冬から聞いた話じゃ事件の後一週間程事情聴取や現場の検証、その他諸々の調査、捜査を行っていたらしくその間は授業は休みで生徒諸君は居室待機を命じられたそうな。外出は勿論出来ない。そりゃあんな事があった後だもんな、安全を考えれば暫くは外出なんて普通は出来やしない。

 

と言っても事情聴取をしたのは各国の代表達、特に派遣されていたドイツの連中をこってりと搾り上げたらしい。それと束からの情報提供でフランスもしっかりと色々と聞かれたらしいがどいつもこいつも知らぬ存ぜぬで話にならずドイツ、フランス両国に関係者の取り調べや事情聴取を打診するもそちらも断られ挙句の果てに白を切った。

 

まぁ千冬本人も言っていた事なのだがどうにもこの学園に見学しに来ていた連中の様子からしてどうにも本当に何も知らなさそうではある、らしい。

隠すのが上手いのかそれとも本当に知らずに巻き込まれただけなのか。どちらにせよ政府が軍組織や科学者の手綱を握ってコントロール出来ていないのだから責任は重く罰もそれ相応になる。

 

しかもどこぞの誰かがマスコミにリークしたのか知らんがそりゃもう世間は大騒ぎになっているらしい。誰の仕業でしょうね?(すっとぼけ)

お陰で何処の国の上層部も顔を青ざめて必死になって弁解したり言い訳したりとそれはそれは大忙しだそうな。

 

 

 

 

と、そこら辺の事は置いておいて。

IS学園に来たは良いがまぁなんつーか……静まり返っている。

聞いただけだがしこたま世間を大騒ぎさせている事件に巻き込まれ、下手すりゃ俺みたいに大怪我をして一歩でも間違えればあの世行き。

そんな所に居たのだからそりゃぁ意気消沈なのは理解できる。

 

実際に何時もなら授業中だろうと賑やかな雰囲気を持って居る廊下も教室も静まり返っている。流石に教室の中は人の気配もあるしその分の賑やかさはあるが存在の賑やかさだけ。話し声だったりは全く聞こえない。

 

ふぅむ……授業中か……

 

これじゃ千冬達には会えそうもないな。

しょうがない、出直すか……

 

 

「ニイサン……?」

 

「うぉえうあおろぉぁ!?」

 

なんて考えていたら後ろから声を掛けられた。

おかしい。俺の後ろは束が付いて来ていたはずなのに……あっ。

束は哀れにも箒に捕まって何故俺に会わせてくれなかったのかと問い詰められ青い顔をしている!これは助けが期待出来ないな!

 

「何をそんなに驚いているんだ?ん?妹の顔を忘れてしまったか?」

 

「い、いやそんな事はねぇよ?いきなり後ろから声を掛けられてビビ……いや、驚いただけだぞ?うん、驚いただけだ」

 

「それならいいが。しかしいきなり現れるな。私達でなければ兄さんの気配や匂いは分からないんだぞ?誰か敵対している人間が傍に居たらどうするんだ」

 

「あ、うんごめん」

 

反射的に謝ったけど、こっわ……うちの妹達こっわ……

お兄ちゃんは敵対している人間よりもお前達の方がよっぽど怖ぇよ。何だよ匂いって。気配ならまだしもこの広い空間で匂いっておかしいでしょ……もう色々な意味で怖いよ。

 

箒は束の襟を掴んで持ち上げている。その細腕でどうやって体重50kg以上ある束を持ち上げているのか。束はジタバタと足と手を動かして必死になって言い訳、もとい説明を必死になってしている。

 

あ、一応言っておくと束の体重の重さのだいたいの原因はそのおっきな胸と安産型のお尻、あとは太腿が原因。腰はしっかりと縊れていて細いのだが出るとこ出てるからしょうがないね。

 

ちょっとばかり恐怖と混乱故に訳の分からない事を考えたりしたが概ね平静を取り戻した。

 

 

 

さてさて、これマジでどうしよう。

千冬は後ろから抱き着いて顔をグリグリと背中に押し付け服越しでも分かるぐらいスーハースーハー深呼吸をしているし一夏は正面から飛びついて足まで使って抱き締めてセシリアは左腕に抱き着て来たかと思ったらそのまま腕の間に顔を潜り込ませ脇の辺りに顔を突っ込んだ。そして千冬と同じく深呼吸を何度も繰り返し。

 

箒は束を締め上げて気が済んだのかこっちに来て右腕をガッツリ胸元に抱き締め文字通り締め付けられてる。

束はぜーはーぜーはー言いながら地面に膝を付いているしこりゃ助けは出来そうも無い。

あ、ちょっと皆さん本格的に離して……

 

「うげげげ!?」

 

千冬さん!握り拳が鳩尾に入ってる入ってる入ってるぅ!?吐いちゃう吐いちゃう!

一夏ァ!背骨がバキバキ変な音出してるから!なんで!?おかしくない!?束謹製の最強骨格骨格&筋肉だぞ!?それが変な音出しているとかおかしいってば!もうちょっと力を緩めて!

あ”あ”ぁ”ぁ”!?箒さん!腕が曲がってます!関節が絶対に曲がらない方向に、段々と嫌な音を出しながら曲がり始めてるから!曲がり始めてるから!

セシリアさん!腕が曲がってます!曲がっちゃいけない方向に曲がってます!ミシミシ言ってます!匂いを嗅いでないで力を緩めてください!スリスリしながら、んはぁ……!なんて恍惚な声を出してないで離して!

 

「あばばばば!?!?」

 

ミシッ!ミシミシミシッ!メキメキッポキポキゴキゴキッ!

そんな音を立てながら身体中の骨や筋肉が変な方向に曲がり、圧縮されて音を立てる。

 

皆お兄ちゃんの事が大好きなのは分かったから!分かったからァ!?お願いだから大好きならもっとお兄ちゃんをソフトに優しく扱って欲しいなぁ!?

 

必至に手だけを動かして箒とセシリアの、太腿を必死にタップする。

えぇいこの際太腿だなんだと言ってられるか!あ!?ちょっと一夏さん首に肩が入ってます苦しいです息が出来ません!離してください!!

 

「タ”イ”ム”!タ”イ”ム”タ”イ”ム”!」

 

その声すら聞こえていないのか必死になって身体をあっちへこっちへ動かし捻りどうにかこうにか抜け出そうとするも敵わず。そんな俺達を見兼ねたのか束が止めに入る。

 

「皆ストップストップ!完全に決まっっちゃってるから!あぁ!!白目剥き始めた!?本格的に不味いって!」

 

「そんな事を言ってお前はまた兄さんを独り占めするんだろう……?そうはさせん」

 

「んな訳無いでしょぉ!?」

 

説得する束に対して千冬はそう言い切った。

束は頭をブンブンと振るって絶叫するもその声が千冬の拘束を解くものにはならない。

 

「姉さんは今の今まで散々洋介兄さんを堪能したんだからこれからは私達に、いや私に譲るべきだ」

 

「だからなんもしてないってばぁ!治療とリハビリしかしてないから!?……ちょっとは団欒したりしたけど」

 

ちょ!?お前今余計な事を最後に言ったな!?

その言葉で箒の抱き締めて来る力は増したァァ!?

 

「いでででで!!!」

 

「暫くの間は姉さんが兄さんに接近するのを禁ずる」

 

「なんでぇ!?」

 

ほらぁ!余計な事言うから事態が更に悪化したじゃねぇか!おまけと言わんばかりに全員の抱き締める力がマシマシになってるぅ!?

 

「篠ノ之博士、確かに小父様の怪我を治療して下さった事には大変感謝しております。ですが暫くの間小父様をずーっと独占して良い思いをしていたのですから少しぐらいは我慢をして下さいな。それともまだ足りないと仰るのですか?」

 

「君も何を言っているのかな!?滅茶苦茶なこと言ってる自覚あるぅ!?」

 

セシリアもセシリアで聞いたことが無い様な低い声で束を威嚇する。

 

「ヘブゥ!?うごごご!?!?」

 

「わぁぁぁ!?本当に潰れちゃうってばぁ!」

 

イヤァ!?また抱き締める力が強くなったぁ!本当に勘弁してぇ!俺はまだぺちゃんこにされたくないんだぁ!しかも潰された理由が嫉妬した妹達に抱き締められてとか嫌すぎる!兄貴冥利には尽きるけど一人の人間としては絶対に御免だ!

 

「いっちゃん!肩が首に入ってる!決まってる!段々顔が青くなってきちゃってるじゃん!?」

 

「……お兄ちゃんはこれぐらいじゃ死なないもん。あぁ、お兄ちゃん久々のお兄ちゃんの体温と匂いだぁ……」

 

「ヒェーーー!!」

 

あ、もうダメ、気絶するわ。

そんな訳で俺は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾ら強化人間とは言え呼吸を止められちゃ敵わないのな。割と本気で死ぬかと思った。

そんな俺は意識を取り戻して一日の授業が終わり時間が出来た四人を千冬達を正座させお説教中。千冬はどうにも仕事があったようだが今日中にやらなければならない仕事だけ終わらせてそれ以外は後回しにし、俺の所に飛んできた。

まぁ久々の兄妹の触れ合いなんて無いんですけどね。昼間の件、お兄ちゃんは許してません。

 

「いやね?別にくっつくなとは言わんですよ?だけど限度ってもんがあるでしょーが」

 

「でも兄さんは今日まで束とイチャついてたんだろう?」

 

「イチャついてねぇ!」

 

「「「「…………」」」」

 

「ねぇなんでそんな目で俺を見るの?そんなに信用できないの?」

 

「「「「うん」」」」

 

「頷くんじゃねぇよ。何がそんなに信用出来ないんだよ……」

 

四人は正座させられているのにも関わらずブーブーと文句を言って来る辺りこいつらの神経は随分と太いらしい。

しかしながら当事者である俺と束が幾ら説明しても説得力に欠けるのは確か。どうすれば納得してもらえるの?と思いながら説得するも全部嘘つくんじゃねぇって目で見られてる。ねぇ君達は本当に俺の事信用出来ないの?

 

「どうすりゃ信じてくれんの……もう疲れたよ……」

 

「あぁッ……!おじさんが疲れ切ってぐったりし始めちゃったよぅ!もうこうなったらくーちゃんに説得して貰うしかないね!カモンくーちゃん!」

 

同じく疲れた束は変なテンションでクロエを呼び出す。

 

「おや……?ここはどこでしょうか?あれ、お父様とお母様?するとここはIS学園という事ですか」

 

「くーちゃんここに居る皆に説明してあげて!」

 

「?まぁ説明しろと言うのならば説明しますが……」

 

いきなりの事で少し戸惑っているが納得してくれたらしい。

その手には洗濯をしようとしていたのか洗濯用洗剤のボトルと柔軟剤が握られているけど。

 

そしてクロエの登場と言葉に固まっていた四人の内、千冬が動き出し混乱しながら何かを聞こうとする。まぁお父様呼びの事とかだろうな。

 

「おい、兄さんちょっと待ってくれ。今その、えー……」

 

「クロエ、と申します」

 

「「「「クロエさん?」」」」

 

綺麗なお辞儀を四人に向かってする。

千冬達は困ったようにクロエの事を呼ぶ。

 

「呼び捨てで構いませんよ」

 

「あー、分かった」

 

「それで、私に聞きたい事があったのでは?千冬叔母様」

 

「おばぁ!?」

 

「ぶふッ……」

 

クロエは千冬に向き直り首を傾げながら千冬に質問を促す。その時にしっかりと叔母様、と言いながら。

 

「ニイサン?イマワラッタナ?」

 

「いやいやいや、笑ってない笑ってない」

 

「まぁいい……」

 

いやぁ、千冬の顔と反応が面白すぎて思わず吹き出しちゃったぜ。

だってあの千冬をたった一言の言葉だけでここまで絶望させるって凄い事だ。

 

「千冬叔母様、どうかされましたか?」

 

「お、おば、おばば、おばばばばばば……」

 

「あ、千冬が壊れた」

 

クロエには悪気は無いのだろう。

千冬もそれを分かっているのか問い詰める事はしないが、精神的ダメージはデカい様で壊れた再生機の様になっている。

 

「なぁ、兄さん、私ってそんなに老けて見えるか……?」

 

「ノーコメントで」

 

「死んじゃえ」

 

「おぉっと急に辛辣ゥ!」

 

ノーコメントと言ったら幼児退行した様に幼い感じでドストレートに言われてしまった。まぁ今のはからかった俺が悪いんだけど。

 

「その、クロエ。出来れば私の事は叔母様と呼ぶのは止めてくれ。精神的ダメージが大きすぎる……」

 

「はぁ、分かりました。でしたらなんとお呼びすれば良いのでしょう?千冬お姉様とか?」

 

「なんか一部のイカれたファンを思い出すな……だったら叔母様の方がマシだ」

 

多分イカれたファンってのは明らかに千冬をそういう目で見ている狂信者の事だな。うん、あの人達は本当にヤバい。

 

「では千冬叔母様、とお呼び致しますね」

 

「うん、まぁこの際初対面云々は抜きにしてもうそれでいい。で、何者だ?さっき兄さんと束の事をお父様、お母様なんて呼んでいたが」

 

「そのままの意味ですよ?私はお父様とお母様の娘です」

 

クロエがそう言ったその瞬間、俺と束、クロエ以外の四人の空気が凍り付いた。

それはもう音が付くのならピッキーーーン!!!って言うぐらい。ガチゴチに凍り付いてしまった。

 

「小父様?少々お聞きしたい事があるのですが宜しいですかぁ?」

 

「おいセシリア、落ち着け。落ち着いて話を聞いてくれ」

 

「うふふふ、私は落ち着いていますわ?えぇ、とっーっても落ち着いていますわぁ!?」

 

駄目だぁ!セシリアはもう駄目だぁ!

目が座ってる!決まっちゃってる!これはもうどうしようもねぇ!

 

「洋介兄さん……」

 

「ほ、箒なら分かってくれるよな……?」

 

「えぇ分かってます、分かってますよ」

 

「良かった……」

 

「洋介兄さんがまだ七、八歳の姉さんに手を出して挙句妊娠させたロリコンだって事はよーく分かってます」

 

「そうじゃねぇだろぉ!?」

 

箒もダメだ。

顔が死んで乾いた笑い声を出しながらカタカタ体が震えている。これはあれだ、現実から逃げている時の人間そのものだ。

 

「お兄ちゃん、私今夢でも見てるのかな……」

 

「夢じゃない!夢じゃないから!しれっと俺のベッドに潜り込んで寝ようとしないでくれる!?少しは俺の話を聞いて!?」

 

「あははははッ!お兄ちゃんが夢に出て来るなんてもう私ったら駄目だなぁ!」

 

「イチカァァァァ!!」

 

一夏は死んでから丸々一年ぐらい常温で放置された魚の目をしながら狂ったようにケタケタと笑い狂ってる。怖ぇよぅ、怖ぇよぉ!

 

「兄さんが、兄さんが束と結婚……?夫婦……?ふふ、ふふふ、フフフフ!アハハハハ!」

 

「千冬ー!頼む!頼むからそんな怖い顔と雰囲気で俺の事を抱き締めないで!お願いだから!頼むからァ!」

 

「兄さん、世の中には略奪愛という物があってな?私はそれがどんなものかとっても気になるんだ。そうだ、兄さんを束から奪えば良いんだ。いや、取り返すんだそうだ取り返せばいいんだ……」

 

「アァーーー!!千冬が小声で何かずっとブツブツ言ってる!絶対に聞きたくない様な事をずっと言ってる!」

 

不味い不味い!このままじゃ本格的に不味い!俺の命が危うい!

 

「私、何か変な事でも言ってしまいましたか……?」

 

「くーちゃん、見ちゃ駄目。あれはもう私達の知っている皆じゃない」

 

「おい束ェェ!んな事言ってないで助けろよぉぉ!」

 

もう、滅茶苦茶だった。

束はもう諦め、悟ったような顔と目でクロエの肩に手を置いて話した。

 

あれ?今日ってそもそも何が目的でここに来たんだっけ?

もう当初の目的が何なのか分からなくなってしまっている俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に暫くして、ちょっと荒めの手を使ったりして正気を取り戻させたりしたけどまぁ概ね問題は……無い……と思う。

 

まだちょっとした拍子におかしくなったりするが強めに身体を揺すったりすればまぁ、なんとかなる。あれから鈴も合流して正気に戻すのを手伝ってくれた。いやぁ、あんなに鮮やかで見事な手際は見た事が無い。

 

流石はちっちゃくても大きな度量と心の広さに定評のあるオカンだ。何というか、色々と周りのメンバーと比べると全てのサイズがミニマムなのに一番のオカン具合とバブみを感じるのは何故だろうか。まぁ今そんな事は置いて。

 

俺と束の関係についてはクロエに潔白を証言して貰ったりして誤解は解けた。解けて貰わないと本当に困るので全力で説明してやったぜ。

 

そして次に話すのは俺の身体について。まぁこれに関しては俺から言える事は殆ど無いんだよな。だから最初の話の導入に関しては俺が言うがそれ以降は束に丸投げする。

 

「あー、そんじゃ俺の体調についてな。まぁぶっちゃけて言えば元々の身体じゃぁない」

 

「兄さんの、元々の身体じゃない?どういう事だ?」

 

「お兄ちゃん、それって謎かけ?」

 

「いや、そのままの意味だな。これに関しちゃ束から詳しく話を聞いた方が良いな。細かい事は俺じゃ説明出来ねぇし。束、頼んだ」

 

「はいはーい、頼まれましたー」

 

そして束は以前俺にしたように同じ説明をしていった。

暫く説明に時間を割いている間は俺は話す事も無いから端っこでお茶を啜りながらぼーっとしていた。

 

観察していたがそりゃもう顔色の変化が凄い事凄い事。

青くなったり赤くなったり緑になったり茶色になったりとお前ら信号機かよ、と思うぐらいには変化に富んでいた。

 

「兄さんが改造人間になっちゃった!?」

 

「改造人間というよりはバイオボーグだけどね。機械部品一切使ってないから」

 

千冬は若干のキャラ崩壊を起こしながら事実を飲み込んでいく。

なっちゃった、なんて言葉使い聞いた事無ェぞ。

 

「お兄ちゃんピチピチになったって事!?」

 

「まぁそうなるかな?」

 

「何その最強アンチエイジング!」

 

「え?お前本当に俺の事心配してた?」

 

「当ったり前だよ!」

 

一夏、お前は本当にマイペースだな。

でもあまりアンチエイジングとしちゃお勧め出来ないな。何せ一度死に掛けて身体の機能を失わなくちゃならねぇんだから効率が悪すぎる。

 

「おぉ、確かに洋介兄さんの腕が以前よりも硬いな」

 

「箒、そんなペタペタ触らんでくれん?くすぐったい」

 

「……腕枕として使うにはちょっと硬過ぎるな」

 

どこかズレた感想を言いながら俺の腕を触っている箒。

つーか腕枕ってさてはお前俺の知らない所で勝手にやってるな?

 

「小父様、本格的に人間を辞め始めていますわ。人体の強度がISに用いられる特殊装甲以上の強度があるなんてそれ何処のターミ〇ーターですの?」

 

「俺はまだ人間だからな?ター〇ネーターじゃないからな?」

 

「でしたら改造人間?」

 

「違う。取り敢えずその方向から離れて?俺は人間。おーけー?」

 

セシリアお前、意外と俗世に染まってるじゃねぇか。

言い回し方が2ちゃんねるの連中のそれだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ次はクロエについての説明な。これも束に説明して貰いたいんだが……どうする?」

 

「大丈夫だよ、私がちゃんと説明する」

 

「おう。辛くなったら途中で交代してやるから」

 

そんな訳でクロエに関する諸々の話をした。

結果的にラウラにも繋がる話だからここに居る五人は最初はどんな顔や反応をしていいのか分からないと言った感じだったが段々と怒りと憎悪と言った表情になって行った。まぁしょうがないっちゃしょうがないんだけども。

 

「あの国は本当に何処まで腐っているんだ……ッ!」

 

「まぁ、うちの国だけじゃなくて他の国にも言える事だけどここまで酷いのは無いわよ。有り得ない。こんなのただ命を弄んでるだけじゃない!」

 

「元々、あの国は色々と後ろ暗い事はかなりありますがここまでとは思っていませんでしたわ……」

 

「何処の国も後ろ暗い事とか隠してる事は色々とあるだろうけどさ、幾ら何でも酷すぎるよ……」

 

千冬、鈴、セシリア、一夏は国家代表や代表候補生を務めているだけあって色々とそんな噂を聞いていたりするからガチギレと言った様相ではあるが最低限平静は保っている。

 

ただ箒に関しちゃちょっとヤバいな。

青い顔して震えている。まぁそれもしょうがないのかもしれない。こりゃ最初に注意しておくべきだったか。

 

「箒、大丈夫か?」

 

「あ、あぁ……」

 

「そんな震える手をしてちゃ説得力に欠けるがな……」

 

箒の頭をワシャワシャ、っと撫でておく。

落ち着いてくれるかどうかは分からないがまぁ気休めにはなるだろう。

それから始まった会話はドイツフランス、その他各国をどうやって調理してやろうかという事だった。

事前に釘を刺しておいたからそこまで過激な事はしないと思うけど。端で俺はクロエと箒と共にババ抜きでもやろう。

 

「トランプ配るぜぃ」

 

「お父様、私ババ抜きをやるのは初めてです」

 

「お、マジか。ルール知ってる?」

 

「はい、朧気ながら」

 

「それなら十分。やりながら覚えて理解すりゃいい。箒は?」

 

「ババ抜きのルールぐらいなら知っていますよ」

 

「されじゃぁやろうぜ。向こうはなんか小難しい話してっから関係無い俺らは大人しくババ抜きに興じよう」

 

「お父様とババ抜きですか……!私絶対勝って見せます!」

 

「洋介兄さんとババ抜きをするなんて何年ぶりだろう……」

 

聞き耳立てながらババ抜き。

因みにクロエはJOKERを何度も引き当てるが絶対に最下位にはならないというなにそれイカサマ?と思うような感じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「束、それに関してどうするつもりだ?少なくとも私は放って置けん。置きたくない」

 

「あぁ、研究所とかに関してはもうとっくの昔に潰してあるからこれ以上こんな事が起きることは無いよ」

 

「それだけか」

 

「んな訳無いじゃん?これぐらいじゃ生温い生温い」

 

「ほう、どうするつもりだ?」

 

「まぁVTシステムの件と並行してドイツとフランスに関しては暴露するつもり。こいつら裏でガッツリ繋がってるから共倒れだろうけど。それにコアも取り上げちゃおっかなー、って思ってる」

 

「ですが篠ノ之博士、全部取り上げてしまうと後々の影響が大きすぎるのでは?今現在の世界はISと言う単体の技術に完全に依存しています」

 

「正直言っちゃえばそんな事どうでも良いんだよねー。ドイツやフランスって言う国が消滅しても。私からすれば家の中のゴキブリが殲滅された程度にしか感じないし。皆だって害虫や害獣が駆除されたら普通喜ぶでしょ?」

 

「束、幾ら事実でもやるなよ。それと一般市民を同列に扱うな」

 

「分かってるってば。最初はドイツを物理的に海に沈めちゃおっかなーって考えてたんだけどそんなことしても私やおじさん、ちーちゃん達には一切利益が無いわけじゃん?それどころか世界中の軍隊とかに今の私みたいに追いかけられちゃうかもだし。いや確定事項かも。そうなったら私の隠れ家に行けばいいだけの話なんだけどねー」

 

「全くお前は本当にやる事が一々スケールがデカすぎる。で?実際にどうする気でいたんだ?本気でそんな事を実行すれば今でさえ指名手配と言う形で捜索されているが指名手配人では無く指名手配犯になってしまうぞ。そうなったら私はお前との関係を切るがな」

 

「ちーちゃん最後の酷くない!?」

 

「酷くない」

 

「うぅ、親友だと思ってたのに……裏切られたッ!」

 

「お前、さてはそこまでダメージを受けてないだろ」

 

「えー?だってちーちゃんがそんな事するなんて思ってないもん。多分だけどそうなっても何だかんだで親友続けてくれるんじゃないの?」

 

「…………」

 

「え?ちょっとちーちゃんなんでそこで黙るの?普通そこはニヤッ……って不敵に笑って何か言う所じゃない?」

 

「…………」

 

「ねぇなんでそっぽを向くの?ねぇちーちゃんこっち向いて?こっち向いてよ。こっち向いてってば!?」

 

「おい頭掴むのを止めろ。止めろと言っているじゃないか!おい止めろ!」

 

「じゃぁこっち向いてよ!?なんで頑なに私を見ようとしてくれないの!?泣くよ!?私みっともなく泣くよ!?二十過ぎてそろそろ二十五歳になろうかって言う乙女がみっともなく泣き叫ぶよ!?」

 

「知るか!髪の毛が乱れるから止めろ!」

 

「親友よりも髪の毛の心配!?」

 

「千冬さん!篠ノ之博士!話がズレてます!」

 

「お二人共落ち着いて下さい!本来の話の目的から完全に踏み外してしまってます!」

 

 

 

 

 

 

 

~~~~ 閑話休題 ~~~~

 

 

 

 

 

 

 

「それで、本当にどうする?お前が言っていた通りにドイツフランスをアトランティスの様にするにしてもまさか国民ごとそのまま、とはいかん。一億四千五百万もの人間を殺す気か?事前通告をするにしてもこの数の難民が発生するんだぞ?」

 

「そんなこと私が分かっていないとでも思った?あくまで考えたってだけだよ」

 

「お前はそれを実行出来るだけの力があるから冗談に聞こえんからな」

 

「信用無いなー……」

 

「今までの行いを思い返すんだな。それで、本当にどうするつもりだ?このまま何の罰も無しに野放しにしてはおけまい」

 

「そりゃね。今だって現在進行形で隠蔽工作をしているから。まぁ他の国はコアを奪えるかもしれないから寧ろその逆の動きをしてるんだけど……」

 

「こうやって聞かされると本当に腹が立つ」

 

「ドイツとフランスに対する罰は一応確定事項なのはISコアを私が回収する事と今までの悪事の証拠文書や書類を世界中のありとあらゆるネット上にばら撒いてやる事」

 

「それだけでも国家として最悪立ち行かなくなるぐらいですよ」

 

「まぁ流石に後々の事を考えるとISコアを全部取り上げるわけには行かないんだよね。コアを狙っておじさん達が狙われたら意味無いし。何個か残して後は没収!悪事の証拠は一つ残らず全部ぶちまけてやるけどね」

 

「ま、それが妥当な所かもしれんな。コアを取り上げられても文句は言えん程の事をやらかしているのだからな」

 

「私も賛成かな」

 

「私も賛成ですわ」

 

「姉さん、賛成ですがやり過ぎない様に」

 

「分かってるってば。本当に信用無いな私」

 

「正直外交は全くの専門外だから私はお前がやり過ぎない様に抑えることしか出来ん」

 

「外交なんて私だって興味ないから専門外だもん。ま、おじさんが死んでたら本気で世界を滅ぼしてたかもしれないけど」

 

「絶対にやめてくれよ」

 

「分かってるよー」

 

「他の国にはどうやって牽制するんだ?お前がコアを持って居ると知ったらまた面倒な事になるぞ」

 

「そーだねー、こっちもこっちでコアを停止させちゃおうかなって考えてる」

 

「停止、か。取り上げではないんだな」

 

「うん。あくまで牽制だからね。二、三個停止させちゃえば十分でしょ。元々所持数が少ない国は見逃して所持数が多い国に限定するけどね」

 

「当然、国連の常任理事国は複数個停止させられる事が確定か」

 

「当ったり前じゃん。ついでにほとぼりが冷めたら悪事の証拠も幾らかばら撒いちゃおうかなー」

 

「そっちは好きにしろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

今は神経衰弱をやっているがこれがクロエの運が悪い事悪い事。

面白い様にペアが作れず箒に掻っ攫われて行く。俺は紳士で優しいからね、そんな事はしないのさ。気が付いたら最下位だったけど。

 

何となく終わった気配がしたので顔を向ける。

どうやら話し合いは終わったらしく、晩飯の準備に取り掛かっていた。それぞれ得意料理を作るらしいが千冬は勿論料理なんて出来ない。セシリアは全員に止められ俺と並んで座って待っている。

ついでに今の今まで放置していたラウラも連れて来ようか、ともなったが今現在も最初の頃とは段違いに良い状況になったとはいえ未だに人前に出すのは憚られる状態なので見送ることにした。

 

 

その間俺は話し合いの結果を聞いたりしていた。まぁ何というか予想はしていたが結構重めとも取れる内容だったが俺が今更口を挟んでもしょうがない事だし何より今までのツケを払う機会が来た、と言うだけの話だ。

 

 

 

 

 

晩飯は箒と一夏が和食中心の物をそれぞれ一品ずつ、鈴は中華料理を一品、クロエと束はそれぞれ洋食を一品ずつ。

 

合計で五品と言った何ともまぁ豪華な食卓になった。

金平牛蒡、鯖味噌、麻婆豆腐、ポテトとベーコンのグラタン、チキンと野菜のトマト煮込み。

 

和洋中全部が楽しめる。

それらの食事を食べながら全員でワイワイと騒ぎながら食事を摂りそれが終わったら後片付けの後に俺は束とクロエと共に秘密基地に帰った。

 

ラウラは相変わらずと言うか何と言うか……自室のベットの上でぼーっと座っていた。俺が食事を持ってクロエと共に入ると少しだが反応はする。

最初は一切何に対しても反応しなかった事を考えると大きな前進だ。

 

ただ飯に興味を示さないのはいただけないな。まぁ俺とクロエで食わせるんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言う訳でなんだかんだ大騒ぎした皆との久々の顔合わせはこうして終わって行った。

 

 

 

 

 

 

 




酷い。
久々に書いてこれとか酷い。

でもこれぞ独芋納豆クオリティ。
途中会話文しかない部分があるけど気にしないで。


金髪のフランスの女の子?あぁダイジョブダイジョブ。あとでどうやって登場させるかは分からないけど無理矢理にでも捻じ込むから(おじさんを好きになるとは言ってない)






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閑話その5 運動会

1か月以上投稿出来なくてすまない……
シャルロットちゃんをどうやってブチ込もうか迷って迷って迷った結果、閑話に逃げたんや。

許してください。


さてさて皆さま、本日は快晴!雲一つ無い澄み渡る青空!

そして俺の手には華さんお手製のお弁当!レジャーシート!テント!を入れた折り畳み式台車!

 

そして目の前には千冬と束!その周りをわちゃわちゃと走り回り騒ぐ一夏と箒!

本日は千冬と束の学校の運!動!会!

 

残念でした、誰がピクニックだなんて言った!?

 

華さんお手製のお弁当で引っ掛かってやんの!

 

 

 

 

10月と言うもうちょっと涼しくても良いじゃねぇか!毎日毎日暑いんだよ!と切れるこの時期。

 

今日は千冬と束の通う小学校の運動会が開催されるのだ。

しかも今日は気温が馬鹿みたいに暑くなるから熱中症には注意してくださいとかニュースでやってるぐらい。

 

そう言う訳で今日はお仕事はお休みだから朝から華さんが弁当を作ってくれたり、水筒を用意してくれたり、師範が倉庫からレジャーシートやらテントやら何やらを用意してくれて、俺はと言うと活躍するから見てて見ててと大騒ぎする千冬と束の相手。

 

……あれ、俺何にも手伝って無くない?

 

まぁその分今は学校の校庭まで全部の荷物を載せた台車を引いてえっちらおっちらやってんだけど。

 

「兄さん」

 

「んー?」

 

 

わちゃわちゃ騒いであっちへこっちへ走り回る一夏と箒を捕まえて台車の上に乗せる。するとクイクイと袖を引かれて振り向いて見ると千冬が袖を掴んで何かを訴えたいと言う顔をしている。

 

「きょ、今日は頑張るから、見ててほしい……」

 

「当たり前でしょ。それで?千冬は何の競技に出るんだっけか?」

 

「100m走とか、リレーにも出る」

 

「おー、ちゃんと見てるからな、頑張れよー」

 

お兄ちゃん、私今日は頑張るからちゃんと見ててね!ってことらしい。

そんなん態々言わなくても俺ぁいっつも千冬の事ちゃんと見てるじゃないの。最近は少しばかり恥ずかしいのかあんまりくっついて来なくなったけど。それでも何故か反抗期と言う程では無いんだけどね。

 

それにあれよ?布団の中にも潜り込んできているし今更何が恥ずかしいんだろうか。あ、でも涎を垂らすのはちょっと止めて欲しいかなって……Tシャツが千冬の涎でカピカピになるのはなぁ……俺、そんな性癖無いもん。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん、私の事もちゃんと見ててくれないと駄目だよー?」

 

「はいはい分かってるってば。その前に怪我すんじゃねーぞ」

 

「だいじょーぶ!私に掛かれば全種目一位間違い無しだよ!」

 

「ほぉ、束、その言葉は聞き捨てならんな」

 

「あれぇ?ちーちゃんどーしたの?」

 

「私が居るのにそんな大口叩いて大丈夫なのか?」

 

「あっはっはっは。ちーちゃんこそ面白い事言うねー。ちーちゃんが大天才、細胞レベルでオーバースペックな私に敵う訳無いじゃーん」

 

「あぁん?」

 

「んん?」

 

なんだか二人の間に険悪な感じが漂ってるけどまぁ気にしたら負けだ。

 

「二人共早く学校行った方が良いんじゃねぇの?遅刻するぞ」

 

「……それじゃぁ兄さん、また学校で会おう」

 

「はいよ。昼飯ん時にな。レジャーシートとテント張って待ってるぜ」

 

「また後でねー!」

 

「おーう」

 

二人は校舎に向けて走っていく。

さて、それじゃ俺は校庭の良い場所にレジャーシートとテントを建てに行きますかね。

 

因みに千冬の通う学校は何故か校庭が二つある。一つは学校と併設されていてもう一つは道を挟んだ向こう側にあるのだがこの二つ目の校庭がまぁデカい事デカい事。併設されている方の二つ分はあるんじゃないかと言うぐらいに大きい。

 

休日になれば近所の人達にも開放していて学校の児童やら体を動かすことが好きなおじさん達やらが思い思いに過ごしている。

千冬曰く、体育なんかで使う事が多いらしく、実際に持久走大会なんかはそこでやるし今日の運動会もその校庭だ。

 

併設されている方は遠いところから来ている保護者の自転車置き場として開放していて多分今頃は我先にと場所取りをしている事だろう。

 

「はーい、一夏、箒。シートを敷くお手伝いしてくれるかな?」

 

「やる!」

 

「わたしも!」

 

「偉い!そんじゃ広げるから端っこ持っててな」

 

「うん!」

 

校庭に着いて、俺は台車からシートを取り出し一夏と箒に手伝ってもらいながら敷いていく。校庭の端っこから丁度良さそうな大きさの石を持って来て四角にドンと置いたらはい完成。

 

「お手伝いあんがとさん。そいじゃちょっとそこで待っててな。どっかに行っちゃだめだぜ?」

 

「それもてつだう!」

 

「やらしてー!」

 

「危ないからダメ。もうちょっと大きくなったらな」

 

「んー!」

 

「むー!」

 

シートの上にテントを張ろうとすると一夏と箒も手伝う、やらせろと大合唱。

駄目だと言えば頬を膨らませてズボンを引っ張り訴えてくる。

 

が!やらせません!

 

挟んだり刺さったりするとあぶねぇんだから駄目なもんは駄目。

ニ人を抱き上げて台車に乗せておく。二人はブーブーと文句たらたらだが、お兄ちゃんは今回は心を鬼にするのだよ。

 

「そこで大人しく待っててなー」

 

「「はーい……」」

 

 

 

「よっしゃ完成」

 

十数分後、最後に杭を打ち込んで完成したテント。

ウム、我ながら良い出来だ。組み立てただけだけど。

そんじゃ一夏と箒に構ってやらんと。

 

「よーし、一夏、箒、終わったぞー……あれ?いない?」

 

振り向いて見ると台車に乗せていたはずの二人が居ない。

あれぇ!?どこ行っちゃったの!?

 

「いちかー?ほうきー?どこ行ったー?」

 

「お、佐々木さんお久しぶりです」

 

「ん?あぁ、吉田さん。お久しぶりです」

 

俺に声を掛けてきたのは千冬と同じクラスの子のお父さん。

どうやら彼も朝早くから場所取りの様だ。

 

「どうしたんです?大声出して」

 

「いやぁ、一夏と箒、小さい方の妹達なんですけど二人が居なくなりまして……」

 

「え?二人なら校舎に入っていきましたけど」

 

「えぇ!?本当ですか?ありがとうございます!」

 

「いやいや、気にしないで下さい。それじゃまた」

 

「はい」

 

どうやら彼によると二人は校舎に入って行ったらしい。

恐らくは構ってくれない、手伝わせてくれない俺では無くお姉ちゃん達の所に行こうと言う事らしい。

 

いやいや、お二人さん。

お兄ちゃんそこで大人しく待っててねと言ったじゃん。しかもはーいって答えたじゃん!

 

君達本当に元気だね!?まぁ取り敢えず急いで迎えに行かないと。

多分千冬と束のクラスにいる筈だからな。探し回る羽目にはなら無い筈だ。多分、きっと、恐らく……

 

 

 

 

二人の教室に向かってまだ先生が来ていないことを確認してから扉を開ける。

俺の顔を見て用件は直ぐに分かったようで一夏と箒の手を引いて来た。

 

「兄さん、二人ならここにいるぞ」

 

「やっぱりか!二人共勝手にどっかに行ったら駄目だろ」

 

「だっておにいちゃんあそんでくれなかったんだもん」

 

「待ってて、って言ったら返事したじゃん?」

 

二人はそう俺に言われるとそうだけど……と言う顔をした。

 

「今度はもう勝手にどこかに行かない事。約束だ。良いか?」

 

「「はーい」」

 

なんだかんだで返事をする二人はいつもとは格好が違う千冬と束を見て騒いでいる。君ら本当に元気だね。

 

すると俺の所に来て束は何故かポーズを決めながら体操着の感想を聞いてくる。あのね、お兄ちゃんにはそういう趣味は無いんだよー……

 

「お兄ちゃん、どおどお?体操着着た束さん可愛いでしょ!」

 

「うん可愛い可愛い。ほら一夏、箒もう行くぞ」

 

「でしょー?いやー、私ってば何着ても似合っちゃうからねー!」

 

くねくねしながら自画自賛をしている束は放置。

自分の世界に入っちゃってるから声を掛けてもしょうがない。好きにさせとこう。

 

一夏と箒は千冬の手を放さずまだここに居たいと文句を言ってくる。

 

「えー」

 

「もうちょっとー」

 

「駄目です。あとでお姉ちゃん達の格好良い所見たかったらもう行かないと。お兄ちゃんだけ見ちゃおうかなー」

 

が、チョロいもんで軽く別の物で釣るとアッサリそっちに食いつく。

おいおい、本当に君達大丈夫かい?お兄ちゃんは簡単に誘拐とかされちゃいそうで心配だよ。

 

「じゃぁいく!」

 

「ばいばいちふゆねえ!」

 

「あぁ、また後でな」

 

「二人共また後でねー」

 

「千冬、束、頑張れよー」

 

一夏と箒を抱き上げて教室を後にする。

レジャーシートの所に戻ると既に師範と華さん、診療所の先生までもがそこにいた。

 

それぞれ、師範は無地の短パン半袖。華さんはお出かけ用の白のワンピースを着こんでいる。

先生はどうしてだかアロハシャツにカーキの短パン、麦わら帽子にサンダルと言う格好。

何処のアニメの何仙人だよ、と思う格好。サングラスでは無く何時もの眼鏡を掛けているのが少し再現度が足りない。惜しいッ!

 

 

 

 

「お、来たな。何処に行ってた?」

 

「いやぁ、一夏と箒がテント張ってる間に千冬と束の所に勝手に行っちゃいまして」

 

「迎えに行ってたってことか」

 

「その通りです」

 

「相変わらず二人は元気だな」

 

二人は先生にひょいと抱き上げられ膝の上に乗せられる。

因みに先生がここにいるのは今日一日、万が一急患が生徒などに出た時に対応する為だそうで、既に学校の先生方への挨拶を済ませて時間が来るまでここにいるらしい。時間が来たら救護テントに行くそうだ。まぁ昼飯の時はこっちに来るらしいけど。

 

相変わらずかなりの年齢なのに元気溌剌と言う言葉がそっくりそのまま当て嵌まるぐらいだ。と言うか朝から煎餅を齧るってすげぇなこの人。

 

「いや、二人を任せちゃって悪かったね」

 

「いえ、普段お世話になっていますからこれぐらいは」

 

師範と華さんは朝早くから起きて弁当を作ってくれて、その後に境内の掃除や社の清掃をしていた。それを考えれば楽なもんだ。

 

六人でわいわいやっていると、段々と周りに親御さん達がやってきてシートを引いたりテントを張ったりとやり始めた。

 

それからさらに暫くすると入場式が始まり運動会の開会式、準備体操などが始まった。

 

千冬は身長が高い方なので背の順で並ぶと後ろの方だ。

大して束は普通ぐらいなので真ん中辺り。

 

探すとすぐに見つかる。と言うか滅茶苦茶目立つ。

師範はそんな二人をビデオカメラにがっちり収めている。

 

ぞれらが終わってから一番最初の競技はクラス対抗リレー。

 

と言うか午前中はリレー系の種目ばっかりで最後の方に1、2、3年生のダンスかなんかが出てくる。午後になると先ず一番初めに4年生がソーラン節をやるらしく。5年生は何故か4年生がソーラン節なのに1、2、3年生と変わらずダンスやるんだって。

あとは6年生が組体操をやったりするぐらいか。

 

あ、そう言えば俺も出場する競技あるんだった。

PTAが主催で行うリレーで、その名も「保護者と先生、ガチンコリレーバトル!」

 

……もう何も言わないでくれ。

 

因みに師範も篠ノ之家として参加する。

珍しく和装では無く身軽な短パン半袖と言ういで立ちの師範はそういう意味があるのだ。

 

と言うか今日は暑いからね、何時もの和装じゃマジで熱中症待った無しですよ、本当に。まぁ師範と華さんならなんてことは無さそうにケロッとしてそうだけどな、マジぶっ飛んでるよこの人達。

流石に先生は無理だと思うけどなんだろうか、多分平気なんじゃないかと思ってしまう自分が居る。

 

まぁともかくリレーも順番が進んで今はそろそろアンカーになると言う所だ。

束がアンカーらしく、その前が千冬。アンカーの束は一人人数が少ないクラスだから丸々一周走る。

 

今、千冬が応援席まで出てきた俺をしり目に走り去っていった。相変わらず小学生なのか疑うぐらい足が速いな。

 

5クラスある内、4位だったのにあっさりと2位まで上り詰めた。

うーん、我が妹はチート生物なんじゃないだろうか。

 

そして千冬から束に渡されたバトンは、とんでもない速度で束と共にぐんぐんと俺に近づいてくる。

ついでに一位になった。やっぱし千冬も束も小学生レベルじゃないって。今でもオリンピックに出れば全種目で新記録を叩き出しながら金メダルぐらい余裕で取れそう。

 

「おにいちゃーん!見てるー!?」

 

「見てるよー!だからちゃんと前を向いて走りなさーい!」

 

手をブンブン振って俺にアピールしてくる束は、何故かバック走のまま走っていく。にも関わらず速度が変わらないとはこれ如何に。

 

束が一位でゴールテープを切ると歓声が上がる。

 

束は俺に向かって手をブンブンまた振っている。

少しはお父さんにもやってあげなさいよ。少ししょぼくれちゃってるじゃん。

 

あ、ついでと言わんばかりに師範の方にも手を振り始めた。

おぉ……めっちゃ笑顔になったな師範。

 

千冬は少しばかり恥ずかしいのか小さく手を振るだけだが手を振り返してやるとめちゃめちゃ嬉しそうな顔してる。

おぉ、おぉ。学校じゃいつもどんな顔と態度してんのか、周りの同級生達も驚いてんじゃん。

 

……変な虫が付かない様にしなければ。

 

更に障害物競争やらなんやらが終わっていく。

そして漸く午前中が終わり、昼飯時になった。

 

千冬と束を迎えに行く。レジャーシートの場所を教えていなかったからね。

生徒たちが座る席の出入り口で待っていると二人が出てくる。

 

「あ!お兄ちゃん!」

 

「兄さん!」

 

俺を見つけると駆けだして飛び付いてくる。

それを受け止めて、ぴょんぴょんと周りを飛び跳ねる束としっかり裾をキープしながら何かを目で訴えてくる千冬。

こいつら元気良いな。

 

「午前中お疲れさん」

 

「ちゃんと見てた?凄かったでしょー!」

 

「俺一番前で見てたじゃん。手も振ったじゃん」

 

「知ってるー。えへへ、手繋いでいい?」

 

「好きにしろって。何時もは何にも、断り無く攀じ登ってきたりすんじゃん」

 

「そんなことないよー」

 

「むぅ……兄さん、私も頑張ったんだぞ」

 

「ん?あぁそりゃ知ってるって。ちゃんと見てたからな。手も振ったじゃん?」

 

「そうだけど……そうじゃなくて……」

 

何故か少し不満そうな千冬。

それでも束とは反対の俺の手をがっちり握ってくる。

 

そんな二人を連れてシートの所に向かうと、そこには既に一夏と箒のお腹空いたコールを抑えられなかったのか五人は食べ始めていた。

先生も戻ってきている。

 

「あー!先に食べてるー!」

 

「いや、一夏と箒がお腹空いたと凄くてな。先に食わせたら儂らも我慢出来なくて」

 

「おじいちゃんズルいよー。まぁいいや、私も食べよーっと」

 

「束、その前にちゃんと手を拭きなさい」

 

「分かってるってば」

 

束は靴を脱いでそそくさと手を拭いて食べ始めた。

俺と千冬も食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を食べ終わり、少しばかり休憩。

千冬と束はシートで一緒に座っている。箒は何処からか木の枝を持って来て地面に絵を描き始め、一夏は午前中に遊び疲れたのか俺の膝の上で寝始めた。

 

『「保護者と先生、ガチンコリレーバトル!」に参加する保護者の方は入場門に集合してください』

 

ぬ?どうやら集合が掛かったようだ。

 

「集合してくれって言われちゃったから行ってくるわ」

 

「「「いってらっしゃーい」」」

 

「それじゃ僕も行かないとね。洋介君と行ってくるよ」

 

「はーい、行ってらっしゃい」

 

「華さん、一夏の事お願いします」

 

「任せて。頑張って一位取って来てね」

 

「ははは、まぁ怪我をしない程度には全力を出します」

 

一夏を華さんに預けて入場門に師範と共に向かう。

この競技、基本は組対抗なのだが。因みに全学年5クラスずつなので、赤、白、黄、紫、青という振り分けになっている。と言うか何故紫があって緑が無いのか、と言う疑問はあるがまぁ大人の事情という奴だろう。

千冬と束は黄なので3組と言う事になる。

 

このクラスの担任、男なのだが何と言うかこう、死にそう、という言葉がそっくりそのまま当て嵌まる。

身長は185cm程とかなり高身長なのだが、色白でヒョロヒョロ、失礼だが本当に生きているのかと思ってしまうぐらい生気を感じられない。

 

なのにリレーに参加すると言う、正直マジで大丈夫かと思ってしまうぐらいなのだが本人は大丈夫だ、と言っているし問題無いとは思う……

まぁ、最悪ぶっ倒れても先生がいるし大丈夫だろう。

 

 

「いやぁ、こんな大勢の前で何かをやるのは久しぶりだね。緊張するよ」

 

「そうなんですか?剣道の講師としてあちこち行ったりしてたんじゃ?」

 

「行っているとしても精々十数人かもうちょっとと言うぐらいの程度だよ。こんなに多いのは、かなり若い頃に出た大会ぐらいかな?」

 

「そうなんですか。まぁ俺もこれぐらいの年齢になってからは初めてなんで滅茶苦茶緊張しますね」

 

二人で歩きながら入場門を目指す。

既に入場門付近には参加する保護者や先生方が集まっていた。

 

名簿にチェックを入れるからと、点呼をして全員が揃っていることを確認すると説明が始まった。

ルールとしては普通のリレーと変わらず走るだけだ。

距離は一人一周、アンカーだけ二周走ると言うものだ。

 

まぁこれならば特に問題無く出来る。

と言うかアンカーって俺なんだよな。めちゃめちゃ目立つやんけ。

 

保護者会の時にまさかの師範から推薦を受けてしまって、説得されては頷かない訳には行かない。と言うか師範がやりゃ良かったんじゃ?と思ったが後々、陰で師範に、

 

「いやぁ、束に頼まれちゃってね。お兄ちゃんをアンカーにしてって」

 

まさかの束が暗躍していやがった。

まぁそこまで言われてしまってはしょうがない。千冬にも頑張ってくれって言われちゃったしなぁ!

 

そして入場となった。

駆け足でスタート地点まで行くと、既に周りのお父さんお母さんは息を切らしている人が何人か……大丈夫か?

 

先生方を合わせると各組20人ずつ走ることになっている。

 

『それでは午後の第一種目、「保護者と先生、ガチンコリレーバトル!」を始めます!参加される保護者の皆さまや、校長、教頭はくれぐれも倒れない様に気を付けてください!』

 

なんていう放送の後、第一走者がスタートラインに立つと、パーン!と音が鳴る。

 

一斉に走り出した彼らは必死に一周を走り第二走者へバトンを渡す。

因みにうちの組は禿散らかした頭の教頭だ。

 

そして進んで、第十九走者の師範。

 

「洋介君、それじゃ行ってくるよ」

 

「頑張ってください」

 

「うん」

 

そう言って渡されたバトンを握って走る師範は、滅茶苦茶早い。

最下位だったのがあっさりと一位になり、直ぐに俺にバトンが渡って来る。

 

「最後任せた!」

 

「任されました!」

 

受け取ってすぐに走り出す。

 

「おにいちゃーん!」

 

「兄さん頑張れ!」

 

千冬と束は応援席から手をブンブンと振ってこれ見よがしに大声で応援してくる。

保護者応援席の方に近づけば華さんに抱き上げられた一夏と箒がキャーキャー大騒ぎして俺を呼ぶ。

 

「おにいちゃんがはしってるー!」

 

「おんそくこえないのー!?」

 

華さんに抱き抱えられ、両手を大きく広げてブンブンと振りながら大声でキャッキャとはしゃぐ一夏と箒。

しかしな?音速超えろとか一夏よ、無茶を言うな。

一周、二周と走り終わり、当然元々の差もあり一位でゴールした。

 

うーん、何と言うかあんまり疲れないな。普段走っている距離はもっと長いし全力で走るとなるともっと距離が長いからか?

 

「凄いですねー!」

 

「いやいや、そんなことは」

 

「全然息が切れてないじゃないですか」

 

周りの親御さんがわいわい話しかけてくるが、退場となる。

この後すぐに千冬と束の五年生のダンスがある筈だ。

 

その後。

師範と共にレジャーシートに戻ると、ちびっ子二人が凄い凄いと周りをぐるぐる駆け回る。

 

それをひょいと捕まえて抱き上げる。

 

「おにいちゃんとおとうさんはやかった!」

 

「おにいちゃんすごー!」

 

「本当、二人とも凄かったわ」

 

一夏と箒、華さんが口々にそう褒めてくる。

師範と二人して嬉しいやら少し恥ずかしいやらで顔を見合わせて笑いあう。

 

その後、放送で5年生のダンスが始まると流れた。

師範と共にスクッと立ち上がりシートなんかで座っちゃいられない!と、ビデオカメラ片手に最前線へ向かう。

 

いやだって、あの小学生なのにも関わらずやけに落ち着いてクールな千冬が同級生に混じって踊るんだぞ!?絶対に見なきゃ駄目だろ!ビデオカメラに収めなきゃ駄目だろ!

 

あのただでさえ可愛い束が踊り狂うんだぞ!?そんなんどうやったって見逃せる筈がある訳無い!

 

あ、因みに俺は千冬の撮影のを担当し、師範が束を担当する。

後で交換すると同盟を結んだ仲だ。いや、既に戦友だと言っても過言ではないだろう。何故ならばその顔は特訓をする時や初詣に備えている時なんかよりずっと勇ましい顔をしている。

 

そして遂に始まる!

 

 

 

あの千冬が!めっちゃハイテンションな曲に合わせて踊ってる!

あぁもう可愛い!ハイ可愛い!

 

「千冬ー!もっと勢いよく可愛く!笑顔で!」

 

その俺の声が聞こえたのか一瞬こっちを見てキッ!っと睨まれたがヤケクソなのかめっちゃキラキラな笑顔を振り撒いた。

 

「流石千冬ッ!サービス精神旺盛!めっちゃ可愛い!」

 

褒めちぎると恥ずかしそうに顔を赤くする。

普段そんな顔を見れないからもうお兄ちゃん的にはテンションマックス。

 

更に束は、

 

「おにいちゃーん!ちーちゃんだけじゃなくて私も見てよー!」

 

こんなに必死に踊っている中で流石は束、余裕である。勿論そんな束の希望に応えるべく。

 

「束ー!良いぞ!もっと全力で!」

 

「承りー!!」

 

テンション上がった束はもうキレッキレな踊りと満面の笑みを振り撒く。

いやもう、これは最高ですわ。

そしてそんな束に対抗してか千冬もぶちかます。

 

そんな二人を見て俺は師範と共にテンションを爆上げしながらビデオカメラを回す。

 

 

 

 

そして終わるダンス。

そこには何故か稽古や特訓の時以上に息を切らして最高の笑みを浮かべる俺と師範が居たとさ。

 

 

 

 

 

その後は師範の家にお呼ばれして一日お疲れさまでしたと言う事で普段よりも豪華な夕食と、千冬と束に一夏と箒と共に風呂に入りそのままお泊りさせてもらった。

 

次の日、師範と共に映像を交換してテレビのビデオデッキで観賞会を行った。

その時、千冬は恥ずかしくてしょうがなかったのか顔を手で覆って耳まで真っ赤っかにしていた。

 

束は相変わらずテンション高めで、

 

「私ってばやっぱり可愛いなー!」

 

とか言っていた。

最高の運動会でしたと、ここに記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー 13年後、IS学園にて ----

 

 

 

 

 

 

 

「いやー……やっぱりこの頃の千冬は可愛かったなー」

 

「織斑先生の子供の頃って今と全然違うのですね」

 

「おうよ。今も十分可愛いがな、昔は子供ってのもあってマシマシだったんだぜ」

 

「千冬さんが満面の笑み浮かべる姿って第一回モンド・グロッソの優勝インタビューぐらいしか見た事無い……常にずっと鉄面皮で育って来たのかと……」

 

「いやいや、子供の頃は結構、と言うかしょっちゅう笑ってたんだぞ?めちゃ可愛いかった」

 

俺の部屋で千冬の小学生の頃の運動会のビデオ鑑賞会を実施した俺は、皆にめっちゃ自慢して最高の気分だった。

 

それぞれが初めて見る千冬の表情や姿に驚きの声を上げて画面に見入る。

俺も久しぶりに見てテンション上がってた。

 

 

 

 

「……おい」

 

 

 

 

だから千冬が後ろに立ってる事に気が付かなかったんだなこれが。

恐ろしい声を上げながら腕を組んで目を光らせて仁王立ち。

 

周りにいた皆はそそくさと何処かへ逃げやがったコンチクショウ。俺を生贄にしやがったな!?

 

「兄さん、何をやっていたんだ?ん?」

 

 

 

「いや……あの……その……」

 

 

 

 

「随分と楽しそうだったじゃないか」

 

 

 

 

「あ、いや、そ、そんなことは……」

 

 

 

 

「ンjrfね;伊wrンlgjねぁflwじぇrv;wjfんヴn‘*:。、・!?!?!?!?!」

 

 

 

 

振り向くとその綺麗なお顔を真っ赤にしてブチ切れた千冬が怒鳴り声をあげていた。

 

後々聞くと、怒鳴り声は完全防音のIS学園の部屋をぶち抜いて寮全体に響き渡っていたとか。そしてその後に見ていた全員の所に行って鬼の形相で口止めをして回ったらしい。

 

 

俺は散々怒鳴られた後、今の私は可愛げが無いんだろう、とか言って拗ねた千冬のご機嫌取りに丸々3日間必死になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





最後の奴はただ単純に作者が超恥ずかしがった千冬を書きたかっただけなんだ。許してくれ。







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サクッと解決、汚物は消毒だァァァ!!! そう言えば転校してきた男子(笑)、女の子になるらしいですよ。

超絶お久しぶりィィィ!!


やっぱりサブタイと本文の関係性が分からん。

交信が遅れた理由?

まぁ他の作品投降したり他の作品投降したり他の作品投降したりetc……

なーんて冗談はさて置き、本当はシャルロットちゃんの扱いどうすっかなー、とかなり迷ってたんですね。

セシリアの時もそうだったけど、登場から今の今まで殆ど絡みを持たせなかったって言う大失態を犯しましてね。

いやまぁ、それに関しちゃ本文にも書いてあるんですけどシャルロットがおじさんを避けていたっていう設定なんであれですが……


流石にキツかった。


でもなぁ、設定変えちゃうと最悪初登場から今までの話の内容を変えたり変更したりしなきゃならんしなぁ……

とか色々悩んだ挙句、もういいや、取り敢えず書こう。そうすりゃ何とかなるべ、という事で馬鹿丸出し、計画性皆無で今回書きました。


なのでいつも以上に酷いです。
胸糞発言などあります。そこらへん踏まえた上でお読みください。

あ、本心じゃないからその辺は大丈夫だよ。胸糞ルートなんて存在しないんだよ。

まぁこの作品に限っては作者が割と暴走気味に書いてるので今更感はありますがご了承の上、ご覧ください。
一応謝罪の気持ちみたいなもんで文字数が約2万2千字に届いたんで許してください。






あ、次の話は臨海学校に行く予定だよ。
それまでの間になんか日常回的なの入れられたらいいなぁ、とは思ってますけど。




それでは前書きが長くなりましたがどうぞご覧ください。










イエァ!

諸君元気かい!? 

おじさん?おじさんはエブリデイ地獄だぜぇい!

 

つーのもな?

束がドイツとかフランスのバラされたくない情報をバラ撒いたじゃん?

そのお陰で汚物の消毒はヒャッハー!って感じで出来たんだけど他の国がやばかった。

 

そりゃ、他の国があんなことやられたら自分達もやられるんじゃ……ってなる訳だ。

 

そうなれば元凶である束を何とかするしかない訳だがとっ捕まえるにも、束の消息は少なくとも隠れ場所を特定出来ないレベルで不明、どこにあるか分からずじまい。

 

そうなりゃどうにかして抑えなきゃならん。

そうすっとだ、親しい人間を人質にしてとか、取り込んで、とか考えるわけだ。

 

そのお陰で束を抑え込む為に俺と言う駒を欲したんだな。

しかも世界唯一の男性操縦者と来たもんだから手に入れられたら一石二鳥なんてレベルの話じゃない。

 

束が一番執着しているのが俺なわけだからな。

束がその気になりゃ師範も華さんも政府の保護下と言う名目上の軟禁状態だが、何時だって誰の目にも映らず、どんな監視下ですら誰にも悟られずに攫える。

 

そんな奴を追っかけて、攫われるかもしれない人質を必死こいて守るよりは俺をどうにかして取り込んだ方が旨みが途轍もなくデカい。

 

他国よりも一歩どころか何十歩も進んだ状況になれるわけだ。

 

 

あんまし自分で言いたか無いけど俺は、どの国どの組織も俺と言う存在は喉から手が出るなんて表現じゃ生温いぐらい欲しい存在だ。

そりゃぁ、他国を出し抜いて取り込もうと必死になるわな。

 

それで増えたのが、学園に対する俺との面会要求だった。

 

毎日毎日毎日毎日毎日、延々と届くその要求は半ば所か完全に脅しの様な文面すらある始末。

 

お陰で千冬に限らず教職員のストレスがえげつない事になっててもう大変よ。

職員室に行きゃ、全員が完全に据わってる目をしてカタカタパソコンのキーボードを叩くその様子は普通に怖い。

 

そんな訳で全部断ってるわけだが、どうやって調べたのか俺の携帯電話にすら電話が架かってくる始末。まぁそこは束に頼んでどうにかして貰っちゃったけど。

 

 

お陰でお外に出れないんですよ!

偶の休日にもお家に帰れないんですよ!

 

マァァァァジでふざけんなよこの野郎!

 

 

そう言う訳で腹立たしい事この上ない毎日。

つっても俺は束の月面秘密基地にいるんで俺自身への直接的な害は皆無。

 

と言うか電話架かってきた時月面なのに!?って驚いた。

まぁ束だし普通か、と二秒後に即納得した。

 

ただ、千冬のイライラが凄い。

まぁそれは置いといて。

 

 

 

そんじゃまぁ、ラウラの件について。

まぁ、毎日毎日しつこいぐらいに絡んでは絡みに絡みまくりあの抜け殻みたいな状態からは脱しました。

 

まぁでもやっぱりあの時のショックと言うか、そういうのは抜けきってないみたいで悩むことはある。

そこは軍人とはいえまだまだ精神的には未熟な十五歳の少女。

当然と言えば当然だからそこは根気良く付き合ってケアをして行くしかない。

 

本人はそこらへんに関して前向きに捉えているからマシだな。まぁ、心の拠り所もあるし。

 

その拠り所ってのが俺なのが首を傾げちゃう所だけど。

まぁ、いいんだけど俺で良いの?と言った感じがする。

 

束がラウラに諸々の事情やらなんやらを全部説明した上で、

 

「私としてはね?ラウラちゃんの事を娘として引き取りたいなって思ってる。あ、だけど君が嫌だと言うのなら、ちゃんと一人で生きていけるようにバックアップはするよ」

 

と聞いた。

ラウラはそれに対して、自分の出生に関する事は薄々本人も感づいていたらしく、その姉であるクロエが束の下にいるし、俺と言う存在もそこにいるから、と二つ返事で快諾。

 

結果的に、束はニ人の娘の母親になりましたとさ。

んで、まぁクロエ同様俺の事をお父さんとして説明した束によってラウラにお父さんと呼ばれる、というなんともまぁは傍から見れば犯罪……?と思わなくも無い状況になった。

 

「父よ、何をしているのだ?」

 

「父よ、今日はこれで遊ぼう!」

 

etc……

ちょこちょこ俺の後ろを雛の様についてくるその光景は、まぁ可愛い事可愛い事。

あんまし言いたかないけど俺はラウラとクロエの娘ズによって骨抜きにされちゃったと言う訳だな。

 

ラウラとクロエは俺の娘。異論は認めん。

 

で、学校はそのままIS学園に通う事になった。

今も机に座って勉強に励んでいるだろうよ。

 

 

 

ラウラには一応護身用として元々の専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンを渡してある。

まぁ、束がコアを取り上げたからどうするのかは自由だからね。

 

だけど本人は、VTシステムの事もあってかあんまり乗り気じゃない。

もしまた発動させてしまったら?とか色々考えちゃってる訳だな。まぁ、そりゃしょうがない。

 

これは解決出来るか分からんなぁ……

善処するけど、結局はラウラに掛かってる。

 

 

 

 

 

 

あ、そう言えば俺も無事、授業に復帰しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、今日はと言うとラウラと共に転校してきた金髪男装女子こと、シャルル・デュノア君ちゃんの件についてそろそろ決着付けてやろう、という事で呼び出し&拉致を決行。

 

ちゃんと千冬の許可を頂いております。

 

「あの、急に呼び出してどうかしたんですか……?」

 

「ん、ちょいとばかし野暮用があるから付き合ってくれや」

 

「はぁ……」

 

因みにだがシャルル君ちゃんは本国フランスが束によってブッチッパされたおかげで帰国命令が出てる。二週間後にフランスに帰国予定だ。

ま、当然っちゃ当然だよな。

証拠となる存在だ、放って置くわけがない。

 

帰国後は投獄、刑務所暮らしが妥当な所か。

 

 

 

フランスもドイツも、国際的信用度は0を振り切ってマイナスに突入。

両国の経済から始まりありとあらゆる方面で大打撃なんてレベルじゃないぐらいまでに大打撃。

 

ISコアは全て取り上げ、これだけで経済、軍事両面での損失は計り知れない程に膨れ上がり、加えて数々の汚職や非人道的な行いによって国民の不安は大爆発。

各地で暴動の嵐。バラされたくない事をバラされた政治家、軍人、科学者、女権団、会社の重役連中どころか下っ端に至るまで関与した連中は軒並み逮捕、投獄。

 

 

まぁそんなことをしでかしてくれた奴らを国民が許す訳も無く全員が確定で終身刑が決定している。

 

フランス、ドイツ両国の国民は他国へ移住、という手段を取ろうとしたがそもそも国の信用度がマイナスなのでどこの国も受け入れず不法移民となるケースが多発。

世界各国でそれの摘発が相次いで強制帰還として本国に送り還されるという。

 

各国との国境線では厳重以上の警備が敷かれて、地中海、ドーバー海峡、北海なんかの海にはイギリス、イタリア、スペイン、ノルウェー、スウェーデンなどの各国が共同で海上警備に当たる始末。

 

ISの登場によって旧兵器化した艦隊を派遣して、空母すら派遣される始末。

まぁISコアを所持していない国相手にISは使わんよな、って話だ。

 

お陰かどうかは分からないがIS登場以前の兵器がドイツとフランスに至っては大きく息を吹き返した。

 

まぁ経済面でも大打撃を受けているから戦力増強どころか現状維持すら厳しいようだけど。そんなこと知ったこっちゃない。全部自業自得と言うものだ。

 

 

 

 

 

まぁ、そんなご時世でございますがシャルル君ちゃんを連れて何処に行くのか、と言うとだ。

 

諸々の決着を付ける為に、デュノア社にいる親父の所に殴りこんで色々とケリをつけるのだ。

 

「そんな訳でやってきました、inパリ!」

 

「……」

 

移動手段?

そこは勿論束にお願いしたぜ。

 

ちゃんと不法入国にならない様に手続き済み。

もし俺に手を出したらそれこそ本当にアトランティス案件なので。

 

と言うか束が脅してた。

 

「もし、彼と連れの子に手を出したら今度こそマジで海に沈めるからね」

 

って。

おっかない。

 

そんなわけで手を出してくる奴は誰も居ない。

まぁ、パリは暴動で大騒ぎになっててあちこちボロボロなわけだけど。

 

「Merde Dunois entreprise!!!(くたばれデュノア社!!!)」

 

おーおーやってるねぇ。

 

デュノア社に向かってレンガやらゴミを投げる暴徒達。

警察などの治安組織も混乱によって碌に機能していないから止める人間は誰も居ない。

 

 

デュノア社も一枚どころかかなり噛んでたから怒りの矛先を向けられている。

つっても技術者連中が勝手に暴走したりしないで女権団と繋がりがあった奴がコソコソやってただけ。

重役や社長は関与していない。

だが監督出来ていなかったと言う事で、叩かれているって訳だ。

 

ま、当然と言えば当然なのだが内情を知っていれば別だろう。

 

「なんで、ここに連れて来たんですか……?」

 

シャルル君ちゃんは辛そうな顔をする。

まぁ、今まで受けてきた仕打ちだとか扱いを考えれば来たくない所だろう。

 

だけどそうもいかない。

 

「ここの社長に用件があってな。ちょっとばかし付いて来て頂戴よ」

 

「嫌がらせ、ですか?」

 

「ん?違う違う」

 

そうは言う物の、やっぱり信じてくれない。

うん、当たり前だね。

 

 

ま、いいや。

そんじゃ一丁やってやりますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんちわー」

 

暴徒が消えるのを待ってからエントランス内に入る。

挨拶をするけど、当然と言えば当然、返事を返す人間は誰一人としていない。

 

そりゃ暴徒に襲われる危険のある所に人なんて誰もいる訳がない。

 

「それじゃ、最上階まで階段使って行きましょうねー」

 

行き本当は俺だってエレベーター使いたいよ?

だけど電気が止まってて使えないんだから諦めて階段上るしかないじゃない。

 

 

だけどこのデュノア社のビル、25階建て。

少なくとも50m以上の高さがあるのだ。それを最上階の社長室まで登るとか割と面倒なんですが。ま、んなこと言ってもエレベーターが動いてないんでしょうがないんだけど。

 

 

 

 

 

 

「はーっ……はーっ……」

 

「流石に疲れたな……ったくよー、なんだってエスカレーターにしなかったんだよ……」

 

シャルル君ちゃんは息切れしてひーひー言ってるし俺は俺でそれなりに疲れて文句を垂れ流す。

 

そんで、息を整えがてら目の前までやってきたデュノア社社長室の扉。

 

「君はちょっと外で待っててな。んで、これを耳につけて、この画面を見て、話を良ーく聞いとくんだぜ」

 

「は、はぁ……」

 

入るのは俺だけ。

シャルル君ちゃんにイヤホンを渡す。

俺の胸ポケットに入っている万年筆型の収音器と小型カメラ。

これでよし。

 

 

それじゃ入りましょう。

 

しっかしでけぇしめっちゃ意匠を凝らして作られているのが分かるような豪華な扉だ。

だがそれも掃除や手入れをしなくなったからか埃と汚れが幾らか溜っている。

 

まぁそんなことはどうだっていい。

それじゃぁ突撃!家庭訪問!始まるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノックをして扉を開けて入る。

すると中にはシャルル君ちゃんとは似ても似つかない40代ぐらいの男性が一人、社長椅子に座って手を組んで待っていた。

 

……ゲン〇ウさんじゃないですか。

 

いや、似てないけど雰囲気がそっくり。あのとっつきにくさと言うかなんというか。

こりゃたまげたぜ。

 

 

「……初めまして、と言えばいいのかな、私はダニエル・デュノア。デュノア社の社長をしている者だ。まぁ、もう既にデュノア社なんて名前だけになっているがね」

 

「ご丁寧にどうも、一応有名人らしい佐々木洋介と申します」

 

「あぁ、知っているとも。恐らく世界一、有名な男だろうからね」

 

「いやはや、お恥ずかしい話です」

 

俺は、ダニエル氏と挨拶を交わす。

お話開始だ。

 

それじゃ、本音を引き出すために揺さ振りを掛けてやろう。

言いたくない事も言わなきゃならんが、必要な事だ。

 

今回ばかりは哀れなシンデレラの為に私は悪役に成りましょう。

 

「それで、今日は何の用件かな?一応、こんな状況なので忙しいと言えば忙しいのだが」

 

「いや、お時間を取らせてしまって申し訳ない。というのも、貴方の娘さんについてなんですがね」

 

「……煮るなり焼くなり好きにすると良い。所詮はもう使えない駒だ。失った所で痛くも痒くもない」

 

「ほう、それならば彼女がどれだけ拒んでも、私の手元に置いておいていいと。殺すのも、生かして家畜以下の扱いをしても良い、そう仰る訳ですか?」

 

「…………その通りだ」

 

絞り出すような声で言うデュノア氏の顔はどんどん怒りに染まっていく。

 

「ならば、風俗や娼館で身売りでもさせましょうか。あれだけの容姿だ、客なんて幾らでも寄ってくる」

 

俺が、下衆びた笑みを浮かべながらそういうと、デュノア氏は顔を怒りの感情で染めて机を叩きながら立ち上がる。

 

「貴様ッ!!」

 

「おぉっと、好きにしろと言ったのは貴方ですよ。それとも使えない駒相手に情でもお持ちですか?」

 

「ふざけるな!目的は何だ!?金か!?」

 

幾ら大会社の社長と言えども、自分の娘がそんなことをさせられると想像すれば平静は保っていられないだろう、と踏んでの発言だったがここまで効果があるとは。

 

詰め寄られ、今にも胸倉を掴んできそうだ。寸での所で踏みとどまっているのだろう。

束がフランスそのものを海に沈めるという脅しが無ければ今頃は俺の顔面は腫れ上がっていた事だろう。

 

「いえ、金なんて欲しくはありませんよ」

 

「ならば要求何だ!?」

 

「要求は、貴方の本音を聞かせて頂きたい。無論、娘さんに対しての、です」

 

俺がそう言うと、嵌められた事を悟ったのか悔しそうに歯を食いしばる。

 

ま、そりゃそうだろう。

只の交渉術に長けている訳でも無い俺に嵌められたのだから。

 

もしかすると俺ってば演技の才能があるのかもしないな。

 

 

 

 

さて、ここでダニエル・デュノア氏についての説明を少しばかりするとしよう。

まぁ全部束が調べてくれたんだけど。

……俺も手伝ったからな?

 

 

 

 

ダニエル・デュノア。

彼は、デュノア社と言う昔からフランスの国防を担っていた大企業の御曹司だった。

デュノア社と言えば、フランスでも滅茶苦茶有名、軍関係であれば国外でもその名を良く聞くぐらいだ。

 

設計だけでなく、多数の製造工場を持ち他社の設計した兵器を製造したりと。

戦車、軍艦、銃、ありとあらゆる兵器を製造していた。

 

 

まぁ、当然御曹司だから会社を継ぐ訳だ。それも26歳というかなりの若さの時に。

 

がそんな時に彼に縁談が持ち込まれる。

その相手と言うのがシャルル君ちゃんの継母、アニエス・ヴァロワ当時28歳。

 

まぁ、簡単に言えばフランスに昔からある貴族の、それも名家と言われる貴族家の令嬢だった。

 

この女がまたとんでもねぇ曲者だった。

一言で表すならば「典型的な貴族の御令嬢」という人間だった。

それも悪い意味での、だ。傲慢、我儘、他人を見下すなんて当たり前。なんなら使用人に暴力すら振るう始末。

 

彼女の両親は結婚すれば少しはこの性格も治るだろうとの事も目論んでいたが、それ以上の目的があった。

 

それは、デュノア社が持っている金だ。

結婚前、ヴァロワ家は昔からの名家の大貴族と言う肩書はあれどその資金繰りは火の車なんてレベルではない程に追い込まれていた。

 

というのも先代、先々代の無駄金使い、浪費癖と、そこに当時の当主のそれを何とかしようとした無茶な投資によってすっからかんどころかとんでもない金額の借金を抱えていた。

 

しかも父親は、投資によって失敗したが無能と言う訳では無かったが問題があったのは母親の方だった。

 

その母親と言うのが、これまた浪費癖、それも借金してでも、という俺からすれば面倒極まりないタイプの浪費家だった。

それを抜けばまぁ、普通の人間であっただろうがそれが致命的だった。

 

借金をしてまで買い物をする始末。

しかも父親は婿入りと言う立場からか妻に甘かった。というよりは物を、駄目だと言えなかったという方が正しい。

 

それが相まって増々困窮していく。

返済の出来ない借金だけが膨れ上がっていく。

 

そんな時に生まれたのがアニエス・ヴァロワだった。

当然、そんな母親を見て育つわけだから必然的とも言えるだろう、浪費癖を持つことになった。

 

ただでさえ、教育費や食費が増えるのにそこに輪にかけて習い事、持ち物、服、靴、ありとあらゆるものを買いまくり、しかもその殆どが超高級ブランド。

当然、金の消費は二人分に増えた。

余計に家計は辛くなるばかり。

 

 

 

さて、では逆にデュノア家を見てみよう。

この家は古くから武器などの製造を担ってきた大企業、所謂武器商人だ。

 

ダニエル・デュノアの父親の先代、先々代の時に第一次世界大戦、第二次世界大戦が勃発。

お陰で、会社の業績は右肩上がり。現代、ISが登場するまではそれなりの業績だった。

植民地を持っている頃はそこにも輸出をしていた、と言えばその収益がどれほど莫大な物になるか分かるだろうか。

 

歩兵用の各種装備から始まり、戦車、自走砲、迫撃砲、ヘリ、戦闘機だけでなく、造船所では海軍からの発注により軍艦をも建造していた。

その各種兵器や武器の予備部品その他諸々も収めるのだからもっと多いだろう。

 

当然、取引相手は自国なので国そのものが潰れない限りは困らない。

更には民間向けの装甲車両や銃をも開発、販売を行っており収入には困らない。

 

定期的に発注、受注が行われるから早々、業績が下がることは無い。

 

家柄は、大企業とは言えその身分は平民。

ここでヴァロワ家との縁談に繋がってくるわけだ。

 

 

簡単に言えば、

 

「家柄や身分こそあれど金の無いヴァロワ家」

 

「金はあるが格式ある家柄や確固たる身分の無いデュノア家」

 

互いに欲しい物を、持っていた。

当然、近づくわけだ。それで一番手っ取り早いのが政略結婚、と言う訳でそこに丁度年齢が近い男女が居るとなれば一気に話が進む。

 

例えそれが本人達の意向を全て無視してでも。

そんな時にダニエル・デュノア氏はアニエス・ヴァロワとの縁談が来たと言う訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、話を戻して。

 

「私の、本心だと……?」

 

「えぇ、貴方の娘さんに対する嘘偽りの無い本心をお聞かせ願いたい」

 

「……………………良いだろう」

 

考えた後に、彼は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「私の妻であるアニエス・ヴァロワとの縁談が上がる前、私は娘の本当の母親であるカミーユ・ルナールと付き合っていたんだ。付き合い始めたのは19歳の時からでね」

 

7年間のお付き合いだ。余程のことが無ければ結婚すら考える年数だ。

 

「カミーユは、とても綺麗だった。それこそ誰もが振り向くぐらいにはね」

 

「私達の出会いはパン屋を営んでいたカミーユと偶々出会って、私が一目惚れしたのさ。何度も何度もアタックして漸くOKを貰えた時の嬉しさと言ったらどうやったって表せられない表せぐらいだったよ」

 

二人とも、本気で結婚を考えていたぐらいには真剣にお付き合いしていた。

 

「私はカミーユの両親にも挨拶を済ませてね、本当に、本気で結婚を考えていたんだ。彼女の為に指輪も作ろうとして職人と話を進めてもいたんだ」

 

「アニエス・ヴァロワとの縁談が持ち上がったのはそんな時だった」

 

 

「当然、私は猛反発した。両親と大激突を繰り広げてね、なんなら父親と本気の殴り合いに発展して流血沙汰、救急車を呼ぶまでなったぐらいには猛反対したよ。そしてこの際だからとカミーユとの関係を暴露してね。今思えばタイミングが最悪だった。私も両親も頭に血が上った状態だったから、それはただ火に油を注いだだけ。当然両親は言葉で言い表せるかどうか分からないぐらいに怒り狂った。言い表すならばアルプス山脈全域、全てで大噴火を起こしたんじゃないかと勘違いするぐらいには大激怒していたのを良く覚えている。再びの殴り合い掴み合いに発展してしまったぐらいだ」

 

 

 

「父は、『アニエス・ヴァロワと結婚しなければ勘当してやる!』と私に怒鳴ってね。売り言葉に買い言葉とはこのことを言うのだろうか、私も『上等だこのクソ親父!こんな家とっとと出てってカミーユと結婚してやる!』と大声で叫んだよ」

 

まぁここからの話、割と惚気話ばっかなんで重要な所を掻い摘んで説明するとだ。

そんな時、疲れ切っちゃったダニエル氏はカミーユさんに癒しを求めてチョメチョメしちゃったんだなこれが。

 

正直、ここの話を聞かされている時が一番辛かった。

聞いているこっちが辛かった。

恥ずかしくないのかよもうと内心思いながら、赤裸々なお話がバンバン出て来る出て来る……

こっちが恥ずかしくて悶えそうになるのを必死に耐えていた。

 

 

 

まぁ、大体そんな時に限って大当たりするもんで。

カミーユさんの妊娠が分かったのは後日なんだけど、ばっちり妊娠しちゃってて。

 

まぁそれは後々なのでその前の話だがカミーユさんがここで、

 

意訳:ダニエル、私の事は忘れてください。

 

と。

まぁ、うん、ダニエル氏は自分がこんなに頑張って両親説得してるのに!?と怒って喧嘩別れ。で、アニエス・ヴァロワとの政略結婚が成っちゃったと言う訳。

 

 

まぁダニエル氏、相当カミーユさんへの思いを引き摺りに引き摺っていたらしく、こっそり身の安全の確保や自身の父親やヴァロワ家に手出しをされないように身辺警護を行っていた。

ちょこちょこバレない様にカミーユさんの口座に自分のポケットマネーからお金を入れたり……

 

だけどバレてて怒られたらしいけど。

 

「いや、怒ったときの顔も可愛らしくてね。怒られている気分では無かったよ」

 

いや、その話はもういいんで次に移って貰えます?

 

 

 

 

 

 

で、暫くすると段々大きく成るお腹。

報告受けたダニエルさん、

 

「え、どういう事?」

 

とめっちゃ首を傾げた。

そら自分は身に覚えのないんだからな。

記憶を掘り返してみたら、

 

「そう言えばあの時とかあの時とか、やっちゃった様な気が……」

 

と大焦り。

そりゃもうすぐにカミーユさんの所に行くと土下座もびっくりの謝罪をした。

 

まぁ、カミーユさんその辺気にしてなかったらしく普通に許してくれて。

なんなら既婚者が妊婦と一緒にいる所、それも大会社の若社長ともなれば色々と不味いでしょ?

 

と心配までされる始末。

だがそうはいかないとダニエル氏は首を振った。

 

なんあら今すぐに離婚するから結婚してくれとまで言ったのだがカミーユさんに断られる。

 

「貴方にも立場や責任と言う物がある筈です。それともそれら全てを捨てて、奥さんの好きなように会社を運営させて破滅させて社員の人達を路頭に迷わせる気ですか?国の守りは誰が支えるのですか?」

 

と逆にぐうの音も出ないぐらいに宥められた。

 

そこで、ダニエル氏は養育費だけでなく少なくとも生活に不自由のないくらいの金額は支払わせてくれ、身の安全もしっかりと保障させてくれ、と申し出た。

 

まぁ、当然カミーユさんは断る訳だけどそこだけは頑として譲らず、カミーユさんが根負け。

カミーユさんと両親はフランスの片田舎にお引越し。その資金も全部ダニエルさん持ち。

 

更には毎月900ユーロ、日本円にして大体100万円を振り込んだらしい。

毎月のお給料はアニエス・ヴァロワに渡す分以外全てカミーユさん名義の口座に振り込んで、なんならカミーユさんとの結婚やその後の生活の為に、とコツコツ貯めてた貯金も切り崩して。

 

まぁ、傍から見れば奥さん放って置いて愛人にご熱心な若社長と見られちゃう訳だが社員の人達は事情を知っていたのでとやかく言わなかった。

 

しかもこの人、こっそりカミーユさんと会ってたらしい。

 

「まぁ、頻度は月に一度か二カ月に一度の少ない頻度だったが、日々の疲れを全部忘れるものだったよ」

 

そう語るダニエル氏の顔は本当にカミーユさんの事を愛していたんだろうと分かる物だった。

 

「娘が生まれてからはその写真を見せてもらうのが本当に、本当に心の底から楽しみだった。写真越しでしか見られなかったが毎回毎回、すくすくと育って行ってくれる娘の成長は、一番の楽しみでね、入学式や卒業式の写真なんかを見たときは本当に泣いてしまったものだ」

 

「一度だけ、まだシャルロットが赤ん坊の頃に直接会った事があるんだが、本当に可愛かった。だからこそ、本当に悔しかった。カミーユの隣に立って娘の成長を直接見守る事が出来なかったのだから」

 

そう、この言葉から分かる通りダニエル氏はシャルル君ちゃんを……いやもう面倒だからシャルロットでいいや。

 

シャルロットの事を駒として見ていたのではなく見て、一人の娘として心の底から大切に思っていたのだ。

 

「本当に、大切だった。君はカミーユが死んだ原因を知っているかい?」

 

「えぇまぁ。交通事故と聞いておりますがその口振りから察するに裏がありそうですね」

 

「その通りだ。カミーユはアニエス・ヴァロワの指示によって交通事故に見せかけて殺されたんだよ」

 

まぁ知ってましたけど。

この人の口から直接言わせるためにあえて知らないフリをしたんですよ。

あー、やっぱり俺って役者の才能あるかもしれない。

 

「そりゃもう当然、私は怒り狂ったよ。アニエス・ヴァロワを問い詰めたさ」

 

「で、奥さんが放った一言で貴方は娘さんを守る為に一芝居打った、と言う訳ですか」

 

「その通りだ。結果的には一時凌ぎにしかならなかったがね……」

 

ダニエル氏は、アニエス・ヴァロワの魔の手からシャルロットを守るべくあちこちを奔走したがアニエス・ヴァロワの悪い噂はそこら中に転がっており、彼に手を貸そうなんて人間は誰も居なかった。

 

いや、正確言うならば「居た」と表現するべきだろう。

 

協力を申し出た人間の下には軒並み脅迫と同時に何らかの実力行使が行われた。

誘拐の上、拷問を受けたり最悪、カミーユさん同様事故に見せかけて殺害されたりされかけたりする始末。

 

そんな中で手を貸そうなんて酔狂な奴は、だーれも居なかった。

 

どうにかして守ろうとしたけど協力者は誰も居ない。

ならば、確実に守れるであろう自身の直ぐ傍に置いておけばいい。

 

少なくともダニエル氏の傍にいて目がある内は、早々手を出してこないのでは、と踏んだからだった。

 

当然、アニエス・ヴァロワは怒り狂う訳だ。

そりゃ、自分の懐に入ってくる予定だった(アニエス・ヴァロワはそう思っていた)金を奪って行った女の娘だ。許せる訳がなかった。

 

「迎え入れた時、アニエス・ヴァロワがシャルロットの頬を叩いた時は余程殴り倒してやろうかと思ったがね、残念ながらそれは叶わなかった。というのも、下手に庇ってしまえばそれこそアニエス・ヴァロワがどんな手段をとって凶行に及ぶか分からなかったからだ。あの時の私にはそうなっても娘を守れるだけの力が無かった……だからあえて冷遇する事にしたんだ。そうすれば、私は娘に関心が無いと思ってくれれば娘は放置してくれるのではないか、とね。まぁそれでも手を出そうとしたのならばその時はありとあらゆる手段を以て排除してやろうと思っていたが、幸いにもアニエス・ヴァロワは放置してくれたよ」

 

「だが、そのお陰で娘には辛い思いをさせてしまったのもまた事実。本当に謝っても許されない事だ」

 

まぁ、シャルロット自身が冷遇されていた理由はこの通り。

 

ISが発明されてからはデュノア社も元々は兵器製造に携わっていたから先端技術、それこそISの軍事的価値だけではなく全てにおいて革新的である、と判断。

 

直ぐに、とは行かなかったがかなり早い段階で参入。

 

お陰で第二世代機で有名なラファール・リヴァイブを開発するに至った。

だが、その次、具体的には第三世代の機体と兵装開発にかなり難航する事となる。

そもそもイメージインターフェイスを利用してなんちゃらかんちゃら……と開発するが、人間は優秀な物を開発して、それが大成功を収めたともなればそれにしがみついてしまうものだ。

政府の重役連中は第三世代機の開発を渋った。

 

「汎用性が高く、世界規模のシェアを誇る機体を持っているのだから態々急いで第三世代機を開発する必要は無いのでは?」

 

と渋っていた。

だがラファール・リヴァイブは汎用性こそ高い物の、ISは戦闘機などの様に近代化改修を行えば世代が上がると言う訳ではない。

まぁやり方によっては上がるだろう。事実シャルロットのラファールは個人用にカスタムされた機体だから0.5世代くらいはなんとかなった。

 

だがISは発明されてまだ十年も経っていない未熟な分野。

ISコアの仕組みも碌に解明されていないぐらいだ。

 

当然、未熟故の弊害はあるがそれ以上に、未熟だからこそ、その進歩はどんな分野よりもずっと大きかった。

 

一年、二年という年月は技術開発という面から見ればかなり短期間だと言える。

だが世界各国、多数の企業がその有用性を認めてISの研究開発に乗りだしたのだ、一国や一企業で開発するのとはわけが違う。

 

競争は熾烈となる訳だ。

何処の国よりも優秀な機体を、武装を、と日進月歩。

 

それを見て不味いと感じ開発を命じた時には他国より一歩、二歩と出遅れてしまっていた。

 

その一歩二歩の遅れと言う物は技術開発にとってかなり大きな差である場合が多い。

当然、デュノア社にはフランス政府から第三世代機の開発命令と共に補助金として莫大な予算が降りるわけだ。

 

だが莫大な予算とは言ってもそれはISの開発においては少なかった。

少ない予算をどうにかやりくりしながら開発するがそもそもIS開発における各国の平均的な予算、何兆円と言う金額をもってしても開発には何年か掛かるのだ。

 

それよりも少ない予算となれば当然、開発期間は長くなる。

フランスが第三世代機を開発に成功する頃には他の国は第四世代機の開発をしているのではないかとすら馬鹿にされる始末。

 

政府は焦りに焦った。

それが自分達のツケであろうとその責任はデュノア社にあると糾弾。

 

即刻成果を出さなければ予算打ち切り、補助金も出さないという強硬手段をとった。

 

だがそれは一番の悪手であったと言える。

確かにデュノア社は第三世代機の開発こそ難航していたがISが世間に発表された初期の頃から開発や製造に携わっているのだ、そのノウハウは決して馬鹿に出来るものではない。

 

頭の良い、目先の利益に釣られないタイプの人間はそのことを分かっていた。

 

デュノア社への補助金と予算を増額した方が絶対に良い、と。

 

だがそういう人間は少数派、多数派の意見を引っ繰り返せるだけの力は無かった。

追い詰められたデュノア社は何とかしようと奔走、各国の第三世代機の情報収集中にある出来事が起こる。

 

それが、おじさん事、世界で唯一のIS男性操縦者が発見されるという出来事だった。

 

ISはその欠点として女性にしか扱えないという、人的運用面から見ればとんでもない欠点を抱えていた。

 

元々、群の男女比は絶対的に男に傾いている。

それこそ9対1なんて当たり前。良くて8対2かもう少し上程度の割合。

 

幾ら男女平等が叫ばれているとしても軍に関してはそこは変わらなかった。

で、これの何がいけないのか。

 

簡単に言えば、経験豊富な、それこそ実戦経験のある熟練した兵士がISを扱えないという事だ。

 

人材の育成ってのはとんでもなく金と時間が掛かるもんだ。

 

民間企業ですら新入社員が一端の社員になるまで何年も、十年近く勤めて漸く普通、とまで言われる会社だってある。

 

それこそ軍人ともなれば、屈強な肉体だけでなく戦場に出ても折れない心折れないなどを養うのには相当な期間が必要だ。

という事は、本職の元々の軍人である男達が少なくとも今現在兵器としてしか見ていない連中の要求には答えられないという事に他ならない。

 

そこで各国は当然ながらISを扱える女性、それも10代20代前半の若い女性にターゲットを絞ってパイロット養成を開始するんだがこれがまたとんでもなく大変だった。

 

ISコア、機体があってもパイロットが未熟じゃ全くの意味が無い。

恐らくだが、あの最初期の段階でもし戦闘機のパイロットなどがISを操縦する事になればもっと楽ではあっただろう。少なくとも教育に関しては。

 

だがそうはいかない。

誰もがISなんてものに初めて触るんだ、当然事故も多発する。

 

例えるならば全くの操縦訓練、基本的な教育すら受けたことが無い、普通の戦闘機すら乗った事の無い10代の少女がいきなり既存の戦闘機よりも遥かに高性能な戦闘機を扱えるわけも無く。

しかも直角に曲がってもPICやAICによって慣性の法則なんてものは無視できるんだから調子に乗る奴も大勢いる。

シールドバリアや絶対防御が無ければ初期の段階で死者なんぞ今頃は軽く4桁に突入していてもおかしくは無かった。

 

そこで、先ずは基本的な物として戦闘機で行う戦闘機動などを叩き込むわけだ。

でなければそれこそISで行うような戦闘機動をやれない。一部の天才は出来るがそんなのは俺の知る限り千冬しかいない。

 

 

 

 

 

まぁ話が逸れたが何が言いたいのかと言うとだな。

 

俺っていう存在が現れた事によってISを男でも扱えるという小さな、小さすぎる光が差したわけだ。

当然と言えば当然、どうにかして生体サンプル、最上ならば俺と言う人間そのものを手に入れてやろうと躍起になる訳よ。

そうなりゃ男の軍人に乗らせることが出来るから女権団とかいうクソ面倒な奴らや女尊男卑思想の連中も黙らせることが出来る。

 

まぁ、一応俺は日本国籍だから当然と言えば当然だが日本政府は利権を全て独占する為に一切を拒否。

アメリカからの要求すら断ったと言えばどれほどか分かってくれる?

 

俺、こういう感じに大事にされるのはちょっと遠慮したいなぁ、って。

 

 

 

まぁそこには人権云々じゃなくて得られる利権の事しか考えてない訳だけども、そんな日本も束と千冬、主に束によって俺の身体検査なんかは一切禁止された。

 

まぁ、そりゃ所有しているコア全てを停止させるだとか一切の経済を麻痺させて二度と国として立ち行かなくなる様にしてやる、と脅されれば引き下がるしかない。

 

そんなことをすればお隣の赤い旗の国とか元赤い旗の国の元締めがどんな行動を起こすか分かったもんじゃない。

 

で、何処の国も一切俺の情報を知らない訳だ。

 

 

そこに目を付けたのがダニエル氏。

ただ、ダニエル氏は俺と言う人間を生体サンプルとして見たのでは無く、

 

「娘の隠れ蓑にすることが出来るのではないか」

 

そう考えた。

そこでどうやるか。

 

先ずIS学園へ普通に試験を受けての入学。

だがこれは直ぐに無理との結論に至った。そもそも、シャルロットは事実はどうあれ表面上は妾の子、という事になっている。

 

一応本妻であるアニエス・ヴァロワとの間に子供は一人も居なく、なんなら肉体関係すら持っていないと来たもんだ。

そんな中に妾の子をIS学園に普通に入学させるのは無理がある。

 

と言うかアニエス・ヴァロワが絶対に許さない。恐らく夫の保護下にあろうがどんな手段を使ってでも消そうとするだろう。

 

 

 

で、次に編入と言う方法。

まぁこれは実行出来るかに思えた。

 

だが想定外な事が来たんだなこれが。

鈴の存在だった。

 

以前、話したんだが鈴は元々普通にIS学園に入学してくる予定だったんだな。

だがまぁ、中国政府がまさかの土壇場で渋り始めた。お陰で鈴はその上の連中の説得やらなんやらに手間取ってたらまさかの編入扱いで試験受け直し。

 

鈴の分の席が空いていたが編入できるのは空いている一席分、一人だけという事になる。

で、鈴とシャルロットの二人は知らんだろうが編入試験を受けたのは二人だけでその優秀な方を、と当然なる訳だ。

 

幾らデュノア社とはいえIS学園にラファールの部品をもう売らないぞなんて脅しを言えるわけがない。

そんなことをして、じゃぁ別の機体にするから良いですよと言われたらIS学園と言う最大取引相手を失う。そんなリスク、幾ら事情を知っている重役達とは言え許すわけがない。しかももし脅しを掛けたら相手となるのがIS学園と中国政府と言う敵に回せば面倒この上ない連中なわけだ。

 

で、ちゃんと試験を受けたんだが勝ったのが鈴だった。

まぁ、当然負けたシャルロットは編入を断られたわけだな。

で、ダニエル氏はめっちゃ頭を抱えた。そりゃシャルロットだって競争相手である鈴さえ居なければ、合格はするのは滅茶苦茶難しい、と言われているIS学園の編入試験を受かるぐらい優秀だ。

 

知識だけでなくIS適正はA、操縦技術も十分以上に高い。

だが鈴がそのちょっとばかし上を行ったってだけ。

 

普通ならそれで話は終わるだろう。

だが、シャルロットはともかくダニエル氏はそうはいかなかった。

期間限定とはいえ娘の命を守る為の、最後の手段であり頼みの綱だったんだからそれが絶たれてしまったとなれば誰だって焦る。

 

で、焦ったダニエル氏は男性操縦者である俺、では無く「男性操縦者と言う単語」そして「男性操縦者である事の価値」存在に目を付けた。

 

これがシャルロットが男として転校、編入してきたところに繋がる。

ダニエル氏はこう考えた。

 

「世界には一人しか男性操縦者が居ない。だが娘をもし男として扱うのであればIS学園に入れられるのではないか」

 

と。

まぁ、正直言って正気じゃない。

 

だがそれほどにその時のダニエル氏とシャルロットは追い詰められていた。

というのもアニエス・ヴァロワが表立ってでは無いとは言っても余りにもシャルロットにダニエル氏が肩入れしている事に不満なんてもんじゃないぐらいの怒りを覚えた。

 

自分とは子供どころか肉体関係すら無い状況なのに、何故引き取ったとはいえ未だに妾の女をそこまで愛してその女との子供を守るのか!

 

まぁ、ある種の嫉妬の感情もあったんだろう。

アニエス・ヴァロワはシャルロットを消すべく行動を起こし始めていた。

 

元々、何度も言っているがシャルロットを消そうと虎視眈々とその機会を狙っていたのだ、そこで怒りに任せて、だが確実にバレない様に殺すと準備を進めた。

 

だがダニエル氏はアニエス・ヴァロワを警戒して密かに内通者を作ったり人間を送り込んだりして情報収集、妨害を仕掛けていた。

 

当然アニエス・ヴァロワは感づいては居たが特定には至らなかった。

で、その準備が整いつつあった。

 

報告で早ければ数週間の内に実行に移すであろうと聞かされたダニエル氏は途轍もなく焦った。

 

そして焦ったダニエル氏は男としての仕草や振る舞い、話し方などの教育もそこそこ、いや殆ど準備不足で教えただけで実際にやらせるという事はせずに急遽送り込んだと言う訳だ。

 

元々、政府とは太いどころではないパイプがあるから何とかなった。

で、男だという事で送り込めばIS学園にいる俺の生体サンプルを手に入れられるとかなんとか嘘八百を並べて送り込んだという事だ。

 

しかもアニエス・ヴァロワは面倒な事に女権団とも繋がりを持っていたらしく、女権団はアニエス・ヴァロワからシャルロットを消すという話を持ち掛けられた時に大喜びで飛び付いた。

 

何故かというと、ISの機体を製造している会社の社長がダニエル氏と言う事を嫌がったからだ。

もう奴らは本気で地球上から駆逐してやる!!ってした方が良いんじゃないか?

 

で、女権団がアニエス・ヴァロワに要求したのは女権団に対する援助とデュノア社社長、ダニエル・デュノアを社長の座から引き摺り降ろしてアニエス・ヴァロワ、もしくは女権団が指名する人間を社長とすること。

 

アニエス・ヴァロワはその要求を飲んだ。

 

 

……アニエス・ヴァロワとか女権団がデュノア社を継いだらマジで横領やら殺しやらやって潰れると思うんだけど。

女権団って女性の権利を!とか叫んでるけど実際の所は賄賂、脅迫なんて当たり前、それ以上の犯罪も平然とやるような連中だ。

ガン細胞と変わらん。国を任せたらそれこそ独裁国家とは比べ物にならない地獄が繰り広げられるに決まってる。

 

最悪、男は要らないとか言って全員処刑する可能性すらあるぞ。

そうなったらスターリンも毛沢東もポル・ポトも真っ青だな。

 

 

そんな危険性があるからこそISが国そのものを左右するなんてご時世になった今でも、何処の国も表立ってではないが女権団を準テロ組織として警察はマークしているし、なんなら証拠が揃えば摘発もしている。

 

アメリカはFBIだかCIAが秘密裡にテロ組織と認定、どうやって殲滅してやろうかと考えているとか。(これも束に聞いたんだけど)

 

 

それにデュノア社ほどの大企業を率いる才能はアニエス・ヴァロワ達には無いらしいし。

過ぎたる力は身を亡ぼすってな。

 

まぁ、当然送り込む準備なんぞ急ごしらえで碌に整えた訳でも無かったから人間の身体についてまぁそれなりに知っている、俺や千冬にバレる。

 

 

で、シャルロットを消すという計画に失敗したアニエス・ヴァロワ、正確には女権団だが当たり前の様にブチ切れた。

 

で、怒りの矛先はシャルロットをIS学園に逃がしてくれたダニエル氏に向けられた。

今日までダニエル氏は何度も襲撃にあっている。幸いにも命に関わるような大怪我はしていないが。

 

最終的にアニエス・ヴァロアは逮捕された。

そりゃ殺人や脅迫、拷問を指示したんだから当然っちゃ当然だ。

 

 

 

情報収集のために泳がせていたのは事実。

だがまさか裏にそんな話があったとは束から聞かされるまでは思ってもみなかった。

なんなら、

 

まーた俺を狙って来やがったなコンチクショウ!俺ってばやっぱり超人気者だな!

 

なんて考えてたぐらいだ。

 

 

 

 

 

IS学園に入れたはいいけど、そこでまさかのドイツがVTシステムとかいうマジでやらかしてくれた。

お陰でドイツと裏で手を組んでいたフランスも知られたくない色々な話をすっぱ抜かれたわけだ。

 

ISコアは全部取り上げられたし国はこれからどうなるか本気で分からないぐらいにまで堕ちたし。デュノア社もその呷りを食らって国防に携わっているとはいえ倒産寸前。

 

一応、ダニエル氏によるシャルロットを男として送り込んだという犯罪は今日の為に公開を待って貰っている。

 

 

 

 

 

 

「これで全部だ。気は済んだかい」

 

「えぇ。最後に一つだけ改めてお聞きしても宜しいですか?」

 

「あぁ、この際何でも聞いてくれ」

 

「ダニエル・デュノアさん、貴方は娘であるシャルロット・デュノアをどう思っていますか?」

 

「そんなの勿論、この世界で一番に愛しているに決まっているだろう。何があっても、この身に変えてでも守り抜く覚悟があるぐらいにはね」

 

「そうですか」

 

ダニエル氏はそういうと大きく息を吐いた。

 

「ダニエル氏、私は貴方に謝らなければならない」

 

「ふむ、何をだい?」

 

「私は、貴方の本心を聞き出すという目的のために貴方の御息女に対して許されない暴言を吐きました。許されるとは思っておりません。ですが謝らせてほしい。本当に申し訳ありませんでした」

 

これだけは、許されないとしても筋を通して謝らなければならない。

いくら芝居とは言っても俺は普段、俺の人権云々と言っているにも関わらず一人の少女の人権を一切無視した発言をした。

それも実の父親の前で。

 

これはどうやってでも頭を下げて謝って然るべきなのだ。

 

そんな俺を、ダニエル氏は肩を押して顔を上げさせた。

 

「何、気にしなくていい。あれは演技だったんだろう?それに君はシャルロットの身を案じて今回、私の下にやって来てくれたのだろう?」

 

「まぁ、そうですが……」

 

「確かに最初は怒りを覚えたよ。だが本当の事が分かった以上私は君に対しては何も怒る理由も事も無い」

 

彼は俺を許すと言った。

だが、俺はこれから先心の中で負い目になるだろうな。

 

「……ありがとうございます」

 

「さて、これで話は終わりかな。そしたら私は警察に出頭するとしよう。大方、君かDoctorシノノノが私の悪事を公開していないから今こうしてここにいるわけだろう」

 

「その通りです。ですがその前にお会いして頂きたい人がいます。どうか会って頂けないでしょうか?」

 

「会って欲しい人?まぁ、構わないが」

 

「それでは呼んで来るので少々お待ち頂けませんか」

 

「分かった」

 

さて、それじゃぁ感動の親子再開と行こうか。

こんだけ父親が本音をぶちまけたんだ、少しは蟠りが無い会話が出来るだろう。

 

 

 

 

 

「シャルロット」

 

「……グスッ」

 

部屋の扉を開けて出ると、シャルロットは膝に顔を埋めて泣いていた。

 

「ほら、親父さんが待ってるぞ。少し話してこい。千冬には話付けてあるから好きなだけ、気の済むまで話してこい」

 

「……ありがとうございます」

 

シャルロットを連れて部屋に戻る。

俺の後ろに隠れているが直ぐに顔を合わせるのに意味無いだろ。

 

「お父さん……」

 

「なっ!?シャルロット!?どうしてここにいるんだ!?」

 

そう言ったダニエル氏は驚愕の表情と共に俺を見てくる。

軽く笑ってやると、今回は完全にしてやられた!という表情になった。

 

ダニエル氏は少し固まっていたが、溜息を1つ吐くとシャルロットの前に出て頭を下げた。

 

「シャルロット、幾ら君を守るためとはいえ、今まで辛い思いをさせてしまって本当にすまなかった」

 

「私の方こそ、ありがとう。今までずっと私とお母さんの事を守ってくれて」

 

二人は泣きながら手を取り合っている。

それじゃ、俺は部屋の外で待ってるか。ここに居座る程俺は馬鹿じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからたっぷり次の日の朝まで親子水入らずで語り合った二人は、今までの事など無かったかのように笑っていた。

 

「今回は、本当にありがとう。娘と最後に話せて良かったよ」

 

「いえ、こちらこそお時間を態々取って頂きありがとうございます」

 

「それでは、私は今度こそ警察に出頭するよ。どうか、娘の事を宜しく頼む」

 

「はい、お任せください」

 

「お父さん、私待ってるから。罪を償ったら今までの分沢山思い出作ろう」

 

「シャルロット……分かったよ、ありがとう。いつかその日が来る事を心待ちにしているよ」

 

ダニエル氏はそう言ってシャルロットを軽く抱き締めて俺達に背を向けて去って行った。

 

「佐々木さん」

 

「ん?」

 

「今回は、私の為にありがとうございました」

 

「いや、俺の気紛れでやっただけだ。気にするな」

 

「でも、私も二週間後にはフランスに正式に帰国して逮捕されるんですけどね」

 

「あ、その事だけど」

 

「え?」

 

「シャルロットちゃんには今までの話を全部公開して悲劇のヒロインになって貰う予定なので安心して大丈夫だぜぃ」

 

「え、ちょ」

 

「そんじゃ帰るかー!さーすがに徹夜は辛いぜ!」

 

シャルロットが何か言いかけてたがまぁ、良いか。

今日は休みだからな、昨日の分しっかり寝ないとな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園到着後。

まぁぶっちゃけ千冬と束以外に滅茶苦茶問い詰められた。

 

一夏とセシリアは片言で淡々と詰め寄りながら目のハイライトを何処かに追いやって……ちびるかと思った。

 

箒は平静を装っているけどよく見ればカタカタカタカタ小刻みに震えて、気を紛らわせるために飲んだお茶が口の端から零れてたし。

 

鈴はケラケラ笑ってた。

許さん。あとで俺を助けなかった事、後悔するがいい!

 

 

 

まぁなんで詰め寄られたかと言えば俺が朝帰り、しかも相手はシャルロットと来たもんだ。シャルロットは男として学園に通っているからもう、一部の女子が興奮のあまり鼻血を出してサムズアップする有様。

 

知らないって幸せな事だな。

 

まぁ、学生の内はこうやって満喫してなさいな。社会に出たら見たくない所とか汚い所に嫌でも触れなきゃならなくなるんだからな。

 

 

で、予定通り束が一連の話を包み隠さず(多少の美化アリ)世間に公表。

目論み通りシャルロットは悲劇のヒロインとして世間から同情を受けた。

 

ダニエル氏は、娘を守る為に、という事であちこちから同情の声が上がった。

結果、犯罪を犯したことは事実。だがしかし一連の騒ぎとも関係は無く、情状酌量の余地あり、と言う事で刑期は短くなり6年と言う年数を刑務所で過ごす事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十日後。

 

「え、えーと、今日は転校生を紹介しまーす……」

 

HRをする為に教室に入って来た山田先生は、途轍もない困り顔で悩みながらそう言った。

千冬も一緒に入ってくるが、二人の顔には疲労の色が濃く見て取れる。

本当にご迷惑お掛けしました。

 

千冬はあれだね、ちょっとお願い事聞いてあげれば元気満タンになるから良いとして、山田先生にはどんなお詫びとお礼をしようか。

あれかな、食いものが良いんかな?化粧品とか全く分からんからなぁ、後で昼飯か晩飯でも誘って奢るか。

 

 

 

「え、今頃転校生?もう臨海学校も近いのに?」

 

「ねー、何かあったのかな」

 

「うーん、転校生では無いと言いますか、何と言いますか……」

 

クラスメイトの少女諸君は転校生と言う単語にワイワイ騒いでいる。

そりゃこんな7月とかいうめっちゃ中途半端な時期での転校だ。不思議がるわな。普通なら二学期に転校するし。

 

「ねーねーお兄ちゃん」

 

「んぁ?どうした一夏」

 

「シャルル君、今日来てないよね?」

 

「あー、そういやそうだな」

 

「何か知らない?」

 

「いんや、俺は知らないね」

 

嘘です、めっちゃ知ってます。

なんなら居ない原因の主犯格だったりします。

 

でもあれだね、皆知らないのに自分だけ知ってるってなんか優越感あるね。

 

あぁ、何という優・越・感!クックックックック……少女諸君、精々驚いてくれたまえよ?

 

 

「えーっと、それでは入って来てくださーい……」

 

プシュー、と音を立てて自動ドアが開く。

そして入ってくるのは何処か見覚えのある金髪と顔立ち、雰囲気を持ち合わせた十人中十人が美少女と言うような外見の少女。

 

町中に居れば間違いなくナンパの標的にされるであろう。

 

キュッ!っと教壇の真ん中で止まってこっちを向くと、にっこりと笑っていた。

 

「シャルロット・デュノアです!皆さん、これからよろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それで終われば良かったんだけどさぁ、おじさん達の事だからそうならなかったんだよねー。

 

 

 

「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?」」」」」」」」」

 

 

 

「うぎゃぁぁぁぁ!?!?」

 

久々に音響兵器を食らったぜぇ……一瞬意識が飛びかけるぐらい脳みそが揺さぶられた……

 

お前ら、ロックじゃねぇか……

 

 

 

 

 

 

「デュノア君は、デュノアさんでしたー……アハハハハ……」

 

山田先生は、冗談のつもりかそんな事を言って空笑いをするが周りはそれどころじゃない。阿鼻叫喚とは正にこの事。

 

「ど、どどど、どういう事!?」

 

「ウワァァァ!!夏の陣に向けてウス異本が分厚くなると思てったのにぃぃぃぃ!!」

 

「そうじゃねぇだろ!?」

 

思わず突っ込んでしまったぜ。

で、これが俺の運命の尽き。

 

知らないとか言ってた癖にそんな事言っちゃったもんだからさぁ大変。

 

 

 

「お兄ちゃん」

 

「オウフ……」

 

「これ、どういうことか知ってるよね?なんで私達の目の前に巷で話題の悲劇のヒロインさんがいるのかな?」

 

「えっと、いや、えっとですね……?」

 

ラブリーマイエンジェル一夏よ、何故そんな気配も無く後ろに立てるんですか?

なんで俺の首に腕を回してそのちっちゃなお顔を後ろから覗かせてるんですか?怖いです。止めて欲しいです。

 

「洋介兄さん、説明してください。早く。さぁ早く!」

 

「ちょっと待て箒!そんな詰め寄ってくるな!分かった、説明するから!詰め寄って来ないで!!」

 

箒ちゃん、どうしていつもの大和撫子、淑女然とした態度からそんな荒々しくお兄ちゃんの肩を掴んでガクガク揺さ振るんですか?おっきなおっぱいがゆっさゆっさ揺れてて大変な事になっていますよ。

 

「オジサマ、ワタクシハオジサマノコトヲシンジテイマシテヨ……?オホホホホホホホ!!!」

 

「ア”-”ッ!ア”-”ッ!?セシリアさん何故片言で震えながらティーカップ持ってるんですか!?何処から出したんですか!?お紅茶が零れてましてよ!?」

 

セシリアさん、なんでティーカップを持っていその中に紅茶が入っているんです?

何で片言で震えながら喋っているんですか?あと俺は窓の方には居ませんよ?

 

 

 

 

 

まぁ、朝帰りの相手が男だったってだけでも死ぬほど絞られたのに、その相手が本当は女の子でした、となりゃ年頃のお嬢さん達は色恋、男女のあれこれな話が大好きな訳だからやばいのなんの。

 

 

 

 

まぁ、死ぬほど皆から問い詰められて全部ゲロッちまいました。

本気で、VTシステムと戦った時以上の危機を感じたぜぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マァジ大変だったぞ……」

 

何とかして逃げ切り、木陰でぐったり座り込んでます。

そんな俺に声を掛ける人が。

 

「佐々木さん」

 

「ウォッ!?」

 

シャルロットちゃんでした。

と言うか君らスニーキング得意なの?なんで俺、君達の接近に気が付けないの?

俺が鈍いだけ?

 

「隣、座っても良いですか?」

 

「ドーゾドーゾ。お好きになさって下さいな」

 

隣に座ると、俺とシャルロットは何か分からないけど互いに無言になった。

いやだって、何話せっていうのさ。

 

ちょっと負い目もあるんだぞ?平然とホイホイ接する事なんぞ出来ない。

 

あー、なんか気不味い……少なくとも俺はすっごく気不味いよ。あとで胃薬飲んどこうかな……

 

 

「佐々木さん、本当にありがとうございました」

 

「……何が?」

 

白を切ろうとしたんだが駄目か。

 

「私の事、父の事。全部です。私をあんな状況から助けてくれた。それだけじゃなくてこうして女の子として学園にまで通わせて貰って。色々あって刑務所に入れられるかもしれない状況で……もう、絶望しかなかったんですよ?」

 

「……偶々だ、偶々。何となく俺が助けてやるか、ってなっただけだ。偶々、俺の助けられる範囲に居ただけの話だ」

 

「それでも、助けてくれたのは事実です」

 

「俺ぁ、そんなことちっとも思っちゃいないんだけどな」

 

「もう、謙遜も過ぎると嫌味になる、でしたっけ?」

 

「うーん、今のはちょっとばかし違うとは思うんだけど、まぁそう言う事にしておくか……」

 

俺がそう言うとなんか嬉しそうに笑う。

なんでだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば佐々木さん、父に私の事宜しくって頼まれていましたよね?」

 

「んえ?あぁ、まぁそうだな。それが?」

 

「責任、ちゃんと取ってくださいね?」

 

「……ん?ぱーどぅん?」

 

ちょっとこの娘、なんか訳分からん事言い始めたんですけど。

思わず英語で聞き返しちゃったじゃん。

 

いや、発音とか覚えてねぇからほぼ日本語だけどさ。

 

「だって佐々木さん、生かして家畜以下の扱いをしても良い、とか風俗や娼館で身売りでもさせましょうか、って。私、すっごい傷付いたなー」

 

「クッ……!傷付いたとか言ってるけど顔は笑っていやがる!だけど事実だからなんも言い返せない……!」

 

「それじゃ、責任取ってくれないと。じゃないと織斑先生達に言いつけちゃいますよ?」

 

「それだけは止めてくれ!マジで!本当に!ぶっ殺される!」

 

「それじゃぁ」

 

「……責任……取らせて頂きます……」

 

俺は、自業自得とはいえ負けた。

 

まぁ、でも多分父親代わりとかそんな感じだと思う。

……いや、俺を玩具にするつもりなのでは?有り得るな……

 

なんかもうめっちゃ怖い。

 

 

 

 

 

 

 

その後、何故かやたらと懐かれて、抱き付いて来たりなんやらかんやらで修羅場が形成されて中心人物になっちゃった俺は、胃薬の飲む量が増えちゃったのは笑い話。

 

……いや、笑えねぇな。一回人間ドック、束の所で受けてみようかな……

 

 

そんな心配をしちゃう俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シリアス展開な筈なのに途中、コミカルな感じになっちゃったのは気のせい。









投稿、遅れて本当に申し訳ありませんでした。





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臨海学校だぜ!水着の準備をしろ! おじさんを悩殺できるかな!?優勝商品はおじさんだ!

筆が乗ると執筆が速い作者でっす!













 

 

 

 

VTシステム関連の世界規模での大騒ぎが収まってきたこの頃。

 

まぁ未だに騒ぎは続いているんだけども最初よりはずっと落ち着いて来た。

で、変化が幾つか。

 

まず、ラウラが所属していたドイツ軍のIS部隊、シュヴァルツェア・ハーゼ、黒兎隊って呼ばれてんだけどもそれが丸々束に雇われた。その人数、12人になる。

 

いやね、ちょっと何言ってんのか分かんないと思うんですけど説明しますとね?

 

彼女達、黒兎隊は分類としては特殊部隊となる。

がその性質が大きく通常の部隊とは違っていた。

 

というのもだ、ISを扱わない歩兵や機甲部隊はそれぞれの兵器の扱いを十分に学んでいるし、銃の撃ち方ならばそれなりに出来るんだが黒兎隊は完全にIS専門の部隊。

 

射撃訓練こそ生身で行うがその他の訓練は一切行って来ていなかった。

 

だから他の部隊に配属しようにも、言い方はキツイが使い物にならなかった。

 

まぁ、体力や学力に関しては軍の中でもトップクラスに優秀だったんだがそれ以外が点で駄目となれば、現状のドイツ軍にはそれを養える余裕なんてどこにも無い。

 

そこで黒兎隊は全員が軍を追われた。

今のドイツ軍とフランス軍はISが登場する以前の戦車や戦闘機などが再び大きく息を吹き返していてそれらの再配備を進めている。

 

まぁ、財政的にかなり厳しいから陸上戦力を中心としている。

しかも驚いた事にドイツとフランスの両国が防衛協定を結んだんだよ。

 

流石におじさん、びっくりしちゃったね。

 

まぁ、当然っちゃ当然か。

一国ではISを持つ国に対抗することは出来ない。

 

だけど隣に自分と同じ状況の奴がいる。なら手を組むのはある意味で必然と言えた。

 

 

 

 

 

で、職を追われた黒兎隊のメンバーなんだけど当然、民間での常識なんて無いからドイツとかいう超絶不景気な国の中じゃどこにも再就職先なんて無かった訳だ。

 

まぁ、彼女達、VTシステムの件で軍に相当不信感を募らせて軍に残るべきかどうか悩んでたらしいからある意味で解雇されたのはフッキリが付いていたらしい。

 

で、まぁ軍に居た頃の蓄えもあったから暫くは暮らしていけるけどそれが尽きたらどうしよう、ってなって迷ってたんだな。

そんな時、ラウラがそんな現状を聞いちゃったから束ママン、娘の為に解決しちゃおう!ってなった。

 

で、なんならウチ来る?的な感じで話がトントン拍子に進んで行って気が付いたら束が警備員兼テストパイロットとして雇ってたって訳。

 

まぁ警備員つってもISを全員が装備してるから私設軍隊って言った方がしっくり来る、なんて事は言わないであげて欲しい。

 

で、警備員として雇ったってのは納得出来ると思うんだけどテストパイロットって何?って当然思う。テストパイロットのはだな?

束は未だに宇宙に、月以外の惑星、例えば火星だとか水星だとか、太陽系外を出て天の川銀河すら飛び出る事を諦めていないどころか現在進行形でその計画を実行に移そうって考えている訳だ。

 

だけど、そんな宇宙空間や環境の全く違う惑星に何の準備も無く降り立ったら大変なことになる。ISがあったとしても何が起きるか分からない。

そこで束は黒兎隊に新しく開発した装備なんかのテストパイロットをやってもらう事にした。新しい装備ってのは宇宙空間や他の惑星での大気圏内での行動をする為のなんか良く分からん諸々の装備の事だ。

 

おじさん、説明して貰ったけど全く分からんかった。

 

何となくスゲー、って思った記憶しか無い。

まぁでも束の事だから分かる人が聞いたらしりもち就くなんてレベルじゃないぐらいに驚くんだろうな。それこそ気絶したりするかもしれん。

 

まぁそんなわけで黒兎隊が束に雇われたよ、って話でした。

 

因みにラウラに変な事を吹き込んだクラリッサには現実を突きつけるというお仕置きしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて何時もと変わらず、朝起きて顔を洗い飯を食い歯を磨き制服に着替えて教室に向かう。

 

うーん、慣れたけどやっぱし俺が制服着てると違和感しか感じないな。

そりゃ高校生が着るようなデザインの服をおっさんが着てるんだぜ?そりゃもう傍から見たら痛い人ですよ。

良くみんなはそんなこと言わないね。言われたら部屋に引き籠る自身あるよ、俺。

 

 

今は千冬と同じ部屋で寝起きしている。

ってのも束の月面秘密基地からでも通えるっちゃ通えるんだけどまぁ、あの瞬間移動が慣れなくてですね……

緊急時は速攻で月面基地送りにするって約束させられましたけどね。

 

ラウラはシャルロットと同じ部屋で寝泊まりして、毎朝早くから食堂で俺の事を待っているらしく、一緒に飯を食おうと必死になっている。

 

まぁ、流石に何時までも待たせるはあれだから今は時間を決めてその時間に集合する事になっているけど、その度に他の皆も一緒になって付いてくるのは何故だ。

別に嫌だって訳じゃないよ?

 

でもよ、毎回何人ものJKに囲まれるのはすっごい変な気分……

しかもラウラは束の説明により俺の事を父親として認識してるからそりゃもう膝の上に座って来たりするんだよ。

まぁそこは可愛いから全然おーけーなんだけどそれにジェラシーを感じちゃった一夏がズルいと飛び付いてきて、それに感化された皆が突っ込んでくるからもうね。

 

まぁ、いいや。

 

それで今日はですね。何時も通り千冬と山田先生が教室に入って来てHRを始めて各種連絡事項を通達していく。

それで千冬が言いました。

 

「諸君、臨海学校が2週間後に迫っている。そこで3日後までに班を作れ」

 

はい、そうです。

遂に臨海学校が迫ってきました。

 

まぁぶっちゃけ班を作るってのは専用気持ちの一夏達には関係無いんですけどね。

というのも専用機持ちはそれぞれ自分の国から送られてきた新しい武装やらなんやらのテストを行う訳だ。

 

で、それ以外の俺みたいな専用機を持ってないのは班を作りなさいってことなんだね。

因みに箒とラウラ、シャルロットもこっち側。というのもそう言う物のテストは黒兎隊の皆がやってるからラウラにやってもらう必要が無いんだな。それにラウラ自身が今でもISを展開する事に怯えてるからってのもあるけど。

一応、専用機としてそのまま持ってもらってるけどシャルロットはそもそも国から送られてくる装備なんて無いからだな。

 

 

 

で、それが問題だったんだな。

 

「お兄ちゃん、一緒に班組もうよ」

 

「ねぇ、俺は専用機持ってないよね?知ってるでしょ?」

 

「知ってるよ?だから一緒に班組もうよ」

 

「一夏よ、人の話聞いてくれない?」

 

一夏は専用機を持ってない俺と班を組もうとしてくるし。

 

「小父様、私と共に班を組みませんか?」

 

「ねぇ、だから俺は専用機持ってないって言ってるよね?」

 

チクショー!二人はもう駄目だ!

 

「はぁ……おい、お前達、兄さんは専用機を持っていないからお前達とは班を組めない。良いな?」

 

「はーい……」

 

「むぅ、仕方ありませんわね……分かりました」

 

千冬が呆れながら説得してくれたお陰で二人は漸く納得してくれたぜ。

もうこの子達ったら、大丈夫かしらん?

 

 

 

 

 

 

で、その班を組む事になったんだけど当然箒とラウラ、それにシャルロットが固めに来た訳だな。

 

で、4人班ってなったんだな。

そこは別にいい。

 

良いんだけど。次に放った千冬の一言が嵐を巻き起こしたんだなこれが。

 

「あぁ、臨海学校は四泊五日だがその内の初日と2日目は自由時間だ。目の前は海だからな。入りたい者はしっかりと水着を用意しておけよ。まぁ、学園指定の水着でも構わないと言うのならそれでも良いがな。最悪、下着さえあればまぁ入れなくもないだろう」

 

この言葉で千冬と山田先生が出てった後がもう本当にね大変だった。

 

 

 

 

 

簡単に言っちゃえば何時ものメンバーとなんやかんやあってお買い物に行くことになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳でやってきましたレゾナンス。

 

メンバーは一夏に箒、鈴とセシリア、それにラウラとシャルロット。

 

IS学園のモノレールに乗ると終着点、というよりここしかない訳なんだけど、レゾナンス駅ってのだ。

他の路線に乗るならここで乗り換える必要があるんだがまぁそんなことはいいや。

 

で、朝早く、8時に待ち合わせをしてそっからモノレールに乗り込みレゾナンス駅で降りる。で、皆で遅めの朝飯を取った。

 

 

 

 

もうね、俺は今とっても居心地悪い。

だって周りを多国籍な美少女に囲まれてんだぜ?

しかも皆はやたらと気合の入った服で来てるのに俺はまぁ、普段通りで良いかってって白の半袖に紺色の短パンだぜ?それにサンダルを履いているんだから色んな意味で俺は目立ちまくりよ。

 

そりゃ傍から見たら冴えないおっさんが金髪銀髪入り混じった美少女に囲まれて歩いてんだから好奇の視線に晒されるってもんよ。

しかも男共はめっちゃ嫉妬の視線を惜しげも無く向けて来よる。

 

どーだ、羨ましいか。ならここに立ってみろ、嬉しいのはほんの少しだけだから。直ぐに胃が痛くなるから。胃薬手放せなくなるから。

 

「……小父様、緊張していらっしゃいますの?」

 

「うん、もう今すぐ帰りたい」

 

「んもう、そんなこと仰らないで下さいな。ほら、あちらのお店に行ってみましょう」

 

そう言ってセシリアは俺の手を引いてなんか高級そうな服屋に連れて行く。

いや、そう言ってくれんのは嬉しいっちゃ嬉しいんだけどよ、考えてみて欲しい。

 

 

 

俺を兄と呼ぶ俺とはどう見ても兄妹とは思えない黒髪の二人。

 

あくびをしながら付いてくる高校生には見えないちびっ子。

 

俺を小父様と呼ぶ金髪っ子。

 

俺を父と呼ぶ、到底娘には見えない似ても似つかない銀髪っ子。

 

俺をさん付けで引っ付いてくる金髪っ子。

 

 

 

はい、もう一人だけでも事案なのに五人も揃っているって俺はどこの金持ちだよと言いたいね。

まぁ俺が何を言ってもこの子達は気にしないでそのまま俺を連れ回すんだろうけどさ。

 

 

 

 

 

 

「あー、箒、ラウラ、シャルロットちょっと集合」

 

「洋介兄さんどうかしたんですか?」

 

「ん?父よ、どうかしたのか」

 

「佐々木さん、何かありました?」

 

俺はセシリアに連れ回された後にラウラとシャルロットを呼ぶ。

 

「はい、今日は君達にお小遣いをあげます!」

 

「何!?それは本当か父よ!」

 

「本当だぜー?どうする?欲しい?」

 

そう、今日は代表候補生じゃなくなっちゃった娘っ子二人とそもそも代表候補生でも何でもない、アルバイトも出来なくてお金が無い箒にお小遣いをあげるのだ。

 

まぁ、ラウラとシャルロットの二人は今までの貯金とかあるだろう。下手をしなくても俺よりお金持ちだろうし。だけどそのお金はこれからの人生の大事な時の為に取っておいて欲しいからな。

 

一夏とセシリア、鈴はあげないのかって?

あいつら、俺が働いてた時よりもずっと高給取りなんだぞ!知ってるか!?代表候補生でも俺の月収30万の倍は貰ってるんだぜ!?15、16歳で給料60万以上貰ってるとかこいつら凄すぎだろ!

 

まぁそれ相応以上の努力をしてきたから、っていうのもあるけど。

 

 

そういう事で、払える人は自分でお願いします!

 

 

 

 

 

「でも、大丈夫なのか?」

 

「え、何が?」

 

「父は働いていないのだろう?無理をする必要は無いと思うのだが……む、どうした父よ、何故膝を抱えて座ったのだ?」

 

「ラウラ、今のは言わない方が良かったかなー……」

 

「いいんだ……いいんだよシャルロット……確かに俺ぁ、無職で何故か学生やってるオヤジだからな、ラウラの疑問は尤もな疑問なんだ……」

 

「洋介兄さん……」

 

箒は俺の肩をポンポンと叩きながら何故か頭を撫でてくる。

うん、今はその心遣いが傷にめっちゃ染みるぜ……

 

「私は何か言ってはいけない事を言ってしまったのか……?父よ、それは済まなかった……」

 

項垂れて申し訳なさそうに謝ってくるラウラ。

うん、大丈夫よ、お父さんはこのぐらいじゃ何とも無くってよ……

 

ラウラの言葉は悪意無しの純度100%。

それも俺の懐事情を心配してくれたんだから怒れないし、そもそも怒る気なんて無いわけだ。

だけど純度100%の言葉ほど心に突き刺さるんだな……身を以て体験するなんて思ってもみなかったぜ……

 

 

 

 

 

「ほら、初めてのお小遣いって事で取り敢えず1万づつ渡しとくからこれで好きな物買いなさい」

 

「おぉ、これがユキチか!」

 

「……ラウラ、その言い方はやめなさい」

 

「ん?何故だ?クラリッサは日本人は皆この様に呼ぶと言っていたぞ」

 

「ラウラ、それ間違いだから。確かにそう呼ぶ人もいるけど普通はそんな呼び方しないから」

 

「そうなのか」

 

取り敢えず1万円渡しておくと、ラウラが一万円札をユキチと呼んだ。

クラリッサの野郎!あいつまーたラウラに変な事教えやがって! 

 

なーにが、

 

「大丈夫です、これからはそのような事は起こさないと誓います」

 

だ!

しかもばっちりキメ顔だった辺りが何となく信用出来なかったけど!

 

まぁ、そんな訳で三人に一万円づつ渡した。

で、今回買い物に来た理由なんだけども、水着を買いに来たのだ。それ以外の買い物は前部全く関係無いっていうね。

 

あれ、俺ってなんでこんな連れ回されてんだろ……もうスパッと水着だけ買って飯食って帰えりゃいいのに、

 

と思うけどそんなことを言った日にゃどうなるか分からないから、頭の良いおじさんは大人しく連れ回されているのです。

 

 

臨海学校四泊五日中、最初の二日は自由時間となっている。まぁ、臨海学校ともある通り宿泊する旅館の目の前には海が広がっている。

で、今の季節は六月後半とはいえ既に夏に入りかけている。

そんな中、暑い夏、目の前に海、綺麗な砂、と来れば女子高生諸君が我慢出来る訳も無く。まぁそもそも千冬達先生からも水着を持ってくるようにって言われているぐらいだからね。

 

そう言う訳で今、こうして水着を物色している訳だ。

 

 

 

 

 

 

「ねーねー、これなんてどうかな?」

 

「あー、はいはい似合ってる似合ってる」

 

「……もうお兄ちゃん、ちゃんと見てよ!ほら!」

 

「見てるよ、ったく」

 

雑だって?そりゃ2時間も水着選びに付き合わされてたらそうなるよ。

俺なんかその辺にあるハワイアンな水着とアロハシャツ、サングラスと麦わら帽子を一目見てビビッと来たから即買いだったのに、なんだって君達はこんなに時間が掛かるのかね?

本当はウクレレも欲しかったんだけど売ってねぇや。楽器屋に行けばあるんだろうけど弾けないしやっぱいらんわ。

 

 

あと、店員さんの俺を見る目が怪しい奴を見る目なんだよなぁ……

 

そりゃ美少女に囲まれて代わる代わる水着を見せられてるおっさんが居たら変な奴とか怪しいとか思うよ?

だけどその視線が露骨過ぎませんかね?

 

 

 

 

 

「ふふん、どーよ!アタシの水着姿は!」

 

「あー、可愛い可愛い。チョー可愛い。もう掴み上げてブン回して投げ飛ばしたいぐらい可愛い」

 

「そーでしょそーでしょ!……ん?投げ飛ばしたいってどういう事よ」

 

「いや、そんな事一言も言ってませんよ?えぇ、言ってませんとも」

 

「……まぁ良いわ。長時間付き合わせて悪いわね」

 

「ん、まぁ気にすんなや。目の保養にはなるわけだしな」

 

「ふーん……それじゃ次の水着選んで来るから変な奴に絡まれんじゃないわよ。さっき明らかに女尊男卑思想のオバサンが居たから」

 

「そりゃ忠告どうも。ほれ、選びに行って来い」

 

「分かってるわよ」

 

鈴に水着を見せられて、あーだこーだと言いつつもこのちびっ子は優しいから態々俺を気遣ってくれる。

 

まぁ、一夏達が優しくないって訳じゃない。

目の前の事が楽しすぎて夢中になってるってだけだ。それも学生の特権ってな。まぁ俺も今は学生なんだけど。

 

それにしても厄介系のオバサンが居るのかー。

あれだな、絡まれない様に大人しく石像にでもなっておこう。俺の隠密スキルならば誰にも気が付かれる事は無い!……筈。

 

 

 

 

「小父様小父様」

 

「はい小父様です」

 

「この水着なんてどうでしょうか?」

 

セシリアが持って来たのは黄色のビキニ。

うーん、似合ってるっちゃ似合ってるんだけどもセシリアのイメージカラーって俺の中ではISの機体色もあってか青色で固定されてるんだよね。

 

うん、黄色よりも青の方が多分似合う。

 

「似合ってっけど、青の方が良いんじゃね?」

 

「ふむ、ブルーですか。分かりましたわ、探してきます」

 

「いってら」

 

セシリアは少し考えると再び水着探しの旅に出た。

こりゃ、帰ってくるの何時になるかな……

 

 

 

 

 

 

 

「洋介兄さん、これなんかどうでしょう?」

 

「ンガッ……んぁ、箒か。どれどれ」

 

やべぇやべぇ、だーれも来ないから寝ちゃってたぜ。

いや、最後に来たのがセシリアで……げ、あれから一時間も経ってんの!?君ら長すぎでしょ!もう一二時半だよ!昼飯だよ!

 

思わずンガッ、とか変な声出ちゃったじゃねぇか。

まぁいいや。

 

で、箒の水着なんだけど。

白色に、黒色の縁取りがされたフリルが付いている多分ビキニ。

 

んー……

 

「個人的には見てきた中で一番似合ってるな」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「うん、本当本当」

 

「そ、そうですか……えへへ」

 

嬉しそうに笑う箒は、本当にマジで小さい頃とは別人のようだ。

小さい時も海に行ったけどあの時はお守と迷子騒動で大変だったからな。

 

ほんっと大変だった……

 

「で、どうすんだ?それに決定?」

 

「うーん、そうですね、これにします」

 

「ん、それじゃこれで買うておいで」

 

で、チラっと見た値札の金額で流石に一万じゃ厳しいと思って追加で一万円札を渡しておく。

 

本当は値段分だけでも良いかな、と思ったんだけど千円札とかの細かいのが無いんだよ。全部一万円札なんだよなぁ。

 

「な、貰えませんよ。さっき一万円貰いましたし」

 

「でもさ、その水着のお値段四千円もすんじゃん。一万じゃ厳しいでしょ」

 

「う……だけど……」

 

「良いから貰っとけ貰っとけ。俺のへそくりは意外とあるんだぜ」

 

そう言って押し付け気味に一万円札を渡してレジに行かせる。

購入して袋詰めしてもらうと直ぐに帰ってくる。

 

で、それを抱えるとストン、と俺の座っている長椅子のすぐ隣に腰を下ろした。

 

「洋介兄さん、水着ありがとうございました」

 

「ん、気にすんな。兄貴から可愛い可愛い妹へのプレゼントって事だ」

 

箒はご機嫌で鼻歌を歌いながらなにやらニコニコしている。

うん、嬉しそうで良かったよ。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん、これなんてどう?」

 

「んー……似合ってる!」

 

一夏は黒のハイネックタイプの水着だ。

ちょっと眺めて見ると、うん似合ってる。一夏はビキニなどよりもこういう方がどちらかと言えばしっくりくる。

 

別に似合ってないとかそう言う訳じゃない。どっちが良く似合っているか?と聞かれた時の話なのだ。

 

「それじゃ私これにしよっかな。買ってくるね」

 

「ん、行ってこい」

 

しかしあれだな。何で俺、妹の水着を選んでんだろうな。

もうこの年齢になったら兄貴には近づかなくなるもんじゃねぇの?キモイとか何とか言われて。

 

……あ、駄目だ。そんなこと言われた日には首を吊る自信があるぜ。

 

 

 

「……一夏、俺の事キモイとか思ってない?」

 

「え、急にどうしたのお兄ちゃん」

 

「いや、なんか急に……」

 

「えー?でも私はお兄ちゃんの事大好きだよー!」

 

「うん、ありがとうな……それが嘘でもお兄ちゃんは嬉しいぜ……」

 

「ハグしてあげようか?」

 

「いえ、遠慮しておきます」

 

水着を買い終わって俺の隣に座っていた一夏に聞いてみると、嬉しい返答が返って来た。うん、本当にそれが嘘でも嬉しいよ……

 

でもハグは止めような。こういう公共の場ではやっちゃダメなんですよ。

 

 

 

 

 

 

 

「父よ、私達は買ってきたのぞ」

 

「お、なんだもう買って来たのか」

 

「うむ、私とシャルロットはお楽しみと言うやつだな!」

 

「そりゃ楽しみだね。で、シャルロットはどこ行った?」

 

「セシリアの所に行ったぞ」

 

そう言ってラウラは当たり前かの様に俺の膝の上に座る。

まぁいいんですけどね。ラウラ軽いし。身長が鈴よりも2cm低いんだよ。驚いたぜ。何となく同じくらいか少し小さいぐらいか?って思ってたけど。

 

だから必然的に体重も軽くなる訳だ。

一夏と箒は女性にしちゃ身長高い方だからな。

 

箒は160cmぐらいだし一夏に至っては164cmもある。

まぁ千冬が166cmだってことを考えると一夏の身長は多分遺伝なんだろうなって思える。

 

箒も両親がかなり高身長な方で、師範が170後半ぐらいだったか?

華さんも170cmはありそうだから納得出来る。

束もなんだかんだで165cmもある。何で知ってんのかって?束が教えて来るんだよ、聞いても居ないのにさぁ……それを俺に教えてどうしろってんだ。

 

バスト、ウエスト、ヒップも教えてくるんだが耳を塞いで聞いてない。

んなもん聞けるわけねぇだろ!お兄ちゃんにそんなもんを聞かせて束はどうしたいんだか本当に分からない。

天才の考える事は時々分からんのだぜぇ……

 

 

 

セシリアは……多分160無いな。シャルロットも間違いなく160は無い。良くて150半ばって所だと思う。

 

何でわかるんですか??変態さんですか?って思うよね。でもこれ癖なんだよ。

 

あ、いやいやいや待ってくれ!変な意味での癖じゃなくて!そんな変態を見る様な目で見ないでくれ!

 

おじさんの戦い方って殴り合いが基本じゃん?そうなると相手の体格によって戦い方がまるっきり変わるんですよ。

 

相手が俺よりも身長が低い奴なら懐に入らせない。

 

相手が俺よりデカかったら逆に懐に飛び込んでいく。

 

とかそんな具合に。だから戦う前は必ず相手の身長体格とかを見極めなけりゃならんのだ。それを師範に身を以て叩き込まれたからついつい癖で測っちゃうんだよ。

 

まぁお胸の大きさとかは全く分からんですけど。

 

あ、ちゃんとラウラとシャルロットにも一万円渡しましたよ。

 

 

 

 

 

で、未だに戻って来ないセシリアさんなんですが。

 

「もー、セシリアってば」

 

「もうちょっとだけですわ!もう少しだけ!」

 

「ブルーって決まってるんでしょ?それなら……」

 

「そう簡単に決められませんわ!小父様にお見せするんですのよ!?」

 

「まぁ、その気持ちは十分分かるけどさ……」

 

どうやらまだまだ時間が掛かりそうです。

 

 

 

それから20分後。

漸く決まったセシリアは会計を済ませて俺の所に来る。

 

「皆さま、お待たせしてしまって申し訳ありません」

 

「気にすんな、女性の買い物が長いのは知ってるからな。そんじゃ腹減ったから遅めの昼飯食いに行こうぜ」

 

「そーだね、もう一時だもんね」

 

「あー、腹減った腹減った……何食う?」

 

「んー、バイキングにしない?それなら好きな物を好きなだけ食べられるし」

 

「まぁ、俺はそれで良いけど皆はどうする?」

 

「私はそれでいいですよ」

 

「僕もそれで良いかな」

 

結果、満場一致でバイキングになった。

うん、美味しかったです。

 

 

 

 

 

 

「そんじゃまぁ、これから自由行動ってことで良いか?」

 

「はい、それで構いませんわ」

 

それから分かれて自由行動になった。

で、俺はと言うと本屋で漫画とか色々十冊ほど購入してそれからは特にやることも無いのでそこら辺のカフェに入って座っている。

 

「そんで、更識だっけ?」

 

「おや、お気づきでしたか」

 

「そりゃな。ウィッグ被っているとは言えあんだけ見られてたらな」

 

俺の後ろの席に座ってる女に声を掛ける。

朝からずっと俺達の事を付けていたんだよ。で、チラッと見たらどこか見たことある顔だ。

 

んで、記憶を掘り返してみたらそういや家に帰ったときに護衛として付いて来た生徒会長さんに似ていた。と言うか本人だった。

 

「他の人も佐々木さんの事を随分と見ていたようですが?」

 

「視線の種類が違うだろ。あれは好奇の視線で更識を含めた視線は監視っつーの?そんな感じだったぜ」

 

あちこちから好奇の視線を向けられてたけど護衛目的で付いて来ている彼女だけは視線の種類が違った。そもそも周りが全部好奇の視線なのにその中で一つだけ違う視線が混じっていればそりゃ目立つわな。

 

まぁ、寧ろ俺に気が付かせたかったんじゃないか?と思ったね。

 

「態々ご苦労さんです。毎回毎回付いて来てんだろ?」

 

「えぇまぁ。仕事ですから」

 

「生徒会長としての仕事は良いのかよ?」

 

「それは任せられる人間が居ますから問題ありません。業務が滞るよりも佐々木さんに何らかの被害がある方が大事です。佐々木さんを失えば人類にとって大打撃ですから」

 

「で、依頼人は日本政府ってこと?」

 

「そうですね。……ただ日本政府の場合は万が一、佐々木さんが篠ノ之博士の元に行きそうになった場合はその尾行、篠ノ之博士の居場所を突き止めるように言われています。他国の手に渡りそうになった場合、最悪佐々木さん本人を殺してでも阻止するように、と言われていますが」

 

「ケッ、ムカつくね。どうせ束の居場所なんざ突き止められやしねぇし。他国の手に渡りそうになったら云々も救えたのならば千冬や束、それこそ俺に恩を作れる。救えなかったとしてもサンプルが手に入る。そう考えてんだろ?」

 

「……その通りです。ただ、依頼人はもう一人いますよ」

 

「あ?依頼人がもう一人?」

 

「織斑先生ですよ。貴方の事を心配してもし外出する時は守ってやって欲しいって」

 

「ほーん?」

 

「その代わり、私の生徒会長業務を分担してやって貰うという条件付きですが」

 

「そりゃ俺が外出した日の千冬の疲れ方が割り増しなわけだ」

 

今日まではあまり外出しなかったが外出した日は千冬が部屋に戻ってくる時刻が遅く、疲れ方も何時もより疲れている。

 

その分、甘え方が尋常じゃないのだ。

抱き着いてきてあ”ぁ”-……とか言いながら顔をぐりぐり押し付けてくるんだからさぁ大変。気が済むのに何時もは十分ぐらいなんだけど、そういう日は一時間ぐらい掛かる。

 

そんな理由があったのか。

 

こりゃ、お土産買って行ってやらんといけないぞ。

何が良いかな?千冬って俺から貰えるものなら全部嬉しい、とか言ってたしな。これだ!と言う物が何も無い。

 

これは後で考えるか。

 

 

 

 

 

 

 

それからたっぷり三時間後。

カフェの中に居れの姿を見つけた一夏達が手を振っている。

 

「おっと、それじゃお嬢ちゃん達がお呼びだ。すまなんけどお暇させて貰うぜ」

 

「えぇ、デート楽しんできて下さい」

 

「やめてくれ、そんなんじゃねぇって」

 

「あの子達はデートだと思っているようですけど?」

 

「よせやい……んじゃまた今度」

 

「はい。私が護衛に就いているとはいっても十分に、お気を付けください」

 

「おう」

 

そう言って生徒会長さんと別れる。

そして俺に対してブンブン手を振っている一夏達の下に向かう。

 

 

 

 

 

 

「おーっす、欲しいもん買えたかー」

 

「うん、買えたよー」

 

「それじゃこれからどうする?他に見たいとことかあるか?一応門限が九時だからあと四時間は遊べるぜ」

 

「うーん……私は別にもう無いわね」

 

「はい、私も欲しい物は買えましたので……普段使っているものなどは実家から取り寄せていますから今日購入したのは水着と書籍、服を何着かぐらいですわ」

 

流石お嬢様、なんか一人だけ世界が違う事を言い始めているんだけどまぁその辺を気にしてはいけない。

で、結局の所皆これ以上買う物は無いってことだった。そりゃ朝の九時から夕方四時まで買い物してたんだから欲しい物は確実に手に入れていなければ何をしていたのかという事になってくる。

 

「あ、お兄ちゃん」

 

「ん?どうした」

 

「私、服を見に行きたい」

 

「あぁ?お前今の今まで服を見てたんだろ?その手に持ってる紙袋の中身はなんなんだよ」

 

「え?私の下着とか下着とか下着とか服とか服とか服とか」

 

「すいませんでした謝るのでそれ以上何も言わないで下さい」

 

「んもう、私の服じゃなくてお兄ちゃんの服を見たいの」

 

「えー……俺、服は持ってるけど?」

 

「よく言うよ。夏は今みたいな無地のTシャツに短パンが三着ぐらいに、冬は長袖長ズボンを三着づつ。これで持ってるなんて言えないよ。それも千冬姉が小学生の時に買ったやつ」

 

「ぐ……」

 

いやまぁ、確かに一夏の言う通りなんだけど。

俺って結構、自分の服装に関しては割と雑なんだよね。ぶっちゃけ運動出来る半袖短パンさえあれば春夏は過ごせるし、ジャージがあれば秋冬だって問題無い。

 

だけど千冬と一夏と暮らし初めてから流石にそれでは不味い、という事でユ〇クロで適当に白か黒のTシャツを三枚、ズボンも適当に三枚購入。

 

結局今の今まで買うのが面倒でそれを着回している。

と言うかよく保ってくれてるね。結構ゆったり目のやつを買ったから筋肉がついても着れてる。

 

そんな俺の服を見繕いたいと。

 

 

「でもよ、今持ってるので十分事足りるんだよな。そこに態々買う必要は無いって言うか……」

 

「私はどちらでも。洋介兄さんのお好きにどうぞ」

 

「洋介さんまだあの服しか持ってないの?無いわー」

 

「うるせぇやい。俺は物持ち良い方なの」

 

「それでも十五年以上前の服ってどうなの?」

 

「小父様、良い機会ですから何着か購入されては?僭越ながら私も小父様の服を見繕わせて頂きたいのですが……」

 

どうやらここに俺の味方は居ないらしい。

 

「しょうがねぇなぁ」

 

「やった!それじゃ早速レッツゴー!」

 

そう言う一夏達に手を引かれながらあちこちの服屋を巡る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからたっぷり三時間、着せ替え人形になった俺はぐったりしていた。

そりゃ

三時間もあの服この服、そっちの服こっちの服、と着せ替え続けられれば誰だって疲れるに決まってる。

 

服が大好きな人間からすりゃ美少女に囲まれながらの着せ替えだから天国なんだろうがそうじゃない人間、俺からすれば辛いのよ。

 

まぁ楽しかったっちゃ楽しかったんだけどもそれでもやっぱり疲れる。

結局、それぞれ選んでくれたのを一着づつ購入する事に。

 

皆センス良いのな。絶対に似合ってないと思うんだけどまぁ、そこはせっかく選んでくれたからってことで。

 

 

 

 

その後は回転寿司が食いたいっていうラウラが言うからそんじゃ回転寿司に行くかという事で近くの某有名チェーン店で済ませた。

 

「おぉ!ハンバーグが回っているぞ!む!?なんだあの緑色の棒が入っている黒い物体は!?何!?ここはウドンも流れているのか!おい鈴!ラーメンもあるぞ!」

 

「日本に住んでたから知ってるわよ。好きなの食べなさい。あ、アタシ茶碗蒸し頼んで」

 

「まっぐろー、はっまちー、いーかー、たーこー、あーじー、さんまー」

 

いやー、相変わらず一夏は馬鹿食いしやがるしラウラもラウラで河童巻きとか寿司を食え寿司を!と思うようなもんばっか食うし。

 

まぁでもセシリアとシャルロット、ラウラの反応は面白かった。

そりゃ寿司なんだから当然生魚も流れてくる訳だが、所謂、変わり種と言うのだろうか?

 

「あら?生魚だけでなく牛肉や豚肉も置いてあるんですの?……意外と行けますわね」

 

「このとびこってやつぷちぷちしてて面白い触感だなぁ……」

 

ハンバーグが乗ってるやつとか最近はそれこそ寿司屋とは?と思うようなネタなんかもある。結構ウケが良かったな。

フランス、イギリス、ドイツなんかの方は生魚大丈夫か?と思ったけど割と皆バクバク食ってたし。

 

俺?俺は青魚は生で行けないんだよ。だからマグロとかタコとか青魚以外の代表格みたいなもんばっか食ってたぜ。

 

ちゃんと千冬にお持ち帰りで頼んだぜ。

 

因みに晩飯ぐらいはな、ってことで奢ってやったぜ。太っ腹だろ?

 

 

 

 

 

 

で、学園に戻って時間も時間だからと言う訳で解散となった。

俺は千冬用のお持ち帰り寿司と今日買った水着やらアロハシャツやらサングラスやら麦わら帽子やら本やら服やらを抱えて部屋に帰った。

 

 

いやー、疲れた疲れた。

まぁでも久々にこんだけ買い物して楽しかったね。

 

あとは臨海学校が来るのを待つだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一夏を除いて他の皆の水着は原作そのままにしました。


作者、ファッションセンス皆無やから……
諦めも肝心なんだよ。皆の私服は読者の皆さんが好きなように妄想してちょーだい。

ぶっちゃけジャージあればどこにでも行ける族な作者に期待されても困る。
割と私服要らないって思ってるタイプだからね。探しても三着ぐらいしか持ってないんじゃないかな?

家の中じゃ年がら年中、半袖短パンだし。
運動とお仕事以外家に引き籠ってゲームしたり本読んだりプラモデル作ったり執筆したりするだけの作者は私服必要無い!

そんな金があるなら本とかプラモ買うんや!





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臨海学校だ!水着を着ろ!おじさんを悩殺しろ! 襲い来る女子高生達!逃げろおじさん!(逃げ切れる保証はありません






ほぼほぼおふざけですけど、文字数は余裕の2万字越えです。
たっぷりお楽しみください。シリアス?知らない子ですね(すっとぼけ)


この話を書いたのってガチの徹夜明けなんですよ。一切睡眠を取らずに書いたんでぶっちゃけあちこち変な所とかあるかもしれませんがあんまり気にしないで下さい。
この作者はそういうもんなんだって思ってくれて結構です。




水着の辺りに関するおじさんの感想は作者が暴走した結果です。











 

 

 

 

「さんはい」

 

「「「「「「うーみーはーひろいーなーおーきいーなー!」」」」」」

 

うむ、皆声が揃っていてよろしい!グッジョブ!

で、なんでクラスメイトの少女諸君が歌っているのかと言うと、勿論俺の差し金!ではあるんだけれども。

 

今日は臨海学校当日なんだな!

いやー、本格的に夏になり始めてあちーのなんの。

 

そんな中に臨海学校とか言う海に入れちゃうイベントがあったら女子高生達はテンション上がるぜそりゃ。

だからてんテンション上がった皆と大合唱してるって訳だ。

 

出発時刻は朝7時。

全寮制だから集合が楽で出発時刻は早い。

まぁ、別に問題は無いよね。ぶっちゃけここに入学してから早寝早起きが基本生活な訳だ。日を跨ぐ事も稀。

 

ま、少女諸君はそんなこと無い様だったけどな。

大方、夜中まで起きてたんだろうさ。

 

それなのにこんだけテンション高められるんだから、やっぱり若さって良いもんだね。

 

 

 

右側の列に座っている千冬と山田先生は涎垂らしてくーすか寝ている。

 

目の下に隈があるのを見ると昨日も遅かったんだろうなぁ……

 

これだけ大騒ぎしている中であれだけ爆睡出来るんだからその疲れは余程のものだろう。まぁ、寝かせといてあげましょうか。俺達の為に必死に仕事してくれてる訳だしな。

 

万が一の事があったとしても千冬なら即座に対応出来るだろうし自信過剰って訳じゃないが俺も居るしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の席に大人しく座ってボケーっとしてると、隣の席に座っていたラウラが袖を引っ張って俺に何か聞きたい事がある様で。

 

「どうした?」

 

「父よ、海とはどんなものなのだ?」

 

「お、ラウラってば海見た事無いんか?」

 

「いや、あるにはあるのだが写真か映像越しでしか見たことが無かったのだ。それにあの時は別にISに乗って訓練をしていられるだけで十分だったからな」

 

「ほうほう。という事はラウラは海を直接見たり触れたりしたことが無いと言う事だな?」

 

「うむ。だから父に教えて欲しいのだ」

 

さて、どう説明してやるか。

馬鹿正直に答えるのもなんかあれだしな。

少しからかってやろう。

 

「んー……タコとかイカが一面に泳いでて、海に入ろうものなら吸盤びっしりの腕に掴まって海中に引き摺り込まれて千切られて食われる。「ヒェッ!?」で、それを狙ったサメとかが更に俺達を食ったイカとかタコを食っちまう弱肉強食の地獄絵図が海だな」

 

途中、変な声が聞こえたけど気のせいか。

うん?ラウラの反応が無ぇな?やっぱしあんま効果無かった?

 

「………………」

 

「あれ、ラウラ?おーい、ラウラちゃんやーい、どうかしたんですかー?……気絶してやがる」

 

違った、気絶してた。

しかも見事なまでに白目をむいてちっちゃなお口から魂が抜け出しちゃってる。

 

ちょっと冗談を言っただけのつもりだったのに。

と言うかこの話のどこが怖かったんだろうね?ぶっちゃけ作り話にしても速攻でバレるレベルの雑な作りだと思うんだけどな。

 

まったくもー、こんなしょーも無い話を信じちゃうだなんて……

 

ラウラちゃんてばッ!本当にッ!純ッ!粋ッ!なんだからッ!

 

一人でそんなことを考えているとさっきまで楽しみでぴょこぴょこ落ち着きなく動いていたラウラが急に動かなくなったことを心配して、一夏がラウラの顔を覗き込む。

 

「ねぇお兄ちゃん、なんでラウラ気絶してるの?」

 

「おー、それがよ?ちょーっと本物の海を見た事無いっていうから冗談のつもりで適当言ったら怖がってひっくり返っちまった」

 

「……お兄ちゃん、後でちゃんと謝ってね」

 

「ウィッス!」

 

一夏に説明したらまーたやってると呆れた表情で怒られました。

 

 

 

 

 

 

 

さて、今の今まで山間を走っていたバスはそろそろ旅館のある海岸が見えるであろうか、という辺りまでやってきた。

 

「ほら、ラウラ起きろって。もうそろそろ海が見えてくる頃だぞ」

 

「……ハッ!?私は一体何を……む、父よ、私は怒っているぞ」

 

「ありゃ、忘れてくれてたと思ったんだがな」

 

思い出した!って顔をしてから腕を組み窓の方へそっぽを向く。

なんか、初めて会った時よりも幼くなっているような気がするのは気のせい?

まぁいいや。

 

「忘れる訳無いぞ!あんな怖い話は初めてだ!」

 

「そりゃすまんすまん。俺が悪かった。この通りだ。どうか許してくれ」

 

「むー……」

 

何故そこで悩むのラウラちゃん。

スパッと許してくれって。

 

「ラウラー、悪かったってば。許してくれ」

 

「お願いを一つ聞いてくれたら許す」

 

「お願い?まぁ、良いけど」

 

俺が頷くと、ラウラは嬉しそうに笑う。

お願いを1つ聞いて貰えるだけでこんだけ嬉しそうに笑えるなんて、本当に家の娘は良い子なんだぞ……!

 

「ほんとか!?ほんとだな!?」

 

「お、おう、本当だって。嘘付いたってしょうがねぇだろ」

 

「ふふふ、やった」

 

「あ、だけど俺が出来る範囲でのお願いだからな。無茶苦茶なのは駄目だぞ?」

 

「そんなこと勿論分かっているとも。私は父を困らせたりしない良い娘だからな!」

 

そう言ってフンス!と胸を張る。

その姿はそれこそ小学生ぐらいの時の千冬や一夏の様な無邪気さがあった。

 

何となく、ラウラの頭に手を伸ばしてワシャワシャっと撫でてた。

 

「わっ……どうしたのだ父よ、急に私の頭を撫でて」

 

「いーや、なんでもねぇよ」

 

「?」

 

ラウラはそう聞いてくるが、嫌では無いらしく嬉しそうに目を細めてニヘっと笑った。

 

 

 

 

「おっと、このトンネルを抜けたら海が見えてくるはずだ。ラウラ、窓の方よーく見とけ」

 

今通過しているトンネルを出れば、すぐに海が見えるはずだ。

それをラウラに教えてやると、苦虫を嚙み潰したような顔で窓の方から顔を逸らす。

 

「う……タコとかイカがうじゃうじゃ居るのだろう……?見たくない……」

 

「ダッハッハッハ!まだ信じてたのか!お前は素直過ぎるぜ!」

 

「んなっ!?」

 

「ありゃ嘘だ嘘!ただラウラをからかっただけだって。だから安心して見て大丈夫だ。多分、驚く光景が広がってるぜー?」

 

思わず笑っちゃったじゃん。

ラウラは抗議を行っているつもりなのか服を掴んで揺さ振ってくる。

 

いや、でもまさかまだ信じてたとは。

 

「考えてみ?そんなのがいるような所に態々泊りで俺らが来るわけないだろ?」

 

「……それもそうだ」

 

「だからビビんなくて大丈夫だ。よーく見とけよ、世界ってのは思っている以上に広いんだ。特にラウラにとってはな」

 

「本当に、うじゃうじゃうねうねしていないんだな?」

 

「本当だってば。これ以上嘘付かないって」

 

「ほ、本当の本当だな?」

 

「本当の本当」

 

「ほ……」

 

「はいあっち見ましょうねー」

 

何度も聞いてくるので頭を掴んで窓の方を向かせた。

で、丁度タイミング良くトンネルを抜けた。

 

「「「「「「海だぁーーーー!!!!」」」」」」

 

ラウラの驚きの声よりも先にクラスメイト諸君が騒ぎ始める。

ワイワイキャイキャイと大騒ぎ。

一夏は勿論、箒もセシリアもシャルロットもテンション高めだ。

 

で、ラウラはと言うと。

 

「おぉ……!」

 

驚嘆の声を上げて窓に張り付いている。

 

「父よ!父よ!凄いぞ!キラキラ光っててずーっと向こうまで続いているぞ!」

 

「喜んでくれたようで何より」

 

俺の方を向いて皆以上にはしゃいでいるラウラは、キラッキラした目で見上げてくる。

再び海の方を見ると、早く入りたいとか砂浜で遊びたいとかって言う気持ちが抑えられていないぐらいにソワソワソワソワソワソワ……

 

なーんか久々だな、この感覚。

 

 

おじさんも、思わず嬉しくなっちゃって笑っちゃうのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千冬、山田先生、そろそろ起きてくれ」

 

「んぁ……?……兄さん……」

 

「しゃしゃきしゃん……?どうしてわたしのへやに……?」

 

肩を揺すって起こすと二人は寝ぼけている。

千冬は何時も通りだとしても山田先生のお部屋ですか?見てみたい。

 

「もうそろそろ着くんで二人とも起きてくれると嬉しいんですけどー」

 

「……ん”ん”-……!」

 

「ふぁ……」

 

二人はそれぞれ伸びをしたり、欠伸をしながらペットボトルの中身を飲んだりとそれぞれ眠気を覚まそうとする。

 

 

 

 

ちょっとすると完全に目を覚ましたのか肩の凝りをグリグリやっている。

 

「兄さん、起こしてくれてありがとう。まさか寝てしまうとは思っても居なかった」

 

「私もです。でもバスの中だったのにすっごく気持ちよく寝れました」

 

「そりゃ良かった。そんじゃ二人は軽く服装を整えたらいかが?」

 

「そうだな……山田先生、背中側頼めるか?」

 

「はい、勿論です!」

 

そう言って服装を整え始める二人。

まぁ、眠いのも仕方ないよな。そりゃここ最近は各国の朝昼問わずの傍迷惑な俺と面会させろという電話の対応に加えて臨海学校の各種調整やら準備やらに追われつつ千冬は一年生寮の寮長で、山田先生も副寮長でもあるから見回りとかもやらなきゃならない。

 

そんで諸々の仕事が終わるのが二時か三時ぐらい。下手すると四時になる事もある。

毎晩毎晩、三時四時まで仕事をしてそこから風呂に入って飯を食わないとしてもベッドに入って寝られるのは五時ぐらい。もうお空が明るくなっている時間です。

で、先生だからお仕事とかもある訳で、起床するのは千冬なら六時だから精々一時間くらいしか寝れていない事になる。

 

うわぁ……めっちゃブラック……

でも大半以上の理由が各国からの迷惑なお電話だったりするのが更に可哀想なんだよな。

教員職がブラックだって聞いた事はあるけど多分IS学園の教師はずば抜けてブラックだ。普通の教師ならば、自身が受け持つ担当科目とクラスの授業をして、担任であればその仕事、部活の顧問をやっていればその仕事で済むが、IS学園の教師はそんなもんじゃない。

 

まず初めに通常科目から始まり、更にIS専門の授業に加えてそれの実習も加わってくるし、各種イベントに、生徒の殆どが日本人とはいえ人種が入り混じっているIS学園は国際的だからその辺も気を使わないといけないし、しかも各国が横槍を入れようとしてくるからそれの対応もしなければならないし、ある種の外交的な仕事もする。

 

そりゃもう仕事量が倍なんて話じゃない。

それが全員で分担して行っても終わらない。一人でも辞めたら間違い無く回らなくなる。

 

俺はまぁ、手伝えないんですよね。

見せちゃ駄目な書類とか沢山あるだろうし、そこまで俺が出しゃばるのは違うからな。

 

出来る事と言えば、感謝をする事と、千冬に部屋で甘えられたら大人しく好き放題させておくことぐらいだ。

毎晩毎晩、俺のベッドに潜り込んで来て抱き枕にされても何も言わない。今に始まったことじゃないけど。なんならサービスで俺も抱き締めてやるとか。

 

 

山田先生に関しては、まぁありがとうございますと言う事しかできない。

いやだってさ、千冬みたいには出来ないし贈り物って言っても何贈りゃ良いんだ?って話だ。

それなら一々考えるよりも素直に口で感謝を伝えた方が良い。

それに山田先生、ただいつもありがとうございます、って言うだけですっごい嬉しそうにするからね。それで十分なんだろうよ。

 

 

 

 

 

「諸君、今回宿泊させて頂く旅館は毎年お世話になっている。貸し切りとは言えくれぐれも粗相の無い様にな」

 

「「「「「「「「はい」」」」」」」」

 

千冬がバスの中で諸々の注意事項を説明していると、バスは旅館の前に到着した。

 

「それでは、全員順番に降りろ。降りたら女将さんに挨拶をするから玄関前で整列して待機しておくように」

 

その指示に従って次々と降りていく。

俺はラウラを連れて一番最初にバスを降りたから取り敢えず並ぶ準備はしておく。

俺って一番後ろなのよね。

 

しっかしまぁ、随分と立派な旅館だな。

見た目高級と言っても差し支えないぞ?

 

 

 

それから、全員が降りてきてニ組三組四組と並んで行く。

各クラス40名、計160名がキッチリ列を揃えて並んでいる。

 

それから女将さんに挨拶をしてなんやかんややって、解散。

と言っても部屋に荷物を置きに行くぐらいで、まだ10時半だからすぐにでも水着に着替えて海に向かうんだろうさ。

 

「兄さん、こっちに来てくれ」

 

「ん?どうした」

 

千冬に呼ばれて行ってみれば、そこにいたのはさっき俺達の前で挨拶をしていた女将さん。うーん、美人だね。

 

おっと、千冬に睨まれちった。

余計な事は考えない考えない。

 

「今回は、彼が居るので色々と面倒をお掛けします」

 

「いえいえ。初めまして、当旅館の女将篠崎常盤と申します。4日間どうぞお寛ぎください」

 

「初めまして、佐々木洋介と申します。今回は色々とお手数をお掛けしてしまったようで申し訳ありません」

 

「いえ、あの織斑先生のお兄様という事で楽しみにしておりましたよ。幾つか説明させて頂きたい事があるので宜しいですか?」

 

「はい」

 

それから女将さんに幾つかの説明を受けた。

まぁ、俺にも関係ある事だったから聞いておかないといけなかった。

 

 

 

まず、学園側から提示されている様に完全貸し切り。

凄いよね。まぁ、保安関係を考えると当然か。実際にISと言う下手に扱えば事故、最悪死人が出る可能性すらあるのだ、一般人を近づけさせることは好ましくない。

 

しかも各国の最先端技術の集まりである第三世代機が数か国分揃っているのだ、情報収集するにはこれ以上の好機は無い。

 

それにまぁ、IS学園ってのは一切の取材をお断りしている。

この機会に遠目からの写真を一枚でも二枚でも出版社に持ち込めば言い値で買ってくれるはずだ。

それにここは俺を除けば女しかいない。まぁ、ぶっちゃけて言えばIS学園の生徒、教師全員の容姿は世間一般で言うとかなり整っている部類に入る。

男共からしたらお近づきになりたい訳だが、そいつがスパイだという可能性もある。

しかも俺を除いて生徒諸君どころか教師も皆が30歳以下と言う。

 

自分で言ってて悲しくなってきた……

 

ま、まぁ取り敢えず恋愛には目が無い。

IS学園はその特性上、男と触れ合う機会が精々休みの日に外出するぐらいだ。しかも安全面の関係で外泊は夏休みか冬休みのどちらかのみしか許されていない。

 

夏休みも他の一般的な学校は一カ月半はあるのに三週間しかない。半分程度の日数だ。

まぁそれも仕方が無いといえば仕方が無い。

というのも授業の関係上そうならざるを得ない。ISと言う物を扱う以上、必要な知識は一般教養科目と比べると圧倒的だ。そこに一般教養科目が入って来るのだからその授業日数が通常の学校と同じではどうやっても追いつけない。

 

だからこそ夏休み冬休み以外に長期休暇は存在しない。

世間一般がゴールデンウイーク中だったとしても普段通り教室やアリーナで勉学に励むのだ。

 

この臨海学校も、四泊五日となっているが、実際は初日と二日目は土日であり、実質的な休みでそこで遊びなさいという事だ。

で、三日目、四日目はガッツリ実習。

 

 

学園が所有するISの殆どを持ち込んで普段触れる機会の少ない一年生にも今回ばかりは多く触れさせる。

というのも操縦者としての適性を見る為だ。

IS適正と言う物は高ければ高いほどに操縦しやすい。このIS学園に集う生徒達は、技術職を目指している者を除いて適正は最低でもC+かB-。

 

高い人間だとAは当たり前、代表候補生ではあるが専用機が存在しないなんて奴もいる。一夏の様に適正がSというやつは流石にいないが、確か千冬もSだった筈。

 

この適正と言うのは早々上がるもんじゃない。

だが稀にその適正が上がる人間がいる。そんなことがあるから確認の意味を込めて今回ばかりは全員が乗るのだ。

 

俺?知らん。だって教えてくれないんだもん。

 

と言っても専用機持ちは別行動、そうでないメンバーも三日目に全員が適性検査を午前中までに行ってそれ以降は全員が一度ISに乗る。

 

四日目、五日目は操縦者課程希望者と整備士課程希望者で別れて実習を行う。

 

先ず操縦者課程希望者は、そのままISに交代で登場し模擬戦。

 

で、整備士課程希望者は整備の授業を実施するんだが、その実施する機体は操縦者課程希望者が使用した機体を使う。

 

まぁ、普通はそんなこと有り得ないよな。

事故とか安全上のその辺を考えれば普通絶対にやらない。

 

だけど何故やるのか。

まぁ、幾ら絶対防御と言う物がISに搭載しているとは言え整備士ってのは搭乗者の命を預かっていると言っても過言では無い。と言うか実際にそうだ。

 

そこで自身が何を目指しているのかをしっかりと自覚させる為に行うのだ。

と言っても実際には教えて貰いながらだから効率は死ぬほど悪いので誰かが乗ったISを整備するのは最初の一回だけで、それも隣に整備科からお手伝いとして呼ばれた三年生と二年生、そこに整備課の先生達が付く。

それ以降は先輩や先生達の助手みたいな感じになるが。傍で見ているだけでも十分に糧になるからな。

 

まぁ、正直に言えば心構えをしっかり持たせるために行うというのが実際の所だ。

流石に授業で教えられているとはいえ実際に整備をやったことの無い人間に全て丸投げ出来るわけがない。

 

 

操縦者課程希望者に関して言えば、そこまで人数は多くない。

というのも操縦者になるには最低でもIS適正がBないしはB+以上が必要になる。

実際、専用機を持っている一夏はS、鈴とセシリアにシャルロットとラウラはA。

 

まぁ、ぶっちゃけ代表候補生になる人間の殆どがA。

それですら専用機を与えられるのは極々少数。国家代表になれば確実に専用機、それもその人間専用に調整された機体を与えられる。

それを考えると一夏達はその中でもズバ抜けているという事だ。まぁ、第三世代機と言う実験目的の様な意味合いもある第三世代機だがそれを差し引いても専用機を与えられるという事は相当だ。

 

 

まぁ、本当に一握り、それも両手、下手をすると片手で事足りる人数ではあるがIS適正がBやそれよりも低い人間も代表候補生や国家代表になっている者も居るには居る。

ただ、そう言った人間はIS適正こそ通常の国家代表より劣っているとは言えその戦闘におけるセンスが明らかに普通ではない連中だ。

まぁ、例えるなら千冬のIS適正がBになるようなものだ。

千冬は生身に関してもぶっちゃけ人類最強クラスだからあれだけど。

 

軍人になれば特殊部隊に混じっていてもトップクラスを取れるくらいにはピカイチ。

 

だからこそ与えられているのであって、IS適正がAもしくは千冬と同じSの人間が居たのならば千冬ではない誰かがブリュンヒルデになっていた可能性すらある。

まぁそれらだけでは無く普通なら逃げ出すレベルの特訓を積み重ねてきた上で国家代表や代表候補生に選ばれる。

 

才能だけで選ばれたのなら精々代表候補生止まりだろうよ。

言っとくが、努力に関しちゃ俺は全員に負けるからな。千冬とは生身の殴り合いこそ勝率は五分五分だが努力という事に関してだけは確実に負けていると言える。

 

一夏にも鈴にもセシリアにもシャルロットにもラウラにも負けている。

 

努力に関しては負けているがそれ以外で負けてやる理由は無ぇな。

おじさんに勝とうなんざ百万年早い!

 

 

ま、こんなもんか。

 

 

 

 

他にあった説明と言えば温泉に関する事だな。

 

この旅館には露天風呂を合わせて風呂が三つもある。

で、貸し切りで宿泊しているIS学園関係者は清掃を行う朝九時から昼十二時までを除いて好きな風呂を何時でも使い放題と言う訳だ。勿論生徒用と教員用で分けられているけど。

 

 

好きな時間帯に好きなだけ入れる。

ただ、その3つある温泉全てが俺以外の女性の方々だけなんだなこれが。

俺一人の為に時間を調整して貰うのもあれだからシャワー室が付いていれば文句はねぇよ、という事で

露天風呂に入りたいっちゃ入りたいけど態々そこまでしてもらってまで入りたいとは思わない。

 

で、今回俺が泊まる部屋なんだけど。

 

露天温泉付きのお部屋ですってよ。

 

これはまた随分と高待遇で……

しかも部屋に行ってみたらもうめっちゃ広くて豪華なのな!

あれよ、普通に宿泊しようとしたら絶対に10万円以上取られるぐらいの豪華な部屋。

 

 

なんでここまでしてくれるのかと言うとだ。

女将さん曰く、

 

「本来ならば使用時刻の調整を行えばそれで済むのですが、そうなると皆様に気持ち良くお過ごし頂けないという事になってしまいますからこの際、先程の説明の様にしてしまおう、という事です」

 

だそうで何というサービス精神なんだ、と心底感服した。

もうその場でありがとうございますと頭を深々下げちゃったぐらい。

 

で、俺は一人部屋で他には誰も居ない。

右隣に千冬と左隣に山田先生が泊まるけど、先生方は一人一部屋となっている。

なんでなのか、という理由は日頃頑張ってくれているからとの事で学園長が毎年用意してくれているらしい。

 

めっちゃ太っ腹やんけ!

で、俺が一人部屋なのは女子高生諸君の中に放り込めるわけないよねって言う最もな理由でした。

 

何時も通り千冬と同部屋だと思ってたからこれには驚いた。

 

 

 

 

で、お部屋に向かうザマス!

 

「うぉ!広ぇ!ここを一人で使うとかなんか罪悪感あるぅ!」

 

ホントにマジで広いのなんの。

全体的に和式なんだけどそれがもう何と言うか一人でここを使うのには本当に罪悪感あるぐらい広くて豪華。

なんなの?ルームサービス頼んだら高級食材のオンパレードとか展開されそうなぐらいだよ?

 

一人テンション上がって騒いでいると、千冬が思い出したように言った。

 

「あ、兄さんは一人部屋じゃないぞ」

 

「ゑ?」

 

ぼくひとりべやじゃないの?どういうことなの?だれといっしょなの?

 

はっ!?思わず頭の回転速度が低下してしまったぜ。

いやだけどまじで誰と一緒の部屋なの?千冬は俺の部屋の隣でしょ?山田先生もそうだし、まさか一夏!?

 

あ、それは無いわ。箒とセシリアとラウラと同じ部屋だもんな。

ここに訪ねてくることはありそうだけど

 

「おい、居るんだろう?出てこい」

 

千冬がキョロキョロと周りを見ながらそう言うと、何処か聞いたことのある声が俺の頭上から聞こえてくる。

 

「はいはーい!呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」

 

「グオォッ!?」

 

で、何となく覚えのある体重が頭から圧し掛かってくる。

そこからほっぺすりすりをする奴なんて一人しかいない。

 

「おーはよう!おじさん!」

 

我らが束でした。

 

「え、なんで束居るの?」

 

「あぁ、元々束には今回限りで参加して貰う予定だったんだ。警備面で色々と手を貸して欲しくてな。それに整備科希望の生徒達の前で少しばかり実演をしてもらおうとも思っている」

 

「え、それ大丈夫?束が暴走したりして皆が分からない事やったりしない?」

 

本気で心配なんだけど。

小学生の頃の人見知り(家族と俺、千冬、一夏を除く)具合とはずっと改善されているけどそれでも人間付き合いに一定以上の不安が残る束に臨時講師役をやらせるのは本気で心配なんだけど。

 

「周りを置いてきぼりにしてずんずん進んで行っちゃったりしない?暴走して学園のISを魔改造したりして第三世代機すっ飛ばして訳分からないIS作っちゃったりしない?」

 

「ちょ、おじさん酷い!」

 

「理解は出来なくともいい刺激にはなるだろうさ」

 

「ちーちゃんまで!?一応言っておくけど流石にそんなことはしないからね!?…………多分」

 

「おい、最後の方なんつった?」

 

必死に否定しているのに何故か最後に不安になる様に小さな声で多分とか言いやがったぞ!これは信用するなら五十%ぐらいに留めて置かないと駄目なやつだ!

 

「だってしょうがないじゃん!おじさんにカッコイイ所を見せたいなー、とか可愛い可愛い娘達にお母さんの凄い所を見せたりしたいじゃん!?おじさんだって私達が小さい時はそうだったでしょ!?」

 

「……分かる。俺も千冬達に良い所めっちゃ見せたかった」

 

「でしょ!?」

 

束にそう同意を求められておじさん、手のひらクルックルワイパー。

 

だって実際にそうだったんだって!あれよ!?事あるごとにカッコイイ所を見せると四人がカッコイイカッコイイって言って喜んでくれるもんだからさ、張り切っちゃうわけですよ!しょうがないじゃん!

 

「兄さん……」

 

千冬はそんな俺を見て、呆れたようにしながらも嬉しそうにしている。

 

「と言う訳で兄さんは束とクロエと同じ部屋だ。本当はラウラも入れてやりたかったんだが学校の授業の一環という事でな。見送らせてもらった」

 

「あれ、俺は良いの?」

 

「束が報酬として兄さんとの同部屋を指定して来たんだ!最初は断ってやろうとしたさ……あぁ勿論断ってやろうかと思っていた!だが兄さんの安全を考えれば……!クッ!今ほど教師と言う立場を憎んだことは無い!」

 

俺はどうやら地雷を踏み抜いたらしい。

千冬は頭を抱えながらうんうん唸っている。いや、でも寮じゃ同じ部屋で毎日毎日寝食を共にしてる訳じゃん?

 

って思ってもおじさんは何も言わない。

だって多分それって藪蛇になると思うんだ。態々自分から危険地帯に突っ込んで行かないぜ。俺は学習したんだぜ!

 

 

 

 

「はぁ、まぁ取り敢えずそう言う事だからくれぐれも問題を起こさない様にな。特に!束!」

 

「分かってるってば!ちょっとは信用してよ!」

 

ブーブー文句を言う束を無視して千冬は言った。

 

「それでは一旦解散だ。この後私は軽い職員会議があるからな。二人とも海にでも行ってると良い」

 

「おう、頑張れよ」

 

千冬はそういうと部屋に荷物を放り込んで行ってしまった。

ったく、学校の先生ってば本当に大変だねー。IS学園は生徒関連の面倒事が無いのがせめてもの救いか。

ここの生徒、皆良い子ちゃん達だからな。

 

 

俺は中学高校とあんまりどころかめっちゃ問題児って言われてたからね……

 

いや、別に悪さをしてた訳じゃないぞ?

ちょっと数学の中間期末テストの点数で赤点を取りまくったり、自転車置き場まで行ってたら遅刻になるから生垣に自転車放り込んで窓から教室に入ったり、先生が理不尽言い始めるからキレちゃったりしてただけだって。

 

高校の卒業式当日に寝坊して慌てて自転車かっ飛ばしてたら車道側から歩道側に入ろうとして縁石に乗り上げて思いっ切り前に吹き飛んだ挙句、自転車がチェーン外れたりタイヤが歪んだりで扱げないから担いで学校に走ってって、結局遅刻したり。

 

いやー、あの時は頭こそ守ったから何ともなかったけど車道側にあと五十cmズレてたら車に轢かれてたね。

しかも腕とか手をけっこう深めに擦り剝いちゃって、血がドバドバ出てくんのよ。

慌てててそれどころじゃないから顔とか適当に触って、異常無いな!良し行くぞ!とか自転車担いで行って、自転車置いて教室に走って行ったら皆大騒ぎよ。

 

後々聞いた話だけど、何となく遅刻するんじゃないかとは思ってたって一番仲良い奴に言われたっけな。

そんで顔中血だらけだから何事か!?ってなったらしくて。

 

いや、顔から流血はしてないのよ?手とかの血が付いちゃったってだけで。

危うく救急車呼ぶなんて事態になりかけた。

 

まぁもう全部が全部笑い話のネタだけどな。

 

他にも色々あるけど……

あれ、俺って普通に問題児じゃん。

 

中高の先生方、今更ですが本当にご迷惑をお掛けしました。

 

 

 

 

 

 

そんなわけでお部屋に荷物を置いて少し休憩しようかな、と考えていたら。

 

「おーにーいーちゃーん!海に行こーよ!」

 

やって来たな一夏め。

予想はしていたけど早すぎませんかね?だって解散してまだ15分しか経ってないんだぞ?

大方、箒達も一緒の筈だし、そう考えると君ら元気良すぎ。

 

「あー?ちょっと待ってくれー。まだなーんも準備してねーから」

 

「えー、それじゃぁ部屋に入って良いー?」

 

「束、入って良いか、だってさ」

 

「どーぞー!」

 

「だってさー!」

 

俺が束に聞いてみるとそう答えた。

その瞬間、俺の声を聞く前にドアを開けて一夏達が入ってくる。

あ、いないと思ってたクロエもラウラと手を繋いで入って来た。

 

うーん、すっごく打ち解けてますね。良きかな良きかな。

 

「おじゃましまーす!……あれ、なんで束さんがいるの?と言うか束さん、なんでここで荷物広げてるの?」

 

で、元気良く、勢い良く入って来た一夏は束が居る事を確認すると真顔になってそう聞いて来た。おっと、こりゃやばそうな雰囲気だ。退散退散……

 

「お兄ちゃん、なんで逃げようとするの?」

 

「いや、気のせい気のせい」

 

「まぁ、いいけど。で理由説明してくれる?」

 

「一夏様、それは私が説明しましょう」

 

「クロエ?」

 

そう言って前に出たのはクロエだった。

お、今日はあのメイド服じゃないのな。白のリボンが付いたワンピースに麦わら帽子を被ってる。

 

「おー、クロエ久しぶり。ワンピース似合ってるぜ。可愛い可愛い」

 

「ありがとうございます、お父様」

 

クロエにそう言って褒めてやると嬉しそうに笑ってそう答えた。

うーん、しかしこうして立っていると良いとこのご令嬢って言われても疑問はなんら持たないぐらいだ。

 

まぁ、束の娘だから御令嬢ってのはあながち間違いでも無いんだけどさ。

知ってる?束の総資産額ってとんでもねぇんだぞ?詳しい事は知らんけど色んな特許やらなんやらで何十兆億円らしいし。

 

国家予算と言われても不思議には思わないぐらいだ。

億万長者番付の二番手からぶっちぎってトップらしいから驚きだ。まぁそれも全部束がそれこそ死に物狂いで得たんだから文句を言われる筋合いはない。

 

それにその資金は束がもうとっくの昔から夢の為に使うって決めてんだ。

文句がある奴は俺がぶん殴ってやる。

 

貧富の差?そんなもん金持ちに言うんじゃなくて政治家に言いやがれ。貧しい人間を救うための策を用意するのは政治家連中であって金持ちがどうこう出来るもんじゃない。

お門違いって話だ。

 

まぁ、そういう話は放っておこう。

暗い話をする時じゃない。

 

 

 

 

「理由と言うのは、お母様が一緒に居られない私の為に、とお父様と同じ部屋を取って下さったのです。もしお気に障るというのならばお母様と私は別の部屋を取りますが……」

 

「アッレ!?クーちゃん私の意見は!?」

 

「お母様、ここでこれ以上敵を増やすのは宜しくないかと思いますが?」

 

「にゅっ……!?うぅ、その通りだね……その時は大人しく従うよ……」

 

「むっ!ズルいぞ!私も父と一緒の部屋が良い!」

 

ラウラちゃんや、今は違う話をしてるんやで……

全く、そんなラウラはとっても可愛い!

 

「まぁ、それなら別に良いよ。と言うか別に理由を説明してくれれば別に良かったんだよね」

 

嘘付け!お前あの顔はガチだったぞ!?

それでよくそんなこと言えるな一夏!お兄ちゃんはびっくりだよ!

周りもうんうん頷いているけどさっきまでの顔は何だったんですか!?

完全に俺の心の臓を抉り取りに来てたじゃねぇか!?

 

君達は役者か何かを目指しているんですか?

 

 

 

 

「むー、私も父と一緒の部屋がいい!」

 

「ラウラ、我儘を言っては駄目ですよ」

 

「ズルいではないか!母様と姉様だけ父と一緒は不公平だぞ!」

 

ちょとばかしラウラが駄々を捏ねたけど、結局その後は皆が納得したので束とクロエは正式に俺と同じ部屋になりました。

 

 

 

 

 

 

 

それから俺は荷物の中から海パンとアロハシャツ、麦わら帽子とサングラスを引っ張り出して更衣室に向かった。

俺の荷物、殆ど無いんだよなぁ……

 

四日分の着替えと運動用の服、シューズ、携帯、充電器と財布に洗面用具一式。あと愛用の身体洗うためのタワシ。とげとげじゃないぞ?ちゃんとそれ用だ。

あとは海パンとかぐらいだ。正直いってリュック一つで事足りた。実際、俺は今回リュック一つしか持って来ていない。トランプとかはどうせ一夏達が持って来ているだろうし態々俺が持ってくる必要は無いし。

 

 

 

 

で、着替えて砂浜に。

 

「ひゃっはー!おじさん水着ver登場だぜ!少女諸君!俺のセクシーショットを存分に拝めとくんだなぁ!」

 

「「「「「「「「おぉーー!!」」」」」」」」

 

ババーン!と勢い良く登場してやると千冬を除いた面々が待ち構えていた。

で、パチパチパチと拍手が起こる。これで誰も居なかったらマジ悲しくて速攻で部屋に戻って膝抱えて泣いてた。

 

それ以外のクラスメイト達はとっくに着替えるかなんかして遊ぶ準備を整え始めている。

あっちこっちで日焼け止め塗ってー、だとか色々聞こえる。

 

 

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん!見て見て!私達の水着どうどう!?」

 

「あーはいはい可愛い可愛い」

 

「あー、対応が雑だよお兄ちゃん!」

 

「あー?ったくしょうがねぇな。それじゃじっくり見てジャッジしてやんよ!」

 

「そうだそうだ!」

 

 

 

ってなわけで皆の水着姿の感想を述べてやりましょう!

 

「まず一夏。なんちゅーか色気とかよりも元気だなこいつ、って感想が先に来る」

 

「えー!?なんで!?」

 

「だってお前、両手にイカゲソとか焼きそばとか色々抱えてる自分の姿を鏡で見てこい」

 

「そんなことないよ!あ、お兄ちゃんもなんか食べる?」

 

「焼きそばがいい」

 

一夏から焼きそばを貰いながらそれぞれの感想を述べてやった。

 

 

 

 

一夏。

まぁ、こいつに関しては先程も言った通り。

いやぁ、口の周りに青のりとかソースをくっ付けてもっしゃもっしゃと頬張っている。

これでどうやって魅力を感じろというのか。

 

 

 

箒。

白色の水着で黒のラインが淵に沿って入っている。で、真ん中にリボンが付いていてと来た。本当に小さい頃の箒とは考えられないぐらいだ。

ちょっと恥ずかしそうに顔を背けて腕を組んでいる所がまたポイントが高い。

お陰で篠ノ之姉妹特有の爆弾が押し潰されてなんとも眼福な光景が広がっているであります!

 

 

 

鈴。

オレンジじゃなくて、何色だ?

……あれだ、グレープフルーツにこんな感じの色の果肉のやつがあったな。それみたいな色の水着で、色気云々よりもスポーツでもしたいんですか?と言うような感じだ。

で、鈴も鈴でちびっ子だけどまぁ美少女に分類されるだろう。ちびっ子だけど。

 

まぁ似合っている、可愛いと言えば可愛いのだろう。

だけどこれに欲情出来るか、と聞かれるとちょっとおじさんは首を傾げちゃう。

 

 

 

セシリア。

うん、めっちゃ似合ってる。

青の水着が多分似合うんじゃないかとアドバイスをしたあの時の俺、マジグッジョブ!

腰に、なんて言ったっけな……アレだアレ、腰蓑!じゃなくてえーと、パレオだっけか?を巻いていてなんかその辺も魅力的だ。

こう、髪をかき上げる仕草をしてもらったら多分大抵の男は落ちる。

 

 

 

 

 

シャルロット。

オレンジ色で、下は黒との縞模様。

似合っていると言えばとても似合っていると言えるだろう。

その発育もそこらの女子高生と比べると良好なんてレベルじゃないし。

何と言うかまぁ、ここ最近のシャルロットのキャラにがっちり嵌っているような気がする。

最近、俺ってシャルロット相手に手玉に取られてる様な気がするんだよなぁ……抱き付いてくるのなんて当たり前、からかって顔を近づけてくる時もあるし。

お陰でズルいと一夏達が突っ込んでくるのだ。お陰でこのバイオボーグボディを以てしても腰に対する負担が大きいからやめて欲しい。

 

 

 

ラウラ。

ウチの娘マジ天使。超可愛い。

水着もだけど、普段はストレートそのままに流している綺麗な銀髪を三つ編みにしていてこれまた、自信満々かと思いきや恥ずかしいのかクロエの後ろに少し隠れているのも良い!転校当初付けていた眼帯も外して金色の瞳と赤色の瞳のオッドアイっていうのも中々に高ポイント。

 

 

 

クロエ。

もうマジでウチの娘達は天使なのでは?いや、天使だったわ。

水着はラウラとお揃い。

で、髪の毛は後ろで纏めてて、箒のポニーテイルは後頭部よりも上で纏めているけどクロエは肩甲骨らへんで纏めている。

こっちもこっちでそれが似合う事に合う事。

 

 

 

束。

うーん、ピンクの水着に白のパーカーを着込んでいる。

束の水着って割と久々と言うか、珍しいよな。

それを考えても考えてなくても十分以上に似合っていると言える。

個人的にはもう何時もの恰好でここに殴りこんでくるんじゃないかとすら思っていたからちょっと安心したぜ。

……お尻と太もも、お腹辺りの肉付きが少しばかり良くなったような気もするけど俺としてはこれぐらいなら寧ろドストライク。

 

 

 

 

 

 

で、俺がそれぞれ感想を言ってやると一部恥ずかしそうにしながら嬉しそうにする。

 

「「「「「「「えへへへへ……」」」」」」」

 

「ちょっと!なんで私だけ馬鹿にされてるのよ!?おかしくない!?」

 

「あー?あのなぁ鈴」

 

「なによ」

 

「まぁ、確かに鈴は可愛いぜ?だけどよ、俺がお前に欲情したら警察のお世話になっちゃうだろーが」

 

俺がそう言って鈴の頭をワシワシ撫でると、そのご自慢のツインテールを逆立たせて目を赤く光らせていった。

 

「おい、誰が誰に欲情したら警察のお世話になるって?詳しく話を聞かせて貰えないかしら?」

 

「だってお前、見た目だけなら小学生じゃん。どうやったって高校生どころか中学生にすら見えねぇ」

 

「貴様ァァァ!!言ってはならない事を言ったなァァ!?」

 

「お?なんだなんだ?俺と追い駆けっこでもする気かー?やめとけやめとけ!どーせ勝てやしないんだからよ!」

 

「ぶっ殺してやる!」

 

「ダハハハ!!」

 

「絶対とっ捕まえて吠え面かかせてやるわ!」

 

そして始まる捕まったら最後の追い駆けっこ!

いやまぁでもおじさんが鈴に捕まるなんてありえないんですけどねー?

 

「ほらほらどうしたー!?さっきの威勢はどこに行っちゃったのかなー?」

 

「無駄に足が速い!チッ!ギリギリ追いつけない距離を保ってるのがまた腹立つ!」

 

「ヘイヘイヘイヘイ!!どうしたヘイヘイ!追いつけてないぞヘイヘイ!足が俺と比べて短いですもんねー!しょうがないかー!」

 

「クソがァァァ!」

 

全力で煽り倒しながら逃げ回るハワイアンなおじさんと、それを鬼の形相で追い掛け回す水着の見た目小学生。

 

何と言うシュールな光景。

周りの皆もなんだなんだと集まってくる。そらそうだ。学園一有名な男とこれまた代表候補生として有名な娘が大騒ぎしながら走り回って何かを言い合っているのだから注目を集めるのは当然。

 

「ゼー……ゼー……ゼー……」

 

「おやおやぁ?どうしたんですか鈴ちゃん?もうお疲れですか?まだ十分くらいしか走ってませんよ?」

 

「クッ……!無駄に足が速い……なんでこんな炎天下の中であれだけ走り回って息一つ乱してないのよ……おかしいでしょ……理不尽よ……」

 

で、十分ぐらい走ってたら鈴がダウンした。

ま、この暑さの中を俺に追いつこうと全力疾走してたらそうなるわな。

 

「どうしてアンタはそんな平気そうな顔してんのよ……」

 

「あー?鍛え方が違うんだよ。鍛え方が」

 

そうやって言ってやると悔しそうにする。

 

 

 

「あ”-”つ”-”い”-”……」

 

「しょうがねぇなぁ……日陰に運んで飲み物持って来てやるから休憩してな」

 

そう言って俺は鈴を抱き上げてパラソルの下の日陰に寝かせてスポーツドリンクを取りに行く。

 

「ったく、しょうがねぇ奴だなー」

 

独り言を言いながら自販機からスポーツドリンクを購入する。

……二、三本ぐらい買っとくか。あいつ勢いよく飲みそうだしな。

 

 

 

鈴の所に戻ってみると、日陰であーうー言いながらひっくり返っていた。

 

「ほら」

 

「ありがとー……」

 

蓋を開けて渡してやるとゴクゴクと飲み始めた。

おぉ、そんなに一気飲みして大丈夫か?一応三本買っといて正解だったな。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「今の所は問題無いわ……ただちょっと無理したかもしれないからここで休んでるわ……」

 

「おう、そうしとけ。ぶっ倒れたら大事だ」

 

「んー……これ、ありがと……」

 

「気にすんな」

 

心配だから少し見とくか。

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃーん!こっち来て遊ぼーよー!」

 

暫く鈴の隣で椅子に座ってのんびりしてたら我が妹様からお呼びが掛かった。

あいつもあいつで恐ろしく元気だよな。偶に海に入りながら、休憩しながらとは言ってもあれだけ元気にしていられるってのは、やっぱし若さだね。

 

若いってのは良いねぇ……

 

俺は肉体はバイオボーグになっちゃって疲れを感じ無い。だが精神的なものはそうじゃない。

 

こうして彼女達を見ていると何と言うか、眩しくてしょうがない。

まぁ、目の保養って意味も含めてだけどね。いや、手を出すのはアレだが見るだけなら良いだろうよ。

そうじゃなきゃやってられんよ。どうせ、今回も何かしらの問題が起きるだろうよ。全く、IS学園ってのは何時も面倒事ばっかりだ。

 

ま、そん時は出張ってやる。

妹達だけじゃない、クラスメイトのお嬢さん方の楽しい楽しい臨海学校を潰させて溜るかって。嫌な思いをするのは大人だけで十分。子供にそれを一緒に味合わせる必要は無いだろうよ。

 

「鈴、一人で大丈夫か?」

 

「まぁ、結構落ち着いて来たしあと十分ぐらい休んだら海に入って涼もうかなって考えてたから。行ってきていいわよ」

 

「そんじゃお言葉に甘えて行ってくるとすっかなぁ!遊び盛りの妹達の相手をしてやろうじゃねぇか」

 

鈴をパラソルの下に置いて一夏の所に行く。

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、鈴の事ばっかでズルいよ!」

 

「そう言ってくれるな。鈴が体調崩したから面倒見てたんだぞ」

 

「でも原因はお兄ちゃんでしょ」

 

「まぁ、その通りだけど」

 

そう言われちゃうと頭をぼりぼり掻くしか出来ないんだよなぁ。

煽り倒してダウンさせたのは俺だから何も言い返せねぇのよ。

 

「それじゃぁ早速遊ぼう!まずはこれ!」

 

「なんでバレーボールなんか出して……あぁ、そう言う事ね」

 

「そう言う事!それじゃ早速やろう!」

 

で、ビーチバレーをする事になった。

俺は上に来ているアロハシャツを脱いで麦わら帽子、サングラスをその上に置いておく。

 

「おぉー」

 

「ISの実習の時から思ってたけどすっごい筋肉だよね……」

 

「あれ、どうやったらあれだけバキバキになるのかな?佐々木さんって結構ご飯とか凄い食べてる印象なんだけど」

 

なにやらコソコソ聞こえるが放って置こう。

あ、日焼け止め塗るの忘れた。

 

 

 

 

俺とセシリアペアVS一夏&箒ペア

 

 

「よっしゃやってやんぞセシリア!」

 

「勿論ですわ!私と小父様のコンビネーションを見せつけて差し上げますわ!」

 

「くそー!セシリアにお兄ちゃんを取られた!箒、お兄ちゃんを取り返すよ!」

 

「勿論だとも!洋介兄さん、私達を捨てた事を必ず後悔させてやる!」

 

「君達ちょっと言い方酷くない!?俺はセシリアにホイホイ付いて行った訳でもお前達を捨てた訳でも無いからな!」

 

全く、誤解を生むような発言は止してくれたまえよ。

でないと……

 

「おぉー、浮気をした旦那さん&浮気相手VS奥さんとその娘って所かな?」

 

「修羅場だ修羅場だー!」

 

とか言い出し始めちゃう子がいるんだよ!

 

「おいこらそこぉ!変な事言うな!のほほんさんもそんな事言うんじゃありません!」

 

「と言う事は、父は母を捨てたのか?」

 

「ほら見ろ!ラウラが変な勘違いしちゃったじゃん!」

 

「父よ、どうなのだ?浮気したのか?」

 

「そんなことする訳無いじゃん!お母さん一筋だって!」

 

「えー?おじさんこんな大勢の前で愛の告白だなんて……恥ずかしいけどオッケーしちゃう!さぁ今すぐ結婚だね!」

 

束は身体をクネクネさせながら頬を抑えている。

その姿はエロいけど今はそんな事を気にしている場合じゃない。

多分、こんな事を言ってくれちゃった束の言葉に反応した皆が……

 

「……お兄ちゃん、どういう事?」

 

「オジサマ?」

 

ほら見ろ俺の言った通りだ!

こうなるんだよ!結局板挟みになった俺が一番被害を食うんだよ!

 

 

 

 

「お兄ちゃんを何が何でも取り返すッ!」

 

「姉さん、後で話があります」

 

「小父様、後ろから刺されたり撃たれたりしないよう、ご注意なさって下さい?」

 

「ねぇ、なんで俺は味方からも脅されなきゃならないの!?おかしくない?おかしいよね?おかしいでしょ!?」

 

そんな俺の絶叫を軽く受け流した一夏と箒は早速仕掛けてくる。

 

「行くよッ!」

 

「一夏、叩き込め!」

 

「フン!!」

 

箒がボールを上げて一夏が容赦無い威力のを叩き込んでくる。

 

 

 

 

 

ギャーギャー大騒ぎをしながら始まったビーチバレー大会。

と言うかコートに撃ち込まれるボールの一発一発にとんでもない殺意が込められている。

 

「あ”ぁ”-ーー!?あ”ぁ”---!?ボールに殺意が込められてるぅ!?だけどそんなボールも拾っちゃう俺って人間辞めてる気がするゥ!」

 

「小父様、上げてください!」

 

「ほい来た!」

 

「ハァッ!!」

 

砂浜なのに、着弾したときズパン!とか破裂音が聞こえるのは気のせいじゃない。

と言うか砂浜抉れてるんですけど!?

 

あんなの普通受けられんでしょ!それを受け止められちゃう俺って人間辞めちゃってる?

 

 

 

それから二十分に渡ってビーチバレーで殴り合いを続けた一夏達は疲れ果ててぐったりする事になった。そりゃそうなるって。

 

俺は別に何ともねぇけど。

 

 

 

 

 

 

スポーツドリンクを一夏と箒、セシリアの分を買ってパラソルに戻る。

あ、俺の分買うの忘れた。

 

「いやー、割と本気で死ぬかと思った」

 

「全くもう、佐々木さんはどんな体力してるんですか?」

 

そう言って一夏達を日陰に運び一息付いて独り言をぼやいている俺にスポーツドリンクを差し出して来たのはシャルロット。

 

「あんがとさん。で、遊ばなくていいのか?」

 

「さっきまでラウラとクロエさんと遊んでたんですよ?」

 

「ならそのまま遊んでりゃいいのに。……なんだ、あれ。何作ってんだ」

 

「なんか、ラウラがドラゴンを作って欲しいって言って篠ノ之博士が本気を出したらしくて」

 

「ありゃ、確かにドラゴンっちゃドラゴンだけどよ、なんでシェ〇ロン?」

 

「さぁ……」

 

シェン〇ンの隣にあるのは、どこかのモンス〇ーハンターに出て来る赤い火竜だったりが砂で作られたとは到底思えないぐらいの雄大な姿で作られている。

今にもブレスを叩き込んできそうだ。

 

なんちゃらボールを集めに行きたくなってくるような、一狩り行きたくなるようなリアルさがある。

 

 

え、あんなの砂でどうやって作ったの?無理じゃない?足とかなんで二本だけで胴体部分支えられてんのか全く分かんないんですけど。

シ〇ンロンに至っては浮いてるんだけど。

 

「どーだ娘達よ!お母さんの技術は!」

 

「おぉぉぉ!!凄い!凄いぞ母様!」

 

「そうでしょうそうでしょう!」

 

ラウラは砂で作られた様々な竜の周りをぴょんぴょん跳ねまわりながら凄い凄いと褒め称える。

で、束は得意気にふふんと胸を張って自慢している。

 

いや、確かに凄いけども。どうやって作ったのか本気で気になるんですけど。

 

何となくだけどIS技術かそれ以外の技術を無駄遣いしてんだな。

じゃなけりゃ出来る訳無い。

 

 

 

 

「あはは、すごいなぁ」

 

シャルロットも楽しそうにそれを見て笑っている。

少し前までは追い詰められて死にそうな顔してたのに。良い事じゃねぇか。

 

「……まさかこんな、学校行事とは言え海でこんなに楽しく過ごせるなんて思ってもみなかったです」

 

「だろうな。ま、思いっ切り楽しんどけ。三日目から地獄の特訓メニューだぜ」

 

「え?それってどう言う……」

 

おっと、言い過ぎた。

 

「そんじゃ、俺もひと泳ぎしてくっかな!ちょっとばかし一夏達を見といてくれるか?」

 

誤魔化すために、一夏達を押し付ける事になっちまった。

 

「え、あ、分かりました。行ってらっしゃい……」

 

シャルロットはそう言って小さく手を振ってくれる。

お詫びに後でなんか飲み物でも奢ってやろう。

 

「あ、佐々木さんだ」

 

「一夏達はもういいんですか?」

 

「おう、シャルロットに任せてきたからな、ちょっとばかし泳ごうかなって思ってよ」

 

「兄さん、それなら私と久々に競争でもしないか?」

 

そうやって皆と話していると後ろから声を掛けられた。

この声は千冬だな、と思いながら振り向くと大当たり。でも何時もの部屋着だったりレディーススーツでは無く、まぁ当たり前と言えば当たり前だが水着だった。

 

それも黒の結構面積少なめのやつ。

これは、そこらの海水浴場に行ったら絶対ナンパされるやつじゃん。

めっちゃ似合ってるじゃん。腰に手を当ててポーズなんかしちゃってもう駄目じゃない!

 

 

千冬よ、いつの間にそんな大人になっちゃったのだ?

 

「織斑先生の水着だ……」

 

「キレー……」

 

「雑誌とかでも絶対に許可しないって話だよ。超レアじゃん!」

 

「服の上からでも分かってたけどやっぱりスタイル良いよね」

 

「クッ……!何を食べてどんな生活をしたらあんなに大きくなるんだ……!」

 

「何故胸だけ大きくなってそれ以外は反比例するのか……!私達に救いは無いのか!」

 

賛美の声と同時にお嬢様方の怨嗟の声も聞こえてくる。

その中にいた鈴も自分の胸に手を当てて、見て、死にそうな顔をしている。と言うかその手が虚空を揉んでいる。

 

くッ……諸行無常……!

 

何と言う悲しい光景だ……あんな顔の鈴は見たことが無い。

あ、砂浜を殴り始めた。

 

「クソッ!遺伝なのか?遺伝なのか!?私にはもう可能性は無いってか!?ちくしょう!」

 

あぁ、キャラが壊れていますよ鈴さん。

 

「縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め縮め…………………………」

延々と呪いの言葉を吐くかのようにブツブツと言いながら手のひらから念じるように歯をギリギリギリギリさせながらずっと言っている。

 

そんな鈴を見て涙を流した俺に、千冬は挑発をする。

 

「どうする?兄さん。勝負しないのか?」

 

「よっしゃ、やってやる。負けた方が今日の晩飯のおかず一品譲る事な」

 

「ほう、良いんだな?今日の夕飯は豪華刺身盛り合わせだそうだが」

 

「すいません前言撤回します。無理の無い範囲で何か言う事を一つ聞くって事にしてください」

 

「ま、それで良いか。それじゃ準備運動をするから終わったら早速始めよう」

 

「そう言えば山田先生はどこ行った?」

 

「山田先生なら疲れたから寝ると言って部屋に戻った。ここ最近山田先生も仕事詰めだったからな」

 

「ほーん」

 

そう言って千冬は準備運動を始める。

で、何となく千冬を見た俺は盛大に後悔する事になった。

 

屈んだり腕を組んで裏側を伸ばしたりした時に胸がぎゅむぎゅむしたりプルンプルン揺れ動いたり、お尻がむっちりムニムニしたり。開脚をした時の太ももの付け根の辺りとかもうヤバイ。

 

ハッ!?駄目だ駄目だ、千冬をそんな目で見たらそれこそ終わりだ……

 

 

「よし、終わった……どうした兄さん、顔を覆って」

 

「いや、何でも無い」

 

「?まぁ、それじゃ始めよう。誰か、スターターを頼めるか?」

 

千冬がそう言って誰かに頼むと、手を挙げた子にスターターを任せる。

 

「それじゃぁ、あの浮きの所まで行ったら折り返して来てください。早かった方の勝ちです」

 

「おう」

 

「よし」

 

「よーい……」

 

二人揃ってクラウチングスタートの体勢を取ってその時を待ち構える。

 

「スタートッ!!」

 

その声と同時に二人揃って走り出す。

海までは凡そ十メートル。だがその程度の距離なら俺と千冬からすれば一瞬。

 

勢いそのままに海に駆け込んで泳ぎ始める。

折り返し地点の浮きまでは大体300mくらいだ。

 

余り泳ぐ事は少ない俺達だが、腕力と体力に物を言わせて前に進んで行く。

 

 

 

そして、折り返してそろそろ砂浜に近づいてきたことを示す、段々と海の底が近くなってきている。

 

で、指先が砂に触れた瞬間に立ち上がって全力で走る。

 

「「うおぉぉぉぉぉ!!!!」」

 

海の中、それも膝まで海水に浸かっているとは思えない速さでスタートした場所を目指す。

 

バシャバシャバシャバシャッ!!!!!

 

あれ、俺と千冬って本当に人間なのかな?

 

 

 

「ゴール!」

 

そしてスターターをしてくれた子が声を上げた。

 

「「どっちが勝った!?」」

 

揃って聞くと困ったような顔でどっちだったかなー……と首を傾げる。

 

「うーん……引き分け!」

 

「チクショウ!勝てんかった!」

 

「クソ、引き分けか」

 

悔しがる俺達を尻目に周りの皆はざわざわしている。

どったの?

 

 

 

「あれじゃぁ、人間じゃなくて魚人だっていわれても全然信じられるよ……」

 

「モーターボート……?」

 

「この兄妹殺伐し過ぎじゃない?」

 

 

 

……なんも言い返せねぇ。まぁ確かに負けたくないから全力出したけども。

そこまで言わなくてもよくない?

 

 

まぁ、結果として引き分けに終わったこの勝負は今度互いに一つ言う事を聞くという事で纏まった。

 

 

結局そのあとは千冬は椅子に腰掛けのんびりと、俺は皆の相手とそれぞれ思い思いに過ごした。

 

そして俺は日焼け止めを最後の最後まで塗り忘れて全身真っ赤っかになりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、晩御飯も済ませて日課のトレーニングも済ませてあとは風呂に入るだけ。

 

「束、先に入るか?」

 

「んー、おじさん先に入っちゃっていいよー。私はもう少しだけお腹を休めてから入るから」

 

「お、そんじゃ一番風呂頂くぜー」

 

「いってらっしゃーい」

 

そう言う訳で下着と浴衣を持って備え付けの露天風呂に向かう。

 

お、脱衣所結構広い。

我が家の倍ぐらいありそうだ。さっさと服を脱いで入る。

おっと、何となくラウラとかクロエ辺りが入ってきそうだから一応念のために鍵掛けるか?

いやでもそうするとなんか可哀想だしな……うんまぁ、ラウラとクロエならいっか。

今までの生活が生活だったから少しぐらいは我儘聞いてやっても文句は言われんだろうよ。

それに、断っても朝のお願いを一つ聞くってのを持ち出してきそうだし。

 

 

 

 

浴室に入るとこれまた驚いた。

 

「うぉ、めっちゃ広いじゃんか!」

 

これを三人だけで使い放題とかなんかバチ当たりそう……

浴槽だけでも六人は入れそうなぐらい広い。それも足を伸ばして入れるだろう広さ。

 

しかもシャワーも四つ備え付けられている辺り、この部屋の風呂はとんでもなく豪華だろうと分かってくれる筈だ。

 

「そんじゃ早速、頭と身体を洗って浸かるとするか!こんなの堪能しなきゃ損だってもんよ」

 

頭を石鹸でゴッシャゴッシャと洗い、ついでに髭も剃る。

いやはや、髭を剃るってのは割と面倒なんだよ。顎と鼻の下だけじゃなくて顎関節の方まで剃らないといけない。それに揉み上げ辺りも剃らんといけないし結構面倒なのだ。電動じゃないから尚更。ここ最近は三日に一回ぐらいになって来ている。

 

それが終わったら一気に洗い流す。

そしたらタワシに石鹸付けて身体をゴッシャゴッシャと洗おう。

 

 

としたんだがな?ここでとんでもねぇ乱入者が殴り込んで来た訳よ。

 

ガラガラガラガラッと扉を開けて入って来たのはまさかまさかの束。

 

いや、何となくラウラ辺りは一緒に入るとか言って殴り込んでくるだろうなー、とか予想してた。してたよ?だから鍵掛けといたら可哀想かなって鍵も掛けてない。だけどそれが完全に裏目に出た。

 

「おい束!お前何入って来てんだ!?阿呆か!?」

 

そりゃもう、速攻で顔を逸らしましたとも。

だってこいつタオルの一枚も持たずに入って来てやがるんだから当然だ。タオル巻いてても駄目だけど。

 

「おじさん、しーっ。ちーちゃん達は今職員会議とかお風呂に行っちゃってるから居ないけど、そんな大声出したら気付かれちゃうよ?いいのかなー?こんなところ誰かに見られたら……」

 

何で俺が怒られて脅されてんの?えぇ、どういうこっちゃ……

しかも的確に弱い所を突いてくるんだから質が悪い。

 

「俺の立場の弱さを盾にしやがって……ったくしょうがねぇなぁ……ほら、今なら見逃してやるから出てけ出てけ」

 

「えー!?そこは一緒に入ろうー、とか言う所じゃないの!?」

 

「あ?なーに馬鹿言ってんだ。お前、今年で二五になるんだろ?そんな良い年した女が兄貴と風呂に入ろうだとか考えるんじゃねぇ。相手が幾ら本当の兄貴じゃねぇからって、いやそうじゃないからこそ自分を安売りすんな。安く見せようとするんじゃねぇ」

 

後半、ちょっとばかり説教臭くなっちまったけど、本気で妹達には気を付けて欲しい。

俺だから妹として手を出したりはしないが他の男だったら今頃とっくに食われてるよ。それで酷い目に遭うのは大抵が女だと決まってんだ。

 

そうなってほしくないからこそ、少し厳しめに言ってやる必要がある。

まぁ、千冬と束なら寧ろ男の方を叩き潰しそうな気がするのは気のせいだ、という事にしておこう。

 

「と言うか、お前タオルも持たずに何してんだ。入ってくるにしても前ぐらいは隠せよな。ほら、これ使え」

 

そう言って俺は自分で持ち込んでいた小さいタオルを束に渡す。

すると、思いの外素直にタオルを受け取ると浴室から出て行った。

 

はぁ、兄貴としちゃこれで正解なんだろうが男としちゃ駄目なんだろうよ。

ま、これで良い薬にはなっただろ。

まぁ、少し言い過ぎたかもしれんから落ち込んでたら謝るかね。

 

 

 

そんじゃ、さっさと身体を洗って温まりますか。全裸のこのままじゃ幾ら夏とはいえ風邪引きかねない。

 

そういや一夏が赤ん坊の頃とか小さい頃は洗ってやってたっけなぁ……

これがまた手加減が大変だった。

何せ小さいし肌も弱いから下手に強く洗うと大変なことになる。だからどれぐらいの力加減で洗えばいいのか本当に困ったもんだ。

まぁ、タワシを使わずに手で洗えば速攻で解決する問題だったんだけどそれに気付くのにちょっとばかり時間が掛かった。千冬は千冬で背中に手が届かないとか言ってたから洗ってやらにゃならんし。

 

いやー、懐かしい……

 

思えば千冬と一夏と生活し始めてから十六年。

本当に色々あった……良くもまぁ、俺みたいなのが育ててあんな良い子に育ってくれたよ……

最近は割とその二人と何人かで命の危機を感じたり、ちょっとお兄ちゃんを見る目がおかしかったりするけど良い子に育って良かったマジで……

 

なんて考えながら体が洗い終わった。

 

 

 

 

 

「ふぃー……」

 

浴槽に浸かると、全身から力が抜けていくのがはっきり分かる。

いや、海に入ってからそのままだったから身体が冷えていたのかもしれんな。

 

温度は大体四十度ぐらいで良い感じだ。

 

のんびりと足を伸ばせるのは嬉しいね。

 

 

 

 

 

それから、機嫌良く風呂から上がって出る。

すると、束は布団を敷いてその中でいじけていた。

 

あちゃー、こりゃ相当ダメージデカそうだな……どうすっかな……

 

「束」

 

「……なに?」

 

お、返事はしてくれた。

とすると完全にご立腹とかそういう訳でも無いらしい。

 

「さっきはすまんかった。束の事が大切だからきつい言い方をしちまった。もう少し考えりゃ良かった。本当にすまん」

 

まぁ、どちらにせよ謝る必要はあるだろう。

盛り上がっている布団の前に座って頭を下げる。

 

すると、束は何も答えずに布団から出ると

 

「おじさん、私お風呂入ってくる」

 

「お、おう。行って来い」

 

そう言うと脱衣所の方に行ってしまった。

……なんだったんだ?一体。

 

まぁ、いいや。

俺も布団敷いとこ。もう九時だから結構いい時間だ。

 

と言うかクロエは何をやっているんだ?一夏達の部屋に行ったっきり戻って来ねぇけど。

まぁ、一夏達の所だから大丈夫だとは思うが……最悪、そのまま寝落ちしているって事も有り得るな。

 

一夏達が居るから大丈夫だとは思うけどな。

 

 

 

と言うかもう眠い。

束には悪いが先に布団に入るか。

 

そう思って布団に入ってから十分後。俺は寝てしまった。

 

 

 

 

 







はい残念でした!束さんとムフフな展開あると思った?ねぇ思ったでしょ!?

でも残念、この小説はR‐15な上にそんな展開になったらおじさんは本当に妹達に命を狙われちゃうからね。


おぉっと、でもまだ諦めるのは早いぜ?
まだおじさんが寝たところで終わってんだろ?次の話であるかもしれないじゃん?(あるとは言っていない)


まぁ、取り敢えず期待しないで待っててや。












因みに作中でおじさんが言っていた卒業式の当日云々の話は作者に起きた実話です。どうぞ笑ってください。







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お兄ちゃんは、妹達に慕われて嬉しいよ……


はい、束さんとムフフな展開を期待しちゃった諸君の為にちょっとばかりサービスしてやろう、と優しい作者が思って書いた次第です。

実際の書いた経緯って違うんですよね。
いやね?本当は書かなくてもいいかなー、とは思ったんですよ。
だけど前話であんな終わり方しちゃったしなぁ、書かないやり方もあるにはあるけど書いた方が良いよなぁ、ってことで書きました。




大丈夫、おじさんがただ良い思いするだけだとと思ったら大間違い。絶対に次に来るのは読者の皆さんが腹抱えて笑う展開だから。(笑えるかどうかは知らんけども)


ヤンデレは無いよ。

大事な事だからもう一回言うよ。

ヤンデレは無いよ。











ふと、俺のすぐ近くでごそごそと言う音の少し後に体の上に圧し掛かってくる圧力を感じた。

 

「んが……?」

 

もしかするとラウラか?と思って薄っすら目を開けてみる。

しかし真っ暗な部屋の中じゃ窓から差し込む少しばかりの月明かりが頼りだ。

寝ぼけ眼を使ってどうにかしてラウラを見ようとするが上手く見えない。

 

漸く見えた始めた輪郭。だが、どうやらラウラとはその輪郭が大きく違っていた。

全体的に大きい。今更だが体重、そして身長などなど。

 

特に違いが大きいのは、女性を象徴する男なら誰もが憧れるだろう胸部。

ラウラの胸はお世辞にもどころか、極小。絶壁とまでは行かないが見た目小学生なのに小学生以下。鈴ですらまだあるのにラウラはそれ以下。どうやっても見間違える筈が無い。

 

しかも今俺の目の前にあるものは、少なくとも俺が見てきた中でトップクラス。一、二を争うレベルの大きさの持ち主。

 

そうなると、そんなデカい物をお持ちの女性は俺の知り合いには3人しかいない。

 

束、箒、山田先生。

 

この三択しかない。ぶっちゃけ、鈴とラウラを除く全員が平均を大幅に超える大きさを持っているがこの三強は異次元クラス。

 

すると、丁度月明かりが強く差し込み始めた。

 

そして、ようやく見え始めた目に映ったのは特徴的な薄紫、と言うよりはマゼンダ色よりも少し濃い色の髪。いつものメカウサミミは見えないが。

前髪が垂れて上手く見えないが少しばかり、ラウラとはまた違った赤色の瞳。

 

これだけ条件が揃っていればもう、一人しかいない。

 

「……束、何してんだ」

 

「ッ!?お、おじさん、起きたんだ……」

 

「そりゃ、大人一人に乗られちゃぁな」

 

「むっ、それは私が太ってると言いたいのかな?」

 

束は、薄暗くて分からないが少しばかり怒ったように言う。

そんなことは無いと退かすために腹の辺りを掴んで持ち上げようとした。

 

「んひゃ……」

 

変な声を漏らした束は少し身をよじった。

まぁ、いきなり掴まれたら驚くか。

 

「いやいや、こんだけ細い腹して……ん……?なんか感触生々しくない?」

 

「お、おじさん、その、触ってくれるのは嬉しいんだけどもうちょっと優しく……」

 

そんで、改めて見てみた。

と言うかさっきから俺の腰の辺りに座っている束の柔らかいお尻がむにゅぅ……っと押し潰されて物凄く幸福な感触が男なアレにダイレクトヒットしてて色々と不味い。

 

 

おうふぅ、お尻の感触ががががが……

 

 

いやいや、そんな事は全部放って置いてだ。

いや、放って置けない。めちゃ不味い。

 

だけどそれよりも、それ以上にもっとヤバイことがある。

月明かりがしっかりと入ってくると、よーく分かった。束、服を一切着ていない。下着すら身に着けていない。生まれた姿そのまま。

 

だからだから胸がいつもよりやたらと視覚的にも色々と生生しいのか……

一人納得してしまったが、段々と訳が分からず混乱の極みになり始める我が優秀な脳みそ。いや、こういう時こそ落ち着いてだな。

 

……落ち着いていられる訳ねぇだろ!?え!?何この状況!?なんで俺ってば素っ裸の束に圧し掛かられて跨がれてんの!?

 

と言うか束、なんでそんなに顔赤いの!?お前それ絶対に風呂上りとかじゃないだろ!?酔ったって訳でもなさそうだし!本当に何があったんだよ!?

 

「なぁ、束」

 

「ん?」

 

「なんでお前素っ裸で俺の上に乗ってんの?」

 

出来るだけ、平静にそう聞いた。

うん、何でその瞬間に顔を伏せて俺のお腹の辺りの服をキュッと握るのかな?

 

「……おじさん、私はね?」

 

「おう」

 

「おじさんの事が大好き」

 

「知ってる」

 

「違うよ、おじさんが言ってるのは妹として、兄としての話でしょ?」

 

「当たり前だろ。それ以外に何がある」

 

「……おじさんさ、私の気持ち気付いてたでしょ?」

 

「さぁ、何のことだか俺には分からんね」

 

束にそう詰め寄られて、しらばっくれる。

いや、確かに束が俺に向けてきている好意は兄貴に向けるそれとは全然違うな、と結構前から気付いてはいた。

 

だけど知らないフリをしていた。

いやだって、そうなるだろ!?お前、考えてみろよ?

妹の友人で、途中から妹そのものだと思って接してきた。当然向こうだってそう接してきてた。だがある日いきなりその態度が百八十度どころか三百六十度を何百周も吹っ飛ばして変わったんだぞ!?

 

誰だって戸惑うに決まってんだろ!

 

しかも師範や華さんの前ですら当たり前の様にそうして接してきて、ご両親は止める訳でも無く微笑ましい、とでも言わんばかり、それもカップルか何かを見ているような目で見て来るんだからどうすりゃいいのか分からねぇよ!

 

幾ら止めても全く怯まないんだぞ?しかも日に日に増す攻撃。

 

何時からだったか、考えるのが面倒……じゃないじゃない。嫌になって、

 

「あ、こいつはそういう生き物なんだな」

 

って現実から逃げた。

だってそうじゃなきゃやってられねぇよ。

普段通り妹の様に接してやれるか。

 

言っとくが束だけじゃねぇぞ?千冬もそんな感じなんだ、まともにしてたらやっていられるか。しかも最近は一夏まで加わってきたんだ。それにここ最近箒も怪しいと来たもんだから普通の精神をしている俺からすれば色々と酷いもんだ。

 

輪にかけてセシリア辺りも段々怪しくなってきてるのだからそりゃ現実から目を逸らしたくもなる。

 

それに、何かあれば傷付くのは俺では無く絶対に束達だ。

そんなこと、出来るわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だ。断言出来る。おじさんは私の、私だけじゃなくてちーちゃんやいっちゃん、箒ちゃんの気持ちにも気付いてる。それどころか他の子も」

 

「……さぁな」

 

俺は、何も言い返せなくなって顔を逸らす。

全く、嘘の一つも吐けないとは情けない。何時もならからかうための冗談やらなんやらがポンポン出て来るって言うのによ。

 

「おじさん、ちゃんと聞いて」

 

束はそう言って背けた俺の顔を両手でしっかりと掴んで正面を見させる。

じっ、っと俺の目だけを見つめてくる。

その顔は、普段とは全く違う。覚悟を決めているものだ。

 

これは、ちゃんと聞いてやらなきゃならんな……

よし、腹を括ろう。この際、ここまで追い詰められているのは今の今まで逃げていた自分のせいだからな。

 

「分かった。ちゃんと聞く」

 

俺がそう言うと束は、一度俯いて深呼吸を何度かすると再び顔を上げて明らかにさっきよりもずっと赤い顔をしながらしかしはっきりとした声で言った。

 

 

「佐々木洋介さん、私は貴方の事を一人の男性として愛しています」

 

 

……まさか告白をぶっ飛ばして愛してます宣言されるとは思っても居なかった。

しかし、愛してます、ねぇ。生まれてこの方、自分から告白したこともされたことも無かった。

 

中高の学生時代は自分には縁が無いと親友と遊ぶことの方が絶対的に多かった。

実際、俺はクラスの中の立ち位置は悪いと言う訳じゃない。

 

コミュ障とかそう言う訳でもないし、寧ろ良い方であったと自分では思っている。

恐らく運動部に所属していて、はっきり言ってしまえば俺は悪さとかでは無く、割とやらかす事が多かったから笑いの種になる様な話題を不本意ながらしょっちゅう提供していたのも要因だろう。

そう言うのもあって割と有名と言えば有名だった。

 

数学が苦手過ぎて毎回赤点ばかりで自力で回避出来た試が無いのも理由か。

理系、と言う訳では無く数学が苦手だった。英語もダメダメだったしな。

 

分からなかったらローマ字で書けば何とかなる!フハハハハ、俺って超天才!

 

 

と本気で信じているぐらい。

なんなら十点取れたら奇跡、だと大喜び。

二十点なんて点数を取ったらそれこそ全ての運を使い切ったと意気消沈するぐらい。

 

正直、学年一の馬鹿と思われていてもおかしくないぐらい。

しかし何でだろうな?毎回毎回テスト勉強はやってたんだが、結果は振るわず。

お世辞にも俺の通っていた学校は頭が良いとは言えない。寧ろおバカな方だとは思う。いや、それは関係無いか。

事実、かなり有名な大学やらなんやらに進む頭良い奴は居たし。

という事は俺がただ単に馬鹿だったという事だ。

 

 

まぁ、そんな訳で女子とも親しくないと言う訳では無かった。

そう言う対象で見れる存在が居なかった事と、俺にその気が無かったと言うのもある。

 

ぶっちゃけ面倒だった、と言うのもある。

金は掛かるし、時間は取られるしで自分の自由が無くなる。

 

そう考えていたのだ。

そんなことを考えながら高校を卒業して就職したら、忙しくてそれどころじゃなくなった。

そんな内に千冬と一夏と一緒に暮らし始めて最初は父親を目指したがどうにも駄目だった。だから兄貴として育ててやろう、少なくとも進学やらで一々気を使われないぐらいには必死に働いて金を溜めといてやろう、と思った。

 

そしたら妹優先になるのは仕方が無い。

おまけに一夏はまだ赤ん坊と来たもんだ。千冬だって一緒に暮らし始めて小学校に編入させた時は小学二年生。

どうやったって面倒を見るには小さい。

 

それに、千冬にお姉ちゃんだからと一夏を任せるのは俺が引き取った意味が無いじゃないか。

だから仕事を必死に終わらせて家に帰って、三人分の飯を作って洗濯をして風呂に入れて、洗濯ものを乾して。

 

自分の事は二の次三の次なんて当たり前。

確かに辛いと思う事もあった。子育てなんて初めてでどうやればいいのか分からないし、周りには弱みを見せられる年上はどこにも居ない。

先生は医者としての仕事があるから泣き付いたら迷惑だろうし、師範と華さんと出会うのはそれから二、三年後の話だ。

そりゃ自分で必死に調べまくったよ。

色々と千冬と一夏関係でも、そうじゃなくて仕事やらでも色々と辛いこともあった。

 

だけどそれ以上に二人から貰えるものがそれ以上に大切で大きかったから今の今までやって来れた。

はっきり言えば、あの時はまだ二十代だったから俺は、

 

「二人が立派に成長して大人になって、良い人を見つけて幸せになったと大声で言えるぐらいになったら俺も一度ぐらいは恋愛をしてみても良いのかもしれない」

 

なんて考えたこともあった。

だけどそんな考えは日々の忙しさと楽しさであっさりと何処かに吹き飛ばされて、日々を送っていた。

 

そうしたらどうだ、気が付けば千冬はIS操縦者として世界に立って戦ったし、その後もIS学園に教師として就職してくれた。中学高校と上がって俺の負担を減らしたいって料理こそ出来ないがそれ以外の家事なんかは一夏と分担してやってくれた。

 

一夏もまだ高校一年生とは言え十分過ぎるぐらいにしっかりとしてくれているし、一夏も大きくなってからは俺の負担を減らしたいって千冬と一緒に家事炊事を分担してやってくれる。

 

俺みたいなのが、と心配になった事は何度もあったが、それがまさかこんなにしっかりと、育ってくれているなんて思っても居なかった。

正直、年に一回か二回しか参加しない飲み会の席で仲の良い同僚相手に自慢しながら何度か嬉しくて泣いたぐらいだ。

 

気が付けば、俺は三十路も半ば。四捨五入すればもう四十歳。

ここまで来て俺は、

 

「恋愛はしなくても良いか。多分、今までの生活で十分幸せは味わった。それこそ一生分、来世分ぐらいの分じゃ足りないぐらいには。だから、もういいか」

 

そう思っていた。

まぁ、偶にどころか頻繁にその妹達に獲物として見られててヒエッ……となったことはある。

 

どうにかこうにか千冬が大人になって、後は一夏だけ。

そう思っていたら千冬は兄離れどころか今まで以上に引っ付いてくるし一夏だってそうだ。年々酷くなってきている。

 

本気で兄離れプランを実行しようか、とか考えて、だけど嫌われるのは嫌だなー……

 

と本気で悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺が、今まさにその妹から愛の告白をされている。

 

 

確かに気付いていたとはいえ、これだけで十分天変地異が起きたぐらいに衝撃が走った。

だってそりゃ、今はそうだけどその内俺なんか目もくれなくなってどっかで良い奴を見つけて……とか本気で思ってたぐらいだ。

 

まさか愛してますなんて言われるとは!?

 

と言うのが正直な感想だ。

誰だって、妹から告白をすっ飛ばして愛してますなんてプロポーズ紛いみたいなことを言われるとは予想もしていないし考えたこともない筈だ。

 

……一部の性癖の方々を除いて。

 

 

 

 

 

 

で、俺にそんな事をしてきた束はと言うと。

 

「う”ー”……言っちゃたよー……これで振られたら今までの関係に戻れなくなっちゃう……」

 

とか耳やらおでこ、髪の隙間から見える背中まで茹蛸の様に真っ赤にして俺の胸元辺りに倒れてきている。

 

俺の身体の上で全裸のままブツブツ言いながらモゾモゾしている束。

おい、俺の身体の上で素っ裸でモゾモゾ悶えるな。お前の魅力的過ぎるお身体、特に胸とか太ももとかここでは言う事が憚られる女性な部分とかがそりゃもうゴリッゴリ当たってる訳で。

だけども、束の事だからこれだけ恥ずかしがっているけど、

 

本当はわざと当ててみたはいいものの、やっぱり超恥ずかしいよ!わー!?うわー!?どうしようどうしよう!?おじさん気付いてるよね!?気づいてない方がおかしいよね!?あーもーどうしよう!?

 

と内心滅茶苦茶にテンパっているという可能性すらある。

 

 

 

なんにせよ、俺は束の言葉に何かしらの返答をしてやらなければならない。

まぁ、はっきり言ってしまえば、束からの想いは嬉しい。

 

そりゃこんだけ美人だし、スタイルも良い。ボンキュッボンで俺好みだしまぁ千冬の様に引き締められていると言う訳じゃなくてふわふわ?ムチムチ?って言うの?最高だね。

性格は、まぁ少しばかり対人面においては難があるがそれ以外はそれを差し引いても十分魅力的だ。真っ直ぐ過ぎる、夢中になったら突き進むところとかも束の魅力の一つだ。

 

偶にやり過ぎたり行き過ぎたりする事も多々あるが……

ドイツとフランス?女権団?政治家連中?知らん。自業自得だろ。

あれぐらいで済んだことを寧ろ感謝するべきだと俺は思うが、普通から考えればやはり束に毒されて感覚がズレているという事だろうか。

 

 

 

と言うか、ぶっちゃけ今の束に欠点なんてあるか?

小学生の時に初めて出会った時は割と、「あ、こいつはやべぇな」と思った。多分、あのまま成長していたら今頃はどうなっていたか分からないぐらいには闇落ちしていたかもしれない。

 

だけど、少しばかりのコミュ障はあるがそれでもちゃんと相手と意思疎通と言うか、相手の話を一切聞かずにぶっちぎるとかそういう事は絶対にしないしな。

まぁ、話を聞いただけで言う事を聞くかどうかは分からんけども。

ただ、話も聞かずに突っ走るとか、周りに迷惑を掛けるとかそういう事は無い。

 

 

 

総評。

少しばかりの欠点と言うか、短所はあるけど全体的に見たら俺好みで束からの告白と言うか、愛してます宣言はめっちゃ嬉しい。

 

 

 

 

 

少し、恥ずかしいとか何とか言っている束を見ながら考えてみた結果、俺はそのように結論を下した。

 

ただなぁ、俺にゃ千冬と一夏って言う存在が居る。

千冬はもうとっくに成人して就職もしてるからあれだが、一夏はまだ学生。

せめて、就職して間違い無く一人で生きていける、と俺が確信出来るまでは俺は誰とも男女の仲になったりする気は無い。

 

「束」

 

「うー……何……?」

 

俺はそれを伝えるべく、束の肩を掴んでこっちを向けさせた。

束の顔はそりゃもう真っ赤、真っ赤を通り越しているんじゃないかと思うぐらいには赤くなっていた。ついでに目尻には若干の涙を溜めている。

それで上目遣いをするもんだから、もうグッと来ちゃったね。

 

これも計算した上でやっているんだとしたら恐ろしい子だよ、本当に……でも許す。

それを許しちゃう俺も俺だけど。

 

「まぁ、はっきり言って束からそんなことを言ってくれて嬉しい」

 

「ほんと!?」

 

「本当だって。こんな時に嘘なんて付かねぇよ」

 

断言する。

いや、俺みたいなのがそんな事言っても信用出来ないとか言われてもしょうがないような感じでからかったりしてるけども、こういう場面、誰かの覚悟を踏み躙るような真似はしない。

 

「~~!ッ!」

 

「うぉあ!?」

 

束は、俺の顔を見ながら段々と嬉しそうな、それもとびっきりに嬉しいと言わんばかりの顔と共に抱き付いてくる。

幾ら寝転がっている状態とはいえ、それなりの質量を持つ物体が飛んで来れば重い。

 

「おじさんおじさんおじさんおじさん!」

 

束は俺の頭を胸の辺りに抱き寄せて、自身の身体能力の事を知っているから力一杯と言う訳ではないが、それでも強く抱き締めてくる。

 

うぉぉぉおぉ!束のおっぱいが!?めっちゃ形変えて顔面に当たるぅぅ!

 

天国。だけど苦しい。

なんとか抜け出そうと藻掻いて、タップして助けを求める。

束は、それでも離そうとはせず寧ろ逃がして溜るかと言わんばかりに腕をより一層絡ませて力を込めてくる。

 

 

 

 

「えへへへへ……」

 

漸く離してくれて、身体を起こして見ると束は嬉しそうに自分の両頬を手で挟んでクネクネしている。

いや、もうこの際これで良いんじゃないかと思わなくもないがさっき伝えそびれた事を伝えなければならない。

 

「束、一つ話がある」

 

「ん……何かな?おじさん。今直ぐ入籍だね?結婚式場はどこが良いかな?私的には月面でってのもありかな。だって誰もやったことが無いし地球をバックに誓いのキスとかロマンチックでしょ?」

 

「うぇいとうぇいと」

 

行き過ぎだって。

幾ら何でもそんな直ぐに出来る訳ねぇだろ。

 

その前に俺の話を聞いて?

 

「束、確かに俺はお前の気持ちは嬉しいと言った」

 

「え……それって……」

 

「あぁ、待て待て。最後まで聞けって」

 

束はそれを聞いて途端にこの世の終わりと言うか、地獄に叩き落とされたとかそんなレベルの絶望に染まった顔をした。

だーかーらー、人の話は最後まで聞きましょうって教わらなかったのか。いや、俺は教えたはず。うん、絶対に教えたはずだ。

 

「別に断るとかそう言うんじゃなくてだな?」

 

「じゃ、なに……?」

 

「俺にゃまだ一夏って言う、まだあと数年は大人になるのに時間が掛かるやつが居るんだ。少なくとも俺は一夏が一人立ちするまでは誰かと付き合うとか結婚とかは考えるつもりは無いってことだ。おーけー?」

 

「んー……要は、いっちゃんが結婚するとかそういう事でしょ?」

 

「まぁ、そこまで行かなくても最低限、就職して俺の世話が必要にならなくなるまで、だな。高校卒業してから大学やら専門学校に進むなり、ISの操縦者として活躍するなり何でもいい。取り敢えず、そこまで待っていて欲しい」

 

「ふーん……分かった。私はそれまで待つよ」

 

束は、ちょっと考えて、少しもどかしい、悔しいとかそんな表情をしてから頷いてくれた。

最後に少しだけ口角が上がったような気がしたが気のせいか?

うーん、何か企んでいるような企んでいないような……?

 

「そんじゃまぁ、そう言う事で」

 

「別にそれは良いんだけどさ?私的にはもっとイチャイチャしたいなー、って……思うんだけどダメ……?」

 

多分、束はこう言いたいのだろう。

私と、一緒に寝ようよ(意味深)と。

おまけに再び抱き付いてくるもんだからもう手に負えない。

 

「あー、それも出来れば待ってくれ」

 

「どうして?」

 

「正直に言うぞ?」

 

「う、うん……」

 

「あー、別に心配すんな。束に問題がある訳じゃなくて俺にあるってだけだから」

 

何故そこまで心配そうにするんだろうか。

別にまだなんも言ってないし、そもそもそうだとは限らんだろうに。

 

「正直に言って束は、俺からすりゃ魅力的過ぎる。だから、一度でも手を出しちまえばそれこそ後戻り出来ないぐらいに嵌っちまいそうなんだよ。そうしたら一夏達どころじゃなくなる。だから待ってくれって言ったんだよ」

 

俺がそう言うと、束は最初理解していなかったような、顔をして、収まりかけていた顔の赤みも段々とまた、赤くなってきて遂には顔を覆ってまた俺の胸に顔を突っ込んだ。

 

「お、おい束?どうした」

 

「んー!んー!」

 

「足をバタつかせんじゃねぇ!色々当たってんだぞ!?つーかそろそろ降りろ!」

 

「お断りしまーす!」

 

束は俺の身体の上でそのまま足をバタバタさせる。

そうすると、当然胸やら太ももやらなんやらかんやらがそりゃぁもう惜しげも無く柔らかさ故に形をむにょんむにょん、ぐにんぐにんと聞こえてきそうなぐらいに形を変える。

 

だもんだから男としちゃ大変なわけですよ。

今は束は妹、と心の中で全力で唱えたり般若心経唱えたりで何とか堪えている。いや、般若心経全く知らんけども。

 

「…………やだ」

 

「はぁ!?おま、何言ってんの!?」

 

「おじさんからは絶対に離れない。離れてあげないんだから」

 

束はそう言うとさっきまで顔を覆っていた手と、腕を俺の背中に回して思いっ切り抱き締めてくる。

 

「おい!マジで離れてくださいお願いします!もう色々と当たっててヤバイんだよ!」

 

「いや」

 

「いやじゃねぇ!い・い・か・ら・は・な・れ・ろ!」

 

「いーやー!!」

 

何故、あれだけドラマティック的な雰囲気から普段通りに戻ってしまうのか……

 

しかしマジでどうやったら離れてくれるのか。

あれか?中和剤でもぶっかければ離れてくれるのか?

 

いやしかし本格的に不味いぞ。

息子がちょっとばかり元気に……いや、これ以上は止そう。

 

ってことなんで早めに離れてくれないと俺の失われてもだーれも痛くも痒くも無い色々な尊厳が失われちゃうから!

 

「束さん、本当に離れて頂けませんか。ちょっとマジで色々と不味いんですけど」

 

「えっと、その、なんなら、このまましちゃう……?」

 

束は色々と気が付いたのかそう聞いてくる。

 

「………………………………………………さっきの話納得してくれたでしょーが」

 

「ちぇっ……」

 

返答までに時間が掛かりましたね、だって?

当たり前だろ!葛藤したに決まってんだろ!

お前なぁ!?束があのおっきい胸を両手で持ち上げてまた上目遣いを使って来たんだぞ!?破壊力半端無いったりゃありゃしない!

俺じゃなかったら絶対にそのままイチャネチョグチョネチョなR‐18展開待った無しだったぜ!?

 

だけど今は手を出さないとか言った手前、絶対に出せん!

呪文を唱えよう。

 

 

 

束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹…………………………………………

 

 

 

よし、俺は大丈夫。

 

 

 

いやぁ……今更だが俺も中々にテンパって混乱の極みにあるらしい。

うん、だってそらそうよ。理由はさっきも説明した通りだけどさ。

 

「本当はおじさんの恥ずかしがる顔とか見たいけど、まぁ、でもこれ以上おじさんを困らせるのもあれだし」

 

そう言うと、束は俺から離れた。

当然、密着していた事によって隠れていたあちこちが丸見えになっちゃう訳で。

 

どうしてこういう日に限って雲が少ないのか……

お陰で月明かりさんがばっちり束の身体を照らしている。

顔を逸らして俺は言った。

 

「…………束、取り敢えず何か着てくれ」

 

「え?…………~~~~~ッ!?!?!?」

 

束はそう言われて、自分の身体と俺の顔を何度か往復すると今までよりもずっと顔を赤くして声にならない声で悲鳴を上げた。

 

ごめん、指摘しなきゃ良かったとか思えない。

 

 

 

 

 

 

結局その後は束が死ぬほど恥ずかしがって布団に立て籠もり、どうにかこうにか慰めるというか、ご機嫌を取ろうとしたけど無理だった。

 

 

で、最終的に俺は束に取り敢えず服を着てくれと頼み込んで、浴衣を着て貰って。

と言うか下着を着ないのか、と疑問に思ったがこれ以上何も言うまい。

 

眠くてそれどころじゃなかったし。だって三時だぜ?良い子の皆はとっくの昔に寝入ってる時刻だよ。

そんな時間まで起きているのは結構辛い物がある。

 

そんなわけでそれぞれ布団に潜って寝たんだけども。

 

 

 

ついさっき起きたら、浴衣だけで下着を一切身に着けていない束が俺の布団の中で俺の頭をガッツリ胸元に抱き締めて眠っていました。

そりゃ、浴衣ってんだから帯で締めてる訳だし、その帯もしっかり締めたとしても寝ている間に緩くなって来ちゃうわけだ。

 

で、どうなるかって言うとだな。

 

前がご開帳されてしまう訳ですよ。

胸元から大体下腹部辺りまで。それで俺の頭を抱き締めるもんだから束の柔らかいお肌と胸が惜しげも無く押し付けられて形を変えるわけだ。

 

しかもあったかいし良い匂いはするし束の呼吸音とか心臓が動く音が良く聞こえる訳ですよ。

鼻から上は出ている訳だから束のそれこそたった一枚写真を撮っただけけで、そのまま出したら何の加工もせずに賞を取れるぐらいの綺麗な寝顔が間近にある。

しかも束のおててが俺の後頭部をしっかり捉えてて逃げ出そうにも逃げ出せない。

 

もうこの時点で色々とやばかったのに、なんかモゾモゾ動き出したと思ったら男の尊厳云々の話になるので詳しい話は避けさせて頂くが、男特有の、朝の生理現象と言いますか。それに加えて束の諸々が加わってワタクシめの未来製造機、マイサンがフルバースト状態になっちまいましてね?

 

現在進行形でそんな状態なわけですよ。

で、チラッと見た時計には、七時と記されている。

 

それでちょっとばかし差し迫った問題がある。

本日の朝飯の時間は七時半なんですよ。

 

はい、あと三十分しかありません。

 

もし少しでも遅れそうになろうものなら、千冬を筆頭に一夏や箒、セシリアに鈴、シャルロット達が殴り込んでくる訳ですよ。

そうなったらどうなるか想像もしたくない惨状が広がるに決まってる。

ラウラとクロエは娘だからこんなところを見せる訳には行かんし、見られたら俺は二人の前に立て無くなっちゃう。

 

しかも我が息子はフルバースト状態でIS学園に入学してから禄すっぽ処理をしていなかったからかなりヤバめ。と言うかギリギリ。

これを他人、同性に見られるだけでも結構あれなのに異性ともなれば社会的にも色々とヤバイ。お巡りさんに通報されたら容赦無く手錠を掛けられちゃう。

 

という事でタイムリミットは、十分と見積もっておこう。

それまでに何とかしてこの天国なのか地獄なのか分からない状況から脱出しなければならない。

 

束の背中を叩いてみたり、どうにかして抜け出そうとするが全然出来ない。

と言うか、こいつ俺が離れようと力を籠めるとそれ以上に抱き締める力を強めるから無理だ。

 

「んぅ……」

 

あー!?マジで離してくださいお願いします!このままじゃ俺がぶっ殺されてしまいます!イヤダァァァァァァァ!!!

 

残り一五分!

ど、どうにかしなければ!?

 

『兄さん?もう朝食の時間だぞ?なんだ、まだ寝ているのか?』

 

「あばッふッ!?!?!?」

 

ノックの音と共に千冬の声が聞こえる。

思わず変な声を出しちゃったじゃんか。

 

やばいぞ、何とかして誤魔化さないと!

 

『あばっふ……?兄さん、どうかしたのか?入るぞ』

 

「あー!千冬ストップ!俺今着替えてるから!」

 

『……本当か?やけに焦っているが?』

 

「本当だって!ついさっきまで風呂に入ってたんだよ!」

 

『……分かった。先に行っているからな。遅刻しない様に』

 

「おう!」

 

いよっしゃぁぁぁ!!

なんとか口を出して束の胸の間から返答出来た!いやもう本当に焦った!マジで誤魔化せて良かった!

 

「束、ちょ、マジホントに起きて」

 

「ん~……?」

 

「お、起きた?俺の事離して欲しいんですけど」

 

「……?あれ……なんでおじさんわたしのふとんに………………ぃぃぃぃいいいい!?」

 

「グボアァッ!?」

 

俺の顔を見て段々と意識が覚醒してきた束に思いっ切り突き飛ばされてゴロゴロと吹っ飛んで壁にぶつかった。

 

 

いってぇぇ!?背中思いっ切り打ち付けたんですけど!?

 

いや、それよりもさっさと着替えないとぉぉぉ!?

下半身が大変なことになったんだった!

 

くそぅ、これじゃぁ着替えらんないし出ていけないじゃん!

こうなったら時間無いが冷水シャワーを浴びるしかない!

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

 

冷水シャワーを浴びながらめっちゃ念仏唱えて必死こいて色々と鎮める為に尽力する。

 

 

結果として何とか鎮まった色々。

俺はさっさと上がって拭いて着替えて朝飯に束と共に向かいましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 束 ----

 

 

 

 

おじさんと同じ部屋。

これが、どういう意味があるか、おじさんの事を好きな子で分からない子は誰も居ないと思う。

 

学園側からの依頼ってことで警備を任されたときに報酬として要求してみて良かった。

 

最初は当然ちーちゃんがブチギレながら断固拒否するって言ってたけど、そうなると私が依頼を受けてくれないからって色々考えて悩んで、結局ちーちゃんもOKしてくれた。

 

学園側は、日本政府お抱えの暗部を最初は使おうとしたようだけどはっきり言って私と比べるとどう考えても警備に隙が出来ちゃう。

だけど、あんまり言いたくないけど私の手元には元軍特殊部隊のIS部隊丸々が居る。はっきり言って一二人全員がISを装備しているとか、国盗りを狙ってるとかどこかの国を消し飛ばす気?とか疑われても仕方が無いぐらい。

 

だけど警備って言うのならこれ以上ない。

だからこそ、それを使って欲しかったんだろうね。この学園の本当の学園長、確かに交渉事とかそういうのは手慣れているし何故ここでやっているのか、と普通なら思うぐらいの能力はある。

 

だけど、他の奴らとは違うね、断言出来る。

他の奴らと一緒なら今だって私は此処に居なかった筈。幾らおじさんの為だって言っても私がいるせいで危険が及ぶのなら居ない方が良い。

 

だって、その気になればいつでも傍に行けるしね。

 

元々はちーちゃんと一緒の部屋だったけど別に私でも変わり無いって判断だろうね。

 

そりゃ勿論、何の企みも無い訳が無い。

おじさんと同じ部屋。それだけで絶対的なアドバンテージを得られるんだから有効活用しない訳には行かないでしょ?

 

 

 

 

 

 

そして初日が終了。

晩ご飯も食べて、おじさんは日課のトレーニングから帰って来てるし後はお風呂に入るだけ。

 

先におじさんにお風呂に入って貰って。

 

 

 

 

本当は、こんなつもりじゃなかったんだけどちょーっと他の皆が最近おじさんと急接近し始めちゃってるから色々と調査とかで忙しい私としては何となく置いて行かれている気分。

 

だって、ちーちゃんいっちゃん、箒ちゃんは言わずもがな。

毎日毎日手を握ったり抱き付いたり、腕を組んだり。ちーちゃんなんか毎晩毎晩おじさんを抱き締めて寝てるんだよ!?ズルいよ!

 

チャイニーズガールは、表面上と言うか、気が付いて無い様だけど周りから見れば結構、いや物凄くおじさんの傍にいる。あれだ、存在感は薄いけど確実に隣にいる、みたいな?それでいざって時に圧倒的存在感を醸し出すタイプ。

元々は滅茶苦茶にキャラが濃いと思うんだけど……

人って化けるよね。

 

おじさんがVTシステムとの戦いで大怪我して、久々にちーちゃん達に会った時も暴走してた皆を一緒になって止めたのはこの子だし。

 

イギリスの子も結構恥ずかしがりながらもスキンシップと言うか、くっつくことが多い。

なんだかんだ言いながら、腕を抱き締めて隣を歩いたりハグしたり。

 

フランスの子もあの一件以来、おじさんにべったりだし?

まぁ、我が愛しの娘のクーちゃんとラウラちゃんは今の所そんな事は無いから安心かな?

 

 

そんな状況で一人だけ月面に住んでいる私としては、そりゃもうズルいな、って毎日思ってる。

 

それこそジェラシーストームだよ!

 

なのに、おじさんと会って抱き付いたりしても、その、おっぱいとか押し付けても反応無いし?いつまでも妹扱い。

ちーちゃんといっちゃん、箒ちゃんにも言える事だけど。

 

本気で男の人が好きなのかなー、とか考えたりしたけどおじさんの秘蔵フォルダには女の人のしか無かったからそこは大丈夫。

 

 

 

 

それに、おじさんは私達の気持ちに薄々気が付いてる。

それこそ私を含めた妹四人組の気持ちは多分、確実に気が付いている。

なのに妹として扱ってくるんだもん、そりゃ悔しくてしょうがない。女としての魅力はまぁ、顔もスタイルも世界一だとは思うし?お金もあるし?家事とかもある程度は出来るし?性格は若干難があるけど……

 

私って結構優良物件だと思うんだ。

はっきり言って、おじさんとクーちゃん、ラウラちゃんの三人を養うぐらい余裕どころか贅沢三昧をして貰っても資産は国家予算並みにあるから問題無い。

 

 

確かに、おじさんに告白して、振られて今までの関係が崩れるのは怖い。

それでも大好きな、この世界で一番愛してる人には妹じゃなくて、女として見てもらいたくて。

 

 

 

もしかすると、おじさんも心のどこかでこの関係性が崩れたりするのが怖いって思ってるのかもしれない。

 

 

だけど私は、ここで引いたら絶対に後悔すると思うんだ。あの時にどうして、って。

 

 

 

 

 

そーゆーわけで、本日はお風呂に突撃しちゃいます。

 

 

 

 

結果的には、まぁ断られちゃった。

そう言う事するんじゃありません、ってお説教付きで。

 

悔しかったし泣きそうになっちゃったけど……でも、そんなんじゃ私は諦めないよ!

 

第二段作戦の開始だ!

 

 

 

 

おじさんが、布団に入って寝息を立て始めた頃。

 

私はおじさんの布団に潜り込んだ。

 

何も身に着けずに。

浴衣は勿論、上下の下着も勿論脱ぎさっている。

 

当然、緊張するよ。

多分、ISを世界に発表したとき以上に緊張してる。

 

だって自分の大好きな人、それこそ今すぐにでもこの人の赤ちゃんを、とか考えちゃうぐらいに愛してる人の前で、しかも眠っている所にこんな格好でひっつくなんて誰だって緊張どころか顔から火を噴くぐらいには恥ずかしいし緊張する。

 

おじさんの腰の辺りに跨って腰を下ろした。

 

 

そこからの記憶は結構曖昧と言うか、なんかもう色々あって恥ずかしかったり嬉しかったりで感情が迷子になってたのは良く覚えてる。

 

だけど、それ以上にはっきり覚えているのは、恥ずかしいって感情よりもずっとずっとずっとずっとずっと、嬉しくて幸せな気持ちだったってこと。

 

最後はおじさんに私の全裸をばっちり見られちゃった事が恥ずかしくて、自分の布団に籠っちゃったけど……

 

 

 

その後は浴衣だけ着て、おじさんが寝てからその顔を暫く見てた。

そしたらもう、お腹の、下腹部の辺りがきゅーってなってすっごく恋しいって言うか、愛しいって言うか。

そんな感情が込み上げてきて。

 

もどかしくてもどかしくて、しょうがなかった。

だけどどこかすっごく幸せな気分で。

 

無意識におじさんの布団にまた潜り込んじゃって、頭を胸元に抱き締めたらもどかしい感情は薄くなった。

今、私は一番おじさんの近くにいるのにどうしても完全にその感情が消えることは無くて。

 

どうしてだろう?分からないなぁ……

 

私はどんなことでも分かる。分かってしまう。

だけどそんな私でも分からない感情がおじさんに出会ってからずーっと、ずーっとあるんだもん。

 

だけど、すっごいすっごい幸せだな、この感じ。

 

鼻歌を歌いながら、おじさんの頭を撫でる。

優しく、慈しむ様に。

 

小さいときに、おじさんが私にそうしてくれたように。

私達の髪とは違ってちょっと硬くてゴワゴワしてて。

 

「ふふ……んー」

 

思わず笑っちゃった。

思えば、私が大きくなってからこうして二人きりだけで寝るのってなんだかんだ言って初めてだなぁ。

 

 

 

そうしているうちに段々と私も眠くなって来ちゃった。

おじさんのおでこに軽く唇を落として

 

「おやすみ、おじさん」

 

最後にそう言ってから目を閉じる。

すると、すっごくすっごく酷く幸せな気持ちに包まれながら私は眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝起きて、ちょっと一悶着あって突き飛ばしちゃったりしたけど。

と言うか、おじさんの、下半身のアレを見ちゃったんけど……

 

男の人が朝にそういうのがあるのは知ってるけど、多分それだけじゃない。

 

だからそういう目で見てくれるって事だから嬉しい。

 

「えへへ……んふふふ……」

 

おじさんがお風呂で冷水シャワーを浴びている間に私は着替えたけど、結構な頻度で頬を抑えながらだらしない声を出しちゃった。

じゃなきゃ頬は緩みっぱなしでまともな顔なんてしてられないんだもん。

 

 

それからおじさんがお風呂から出て、着替えた後に一緒に朝ご飯を食べに行った。

その間も、緩みそうになる頬とか目尻とかを抑えるのに必死で味なんかまったく覚えてないし会話も覚えてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日一日までは自由時間。

だから私はおじさんと一緒に砂浜で座っている。

 

 

 

目の前には仕事の鬱憤を晴らしているんじゃないかってぐらい本気で泳いだり砂遊びをしたりしているちーちゃんや、なんだかんだで仲の良い皆でビーチバレーをしていたり。

 

おじさんは、昨日の事もあってか眠そうに椅子の背凭れに寄り掛かっている。

 

「おじさん、眠いの?」

 

「んぁー……まぁちょっとな……」

 

そう言いながら飲み物をズズズズッ、っと飲んで一息付いている。

何となく、その横顔を見てたらまたもどかしくなって来ちゃった。

 

んー……おじさんの顔って世間一般からするとそこまでイケメンって訳でも無い。

あえて言うなら、普通?本当に世間一般的に普通にそこら辺に居そうなおじさんって顔。だけど、その顔はちーちゃんといっちゃんを男手一つで必死に育てて支えてきた時の苦労が染み付いている。

 

一九歳って言うまだまだ若くてそれこそ、その気になればいつでも自分の夢に向かって走り出せる時に二人を引き取って必死になって働いて、面倒を見て。

誰よりもずっと苦労が多い人生。

 

何時だったかな、確か小学五年生ぐらいの頃にお父さんとお母さんと話しているのをこっそり聞いたことがある。

 

 

 

『洋介君、辛いならば二人の面倒は私達が見る事も出来る』

 

『いえ、それは絶対に、師範と華さんからの提案だったとしてもお断りさせて頂きます』

 

『どうしてかな?』

 

『まぁ、何と言いますか……意地、ですかね』

 

『意地?』

 

『あの二人は、言ってしまえば親に捨てられたんですよ。そこに俺があの二人を引き取った。それで、俺が辛くなったからとか、苦しくなったからとかで放り出せる訳が無いでしょう?そうしたらまた、あの二人はそれ以上に辛い思いをする事になる。だから、そうさせたくないからこその意地ってもんなんです』

 

『だが、それで洋介君が倒れたら元も子も無いだろう?今だってそんなに疲れた顔をしているじゃないか』

 

『ありゃ、出ちゃってましたか……』

 

 

 

確かにあの時のおじさんの顔は、今ままで見たことが無いぐらいに疲れた顔をしていた。何時もの元気が溢れていて楽しげな雰囲気じゃなくて、とっても弱々しくて別人なんじゃないかってぐらい違う人に見えた。

それをお父さんに指摘されたとき、おじさんはバツが悪そうに頭を掻いていたのも良く覚えてる。

 

 

 

『それだけ辛そうな顔をしていれば、誰だって分かるさ。多分、一夏ちゃんでも分かるだろうね』

 

『ハハハ、そうですか。でも、あの二人には絶対に悟られてないと思うんです。絶対に自信がある』

 

『ほう、どうしてだい?』

 

『まぁ、さっきと同じ意地の話になっちゃうんですがね』

 

 

 

『兄貴ってのは妹の前じゃぁ、絶対に弱い所を見せないってもんだと俺は思っているんです。それに、俺が苦しいとか辛いとかそういう感情を顔に出したら千冬と一夏だけじゃない、束に箒も気を使ってしまうでしょう?そうなったら今みたいに遊んで笑って、少し泣いたり、って訳には行かなくなる。それはこれから大人に向けて成長していくうえで少なくとも俺に対しては必要の無い事ですから』

 

 

 

『くっ……はっはっは、そうかそうか……そう言えば、君はそういう人間だったね』

 

『えぇ、俺はそういう人間なんですよ。それに、四人が居る分、確かに色々と苦労は多いですが、それ以上に貰える物の方がずっとずっと多い。それで十分じゃないですか。なんなら貰い過ぎな気もするぐらいですよ』

 

 

お父さんは、これは説得するのは無理だな、って顔をして笑っておじさんの肩を叩いていた。

おじさんは笑って当たり前の様にそう言っていたっけなぁ。

 

そのあと、次の日は休みだから、少しは息抜きしようって三人は笑いながらお酒を飲んで話してた。

おじさんは、確かに私達の前では絶対に弱い所を見せた事が無かった。

 

いつでもどんな時でも笑って、私達を気遣ってくれていた。

どこかに行きたいって言えば、直ぐにではないけれど連れて行ってくれた。

 

私の夢をずっと応援してくれていたし、なんなら手伝ってもくれたときも一度や二度なんて回数じゃない。

 

 

今思えば、偶にそう言う顔をふとした瞬間にしていた。

だけど直ぐに元の顔に戻って私達と遊んでくれたりしてたなぁ……

 

 

そう思い出しながらおじさんを見ると

 

「あー……眠い……」

 

椅子に深く座ってくわぁぁ……っと大きな欠伸をする。

 

「おじさん、眠いなら少し寝たら?」

 

「だがなぁ……」

 

「大丈夫だよ、皆遊ぶのに夢中だから気付かれないって。もしもの時は私が起こしてあげるからさ」

 

「んー……それもそうだな……そんじゃぁ、少し寝るとするかぁ……」

 

眠くて何が何だか分かってない、取り敢えず答えておこう、みたいな感じでそう答えたら寝ちゃった。

 

私はおじさんのすぐ隣に椅子を移動させて、くっ付けておじさんの手を握る。

指を絡ませてにぎにぎ。

いわゆる、恋人繋ぎってやつかな。

 

皮膚が固くてゴツゴツしてる。

あったかくて頼りがいがあって、私やちーちゃん達の手よりもずっと厚みがある。多分、倍ぐらいあるのかな? 

おじさんの肩に頭を乗せる。

それで皆が遊んでいる姿を眺める。

 

 

なーんか、こうしておじさんと手を握ってみんなの事を見てると本当に結婚して夫婦になって、成長した子供達を見てるみたい。

 

 

おじさんが起きてる時の方が絶対に良いんだけど、まぁこれでもいっか。

それからしばらくの間、おじさんが起きてからもそうしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!?お兄ちゃんと束さんがイチャイチャしてるー!」

 

「んな!?姉さん!抜け駆けですか!?」

 

「小父様もそんな、満更でも無い顔をしないで下さいまし!」

 

「束ェェェ!!兄さんと同じ部屋だけに飽き足らず、そんなことまで!!羨ましい!!!」

 

「篠ノ之博士、私に譲って下さい。一番触れ合いが少ないんですから、それぐらい良いですよね?」

 

「母様母様、私も手を繋ぎたいぞ!」

 

「お母様、家族の団欒はどこに行ったのでしょうか?」

 

ありゃりゃ、皆に見つかっちゃった!!!

その瞬間におじさんは弾かれたようにばっ、と走って逃げ始めた。

 

「うおぉぉぉ!?!?!?千冬、待て!話せば分かる!」

 

「ならば私とも一緒に過ごすんだ!」

 

「学園でいっつも過ごしてんじゃん!?嫌ぁぁ!?バレーボールがおじさんを襲うゥゥゥゥ!!!」

 

おじさんはあっちへこっちへ逃げ回り、時々飛んで行くバレーボールを器用に上下左右に避けては説得を試みてる。

割とふざけてる様な所もあるから意外と余裕あるのかもしれない。

 

 

「束ェェ!束さーん!!たーばーねーさーまー!?助けてー!アーーッ!?アーーッ!?」

 

あ、本気で助けを求める声になっちゃた。

 

「もー、しょーがなーいなー」

 

原因は私だけど、助けてあげよう!

そう言いながら立ち上がった私はおじさんを助ける為に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

 

 




束さんの所、月明かりにした理由。
だってその方が風景的にも情緒的にも良い気がする。
いや、もうはっきり言ってしまおう。


その方がエロいじゃん!?



月明かりに照らされる束さん……イイ!!
あとはガチで月に住んでいる兎さんだから。



いやぁ、自画自賛になるけど結構イイ感じに書けたと思う。
これで感想少なかったら泣いちゃうかも(チラッチラッ)




それはそうと、書いた後に思った。

この小説、全体的に他の皆より束さんがヒロインムーブしてね?

って。
うん、まぁでも束さん可愛いからね、しょうがないね。
作者もおじさんみたいに束さんに抱き締められたりしたいよぉぉん!

だけど彼女も居ない作者には無理か。
現実は、残酷だ……

あ、一応他の皆のそれぞれの話も書くつもりではいるから安心してくれて大丈夫よん。
じゃなきゃ面白くないじゃん?その度にヒーコラ言うおじさん、見たいでしょ?ね?




追記
本編を優先して書くのでR-18は書くとしたら合間合間の時間にちょこちょこ書く予定です。

って事で更新速度は察してくれ。







R-18編でござる。

https://syosetu.org/novel/227721/


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やっぱり問題が起きるIS学園のイベントォ! おじさんはそろそろ泣きたいぜ!?




読者の皆さぁ……

アンケートに答えてくれるのは嬉しいよ?
でもネタに投票しまくってそれが一番多いとかどういう事よ?
お陰で書くか書かないか分からん。

確かにそんなのを入れた俺も悪い。
でもあれだね、ここにいる人達は皆揃ってそう言うのが大好きなんだって知ってたのに……
結局の所はそんな枠を作った作者が悪いんやなって。





めっちゃすいませんでした。

あ、R‐18編は書くことになりました。
まぁでも本編と他作品の投稿を最優先で書き進めるので、第一話の投稿は何時になるか分かりません。

ちょこちょこ書き進めるつもりではいます。
完成するのは本当に何時になるか分かりませんけど。

それでものんびり気長に待っていてくれると有難いです。

一応言っとくと作者、R‐18書いたこと無いのが心配な所だね……とてもじゃないけど読めたもんじゃないかもしれないから気を付けて。















 

 

 

さてさて、本日は平和ですよ。

昨日は散々だったぜ本当に。

 

いやね?束と一昨日の夜に色々あったじゃないですか。

それ以降、束からのスキンシップが過激になりまして……

 

抱き着いたり頬擦りなら何時も通りだから良いとしても、それ以外が問題なんだよ。

いやだって、事あるごとに俺の手を握ってそれを見つめながらにぎにぎにぎにぎ……んで、偶にニヘッ、っと嬉しそうっつーか幸せそうっつーかそんな感じで笑ってまたにぎにぎにぎにぎ。

 

これなら可愛い方で座っている俺の頭を特に理由も無く前後左右あっちこっちから抱き締めて撫でてくる。と言うか常にくっついて来ている。

 

お陰で千冬達がもうね……ジェラシーストームだよ。

追い掛けられて逃げて、偶に音速超えてそうなボールを避けてまた逃げて、少しばかりおちょくりながらまた逃げる。

 

そんな事を一日中続けてたもんだから、千冬は午後から仕事で居なかったから良かったけど一夏達がぶっ倒れた。

 

千冬も去り際に、

 

「束ェ!!兄さんに手を出したら冗談抜きで許さんからな!?細切れにして魚の餌にする!」

 

とか物騒な事を言っていた。

そんなことしなくてもお兄ちゃんは傍にいるよー……

 

まぁ皆、軽い熱中症という事で水分摂って休んでれば問題無い、との事だったので旅館の自室で大人しく待機する事に。

ぶつくさ文句言いながら引っ込んでいったけどさ、ちょっとばかし言わせて貰うとだな。

 

そら、朝の九時から昼一二時過ぎまで走ってたらそうなるよ。

お陰で俺も熱中症とかにはならなかったけど疲れちったよ。

 

お部屋で待機中のその間、一夏、箒、セシリア、シャルロットはのんびりトランプやらUNOだったりをやっていたらしい。

旅館に常設されていたリバーシやらもやったとか。

将棋もあったけどやり方分からないからって挟み将棋とかばっかりやってたらしい。

 

おじさん?おじさんはそりゃ娘達の相手に決まってるじゃないですか。

鈴は追っかけっこに参加しないでアイスバーを食ったり泳いだりしてたから午後からは一緒に遊んでた。

 

束は、

 

「チャイニーズガールの一人勝ち……貴様、謀ったな!?」

 

とかなんとか言ってた。

なんだかんだ言って全員が全員思い思いに楽しんで遊んでいたのは良かった。

 

待機組も部屋で楽しくやってたらしいし俺は嬉しいよ。

 

 

 

 

 

 

でだ、今日は何をするかってーとだな。

先ずはIS適正の確認。

これは問題無く午前中までに終了。

 

適正が変化した者は居なかった。

 

 

午後からは操縦者志望の生徒と整備士志望の生徒で別れてそれぞれ授業と言うか実際に模擬戦や整備を行う。

 

俺は問答無用で操縦者側に放り込まれましたよ、えぇ。

操縦者を志望するのは、以前にも話した通りIS適正がAのお嬢ちゃん達ばかり。

今回はBとかの子は居ないらしく、全員合わせて二十三名。

 

専用機持ちは一夏、鈴、セシリアと四組の子の計四名のみでそっちはそっちで別の事、まぁ機体の開発元から送られてきた各種武装やらシステムやらなんやらのインストールとその試験などを主に行っている。

 

本当ならシャルロット、ラウラも専用機持ちなんだが、二人とも既に母国は束によってISを取り上げられているし、そもそもの話ラウラに関してはドイツ国籍ですらない。

と言う訳なのでそっちには参加していない。

千冬と山田先生はそっちに付いているのでここにはいない。

 

 

で、操縦者志望の二十三人+俺とシャルロット、箒の計二十五人は模擬戦を行う。

その中には代表候補生の子もいるにはいるが、やはり専用機持ちではないので操縦訓練は学園からISを借りるしかないがそれも倍率が高く早々に順番は回ってこない。

整備士志望の皆も一年生の内は整備をさせて貰えないので絶好の機会と言う訳だ。

 

箒も意外かもしれないがIS適正がAと高い。

本人は別に整備士でも良いって言ってたんだが、俺がこっちにいるのと、俺と戦いたいからとかいう理由で操縦者の方に来た。

 

……なんか一瞬背筋に悪寒が走ったんだけど気のせいよな。

 

 

そう言う訳で今日明日明後日の三日間は全員が全員とんでもないやる気に満ちている。

 

見りゃすーぐに分かるよ。

だって目が爛々と光ってんだもん。

ラウラは未だ、VTシステムの時のトラウマが抜けていないからかISの展開を嫌がっており理由が理由だから無理にやらせる、と言う訳にもいかず見学だ。

 

で、整備士志望の子達は束を筆頭に学園で機体の整備を行っている先輩方や先生達の指導の下、整備を実施する予定だ。

 

と言っても最初は少し見学。

俺達が動かした機体を最初だけ整備する予定だから模擬戦を見ておきましょう、って訳だ。

幾ら整備士とは言え、実際に動かしているISを見れば色々と得られるものはあるからね、って言う事らしい。

 

 

そんなわけで行われる模擬戦なんだけど、俺が全員の相手をするんだよ。

シャルロットを入れた二十五人全員を交代交代で延々と対戦ループとかいう、俺からすると地獄の様に忙しくて大変なお仕事だ。

理由としてはここでもおじさんが強すぎるからって言うね……

 

 

と言ってもシャルロットはまだしもそれ以外のお嬢さん達はまだまだ。

一応、二十分の制限時間を設けたが実際には最初の一週目はそれよりもずっと短い二分程度で全員を叩き落としてやった。

当然、俺は全力なんか出しちゃいねぇよ?だって出したら一瞬だもん。

最初の一周は取り敢えず慣らしと、俺が全力を出していないとはいえ、「二分間食らいついた」、と言う自信を付けさせる事にある。

正直な話、心を叩き折ろうと思えば一撃で沈めるなんて事はしない。

 

それこそ徹底的に心理的に追い詰めるように、嬲り殺しにしてやれば良いだけの話だ。

それが通用するのは、精神的に強靭、反骨精神が強ければ尚更良い。

そう言うやつだけにしか通用しない。

 

 

だが心を折るなんて、そんなことする必要はどこにも無い訳で、寧ろ、

 

「自分達も専用機持ちじゃないけど十分やれる!」

 

って言う自信を付けさせてやることが重要だ。

お陰でお嬢さん達は最初に、俺が対戦相手だと知らされた時の絶望しきった顔じゃなくて自信を付けた、立派な顔立ちになっている。

 

良きかな良きかな。

 

こういうのを見ているとどうにも嬉しくなってくるのは俺だけじゃない筈だ。

 

 

 

 

シャルロットだけは射撃を主体としてるから手古摺ったが中距離での射撃武器を扱っているから遠距離で突いてくるセシリアに比べればなんて事は無い。こっちも三分で終了。

俺の癖を理解している一夏や鈴、完全に遠距離主体のセシリアと比べるとどうしても見劣りする。

 

そんでもってラウラ、シャルロットを除いた面々のISを整備士志望の子達に渡して別の機体に乗り込んで二周目、三周目とやっていく。

 

 

 

「ホラホラお嬢さん方ァ!若いってのに情けねぇぞ!?」

 

「クッ!なんだでこんなに強いんですか!?」

 

「お喋りしてる暇があるってんならもういっちょ行くぜぇ!」

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

「一丁上がりってな。次誰だァ!?」

 

「はい!」

 

「よっしゃ、来い!」

 

「行きます!」

 

 

 

やっぱりと言うか、戦闘技術に関して言えば最低。

それでも自信を付けさせたから諦めずに最後まで食いついてくる。

 

ま、シャルロットと箒は俺が本気じゃないってことを理解しているようだが二人も全力で掛かってくる。

一番脅威度が高いのはシャルロットじゃない。

 

俺の癖を理解していて、次に何をしてくるかある程度把握している箒だ。

シャルロットもシャルロットで厄介っちゃ厄介だがそれでも俺の戦い方に驚いて対処が遅れる事が屡々。

 

それを考えれば冷静に対処してくる箒の方が厄介だ。

 

 

「はぁッ!!」

 

「おっとあぶねぇ!」

 

「平然と避けて反撃してくる事の何が危ないですか!?」

 

「ほらほらおしゃべりする余裕があんならしっかりと集中しろよ!」

 

 

 

少しばかり集中力に欠けるのが全体的に問題だな。

今も少し集中力を乱した箒に一発くれてやったところだしな。

まぁ、それでも良くやってる方じゃねぇの?

なんの技術も無しにこれだけやれれば十分以上だろうよ。

 

そんじゃ、次からはただ戦うだけじゃなくて色々と、勝つための方法なんかを教えながらやってやるか。

 

 

 

 

 

「そうだ!良いぞ、そのまま突っ込め!」

 

「はい!」

 

ある子は少しばかり思い切りが足りなかったから突っ込むときは突っ込むように教えた。

 

 

 

 

 

「相手の考えを読め!相手の裏を掻け!相手が考え付かないようなこと、相手が嫌がる事を徹底してやってやれ!そうすりゃ勝てる!」

 

「ハァッ!」

 

ある子は少しばかり馬鹿正直に攻め過ぎていたから小細工をするように教えた。

 

 

 

 

 

「俺みたいに力でゴリ押しなんて真似、しようとすんじゃねぇぞ!そりゃ自分が全てにおいて絶対的に相手より優れている時だけしか通用しねぇ!セコくても何でもいい、小技を使え!」

 

「佐々木さんのアレが、力でゴリ押しだったら私達は何なの、って話になるんだけど!!」

 

「はっはー!言ってくれるじゃねぇの!そんじゃ次から何も考えずにただ殴る蹴るだけで攻めてやるよ!行くぜェ!?」

 

「え!?ちょーーーー」

 

シャルロットはゴリ押しで叩き落とした。

 

 

 

束?まぁ、特に問題無く先生やってたよ。

時々暴走しかけて先生方が必死になって止めるって一面はあったらしいけど。

 

第二世代機を改造して第三、第四世代機にしようとするんじゃありません。

と言うか、気に入らないからってコア以外全くの別物に改造しかけるとか、もう本当にすいませんでした。

 

先生方の顔、すっごく疲れた、って顔でやつれてたよ?一日でなる様な顔じゃねぇ。

 

そんなこんなでこれと言って問題らしい問題は起こらずに一日目は終了。

 

 

 

 

 

ってなわけで本日、臨海学校四日目に突入って訳だったんだが、そう大人しく平穏無事に行事が終わらないのがIS学園。

 

昨日と同じ様にお嬢さん方をボコボコって程でも無いけどシバキ倒して、色々と教えていたそんな時。

なんか急に束が慌てて俺の手をひっ掴んで千冬の所に。

 

「なんだなんだ!?急にどうしたってんだよ!?」

 

「良いから早く!」

 

何時に無く慌ててドタバタと走っている束の顔は切羽詰まったという感じだ。

 

「ちーちゃん!お仕事中断!集合!」

 

「はぁ?束、お前何を言っているんだ。そうか、元々頭がおかしかったが遂に脳細胞が死滅したか」

 

束が余りにも唐突に訳の分からない事を言うもんだから千冬だって呆れた顔して辛辣な事を言っている。

 

「そんなこと無いよ!?と言うかちーちゃん一昨日から当たり強くない!?」

 

「それは兄さんを私から奪う可能性のある天敵だからだ」

 

「あーもー!!いやいやそうじゃなくて!早く来てってば!」

 

「おい待て引っ張るーーーいだだだだだ!?」

 

「あー、皆は山田先生の指示に従っててくれや。なんか急にごめんな……」

 

「束さんの突発的な行動はもう慣れてるから大丈夫だよー」

 

慌てながら千冬の手を無理矢理引っ張って行って、旅館の俺と束、クロエの部屋に連れて行かれる。

そこで、束は俺達に何の説明も無くいきなり空中投影ディスプレイやらキーボードやらなんやらを幾つも展開させてカタカとタキーボードを叩いて何やら画像や動画?を引っ張り出してくる。

 

「おい束、そろそろ引っ張ってきた理由を話せ」

 

「ちょっと待っててー……よし、これで準備完了」

 

「なぁ、俺も連れてくる必要ある?先生達だけで良くない?」

 

「何言ってんのおじさん。寧ろおじさんが中心人物なんだから知っておかないとダメでしょ。それに、今回対応出来るのって多分おじさんか、ちーちゃんぐらいしかいないし」

 

あ、俺分かっちゃったぞ。

多分、今までのVTシステム関連クラスの面倒事だ。

このメンツってのが何よりの証拠の気がする。

 

「はぁ?私か兄さんしか対応出来ないってどういうことだ?」

 

「なぁ束?」

 

「ん?」

 

「何となくだけど、すっげぇ面倒臭い案件の予感しかしないんだけど。それもとんでもなく厄介なやつ」

 

「流石おじさん、大当たり。二人とも、これ見てくれる?」

 

そう言って束は展開していた空中投影ディスプレイの一つを引っ張ってくる。

 

「これは、なんの資料だ?」

 

「亡国企業(ファントム・タスク)、って知ってる?」

 

「いや、聞いたことも無いな……なんだそのあからさまに物騒な名前の組織は」

 

束の問いに千冬は少し考えてから覚えが無いと言った。

俺?俺だってある訳ねぇだろ。こんなんでもお天道様に顔向けできないような生き方はしてないんだぞ、そんなあからさまに裏の世界の住人です、みたいな連中と繋がりなんてあるわきゃねぇ。

 

「VTシステムの時に、幾つか消されてたデータがあった、って話したでしょ?」

 

「あぁ、それについてはお前に調査を一任していたはずだが」

 

確かあの時に束がVTシステムの証拠集めなんかをしていた時に意図的に消去されていたデータが幾つかあったと話していた。

しかもご丁寧にサルベージ出来ない様に処置を施されていたとも言っていたな。

 

まぁ束からすれば時間は掛かるけどサルベージ出来るって事だったから学園側と千冬が調査を依頼していた。

 

「この亡国企業って組織、VTシステムの開発に大きく関わってたんだよ。それも中核レベルで」

 

「何!?だが、ドイツにもフランスにもそんな情報は一切無かったはずだ。尋問に関してもそんな事を言った人間は誰も居なかったと聞いているが」

 

「それは仕方が無いね。だって、そっちに関しては紙媒体で全部焼却処分済み、人間に関しては薬物か何かの投与で記憶を消したらしいから」

 

「書類の焼却処分に薬物投与による記憶の消去……随分とまぁ、物騒なもんだな」

 

「それで、その亡国企業とやらがどうした?」

 

「ついさっき、米国のホワイトハウスが秘密裏にデフコン1を発令したんだよ」

 

「はぁ!?デフコン1だと!?」

 

「ちーちゃんは、アメリカのデフコンがISの登場によっていくつか変わった点があるのは知ってるよね?」

 

「勿論だ。デフコン1に核兵器の通じないISに対しての文面が追加されているからな」

 

「今回のデフコン1発令はそれが原因だよ」

 

なんか二人して知らん話してるけど何それ。

デフコン?どっかの戦争映画かなんかで聞いたことがあるぐらいで何にも知らんのだけど。

 

「ちょい待ちちょい待ち。俺にも分かるように説明してくれる?」

 

「あぁ、ごめんね、おじさん。ちゃんと説明するとアメリカにはデフコンって呼ばれる戦争に対する準備態勢を五段階に分けた規定があるんだ。で、その中で一番最高度の準備状態を示すのがデフコン1。今まで公式には一度も用いられた事は無いんだけど、今回これが非公式に、それも秘密裡に発令されたの」

 

「ってことはアメリカ軍だけで考えるなら戦争の準備をしてるってことか」

 

「うーん、それに関しても説明すると、ISの登場と言うか、私が発表してから幾つか変更された点がるんだよね。その一つがISが暴走状態に陥った時なんだけど、基本的にアメリカはIS関連の事故が重大事故なんかに繋がる、または発生したってなった場合デフコン1に分類しているんだ」

 

「そりゃまたどうして?」

 

「ISって、宇宙空間での活動を想定してたから、ありとあらゆる防護性能を付けているのは知っているでしょ?」

 

「お前と一緒に少しだけだがISを開発している時にいじってたんだぞ、そりゃ勿論知ってるに決まってる」

 

こんな阿呆でも、一応ISの開発に少しばかり関わっているんだ、知らないわけがない。

そのために色々と調べたこともあるし、宇宙空間ってのがどれだけ過酷なのかも知識としてならば知っている。

 

「で、そこが加えられた理由の一つなんだけどISには、化学兵器(NBC兵器)、生物兵器、核兵器、放射能兵器も効果が無い。局所的にはあるかもしれないけどそこは何が起こるか分からない宇宙だからね、徹底してあるから少なくとも搭乗者に関しては一切効果が無いってことは保証するよ。だから、基本的にISを相手取るにはISをぶつけるしかないって言うのがデフコン1に加えられた理由なんだ」

 

「そりゃ確かにISを除いた既存の全ての兵器が無力ってのは知ってる。だが完全に無力って訳でも無いだろうが」

 

ISは、既存の兵器では倒せない。

 

これは周知の事実だろう。

だが絶対じゃない。事実、ISのシールドエネルギーは通常兵器である戦車砲や、それこそ歩兵が持つような小銃でも削る事は可能だ。

 

「そりゃね。確かに通常兵器でも、ISのシ-ルドエネルギーを減らす事は出来る。だけどそうすると、戦術なんかも限定されるし何よりも使用する兵器や弾薬、砲弾、ミサイルの数が馬鹿にならないんだよ」

 

「兄さん、ISは機動力が戦闘機なんかよりもずっと高い。それは分かっているな?」

 

「あぁ、高負荷、高機動下で直角方向に進路変更できるなんざISぐらいだろうよ。それにISは簡単に音速を突破出来る」

 

「それをミサイルや、対空砲、対空機銃で普通の数で撃墜出来ると思うか?」

 

「……いや、完全にとは行かないがほぼほぼ不可能だろうな」

 

「それを何発、なんて数じゃなく何百発何千発単位で直撃させなければならないんだ、IS一機を落とそうとしたら対空機関砲なんて何百と数を揃えて漸く命中させられるという次元だ。それこそ撃墜ともなればどれだけの数が必要になるか分からん。アメリカですら出来ない戦術だ」

 

「だからこそ、世界はISに依存してるって訳か」

 

「ま、その通りだね。だからその対抗手段がISしかないってなるんだけどそれ故にアメリカはデフコン1に入れたんだよ」

 

「それで、今回の話とどう繋がる?」

 

千冬が話を戻すためにそう切り出すと束は一枚の画像を俺達に見せてきた。

そこに映っていたのはISと思わしきもの。

 

「これは、ISだろうが見たことが無い機体だな……」

 

「アメリカとイスラエルが共同開発してた第三世代の軍用ISだよ。共同開発って言ってもイスラエルが開発していた所にアメリカが無理矢理横入りして、かなり幅を利かせてたらしいけどね」

 

「……軍用か。やってくれるな」

 

ISは、その特性上軍事利用が一切禁止されている。

IS運用協定、通称アラスカ条約によって禁じられている。

内容は開発したISの情報開示及び共有、研究及び運用のための超国家機関設立、軍事利用禁止などが定められているが実際の所は有名無実化、形骸化も良い所。

 

一応、一夏や鈴、セシリア達が使用している専用機や量産機、訓練機は全てリミッターを掛けられている状態なのでそれを解除することが出来れば軍用と同程度の性能を発揮することは出来る。

だがその解除コードは、最低でも五十桁の数字及びローマ字で組まれており当然と言えば当然だが暗号化もされている。

しかも国によってまちまちだが、厳しい国だと三十分に一度、解除コードが変更される。

 

何故三十分と言う時間なのか。

それに関しては、少なくともこの暗号を解読するのにこの倍の時間、六十分以上は掛かるとされているからだ。

 

そんなもの、どうやったって手を出そうとは思えない。

しかもそのコードを知っているのは国家元首只一人。しかも解除をするのに国家元首だけでは無く五人以上の大臣の許可を得ないとならない。

 

ただ、束の前では無力なんだがその辺は気にしてはいけない。

 

 

 

 

アラスカ条約が締結された実際の所の理由は日本がそれらの技術を独占する事を防ぐ為に世界中が圧力を掛けて、って訳なんだが恐らくはこっちが主目的だったろう。

 

一応、超国家機関設立に関しては「国際IS委員会」が挙げられる。

IS学園もその内の一つだ。

 

IS学園は、最初期はIS搭乗者及び技術者の育成及び研究開発が目的で男の技術者も居たんだがそこにいちゃもんを付けて来たのが女性権利団体とかいう国によっては準テロ組織認定されている害獣。

 

「神聖なISに男が触れる、携わるなど言語道断!」

 

とかなんとか騒いで、その当時絶大な権力を誇っていたわけだし国際IS委員会にも数多くが在籍していた。

そんなものだから圧力を滅茶苦茶に掛けてくるわけだ。

当然、設立されて間もないIS学園にはその圧力を跳ね返すだけの力は無い。

 

設立半年で男性技術者達はIS学園を追われましたとさ、ちゃんちゃん。

 

傍迷惑な被害を被った男性技術者達には同情するがそれは置いておいて。

 

「で、このISがどうしたってんだ?」

 

 

 

「アメリカ本土で開発が進められていたんだけど、ついさっき、丁度十分前に暴走したの」

 

 

 

「軍用ISの暴走だと!?」

 

「それが、俺達と何の関係がある?確かに軍用ISの開発をしていたというだけで公表すればアメリカとイスラエルには大打撃だろうが……」

 

「確かに普通なら関係無いね。このISの針路が、日本、それもピンポイントでここじゃなければ無視出来たんだけどね」

 

「おい、今何て言った?軍用ISの針路がここだと?」

 

「そう。正確には、おじさんがいる場所になるんだけど」

 

「それと、亡国機業とやらに何の関係がある?」

 

「この暴走を手掛けたのが、亡国機業だって言ったら?」

 

束がそう言って、千冬は表情を今まで以上に強張らせて、俺は訳が分からず阿呆面を晒した。

 

 

 

 

 

 

 

束の説明によれば、亡国機業は所謂武器商人、死の商人と言われる連中らしい。

設立された時期は不明、前身となる組織は中世以前から存在するとも言われている。

 

と言うかそこまで来たらもう秘密結社の類になると思うんですけど……

 

ほぼ確実にその存在が明らかになり始めたのは第一次世界大戦よりもずっと前、1800年代、植民地支配が全盛期だった頃からだ。

各国の軍隊に他国の情報や新兵器を売りさばき、各地の反乱軍にも武器を提供していた。

 

それにより世界を裏から支配して莫大な利益を得ていた。

一番有名と言うか、聞いたことのあるのはインドで起きたイギリスに対する反乱の「インド大反乱」だろう。

 

これも裏で武器を反乱軍に売り渡したりして暗躍していたのが亡国機業と言うから驚きだ。

 

 

 

「簡単に言っちゃえば今回の暴走は亡国機業の奴らが手引きした、と言うか工作したんだよ」

 

「目的は?」

 

「当然、おじさんに決まってるよ。おじさんの情報は絶対に漏らしてないからね。ありとあらゆるものを私が漏らさない様にしてるからね。勿論、生体情報とか遺伝情報に至るまで。だから私以外はおじさんの生体データとか持ってない。これは断言出来る」

 

ん?それってどういう事?

……俺が切った爪とか全部回収済みって事ですか。ちょっと恐ろしい。

 

良かった、丸めたティッシュを生成してなくて本当に良かった……!

そもそも千冬と同室だからそんなこと出来ないんだけどさ。

 

「目的は二つ。おじさんの誘拐、と言うか拉致をする事と、IS学園が保有するISコアの強奪」

 

「臨海学校と言うタイミングを狙ったのは、兄さんとISコアを同時に確保出来るからか」

 

「その通り。暴走は囮で別部隊がおじさんとISコアの強奪を狙ってる」

 

「……投入される敵の規模は?」

 

「まずは暴走状態の軍用IS、名前は〔シルバリオ・ゴスペル〕って言うんだけどこいつと本命が歩兵を最低一個小隊五十人かそれ以上。ISを最低でも2~3機」

 

「たかが裏組織がISを持っているのか!?」

 

「ちーちゃん、たかが裏組織なんて言葉じゃ片付けられないよ。調査途中だけど亡国機業は各国上層部にまで食い込んでる。じゃなきゃ今回みたいな事が起こせるわけがない。どうやったって普通のテロリスト共とは絶対的に違うよ」

 

「そこまで、なのか」

 

「うん、少なくともISを保有していたドイツ、フランスを含めた欧州諸国は確実。アメリカ、カナダ、ロシア、オーストラリア、中国、日本の主要国も軒並みかな。正確な規模はまだ分からないけどね。一応連中が持っている二機分のISの名前も分かってる。〔サイレント・ゼフィルス〕〔アラクネ〕」

 

相当、組織力や実行力を持っているらしい。

少なくとも、今名前が挙げられた国はテロ関係にかなり敏感な国が殆どだ。

アメリカやイギリス、フランスは実際にテロに遭った事があるぐらいだし、CIAだがFBIだかMI6だかなんだか知らんが少なくともこれらの国の操作能力が低いわけがない。

 

という事は、亡国機業はそれ以上に潜入能力の高い工作員が多数存在するという事に他ならない。

そんなの、そこらのテロリストに出来る芸当じゃない。

ただ、それ以上に大きな問題がある。

 

「と言うか、連中は何故ISを所持している?どこから持って来た?」

 

千冬が聞いた通りの疑問と大問題がある。

そもそも、ISコアは個人間、企業間、国家間を問わずありとあらゆる取引を禁止している。もしそれが取引によって手に入れられたものだとするならば大問題なんて話じゃなくなる。

 

「これも強奪だね。アメリカ、イギリスの機体だよ」

 

「だが、そんな知らせは……あぁいや、私達が聞いていない理由は察しがついたから構わん」

 

千冬は諦めたような顔でそう言った。

恐らく、各国にISを強奪されたという事が通達されていないのは単純に面子の問題だろう。

考えてもみろ、IS保有国家がISを裏組織に奪われたとなったらどうなるか分からない。最悪、IS委員会に保有数を減らされる可能性だってあるんだからな。

 

どうやったってその情報は秘匿するだろうよ。

 

「問題なのはサイレント・ゼフィルスの方なんだよね」

 

束はそう言いながらまた画像を引っ張ってきた。

 

「何が問題なんだ?」

 

「この機体、第三世代機なんだよ」

 

「第三世代機?タイプは?」

 

「イギリスの開発した機体で、ちーちゃんの所にもイギリスの子がいるでしょ?」

 

「あぁ」

 

「その子の機体の姉妹機で遠距離特化型、しかもBT兵器まで搭載済み」

 

「それは……兄さんが相手するとなると厳しいな……」

 

セシリアと戦った時はアリーナの中と言う限られた空間での出来事だ。

だからこそ接近して殴り合いに持ち込めたからこそ俺は勝てた訳だが、今回はそんな決められた範囲での戦いじゃない。

それこそ相手は俺が接近しようとしたら後退して離れて遠距離での射撃に専念すれば良いだけの話だ。

 

しかも二機は確実に出張ってくる事から、もう一機は恐らく近接型だろうからそいつが俺を引き付けてその間に狙撃をすればいい。

別に、俺と正面からぶつかり合う必要は無い、俺が消耗するまで耐えればいいだけの話だからな。そうすりゃ俺を被害無く仕留めて、連れ去ることが出来る。

 

「で、操縦者の方は?正直、機体が高性能だろうが操縦者がお粗末なら何とでもなるんだが」

 

「そうだね、確かにおじさん相手ならちーちゃんか私じゃなきゃ勝てない。良い勝負をするって言うのなら国家代表クラスでも問題無い。だけど、今回は総一筋縄じゃ行かないと思う」

 

「どういうことだ?兄さんとどっこいどっこいなんて私か束、お前ぐらいしか知らないぞ?それか師範ならば兄さんを完封出来るだろうが……」

 

「うーん、確かにお父さんならおじさんにも勝てるだろうけど、それはあくまでも同じ戦い方をしたら、っていう前提条件が付くんだ。私がおじさんを助ける為に施した手術とか色々理由はあるけど、それを差し引いても多分、力任せの殴り合いならおじさんは誰にも負けない」

 

「その言い方からすると、今回は相手が相当悪いみたいだな」

 

「うん、かなり悪い」

 

俺がそう言って束に説明を求めると、二枚の写真と二つの映像をディスプレイに投影した。

 

「こりゃぁ、なんだ……?」

 

「今回、確実に出張ってくるアラクネとサイレント・ゼフィルスの搭乗者が映った写真とそれが戦ってる動画」

 

「顔は、隠れてて分からないけどね。一応、アラクネの搭乗者は大体二十代前半から半ばぐらいの年齢で、サイレント・ゼフィルスの搭乗者は恐らく中学生か、高校生ぐらいのかなり若い年齢だと思う」

 

「まぁ、それぐらいの年齢だろうが、もう一人が中高生ぐらいとはどういうことだ?そんな裏組織に普通属する年齢ではないだろう」

 

「それに関してはまだ調査中。多分だけど、結構な訳アリだと思うからもう少しで調べが付くと思うよ」

 

「まぁ、取り敢えずその事は置いておこうや。目下の問題は二人の実力なんだが……この動画を見る限りかなり高いと思うんだが、千冬と束から見たらどう思う?」

 

俺は、はっきり言ってISの搭乗者に関してはそこまで詳しいって訳じゃないから二人に聞いてみる。

 

「そうだな……どちらとも直接見たわけでは無いからはっきりとは断言出来ないが、アラクネは最低代表候補生、それもかなり強い部類に入るだろう。下手をすると上位に食い込んで国家代表目前なんて実力も有り得る。サイレント・ゼフィルスの方も最低でも国家代表レベルと見て間違いない。動きが段違いだからな。モンド・グロッソの時の各国代表を参考にすれば、こいつはその中でも相当強いぞ。多分、上位3位には食い込めるだろうな」

 

「ってことは?」

 

「最悪、私と渡り合える程度の実力者、と考えておいた方が良いだろう。全盛期の私ならば問題無く勝てただろうが今じゃ機体の性能も、武装の性能も比べ物にならないほどに進歩しているからな、それに最近じゃ私も教職にかまけて碌に鍛錬などしていなかったからな、負ける可能性すらある」

 

「ちーちゃんの言う通りだね。アラクネの方はおじさんなら問題無く勝てると思う。と言うか、おじさんに殴り合いを仕掛けるとか只の馬鹿だよ。ただ、サイレント・ゼフィルスは超至近距離での殴り合いなら勝てるだろうけど遠距離に徹して戦われると厳しいかな。おじさんでも負けちゃうかも」

 

二人が口々にそう言う。

簡単に言えば、アラクネは問題無い。サイレント・ゼフィルス相手はキツイ。

 

こんな所だろう。

 

「今回、ちーちゃんじゃなくておじさんに戦ってもらいたいって言う理由も今のちーちゃんだと苦戦する相手がいるから。それと、もっと嫌な情報あるんだけど……」

 

「なら早くその情報を教えろ」

 

すると、束は何やらキーボードを叩くとまた別の画像を引っ張ってきた。

なんだこりゃ?四十か五十センチぐらいの、筒状のナニカが映っている。

 

「束、これなんだ?トンファーか?」

 

「これ、剝離剤〔リムーバー〕って言うんだけど、ちーちゃんは知ってる?」

 

「いや、知らんな……聞いた感じ、何かを剝離させる為に使うようだが、まさか……」

 

「そう、そのまさか。この乖離剤はISを強制的に解除させてコアのみの状態にする装置だよ。ただし、一度使われた機体は耐性が出来ちゃうから使えなくなるけど、剥離剤を使われたコアは遠隔コールが可能になる。操縦者がコア、まぁISの待機状態の物を身に着けていなくても展開とかが出来るようになるていう利点もあるけどね」

 

「なんだそれは……どこから持って来た?まさか奴らが開発したのか」

 

「元々は〔存在しない兵器〕、国家最重要機密の一つでこれを一番最初に開発したのは日本とアメリカだよ。それぞれが独自に開発を進めて完成していたものを横取りして、二つの良いとこどりしたのがこれ。一応形状はアメリカのものだけど、性能は高くなっている筈」

 

束はそう言った。

という事は、亡国機業の工作員は各国政府の深い位置、それもかなり深い、下手をすると日本で言えば各省の大臣や長官級、自衛隊の開発関係の責任者クラス、アメリカも大統領とは行かないまでも、その側近や国防総省のトップに近い場所にまで入り込んでいるという事に他ならない。

 

でなければ、相当管理や警備が厳しいだろう、国家最重要機密の物を持ち出すなり見るなり出来るわけがない。

 

まぁ、そんなものは今の俺達には関係無い話だから放っておくとしてももっと直近の問題がある。

 

それは乖離剤に対しての対抗手段やそれに準ずる何かはあるのか、という点だ。

はっきり言えば、もし乖離剤と言うやつが束が説明した通りの効力を発揮するのだとしたら、かなり厄介極まりない。

 

学園の機体やクラリッサ達の機体からコアを取られては溜ったもんじゃない。

 

「対抗手段は何か無いのか?こう、無効化するとかそんな感じの」

 

当然聞いてみたんだが束は苦々しい顔をした。

 

「現時点では無いね。ただ、使用するには有効範囲内の一メートル以内確実に接近して、五秒以上相手に貼り付けないといけないって言う欠点もあるからまだ何とかなると思う」

 

「ってことは継続しての接近戦、とりわけ俺みたいに殴り合いは厳禁ってことか」

 

「そうだね。乖離剤を五秒以上貼り付けられないって自信があるんだったら別だけど……」

 

「安全策を取るならそれは止めた方が良い。兄さんが拉致されたとなったら私もだが、束も一夏達他の皆も何をするか分からないぞ?」

 

千冬がさも当然の様に言うが、そんな恐ろしい展開になんてなって溜るか。

乖離剤とやらは、五秒以上対象に貼り付けなければならないらしい。

まぁ、正直言ってしまえば貼り付けられないと言う自信はあるが一応の保険ってことで出来れば避けたい。

ただし、五秒以上とは言っているが格闘戦になっても即座に貼り付けられると言う訳ではない。

多めに見持っても十秒か、十五秒程度の短時間ならば格闘戦が可能という事だ。

という事は、俺は方針としては多めに見積もっても十五秒以上の接近戦、格闘戦は絶対に避けなければならない。

 

と言うか、俺が拉致られた後に主に千冬や束がどんな行動をするか、どれだけ暴走するか分からない。

下手すると、どこかの国が以前言ったアトランティス案件や北〇の拳状態になり兼ねない。

そんなの嫌過ぎる。

 

だってドイツとフランスでさえあのザマなんだぞ?

それ以上って、想像出来ないって言うか、したくない。皆だってしたくないでしょ?

 

日本沈没ならぬ、アメリカ沈没とかロシア沈没って。

どれだけ海抜が下がるのか、上がるのか……いや、海抜上がったらWAT〇RWORLD状態じゃん。

何処の国も、それこそ島国や沿岸国とかは軒並み海の下よ?精々内陸のチベットとかそれぐらいしか残らなさそう……

 

それだけは色々と嫌だ。

 

ってなわけで安全策で行きます。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、これからどうするかって話をしよう」

 

束はこの辺り一帯の精密な、それこそ石ころ一つにまで再現されている地図をこれまた投影した。

 

「シルバリオ・ゴスペル、これからは銀の福音って呼ぶけどこいつは海側からここに真っ直ぐ飛んできてる。超音速巡行が可能で最高速度は大体、マッハ2。今から三時間後にここに到着する」

 

「米軍は何をやっていた?」

 

「何もしなかった」

 

「何もしなかった!?自分達の尻拭いの一つも出来ないのか!?」

 

「いや、正確には何も出来なかったって言う方が正しいと思う」

 

「どういうことだ?」

 

「考えてみてよ、軍用で最高速度マッハ2だよ?アメリカ軍で一番早いラプターと張り合えるぐらい速いんだから表向き軍用じゃない、制限が掛けられた量産機のISでなんて何にも出来る訳無いじゃん」

 

「それでも何かするのが通りってものだろう」

 

「まぁ、一応空軍のラプターが迎撃に出たみたいだけど完全に無視されて迎撃をすり抜けられたよ。でも実際は最重要機密の一つだからね、情報漏洩を恐れたのかそれとも突かれたくない事を突かれない為になのか分からないけど小規模だからね、当然と言えば当然だろうけど」

 

「ここに来てまで面子やらに拘るというのか……!こっちは一学年生徒全員の命に兄さんの命が掛かっていると言うのに!」

 

千冬が机を思いっ切り叩く。

確かに、千冬の言う通りだ。

はっきり言おう、俺だって腹が立ってる。

 

考えてもみろ、こんな非常事態なのに大した対策や対応すら取っていないのが本当にむかつく。

束が居たからこうして早めに情報を得られたから良かったものの束が居なかったら奴らに好き放題させた後で漸く事態を把握し始めた頃だろうよ。

 

そうなったら俺は勿論拉致られてるだろうしISコアも奪われていた。

最悪、生徒に死人が出ていたかもしれない。

 

それが、一夏や箒達だったとしたら?

 

そう考えるだけで、殺意が込み上げてくる。

 

「アメリカも、運が良ければおじさんの情報か何かを手に入れられるって考えてるから手に負えないよ。日本にだって大した情報を与えずに放り投げたし。今頃大混乱で自衛隊に命令が出た頃には、碌に何も出来ずに終わるよ」

 

「銀の福音の詳細なスペックは分かるか?」

 

「射撃特化型で時速2450kmを発揮可能。主武装は36門同時展開可能なシルバー・ベル〔銀の鐘〕。分類するなら広域殲滅特化型とでも言うべき機体かな?」

 

「主武装の威力と射程は?」

 

「上下させられるけど、一番威力を高くした状態だとラウラちゃんのレールカノン以上の威力を発揮するね。射程は最高出力で大体1000m~1500mってところかな。威力によって上下するから最高出力だと門数が減る代わりに射程は伸びるし、最低出力だとその逆になる。しかも、試験運転中だったからまだ詳細なデータが無いからこれもあくまでも予測値でしかないってのが辛い所だね」

 

「となると、接近することは避けた方が良いな」

 

「接近したらやめた方が良いかな?これ、死角が無いらしいから」

 

「そうなれば、射程外からの射撃、ないしは砲撃での攻撃が主となるか……」

 

「……厄介だな」

 

千冬も頭を抱えて策は無いかと考えているが思うような案は出ない。

そもそも、銀の福音だけでなく山側から迫っている亡国機業の連中も相手しなければならないのだから、用意しなければならない策は二つだ。

 

「一応、私にも案があるんだけど聞く?」

 

「勿体振るな。さっさと話せ。時間が無いんだ」

 

「そうだね」

 

束はそう言うと、地図に幾つかのグリッドを表示した。

恐らく海側から迫っている銀の福音と、山側から迫っている亡国機業の連中を表しているのだろう。

 

「まず銀の福音だけど、こっちはクラリッサを除いた皆で当たって貰う。皆には遠距離用の武装が施されてるからそれで叩いてもらうんだ。十一人だから、射撃五人とその護衛五人で分けても五方向はカバー出来る。残りの一人には自由に動いて貰ってあちこちのカバーに回ってもらうんだ。これで五人の火力で封殺する」

 

「それで、山側の亡国機業はどうする?放置する訳じゃあるまい?」

 

「当たり前でしょ。こっちは、おじさんとクラリッサにお願いする」

 

「本気か!?兄さんを狙ってきているのに態々目の前に出すのか!?」

 

「うん。確かにその気持ちは分かるけどそうでもしないと止められないし追い返せないんだよ」

 

「だからって……」

 

「ちーちゃん、じゃぁ聞くけど国家代表ほどの腕を持つ、しかも上位三人に入り込めるぐらいの奴を誰が相手出来るっていうのさ?」

 

「それなら私が出れば良い」

 

「駄目だよ、ちーちゃんにはここに残って指揮を執って貰わなきゃならないしそれに、万が一突破された時の保険として残って皆に心理的安心感を与えて貰う役割があるんだから」

 

確かに、千冬が一番重要な役割だろう。

そりゃ、指揮系統が無いというのは一番の問題に成り兼ねない。

 

それに俺達がやられないなんて保障はどこにも無い。

そうなったら、他の生徒達は丸腰で、先生方は居るとしても訓練機である打鉄やラファールが敵うわけがない。

 

先生方も決して弱いって訳じゃない。

だがもし、束の話が本当だとしたら、銀の福音にしろ亡国機業にしろ到底太刀打ち出来るような代物じゃないという事だ。

数で押せなくもないが、乖離剤でコアを剥ぎ取られたらそれこそ不味い。亡国機業の戦力を増やすだけに成り兼ねない。

 

そうなれば悪夢なんてもんじゃない。

恐らく銀の福音の開発データなんかも手に入れているだろうから、あれが万が一亡国機業内で量産されたとなれば太刀打ち出来る国家があるかどうかも怪しい。

 

今現在、専用機として第二世代または第三世代機として実戦配備状態にあるISは全体の凡そ三分の一かそれ以下。

要は、ISの殆どが訓練機もしくは量産機であってしかもリミッターを掛けられている。それを解除したとしても、元々軍用として設計及び製造されている機体相手に何処まで立ち回れるか……

 

だからこそ、今ここで相手のISを奪う事は出来なくとも、奪われるという事だけは絶対に避けなければならない。

 

 

 

 

 

「……分かった」

 

千冬はかなり不満そうな顔をしながらも頷いた。

まぁ、気持ちは分からなくもない。

 

そりゃ家族がテロリストと戦うってんだから気が気じゃない筈だ。

 

「大丈夫、おじさん一人で戦ってもらう訳じゃないから。クラリッサと一緒に戦ってもらう。と言ってもクラリッサはサイレント・ゼフィルスの牽制が主目的だからアラクネとの戦いに手を貸せる訳じゃないから、その辺は気を付けて」

 

「分かった」

 

「それで、あとどれぐらいで来る?」

 

「そうだね……シルバリオ・ゴスペルは二時間半、亡国機業は二時間って所かな?同時に攻撃を仕掛けようとしてたみたいだけど亡国機業の方が少し速いみたいだね」

 

「準備をする時間は、無いか……」

 

千冬はそう言いつつも指示を飛ばす。

 

「生徒全員と旅館の従業員は旅館へ、近辺の民間人はこの旅館か近くの安全な場所に、近海の民間船舶には即座に退避命令を出してくれ。この際、形振り構っていられん、付近の自衛隊の駐屯地に連絡してその指示を出すように言っておいてくれ。でなければ巻き込まれた時にどれだけの被害が出るか分からん」

 

「りょーかい」

 

「先生方を集める。束、そっちはそっちで頼むぞ」

 

「あいあいさー!」

 

そうして、準備とは到底言えないようなものだが準備は進められた。

 

 

 

 

先生方は訓練機である打鉄とラファールを纏い、万が一に備えて臨戦態勢で待機。

千冬も念の為にISスーツに着替えての指示。

 

それだけじゃなく、一夏達専用機持ちですら戦闘準備態勢で待機中だ。

しかしながらそれでもシルバリオ・ゴスペルと亡国機業相手に勝てるか分からない。

 

となれば俺と、クラリッサ達が勝たなければならない。

いや、勝たなくていい。相手に退けさせれば俺達の勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

クソッ垂れ共の好き勝手やらせて妹達に手出しさせてたまるか。

 

 

 

 

 

 

 

 








今回も割と長めですけど、なんかグダグダしてる様な、してないような……


まぁ、次の話はあれです、戦闘シーンです。
会話は少ないかもしれないけど我慢してね。









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兄貴は妹の為なら命を捨てる事すら厭わない。 だけど死んだら妹達が世界を滅ぼすんで死ねません!!







基本的にサブタイはもう無視しちゃってもいいです。
本編さえ読んで頂ければ良いので。

と言うかそんなサブタイ付けんなよ、と言う話だよな。
すいません、許してください。










 

 

 

 

「佐々木殿、今回は共に戦えることを光栄に思います」

 

「固っ苦しいのは抜きだ、取り敢えず束の説明通りに俺が接近戦を担当すっから遠距離でサイレント・ゼフィルスの牽制を頼む」

 

「了解です」

 

クラリッサと共に、訓練機である打鉄を俺は身に纏い山の上を飛んで進んでいた。

俺達よりも前に出撃した他の黒兎隊の面々は旅館から300km洋上で戦闘中。

 

ただし、広域殲滅型で軍用ともなるとその性能は第二世代機しか装備していない黒兎隊では荷が重いらしく押され気味との事だった。

クラリッサが居ればまだ幾らかはマシだったのだろうがクラリッサは俺と共にサイレント・ゼフィルスの牽制をしなければならかったから仕方が無い。

 

俺は自分一人であいつらと戦えるなんて自惚れちゃいない。

 

厳しいだろうが、何とか踏ん張って貰うしか他無い。

 

「束、敵さんの位置は?」

 

「そのまま真っ直ぐに進んで3km。ISの反応が二つにその周りに人間の反応が46」

 

「分かった。取り敢えず、もうそろそろサイレント・ゼフィルスの射程に入るだろうから通信出来るか分からんからな。そんじゃ、生きてたらまた会おうや」

 

「おじさん、気を付けてね。おじさんに何かあったら本気で世界を滅ぼすから。あんな告白させて、期待させるような返答して娘も二人残して死ぬとかありえないからね?」

 

「おっかねぇな。あぁ言ったがお前達を泣かせるような真似はしねぇよ」

 

「信じてるからね」

 

「おう」

 

「兄さん、気を付けて」

 

「あぁ」

 

「それと、帰ってきたら束の告白が云々の話をちゃんと聞かせて貰うからな」

 

それを最後に束達との通信を切った。

 

最後の千冬の声、ガチボイスだったんですけど……これはあれだね、隣にいる束がガクブルしてるやつっすね。

と言うかなんで敵よりも身内の千冬にビビらなきゃならないんだよホント……

こういう事があるたびに俺は敵よりも千冬にビビってる気がするんだけど気のせいじゃないと思うんだよなぁ……

 

「クラリッサ、照準付けとけ。そろそろ奴らの射程に入る」

 

「分かっております。こちらの射程は凡そ2kmでサイレント・ゼフィルスの予想射程は3~5km。まだ撃って来ていないことを考えると射程外なのか、それとも必中を期すために敢えて引き付けているのか」

 

「どちらにせよ、殴り合うのは間違いない」

 

それから更に1km進むと、機体からデカい警告音が鳴り響いた。

 

「避けろ!」

 

「ッ!?」

 

寸での所で躱したビームは、クラリッサを直撃した。

 

それから、二度、三度とビームが飛んで来るが俺を捉えた射撃は一度として無かった。

 

野郎、俺を狙わないで居やがる。

 

ハイパーセンサーで覗いた敵さんの口元はニヤリと歪んでいた。

 

そうかい、俺は大事な商品ってことかい。

アラクネもサイレント・ゼフィルスもクラリッサばかり狙って俺には興味無し。

歩兵の連中はそのまま進んで旅館に向かおうとしている。

 

となれば、先に狙うべきは歩兵連中だな。

旅館に辿り着かれちゃ人質取られちまう、そうなったら何もできない。

千冬達が居るにはいるが、殺しとかそう言う役回りはさせたくねぇからな。

 

「クラリッサァ!五分だけ持ち堪えられるか!?」

 

「十分までなら幾らでも!」

 

「良し!なら少しばかり任せるぞ!俺ァ下の歩兵どもを片付けてくっからよォ!」

 

「分かりました!お気を付けて!」

 

クラリッサが二機の猛攻を凌いでいるのを尻目に、俺は歩兵連中の目の前に降り立つ。

ISは解除しておくのを忘れない。

 

「初めまして、こんにちは。佐々木洋介と申します。そして、さようなら」

 

「なっ!?馬鹿が、自分からISを解除して絶対的な有利を捨てるとは愚か者め!」

 

「奴を捕らえろ!良いか、殺すんじゃないぞ!Mさんとオータムさんから言われてるんだ、殺したら俺達が殺されるぞ!」

 

そう大声で怒鳴りながら、俺の周りを囲んでいく兵士ども。

連中、ただの雇われたチンピラなんかじゃねぇな。動きがこの山の中だってのに機敏過ぎる。

 

恐らくはISの登場で軍を追われた連中の一部だろうな。

 

「ハッハァ!俺をISが無いからって侮りやがったな!?もうてめぇらの負けだよ!」

 

「なっ!?この山の斜面で我々以上に機敏に動くだと!?」

 

「オラ!一人目ェ!」

 

「ゴッ!?」

 

速攻で距離を詰めて、右端の奴の顔面に一発叩き込む。

ゴシャッ、と言う音がしたから骨が折れたか砕けたか。

一応、手加減はしておいたから死にはしないだろう。

 

「貴様ァ!ただの一般人が何故躊躇いも無く人を殴れる!?」

 

「うるせぇ!!こっちは後ろに戦う術を持たない十五、十六の嬢ちゃん達に加えて世界で一番大切な、死んでも良いってぐらい愛してる妹達が居るんだ!お前らみたいな奴を今更殴る蹴る事に一々躊躇いなんざ在る訳ねぇだろ!!とっくにあいつらの為に死ぬ覚悟なんざ出来てんだ!なんならぶっ殺してやろうかァ!?」

 

「ただそれだけで人間を殺すのか!?関係無い人間が大多数であるというのに!?」

 

「その通りだよ!こちとら大切なもん守るためなら何でもしてやるって妹がドイツで誘拐された時に覚悟決めてんだ!妹達が笑って幸せに暮らすためならどんなことでもやってやるよ!」

 

「クソッ!イカれていやがる!えぇい構わん、撃て!最悪死んでさえいなければ何とでもなる!」

 

そう指揮官らしき男が怒鳴った瞬間に俺に向けて何百発と銃弾の雨が降り注ぐ。

俺はそれらを木の後ろに隠れたり、岩陰なんかに飛び込みながら避けていく。

 

そもそも、俺が何故ISを使わないのか。

 

そんなもん束が作ったISは、人を傷付けたり殺すためのもんじゃねぇからに決まってる。他の連中がそうだからと言っても俺だけは絶対にやらん。

 

束が幾ら天才だと言っても、ISを開発して、作り上げるのにどれだけの努力と情熱を注いできたかなんて隣で見てた俺が一番分かってんだよ。

 

だからこそ、俺だけはISを汚してなるものか。

 

他の連中のせいでISが汚れたとしても、俺の分だけは汚して堪るか。

だったら自分の手を真っ赤に染めた方が、億万倍マシだ。

試合とかで殴り合ってはいるから言えた義理じゃねぇんだけどな。

 

確かに純粋な殺し合いなのだから馬鹿な事をしているというのは分かっているし、俺だって出来る事ならISを展開したまま戦いてぇよ?だけどさ。

 

「世界中に裏切られた妹を、兄貴の俺まで裏切る訳にゃ行かねぇだろうがよ!」

 

「あいつ狂っていやがる!」

 

「撃て撃て撃て!」

 

「あいつ銃弾が当たってるのに何で血の一滴も出ないんだよ!?」

 

試合ならまだしも、こんな実戦で、しかもIS相手じゃないってんなら尚更だ。

流石にIS相手は俺もIS使うけどな。じゃなきゃ俺が死んじまう。そうなったら世界滅亡だよ。

まぁ、束のお陰で身体の強度とかIS以上だから生身でも戦えないことは無いから最悪、生身で殴り掛かりゃ勝てないとしても何とかなるだろうさ。

 

今だって何発か銃弾が身体に当たったりするが、IS装甲以上の強度と硬度を持つ身体はそんなもん何発食らおうが貫通しやしない。

流石に眼球や股間なんかの急所は守っているが、胴体や足、腕は全くの無防御でも痛くも痒くもない。

 

山の中を駆け周りながらヒット&アウェイ、偶に乱戦に持ち込んで一人、一人と殴って蹴って潰して回る。

 

 

 

 

 

 

「テメェで最後だ!」

 

「ゴブッ!!」

 

最後の一人の腹に一撃叩き込んで終わりだ。

 

「クラリッサ!今から応援に行く!状況は!?」

 

『ク……!かなり押されています!と言うか負けます!』

 

「あと十秒耐えろ!」

 

クラリッサに通信を取ってみたが、声からしてかなり追い込まれているようだ。

流石にこれ以上は無理か。

 

アラクネの方だけでも引き受けてやらにゃならんな。

歩兵連中を優先したのが不味かったか。だがそうでもしないと今頃コイツらは旅館に到達してただろう。

 

 

 

 

すぐさま打鉄を展開して、飛んで行く。

 

「クラリッサ!アラクネの方は引き受けた!サイレント・ゼフィルスは牽制程度に留めて構わん!」

 

「はいッ!有難うございます!」

 

一応、クラリッサの方のSEを見てみたが結構削られている。

ほぼ半分は削られてしまっているからサイレント・ゼフィルスの相手は長く出来なさそうだ。これは早めにアラクネを片付けて応援に向かわないと不味い。

 

アラクネは飛行をせずに森の中を木々を薙ぎ倒しながら進んでいた。

ちょっと開けた所で目の前に降りる。

 

「テロリストォ!テメェの相手は俺だ!掛かってこいや!」

 

「本命登場ってか!?ったくブラコンのお守も楽じゃねぇな!」

 

アラクネに乗っているのは、腰の辺りまである茶髪に釣り目だったり多分町中に居れば男共の視線を釘付けにすること間違い無しの美人だ。

 

俺を見るとすぐに好戦的な、獰猛そうな笑みを浮かべて八本足のISと共に飛び掛かってくるが、俺からしたらお世辞にも動きは良いは言えない。

ただ、口が悪いなこいつ。

一夏達がこんな言葉遣いしたら俺は間違いなく卒倒して寝込むレベルで。

 

まぁ、こんな何処ぞの誰とも知らん、俺達の命を狙っているような女相手には一切の手加減も容赦も要らない。

 

口汚く罵ってくるってんならこっちだってそれ相応に相手してやんよ。

 

「オヤジはさっさと帰って自分の粗末なもん扱いて寝てろや!それとも妹に世話してもらう方が良いか!?」

 

「その汚ねぇ口閉じやがれアバズレ!洒落にならん事言うんじゃねぇよ馬鹿!テメェこそスラムで客でも取ってろ!」

 

「んだと!?」

 

煽り耐性が異常なほど低いなこいつ!?

自分から言い始めたくせにアッサリとキレ始めて直線的に殴り掛かってきやがる。

 

それでも本能なのか、なんなのか分からんが蜘蛛を模したであろうISを巧みに木々まで使って襲い掛かって来れるだけの技量はある。

 

恐らく、技術面でもそうだが何よりも精神的な面が冷静であれば一夏達じゃ敵わんかもしれんな。

一夏や鈴、セシリアも十分に強いがそれはあくまでもルールが決められた試合と言う枠組みの中でだけの話だ。

こんな命の取り合いじゃ勝てっこない。

覚悟が出来ているかそうでないか、の差ってことだ。

 

地形なんかの条件とかで左右されるだろうがこの女、それを簡単に補えるだけの技量がある。裏組織の実行部隊所属は伊達じゃないってこったな。

こっちの射線を避けるのも上手いし一撃一撃に殺意が込められていて本当に俺を拉致しに来たのか?と疑うぐらいには重い。

 

だがまだまだ弱い。

IS学園の生徒会長さんには負けるな。

ってことは俺よりもずっと弱いってことだ。

 

何よりも致命的なのはちょっとしたことで冷静さを直ぐに欠くところだろう。

自分から煽り始めたのに、相手に煽り返されるとすぐにキレるとかお前はガキンチョかよ。

 

「煽るだけ煽って、煽り返されたら直ぐにキレるとかガキかクソ女!」

 

「黙りやがれクソオヤジ!脳みそブチ撒ける前に遺言でも残したらどうだ!?テメェの大事な妹に伝えといてやるよ!生首と一緒になぁ!?」

 

「やれるもんならやってみやがれビッチ!逆にお前の生首をボスんところに送り付けてやるよ!」

 

この女のお陰であったかくなっていた俺の脳みそが急に冷たくなっていくのが良く分かる程に冷静に成れる。

口じゃ罵り合って入るがヒートアップしていくのは女だけだ。

 

「煽り耐性低すぎんだろお前。流石にびっくりしすぎたわ」

 

「ア”ァ”ン”!?その口二度と叩けない様にしてやるよ!」

 

「えー、これだけでキレるの……?流石に心配になるレベルなんだけど……まぁいいや。取り敢えず気絶しとけや」

 

「オ”フ”ッ”!?」

 

死なない程度に、だが絶対防御を貫通する威力で腹に一撃、拳をめり込ませる。

流石に、さっきの歩兵共の方が良い腹筋してたわな。

 

女としちゃ十分以上に鍛えているんだろうが、まだまだ柔らかい。

顔面突っ込んでそのまま抱き枕にして寝れるぐらいには柔らかい。

千冬なんか割れちゃいないがそりゃもう、ダイヤモンドが千冬なんだよ、と言われても納得出来るぐらいには鍛えている。

ここ何年かは先生やってるから鍛える暇が無かったのだろう、柔らかくなっていたがそれでも公式での人類最強の名は伊達じゃないってことだ。

 

俺の拳をまともに食らったからか、女がだして良い声とは思えない声と、口から吐瀉物を吐き出しながらそのまま落ちて行った。

まぁ今までも口汚かったから言えたもんじゃねぇけどさ。

 

と言うかこいつ、乖離剤を俺に取り付けるって目的を完全に忘れてただろ。

殴る事しか考えて無さそうだったし、乖離剤を俺に向けた瞬間なんて一度も見てないんだが。

まぁいいや。気絶させたからもしそのままノびてても歩兵の連中で生きてるやつがいたら回収するだろうし。

まぁ生きてる奴は居ても結構強めに殴ったから女とはいえ人を抱えて逃げれるかどうか分からんけども。

 

 

 

「クラリッサ、大丈夫か!?」

 

飛び上がってクラリッサとサイレント・ゼフィルスの撃ち合いの間に無理矢理割って入る。

 

「SEがもうギリギリです……!残弾も残り少ない!」

 

そう言うクラリッサの機体はかなりボロボロにやられていた。

レールカノンの砲身は中程から先端辺りまでどこかに吹っ飛んでしまっているし装甲もベコベコだ。

スラスターの調子も宜しくないらしい。

 

「なら一旦下がれ!補給するなりしてからもう一度来い!」

 

「ですが!」

 

「どちらにしろ今のお前じゃ足手纏いだ、さっさと退け!別に二度と来るなとは言ってねェだろ!?」

 

「……分かりました!どうか御武運を!」

 

クラリッサを一度、旅館まで後退させて補給と整備をさせる為に俺に注意を引き付ける。

束なら、十分かそこらで修理も完了させられる筈だ。

 

 

事前の情報通り、サイレント・ゼフィルスの操縦者はまだ15、16ぐらいの子供らしい。確かに顔の上半分は隠れてはいるが身体付きなんかがまだ子供だ。

 

「おいクソガキ!お前の相手をしてやんよ!掛かって来いや!」

 

サイレント・ゼフィルスの前に躍り出て、何時でも殴り掛かれる準備をして構える。

だがどういう訳か、全く俺に向かってクラリッサの時の様にバカスカ撃って来ない。

 

弾切れか?いや、それは有り得んな。拡張領域に恐らくエネルギーパックを幾つか持っているだろうし、武装は見た感じ遠距離用のライフルだけだ。

恐らくは近接用のハンドガンか、ブレードなりも装備している筈。

 

「あは……!」

 

「あ?」

 

「あはは、あははは!あははははははは!!!」

 

何だコイツ、急に笑い出しやがった?

しかも心底愉快だと言わんばかりに、声だけで無く口元は今の状況に似つかわしくないぐらいに笑っている。

 

「頭イかれてんのか……?」

 

そして俺がそう言った次の瞬間、これまたとんでもなく訳の分からない事を言い出した。

 

 

 

 

「あぁ、兄さん!やっと会えた……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツ、今なんて言った?

俺の事を兄さん、と言ったのか?いや、そんな馬鹿な話あるか。

俺には千冬と一夏、束と箒の四人だけだ。俺の記憶の無い所でそう呼ばれる理由も無いし見当も付かない。

 

どういうこった、いよいよ訳分からなくなって来たぞ……

 

「待て待て待て。お前一体何者だ?俺の事を兄貴って言ったか?」

 

「そうだ」

 

「俺には妹は四人しかいない筈なんだがね?五人目なんて聞いた事無いんだが?」

 

「……?あぁ、それなら私の顔を見れば分かる筈」

 

そう言って、顔を覆っていた装甲を外し素顔を露わにした。

その顔を見てそりゃぁもう驚いたよ。何せ。

 

 

 

「お前……千冬か……!?」

 

 

 

高一ぐらいの時の千冬がそのままそこに立っていたんだから。

 

 

 

 

 

 

 

「私は織斑マドカ。織斑千冬じゃない」

 

「苗字が一緒、ってことは何か繋がりがあると見て間違いなさそうだな?マドカちゃんよ」

 

「ッ!そうだ、私は織斑千冬を元に作られた」

 

一瞬、俺がマドカと呼んだ時に滅茶苦茶嬉しそうな顔をして身を少し捩ったが気のせいだと思いたい。

それよりも滅茶苦茶気になる言葉が一つ。

 

「作られたぁ?そりゃお前、ラウラとクロエみたいな出生ってことかよ」

 

そう、この織斑マドカと名乗る少女は千冬を元に作られたと言った。

俺が言った通りならば、この少女はラウラやクロエと同じような出生、所謂デザインベビーという事になる。

 

あの時、束に説明された事と同じことがまだ世界のどこかで行われているかもしれないのだが……腹が煮えくり返りそうだよ。

何よりも癪に障るのは千冬がモデルだ、という事だ。

 

まぁ、出会った時の状況を考えれば何か裏がありそうっちゃありそうだったがあんまり突っ込まなかった。

一夏は勿論まだ赤ん坊だったから記憶なんてある訳無いし、千冬だって記憶は定かじゃないはずだ。もし覚えていたとしても思い出したくないような記憶だとしたら、と思うと聞けるようなことじゃない。

 

「その通りだ。だが絶対的に違うのは、ドイツのあの計画はあくまでも私や織斑千冬、織斑一夏が作られた織斑計画の劣化版でしか無いという事だ。私達は意図的に〔最高の人間〕を創るための計画だ。ドイツの様な人造兵士を作るなんて中途半端な計画じゃない」

 

「ほぅ、で?」

 

「織斑千冬が第一成功体で織斑一夏は第二成功体。私はもしもの時の為に作られたスペアだ。例えるならば、私と織斑千冬は一卵性の双子、とでも言えば良いのか?歳は離れているがな。それに、二人とは違って私は失敗作だから」

 

「織斑計画、ねぇ……」

 

なんとも馬鹿な事を考えた人間が居るもんだ。

最高の人間を創り出すだぁ?神にでもなったつもりか?

 

ま、神様にゃ碌なのが居ないってのが普通なんだがね。

ギリシャ神話とか見てみろよ。神様関連でどんだけの被害が出たことか。

ゼウスなんざ下半身で物事考えてそうな種蒔きマシーンだぜ?

 

人間にも、神を気取った大馬鹿野郎がいたってことだ。

そんな奴らのせいでどれだけの命が弄ばれたのか、考えるだけでおぞましいし全身の血管がはち切れそうになるぐらいには怒りが込み上げてくる。

 

「一つ質問だ。なんであの時、俺が千冬と一夏に出会った時にお前は居なかった?」

 

「それに関してはスペア、と言う意味合いが大きく関わっている。元々私は何らかの原因で織斑千冬が失われた場合の代用品だった。だからこそ後から作られたし、織斑一夏よりも生まれが遅い。あの時には私はまだ鉄の子宮の中だったんだ」

 

「なら何で千冬と一夏はあのアパートに居た?」

 

「ハッキリ言ってしまえば、研究員の一人が二人を連れだして逃げたんだ。彼女は織斑千冬と織斑一夏の教育係、言うなれば母親代わりの様な役割を任されていたんだ。だからある時に本当に母親としての愛情が芽生えて、二人を連れて逃げたと言う訳だ」

 

「泣ける話だな、と言いたいところだが計画に関わってた時点でギルティだな。ま、最後の最後にそうやってくれた事に関しては頭を下げるよ」

 

確か、千冬と一夏の部屋に初めて入ったときに机の上に手紙が置いてあったはず。

あれは、俺は読んでいないから分からないがどんな思いが綴ってあったんだろうか?

 

「まぁ、その人は既にこの世には居ないし私とは関わりが無いし、この話も私の教育係から聞いただけだ。だが私の教育係にはもし逃げることが出来たのなら兄さんの所に行きなさい、と言われた」

 

「俺の所に?そりゃまた何で」

 

「織斑千冬と織斑一夏を、まだ若いにも関わらずあれだけ愛情を注いで立派に育てていたからだろう。彼女はあの人なら絶対に大丈夫、って言っていた」

 

「そりゃ嬉しいね。で、その千冬と一夏の教育係の名前は?お前さんの教育係はどこに行った?」

 

「二人の教育係の名前はオリビア・フォスター。私の教育係は直属の上司だな」

 

組織に対して反旗を翻したんだからその末路がどうなるか、なんて分かり切った話だ。

それが裏組織ともなればどうやったって生きていることは出来ないに決まってる。

 

「で、今回出張って来た理由は?と言うか俺の事をなんで兄さんなんて呼ぶんだ?」

 

「今回、私が出て来たのは上からの命令だから。私は逆らうことが出来ないんだ、体に入れられたナノマシンのせいで」

 

「ナノマシン?そりゃまた一体どういうこった?」

 

「逃げ出そうとした時に、捕まったと言っただろう?あの時、盛大に暴れまくったんだ。そしたら反抗出来ない様に、と。兄さん、と呼ぶ理由はあの二人の兄なんだから姉妹の私もそう呼んでも問題無いだろう?それに、元々話を聞いた時から憧れていたんだ」

 

「いやまぁ、姉妹っちゃ姉妹だろうけど、俺に憧れただぁ?」

 

「あぁ、あの二人に対する兄さんの接する姿勢と言うか、在り方に凄く、酷く憧れたんだ。格好良い、って。私にもあんな兄が居たらな、って。あんな風に私も褒めて貰ったりしたい、って」

 

「それで、俺を兄さんって呼ぶのか」

 

「そうだな。今日初めて出会ったから私も兄さんも互いの事は全く分からないし知らない。好きな食べ物も動物も趣味も知らない。だけど私の中ではもう兄さんは兄さんなんだ」

 

「大層な評価を頂いてるな、俺は。そんなら何で今回俺を拉致る任務なんて参加したんだ?」

 

「ナノマシンを投与されていて逆らいたくても逆らえないからだ。私の直属の上司は今回の任務に大反対していたからその意見が通っていれば私が兄さんと初めて会うのはもっと後になっていただろうな」

 

そう言って、少し悲しそうに笑うマドカはそりゃもう千冬そのままだった。

そりゃ千冬を元にうんたら言ってたからそのままってのもしょうがないんだけど。

 

ったく、あんな顔見せられちゃぁほっとけなくなっちゃうじゃねぇか。

 

千冬と一夏と血が繋がってるってんならそりゃもう俺の妹でしょうよ!(暴論)

 

 

 

 

 

「あうっ……!」

 

「おい、どうした?」

 

「何時まで経っても私が兄さんと戦わないから命令を受けたナノマシンが、私に早く兄さんを戦って捕らえさせるために暴れ出した……!」

 

「はぁ!?ちくしょう、話し合いで解決するイイ感じの流れだったじゃねぇか!」

 

「すまない兄さん……!」

 

そう謝ったマドカの苦しそうな顔と共に今まで下げられていた銃口が俺に向けられた。

 

「しゃぁねぇ、相手してやるよ!」

 

ったく、俺の妹達は好戦的で困るぜ全く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっぶねぇ!?」

 

なんだかんだで十分くらい逃げ回っているが、射撃精度がセシリアやシャルロットの比じゃない。

あれだけ大見え切ったくせに全くの防戦一方だった。

 

こりゃ確かに俺と相性悪すぎだわ!

 

毎回毎回エグイ角度で偏光射撃を撃ってきやがる。

流石に直角とまでは行かないが、見た感じ六十度くらいの角度なら余裕で曲げてくる。

今までで一番角度が付いていたのは、八十度ぐらいだ。

 

これは恐らく、九十度くらいなら多分曲げてこれるんじゃねぇのか……?

 

「ダァラッシャァ!」

 

打鉄の標準装備である近接ブレード、葵で少し角度を付けてビームが当たった瞬間に一気に角度を付けて無理矢理ビームを弾く。

弾いた次の瞬間には背後に回ったビットが即座に撃ってくる。

 

振り向きざまに同じようにビームを弾いてやる。

 

「ヌぉ!?やってくれるじゃねぇの!」

 

流石に何発か食らう。

と言うかアリーナと違って、それなりに高い高度で、大体二千mぐらいでやり合っているから上下左右、ありとあらゆる方向からビームが放たれる。

 

「こりゃマジで厄介だな!?オラァッ!」

 

大体、1kmの距離を維持してマドカはバカスカ撃ってきやがるしその合間合間を隙無く、絶え間無くビットの射撃が襲い掛かってくる。

 

いや、分かってはいたがかなり厳しいぞ。

ただでさえ、全盛期の千冬ってだけで勝てるかどうか五分五分なのに、千冬レベルの強さを持つ奴が射撃特化になるとこれだけ俺と相性悪くなるのは流石に予想の遥か上を行くな。

 

こっちは防ぐので精一杯、反撃なんてままならない。

と言うよりも接近戦に持ち込むことが出来ない。

 

「兄さん!逃げてくれ!頼むから!」

 

「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!」

 

必死に、身体の内側からナノマシンに操られて、抗って、激痛が走っているだろうに必死に逃げろと叫ぶ。

 

「俺の心配をしてる暇があるなら自分の心配しやがれ!お前が兄貴だと慕う男はそんなに弱くはねぇんだよ!黙って見てろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

なーんて言ったものの。

解決策が本当に無い。と言うのも遠距離武器なんて俺は装備していないからだ。

だってド素人の俺が撃ったって当たりゃしねぇ。一応、セシリア教官の元で射撃訓練は積んでいるんだがそれも中、近距離で尚且つ静止目標だし、移動目標、それも滅茶苦茶に複雑な三次元立体機動を行う遠距離目標なんざどうやったって命中させることは出来ない。

 

「おぉとアブねぇ!?」

 

クソ、マジでマドカ自身からの射撃もそうだが何よりビットからの射撃が油断ならない。

精々二十mか三十mの距離からビームがバカスカ飛んで来るのだ。

しかもセシリアは四機なのに、マドカは六機の同時運用をやってのけるんだから一・五倍の火力量だしそこにマドカからの射撃も加わるとなると一・七五倍。

 

ぶっちゃけ避けて剣で弾くので精一杯だから反撃もクソも無い。と言うか出来ない。

流石は、千冬に匹敵するだけはある。

先ほども言ったが千冬クラスの実力者が射撃特化になるとここまで厄介だとは。

あんまり知りたくない、と言うか体験したい事じゃない。

 

さて、本当にどうしたものか。

 

ただ、やり様が無いって訳じゃない。

と言うのも、基本的にBT兵器と言うのは発展途上であり、今俺の周りを飛び回りバカスカ撃って来ているビットには、通常の実弾兵器で言う所の残弾数、BT兵器ではエネルギー残量とでも言えばいいのだろうか。

セシリアを基準で話せば、予想でしかないがビット一機につき撃てる回数は精々が五十~七十と言ったところだ。

実弾兵器と比べると、圧倒的に少ない。

 

一応、エネルギーパックを拡張領域に幾つか装備していることは予想出来るがそのエネルギーパックも技術不足故に容量が大きい物では無く、一つのエネルギーパックを丸々使用して一機分補給可能、と言った感じだ。

これでも十分かと思われるかもしれないが考えてもみろ、六機のビットを同時運用するだけでなく自分のライフルまであるんだから精々、それぞれのビットにエネルギーパックを一回分用意するので精一杯な筈だ。

まぁ、予備としてもう一つか二つ分程度なら用意出来るかもしれないがそれでも高が知れる。

一応、出力に応じて使用するエネルギー量は上下するので低めの威力にしておけば長く戦えるだろうがそうなると射程は短くなるし威力も弱くなるから低くても三十%ぐらいの出力は必要となる。

 

 

まぁ何が言いたいのかと言うと、セシリアの専用機であるブルー・ティアーズの姉妹機であるのならば、亡国機業が何らかの方法でエネルギー残量問題を解決していない限りは恐らくそう遠くない内にエネルギー切れを起こすだろう、と思われる。

しかもかなりの勢いでバカスカ撃ってるし、剣で弾いた感じだと出力も三十どころかその倍は出ていると思う。

 

とすればエネルギー切れを起こすはず。

 

それを狙えば勝機がある筈だ。

狙うのは補給に向かった瞬間だろう。

 

どんな射撃武器にも言える事だが、持っている弾を使い切ったら精々が鈍器程度の価値しか存在しなくなる。

弓矢は飛んできた矢を使えば良いが、銃弾はそうもいかない。

なにせ弾頭部だけじゃ撃てない。

火薬は必要だしその火薬の爆発に耐えられるだけの銃身やらなんやら、色々と複雑な機構が必要になる。

大昔の火縄銃みたいなやつなら今の銃器ほど複雑じゃないが連射性能は無い。

聞いた話じゃ火縄銃の弾込めには三十秒掛かるとかなんとか。慣れている人間でも二十秒は掛かるらしい。

 

話を戻すとだ、どんな射撃武器も弾切れしちまえばなんて事は無いという事だ。

 

それを考えると、刃毀れしたり折れたりしなければ剣の方がまだ武器として長時間の連続使用にはまだ耐えられる。

俺は自分で殴って蹴った方が速いしやり易いからな、それを選んでる。

ってなわけで。

 

 

 

そんじゃまぁ!持久戦と行こうか!

 

 

 

 

 

 

 

 










マドカちゃん、ちょっと性格マイルドにし過ぎたかもしれへん……
まぁ、いっか。可愛げがあって淑やかな感じのマドカちゃんもアリだよね。

基本的に、おいこれ違うだろ!誰だよ!とか思った場合は作者が暴走と言うか、妄想しすぎた結果ですのでご了承下さい。










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いやもう勘弁してチョーだい! 3人目の妹登場ってだけで割りとお腹一杯なのにどうして軍用ISまで相手にせにゃならんのか!?






なんか久々の投稿の気がする。
まぁ確かに一カ月ぶりぐらいだもんなぁ……まぁしょうがないよね、他の作品ばっか執筆してたってのもあるけど、もうね、色々大変だったんですよ。

主にエーぺにドハマりしちゃったってだけなんですけど。



あと言いたいことがある!

マドカちゃんがヤンデレだぁ!とか千冬達もヤンデレだァ!とかなんとか感想とかで書かれるんだけど、何度でも言わせて貰うぞ。


この小説にヤンデレは無いんだよ!
そう見えるだけでヤンデレじゃないんだよ!愛が大きすぎるだけでヤンデレじゃないんだよ!


そこんとこマジ理解してくれよな!?
作者ヤンデレ書けねぇんだからさぁ!?変にハードル上げんの止めてチョーだい!

愛が重い、とか愛が大きいってのはヤンデレと違うの!(作者の中では)

千冬達はヤンデレじゃないからな!

何度でも言うぞ!

千冬達もマドカもヤンデレじゃないからな!











 

 

 

マドカとドンパチ危ない火遊びをし始めてからとっくに二十分が過ぎていた。

 

いやね、マドカちゃん元気良すぎなんですよ。

ナノマシンに強制的に操られているとはいっても元気すぎやしませんかねぇ……?

 

しかも元々千冬のスペアとして作られたからか身体能力だけでも千冬並み。

ISの操縦技術もめっちゃ高い。

 

しかも実戦経験がそれなりにあるらしいのか、それともナノマシンの影響なのか分からないが随分と手練れている。

 

ハッキリ言って厄介な事この上ない。

 

何しろ千冬と同格ってだけでヤバイのに、しかも射撃特化と来たもんだ。

千冬なら近接特化だから俺と同じリーチだから勝機は幾らでもあるんだけどな、マドカ相手じゃエネルギー切れを待つ持久戦しか出来ん。

 

アリーナみたいな限られた空間内ならもっと戦えるんだけどな。

 

だけど正直に言っちまえばセシリアなんて目じゃないぐらいには腕がいい。

狙いも正確だし、偏光射撃もお手の物。

 

セシリアは出来ないがビットの操作と自分の射撃も同時に行える。

六機のビットを相手にマドカからの射撃。

 

計七点からの射撃をほぼ同時に捌き続けなけりゃならないってんだから、千冬かそれと渡り合える実力を持つモンド・グロッソ出場経験がある千冬抜きの上位三人ぐらいでなきゃ相手は務まらん。

 

モンド・グロッソの試合は一試合が平然と一時間、二時間なんて掛かる。

千冬は、自分が近接特化という事を分かっていたから長期戦になると不利ってことは誰よりも分かっている。

だからこそ瞬時加速を用いた瞬殺戦法でたったの十数秒で決着を付けてたってだけ。

千冬が異常なのであって周りが正常なのだ。

しかも今みたいにBT兵器なんて千冬が現役の時は無かったしな。

 

 

それを考えると、俺の持久戦は愚策なんだが初手で攻撃する機会を会話で失っちまったもんだから出来ない。

仕掛けようものなら七方向から一斉射撃を食らって俺のSEは瞬く間に底を着き、絶対防御を貫通してハチの巣待ったなし。

 

流石にそりゃ勘弁してほしい。

 

ってなると俺が取れる策ってのは応援が来るまで逃げ回ってから共闘するか、相手の弾切れを待つか。

 

共闘作戦は速攻で却下。

シルバリオ・ゴスペルの相手をしなきゃならんシュヴァルツェア・ハーゼの面々にこっちの応援に駆け付ける余裕は無いし一夏達の参戦はまずもって論外。

 

シルバリオ・ゴスペルにしろマドカにしろ、今の一夏達が相手するには荷が重すぎる。何しろ第三世代軍用ISか第三世代機遠距離特化型で実力は千冬と同格の二択。

 

さっきの煽り耐性低い女なら大丈夫だろうがこの二択は究極だ。

どちらを選んでも、誰かしらが大怪我を負う可能性が高い。

 

それに比べてシュヴァルツェア・ハーゼの面々は元軍人、IS専門部隊だ。

相応の訓練を受けている筈だし、代表候補生の一夏達よりはずっと命のやり取りや死ぬことに対する心構えも出来ているだろうからまだまだ戦える。

 

 

となると持久戦一択なわけだ。

と言うか相性悪すぎてこれぐらいしか戦い方思い付かんかった。

 

そんなわけで、ひたすら耐えている訳なんだけども。

 

 

 

 

 

 

 

「全然弾切れする様子無ェなァ!?」

 

嫌な音を立てて飛んで来るビームは俺の直ぐ真横や後ろを掠っていく。

それを無理矢理身体を捻ったり加速させたり、剣で弾いて躱す。

 

「ウワッホウ!!」

 

ギリギリ、冗談抜きで超ギリで身体を捻ると続けざまに頭を狙いに来たビームを剣で無理矢理弾く。

 

もう狙いがいやらしいんだよなぁ!?

 

避けた瞬間に、身体を捻って無理矢理避けた瞬間とか狙ってくるもんだから避け難いったらありゃしない。

 

ただ、最初よりも攻撃の間隔が開いて来たような気がする。

多分、そろそろエネルギー切れが近いのかもしれないがこれに釣られてホイホイ行っちまうと、罠だったりして嵌められる。

 

慎重に越したこたぁねぇんだ。

イザって時に、博打に出られる覚悟と勇気がありゃいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side マドカ ----

 

 

 

 

 

 

 

初めて、兄さんと顔を合わせた。

今までは、ずっと画面越しに私が一方的に見るだけ。

 

思わず嬉しくて、笑いが込み上げてしまった。

私は笑うのが下手らしいから、ちゃんと笑えただろうか。

 

兎に角、兄さんに会えた。

 

これだけで今回の任務は私的には大成功だ。

組織からの任務なんてはっきり言ってどうでもいい。

 

正直、私個人としては組織になんか所属していたくない。

今すぐにでも兄さんに抱き付きたいがナノマシンがそれを許さない。

 

私の身体に投与されたナノマシンは、もし私が暴れ出した時にそれを抑えるための物と裏切ったときに私を殺すための物。

 

そして何らかの理由で私が任務中に動けなくなった場合に、私の身体を無理矢理動かすための物。

 

 

お陰で下手な行動も取れない。

 

 

 

しかもこの三種類のナノマシン、起動時や起動中には私自身に激痛が走る仕様になっているから、その痛みを味わいたくなければ、という事だ。

 

ただ、兄さん相手に銃口を向けたくないし戦いたくもない。

まぁ、兄さんに色目を使う女や兄さんを害そうとする奴になら向ける事も吝かではないが……

 

 

そう渋っていると何時まで喋っているんだと組織の幹部から通信が入る。

こいつらは無能だ。

 

兄さんを敵に回す事が何を意味しているのか全く分かっていない。

少なくとも、兄さんと織斑千冬と篠ノ之束と言う世界最強生物トップ3の人間全員を敵に回すという事だ。

 

織斑千冬は、少なくとも全世界の人間が知っている生身とISでの圧倒的な強さとカリスマの持ち主。

モンド・グロッソを圧倒的な強さで圧勝したのだから、生中継で見ていた誰もがその姿に惹き付けられている。

馬鹿な女共は、訳の分からん主義主張の象徴として。

 

篠ノ之束はその気になれば何時でも世界を滅ぼすことが出来る科学力と財力、そしてISに依存したこの世界の全ての国家、組織に対する圧倒的な支配力がある。

何せ、ISありきの世界になってしまっているものだから、コアを凍結されてしまえばアメリカだってただじゃすまないぐらいの損失を被るだろうし、IS保有国の中でもあまり財力の無い国であれば国家そのものが破綻するかもしれない。

何しろISの研究開発には米原子力空母一隻を建造するために必要な130億ドル、日本円にして1兆3000億円以上掛かる。

 

第三世代機の研究開発に掛けている値段は、何処の国もそうだが余裕で1兆円なんて超えるしアメリカはその莫大な軍事費を惜しげも無く注ぎ込んでいるから組織の諜報員が掴んだ一番新しい情報だと、今年度の開発費用は軍事費100兆円の内の23兆3450億円にも上るという。

 

この数字は各国の開発費の凡そ2倍。

日本が8兆8700億円なのでその違いが良く分かるだろう。

 

これだけの金を注ぎ込んでいるんだ、今更凍結、ともなればどれほどの金銭的喪失が生まれる事やら。

だからこそ、第三世代軍用ISのシルバリオ・ゴスペルを開発出来たるのだ。

 

ISという完璧ではないものであるにも関わらず世界はISと言う一つのものに依存し過ぎた。

 

それを考えると、世界でただ一人、コアネットワークに接続可能でこの世界に存在するコアの停止、起動を握っている篠ノ之束の支配力と言うものは不可抗力であっても計り知れない。

 

しかも各種の特許などで得た利益で数兆~十数兆円にも上る資産を保有しているから個人としての資産はズバ抜けてトップ。

中小国家の国家予算並みだ。

 

 

 

 

そして兄さんは、知られてはいないとはいえ二人を抑えて世界最強、その二人との繋がり、それも物凄く深い繋がりがあって手を出した瞬間に、フランスとドイツの惨状が物語っている。

 

余り言いたくはないが、兄さんの織斑千冬達に対する愛情はおかしい。

妹に向ける愛情なんてレベルじゃない。

 

この三人の誰か一人でも敵に回せば、その瞬間に世界で敵に回してはいけない人間トップ3を自動的に敵に回す事になる。

 

という事は、亡国機業は既にこの三人を敵に回したという事だ。

正直に言ってしまおう。

 

もう亡国機業に未来は無い。

 

兄さんだけを相手するなら正面からの武力では敵わないとしても絡め手を使えば、まぁ何とかなるかもしれない。

 

だが、織斑千冬と篠ノ之束は?

どちらも絡め手が通じる様な相手じゃない。

 

正面から戦っても、武力では敵わず篠ノ之束が既存のISコア以外のコアを持っていない確証も保証もどこにも無い。

絡め手なんて直ぐに看破されるのがオチだ。

 

例えるなら、兄さんが前衛で織斑千冬が中衛、篠ノ之束が後衛と言うなんともバランスが整った編成。

 

 

 

 

 

前衛の兄さん一人を切り崩すのが至難の業なのにそれの後ろに控えているのが最悪だ。

 

今だってそうだ。

 

ナノマシンによって私が操られて攻撃しているが、遠距離からの射撃に徹してビームビットを六機に私からの射撃を常に受けているのに兄さんは全てとは言わないまでも避けてられている。

 

しかも実際に見て本当に驚いた。

ビームを剣で弾いているのだから。

 

ビットからの攻撃で背後を見せた瞬間に射撃をしても避けられるか弾かれる。

 

あんなの有り得ない。

少なくとも世間一般的な常識に当て嵌めれば有り得ないというしかない。

 

ただ、私は知っているから驚愕はするも有り得ないという感情は無い。

それでも凄い。

 

実弾と違ってビームはその弾速が圧倒的に早い。

それを超至近距離、たったの二十m程度の距離から撃たれるビットのビームや合間合間のいやらしいタイミングに撃つ私のビームも避ける。

 

 

しかも、こっちには残存エネルギーの問題もある。

さっきから滅茶苦茶に撃ちまくっていたからそろそろ心配になってくる頃だ。

 

チラッとエネルギー残量を見てみると既に四十%ほど。

これだと六機のビットに一回ずつ補給をしたらもう終わりだ。

 

ビットの方が消費が激しい運用上仕方が無い。

ビットの緩慢無い射撃の合間合間に私が撃つのだから、どちらが多く撃つかは明確だ。

 

ビット六機の一度の補給に大体四十%を消費する。

だから二回分の補給しかできない。

エネルギーパックを入れても、だ。

 

現状のビーム兵器の問題点と言うのは、エネルギー効率が悪い事。

一度の射撃で使うエネルギー量が多すぎるのだ。

 

これでもマシになった方なんだがそれでも多い。

 

だからこそ、兄さんは持久戦でこちらのエネルギー切れを狙っている。

 

大真面目に接近戦を狙ってもビットに背中を撃たれるだけだし私に逃げられるだけだからそれが一番確実に、私と戦わなくても勝てる方法。

 

兄さんの勝利条件は、私を仕留める事じゃない。

生き抜いて、これ以上先に私を進ませない事。

 

要は足止めをすればいい。

しかも私はエネルギー切れになったら撤退するか、接近戦を挑むしかなくなる。

 

正直に言って、兄さん相手に接近戦を挑んでも今の私じゃ勝てない。断言出来る。

 

そこそこいい勝負は出来るかもしれないが、勝つ事は出来ない。

そもそもビームを至近距離から撃たれてそれをひょいひょい避ける様な反射神経の持ち主に、私のそこそこ強い程度の体術や剣術が通用する訳が無い。

 

いやもう、本当にどうして避けられるのか不思議でしょうがないんだが兄さんだからと納得しよう。

 

それに、そろそろ私の身体の方が限界が近い。

ナノマシンの効果によって激痛が走っているし、脳をビット操作のために酷使しすぎたからか鼻血も出てきて視界が歪んでいる。

 

しかも、出来るだけ兄さんに有利になる様にナノマシン相手に抵抗しているから体力の限界も近い。

多分、エネルギー切れよりも前に私が倒れる。

 

ただ心配なのは、私が気絶した後もナノマシンによって戦い続けるかもしれない事だ。

まぁ、もしそうなっても兄さんなら多分大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、ビットの動きがさっきまでと違って機敏さが無くなって来ている気がする。

避けるのも楽になって来ているから多分気のせいって訳でも無いと思う。

 

BT兵器ってのは操作を行う上で、脳にとんでもない負荷を掛け続けての運用だ。

 

今、マドカと戦い始めてから既に三十分が過ぎている。

これだけの長時間、ずっと脳に高負荷を与え続けていれば集中力が無くなって来てもしょうがない。

 

基本的に、セシリアやマドカが扱っているタイプの様なビットと自身の射撃を両立しなければ真価を発揮しない武装ってのは機械側からなんの補助も無いと、絶対的に並列思考が不可欠となる。

 

並列思考ってのは、物凄く簡単に言えば複雑な作業を同時に行える思考の事だ。

 

例えば、片手でFPSをやりながら読書感想文を書く、みたいな。

コントローラーを手放さず戦闘を行いながら感想文を書く、という事だ。

 

この時行われているのは、FPSゲームの中での複雑な戦闘中における状況判断や何時撃つかという思考と同時に、読書感想文とかいう学生ならば誰しも通った死ぬほど面倒な宿題だ。

適当に、ただ面白かったですとか書く訳じゃ無くて起承転結をしっかり構成して、と言う文を書く。

 

ハッキリ言おう。

FPSやりながら読書感想文なんて絶対に書けねぇから。

 

おてては二つしかないから、どちらも両手を使わないとそもそも出来ないって言う。

まぁでも一番分かりやすいかもしれない例えだよな。

 

 

 

 

ただ、これがBT兵器になってくると先ずビットの操作を行わなけりゃならない。

しかもセシリア四機、マドカは六機だぜ?

 

これを同時に、しかも全く違う機動や射撃タイミングを操らにゃならん。

一つでも面倒だってのに、それが四つ、六つともなるととんでもない。

 

という事は、だ。

最低でもセシリアは四つの並列思考を、マドカは六つの並列思考をこの時点で行わないといけない。

 

それに加えて、自分の持っているライフルが加わり、周辺警戒が加わり……と色々合わせるとBT兵器を扱うならば最低でも同時に十の思考を制御出来なくちゃならない。

 

これが、文面なら出来るとか言うやつがいるかもしれんが、断言する。俺を含めて千冬も絶対に出来ねぇから。

束ならやってのけるだろうけど。

 

イギリスはBT兵器を開発しているが、このBT適正があるのが現状たったの数人程度。

しかもセシリアはその中でトップの適正を持つ。

 

ただし、セシリアの戦闘センスはお世辞にも高いとは言えない。

それなら一夏や鈴の方が高い。

 

だが、決してBT適性が高いからと驕る事無く死に物狂いで訓練してきたからこそセシリアはああやってビットを四つ同時に操作出来る。

その間、自分は動けないし射撃も出来ないとしてもこれはとんでもなく凄い事だ。

思うに、並列思考ってのは5を超える事が難しいんじゃないか、と思う。

 

理由は、並列思考を同時に五つ出来るならば、最低限相手を攻撃するのに必要なビット四機に加えて自分も行動できるから。

 

考えて見ろ、四機のビットを操作して敵に攻撃を加えながら敵の攻撃を避けるんだぞ?俺には絶対無理だね。

 

まぁ、一応機械側からの補助も幾らかはあるらしいんだがまだまだ発展途上でその補助は微々たるもの、今現在は操縦者に大部分の凡そ九割を任せている状況だ。

 

それを考えるとセシリアとマドカはスゲェんだぞ。

 

 

 

 

まぁ、話を戻すと並列思考ってのは兎に角脳みそを酷使して成り立つものだ。

並みの人間ならまず出来ないし、出来たとしても二つの物事を同時に進めるのが精一杯。

 

これが、今のマドカの様に六機のビットと自分のライフル、それ以外の事を合わせて最低十の並列思考を行うとすれば、脳みそに掛かる負担の大きさは尋常じゃない。

 

それをナノマシンが強制的にやってるってんだから脳みそだけじゃなくて身体全てに掛かる負荷は、最悪臓器の機能や神経がおかしくなっても何ら不思議じゃない。

 

ただ、恐らくマドカは別だ。

最高の人間を創るだとか馬鹿気た計画で生み出されたんだ、その身体機能などは常人のそれとは大きく違うのだろう。

でなきゃ、優秀な兵士を使い潰すようなこんな方法を取る訳が無い。

 

 

 

 

 

 

「だァらっシャァッ!!」

 

また、死角の真後ろと右斜め後ろから撃たれたビームを上下逆さに反転、身体を捻りながら真後ろのを避けて剣で右斜め後ろからのを弾く。

 

すると、その隙を突いてまた撃たれるがそれも無理矢理機体を加速させて避ける。

 

そんなことを、既に五十分。

まぁ、持久戦をするってんだから数時間程度の戦いは覚悟の上だ。

 

だが四方八方からバカスカ撃たれて、それを神経尖らせて避けるってのは結構疲れる。

 

ただ、やっぱし命中精度とか攻撃の波が弱くなってる。

最初の内は被弾する回数も多かったが、この分なら十分以上に避けられる。

 

 

あとは、エネルギー切れの前にマドカの方に隙が出来たなら一気に突っ込むだけだ。

持久戦をするってのが目標だが、隙が出来たんなら飛び込まなくちゃぁな。

 

 

 

 

 

 

 

結局、マドカに隙が出来る事は無かった。

あれからまた十分は戦っている。

 

そしてここに来て、どうやらビットのエネルギーが底を着き始めたらしい。

補給に戻ったのか、と思ったビットがいつまでたっても攻撃に戻って来ない。

 

 

 

それが、既に四機。

多分、残りの二機もあと数発撃ったら終わりだ。

 

そして、残りの二機が同時にビームを放った次の瞬間、マドカの元に一斉に戻っていく。

 

それを見て、機体のブースターを思いっ切り吹かしてマドカに突っ込む。

意識さえ刈り取っちまえば、多分俺の勝ちだ。

 

「ッ!?」

 

一瞬、驚いたような、予想していたような顔をして拡張領域から短刀を取り出すと殴り掛かる俺の拳に合わせるように切り掛かる。

 

「甘ェ!」

 

「んなぁっ!?オ”ゥ”ッ!?」

 

拳を思いっ切り振り抜いて鳩尾に思いっ切り捻じ込む。

流石にそれは予想していなかったのか驚きの声と表情を上げた瞬間に鳩尾に捻じ込まれたものだから凄まじい声と共に胃の中の物をぶちまける。

 

「オ”エ”ッ”……!ゲホッ、ゲホッ……」

 

「最低な兄貴だって罵ってくれても構わねぇから!ちょっくら気絶しててくれや!」

 

吐きながら咽るマドカの顎に、そう言って一発キツイのを叩き込む。

すると、マドカは白目を剥いて気を失った。

 

マドカの意識が失われると同時に機体が解除されて真っ逆さまに落ちていく。

 

「よっこらせ……」

 

さっ、と抱き抱える。

ナノマシンの影響で、気を失っても戦い続けるんじゃないかと思っていたから警戒したがどうやら大丈夫らしい。

 

取り敢えず、束に見せるか……

あいつなら体内のナノマシンもどうにか出来るだろ。

 

「そんじゃ、帰るか」

 

一言ぼそりと言って、旅館に向かって飛んだ。

 

そういや通信入って来ねぇなぁ……

大丈夫なんかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館に戻ると、大騒ぎになっていた。

なにせ、待機していたISを装備した先生方も臨戦態勢。

 

マドカを抱えながら降り立つ。

 

「おじさん!今まで何やってたの!?」

 

「え、いや滅茶苦茶戦ってたんだけど」

 

「その子が?」

 

「まぁ、一応説明すると結構ややこしいから落ち着いたらな。それでなんかあったのか?滅茶苦茶物々しい雰囲気ですけど」

 

「それを伝えたかったのに通信に出ないし!すっごい心配したんだからね!?」

 

なんか、帰ってから早々にしこたま怒られたでゴザル。

 

えぇ、なんでぇ……?おじさん頑張ったのになんでぇ……?

 

まぁ、連絡付かねぇってなったらそりゃ心配するけどさ。

俺だって滅茶苦茶心配しますよ?なんなら即探しに行くし警察に届け出ます。

 

「取り敢えず、この子の事頼んで良いか?ナノマシンで多分身体ボロボロだろうから」

 

「え、あ、うん分かった。クーちゃん、この子の事秘密基地に連れてって医療用ポッドに入れてあげて。あとナノマシンを破壊するナノマシンの投与ね。それ以外はお父さんに投与したナノマシンと同じで良いかな」

 

「分かりました。それでは」

 

そうクロエに指示を出すと、頷いたクロエはマドカを担いで月面秘密基地に帰って行った。

 

「それで、今何が起きてる?」

 

「シュヴァルツェア・ハーゼの皆がやられた」

 

「は?」

 

余りの衝撃的過ぎる言葉に、素で返してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず説明するね。シルバリオ・ゴスペル迎撃に向かった後に一度は取り囲んで数の差でどうにか撃墜したの。ただ、搭乗者居るかどうか分からなかったからその確認のために近づいた瞬間、ドカン」

 

「大丈夫だったのか?」

 

「咄嗟に回避したお陰でその時はね」

 

「ってことは……」

 

「うん、報告があって機体の形状が大きく変化してたから多分セカンド・シフトしたんだと思う」

 

「軍用機が、セカンド・シフトかよ……」

 

「それからは足止めが精一杯。と言うか足止め出来ただけ凄いよ、シュヴァルツェア・ハーゼの皆は。クラリッサが応援に入ってからは幾らかマシになったけど、広域殲滅型の名に恥じない火力で全員やられた。今は全員医療ポッドに入れてる」

 

第三世代軍用ISってだけでもやべぇのにそれがセカンド・シフトしたと。

ヤバイなんてレベルじゃない。

 

セカンド・シフトってのは早い話が進化みたいなもんだ。

ぶっちゃけこれに関しちゃ実例が世界でたったの数例だけだから分からないことだらけ。俺も分からん。

 

まぁ、ざっくり説明すると、セカンド・シフトした機体は世代が最低でも一世代は上がる。

ってことはだ。

 

第三世代機がそうなった場合、第四世代機相当になる。

 

問題なのは、この第四世代機ってのはそもそも構想止まりの卓上の空論ってことだ。

展開装甲がなんたらかんたらってらしいけど、さっぱりだ。

 

うーん、説明するのがムズイな……

 

今までの第三世代機までがそれぞれの役割に特化している機体、例えば近接特化、遠距離特化、防御特化、攻撃特化みたいな感じであったり、セシリアのパッケージ換装によってその戦術用途を変える事が出来る機体だとすると。

 

第四世代機は、パッケージ換装などを必要とせずにありとあらゆる役割をこなせる、所謂マルチロール機、って感じか?

イメージしやすくすると戦闘機だな。

 

一番有名そうなのは、F‐22とか。

 

 

ぶっちゃけISにおける第四世代機って設計すらされてないようなレベルの代物だったんだけど。

なにせ、今までセカンド・シフトした機体は全部第二世代機か、第一世代機の改修型の一.五世代機。

 

それを考えるとどれだけ高くても第三世代機止まりだった。

その時は第三世代機の方も六割ぐらい完成してたからそこまで驚きは無かった。

 

セカンド・シフトした機体を元に第三世代機を再設計したりした例もあるぐらいだし。

 

 

だがこれが、第四世代機になると別次元の話になってくる。

さっきも言った通り第四世代機は卓上の空論でそもそも設計構想すら何となく、って感じ。

 

ただでさえそんなんなのに、それが通常の機体では無く軍用機ともなるとその性能は計り知れない。

しかも暴走状態って言う条件も加わるのだから更に絶望的だ。

 

多分、第三世代機で袋叩きにしようとしても、負けるかもしれない。

第三世代機を使用しているのは、何処の国もまだ十五、十六の嬢ちゃん達。

 

第二世代機を扱うモンド・グロッソ出場経験がある様な、モンド・グロッソに出場するために国家代表の座を掛けた選抜試合を潜り抜けてきた猛者達と違って本物の試合ってのを体験したことが無い少女諸君だ。

 

代表候補生になるための選抜試験は国家代表になるための選抜試験と比べると生温いらしい。

 

他ならぬ千冬から聞いた事だから事実なんだろう。

 

そんな激戦を潜り抜けたならまだしも、まだまだ強さだけなら半人前も良い所の高校生が軍用機相手に戦えるか?

 

答えは否。

 

どれだけ優秀な機体を、数を揃えたとしても負ける。

なんなら手出しすらできないかもしれない。

 

 

国家代表達だって、かなり厳しい戦いを強いられるだろう。

早々に勝てる相手じゃない。

 

そんな存在なのだ、第四世代軍用ISってのは。

 

 

 

 

 

 

説明を聞いた後、不思議に思った。

 

シュヴァルツェア・ハーゼが負けたんなら、シルバリオ・ゴスペルが何故ここを襲わないのか?

 

そうなると恐らくは、シュヴァルツェア・ハーゼに代わって誰かが足止めしてる。

嫌な予想が頭をよぎるが杞憂であってほしい。

 

「で、今シルバリオ・ゴスペルを足止めしてんのは誰だ?」

 

「ちーちゃんと、いっちゃん達だよ」

 

多分、今までの人生で俺の中で一番最悪な予想が的中した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









途中の並列思考の例え、元ネタはあれ作者がレポート提出の時にガチでやったことがあります。
結果、クソみたいな戦績に嘆きクソみたいなレポートを出したことによって再提出を食らいました。

並列思考なんて出来ないんや!



皆はちゃんとゲームと課題は別々でやろうな!
じゃないと碌な事になんねぇから!










最後にあまり言いたくないのですが、他の投稿作品を投稿したときに感想書いてくれるのは嬉しいんですけどこの作品の投稿を催促するような事は、出来ればお書きにならないで頂きたいのです。


まぁ、ぶっちゃけてしまうと作者にも波と言うか、ペースってもんがありましてですね。
催促されても文才がある作者じゃない訳でそうホイホイ書けないのが実情なんですよ。

しかも作者の場合、最低でも2つの作品を同時に執筆を進めるぶっちゃけ非効率極まりない執筆方法をするタイプなんで尚更なんですよね。

筆が乗っちゃえば、まぁ速いんですけどね……
そこまで行くのがまぁ、何と言うか時間掛かる……

しかも、無理してまで書いたものなんて、出来の高が知れるもんです。
それなら時間掛けようとも良いのを書きたいし読んでもらいたいじゃないですか。

いやまぁ、どの口が言ってんだっていたい気持ちも分かります。
分かりますけどそこはちょっと我慢して頂きたいのです。

感想書いて下さるのは滅茶苦茶嬉しいんですよ?
何せ感想を何度も読み返す具合には楽しみにしていますし、なんなら催促するぐらい感想書いて欲しいし。

もし不快になられた方がいらっしゃったら申し訳ありません。

これにて後書きを終いにさせて頂きます。














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クソッタレのシルバリオ・ゴスペルに報いを!








書ける時にバンバン書いちゃう作者なのでした。













 

 

 

 

 

 

 

確かに千冬が居ないな、とは思っていた。

確かにいざってときは千冬が、と決まっていたし恐らくそうなんじゃないかと思っていた。

 

だけどまさか一夏達まで出ているとは……

 

それだけ、状況が逼迫しているという事だろう。

現状、ISの性能だけを見れば第三世代機を所持している一夏、セシリア、鈴の三人が最高戦力であることは間違いない。

 

力量は、お察しの通りだが……

 

兎に角、今は一人でも多く戦える人間が欲しい状況ってことなんだろう。

専用機とはいえ第二世代機のシャルロットまで駆り出されている時点で相当ヤバイ。

 

「今の所、ちーちゃんが前線を張ってるお陰で持ち堪えてる。それ以外の子はひたすら支援に回ってるけど倒す事は出来ないと思う」

 

「だろうよ。ブランクがある千冬じゃ荷が重い。それに一夏達のお守も加わってるんだから寧ろ持ち堪えてるだけスゲェさ」

 

「おじさん、今すぐ出られる?」

 

「当たりめぇだろ、何のために打鉄の準備進めてると思ってんだ」

 

「それもそうだね。それじゃ準備が終わるまで待ってて。あと十分もあれば終わるから」

 

そう束は言って、打鉄の準備を進めていく。

もう今更だけどこの打鉄、ほぼほぼ俺の専用機みたいな感じになって来てるよな。

 

入学してからずっとこの打鉄使っててVTシステムの時もそれ以降もずっとこいつに世話んなってる。

そうくると愛着が湧くってもんよ。

 

ま、今回も無茶させっけど頼むぜ。

 

それに、今回ばかりは殴り合いだけに留めてたらただじゃぁ済まんだろうからちったぁ本気出してやるかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十分後。

 

「準備出来たよ」

 

俺を呼びに来た束にそう言われて打鉄を纏う。

 

「そんじゃ行ってくる」

 

「絶対に死んだら駄目だからね?」

 

「分かってる」

 

束に念を押された。

まぁ、VTシステムの時もそうだけど生きてりゃ束が多臓器不全だろうが四肢欠損だろうが何とかしてくれるだろうから安心して戦う事は出来る。

いや流石の俺でもそれは避けたいんだけどさ、覚悟しとかないといけない事ではあるだろう。

 

打鉄のブースターを吹かして千冬達の元に向かう。

 

 

 

 

 

暫くすると、遠くの方で閃光が迸っているのが見えた。

多分、千冬達がシルバリオ・ゴスペルと戦っているのだろう。

 

しかし、随分と派手にやっていやがるねぇ。

幾つもの爆炎が同時に、もしくは数舜程度のタイムラグの後に光る。

 

「おーおー、やってんじゃないの!」

 

ハイパーセンサーで見てみると、千冬を前衛に一夏がその支援、中衛に鈴とシャルロットが、後衛にセシリアが就いている。

 

パッと見た感じだとバランスが整った構成だが、はっきり言って一夏達が千冬に付いていけていない。

やっぱり経験の差ってのもあるんだろうが、地の能力が圧倒的に足りていない。

千冬は教職に就いてからその実力が鈍っているとはいえ、それでも初代ブリュンヒルデ、はっきり言って一番激戦だった世代、黄金世代とでも言えば良いのだろうか、その頂点だ。

 

幾ら本人も鈍ったとは言っているが、やはり他者を寄せ付けない実力はある。

でなきゃセカンドシフトした第三世代軍用IS、実質第四世代相当の機体性能がある軍用ISを第二世代機の打鉄で食い止めるとか、渡り合うとか国家代表だろうが普通出来る芸当じゃぁない。

しかも剣一本だけで、となるとこの世界で出来るのは千冬ぐらいだろう。

 

ただ、千冬の顔も相当追い込まれているのかギリギリ、と言うか切羽詰まった表情だ。

一夏も必死になって援護しようとするが、千冬とシルバリオ・ゴスペルの攻防に付いて行くので精一杯、なんなら置いて行かれてすらいる。

 

中衛後衛の三人に至ってはそもそもの役割を果たせていない。

そりゃ、えげつない速度で行われている攻防に手を出そうものなら、千冬に攻撃を当ててしまう可能性すらあるし、なんならシルバリオ・ゴスペルのヘイトを集めて手痛い竹箆返しを食らう可能性だって大いにある。

 

そうなったら接近戦が出来る鈴ならまだしも、セシリアとシャルロットの二人はどうなるか分からない。

鈴だって無事じゃぁ、済まないだろうさ。

 

 

兎に角、さっさと千冬とシルバリオ・ゴスペルの間に割り込んでやろうか!

 

 

 

 

一度、高度を取って千冬とシルバリオ・ゴスペルの上を取る。

 

「千冬!合図で一気にセシリアの所まで退け!」

 

「兄さん!?」

 

「良いな!?」

 

「っ!あ、あぁ!」

 

千冬にそう伝えて、タイミングを計る。

すると、一瞬シルバリオ・ゴスペルが退く動きを見せた。

 

その瞬間に合図を出す。

 

「今!」

 

「ッ!!」

 

千冬が一気にブースターを吹かせて退く。

合図を出したと同時に急降下、シルバリオ・ゴスペルのブースターを狙って葵を振る。

 

「ダァラッシャァ!!」

 

一瞬の擦れ違いの間に両手に持っている葵二本で背部の八つある内の二つのブースターを無理矢理ぶっ壊す。

 

「ハッハァッ!!ザマァ見やがれ木偶の坊!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「一夏ァ!お前も一旦退け!」

 

「でも!」

 

「五月蠅ェ!さっさと退けバカタレ!」

 

一夏を千冬共々セシリアの所まで退かせると、シルバリオ・ゴスペルの目標が俺に代わる。

そら自分に手傷を負わせたんだ、逃げていく奴よりも優先するだろう。

あれは人間が操っている訳じゃない。

 

ISコアと言う、一種の人工知能の暴走によって動いている訳だ。

そうなると、単純な脅威度によって敵を判別している可能性が高い。

 

見た感じ、千冬が与えられた手傷は恐らく装甲に付いているデカい裂傷だけ。

簡単に言えば初撃での一撃のみってことになる。

 

千冬は、何度も言うが短期決戦型、もっと言えば一撃で敵を仕留める事が一番得意だ。

高機動広域殲滅型の名を持つ、近距離と中距離で一番の攻撃力を発揮する相手じゃぁ、分が悪すぎる。

それでも今の今まで二世代もの差を自身の力量のみで凌いでいたというのだから鈍ったとは言うものの、凄まじいの一言に尽きる。

 

 

まぁ、話を戻すとだ。

シルバリオ・ゴスペルの目標が俺に代わったってこった。

 

脅威度に換算すれば、装甲に裂傷を与えた千冬よりもブースター二つを持って行った俺の方が絶対的に脅威度が高いと判断するだろう。

 

しかも高機動が売りなのだから、単純計算で10割中その内の2.5割の機動力を失ったと考えれば、相当だ。

 

どれほどの速度と機動力なのか分からないが小さくない程の被害。

 

「おうおう!血気盛んなこったなぁ!?」

 

余程、頭に来たらしいのかエネルギー弾を滅茶苦茶に放ってくる。

見た感じ、あの推進用のブースターは攻撃用と併用らしい。

 

『兄さん!』

 

「あぁ!?」

 

『どうしてここに!?』

 

「お前達がピンチだって言うからに決まってんだろ!」

 

『だけど連戦ってことだろう!?それなら私が!』

 

「馬鹿野郎!兄貴の事を信用出来ねぇってのか!?」

 

『そう言う訳じゃない!でもそいつは!』

 

「知ってるよ!セカンドシフトしたことも!多分第四世代機相当だって事もなァ!」

 

『ならなんで!』

 

「兄貴ってのが何で一番に生まれたか知ってるか!?何で存在しているのか知ってるか!?」

 

『はぁ!?何を急に!』

 

「答えはな!」

 

 

 

 

 

「妹弟を守るためにいるんだよ!」

 

 

 

 

 

「お前達をこんな戦場に出しちまって今更だがそう言うもんなんだよ!兄貴ってのは!特に俺はな!」

 

そう言いきってから、通信を一方的に切る。

 

 

シルバリオ・ゴスペルの猛攻を防ぐ。

エネルギー弾を剣で無理矢理弾いては逸らす。

 

それを幾度と無く続ける。

 

「やっぱしこっちから攻撃は出来ねぇなぁ!」

 

思わずそう叫ぶ。

やっぱし、近距離特化、それも殴る事を一番得意としている俺だと、自分と同じ実力、もしくは格上相手だと防戦一方になる。

 

マドカみたいに持久戦をやっても良いんだが、そうなると千冬達に被害が行くかもしれない。

となると、持久戦は無し。

 

だけど俺では遠距離武装が無いしあったとしても扱えない。

となれば。

 

肉を切らせて骨を断つ作戦を実行するしかねぇよなぁ!?

 

そう思い立った瞬間、今まで逃げ回っていた面影はどこへやら。

 

シルバリオ・ゴスペルに向かって瞬時加速を使って思いっ切り突っ込んだ。

 

「こんにちはってなぁ!」

 

切り掛かると、シルバリオ・ゴスペルは俺から距離を取ろうとするが遅い。

その瞬間にもう一度瞬時加速を行って更に距離を詰めると右肩の辺りから左の腰に向かって袈裟懸けをする。

 

本当は殴ったり蹴ったりで戦いたいんだが、こんな状況で更に自分を不利にする必要は無いだろうさ。

 

袈裟懸けを右手の剣でやると同時に回し蹴りを一発、勢いそのままに叩き込む。

多分、サマーソルトキックみたいになっているがまぁいい。

 

続いて左手に持っている剣で横一文字に左から切りつける。

 

流石にここまでくるとスラスターを吹かして逃げる。

四撃目を与える事は出来なかったが、これで随分と怒らせる事だけは出来たらしい。

 

完全に俺だけをロックオンしていやがる。

 

 

 

「そんじゃまぁお付き合い頂きましょうかねぇ!?フロイライン!」

 

さぁ、楽しい楽しい時間の始まりだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 千冬 ----

 

 

 

 

 

 

 

シュヴァルツェア・ハーゼがやられた。

幸いにも、全員命に関わる様な大事には至っていないのがせめてもの救いだろう。

 

だがこれで、シルバリオ・ゴスペルを足止めする人間が誰一人として居なくなった。

 

「私の出番、という事か」

 

「うん、そうだね。じゃないとおじさんが挟まれちゃう」

 

隣にいた束と、そう話す。

束の声色は、真面目そのもの。

普段ならもっとふざけているような感じなのに何時に無く真剣で切羽詰まっている感じだ。

 

多分、最後にこの声を聞いたのは高校生の時だ。

ISがまだ開発中の時で、私と兄さんに語っていた時のこと。

あの時は切羽詰まっている感じでは無く、自分の夢を語る熱さがあったがな。

 

束がそんな声を出して、真面目な顔をすると言うことは余程追い込まれている状況という事だ。

 

「取り敢えず、現状のシルバリオ・ゴスペルに付いて説明するね。多分、セカンド・シフトしてる」

 

「はっ、冗談は止せ。そんなことを言っている場合じゃ無いだろう」

 

束の言葉が信じられず思わずそう返した。

セカンドシフトだと?

 

あれは、搭乗者とISコアの結びつきが深くなければ出来ない。

暴走状態のISが出来る様な事じゃない。

 

それを、暴走状態のISが、しかも第三世代軍用ISがだと?

 

そんなもの信じられる訳があるか。

 

「冗談でも何でもないよ。流石の私だって時と場合ぐらい弁えるってば」

 

「今までの行いを省みるんだな。……それで、もしそれが本当だとしたら、どうなる?」

 

「多分、第四世代機相当の性能になってる」

 

「ハッ、第三世代と言うだけでも厄介なのに第四世代だと?」

 

「うん。正直言って、ちーちゃんでも多分凌ぐので精一杯だと思う」

 

束がそう言うが、当然だ。

なにせ、普段私達が使っている打鉄やラファールはリミッターが掛けられた状態の、所謂試合用だ。

 

リミッター無しの、純粋に軍用として開発されたISと比べるとその性能差は同世代機だとしても大きな差がある。

私は打鉄を使うが、それでも一世代分の性能差があるのだ。

 

まだ一世代なら、幾ら腕が鈍ったとはいえ技量で何とかなるかもしれない。

 

だが第四世代機、それも軍用ともなれば無理がある。

ただでさえ性能差に開きがあるのに第四世代ともなったら想像を絶するほどの開きが出来てしまう。

まだ、試合用ならやり様があったかもしれない。

 

だが軍用は無理だ。倒せない。

断言出来る。

 

「おじさんにも連絡しようとしてるけど、全然繋がらないんだ。多分、余裕が無いんだと思う」

 

兄さんの相手も、遠距離特化型だから相性としては最悪。

攻めあぐねて決定打に欠けているのかもしれない。

 

そんな状況の兄さんの元にシルバリオ・ゴスペルを向かわせたらどうなるか目に見えている。

 

それがまだ格下ならば勝てるだろうけれど、兄さんと同格かそれ以上の相手となったら幾ら兄さんとはいえ、ニ対一ではやられてしまうだろう。

 

「分かった。予定通り私が出よう。一応、後の事は山田先生に任せるから頼むぞ」

 

「うん。打鉄の一機をちーちゃん用に調整しといたからさ」

 

「ありがとう。……ん?おいまて、私はそんな許可出していないぞ」

 

「……えー、まぁ、その非常事態ってことで許してください……」

 

「はぁ……後でちゃんと後始末だけはしてもらうからな」

 

「りょーかいです」

 

「なら今すぐにでも出る。出来るだけ此処にも兄さんにも近付けたくない」

 

「そう言うと思った。とっくに準備は終わってるから何時でも行けるよ」

 

束のその言葉通り、打鉄の一機が私用に調整された状態で待機していた。

全く、この短時間で私専用に調整するなんてな。

 

普通なら数週間の時間を掛けて個人のデータ収集を行って漸くと言うのに。

流石は天災とでもいうべきか。

 

「いっちゃん達は連れて行かないの?」

 

「連れて行けるわけあるか。精々ひよっこの一夏達じゃどうやったって手も足も出んだろうさ。それに、生徒を守るのは教師の務めだ。なに、毎回毎回兄さんにばかりカッコつけさせられん」

 

そう言ってニヤリ、と意識して笑うと束も笑った。

 

「それじゃぁ、行ってくる。生徒達を頼んだぞ」

 

「まっかせてよ!」

 

そう、最後に言葉を交わして飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、シルバリオ・ゴスペルと会敵して戦闘状態に入った。

やはり予想通り強い。

しかも高機動広域殲滅型と言うだけあって相性が最悪だ。

 

私はたったの一度、会敵したときにしか攻撃を当てられていないのにあいつ、中距離からエネルギー弾をバカみたいに撃ちまくってくる。

お陰で全くと行っていい程に近寄れない。近寄った瞬間に蜂の巣になる。

 

右手に持った打鉄用近接ブレードの葵を必死に振るってエネルギー弾を弾いたりするがそれでも被弾は免れない。

 

このままじゃジリ貧。

 

遠くない内にやられる……!何か打つ手は無いものか!

 

 

 

 

 

 

必死にシルバリオ・ゴスペルからの攻撃を凌いで躱し続けていると束からの通信が入った。

 

『ちーちゃん!』

 

「なんだ!耳元で大声を出すな!こっちは大忙しなんだぞ!」

 

『いっちゃん達がちーちゃん追い掛けて出てっちゃった!』

 

「はぁ!?おま、お前どうして止めなかった!?」

 

『止めたに決まってんじゃん!だけど静止を振り切って行っちゃったんだよ!ちーちゃんだけじゃ荷が重いからって言ってさ!それにおじさんの為に、友達を守らないとって!』

 

「あの馬鹿小娘共め……!今どこにいる!?」

 

『ちーちゃんから五十四km離れたところ!四人ともかなり飛ばしてるからもうすぐ着いちゃうよ!』

 

束がそう言った。

事実、レーダーには確かに四機分の機影が映っていた。

 

あの小娘共、無事に帰れたらただじゃ済まさんからな!待機命令無視、独断での出撃。夏休み中反省させてやる。

 

『千冬姉!』

 

「大馬鹿者!どうして来たんだ!ここはお前達が知っているアリーナでの試合じゃなくて本物の命を懸けた戦場なんだぞ!?」

 

『それでも!前のお兄ちゃんみたいにただ見てるだけは嫌だ!何時も助けて貰ってばかりなのも!』

 

そう大声で叫ぶ一夏は、聞き分けの無い子供のようだった。

でも、確かにVTシステムの時、兄さんがボロボロになっていくのを私達は何も出来ずにただ見て居る事しか出来なかった。

 

あの時のくやしさは私だって覚えているし、一夏の取り乱し方も尋常じゃなかった。恐らく一夏の中であの出来事は相当トラウマと言うか、大きく引っ掛かっている出来事なのだろう。

 

どちらにせよ、一夏達を帰らせようにも遅い。

シルバリオ・ゴスペルが一夏達を脅威として認識したのか攻撃を加え始めた。

 

「えぇいクソ!良いかお前達!兎に角攻撃を回避する事に集中しろ!一撃でもまともに食らったらSEを持ってかれるからな!無茶をして攻撃を加えようなんて思うんじゃないぞ!」

 

『『『『はいッ!』』』』

 

四人はあらかじめ決めていたのか、オルコットを後衛に、中衛を鳳とデュノアを置いて一夏を前衛に出して来る。

 

確かにバランスが良いのかもしれないが、シルバリオ・ゴスペル相手では通じないだろう。

 

前衛の一夏が私を援護しようとするがそもそも私とシルバリオ・ゴスペルの戦闘速度に付いてくる事も危うい。こんなでは到底戦闘に参加するなんて出来る訳が無い。

中衛と後衛の三人もどうにか援護しようとするが、照準が付けられていない。

 

三人は早々に援護射撃を行う事を諦めてはいないものの、鳴りを潜めた。

 

だが、それでいい。

下手に撃ってヘイトを集めるよりもいいし何よりも私を誤射する可能性が高い。

代表候補生とは言えその判断は正しい。

 

シルバリオ・ゴスペルも四人の脅威度は低い、若しくは無いと判断したのか無視を決め込んでいる。

 

ともかく、これでいい。

さて、どうしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千冬!合図で一気にセシリアの所まで退け!」

 

「兄さん!?」

 

「良いな!?」

 

「っ!あ、あぁ!」

 

唐突に兄さんの声が響き渡る。

その指示に、殆ど反射的に従う事を決めて合図を待つ。

 

「今!」

 

「ッ!!」

 

合図が出た瞬間一気にブースターを吹かせて退く。

 

「ダァラッシャァ!!」

 

兄さんはそのまま急降下で一撃を加え、ブースターを二つも破壊する。

今の今まで私が攻めあぐねて、攻撃を加える事すら出来なかった相手に奇襲、いや強襲か?とはいえかなりの損害を出させたのだ。

 

流石としか言いようがない。

やはり、毎日鍛錬していた成果が出ているのだろうか。

 

IS学園に入学してからは、暇な時間が特に多くなったからか鍛錬に費やす時間が大きく増えている。

何しろ、会社は退職という名のクビだし、やる事と言えば学生の時の座学の記憶を引っ張り出して勉強をするか、運動するぐらい。

 

元々、兄さんは頭が悪い訳じゃない。

学生の時にやらなさ過ぎたと言うだけで、それも束とISを開発する時に小学校の勉強から教わり直した為にそれなりに出来る。

 

IS学園は、一般教養科目、世間一般で言う所の数学や現代文、日本史などは午後の二時間分しか存在しない。

 

一応、入学をする為に要求される一般教養科目の最底偏差値は60。

これは普通の学校と比較しても相当上位の学校だ。

 

それに加えてISにおける基礎知識と幾らかの応用も必要となってくる為に総合の偏差値は70を超える。

県内で一番優秀な高校でも届く高校がどれほどあるか分からない。

 

まぁ、IS学園は国内屈指の難関校と言われてはいる。

そもそも受験倍率がおかしい。

 

こっちは四クラス分、160人しか採用しないと言うのに全国合わせて受験者は5万人を超える。倍率にして312倍。

とんでもない数字だ。

 

それの上位160名が入学出来るのだ。

 

まぁ、その殆どが技術職に進むのだが。

ともかく、実技こそあれど一年生の内はやはり座学が中心となってくる。

 

二年生になれば、整備課程に進んだ者は一日六時間授業の五時間を整備の実技や座学になって休日も格納庫に籠って整備をする生徒が殆どだ。

 

なにせ、企業や国家に就職するにはそれぐらいしないとならない。

なにせ、女尊男卑思想があちらこちらに蔓延っているとは言ってもやはり技術職などにおいても男性が占める割合が多い。

 

元々技術職に就いていた人が現在はその屋台骨を支えているのだ。

だと言うのに、馬鹿な奴らはそんな職場から男性全員を排除しろと言う。

 

そうなったら多分、回らなくなる。

女性の割合が多くなったとしてもだ。

 

武装や装甲などの部品製造に関しても男性が絶対的に多い。

 

それを考えると、その中で生き残るにはそれぐらい努力をしなければ技術職に進むには生き残れないという事だ。

 

 

 

その点、操縦者課程に進んだ人間はまだ楽だ、と言えるだろう。

六時間授業の四時間を操縦実習に振り分けている。そして残りの二時間は一般教養科目とIS専門科目を、と言う訳だ。

休日になると、アリーナを貸し切っての練習。

 

まぁ、肉体的負荷はこちらの方が大きい。

 

それでもまだまだ生温い。

実際に卒業してから国家代表を目指すとなるとこれ以上。

 

まぁ、テストパイロットはそこまででは無いのだが。

 

 

 

ともかく、話を戻すと兄さんは操縦者課程に進むことが決定している。

これも仕方が無いと言えば仕方が無い。

 

世界でただ一人の男性操縦者を技術職に進ませられない、と言う訳だ。

申請を出せば優先的に機体を回してもらえると言うのに兄さんは申請を出さない。

 

兄さんは、

 

「俺なんざ態々そこまでしてやる必要は無ェよ。それなら少女諸君に少しでも機会を与えてやった方が絶対に良い」

 

という事らしい。

 

そうなると、放課後の空いた時間の殆どを自身の鍛錬に費やすという事だ。

偶に一夏達に付き合ってアリーナで試合をしているらしいがそれも少ない。

 

基本兄さんは午後八時ぐらいに夕食を食べるからその二十分前ぐらいまでは延々と鍛錬をしている。

 

兄さんは男だから風呂に入る時間が驚くほど速い。

 

「風呂?あぁ、まぁ本気出せば五分で済ませられる」

 

とは本人談。

何時もは十分程度で終わらせる。

 

と言うか、IS学園の寮には大浴場があるのだが兄さんは使えないし部屋に備え付けの浴室はシャワーだけ。

それでも私ですら二十分は浴びると言うのに。

 

一度、中学生ぐらい頃に本当にちゃんと洗っているのか疑問で仕方が無かったので監視したことがあるが、アレは確かに洗えていた。

と言うかあれだけ速く洗っているのに不思議だ。

 

こうなったのも、私達が理由だ。

小さい頃の私達の面倒を出来るだけ見る為に、自分の事はさっさと終わらせて私達の事に取り掛かると言う訳だ。

 

 

IS学園入学移行、毎日三時間半ほどを鍛錬に費やしているのだから実力は伸びるに決まってる。

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハァッ!!ザマァ見やがれ木偶の坊!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「一夏ァ!お前も一旦退け!」

 

「でも!」

 

「五月蠅ェ!さっさと退けバカタレ!」

 

一夏を連れて退こうとするが、一夏は抵抗して残ろうとする。

それを兄さんは怒鳴る。

 

怯んだ一夏の隙を突いて無理矢理鳳の所まで退く。

 

「おい!お前達もオルコットのところまで退くぞ!」

 

「でも佐々木さんを援護しなくて良いんですか!?」

 

「良く見ろ、あれはもうお前達が手出し出来るレベルの戦いじゃない!私だって足手纏いに成り兼ねないんだ!ここで邪魔になるよりも退いた方が兄さんの為だ!」

 

デュノアが叫ぶがそれを抑えて引き連れていく。

こいつもこいつで中々に兄さんに入れ込んでいるらしく、あの一件以来兄さんを見る目が女の目だ。と言うかもう狙ってる。

 

 

 

 

「兄さん!」

 

『あぁ!?』

 

「どうしてここに!?」

 

『お前達がピンチだって言うからに決まってんだろ!』

 

「だけど連戦ってことだろう!?それなら私が!」

 

『馬鹿野郎!兄貴の事を信用出来ねぇってのか!?』

 

「そう言う訳じゃない!でもそいつは!」

 

『知ってるよ!セカンドシフトしたことも!多分第四世代機相当だって事もなァ!』

 

「ならなんで!」

 

『兄貴ってのが何で一番に生まれたか知ってるか!?何で存在しているのか知ってるか!?』

 

「はぁ!?何を急に!」

 

『答えはな!』

 

 

 

 

 

「妹弟を守るためにいるんだよ!」

 

 

 

 

 

『お前達をこんな戦場に出しちまって今更だがそう言うもんなんだよ!兄貴ってのは!特に俺はな!』

 

そう言いきってから、兄さんは通信を一方的に切った。

 

やはり、兄さんは兄さんだ。

何時までも変わらない。

 

私達の為となったらどんな状況だろうが、絶対に駆け付けてくれる。

それがとても誇らしい。

 

だけど同時にとても悔しく思う。

兄さんの隣に立てない事が辛い。

守って貰ってばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

兄さんとシルバリオ・ゴスペルの戦いは私と戦っていた時よりも数段速い。

束の手によって兄さん専用に調整されているとはいえ私と同じ打鉄で、シルバリオ・ゴスペルの全速に付いて行って渡り合うなんて芸当はこの世界全てを探しても兄さんだけだと断言できる。

 

「あの、洋介さんって素手の方が強いんじゃ……」

 

「ん?あぁ、お前達は知らないのか」

 

オルコットの所まで退いて見守っていると鳳がそんな疑問をぶつけてきた。

確かにその疑問を持つのはおかしい訳じゃない。

 

兄さんの今までの戦い方を見ていればどうしても素手での殴り合いが一番強いと思うだろう。だがそれは大間違いだ。

 

「兄さんは別に剣術が苦手と言う訳では無いぞ。寧ろ、素手での殴り合いと同等かその次ぐらいに得意だ」

 

「ならなんで普段使わないんですか?」

 

「私と一夏を含めて篠ノ之が修めている篠ノ之流剣道はな、大本を辿ると戦国時代なんかで使われていた合戦剣術なんだ。兄さんが使っているのは、その流派の中にある無手の型と言われるものだ。これは刀を失った時に刀を持った相手と戦える為のものだ」

 

「それがどう繋がるんですか?」

 

「この無手の型を修めるに当たって兄さんは、篠ノ之流剣術、合戦剣術と言う実戦の為の剣術の基礎を修めているんだ。私達の師匠曰く、兄さんはどうやら教えられてやるよりも実際にやった方が身に付くタイプらしくてな。習い始めた頃から師範相手にボコボコにされていたのをよく覚えている」

 

師範は、普段は優しいが練習ともなると人が変わったように厳しくなる。

私だって何度泣いた事か。

 

兄さんはそれを更にずっと厳しくしたものを受けていたのだから凄い。

そして仕事によって辞めるまで一度も休んだことはなかったし必死に食らいついていた。

 

「兄さんが剣術を使わない理由としては、基礎しか修めていなくてそれ以降は無手の型ばかりであとは我流なんだ。兄さんは『篠ノ之流剣術の基礎しか修めて居なくて使うと我流だってことがすぐにバレる。そうなると篠ノ之流剣術の名前を貶めるかもしれないから』と言って使いたがらないんだ」

 

「ってことは……」

 

「あぁ、今回はそれを使わなければならない程の状況だって事だ。いいか?普段私やお前達が見ている兄さんの強さは確かなものだ。私よりもずっと強い。そんな兄さんが本気にならなければならない程の相手だ、私ですらあんなザマだったのにお前たちが行っても、最悪死ぬだけだ」

 

恐らく今回の兄さんは本気モードだ。

という事は敵がそれほど強いという事に他ならない。

 

そんな相手に私達は突っ込んで行っても兄さんの邪魔をするだけ。

最悪、私達のカバーをした兄さんがやられる。

 

ならここで見守っていた方がずっと良い。

 

 

 

 

情けない、頼りない妹で済まないが怪我だけはしてくれるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結構な時間、シルバリオ・ゴスペルに突貫して接近戦を挑んでいるからかやつのエネルギー弾を封殺と言う訳では無いけど、どうにか撃たせていない状態だ。

 

そりゃ接近戦で切り合っている相手にエネルギー弾叩き込もうとしたら自分も巻き込まれるからな。

必然的にシルバリオ・ゴスペルだって斬り合いをしなくちゃならなくなる。

 

「さっきの勢いはどうしたァ!?元気無ェぜ!?」

 

合戦剣術ってのは、斬るだけじゃなくて殴る、蹴る、突く、時には投げ技までも使用するもんだ。

だから普通に回し蹴り食らわせるし、剣を握ったまま思いっ切りぶん殴りもする。

まぁ空中戦だから投げ技使うかって聞かれるとアレなんだけどさ。

 

シルバリオ・ゴスペルも近接武器があるのかブレードを持ち出して斬り合いをする。

ブレードと言っても短刀ぐらいの長さのもので、多分一応念のために程度の代物だろう。

 

 

 

「接近戦に持ち込まれた時点でお前の負けなんだよ!」

 

 

 

 

高機動広域殲滅型と言う名の通り近距離での斬り合いを目的とした機体じゃぁない。

そんな奴が、斬り合いするなんざ自分の長所を自分で丸っきり潰したようなもんだ。

 

この場合、俺から距離を取るのが正解だ。

なにせ中遠距離に徹すれば削れるからだ。だがこいつはどういう訳かブレードで応戦してきた。

多分、咄嗟の行動だったんだろう。

 

普通ならAIだと考えても一番の最適解に沿って行動すると思うんだがまぁ、暴走状態という事だからか?

どちらにせよ、やり様はある。

 

最適解に沿って行動すると言うのならそこんい漬け込む隙がある筈だからだ。

最適解という事は、敵が対応出来ないのではないか、出来ないであろうという先入観を与える。

それがあくまでもただのAIならばその時その時で対応してくるのだろうが、高度なAIになればなるほど人間との思考にそう大差は無くなってくる。

 

特に、ISコアと言うのは自律成長型AIとでも言えるほど、既存のAI全てを置き去りにするぐらい高性能なAIだ。

しかも束曰く、

 

「ISコアには、コアそれぞれに一つ一つ違った意識があって、性格趣味嗜好がまるっきり違うんだ。いうなれば、人間そのものと言っても差し支えないだろうね」

 

との事だ。

コアが造られた時を赤ん坊だと例えるならば、それなりに時間が経っている今はとっくに大人に分類されるだろう。

 

そうなると、幾らAIだとしても最適解の裏を突かれたりすれば、人間の思考感情と変わらなくなっていれば絶対に、戸惑うはず。

 

しかも今回は、シルバリオ・ゴスペルの思考を考えるとすれば多分予想が立てられる。

 

そもそも中遠距離型の自分とは最悪と言っていい程に相性が悪い俺が、まさか被弾をものともせずに突っ込んでくるわけがない、と予想を立てたのだろう。

千冬の時もそうだったのだから、同じ近距離特化の俺もそうである筈、と予想を立てたのだ。

 

だがどういう訳か俺は突っ込んでくるし、世代差があるにも関わらず食らいついてくるどころか付いてくるのだ。

人間だって混乱はしなくとも焦るだろうさ。

 

その焦りが、俺の突撃によって決定的な混乱になったのは言うまでもないだろう。

それが、距離を取ると言う選択肢よりもブレードで応戦すると言う選択を取った。

 

少なくとも、現状においてその判断は一番の誤りだったと断言する。

懐に潜り込まれて、しかも相手の最も得意とする距離間での戦いなんだ、本来なら相手の方が有利な距離間での戦闘は絶対に避けるべき事だ。

それなのに態々選んでくれたんだから、千載一遇のチャンスとしか言えない。

 

それなら一気に畳みかけるべきだ。

 

 

 

 

「オラァ!」

 

短刀と言うか、コンバットナイフみたいなので必死に食らいついてくる。

流石は第四世代軍用ってか。

 

万が一接近されたときの最低限防衛手段という事だ。

本来なら接近される事すら想定していないような機体だが、現場からの意見か何かを取り入れたという事だ。

 

まぁ、そんなもん俺からしたら玩具も良い所なんだけどな。

 

 

「まだまだ防御が甘い!」

 

コンバットナイフで防いだその上から無理矢理力任せに葵を振り抜く。

勢いを殺しきれなかったからか、吹っ飛んで行くシルバリオ・ゴスペル。

 

そのまま距離を取ろうとするがその前に瞬時加速で追いついて攻撃に入る。

思いっ切り腹パンを食らわせたりもするし、膝を顔面に叩き込んでやったりもする。

 

かれこれそんな、斬る殴る蹴るを続けて十分程が経った頃。

 

必死に応戦してきたシルバリオ・ゴスペルが唐突に狙いを変えた。

今までは隙あらば俺にエネルギー弾をぶっ放そうとしていたのに、いきなり背を向けて逃げるのかと思いきや千冬達を狙い始めた。

 

エネルギー弾の弾幕が千冬達に降り注ぐ。

咄嗟の回避で初撃は避けられたものの、二回目でシャルロットが。

三回目でセシリアが。

四回目で一夏と鈴が同時に被弾。

 

千冬は流石と言うべきか、最小限の動きで避けている。

 

 

「おい!大丈夫か!?」

 

『こっちは大丈夫!みんな無事だよ!』

 

「分かった!最悪旅館に戻っても構わねぇからな!」

 

そう言い切った後に、再びシルバリオ・ゴスペルの前に無理矢理踊り出る。

 

「お前の相手は俺だっつってんだろ!俺じゃ不満か!?」

 

そう怒鳴りながら攻撃をすると、その通りだと言わんばかりにエネルギー弾を数発放って距離を取ろうとする。

 

「早とちりすんなや!満足させてやっからよ!」

 

 

 

 

 

第二ラウンドの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 











一応の予告としては、R-18編の続きは作中で夏休みに入ってからかな。
取り敢えず本編をそこまで書き進めてからってことなんで今暫くお待ちをば。R-18編って本編のIfストーリーだからね、仕方ないね。

誰かは秘密。

一応、言っておくとラウラとクロエじゃない。
お前、おじさんは義理とは言え娘には手を出さんだろ……。


と言うか作者の中で書く予定無い。

期待してた読者諸君、すまんな。
許してくれ。何でもするから(何でもするとは言ってない)




追記

なんか、消したはずの文が消えてませんでした。
すいません。










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男は何時でも見栄を張る





うん、まぁ、多分今回か次か次の次ぐらいで終わると思う。
確証無いけど。













 

 

 

 

 

 

 

シルバリオ・ゴスペルの野郎、俺じゃなくて千冬達に狙いを変えやがったもんだから戦いずらいったらありゃしない!

 

「千冬ゥ!こいつお前達に狙いを変えやがった!気ぃ付けろよ!」

 

「分かった!」

 

念の為に千冬達に警告を出しといて、と。

 

「浮気しようなんて考えてんじゃねぇぞ!?」

 

そう怒鳴りながら首を掴んで顔面に二発キツイのをお見舞いしてやる。

まぁ、効いてるかどうか分からんけどもダメージは蓄積してる筈だ。

 

そのまま、首を掴んだまま腹に膝蹴りを一発。

これが生きてる奴ならもうとっくにダウンしててもおかしくないレベルの一撃をボコボコ与えているのに全くヘバる様子が無い。

 

「なんだって俺は生身の人間よりもこう、やりにくい機械ばっか相手してんだろうなァ!?」

 

逃げようと、必死に俺の手を振り解こうと大暴れするシルバリオ・ゴスペルを片手、両手で抑え込みつつ攻撃を加える。

 

「あ、コラ!逃げんじゃねぇ!」

 

無理矢理俺の拘束から逃れたシルバリオ・ゴスペルが俺から離れようとした瞬間、葵を振るって一撃を加えつつ追い掛ける。

瞬時加速のお陰で無理矢理追いつく事が出来た俺は足を鷲掴んでそのままブースターを吹かして逃げようとするのを全力で阻止する。

 

本来、瞬時加速ってのは機体性能、特に加速性能によって発揮出来る速度が大きく変わってくる。

俺の打鉄とシルバリオ・ゴスペルの機体性能差じゃ、どうやったって加速性能差が開きすぎている。

 

どうして追いつけているのか、と言う疑問について答えるとすればそんなのは簡単だ。

シルバリオ・ゴスペルに加速性能差で距離を開けられる前に俺が瞬時加速で追いついているからというだけ。

 

もっと簡単に言えば逃げられる前に追いついてやれ、というこった。

そうすりゃ逃げられなくて済むだろ?

 

 

 

そんな訳で足を鷲掴んで引き摺られるみたいな恰好でシルバリオ・ゴスペルのブースターを葵を使って一つぶっ壊す。

 

するとどうだ、奴さんはエネルギー弾を現時点で出せる最大火力を撃とうなんてしてるじゃねぇか。

 

「こりゃやべぇ!?」

 

流石に不味いと本能的に感じ取って手を離して後退するために思いっ切り後ろに瞬時加速をしようとするがエネルギー弾のチャージの方が速かった。

 

ズドン、と大きな衝撃をまともに食らって意識が大きく揺さぶられる。

それを無理矢理繫ぎ止めてもう一度、シルバリオ・ゴスペルに向かう。

 

『兄さん!』

 

「大丈夫!」

 

通信を入れてきた千冬に対して一言返しただけで通信を切る。

話している余裕なんざこっちには無ェんだ、千冬達の所に行かせて溜るかよってんだ。

 

千冬達に狙いを変えたシルバリオ・ゴスペルは俺がエネルギー弾で吹き飛ばされたのを良い事に距離を離しに掛かる。

そして俺に向かって放った最大火力のエネルギー弾を千冬達に向ける。

 

「ふざっけんじゃねぇぞコンチクショウ!」

 

阻止する事が間に合わず、撃つ事を許してしまった。

 

どうにも、千冬はそうじゃないが一夏達は固まって動けなくなっている。

 

流石にあれを受けたら不味い!

 

そう思った俺は瞬時加速を三回使って無理矢理千冬達とシルバリオ・ゴスペルの間に割り込んで葵を使って防ぐ。

 

だがさっきみたいに上手くは行かなかった。

 

思いっ切り直撃、全身に激痛が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 鈴 ----

 

 

 

 

 

 

 

洋介さんが、シルバリオ・ゴスペルと戦い始めてから随分と時間が経った。

 

第二世代機でセカンドシフトした第三世代軍用機、それこそ第四世代機相当の性能がある相手に食らいついて行って、あまつさえ対等にやり合うなんてやっぱり凄い。

 

言葉を選ばないで言うなら、化け物染みている。

 

こんな言葉、絶対に言えないし言いたくないけどそう思っちゃうぐらいの戦いが目の前で繰り広げられていた。

千冬さんだってさっき、もう私達が入り込めることが出来ない次元の戦いだって断言してた。

 

千冬さんだって弱くは無い。

なんなら私達ISに関わる人間、特に操縦者にとっては絶対的な強さの象徴が千冬さんだからだ。

 

なにせモンド・グロッソの初代ブリュンヒルデにして未だ千冬さん以外成し遂げた事が無い大会二連覇と言う大偉業も持ってる。

モンド・グロッソはIS同士の頂点を決める戦いってのは合ってる。

 

ただそれ以外にも国の威信を掛けたものなのだ。

ある意味では代理戦争みたいな側面すらある。

 

そんなので全ての試合をたったの数秒、もっと短いとコンマ数秒で試合を終わらせて二連覇を成し遂げた千冬さんはどう考えたって強さの、特にIS操縦者にとっての強さの象徴だ。

 

 

 

だけど、今それが完全に塗り替えられた。

元々洋介さんが、尋常じゃないぐらい強いってことは知っていたしそれを体感したこともある。

 

クラス代表トーナメントの時だって、一方的に攻撃していたような感じだったけど実際は全くダメージを入れる事なんて出来なかった。

全盛期の千冬さんと当たり前の様にタメを張れるぐらいってのも知ってる。

 

だけど今の洋介さんは今まで見たことが無いぐらい強くて、必死だ。

 

それだけ敵が強いってこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達専用機持ちだっていざってときの為に軍事訓練は受けてる。

それは一夏もセシリアもシャルロットも例外じゃない。

 

ラウラなんかは完全に軍の人間だったんだから。

千冬さんだってそうだ。

だから、自分の中ではいざってときに動けるものだと思ってた。

 

だけど、実際はそうじゃなかった。

 

 

洋介さんにエネルギー弾を、それも最大火力なんじゃないかと思うぐらいのをぶつけたシルバリオ・ゴスペルは洋介さんを振り切って、私達を完全に狙って同じ最大火力のエネルギー弾を撃って来た。

私もセシリアもシャルロットも動けなかった。

 

だって、目の前に自分を恐らく殺す事なんて簡単であろう威力を持ったエネルギー弾が迫って来るのに指先一つ動かせなくなっていた。

絶対防御も、その名前の通り絶対的に攻撃を防いでくれる訳じゃ無い。

 

VTシステムの時だって、洋介さんは絶対防御を貫通する威力の攻撃を受けて瀕死の重傷を受けた。

基本的にISって言うのは防御をシールドエネルギーに殆ど頼っている。

だから試合だとSEが切れたら終わり。

 

少なくとも絶対防御を貫通することが出来る攻撃が出来る人間を私は二人しかいない。

洋介さんと千冬さんだ。

 

その二人ですらやられちゃうような攻撃を、私達が食らったら結果は火を見るよりも明らかだった。

 

あぁ、駄目だ、やられる……!

 

そう思った時だった。

 

 

 

目の前に影が飛び込んで来た。

何時まで経っても爆発の衝撃が私を、私達を襲ってこない。

 

恐る恐る瞑っていた目を開けてみると、洋介さんがいた。

 

「洋介さ……!?」

 

名前を呼ぼうと、洋介さんを見た。

だけど、最後まで言葉が出なかった。

 

 

だって、洋介さんは私達に直撃するはずだった一撃を肩代わりしたんだ。

 

剣を握っていた両手とそれを支えていた両腕は焼け爛れて、全身から血が流れていた。

 

「ひっ……」

 

セシリアか、シャルロットか。

それとも私の口から洩れたのか小さな悲鳴が聞こえた。

 

全身ズタボロで、どう見たって致命傷。

寧ろぱっと見ただけだと生きている方がおかしいぐらいの傷。

 

 

 

 

「ア”ァ”ァ”ァ”!!!ッたくヨォ!いってぇじゃねぇかこの野郎!」

 

あれ!?

なんか普通に腕を振り回して怒ってるんだけど!?

 

「お兄ちゃん!?大丈夫!?」

 

「大丈夫に見えるなら兄ちゃんはお前を眼科に連れて行かにゃならなくなるんだけど!!」

 

「それじゃぁ助けに……」

 

「来るんじゃねぇ!!」

 

「でも!」

 

洋介さんは、助けに入ろうとする一夏や千冬さんを抑える。

私だって行きたい。目の前で好きな人があんな姿になってまで戦ってるんだからその手助けぐらいはしたいって思う。

 

 

 

 

 

「おめぇの兄貴はそんなに信用ならない奴か!?」

 

「ッ!」

 

「こんな奴に負けるぐらい弱いか!?」

 

「そんなこと!」

 

「だったら兄貴の最高にカッチョ良い所をそこで黙って見てろ!」

 

「だけどそんな傷負ってどうするんだ!?流石に無茶だろう!?」

 

千冬さんが大声でそう怒鳴る。

確かにその通り。

 

だって本来、洋介さんの戦い方って言うのは両手両足、なんなら全身を使ってのものだから、その内の両腕どころか身体中が傷だらけの今、本来の力は出せない筈。

 

「良いか!?俺みてぇな兄貴ってのは馬鹿だからよ!妹とか美少女にただ頑張ってって言われるだけでいつもより百億倍頑張れちゃったりするもんだ!だから一言頑張れって言っときゃ万事解決ってもんなんだよ!」

 

そう言い切った洋介さんはまた、ブースターを思いっ切り吹かして、なんなら瞬時加速を使ってシルバリオ・ゴスペルに向かって行った。

 

何と言うか、やっぱり無茶苦茶な人だと思う。

だって、普通なら頑張れって言われただけでこんな状況を切り抜けるとか出来る筈が無いんだもん。

 

だけどどうしてだか、あの人ならそれが出来ちゃうんじゃないかって思わずにはいられない。

だから、大きな声で。

 

 

 

 

 

「頑張って、洋介さん!」

 

 

 

 

 

私はそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後ろから、鈴の大きな声が聞こえてきた。

 

それに続いてセシリアとシャルロットが、どうにか気持ちを落ち着けた一夏と千冬もそれに続いて声援を送って来てくれた。

ただ一言、頑張れとだけ。

 

だけどそれで十分!

 

「束!こいつに操縦者は乗っているか!?」

 

『乗ってないよ!』

 

さっき、束に調べて貰っていた。もし操縦者が居るってんなら首を圧し折ったりだとかは出来ないが、乗ってないってんなら一切の遠慮はいらない。

 

割とさっきまでもボコボコやってたけどこれ以降は冗談抜きで殺しに掛かって良いってことだ。

いやまぁ、正確にはぶっ壊すって言った方が正しいんだけども。

 

その報告を受け取った瞬間にもう一度、距離を詰める。

そのまま、首を狙って一閃。

 

 

搭乗者が乗ってないってんならどうして動いているのか分からんが兎に角、コアを止めちまえば良い筈だ。

コアを停止させる条件と言うか、方法ってのは俺が知る限り三つしかない。

 

一つ目は凍結させる。

これは束が各国に対して万が一、暴走などの緊急事態を起こしたコアに対しての方法だ。

理由としてはISコアと言うのは高度な人工知能、それこそ人間とそう変わらない程のAIだ。

恨みを持っていたりして暴走したと言うのならば、鎮圧してもまた暴走する可能性がある。そんな時に使用される。

 

ただ、これの欠点としてまず、暴走状態を鎮圧しなければならない。

そして然るべき手順を踏まなければ実行不可能。

 

それを考えると現状でこれは適切じゃない。

 

 

 

 

二つ目は束が直接コアを活動停止させる方法。

 

これは束のみが出来る方法で、単純に言ってしまえばコアネットワークから切断して活動停止コードを送る事。

この活動停止コード、コアネットワークに繋がっているコアの数が増えてきた時に発覚したことでこれを実行する場合、コアネットワークから切断してからでないと誤認した他のコアが停止する可能性があると言う問題が出ている。

一応、コア一つずつにコードが存在するのだが、理由としてはコアネットワーク内での繋がりが強すぎる為だと思われている。

確固たる理由が無いのは、束がISコアをAIとして自己進化能力を付与したから。

自己進化能力を付与されたコア達は、束も予想が付かない進化や成長を遂げて居たりする。

 

この問題に関しては、さっき言った通りコアネットワークから完全に切断してしまえば活動停止コードを送ったとしても問題は無くなる。

ただ、切断作業に要する時間は束がプログラムしたシステムなだけあって三秒に一度、パスワードが書き換えられる。

 

このパスワードを解読するのには幾ら束と言えども十分は掛かる作業だ。

何せご本人が、

 

「これ、私以外の人間じゃ絶対に解読出来ないね。断言するよ」

 

と言うだけの代物。

それを、自分が造ったとはいえものの十分で解読しちゃうってんだから流石だわ。

 

先ず切断作業でこれだけ時間が掛かるのに、停止コードを送るために必要な作業も幾つかあるのだから合計時間は恐らく二十分から三十分は掛かる。

俺の身体と相談してもどうやってもそれだけの時間は稼げない。

 

となるとこれも現実的じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

最後の三つ目。

これは単純明快、ISコアを破壊してしまえばいい。

 

ISコア、と聞くと球体の様な感じを思い浮かべる人がいるだろうが厳密に言えば正しくもあり間違いでもある。

 

と言うのもコアネットワーク上や機体に乗せられていない状態の時であれば球体で存在しているが、機体に搭載されているとどういう訳か全く別の形になる。

アメーバ状であったり、六角形、五角形、星形と様々だ。

この搭載時の形は、コアの性格によって変わるもんで本当に多種多様なもの。

コアがある場所は機体によってマチマチなのだが、場所さえ分かってしまえば問題は無い。

 

ただ、これにもちょっとばかし問題があってだな。

と言うのも、ISコアってコアとか名前付いてるけどその硬度、所謂硬さが尋常じゃないぐらいに硬い。

 

束は流石に構成材料なんかは万が一のためにって教えてはくれなかったが滅茶苦茶硬い。

全金属、全鉱物と比較してもダントツで硬いのだ。

 

 

これをぶっ壊すってなると無茶苦茶なレベルの攻撃力か、所要量以上のダメージを与えるかのどちらかが必要になってくるんだが、単純に考えて攻撃力は到底足りないし、所要量以上のダメージも阿保なんじゃないかと言うぐらい高い。

このダメージってのは、所謂金属疲労とかそんな感じのものでいくら頑丈な物でも同じ攻撃を食らい続ければ脆くなるって性質なんだが無理。俺の身体が先に使い物にならなくなる。

 

 

 

ただ、万策尽きたと言う訳じゃぁない

ちょっとした裏技と言うか、弱点が一つだけ存在する。

ISコアは全体や通常の物理攻撃から掛けられる強さに対しては比類ない硬さを発揮するが、とある極一点にのみ、攻撃力を集中させると脆くなる。

 

例えるならば卵だ。

卵って、思いっ切り握り締めてもどうやったって割れないんだが、角とかにぶつけて見ると簡単にヒビが入って割れるだろ?

あんな感じだ。

 

ISコアにはそれと似た性質があるから、恐らく一点に衝撃力を集中する事さえ出来れば破壊する事自体は可能だ。

ただ問題なのが、その一点と言うのが物凄く小さい。

どれぐらい小さいかっていうとだ。

 

たったの数ミリ程度しかない。

ISの大きさは基本的に全高が3mかそこらなんだが、その中の数ミリ、それも装甲に守られた数ミリと言うのはそこを突くことをほぼ不可能にしている程の大きさだ。

と言うか大前提としてその一点が分からない。

 

しかも、高機動戦闘下に置いてそれを達成するのはほぼほぼ至難の業、と言うか出来る事じゃない。

これも不可能だと思うかもしれないが、ところがどっこい、これまた裏技の登場。

 

束にその極一点を可視化してもらえばいい。

ISには空間ディスプレイと言う、かっちょええのが標準装備されている。

その空間ディスプレイにあいつを捉えて置いて弱点を光らせるなりしてもらえれば良いだけの話だ。

 

ただ、このISコアを破壊する方法は束の同意と了承が得られないと俺は出来ない。

開発の時からどれだけ苦労してやって来たのか知っているからこそ、俺だけの一存でぶっ壊していいもんじゃないと思うからだ。

ただ、現状それしか方法はないわけで。

 

勿論束には確認を取るけどな。

 

 

 

 

「束、こいつをどうにかする方法ってあるか?」

 

『多分、おじさんが考えた三つしかないと思うよ』

 

「ナチュラルに思考読むの止めて?なんも考えらんなくなっちゃうじゃん」

 

『まぁそこは愛の成せる技ってことで喜んどいてよ』

 

ウチの妹達はどうしてこう、俺の思考を読めるんですかね?

本当に俺、考え事出来なくなっちゃうよ。

 

「まぁ、いいや。そんで、どうする?」

 

『どうするって?』

 

「束がどうしてもコアを破壊したくないってんならちょっとばかし無茶をする覚悟ぐらいなら出来てるけど」

 

『そうだね。でも、私はおじさんにこれ以上傷付いて欲しくないよ』

 

「それでお前が傷付いたら本末転倒だろうが」

 

『でも、それよりおじさんが傷だらけになる方が私は辛い。それに壊れたとしても大丈夫。だから、コアを破壊して』

 

「良いんだな?」

 

『うん。おじさんにもちーちゃん達にもこれ以上傷付いて欲しくないから』

 

「……分かった。それなら、頼むぜ」

 

『任せて!』

 

そう束は意気込むと、その数秒後にはコアの弱点が可視化、赤い点で示された。

場所は左胸のど真ん中。

 

なんつーか、代わり映えしない無難な場所にあるな。

まぁ、でも狙いやすくて丁度良い。

 

これが太ももの内側だったりしたらそりゃぁ、狙いにくい事この上なかった。

 

「シャルロット!お前、コンバットナイフかなんか持ってないか!?」

 

『え!?えーと、短刀があるけど!』

 

「ちょっとそれ寄こせ!」

 

『そんな急に!?』

 

「お前の許可さえありゃこっちに転送して使える筈だろ!?急げ!』

 

『わ、分かりました!』

 

シャルロットのラファール・リヴァイヴは、その後付武装が豊富である事が売りだ。

 

ただ、例の事件のせいで部品の供給や武装の供給が今現在は滞っている状況だ。

そうなってくると各国でライセンス生産されているラファールの部品や武装を使うしかなくなったわけだが、これにはちょっとばかし問題がある。

確かに武装なんかはどうにかなるだろうが、ISに使われている装甲、内部フレームってのはそれぞれISによって全くの別物だ。

 

例えるなら戦車だ。

鋳造装甲を使っている戦車もあれば、複合装甲を使っている戦車もある。

材質だって、ただの鋼鉄から始まり、炭素繊維とセラミックスを使っているものまで様々だ。

 

例に漏れず、ISもそうだ。

打鉄で使われている装甲とラファールで使用されている装甲の材質は全くの別物だ。

 

ここで、問題となってくるのがその装甲の製造技術を持っているのは開発した国だけ、という事だ。

日本やアメリカは機密情報の保持の為に一切の国産機の輸出をしていないが、ラファールは自国使用と輸出仕様が殆ど変わらない。

旧ソ連がやったようにT‐72戦車を輸出する際、性能を意図的に落とした所謂モンキーモデルと言うものがあるが、それらの意図的な性能低下を施さず輸出しているのがラファールシリーズだ。

 

 

 

ラファールシリーズは大まかに三種類が存在する。

 

初期型のラファール。

 

初期型に改良と改修を施したタイプのラファール・リヴァイヴ。

 

そして最後に個人用にカスタム、チューンアップされたラファール・リヴァイヴ・カスタム。

 

この三種類にわけられるんだが、基本的にデュノア社が輸出していたのは初期型のラファールだ。

IS学園にはラファール・リヴァイヴが納品されているがこれはデュノア社との契約で基本的な整備はIS学園、及び各国で行うが本格的な修理が必要な場合はフランスにある整備工場に送らなければならないと言う条項がある。

 

過去に韓国、シンガポール、フィリピンの三か国がデュノア社及びフランス政府に無断で分解したことがあるがその際に契約違反ってことで今後一切の取引をしないとなったことがある話があるがそれはどうでもいい。

 

問題なのは、内部フレームも装甲もデュノア社しか作れない事だ。

これによってラファールを導入している各国は大打撃を受ける事になる。

そりゃ、予備部品や予備装甲が今後一切の生産が行われなくなるってんだから大騒ぎなんてレベルじゃない。

 

そこでどうするかと言うとだ。

 

別の国の物を導入するか、自国の部品を使える様に改造するか。

 

前者も後者もとんでもなく金が掛かる。

そりゃISを何機も別の機種に変えるってのはそう簡単に出来る事じゃない。

国家予算って名前のお財布との相談もあるしな。

 

ただし現状、ラファールシリーズを導入している国がこれらの問題を抱えている訳では無い。

と言うのも、フランスは確かにISコアやISの所持を禁じられてはいるが、それらに関する武装の製造や整備等が禁じられたって訳じゃない。

 

そこでフランス政府はどうにかして外貨を獲得するため、デュノア社は会社の利益と最低限IS関連の整備士達を路頭に迷わせない為に今でもラファールの整備を全て引き受けているし装甲などの部品の製造も引き続き行われている。

 

もっとも、これはシャルロットの親父さんがもし国の命令であったとしてもISの整備や部品製造等は絶対に売却するな、との最後の指示のお陰とも言える。

フランスがISの所持、開発を禁じられても、それに類する部品等の製造や開発が禁止されたわけじゃないし、何よりラファールシリーズの需要は第二世代機とは言え安定した性能もあってか大きい。

 

 

 

 

随分と話が逸れたから戻そう。

ラファールの武装の種類は冗談抜きで多い。

 

銃火器だけでも、基本的な物だけで数十種類。

マイナーなものを合わせると百を超える。

 

そこに近接用のブレードや、珍しい物だとパイル・バンカーとかいう物騒なものまで揃えてある。

 

 

それで今回シャルロットに要求したものは、ラファールシリーズの標準装備である近接用のブレードだ。

ISでの戦闘ってのは基本的に中距離や遠距離での撃ち合いが殆どなんだが、稀に近接戦闘を行わなければならない状況がある。

 

それに対応する為に存在している短刀は人間からすればデカく感じるだろうがISが扱うにはずっと小さく頼りない感じがするしこれで装甲を貫けるかどうか疑問に思ってしまいそうな感じがするが、そんなんは俺がどうにかすれば良いだけの話だ。

 

 

 

 

『佐々木さん!許可出しました!使えます!』

 

「あんがとさん!」

 

シャルロットからそう言われた瞬間に、行動に移る。

と言っても、さっきと同じようにとっ捕まえて、短刀を思いっ切り突き刺してやるだけ。

 

その前にシルバリオ・ゴスペルのSEを全て削り切らなきゃならん。

つっても今までで相当削っている筈だからそこまで苦労はしないと思う。

 

SEがあるかぎり、絶対防御を貫通する事が出来たとしてもSEに吸われてしまう。

思うに、絶対防御よりもSEの方が少なくともSEが無くならない限りは絶対防御っぽい気がするんだよなぁ……。

まぁ良い。

 

兎に角、これからが本番ってことだ。

俺の身体との相談をしてみた感じ、持って十五分。

ガチガチの戦闘をするってんならあと十分持つかどうか。

 

まぁ、悲観するもんじゃない。

VTシステムの時なんか、応援無しで全身が今よりも満身創痍で二時間ぐらい戦ってたしそれと比べると骨が折れてないし全然問題無い。

 

 

 

 

 

「ふぅ……。そんじゃいっちょやったるか!」

 

一度息を整えてデカい声で気合を入れる。

そして、もう一度葵を構え直してシルバリオ・ゴスペルに向かって瞬時加速をぶっ放す。

擦れ違いざまに無理矢理胴体部分に一撃を叩き込みつつ振り抜いた勢いを利用して左足で回し蹴りをお見舞いする。

 

流石に、全身から血を垂れ流して焼け爛れている奴がまさか自分に斬り掛かって来て、あまつさえ命中させるなんて思っていなかったんだろう、心無しかシルバリオ・ゴスペルの顔が驚いたような、在り得ねぇだろ!?って感じの表情になった気がした。

 

その一巡が命取りだ。

そのまま離脱せずに無理矢理シルバリオ・ゴスペルをとっ捕まえて至近距離で拡張領域から引っ張り出したアサルトライフルを腰溜めでばら撒く。

葵はその大きさ故にちょっとばかしやりにくい事が分かったからな。

それに今はSEを削る事さえできればいい。

 

それなら、銃でも十分にその役割は果たせる筈だ。

まぁ、拡張領域に入れてあっても俺ってマジ銃の扱いがまだまだだから、高機動戦闘をするってなると当てられん。

まぐれ当たりを望んでも全弾バラ撒いて、そのうちの一発か二発当たるかどうかってレベルだしな。

 

使う機会なんて早々無い訳だから使えるときに使っちまおうってわけ。

これならただ倉庫の中で腐らせとくなんて事にはならんしな。

 

俺の戦い方ってさ、やっぱり脳筋マシマシって感じだよな。

 

今更だけどさ。

 

 

 

 

 

 

「美味しいか木偶の坊!今までのお返しだってな!」

 

弾をバラ撒きながらそう叫ぶ。

シルバリオ・ゴスペルは俺から必死になって離れようと、俺を振り解こうとするが俺だって身体に鞭打ってやってんだ、こんなチャンス早々に逃して堪るかっての。

 

だけども、こいつはこいつで必死なのか物凄い暴れ方で俺を振り解こうとするもんだから、めっちゃ大変。

 

それでも全弾撃ち切った。

だけども、軍用ISってだけあってSEの量も試合用、訓練用とは比べ物にならんぐらい多い。

全弾叩き込んでやったのに、未だに四分の一、四百ぐらい残ってる。

 

普通、訓練用試合用なら精々三百ぐらい。多くても四百ぐらいが普通なんだがシルバリオ・ゴスペルは驚いたことに一六〇〇とかいう大馬鹿なんじゃねぇの?と言うぐらいの多さ。

という事は、丸々一機分、それもSEが多い部類のIS一機分のSEをこれから削り切らにゃいかん。

まぁ、四百程度なら殴りゃいいから問題無い。

 

爛れた両腕に滅茶苦茶なぐらいの鞭を打って殴って蹴って、斬り続ける。

 

 

 

 

 

「ダァッシャァッ!!」

 

そして最後に一撃、殴ってシルバリオ・ゴスペルのSEが切れた。

 

それを確認した瞬間、左手でがっしりと首を掴んでおいて右手にシャルロットから借りた短刀をしっかりと握って左胸に突き立てる用意をする。

 

「多分滅茶苦茶痛いだろうけど覚悟しとけ!」

 

思いっ切り勢いをつけて突き立てる。

だけども、流石は軍用ISの装甲と言うべきか、削れはするがコアにまで到達することは出来ない。

 

「なら何回も刺しゃぁいいだけの話だよなぁ!?」

 

何度も何度も突き立てて、無理矢理装甲を削っていく。

すると、流石にその厚さ以上は無いらしく、何となくコアらしきものが見えた。

それを視認した瞬間に今までよりも勢いをつけて短刀を突き刺そうとする。

 

 

 

「これで最後ォォ!!」

 

 

 

シルバリオ・ゴスペルも最後の抵抗と言わんばかりに滅茶苦茶な暴れ方をする。

それを、左手で無理矢理押さえつけて短刀を深く突き立てる。

 

すると、今までの戦いやシルバリオ・ゴスペルの暴れ方が嘘のようにあっさりと、その動きが止まった。

 

『おじさん、コアの破壊を確認したよ』

 

「ってことは……」

 

『私達の勝ちってことだよ!』

 

そう、束が告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、流石に重症と言える怪我を負っていた俺は、千冬達に心配かけまいと旅館まで自力で飛んで帰った。

 

いやまぁ、めっちゃ痛かったし血を流しすぎてなんか色々とやばかったけどそこはもう気合で何とかした。

いやだって、敵を倒してすぐにぶっ倒れるとかなんかカッコ悪くない?

見え張ってたのは確かなんだけどさ。

 

旅館に戻ると直ぐに束にがっしり掴まれて医療用ポッドに放り込まれた。

 

まぁ、誰が見ても大怪我には間違いなかった。

何せ、体の前面は顔や頭を除いてほぼほぼ大火傷だったし、頭部からの出血量も多かったから失血性ショック間近。

 

お陰でまーた丸々三日も医療ポッドで爆睡する羽目になったのは言うまでもない。

 

千冬始め、一夏達は滅茶苦茶心配して俺が目を覚ましたとなったとき、VTシステムの時とは全く違ってギャン泣きの嵐。

滅茶苦茶泣いて、泣き疲れて寝落ち、起きたらまたしこたま泣いて、泣き疲れて寝落ち。これを繰り返す事二日ほど。

それを宥めるのに更にまた一日使った。

 

まぁ、緊急事態ってことだったから学園も三日ほど臨時休校となった。

その間、IS学園からアメリカ政府に公式声明と言う形で物凄い抗議が行われた。

 

そら一学年生徒160人+教職員と二、三年生の命が犯罪組織の手引きがあったとはいえ相当な危険に晒されたんだからな。

しかも条約で禁止されている軍用ISを開発していたってこともあって大騒ぎ。

 

結果として束はイスラエルとアメリカのISコアを幾つか停止させ没収。

フランスとドイツよりはまだマシ、という事だったが実際の所、世界のパワーバランスを考えての事だった。

 

もしアメリカがフランスとドイツと同じ状況になった場合、中国やロシアの力が大きく成り過ぎてどう考えてもやばい事になる。

最悪、全世界赤化なんて事態になり兼ねない。

 

それを考えたアメリカはすぐさま、イスラエルの意見をガン無視して軍用ISの開発計画をすべて凍結。

その証拠と共に土下座すんじゃないかと言う勢いでの謝罪を日本政府及びIS学園、そして束と俺個人にしてきた。

 

いや、のんびり何時も通り勉強すんぞー、とか考えてたらいきなり学園の応接室に呼び出されて何事?とか思ってたら応接室に居たのはまさかのアメリカ特命全権大使。

そんなのからいきなり頭下げられて謝罪されたときの俺の気持ちよ。

 

もうね、おじさんってば小市民なもんだから寧ろこっちが焦ったわ。

悪いのは事実だからあれなんだけどもさ。

 

 

 

 

一連の騒動で亡国機業に通じていたり、工作員であった上院、下院問わず連邦議会の議員や各党に属している政治家、大企業の幹部や社長、軍幹部を軒並みとっ捕まえて豚箱に叩き込んだ。勿論情報提供と言うか、リストを束が渡したんだけどね。

 

その数、恐ろしい事に239名にも及んだ。

軍や警察の特殊部隊、CIAなどの機関にも入り込んでいたと言うのだから亡国機業の恐ろしさが分かる。

普通ならそんなことは出来ない。

国家ぐるみだったとしても、日本みたいにガバガバじゃ無けりゃ無理。

アメリカはそう言うのに滅茶苦茶敏感なんだがそれをやってのける亡国機業は、国家以上の諜報力と組織力がある事になる。

 

 

で、例のシルバリオ・ゴスペルだがコアを破壊されたから勿論動く訳も無く、一夏達が引っ張って束に渡した。

コアに関してだが、束曰く、

 

「まぁ、コアネットワークにちゃんとこの子が学習したデータが残ってるから普通に死んだりはしてないよ」

 

との事らしい。

 

 

シルバリオ・ゴスペルは元々イスラエルが軍用ISとして開発していた所にアメリカが無理矢理横から入り込んだってのが実際らしいがどちらにせよ条約違反に加えてテロリストの工作員を見抜けなかったりとアメリカの威信はガタガタ、大統領も罷免されると言う事態に。

大統領の罷免に関しちゃ責任を負いたくなかった連中が大統領に責任を無理矢理押し付けたってのが実際の所なんだけどね。

 

 

まぁそんなこたどうでもいい。

重要なのはシルバリオ・ゴスペルがどうやって暴走させられたのか、ってことだ。

 

これに関しては束が原因を突き止めている。

そのやり方ってのは、物凄く強引にコアネットワークから切り離して何らかの方法でコアの防衛意識とでも言えるものを刺激したらしい。

 

コアネットワークからコアを切断出来るのは本来束だけなんだけどどうにも、束の予想以上の技術力とそれを支えるだけの資金があるらしい。

物凄く強引とはいえ、束にしか出来ない事をやれる技術力を持っている辺りそれは察して貰えるだろう。

どんな方法までかは予想の範囲でしかないが、どうやらシルバリオ・ゴスペルに乗せられていたコアは専用機として扱われていたらしく、シルバリオ・ゴスペルに搭載される事が決定した後も搭乗者自身もこのシルバリオ・ゴスペルのテストパイロットとしてそのまま実質専用機扱いだったらしい。

 

それでこのコア、搭乗者に相当愛着と言うか、物凄く懐いていたらしく。

それを利用してコアを暴走させたんじゃないか、との事。

実際、そんな感じの痕跡もあったらしいからそうなのかもしれない。

 

 

 

 

結局この騒動は全て収まるのに丸々三週間以上を費やして、その間に千冬達も諸々の対応に追われて徹夜が続いたりとしたがまぁ、被害とかは結局の所、千冬と俺が搭乗していた打鉄と一夏達の機体、そしてシュヴァルツェア・ハーゲンの損傷のみ。

怪我人は俺とシュヴァルツェア・ハーゲンの面々だけとなった。

 

 

 

マドカに関しては束が体内のナノマシンとかその辺のもんをちゃんと処理して普通の生活を送る事に何ら支障がない様にして貰った。

そしてその情報は亡国機業ってこともあって束がその事実を一切隠蔽。

千冬や一夏の出生にも関わってくるんだからおいそれと表に出せる事じゃない。

 

ついでに言うと、マドカの身柄と言えばいいのか、それに関しては束預かりという事になった。

本来ならその年齢相応に学校に通わせたりさせてやりたいんだけど、元亡国機業の戦闘員でしかも専用機を与えられていたってこともあって、IS学園に通わせるにしろ他の一般の学校に通わせるにしろ恐らく亡国機業は間違い無く取り返しに来る。

そうなったら、冗談抜きで一般生徒を巻き込んだ戦闘に成り兼ねない。

今回も同じようなもんだったがレベルが違う。

 

それと今後、その足取りを掴んでぶっ潰す為にこちら側の情報を渡さないためにも得られた情報はどこの国家にも渡さない事になった。

そりゃアメリカほどの国家の上層部にまで食い込んでいる組織だ、他の国家にどれだけの工作員が居るのかを考えれば当然の結果ともいえる。

アメリカだけじゃなく、他の国家に関しても束のリストに挙げられた人間は軒並み豚箱行きになったがそれでも全員と確証は持てないし後から入ってくる奴の事を考えると渡すべきじゃない。

何処から情報が洩れるか分かったもんじゃねぇしな。

 

あ、あと俺がぼっこぼこにしたヤンキー女だけど回収しに行ったらとっくに消えてたそうな。

あれかな、別部隊が居て回収していったのかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

ってことで、臨海学校事件はまぁ俺の知らん事も色々あるだろうけど一応の終息は付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 













あー、なんか久々に投稿した気がする……
予告通りかどうか分からんけども一応夏休みに入ってからR‐18編の方を投稿するかも。

一応候補として挙がっているのはセシリア。
千冬とかどうしたのかって?

作者はな?お楽しみは最後の方に取って置くタイプなんだよ。
まぁ、何時になるかマジ分からんけどね。

運動会の時か、それとも学園祭か。
何れにしろなんかイベントあったらR‐18編に進める為の分岐を作ろうかと考えってから心配せんでも大丈夫やで。


そう言う事で、次のお話、若しくは別の投稿作品でお会いしましょう。










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夏休み?そりゃもう身体を鍛えるしかないでしょ!






おう、夏休み話だぞ。
現実は世間一般は夏休みじゃないけどな。


今回は日常回みたいな感じ。













 

 

 

 

本日から、IS学園は短いながらも夏休みに突入するでゴザルよ!

でも俺ってば!万が一の事があるからってお家に帰れないんだよ!帰してくれないんだよ!

 

まぁ、そんなわけで夏休みだ。

こんな長い夏休みって何年ぶりだ?高三以来だから……十七年ぶりですね。

いやー……年取ったな俺……

一夏達と出会う前から大学行かないで働いてたからもうめっちゃウキウキしちゃうぜ!

 

何しよっかなー!三週間、IS学園内とはいえ楽しんじゃうぞー!

お勉強しなくても、おじさん天才だからさぁ、学期末テストとか赤点余裕で回避しちゃってるから宿題だけやっとけばあとは自由な訳よ。

高校の時は赤点あったり宿題終わってなかったりガッツリ運動部やってたから徹夜とか出来んかったしやってみるのもアリだな。

 

……運動するっつっても一人じゃ限度があるしなぁ。

気絶するまで走ってみるのもアリかもしれんけどそれはそれで一夏達にしこたま怒られそうだしやりたくても出来ない。

 

千冬はこんな時にも二学期の準備やら意外や意外、茶道部の顧問としての仕事とかで忙しいらしくお仕事中だし。

千冬が茶道を?と聞かれると確かに驚くよな。

ぶっちゃけ千冬って茶道ってタイプじゃねぇもん。

バリバリ運動部って感じだし文化部どうこうって感じはしない。

 

だけども、千冬ってば華さんに茶道華道を教えられていたから、それこそ師範とかそんなレベルじゃないけどそれなりに出来る。

今まではそれなりに顔を出してたらしいんだけど今年に入ってから忙しいのなんので全く顔を出せていないんだそうな。だからこの機会に顔を出して一つ、先生面でもしてこよう、ってことらしい。

 

確かにこのIS学園って、ほぼ女子高なのにそう言った方面に精通している先生が皆無なんだよ。

なんて言えばいいのか、女子力が足りない系の女子が多すぎる学校。

まぁISばっかって感じだからあれだけどもさ。

俺でも多少炊事洗濯は出来るんだぞ?

 

と言っても男飯に洗濯物全部纏めて洗うとかそんなレベルの雑さだけど。

え?靴下もパンツも何もかも全部一緒に決まってんだろ?一回で済ませた方が楽じゃん。

師範たちと知り合ってからはその辺も割と気を使ったけど、面倒だからといっぺんに突っ込んで洗う事の方が多かったのは秘密だ。知られたら間違い無く俺、怒られる。

 

一応、華道に関しては別の先生がやってくれてるらしい。

 

俺?はっはー、俺がそんな繊細な事出来るとでも思うてか?

茶道とか全く分からん。

 

 

 

それだけ忙しくても十日ぐらいは休みを取れるらしいからその時に三人で家に帰ろう、って話してる。

千冬が学生の時までは俺が仕事してる立場だったんだけど、今は真逆だしなぁ。

世の中何が起こるか本当に分からないもんだぜ。

 

 

あー、何しよっかなー。

 

朝飯はもう食ったし。

今は朝の七時だから、そろそろ運動始めるかな。

 

なんて考えていると、部屋のドアを叩く音が聞こえてくる。

 

「はーい」

 

『お兄ちゃん?入っていい?』

 

「おー、いいぞー」

 

一夏だった。

と言うか、俺と千冬の部屋を訪ねてくる奴なんて一夏達しかおらんわ。

 

とか思っていると、一夏だけじゃなくて箒や鈴、セシリア、シャルロットも一緒に来ていた。

因みにラウラは束のとこで夏休みを満喫しています。

 

なんでも毎日、俺の所と束の所を日替わりで過ごすらしい。

昨日の夜、うっきうきのテンション高めで束の手を握って行く様子はもうほんと高校生かどうか疑わしく思えた。

ちっこいから小学生にしか見えねぇんだもん。

 

多分、俺が若いうちに結婚して子供居たらあれぐらいだからそりゃぁ、可愛くてしょうがない訳よ。

こうやって男親ってやっぱ娘に甘くなるんだな……

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

 

「邪魔するわよ」

 

口々にそう言って入ってくる面々はなんか普段とは違った顔をしていた。

ただ、服装はそれぞれ私服だ。なにせ夏休みなんだから態々制服を着る必要なんてありゃしないんだからな。

取り敢えず、冷蔵庫の中から昨日作っといた麦茶を皆に出す。

 

「どうした?こんな朝っぱらから。しかもそんな神妙そうな顔して」

 

何時も通り、寝起きのまま半袖短パンのだっらしない恰好でベッドに胡坐をかいて聞く。

 

「お兄ちゃん、私達の事鍛えてくれない?」

 

「パードゥン?」

 

あんまりにも唐突過ぎてそんな返しをしちゃったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、めっちゃ簡単に言ってくれん?」

 

「えっと、私達ってこの前の事件の時、お兄ちゃんが戦ってる所をただ見てることしか出来なかったでしょ?」

 

「まぁ、ありゃぁ仕方無ェよ。お前らが戦っても殺されるのがオチだしなぁ」

 

「それ!」

 

「ウェイ!?」

 

俺がそう言うと、一夏は掴みかかってきた。

と言うか胸倉掴まれた。ガックガック揺さ振られる。

 

あー止めてください!脳みそがシェイクされてしまいます!ただでさえ馬鹿な事しか考えられない脳みそが余計に馬鹿な事しか考えられなくなってしまいます!

 

「それが嫌なの!もうお兄ちゃんがただ戦ってる所を見て、ボロボロになるのを見ているだけなのは嫌なの!」

 

一夏は、恥も外聞もクソも無く、そう言い切った。

その目尻には、涙が溜っていて悔しそうに歯を食いしばって口をグッと結んでいる。

 

あの時、相当こいつらは我慢して、色々と溜め込んだんだろう。

多分、俺が頷かない限りはここから出て行かないだろうし今日どころか明日も明後日もこうして頼み込んでくるに違いない。

 

うーん……こりゃ早々に俺の負けだぁな。

 

「よし分かった。鍛えてやる。ただ言っとくが、俺ぁ近接戦闘特化だからな。そっち方面にしか稽古は付けてやれんぜ?」

 

「それで構いませんわ。小父様のその技術は、射撃特化の私が見たとしても凄まじいものです。それをご教授頂けると言うのであれば光栄な事です」

 

「……そう言われると恥ずかしいね」

 

「それじゃぁさ、早速始めようよ」

 

「え?今日からやんの?」

 

「そりゃ勿論。早い方が良いでしょ?それに今は夏休みだし絶好の機会でしょ」

 

鈴が何言ってんのよ、と言わんばかり。

いやね?まさか今日からやるなんて思う訳無いじゃん。

確かに夏休み、三週間を丸々使えるってことだもんな。誰だってやれることはやるわな。

 

「あー、そりゃそうか……。ま、そしたらやるか」

 

俺がそう頷くと、五人はやってやるぞ、と意気込んだ。

 

「それで?何やんの?」

 

「まぁ、取り敢えず、運動出来る格好に着替えてこい。着替え終わったら、飲み物持って玄関に集合な」

 

「それってISスーツにってこと?」

 

「違う違う。体操着とか、そんな感じのやつ」

 

「え?」

 

「まぁ、取り敢えず言う通りにしとけって。多分すっげぇ事になっから」

 

俺は取り敢えず、全員に運動着を着て、飲み物持って、集合するように言った。

 

俺も、一応念のためにスポドリ2リットルを何本か持ってっとくか。

多分、あいつらが持って来る量じゃ絶対に足りないはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいる五人は、それぞれ運動出来る格好で立っている。

うん、まぁ確かに運動出来る格好でって言ったよ?言ったけどさぁ……

 

「ねぇ、なんで全員揃いも揃って体育着なの?」

 

「え、だって運動出来る格好って言われるとこれでしょ?」

 

「別に俺は体育着に限定してないんだけど!?」

 

「でもお兄ちゃん的には嬉しくない?」

 

「余計な事を言う口はこれだな?」

 

「ん”ん”む”ぅ”ぅ”ぅ”!!」

 

一夏の顎をむんず、と掴んでこれ以上余計な事を言わせない様に黙らせる。

いやね?確かに眼福ではあるよ?

 

IS学園、どういう訳か体育着というよりブルマなんだよ……。

そりゃぁ、もうね?そう言う訳ですよ。

 

普通の体育着と比べると太ももの露出面積とか尋常じゃ無い訳でして。

しかも鈴を除いて全員が平均以上のお胸をお持ちでして……。

 

上も下もむっちむちだぞ?ぱっつぱつなんだぞ?

 

お前、目の前に居るのが美少女揃いのIS学園の中でもトップクラスの美人さん達なんだからさ、嬉しいんだけど、それを口に出す馬鹿がどこにいると思う?

 

ここ、俺以外女しか、それも十代半ばの少女諸君しか居らんのだぜ?そんな中で変態認定されてみ?

もう地獄への直行便待った無しですよ。

 

 

「はぁ……まぁ、いいや。そんじゃ始めるとするか」

 

「結局何するんですか?」

 

「ん?普通に走って筋トレ」

 

「え?」

 

「いやさ、君ら確かに代表候補生に選ばれるぐらいにはISの扱いとかうまいじゃん?」

 

「「「「「えへへへ……」」」」」

 

俺がそう言うと、嬉しそうにするけど。

言いたいのはそう言う事じゃねぇんだよ。

 

「ISって、確かに機体性能も重要だしIS適正も重要なんだけど結局のところ、と言うか最終的に搭乗者の身体能力とか体力がものを言うんだわ」

 

「それってどういう……」

 

「んー……なんて言えば良いんかな、こう、ISって搭乗者の身体能力に、機体性能とかIS適正を足していく、足し算方式じゃなくて掛け算方式なんだよ」

 

ISってのは、確かに高性能な機体があれば強いし、高いIS適正があればよりISを自分の手足の如く扱える。

だけども、それを支えるのは結局のところ搭乗者の身体能力が高ければ高い程にそれらをより扱いやすくなる。

考えてみ?運動出来ないけど高性能な機体を持っていてIS適正が高い。

 

これ、機体とIS適正だけを頼りにしている時点で負け確なんだよね。

さっき言った掛け算方式で考えるのが一番分かりやすいんだけど、

 

それぞれを十段階、それも極端なもので表すとすると、

 

身体能力 1

体力   1

機体性能 10

IS適正 10

 

掛け算すると、答えは100になる。

……なるよね?

 

これ、身体能力、体力がどちらも10だったとすると答えが10000になる。ってことは100倍の差が出てるんだよ。

これが身体能力が2だとしても3だとしても少なくとも1よりかは全然勝てるんだよね。

 

これ、幾らIS適正高かろうが機体性能が良かろうがどうやったって勝ち目が無い。

 

そんなわけで身体能力や体力って滅茶苦茶大事なんだよ。

しかも、国家代表とかを目指すってんなら身体能力もそうだが、体力、特に持久力が必須になってくる。

と言うのも、国家代表同士の試合なんて普通に一、二時間なんて当たり前だからだ。

 

サッカーや野球、ラグビーみたいなスポーツと違ってISってのはそう言う特別ルールが無い限りは選手の交代ってのが無い。

一対一でやるのが基本だからな。

 

そうなると、誰かを頼って休憩が出来ない。

最初から最後まで自分だけで戦い抜かなくちゃならない訳だ。

 

そうすっと、必然的に体力、特に持久力が多くなければ戦い抜けない。

それらを全部ひっくるめて考えると、絶対に体力はあった方が良い。

もし、箒とシャルロットを除いた三人が国家代表を目指すと言うのならば。

 

目指さないにしても、体力があった方が何かと都合が良いからな。

 

 

 

 

 

 

 

「そうなんですか?」

 

「うん。で、掛け算って掛ける数が多いほど答えの数は多くなるだろ?」

 

「まぁ、そりゃぁ……」

 

「とすると、機体性能とIS適正は俺達じゃどうやったって上げようもない。そうなったらどこの数を増やせばいい?」

 

「搭乗者の身体能力の向上、って訳ね」

 

「そう言う訳よ。だから体力付けようぜってこと」

 

「なるほど……」

 

「そういやさ、鍛えてくれって言われたけどメニューは俺が考えていいんだよな?」

 

「うん」

 

「なら、最初は走り込みと筋トレから初めて、その次にISを使うから」

 

「え、どっちかだけじゃないの?」

 

 

 

「どっちもに決まってんだろ。言っとくけどそんな甘ちゃんな事言ってても強くなれねぇぜ?」

 

 

 

ニヤッと笑いながら、言ってやるとどうしてだか五人ともやべぇ……って顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで、準備運動後に始まった走り込み。

因みに俺はリュックに五人分のスポドリ入れて走ってます。

 

理由?いや、だって多分、こまめに水分補給させないと皆途中で力尽きますよ。

水分補給させとかないとこの炎天下じゃぶっ倒れちまうって。

 

今はとっくに八月だかんね、太陽の光は朝方っつっても結構厳しい。

俺は別に慣れてっから問題無ェけども。一応、自分用の飲み物も持って走ってる。

 

 

 

 

 

 

走り始めてからの感想。

まぁ、代表候補生ってだけあってそれなりに体力はあるらしく、四分の一ぐらいは俺のペースに付いて来ていた。

俺のペース、50kmを凡そ2時間程度で走り切るスピードで走ってる。

ってことは、自分で言うのもあれだけど結構速い。

それに最初だけとはいえ付いてこれるってんだから大したもんだよ。

 

この学園の直径は凡そ8km。

IS学園には外周含めたランニングコースがあるんだがそのランニングコースの長さ、まさかの約50km。

いやもう、普通の学校と比べるまでも無いデカさなんだけど、俺は最近いつもこのコースを一周と三分の一ぐらい走ってる。

ただ最近は体力上がって来たから少しづつ距離を伸ばしてるんだけどな。目指せ100km。

と言うかこれ以外にコースが無い。

 

それよりも短い距離を走りたいってなると、1km事にある折り返し地点で折り返せばいい。

ただ、今回はどれぐらいの体力があるのかを見極めたいからマックス50kmを走って貰う事にした。

 

12kmぐらいまでは全員付いて来てたんだよ。

意外だったのが箒も付いてこれてた事だな。

 

まぁ、昔っから剣道やってるし今もやってるから体力はあると思ってたが途中までとは言え付いてこれるとは思ってなかった。

 

「おー、どうしたどうした、バッテバテじゃねぇかよ」

 

「い、や、あん、た、がおか、しいッ!」

 

「喋れるんならまだ走れるな。ほれこれやるから頑張れ」

 

鈴にスポドリを渡して(と言うより出した瞬間にひったくられた)飲ませた後、返してきたペットボトルにマジックペンで鈴、と書いてリュックに放り込む。

 

……舐めたりしないからな?俺はそんな変態さんじゃないからな?

 

鈴の背中を軽く叩き激励しつつ、最後尾を走っているセシリアの元に行く。

今の所、鈴は大丈夫と。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい……!」

 

「一回水入れるか。あ、止まるなよ。止まったら余計辛くなるからな」

 

そう言いつつ、リュックからスポドリを取り出して蓋を開けて手渡してやる。

ゴクゴクと、勢いよく飲み進めていくセシリアは、息が出来なかったらしく咽せた。

 

「大丈夫か?」

 

「ゲホッ!だ、だいじょ、ぶです、わ!」

 

「よし、やばかったら言えよ。取り敢えず、一夏達見て来るからそれが終わったら戻ってくる」

 

「は、はい!」

 

それから、後ろから順番に箒、一夏、シャルロットと様子を見る。

思いの外、シャルロットが体力があるのが予想外だったな。一夏との距離は200mぐらいしか離れてなかったし。

 

先頭のシャルロットから最後尾のセシリアの距離は大体3kmぐらい離れてたから、相当早い。

 

シャルロットの所に行ってからセシリアの所に戻ってその隣を走る。

定期的に全員の所に回って水分補給をさせる。

 

まぁでも全員相当キツイらしく、走り終わる頃にはフラフラで死にそうな顔してたな。

全員が走り終わるのに掛かった時間はマラソン選手でも何でもないから五時間ちょい。

 

シャルロットが4時間ぐらいで走って、

セシリアが5時間ちょい。

まぁ、最初なら上出来だな。

 

俺が運動部で体力錬成を始めた頃は10km走るのもやっとだったし。

ある程度の体力があるとはいえ、50kmもの距離を走り切れた事は凄い。

 

正直、途中で誰かが脱落する事も考えてたから素直に驚きだ。

 

本当はもっと距離は短くてもよかったんだけど、こうやってあえて最初に長い距離を走らせて辛い思いをさせておくことで、今後走る距離での辛さと比べて楽だ、と思わせて、その距離を走り切れたって自信を付けさせる事も狙いなんだよな。

走り切れずとも、ある程度の距離を走ることが出来さえすればそれなりに自信に繋がってくる。

 

本来、このやり方は一定の人間にしか通用しないんだけど少なくとも代表候補生に選ばれるぐらいの辛い訓練をしてきたから反骨精神とかは人一倍どころか十倍はあると思う。しかも割とポジティブな連中ばっかだからな。

それを考えると、結構このやり方に適性がある。

 

全員に、水に濡らしたタオルを渡して取り敢えず、腋や太ももなんかを冷やさせる。

 

「よし、取り敢えずはご苦労さん。まぁ、炎天下ってことを考慮したとしても予想以上に走れてたな。取り敢えず目標としちゃ最初の俺のペースで50kmを走り切れるようにって感じだな」

 

「なんで……そん、な、よゆ、うそう、にしてんのよ……」

 

「元々の体力の違いだろ。それに普段は俺、最初のペースで普通に最後まで走り切るしこの速さなら多分もう二周か三周ぐらいなら余裕だぞ」

 

「やっぱり、すご、いなぁ」

 

木の下にある日陰に全員を取り敢えず放り込んで軽く見ていた感想を言ってやる。

 

実際、思っていたよりも走れていた。

俺の予想としては先頭が五時間、最後尾が六時間半ぐらいで走れれば良いかな、ぐらいに考えていた。

それがどうだ、実際に走らせてみたら全体的に予想の一時間も速く走り切ってるじゃねぇか。

 

十分に驚きだよ。

 

 

でもこの様子じゃぁ、IS使うのは今日は厳しいかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーし、そんじゃシャワー浴びるなら浴びて食えそうだったら昼飯食って休憩してろ」

 

「え……おじ、さまは……どこに……?」

 

セシリアは不思議そうな顔をして聞いてくる。

 

「俺?もう一回走ってくる。何時もの距離に足りてねぇから。一夏、リュック頼む。俺の部屋に適当に置いといてくれればいいから」

 

そう言ってリュックを一夏に預けて走り始める。

うーむ、やっぱしみんなの速度に合わせてると物足りないな。

 

このまま、12km地点まで行って折り返して来るか。

本当は一周走っても良いんだけどそうすると二時間くらい掛かっちまうし、待たせるのも悪いからな。

 

24kmぐらいなら一時間もあれば十分帰って来れる。

 

そう、頭の中で計算しながら走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side セシリア ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小父様に頼み込んで、鍛えてもらう事になりました。

 

最初、走ると言われたとき何を言っているのか訳が分かりませんでしたが理由を説明されて納得。

確かに国家代表の方々は別次元なのでは?と思うぐらいの体力の持ち主でしたし、小父様の言う事には百理あります。

 

そして、着替えて走る。

 

と言っても私、運動出来る服なんてテニスウェアと体操着ぐらいしか持っていないので体操着に。

それ以外の服もあるにはあるのですがどれもこれも運動には向きません。

 

 

 

 

 

 

走り始めて、改めて思い知らされた小父様の凄さ。

最初は付いていけたのに、ドンドン一夏さんからも鈴さんからも引き離されて行って、遂には一番後ろを無様に走ることに。

 

その間、小父様は私達のそれぞれの元を行ったり来たりしながら随分補給をさせつつ、アドバイスやら励ましやらを話しながら平然と走り続ける。

私なんか、最初から最後までずっと小父様に隣に付いて励ましてもらっていた。

小父様の合計した走った距離なら、優に10kmはプラスで走っていそうなのに汗は掻いていても呼吸は殆ど乱していない。

 

 

 

 

 

終わるころには私達は全身汗でびしょびしょなんてレベルでは無く、絞ったら雑巾の様に絞れそうなほど汗を掻いて木陰で五人揃って引っ繰り返っていると言うのに、それでも小父様は何でも無かったかのように平然としている。

 

あまつさえ、走り足りないからとリュックを置いて再び走りに行ってしまう。

 

 

どんどん遠くなって見えなくなる背中を見ていると、ふとした瞬間に私だけ置いて行かれそうな気持ちに襲われてしまう。

 

 

何時も、そう。

お父様もお母様もとっくに私を置いて行ってしまったし、小父様だって何時もたった一人で戦いに行ってしまうんじゃないか。

 

 

そう考えると小父様は、そのうち本当に私を、私達を置いて帰って来なくなってしまうんじゃないか、と考えてしまう。

だけど、そうならないようにするには私が小父様の隣に立って、同じ歩みを進められるようになるしかない。

小父様に足並みを揃えて貰っていては力不足の私では邪魔になってしまうから。

 

 

 

 

 

 

 

「あ”ぁ”~”……めっちゃ涼しー……」

 

「はぁ”~”……ちょーてんごくぅー……」

 

一夏さんと鈴さんが寮の中にある長椅子にぐったりと座りこむ。

何時もなら自分の口から、

 

だらしがないですわ、捲れてお腹や背中が出てしまっているじゃありませんか。

 

なんて出て来るのだろうに、今日ばかりは全く言葉が出てこない。

私も椅子に座ってぐったりして、体操着が捲れているのに直す気力さえ湧かない。

 

箒さんもシャルロットさんも同じようにぐったりと座り込んで、何時もなら絶対に出さないであろう声を出す。

 

「流石に、疲れたね……」

 

「洋介兄さん、あれを毎日やっているのか……。それに加えて筋トレもこなすって……」

 

長椅子に腰掛けていると直ぐにエアコンに冷やされた空気が私達を包む。

本当に、文明の利器って最高ですわ。

 

 

 

 

「うわ、五人共どうしたの?そんな汗びしょびしょでぐったりしてさ」

 

「……お兄ちゃんにきたえてもらってたー……」

 

偶々通りかかったクラスメイトの鷹月さんに声を掛けられて、ぼーっっとしていた意識を戻す。

 

「佐々木さんに?」

 

「学園の外周丸々走らされてたんです……」

 

「え、学園の外周って50kmあるよ?それ丸々?この炎天下の中?」

 

「そうよ……。あの人やっぱ普通じゃないわ。私達と一緒に走って全員分の二リットルのスポドリ五本も入れたリュック背負って私達の所を行ったり来たりしてんのにぜんっぜん息乱してないんだもん……。しかも走り足りないって言ってまた走りに行っちゃったし……」

 

「あはは、お疲れ様。でもそのままだと風邪引くよ?」

 

「分かってますわー……」

 

そうやって会話していると、段々と身体が冷えていくのが分かる。

流石にそろそろシャワーを浴びないと。

 

でも、こうしていると気付かされる。

 

私達は、どれだけ甘い世界にいたのか、という事を。

 

ともかく、それを考えるのはあと。

本当に早く汗を拭くなり流すなりしなければ風邪を引いてしまいます。

 

「ほら、自分の部屋に行ってシャワーを浴びてきなさいな……このままだと風邪を引きますわよ……」

 

「わーかってるわよー……」

 

「それじゃ、シャワー浴び終わったらホールに集合ねー……」

 

「分かった……」

 

動こうとしない鈴さんを、どうにかこうにか立たせてそれぞれの自室に戻る。

 

 

 

 

 

今はルームメイトの如月さんも実家に帰省しておりませんし少しだけ寂しい。

 

殆どの人が実家に帰省している中、私達専用機持ちは帰っていない。

と言うのも、帰るには帰るのですが来週中に五日間ほど帰国するのです。

この三日間で、ブルー・ティアーズのメンテナンスだったりシステムアップデートを行ったりする。

 

そして実家にも帰ってオルコット家が経営しているホテルなどの状況を聞いて書類を片付けたりとかなり詰め詰めの日程ですが致し方ありません。それよりも小父様に会えない事などの方が辛いと言えば辛い。

チェルシー達に会いたい気持ちもあります。だけど……。

 

それを考えると、一夏さんと鈴さんはズルい。

だって一夏さんは母国が日本だからここから通う事だって出来るし、鈴さんだってそこまで遠くはないから戻ってくるのはイギリスからよりもずっと楽。

と言うか、一番の勝ち組って織斑先生だと思う。

 

だって、同じ部屋で寝起きして、休みの間も仕事があるとはいえなんだかんだで一緒に居る時間は長いしご実家にも一夏さん込みとはいえ一緒に帰る事が出来るし。

 

はぁ……。

いいなぁ、羨ましい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

直ぐに、体操着を脱いで洗濯機に放り込み、乾燥機も掛けて置く設定をして洗剤と柔軟剤を入れて回す。

体操着は替えを入れて三着あるのですが、この汗まみれの体操着を洗濯機の中に放置しておくのはちょっと……

 

思えば、ここに来た時は本当に洗濯機の使い方も分からなかったのですよね。如月さんに教えて貰っていなければどうしていたんでしょうか。

 

そしてシャワーを浴びる。

バスタブもあるにはあるのですが、今は取り敢えず汗を流してお昼ご飯を食べたい。

あれだけ動いたんですもの、お腹も空きます。

 

走り終わったときは何も食べたくありませんでしたけど、今は寧ろお腹が空いてしょうがない。

 

 

 

 

シャワーから出て、身体を拭いて、すぐに着替える。

特に服装は指定されていませんから何でもいいでしょう。

 

洗濯と乾燥が終わっている体操着を取り出して、皺を伸ばして畳んでおく。

 

そして集合場所の、各階にある円形のホールと呼ばれている場所に向かうと既に一夏さんと鈴さんがそこに。

 

「随分とお早いのですね」

 

「私って結構お風呂とか早いんだよねー。お兄ちゃんもすっごい早いからその影響かも」

 

「私も、あんまり長湯ってタイプじゃないしね。ぱっぱと済ませちゃうのよ」

 

「どれぐらい早いんですの?」

 

「私はシャワーだけなら十分ぐらいね」

 

「んー、私はシャワーだけなら十五分くらいだけどお兄ちゃん、お風呂もご飯も本気出すとどっちも五分くらいで済ませちゃうよ」

 

「……それ、本当にちゃんと洗えているのでしょうか?」

 

私なんか、温まるとなると普通に一時間以上掛かるのですが。

今日はただ汗を流すだけだったので短めにしましたがそれでも四十分は掛かっていると言うのに。

 

「あー、その気持ち分かる。私も疑った事あるもん。だから何度かコッソリ監視したことあるんだけどさ、お兄ちゃん、シャンプー使わないで頭も身体用の固形石鹸でゴッシャゴッシャ洗ってたんだよね。あれは流石にびっくりしたなぁ」

 

「何と言うか、小父様らしい、としか言えませんわ」

 

「でしょー?」

 

「でも、どうしてそこまで早く済ませられんの?軍人かなんかじゃないでしょうに」

 

「あー、私達がいたからかな。私達が小さい頃ってお兄ちゃん、仕事から帰って来て私達のご飯作ってお風呂に入れてくれてさ。それ以外にも洗濯したり食器洗ったりしなきゃならないから、出来るだけ自分に使える時間を削ってたんだ。だからだと思う。一番簡単に削れるのがお風呂とご飯の時間だし。睡眠時間は仕事に影響出ちゃうから削れないだろうし。って言っても私、その時まだ赤ちゃんだったりすっごい小さかったから殆ど覚えてないんだけどね」

 

そうやって、一夏さんと世間話していると、本当に私がどれだけ恵まれていたのか分かる。

私には両親が居て、メイドや執事の皆が居て、待っていれば食事は出て来るしお風呂も沸かされていた。

 

少なくとも、鈴さんも箒さんもシャルロットさんも同じだったはず。

ラウラさんは、どうか分かりませんけど……。

 

確かに、小父様は今でも十分に若々しいし三十代半ばとは思えない方ですけど、顔や背中には織斑先生と一夏さんを育ててきた苦労が滲み出ているのが、私でも何となく分かります。

親として、兄として必死に働いて家事をやって。

 

そうやって生きて来たからこそ今の小父様がある。

 

 

 

そうやって、昔の小父様の話に花を咲かせていると箒さんとシャルロットさんが合流。

箒さんが思いの外、遅いのが意外でした。

 

一夏さんと鈴さんは、まぁ性格を考えると速いだろうなとは思っていましたけど。

それじゃぁ食堂に、となったところで小父様が帰ってきました。

汗で顔もTシャツもびしょびしょですが、こう、何と言うか艶めかしいと言うか。

 

これは、激レア小父様ですわ!

 

 

「ありゃ?お前らまだ飯食ってないのか?」

 

「今の今まで集合待ちしてたから」

 

「そうなのか。あ、この後IS動かせるか?無理そうだったら筋トレだけにするから正直に言ってくれていいぞ。無理して事故でも起こったらそれこそ大事だしな」

 

小父様は、嘘だけは付くなよ、と釘を刺してくる。

本当は即答でやれる、と言いたいのですがそれで怪我をして小父様に心配を掛けてしまう事を考えると正直に答えた方が良いですわね。

 

「うーん……、私はやれないことも無いけど、どうかなって感じ」

 

「足がガクガクです……」

 

「私も、少し厳しいかと……」

 

「私も流石にキツイよ」

 

「厳しいです……」

 

「ん、分かった。そんじゃ今日は取り敢えずIS使うのは無しだな。まぁ、筋トレはするからそのつもりで」

 

そう言うと、小父様は部屋に戻ろうとする。

あれだけ走ったのに、どうしてあんなに元気なんでしょうか。

やっぱり、基礎体力の違いってことですか。

 

「佐々木さんも一緒に行きませんか?」

 

「んぁ?いやでも、腹減ってるだろ」

 

「大丈夫ですわ。小父様ならば何時までもお待ちしますもの」

 

「そんならご一緒させて貰うかね。まぁ、十分ぐらい待ってくれれば終わるから待っててくれや」

 

そう言うと、小父様は部屋に戻りました。

 

 

 

 

「あれ、絶対に五分ルートだよ」

 

一夏さんがぽそりとそう言った通り、ものの十分で戻って来た小父様。

 

 

「いやぁ、待たせちゃって悪いな」

 

小父様が来て、一緒に食堂に行く。

既に寮には私達を含めて極々少ない人数の生徒しか残っていない。

普段は賑やかな食堂も、私達以外には数人の生徒と昼食を食べに来た先生が何人かしか居らず閑散としている。

 

「いやぁ、なんか静かだな」

 

「そりゃ私達入れても十人ちょっとしかいないんだから静かに決まってんでしょ」

 

「何時もは騒がしいと思うけど、こう、静かだと寂しいもんだ」

 

「それよりも僕お腹空いたなぁ。早くご飯食べようよ」

 

シャルロットさんのその一言で、皆で券売機に並ぶ。

夏休み中は生徒が少ないから、料理は頼んでから作られる。

何時もはたくさん作って置いて、それをよそる形だけれど、それだとこの少ない人数じゃ無駄になってしまう。

 

「そうですわね。さて、何にしましょうか」

 

「おばちゃん、俺スタミナ定食特盛りと冷やしうどん山盛り、麺固めで」

 

「あいよ~」

 

小父様はとっくに決まっていたのか、すぐに注文を終える。

 

「私は何にしましょう……」

 

「体力使って、この後も体力使うからしっかり食っとけよ。じゃねぇと持たねぇからな」

 

そう言う小父様は、コップに水を注いで行ってそれを六人分、トレーに乗せ近くの席に座る。

結局、私は鶏肉の甘酢ネギ炒め定食を普段は絶対にしない大盛で注文した。

 

小父様は受け取った食事を前にのんびり座っていますけど、私達の中では小父様の隣を奪い合う熾烈な戦いが始まっているのです!

 

 

どうにかこうにか小父様の隣の席を獲得したのは私と鈴さんでした。

 

悔しそうにしている箒さんや、ぶーぶー言っている一夏さん、黒い笑顔を浮かべているシャルロットさん相手にふふんと自慢してみるとより一層に悔しそうにする。

 

でも一夏さんはご実家に帰るとき、ずっと一緒なのですから良いじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「頂きます」」」」」」

 

声を揃えて挨拶をした後に、ようやく慣れ始めたお箸で食べる。

 

「ん~……!美味しいですわ!」

 

「はっはっは、しこたま運動して腹減った状態で食う飯は旨いだろ?」

 

「はい!」

 

「あー、なんかすっごい体に染み渡る感じがする……」

 

今まで食べた事が無いほど美味しい食事を摂りました。

お陰でお腹が少し膨れて苦しいですけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を食った後。

一時間ちょい休憩して、再び体操着に着替えて寮の前に集合する。

 

時刻は三時。

丁度一日で最も暑くなる時間帯だ。

流石に日向でやる訳にもいかず、全員で日陰に移動して筋トレをする。

 

「取り敢えず、もう一回準備運動からだな」

 

全員でもう一度準備運動から始める。

筋トレと言っても、今日は腕立て腹筋背筋と言った基本的な物しかやらない。

スクワットやっても良いんだけど多分、皆長距離走って足使ったから今日は無し。

 

それはそうと、全員髪の毛が長いんだけどそれを地面に付かない様に短く結んできているのがすっごい新鮮だった。

お陰でうなじとか丸見えです。ごちそうさまでした。

 

 

 

 

 

 

 

「準備運動終わったな。そんじゃぁ、今回も取り敢えずどれぐらい出来るかを見極めるんだけど……」

 

「だけど?」

 

「最初にやり方とか正しい姿勢を教えとく」

 

腕立て伏せ、腹筋、背筋のそれぞれの正しいやり方を教えてから回数を計り始める。

 

「まぁ、取り敢えず自分のペースで限界までやってみてくれ。二人一組で交代で回数図るから。そんじゃ準備開始」

 

その一言で、ぱっぱと腕立て伏せの姿勢を取り始める。

で、ここで予想外の出来事が。

 

一夏、箒、セシリア、シャルロットの四人って巨乳さんじゃん?

で、腕立て伏せしようとするとだな。

 

お胸様がとんでもない事になりやがるんです……!!

 

重力に従って地面に向かって行く胸は、そりゃぁもう柔らかそうな訳よ。

箒なんか地面に付いちゃってるし!

 

ん?あぁっ!?鈴の顔が!

絶望に染まって、目だけは怨念を放つような感じになっている!?

 

「鈴!正気を取り戻せ!」

 

「ハッ……。胸がなんだ……。脂肪の塊がどうしたって言うのよ……。あんなん浮き輪にすらなりゃしないわ……」

 

「止せ!それ以上自分で傷を抉り込むのは止めろ!」

 

「クソォ……!何で私だけちんちくりんとかロ鈴とか言われなきゃならないのよ……!」

 

「駄目だ!思ったより重症だ!」

 

鈴は、自分で言って自分で死ぬほど傷口を抉り広げている。

そして遂にはぽろぽろと泣き出す始末。

 

あぁもうこれ分かんねぇな!

 

 

 

 

「元気出せよ。世の中胸が全てじゃねぇだろ」

 

「グスっ……!そう言う洋介さんだって巨乳大好きじゃん……」

 

「あれ、なんで断定口調なの?おかしくない?」

 

「……違うの?」

 

「……いやまぁ、そうだけども」

 

「ほぉ”ー”らぁ”ー”!!!」

 

「すまんすまんすまんすまん!今のは俺が絶対的に悪かった!悪かったから鼻水垂れ流しで殴り掛かってくんな!」

 

必死に鈴を慰める。

と言うか、こいつ相当ため込んでたんだな……。

 

「でも鈴には胸無くても沢山色々持ってんじゃん。気にしなくても大丈夫だと思うんだけど」

 

「……例えば?」

 

「一番小さいのに一番かーちゃんみたい」

 

「ぶっ殺すわよ」

 

「なんで!?」

 

褒めたはずなのに、寧ろ機嫌悪くなっちゃったんですけど。

 

「私、洋介さんの母親になるつもりなんて更々無いんだけど」

 

「そう言われるとそれはそれでなんか悲しいわ」

 

「まぁ、奥さんなら良いけど」

 

「何言ってんだお前」

 

結局三十分に渡って鈴をひたすら褒め殺した。

お陰で鈴のご機嫌取りは大成功したんだけど代わりに他四人がむすっ、とし始めた。

いやもう、俺達何してんだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

で、漸く始める訳なんだけども。

改めて見ても凄い。何と言うか、凄い。

 

自然と目線を向けちゃうんだよ。

 

おぉ……凄い光景だ……。

 

「小父様、その、あまり見ないでいただけると……」

 

「洋介兄さん、見過ぎです……」

 

「すいませんでしたァ!!」

 

恥ずかしそうに、顔を赤くしてそう言ってくる箒とセシリアに取り敢えず土下座しておいた。

一夏とシャルロットはどういう訳かまぁお兄ちゃんなら良いよ、とか言い始めやがったので無視しておきました。

 

因みにこの光景は俺の脳裏にしっかりと刻まれてしまったのは言うまでもない。

寧ろこんなん忘れろって方が無理あるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、色々あったけど始めるぞ」

 

俺のペアはじゃんけんによりセシリアになりました。

 

「そんじゃ、よーい始め」

 

その合図で腕立てが始まる。

俺の予想としては全員連続で多分、40回出来れば良いかな、と思ってる。

 

いや、腕立てってちゃんとした姿勢でやるとマジで負荷が尋常じゃないぐらい掛かってやべぇんだよ。

 

 

 

まぁ、案の定俺の予想通りになった訳で。

 

「ん”ー”!!」

 

「ふぅ”っ……!くぅ……!」

 

「うぁ”ぁ”ぁ”ぁ”……!」

 

三十回を過ぎた辺りでだんだんと上がらなくなってきた一夏、セシリア、シャルロット。

顔を真っ赤にしながら必死に下げて、上げようとするけどピクリとも上がらなくなっている。

あー、これは全員終わりですね。

 

「はい終わり。見た感じもう無理そうだ」

 

「っはぁぁぁ!なにこれ!?腕立てってこんなにきつかったっけ!?」

 

「あぁぁぁ……。もう腕が上がらないよぉ……」

 

「うぅ、二の腕が……」

 

「いやぁ、まだまだですなぁ」

 

それぞれ引っ繰り返って呻いている。

それでも一夏は42回、セシリアは45回、シャルロット43回を記録。

 

うん、まぁ上出来っちゃ上出来だな。

取り敢えず、その回数をメモ帳に書き込んでおく。

 

いやもう、そんなことより全員普段と髪型違うし走ってた時とは違ってなんかやたらとエロく感じるんですけど。

これ、俺が居ていい空間じゃない気がするんだけどもう気にしない事に決めた。

 

「あーい、お疲れさん。そんじゃ交代してちゃっちゃとやるぞ」

 

「小父様もおやりになるのですか?」

 

「そりゃな。お前達にだけやらせといて俺だけやらんって訳にもいかんだろ。取り敢えず、見本見せてやるから見とけ」

 

肩と手頸をグリグリ回して、何時も通り腕立て伏せの姿勢を取る。

その両隣では鈴と箒がそれぞれ同じように姿勢を取っている。

 

「準備出来たか?」

 

「大丈夫です」

 

「行けるわ」

 

「よし、それじゃ限界来たらその時点で終了な。よーい、スタート」

 

俺の合図で一斉に始める。

何時もならセットで百回を五セットやってからまた腕立ての別メニューやるんだけど、今回はひたすら黙々と限界まで腕立てをすれば良いだけだから楽だ。

 

 

 

 

 

 

「ッァ”ア”!!」

 

あと十回で四百!!

どうにかして超えたい!

 

あと五回!

 

「ン”ヌ”ァ”ッ”!!」

 

あと二回!!!

 

 

「ウォ”ァ”ァ”!?!?ッシャァ!400回達成!!!」

 

どうにかこうにか、400回を記録。

 

「だぁぁぁぁ……」

 

「……ねぇ、アンタって何者なの?」

 

鈴がヤベェ奴を見る目で俺を見てくる。

え、腕立てしただけなのに酷くない?俺めっちゃ頑張ったよ?ちょっと褒めてくれてもよくね?

 

結果として箒が48回、鈴が47回。

意外や意外、箒がトップだった。

 

 

 

 

そのあとは腹筋と背筋をそれぞれ同じように俺がやり方や姿勢を教えてから実施。

 

腹筋

 

一夏     64回

箒      62回

鈴      76回

セシリア   61回 

シャルロット 69回

 

俺      340回

 

 

 

 

背筋

 

一夏     124回

箒      119回 

鈴      130回 

セシリア   110回 

シャルロット 112回

 

俺      520回

 

 

 

背筋は運動をしている奴なら意外と皆100回を超えられるんだがそこからが辛い。

腹筋に関しちゃ、千冬みたいにうっすらと割れている訳じゃ無いからしょうがない。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、今日は取り敢えず終わりだ。ストレッチやって解散するか」

 

ストレッチを全員でしっかり、全身くまなくやっていると一時間近く経っていた。

気が付いてみれば、三時間近く経っている。

既に六時を過ぎていて空は夕日でオレンジ色。

 

「あー、すっごい疲れた……今日すっごく気持ちよく寝れそう……」

 

「そうだな……。こんなに運動したのは初めてだ」

 

「私も、全身プルプル震えていますわ……」

 

「と言うか、佐々木さん凄いよね」

 

「あんだけ私達以上にやって平然としてる洋介さんがおかしいのよ。凹む必要無いわよ」

 

口々に疲れただの、俺がおかしいだの言っている。

ひでぇなぁ。俺、皆にかっちょいいとこ見せる為に頑張ったってのにさ。

 

 

 

そのあと、それぞれ汗でびしょびしょになったからシャワーを浴びて。

まぁ、一夏達は大浴場に行ったんだけど俺は使えないからシャワーだ。

 

また、ホールに全員で集合して晩飯。

 

「美味しかったー!」

 

一夏はさっきまでの様子が嘘みたいに元気そうにしているが多分、明日になれば筋肉痛で地獄を見る事になる。

いやぁ、楽しみだぁ!

 

ここに居る五人が筋肉痛でヨタヨタ歩いてるのを想像するとなんか、笑える。

 

「よし、明日から本格的に始めるけど今日はさっさと寝る事。じゃねぇと冗談抜きで明日、起き上がれなくなるからな」

 

「「「「「はい」」」」」

 

「そんじゃ解散」

 

「ねーねーお兄ちゃん、後で部屋に行って良い?」

 

「お前俺の話ぜってぇ聞いてなかっただろ。今日はサッサと寝ろって言ったじゃん」

 

「えー、でも寝れないよ?」

 

「いや、絶対布団に入ったらスマホ弄ることも無く寝れる。断言するぞ」

 

多分、今日の一夏達の疲れって言うのは本人達は自覚していないが所要量を絶対に超えている筈だ。

寧ろ超えていてらわないと困る。

 

「一回ぐらいトランプとかやろうよ。そしたら大人しく帰るから」

 

「……一回だけだぞ」

 

こうやって、OKしちゃう辺り俺って甘いんだろうな。

多分、トランプ一回すら出来ずに寝落ちすんじゃねぇかな?

 

「それじゃ、皆お兄ちゃんの部屋に集合ね!」

 

そんなわけで全員俺の部屋に集合したんだけど。

 

 

 

 

 

「こいつら全員寝落ちしやがって……」

 

案の定、俺の予想通り五人共ぐっすりとトランプを手に持ったまま爆睡している。

マジどうしようかな……。

しかもまだ八時なんだよな。これ、下手に部屋に送り届けたら要らぬ噂が立つぞ。

だけどこのままにしておいてもそれはそれで、帰って来た千冬に何言われるか分かんないしな。

 

「まぁ、そん時に考えりゃいいか」

 

取り敢えず、全員に毛布掛けといて俺はトランプの片づけをする。

すると、ドアを開けて入って来たのはお仕事が終わった千冬だった。

 

「お、お帰り」

 

「あぁ、ただいま……待て、何故そいつらが居るんだ?」

 

「朝早くから鍛えてくれって言うから扱いて、一夏がトランプやろうって言うからやってたら終わる前に全員寝落ちした」

 

「……一夏ならまだしも、箒やオルコット達もか」

 

「まぁ、今日は相当追い込んだからな。しょうがないっちゃしょうがない。で、問題なんだけどさ」

 

「言わなくても分かる。どうやって部屋に送るか、だろう?」

 

「さっすが千冬、良く分かっていらっしゃる」

 

「まぁ、二十年近く一緒に生活しているから。それで、どうする?」

 

「どうする、とは?」

 

「送り届けるか、このままここで寝かせておくか。どちらかだろう?送り届けるとなったら兄さんはこいつらを抱えて行かなければならないしここで寝かせておくとなるとベッドは全部占有される事になる。ま、兄さんとしては美人に囲まれて嬉しいだけだろうが」

 

「それ言う必要ある?」

 

「それで、どっちにする?」

 

千冬さん、なんか楽しそうな顔でニヤニヤ笑っておられる。

何が楽しいのか分からんけども、まぁ楽しいのならそれはそれでいっか。

 

「どっちも何も、送るしか無いだろうよ。流石に床で寝るのは俺としちゃ勘弁願いたいからな」

 

「それなら、手伝おう。部屋番号は分かるか?」

 

「分かりません」

 

「だろうと思った。付いて行くから兄さんは運んでくれ」

 

「りょーかい」

 

千冬はマスターキーを持って、俺は一人ずつ運んで行く。

千冬には鍵を開けて貰わにゃならんし、人一人を抱えている状態じゃ流石に無理だろう。

 

五往復程度余裕に決まってんじゃん?おじさんだぞ?

 

 

 

因みに鈴は片手で十分でした。

 

 

 

 

運び終えた俺達はそのあと、自室でのんびりとしながら今日の話をした。

すると、どうやら千冬の闘争本能と言うか、何と言うか、久々に思いっ切り運動したいって欲が膨れちゃったらしく、今度千冬と一緒に運動する事になりましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







……なんでただ走って筋トレやるだけの話がこんなに文字数多いんですかねぇ。
汗だく美少女、エロいからだね、仕方ないね。







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夏休み?そりゃもう身体を鍛えるしかないでしょ! その2





前回の続き。










 

 

 

 

 

夏休み二日目。

 

朝七時に全員で朝飯を食った後に着替えて集合。

と言っても昨日とやる事は変わりなく、一夏達を鍛えるんだけど……

 

「う”ぁ”ぁ”……!筋肉痛凄いんだけどぉ!」

 

「そりゃ昨日あれだけ走ったからな。寧ろ筋肉痛になっててもらわんと困るんだよな」

 

「あだだだだ!!」

 

「はいそんじゃ昨日俺が作ったメニューやるんで準備運動しましょうねー」

 

下半身が昨日のランニングで筋肉痛、ガクガクでへっぴり腰の五人を連れて昨日と同じ様に準備運動をする。

いやぁ、昨日はちょっとシップでも貼っておけって言っときゃ良かったな。

 

もう、この光景見てる奴にしか分からんけども面白いと同時に悲惨。

 

どうにかこうにか準備運動を終わらせて、それぞれにメニューを配る。

と言ってもランニングに関してだけそれぞれ別メニューってだけで筋トレは全員ほぼ記録が変わりなかったから同じだ。

 

今の所は基礎体力の向上を目的としてるから、そこまで細かいトレーニングはしない。

 

ランニング 

シャルロット、一夏は25kmを一周。

箒、鈴は23kmを一周。

セシリアは21kmを一周。

 

一応タイム計測あり。目標としては全員が25kmを俺と同じ一時間ほどで走り切る事を目指す。

そこから距離を増やそうかな、と思ってる。

 

腕立て伏せ 45回を6セットで270回。

 

腹筋    50回を6セットで300回 

 

背筋    100回を4セットで400回。

 

大体こんなもんだ。

本来ならここにスクワットとか、腹筋も腹筋で鍛える部位を変えたりして色々加えても良いんだけどまだ最初だから取り敢えず基本的なこれらで身体を慣れさせるところから始める。

一週間ぐらいやったら徐々に種目を増やしていく。

 

 

 

「そんじゃランニングから始めるぞ。よーい、スタート」

 

その合図で一斉に走り出す俺達。

俺は、ランニングは何時もの距離を走るので一夏達を置いて走っていく。

 

ラウラはまだ来ていないけど九時ぐらい、大体走り終わる頃に束と一緒に来る筈。

取り敢えず、午前中は丸々トレーニングに使って午後はIS使っての特訓だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ”~……!足筋肉痛で変な感じするんだけどぉ……」

 

「僕もなんかすっごく動きずらくてやだなぁ……」

 

「なんか筋肉痛と今のランニングで足の感覚が訳分からなくなってます……」

 

「お疲れちゃん。距離短いからか割と早いな。一時間五十分ぐらいで全員走り切れてるから今はタイムを伸ばすってよりも距離を伸ばしていくからそのつもりで。ある程度距離走れるようになったらタイムを縮めていくぞ」

 

「はーい……」

 

全員筋肉痛でヒーコラ言いつつも結構速いタイムで走り切っているからこの様子なら結構早いうちにまぁまぁ仕上がるかもしれん。

そしたら筋トレだな。

 

「そんじゃ筋トレやるぞ。ほーら、日陰に移動だ」

 

「うぅ……」

 

五人を連れて、良さげな日陰に移動して俺のメニュー通りの筋トレを始める。

最初から出来るとは思っていない。取り敢えず最後までやり遂げてくれれば今はそれでいい。

 

「まずは腕立てからだ。今日は全員一斉に始めるからな」

 

足を引きずりながら、腕立てを始めるが明日になりゃ全身筋肉痛で腕も上がらなくなるだろうよ。

辛いのは最初の内だけ。慣れりゃなんて事は無い。

なんなら筋肉痛が気持ち良いって思えるようになれば最高なんだけどな。

 

本当は、師範に鍛えられた時と同じやり方でも良いんだけど、そうすると身体が出来ていないこいつらじゃ耐えられないだろうし、付いてこれたとしても身体を壊す事に成り兼ねない。

兎に角、鍛えるってんなら下地をしっかり作らにゃならん。

 

このメニューをこなして、IS使っても大丈夫なようになってきたら本格的に厳しくしていくつもりだ。

 

俺は俺のメニューをこなすとするか。

一夏達にキツイメニューをやらせるんだから、俺はそれ以上にキツイ練習をして当然だ。

じゃないと示しがつかないからな。

 

 

 

 

 

 

「はいお疲れさん。取り敢えず筋トレは終わりだ。そしたら時間的に昼飯だな」

 

「あー、お腹空いたよー……」

 

昨日と同じ様に一旦部屋に戻ってシャワーを浴びる。

そんでもって集合した後に昼飯。

 

五人とも、疲れてはいるようだけど食欲はある様で昨日と同じようにもっしゃもっしゃと勢い良く食べ進めている。

うんまぁ、この分なら大丈夫そうだな。

 

 

 

 

 

 

 

午後、昼飯を食い終わった後に職員室にアリーナの使用許可を取りに行って。

普段なら順番待ちなんだけど夏休みや冬休みに限っては殆どの生徒が帰省、若しくは帰国しているからガラガラだ。

機体の申請もしなくても良いぐらいには誰も残っていない。

だからすぐに許可が下りたし機体の申請も直ぐに許可が下りる。

 

一年でまだ寮に残っているのは俺達含めて数人だけらしい。

全学年で見ても二十人も居ない程だからな。

 

その面々も順々に帰省しているし来週になればセシリアが、再来週は鈴が国に帰る。

俺は来週、十日間家に久々に帰る。

 

箒も箒で久々に実家の篠ノ之神社に帰って掃除でもしようかな、って言っているし。

久々に俺もそれに合わせてお世話になったから手伝おうと思ってる。

千冬と一夏も一緒に来る予定だ。出来る事なら師範と華さんに会いたいが国家重要人物保護プログラムのせいで会えなさそうだ。

篠ノ之神社の夏祭りとか神楽舞も長い事やっていない。

 

シャルロットは父親に面会しに行くらしいしな。

ラウラは多分束の所で大騒ぎしてんだろ。

 

因みにラウラ、束のとこで初めて見るものが沢山で楽しいらしく、今日は俺の所に来ないんだと。

お父さんちょっと悲しいよ。

 

 

 

 

 

 

「よし、それじゃぁ早速始めるけど先ず全員が何を強くなりたいかを聞いておく」

 

「私は、ブレオンだから兎に角接近戦かな」

 

「私も同じ。衝撃砲があるって言ってもどっちかって言うと私は接近戦が主体だから」

 

「私もです。そもそも射撃武器なんて全く使えないのでそれしかありません」

 

一夏、鈴、箒の三人は接近戦のみと。

まぁ、妥当っちゃ妥当なんだけどな。

 

一夏は言った通り、ブレオンだし鈴も衝撃砲があるとはいえ性格からなのか接近戦での殴り合いの方が性に合っている。

箒は剣道ばっかで射撃武器なんて持ったことないし。

 

この三人に関しては、俺の専門と言うか得意分野を教えるわけだから問題無いんだけど。

 

「私は偏光射撃、でしょうか。BT兵器はそれが一番の強みですが私は使えませんし……。あとは接近戦に持ち込まれたときの為にそちらも」

 

「僕もセシリアと同じかなぁ。中距離に徹することが出来れば一番良いんだけどそんなことは絶対に無いし」

 

ただ、俺の専門外な中遠距離型のセシリアとシャルロットに関してはどうしたもんかな、と。

 

 

 

 

「取り敢えず、一夏、箒、鈴の三人は交代で組手しといてくれ。セシリア、シャルロットこっち来てくれ」

 

「「はい」」

 

三人には、兎に角練習とはいえ場数を踏ませる事にした。

これで幾らか慣れてくれると有難い。その間にセシリアとシャルロットの方を片付けちまおう。

 

「まずセシリア。セシリアは偏光射撃を出来るようにっつったけど、並列思考は出来るな?」

 

「はい、それは問題ありません」

 

「なら、ビットは最大幾つ同時に動かせる?」

 

「四つですわ。どうしても五つ目に行けないのです」

 

「あぁ、それに関しちゃそこまで悲観的に見る必要は無い。あくまでも俺の意見だが」

 

「お聞かせください」

 

「多分、セシリアの並列思考は五つか六つを同時に行うのが今の限界だからだ。だからビットを操作する事と射撃をする事の計五つで占められて、ビットを操作するときに自分は動けなくなる」

 

「そう、ですわね……」

 

セシリア本人が言った通り、セシリアは四つのビットを同時に扱うので精一杯だ。

だが並列思考の限界は五つ。それを考えると五機のビットを同時に操れるのではないかと考えるかもしれないがそれは違う。

 

このビット操作とは別に、射撃をすると言う動作とビットをそれぞれどう動かすか考える思考が入ってくる。

それを入れると恐らく計六つの並列思考が可能だ。

 

「まずセシリア、ビットを二つだけ操作して自分も動いて射撃。ターゲット出すからそれを狙ってくれ」

 

「?はい、分かりましたわ」

 

その俺の指示に従って、セシリアはビットを二つだけ操作する。

 

「セシリア、撃つ時に自分も射撃しつつ移動してくれ」

 

「え?ですが……」

 

「大丈夫、俺の考えが正しければ出来る筈だから」

 

不思議そうな、納得いっていないような顔をしながらも空中に浮いたターゲットを撃ち始める。

するとどうだ、セシリアは自分も動きながらビット操作と射撃が出来ているし、自分もしっかりとターゲットを撃ち抜けている。

 

「出来ましたわ……」

 

「凄いよセシリア!」

 

セシリアはセシリアで出来たことに驚いてぽかんとしているしシャルロットは興奮している。

 

 

 

やっぱし思った通りだ。

 

 

俺の予想通りセシリアは、出来ない訳じゃ無い。

ただ単純に、並列思考の数が足りていないからビットの数を増やすと出来なくなるってだけだったのだ。

 

今の操作に使った並列思考の内容は、

 

ビットを操作する事×2

射撃を行う

自分が移動する事

自分が射撃をする事

 

この五つだ。

とすると、セシリアには並列思考の余裕が一つある。

ってことは並列思考に余裕があるのならその分を別の事に回せるってことだ。

 

これを実証出来たから、多分セシリアは偏光射撃も出来る筈。

 

 

 

「そしたら次は偏光射撃をしてみ。あ、ビット操作と自身の移動はしないで自分の射撃のみでいいぞ」

 

「え?ですが私は偏光射撃が出来ませんが……」

 

「良いから良いから。さっきは俺の言う通り出来たろ?やってみろって」

 

「分かりましたわ」

 

俺の言う通り、自分の射撃だけで偏光射撃を実施したところ、俺と戦ったマドカほどエグイ角度で曲がったりはしないが、それでも確かに偏光射撃が出来たのだ。

 

「小父様!」

 

「だから言っただろ?」

 

「凄いじゃないかセシリア!」

 

振り返って驚きの表情のセシリアに、ニヤリと笑って言ってやるととんでもなく嬉しそうに、それこそ言葉にならない程に喜ぶ。

しかも、嬉しいのかなんなのか、思いっ切り飛び付いてきやがると来たんもんだ。

生身なら別に一夏みたいに受け止めてやれるんだけどさ、IS装備ってなると流石に無理。

 

ってことで避けさせて頂きます。

 

「何故お避けになるのですか!?」

 

「だって、IS装備してんだぞ。俺死んじゃうよ」

 

「あははは、なんていうか、凄い佐々木さんらしいや」

 

俺がそう言うと、セシリアは物凄く不満げにしながらむくれてシャルロットは苦笑いしつつちょっとほっとしているらしい。

 

「……なら解除すれば宜しいのですか?」

 

「え、まぁ、それなら良いけど……」

 

「それなら……」

 

セシリアはISを解除して、俺に態々飛び付いてくる。

そこまでする?

 

「ふふふ」

 

「……佐々木さん、織斑先生に言いつけますよ」

 

「シャルロットサァン!?それはヤバイぜ!?明日俺がミンチになって歩いて来ても良いってのか?」

 

「でも佐々木さんなら次の日には元通りにケロってしてそうだし」

 

信頼ってのが嬉しくないって思ったのは今日が初めてだ。

 

「セシリア、頼むから離れてくれ」

 

「嫌です」

 

「セシリア、佐々木さん困ってるから離れた方が良いよ?」

 

「あら、羨ましいのですか?」

 

「セシリア、何が目的か知らんけどシャルロットを煽るのは止めてくれ?ほんとマジ頼むから」

 

「小父様、もうちょっと強く、一瞬だけで良いので抱き締めてくれたら離れますわ」

 

「……あい」

 

多分、俺に選択肢は無いんだろうなぁ……。

セシリアの言う通り、一瞬だけ強く抱き締める。

 

「ん……。はい、ありがとうございます」

 

「勘弁してくれ、俺は千冬達に睨まれるのは勘弁だ」

 

「あら、その割には何時も楽しそうにしておられるようですが?」

 

「気のせいだ、気のせい。ほら、続きやるぞ」

 

シャルロットがめっちゃ不満そうにしてるけどそれを気にしたら駄目だ。

セシリアが離れて、もう一度ISを展開した。

 

「そんじゃぁ、次は射撃しつつ移動。出来る事ならビットを一機加えてみろ。ちょっとそれをやっててくれ」

 

「はい」

 

次の指示を出しておいて、今まで見ているだけだったシャルロットに指示を出す。

 

「次は、シャルロットだな」

 

「はい!」

 

「あぁ、そんな気張らなくても良い。生憎と、シャルロットにこれからやってもらう事は物凄く地味で、もしかすると辛い事だからな」

 

「地味で、もしかすると辛い事?」

 

「これからあちこちに100個のターゲットを出すから四十秒で全部撃ち抜け」

 

「四十秒、ですか?」

 

「そうだ」

 

この秒数なら一秒で2.5個撃破しなきゃならない。

俺だったら五十秒でも無理だな。

 

「行けそうか?」

 

「私の最高記録が、50秒で89枚だから、出来なくは無いと思います」

 

「よし、それなら早速やるぞ。言っとくが、シャルロットの場合は次の段階に行くまでひたすらこれをやってタイムを縮めるだけだ」

 

「大丈夫です」

 

「よし、なら行くぞ。管制室の方で40秒ごとにリセットされるようにしておいたから、後は延々とやってもらう」

 

「はい」

 

「そんじゃ、よーい、スタート」

 

今回シャルロットにやってもらうのは反射神経を徹底して鍛えて貰う事だ。

セシリアと違って、一発一発狙いをつけて撃つって訳じゃぁない。

 

中距離で弾をばら撒くのがシャルロットの戦術だ。

ただ、この時幾らISとはいえ弾数には限りがあるし、それを考えるならば出来るだけ数多くの弾を当ててダメージを出す方が誰だって良いってことは分かる。

 

そこで、今回の特訓って訳だ。

先ず、静止目標を自分も動かない状態でひたすら撃ち続ける。

素早く狙いを付けて撃って次の標的に。

 

この速度を徹底的に上げることが目的だ。

次の段階になったら移動目標を狙う事。

その次は自分も目標も高機動状況下で撃つ。

 

だいたい三段階ぐらいに分けられるんだけど、一段階の時点で相当厳しい。

なにしろ、100個の目標に対して40秒で全て撃ち抜かなくちゃならんのだから。

 

さっきも言った通り、一秒で2.5個の目標を撃たなきゃならん。

代表候補生の中で考えれば、相当速い。

 

だが、国家代表はこんなの平然とやってのける。

なんなら自分が瞬時加速を使った状態で目標が静止目標ならこのタイムをクリアする代表なんて多くは無いが確実にいる。

 

夏休み中に、と言う訳じゃないがシャルロットにはそのレベルを目指してもらう。

シャルロットは必死に撃っているがあの様子じゃ一発クリアは難しそうだ。

 

 

 

 

 

「セシリア」

 

「はい」

 

「セシリアには、並列思考の数を増やしてもらう」

 

並列思考ってのを、改めて調べてみると、簡単にできる事と出来ない事がある。

 

先ず簡単に出来る事の例を挙げるとすれば、

 

・音楽を聴きながら勉強をする。

・車の運転をしながら話をする。

・音楽を聴きながら絵(漫画、絵画等)を見る。

 

大体こんなもんだ。

この挙げた例ならば、普段誰もがやっていることだ。

学生なら耳にイヤホン突っ込んで音楽掛けて勉強、なんて寧ろ普通だろうしそうでない方が逆に今の時代マイナーですらあるんじゃないか?と思う。

 

で、逆に難しいものを上げるとすれば、

 

・二人の人間の話を聞き、聞き分ける。

・何かしらのゲームで対戦中(例えばテ〇リスで考える)に自分のフィールドと相手のフィールドを同時に見るのではなく『把握』する。

 

そして、セシリアの様なBT兵器を扱う事だろう。

 

 

ここで、なんで簡単な並列思考と難しい並列思考に分けられるのか、と言うのをまず説明しなきゃならない。

これには脳みその小難しい話になってくるんだがそれでも聞いて欲しい。

 

脳ってのは、基本的に例えば物を持つ、会話をすると言ったように特定の処理ごとに別々のCPUを持っていると言われている。実際に、脳では処理内容ごとに活性化する位置が丸っきり違う。

 

例で挙げた、車を運転しながら話をすると言うのは、運転をすると言うCPUと会話をすると言うCPUの別々の物を使っている。

別々のCPUを使う事で並列思考は簡単にできている。

 

一方で、別の音楽を同時に聞くとなった場合、音程処理を行うCPUを1つだけで2つの処理をする事になる。

そうなると当然、処理が追い付かなくなりやすいってのは分かる話だ。

 

簡単に言えば、同じ処理を同時に行うのはとんでもなく難しいが、別の処理をする場合は同時にやっても簡単ってこと。

 

 

何か一つの事をやっていれば、当然その処理に関するCPUを100%使えるが、別の事を並行してやらにゃならん、ってなると並列化の処理が必要だから100%は使えないがそれでもそれぞれ80%は使えるらしい。

 

だからよっぽど慣れていない事でもない限りは一つの事をやるときと大して変わらずに出来る

 

だが、同じことを並列してやるとなると並列化の処理も入れれば、それぞれの処理に割くことが出来るCPUは50%以下。

50%以下ともなると、半分無意識にやっているようなものだから、相当熟達していないと出来ない。

 

要するに、脳での処理の難易度ってのは一つの処理にどれだけ多くCPUを使えるかで決まってくるって訳だ。

で、どうやったら並列思考の難易度を下げたりすればいいのか、って話をするとだ。

 

小難しい言葉で言えば、一つの処理に必要なCPU占有率を下げれば良い。

 

簡単に言えば、『慣れ』ってことだ。

 

何度も同じことを繰り返し処理していると、身体もそうだが脳みそのCPUの中に所謂、マニュアルと言うか、命令のセットみたいなものが作られて行って、いくつかの段階を踏まなければ出来なかった事が一発で出来るようになる。

 

例えば、魚を捌く。

始めは、必死にここに包丁を入れて、こうやって切って、と色々考えるが慣れるとそんなこと考えなくても出来るようになるだろ?

 

もっと簡単に言えば、CPUを100%フルで使わないと出来ない事が慣れていくうえで90%、80%、70%、60%で出来るようになるってこと。

 

この慣れってのは凄いもんで、例えば30%で出来たとするとそれを二つやったとしても並列化されても100%を超えないから出来るようになる。

 

だがこれが三つ、四つとなると急激に難易度が上がってくる。

三つの場合は最低でも絶対に30%以下、理想を言うならば25~20%で、四つになると15%ほどで処理をしなければならないからだ。

 

別の処理の場合は二つでも三つでも内容さえ重なっていなけりゃ多少慣れるだけで簡単にできるんだけどな。

 

 

 

 

 

 

ただ、BT兵器を扱う上で今まで説明してこなかった事も絡んでくるのでそっちも説明しておこう。

 

並列思考とは別の意味、ベクトルで難しい『並列処理』ってもんがある。

 

例としては文章を書きながら絵を鑑賞するって感じ。

 

ただ、これは少なくとも目ん玉が前を向いて二つしか付いていない普通の人間には出来ないことだ。

ってのも、この並列処理ってのは、二つの異なる位置にある物を同時に人間は見る事が出来ないから。

カメレオンみたいに両目を別々の方向に動かして見ることが出来る人間が居たら、それは人間じゃない。

 

この並列処理は物理的に不可能だから絶対に、生身の人間では出来ない。

因みに言っちゃうと、テト〇スで自分と相手のフィールドを同時に見られないと言うのはこの問題じゃぁ、無いのであしからず。

だって、テレビの電源を切ってみればテレビ全体は見られるだろ?

 

自分と相手のフィールドを同時に見られないのは、情報を処理しきれなくなる、例えば追い詰められたりだとか、ミスをして焦ったりして無意識のうちに視野を狭くしてしまうからだ。

 

 

だが、この並列処理には出来るようになる方法がこの世の中でたった一つだけ存在する。

それが、束が開発した『ハイパーセンサー』、若しくはそれに類する機能を持ったセンサー類を使う事だ。

 

問題なのは、ISに使われている技術ってのはとんでもなく電力を使う。

例に漏れずハイパーセンサーだってそうだ。

 

だけどそれらを稼働させられるのは、コアそのものが発電機関として原子炉や核融合炉を超えるほどに優秀で安全だから。

 

要はISに乗れば可能ってこと。

 

 

 

ハイパーセンサーは、説明するとすれば周囲360度、上下左右関係無く全方位を見ることが出来る。要は目ん玉二つだけで死角が無くなるってことだ。

しかも設定にもよるが200m先からまつげの先端を視認することができるぐらいには超高性能、なんならオーバーテクノロジー。

で、このハイパーセンサーってのは標準としてターゲットサイトを含む射撃、銃撃に必要な情報をIS操縦者に送る、射撃補佐システムってのがある。

 

それに加えて高速戦闘時に視覚情報の処理速度を向上させる機能もあるってんだから驚きだ。

他にもいくつか機能はあるんだが取り敢えず、直接並列思考や並列処理に関係するこれらだけで。

 

このハイパーセンサーのお陰で二つの異なる位置にある物を見ることが出来るから並列処理が出来る。

 

 

 

このハイパーセンサーを使う事で並列思考と同時に並列処理も行える。

ただ、BT兵器に限らず第三世代機の機体に使われている兵器はこの二つの処理が完全にできる、と言う前提の下で設計されて運用されるようになっている。

それを考えると欠陥なんだけどな。

 

セシリアだけじゃない、ラウラのAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)もそうだ。

あれを使う時、ラウラはAICを使って止める物体に、それも正面のみと言う制限された状況で完全に意識を割かなければならないためにそれ以外の事に関してはまるっきり出来なくなる。

 

 

並列思考、並列処理を同時に、それも複数行えるセシリアは、偏光射撃が出来ないからと言って凄くないと言う訳じゃない。

寧ろとんでもなく凄い。

 

現状、セシリアは五つないしは六つの並列思考を行う事が精一杯。しかもどれもこれもが同じCPUを使うと来ているのだからエゲつない。

俺だったら多分、やろうとしてイラついてキレる。

 

六つの並列思考をすると言う時点で、ISによる補助があるとはいえCPU内での割合は一つをそれぞれ最低でも10%にまで落とさなけりゃならん。

これを最低十以上の並列思考を、となると一つにつきたったの数%しか割けなくなる。

 

とすると、これを出来るようにとは言わないがこれに出来るだけ%を近づけなければならない。

 

となると、さっきの説明通りとことん慣れるしかない。

 

 

 

それらの説明をセシリアにする。

 

「兎に角、セシリアにやってもらうのはとことん、徹底的に慣れる事。それで脳みそのCPUの占有率を徹底的に下げる。いいな?」

 

「はい、分かりましたわ」

 

「それじゃぁ、反復し続けろ。始め」

 

セシリアは直ぐに始めた。

いやもう、本当に地味でつまらないけどこれが一番なんだよ。

 

 

そんじゃ、次は一夏達だな。

と言っても、一夏達は近接を鍛えて欲しいとの事だから俺を相手に延々と組手をするだけなんだけどな。

 

 

それぞれのやる事を夏休み中、徹底してやってもらう。

多分、夏休み明けには今と違って大きく成長してるだろうさ。

 

時折休憩を挟みつつ、夜の七時頃まで続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして空も段々と暗くなったころに今日の特訓は終了。

 

「しゅーごーう!」

 

適当に集める。

一夏、箒、鈴の三人は俺にボコボコにやられてぐったりしてる。

 

なんて言うか、まだまだ場数が足りていないって感じだな。

戦い慣れていないって言えばいいんかな?こう、まだ判断が甘かったりするのは仕方が無い。

 

ひたすら組手するしかないな。

 

 

 

一番最後に遅れてきたセシリアを見て驚いた。

 

「おい、セシリア鼻血出てんぞ!」

 

「え?……あ、本当ですわ。今まで全然気が付きませんでした」

 

すると、今まで物凄く集中していたのかセシリアは鼻血を出していた。

結構長い時間鼻血が出ていたけど本人も気が付いていなかったらしく、ISスーツの方まで汚れている。

 

「あー、すまん。ティッシュとか持ってないわ」

 

「いえ、問題ありませんわ」

 

「そんじゃぁ、片付けは俺がやっとくからお前らは着替えて風呂に入って来い。以上、解散」

 

取り敢えず、解散する。

片付けと言っても管制室に行って今日はこれ以降の使用者が居ないから電源を落とすのと、打鉄を格納庫に戻して整備申請書を書くだけだ。

 

飲み物は一夏達にそれぞれ持って来させているから俺が持ち帰らなければならないのは自分の飲み物だけ。

 

それらの片づけが終わってから元々女子用の更衣室一つを丸々男子用にした馬鹿みたいに広い更衣室でちゃっちゃと着替えて部屋に戻る。

すると、今日はとっくに千冬が帰って来ていた。

 

相変わらず、Tシャツと短パンと言うラフな格好でベットに寝そべっている。

 

「お、今日は早いじゃねぇの」

 

「まぁ、早く仕事が終わるときもあれば遅いときもあるからな。兄さんだってそうだっただろう?」

 

「その通りだな。俺は風呂入った後に一夏達と飯食いに行くけどどうする?一緒に行くか?」

 

「ん、いや遠慮しておくよ。残念ながら山田先生と食べたのでな」

 

「あいよ」

 

着替えを持って服を脱ぎ、シャワーを手早く済ませる。

全身しっかりと拭いてから着替えて出る。

 

「洗濯物、回しておいたからな。乾すのは自分でやってくれ」

 

どうやら俺の洗濯物を洗っておいてくれたらしい。

通りで洗濯機が回っている訳だ。

 

「あんがとさん。そんじゃ飯食いに行ってくる」

 

「あぁ、いってらっしゃい」

 

千冬に見送られて、一夏達と集合。

食堂で今日もまた旨い飯を腹一杯食べた。

 

 

 

 

 

「セシリア、鼻血大丈夫だったか?」

 

「はい、特に身体にこれと言って何か支障はありませんわ」

 

「そりゃよかった」

 

「ただ、ちょっと疲れました」

 

「あんだけ脳みそ使ったらな。今日はもう部屋に帰ったらすぐに寝た方が良いぞ」

 

「はい、今日はありがとうございました。おやすみなさい」

 

「ん、おやすみ」

 

最後に、セシリアの鼻血だけ心配だったから声を掛けたがどうやら元気そうだ。

ただ、やっぱり脳を物凄く使ったから顔は疲れているけどな。

 

 

そんじゃ、俺も明日に備えてとっとと寝るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










脳内の並列思考の話、あれは作者の独自の解釈が入っていますので、当然間違っている可能性があります。

それを丸々信じてその際に読者の皆様が被った如何なる被害も作者は責任を負いかねますので、ご了承下さい。




 






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夏休み、寮住まいの学生達にはお家に帰ることが出来る数少ない機会だね、楽しみだね。






お家に帰るおじさん。






ヤバイ、サブタイが段々ネタ切れして来たぞ。









 

 

 

 

 

 

 

夏休みに入って一週間が経った。

早いもんで、毎日一夏達を鍛えるべく走り込みと筋トレ、ISを使ってのそれぞれの特訓を昨日まで続けていた。

 

まぁ、五人とも最初よりはランニングと筋トレに慣れてきた頃合いだが残念ながら今日から来週まで全員での特訓はお休みだ。

 

セシリアが今日から5日間イギリスに帰国するし俺も俺でひっさびさに家に帰る事になってる。

シャルロットも父親に面会するために明日からフランスに帰国するし、セシリアが帰って来たのと入れ替えで鈴が帰国、一夏も一週間に渡って日本代表候補生の合同訓練合宿に参加するために出掛けちまうから、来週に全員が揃うまではそれぞれ俺が渡したメニューをこなすように、という事になっている。

 

箒は箒で明日から実家の篠ノ之神社に帰る予定だし、しょうがないっちゃしょうがない。

一夏と箒は、家が近いってのもあるから俺と一緒にランニングと筋トレだけはやる。

まぁ、ISは流石に使えんから、その分ランニングと筋トレをガッツリやる予定だからな、二人とも一週間後ぐらいには何時ものメニューに戻ったら多少は楽に感じられるだろ。

 

 

そんなわけで久々の我が家。

千冬と一夏と一緒にのんびりとリビングのでっかいソファに座ってまったり。

テレビをつけて、道中で借りてきた映画を観る。いやぁ、なんかこう、凄く久しぶりで良いですねぇ……。

 

IS学園のそれぞれの部屋にはテレビがあるんだが、共有の部屋だから自分の好きな番組を好きな時に見られる訳じゃないし、しかも俺なんかは久々の学生生活が楽しくてテレビを見る機会すら減っていた。

千冬含めて一夏達の相手をしてたのも理由の一つだぁな。

 

 

 

「兄さん、久々の家はどうだ?」

 

「さいっこう……。やっぱ一番落ち着くわ……」

 

ソファに思いっ切り身体を預けて、千冬に聞かれるとそう答えるしかない。

やっぱし自分ん家のなんつうのかな、匂いとかが凄く落ち着く。

 

部活の合宿とかで帰って来た時も、それまで張り詰めていた感じも一気に抜けていく感覚分かる人なら共感して貰えると思う。

確かにIS学園の寮も千冬と同じ部屋ではあるけど、それでも、何処まで行っても寮は寮だ。家ではない。だからこう、落ち着けるとは言ってもその質が桁違いなんだよな。

 

一夏は涎を垂らしながらくーすか眠りこけているし、千冬も久々の休暇とあって目の下に隈を作ってはいるが割と元気そうだ。

まぁ、眠そうっちゃ眠そうなんだけど、それでも俺と一緒に映画を観ると言う意思が余程強いのか寝ようとはしない。

 

それはそうと、千冬さんがガッツリ腕組んで来て離してくれないんだけど、どうすればいいと思う?

あと一夏さんが思いっ切り寄り掛かってくるんだけど、涎がめっちゃ垂れててTシャツが湿って、と言うかべっちゃべちゃでぶっちゃけちょっと気持ち悪いんですよね……。

嫌だって訳じゃァないんすよ?思春期真っ盛り、片方は大人とはいえ妹達に好かれてんだからそりゃぁ嬉しいに決まってんじゃん?

 

普通ならこの年齢の妹、ってなると反抗期と言うか、まぁ、想像するだけでも泣いたくなる様な罵声を浴びせられているのが世間一般じゃん?それがどうよ?

思春期真っ盛り、華の15歳女子高生の妹どころか24歳にもなる社会人としてバリバリ働いている妹ですら兄貴にべったりなんだぞ?ぶっちゃけ、嬉しい気持ちも凄いあるけど、寧ろこれから先が心配になってくるわ。

 

 

 

 

そうは言ってもやっぱし嬉しいのは変わりないわけで。

とかなんとかで、甘やかしちゃうのも悪いんかなぁ……。

 

でも嫌われたくはないし、でも兄離れしてもらわんとならんし……。

 

そんな感じの気持ちで揺れ動いているのは、幸せ者の証拠なんだろうな。

 

 

 

 

「おい、一夏。寝るんだったら自分の部屋で寝ろって」

 

「んぅ~……」

 

軽く肩を揺らして起こそうとしてみるも、起きる気配は全く無い。

と言うか、そろそろ昼飯の時間では?腹も減ってきたわけだし、普段家にいるときは一夏が飯を作ってくれている訳なんだけどこの様子じゃ期待出来そうにない。

 

となると、俺か千冬のどちらかなんだけど。

千冬は掃除洗濯なんかの家事は出来るんだけど、どういう訳か料理だけが完全に出来ない。

作ろうとすればどういう訳かデフォルトでこげっこげだし、味もセシリア程とは行かないが割とぶっ飛んでいる。

 

そうなると、俺が作るしかない訳で。

 

「ひっさびさに、俺が昼飯作るとするか」

 

「ん、それなら私も手伝おう」

 

「いやいや、座って一夏見といてくれや」

 

「む、そうか。それなら、久々に楽しみに待つとしよう」

 

千冬はそう言うと俺が退いた後に一夏をソファに寝かせる。

学園にいる時とは違って、教師としてでは無く一人の姉として一夏に接している。

 

頭を撫でながら嬉しそうにしている。

 

まぁ、血の繋がった、と言えばいいのだろうか、この世界で唯一の肉親だ。

俺はまぁ、兄貴と言えば兄貴だが、血が繋がっている訳じゃない。

行ってしまえば義理の兄貴ってこと。

 

それを感じさせない位には、愛情を注いで育てて接してきたつもりだしな。

 

まぁ、義理だろうが何だろうが兄貴である事には変わりない。

 

 

 

そんじゃ、今日の昼飯は何にしようかな~?

 

冷蔵庫の中には、卵と鶏肉、それに玉ねぎがある。

よっしゃ、親子丼だな。

 

三つ葉が無いのがちょっとばかし寂しいが、しょうがない。

味付けなんかは一夏見たく繊細に出来ないが、そこは男飯ってことで。

 

これでも進歩したんだぞ?

最初なんかクッソ適当な煮る焼く炒める程度しかやらんかったんだから。

 

それからは流石に子供にこんなもん食わせてたまるか、と思って料理本買ったけど結局そんな手の込んだもんを作る時間が無くて開くことはあれど、しっかりと読み込む時間も作れなかったから実際に作った料理となると料理本の中のほんの10品ぐらいだ。その中の一つが親子丼、だったってわけなんだけど。

 

さぁて、今でもちゃんと作れっかなぁ。ちょっとばかし心配だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、飯出来たぞー」

 

「ん、分かった。ほら、一夏。兄さんがお昼ご飯を作ってくれたぞ。起きないと二人で食べちゃうぞ」

 

「お兄ちゃんの作ってくれたご飯!?食べる!」

 

ぐーすか寝ていたのに、俺の作った昼飯、と聞いた瞬間に目を爛々と輝かせて飛び起きた。

一応、お代わり用の分も多く作っといたから大丈夫だとは思うけど……。この勢いだと全部食べ尽くしかねないぞ。

 

うん、まぁそれはそれで作った飯を旨い旨いつって食ってくれるのは嬉しいから良いんだけどさ。

 

 

それから昼飯を三人で、久々の家で机を囲んで食べた。

学園の食堂で食う飯も旨いが、家で食う飯の旨さと言ったら格別よ。

 

思わずお代わりを二回ほどしてしまった。

俺も一夏の事は言えんわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は取り敢えず、一日まったり久々の家族水入らずって感じで過ごして。

晩飯を食って滅茶苦茶久しぶりな、自分の部屋で自分のベッドで寝た。

睡眠の質が違った気がする。

 

まぁ、千冬は言わずもがな、一夏も久々に布団の中に潜り込んで来ていたのはご愛敬って事だろう。

冷房ガンガンだったのにくっ付かれてるから暑くてしょうがなかったけど。起きたときに思わず、

 

「あっつ……!?」

 

って言っちゃったし。

 

 

 

 

 

 

 

ともかく、朝になったってことで当然起きるわけだ。

今日は篠ノ之神社の方に顔を出そうかと思ってる。

 

道場や境内の表立った方は門下生や近所のおじいちゃんおばあちゃん達がボランティアで掃除をしてくれているんだが、それ以外の境内奥の方や篠ノ之家が住んでいた建物なんかは残念ながら篠ノ之家が国家重要人物保護プログラムでバラバラになったあの日から一度も掃除が出来ていない。

 

もしかすると、束がちょくちょく来ては掃除していたかもしれんがあいつにはあいつのやる事があるから出来ていなくても仕方が無い。

箒も今日から帰省する予定だし、一緒に掃除するのもいいだろ。

千冬と一夏も一緒に来るから、掃除戦力は四人になる。

篠ノ之神社は全部の建物や敷地を含めると山一つ二つ分も含まれるから小市民なおじさんからするとビビるぐらいに広い敷地面積なんだけど、流石にこの休みの期間だけで全部を掃除しきるのは無理があるからな。

建物に限定する。

 

驚いたことに篠ノ之神社は参拝者が結構多いらしい。

その中にはさっきも言ったがご近所の宮大工やら大工のおじいちゃん達も多い。

馴染深い神社で、朽ち果てさせるのも、ってなわけで本当に自分達には一銭も入って来ないのに、補修をしたりしてくれているとのこと。

 

だから、人が完全にいなくなった訳ではないので、まだ良い方だろう。

建物なんかは人が使わなくなると、使っていた時以上の速さで劣化がすすんだりするからな。

 

そう言う意味では、範囲が少なくなるから今日の掃除は楽だろうな。

 

 

 

 

 

ってなわけで、三人揃って篠ノ之神社へレッツゴー。

車で行くのもアリっちゃアリなんだけど、今日は歩いて行くことに。

 

因みに以前一夏と帰って来た時と同様に護衛の人がどっかにいるらしい。

え?別にその人達の気配を探る必要は無いだろ。俺は俺の夏休みを満喫するのだ。

 

 

少し歩くと篠ノ之神社に参拝するための割と長い階段が目の前に現れる。

篠ノ之家宅に行くにしてもこの階段を上り切らないといけない。

 

篠ノ之道場に通ってた門下生達はこの階段を使ってしこたま体力錬成をさせられる。

因みに、俺も無手ノ型を教えて貰っていた時に師範の指導の下他の門下生の十倍はきっついメニューをやらされたもんだ。

 

普通なら階段五往復とか、年齢や運動経験とかを考えてメニューを考えてくれるんだけど、俺は最初から朝七時から昼十二時丁度まで延々と階段を往復していた記憶がある。

いやぁ、学生の頃の夏合宿とかもまぁきつかったが、師範との体力錬成や特訓はそれの遥か雲の上どころか別の時空とか宇宙レベルでぶっ飛んでいた。

 

ガチで気絶するまで走る事になるとは……。

幾らそれまでも自分で筋トレとか走り込みをしていたとは言え、ありゃぁマジで辛い。

社会人として働いている一端の男が腕立てをしていて、辛くて辛くて泣くとかやばくない?

組手になったらなったで師範にボッコボコにされるし。

 

いや、もうこの話は止そう。

鳥肌立って来た……。

 

 

 

階段を上り終えると、二十mほどの石畳の先に立派な鳥居が。

鳥居を抜けて、真っ直ぐ言ったところにでっかい社が。お寺で言う所の本堂みたいなところだろうか。

 

正直、篠ノ之神社の敷地や神社、建物に関しては詳しいんだが名称とかはあまり詳しいとは言えないんだがなこれが。

 

年末年始とか、夏祭りは手伝ったりしていたんだが広すぎて覚えらんねぇのよ、これが。

大体の位置とか間取りは頭ん中入ってるんだが、名称自体は覚えていない、って感じ。

 

ともかく、神社の裏手にある篠ノ之家宅の方に。

 

取り敢えず、呼び鈴を鳴らしてみると、中から足音が聞こえてくる。

 

「はーい……。洋介兄さん!」

 

「おーっす、来たぜぇ」

 

「千冬さんに、一夏もよく来てくれた。さ、上がってくれ」

 

「おじゃましまーす!」

 

「おじゃまします」

 

箒も、休みだってこともあって昔の様に千冬に対して敬語は使っていない。

でも小さい頃は千冬お姉ちゃんとか、千冬姉さんって呼んでたんだけど、流石にもう呼ばなくなったんかな?

 

「本当は、お茶の一杯菓子の一つぐらい出したい所なんだが、何せ家の方は全く掃除も何もされていなかったから、食べ物も何も無いんだ。申し訳ないが、今日は何も出せそうにない」

 

「気にすんな気にすんな。今日は兎に角掃除をするんだろ?さっさと終わらせてなんか出前か食いにでも行くとしようぜ」

 

お茶も出せない事に箒は申し訳なさそうにするがそりゃ仕方が無い。

何しろ、篠ノ之家宅の方は神社や道場と違って政府から立ち入りが禁止されていたからだ。

 

道場や神社には他の人達も使うってことで、はっきり言ってしまえばIS関連のナニカを隠しておくことは出来ないだろうという事で出入りが許されていた。

 

まぁ、本当は篠ノ之神社の敷地全てを立ち入り禁止にしたかったらしいが師範と華さん、そして何よりも束自身からの反対があったという事で渋々許可を出した、って裏話がある。

そん時、確か束が家族を連れて雲隠れするよ、と脅しを掛けたんだっけか。

 

まぁ結果的に束は全世界から、雲隠れして月面に居る訳なんだけどもさ。

束から聞いた話じゃ師範と華さんとは、バラバラになったときに連絡手段すら取り上げられたらしいけど、束からすればそんなもん何のハンデにすらならない。

自分で作った連絡用端末を二人に渡して、結構頻繁に連絡を取り合っているらしい。

流石にまだ小学生だった時の箒には渡してはいなかったんだけどさ。

 

まぁ、箒は箒で束とは連絡とって、一夏とは偶に顔を合わせていたらしいから、確かに両親に会いたいと言う気持ちはあれど我慢出来ると言う感じらしい。

今は俺や千冬、一夏も居るし、学園には鈴やセシリア、シャルロット、ラウラを始めとした親しい友人もいるわけだしな。

 

 

 

まぁ、それはさておき。

門下生始めとして、俺も千冬と一夏ですら立ち入り禁止にされていて、五年以上の期間を無人で掃除すらされていた家ってのは酷い有様な訳で。

そりゃ床、机の上や棚の上には数センチにもなる埃が積もりに積もっている。

 

歩こうものなら靴下は直ぐに真っ黒になるだろう。

 

「一応、水場までの床はざっと拭いたんだが、何せこの有様だからどこから手を付ければ良いのか分からなくて考えていた所だったんだ」

 

「それじゃ、皆で分担して掃除しようよ。掃き掃除担当、拭き掃除担当で二人ずつ分かれてさ。そうすれば取り敢えず床とかは直ぐに終わるでしょ」

 

「ん、そうだな。細かい所は後々やるとして、今日は大まかな所を片付けちまおう」

 

箒の指揮の下、二人づつに分かれて掃除を行う。

力仕事を出来るように、俺と千冬は分かれて、俺は一夏と、千冬は箒と一緒に篠ノ之家宅を掃除を終わらせるべく駆け回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掃き掃除から始まり拭き掃除をして回って。

掃除機?長年使われていなかったことでご臨終しておりました。

 

取り敢えず、台所と洗面所、脱衣所、風呂場、とかの衛生面的に直結しそうな場所は念入りにやって置いた。

いや、人が入らなくなった風呂ってすごいと言うか、エゲツナイ事になるんだね……。

 

思わず数時間ぐらい必死に掃除し続けちまったよ。

だって、あんな状態になっていた風呂に箒が入るんだぞ?俺だってウェッ!?ってなるのに、箒に中途半端に掃除した風呂に入らせるわけには行かねぇだろ!

 

と言う訳で、衛生面的に直結する場所、特に水回りに関しては念入り中の念入りにやってやったぜ。

途中、何度もGで始まる名前の、火星でムキムキになったある意味最強生物に遭遇したけども、これが普通なら女性陣は悲鳴を上げて逃げ回るところなんだが残念、我が家でそいつを恐れる人間は誰一人いない。

 

俺も千冬も一夏も、オンボロアパートに住んでいたころは隙間風と友人だったし、隙間風が入るという事は当然奴らも入り放題と言う訳だ。年がら年中討伐していたし、箒も今更そんな奴恐れるわけがない。

 

普通にティッシュを使って討伐してゴミ箱にポイですよ。

 

今日何匹見たんだろ?

あっちこっちで出て来るもんだから数えてすらいなかったわ。

 

その日の内に、家の方は全て掃除を終わらせた。

後は境内の奥の方とか、倉庫とかだな。

 

そっちは明日以降になるだろうけど、流石に境内の奥の方は師範の許可無く立ち入れないので倉庫とかが主になるだろうな。

 

 

 

その日の夜は箒も一緒に飯を近所のファミレスに食いに行った。

 

流石に一人にするのは不安だったから箒を我が家に泊める事に。

いや、もし何かあっても篠ノ之神社って敷地広いしそのど真ん中の山の中だからさ、叫んでもだーれにも聞こえないしそう考えると怖いじゃん?だったらウチ来る?って言うね。

 

明日になれば束もクロエもラウラも来るだろうし、今日ぐらいはいいだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「洋介兄さん、久々に一緒に寝ましょう」

 

「んえ?」

 

「だって、IS学園に通うまで五年以上会えてなかったし、漸く会えたと思ったら千冬さんと同じ部屋で全然一緒になれないし。臨海学校だって姉さんと同じ部屋で二人きり。今日ぐらいは良いでしょう?」

 

「うん、まぁ、良いけど」

 

「やたっ!それじゃ、失礼します」

 

嬉しそうに小さくガッツポーズをすると、布団の中に潜り込んでくる。

いや、千冬と一夏と違って久々だからなんか変に緊張するな……。

 

モゾモゾと位置を探る箒は、そのせいで俺の身体に押し当てられたりする箒のあちらこちらに柔らかくてあったかい身体の部位がある事を気にしたりしては居ない。

 

箒さんってば、同年代どころか女性の中でも特に発育が良くてですね?

束もそうだけど、箒もそれに追随するぐらいなんですよ。

 

いや、これ以上の言及は止めておこう!

変態とか思われたくないしな!

 

 

 

 

 

結局、千冬と一夏と大して変わらず箒も俺を抱き枕宜しく抱き締めたまま寝るもんだから興奮とかよりもあっつくてあっつくて仕方なかった。

箒は嬉しそうに気持ちよさそうに寝てたから引き剥がす事も出来んし寝苦しい夜を過ごしたおじさんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「おっはよう!」

 

「朝から元気な奴だな、お前は」

 

「いやー、だって可愛い可愛い娘達をお母さんの実家に連れてくるんだもん!テンション上がるってもんだよ!ほーら娘達!ここがお母さんのお家だぞー!」

 

「おー!これがジャパニーズテンプルか!」

 

「そうだよそうだよ?お母さんのお家はね、神社なんだよ!」

 

「クラリッサが見たら喜びそうだな!」

 

「あー、確かに物凄く喜びそうだね」

 

的確なラウラの言葉に束もうんうんと頷いている。

クラリッサなぁ……。あいつ、確かに優秀なんだよ?優秀なんだけど、残念オタクって感じでもう手に負えないと言うかさ。

 

あと、ラウラに漫画やアニメ、ラノベで得た間違った知識を教えるなとあれほど言ってるのに懲りずに吹き込むもんだから俺と束がその知識を訂正するのが大変なんだよ。

 

しかもクラリッサ自身が悪意が無くて、しかも本人自身もそれが事実だと思っているから尚更質が悪い。

 

「お父様、お久しぶりです」

 

「おーう、元気だったかー?」

 

「はい、ラウラ共々元気に過ごしておりました。まぁ、ラウラはいささか元気が良すぎる気がしなくも無いですが」

 

「なーに、高校生ぐらいの年齢ならそんぐらいで良いんだよ。クロエももうちょい羽目の外し方を覚えると人生楽しくなるぞ」

 

頭を撫でてやると、普段のクールな表情を綻ばせて嬉しそうに微笑む。

 

あぁ……。やっぱりウチの娘達は天使なんやなって……。

 

そのあと、ラウラとクロエに神社の案内を行った。

境内の奥の方や社の中の奥の方も入れることに。

 

束が師範から許可を取って来たらしく、ついでに掃除も宜しく、との事。

 

そんなわけで見学よりも先に皆で掃除、となった。

束ならなんかド〇えもんみたいなすっごい道具を出して一瞬で片付けけてくれたりするもんだと思っていたが、

 

「いやー、外宇宙とか別の惑星に進出するための装備とかばっか開発したりしてたからそう言うの一個も作ってないんだよねー。応用出来そうなのはあるけど使ったらどうなるか分からないし」

 

「因みに月面秘密基地の掃除とかは誰がやってんの?」

 

「クーちゃん達!」

 

「お前……」

 

娘に家事のほぼ全てを丸投げしていやがった。

思わず、ダメ人間を見る目で見ちゃったぞ。

 

「でもでも、束さんも偶にはやってるよ!?だからそんな目で見ないで欲しいなー、って思うんだけど」

 

「お父様、私は家事全般をこなす事が楽しいので特に問題はありませんよ。あ、ですがお母様がそれにかまけてだらしないのは思う所がありますが」

 

「援護射撃かと思ったらフレンドリーファイア!?」

 

うん、まぁクロエがそう思ってんなら良いんだけどさ。

でも、ちょっとは手伝ったりしてやれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










前書きにも書いたけど、割とガチの方でサブタイのネタ切れ感があるんだよなぁ……。
実際作者の当た真ん中もネタ切れしてるし。

まぁ、本文の方はまだまだネタあるから大丈夫だけども、サブタイどうすっかなぁ……。


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夏休みと言えば色んなイベントがあるもんだけどおじさん、このイベントは予想外だなあ……





ほんと、マジ最近サブタイ思い付かなくなってきたぞ……。


サブタイにイベントあるとか言ってるけど、多分次回になる、かも?しれない。








 

 

 

 

 

 

早いもので、夏休みに入ってから十三日が経った。

今日はセシリアが日本に戻って来る日で鈴が中国に帰る日だ。

 

朝早くにセシリアが空港に戻って来て、すぐに連絡が来た。

今日か明日にでも、会いませんか?と。

 

イギリス土産を買って来てくれているらしく、それを渡したいのだそうだ。

勿論俺としては断る理由も無いから、そんじゃ昼飯食ったら学園で会おう、ってことになった。

 

 

それまでは俺は相も変わらず自宅でのんびりしつつ、好きなように過ごしていた。

 

今日も今日とて、旧友?と言うか一夏の同級生と言うか悪友のガキンチョに会いに行く予定なのだ!

っつっても連絡が出来ないからサプライズみたいな感じになっちゃうけど。

 

まぁ、五反田食堂って言うこの辺りじゃ有名な大衆食堂があってですね。

そこに昼飯食いに行くだけなんだけどさ。

 

そこの長男が一夏と鈴と同級生で、小中とまぁ手を焼かされたもんだ。

 

今じゃ結構落ち着いてるんだが、こう、ちょーっとばかしモテようと必死過ぎて逆にそれが空回りしてんだよなぁ……。

あいつ、おじさんと違って顔は良いんだから普通にしてちょっとばかし落ち着きゃモテると思うんだけどどうにも無駄な努力をしちまうらしい。

 

もう一人、御手洗数馬って言うやつもいるんだけど、どうにもこいつはこいつで世俗から離れた爺さんみたいな感じだな。

弾ほどじゃぁないがそこそこ整った顔してて落ち着いているから意外とモテる。

 

 

あと、弾の妹の蘭だな。

こっちもこっちで容姿に関しては弾とよく似てる。もっと言えば弾よりも整っているんだけど。

たーだな、ちょっとばかし男勝りと言うか、兄貴に対して後ろから手加減しているとはいえドロップキックやら飛び蹴りを食らわせるぐらいのワイルドガールだ。

目上に対してはちゃんと礼儀を持って接するんだけどね。

 

それを言ったら我が家の千冬と束も相当なワイルドガールってことなんだけどそこは気にしてはいけない。

 

女に対してがつがつしてる兄貴の事が嫌らしい。

妹とはいえ女視点から見るとやっぱりそう見えるってことだ。

弾よ、妹にアドバイス聞いてみたら?……いや、キモイと言われて終わりそう。

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも元気かな?」

 

「あいつらが元気じゃないところを想像する方が難しいだろ。どうせ高校でも中学と変わらずバカ騒ぎしてんだろうさ」

 

「そっかなー?厳さんは多分元気だろうし」

 

「あの人なぁ……。なんであんな元気なんだろうな……」

 

五反田厳。

御年87歳を数えるお年寄りなのだが、見た目は20歳ぐらい若く感じる。

浅黒く焼けた肌に、中華鍋やでっかいフライパンをぶん回しているから筋肉モリモリ。

 

ただ礼儀とかにはめっぽう厳しくて食事中に話そうものなら黙って食え!と怒鳴られる。

本人的にはお玉とかぶん投げたいらしいが流石にやらない。

ぶん投げる用のお玉があって弾にはやるけども。

 

ただし、弾の妹の蘭には滅茶苦茶甘い。

喋っても多少なら許されるし。

 

俺の周りのお年寄りは無駄にエネルギッシュで元気過ぎる人達ばっかりなのは気のせいじゃないと思うんだよなぁ。

 

取り敢えず、行くとしますか。

久々に業火野菜炒めでも食べたい気分ですしね。

 

因みに千冬は篠ノ之道場の方に顔を出して来ると言って朝早くから出掛けてった。

今頃、門下生達相手に百人組手やってんじゃねぇかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんちわー」

 

「いらっしゃい!……おぉ!?兄貴じゃないっすか!」」

 

「その兄貴呼び止めてくんないかなぁ。なんか小っ恥ずかしい」

 

「いや、兄貴は兄貴でしょ?」

 

「今に始まったことじゃねぇからもういいけどさ」

 

「それにしても急に来たんですね。どうしたんです?」

 

「いや、あの騒ぎ以来連絡取れてなかったしな。家にも諸々の事情で帰れないし、夏休みってことで良い機会だから知り合い達に顔出ししてんのよ」

 

「あー、確かIS学園って夏休みと冬休みしか長期休暇無いんしたっけ」

 

「おう、土日とかの休みはあるけど殆どISの貸し出し申請通ったら乗り回したり次の授業の予習したりしてる子も多いからな。実質的な休みは夏休みと冬休みぐらいなもんだ」

 

「はぇー、俺だったら絶対無理っすわ。兄貴は大丈夫なんすか?」

 

「お前、これでも一応ISの開発手伝ったりしてたんだぞ?ISの知識はそこそこある。問題は普通の勉強の方だな」

 

「IS開発に携わったとか初耳なんすけど……。まぁいいや。下手に聞くとどうなるか分かんねぇし。IS学園、偏差値めちゃめちゃ高いっすもんね。75越えとかどうしたらそんな勉強出来るのか俺には不思議でしょうがないっす」

 

「分かる。高校の時はそんなもんなんだよ。でもマジ勉強しといて損する奴は絶対に居ねぇから弾もやっとけよ」

 

「これでも学年30位には入ってるんすけどね」

 

久しぶりの男同士の会話とあって弾む弾む。

IS学園に入ってから、男同士で会話した記憶って殆どない。

と言うか、一回も会話してないんじゃないか?

 

それを考えると、やっぱし妹達との会話も楽しいんだが気兼ね無く会話出来るのはやっぱり男同士だな。

 

 

 

「そんで、厳さん達は?」

 

「今は厨房に居ますよ。今日は休みってのもあって客入りはまばらなんで多分手隙だとは思うっすけど」

 

「おい弾!なにやってる!こっち来て手伝え!」

 

「……お呼びがかかったんで、ついでに呼んできます」

 

「なんか悪いな」

 

「いや、もう我が家での肩身の狭さが半端無いっす。早く一人暮らししたい……」

 

そう言いながら厨房に入っていく弾の背中はどこか煤けていた。

もう、俺は強く生きろよ、としか言えなかった。

 

やっぱり俺って家庭環境恵まれてるんやなって……。

ちょっと、最近マジ千冬達の目が怖いんだけどさ。完全に獲物を狙ってる目だ。そしてビビる俺は狙われるウサギか。

……おっさんのバニーとか最悪やんけ。こんなこと考えるんじゃなかった。

 

と言うか冗談抜きで最近、どうにかして外堀を埋めに掛かって来てる気がすんのは気のせいじゃないと思うんだよなぁ。

大坂夏の陣みたいに堀全部埋められた後じゃ洒落になんねぇぞ。どうにかして防がないと……。

最悪本丸さえ落とされなきゃ大丈夫なはずなんだよな……。

 

いや、ISで殴り込んでくるから意味無ぇわ。

俺なんて刀と槍、火縄銃しか持ってないんだから勝てる訳ねぇじゃん。蹂躙されるのがオチだな。

 

目指せ大阪城(俺)近代化。

目標はデス・〇ターとかイゼ〇ローン要塞だな。

 

 

 

 

 

弾に俺が来ていると言われて、厳さんが食堂から顔を出す。

俺の顔を見ると、驚いたような表情をするがそれも直ぐに嬉しそうに笑って俺の座っている席の対面にドカッ、と腰を下ろす。

 

「おう、二人とも久しぶりだな」

 

「こんにちわー」

 

「元気そうだな」

 

「そりゃ勿論!あ、蘭居ます?」

 

「おう、二階に居るぞ」

 

「ありがとうございます」

 

そう言うと、一夏は慣れたように五反田家の階段を駆け上がっていった。

 

「お久しぶりです。連絡も何も入れずにすいませんでした」

 

「なーに、気にすんな。ISってのがどれぐらい凄いのか分からんが、ニュースになるぐらいの事だったんなら仕方ねぇさ」

 

この人は、食堂で朝から晩まで腕を振るっているもんだからあんまりニュースとかを見ない。

だから世俗に割と疎い面もあるんだが、そんな厳さんでも知っているぐらい俺の起こした騒ぎは大事だったらしい。

 

「そう言ってもらえると有難いです」

 

「それで、今日はどうした?学校に通わせられてるとかなんとか聞いたが、学校辞めたんか?」

 

「違いますよ。連絡出来なかったから夏休みなんで顔でも出そうかと思いまして」

 

「それなら電話の一本でも寄こせばいいだろう」

 

「まぁ、それも色々と事情がありまして。こちらから電話を掛けられないと言うか、政府から掛けるなって言われてまして」

 

「ほーん……。それなら仕方ねぇな。飯、食ってくんだろ?」

 

厳さんはそう言うならそうなんだろう、と頷いてくれる。

今現在、俺の連絡手段と言うのはスマホなどがあるんだが、誰彼好きに電話を架けたりできる訳じゃ無い。

機密保持とか、要人保護の観点から。

 

下手に知り合いがバレると、最悪その人を人質に取られたり、何を要求されるか分かったもんじゃないからだ。

まぁ、今日ここに来たのは近所の食堂ってことで、知り合いだとは勘付かれにくいだろうし、精々顔見知り程度にしか思われないだろうと思ったからだ。

 

しかも好都合な事に昼時だと言うのに今日は休みってのもあって客は俺と一夏しかいないから、普通に話しても問題無い。

つけられたりもしていないようだし、もしそうだったら俺の護衛に就いている誰かさん達がとっくに対処済みだろうさ。

 

 

「はい、食べていきます」

 

「それじゃ、何時もので良いか?」

 

「はい、お願いします」

 

「よし、任せとけ。久々に顔出したからな、今日は俺の奢りだ」

 

「ありがとうございます」

 

「一夏も何時もので良いか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「そんじゃ少し待ってろ。今作るからよ」

 

そう言って厳さんは厨房に入っていく。

相変わらず、元気そうで何よりだ。あんなに背筋が伸びててハキハキ喋って歩ける87歳なんてそう居ないだろ。

一夏は多分、二階にいるであろう蘭の所に行っちまったし食堂に居るのは俺だけってことだ。

 

うーん、なんか久々で凄く懐かしいと言うか。

こうして五体満足で今まで日常を送っていた所に戻って来られると言うのは物凄く感慨深い。

だってさ?IS動かしちゃって解剖されんのかな!?とかビビってたら、そっから怒涛の学生生活よ?しかも2回ぐらい命懸けと言うか死にかけたような出来事すらあったし。

 

半年で2回も死にかけるとか、平和な日常で有り得んだろ。

いやもう平和な日常とか言えないけども。

 

それを周りの手助けアリで乗り越えて、顔馴染み達に再び会えるってのはなんとも言えない感じだ。

 

 

暫くすると、一夏が蘭を連れて降りてくる。

 

「お久しぶりです、洋介さん」

 

「おう、元気してたか?」

 

「はい、そりゃもう元気です」

 

「そんならいい」

 

「それにしても、色々と大変でしたね」

 

「んー?なんのこっちゃ?」

 

「ほら、VTシステム関連の事件とか色々。連日ニュースで大騒ぎしてて。つい最近もまた死にかけたってニュースになってましたよ?」

 

この子はこの子で優秀だからな。

ニュースなんかで得た情報を自分なりに分析したりしたんだろう。

兄貴は家が近いっつう理由で藍越学園に通ってるが、蘭は遠くの女子校に通ってる。中高大一貫のお嬢様学校らしいんだがそんな学校で生徒会長を務めてる。

中等部と高等部で生徒会が分かれて、それぞれ自治組織としてやってるってんだからスゲェよ。

 

俺は集会とか話聞かないで寝てるタイプだったからね。

しょっちゅう先生に怒られてましたよ。

 

いやだって、どいつもこいつも同じ話ばっかしやがるから飽きるんだもん。

校長の話とか最初の1分すらまともに聞いたこと無いわ。20分ぐらいエンドレスで同じ話を繰り返すんだぞ?正気の沙汰じゃねぇ。

 

「あー、あれなぁ……。いや、マジこの年齢のおっさんに起きる出来事じゃねぇよ」

 

「お兄ちゃん、無茶ばっかりするんだもん。気が気じゃないよ」

 

「しょうがない。戦える奴が限られてんだからあの学園で最年長の俺が出るしかねぇだろうよ。子供に戦わせられるか」

 

「それで怪我したら元も子も無いと思うんですけど……」

 

「ま、五体満足で生きてんだから良しとしようや。やらかしてくれた奴らは絶許だけど」

 

なんて会話しつつ、昼飯が出来るのを待つ。

すると、厳さんの腕を振るった最高に旨い業火野菜炒め定食と、一夏の大好きなカボチャの甘煮定食を持って来る。

 

「お待ちどう!」

 

特盛のご飯と、これまた多めの野菜炒め、それと味噌汁に漬物。

野菜炒めの中には肉が一欠けらも入っていないんだけど……。

 

「っあ”ぁ”!旨い!」

 

これだよこれ!これが最高に旨いんだな!

野菜しか入っていないけど、炒めているのにシャキシャキだし、良い感じにコショウと醤油が効いている。

厳さんの作る野菜炒めは塩じゃなくて醤油を使って、ついでにちょっとばかしとろみがあるタレがかかっているもんだから最高よ。

 

「んまー!やっぱりこのカボチャの甘煮が一番だよ!」

 

一夏も一夏で、カボチャの甘煮を口に放り込みながらご飯と共に食べ進めていく。

 

この五反田家のカボチャの甘煮って、普通のと比べると滅茶苦茶甘いんだよな。

チョコレートとかの菓子を食ってんじゃないかってぐらい甘い。

嫌いって訳じゃないんだけどさ、ご飯に合わねぇんだよなぁ……。

 

単品ならヒョイパクヒョイパク行けるんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから昼飯を食い終わって。

 

 

 

「IS学園に行きたい?」

 

「はい」

 

「ほーん……。まぁ好きにしたらええんでねぇの?」

 

「……えっ!?止めないんですか!?」

 

「いやまぁ蘭が行きたいってんなら、止めはしない。別に止める権利は親でも無いから俺には無いからな」

 

態々聞いてくるってことは、一連の事件の事を聞いてどうすべきか迷っているんだろう。

俺だったら絶対に行きたくないもんだけど、どうしても行きたいっつうんなら、止めはしない。

 

「そもそも蘭はIS適正とかあんのか?」

 

「えぇまぁ、一応Aでした」

 

「凄いじゃん!」

 

「それで、適正Aだとどうなりますか?」

 

「そうだね、国家代表目指したいって言うなら今から死ぬ気で勉強して国家代表候補生教育課程を受験して合格すればまぁ、ギリギリ国家代表候補生になれる、かな?って感じかな?専用機は貰えないと思うけど」

 

確か、一夏が国家代表候補生教育課程を受けて合格したのって中学一年夏だったな。

そんで一発合格して、必死こいて訓練して三年生に上がった頃に専用機を渡されたんだったな。

 

「今から、ISの勉強をして受かれば、って相当厳しくないですか?」

 

「そうだね。もしIS学園に行かないんならエスカレーター式?だから受験勉強時間はあると思うけどIS学園に行きたいならどっちかになると思うよ。流石にどっちもは無理かな。まぁどっちも受かりそうな人は何人か知ってるけど」

 

「えっと、因みに受かりそうなのって……?」

 

「千冬姉と束さん」

 

「あー……」

 

その辺の話は俺よりも一夏の方が詳しいから説明を全部任せた。

で、国家代表候補生教育課程とIS学園の受験をどっちも合格しそうなのが居るって話で、千冬と束の名前が出て来た瞬間に蘭の顔がそりゃ受からねぇわ、って顔になった。

 

うん、俺もそう思う。

束が凄すぎるから忘れがちだけど、千冬も身体能力は言うに及ばず、勉強の面でもチートなんだよ。

束がチートを軽々飛び越えてるってだけで千冬だってその気になりゃ大学は私立公立国立問わずどこでも選び放題だったんだ。

 

ISの登場でパイロットになって国家代表にまで上り詰めたから進学はしなかったんだけど。

 

「とにかく、どっちを取るか、だな。束ならまだしも千冬でも勉強せんとどっちも受からんだろうからな。あんまし言いたくねぇけど蘭は受からん。断言出来る。どっちかなら多分、受かるだろうけど」

 

「やっぱりそうですよね。あ、国家代表候補生教育課程を受けて普通の高校に進学してからIS学園の編入試験を受けるって言うのは?」

 

「いや、これも断言すっけど編入試験とか受からんと思うぞ」

 

「うん、私も受からないと思うよ。と言うか編入試験受けて合格するんだったらめっちゃ勉強して両方合格をワンチャン狙えばいいと思う」

 

「え、そんなに難しいんですか?」

 

「そりゃぁお前、難しいに決まってんだろ。鈴居るだろ?」

 

「えぇまぁ」

 

「あいつが、しこたま勉強キメて漸く受かるぐらい難しい」

 

「そんなに!?」

 

蘭の中での鈴と言うのは天才のイメージがあるんだろう。

事実、鈴は相当頭が良い。

 

俺の妹×2がぶっ飛んだぐらい頭良い奴ってだけで、世間一般で言うと俺の周りは頭良い奴で溢れてんだよ。

シャルロットも編入試験を受けて僅差で落ちてるとはいえ、鈴が居なければ受かっていたぐらいには頭が良い。

 

その二人が、編入の為にだけ勉強をしたってんだから、どれだけ難しいかよく分かってもらえるだろうか?

 

IS学園の試験が難しいのは当然だ。

IS学園ってのは各国の代表候補生が集まっているもんだから、当然と言えば当然だけど国家機密がISの機体、情報、などありとあらゆるものが集まってくるんだ、入学試験も厳しくなるのは当たり前、編入試験がもっと厳しくなるのはもっと当たり前という事である。

 

入学試験の中には、当然身辺調査と言うものが入っている。

スパイしようとしていると、はい君駄目ねー、ってことでどれだけ成績が優秀だったとしても速攻で弾かれる。

 

あの学園、内側からするとそう感じたりしないんだけど、外側から見るとマージで警備がガチガチなのだ。

そりゃ警備システムを構築したのが束なんだから、束自身じゃなきゃ突破出来ないぐらいの固さである。

国ぐるみで挑んだとしてもお手上げな訳である。

 

そうなると内側から探るしかないんだけど、これまた突破が気が遠くなるぐらい難しい。

IS学園は、その性質上諜報能力が高い。

政治能力は国家相手にうーん、まぁやり様によっては何とかなるかな?ってぐらいでそこそこなんだけどな。

 

諜報能力だけは高い。

個人的意見としては時折俺の護衛に就いてくれているあの、生徒会長さんが怪しいと思う。

なんかよく分からんけど、あの子多分堅気の、表側の人間じゃないと思うんだよね。いやだって、気配の消し方とかそう言うのが全然違うんだもん。

身のこなしも、相当だぞ。

 

暗殺関係?それとも諜報関係?のどちらかに特化した人間であることは間違い無い、と思う。

もしかすっと、両方かもしれない。

まぁどうせ機密だろうから俺には知りえない事なんでね、どうでも良いけど。

 

と言うか今は俺が居るってことで束がガッチリガードしてるもんだから、百%潜入とか無理だからなぁ。

 

特に編入ともなると、十中八九疑われる。

しかも俺の知り合いってことで、普通ならそれで済ませるんだけどそう言う職業の人間は裏があったりすんじゃねぇかって疑って掛かるもんなんだよ。

 

そうなったら蘭は普通よりも書類審査だけでも難易度が爆上がりする。

まぁ、ちょとばかしワイルドな所を除けば、良い子なんだけどね。

俺が幾ら言っても、審査する側が千冬と束込みだもんなぁ、千冬は蘭の事知ってるしそれなりに仲良いけど兄さんの事だ、それは別問題だろ、っつって厳しいだろうしな。

 

そうなったら俺には、もうどうしようもない。

世の中、どうにもならない事って割と結構あるもんなんだよ……。

 

 

 

 

ついでに言うと、女尊男卑思想を持った奴も弾かれる。

IS学園って思ったよりも女尊男卑思想が全く入って来ていないんだよね。

女尊男卑思考の奴って、下手な右翼とか左翼よりも過激なんだもんな、ISなんて持たせたらマジでどうなるか分からんぞ。

 

下手すると、女権団+それに迎合する連中VS世界各国、みたいな第3次世界大戦始まり兼ねないんだよ。

なまじっか、地味に権力あるやつが女権団には数いるから厄介なんだよ。

 

国が内部分裂したりして内戦起きかねないし。アメリカロシア、中国でもその危険性があるんだからね。

ロシアには、ウクライナとかその辺の問題で不満抱えている連中も多いし、アメリカはアフガニスタンとかその辺で火種抱えてて今でもドンパチ中、中国はウイグル自治区とかあの辺りがヤバイからな。

裏で色々糸を引いて、争わせればいいだけ。

 

ロシア、中国は強引な手段も反発アリとはいえ取れちゃうけど、アメリカはそれなりに面倒な輩も多いからな。日本なんかは特にそうだぞ?内戦起きてんのに平和主義(笑)とか人道(笑)を叫んでとかで政権奪取されかねんし。

そうなると、実質的に女尊男卑が政権を握るってことだ。

 

どうなるかは丸わかり。

黒人奴隷とか、でも真っ青なレベルの極悪非道な所業が横行すんぞ。

男は問答無用で処刑、女も従わないんなら処刑、みたいなレベルの法律しかなくなる可能性すらあるんだぞ?

 

そりゃCIAとかMI6が裏でテロリスト認定するわ。

こんな世の中だから、大手を振ってテロリストって言えないけどな。

 

機会さえありゃ、虎視眈々と女権団消そうぜ、ってなってるらしいし、そう遠くない内に女権団とそれに関わる連中が軒並みとっ捕まるだろ。滅茶苦茶ヤベェし。

シャルロットの継母もそうだけど、自分の意見が通らないと何でもやって良いって言う、幼児でも真っ青の思考してっからな。

 

特に、俺が入学してから今までも厳しかったけどもっと厳しくなった。

今までは女尊男卑思考だろ?カエレ!ニドトクルナ!ってだけだったけど、今じゃ警察、それも公安警察に渡しちゃうからね。

 

 

 

ま、そんな話は全部捨てといて。

 

とにかくIS学園ってのはその辺の審査とか警備を丸っきり全部抜きにして、試験だけで考えても編入試験を合格するのは相当厳しいとしか言えないな。

 

それ考えると鈴ってよく編入試験なんざ受かったよな。

中国政府から絶対俺の情報持ってこいとか言われてたはずなのに。

 

んー、でもその辺割と嫌がりそうではあるよな、鈴って。

 

 

 

 

「もし受けるってんならどっちかに注力した方がいいぞ。ま、俺が生きてる内はIS業界は物騒だからあんまし勧めらんねぇけど。実際俺、二回死にかけたし。それに巻き込まれて、千冬ですら一歩間違えれば良くて大怪我、最悪死んでたからな。正直言っちゃうとあんまり行ってほしくないし。そんな状況に巻き込まれかねないけど、それでもどうしてもISに乗りたいってんなら止めんけどね」

 

俺がそう言って締めると、蘭は考えるように黙った。

 

「その辺しっかりと考えた方が、後悔したり絶望しないと思うぜ。結局は蘭の意思次第だけどな」

 

「分かりました。ちゃんと考えます」

 

「おう、そうしろそうしろ」

 

なんか、重い雰囲気になっちゃった空気を吹き飛ばす様にケラケラ笑ってやる。

幾らか明るそうな雰囲気になったところで、俺はセシリアとの約束があるもんでね、そろそろ帰りますかね。

 

「それじゃ、俺はこの後用事あっからそろそろ帰るわ」

 

「あ、それじゃ送ります。お兄!洋介さん帰るってー!」

 

「えー!?もう帰るんすか!?」

 

弾は厨房からドタドタと騒がしく出て来る。

 

「もう少しゆっくりしてってくださいよ」

 

「いやね、ちょっとばかし約束あるもんでね。相手が女性なもんだから遅れちゃ申し訳ないだろ?」

 

「え!?兄貴遂に千冬さん達を説得して彼女作ったんすか!?」

 

「違う違う違う!あんまし一夏の前で下手な事言うな馬鹿!」

 

「あ、すんません」

 

「IS学園での、同級生?クラスメイト?」

 

「なんすかそのフワフワした感じは」

 

「いや、なんて言えば良いのかよー分からんのさ。小父様小父様って言って懐かれてるっちゃ懐かれてるんだけど、懐かれてるとはなんか方向性が違う慕われ方してる気がすんだよなぁ」

 

束レベルでドストレートに好意をぶつけて来てくれると、そっちの方が分かり易くていいんだけど。

鈍感って訳じゃないんだけど、こう、俺の中で女性関係は兎に角ホイホイしちゃ駄目、慎重に行け、って言う鉄則があるんだもん、そりゃそうよ。

 

この女性関係はホイホイしちゃ駄目って鉄則を得たのが、妹達による教訓ってのが悲しいところだけども。

それは別にいいや。

 

「ってことで、俺は一旦家に帰ってIS学園に行かにゃならんからこれでお暇させて貰うよ」

 

「そう言う事なら、しょうがないっす」

 

「最後に厳さんに挨拶だけして帰るか」

 

本当は弾と蘭の母親の蓮さんにも挨拶したいんだが、今日はどうやら居ないようなのでまた来た時だな。

 

 

 

一通り挨拶を済ませてから、一夏はまだ色々話したいっつって五反田家に残った。

その時、

 

『お兄ちゃん、ちゃーんとあとで話聞かせて貰うからね?』

 

と脅されたのは何時もの事なのでもう気にしないったら気にしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、五反田食堂を後にしてIS学園に向かう。

と言っても、自家用車とかじゃなくて普通に護衛付きの送迎車で駅まで送って貰ってIS学園行きのモノレールを使うんだけど。

IS学園って、レゾナンス駅って言う、レゾナンスにある駅とIS学園を結ぶモノレールが通ってんのよ。

 

勿論、使用するのはIS学園生徒と教員だけで、それ以外の機材搬入とかは全部搬入用の片側5車線とかいうアメリカのハイウェイみたいな馬鹿デカい橋を通るんだけど。

俺はこの橋をISハイウェイと呼んでいる。

そう言う訳で、モノレールを使えるのは生徒と教員だけ。

 

セキュリティも束印のガチガチ固め。

生徒それぞれにIDカードが渡されてて、そのIDカードを駅の改札みたいなのにピッ、とタッチするのだ。

そうする事で乗ることが出来る。

 

このカード、偽造出来ねぇし改札には明らかに只の警備員じゃないだろ、って感じのガチムチの男数名が警備してっから侵入しようもんならアッサリお縄につくことになる。

ISハイウェイもしっかり警備員に加えて監視カメラとかもあるから侵入するってなると、警備員の詰め所を吹き飛ばして突破しなけりゃならん。

けども目の前にあるのはISを扱う事に特化した学園で、当然先生方はそう言った非常時の際はISを装備し、鎮圧する事が許可されている。

ただし、内部での問題に関してはISの使用は一切禁止。例外として武器を扱った相手である場合のみ。

 

 

 

と言う訳で二週間?ぶりぐらいのIS学園。

やっぱりと言うか、みーんな里帰り中だからガランとしてる。

 

取り敢えず、セシリアとの待ち合わせ場所であるセシリアの部屋に向かおう。

ガッツリ半袖短パンの私服だけど、別に平日の授業がある日でもなけりゃ怒られたりはしないからな。

 

外は相変わらずクッソ暑いもんでね、一日外で立ってるだけで痩せられるんじゃないかと思うぐらいには暑い。

 

 

 

 

で、そんなこんなで一年生寮のセシリアの部屋の前に。

 

「セシリア、来たぞー」

 

『入って下さいな』

 

その声がしてから、ドアノブを捻って入る。

すると、セシリアのほかに何故かもう一人、赤髪のメイド服を着た女性が。

 

おや?おやおやおや?おやおや?

 

誰ですかい、あーたは。

 

「えーっと、久しぶりだな、セシリア」

 

「はい、お久しぶりです小父様」

 

「んで、そちらはどちら様?」

 

「彼女はチェルシー。我がオルコット家の筆頭メイドです。私からすると姉の様な存在でもありますわ」

 

「ご紹介に預かりました、オルコット家で筆頭メイドをしております、チェルシー・ブランケット、と申します」

 

「あー、なるほど理解した」

 

「お早いご理解、ありがとうございます」

 

あれだな、セシリアん家はイギリスでも有数の貴族様だからな。執事やメイドの10人20人居るのは普通だろ。

でっかい屋敷とか庭を持ってそうだし。

 

んで、件のブランケットさんはと言うと。

物腰は柔らかいかんじ、ただ隙が無いって感じだな。

多分、護衛とかそう言うのも兼ねてんのかな?戦闘メイドみたいな?

 

え、何それかっこよくね!?ちょっと憧れちゃう……。

 

「あー、でそのブランケットさんはどうしてここに?」

 

「チェルシー、で結構です。佐々木様含めたご学友、ご友人の方々の為にお嬢様がご購入されたお土産を運ぶのをお手伝いしておりました」

 

「そんなに買ったんか」

 

「自家用ジェットが割と詰め詰めになるぐらいには」

 

「さっすがお金持ち、自家用ジェットってとこの方が驚きだぜぇ……」

 

「それと、お嬢様の恋心に発破をかけよムグッ」

 

「おほほほほ!チェルシーったら変な事を言いますのね!」

 

何か言いかけたチェルシーさんの口を慌てて塞いで何やら部屋の隅、と言うかお土産で溢れた部屋の影でコソコソなにやらお話中。

 

 

 

 

「ちょっとチェルシー!」

 

「なんでしょうか?」

 

「下手な事言わないで下さいまし!」

 

「え?佐々木様の事をお慕いしているのでは?」

 

「な、ななな!?」

 

「だって電話でも、今回の帰省中も延々と佐々木様のお話を聞かされていた使用人一同、気が付いていない者は居ないかと。と言うか、寧ろあれで気が付かない方がおかしいのでは、とすら思います」

 

「いやー!?全員に気が付かれていましたのー!?」

 

「見た感じ、想いをお伝えする勇気も無さそうでしたのでこの際もう延々と聞かされるぐらいならば発破を掛けてしまってそのまま一発かまして、かっ飛ばしてゴールイン!となってくれた方が我々としてはお見合いの話を断る口上を一々考えなくて済むので楽なのですが」

 

「このメイド、主人の恋心をそんな言い方しやがりましたわ!」

 

 

 

 

 

あんまりよく聞こえないけどなんか結構盛り上がってるね。

 

いやそれよりも、さらっと自家用ジェットって言ってるけど凄すぎない?

この感じだとクルーザーの一隻二隻持っててもおかしくなさそう。

セシリアマジパナイ。

 

「それなら、今度小父様も一緒に乗りましょう?冬休みにでも遊覧飛行すればいいですわ」

 

「おっほう、お誘いが庶民感覚からするとぶっ飛んでやがるぜ」

 

「お嫌ですか?」

 

「いんや、そん時は喜んで行くよ」

 

自家用ジェットで遊覧飛行しましょう、とかいうとんでもすんごいお誘いされたけど、まぁ断る理由は無い。

俺としては、別にやばそうとか危険そうじゃ無けりゃ大丈夫。セシリアの事は信頼してるしねぇ。変な事はしないだろ。

 

「チェルシー、ありがとう。それじゃぁ、また冬休みに」

 

「はい。それでは佐々木様、失礼致します」

 

そう言って、チェルシーさんは帰って行った。

 

 

 

そんでもって、二人きりになった訳だけども。

なにやらセシリアさんのご様子がちょーっと何時もと違うっつうか、こう、色々考えてなんか決意して、やっぱり萎えて、を繰り返しているような?

 

あれだ、エロ本初めて買う男子中学生みたいな感じ。

 

女性にこの例えは失礼だとは思うけど、一番しっくりくるんだよ。

 

 

はてさて、どんなお話される事やら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









鈴ちゃん、中国政府におじさんの情報取って来て、あわよくば子供とか作っちゃっても良いよ!

って言われてたけど、鈴ちゃんは内心中指立ててこいつらぶっ〇そうかな、とか考えて居たりした。
子供作っちゃっても良いよ、ってとこに関しては満更でも無かった。





因みにだけど、蘭ちゃんは無いよ。
色々な意味で、作中では蘭ちゃんは無いよ。
明言しとくからね。

これで感想で蘭ちゃんルートが……!ハスハスとか言い始めたやつは、マジ許さん。
もっと別の事書いてくれ。










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セシリアサン”!?ドウシテソウナッチャッタンデス!? 



次回、束さんとセシリアさん修羅場不可避。(嘘です)










 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side セシリア ----

 

 

 

 

 

 

 

イギリスの実家で、経営する会社や系列のホテルなどの仕事に加えて代表候補生としての報告だったりと言う仕事も済ませてきた。

経営するそれぞれの会社では、やはりフランスとドイツの件の大事件のせいもあってかそれぞれ大小影響を受けていた。

 

株価など相当影響を受けていたり、両国に進出している会社やホテルや飲食店などは打撃を受けたものの、治安が戻りつつあるのでそちらも直に回復するでしょう。

倒産するとか社員、従業員達を解雇しなければならないと言う事態にはならないので幸いでした。

 

代表候補生としての仕事、と言うのはまぁ、色々あります。

例えば自分と機体の状況や状態などを報告書に纏めて政府と研究機関に提出したり。

これに関しては、偏光射撃が出来るようになったことなど、書くことが数多く苦労しました。

 

それに、研究所に出向いて機体の整備や調整、調査などもやりましたし。

 

あとは、言ってしまえばモデルです。

早い話が、代表候補生、それも専用機持ちは相当注目を浴びます。

何処の国でも変わらない事ですが、モデルをするかしないかは当人の意思なので強制ではありません。

 

私の場合は、まぁ良いかな、と。

 

そんなわけでたった五日間とは思えないぐらいに忙しい日々でした。

 

 

 

 

 

 

イギリスから、自家用機に乗って再び日本に戻って来て直ぐに、空港に着いた瞬間に小父様に電話を架けた。

久しぶりに小父様の声を聞くことができてとても嬉しかった。

 

思わず、頬が緩んでしまったのですが、それをチェルシーに見られてしまいました。

恥ずかしい……。

 

飛行機に、小父様や皆さんへのお土産を沢山載せていて、それをチャーターした車に載せて。

学園の、自分の部屋に全部運び込んで。

 

それから暫くすると、小父様が訪ねてきました。

少々、お土産で手狭なのでどうぞ、と一言声を掛けて入ってもらう。

 

久しぶりに見る小父様の顔は、最後に会った時よりも顔色が良いです。

ご実家に帰ることが出来たので、存分にリフレッシュ出来たのでしょう。

 

確かに織斑先生や一夏さんと言ったご家族と一緒にIS学園で過ごしてはいますが、それでも入学から一度も家に帰る事が出来ないと言うのは知らず知らずの内に大きく精神に来ていたのでしょう。私だって久しぶりの実家は、仕事で忙しかったとはいえとても心地良いものでしたから。

 

部屋の中に山積みにされているお土産をみて驚き、プライベートジェットを持っていると聞いてさらに驚き。

プライベートジェットと言ってもジャンボジェット機ほど大きくなく、小型機ですからそこまで驚く事でしょうか?アラブの富豪なんかは豪華客船と見間違えるほどのクルーザーを持っていますし。プライベートジェットだってまんまジャンボジェットだったりするのに。

 

 

ともかく、久しぶりの小父様との会話を楽しむ。

 

「あー、でそのブランケットさんはどうしてここに?」

 

「チェルシー、で結構です。佐々木様含めたご学友、ご友人の方々の為にお嬢様がご購入されたお土産を運ぶのをお手伝いしておりました」

 

「そんなに買ったんか」

 

「自家用ジェットが割と詰め詰めになるぐらいには」

 

「さっすがお金持ち、自家用ジェットってとこの方が驚きだぜぇ……」

 

「それと、お嬢様の佐々木様に対する恋心に発破をかけよムグッ」

 

「おほほほほ!チェルシーったら変な事を言いますのね!」

 

 

なにやらチェルシーがとんでもない事を口走ったので慌てて口を塞いでお土産の影に連れて行く。

 

 

「ちょっとチェルシー!」

 

「なんでしょうか?」

 

「下手な事言わないで下さいまし!」

 

「え?佐々木様の事をお慕いしているのでは?」

 

「な、ななな!?」

 

「だって電話越しでも、今回の帰省中も延々と佐々木様のお話を聞かされていた使用人一同、気が付いていない者は居ないかと。と言うか、寧ろあれで気が付かない方がおかしいのでは、とすら思います。気が付かない人はとことん他人に興味無いか人の感情にあまりにも無関心過ぎる人間だけだかと」

 

「いーやー!?全員に気が付かれていましたのー!?」

 

まさか、私の話だけで気が付かれていたとは……。

思えば確かに、電話をしたときとか喋り過ぎたな、とは思います。

 

「見た感じ、想いをお伝えする勇気も無さそうでしたのでこの際もう延々と聞かされるぐらいならば発破を掛けてしまってそのまま一発かまして、かっ飛ばしてゴールイン!となってくれた方が我々としてはお見合いの話を断る口上を一々考えなくて済むので楽なのですが」

 

「このメイド、主人の恋心をそんな言い方しやがりましたわ!」

 

チェルシーって割と結構こういう感じなんですよね。

何と言うか、意見を言葉は選びますが殆ど遠慮無くズバズバ言ってくるんです。

 

私の中では彼女は姉の様な、と言うか姉として認識しているので貴族界だと同年代とかでも結構腹の探り合いとかあるので、寧ろこういう感じの方が気が楽で良いですわ。

 

それでも今のはぶっ飛ばしすぎです!

確かに小父様とお付き合いすることが出来て、そのまま色々あって今すぐ子供を授かっちゃったりしても構いませんし。

なんならバッチコイ!ですわ。

 

流石にまだ学生で、代表候補生だったりと色々と立場と責任があるのでそう簡単にはいかないし確定で国際問題になるでしょうけれど。

そう考えると、やっぱり小父様の立場って複雑なんですね。

 

しかも良い方向に転んでも悪い方に転んでも、小父様の苦労が絶える事は無いと言う訳ですわ。

 

 

 

 

 

「ですが、使用人一同、お嬢様の初恋が成就されて、そのままご結婚される事を望んでおります。他貴族の良く分からない変な男よりも、佐々木様は信頼することが出来ます」

 

「……貴女がそこまで言うなんて珍しいですわ」

 

基本的に、貴族の結婚と言うのは貴族同士でお見合いをして、が今でも殆ど、普通です。

お見合い結婚という名の政略結婚、と言った方が正しいですけれどね。

 

貴族同士の結び付きを強くする為とか、自家の力を強くする為とか色々な理由はありますが、私に申し込まれるお見合いの理由の殆どはオルコット家の財力や地位目当てでしょう。

これでも貴族の中での地位は上から数えた方が早いですし、他貴族と比べると様々な会社経営などで財力もやはり上から数えた方が早い。

そう言う訳で狙ってくるんですのよ、他の貴族達が。

 

お父様とお母様が亡くなった時なんかは、親戚が三十人ぐらい増えたのは笑い話ですわ。

 

よくある様な、身分違いの結婚と言うのもありますが少数でしょうし。

 

それに、貴族と言うのは潔白な貴族もいますがやはり後ろ暗い事がある貴族も多いんです。

本当に裏で何をやっているか分からない、怪しすぎる貴族家や貴族もいますしね。

 

そう言う連中と私が結婚すると婿入りという事になるのでしょうが、それらが表沙汰になるとオルコット家の名にも傷が付きますし、事と次第によってはとことん没落する可能性も大いに有り得ます。

それらの様な出来事から家を守るのが私の役目であり、IS学園に私が居る間に留守を任せた彼女達使用人の大事な仕事の一つでもあるんです。

 

まぁ、私はお見合い結婚とかそう言うのは嫌なので全部お断りしているんですけれど、私がイギリスに今回帰った時に普段よりも数十倍増えたのがもうなんとも言えません。

 

 

確かにその貴族達などと比べると、小父様はそんなことありませんからねぇ。

 

 

「まぁ、今までの報道もありましたが、本日お会いして目を見て分かりました。多少、精神性が歪な気がしますがそれを差し引いても理想的な殿方ではないでしょうか?」

 

「それはそうですけども……」

 

人と言うのは、目が何よりもその人の性格や生き様を語るんです。

小父様の目は、疲れてはいますけど汚れて居たり濁っていたりはしていません。

 

「あまり、尻込みしていると他の女性に盗られてしまいますよ?織斑千冬、篠ノ之束博士もライバルなのでしょう?」

 

「もっといますわ。同級生に少なくとも四人。私やさっきの二人を入れて七人から狙われています」

 

「そこまでくると、なんだか凄まじいですね」

 

「ご本人は、私達の好意に気が付いているのか、それとも気が付いていないのか、曖昧な感じですけれどね。ですが恐らく、妹四人は確実に気が付いている筈ですわ」

 

「……とんだプレイボーイじゃないですか」

 

「それでも、織斑先生と一夏さんと暮らし始めてからは女性とお付き合いしたことは一度も無いそうですわ。二人を最優先にしていたそうですから」

 

「誠実なのか、不誠実なのか本当に良く分からないお方ですね。情報を集めようにも篠ノ之博士が全てシャットダウンしていますからそう言った事は全く知りませんでした。ですが、信用に足る人物であることは間違い無いかと思いますよ」

 

ほんっとうに、小父様は女性に好かれているので気が気でないんですよ?

それになんとなくですけれど、臨海学校の時に篠ノ之博士と小父様がなーんか、ちょっと怪しい?ような気がしました。

気が付いたら二人とも居なかったりしましたし。

 

それでも小父様をお慕いする気持ちに変わりはありません。

なんなら篠ノ之博士から分捕って差し上げますわ。

 

あ、でもその辺どうなんでしょう?

男性操縦者の研究において、本人のみなのか、それともその子供である男の子にもISに搭乗する能力はあるのか、と言う議題が持ち上がっています。

 

それにおいて、それらの事を確かめる為に、未確定ではありますが佐々木洋介個人とその妻と成りえる女性にのみ適用される一夫多妻法を可決しよう、と言う動きが国連などであるらしいのです。

あくまでも本人達の意思に委ねる、と言うことにはなりそうですが、それでも圧力とか凄まじい事になるでしょうね……。

そうなったらそうなったで篠ノ之博士達が動くのでしょうけど。

 

 

 

 

 

 

 

そして、チェルシーが帰った後。

小父様と二人きり。

 

なんだかんだと、二人きりでお話するのは私が孤立していて、その時に小父様とお話したあの時以来。

 

緊張しますわ……!

 

あぁでも、この気持ちを伝えないと後で絶対に後悔するだろうし……。

でも断られて今までの様に小父様と一緒に居られなくなったりするのも怖い。

 

 

だけど、このまま自分の想いも伝えられずに小父様がどこかに行ってしまう方が、ずっとずっと怖い。

何と言うか、小父様の生き方だと本当にいつか生き急いで死んでしまわないか心配で仕方が無いのです。幾ら織斑先生と一夏さん、箒さんや篠ノ之博士と言う妹達が居たとしても、その人達を守れれば別に死んでもいい、とか考えて居そうな節が時々感じられるんです。

本人はそんなこと無いと否定するでしょうが、いざと言う時になったら冗談抜きで命を捨てに行ってしまいそう。

 

VT事件の時もそうでしたが、臨海学校の時もそうでしたから。

あくまでも私がそう感じていると言うだけであって本当にそう思っているかどうかは分かりませんけれど。

 

 

でもあれですね。

下手に死んでしまうと人類滅亡とか、地球そのものがこの世から消える可能性が極大なので死ぬに死ねないような気もしますけど。

織斑先生はまだしも、篠ノ之博士がとんでもなく危ない。

 

一人で人類滅ぼせるだけの力があるのだから馬鹿に出来ない。

あの人ならジャパニーズアニメとかの中にある兵器とか普通に再現出来るだろうし、なんならグレードアップしそうな所がまた現実味があるんですもの。

 

とにかく、何とかして勇気を出して想い伝えないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十分ぐらいなんだかんだと尻込みしつつ漸く。

 

「小父様!」

 

「うぉっ。どうした急に」

 

「その、お話があるのですが……」

 

「あぁ、まぁそう言われてきたから話が無かったら俺何しに来たの?って話だし」

 

「う……。そうですけれど……」

 

「それで?話ってなんぞや?」

 

「えっと、その……」

 

伝えようとしても、やっぱり少しだけ勇気が足りない。

 

「ま、セシリアのペースで良いぜ。別にこの後なんか用がある訳でも無いからな。のんびり待つよ」

 

小父様は、今の私の気持ちを知ってか知らずか何時も通り。

チェルシーが出した紅茶を飲みつつそう言う。

 

何となく、ムッとしましたけど何処か落ち着けたような気もします。

小父様が何時も通りならば、私も何時も通りの方が良いという事でしょう。

 

 

 

 

「はー……」

 

一息吐いて、また一度息を吸い込む。

 

「小父様、お話宜しいですか?」

 

「おう」

 

「小父様……。いえ、佐々木洋介さん」

 

「どうした」

 

意を決して。

 

 

 

「私、セシリア・オルコットは貴方の事が好きです。一人の男性として、愛しております」

 

 

 

 

そう言った私の顔は、紅潮している筈。

だってとっても熱いんですもの。

 

あー!!ついに言っちゃいました!言っちゃいましたわ!?

どうしましょう!?どうしましょう!?

 

頭の中でお祭り騒ぎの私は、小父様をチラリと見てみると驚いた顔でそのまま固まっておられました。

 

えーっと……?

 

「あの、小父様?」

 

「はぅぁ”!?」

 

軽く肩を揺すると変な声と共に気を取り戻す。

 

「大丈夫ですか?何か、気に障る事を言いましたか……?」

 

私が、小父様に想いを伝えたことを不快に思われたのかと、不安になる。

小父様はそんなこと考えもしないのだろうけれど、それでも凄く不安になる。

 

「いや、いや気にするな。あんまりにも驚きっつうか、度肝を抜かれたから思考がフリーズしちまった……」

 

「その、そんなに衝撃的でしたか?」

 

「そりゃぁ、お前、なんとなーく、薄々怪しいなー、とか思ってたけど、三十五のオヤジが十五の女子高生、それも金髪碧眼の外人美少女にいきなり告白されたら誰だって頭をハンマーで殴られるよりも衝撃受けるわ」

 

「そんなものですか?」

 

「そんなもんだよ」

 

それよりも、小父様に美少女、と言ってもらえたことがとても嬉しい。

という事は取り付く島もないぐらいに、バッサリと振られてしまうという事は無いという事です。

少なからず、私の事を一人の女性として、異性として意識しているということ。

 

普段なら男性にそんな視線を向けられるのはとても嫌な事ですけれど、好きな人、それも今すぐにでも繋がりたい人にそう見られていると知るととても嬉しいものなのですね。

 

 

 

 

「それで、その、出来ればお返事をお聞かせ頂きたいのですが……」

 

顔がとても熱くて、緊張のあまり落ち着かないから手をずっともじもじさせる。

私が返事を聞きたい、と言うと小父様は何時もの顔では無く、とても真面目な顔で椅子に座り直した。

 

「そう、だな。ふざける事じゃないからちゃんと答える」

 

「はい」

 

「まぁ、正直言っちゃうとすげぇ嬉しい」

 

小父様は、少し照れながら頭をポリポリと掻きながらそう言ってくれた。

その瞬間に、表には出さないけれど頭の中も心も嬉しさで一杯になりました。

自分の想い人に、自分の告白が嬉しいと言われたら誰だって嬉しいに決まってます。

 

「だけどなぁ……」

 

「?」

 

「セシリアの想いに応えてやるのは……。正直に言って難しい」

 

「そんな……。どうしてですか?」

 

「まず、お前さんはまだ学生で、しかも十五歳だろ?」

 

「はい」

 

「そうすっと、まだ未成年って訳だ。今の俺は何処の国にも属していない、無国籍状態な訳なんだが日本の常識で考えると結婚出来るのは十六歳から。成人するには二十歳にならなきゃならない」

 

「それならば、私が十六歳に、いえ、二十歳になったら……」

 

私がそう言いかけた時、小父様は遮ってまた話し始めた。

 

「他にも年齢差って問題がある。俺は三十五、セシリアは十五、丸々ニ十歳差がある訳だ。セシリアが二十歳になった時、俺はもう四十だぞ?」

 

「年齢なんて関係ありません!」

 

「そうは言うが実際は簡単じゃないんだよ。俺ァ、別に気にしないが、いやちょっとは気にするが外聞ってもんがある。俺はあんまり自分で言いたかねぇけど世界でたった一人のIS男性操縦者。セシリアはイギリスでも有数の貴族。これが二十歳差の歳の差婚をしたとなったらどうなると思う?」

 

「……」

 

「現実を突きつけるようで悪いが、世間からは死ぬほど批判される。俺には自分の立場を良い事に若い少女手を出した。セシリアは俺を誘惑して堕とした、とかなんとか言われるに決まってるんだよ。そうなったら一番傷付くのは誰だ?セシリアだろ?」

 

「そんな言葉、気にしません。私の小父様への想いは変わりません」

 

「そうは言っても、その時にならないと分からないもんなんだよ。そんなことでセシリアに傷付いて欲しくないし人生を無駄にしてほしくねぇんだ」

 

そう言って、小父様は力無く笑った。

その笑顔は、何処かとても寂しそうで。

 

普通に生きていれば、手に入れられる筈だった自分の人生における幸せも手放さざるを得ない今の立場は、一般人として生きてきた小父様からすればとても辛い事なのでしょう。

普段は絶対に表に出さないけれど、本人はそう思っていないと言うかもしれないけれど。

 

辛いに決まっている。

 

私の想いに応えられそうにない、と言った理由には確かに自分の保身もあるだろうけれど、それは人間として当然の考え。

小父様は、それよりも私の事を考えて言ってくれている。

 

多分、割合的には9.9:0.1とかそれぐらい。

 

だけど、この想いはどうしても諦めるには余りにも強くなり過ぎていた。

 

どうやっても、何を言われても変わらない。

 

今の私は駄々を捏ねる子供とそう大して変わらないかもしれない。

だけどそれでもかまわない。

 

「……小父様」

 

「ん?」

 

「私は、小父様や、周りにどのように言われても決してこの想いが変わる事はありません」

 

私がそう言うと、小父様は険しい顔で私を見る。

確かに小父様の言う通りでしょう。どんな幸せなことにも世間が、全員が全員必ずしも祝福してくれるわけでは無い。

 

 

 

 

妬み僻みは当たり前。

しかも私は貴族だから、普通の人みたいに付き合って別れて、また別の人と付き合って、という事は早々出来ない。

貴族と言う立場において、単純に交際する、付き合うという事は結婚を前提にしている。

 

だから私がもし今、小父様とお付き合いする、交際するとなるとほぼ確定で結婚する事になる。

特に世界でたった一人のIS男性操縦者だからイギリス政府が猛烈に後押しするだろうし、破局となったら国そのものの面子に関わってきます。

 

理由は軍事面でも外交面でも、他国に圧倒的優位を付ける事が出来るから。

何故小父様がISに乗れるのか?そして操縦できるのか?と言う事を解明しなければならないと言う前提があるので本当に優位に立てるかどうかは未知数ですけれど。

 

そうなると、小父様には国から命令、若しくは命令に近い要請、と言う形で調査協力が来る。

多分、断る事は難しい。

 

私と結婚するという事は、私が嫁入りするのではなく小父様がオルコット家に婿入りするという事。

私はオルコット家のただ一人の後継者で当主だから嫁入りするという事は出来ない。多分、王室が許さない。

特に我がオルコット家は、歴史が旧く長い間王室に仕えてきた上から数えた方が早い名門貴族。

 

上に居るのは、多分王室と血縁関係がある家が三つか四つぐらい。

だからこそ、そのオルコット家現当主で唯一の正当な継承者である私が嫁入りする事が許されない。

もし、嫁入りを許してしまえば前例を作ったという事で同じような事が起きかねない。

 

別に、長子で無ければ他家に行くという事は別段珍しくもなんともないですけれど。

 

では長々と説明しましたが何が問題か、と言うと。

 

私が長子である事と私の両親、オルコット夫妻に子供が私しかいないと言う事が問題なのです。

 

私に弟か妹がいれば家督を譲って、当主の座を退いてしまえば嫁入りも出来なくはないのでしょうけれど……。

でも現実には私一人だけ。

 

 

 

他にも色々と問題や面倒事は山積み。

 

小父様が婿入りするという事は、小父様もイギリス貴族の一員になる訳だからイギリス政府に国籍を置いていなくとも、イギリス王室>オルコット家と言う主従関係に与する事に変わりはない。

だから先程も言ったように、調査協力と言うのを断りずらい、場合によっては断れない。

 

国籍に関しては、無国籍のままかイギリス国籍になると思いますがどちらにせよ、です。

 

 

 

 

 

でも、私は小父様を好きでいる事を、愛する事を諦めたくないのです。

 

お母様とお父様が、亡くなってからチェルシー達は居たけれど、心の中では、私は一人ぼっちなんだ、と思っていた。

おまけに他貴族達と嫌な腹の探り合いをしたり、チェルシー達の手伝いや補佐があったとはいえ会社や家の事もやらなければならなくて。今思えば、心が荒んでいったのは明らか。

 

必死に家を、チェルシー達を、会社を守ろうとして生きてきて。

それでも力が足りなくて。

 

そしたら、IS適性がある事が分かって。

操縦者になって、代表候補生にまで血反吐を吐きながら上り詰めて。

 

その時には、自分の弱った心を隠すために、誰かに見せないために必死に取り繕っていたら、気が付けば女尊男卑思想や民族に優劣をつける様な考えまでして。

 

IS学園に来た時、クラスメイトの前で、小父様に面と向かってあれだけの侮辱をして。

とても一人の人間として、貴族としてあるまじきもの。

 

誰も彼も、私から遠ざかって陰口や軽い嫌がらせを受けて。

でも自分はそれほどの事をしたのだと、そう考えて耐えて耐えて耐えて、耐え続けて。

 

でも本当は、辛くて辛くて仕方が無かった。

だけれど、私への罰なんだと、必死に言い聞かせて。

 

相談相手なんて居る筈も無く、チェルシーには勿論話す事なんてできない。

自分の仕える当主が、そんな愚かな事をしたなんて言えるわけがない。

 

もう、どうすればいいのかも分からなくて考える事もやめて。

泣くこともとっくに出来なくなっていて、ただただ毎日を無意味に送っている時に、小父様が私に声を掛けて来てくれた。

 

少々強引だったような気もしますけれど、あの時に私が救われたのは確か。

 

ずっと誰にも頼ってはいけない、一人で何とかしなければならない、そう思っていたのに。

 

小父様は周りに頼っていいんだ、と教えてくれた。

泣きたい時には泣いて良いのだ、と教えてくれた。

頭を撫でてくれて、久しぶりに温かさを思い出させてくれた。

 

 

今の今まで溜め込んでいたものが一気に溢れ出したけど小父様は黙って受け止めてくれた。

 

そんな、私の事を救ってくれた人を好きになるな、と言う方が私には無理だった。

 

 

だからこそ、小父様が教えてくれたように、我儘を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と小父様が初めてお話ししたとき、最後に私が言った事を覚えていらっしゃいますか?」

 

「なんだっけ……。なんか英語でなんか言ってたのは覚えてんだけど何言ってんのかは全く分からんかったアレな」

 

「それです。【Aⅼⅼ is fair in love and war】です」

 

「それそれ。で、意味はなんなん?」

 

「直訳すると【恋と戦争は手段を選ばない】です」

 

「ほー、なんつーかイギリスらしい諺だな」

 

「だから、私も手段を選ばない事にします」

 

「うぇ?」

 

ポカン、と何を言っているんだ?と言うような顔の小父様。

立ち上がって、椅子に座る小父様の顔に、顔を近付けて。

 

そのまま小父様の唇に、自分の唇を重ねる。

 

 

 

 

「宣言しますわ。私は何が何でも小父様と添い遂げます!」

 

 

 

 

胸を張って、そう宣言する事にしましょう。

途轍もなく強大なライバルは多いけれど、絶対に負けない。

負けてやるもんですか。

 

 

小父様は、凄い顔で固まっていらっしゃるけれど知るもんですか。

私は小父様のもので、小父様は私のもの。

 

絶対に、絶対に誰にも渡しませんから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小父様が部屋を出て行かれたあと。

 

 

今更だけれど、すごく恥ずかしい。

勢いでキスなんてしなければよかった……!

 

でも、小父様とキスしてしまいましたわ!

……んへへへ、嬉しいです。

 

 

自分の勢いに任せた行動に猛烈に後悔すると同時にその幸せを噛み締める事になるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









因みに前書きのやつ、次の話で書こうかなって思ってるよ。

修羅場になるかどうか?
おじさんの胃が滅茶苦茶痛くなるってなる意味では、ある意味修羅場なのかな?


因みに、R-18への分岐は次話になる予定。





長子

その家において、男女合わせた中の一番上の子供の事。
長男、長女でも先に生まれている方が長子となる。

昔なら長男であることが重要で長男、若しくは次男と言った感じに男が家督を継ぐ、と言うのが一般的でなんならそう言う法律もあったけどこの作品においては長子である事の方が重要視される。

家によってはまだまだ男じゃないと駄目!とかお堅い考えの所もあるだろうけど。


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セッシー、やっぱりチョロインだったのね……。



投稿遅れてほんっとうにすいませんでした。






 

 

 

 

 

 

ーーーー Side セシリア ーーーー

 

 

 

 

小父様に、自分の想いを伝えて小父様が帰られた後。

自分の部屋で皆さんへのお土産に囲まれつつ、小父様を想って悶えたりしていると、どこか聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!」

 

「……篠ノ之博士!?どうしてここに!?」

 

振り向いてみると、そこに立っていたのは世界にその名を轟かせるISを開発した篠ノ之束博士が。

突っ込むとすれば、呼んでいないとか、どうやってここに現れたのかとか色々あるんですけれど、まぁとにかく。

 

「あの、篠ノ之博士?」

 

「うん?何かな?」

 

「その、どう言った御用でしょうか?」

 

「え?そりゃぁ心当たりあるでしょ?」

 

何の用で私を訪ねてきたのか、聞いてみるとさも当たり前のようにそう返してくる。

このタイミングでの来訪ともなると、もう一つしかない。

 

寧ろそれ以外に考えられる理由がないと言うか。

篠ノ之博士の小父様への入れ込み具合、というかもう完全に意中の男性に対する接し方をしているから私が告白した事に一言物申したい、と言ったところでしょうか

 

「……小父様の件ですか」

 

「そうそう。あ、別に君が想像してる様な事じゃないよ」

 

「それでは、本当にどう言ったご用件なのですか?」

 

「まぁ、とりあえず君はおじさんの事が大好き、愛してるでおーけー?」

 

「ッ!はい、その通りです。私は小父様の事を心から愛しています」

 

私がそう言うと、篠ノ之博士は目を細めて表情を無くして言った。

 

「そうなると、私とは恋のライバルって訳だ。実を言うと臨海学校の時に私、おじさんに告白してるんだよね」

 

「!!」

 

「あ、別にそのへんでどうこう争う気は無いよ。それとは別に一つ提案があるんだけどちょっと協力してくれない?」

 

「は、はぁ、提案ですか」

 

「うん。単刀直入に行っちゃうと束さんと君、二人ともおじさんのお嫁さんにならない?って言う提案なんだけどさ」

 

「はぁ!?それどんなぶっ飛んだ相談かお分かりですか!?」

 

「そりゃ分かってるよ?」

 

思わず結構大声で聞いてしまいました。

いやだって、恋敵だと思っていた相手から実は告白してましたとか言われたあとに両者の意中の男性を取り合うのではなくハーレム作っちゃおうとか言われたら誰だって驚きますし大声の一つやふたつ出ると言うものです。

 

まぁ、ですが篠ノ之博士がそう提案してくるのだから何か理由がある筈。

寧ろ無意味な訳が無いと言いますか。

しかもそれが小父様の事だったらより一層意味の無い提案はしない筈なんです。

 

「ごほん、声を荒らげて失礼しました」

 

「別に良いよ〜」

 

「それで、どんな理由があっての事なのですか?流石に意味も無くそんな提案されてもはいそうですかと頷けるものではないのですが……」

 

私がそう聞いてみると、篠ノ之博士は真面目な顔をして理由を語り始めた。

 

「正直言っておじさんってなんか私達を守れるんなら別に死んでもいいとか思ってるんだよね。表層心理じゃそうじゃ無いんだけど深層心理だとそう思ってる節があるからさ。それでおじさんが死んじゃったら私世界を滅ぼす自信があるんだよね。私はおじさんに死んでほしくもないし、なんなら怪我もしてほしくないから一生安全なところにいて欲しいぐらいなんだけど」

 

「小父様の性格上、それは無理だと思いますが」

 

「うん。私達がピンチになったら多分、お風呂に入ってて全裸だったとしても飛んでくると思う。だから、安全な所にいてもらうって言うのは無理。それなら絶対に無事に帰ってきて貰えば良いじゃん?」

 

「はぁ」

 

「そうするとさ、妹ってだけの存在がいるだけじゃ駄目なんだよね。一応私もちーちゃんも稼ぎはあるし箒ちゃんといっちゃんの事を十分以上に養っていけるし、あとは任せたとか言って死なれるかもしれない。そうなると他にどんな手があると思う?」

 

「……結婚して子供でもいれば変わるとは思いますが」

 

「ビンゴ!」

 

「はい?」

 

「だから、私達がおじさんのお嫁さんになっておじさんを繋ぎ止める杭というか縄になれば良いんだよ!奥さんがいれば必ず帰ってくると思うし子供が出来たりしたらそれこそ死ぬ気で帰って来るでしょ?」

 

なるほど、下手に死に急ぐかもしれない小父様をそうさせないようにするために私達で囲んでしまおう、という訳ですか。

 

「ですがそれなら一人でも良いのでは?」

 

「いやさ、それが一人だけだと周りに頼れる人がいるからそれはそれであまり意味無さそうなんだよねぇ……。それならもういっその事おじさんのことが好きな子たち、私も含めて周りをガッチガチに固めちゃおうってわけ。それにそうすれば変な虫も寄ってこないでしょ?」

 

なるほど、一人だけでは意味が無いと。

それならば、納得が出来る理由ではありますが……

 

「理由に関しては納得しました。ですがそれですぐに頷けるわけではありません。少しだけお時間を頂いても宜しいですか?」

 

ふぅむ……。

このまま、小父様の隣に立つ女を一人になるまで争っても勝てる保証は無い。

 

女としての魅力では自信が無いわけではありませんが私以上に女の魅力が優れている方々が小父様の周りには多いですからね。

 

私だって、自慢の金髪に碧眼とそれなりのスタイルもありますし小父様と、子供数人を余裕で養えるぐらいの財産はある。

容姿だってモデルを務められるぐらいには、整っている。

ただ、胸の大きさに関して言えば余り大きくないので巨乳好きが多い男性に対してはあまりアドバンテージにはならないかも。

 

 

 

篠ノ之博士は若干性格面において難があるとは思いますが、見た目もスタイルも抜群、資産も個人では世界一。

織斑先生も胸の大きさは篠ノ之博士には劣りますがそれ以外は万能。十分以上に小父様を養うことは可能。

 

一夏さんは確かに未成年ではあるけれど、代表候補生としてトップクラスの実力を持っていて今後日本の国家代表になる可能性に最も近い。見た目も可愛らしいし男性からすれば魅力溢れる女性に違いありません。

箒さんも箒さんで代表候補生などと言った、収入は無いというハンデはありつつも妻になる上で必要なスキルは多分、一夏さんと同等。大和撫子を体現するようなタイプの和風美人でこれまた小父様をあっさりと掻っ攫っていきそう。

 

鈴さんは、小父様に一番気兼ね無く接しているから、小父様も心許していますし多分誰よりもボディタッチ出来る。まぁスタイルはその、何というか、あれですけれど。

それにしても鈴さんって小父様に抱き付いたりしれっとしてる事が多い割に、あまり小父様に相手されていない……?

何というか、女性としてでは無く戯れてくる子供みたいな接し方をされてるのでは?

あれ、もしかして鈴さんって女性として見られていないんじゃ……。

ま、まぁそういう特殊な性癖の方からすれば魅力的なのでしょうけれど。

 

 

 

シャルロットさんは、小父様を手玉に取っている。

普段は割と自由人と言うか飄々としてケラケラ楽しそうにしている小父様ですが、シャルロットさん相手だとタジタジになってる時が多いですわね。

鬼嫁ってわけでは無いんですけれど、こう、何と言うか、やり手の女社長と言う感じでしょうか。

それに礼儀作法もしっかりしてますし。

プラチナブロンドの髪も素敵ですし、スタイルも良い。

今は可愛い系美人ですが、あれは将来絶対に化けますわ。可愛い系が取れた美人になると断言出来ます。

 

 

 

 

 

それらを考えると、争っても私が勝ち残れる可能性が無いとは言いませんが……。

そう考えると、確実に小父様の隣に立つ事が出来る篠ノ之博士の提案は願ってもないものなのでは?

 

「……決めました」

 

「おっ、どうするどうする?」

 

「篠ノ之博士のご提案を飲ませて頂きます」

 

「そうくると思ってたよ。だって断る理由なんて無いもんねー」

 

「ですが、織斑先生や一夏さん、箒さんはどうするのですか?」

 

「え?そりゃ勿論加わってもらうよ?」

 

「それではこの話をこれからすると言うわけですか」

 

「いや、皆には暫く話さないよ」

 

「え?」

 

「私が話したのは君だけ。おじさんに自分の想いをちゃんと自分の口で伝えたら話そうと思ってるんだ。だってそうじゃなきゃフェアじゃないでしょ?」

 

「なるほど、そう言うことですか。分かりました、私も皆さんには黙っておきますね」

 

と言うわけで、小父様ハーレムが作られることが小父様の知らないうちに決定したわけです。

まぁ、そうなったらなったでその中での小父様の一番になれば良いわけですし、これからも小父様へのアタックは止めません。

寧ろ今まで以上に苛烈に行きましょう。

 

……篠ノ之博士と小父様って肉体関係はあるのでしょうか?

もし無いのだとしたら今ここで私が小父様とそうなれば、他の皆さんを大きく引き離せるんじゃ?

 

決めましたわ!

明日、また小父様とお会いしましょう!

 

 

 

 

 

ーーーー side out ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、家に帰ってる途中でセシリアから明日また会えないかって連絡が来ました。

断る理由が無いのでOKしました。

 

さっき言えば良かったのに、なんでやろな?

まぁ別にそれに関しちゃ良いんだけどさ、俺に用事って他に何があるんだ?

ともかく、家に帰って運動して風呂入って飯食って寝るか。

 

 

 

 

 

「おかえりお兄ちゃん」

 

「ただいま帰りましたー」

 

「……お兄ちゃん、セシリアのとこで何してたの?」

 

「いや、別に何もしてねぇけど」

 

「ふーん……?」

 

ウチの妹はどうしてこう、こうなの?

お兄ちゃん怖いよ?

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝起きて飯食って歯磨いて運動して風呂入って着替えて昼頃までのんびりしてから、セシリアと待ち合わせしたレゾナンス駅の改札前に取り敢えず向かう。

服装は、特に考えずに白のポロシャツと半ズボン。あとは暑いからサンダル。

うーん、別になんかするわけでも無いと思うからこれで大丈夫だと思うんだけどな。

 

あとは財布と携帯、家の鍵さえ持ってきゃ大丈夫だろ。

車は近いから乗らんでも歩いていけるからな、車の鍵も要らんし。

 

レゾナンス駅の改札前について、取り敢えずそこで待つ。

IS学園に行くためには前にも説明したと思うけど学生証とか教員証が必要なんだよ。

その学生証とかにはICチップとかよー分からんけどそう言うのが入ってるらしくて、それを翳して尚且つ顔認証とかの生体認証をパスしないとならない。

顔認証に関しては単純に監視カメラで見てるらしい。

束が作ったシステムだから難しすぎて説明されたけど全く分からんかった。

 

んでもって、駅の改札とは別にもう一つ、IS学園生徒用の改札が奥にあって二つの改札を通らにゃならんのだ。

まぁ一般用の改札も学生証とか教員証で通れる様になってんだけどね。

因みに、今日も今日とて俺の護衛に生徒会長さんが着いて来てる。

昨日の内に連絡入れといたのもあるけど、さっきからジロジロ見られてるけどそれとは別種の視線感じるからな。

ちゃんと私は見てますよ、と言わんばかりの視線だもんね。

 

あ、居たわ。ウィッグ被ってっけどあの顔は見た事あるぞ。

あと美人だからナンパされてる。ごめんな、俺は助けらんねぇんだわ。ヤバそうになったら助けに入るけどあしらい方が慣れてるから多分大丈夫だな。

 

「小父様!」

 

その様子をぼーっと眺めながら突っ立っていると後ろから声を掛けられる。

そこにはワンピースを着込んでその上からカーディガンを羽織ったセシリアが。

足元は高めのヒールが付いたサンダルで、ネックレスも着けてる。

あれだな、全部お高いやつだわ。ネックレスにあしらわれてる青い宝石、あれって多分サファイアとかその辺じゃねぇの?あとセシリアの周り1mぐらい完全に世界が違うし。

 

え、俺これからこの子と一緒になって歩くの?

……うん、場違い感凄いけどもう何時もの事だからいいや。

 

そもそも論だけど、おっさんが高校生の中に制服着て混じって勉強してる時点でおかしいもんな!

 

俺を見つけたセシリアは、小走り気味に俺の方に駆け寄って来て嬉しそうに微笑む。

いやぁ、ほんと滅茶苦茶絵になるな。

 

これで会話してんのが俺じゃなきゃぁなぁ、映画のワンシーンだよ?

 

「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

 

「いやいや、今来たばっかだかんな、問題無ぇよ」

 

うーん、こう、どうしてこんなに嬉しそうにすんだろうか。

あ、いや理由は分かるんだぜ?

 

一応昨日、目の前にいるセシリアに告白受けた身ですからね、好きな人と一緒にいれて嬉しいんだろうよ?だけどなんかそれに俺が耐えらんないっつうかさ、セシリアから発せられている雰囲気が甘いから完全ブラックノンシュガーコーヒーが飲みたくなる。

 

くそぅ、こんなに純粋に好意を向けて来やがって!そう言うのに慣れてないおっちゃんにはキツいんだぞ!

 

「その、これから昼食でも一緒に如何ですか?もし既に済ませて来ていらっしゃるのなら構わないのですが……」

 

セシリアと合流して、少し世間話をした後にどんな用件なんだろ、と思ってたら昼飯のお誘いが。

しかも、上目遣いだと!?クッ、これで断れとか無理に決まってんだろ!昼飯食ってたとしても行きますと言うしかねぇじゃねぇか!まぁ食ってないんだけど!

 

「まだだから行くか。どこ行きたい?」

 

「えっと、レゾナンスの中にあるレストランに行きませんか?」

 

「がってん承知。そんじゃ早速行くか」

 

「あ、でも小父様の服装だとちょっと浮いてしまうかも……」

 

「え?」

 

と言うことでセシリアに連れられてスーツ買いに行きました。

 

 

 

 

 

 

「おぉう、メッチャお高そうなお店じゃないっすかやだー」

 

「お気に召しませんでしたか?」

 

「いや、そうじゃねぇんだけども、こう、一庶民なおじさんとしちゃぁこういう店にはまるで馴染みが無くて」

 

「あら、それなら大丈夫ですわ。小父様はどこからどう見ても立派な紳士ですもの」

 

「そっかなぁ?」

 

「そうです」

 

嬉しそうにそう言ってくれんのは良いんだけどさ、待ち合わせ当初からずっと腕組まれてて大きくて柔らかいものとか色々あったってたり良い匂いがしたりセシリアの金髪が綺麗だったりと男としては物凄い幸せなんですけども、周りの目が完全に怪しい奴を見る目なんだよ。

嫌じゃ無いんですよ?そりゃ美人さんに好かれるってのは何度も言うけど男としちゃ幸せだし嬉しいし。

だけどね?俺って束にも告白されてんだなぁ。

それで、十五の外人高校生に告白された次の日に腕組んでる。側から見たら明らかにデートしてるんですよ。

 

これ、もしかしなくても普通にド底辺クソ野郎じゃん。

 

「セシリア」

 

「はい?」

 

「言ってなかったんだけどさ、俺ってば束にも告白されてんだわ。んでもって今セシリアともこうしてる訳でして」

 

「その事ですか?篠ノ之博士から既に昨日の内に聞いていますわ」

 

「えっなにそれおじさん初耳なんだけど」

 

「小父様、私はその件については了承済みですし、それでも構わないと思っております。ですから小父様もお気になさらなくてもよろしいですわ」

 

セシリアはそう言ってこれまた嬉しそうに俺の腕をぎゅっと抱きしめてくる。

俺はそうもいかんだろ、と言いかけたけどセシリアの嬉しそうな顔を見ちゃったらなんか言えなくなった。

 

まぁ、この件に関しては後々男として始末付けないとならん。何があってもだ。

本当は、告白された時にちゃんとしとかなきゃならないんだけどなぁなぁにしちまったから。

 

と言うか、セシリア気にしないのか。

最近の子って凄いんだね。

 

「んふふ」

 

「さっきから笑ってっけどどうしたんだよ」

 

「何時もは織斑先生や一夏さん達がいて中々二人きりになれないのに今日は、小父様と二人きりでデート出来て触れ合えて食事も出来るんですもの。これで嬉しく無いわけがありませんわ。それに……」

 

「それに?」

 

「いえ、なんでもありませんわ。兎も角、小父様と二人きりでデート出来る事がとても幸せだから笑っているんです」

 

「そりゃぁ、嬉しいけどもさ」

 

そこまで言われると嬉しいけど俺の方が恥ずかしくなってくるわ。

うんまぁ、取り敢えず腕組むのは良いけど更に手まで握って来られると更に密着して俺の左半身が無駄に柔らかい感触で覆われてて大変なんだわ。

 

だけども嬉しそうにするセシリアを見てると、離れろなんて言えんわ。

 

 

 

 

 

 

 

んでもって、セシリアと昼飯を食った後。

お高過ぎておじさんのお財布じゃ無理だったんだよ。そしたらセシリアが奢ってくれるって言って大人しく奢られときました。

まさかそんな高いとこに行くなんて思ってなかったから一万しか持って来てなかったんだもん。まぁ映画とかそこらのファミレスぐらいなら余裕で奢れるし問題無いと思ってたのに。

 

ヘソクリがあるから切り崩せば良いんだけど。

つってもヘソクリ十万有るか無いかってレベルなんだけど。

毎月百円ずつちょこちょこ貯めてたんだよ。

 

と言うか千冬もだったけど、一夏も大学進学する気が無いらしくて俺が必死に貯めてきたお金ってどうすりゃいいんだろ。私立とかじゃなけりゃまぁ、問題無く通わせられるだけの貯金はあるからなぁ……。

結婚資金とかに使って貰えばいいか。

 

 

 

 

 

レストランを出た後、再びセシリアと腕組んで手を繋いでレゾナンス内を二人で歩き回り、下着が欲しいから付き合ってくれと訳分からん事言われて流石に無理です、って断ってなんだかんだ。

 

三時ごろに、用事は終わったからとセシリアは帰ろうと言う。

 

「随分とお早いことで。もっと夜まで付き合わされるかと思ってたわ」

 

「女の買い物は長くて当然ですわ。こうして外をデートするのも良いんですけれど今日は普段からお世話になっている小父様をおもてなししたくて。それに、あの時私を助けてくれた恩も一度で返せるものでは無いとは言え何も返せていませんもの」

 

「昼飯を奢ってくれたのも、スーツを見繕って買ってくれたのもそれってことか」

 

「はい。本当はオーダーメイドでスーツや礼服を仕立てたかったのですけれど小父様のサイズなどを存じ上げていませんでしたから、既製品になってしまいましたけど」

 

「いやね、それでうん十万もするスーツは貰えねぇよ。オーダーメイドになったら幾らしちゃうんだか」

 

「えっと、私は服飾店も経営してますからそこに頼めばタダ、とは言いませんが他で数百万するものも数十万ぐらいに抑えられますわ」

 

「おっほう、まさかの返答来ちゃったぜ」

 

「そうですわ!今度小父様のスーツなどを私の経営する服飾店で仕立てましょう!」

 

「発想が違い過ぎて一庶民なおじさん頭が追い付かない」

 

「ちゃんと私のポケットマネーで支払いは済ませますからご安心下さい」

 

どんどんとんでもない事を言い出すこのお嬢様。

いやね?サラリーマン時代のやつが店で一番とは言わなくともかなり安いやつで、確か二万したかな?ってぐらいなんだぞ?

俺が今着てるスーツ、一四万もすんだぞ!?これ買って貰っただけでも恐縮ものなのに更にオーダーメイドで本来なら数百万するスーツなんて貰えないって。

 

飯も奢ってもらった挙句スーツまで買ってもらったんだから、これでもう十分だろうに。

 

「いやいやいやいや、流石にそこまでして貰う訳にゃいかんだろ。お前さんが働いて稼いだ金なんだ、俺なんかに使う必要なんざこれっぽっちもありゃしない」

 

「いいえ、駄目です。私の人生は小父様に救われたのですから。あのまま行っていたら道を踏み外したりしていたかもしれないし自業自得とは言え心が耐え切れなくなっていたかもしれない。そんな私を引っ張り上げてくれたんですもの。これ程の恩を受けたままと言うのは私自身としてもオルコット家当主としても許せません。それに、貴族に恩を売ったんですのよ?これぐらいで済む訳がありませんわ!」

 

「いやそんな自信満々に言われても」

 

「それに、私は小父様の事を愛していて何がなんでも我オルコット家に迎えたいと思っているんですもの。これぐらいで止まるわけには行きません!」

 

どうやらこの子、悪いホストとかに引っかかっちゃうタイプかもしれない。

 

「いいかセシリア。好きだからってなんでもかんでも与えたり贈ったりすりゃ良いってもんじゃねぇんだ。それじゃお前、駄目だろ」

 

「……はい」

 

「あーあー、しょぼくれんなって。別に怒ってる訳じゃねぇんだからさ。ただの年長者からのお節介だ。ほら、顔上げろ」

 

俺に怒られたと勘違いした、させてしまったセシリアの俯いた顔を上げさせる。

それでも腕を離さないのはご愛嬌、ってところか。

うん、本当になんで俺を好きになったんだろうね?ってぐらい美人で、普通ならお近づきにすらなれないぐらいの美人なんだ。

 

「お前さんは美人なんだから笑っとけ。男ってのは善人悪人問わず美人には媚び諂うもんなんだ。それが笑ってたらもっとだ。自分を好きだって言ってくれる女がそんなしょぼくれてる顔してたって男はいい気分にはならないからな」

 

「ッッ〜〜〜!!小父様!」

 

「ほわっつ!?」

 

俺が言い終わると飛びついてくるセシリア。

それをどうにか抱き止めると、嬉しそうな声を上げながら擦り寄ってくる。

 

「セシリアさん、ここ往来だから!人めっちゃ見てるから!」

 

「絶対離れませんわ!」

 

「ナンデェェッ!?!?」

 

結局セシリアを引き剥がす事どころか抱き締める力を少しばかり緩めて貰うことすら出来なかったおじさんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒にIS学園に向い、セシリアの部屋へ。

お招きされたんだから断る理由もなけりゃ行くしかないわな。

 

「どうぞ」

 

「あんがと」

 

セシリアはどうやら料理は出来ないらしいが、紅茶を淹れる事は上手いのか美味しい。

まぁ紅茶の銘柄なんてのはまるで分からんけども。

 

「うん、美味い美味い」

 

「良かったですわ、練習した甲斐があったと言うものです」

 

「ほー、練習してたのか」

 

「はい。その、サンドイッチ事件の後に本国のメイドや執事達に聞いて教えて貰ったのです。それで、イギリスに帰った時に合格を貰えたので小父様に飲んで頂きたいな、と」

 

「そりゃぁ、嬉しいね。こんだけしてもらっといて何も返さないって訳にはいかないな。なんかして欲しい事とか欲しい物とかあるか?」

 

「なんでもいいのですか?」

 

「おう、なんでもいいぞ」

 

この時、俺は常識の範囲内で、とか付けて言うのをすっかり忘れていた。

なんでもお願いを聞いてくれる、なんて言われたセシリアは顔を赤くしながら即答。

 

「それなら、小父様とその、寝たいです!」

 

「はぇ?」

 

思わずアホな声を出しちゃったおじさんは悪くないと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「待て待て待て待て!お前さん何言ってんのか分かってんの!?」

 

「もも、ももも、ももも勿論ですわ!分かっていなかったらこんな事言いません!」

 

「駄目に決まってんだろ!年頃の女の子がそんな事言うんじゃありません!」

 

「どうしてですか!?小父様はなんでも言うことを聞いてくれるって仰ったではありませんか!」

 

「それとこれとは話が別だ!」

 

それから、顔を赤くして必死に俺に詰め寄るセシリアとそれをどうにか宥めて押し留めようとする俺の攻防は凡そ二十分に渡って続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのなぁ、お願いでそんな事言うんじゃねぇって。しかも寝るってただ昼寝するって意味で言ってんじゃないんだろ?」

 

「はい。勿論意味は十分以上に理解しているつもりです」

 

「そんじゃなんでそんな事お願いしようなんて考えたんだ?」

 

落ち着きを取り戻した俺とセシリアは、取り敢えず座って紅茶を飲みながら話をする事に。

未だにセシリアは頰どころか、耳もまだ若干赤いが落ち着いてはいるらしい。

 

俺?内心大パニックよ?それがなにか?

 

「その、はっきり申し上げますと小父様を慕っている女性は多くて、その誰もが私以上に魅力ある方々です。料理の腕でも劣っていますし……」

 

「だから、誘ったって訳か?」

 

「その、はい……」

 

そう肯定するセシリアに対して、なんというか取り敢えず怒りが込み上げてくる。

さぁて、説教タイムと行こうじゃないか。

 

 

 

 

「馬鹿なんじゃねぇのお前」

 

「ッ!」

 

「あんま上手く言えねぇけどよ、取り敢えず言わせてもらうわ」

 

「はい……」

 

「束にも告白されてセシリアからも告白されてそれをなぁなぁでこんな状況になってる俺がいうのも正直説得力無いけど、セシリアが俺の事をどう見てるのかは知らんけどさ、俺はセックスしたらとかそう言うんで誰と付き合うとか結婚するとか決める訳ねぇだろ!好きな男の為だからって身体使おうなんて考えるんじゃねぇ!俺を舐めんな!」

 

怒鳴って、萎縮したセシリアを前にして少しばかり冷静さを取り戻して一息吐いてから続ける。

 

「本当に、俺が言っても説得力もなんも欠片も無いのは分かってる。だけど俺のことが好きだから、だけど他の女より自分の魅力が負けてるからとかそんな理由だけで身体でどうにかしようとか考えてほしく無いんだよ、俺は」

 

「それに、セシリアが自分に魅力が無いってんなら俺が幾らでも言ってやるよ。

セシリアが孤立してる時、自分の非を認めてちゃんと皆に謝っただろ。あれはそう簡単に出来る事じゃねぇ。相当勇気がいる事だ。

周りにいつも気配りしてるじゃねぇか。お前さん達の年齢なら周りよりも自分って奴の方が多いのにだぞ?

俺の訓練にも付き合ってくれるし、頭良いから、専用機貰ってるからって努力するのを止めないし、自分が弱いからって俺のとこに鍛えてくれって頼みに来たりもするぐらい向上心ある。

確かにセシリアは料理が下手クソだけど、それを補おうと紅茶の入れ方練習してきて美味い紅茶をご馳走してくれたじゃんか。

 

それに見た目に自信無いんなら言ってやるけど、セシリアは滅茶苦茶美人だろ。これで美人じゃ無いとかただの嫌味だわ」

 

取り敢えず、何言ってんのか俺もよく分からんけど言ってやったわ。

満足した。

 

それで、目の前のセシリアは俯いている。

なんつーか、怒ったことに後悔は無いけどやっちまったな、とは思う。

 

そりゃセシリアからすればお誘いを断られた挙句に怒鳴られて説教されたんだ、普通だったら嫌われて当然。

こりゃぁ嫌われただろうな。

でも俺は謝らんぞ。だって謝ったらセシリアのやり方が正しいって言っているようなもんだからだ。

 

「小父様、ごめんなさい……!」

 

そう言って、泣き出すセシリアは必死に涙を手で拭っている。

流石にここまで泣かれちゃ幾らセシリアが間違っていて説教したとしても罪悪感の方が強くなってくるわけで。

 

「ほら、顔上げろ」

 

「えぐっ、ぐすっ」

 

「いいかセシリア」

 

「はい“……」

 

顔を両手で掴んで上げさせて、しっかりと目を見て言ってやる。

 

「二度と、こんな馬鹿な真似すんじゃねぇぞ。分かったか?」

 

「ぐすっ、はい、わがりまじた“」

 

「ん、それならいい。ほら、泣き止めって」

 

「だきし“め“て“くれ“たら“なきや“み“ます」

 

「しょうがねぇなぁ」

 

ちゃっかりそんな注文してくるセシリアを、抱き締めて背中を摩ってやると何故か泣き止むと言ったのに更に泣き出す始末。

もう俺にはどうしようもないから、大人しくセシリアが泣き止むまでそのままでいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三十分ほどしてから、ようやく泣き止んだセシリアを椅子に座らせて取り敢えず一息。

 

「その、本当に申し訳ありませんでした」

 

「うん、まぁ次からはこんな事しないようにな」

 

ちゃっかり椅子を隣に持ってきて、引っ付いてきてるのはなんなんでしょうね?

嫌われたもんだと思ってたから驚きだよ。

 

「それにしても、小父様はあんなに私の事を褒めて下さるとは思ってもいませんでしたわ」

 

「まぁ事実だしな。別に隠すようなことでもないだろ。今までだって散々美人さんだって言ってきたんだから」

 

「それで、小父様?」

 

「ん?」

 

「なんでもしてくれる、と言う約束ですわよね?」

 

「まぁそうだけど、さっきみたいなのは無しだぞ」

 

「大丈夫です」

 

「それで、何がご所望で?」

 

俺がそう聞くとセシリアは言った。

 

「小父様から、私にキスをして欲しいです」

 

「よぉし、拳骨喰らわせてやるから頭出せ」

 

「違います!別に身体を使ってだとか考えていませんわ!」

 

「それじゃなんだって言うんだね?セシリア君。訳を聞いてやろうじゃないか」

 

さっきの今でんなお願いされたんだから誰だって相手が女だろうと拳骨の一発ぐらいは食らわせてやろうと思うのは当然だろうさ。

 

「その、昨日私は小父様にキスをしたでしょう?」

 

「あぁうん、そうだな」

 

「それで、その、あの時凄く幸せだったので次は小父様からしてくれたら嬉しいな、と思いまして……」

 

「なるほどねぇ……」

 

と頷いたは良いものの、それでうん分かったと頷く訳にはいかんだろ。

 

「あのねぇ……」

 

「あら、小父様ともあろうお方がレディーとの約束を違える筈などありませんでしょう?」

 

そう言って俺に寄り掛かってくるセシリアは、確かにさっき怒られた時の少しばかりの仕返しを、と言う顔をしてやがる。

 

「………………」

 

「小父様、早く早く」

 

既に目を瞑って強請ってくるんだから、手に負えない。

どうすりゃいいんだ、と頭を抱えるしかない。

 

まぁ別にセシリアの事は嫌いじゃないよ?

だけどさぁ、今更だけどセシリアってまだ一五歳なんだよな。

別に年齢関係無く恋愛はしてもいいと思うけど流石にねぇ……。

 

せめて一六だったらまぁ、一応日本の法律上結婚出来る年齢だからうん、まぁ、うん……。って感じだろうけどそれでも渋らざるを得ないと言うか。

そりゃ慕ってくれんのも嬉しいよ?でもそれで手を出すのは別問題だろう。

 

「小父様、まだですか?」

 

「あー、ったくしょうがねぇ、今回だけだからな?」

 

「はいっ」

 

急かされて、どうすりゃいいのか分からなくなった俺は目を瞑って俺の手を握り唇を差し出すセシリアと、軽くキスをした。

 

「んっ……」

 

「ほら、これで十分だろ」

 

「むぅ、もっとして欲しいのですけれどこれ以上要求するのもアレですし、これで我慢しましょう」

 

そう言ってこれまた嬉しそうに、笑いながら擦り寄ってくるセシリアは本当に幸せそうにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、暫くの間セシリアに引っ付かれて七時頃まで一緒に過ごし、その後は特に何事も無く家に帰る事にした。

 

「たでーまー」

 

「おかえりー。晩御飯丁度出来たから一緒に食べよ」

 

「おう、手ぇ洗ってくっから待っててくれや」

 

「うん。……ねぇ、セシリアと何してたの?」

 

「え?」

 

「お兄ちゃんからセシリアの匂いがする」

 

そう言って距離を詰めて来てふんふん、と俺の匂いを嗅いでくる一夏は、なんというか、怖いです。

 

「ねぇ、何してたの?」

 

「いや、普通に飯食って買い物しただけだって」

 

「ふーん……?それで、その荷物がそうなんだ」

 

「おう」

 

出来るだけ平静を保ちつつそう答えた。

 

どうにか納得してくれた一夏を尻目に自室に向かって荷物を置きながら大きなため息を吐いちゃったよ。

いやもう、背中の冷や汗とか凄まじいったらありゃしない。

 

取り敢えずスーツを脱いでハンガーに掛け、チャチャっと着替えて晩飯を食いにリビングに降りるのだった。

 

 

 

 








セッシーの株がどんどん上昇してますよっ!!
やっぱりセッシー可愛いもんな、仕方ないよな。





R-18編でげす。

https://syosetu.org/novel/227721/




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私が救われた理由 (束)



3ヶ月も投稿しなくて久々に投稿したかと思えば本編が進まない小説があるらしい。

リアルが忙しかったり他の小説やら新しい小説書き始めたらそっちが筆乗っちゃったり色々とあったんです。
許して。



何故か書いてるうちにシリアステイストマシマシになっちゃった……。
まぁ、うん、仕方ないね。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

おじさんに出会ったのは小学4年生の夏。

ものすごーく暑くて暑くて、雲ひとつ無い馬鹿みたいな青空が広がってしょうがなかった日のこと。

空を眺めてあの空の遥か向こうには一体どんな物があって、どんな生物がいて、どんな言葉を話しているのだろう、と想像して早く飛び立ちたいと思っていたある日。

 

 

 

 

おじさんに出会った話をする前にそのおじさんと出会うきっかけになった話をちょっとだけ。

 

小学校で、なにやらすごい奴がいるって風の噂を聞いた私は、偶然を装いつつも今思えば相当強引に殆ど拉致と言っても良いぐらいの勢いで教室から件の人物をかっぱらっていった。

 

まぁ、この頃の私って学校中からハブられてたから私を差し置いても何も無いんだけど。

 

とにかく驚きやらなんやらで目を見開いていたその子は、言葉で言っても止まらない私を無理矢理力でもって止めると問いただして来た。今思い出すだけでも末恐ろしい眼力と迫力で。

 

それがおじさんと出会うきっかけになった、そして私の生涯で唯一無二、ただ1人の親友であるちーちゃんだった。

 

 

 

 

そのちーちゃんと妹のいっちゃんが、今でこそ想像も出来ないだろうけどちーちゃんですらお兄ちゃん、と言って心の底から慕っていたのがおじさん。

 

そのおじさんが、皆から拒絶されて世界に絶望しかけていた私を救ってくれた。

今は私が世界で一番、両親や箒ちゃん、ちーちゃんいっちゃんよりも、誰よりもずっとずっと、愛している人。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めておじさんと会ったのは、そんなちーちゃんと知り合ってから3ヶ月後のこと。

夏休みに入る前、私の家がやっている剣道の道場に連れていった時のことだ。(千冬本人の同意無し)

お父さんに言われてちーちゃんが竹刀を初めて握って幾らか練習をした後。

無理矢理引っ張っていったものだからちーちゃんは自分の家に帰る道が分からず、電話を貸して迎えにきて欲しいってちーちゃんが。

 

迎えに来た時にあったのが初めての出会い。

まぁ、その時は顔を見たってだけで碌に挨拶もなんにもしないで、おじさんはちーちゃんと手を繋いで帰っちゃったけど。

それから、ちーちゃんの才能を見抜いたお父さんが、態々家に行っておじさんを説得してちーちゃんが剣道を始めたり、なんて色々あったけど本格的に関わり始めたのは、ちーちゃんが剣道を習い始めてから二週間ぐらい経ってからのことだった。

 

ちーちゃんと一緒に来て、何やらお父さんにボコボコに扱かれているのを尻目にしながらちーちゃんと稽古していた。

お父さんにボコボコにされ終わった後、私に挨拶をしてきたのだ。

 

「初めまして、か?」

 

「初めまして」

 

「千冬と、仲良くしてくれてるんだってな。毎日楽しそうに話してるよ。ありがとう」

 

「いえ」

 

特に興味も無かった私は、一応ちーちゃんのお兄さんだし、と言うことで適当に返答していた。

 

後々ちーちゃんに聞いた話じゃおじさんは、子供にそんな塩対応と言うか、友達の兄貴だし仕方無く応答されてるって分かったから相当落ち込んでいたらしい。

うぅん、今考えてみるとメンタルが強いのか弱いのか分かんないね。

 

まぁ、ともかく私とおじさんの出会いは多分最悪なものだったと思う。

で、そこからどうして関わりが出来たのか。

 

それは、何ヶ月か道場で扱かれている様子を見てなんとなく、

 

「あ、こいつ多分普通じゃないな」

 

って感じたから。

最初は本当に酷いもんだったよ?泣きながら吐くわ気絶するわ鼻水垂らして顔や身体中に青痣作ったりしてて見てられなかったし私自身も心の中でさっさと辞めればいいのに、馬鹿だ馬鹿だと思っていた。

それでも普通じゃ無いと思ったのは、お父さんからの直接の扱きを耐え続けるだけでなく、ほんの数ヶ月後には別人クラスにまで変化していたから。

剣道もそうだけど、何よりも無手ノ型を教えられていたのに、決して弱音を吐くこともなく、ボコボコにされて泣いて吐いてても絶対に弱音は吐かないし辛そうな顔さえしたことがなかった。

 

そりゃ人間数ヶ月もあれば十分に変わると思うよ?でもあの変わり方はおかしい。早過ぎる、と言うよりは成長速度が異常過ぎだった。

 

それを見て。

 

「ねぇ」

 

「んぇ?おぉ、束ちゃん、だっけか。どうした?」

 

「おじさん何者?」

 

「おじっ……、俺、そんなに老けて見える……?」

 

そう声を掛けた。

おじさんは割とおじさんって言われたのがショックだったのか凹んでたけど。

 

確かにあの時っておじさん、まだ20代半ばなんだよねぇ。

確かにおじさんって言うにはちょーっと若すぎたかもしれないけど。

 

「いいから答えて。何者?」

 

「えー、何者って言われてもなぁ……」

 

そんな事は露知らず、私は答えを催促する様に急かした。

おじさんは、腕を組んでうんうん考えて。

 

「サラリーマンやってて、2人の妹養ってて現在進行形で師範にボコられてる男?」

 

「いやそう言う事じゃなくて」

 

うん、聞きたかった事とはまるで違う返答が返ってきた。

でも、嘘発見器は反応していなかったから本当のことなんだろう。

一応、この時すでに簡易的な嘘発見機をウサミミカチューシャ型にして作っていた。

今のものとは精度は比べるまでも無いけど、表層意識は確実に真偽を見分けられる性能はあった。

 

いやでも故障してるかもしれないし……。

そう思って適当にいくつか質問してみる事に。

 

「……ちーちゃん達の事、どう思ってる?」

 

「え?そりゃぁ、めちゃんこ死ぬほど愛してるに決まってるべ」

 

「命賭けられる?」

 

「勿論」

 

「世界を敵に回せる?」

 

「余裕」

 

「……もしアメリカ大統領を殺さないとちーちゃん達を殺すって言われたら?」

 

「もし本当にそれしか助ける方法が無いってんならぶっ殺す」

 

全部嘘じゃなかった。

この人、血が繋がってない、詳しい素性も何も分からない、分かっていない、見捨てても誰も文句を言わないのに。

それでも、ちーちゃんといっちゃんの事を助けたんだ。

 

それで、これほどまでに愛してるんだ。

 

でも、もしかしたら嘘発見機が壊れてるかもしれないから適当に嘘をつかせてみよう。

 

「ちょっとなにか嘘ついてみて」

 

「えっ、えー、うーん……。今日は師範に勝てたぜ?」

 

あ、反応した。

って事は今までの事は全部本当。

 

ちーちゃん達を馬鹿みたいに愛してるのも本当なんだ。

 

そしたら、私のことどう思ってるのか、ちょっと聞いてみたい。

他の大人は、適当な嘘を並べるばかりで本当は、私をいつも化け物扱いしてる。

 

だけど、もしかしたら。

 

「……私のこと、どう思ってる?」

 

「えっなにその唐突な質問」

 

「いいから早く答えて」

 

「あぁ、うん分かった。どう思ってる、かぁ……。千冬の友達で、なんか賢そうでめっちゃ可愛い子だなぁ、ぐらい?というかそれしか知らん。あといきなり質問攻めしてくる変なやつ」

 

これも全部本心らしい。

 

「……ロリコン?」

 

「ち、ちがわい!」

 

あ、ロリコンでは無いんだな。

いきなり可愛いとか言うもんだからもしかしてとも思ったけど。

 

でも変なやつ、か。

 

「ねぇ、なんで変な奴って思ったの?」

 

「そりゃお前、初対面の時あんだけ塩対応されて今の今まで喋らなかった子供が急に話しかけて質問攻めにしてきたらそう思うだろ。逆にわーい子供に質問攻めにされた!嬉しい!もっとカモン!って思えるか?思われたとしたらキモいだろ」

 

「確かに」

 

「だろ?」

 

なるほど、と言うことは私の態度が大きく変わっていて変なやつ、と思ったのか。

確かに私でもおかしな奴だなと思うしなんなら二度と近づかない。

ってことは、この人は私の事を恐れていたりするわけじゃないらしい。

 

……もしかしたら、あれを見せても怖がらないでいてくれるかな?

 

 

あれ、と言うのはInfinite・Stratos〔インフィニット・ストラトス〕の基礎理論とそれをもとに描いた設計図。のこと。

この時既に私は宇宙へ向かうために多くの技術の構想を練っていて、既に資金と資材、設備さえあれば実現可能な技術もいくつかあった。

その中には具体的な紙の上ではなく、立体化して設計図を練るために必要な投影型ディスプレイや粒子化技術、といったISそのものを開発するために予め必要な技術が多く存在していた。

これをまずは作って問題点を洗い出して、改良していかないととてもじゃないけどISそのものを開発することは出来ない。

 

それを実現するためにその図面や論文を学校の先生に見せたら、それこそ本当に化け物扱いされた。

その噂は学校中に広まって、保護者達も。

お父さんとお母さんはそうじゃなかったけど、やっぱり理解はしてくれなかった。

 

でも、もしかしたらこの人は……

 

そう、考えた私は無理矢理手を引っ張って自分の部屋に連れて行った。

 

「ちょ、何いきなり!?」

 

「いいから付いてきて」

 

困惑するおじさんを尻目にズルズルと手を引いて。

設計図やらなんやらが堆く積まれている私の部屋ドアを開ける。

 

そして、それをみておじさんが開口一番に放った言葉は、

 

「部屋汚ったな!!」

 

だった。

 

「ねぇ、それ女の子の部屋を見て言う言葉じゃ無いと思うよ」

 

「いや、でもこれはァ……、汚ねぇとしか言いようがないぐらい散らかってるじゃん……。しかも小学生の部屋だぞ?その何処にトキメキを感じればいいんだ俺は」

 

そんなこと言われても、と困り顔でそうおじさんは言っていた。

まぁ、確かにちょっとばかり散らかっていたかな、とは思うけど。それでも酷くない!?乙女の部屋を見て一言目が部屋汚いって!いや、私じゃなかったらビンタだよ、ビンタ。

 

「え、なにこの汚い部屋を態々見せるためだけに俺を連れてきたと?……師範になんて言やいいんだ……。あれか?片付けさせた方が良いですよ、とでも言えばいいの?……俺が殺されるわ!」

 

「んなわけ無いでしょ。見て欲しいのは、もっと別の物」

 

「ゴキブリとか可燃ゴミ出されても困るんだけど」

 

「そんなもの態々手で掴んではいどうぞ、なんてするわけないじゃん。これを、見て欲しいの」

 

おじさんと、会話しつつ部屋の中に入って一番大事にしておいたISの基礎理論、設計図を唯一綺麗にしておいた机の上から持っていく。

そして、ファイルに入れられたそれを、心臓の音が自分でも聞こえるほどにドクンドクンと鼓動して震える手で突き出す。

 

「……なんだ、これ?なんかの設計図か?」

 

「私が、考えたマルチフォームスーツ。宇宙空間での使用を前提に一から基礎理論の論文とその設計図なんだけど……」

 

「ほー」

 

私が説明すると、なんとも気の抜けた返事が返ってくる。

 

「え、それだけ?」

 

「いや、うん、俺馬鹿だし、んな難しいこと言われても……。自慢じゃ無いけど中高六年間数学赤点だったし、こんな計算式とか見せられると、うへぇ、数字だぁ……って思っちゃうわけでして」

 

「……他に、何か思わない?気持ち悪いとか、怖いとか」

 

「は?なんで?これ、お前が必死になって考えたんだろ?それを馬鹿にしたりはしねぇよ。ただ、凄すぎるのと俺の知能じゃこれがこうなっててあぁなってんのね、って理解できないからすげぇなぁ、としか感想が出ないだけ」

 

私が思い切って聞いてみるとそんな、何馬鹿な事言ってんの?って顔で当たり前のようにそう言った。

自分の耳が信じられなかった。

そう鼓膜から脳に伝達されていることが信じられなかった。

 

 

だって、その言葉は私がずっと待ち望んでいたものだったから。

 

 

嘘発見機は、反応していない。

さっき、壊れていない事はちゃんと証明されているから尚更信じられない。

本人は、当たり前だと、そう答えてそう思っているのが普通だと思っているんだろう。

 

でも。

わたしには違った。

 

誰も理解してくれなくて。

誰も理解しようとしてくれなくて。

誰も受け入れようとしてくれなくて。

皆が拒絶して。

皆が否定して。

皆が怖がった。

 

 

でも。

この人は、自分が馬鹿だから分かんないけど、って言っても理解しようとしてくれた。

今も、設計図を縦やら斜めやらに回して眺めて、論文を眉間に皺寄せながら、

 

「何書いてあるか分かんねぇ、俺社会とか歴史なら得意なんだけど理系はからっきしだからな……。何これ浮くの?飛ぶ?はー、すげー」

 

なんて言いながら読んでいる。

論文なんて誰も読んでくれなかったし、こんなものを書く暇があるなら漢字の書き取りとかやったらどうだ、って言われてゴミ箱に捨てられた事もあった。

 

本人は、何が書いてあってとか何を表しているのかとか分からないんだろう。

でも、それを置いたりしないで、ちゃんと1ページ1ページを丁寧に、丁寧に捲って時間を掛けて一字一句読んでくれている。

 

   

 

この世界には、私の夢を馬鹿にしないでちゃんと聞いてくれる人が、理解しようとしてくれる人がいるんだ!!!

 

 

そう私が理解するまでに、たっぷり三十分。

理解したら、それはもう堪らなく嬉しかった。

 

身体の奥の方から、喜びだったり色々な感情とかが出てきて収まらな

い。

 

「ぐすっ、うぇぇぇ……!」

 

「えっ、ちょっ、なんで泣いてんの!?俺なんかした!?」

 

「ち"か"う“よ"ぉ“ぉ“ぉ“!!」

 

産まれて初めて、涙を流した。

あれだけ理解してくれなかったりしても、絶望するばかりで泣いたりしなかったのに。

 

初めて流した涙は、とっても温かかった。 

 

 

 

 

 

「いやもう、いきなり泣くの勘弁な……。マジ焦るから」

 

「うん、分かった」

 

「しっかしよく考えたなぁ。正直全体の設計図だけなら誰かが思い付きで書いたぐらいにしか受け止めんけど、内部構造とかの設計図だけじゃなくて論文まであんだから凄ェ。しかも小学4年生でか。凄いなんてもんじゃねぇな、こりゃ」

 

この時私が設計した機体は全身装甲型のもので後々白騎士となる設計図だ。

だから、確かに普通に全体像を書いた設計図だけを見たらそう思う。

 

「いや、素人が見ても明らかに技術革新なんてレベルじゃ無い技術ばっかじゃん。シールドバリアとか量子化って完全SFじゃん」

 

私が引っ張り出した椅子に座って、読みながら感想を漏らすおじさんは、目を輝かせていた。

 

その様子を見て、ふと疑問に思った。

 

「その、なんで嘘じゃ無いって信じてくれたの?なんで、怖かったりしなかったの?」

 

私が、目を見て言ったからか、設計図や論文を一度机に置いて真面目に話し始めた。

 

「俺の知ってる名言にな?

 

他人のものさし

自分のものさし

それぞれ寸法がちがうんだな

 

ってのがあるんだ。それで考えると俺の中での常識やら出来る事のものさしと、えー、なんて呼べばいい?」

 

おじさんは、そう聞いてきていた。

今思えば真面目に話し始めたのに、こんな事聞いてくるなんてなんともおじさんらしい。

 

「束でいいよ」

 

「そっか、それじゃ束。俺の中での常識やら出来る事のものさしと、お前さんの中にある常識やらのものさしは全くの別物なんだよ」

 

「例えば?」

 

「俺にはこんな難しい計算は出来ないけど、束には出来る。な?違うだろ?人間ってのは、そのものさしを無理矢理他人と同じ長さに、大きさに近付けて生きてんのさ。だから、そう合わせようとしないやつを、こいつはおかしいやつだって言って馬鹿にしたり仲間外れにすんだよ。だけど本当に馬鹿なのは合わせてる奴らだ。だってそうだろ?自分の本当の価値観とかを全く口に出さないんだから。んなもん損じゃねえか。まぁ、でも、そうしないと社会が回らなかったりすんのは事実なんだけどな」

 

そう話すおじさんの言葉は、どこか説得力があった。

社会人として働いて、ちーちゃんといっちゃんを養って生きていく中で、おじさん自身がそうしてきたからだろうか。

 

「でもなぁ、束。別に1人か2人ぐらいはそんな事しなくてもいいと思うんだよ」

 

「で、だいたいそうやって自分のものさしを他人に合わせる事なく生きてる、生きていた人間は世の中の常識をぶち壊して、前にガンガン進んでいって大抵、変人だって呼ばれて後々時代や世界を変えちまう奴が多い。ニコラ・テスラやスティーブ・ジョブズ。マジモンの変人だぜ?一回調べてみ、幾らでも逸話は出てくる。だけどな、今じゃ俺達の生活に必要不可欠な物を生み出したのも、この人達なんだ。それが無かったら、今ごろ人類の生活は中世以前だろうよ」

 

おじさんは、そう言った。

確かに、その先人達の偉業があってこそ今の生活がある。

少なからず私だって恩恵は受けているし、それこそ山奥に自給自足で大昔と同じような生活をしない限りは現代文明に全く触れないなんて事は無い。

 

その生活を送ったとしても、何かしらの恩恵は受ける。

 

「束、俺の勘でしかないんだろうけど、お前は世界を引っ繰り返すなんてレベルじゃ無いぐらいに世の中を変える人間になる。それが、良い方向なのか悪い方向になのかなんて俺には分からない。束にだって分からない筈だ。だけどそんな事気にすんな。未来の束や誰かがなんとかすんだろ。やりたいようにやりゃいい」

 

そう言って語るおじさんは、未来の自分に放り投げるなんて大人としていいのか、と思うようなことまで言っていた。

でも、そうやって私を諭してくれるその言葉一つ一つは、全部嘘偽り無くて私の事をちゃんと考えてくれているって、嘘発見機を使わなくてもすぐに分かった。

 

「それに、お前あれだろ。学校とかでイジメっつーかハブられたりしてるだろ」

 

「うっ、それは、まぁ、そうだけど……」

 

唐突にそんな、割と気にしてる事を言われた。

 

「まぁ、他人と違う奴を、ってのは昔からよくあるもんだ。遊びに誘っても来ない、とかそんぐらいでいじめられる事だってある。千冬だって昔いじめられてたからな。まぁ、そん時は俺が出てって解決したけど」

 

「何が言いたいの?」

 

「束がいじめられている理由は、周りとは全く別の次元にいるんじゃないかってぐらい頭がいいからだ。自分達と違う、違う様に見える奴を排斥しようってのは、ある種の本能だ。野生動物で考えると分かりやすい。見た目が違うって事は何かしらの病気を抱えている可能性がある。それを考えると、野生の中で生きなきゃならない動物からしたら、群れが全滅する可能性すらあるから死活問題だ。人間にも、本能として備わっているからな。だけど人間はそれらを抑えて生きていける生物だ。束がそうされている理由は、相手もまだ子供で自分の感情や本能をコントロール出来ないから」

 

「先生達だって怖がってお前の話をまともに聞きやしねぇから大人を簡単に信用しないんだろ?俺が初めて束と会った時の態度見りゃ誰だって分かる。でもなぁ、束。大人にだって怖いもんはあるしこんな子供に負けてたまるかってプライドもある。多分、恐怖ってのもあるんだろうが大部分は負けを認めたくないってだけなのさ」

 

「でも……」

 

それだと、私は、私の夢はいつまで経っても叶えられなくなっちゃう。

 

「あぁ、そうだ。お前が思ってる通りこれじゃ夢なんて叶いやしねぇ。俺から言わせればそんなプライドなんざドブにでも捨てちまえ、犬にでも喰わせとけって思ってるがな。だけどそうもいかねぇのが人間なんだな」

 

「じゃぁ、なんでおじさんは捨てられるの?」

 

「だって、そうやって子供を見てやんないと育たねぇだろ?」

 

なんでこの人はそんな当たり前に言えるんだろう。

普通だったら、自分だってそうなる筈なのに。

 

「プライド、無いの?」

 

「俺、面倒くさがり屋だからさ、ガキの頃から面倒の一言で色々と諦めてきたんだよ。勉強なんて好きな科目以外碌すっぽしてこなかった。就職活動だって適当にやってたら、偶々俺みたいな奴を雇ってくれためちゃくちゃ良い会社があったってだけ。要は運が良かったんだな。碌にやる事やらないで生きていた分、苦労もしたし手取りの給料少なくて千冬達に我慢させてばっかで賃上げしてくんねぇかな、ってボヤく時もある」

 

「でも、俺にちゃんとプライドはあるぜ?妹の前でカッコ悪いとこ見せたくないとか、沢山幸せにしてやりたいとか。俺がポカした時、怒るけど尻拭いを手伝ってくれる先輩とか上司の人達に恩返ししなきゃ、とか。でもさ、このプライドって人間なら当たり前に持ってなきゃおかしいんだよ。だってそうだろ?家族には幸せになってほしい、幸せにしてやりたい。恩を受けたら恩返しをしなきゃ。カッコよくいえば俺は、持ってても得しない、仕方がないプライドを捨てただけ。ただそんだけのことなんだよ。俺のプライドなんて、どうでもいいんだ。だって千冬と一夏が笑ってくれてんだ、それで俺のちっぽけなプライドなんて溢れるぐらい満たされてんだから十分だろ」

 

プライドを捨てるってことは、簡単なことじゃない。

誰だって、一度持ってしまったプライドを簡単に捨てることはできないし、諦めることもできない。

 

だけどこの人は簡単に捨てている。

 

「だけどな、束。お前はそのプライドを捨てなくても良い。なにせ数億人分の才能を全部固めたんじゃねぇかってぐらい、それでも足りないんじゃ無いかってぐらいに恵まれてる」

 

「でも、それでまた馬鹿にされたら?」

 

「はっ、他人の夢を馬鹿にして、踏み躙る事しか出来ない奴の事なんて気にすんな。どうせ、そいつらには束ほどの努力をする気も無いし自分の夢を胸張って語る勇気すら無ぇんだからほっとけほっとけ。気にするだけ無駄だ無駄。だからな、お前の凄さに気がついた時、馬鹿にした連中に、あん時束と仲良くなっておけば良かった!!って死ぬほど後悔するぐらいになってやんのさ。そうすりゃ見返せるだろ」

 

簡単に、おじさんはそう言ってくれちゃって。

それがどれだけ難しいことか。自分で言うのもあれだけど、小さい頃の私は承認欲求が誰よりも強かった。

まわりから認められていなかった、理解されていなかった分、周りから認められたくて仕方が無くて。

それでも認めてもらえなくて更に頑張って。それでも、理解してくれないし認めてくれない。

 

せめて、理解して欲しいとは言わないから、認めて欲しかった。

だけど、そんな私の思いを知ってか知らずか、鼻で笑いながらそう言い切って見せたおじさんの顔は悪そうな顔だった。

なるほど、確かにこの顔を見せたのは多分この時だけだったかもしれない。

 

「そしたらさ、そこまで行ける様に、私が夢を叶えたいって言ったら応援してくれる……?もし、私が別の夢を見つけるまで応援してくれる……?」

 

「まぁなんで俺なのかってのは置いといて、そりゃ勿論幾らでも応援してやるさ。手伝って欲しいってんなら、手伝ってやる。それが大人ってもんだ。仕事とかあっから毎日とは行かんけども」

 

「それに小学生だろ?好きにやりゃいい。今の内だぜ、自由気ままにやりたい事やって馬鹿な事やって、失敗したり怪我したりしても笑っていられるのは」

 

最後にそう言って笑い掛けてくれた。

流石に今みたいに頭を撫でてくれたりはしなかったけど、それでも誰にも認めて貰えなかった、応援して貰えなかった、自分の夢を。

 

この人は、応援してくれるって、手伝ってくれるって言ってくれた。

 

何度も言うけど、世界に絶望しかけて殻に閉じこもりそうだった私に大き過ぎる希望を見せてくれた。

それは、おじさんからしたら極々当たり前の考えで、答えだったのかもしれない。

だけど、それによって私が、篠ノ之束っていう1人の女の子の心が、未来が救われたのは紛れもない、変えようもない事実だった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!」

 

「うおっ、いきなりどうした」

 

「もっと意見聞かせて!これを見た感想とかなんでもいいから!」

 

「俺さっき馬鹿だよって自己紹介したんだけど、君はそんな俺に死ねと申すか」

 

「いいからはやく!」

 

「えー……」

 

嬉しくてしょうがなくて。

座ってるおじさんに強請ってその日はいつまで経っても帰って来ないおじさんを探しにきたちーちゃんに見つかるまで、ずーっと意見を貰っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、その……」

 

「何だよ、束。そんな改って」

 

「お兄ちゃん達以外に、私の夢を理解してもらいたいとは言わないけど、話を聞いてもらったりするにはどうしたら良いですか!!」

 

おじさんと仲良くなってから暫く。

私の中にはもっと沢山の人に私の夢を、理解してもらいたいなー、とかせめて話を聞いてもらいたいなー、って欲が出てき始めた。

 

と言うのも、おじさんと出会ってからも今までのことがあったりで誰かに自分の夢の話をしたりするのが怖かった。

いや、隠さずに言うなら私は元々人とコミュニケーションを取るのが苦手だった。

だから、自分から声をかけるのも物凄く勇気がいるし、話し掛けられたとしてもネガティブな感情が収まらなかった。

おじさんは、多分どんな人相手でも分け隔てなく接することができるタイプで、その才能は天性のものだ。

しかも、聞き上手ときたもんだから私ですら、夢を理解してくれるかもってのを抜きにしても話しかけやすい、簡単に話しかけられた。

だからおじさんと仲良くなれたし、一日中飽きる事なく、おじさん相手に宇宙の話とかをすることが出来たんだと思う。

 

いつも楽しそうに笑っていて、悪戯好きで、何考えてんの?って事をしようとしたり飄々としてたり、なんか掴みどころが無いような、あるような変な人だけど。

相手が悩んでいたら、話を聞いて欲しかったら、真面目に真摯に答えてくれる。

自分の意見を押し付けるわけじゃなく、相手の意見がどう言うものなのかをちゃんと聞いて、その問題点を相手の癇に障る様な言い方じゃなくて、優しく諭すように指摘してくれる。

 

多分、相当話し上手なんだろう。

しかも年上に可愛がられる愛嬌というか馬鹿さ加減もある。

それでいて礼節はしっかりしていて責任感も強いし常識もある。

おじさんは、コミュニケーション能力にステータスを全振りしたような人だと思う。

じゃなきゃ初対面の人相手にあれだけ話せないし、仲良くなることも出来ない。

 

 

私は、そんなおじさんに相談が一つあった。

と言うのもさっきも言ったけど、おじさんやちーちゃん達以外の人達にも、理解されなくてもいいから、話を聞いて貰いたかった。

 

私は、コミュニケーション能力がないから皆に話を聞いて貰えないんじゃないかって、おじさんと接していて分かったというか自覚した。

 

だから、それをどうにかしたくて。

少なくとも自分よりは圧倒的にそう言うのに優れているおじさんに相談してみたのだ。

 

「他の人に、話を聞いてもらうにはどうしたら良いか?」

 

「うん」

 

おじさんはうーん、と言って頭を捻る。

今思えば、変えなきゃいけないところだらけでどう言い出せば良いのか、切り出せば良いのか悩んでいたんだろう。

 

「そうだな、まずは身なりに気を遣ってみたらどうだ」

 

「身なり?」

 

「おう。はっきり言えば束、お前はだらしがない!」

 

「んなぁっ!?」

 

「服はヨレヨレ、髪は碌に手入れしてないから伸び放題でボサボサ!毎日夜更かし徹夜ばっかだから隈はすごいし肌も荒れている!爪も手入れされていない!」

 

「あ、あ、あ……」

 

「人間、中身が大事だと言うが実際は見た目で殆どの印象が決まるのだ。その点、束の第一印象は宜しくない!なんなら最悪だと言ってもいい!」

 

おじさんは、ズビシィッ!とその事実を突き付けてきた。

酷くない?自分を慕ってくれてる女の子相手にそこまで言うとか酷くない?普通なら泣くよ?号泣からのお父さん報告案件だよ?

だけどそれが事実だから何も言い返せない。

 

確かに、髪の毛なんて床屋に行くのも面倒だったから適当に伸ばして、自分で切ってを繰り返してたし研究の方が睡眠時間とかごはんよりも天秤傾いてたし爪も適当にハサミとか、最悪自分で噛み切って終わり。

肌の手入れなんて考えたことすらなかった。

服だって別に着れさえすればいいからおんなじ服ばっか着回してた。

 

大人になった今でこそ、確かに身なりとかそう言うのに物凄く気を遣ってるけど。

恋する乙女は最強になれるのだ!と言うわけでして。多分おじさんの存在がなかったら今も碌な事になっていなかったと思う。

 

「束なぁ、元は美人だから適当にしてないでちゃんとすりゃ絶対良いと思うんだよなぁ。そしたら話ぐらい聞いてくれる様にはなるんじゃねぇの?見てくれがよけりゃ大体の奴は話聞いてくれっからなぁ。そもそも自分の管理ができない奴が宇宙に行きたいなんて言語道断だぞ!」

 

「うわぁぁぁん!お兄ちゃんサイテーだよー!」

 

「事実を述べたまでですー、悪いことは言ってませーん」

 

「こんにゃろー!!」

 

「はっはっはっは、マトモになってから出直したまえよ」

 

おじさんの言ってることは事実だったから、尚更心にグサグサッと突き刺さった。

掴みかかっても、確かに私だって強いけどおじさんはこの頃から馬鹿みたいに強くなり始めていたから片手で頭を抑えられて終わり。

 

そんな私は思った。

 

くそぅ、絶対お兄ちゃんをギャフンと言わせてやるんだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

1ヶ月後。

髪の毛もちゃんと床屋で切ってもらって、服装にも気を遣って、早寝早起き3食キチッと食べて。

爪も噛み切ったりしないで爪切りで切って揃えて。

肌の手入れとかも面倒だったけどちゃんとやって。

 

そしたら1ヶ月前の自分と見比べると今でも別人なんじゃないか、って女の子が鏡の前に立っていた。

 

「ふふん!お兄ちゃんどーよ!私は!かわいいでしょ?」

 

「おー、可愛い可愛い」

 

「リアクション薄くない!?」

 

私の身なりを指摘した当の本人が、こんなんって、私どうすればいいの?

なに、ほっぺをビンタしつつ引っ掻いてやればいいの?

 

「もうちょっとなんかないの!?リアクションが薄過ぎるんだけど!」

 

「えっ」

 

「流石の私でも傷付くよ!」

 

そう訴える私の願いを聞き入れてか、腕を組んで私をまじまじと見る。

 

「うん、服装もしっかり整えられてるしちゃんと髪の毛とかも手入れしたみたいだな。元から美人だとは分かってたけども、うーん、こりゃたまげたなぁ。よく頑張ったじゃないの」

 

「んへへへへ、そうでしょそうでしょ?」

 

自慢げに胸を張ってドヤ顔する私を見て、笑うおじさんはとても嬉しそうにしていた。

 

今思えば、もうこの時にはとっくにおじさんの事が好きになっていたんだろう。

 

もっと自分を見て欲しくて。

お母さんに頼んで自分磨きを本格的に始めた。

もちろんISの開発もしてたから忙しいといえば忙しかったけど、それでもその度におじさんが褒めてくれるのが嬉しくて、その時にはもう、周りの事なんてどうでも良くなっていた。

 

確かに、私が身なりに気を使い始めたりしてから周りは私に寄ってきたけど、あからさまな下心だったりが丸見えで寧ろ近付かないで欲しいなぁ、って思う様になっていた。

だから、おじさんだけが私を見てくれれば、見ていてくれれば良かった。

 

 

 

 

 

 

 

「そーいえばさ」

 

「ん?」

 

「お兄ちゃんって宇宙に行ったら何したい?」

 

「んー……。火星で芋育てたい」

 

「えっ何そのピンポイントな夢」

 

「いやさ、俺が高校生ぐらいの時かなぁ、火星の人っていう小説があったんだよ」

 

「へー」

 

「火星探査で、火星に何十日か行って嵐に遭遇して、それがとんでもなくでかくて。で、緊急離陸するんだけど吹っ飛んだアンテナが主人公にぶつかって死んだって思われて、火星に取り残されちまうんだよ」

 

「で、次のミッションまで生き残って生きて地球に帰るってストーリーなんだけど、これの作中に自分達のウンコ使ってジャガイモ育てる描写があってさぁ。なんか知らんけど、スッゲェ憧れたんだよなぁ」

 

おじさんは、キラキラした目でそう言ってた。

確かに、火星とかで農耕するのも楽しそうだ。私の他の惑星に行ったらやりたいことリストに書き加えておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数年の月日が流れて中学生に。

背も伸びて、おじさんの持っているパソコンの中に入っていたえっちな画像で髪が長い女の人が好きだって分かってから伸ばしている。それも限度はあるけど大体腰を少し超えたぐらいにまで伸ばしていた。今もそうだけど。

その髪を三つ編みにしたり、頭の上辺りで軽く結んで垂らしたり。ポニーテールやサイドテール、いろんな髪型を毎日日替わりでセットしていた。

 

毎日おじさんのところに見せに行って。

この頃はすでにちーちゃんもおじさんが好きだって自覚し始めたのか、取り合いになっていたから特に部活に入っていなかった私は、土日はおじさんと一緒に過ごしていた。

 

ちーちゃんは剣道部に所属して、小学生の習い始めた時から既に頭角を表していて有名な超強い選手だったから土日も毎日練習でいなかったし、箒ちゃんといっちゃんも、この頃はとっくにうちの道場に通い始めていたから、その送り迎えで来ていたおじさんと土日は限られた時間だけど2人きり。

 

ちーちゃん、強豪校に行かないで一番近くの私と同じ公立中学校に進学したもんだからそりゃもう皆驚いてた。

だってあっちこっちの中学からお誘いがあるぐらいには強かったし。

でも本人曰く、

 

「そんなのどこも遠いじゃないか。兄さんと一夏と離れ離れになるのは嫌だからな。それに、全国に行くと言うのなら別に、強豪校でなければならないなんて訳でも無い」

 

って言っていた。

簡単に言えば、家族と離れたくないってだけ。

後々に言ってた全国云々の話は一応それらしい理由を付けておこうっていう見栄だと思う。じゃなきゃ勧誘が凄過ぎて断り切れなかったらしいし。

まぁ、結果的に言えばちーちゃんは剣道の全国大会で優勝をあっさりと掻っ攫って行った。

すでに同年代じゃ負け無しだったし、当然と言えば当然かな。

そりゃ毎日、うちの道場の大人達相手に稽古してたんだから当たり前だよね。

なんならお父さんやお母さんには誰にも敵わないぐらいには強いから家から近い学校の方がより強い相手と戦えるからその方が良かった。

 

でも、部活と道場の両方で剣道をやってたもんだからお兄ちゃんと過ごす時間は減った、って学校でぶつくさ文句言ってたっけ。

私はおじさんを独り占め出来る時間が増えるから良かったんだけどねー。

 

土日は基本、朝からの稽古に参加する箒ちゃんといっちゃんを送り届けて家に帰って1週間分の溜まった家事をこなす。

そんなおじさんのところに私は通ったり、私の部屋に招いて研究の手伝いをしてもらったりしていた。

思えばあの時が一番幸せだったのかもしれない。

今も十分以上に幸せだけど。

 

時折ちーちゃんも一緒になって研究していた日々は、何者にも変え難い日々で。

 

 

あぁ、それと念願のパソコンを手に入れた。

おじさんが、家にあったもう使っていない古いデスクトップパソコンを譲ってくれたんだ。

 

売るにしても型が古すぎたらしい。

それでもいいんなら、って。ちゃんとインターネットとかには接続出来たから問題無いんだけど、流石に設計したり私が開発したソフトとかを入れるには性能が低くて、自分でパーツを買いに行ったりして改造はしたけど、未だにそのパソコンは改造増設やらなんやら繰り返し行って使い続けている。

 

 

おじさんに頼み込んで、資金を得るための元手となるお金を1万円貸してもらって、あとはお父さん名義で色々な手を使って稼ぎまくった。研究資金はいくらあっても足りないから。

 

お年玉とかは貰っていたんだけど、設計図や論文を書く為の道具を揃えたりしたらすぐに底をついちゃっていた。

パソコンも買えるほど貰えなかったし持っていなかったし。

 

増やしたお金は、借りた分をおじさんに返してあとは研究資金に注ぎ込んでた。

そして、パソコンに触れて様々なことを知った。

良いこともたくさんあった。おじさんのパソコンを覗き見して性癖をゲットしたのもそうだし、おじさん攻略に一役買ってくれてる。

 

でも、それ以上に世の中が、子供だった私にはどうしても受け入れ難い悪意に満ちている事を知った。

 

ある日のことだった。

パソコンを使って、色々と調べ物をしつつ拡張した画面やキーボードを叩き続けていた時のこと。

不審なアクセスを受けた。

いわゆるサイバー攻撃ってやつ。

私が構築した防御プログラムは常人にはどうやったって抜くことはできないから諦めたらしいけど、私はカウンターを食らわせてやった。

最初は、単純に情報やお金狙いかと思っていたけど行き着いたのはドイツのある研究だった。

 

それは、人間のクローンを研究し、そして作り出していた、今思い出すだけでも吐き気や震えが止まらなくなるぐらいに悍ましくて悲惨な研究所。所謂試験管ベビーを作り出していた。

人工的に最強の兵士を作り出す事が目的で、その作られた命の殆どが女の子。

理由は簡単。女の子なら前線で戦いながら他の兵士の慰安もできるから。

そう言う目的で、ここは命を作ってはいじって、殺して廃棄していた。

 

ただし軍隊全てを置き換える気は無かったらしい。

と言うのも、軍隊というのは昔から貧困層の職場、受け皿として機能していたから。

それを全て人造兵士に置き換えたら、国によるけど最低でも数十万人の失業者が国内に溢れる事になる。アメリカみたいに大きな軍事力を保持している国だと、最低でも100〜200万人の失業者を生み出すことになる。

これは単純に失業者を増やす、と言う問題に直結するだけじゃなくて国内の治安悪化は免れないしそうなると犯罪率の増加など上げるだけでキリがない。

行政、司法、経済全てに小さくない影響を及ぼして最悪、国が立ち行かなくなる。

特に今の時代、グローバル化が進みに進んで多くの国同士が結びついて成り立っていたりするから、世界規模で見れば世界恐慌やリーマンショックなんて比にならない。

 

と言ったけど、単純に技術的な問題が大きかったんだろう。

私からすればどうってことはないけど、人造人間を作るのは簡単な事じゃない。

ホルモンバランスなどの調整だって常人からすれば難しい。

さらに言えばクローンと言うのは普通に生まれてきた生物と違って寿命が極端に短かったりする。

 

人間をクローンで作った場合、普通ならば100年生きられると仮定してもクローンはその三分の一を生きられるかどうか。

人間の寿命というのは、事故や病気などの要因が無ければ細胞分裂の回数で決まる。

クローンはその細胞分裂の数が少ないのだ。

 

それに国際条約でも禁じられている。

ついでに言っておくと、クローン人間禁止宣言っていう宣言を国連は昔採択していたことがあるが、これ、一番に発案したのはドイツとフランスだった。

にも関わらず、ドイツは……。

後々になって、VTシステムの時に詳しく調べたから分かったことだけど、これにはフランスも一枚どころか数百枚は噛んでいた。

 

 

沢山の命がここで作られて、命を弄ばれてそして殺された。

 

それを見た時、私は一日中トイレに篭って吐き続けて、胃酸もなにもかも吐いて胃の中身が無くなってもずっと。

そしてずーっと考えていた。

私には、何が出来るのかを。

 

本当は目を逸らして逃げたかった。

でも、それをしたら私は人として終わる。何よりも、おじさんの隣に立てなくなると思ったから。

 

どうせ国に訴えても子供の戯言で終わりだし、そうするとそれを知った私が目を逸らさないでどうにかしなきゃならない。

 

そして決めた。

こんな事が繰り返されないようにその研究も、研究所も何もかもをこの世から欠片一つ塵一つ、分子量子何一つ残らず消し去ることを。

 

決して褒められたことじゃないのはわかってる。向こうだって大罪人だけど私だって研究データも何もかもを消し去ったらそれはそれで犯罪だ。

だけどそれでも私はやると決心した。

 

決めてからは早かった。

1週間ほど学校を休んで下準備を整えた。

この時にはもう資金的な問題なんて全く無かったし、作りたいものを作りたいだけ作ることが出来た。

 

私が今も使っている転移装置もその一つ。

これも使った。だって、電子上にだけデータを残しているはずがない。もし紙に書いてあってそれを持ち出されたらアウト。

 

だから私が直接出向いて全て電子上のデータを消した上でそれらも全て手段を問わずに消す。

 

ただし、万が一のためにそれらのデータはコピーを取っておく。関わった全ての人間のリストも。

 

 

 

そして。

全ての準備が整って。

 

「さぁ、これで終わりだ……」

 

エンターキーを押した。

 

 

 

エンターキーを押した瞬間、全ての記録やデータが抹消されていく。

初めから、この世に無かったかのように。

 

それと同時に転移装置でドイツにある研究所に飛んだ。

山を掘り進めて作られた、その研究所はなんでもないかのように佇んでいた。

 

扉なんかは全部電子ロックだったから、簡単に入れる。

中の雰囲気は、とても怖かった。心霊スポットとかそういう感じだけど次元が違う。

空調設備で最適な温度にされていたはずなのに、私にはとても寒く感じて体が震えていた。

 

足を進めて書類も何もかも消す。痕跡一つ残らず。

誰にも気付かれる事無く、ただ心を無にして感情を押し殺して。

 

そして、私はクーちゃんにであった。

全部消し去った後。

消し忘れが無いか確認しつつ最深部に進んだ時の事だった。

 

役立たずとして処分された子達の遺体を見つけた。遺体が積み重なっていた。ただただそこに放置されていた。

吐き気が込み上げて。身体が震えて。 

 

また吐いて、吐いて。

足が震えて、へたり込んで。

 

体に鞭打って立ち上がる。

 

ちゃんと弔ってあげないと。

 

せめて、それが罪を犯した私達の贖罪なのだから。

 

遺体を外に運んで一人一人火葬をしていた時。

最後の子を抱き上げた時、ピクリと身体が動いた。

 

「え……?」

 

また、ピクリと動いた。

 

「!!!頑張って!」

 

その瞬間、私は直ぐに秘密基地に連れて行ってありとあらゆる治療を施した。

 

せめて、この子だけは!

その一心だった。

 

 

 

どうにか、ギリギリ助けられた。

だけど、細い細い蜘蛛の糸を綱渡りしているようなぐらいに不安定で今にも切れてしまいそうなぐらいギリギリの所で生きている。

助ける為に一心不乱に治療を施して。

 

そしてくーちゃんを助ける為にやり忘れていたけど研究所を事故に見せかけて吹っ飛ばした。

 

 

 

 

 

一年後。

くーちゃんの容態が安定した。

色々と手を尽くして施した甲斐あって普通の人間と同じ寿命を生きられるようになった。

 

「私は、篠ノ之束って言うんだ。えっと……」

 

自己紹介は酷いもんだったよ。

私はどう接すればいいか分からないしくーちゃんはくーちゃんで私を警戒してるし。

 

そして考えに考えた末に口から出た言葉は。

 

「私の事はお母さんって呼んで!」

 

だった。

 

(うわぁぁぁ!!やらかしたァァ!!)

 

内心パニックパニック大パニック。

幾ら何でも、いきなりこれはない。酷すぎる。

と言うか中学生でお母さんって、馬鹿なのかな?

そもそも年齢6〜7歳ぐらいしか変わらないし。

 

冷や汗流しつつ、自然な感じで笑顔を浮かべておく。

 

「あ……、その……」

 

「うんうんうんうん!いきなりじゃなくても大丈夫!ゆっくり、焦らず自分のペースで言ってくれれば、慣れてくれれば良いよ」

 

怯えながら何か言おうとするくーちゃん。

それを見てなんとも居心地の悪さを感じて良い感じで纏めつつ。

頭をおじさんがしてくれるように、優しく撫でた。

 

 

それからまた暫くして。

おじさん達と引き合わせてなんやかんやあっておじさんがお父さんになったりしたけど。

 

結局、一連の騒動で犯人探しをしていたドイツから逃げるべく皆の記憶を消させてもらった。

どこから足が付くか分からないし、申し訳ないけどね。

 

まぁでも、くーちゃんがおじさんに最初警戒してたのに何回か会ったら懐きまくってまさかお父さん認定するなんて思っても見なかった。

まぁ、原因というか発端になった発言は私なんだけど。

 

って事で、私には義理の娘が出来たのでした。

 

 

 

 

 

 

 

この頃には、ISの開発もかなり機動に乗り始めていた。

機体の設計も全て終えていたしそれに必要な技術も一つを除いて完成していた。

あとは、実際に起動して問題が無いか確認をして調整を行うだけ。

 

ただ、残った一つの技術っていうのが問題だった。

って言うのも、これら全てを稼働させるための電力をどうするか、っていう一番重要な部分がまるで完成の見込みが立っていなかった。

 

ってなると新しく開発するか、既存の技術を組み合わせるなりしてどうにかするしかない。

既存の技術を組み合わせたりするのは全部試した。

どれも駄目。どうやっても必要量を満たせなかった。

 

そうなったら、新しく開発するしかない。

さて、どうしたものか、と物凄く頭を抱えた。

 

って事で、色々とシュミュレーションしてみたんだけどどーにも決定的なものが足りない。

 

「新しい素材、探すしかないかぁ……」

 

夜、パソコンの前で頭の後ろで手を組みつつ、そう結論を出した。

そこからは取り敢えず一年間、世界中探して探して探して探して探しまくった。

 

 

 

ある国の、ある洞窟の奥深く、最深部を少し進んだ辺りでそれをようやく見つけることが出来た。

本当に、あの時何でもかんでも試してなかったら見つかってなかったかも、っていうぐらい偶然発見したんだけど。

 

私はこれを時結晶、タイムクリスタルって名付けたんだけど、これ相当特殊な物質で。

本当にただのなんの変哲もない石ころみたいだったりするんだけどある特定の加工方法を行うと、核分裂や核融合なんて目じゃないぐらいの莫大なエネルギーを発するようになる。

それに応じて純度100%、冗談抜きで透明の鉱物に変わるんだけど、ちょーっと問題があった。

っていうのも発生させるエネルギーがあまりにも膨大過ぎて、莫大過ぎて純度100%の状態で使うことが出来なかった。

だって、たったの数gだけのタイムクリスタルで、水素爆弾数百個分の爆発しかけたんだもん。

 

いやぁ、ほんとあの時ほど焦ったことはないよ。

後々の白騎士事件の時ですらそこまで焦らなかったし。

慌てて遥か遠くの何もない宇宙空間に放り出してなかったら今頃日本の周辺全部消えてたし、なんなら地球が消えてたかも。

観測したりして色々とデータを集めて。

どうすれば制御出来るか必死に考え続けた。

 

おじさんも、毎日とはいかないけど暇な時とか手伝ってくれていたし。

この事件のこと?そんなの言えるわけないじゃん。

 

 

そこで出来たのが、ISコア。

説明すると色々と長くなるから省くけど、色々と混ぜたら丁度良い感じになった。コア自体の色は個体差があって黒だったり白だったり虹色だったりもう機体ごとに使っているコアの色はバラバラというか滅茶苦茶。

その辺は別にまぁ、良いかな、って。

 

 

いやぁ、これがものすっごく良かったんだな!

お陰でISは完全とはいかないけど形になった。

 

コアの制御用の機械を取り付けようとしたんだけどどーも上手くいかないしなんならものすっごくダサい。

って事でコアそのものに制御用の基盤を書き込みました。

ついでに人工知能もぶっ込んで自動的に出力を制御出来るようにして。

搭載してみたらあらびっくり、形が色々変わるスライムと言うか、メタ○ンみたいな感じになったけどその辺は気にしないったら気にしない。

問題無いし。

搭載するまでは固体だったんだけどなぁ。

 

色々確かめてみた結果、どうやら搭載する前から人工知能やら制御機構を組み込んだときに既に自我が芽生えていたらしい。

と言っても、生物で見れば初期も初期のものなんだけどね。

それでも、すごいことだ。

ただ人工知能を搭載しただけじゃ自我が芽生えたりはしない。

多分、私が気合入れ過ぎたからかな。

 

これが後々コアに人工知能だけでなく人格、いわゆる知識欲などを付与することになるんだけどその話はまた今度。

 

いゃ、転移装置作っといてよかった。

お陰で素材探しとか捗ったし。無かったらもっと時間が掛かってたけど、最初に作っといて良かった。

 

 

 

 

それからはおじさんとちーちゃんに協力してもらいながらありとあらゆる実験をしながら修正、改良の連続。

ちーちゃんはテストパイロットとしてずーっと協力してくれておじさんは力仕事だったり色んな雑事だったりを引き受けてくれてた。

 

ある時はシールドバリアや絶対防御の実験で石を念のため一応、ゆっくり投げてみたら防がれなくてちーちゃんの顔面にクリティカルヒット。

ゴスッ、っと鈍くて痛そうな音が頭の中で響いた。おじさんもoh……、って言ってた。

 

考えてみたらシールドバリアって命の危険がある物を防ぐって設定してたから、そりゃゆっくり安全に投げたら防がれないよね。

それから全ての攻撃を防ぐ設定にしたんだよ。いやぁ、大変だった。

最初は何でもかんでも弾いちゃって一度電源をオフにしないと充電とかも出来なかったり、かと思えば逆に弱過ぎて石ころどころか砂つぶも通しちゃうし。

 

パワーアシストの実験じゃアシストし過ぎて秘密基地が吹っ飛びかけた。

 

「お“お“お“お“ぉ“ぉ“ぉ“ぉ“!?!?!タバネェェ!!」

 

「あ“あ“あ“ぁ“ぁ“ぁ“っぶなぁぁぁ!!」

 

「お、おま、お前!!死にかけた!私達死にかけた!」

 

おじさんもちーちゃんも私も冷や汗ダラダラ。

しかも一番シールドバリアが弱かった時だったから余計に。

珍しくあのちーちゃんもガクブルしてた。慌てて止めなかったら本当に死んでたかもしれない。

 

ってなわけで色々あってそりゃもう苦難の連続だったよ。

まぁ、でもすっごく楽しくて幸せだった。

 

因みに言うと、秘密基地は幾つか存在する。

一つ目は実家の敷地内にある。

これは一番最初に作ったものでここでISの開発を行ってた。

 

二つ目は海の中。

こっちを作った理由はISを開発するとかじゃなくて単純に海の中の秘密基地ってなんかカッコ良くない?ってのとくーちゃんを隠す為に。

 

三つ目は月面秘密基地。

これはISが完成して、白騎士事件が起こった後に作った。

って言うのも、ISを軍事利用しかしない連中に嫌気が差して、だったら私一人だけでも宇宙に行ってやる、って思ったから。

ISコアを作っていた時に、コソコソ隠れつつ自分用のISを作って資材を運んで作った。

 

いやぁ、あれはあれで楽しかった。

間違えてIS着込んでるからって慢心してそのまま与圧調整とか全くやらないで、パワーアシスト状態でガチャって扉開けて吹っ飛ばしたりしたけど。

 

これらの秘密基地は現在でも普通に稼働中。

月面基地以外は殆ど物置みたいになってるけどね。

元々実家にあるのは秘密基地じゃなかったんだけど結果的にそうなっちゃった。

あの時は特にISの開発も別に隠してたわけじゃないし。

 

 

 

 

ともかく、そんな毎日を中学高校時代は送ってた。

学校生活?おじさんのあの心に深々と突き刺さるようなアドバイスのお陰でそれなり。

結構告白されたりしたけど、私おじさん一筋だし。

まぁ?でも私ってば性格とかはさておき見た目は美人だもんねー。おじさんも私のこと美人って言ってくれるしそれがお世辞とかじゃなくて本心ってのもちゃーんと分かってる。

 

って事でこの頃にはおじさんを本格的に籠絡するためにあれやこれやといろんな方法手段を使ってるけどどーも反応が悪い。

おじさん、同性愛者ってわけでもないから単純に妹、って認識されてるからなんだと思う。

 

それはさておき、この頃はおじさんも仕事が忙しくなってきたりで土日以外は殆ど会えなくなってた。

寂しかったりしたけど、それは仕方ない。おじさんはちーちゃんといっちゃんを養わなきゃならないから。今までが良過ぎたのであってこれが普通。

まぁ、それでも土日はおじさん家に突撃したり、秘密基地に誘拐、もとい招待したりしてたけどね。

 

 

 

 

 

そして。

ようやく、ようやく完成した。

 

一番最初のIS、白騎士が。

今でこそ、馬鹿みたいに地上にへばり付いて戦うことが主目的にされちゃって全身装甲なんて見ないけど宇宙空間や他の星の過酷な状況での活動を想定してた。

宇宙線の影響とかを考えると、シールドバリアも遮ることは十分に出来るんだけどそれも万全じゃない。それなら物理的に覆って遮った方が確実性が高いからね。

 

そう言う理由で全身装甲を採用してた。

 

まぁ、そんなわけで学会に発表するべく持ち込んだんだけど。

 

「子供がそんな絵空事で態々時間を取らせるな」

 

「読むに値しない。SF作品としては上出来だがね」

 

散々な言われ方をした。

家に帰って部屋に閉じこもって、ベッドの上で膝を抱えてそれはもう泣いて泣いて泣きまくった。

 

どうして?なんで?

 

ずーっと考えてた。

悔しくて悲しくて仕方がなくて。

 

でも、そんな時もおじさんは私を支えてくれてた。

酷く当たって、イライラをぶつけたりして何を言ったのか覚えてないぐらい酷い事も沢山言った。

それでも、おじさんはなんて事ないように、いつも通り笑いつつ隣に居てくれた。

 

別に何かを言って欲しかったわけじゃない。

声を掛けて欲しかったわけじゃない。

 

でも凄く寂しかった。

誰かに、一緒にいて欲しかった。

その気持ちを察してか、おじさんはなーんにも言わなかったけど、私の側に座っててくれた。

くしゃくしゃ、っと優しくって訳じゃないけど頭を撫でてくれた。

いつもと同じやり方で、なんの代わり映えも無い慰め方だったけど、私の心を立ち直らせるには十分だった。

 

漸く私が話せるようになって。

 

「ごめんなさい、酷い事沢山言って……」

 

「まぁ、そう言う日もある。気にすんな」

 

ただそれだけ。

おじさんはそう言ってまた頭を撫でてくれた。

 

それからの私の行動は早かった。

馬鹿にした連中を、嘲笑った連中を絶対に見返してやるって、あの時私の話を聞かなかったことを死ぬほど後悔させてやるって誓った。まぁ、悪いことはしないよ?だってそんなことしたらおじさん達に迷惑掛けちゃうでしょ?

 

だから私は、動画投稿サイトにISを動かしているところを撮って投稿することにした。

 

「ちーちゃんもっと笑って笑って!!」

 

「顔を覆っているんだから笑うも何も無いだろう」

 

「いーからいーから!おじさんも!」

 

「俺は映りたくないの!ちょ、おい服引っ張んな!」

 

「それよりも、さっさとやるぞ」

 

休みの日、おじさんとちーちゃんと一緒に投稿用の動画を撮影して編集。

技術のこと?それがまーったく載せなかったんだよね。だってあの時からすると私が開発した技術ってわりかしオーバーテクノロジーだったし。

下手に載せたら碌なことにならないじゃん?

 

動画の反応は千差万別。

本物だって信じる人もいたし合成だって、CGだって言う人もいた。

でも、映像鑑定のプロに依頼して本物だって事を証明してからは早かった。

あちこちの研究所や会社、組織、国家から連絡があってもうしっちゃかめっちゃか。

 

学会で私を馬鹿にした奴らは、いっそ哀れにすら感じるぐらい馬鹿みたいにゴマスリし始めたしもう笑っちゃうよね。

 

で、動画投稿から三日後。

世界をたった一日で塗り替える事になる白騎士事件が起こった。

世間じゃ私のマッチポンプだとか言われたりするけどそんなことは無い。

 

世界中のICBMやら弾道ミサイルやら、とにかく日本を射程に収めてるミサイル全部が、ハッキングされて日本に向けて発射された。

 

正確な数を表せば、3014発。

 

日本の防空能力は高いけど、どうやったって捕捉数も迎撃可能数も遥かに超えていた。

目標は私の家である篠ノ之神社。

 

なんでかって?

そんなの分かりきってた。

ISの動画を見て、軍事的価値を見出した何者かがやったんだ。

今でこそ、その主犯格がラウラちゃんやくーちゃんの計画に加担してた亡国企業だって分かったけどその時はそれどころじゃなかった。

 

国も必死になってどうにかしようとしてたけど、どうにもならない。

核弾頭を搭載しているミサイルだってあったしもし日本に降り注げば関東一帯が焼け野原どころか地形そのものが変わって、日本は、周辺の国を巻き込んで居住不可能になる。

 

解決策は、無いようでたった一つだけあった。

それは、ISを使う事。

 

ISは、宇宙空間で作業するからその為にプラズマカッターとかを開発して装備していた。

でもそれはあくまでも作業用であって戦闘用じゃない。

刃渡りも小刀程度しかない。

 

隕石やスペースデブリが宇宙ステーションとかに直撃しないように、その対策に念のためビームライフルを装備していた。

 

いくら言っても変わらないだろうけど、この時既にISは兵器だとしか認識されていなかった。

 

唯一解決する方法は、可能性があるのはISだけだった。

一番最短距離で発射されたのは日本近海のアメリカ原子力潜水艦や艦艇からのミサイル。

その日は平日で、丁度お昼休み中だったから今すぐに家に帰れば、間に合う。

多分これも、計算の内だったんだと思う。

着弾まで一分もない。考える時間は、無かった。

 

 

 

 

「……良いのか?」

 

「そうだね……。これしか、方法が無いんだもん」

 

「だが……」

 

「皆がいなくなっちゃうほうが、私には辛い。私の夢は、いつでも再出発して叶えられる。だから……」

 

「……分かった。それじゃぁ、行ってくる」

 

「うん。ちーちゃん、ちゃんと帰ってきてね」

 

「当たり前だ」

 

ちーちゃんは、ISを纏って飛んでいった。

私がオペレーターになってミサイルの着弾が速い順に次々とちーちゃんはその有り余る身体能力で撃墜していった。

 

 

 

 

それからは、よく覚えてない。

国家重要人物保護法とか訳分かんない法律で家族離れ離れになるから、こっそり箒ちゃんと両親に私が作った連絡用携帯端末を渡したり。

あぁ、でもあれだけははっきり覚えてる。

 

家に来た政府の役人が私に向かって、

 

「ISは、素晴らしい兵器だ」

 

って言った時にそいつに向かって、

 

「巫山戯るな!テメェらの勝手な考え都合に束を巻き込むんじゃねぇ!!」

 

おじさんが怒鳴ったことははっきり覚えてる。

やっぱりこの人は私の味方だ、って泣きそうになってたけど堪えた。

 

今思えば、色々逃げ方もあった。

海の中に秘密基地あったし、皆を連れて隠れてそこで宇宙を目指せば、とか。

でも一杯一杯だったんだよ。

 

私だって人の子だからね。

いくら頭が良かろうとなんだろうと、心は消せないから。

 

覚えているのはこれぐらい。

あとはあれよあれよと、家族を体の良い人質に取られてISコアを作らされて技術を奪われて。

その過程で、どういう訳かISは女しか乗れないって分かった。

いや、これ本当になんでなのか分からないんだよね。

 

しかもおじさんだけは乗れるって言う……。

おじさんが乗れる理由は、多分私が原因だと思う。

私、おじさんLOVEだから乗れてもおかしくない。

 

ってのはマジのマジ。

多分、私がコアを作る過程で、何らかの要因で制限が掛かるんだと思う。

だけどおじさんの場合はそれに引っ掛からない。だから動かせるんだと思う。

 

 

 

 

 

まぁともかく、当然、私が黙って言う事聞く訳がない。こんなんで宇宙諦める訳無い。

ISコアを作らされてる傍ら、バレないように資材を集めて自分用のISを作って月面秘密基地を作ってた。

完成した瞬間に忍者もびっくりするぐらいの手際で逃げてやった。

 

そしたらまぁ、大騒ぎ。

まぁ開発者が居なくなるとか前代未聞だもんねぇ。

おじさん家には頻繁に遊びに行ってたけど。

 

お陰で世界には公式には467個しかコアが存在しないことになってるけど、んなもん知ったこっちゃない。

それを解決するために世界中が私を血眼になって探してるけど見つけられる訳ないよね。

だって地面ばっか見てんだもん、私はとっくの昔に地球を飛び出してますよーだ。

 

ついでに言っとくとコアって実は宇宙開発用に私が後々作ったやつ含めて532個存在する。

宇宙船の動力としても使えるし、それとは別に宇宙船の船内で農耕プラントを稼働させたりしなきゃならないから意外と数が必要だった。

しかも船外活動用にISも必要だしね。

正直言ってISコアの汎用性は高い。

それに目を向けず馬鹿みたいに兵器としてしか運用しないからいつまで経っても前に進めないんだよ?人類諸君。

 

ISの本来の用途を、本当に理解してくれてるのはこの世界で多分、おじさんとちーちゃんだけなんだろうなぁ。

ちーちゃんは私が最初にテストパイロットとして手伝って貰っちゃったから、それが足枷になって本来の使い方が出来ない。しかも今はISの扱い方を教える教師になっちゃったから余計に。

 

おじさんが専用機いらないって言ってるのは私がISを開発した理由が宇宙に行く為だってちゃんと知ってくれているから。

危ないからって私が専用機作ろうか?って言ったら即答で要らんって言われたし。

まぁ、あれはあれでなんか複雑だったけど。

 

まぁともかくこんな感じなわけで。

毎日月面秘密基地で宇宙開発のための技術を開発中。

今は、月以外の惑星に足を進めるべく居住施設とそれと一緒に併設される農耕施設やらなんやらと、大規模な物資の運搬とかに必要になってくる宇宙船を開発中。

 

宇宙船、あとは設計するだけなんだよねぇ。

こう、デザインをどうするか物凄く迷ってる。

おじさん好みにするんであれば宇宙戦艦ヤ○トとか、キャプテン・○ーロックとかにするのが良いんだけど。

私としても嫌いじゃないしね。アニメって。

アニメの中の技術を現実にするのってなんか楽しくない?

 

 

因みに白騎士っていう名前は、あくまでも後々から人々が勝手につけた名前で私が実際に付けた訳じゃない。

もう新しく名前考えるのも面倒だしわりかし綺麗に纏まってる感あるからそのままでいっか、ってことで白騎士って名前になったんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母様、今日の晩御飯は何にしますか?」

 

「んー?どーしよっか」

 

くーちゃんと一緒に、台所に並んで冷蔵庫の中を覗き見る。

今じゃ私入れて十四人の大所帯だからね。献立考えるのも一苦労だ。

 

私、こう見えても料理出来るんだよ?何せ娘が居ますからね!

小さい頃は私が作って食べさせてたし。

 

何よりも、おじさんのお嫁さんになるって言ってんだからそれぐらい出来なきゃ。

お仕事から帰ってきたおじさんに、

 

「お帰りなさい、ご飯にします?お風呂にします?それとも、わ・た・し?」

 

ってやりたいじゃん!?

それで私が良いなんて言われちゃってー!キャー!おじさんのえっちー!!!

 

 

ちーちゃんも掃除洗濯は出来るんだけど料理が全くと言って良いほどできない。

食べられればなんでも良いってタイプだった昔の私ですら、目を背けたくなるような惨状だったし。

 

なんだかんだで今も幸せだ。

だって義理とはいえ娘はいるし私の夢を追いかける為の同士達も少ないけど出来た。

 

まぁ、おじさんを取り合いになってる時点で普段一緒に居られない私は若干不利だけどそこは私の有り余る魅力をおじさんに直接教え込んでですね。

 

 

 

まぁ、そんなわけで今日も今日とてこの広大な宇宙に旅立つ為の技術開発と、おじさんを如何に落とすかの脳内会議が毎日開かれてる。

 

 

本当に、おじさんに出会えてよかった。

出会えていなかったら私、今頃どうしちゃってたんだろう?

性格捻くれて、絶対に碌でもない大人になってたに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

「お・じ・さ・ん!」

 

「なんすか束さん」

 

「もー、リアクション薄いなぁ」

 

「毎回毎回何も無いとこから現れてんのを見てたらビックリはすっけど慣れるわ」

 

「それもそっかー」

 

「で、今日は何の御用で?」

 

「えー?好きな人に何か用事無いと会いに来ちゃいけないの?」

 

「いや別にそうじゃねぇけど」

 

「じゃぁ良いでしょ?」

 

「はいはい」

 

「んふふ」

 

今日もまた、おじさんに会いに行って。

ぎゅーって抱きついて。

 

「ねぇ、おじさん」

 

「ん?」

 

「ぜーったいに一緒に宇宙に行こうね」

 

「俺で良ければ連れて行ってもらえると嬉しいね」

 

「約束だよ?」

 

「おう」

 

「それじゃぁ、約束忘れないためにちゅーを……」

 

「それとこれは話が別です」

 

「あーん、おじさんのいけずぅ」

 

「言ってろ言ってろ」

 

そう言うおじさんも、勿論私も、楽しそうに笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 







長い!
いやこれは断じて束さん贔屓とかではなくてですね(狼狽)

……いやでも書いちゃったもんは仕方ないじゃん!?(開き直り)





予告してたR−18の方のセシリア編ですが今暫くお待ち下さい。
別に忘れてたとかじゃなくて単純にどうしようか悩んでるだけなんです。
ちゃんと投稿はするので……。

くーちゃんの、おじさんと出会ってからの話はくーちゃんの方で書きます。
だからあんな区切り方でも許して。




もしかしたら他の子との絡みの方が書きやすくてそっちが先になっちゃったりするかもしれないけど……(小声)




追記
久々にアクセス数がやたらめったら増えて何事?と思ってたらなるほど、日刊ランキングに載ってたんやな。

皆様、ありがとうございます。




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時間が過ぎるのって早いよね。だってもう夏休み終わりだよ?おじさんもっと夏休み満喫したかった。



超久々。








 

 

 

 

 

 

 

夏休みももう終わりに近付いて来てる。

残すところあと三日しかない。特に何もしないで家で何時も通りぐーたら過ごしてたらあっという間よ。

歳取るとマジで時間の流れが早く感じるんだがここ最近色々とあったからか余計にそう感じるようになってんだよね。

 

そんな訳で、さてあと三日どうすれば有意義に過ごせるかと頭を悩ませているんだわな。

一夏は代表候補生の強化合宿だか何だかに出掛けちまってて居ないし千冬は千冬で二学期の準備が忙しいから朝早くから学園でお仕事。

だから構ってくれる相手が居なかったんだけども。

 

五日前から毎日毎日、連日束がクロエとラウラを連れて預けてどっか行っちまうもんだからつまらない訳じゃないしなんなら騒がしいし楽しい。

 

因みにであるがマドカは亡国機業の、あの臨海学校で俺と殴り合った柄の悪いねーちゃん達が作戦失敗の上に、私まで奪われたとなったらどうなるか分からないと言って帰った。

 

どうやらあの二人は育ての親や姉みたいな存在らしい。

そりゃ当然束や千冬達と一緒に止めたさ。

 

だけどどうしても、帰らせてくれ、って言うモンだからが色々安全対策仕込んだ上で帰らせたのだ。

滅茶苦茶心配だけど。

 

 

 

 

 

「父よ!」

 

「どした?」

 

「夏祭り行きたい!」

 

「夏祭りぃ?どうしてまた、いきなり夏祭りに行きたいなんて思ったのさ」

 

まぁいつもの如く、ラウラが唐突にんな事言い始めた。

 

「箒がな、今度家で夏祭りするから時間があったらおいでって言ってたのだ」

 

「そうなの?俺聞いてないんだけど」

 

「やるって言ってたぞ」

 

束と箒の実家は皆も知っている通り結構有名な篠ノ之神社って言うとこなんだけど、何が有名かって言うと単純に歴史が古いってのもあるが、毎年神社の巫女が神樂を舞うってんで有名なんだよ。

しかも超が付く美人が、って事で有名なんだよな。まぁその超美人って束と箒の母親である華さんなんだけど。

 

ISが世の中に出る前の年が最後で、もう五、六年前の話だ。

正確に言うならばISが発表された後に夏祭りの準備は進めてたんだが国家重要人物保護法っていう面倒なもんのせいで中止になっちまったんだよ。

 

だからやるのは久々って事になる。

 

それまでは箒と束のお母さん、華さんが神樂を舞ってたんだが今年はどうするんだ?華さんも師範も当然来れる訳も無いしそうすると箒か束のどっちかがって事になるんだけど、神樂やらないで祭だけやんのかな?

 

「ラウラ、それは言っては駄目だった筈ですよ」

 

「あっ、そうだった!」

 

口を手で塞いであわあわしてるラウラは可愛い。

もうウチの娘可愛すぎ……。

 

 

 

「えっ、どゆこと?」

 

「箒叔母様は、お父様に内緒にしておいたのです。当日に呼んで、サプライズ、としたかった様ですよ」

 

「そーなのかー……」

 

「あわわわ、どうしよう?箒に怒られるかな!?」

 

「大丈夫だとは思いますよ」

 

何やら、箒は俺に秘密で準備を進めて当日になってサプライズしようとしていたらしい。

だがラウラがうっかり口に出しちまっておじゃん、と言う事だそうだ。

 

「まぁ、俺が知らないフリすれば良いだけの話だから気にすんな。でも束が居ないのはそれが理由か」

 

「はい。お母様はお手伝いをしているようです。本当は秘密基地にいても良いんですが、暇そうな顔してるしお父さんのとこに居よっか、と仰っていました」

 

「アイツ俺のこと暇人だと思ってんのか……。まぁ、二人が来る前は実際暇人だったけど」

 

実際暇人だったから別に良いけどさ。

しっかし夏祭りかぁー。懐かしいな。毎年の恒例行事で準備の手伝いしてる時に漸く今年も夏来たかー、って思ってたもんだ。

俺は仕事あったから土日ぐらいしか手伝い出来なかったけど、それでも夏祭り本番は必ず参加してた。

 

千冬達ちびっ子四人組の面倒見なきゃならなかったからな。

一夏と箒は目を離すと確実に迷子確定だし。

 

そっかー、今年やるのかー。

 

「明日当日なので、連絡来ると思いますよ」

 

「そっか、したら皆で行くか。クロエは篠ノ之神社見たことあるけどラウラは無いもんな」

 

「あるぞ!」

 

「あるの!?」

 

「うん。母様に連れられて何回か。ここがお母さんのお家なんだよー、って言ってた」

 

「ラウラは、ジャパニーズテンプルだ!と大はしゃぎしてました」

 

「む、姉様も久しぶりだってはしゃいでたぞ!」

 

「いえ、私はそんなはしゃいだりしません」

 

「しーてーたー!」

 

だそうで。

何やらラウラは俺の膝の上で文句を言い、クロエはそれを受け流しながらも反論。

なにこれめっちゃ仲良くない?うちの娘達仲良すぎじゃない?

あぁもう超可愛い。めっちゃ天使。

 

二人を見守りながら、んな親バカな考えをしていた訳でした。

 

 

 

 

 

翌日。

11時ぐらいに箒から電話が掛かって来る。

 

昨日聞いてた通り神社に来てくれ、との事。

そら勿論行きますとも。

 

んでもって、クロエとラウラを連れて篠ノ之神社へ。

二人は何時も通り突然何もないとこから現れた束が持ってきた浴衣を着てる。

いやもう超可愛い……。

 

え?なに?俺の娘ってやっぱり天使?いや天使だったわ。

 

クロエは白地に朝顔があしらわれている浴衣を着ている。

ラウラは紫の浴衣で何本かの薄紫の模様が描かれている。

 

クロエもラウラも楽しみにしていたらしく、クロエははしゃいじゃいないがそれでも楽しみだ、と言う雰囲気を身体全体で放っている。

ラウラははしゃいではしゃいで、下手すると勝手に一人でどっか行っちまいそうだ。

だから手を繋いでおかないとならない。あれだな、小さい頃の箒と一夏みたいだ。

 

ラウラはこの歳になるまで軍隊でしか生活してこなかったし、小さい頃から軍人として生きてきた。

だからその歳その歳での相応の生活とか、態度をしたことがないんだろう。だからだろうか、それを取り戻すように、幼児退行しているのだろう。

 

「ラウラ、ちっと落ち着けって。別に祭りは逃げやしないさ」

 

「父よ!あれは何してるんだ!?おぉ!あっちにも色々ある!」

 

「屋台ってんだよ。夜になったら色んな食い物とか売ってるから楽しみにしとけ」

 

「ヤタイ!」

 

一応、そう言っとくが日本の夏祭りを見るのが初めて、と言うか祭りを見るのが初めてだから仕方が無い。一応、迷子にならないようにちゃんと手を繋いどかないとな。

 

二人を連れて、篠ノ之神社の母屋、篠ノ之一家が住んでいた建物に向かう。

玄関の戸を開くと鍵は掛かっておらず、箒と束の物と思われる靴に加えて男物の靴が一束と女物の靴が一束。

 

んん?誰のだ?

 

誰の靴か分からないまま、取り敢えずお邪魔する。

 

「お邪魔しまーす」

 

「かーさまどこだー!」

 

「ラウラ、靴は揃えなさい」

 

「はーい」

 

ラウラはクロエに言われて靴を揃えた後、ドタドタッ、と奥に走って行った。

俺とクロエも靴を脱いで上がる。

 

すると、奥から久しく聞いていなかった懐かしい声が聞こえてくる。

いやいやまさか、だってあの声の主は……。

 

そう思いつつ、少しばかり早足で、ラウラが駆け込んだ部屋に入る。

そこは、何年も前に篠ノ之一家と俺、千冬、一夏の七人で季節のイベント事に騒いだりしたリビングの様な部屋。

 

「失礼しまー……」

 

「おぉ、久しぶりだね、洋介君」

 

「久しぶり、洋介君。元気だったかしら?」

 

恐る恐る障子が貼られた引き戸を開けると、さっき聞こえてきた懐かしい声の主である、俺の大恩人と言っても過言じゃない、いや足りないほどの人物が二人。

 

5年前と比べると少しだけ歳を取ったなと思うような、少しばかり皺が出来たかなと言う感じではあるが、それでもまだまだ若々しい。なんなら変わって無いかもしれない。

昔と同じ、優しい笑みを浮かべて迎えてくれる。

これで本当に24と15の娘が居るとは信じられない。

 

「師範と、華さん……?」

 

「それ以外に誰がいるのよ」

 

「いや、でもどうして此処に……?全国を転々としてる筈じゃぁ……」

 

「束が政府と交渉して、これからは此処にまた昔みたいに住む事が出来るようになったんだ」

 

「いっえーい、サプラーイズ!どうどう驚いた?おじさん驚いた?」

 

「いや、驚いたも何も、事態が飲み込めないっつーか……」

 

俺の後ろから飛びついて来た束が、そう俺に聞いてくるがまるで理解出来ていない。

そりゃぁ、これから一生本当に会えないもんだと思ってた人達が目の前にいて、元気な姿で昔みたいに平然と変らない感じで出迎えてくれたんだから、誰だって思考回路が停まっちまうのも仕方が無い。

 

「ほら、そんなとこで固まってないでこっちにいらっしゃい」

 

「え、あ、はい」

 

華さんに促されるまま、部屋に入って部屋に入って敷かれた座布団に腰掛ける。

自然と正座になってしまうが、そりゃ緊張してるんだもの仕方ないじゃない。

 

「正座なんてしてどうしたんだい?……まさか遂に束か箒のどっちかと!?」

 

「いやいや、師範何言ってるんですか!?」

 

「あれ、違うのかい?」

 

「違いますよ。久々に会ったもんだからどうすれば良いのか分からなくて正座になったんです」

 

いやほんとびっくりしたっつーか、なんつーか、本当に言葉が出てこないってのが一番正しい。

マジ一生会えないかと思ってたからその分衝撃がデカい。特大。隕石衝突。

 

さて、その本人である師範と華さんはと言うと5年前とそう変わらない態度で接して来るもんだから余計に混乱する。

 

「え、いや本当にどうして此処に……?」

 

「それはねー、後でちゃんとおじさんには説明するから。だから今は再会を喜んだ方が良いんじゃないかな?」

 

束にそう言われて、納得行かないが取り敢えず頷いておく。

 

「まぁ、色々と積もる話もあるけど取り敢えず皆が無事にまた、再会出来たことを喜ぼうじゃないか。ほら、お茶でも飲んで」

 

「……やたらと落ち着いてますね」

 

「私達夫婦も、これでもかなり色々と思う事はあるんだ。でも、またこうして箒や洋介君に会えたんだ。それで良いじゃないか」

 

師範は、そう言って優しい笑みを浮かべて笑う。

確かに師範の言う通りなのかもしれない。政府のやり方とか他にもまぁ、色々思うところとかあるけどそれでもこうしてまた無事に、師範と華さんに会えたんだ。 

 

因みにだが束は頻繁と言うほどでも無いが、会いに行ってたらしい。こいつマジなんでもアリだな。

 

そんでもって、さっきから華さんに手伝われて巫女服、それも夏祭りに神樂を舞う用のやつを着付けてもらっている箒なんだがどう言うことだ。

 

「あぁ、流石に私は奉納出来ないから今年は箒にやってもらう事にしたの。と言うよりは箒が自分からやらせてほしいって言って来たんだけどね」

 

「そうなんですか。すると、華さんはこれで引退?」

 

「どうかしら。身体が衰える前に機会があるなら、とは思うけれど立場的に少し難しいかもしれないわ。だから、今の内に受け継いでおいても問題無いでしょ?」

 

「そうですね。にしても随分とまぁ様変わりするもんだなぁ、箒」

 

「んっ、どうですか?似合っていますか?」

 

「似合ってる似合ってる。いやぁ、本当に昔と比べると見違えたなぁ」

 

箒は、巫女服を纏っている。

今はまだだが、化粧しなくても美人なのに本番ともなれば化粧も施してそりゃぁ、男共が放って置かないほどの美人さんになるだろう。

そうなったら悪い虫が付かないように気を付けないと。

 

因みに師範は後ろでクロエとラウラと言う、初孫とでも言うべき二人にデレッデレ。

あーあ、あれ完全に孫に甘いお祖父ちゃんだよ。

俺も人のこと言えないけどあそこまでじゃ無いと思うんだよなぁ……。

 

 

 

「神樂は七時開始ですから、それまでは屋台を回ったりしていては?」

 

「箒は?」

 

「最後に練習して、確認したいのと身を清めたりしないといけないので無理ですね。終わったらその後に花火があって、少しだけ時間があるから屋台回ろうかなと」

 

「そっか、んならそん時はお供させてもらうかね」

 

「良いんですか?」

 

神樂を舞って、漸く自由時間になるってのに野郎共に囲まれちゃぁ、あれだしな。

ボディガードぐらいにしかならんだろうが、箒が少しでも楽しめるように身体張っちゃりますよ。

 

「まー、少しぐらいなら構いやせんだろ」

 

「そうだよ箒ちゃん!それまでは私達がおじさんを連れ回すけどその後は頑張った箒がおじさん独占してもだーれも怒らないよ」

 

「後々一夏には参加したかったとかぶーぶー言われそうだけどな」

 

一夏、絶対言うだろうなぁ。

屋台回りたかったとか、箒の神樂見たかったとか、花火見たかったとか。

 

ちょっとばかりご機嫌取りの為と、合宿頑張ったご褒美っつたらあれだけど花火ぐらいなら買ってってやるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、五時頃を境に屋台が営業を始めて、それに伴って段々と客足が増えてくる。

屋台を出しているのは近所の顔見知りの宮大工やらなんやら色々な職業の爺さん達が主だ。この人達、夏祭りと年末年始になると必ず屋台屋台だしているから、今回も久々に開催するとあってもう80過ぎてるって人も多いのに屋台を引っ張り出して態々来てくれたんだそうだ。

その手伝いをしているのは、それぞれの弟子の若い人だったり跡を継ぐ息子や孫と様々だ。

 

全員、馴染みの人達でお世話になったもんだ。

 

 

 

それぞれ声を掛けられて、手を振ったりして応える。

 

「あれ食べたい!」

 

「あぁ、リンゴ飴な。ほら、これで買ってこい」

 

ラウラが食べたいと指差したリンゴ飴の代金400円をポケットから取り出して渡すと、一目散に飛んでいく。

……やっぱり精神年齢低くなってるよなぁ。まぁ、可愛いから良いけど。今まで出来なかったんだからああやって普通の子と同じ様にはしゃいだりしても構わんだろ。

 

 

「クロエはどうする?なんか食いたいもんとか欲しいもんとかあるか?」

 

「えっと……」

 

「遠慮はすんなよ。こう言う時は親がストップって言うまでおねだりするもんだ」

 

「分かりました。それでは、あのカタヌキ、と言うものをやってみたいです」

 

「おう。したらラウラがリンゴ飴買って戻ってきたら皆でやるか」

 

「はい」

 

クロエもクロエで夏祭りは初めてだから、初めて見るものが多い。

あんまり態度とかは変わらないが、表情は何時もの落ち着いていてクールなものとは大きく変わって、何か凄く良いものを見た小さい子供と同じ様に笑顔というか、幸せそうというか、とにかくそんな感じ。

ついでに金色の綺麗な瞳はそれはそれはきらきらと輝いている。

 

……なるほど、この自分の子供、特に娘の笑顔を見るためなら甘やかしてしまう父親の気持ちが今本当の意味で理解出来た気がする。

 

 

 

 

「甘くて美味しい!」

 

「良かったな。そしたらクロエが型抜きやりたいって言ってっからやりに行こう」

 

「分かった!」

 

リンゴ飴片手に、超ご機嫌で当たり前のように空いている手で俺の手を握って繋いでくる。

いやまぁ、良いけどなんかこそばゆい。

 

「俺も型抜き実はあんまし詳しくないんだよなぁ。確か、自分で好きな型を選んで、それを綺麗に型抜き出来たら賞金が貰えるんだっけか」

 

「おぉ、賞金!」

 

「難易度によって賞金の額が上がるから、まぁ最初は簡単なやつで慣らしてからやるのが普通だよな」

 

「あれがいい!」

 

と俺が説明したのにラウラは一番難易度が高い部類の飛行機を選びやがった。

 

「ラウラ、俺の話聞いてた?」

 

「大丈夫、私なら出来る!」

 

なーんか自信満々でフンス、と胸を張って応えるがうん、なんとなくオチが見えた気がする。

 

「まぁ、うん、そんじゃやってみな。ほれ、お金渡しとくから無駄遣いしちゃぁ、駄目だぞ」

 

「うん!!」

 

相変わらず、たったかたったか選んだ型を店の爺さんにお金渡して貰って、設置されてる椅子に座って机に向かい黙々と始めた。流石は元代表候補生、元軍人と言うべきか集中し始めたらそら凄い。

小学生ぐらいにしか見えない子が、真剣な表情で黙々とやってんだから周りも気になるらしい。

 

「クロエはどうする?」

 

「それでは、一番簡単そうなのから」

 

「おし、そんじゃ俺もそれにすっかな」

 

「皆で一緒にやりましょう」

 

「おうよ」

 

クロエも選んだ型を持って、始める。

俺?はっはー、意外とこう言うチマチマコマコマした作業大好きなのよ。だからと言って一番難しいやつが出来るわけじゃないんだけどね。

 

「あ!?クッソ折れやがった!」

 

「ああ"あぁ"ぁ"ぁ!!ここまで頑張ったのにィィ!?」

 

「ばっかやろ、なんでそこで欠けちまうんだよ!」

 

とまぁ、ラウラとクロエに挟まれて座ってる俺が一番熱くなってた。

いや瓢箪とか本当に無茶苦茶難しいんだって。

飛行機とかあんなん人間が出来るもんじゃねぇだろ。

 

とか思ってると隣でクロエとラウラが瓢箪やら飛行機やらをクリアして賞金貰いやがったので、そうするとクロエが人間じゃないみたいになるし父親としてなんとなーく負けた感じがしたので意地でクリアしてやった。

 

チクショウあのジジイ、クロエとラウラは可愛いからって顔デロデロにして甘く判定してんのに俺になると、二人を連れてるのが羨ましいのかなんなのかめちゃくそ厳しく判定しやがって。

もっと綺麗じゃないと駄目とかふざけんな!

 

最後の最後はもう頭来て針なんか使わないで束に連絡とってアートナイフとか色々持ち出してクリアしてやったわ。

別に禁止されてねぇもん。俺悪いことしてねぇし。

 

はっはー、ジジイザマミロ!

 

なんて心ん中で思いました、まる。

 

因みにこの型抜きの型、食べられる。

あんまし美味く無いけど。

 

 

 

今回の軍資金は束から支給されてる。

 

「私達の娘なんだから、おじさんばっかりにお金出して貰ったりはしないよ。私の貯金なんて幾ら使っても使い切れないんだからこう言う時に使わないと」

 

とのことで夏祭りでもらう小遣いにしちゃ随分と多い金額を渡されている。

まぁ、そう言う事ならと俺は甘える事にした。

 

一万円札だと使い勝手が悪いから、と千円札と五百円玉が殆どで俺の財布は見た事がないぐらい膨れ上がっている。就職して以来ずっと使い続けている少しばかり高めの革製の財布がパッツパツだ。

 

それでも入りきらなくて、札は財布だけど小銭、五百円玉、百円玉なんかは少ししか財布に入らなかったから殆どをズボンのポケットにダイレクトで突っ込んでるからな。

もう両方のポケットがズッシリと垂れ下がってジャラジャラ言ってんだもん。

 

 

 

さてさて。

たこ焼き、焼きそば、あんず飴、お好み焼き、かき氷、焼きイカなんかの食い物類だけじゃ無い、射的、ヨーヨー釣り、金魚掬い、輪投げなどの各種景品貰える系の屋台も粗方制覇して、買って食べてと祭りを楽しんでると、そろそろ神樂の時間だ。

 

「おーし、そろそろ時間だから行くぞー」

 

射程を夢中になって、元軍人の有り余る射撃の腕を周りに見せていたラウラと、その隣の金魚掬い、と言うより金魚にどハマりしたクロエに声を掛けて神樂をやる場所、正確に言うと神楽殿って言う神樂をやるためだけの場所に移動する。

 

つーかクロエ、お前金魚取り過ぎじゃね……?

二袋二十匹って、それどこで飼うんだ?いや、束ならなんとでもしてくれそうだから心配いらないんだろうけどさ。

 

因みにおじさんは子供の頃、金魚掬いはやらせてもらえなかった。

飼う場所も何もないし、どうせ世話なんてしないからって。

まぁおじさん、食い物ばっかに目が行って金魚掬いどころじゃなかったんですけどねー。

 

あんず飴とかジャンケンに勝てばもう一個好きなのタダで貰えたし。

ぜってぇ勝つ!って息巻いてたっけなぁ。

 

なんて思いながら、神楽殿まで二人を連れて歩く。

 

神楽殿に着くと、既に人でごった返している。いやぁ、何百人居んだろうな。

因みに俺達は最前列の一番見やすいど真ん中。席を取っといてくれたんだそうで張り紙が貼ってある。

いわゆる家族席ってやつだな。

 

そこに三人並んで座る。

 

「まだか?」

 

「もう少し待ってろって。そのうち始まっから」

 

ラウラはまだかまだかと催促し、クロエも表情は相変わらずだがそりゃもう楽しみだと全身から雰囲気を出してる。

 

そして、少し待っているといよいよ始まるであろうとなってきた。

箒が、そりゃもうびっくりするぐらい綺麗にめかし込んで、小道具を持って出てくる。

 

神樂を見る為に辺りに馬鹿みたいに集まってた群衆が、さぁっ、と静かになる。

そらそうだ。あんな美人前にしたら誰も言葉を発せなくなるだろうよ。

 

舞う前に、ちらりと明らかに俺を見て何やら伝えてくる。

なるほどなるほど、しっかり見てくれってことか。んな事せんでも俺はちゃんと見てるよ。

 

 

そして始まる神樂は、そりゃもう神秘的っつうの?見る者を圧倒させるような迫力と魅力があった。

華さんの神樂もそら凄かったし綺麗だったが、箒もまだまだ荒削りと言った感じはあるが多分、華さんを超えるって断言出来るぐらい凄かった。

 

終わって、箒が舞台袖に帰ってから少しして、観客達が騒ぎ始めた。

 

「箒凄く綺麗だった!!」

 

「箒叔母様、凄かったです!」

 

ラウラとクロエも、そら大興奮でぴょんぴょん跳ねる。

あのクロエですら声を大きくしてるんだからそんだけ凄かったって事だろう。

 

周りの男共は、美人だったとか騒いでるがオメェらみたいな連中には絶対に箒はやらんからな。

 

それに、TV局や新聞の取材とかも来てっからこりゃぁ話題になっちまうなぁ。

そこんとこどうなんだろ?危なくねぇんかな?

 

神楽殿から、徐々に興奮から冷めていった人が屋台やら花火を見るための場所取りに去ってまばらになり始めた頃。

 

「兄さん!」

 

母屋の方から箒が走ってくる。

巫女服から白地に桔梗の花があしらわれた浴衣に着替え巾着を持っていて、巫女服とはまた違った魅力がある。

しかも下駄を履いて、歩く度にカランコロンと心地良い音が鳴る。

 

 

「お疲れさん」

 

「お疲れ様です、箒叔母様」

 

「うーん、叔母様と言われるの慣れないな……」

 

「箒!箒!凄く綺麗で、凄くかっこよくて、えっととにかく凄かったぞ!」

 

「ありがとう、ラウラ」

 

飛び付くラウラを受け止めて、年の離れた妹や姪にするように優しく頭を撫でる。

 

「洋介兄さんは、どうでしたか?」

 

「いやぁ、美人になったなぁ、って。凄かった凄かった」

 

うんうん頷きながら言うと、嬉しそうに笑う。

 

「それじゃ次は箒が父と遊ぶ番だな!」

 

「叔母様、私達はお祖父様と一緒に回りますので、どうぞ楽しんで来て下さい」

 

「うん、ありがとう」

 

「ラウラ、師範に迷惑掛けちゃ駄目だぞ?」

 

「大丈夫だ!」

 

「あっ、走らない!」

 

一応、釘を刺しとくがあれじゃ意味無いなぁ。

クロエに走るなって言われてとっ捕まってる。

まぁ、周りに迷惑掛けたり悪さしなけりゃ生まれと育ちの境遇考えると、暫くはあれで良いんじゃないかなぁ。

VTシステムの一件以来、暫く笑わなくて、本当に心配したんだがそれが嘘みたいだ。

だけど、やっぱり心の奥底じゃまだトラウマに苦しんでる。

ISを見たりすると偶に怯えたりするんだ。どうにかしてやりたい気持ちがあるが、どうにも出来ていないのが実情だ。

 

あんまり、苦しんでいるところは見たく無いから何とかしてやりたい。

 

「ふふっ、父親の顔してますよ」

 

「マジ?」

 

「はい、それに凄く嬉しそう」

 

「まぁ、父親だって言われて嬉しく無い訳がねぇもんなぁ」

 

嬉しいもんよ?

義理とは言え、愛娘達を見る顔が父親だって周りに言われるのは。

自分じゃ分からないからなぁ、他の人に言われたって事は、少なからず父親として何かしてやれているって事だろう。

 

まぁ、やっぱり自分じゃ分からんけど。

 

「それじゃぁ、エスコートっつー程のもんでも無ェけど、行くか」

 

「はいっ」

 

嬉しそうに俺の腕に抱き着いてくる。

うん、周りの目が凄まじい。もう怨念レベルよ?

 

羨ましいのは分かる。

俺だってその立場だったら同じ様に睨むだろうよ。

 

まぁ、それはそれとして。

箒に腕を引かれながら屋台を周る。

 

「お、箒ちゃん!さっきの神樂見たぞ!お疲れ、これ持ってきな!」

 

「ありがとうございます。でも良いんですか?」

 

「良いんだって!」

 

歩くだけで屋台の爺さん達に焼きそばやらたこ焼きやら、両腕一杯になるほど色々と貰う箒は、嬉しそうに笑っている。

 

何せ5年ぶりだから俺も箒も含めて皆、もう二度と出来ないと思っていた祭りをまた開けて嬉しいんだろう。

 

両手に沢山の食い物が入ってるビニール袋を幾つか持って歩く。

 

「相変わらず、あの爺さん達は箒達、つーか美人と子供には甘いんだよなぁ」

 

「まぁまぁ、ほら、花火が良く見える、私達だけしか知らない場所、あったでしょ?あそこに行って沢山貰ったので一緒に食べましょう」

 

「そうだな、久々に行ってみっか」

 

その場所とは、篠ノ之神社敷地内にある山の山頂辺りにある展望台、ってほどじゃ無いんだけど少しばかり開けた場所の事。

 

箒と一夏が小さいによく行っていた、そして連れて行かれた場所だ。

小さな社があったから、師範に報告してみるとどうやら元々あそこに篠ノ之神社があったらしい。それを今の場所に移したんだとか。

 

だから神様は居ないけど、元々住んでいた場所だから悪い事をしないように、って言ってたんだよな。

 

そんな経緯がある、その場所に向かおう、と言う訳だ。

あそこ、春になると花が咲いて綺麗なんだが暫く足を踏み入れて無いからどうなってるか分からんなぁ。

それに、一応道はあるにはあるんだが、ここ何年も人が足を踏み入れてないから歩ける状況かどうか分からないんだよな。

靴ならまだ行けるだろうが、箒は下駄を履いているもんだから行けるか分からない。もし駄目そうだったら、仕方無い、こっちで群衆に紛れて花火を見るとしよう。

 

二人で、その場所に向かうべく歩き出す。

花火まではきっかり20分あるから、余裕で行く事が出来る。

 

「ふふっ、懐かしいなぁ」

 

「5年ぶりだよ、全く。時間が過ぎるのが早過ぎるぜ」

 

昔のように、山の中を並んで歩く。

虫除けシートとかでちゃんと対策してあるから蚊に刺される事も無い。

灯りは箒が持って来ていた小さな懐中電灯と俺のスマホ。

今日は一夏達は居ないけど、昔に戻った気分だ。

 

「手を繋げないのが、残念です」

 

「そりゃこんだけ色々持ってたら無理だろ」

 

俺達はそれぞれ、箒が貰った食い物と足元を照らすための懐中電灯、スマホを持っているから到底昔みたいに手を繋ぐなんて出来ない。

箒が走って行っちまうから、手を握ってないと危なっかしいんだ。昼間ならまだしも夜は流石に駄目。

 

その、そこらの男の子よりもずっと男の子っぽくてやんちゃだった箒がこんな淑やかな大和撫子になるなんてな。まぁ、母ちゃんの華さんがそうだから、予想は出来たけどここまで変わられると驚くばかりだよ、全く。

 

暫く歩いていると、目的地に到着する。

確かに少しばかり雑草が生えているが、土が大部分を占めているな。まぁこれなら問題無いだろう。

ただ、昔俺が作って設置した木製の長椅子は使えそうにない。大分汚れているしもしかすっと腐って居るかもしれない。

 

「椅子は使わない方が良いな。危ない」

 

「だろうと思って、小さいですけどシート持って来ました。一緒に座りましょう」

 

「流石箒、用意が良いな」

 

「でしょう?」

 

箒が持って来たシートを地面に広げたんだが。

 

「……思ったよりも、小さいですね」

 

「だな……」

 

結構小さかった。

と言うか、ギリギリ一人座れるぐらい、って感じで到底男女一人づつが座れるような大きさじゃない。

座ろうもんならはみ出ちまうだろう。

 

「箒、お前がシートに座れ。俺は地べたにそのまま座っから」

 

「……良い事を思い付きました」

 

「あれ、スルー?」

 

「洋介兄さん、座って下さい」

 

「えっ」

 

「良いから」

 

箒に言われるまま、シートに胡座をかいて座る。

すると、箒は極々当たり前かの様にその胡座の上に座ってきた。

 

「ホウキサン?ナニシテルンデスカ?」

 

「昔みたいに、こうやって座れば二人一緒に座れるでしょう?」

 

そうじゃない。

いや、確かに昔は箒と一夏だけじゃなくて千冬と束もよく膝の上に乗せたりしていた。

特に小さかった一夏と箒は俺に構って構ってと飛び付いて座って来たもんだ。

だがしかし、今はどうか?

 

今の箒は、好みは別として10人中10人が美人だと口を揃えて大きく頷くほどの美人さんだし、しかもスタイルは知人女性全員で考えてみてもトップクラス。

今も昔も剣道やってるからしっかり引き締められてる。

 

そんな箒が昔と同じ様に膝の上に座るって言うのはセシリアの言葉を借りるならば「淑女にあるまじき行為」と言うやつだろう。

 

あと、ふにふに柔らかい感触が凄くてですね。

 

「いや、流石に止めといた方がいいんじゃねぇかなぁ……」

 

「なんでですか?」

 

「理由は色々あっけど、俺こんなとこ師範に見られたら殺されんじゃねぇかな、って」

 

「大丈夫ですよ」

 

「何を以て大丈夫と?」

 

「父さん、洋介兄さんに私か姉さんを貰って欲しいそうですよ?なんなら二人とも、って言ってました」

 

「ごめん俺幻聴聞こえるようになったわ」

 

いやもう、やっぱ歳なんだな。

そりゃ四捨五入したらもう40歳だもんな、耳が悪くなるのも仕方がないな。

 

「兄さんの耳が悪くなった訳じゃないですよ。父さんが本当に言っていた事です」

 

「えぇ、師範何考えてんの……?本当に神主……?」

 

いやまぁ、束には告白されたけど。

だけど娘二人をどちらとも同じ男に嫁に出したいなんて、俺に勇気があれば頭沸いてんのか、と言ってやりたいんですが。

 

「はっきり言って、姉さんは私達以外の人間には改善されたとは言え、未だにコミュニケーション能力が欠けていますし、男性なんて洋介兄さん以外碌に接した事がありません。私だって兄さん以外にまともに関わった男性は1人もいない訳で。そんな娘2人をそこらの男に任せられないと」

 

「いや、でもよぅ」

 

「はっきり言って、私はまだしも姉さんを妻としていられる人間なんて兄さんしか居ませんよ?」

 

「あんまり言ってやるなよ……、あれでも初めて会った頃とは別人なんだ」

 

「分かってます」

 

やっぱり、実の妹から見ても束はコミュ障らしい。

でも本当に昔とは大違いなんだぜ?

 

「箒はどうすんだよ。俺みてぇなおっさんとくっつくなんて嫌だろ」

 

「え?全く嫌じゃないですよ?寧ろ洋介兄さんと結婚出来なかったらどうしよう……?ぐらいなんですが」

 

「ワッツ?」

 

「もうこの際ですから、言ってしまいますけど兄さんの事が嫌いならこうやってくっついたりなんてしません。自分を着飾って、気合入れて化粧までしません」

 

おっと、なんか見た事聞いた事あるような流れだぞ?

具体的に言うならつい先日、2回ほど。

 

「えー、っと?」

 

「……ここまで言って、分かりませんか?」

 

「いや、うん、うん?」

 

なんと答えれば良いやら、かなーり曖昧に返事をしつつ。

いや、実は分かっている。

こんだけ言われて気が付かない訳が無い。

 

正直、学園に通い始めて箒と再会してからと言うものやたらとくっ付いてくるし最後に会った時と比べると随分とまぁ、態度が変わったもんだなと感じていた。

 

昔は確かに、兄貴に接する感じだったけど今はどうだ?そう考えたって兄貴にする態度じゃぁ、無いだろう。

 

あんまり言いたく無いけど、皆も俺を見る目がどうも年長者とか、兄を見る感じじゃないんだよなぁ……。

 

まぁ、箒も例に漏れずって事で。

膝の上から退こうとはせず、俺の腕を腰に持って行って離さない。

 

少しだけ、下を向いて耳や首筋を真っ赤に染めながら、しかし声だけははっきりと。

 

 

「私は、貴方の事が昔から、大好きです。愛しています」

 

 

俺の腕をぎゅぅ、と抱きしめて、小さく縮こまってそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はてさて、そう言われたのだがどうすりゃ良いんだろう。

いやね?嬉しいよ?けど俺ってつい先日もセシリアに告白されたばっかなんだよなぁ。

 

……あれ、俺って絶賛クズ男の道を邁進してる?

 

いや、誰彼構わずって訳じゃないし、全員と付き合っている訳じゃ無いからセーフ、だと思いたい。

でもって、束とセシリアにも全くと言うほどでは無いが碌な返答もしていないのに、ここで箒の想いに応えるのは違うだろう。そもそも俺って、皆に好かれてはいるけど俺が皆をどう思っているのか、ってのが正直分かんねぇんだ。

多分、束とセシリアにも曖昧に応えてしまったのは、それが原因かもしれない。

 

もしこのまま、俺がどう思っているのかを俺自身が分からないまま付き合ってしまったら絶対に皆を傷付けてしまう。

 

「あー、うん……。はっきり言ってすげぇ嬉しいよ」

 

「!」

 

嬉しそうに、振り向く箒。

だけど。

 

「だけど、今はまだ応えられない。俺が、箒をどう思っているのか分からねぇんだ。妹として大切なのか、それとも一人の女として大切に思っているのか。だから、それが分かったらまたちゃんと返事をさせて欲しい。いや、なんなら俺から告白する」

 

しっかりと、目を見て宣言する。

箒はすぐには応えずに、俺の目をじぃー、と見つめ返して。

 

ふっ、と微笑んで言った。

 

「分かりました。そしたらその時を楽しみに待っていますね?」

 

「おう」

 

俺は、短く答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろですね」

 

「あぁ。いや、またここから花火を見ることが出来るなんて思ってなかったな」

 

「これからは、毎年見れますよ」

 

「そうだなぁ。そしたら、毎年見に来ないとなぁ」

 

箒を膝の上に乗せて、話す。

 

すると、ひゅるるるるる、と言う打ち上げ花火特有の音を響かせながら花火が打ち上げられる。

 

どーんっ!!

 

大きな音と共に、何種類かの色が混ざった花火が炸裂する。

いや、懐かしい。

 

昔は腰に携帯用の虫除けをぶら下げて箒と一夏の手を引いて、千冬と束を入れた5人で見に来たもんだ。

あれから早十年。

どんどん大きく成長していって、小学生に上がってからも一緒に来て。

 

中学生になっても一緒に来てくれるかな、と心配していたら色々と騒動があって箒は引っ越しちまった。

束はしょっちゅう家に来てたけども。

 

あれが最後かなぁ、なんて懐かしんでいたらまさかまさか、五年越しでまた見ることが出来るなんて。

それも、大きく立派に成長した箒と共にだ。

 

歳取ると涙脆くなるって言うけど、今初めて実感した気がする。

箒を抱えて花火見ているだけなのになんだか泣きそう。

 

それを紛らわせる為に花火と箒の顔を交互に見る。

連続して打ち上げられて花開く花火の灯りに照らされた箒の顔は、いっそ見たことがないぐらいってほどに綺麗だ。

 

……こんな美人が俺を好きだって、愛してるって言われても普通じゃ信じらんねぇよ。

 

どうすっかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花火が全て打ち上げ切られた後。

箒と手を繋いで二人並んで帰る。

 

母屋に着くと、手を繋いだまま入っていって。

 

「まぁ……!」

 

「おぉ、洋介君、遂に……」

 

「いや違いますって!と言うか普通心配しません!?娘が男と手を繋いでるんですよ!?しかも一回り以上年上のおっさんと!!」

 

なんて一幕もあったりしたけど。

 

とにかく、五年振りの再会は色々な喜ばしい感情がごちゃ混ぜだった、と言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 






お待たせしました。





R-18編よん。

https://syosetu.org/novel/227721/


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二学期、始まるよ!



毎回投稿間隔開いちゃってすいません。








 

 

 

 

 

 

さてさて、夏休みが終わって本日から二学期が始まる訳だ。

 

「諸君、夏休みが明けで気持ちが緩みがちになるだろうが、しっかりと気を引き締めて行くように。二学期からはISを使った実習も本格的に始まるからそのままで居たら事故、怪我人、最悪死者が出る。その事を忘れるな」

 

「「「「「「はいっ!」」」」」」

 

「よろしい。では早速授業を始める」

 

千冬は久々だからって事で気合い入れてる。

授業はいつも通り、ISに関する知識やらなんやらを辞書よりも分厚い教科書数冊使ってやる。

 

俺?

まぁ束と一応開発に携わっていた訳ですからね、大丈夫。覚えてる。記憶力に関しちゃ嬢ちゃん達には負けない自信あるよ。

 

ただ問題はなぁ、IS専門科目じゃねぇんだ。

一般教養科目なんだよ。

 

俺、英語プラス理系科目殆どがちんぷんかんぷん。

歴史とか国語は本読むの好きだから出来るんだけどね。

 

お陰で皆とお勉強よ。

 

 

 

 

「小父様、そこはitでは無くtheですわ。あとスペルが全く違います」

 

「どこが違うんや」

 

「そもそも分からなくなったらローマ字で書けばいい、というものではありませんわ」

 

セシリアには英語を。

 

 

 

「待った待った待った、その公式はこっちで使うの。今の式はこっちの公式使わなきゃ」

 

「……申し訳ありませんが小学生のとこから教えてください」

 

「うっそでしょ……。足し算とかは出来るわよね?……ならば小数点とかからか……」

 

鈴には数学を。

 

 

 

「佐々木さん、そんな組成式無いよ……?」

 

「いや、束なら作ってくれるはず」

 

「多分篠ノ之博士でも無理だから。くっ付かない分子同士はくっ付けられないよ」

 

シャルロットには科学を。

 

 

 

「良いですか?この表を兎に角まずは覚えて下さい。それからです」

 

「知ってるぞ、ぬるぬる言うやつだな?」

 

「違います。逆にぬるぬるってなんですか」

 

箒には古文を。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、セントラルドグマって単語書けば良いってもんじゃ無いよ」

 

「カッコいいじゃん?」

 

「なんでこう、こう言うやつばっかり覚えてるのかな……」

 

一夏には生物を。

 

皆に色んな俺の出来ない教科を教えて貰う。

はっきし言っておじさん高校時代から17年以上のブランクがあっからまーったく覚えてねーや。

 

俺に教えるには、本当に基礎も基礎、小学生ぐらいからやり始めないといけない。

算数から躓いてたし、英語もテキトーなやつしか知らん。

 

国語も現代文とかは出来っけど漢文が幾らか出来るぐらいで古文はからっきしだったし。

三段活用とかなんなん?

 

いや、マジ皆居てよかった。

じゃなきゃ留年してたね。

この学校、赤点になる点数が異常なほど高いんだよ。

 

だって技術屋志望の子達なんか数学とかの理数系90点以上は当たり前、満点だって取りに行くんだもん。

 

確かに国内どころか世界トップクラスの偏差値誇るだけあるわ。

あの布仏嬢ちゃんも実技はアレだけど勉強はスッゲェ出来っからな。

 

はてさて、一学期はなんとかなったけど二学期ヤバいかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

て事で勉強してる訳だ。

 

しかしだな。

二学期ってさ、学校生活の中で一番イベント盛り沢山な時期な訳よ。

 

学園祭とか体育祭とか。

 

「今日は、学園祭で催すクラスの出し物を決めて貰う。実行委員はクラス代表が兼任だ。それでは、クラス代表が中心に皆で決めるように」

 

千冬はそう言うと、足早に教室から出てった。

仕事、沢山あるんだろうなぁ……。

ここ最近、千冬も山田先生のも死にそうな顔してるもん。

 

はっきり言っちゃえば千冬達は俺と一夏に丸投げして、その膨大な仕事を片付けに行ったってわけ。

まぁそれぐらい信頼されてるってこったな。

 

とりあえず、サクッと決めちまおう。

 

「皆何やりたい?」

 

「喫茶店!」

 

「お化け屋敷とか定番だよね」

 

俺が出るまでも無く、お祭り騒ぎが大好きな女子高生諸君は一夏を筆頭にワイワイガヤガヤと何やりたいか口々に言い始める。

 

そんじゃ俺は書紀でもやってっかな。

 

「お兄ちゃんは何やりたい?」

 

「俺か?そうだなー……」

 

「と言うかお兄ちゃんが一回目の高校生の時何やったの?」

 

「俺ん時?お化け屋敷やったぞ、あとは縁日とか。他のクラスだと、メイド喫茶やったりしてたな。あとはこことは違って男子も大勢居たからな、女装メイド喫茶なんてのもあったぞ」

 

「佐々木さんが女装するんですかー!?」

 

「ちょっと見てみたいかも!」

 

「待て待て、仮にやったとしても男俺一人だぞ、過労死するわ。女装は無しだ、無し」

 

ブーブー文句言ってるが、マジ見たくないだろ。

 

いやぁ、俺結構裏方で力仕事ばっかやってたからな。

当日は普通に準備で疲れて寝てたりしてた。普通に泊まり込みで徹夜とかやりましたからね、一般公開と校内公開に1日づつ分けられてたからそのまま二日間も連続で働いたら死にますよ。

 

お化け屋敷って意外と普通の公立高校だと大変なのよ。

なんせ使えるのが教室一つだからスペースが兎に角限られてる。一応申請出せば会議室とか使えるんだけど、そう言うでかい教室とかって大体食い物系の出し物するクラスとか、家庭科部とかが優先的に使えることになってたし、それに抽選だからなぁ。

 

しかもデカけりゃ良いってもんじゃない。

使う教室がデカかったらデカかったでその分準備が滅茶滅茶大変なんだな、これが。

 

最悪間に合わん、とか有り得るし。

 

この学園に限っちゃあんましそう言うの無さそうだけどな。

各学年4クラスで、他にも結構な数の空き教室があるから、そこを使える。

 

「どーする?」

 

「こう言う時って投票で良いんじゃねぇの?」

 

幾つかの案が出て、どれが良い、あれが良い、いやいやこれでしょ、とそらもう皆騒いでる。

どうやらどこのクラスも同じようなもんで、今日に限っては学校中が兎に角、高校生、特に女子特有の高めの声の騒がしさが学校中を包んでいる。

 

で、投票の結果。

 

「それじゃ1組はメイド喫茶に決まりましたー!」

 

「「「「「「「おぉー!!」」」」」」」

 

メイド喫茶やるんだって。

……俺ってどうすりゃ良いんだ?裏方?でも料理出来ませんが?

 

「なぁ、これって俺どうすんの?」

 

「……いっその事お兄ちゃん、女装してみる?」

 

「断る。ゲテモノが出来上がるだけだろが」

 

「えー、じゃぁ、執事でもやる?」

 

「それもどうなの?」

 

「私とか箒達は全然アリだよ?というか見たい」

 

「客が見たいかどうかの話でしょ、こう言うのは。言っとくけど利益に応じてクラス毎に順位決まるらしいからな」

 

「え!?それって何か報酬とかってあるんですか!?」

 

「えーっと、確かなんだっけな……、あー、そうそう、食堂のデザート無料券が一ヶ月分だ。あれだな、クラス代表トーナメントの時とおんなじ」

 

「「「「「「「やったー!!!」」」」」」」

 

もうね、事あるごとにテンション上がる嬢ちゃん達に付いていけない。

気圧されるもん。

 

なんで、ここまでデザート無料券でテンション上がるか、っていうとだ。

この学園、基本的に食堂の飯は驚いたことに無料なんだわ。だけどデザートとかは有料で、この学園に通うってなるとアルバイトは100%出来ない。機密保持とか保安面からの理由だからしゃーない。

だから生徒の殆どが、親からの仕送りでやりくりしてるわけだ。

 

一夏やセシリア、鈴と言った面々は代表候補生としての給料があるしセシリアに関しちゃ経営している会社とかの収入もあるからその辺に悩む必要はない。

ラウラも束からお小遣い結構多めに貰ってるし、シャルロットも代表候補生だった時の貯蓄と、束からの一種の給料みたいなのを貰ってるからな。

 

だけど他の生徒はそうは行かない。

もしアルバイトしようもんなら問答無用で退学になっちまう訳だし、そうなると天秤は我慢する方に傾くわけさ。

この先の人生が3年間アルバイト我慢するだけで決まるんだからな。

 

ISがそれまでこの世の中にあれば、の話だけど。

 

やっぱり貰ってる仕送りにもよるけど毎月の生活必需品とかを購入したりすると、週に一度食えるかな、って感じ。

おじさんは食わないからね、欲しいとはならない。

 

だから一ヶ月分のデザート無料券ってのは、垂涎の品ってわけよ。

 

こう言ったイベントで生徒会が煽りに煽って、皆を競争させるんだ。そうすりゃ生徒会はイベントは必然的に盛り上がるからな、宣伝としちゃこれ程の物は無い。

 

そんな訳で、生徒は気合が入るし、お陰でIS学園の学園祭は全国でも有名なのだ。

 

 

 

因みにIS学園の学園祭は入場制限がある。

 

生徒の家族はそれが証明出来れば入れるが、それ以外の人は生徒がそれぞれ3枚づつ渡されるチケットを持ってないと入れない。

全校生徒が約480人だから、チケットだと大体1500人弱しか入れない計算になる。

家族合わせて3000人とかそんなもんしか入れないな。

それでも高校生の学園祭って考えると滅茶苦茶多いけどな。

 

だからもしチケットをオークションに出そうもんなら、下手したら数千万じゃきかないレベルの値が付くぐらい。

億は流石に行かないと思いたいけど、世の中分からんからなぁ。

 

なんせ国家機密の塊みたいな場所だからな、ここ。

どれだけかねをだしても入りたい奴は大勢居る訳よ。ここに入って情報の一つでも持ち帰って売り捌けばリターンがデカいわけだし。

まさにハイリスクハイリターン、って事。

 

しかもIS学園の生徒は皆美人揃いだからな、お近付きになりたい男共が入りたくて入りたくてしょうがないらしい。

入ったら入ったで、男一人しかいないから肩身狭いけどな。

 

俺?誰に渡そうかな……。

師範と華さん、束は箒の家族ってんで入れるし、先生は一夏が渡すだろ。

 

弾と蘭辺りも一夏が渡すだろ……。

数馬は面倒だって来ないだろうし。

 

クロエも入れるし。

そうなるとあとは……。そうだ、マドカに渡すか。

 

束とはちょいちょい連絡取り合ってるらしいけど、俺とはあれからなんだかんだで音沙汰無いし、丁度いい。

他に渡す人間居ないしな。

 

まぁ一応生徒会長さんに許可取っとこう。

 

 

 

「それじゃぁ、ホールスタッフと調理スタッフとかも決めちゃおっか」

 

「一夏はどこやるの?」

 

「私は調理やりたいなぁ、って思ってる」

 

「えっ、ホールじゃなくて?」

 

「うん。ホールはセシリアとかラウラに任せればいいじゃん?」

 

「あー、なるほどね、理解した」

 

一夏とクラスメイト達が、そう話す。

セシリアの料理の腕は皆知ってるからね、仕方ないね。

 

「ちょっと皆さん!?私が厨房では駄目ですの!?」

 

「ごめん、セシリア。これに関しては庇えないわ」

 

「うぅ、事実ですから強く出れませんわ……」

 

セシリアも、クラスメイトと随分と仲良くなったもんだ。

冗談言い合ったり出来るようになったのは、あの時と比べるとやっぱり嬉しいもんだ。

 

まぁでも、悪いとは思うけど正直言って現状のセシリアを厨房に立たせない方が良いのは確かだな。

まぁ流石に誰かに教えられながら、ってなれば大丈夫だとは思うけど念の為ってやつ。

 

結局、2班作って、それぞれが交代で入る事になった。

40人が半分ずつだからまぁまぁ、余程客入りが良くなけりゃ余裕で廻るだろ。

 

おじさんはあんまり手出ししない。

一応俺も今は学生の身分ではあるけど、主役は本当の嬢ちゃん達だ。俺が余計に出しゃばる必要も理由も無い。

まぁ俺は一夏が、

 

「お兄ちゃんは絶対に厨房に立っちゃダメ」

 

って言ったからホールスタッフに放り込まれて裏方もクソも無いんだけどね。

 

一夏は希望通り厨房に、シャルロットも厨房に入った。

箒は希望してホール、セシリアも同様。

ラウラも料理なんて出来ないからホールだ。

 

俺と一夏、シャルロットが、同じ班。

箒、セシリア、ラウラがもう一つの班。

 

まぁまぁ良い感じに分かれたな。

これなら色々と心配する必要は無さそうかな、って感じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁ、決まりはしたが授業は通常通り、準備は放課後や休みの日に皆でやる事になる。

学園祭は9月の頭だからあと一ヶ月ちょい。10月の半ばには運動会もあるからなぁ。

 

さすがIS学園ってだけある。

そらもう本気よ。ホールスタッフ全員分のメイド服や俺の燕尾服は被服部の子達が作ってくれるらしいし、既に一着分作ってあるのを見たがセシリアが驚くぐらいには完成度が高い。

 

しかもよく漫画とかアニメにあるようなやたらと胸元とかが露出してるやつじゃなくて、正統派のロングスカートのやつ。

俺やたらと露出してるやつよりもこっちのきっちりしっかりした方が好きなんだよな。

 

まぁ俺の好みの話は別として、一応モデルはセシリアんとこのメイドさん達が来てるやつ。

チェルシーさんだっけな、あの人をわざわざセシリアが呼んでメイドの所作とか教えてた。

 

あの人オッカナイな。

 

「やるからには、徹底的にやりますよ。勿論、お嬢様も例外では御座いません」

 

っつって全員ヘトヘトになるぐらい仕込まれた。

俺は老紳士って言葉がぴったりのアーノルドって言う執事さんに1対1ですよ?地獄だった。

師範を思い出すぐらいには。

 

「佐々木様は、未来の旦那様になる、もしくは成り得る御人ですので。ついでに執事以外にも色々とお教えしました」

 

だってさ。

まぁ、うん、何も言えなかったよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから毎日授業を終えたら学園祭の準備、時折部活、土日も準備に追われる事になった。

 

俺はまぁ、アーノルドさんに扱かれながらみんなのお手伝い。

 

「佐々木さん」

 

「んー、どした?」

 

テーブルを作っている時に、名前を呼ばれる。

まさかテーブルまで作る事になるとは思ってなかったけど、確かに机は使えんししゃーなし。

 

「ちょっと材料足りなくて、車出して欲しいんですけど、今良いですか?」

 

「おー、良いぞー。こっちもニスが足りんでな、買いに行こうと思ってたとこなのよ」

 

「本当ですか?」

 

「うん、今すぐ行くってのは無理だから明日だな。千冬には言っとくから準備だけはしといてな」

 

「はーい。ありがとうございます」

 

まぁこんな感じで車出したりするのさ。

千冬も一応免許持ってんだけどね、何年も運転してないから危なっかしいってのと単純に仕事が忙しくて先生方は手が開かないのよ。

 

だから免許持ってて、いつでも暇そうな顔してる俺の出番ってわけさ。

 

ホームセンターで買ってきた木板を線を引いて、束から借りた電動工具を使って円形に切ってって、それを18枚。

 

2枚1組で張り合わせて、縁や表面をヤスリで綺麗に整えたら、脚をくっ付ける。

流石に時間が無いからそこまで凝った作りには出来ないけど、角材を電鋸で切って形をヤスリで整えて、脚の先っぽををカールさせたりする。これだけで随分と違ってくる。

 

そしたらニス塗りを回数分けて施して、最後に表面を綺麗に磨いたらこれでテーブル1つが完成。

 

それを9個作る。

まだ4個目なんだけど間に合うかな、これ。

 

うーん……、ギリギリだけど多分何とか間に合う、ハズ?

 

流石に間に合いませんでした、じゃ格好付かないんでね、頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あちー……」

 

炎天下の中、一人黙々とテーブル製作作業をやってると。

 

「佐々木さーん!教室に来てくださーい!」

 

でっかい声で呼ばれた。

 

 

 

汗ビッショビショで申し訳ねぇな、と取り敢えず拭いてから着替えてなんだなんだと教室に行ってみれば、そこにはメイド服に着替えたホール担当の皆が。

箒やセシリア、ラウラは勿論、他の皆もきっちり揃えられたロングスカートのメイド服、何だっけ、クラシックとか言うやつだったか?

名前とかはイマイチ分からんけども、兎に角皆、メイド服着てカチューシャ着けてたりする。

 

「おぉ、似合ってる似合ってる」

 

「本当ですか?」

 

「嘘言ってどうすんの」

 

「でもどうして厨房のメンツまでメイド服?」

 

「この際だから、皆メイド服着ようって。記念、って感じかな?」

 

「そっか、まぁ、良いんでねぇの?学生の内だぜ、こう言うので楽しめるのは。だから大いに楽しんで許される範囲で羽目を外しとけ」

 

ほんと皆スタイルの良い美人さんばっかだからな、こう言うのを着たりすると眼福なんだよ。

言っとくが、少なくとも20歳も年下の同級生達をそう言う目で見る事は出来んからな。

 

普通に似合ってて眼福ってだけ。

 

「あ、因みに織斑先生も当日は時間限られてるけどメイド服着て接客しますよ!」

 

「マジで?」

 

「マジでーす!」

 

「千冬がメイド服か、高校以来だな……」

 

「えっ!?織斑先生メイド服着たことあるんですか!?」

 

「あるぜ?千冬が高校生の時だけどな。文化祭で今みたいにメイド執事喫茶やる事になったんだよ。そん時にな」

 

「だから結構すんなり頷いてくれたんだ」

 

「えー!すっごい見てみたい!」

 

「残念だな、写真はあるけど俺は千冬に殺されたくないから無理だ」

 

「そこを何とか!」

 

「駄目だって。ほら作業に戻った戻った」

 

「佐々木さんのケチー」

 

「ケチで結構コケッコッコー」

 

ブーブー文句言ってる皆を作業に戻らせる。

俺もさっさとテーブル作りしないといけないんでね、早めに作業に戻らないと。

 

 

 

「さーさーきーさーんっ」

 

「うぉっ、どうしたシャルロット」

 

「えー?さっきあんまり褒めてくれなかったから、見て欲しくて」

 

「で、追い掛けてきたと」

 

「はい」

 

後ろから、メイド服姿のシャルロットが腕に抱き付いてくる。

どうやら褒めが足りなかったらしい。

 

「似合ってるよ、びっくりするぐらいな」

 

「本当ですか?」

 

「あぁ、鬼に金棒ってやつだな」

 

「えへへ」

 

嬉しそうに顔を笑みで歪ませて、腕をぎゅと抱き締めてくる。

 

「ほら、準備に戻れ戻れ。俺もさっさとテーブル作らなくちゃならないんでな」

 

「分かりました。当日は、一緒に回りましょうね!」

 

「おう」

 

「約束ですよ?」

 

「俺は約束破ったりしないぜ。ちゃんと一緒に回るさ」

 

「はい。それじゃぁ、また後で」

 

「おう、後でな」

 

シャルロットと別れて、再びテーブル製作作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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歌って踊って騒げ!学園祭! 前日ゥ!







んもうまた投稿間隔開いちゃって!私ってばダメな子!









 

 

 

 

 

 

はてさて、学園祭前日。

最終準備の仕上げとして、本来はクッソ忙しいはずの授業日程を無理矢理こじ開けて丸々一日の猶予を取っての準備日。

 

準備は着々と進んで、俺に任されたテーブルと椅子の制作も無事終わった。

あとはニスを何度か重ね塗りして乾燥させるだけで、最後の塗装も終わったからおじさん暇になっちゃった。

 

何か他にやることも特にないし何すっかな。

流石にこの炎天下で外でずーっと待ってんのもアレだしなぁ。かと言って一応今は学園祭準備と言う名の授業な訳でして、部屋に戻って寝ようものなら皆からぶーぶー言われ、千冬に怒られるのは明白。

と言うか良い歳した大人が頑張って準備してる高校生尻目に自分だけ部屋で寝るなんて出来やしない。

 

かと言って一夏達の方も準備は大詰めでさっき顔を出したら特に何もないからその辺で休憩してて良いよー、と言われたばかり。

どこもかしこも学園祭の準備ってんで居場所が無いから仕方無く外に戻ってきたわけだ。

 

1組の教室は更衣室なんでね、今も色々荷物があるし、中には着替えを持ってきてる子もいるだろう。

どう考えても入ったら変態さんになっちまう。

 

書類とかも粗方、優秀なお嬢さん達がぱぱっと済ませて学園祭準備の最初の方に提出しちまったし。

一応この学園って日本国の管轄だから保健所に衛生関連の書類とかを提出して安全かどうかとか色々検査を受ける必要があるんだわな。だから食い物関係の出し物をするクラスとか部活は大体同じように書類を出している。

 

因みにその書類を纏めて出しに行ったのはおじさんです。

だって車持ってんの俺だけだし。千冬含め先生方は皆さん運転免許は持ってるけど当然ながら学園内で生活している以上必要の無い車は持っていないし、それこそ酷い人だと免許取ってから一回も運転してない、とかそんなレベルなわけでして。

 

必然的に車を使うなら俺、って感じでお鉢が回ってくるんだ。

他のクラスの手伝いでも車を出して回ってたし。

 

今のご時世、殆どが電気自動車か水素車なんでね。

ウチの車は千冬と折半、と言うか千冬のゴリ押しに負けて9割千冬持ちのお高い水素車なのだ。

おじさんがまだ本当に若い昔は、ガソリン車ばっかが走ってたんだけど、世の中変わるもんだなぁ。

 

まぁ、今でも軍用とかだとガソリン車が主流なのよね。

なんせ舗装された道路を走るならまだしも、道無き道をそれこそ爆走しなきゃならん時もあるわけで、正直まだそれほどの耐久性っつーの?信頼性っつーの?が無いんだよな。

 

しかも軍用だから一般車よりも安全基準が高いんだよ。

一般車じゃ事故にでもならない限り燃料の水素に引火して爆発とかならないけど、軍用車なんて銃弾砲弾の中で活動しなきゃいけない訳だからそら当然っちゃ当然だわな。

 

それに単純な話、馬力不足ってのもある。

極端な話、数十トンにもなる戦車とか10トン単位で重くなる装甲車ぐらいにまでなると電気とかだとどーしても動かせない訳じゃ無いけどおっそい。

水素車だって特に被弾前提の戦車装甲車はぶっちゃけ向いてない。

それに民間車とは違って色んな機器を積んでるからそれを全部カバー出来るだけの発電量がなけりゃならない。

ただ動かすだけでも重量があるから苦労すんのに、そこから更に機器にまで電力供給するってのは現状は無理なわけだ。

 

軍艦ほどにまでなったらどうやったって発電量がカケラも足りないのは明らか。

だから民間だと電気自動車水素車が9割を占めるようになった今でも、軍隊ってのはガソリンを使っているわけだ。

 

 

まぁそれはさておき、我が家の水素車もお高くてかっちょいいやつなのだ。

束がもっと性能良くて環境に優しい車作るよ?とか言ってたけど、んなもんどんなの渡されるかおっそろしくて首を縦になんぞ振れんわ。

 

信用はしてるよ?危ねぇもん渡して来ないってのは。

だけど技術的にどれだけ世代ぶっ飛んだモン渡されるか分かったモンじゃねぇ。

それこそ空飛ぶ車とか、浮いて走る車とか渡されたら困る。

 

車検云々よりも、そもそも公道走れないだろ。

周りが地面にタイヤつけて回して走ってんのに、一台だけフヨフヨ浮いてるとかめっちゃ注目浴びそうでやだよ。

 

まぁ、もし宇宙探索で必要だから、適当にモニター役やってくれない?とか言われたら頷いちゃうかもだけど。

 

 

 

 

「あっちー……」

 

なんて考えながら、木陰の下に座ってぼーっとしていると。

 

「あっ!いたいた!洋介さん!」

 

「んぉ?」

 

何やら名前を呼ばれた。

顔を向けてみると何やら校舎の玄関からチャイナドレス姿のちっこい人影が駆け寄ってくる。

 

「おー、鈴じゃねーの、どったの?」

 

「ちょっと来てくれる?」

 

「おー、暇だから良いぜー」

 

鈴に手を引かれながらついて行くと、何やら2組の出し物をやる教室まで連れて行かれた。

1組の教室と2組の教室を使ってやるんだが、1組の教室を厨房として、2組の教室をホールとして使うんだとか。

2組くじ引きででかい教室を引けなかったからこうなったんだと。

 

引っ張られてホールに連れて行かれると、そこには2組の面々がチャイナドレス姿で待っていた。

 

「あ、佐々木さんだー。こんにちわー」

 

「あい、こんちわー」

 

なんだかんだと半年ほどの付き合いなもんだから顔見知り、すれ違えば挨拶をするぐらいの関係性は築いていた。

 

「んでもって、なんで俺を連れて来たんだ?言っちゃアレだが、一応商売敵だぞ」

 

「洋介さんがそれぐらいの事気にしないでしょ」

 

「まぁそうだけども」

 

「ちょっと外部の人間の目線で見て欲しかったのよ」

 

なるほど、要は客目線で最終確認と行きたかったわけだ。

他のクラスの皆はどう考えても準備が大詰めで忙しいだろうし、となると暇そうなの、ってことで鈴の頭ん中で真っ先に俺が上がったわけだ。

 

……実際暇してたけど、それはそれでなんか複雑だぞ。

 

「で、俺?」

 

「そ。それに男だから」

 

「おいちょっと待て。そりゃあれか?俺を変態だと言いたいんだな?」

 

「違うわよ。まぁ、変態っちゃ変態だけど」

 

「おっほ断言と来たか」

 

あっれぇー?おかしいぞー?

なんで俺の事変態だって断言すんだ?

 

おじさんは紳士なのだ。

決して変態紳士とかではない。れっきとしたちゃんとした紳士なのだ。

 

「だってシスコンだもん」

 

「そら否定しないな。だが変態じゃない」

 

「……普通そこはシスコンを否定するわよ」

 

「なんだ、鈴も大好きって言って欲しかったんか?ん?」

 

「……」

 

「……そこで黙られるとおじさん困っちゃうんだけど」

 

え?何で黙るの?

普段の鈴だったらそこはアレだろ、キレながらど突きに来るだろ。

 

それがなんで腕組みながら俯いてんの?

 

「何よ、恥ずかしいの?」

 

「いや、断じて恥ずかしくはない」

 

「ふーん?普段小娘とか言ってるくせに恥ずかしいんだ」

 

「……鈴さん鈴さん、お顔真っ赤ですよ」

 

「うっさい!」

 

あ、キレた。

 

「佐々木さんって罪作りな男だねー」

 

「ほんとほんと。私達はああ言う男に引っ掛からないようにしよーね」

 

「おいそこ、なんつー誤解を招くような事を言ってくれちゃってんの!」

 

きゃいきゃいと騒ぎながら、鈴達の中華喫茶を見物。

 

 

 

 

 

 

「ほー、メニューはお茶中心か。お、薬膳茶とかまである。凝ってんなぁ」

 

「軽食ぐらいなら食事も出来るようにしたわ。どう考えても1組に食事は流れそうだから、その腹ごなしって感じにしてみたの。客入りもあんまり無さそうだし席数も少なめ」

 

 

確かに席数が1組と比べると少ない。

 

んー、そんな事ねーと思うけどなぁ。

 

そういや鈴の親父さんが中国茶淹れんの滅茶苦茶上手かったんだよな。

中華料理ってんで油モンばっかだと胃もたれするからって薬膳茶とか色々やってたんだよ。

 

親父さんの作る中華を食った後に薬膳茶を飲むってのがまた最高だったんだなこれが。

しかも胃もたれしないってんで、ただお茶飲みに行くだけの時もあった。

 

おじさん、この歳になると油物食うとほら、胃がさ……。

 

 

客足もかなり入ってて繁盛してたんだ。

態々別の県から来たりする人も居るぐらいには。

 

だけどちょっとした夫婦のいざこざってのかな、それが原因で離婚しちまったんだ。

あんまり他人家にあーだこーだ言うのは間違いかもしれねぇけど、離婚して店畳むって言われた時は残念だったなぁ。

 

最後の日はいつも以上にお客さんが来たんだっけか。

 

鈴って顔とかはお袋さん似で、料理の腕とかそう言うのは親父さん似なんだ。

本人がいるとこで言うと怒られるんだけどお袋さん、料理の腕はあんまりだったからな。

割と二人ともサバサバした性格だったしそこも似てる。

 

「はー、考えてんなぁ。まぁウチはガッツリ飯食えるし、妥当なとこだな。軽食作るのは鈴か?」

 

「んーん、私はホール担当で、お茶淹れたりするだけ。本当は厨房立っても良かったんだけどホールやれって。それに皆に教えたけど中国茶の淹れ方知ってるの私だけだから対応しやすいし」

 

軽食つっても中国伝統のお菓子とかそう言う感じだから、ウチよりは随分と毛色の違った喫茶店だ。

1組のメニューはどっちかってーとレストランみたいになってっからな。

 

「まぁ、茶の入れ方はともかく鈴は美人だからなぁ」

 

「なっ……!?」

 

「客寄せパンダには丁度良いだろ」

 

「余計なこと言わない」

 

「サーセン」

 

実際のところ、鈴って美人さんだよ。

普通に目鼻立ちはスッキリしてるし、箒とかセシリアとはベクトルが違う美少女だな。

 

こう、箒とかセシリアみたいにザ美人、ってんじゃなくて可愛いって感じなんだよな。

愛嬌あるし、一年ちょっとで代表候補生になったぐらいの努力家。

 

普通に男共が振り向くぐらいの美人さんな訳だ。

この学園っておじさん抜きにしてマジ顔面偏差値クッソ高ぇからな。それでも鈴はそん中でも飛び抜けてるし。

 

まぁ、身長がちっこくて街中歩いてると9割方小学生に間違われるのと、大体の店とか映画館に行くとお子さん一名ですね、とか小学生割を薦められるんだけどその辺もご愛嬌ってやつだ。

それで小学生料金にしないのが偉いとこよ。

まぁ意地なんだろうけどさ。

 

そら懐かれてる身としちゃぁ、揶揄い甲斐があるとは言っても可愛いもんよ。

 

 

 

 

 

「鈴、良かったね」

 

「なにがよ」

 

「だって佐々木さんに美人だって言って貰えたじゃん」

 

「んなっ……!うっさいわよっ」

 

「またまたー、ほっぺが紅くなってますよ?」

 

「それ以上言ったら当日一切フォロー入らないから」

 

「ごめんってば」

 

 

 

 

 

何やらコソコソと喋ってるけど、まぁいいや。

 

「お茶飲む?」

 

「お、いいの?」

 

「まぁ実験台ってことで」

 

「えー」

 

「嬉しくないの?」

 

「いやいや、嬉しい嬉しい」

 

「そう、ならちょっと待ってて。今茶具取ってくるから」

 

ぶっちゃけ詳しく無いからよく知らんけど、日本茶と比べて中国茶って淹れ方違うんよな。

なんか玉露とか頭にハテナ浮かぶ入れ方した気がするし。

 

飲めりゃ何でも良い派閥の俺はゲテモノじゃなけりゃ大丈夫。

酒?あれは年に一、二回ぐらいのたまーに飲むのが良いんだよ。

 

鈴の背中を見送って、今更ながら外にいて汗掻いたままの俺をここに入れて良かったんかな、と思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、どーぞ」

 

「んじゃま、頂きます」

 

実演指導も兼ねて俺にお茶を振舞ってくれたらしい。

周りの皆は何やらメモを書いたり動画を撮ったりして勉強中である。

 

俺、文化祭って裏方ばっかやってて当日は人が居ない場所とか探して寝てたタイプだからなぁ。

お化け屋敷やった時なんかバックヤードで一日中寝てたし。

 

まぁ自分とこの出し物に加えて前日に生徒会のダチに朝まで準備に駆り出されてたからって事で許してくれたけど。

 

そう考えると皆偉いねぇ。

 

「……これ、鈴が淹れたんだよな」

 

「目の前の私が偽物でもない限りはそうよ。なに?もしかして不味かった、とか……」

 

「いやいや、味に関しちゃ美味い。ただ、なんつーか、すげぇ懐かしい味と言うか……、あ!親父さんの味だ!そーだよこれ親父さんのだよ!」

 

そうだ、これ昔よく鈴の親父さんが俺に娘が世話になってるからって態々店に出してるのとは違う方法だかなんだかで淹れてくれたお茶と同じ味がするんだよ!

 

いやぁ、懐かしい。

しかしなんだって鈴が淹れられるようになったんだ?

 

離婚した時、親父さんから料理は習ってたけどお茶の淹れ方は習ってなかった筈なのに。

 

「良く分かったわね、逆に怖いわ……」

 

「引くな引くな。しっかしお前、これどこで教わった?まさか親父さんに教わったのか」

 

「その通りよ?」

 

「いやでも別々のとこに暮らしてんじゃねぇの?」

 

「あぁ、それね。あの二人、今同居中よ」

 

「ファッ!?」

 

余りにも驚き過ぎて変な声出ちゃったじゃねぇか。

いや、あの二人離婚したんだよな?

 

「あの二人、結局あの後冷静になって再婚ってわけじゃ無いけどお互いに謝ってまた一緒に暮らし始めたのよ。その時アタシにも迷惑かけたって」

 

「はー、あの頑固者夫婦が?」

 

言っちゃ悪いが、鈴の両親はそらもう頑固を絵に描いたような二人な訳だ。

互いが互いに譲らず、ギャンギャン言いながら喧嘩してたのを何度見たことか。

 

鈴は慣れた様子でケロっとした顔で、

 

「あそこにいるとお玉とか鍋とか飛んでくるから避難しに来た」

 

っつって俺ん家に転がり込んでたっけ。

 

「そーそー。アタシもびっくりしたわよ。娘だから良く知ってるけど二人とも馬鹿みたいに頑固で離婚するってなった時もお前が悪いだなんだで大喧嘩してたのに、いざ居なくなって清々したー、とか言ってたと思って暫くしたらどっちも寂しくなったらしくて」

 

「失ったら気が付く大切なもの、ってわけか」

 

「そう。もー、やってらんないわよ。家じゃ年がら年中あの喧嘩が幻だったのかって思うぐらいイチャ付きやがって」

 

「そりゃぁ、なんつーか、災難だったなぁ」

 

「ま、もう気にしてないんだけどね。で、一緒になって住み始めた父さんから教えて貰ったの」

 

これまたサバサバした性格故かケロっとして言った。

 

まぁ、何にせよあの二人が仲直りしたってんなら、良い事だな。

それに巻き込まれた鈴の心中は察するものがあるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ、そろそろ帰るかな」

 

「ん、実験台ありがと」

 

「いやいや、俺こそ美味い茶タダで飲ませて貰ってありがとな」

 

「当日来たら、その時はちゃんとお客様としてもてなすから、来てよね」

 

「おう、絶対行くよ。鈴達も1組来いよー。一夏が美味いモン作ってくれっから」

 

そう言って、2組を後にする。

まだ一時かぁ、どーっすかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適当に学園内をうろうろと歩き回り、あちこちの準備を適当に見て回って時折手伝ってとしていたらあっという間に五時。

多分そろそろ千冬が教室に行ってLHRやる頃だから戻った方がいい。

 

と言うことで教室に戻ると。

厨房組含めて全員がメイド服を着ていた。

 

「あ、お兄ちゃん帰ってきた!」

 

「どうしたどうした」

 

「皆で記念撮影しようって話になってさ。お兄ちゃんも着替えて一緒に撮ろうよ!」

 

「今から!?」

 

「そーだよ?」

 

「いやお前、晩飯どーすんの。これ絶対写真撮るの夢中になって食いそびれるヤツじゃん」

 

「大丈夫だよー、それぐらいちゃんと気を付けるって」

 

「まぁいいけど、千冬もそれで良いのか?」

 

「ん?まぁ、今日ぐらいは構わんだろう。他のクラスだって騒いでいてLHRどころじゃなさそうだからな」

 

何故学園祭が終わっても居ないのに写真撮影なのか、とは聞くまい。

高校生なんてそんなモンだろ。

 

まぁ、千冬までもがメイド服着て準備万端なのはアレだけど。

 

いやはや、実に五年だか六年だか七年だかぶりの千冬のメイド服ってのはなんだか懐かしくなる。

 

 

 

「ほらほら、お兄ちゃんこっち来て」

 

「えー、俺端っこで良いんだけど」

 

一夏に引っ張られ、全員のど真ん中で集合写真を撮ったり。

 

「お兄ちゃんぎゅー!」

 

いきなり抱き着いて来た一夏と撮ったり。

 

 

 

 

 

「あ、その、小父様、出来ればこう、抱き締めて貰えると嬉しいのですが……」

 

あの告白以降、最初は大人しかったのに段々と遠慮無しになって来たセシリア。

流石に抱き締めるのはナシで、横に並んで立って軽く抱き寄せる程度にしといた。

 

 

「佐々木さん、私お姫様抱っこが良いです」

 

「あのねぇ……」

 

シャルロット、お姫様抱っこを所望して来やがりました。

当然却下です。

 

 

「父よ、手を繋ごう」

 

「勿論よ、幾らでも繋いだる」

 

可愛い可愛い娘のメイド服姿、眼福です。

あー、心が洗われる……。

 

 

「洋介兄さん、私も手を繋ぎたいです」

 

「ええで」

 

ラウラと同じく手を繋いで写真を撮りたがった箒とも。

まぁ想定外だったのは何故か恋人繋ぎだったことだな。一夏達の目が凄かった。

 

 

「兄さん、どうだ?」

 

「似合ってる似合ってる」

 

久方ぶりのメイド服ってのもあって緊張気味、若干恥ずかしそうにしながらの千冬はうん、イイネ!

 

 

 

 

 

 

 

「なんか佐々木さんと織斑先生があの格好で並んで立つとさ」

 

「あー、なんとなく言いたい事分かった」

 

「「「クールでなんでも出来ちゃう系メイドと駄目人間っぽいけどいざってときは頼りになるオジサン系執事みたい」」」

 

「おー、随分と失礼な事言ってくれんじゃないの。俺ってばいっつも頼りになるべ」

 

「うーん、いつも頼りになるかな?いざって時は本当に頼りになるけど」

 

「なると言えばなる、のかな?」

 

「あっれおっかしいな俺いつも頼りになると思ってたんだけど」

 

嬢ちゃん達になんだかんだと言われて、それぞれと記念撮影して。

 

 

 

 

 

「そろそろ解散だ」

 

「えー、もうちょっとだけお願いします!」

 

「駄目だ。食堂が閉まるし明日は早い。さっさと寝ろ」

 

千冬の号令によって解散。

ちゃちゃっと着替えて整えて食堂に皆で言って飯食って。

 

食堂が閉まる三十分前だってのに、やっぱりみんなはしゃいで居たのか割りかし混雑していた。

 

それぞれの部屋に戻ったらさっさと風呂に入って寝る。

千冬は仕事があるからまだ職員室にいるが、明日のこともあるってんであと一時間ぐらいで帰ってくるそうな。

 

まぁ、それぐらいなら起きて待っててやるかな、とテレビを付けて待っていた。

 

千冬が帰って来たならば、さっさと風呂に入って出てきた千冬が髪を乾かすのを待ってベッドに潜り込んで寝た。

 

 

 

明日は校内公開とは言え本番も本番。

気合い入れなきゃぁな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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歌って踊って騒げ!学園祭! 当日ゥ!

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、ついに学園祭当日である。

と言っても今日は校内公開の日で学校の中だけで楽しむ日だ。

 

因みに生徒会も何やら出し物をやるらしいが、その詳細は後夜祭にて明かされるらしい。

いや、まだ明日あるのに後夜祭やんの?と思ったけど明日は明日でまた後夜祭やるんだと。

 

流石は国立、金がある。

 

まぁ、それは置いといて。

今日は本当に学園内だけでやるから、精々550人ってとこだな。

 

明日はこの6倍ぐらいも来るってんだからなぁ。

すげー混雑しそう。

 

なんにせよ今日は校内公開だから、そこまで忙しくなりはしないと思うけど、客入りによっちゃ明日も忙しくなるかもなぁ。

千冬がメイド服着るってんで多分人集まってくるかもなぁ。

 

山田先生はなんでも学園の外交関係を主に担当していたらしく、各国の圧力やら調整やらで奔走して連日徹夜だったりしたんだとか。

まぁ、そら疲れるわな。さっき顔見たが、げっそりしていた。

 

今年は俺が居るってんで例年より凄まじかったらしい。なんか申し訳無い。

ありゃ、部屋で寝ているのが正解だ。寧ろあれで学園祭に参加ってのも色々とやばいし、ほぼ確実にぶっ倒れる。

 

まぁ、あの様子じゃ一度寝たら一日中ベッドから離れる事なんて出来ないだろうな。

まぁ、寮の方は静かだからぐっすり寝れるだろうさ。

 

今度お世話になってるからなんか持ってかねぇとなぁ。

 

 

 

それは兎も角、全員がメイド服に着替えて俺は執事服に着替えてから体育館に向かう。

これから開会式なんだけど、単純に宣伝って事と開会式終わってからだと時間が余り無いってんで先に着替えておくんだと。

 

しっかしまぁ、朝から元気だねぇ。

嬢ちゃん達は寝起きからきゃいきゃい騒いでんだもんよ、おじさん皆の活気とかに気圧されてもう疲れちまった。

 

朝起きたら既に寮内は大騒ぎだったもんで千冬と一緒になんか溜息ついちゃったし。

 

高校生なんざわざわざクラス毎に並んでいきましょーねー、なんて無いから個々人で時間を守って行きましょう、てな訳だ。

 

「お兄ちゃん、そろそろ行こ」

 

「おー」

 

自分の席に座ってぐったりしている俺を一夏が引っ張ってく。

 

「もう疲れちゃったの?だらしないなぁ」

 

「俺にランニング筋トレで勝ってから言ってくれ」

 

「ぬっ、でも疲れてるじゃん」

 

「皆が元気過ぎるんだって。もう俺は皆のノリとか勢いに付いて行けないの。歳なの」

 

「まぁ、身体的に幾ら若くても、精神が、と言うのはよくある事だよ」

 

「そーそー」

 

シャルロットが賛同してくれる。

それはそうと腕離してくれません?皺付いちゃうよ?

 

「なんだ?父は疲れているのか?」

 

「疲れてない疲れてない」

 

「なんだ、なら良かった」

 

そんな俺達を見たラウラが首を傾げながら訪ねてくる。

そら疲れてるなんて言えないし、ラウラ見てると元気出てくる。

 

手のひら返しで答えると、一夏とシャルロットにジト目で睨まれる。

 

「……なんだよ」

 

「べっつにー?そーやってラウラばーっかり甘やかしてさー」

 

「佐々木さん、ラウラばっかりズルいよ」

 

「んだよ、お前達なんもしなくてもいっつも甘えて来てんじゃねぇか。それに甘々だろ」

 

「あれは違いますー、甘えてませんー」

 

「あーはいはい。そんじゃ今度来りゃ良いだろ」

 

「ほんと!?」

 

「ほんとほんと」

 

「約束ですよ!」

 

「おいちゃんは良い大人だから約束破ったりはしませんー」

 

一夏とシャルロットにブーブー文句を言われる。

二人は甘えてないとか言ってっけどあれ、絶対甘えてると思うんですけど。

 

それにお前達相手に俺ってすっごい甘々でドン引きレベルだと思うんですけど。

 

体育館に到着すると、各学年各クラスの生徒達が疎らに集まり始めていた。

まぁ、時間までにはあと十分はあるしそれまでには全員揃って整列ぐらいは余裕で終わるだろ。

 

言わずもがな、女子しかいないこの学園の中では、俺は身長がデカい方なもんで一番後ろ。

俺よりも身長デカいって子も中には居る。

 

特にバレー部に所属してる子の中に180越えの子がいる。

なんで分かるかって?そら見りゃ分かんだろ。

 

俺と同じ目線の子なんてこの学園だけで言えば相当限られてるし、そりゃ顔ぐらいは覚えちまうわな。名前は知らんけども。

 

 

 

 

時間が近付くにつれて段々と整列し始める。

特にこの学園はISと言う下手すりゃ怪我人死人が出るものを扱っているわけだからそれ相応に規則が厳しい。

やる事やってりゃ怒られないが、やらなかった時の規律がそりゃもう厳しい。

反省文で済めば良い方、最悪数日の謹慎処分は当たり前、それこそ退学だって余裕で有り得るわけだ。

 

操縦者も技術者なんかのメカニック方面も、一歩間違えれば大惨事。

規則は厳しくなって当たり前だ。

 

簡単な話、銃火器を扱う軍隊の規律が無いにも等しいものだったとしたら、って考えるといい。

おっかなくてしょうがないだろ?

それをISって言う今は不本意ながら兵器扱いを受けているものに当て嵌めたってことだ。

 

その癖して制服の改造は認められてるって言う結構チグハグなとこもあるけど、そのぐらいは認めても、みたいなとこあるし。

 

そう言うのは普段の生活態度にも現れるってもんで、時間が来ればちゃんと整列して待つし何時まで経ってもくっちゃべってるなんて事も無い。本当に優等生ばかりなんだよな、この学園。

それ考えると俺ってすげー問題児だろうけど。

 

ぐるっと見回してみると、やっぱりそれぞれ衣装だったりTシャツだったりを着ている。

12クラス分+幾つかの部活でそれぞれの衣装や服装があって、ぶっちゃけ百鬼夜行状態なんだよな。

 

お化け屋敷をやるクラスの子達はお化けの格好で着てるし、俺のクラスは勿論メイド服に俺は執事服。

他にも鈴のクラスはチャイナ服と本当に様々で見ていて飽きない。飽きないんだけど。

茶道部と華道部、それと和風喫茶やるクラスは和服だし、料理部はコックの格好してるし。

コスプレ喫茶やるクラスは正直詳しく無いから分かんないけど何やら色んな格好だし。

 

お化け屋敷やるクラスって三クラスあるんだけど、その三クラスともがマジでクオリティが高い、それこそ特殊メイクまでしているもんだから見ていて飽きないし。

 

もうぱっと見ぐちゃぐちゃだけど、そこが良いんだよ。

高校の文化祭なんてこんなもんだ。

 

俺の時は開会式で脱ぐ奴とか踊る奴とかいたし、なんかネタやって滅茶苦茶にスベってる奴もいたし。

 

しかも生徒だけじゃなくて先生達もおんなじ様に衣装着てるんだからなぁ。

千冬は言わずもがな、鈴のとこの担任は金髪外人でチャイナ服と夢が膨らむ。

 

うーん、あのスリットから見える御御足が良いですなぁ。

 

山田先生もメイド服ででっかいお山がどーん!と強調されてて眼福眼福。

 

「っ!」

 

「いでっ!」

 

先生達を見てたら千冬に脇腹抓られた。

 

先生方が衣装着る理由は、毎年先生達も出し物に参加不参加関係無く着るんだと。

 

で、あとで希望した先生達の中で投票形式でコンテストやるらしい。

因みに千冬は今年がコンテスト初参加するんだってさ。

 

いやー、俺ァ勿論千冬に入れますよ?

だってこうやって見て分かるけどやっぱし千冬が一番よ。

顔立ちはクールビューティーって感じだけど、実際の性格は割とフランクだったりするし、その辺のギャップが良い。

 

それに千冬から勿論私に投票してくれるよな?と盛大に圧力、いやいや、お願いだな、うんお願いされたからにゃぁお兄ちゃんとして投票しない訳にはいかんでしょう。

 

 

 

 

 

二、三分並んで待ってると、何やら体育館の照明が段々と暗くなり始めた。

周りは当然、少しばかり騒つき始める。

 

目を凝らして見てみると、何やら壇上の方で何かがこそこそと動いているのが薄らと見える。

 

んん?人なんだろうけどなんだあれ。

 

それが壇上の真ん中に来て止まる。

すると、バッ!!と一斉にスポットライトがその人物に向かって光を放った。

 

『皆ちゅうもーく!』

 

そこに照らされていたのは、何故かバニー服姿で、片手に見参ッ!!と書かれた扇子を持っている、外出する時いっつも付いてきて護衛してくれている生徒会長だった。

 

えぇ……?あの人何やってんの……?

 

俺はそんな風に思ったけど、やっぱり若いってのもあって皆ノリノリらしい。

わーきゃー言いながら騒いでる。

なんか護衛の時と随分とキャラ違ぇなぁ。

 

こう、はっちゃけてる感じが凄い。

多分だけどこっちが素の性格なんじゃねぇかな。めっちゃ顔キラッキラに輝いてんもん。

 

『はいはーい、皆静かに!』

 

ぱんぱん、と手を叩いて静かにさせる。

 

『それでは、これより学園祭開会式を始めます!と言っても長々と説明されても疲れちゃうだろうし、手短に行くわね』

 

『ルールを守って楽しむこと!以上!』

 

雑ぅ!

肝心のルール説明が何も無ェ!

 

まぁ、クラス毎にルールブック配られて読んであるからこれでも問題無いんだろうけどさ。

 

『それから、既に説明されてると思うけど、各クラス対抗で今日と明日の合計ポイントで競ってもらうわ!それぞれ一枚づつ配られている投票用紙にどのクラスが良かったかを書いて投票するだけ!ただし、自分のクラスに投票するのは厳禁!もし投票したとしてもすーぐに分かっちゃうし、そしたらその子のクラスの点数をマイナス十点!』

 

なんでここだけこんな力説すんのかな。

あれか?この人祭り好きかなんかなのか?

 

『そして、やるからにはご褒美が無いとやる気にならないわよね!優勝したクラスの子達にはなんとなんと〜!食堂のデザート券一ヶ月分をプレゼント!』

 

「「「「「「「キャァァァ!!!」」」」」」」

 

おぉう、一番盛り上がってる。

相変わらず頭が揺さぶられて耳がキーンとするぐらいだ。と言うか痛い。

その内鼓膜破裂すんじゃねぇかな。

 

そう思うぐらいにはテンションがぶち上がったお嬢様方の叫びは、俺だけじゃなくて先生達にまで及んでいるらしく。

慄いてふらついている人とか、耳抑えている人とか。

 

千冬も耳抑えて顔顰めてる。

流石の千冬も音響兵器には勝てない。

 

『はいはい皆静かに!それじゃぁ、あと幾つか説明をちゃちゃっと済ませたら開会式は終わり。校内公開、皆で楽しみましょ!』

 

「「「「「「イェーイ!!」」」」」」

 

 

 

説明が終わる。

 

『それじゃ校内公開開始は十時ぴったり、今から三十分後!それまで皆は準備を整えておくこと!はい、それじゃぁ解散!』

 

とさっさと解散、それぞれの教室に戻り開店準備を済ませていたからあとはテーブルなどを綺麗に整えたり調整したりするだけ。

 

「よーし、それじゃぁ皆頑張ろう!」

 

「「「「「「おーっ!」」」」」」

 

「じゃ、お兄ちゃん一言」

 

「ここで俺に振るの!?」

 

「そりゃクラス代表だし?挨拶の一言でもしておかないとさ」

 

「お前もクラス代表じゃん。それか千冬でも良いじゃん」

 

「いやー、そこはお兄ちゃんだよ。なんだかんだで一番頑張ってくれてたのはお兄ちゃんだし」

 

「えー、やんなきゃダメ?」

 

「だめー」

 

はぁ、しょーがねぇなぁ。

よっこらせ、と椅子から立ち上がる。

 

「そんじゃまぁ、僭越ながらワタクシめが挨拶を……」

 

「固い固い!こう、もっと砕けた感じでいいよ」

 

「あ、そう?」

 

うーん、挨拶ねぇ。

何喋りゃいいかな。

 

「あー、まぁ、そんじゃ、おじさんから一言。今日は楽しめ。今日だけだぞ、高校一年生の学園祭ってのは。来年再来年になったら今日の事が懐かしくなる。それが十年二十年経つと戻りたくてしょうがなってさぁ……。普通は、俺みたいに高校生を二回もやらないし、やりたいと思ってもやれねぇもんよ」

 

「だから、死ぬ気で楽しんで、死ぬ気で頭の中に刻みこんどけ。じゃねぇと俺みたいに後悔すんぜ、あん時もっと楽しんどきゃ良かったー、ってな。俺なんか文化祭当日、準備に疲れて寝てたからな、碌な思い出がない。だから、人生の先達、ってほどでもないが後悔した俺からの助言だ」

 

「ま、俺ぁ、なんの因果かまた高校生やるなんて事になったからあん時とは違うが、全力で楽しむ。お前らよりも楽しむ。大人気ねぇなんて言われようがなんだろうが楽しむ」

 

「それじゃぁ、俺からは終わりだ」

 

楽しむってとこと、高校の時の文化祭が心残りってのは本心だ。

だから、今目の前にいる少女諸君には俺みたいにならないように、と思って喋ったからまぁ、少しでもそう思ってくれれば幸いだな。

 

と言ってもこのクラスの面々は少なくとも、そんな後悔するなんて事にゃならなさそうだが。

 

「それじゃぁ、時間だよ!一班は最初接客ね!二班は時間まで自由!」

 

一夏がそう指示を出すと、一班の子達はそれぞれの持ち場へ、二班の子達は学園祭を楽しむ為に出掛けていった。

俺と一夏、シャルロットは一班だから最初に仕事だ。

 

一夏とシャルロットは厨房に入ってって、同じく厨房組の子達が入っていく。

ホールに残されたのは俺を含めて十人。

テーブル数は九つだから一人一つのテーブルを担当する事が出来る。

残りの一人はレジ担当。

これをぐるぐる回して、交代交代でやればいい。

これと言ってどこのテーブルを誰が担当する、ってのは決まってないけど十分に回るはずだ。

 

「おーし、そんじゃやるかぁ」

 

「「「「「おーっ!!」」」」」

 

ドアに掛けてある掛け札をOPENにして、いよいよ開店だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。ご案内致しますのでどうぞ此方へ」

 

最初の客を丁寧な動作で案内してく。

いやぁ、扱かれた成果が出てる。

 

最初のお客を皮切りにどんどん客が入って来て、終いには長蛇の列が出来るまでになった。

 

 

 

 

「あー、佐々木さんだー」

 

「如何されましたか、お嬢様」

 

「……なんかいつもの佐々木さんじゃないね」

 

「うん、変」

 

「と言うか怖い」

 

なんつーストレートな事を言ってくれやがるんですかねぇ、この嬢ちゃん達は。

変って、俺そんなに変か?

 

いつもおじさん紳士だと思うんだけどなぁ。

 

 

 

とまぁ、友人とかじゃぁないけど顔見知りの一、二、三年生の子達がなんだかんだと佐々木さんだー、とか言って色々と注文してってくれんのよ。

お陰で売り上げは今の所ウハウハですわ。

 

「ねーねー佐々木さん」

 

「なんでしょうか」

 

「どっかおすすめのクラスとかないですか?」

 

「おすすめ、ですか」

 

「なんか美味しいもの食べれるとか、そう言う感じの」

 

どこがいい、って聞かれたが、どこが良いかな。

つーかこの嬢ちゃん達、既に三品ずつ平らげてんだけどそれでもまだ食うのか。

俺が言えた事じゃ無いけど、すげぇ。

 

しっかしおすすめかぁ。

うーん、鈴のとこなんかどうだろ。

 

食後の腹ごなしでお茶とか提供してるし、こんだけ食べちゃったお嬢様には丁度良さそうだ。

 

「そうですね、一年二組はどうでしょうか」

 

「一年二組?」

 

「はい。見たところ、お嬢様方は随分とお食事をされた様でございますので」

 

「ちょっ、佐々木さんそれ言わないで!」

 

「いいの!私達は運動部で後からちゃんとカロリー消費するからいいの!」

 

「なんでダイエット出来ないのかな……」

 

「左様で御座いますか」

 

そら一人三品も食えばダイエットもクソも無ぇだろうよ。

まぁ食べ盛りで、この二人は運動部だから下手にダイエットするよりは良いと思うけどなぁ。

 

おじさん、ガリガリよりムッチリ派なのよね。

束が偶に、ちょっとお肉付いちゃったぁー!とか言ってるけどあれぐらいなら寧ろ大好物よ。

箒とセシリアは運動ガッツリやるからんな事無ぇけどさ。

 

なんつーか、ダイエットし過ぎて出汁を取り終えた鶏ガラみたいな子とか偶にいるけど勝手ながら大丈夫なんかな、って心配になる。

 

「それならば尚更、一年二組に行ってみては?あそこは食事、と言うよりも食後の腹休めを出来る場所ですから、丁度宜しいかと」

 

「確かに油物とか食べちゃったもんね」

 

「行ってみよっか」

 

「それが宜しいかと」

 

「佐々木さんありがとね」

 

「いえ、お気になさらず」

 

そう言って会計して退店していく。

 

それを何度も何度も繰り返して。

どうやら一夏達が作る食事は、やっぱり美味いからか客足が止まる事はないし、なんならさっきみたいに一人で三品とか頼んでペロリと平げてく子もいるぐらいだ。

俺も今すぐにスタッフ止めて食いたいし。

 

 

やっぱ一夏とシャルロットの飯は美味いんだよ。

一夏の飯は毎日食ってたし、シャルロットのは週に二、三回は食ってきたから分かるもんよ。

 

あれを食ったら外食よりも家で食うことの方がぜってぇ良いって思う様になる。

美味い、安い、健康的と三拍子揃ったのが皆の飯だからな。

 

束と箒も美味い。

束はクロエが小さい頃に色々作ったりで慣れてるし、箒は和食専門みたいなとこあるから皆揃うとレパートリーが半端無い。

 

その美味い飯を食った後の、鈴の淹れてくれた茶よ。

いやぁ、もうダブルパンチで中毒性あるよな。

抜け出せない底無し沼ってことよ。

 

 

 

 

 

 

「交代の時間だよー!」

 

少し看板を準備中にして二班と交代する。

片付けと諸々の引き継ぎを済ませて。

 

「そんじゃあとは任せた」

 

「はい、お任せ下さいな」

 

「父よ、後でちゃんと来てくれないとだめだぞ」

 

「おう、ちゃんと来るって。でも来る時間はランダムだから覚悟しとけよー?」

 

「だ、大丈夫だ!」

 

しっかりとメイド服を着込んで、更には化粧までした皆に見送られて学園祭を楽しむべくそれぞれ歩き出した。

俺は一夏とシャルロットと共にまず最初に接客で色々と疲れてるから、と一年二組のところへ。

 

あそこなら雰囲気落ち着いてるし一組みたく騒がしくなさそうだ。

 

 

と思ってたんだけど。

 

「なんかすげぇ混んでんなぁ」

 

「ほんとだ」

 

「何かあったのかな」

 

滅茶苦茶混んでる。

普通に並んで待ってるぐらいには混んでる。

 

列の最後尾まで十五人ぐらいが並んで待ってる。

 

チラッと店内を覗いた感じでも普通に繁盛してるし。

我らが一年一組もそらもう繁盛してるが、負けず劣らずだ。

 

「どうする?並んで待つか?」

 

「んー、少し他のとこ回ってみよーよ。それでも並んでたら待とっか」

 

「りょーかい。で、どこに行く?」

 

「そりゃ定番と言ったらお化け屋敷でしょ!」

 

「そうなの?」

 

「まぁ、こうやって学園祭とかやるってなるとほぼ確実にお化け屋敷はあるからな。定番っちゃ定番か」

 

「ほらほら、行こうよ!」

 

「分かったから少し待てって。逃やしないさ」

 

手を引っ張ってく一夏と、もう反対側をガッチリ固めているシャルロット。

どうやら一夏はお化け屋敷を全部制覇する気らしく、片っ端から入ってく。

 

 

「きゃーっ!!」

 

一夏は肝が据わってるのか楽しくてしょうがないって感じの悲鳴を上げて一々大袈裟に抱き着いてくる。

 

「うわぁぁっ!?」

 

シャルロットはガチでビビってるのか若干涙目で常に俺の腕を取って離れない。

 

「凄いね!クオリティ高い!」

 

「お前は本当に元気だなぁ」

 

「だって楽しいじゃん!」

 

「だからって俺の腕を引っ張って歩くなって」

 

「やだー」

 

一夏は余程楽しいのか兎に角はしゃいでいる。

こんなにテンション高いのは多分、臨海学校の自由日以来か?

 

まぁ割といつでもテンション高めだからアレだけど。

 

「うぅぅっ……」

 

「なんだ、そんなに怖かったか」

 

「そりゃ怖いよ!ねぇなんで日本人ってこう言う娯楽とかに無駄に力を入れるの!?馬鹿なの!?クオリティ高いなんてもんじゃないよ!普通に街中でお金取れるよ!?」

 

「まぁ、日本人って何か知らんけど遊びに関しちゃ変な方向に全力出すからな。そんなもんだろ」

 

「おかしいって。絶対おかしいって……」

 

「でもよ、IS乗ってて試合中に弾丸飛んでくるとか剣振り下ろされる方が怖くねぇの?」

 

「SEあるし、なんだかんだ言って絶対防御もあるし。それに何より見える恐怖より見えない恐怖の方が僕は怖いかな。それに慣れちゃえば怖くはないし」

 

「そんなもんかねぇ」

 

「そう言うものだよ」

 

そう言うものらしい。

 

一夏に引っ張られながらお化け屋敷を二件制覇し、一度一年二組のところへ行ってみると客足が少し落ち着いたらしいのか列が短くなっている。

このぐらいなら少し待てばすぐにでも入れるな。

 

「ちょっと並ぶけど、まぁ良いか」

 

「待つのも楽しいよ?」

 

「そうだな」

 

十分ほど並んで待っていると案内された。

 

「いらっしゃい。来てくれたのね」

 

「おうよ」

 

「ま、一組みたいに大した料理とかは出せないけど、寛いでって」

 

鈴はそう言うと他のテーブルに向かってった。

うーん、親父さん達の手伝いしてたからか違和感無ぇし似合ってんな。

 

それはそうと、チャイナ服良いね!

スリットから見える足が良いね!

 

「お兄ちゃん、鼻の下伸ばし過ぎ!」

 

「佐々木さん、私達似合ってないかな……?」

 

「いやいや、そんなことはねぇですよ?鼻の下伸ばしてないし、メイド服似合ってるぜ」

 

鈴見てたらなんか怒られたんすけど。

いいじゃんちょっとぐらい。

 

 

 

 

 

それぞれ食いたいもの、飲みたいものを頼んで待っている。

腹を空かせた一夏が頼んだ蒸籠で蒸しためっちゃ本格的な焼売とか回鍋肉とか青椒肉絲が運ばれてくる。

 

いや、ウチが食い物だけで品数二十品以上あるのがおかしいだけで二組も食い物は十二品と結構ある。

十分だろ、これだけあれば。

 

俺も腹減ってるけど、沢山食べたいって訳じゃないから回鍋肉定食とお茶を頼んだ。

 

定食は出来立てを持って来てくれるんだが、お茶は目の前でちゃんと淹れてくれる。

 

「おー、すごーい」

 

「凄いね、ここで淹れてくれるんだ」

 

二人も驚いて肝心してる。

普通は淹れたの持ってくるからな、驚くのも無理はない。

 

「それでは、ごゆっくりどうぞ」

 

担当してくれた子が離れてから。

 

「「「いただきまーす」」」

 

三人揃って手を合わせてから食べ始める。

 

「おいしー!」

 

「うん、美味い美味い」

 

「お腹空いてたから余計に美味しく感じるね」

 

三人揃ってもしゃもしゃと食べ進める。

執事服とメイド服の三人が中華料理食ってるなんていう珍妙な光景だけど。

 

一夏は頼んだ大量の料理をぺろりと全部綺麗に平らげてお茶を飲みながら満足そうにしている。

あいつ、よく太らねぇな……。

 

シャルロットが若干引いてるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?美味しかった?」

 

「美味しかったよー」

 

「うん、また食べたいぐらい」

 

「そ、なら良かったわ。明日もやってるから暇ならいらっしゃい。売り上げに貢献して頂戴ね」

 

その辺り言い切るのが鈴らしい。

でも売り上げ大事だもんね、仕方ないね。

 

「そうだな。にしても俺が昨日来た時言ってたよりも遥かに混んでるじゃねぇの。どうした?」

 

「呼び込みもあるんだろうけど、大きな原因は洋介さんのお陰よ」

 

「俺?」

 

「あんた、自分のとこの客に私達の店を宣伝したでしょ」

 

「したな」

 

「それが理由で来てくれたお客が、口コミで広めたらしくて沢山来てるの」

 

「はー、そら良かったな」

 

「えぇ、だから思ってたよりも遥かに繁盛してるわ。お茶だけじゃなくて料理の方も注文が殺到してて食材が若干足りないぐらいにはね」

 

「なら良かったじゃねぇか」

 

「だからありがとう。学園祭中は無理だけど終わったらお礼にフルコースを振る舞ってあげる」

 

「おっ、嬉しいねぇ」

 

鈴曰く、想定の十倍は客足があるんだとか。

 

にしてもフルコースか。

いいねぇ、楽しみだ。でも俺、北京ダックとか食い方分かんないんだけど。

 

なんか包んで食べるみたいなのってのは知ってるけど、ケバブとかみたいなもん?

 

 

 

少しゆっくりしてから店を出る。

そこら中が騒がしく、この学園で静かなとこなんて殆ど無いんじゃねぇかと思うぐらいだ。

 

「次どこ行くか」

 

「そろそろ一組行ってみる?多分ラウラとセシリアが待ち侘びてるよ」

 

「そーすっか」

 

「シャルロットもそれでいい?」

 

「うん、大丈夫」

 

一組のところに到着すると、そらもうびっくりするぐらい人が並んで待っている。

まぁ確かに食い物に関しちゃ普通にクオリティ高いけども、お嬢さん方幾ら何でも食べ過ぎじゃないすかね?

これから晩飯も食うんだろ?

 

「凄い並んでるね」

 

「俺らの時以上だな、これ」

 

「あ、そう言えば織斑先生がホールスタッフで入ってるんじゃないかな?時間的に多分そうだと思うよ」

 

「だからかー……」

 

「千冬姉人気だもんね」

 

並んで待って、漸く入店すると店先からでも分かってたが、より一層きゃーきゃーと黄色い悲鳴が響いてる。

 

なんだなんだと見てみると、そこにはちっこくて可愛いラウラと、正統派メイドって感じのセシリアと、我らが千冬を中心に生徒諸君が騒いでいた。

んでもって逞しい我がクラスメイトの嬢ちゃん達はそれを上手いこと使って荒稼ぎ中。

写真一枚千円とか何かとサービスに料金掛けてるな。

だけどそれでも皆が揃って金出してんだから凄い。

 

なるほどこれはアレだな、ウチの妹と娘と、セシリアが可愛かったり美人だったりで人気なんだな。

 

「あっ!父よ!よく来たな!」

 

嬉しそうに駆け寄ってくるラウラは、もう超可愛い。

お父さん顔ゆるゆるよ。

 

「うっわ佐々木さん顔デロデロじゃん」

 

「立派な子煩悩だねぇ」

 

周りから口々にやんややんやと言われる。

ラウラほど素直で可愛い娘よ?溺愛しない方がおかしいだろーが。

天使だぞ、天使。

 

 

 

 

 

 

「ラウラさん、幾ら小父様相手でも今はお客様。言葉遣いはちゃんとなさい」

 

「そ、そうだった。いらっしゃいませ、旦那様、お嬢様」

 

にこっ、と笑いながら言うラウラはそりゃもう可愛い。

天使。世界はスタンディングオベーションで浄化されるべき。

 

だけど。

 

「グッハァァッ!!!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「佐々木さん!?」

 

「やだ……、お父さんって呼んでくれなきゃやだ……」

 

床に突っ伏して泣く。

無理……。

ラウラにお父さんって呼ばれないだけで死んじゃう……。

 

「だ、大丈夫か?私のダメだったか?」

 

「ラウラ、大丈夫だから気にしなくていいよ」

 

「本当か?」

 

「うん、ほっとけばその内治るよ」

 

「扱いひでぇな、オイ」

 

心に突き刺さった何かを感じつつ、立ち上がる。

 

「ほら治った」

 

「治ってねぇやい、我慢してるだけだし」

 

「心理的影響大きいんだ」

 

「そりゃ可愛い可愛い娘にお父さんじゃなくてご主人様とか言われたら辛いよ?」

 

何言ってんだコイツ、と言う目で俺を見る皆。

いやいや、実際そうでしょ。

 

もし嫌いなんて言われようもんなら俺、自殺するよ?しなくても廃人になるよ?

 

「ラウラ、俺のことはお父さんで良いからな」

 

「え?」

 

ラウラが困った顔でセシリアを見ると。

 

「駄目です♡」

 

「ウィッス!」

 

満面の笑みで拒否られた。

従うしかないじゃん。

 

「ご注文が決まったら呼んでくれ!」

 

「おう」

 

元気一杯天真爛漫ともう可愛いのよラウラが。

可愛い可愛い娘の姿に悶絶しつつメニューを開く。

 

つっても考えたの俺達なんでね、どんなもんが出てくるのかは知ってるんだけど。

 

それぞれ食いたい物を幾つかづつ頼んで。

 

「お、お待たせしました」

 

えっちらおっちら両手に料理を持って運んでくるラウラ。

はい可愛い。

 

「あんがとさん」

 

「それではごゆっくり!」

 

三人でそれぞれの頼んだものを食べる。

流石我がクラス、料理の出来は最高だ。

 

うまいうまいと言いながら食べていると。

 

「只今より織斑先生がホールスタッフとして入りまーす!」

 

「「「「「「「キャァァァッ!!!!」」」」」」」

 

それを聞いたお嬢様方はでかい黄色い声をあげる。

だから鼓膜破れちゃうって。

 

「それじゃ、織斑先生どうぞ!」

 

その声と共に入ってきたのはメイド服に着替えた千冬。

高校生の時は学生が青春やってんな、って感じだったけど今はうん、なんかこう、違う。

ちゃんとしたメイドに見えるから不思議だ。

 

「う、流石に恥ずかしいな……」

 

「大丈夫ですって、すっごい似合ってますから。佐々木さんもイチコロですよー」

 

「そ、そうか?なら良いが……」

 

背中を押されて出てくる千冬を見て皆が黙る。

まぁ千冬、誰もが認める美人だし当然だぁな。

 

千冬ってロングスカートとかが似合うタイプだから今回のメイド服がめっちゃ似合ってる。

 

「兄さん、似合ってるか……?」

 

「似合ってる似合ってる」

 

凄い似合ってるけどお兄ちゃん思うんだ。

 

「凄え似合ってるけど、流石にツインテールはキツいぜ千冬」

 

「言うなぁ!」

 

顔を手で覆って座り込んで叫んだ。

いやだけど、ツインテールはキツいでしょ。

いつも通りに後ろで纏めるじゃ駄目だったの?

 

「皆がこの際だからって言うから……!私だって絶対止めておいた方が良いって思ってたのに!」

 

「まぁ、うん、明日は別の髪型にすりゃ良いじゃん?」

 

「そうする……」

 

そんなでもキッチリ仕事をやり遂げる辺り、流石よな。

 

 

 

 

 

 

とまぁ、平穏かはさておき、無事に一日終わった訳で。

明日もあるからと後片付けと明日の準備を済ませて早々に部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 











久しぶり、待った?








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閑話 バレンタインデー!!!




久しぶりの投稿にも関わらず、本編じゃないしバレンタインデーよりだいぶ遅れての投稿とか舐めてんのか。


 

 

本日は二月十四日。

何を隠そうバレンタインデーだ。

 

勿論実質女子高みたいなIS学園は特に作ったりなんてことはしない俺を除いて大層楽しんでいる訳だ。

友チョコだとかウンタラカンタラできゃいきゃいと騒ぎ、料理部はそりゃもう手の込んだモンを作っていたり、スーパーマーケット並みの品揃えと数量を誇る学園の購買にもバレンタイン用の板チョコやらお高い既製品のチョコやらが大量に並べられ、甘いものに目が無いお嬢ちゃん達の手にどんどん取られて行くわけだ。

 

おじさん?俺ァ、確定演出で一夏から貰えるから良いんだよ。

まぁこれで貰えなかったらガチで凹むけど。

多分、向こう一年ぐらい、具体的には次のバレンタインデーにチョコを貰えるまで立ち直れない自信があるもんね。

 

俺はチョコを溶かしてなんか作ろうなんてなったら絶対に碌でもない結果になるのは目に見えてっからね、お外に出掛けてクラスの皆とかには普通ぐらいのチョコを買って渡しましたとも。

一夏達には勿論特別なわけだから良いヤツを渡したしな。

 

「おーじさん」

 

「はーい、なんでしょーか」

 

何時もの如くいきなり現れて、後ろから抱き着いてくる束のでっかくて重い何とは言わないけど、重量物を頭の上に乗せられる。

 

「今日が何の日か、分かってるでしょ?」

 

「皆さんが浮かれておりますので」

 

「おじさんは浮かれてないの?」

 

「そりゃ良い年したおっさんがなぁ」

 

「へぇー、じゃぁこれ、いらないんだ?」

 

「めっちゃ欲しいです」

 

「んもー、しょうがないんだからー!」

 

俺を抱き締めながらくねくねと身体を揺する。

お陰で柔らかくてあったかくてでっかいのが俺の頭の上と言うか、頭頂部から耳ぐらいのところまでを両脇から挟んできて、んもうとんでもない事になっておりますです、はい。

 

「はいっ、バレンタインチョコ!」

 

「おぉぅ……?うーん、なんとも斜め上の、これまた随分と凝ったモンが出て来たな……」

 

「そりゃ大本命も大本命に渡すってんだから束さんが持ち得る全力を叩き付けたに決まってんでしょう!」

 

渡されたのは四分の一サイズのとんでもなく精巧に作られた束像だった。

 

「これをおじさんが食べたら、私がおじさんの血肉になるってことでえへへへ」

 

「発想がおっかねぇよ」

 

「えー?私のこと、食べてくれないの……?」

 

「食べる(カニバリズム)は流石になぁ……」

 

俺にそんな癖は無いし、ここまで精巧に作られたのを食うってなるとなんかもったいないって言うか、物凄い罪悪感があって食えないだろ。

 

「まぁそう言うだろうと思ったけどねー」

 

そう言いながら、どういう訳か胸元から手のひらサイズの、丁寧にラッピングされてリボンまで巻かれている箱を取り出す。

 

「はい、こっちが本当のバレンタインチョコ」

 

「最初っからこっちを渡してくれれば良かったんでは?」

 

「えー?だって普通に渡したって芸が無くてつまらないし、それに印象に残りづらいでしょ?」

 

「んなこと考えなくてもちゃんと面白いし滅茶苦茶印象に残るべ」

 

ちょっと何を変な事を考えてんだか分かんねぇな。

まぁそれでも俺の為にこうして作ってくれたんだから嬉しいもんだよ。

 

「有難く頂きます」

 

「あとでちゃんと感想聞かせてね?」

 

「おう。で、こっちのフィギュアチョコはどうすりゃいい?」

 

「あぁ、それ、チョコの匂いを付けただけのフィギュアだから飾って飾って」

 

「んん?」

 

「だから、私のフィギュア。ちゃんと飾ってあげてね?」

 

「お前本当にやることなすこと斜め上だな」

 

「あっ、因みに着ている服も下着もちゃんと脱がしたり着せたりできるし、おっぱいの形とかぜーんぶ私と同じように作ってあるからね!」

 

「……恥ずかしいなら持って帰えりゃいいんじゃね?」

 

言いながら顔を真っ赤にして、もう何がしたいのか分かんないよ。

 

「で、でもでも、私の事知って欲しいし……。と言うかおじさんが私のフィギュアであんなことやそんなことしなきゃ良いだけのはなしだからね!?」

 

「作った本人が何言ってんだ」

 

結局例のフィギュアは束が持って帰らなかったから部屋に飾られることになったんだが、それを見た皆と一悶着あったのは言うまでもない。

 

ついでに言っとくと、俺は紳士なので下から覗いたりとか服を脱がせたりなんて言う事は勿論してない。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

束の来襲から少しして、一夏と千冬がやって来る。

 

「ハッピーバレンタイーン!」

 

「兄さん、チョコだ」

 

二人に手渡されたのはこれまた可愛らしい包装がされた握り拳ぐらいの大きさの小箱だ。

 

「相変わらず器用にやるなぁ」

 

「楽しまなきゃ損だよ!」

 

「私は既製品を買って来ただけだがな」

 

「それでも良いんだよ。貰えるだけで嬉しいもんなの」

 

イベントを全力で楽しむタイプの一夏はバレンタインも、そりゃ心底楽しむ。

中学の時もクラスメイトに部活、仲の良い面々全員にクッキーを配ってたし、弾や数馬、蘭達には手の込んだチョコを渡していた。

 

勿論毎年俺も貰ってたんだが、余りにも手が込んでいるというか、熱量が凄い一流パティシエも裸足で逃げ出すんじゃねぇかってぐらいのを作ってくれるもんだからどう食ったらいいのか分からないってのまでがセットだ。

ちゃんと食うけどね。

 

千冬は知っての通り、料理の「り」の字も分からんってぐらい料理が出来ない。

一応ベーコンを焼くぐらいなら出来るがそれだけだし、菓子作りなんて以ての外。

昔、高校生ぐらいの時にチャレンジした事があったんだが一夏に教えられながら失敗し、項垂れてたな。

それからと言うもの千冬に関しては作る代わりにめっちゃ高くて良いチョコをくれるのだ。

 

いやー、お兄ちゃん冥利に尽きますなぁ!

 

「もう本当にありがとうな」

 

「ホワイトデーのお返しを期待しておく」

 

「おうよ、任せとけ」

 

「それじゃ、皆もお兄ちゃんにチョコ渡したいだろうから退散するね」

 

「おう」

 

一夏と千冬が部屋から出て行く。

千冬は多分、これから仕事なんじゃねぇかな?

 

IS学園って本当に忙しくない時が無いってレベルで忙しいからな。

超忙しいか忙しいの二択しかない。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

少しすると鈴が来る。

 

「まぁ何時も通り無難に行くことにしたわ」

 

「ごま団子だァ!」

 

「話を聞きなさいよ!」

 

鈴はごま団子。

ごま団子って揚げ物だから結構手の込んでる菓子なんだよな。

 

しかも作り立てらしく、まだ温かい。

これは今食わなきゃ損するぞ。

 

「いつもありがとうな。鈴のごま団子大好きなんだよ」

 

「ん、感謝して食べなさい?」

 

「あったりめぇよ。で、もう食っていい?」

 

「あげたんだから好きにしなさいよ。まぁ、出来立てだから一番美味しいとは思うわ」

 

そう言いながら、勝手知ったる何とやらでお茶を入れて出してくれる。

鈴に限らず皆の方が俺よりも部屋の事知ってんじゃねぇかな。

 

「んまい!」

 

「それなら良かったわ」

 

お茶と一緒にごま団子を頬張る。

これがまたうめぇのよ。

 

ごまと風味とか味と、揚げたときに染みた?付いた?油がじゅわってなって、餅の触感と中に入ってる餡子の甘さが良い感じで、良い感じなのよ。

 

「美味かった。ご馳走様でした」

 

「お粗末様でした。じゃ、アタシは帰って後片付けしてくるから」

 

「本当にありがとうございます」

 

「良いのよ」

 

そう言って鈴は帰ってく。

まぁ何というか、本当にありがたい話ですなぁ。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「佐々木さん、今良いですか?」

 

「おー、いいぞー」

 

ノックして入って来たのはシャルロット。

盆の上には見たことの無い菓子が。

 

「僕はね、カヌレを作って来たんだ。皆ならやっぱりチョコだったりするでしょ?だから一人二人ぐらい違っても良いかなって」

 

「かぬれってなんだ?」

 

「焼き菓子だよ。フランスのお菓子で、美味しいんだ」

 

「へぇ、初めてだ」

 

「チョコじゃないって言ったけど、実は中にチョコチップが少しだけ入ってるんだ。味見してみたけど、すっごく美味しく出来たと思うよ」

 

良い感じに焼き目と言うか、焦げ目が付いている。

甘い良い匂いが漂ってきて堪らん。

 

「頂きます」

 

「はいっ、召し上がれ」

 

一口食べてみると、外は固いんだけど中はしっとり柔らかい。

それにチョコとは違った優しい甘さがあるから、何というか、凄くほっとする味だ。

 

「初めて食ったけど、美味いな」

 

「ほんと?」

 

「ほんとほんと」

 

「えへへ」

 

嬉しそうに微笑むシャルロットのカヌレは、お世辞抜きで本当に美味い。

あんまり洋菓子に縁がある人生じゃぁ、無かったがこりゃ良い。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「小父様」

 

「ん」

 

「その、本当はカカオから厳選して小父様の為だけのチョコレートを作ろうとしましたのよ?ですけど、皆さんにそれだけは止めろと言われてしまって……」

 

「あー……」

 

しょんぼりと項垂れるセシリアを見ながら、申し訳ないけど仕方ないなと思っちゃう。

 

「ですから、市販の板チョコを溶かして型に流し込んだだけのものですけれど、どうか受け取ってくださいますか?」

 

「あったりめぇよ」

 

受け取った15cmほどの箱の中には、不器用ながらも頑張って作ったであろうハート形のチョコ、そしてホワイトチョコでドストレートにI love you、と書かれて入っていた。

それを見ただけで嬉しいもんだ。

 

「あの、小父様」

 

「うん?」

 

「勿論、本命ですわ。味は、美味しくないかもしれませんけれど、籠めた想いは本物ですから」

 

にっこりと微笑んでそんなことを言ってきやがるもんだから、顔が熱くなっちまったよ。

 

セシリアはお茶なら上手く淹れられるから、と言って紅茶を入れて帰って行った。

一口飲んでみると沢山練習したのか、前よりも随分と美味しいものだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「兄さん」

 

「おっ、来たな来たな?」

 

「はい、来ました。五年間渡せなかった分、沢山想いを込めましたから、受け取ってください」

 

「有難く頂戴致します」

 

箒は生チョコを入れた大福を作ってくれたらしい。

 

「おぉ、また腕を上げたなぁ」

 

「お菓子作りは、あんまりやったことが無いので自信は無かったですけど、お口にあったなら良かったです」

 

「美味い美味い」

 

「お茶、淹れますか?」

 

「頼む」

 

緑茶とチョコ大福は、合わないようでかなり良い感じに合う。

口の中の甘さを緑茶が流してくれて、またチョコ大福を食べたときに新鮮な感じで食える。

 

のんびりまったり、そんな感じで食べ終えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「父よ!バレンタインチョコだー!」

 

「お父様、ハッピーバレンタイン、です」

 

勢いよくドアを開け放ち、だーっと駆け込んで飛び付いてくるラウラを受け止める。

 

「皆でな、父の為にチョコを作ったのだ!」

 

「そっかそっかー!」

 

「これがそのチョコだ!」

 

「んもう最高に嬉しいぜー!」

 

「ぅわはー!」

 

思いっ切り撫で繰り回してやるとそりゃもう、ニッコニコで嬉しそうに笑うもんだから可愛くて可愛くて……。

 

「お父様、私も作りました」

 

「クロエも撫でちゃるー!」

 

「きゃー」

 

クロエの頭も撫でまわすと、ぶっきらぼうな感じの、棒読みのような、それでも上擦っていて嬉しいのが分かる声を上げる。

ウチの娘達は世界で一番可愛くてよ!

 

その後、三人で仲良くチョコを食べましたとさ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 







Twitter始めました。

ジャーマンポテトin納豆
@potatoes_natto


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