ナイトレイド追っかけ隊 (大根1872)
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人物紹介・用語解説

用語解説でお茶を濁す作戦


モーリアン=ゲートハート(モリィ)

 

 

年齢:26歳

性別:女性

身長:173cm

体重:[削除済]

 

 

 北軍に所属している女性の将校、生まれは帝国西部の国境付近の街で、帝国人と西の異民族とのハーフ、母親と弟の三人家族であったが戦時中の混沌に巻き込まれ一人生き残った、ハーフであるため帝国にも西の異民族にも受け入れられず、差別と迫害のなか帝国内を転々として生きてきたため、性格はだいぶやさぐれている

 

 15歳の時に無理矢理徴兵され、銃の撃ち方も知らないまま西部戦役の最前線に回されたが、呆れるほどの運で何とか生き残った、以降現在に至るまでずっと帝国軍人として生きてきたので、軍人として経験豊かであるが、別になりたくてなったわけではないのでモチベーションは常に低く、軍を辞めないのは自分の生活と仲間のためで、愛国心は毛ほどもない

 

 北軍に配属されるまではハーフという身分の低さからか全く出世できず『懲罰部隊』と呼ばれる半ば使い捨ての部隊におり、常に劣悪な環境と貧弱な装備での戦いを強いられてきた、その内軍の汚れ仕事をやらされるようになり、色々知りすぎたため消されそうになったところ、当時将軍であったリヴァに拾われ事なきを得る、暫くはリヴァの腹心であったブラートの下で働き、はじめて正規の扱いを受ける、が、結局リヴァもまた政府の策略に嵌り失脚する。その後リヴァと同様に若手の将軍であったエスデスに拾われ現在に至る

 

 想像力豊かな女性だがそれゆえ思い込みが激しく、妄想癖があり情緒が安定しない場面もしばしば、本人はその事を自覚しているため日頃は冷静であろうと務めている

 自分の外見に対して強いコプレックスを抱いており、女性である自覚はありつつも、長く戦場に居続けたため身体中傷だらけ、滅多に肌は見せない、特に首元にある大きな噛み跡はおおきなトラウマで、この傷は治らず、以降モリィの声は空気が壁を擦り付けたようなハスキーなものとなってしまっている、彼女のトレードマークである髑髏のスカーフは首の傷を隠すためでもある

 

 手先が器用で工作が得意、親密度が一定以上になると、その者を模したくるみ割り人形を作ってくれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ボルゾイ』

 

 

 モリィが指揮する部隊、正式名称は北部方面軍 独立空挺連隊 第18歩兵大隊 第6偵察小隊

 

 その前身は『懲罰部隊』と呼ばれる非正規部隊で、軍規違反をした軍人や犯罪者、またハーフなど、敵ではないが生かしておく価値もない者を集めて組織されている、軍服は支給されず型落ちの旧式装備で常に最前線で戦わされていた

 

 モリィは人生の大半をこの部隊で過ごしており、部隊で最年少でありながら隊長を務めている、これは彼女の指揮能力や戦闘力が高いから、という訳ではなく、彼女の並外れた悪運の良さと、たまに発揮される感の良さをアテにしたためなので、部隊の中にはモリィよりも強く賢い隊員は大勢いる

 

 懲罰部隊である証として、全員の首元にはグルリと鎖を巻きつけたような焼き跡があり、これは実際に焼けた鎖を巻きつけられた際についたもの、当然モリィの首元にも同様の痕がある

 

 常に最前線で戦い続けてきた為か、部隊の練度は帝国最強と名高い北軍に於いても何ら遜色はなく、強い仲間意識を持ちつつ、その反面仲間と認めた者以外には排他的であり、非常に残忍で凶暴、それでいて隊員の大半が自分らを死地に追いやった帝国を激しく憎んでおり、燻る悪意を世界にばら撒きたいと考えている

 

その事に、モリィだけが気が付いていない

 

 

 

 

 

 

 

簡単爆弾 『リパー・ルー』

 

 

 モリィの持つ帝具、ドラッグをキメた狐のイラストが描かれた手袋、一見すると子供向けのキャラグッズのように見えるが、れっきとした帝具、『ニトロ』と『TNT』と呼ばれる粘性の強い無味無臭のジェル状の爆薬を自在に生成でき、それらを組み合わせて戦う、主に地面や壁に塗りたくり地雷のような運用をするのが無難、衝撃を受けると敵味方の区別なく爆発するため、使用には注意が必要

 

『ニトロ』

 リパー・ルーが作り出す爆薬の一つ、僅かな刺激で爆発するが、音と衝撃だけで殺傷力は高くない、精々が指や肉を吹き飛ばす程度、当たりどころにもやるが、頭部に直接受けない限り死にはしない

 

『TNT』

 リパー・ルーが作り出す爆薬の一つ、強い衝撃を受けない限り爆発はしないが、威力はニトロの100倍、また熱を伴う爆発であるため、火傷や窒息、爆圧による脳震盪などの単純な肉体破壊だけでなく、火災による二次災害の危険性も出てくる、およそ人に対する威力ではない

 

 

 

奥の手 『解除』

 その名の通り、仕掛けた爆弾を解除する、解除された爆薬はただのネバネバしたジェルになり、触っても不愉快なだけの無害な物で、そのまま摂取しても問題ない(本人談)ただ、そもそも無味無臭で無色な液体なので、本当に解除したかどうかは実際に衝撃を与えてみなくてはわからない

 

 非常に強力である反面、その実活用できる状況はかなり限定的であり、モリィの真の強さはこの帝具によものではなく、あくまで仲間の『ボルゾイ』が如何にリパー・ルーが設置されたキルゾーンに敵を誘導できるかが鍵となる、そのため、モリィ単体ではたいして威力を発揮できないのが実情

 

 

 

 

 

 

 

 

エスデス将軍

 

 

年齢:20歳(自己申告)

性別:女性

身長:高い(自己申告)

体重:[削除済]

備考:極めて美人(自己申告)

 

 

 

 帝国最強と名高い北軍を束ねる女傑、帝国最年少の将軍であり、その才能は戦いに於いては世代で見ても比類なきもので、既に軍団規模でのぶつかり合いでは勝てる者はいない、その上伸び代もまだまだ残している正真正銘の怪物、彼女の軍も精強であるが、エスデス自身も天性の格闘技センスと帝具の火力で、一人でほぼ戦略級の強さを持つ

 

 『弱肉強食』こそ絶対の掟と定めており、自らもその生き方に殉じている、これは、一見シンプルに見えてそうでもない、彼女は『強さ』にも様々なものがある事を知っている、好む好まざる関係無く、国家権力のようなものも一種の力と認めており、多くの強者が失墜し、また弱者が蹂躙される様を見続けながら、人が思うよりもずっと多くのものをエスデスは感じ取っている、故に彼女の理念は口ほど単純なものでは無い

 

 性格は傲岸不遜で決して他者を顧みない、それでいてプライドが高く協調性は皆無、ほぼ社会不適合者でありながら、この傲慢さが一周回ってどこか清々しく、何者にも屈しない姿に憧れる者は多い、役を演じる事なく自分らしくいるだけで人が集まる天才のカリスマを持っている

 

 

 彼女に憧れ、彼女に倣い、彼女の後に続く者、それらを総じて北軍と呼ぶ

 

 

 

 

 

魔神顕現 『デモンズエキス』

 

 

 エスデス将軍の使う帝具、無から氷を生み出す、大気中の水分を凍らせているわけではなく、本当に何も無いところから氷が出現する、その証拠に乾燥した寒冷地や砂漠地帯でも氷を生み出した

 生成した氷は自由自在で、礫にして飛ばしたり、障壁にしたり、物体をそのまま凍らせたりと極めて汎用性が高い、それでいて作り出す氷の大きさも凄まじく、敵が籠城した城塞都市の壁を丸ごと氷漬けにできる

 高い汎用性に規格外の火力、それにエスデス自身の身体能力と凶悪な加虐性が加わり天災的な威力を発揮する

 

 その正体は北の奥地に棲む超級危険種の生き血、もはや武器ですら無い、適合できた者はその危険種と同じように、無から氷を生み出せるようになる、強力な帝具である分代償も大きく、帝具を取り込んだ際に襲われる破壊衝動に呑まれれば発狂して死亡する、ちなみにエスデス以外この千年間適合できた者はいないらしい、本当はコップ一杯で良い筈が、何故かエスデスは帝具が収められていた壺ごとイッキ飲みした、美味かったらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北軍

 

 

正式名称: 大栄帝国陸軍 北部方面軍

 

 

 東西南北と中央、にそれぞれ駐屯する軍団の中で北方の防衛を担う軍団、総兵力こそ軍団規模としては少ないが、その練度は中央の近衛師団と肩を並べるほど、前線の部隊から適当な小隊を引き抜くだけでも多方面では特殊部隊としてやっていける、後方部隊と合わせて三個師団編成で、基本的に騎兵や竜騎兵などの機動力に重きを置いた攻撃的な軍隊、防衛が任務でありながら、侵略、殲滅こそ彼らの得意分野である

 

 非常に好戦的で残忍、また気性が荒く喧嘩っ早いが、仲間意識は高く、自分達を『狼』その他を『羊』と称して見下している者が多い、エスデス将軍への忠誠心は揺らがないが、その上である筈の皇帝に対してはまるで興味が無い、あくまで北軍こそ最上であると認識している

 

 彼らの強さを支えるのはエスデスが掲げる『弱肉強食』の掟と、本来なら忌避されるある種の〝獣性〟の解放による異常なまでの凶暴性にある、これにより罪悪感なく殺人を行い、スムーズに殲滅を完了する事が出来る、また疲労を忘れる程の興奮状態にありながら、作戦行動中は極めて冷静であり、理性と獣性の両立を実現している、これらは一重に、先に待つ勝利と蹂躙の下積みである事を皆が理解しているからである

 

 非常に強力で打撃力に優れた集団であるが、一方で防衛戦や特定の対象の暗殺、誘致、情報収集や破壊工作などのデリケートな任務には不向きで、ボルゾイはそういったケースに活用される事が多い

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国

 

 

 

 大陸の中央に位置する超大国、皇帝を頂点とした絶対君主制の国、軍隊が大きな権限を持ち、皇帝は即位と同時に元帥の地位に着く

 

 侵略国家で、常に帝国の四方を囲む国家と戦争をしており、その上でどの戦線も優位に保つほど化物じみた軍事力を持つ、他の国よりも頭ひとつ抜けて技術力が高く、その根底には『帝具』と呼ばれる千年前のロストテクノロジーによる所が大きい、これらを劣化させ大量生産させた銃火器は未だに剣と鎧で戦っている国家を悉く粉砕してきた、が、武装が強力な分他の国より兵の身体能力は劣る、一部例外もある

 

 強大な軍事力と肥沃な大地に恵まれ、千年の刻を安寧の元に享受していた帝国であるが、若き皇帝の突然の病死と妃の後追い自殺からその雲行きは怪しくなり、オネストの大臣就任と病没した皇帝の嫡子が新たな皇帝に就いたのを境に、帝国は黎明期を迎える

 現在はかつての栄華は見る影もなく、腐敗した役人とそれを買収する商人が幅を利かせ、停滞した経済に重税かさなりかつて無い不況が蔓延している

 

民は苦しめられている

 

 

 




用語解説は今後増えます、よろしくお願いします


あと『ぼくのかんがえたさいきょうの帝具』みたいなのがあれば感想欄で教えて下さい、別にストーリーに組み込む訳では無いのですが、面白そうなので見てみたいです


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一話

ナイトレイド

 

 

 

 国が傾き、腐敗が蔓延る帝国暗黒期にて、突如として現れた暗殺集団、公に裁けぬ巨悪を片っ端から殺して周り、其の栄華は永久などと宣って憚らない者共の心胆寒からしめたばかりでなく、後の世に『革命』と呼ばれる大きな運動にも少なくない功績を残したのだという、しかし彼らは事が済むと、またいつもの様に音もなく消えていった、不気味なまでに表に出ない彼らは半ば都市伝説となりながら、朧げに認識していた人々は言った、曰く

 

 謎の暗殺集団、帝都の闇、義賊、狂人ども、血に飢えた殺戮者、等々

 

 見るものによってその印象を大きく変え、様々な顔を持った組織であるが、一切の私情を挟まず、極めて客観的かつ端的に彼らを表すならば

 

『殺し屋』

 

 これが最も適した表現であると思う、闇に潜み、闇と戯れ、闇の中で闇を屠る、正に冷酷なシカリオそのものである

 

 

 

 さて、申し遅れた、私ことモーリアン=ゲートハートが、どうしていきなりナイトレイドについて話すのか、その訳を言うと、激動の刻、私が軍人としてこなした最後の任務が、彼ら『ナイトレイド』を追う事であったからだ、法の番人としてではなく、暴力装置として、私はナイトレイドを追跡した、時には命をかけて殺し合い、何度も死に目を見ながらも、ついぞ私は生き残った

 

 

ナイトレイド

 

 

 その名前だけを残し、消えていった彼ら、人々は、皆消えたはずの彼らに恐怖する、口々に語る彼らの所業が、悪徳に走ろうとする者の足を引っ張るのだ『図にのるな、罰はある』と、見えぬが故に無駄に膨らんだ、ナイトレイドという虚像に怯えている

 

 

 だが私は知っている、当事者であったナイトレイドを除き、彼らを最も近くで見つめ、深く関わっていた私には、彼らナイトレイドが人々が言うような存在でない事に

 

 

 思えばそう、私は幸運だったのかもしれない、腐敗、衰退、革命、滅亡、これから辿るであろう帝国の末路に、この愉快な悲劇と、常にその大舞台の中心にいたナイトレイドの踊りようを、特等席で見る事ができたのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから是非、みんなにも見届けてほしい

 

 

 

私が追った彼らの物語、その結末を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず、簡単な自己紹介をしよう、私はモーリアン=ゲートハート、帝国の陸軍で少佐を勤めている、本当は曹長くらいで良かったのだが、北軍の将軍に様々な無茶振りをさせられ、気がついたら少佐になってしまっていた、不思議だ

 

自己紹介終わり

 

 そんな私だが、今特大の厄ネタ抱えてしまっている、それは、現在帝都で暴れ回っている犯罪集団、通称『ナイトレイド』の情報を集めて来いというものだ、彼らはまぁわかりやすく言えば〝殺し屋〟だ、営利犯罪者集団とも言える。この世に蔓延るあらゆる需要の中で、多分下から数えたほうが早いくらいにはしょうもない〝殺人〟のニーズに応える者達である、クライアントから依頼を受けて標的を確実に始末する、プロの暗殺者だ

 

 ところで、暗殺者と聞いて思い浮かぶのは、最初にジョン・ウィック、次にイコライザー、最後にパニッシャーであるが、ナイトレイドはこの中ではパニッシャーに近い、何が言いたいのかと言うと、要はヤり方がかなり過激で、スマートさに欠けるというか、とにかく大量の血が流れる、とても危ない連中なのだ

 

 

閑話休題

 

 

 で、政府としてはそんな危険な者達を野放しにしておきたくはない、でも警備隊では心許無いし、万が一彼らが返り討ちに合えば(いや十中八九返りされるのだが)帝国の威信に傷がつく、それで白羽の矢が立ったのが我々、帝国最強と名高い北軍なのである

 

 

 

 

 

「そしてそのナイトレイド狩りの部隊の指揮官を私がやると言うわけだ、凄いだろう?」

 

「はい…そうですね、率直に言ってちょっと何言っているのかわかりませんね」

 

 

 ごくごく自然に、私の口から率直な感想が出る

 

 私こと〝モーリアン=ゲートハート〟少佐は、現在北方軍の臨時司令室があるクザン前哨基地にいた、本当は今頃敵の防衛陣地の偵察に出ているのだが、何故か昨日突然召集がかかり、行ってみればそこに我らが将軍がいたのだ…この時点でだいぶ意味わからないが、先のエスデス将軍の言葉は更に意味不明だった

 

 

「その…申し訳ありません、私にはどうしてもこの〝ナイトレイド〟なる集団は殺し屋にしか見えないのですが、何故我々が?帝都には警備隊がある筈ですが」

 

 

 手元にある資料を片手に、私は目の前で静かに座る若い将軍に疑問を投げる、資料の内容は大きく3つ、ナイトレイドという組織の概要、活動経歴と被害状況、そしてわかる限りのメンバーの内訳だ、見れば随分帝都で稼いでいるらしい、台頭してきたのが半年ほど前だとして、わかっているだけで12件の殺人、単純に、月に2人殺している事になる、しかも結構大物揃いだ、わかっている範囲でこれなら、実際はもっと殺ってるな、お盛んな事だ

 

 無能で有名な帝国政府にしてはよくできた資料だが、それらを吟味した上で私が下したナイトレイドの評価は〝殺し屋〟だ、殺しの術には秀でるが、それ以外はこれといって脅威を感じない、正直何でこんなものが軍の作戦に割り込んでくるのか理解できない、だってそうだろう?例えば東京で殺人事件が発生したとして、その制圧に自衛隊を派遣するか?そんなわけあるか、同じ事だ

 

 

「資料を読んでいないのか?警備隊には無理だ、捕縛どころか返り討ちにあう」

 

 辛辣だ、だが確かにそうかもしれない、ナイトレイドは標的を始末する際屋敷の護衛諸共殺してしまう、唯の護衛ではない、ライフルで武装した従軍経験のある高級品だ、実戦経験のない警備隊では歯が立たないかもしれない

 

 でもそれは我々が出動する理由にはならないし、まして将軍が出張るなど論外だ

 

 

「将軍、わざわざ言うことではないのですが、我々は現在北方の異民族と戦争中です、帝国政府が勝手に始めた戦争で、しかも前任の征服軍が返り討ちにあって敗走を始めたから、防衛に当たっていた我々が交代する形で攻めているのです」

 

「知ってる」

 

「そして漸く戦線を押し返し、敵の首都を目前にするまでに至りました、最早我々の勝利は揺るがない、しかしその後は?敵の残党が息を吹き返すかもしれない、諦めのつかない跳ねっ返り共を黙らせるには貴女が必要なのです。殺し屋風情と遊んでるべきではないのですよ」

 

「本音は?」

 

「嫌ですよ!殺し屋と追いかけっこなんて!?つまんない!」

 

「しょーも無いなぁー」

 

 

 嫌だ!断固反対だ、殺し屋の追跡なんて誉にもならない、地味だし、何よりナイトレイドはきっと我々に狙われてると知ったら雲隠れするに決まってる。なんの信念もない金で雇われた連中だ、命をかけてまで仕事をこなす意味がない、敵の活動が停止したら、後は泥沼の情報戦である

 

考えただけで怖気が止まらない

 

 

「まぁそう拗ねるな、ナイトレイドの活動拠点は帝都だそ?任地も自然と帝都になる、やったな、夢の中央勤務だ」

 

 

 わざとらしいエスデス将軍の態度に、ムカついたかと聞かれれば、ムカついた、でも口には出さない、エスデス将軍は弩級のサド変態なのだ、それは敵に対してもだし、隙あらば味方にもその毒牙がかかる、勿論味方に対する拷問は絶対に死に至らないし、障害も残らない、でもそれ以外に大きな爪痕を残す

 

 

 昔任務で、村人を皆殺しにして死体を全て吊し上げるものがあった、それで子供くらいは別に良いだろと逃したのだが、それがエスデス将軍にバレてしまい、小隊共々厳罰を受けた、その時私は若く愚かだったので

 

〝全ての責任は私が取ります!〟

 

なんてバカな事を言ってしまった、結果は3日間の拷問フルコース『エスデススペシャル(初級編)』だ

 

亀甲縛り

鞭打ち

蝋攻め

ウォーターボーディング

etc…

 

 私がわかるのはそれくらいで、もっといっぱい色々されたが、とにかく必死で後はわからない、この拷問の最悪なところは、まぁ当然拷問による苦痛もそうなんだが

 

こう

 

アレだ

なんというか

 

う〜ん

 

 

 

……ちょっとだけ気持ちいいのである

 

 

 

 

ンヒィ!

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!何!?」

 

 

 何て事考えていたら、いつの間にか立ち上がっていたエスデス将軍に胸を鷲掴みにされていた、メッチャ痛い

 

 

「え?いや、何か物欲しそうな顔してたから」

 

「してませんよ!」

 

「む」

 

「む、じゃないですよ!」

 

 

 や、やべぇ、このままじゃエスデス将軍のペースに飲まれる、アレよアレよ口車に乗せられて拷問部屋にお持ち帰りされる、なんだかんだ私はもうエスデススペシャル(中級編)までイってしまっているのだ、人としての分水嶺に立たされている

 

 

「わ、わかりましたよ、帝都でナイトレイドを始末してくれば良いのでしょう?」

 

「いや、お前達には情報収集をしてもらいたい、私もこの戦役に一区切りついたら帝都に一度帰還する、何人か精鋭をつれてくるからそれを本隊として任務にあたる、それまでは波風立てずに潜伏してるんだ」

 

 

 うわぁ、これはまた部下からブーブー言われそうだ、要は私達は本隊到着までの先遣隊、面倒な諜報基盤の構築をまるなげされたのだまぁ基本的にウォーモンガーの集まりである北軍に、私の小隊以上に情報収集が長けた部隊はない、適切な人選と言える、というかこの人は面倒な事は脳死で私に投げてるように感じる

 

 まぁ良いや

 

 

「具体的なやり方は任せる、必要なものがあったら言え」

 

 

 ほーん、これは頼もしい、エスデス将軍は無茶振りの悪魔だが、任務となればちゃんと補給もしてくれる、その辺ちゃんと理解があるのが彼女の良いところだ、人によっては、愛国心があれば飲まず食わずで一週間歩き通してそのまま戦闘する事ができると思ってる者もいる、ジャングルの泥を戦闘服で絞って飲むだなんて経験は、一度きりで良い

 

 

「小隊の皆には今日中に伝えときます、作戦の草案は、そうですね……まぁ3日後にはできるでしょう」

 

 

「わかった、北方の最終攻勢も近い、私も来週には最前線で指揮を執らなければならん、この件の最終調整は5日後とする」

 

 

「了解」

 

 

 終わってみれば、何とも簡潔なやり取りだった、思えば会話の半分くらい余計な話しだった気がしないでもない、もともとエスデス将軍はあまり口数は多くないので、まぁ当然と言えば当然だ、と1人納得した

 

最後に敬礼をして、私は将軍の執務室を後にする

 

 

「あぁ、おい待て」

 

「なんですか?」

 

「まぁ無いとは思うが」

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしナジェンダに会ったらよろしく言っておいてくれ」

 

 

「……私あの人嫌いなんですけど」

 

 

「知ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室を出た私は、そのまま東棟の庁舎を出て基地の道路を一人で歩いている

 

 

「詰め込み急げ!」

「アルファ分隊点呼!」

「違う!そっちの馬車じゃない!」

「走れ!走れ!パーティーに遅れちまうぞ!」

「点呼が終わった分隊から乗車しろ!貨物の荷台に乗るんじゃねぇぞ!ワッペンと同じ色の馬車に乗れ!」

「装具点検怠るなよ!」

「こっちの馬車縛着緩いぞ!弾薬積んでんだからしゃんとしやがれ!寝てんのか!?」

 

 

 あぁよ〜く聞こえる兵士たちの怒号、そう言えばエスデス将軍は最終攻勢は来週って言ってたな、今のうちに人とか物資を前線に集約させてるんだろう、お祭りの締めくくりなだけあって皆テンションが高い

 

 

「うぉ〜!寒いな〜」

 

 

 大急ぎで準備を進めてある兵士とは反対向きに私は歩く、乾燥した風がコートの襟元から侵入しようとし、私は反射的に顎を引いて少し体をすぼめる、何というか、私の故郷は温暖な西の国境だからか、北方の気候には未だに慣れない、いざ戦闘になれば散々走り回るので気にならないが、こういう平穏な時期こそ如実に感じる

 

帝都は、ここよりは暖かいと良いのだが

 

 

「ん?ゲートハート少佐、ここにいましたか」

 

 

 と、詮ない事を考えていると、前方から聞き慣れた声が聞こえた、細身だが長身の男性、名前はトルシュト=ロックウェル、階級は准尉、私の部隊の副長を任せている男だ、寡黙だがとても頼りになり、私がひよっこの新兵だった時は鬼のように怖い先輩だった、何故か私の方が先に出世したので、佐官になった時に副官になって貰った

 

 格好は私のような制服ではなく、ガッチガチの戦闘服にチェストリグを巻きつけて、今にも銃撃戦をしそうな体だ、まぁこの基地の状況を見れば戦闘準備をするのは当然だろう、たぶん他の部下達もウキウキで戦闘準備をしているに違いない、基本的に北軍にはウォーモンガーしかいないからね、頼もしいね

 

 

「うん、エスデス将軍から新しい命令を受領したよ」

 

「…将軍直々に?」

 

「そうだよ」

 

 

 うわぁ〜露骨に怪訝な顔されたよ、仕方ないよね、今のところエスデス将軍の頼みを聞いて良かった試しが無い、敵の偵察部隊を尾行しろだとか、巡回ルートを割り出せとか、支給された地図が間違ってるから書き直して来いとか、考え出したらキリがない、エスデス将軍の悪名は身内にも広まっている

 

 

「あれだよ、まぁいわゆる極秘任務、ブラックオプス、記録には残らない機密作戦ってやつ」

 

「またそんな大層な言葉並べて、どうせまた面倒な偵察任務でしょう?そうやってポンポン安請け合いしてしまうから面倒事ばかり押し付けられるのですよ、自覚あります?」

 

 

 流石だ、全部見抜かれてしまった、呆れ顔で説教垂れる副官にはグゥの音もでない、まぁなんだかんだ手伝ってくれるのだから、何も問題はないと言える

 

 

「立ち話も何だし、一旦会議室に行こうか」

 

「部下は集めますか?」

 

「うん、皆んなにも聞いてもらわないといけないし、結構骨が折れそうな任務だから、なるべく細部まで擦り合わせたいんだ」

 

「…嫌な話だ」

 

「そう言わないで」

 

 

 何か感じ取ったのか、ロックウェル准尉の苦い顔が更に深くなった、多分これからもっと酷くなる、何せ我々がこれから追うのは、殆ど実態のない噂と実績だけが一人歩きした幽霊みたいな連中だ、強い上に賢く、逃げ足も速い、全くもって厄介極まる、しかも殺しちゃダメと来た、エスデス将軍が念を押して〝手を出すな〟だなんて言った連中だ、きっと何かあるのだろう、よくわからないが

 

 

 

 

 

 とまぁこんな感じで、おわかり頂けたと思うが、この時私はナイトレイドという組織に対してあまり興味がなかった〝強力だが、所詮は金銭目的で行動する集団〟この程度の認識であった

 

 甘かった、と言われれば何も言い返せない、私もまさか連中が後の〝革命〟に関わってくるだなんて毛ほども思わなかった

 

 

 

 

 そして何より、エスデス将軍が関心を寄せている事について、何故もっと思索を巡らせなかったのか、今になっては自分の愚かさを憎むばかりだった

 

 

 

 



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二話

世の中には様々なニーズがある

 

これが欲しい

こうした方がいい

こうするべきだ

この方が合理的だ

 

 

 そういった人々の需要によって様々な人間がそれを満たす為に心血を注いできた、言ってしまえば国家ですら、人々がより安心安全に暮らしたいという需要によって生まれた代物である、と、私は考えているわけだが、まぁそんな事はどうでも良く

 

 突然何を言い出すのかと思うかもしれないが、このニーズと言う言葉が、私がこのナイトレイド追っかけ作戦をする上で極めて重要なワードになる、それは当然ナイトレイドを消したい帝国政府のニーズに応えているからでもあるのだが、目的とは別に、手段においても多いに人々のニーズに頼り切っていたからである

 

 

 事の発端はとある善良な軍人の義憤であった

 

 

『戦場を生き抜いた兵士達が社会復帰できずに苦しんでいる』

 

 

 その軍人は軍の中でも上級の身分の者で、当然社会的地位も高かった、また軍人でありながら、珍しく宮殿に勤めており、軍と文官の連絡を担う役職の総括をしている男だった、当然そんな男が無能な訳もなく、文官としての合理性と戦士としての人情を持ち合わせた稀有な人材であった

 

 戦役が終わり、当然のように勝利した帝国であったが、毎度戦争が終わるたびに大量の負傷者が出る、殆どの者は帝国の支援を受けながら故郷の家族に身を寄せるのだが、そうもいかない者達もいる、そうゆう者達は大抵誰も知らないところでのたれ死ぬのだが、最悪野盗に身を堕とす者まで出た、それが1人2人ならば捨て置くことも出来ただろうが、部隊丸ごと野盗に転職した挙句、貧しい若者や他にあぶれた退役軍人に戦闘訓練を施し、犯罪シンジケートなるものを組織する者まで出始めた

 

 彼らの悪行は数え切れないほどあるが、まぁそれは置いておいて、とにかく、帝国が、帝国の国民を帝国の金を使い育て上げた軍人が、あろうことか帝国に害なす存在に生まれ変わってしまったのだ、こんなに馬鹿な話はない。善良な軍人としては、心情的にも合理的にも到底受け入れられない話だった

 

 そこで思いついたのが『退役武官』という制度、これはまぁわかりやすく言えば軍人から民間のボディーガードや守衛などに転職できる制度である

 個人的なツテではなく、民間の公募に対し国から斡旋を行うのだ、政府としてはこれで全てとは言わずも一定の進路は確保できるし、公募をかけた家族や企業は苦労せず『実戦経験』のある兵隊を雇用できる

 

 戦争はしたくないが行くあてのない兵隊、せっかく鍛えた兵隊を何とか有効活用したい帝国、『実戦経験有り』のステータス付きの兵士が欲しい貴族、正にそれぞれのニーズを叶えた素晴らしい政策である

 

 で、何でこんな話を長々と続けたのかと言えば、察しの良い人は気が付いたかもしれないが、この『退役武官』という制度によって我々はナイトレイドについて探ることとなったのだ

 

 

 

 

 

 

 

2話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、部隊全員分の退職届を出したのはそう言う事か」

 

「そうなんですよ、ちゃんと理由があるんですよ、だからせっかく手間暇かけて書いた辞表を紙飛行機にして窓から飛ばさないで下さいよ!」

 

「最初からちゃんと説明してればこうはならないのだ、お前どうせ私を驚かせようとか浅はかな事考えていたのだろう、これは報いだ」

 

「ごめんなさい!すみませんでした!だからやめて!」

 

「ダメだ」

 

「うぎゃあ〜!」

 

 

 スーと空間を滑るように、エスデス将軍の紙飛行機が北の空を駆けてゆく、さらば私の辞表、部隊の全員分書くのに5時間くらいかかったけど、全部無駄になっちゃった

 

 全ての紙飛行機を自然に還したエスデス将軍は、北方特有の北風を感じ取り、ピシャリと窓を閉じた

 

 

「で、何の話だったか」

 

「え?私今のメンタルで話し続けないといけないんですか?」

 

「当たり前だろうが」

 

 

怒られてしまった

 

 さて、私が将軍の下へ来たのは、他でもないナイトレイドの追跡についてである。大前提として我々は極力戦闘をしない、少なくともナイトレイドに対しては追跡と監視が精々だ、何でそんな指示をするのかはわからないが、まぁ命令なら仕方ない

 その上で、我々の軍人としての立場は正直言って足枷になり得る。何をするにしても申請がいるし、何よりナイトレイドに警戒される、殲滅が目的なら別に構わないが、私の任務は後に続くエスデス将軍のお膳立て、ナイトレイドを調査し、分析、彼らに対する理解を深め、行動を先読みしてエスデス将軍の前へ追い立てるのだ、さながら猟犬のように

 

 その為には、やはりまずは観察だ、ナイトレイドを刺激せず、かつ監視に適した距離まで近づける役が良い

 

となると

 

 

「我々は部隊を幾つかのユニットに分け、それぞれ違った視点でナイトレイドを分析しようかと考えてます」

 

「具体例としては?」

 

「はい、まずは私と副官のロックウェル准尉、そして数名の部下を連れて警備隊へ出向します、名目上は警備隊に対する戦闘指導ってところですけど」

 

 

 帝都警備隊は、今かなり微妙な立場にある、ナイトレイドが暴れ回っている間彼らは特に有効な対策を取れていないからだ、正直仕方ないと思えなくもない、隊員の練度と武装を見るにナイトレイドを相手するには不十分だ、戦闘の無い内地勤務であるのだから、まぁ当然である

 だからこそ、私の要求は通るだろう、こんな私でも一応一線級の兵隊だ、佐官である以上部隊教練の過程も履修している、勿論これで警備隊をナイトレイドと渡り合える部隊にする、なんて事は絶対に不可能だ、残念ながら地力が違いすぎる、でも多少マシにはなるし、警備隊としても『最前線の兵士をアドバイザーとして雇った』と言う事実が作れれば、最低限サボっていた訳ではないと説明できる

 

 と言うのが表向きの理由

 

 

「実際は、警備隊が引いているナイトレイドの捜査線に加わる為の建前です」

 

 

 そう、こっちが私の本命、いま帝都で誰よりも血眼になってナイトレイドを追っかけているのは間違えなく警備隊だ、結果は伴わずとも情報だけならかなり確度の高いものが揃っていると思う

 まぁ最悪、エスデス将軍が到着した時に私が警備隊とパイプを持っていれば、その分動きやすくもなるだろう、敷居は高いがメリットは大きい、やるだけの価値はあるのだ

 

 

「その他の隊員については貴族の護衛や情報屋、場合によっては殺し屋などに身を窶し、様々な角度からナイトレイドを観察して、私に報告して貰います」

 

 

「ふむ……」

 

 

 エスデス将軍は顎に手を当てて押し黙る、この人は、まぁ所謂天才だ、凡人が論理立てて漸くたどり着く結論を半ば直感で答えを導き出す、それは戦闘において殺人的な思考のキレを生むのだ、が、別に日頃から直感をもとに動いているわけではなく、普段は部下に合わせてしっかりと会話の順序を揃えてから話してくれる

 言うなれば、彼女の思考は凡人とは真逆で、先に結論を出してから、それをどう他人に伝えるかを考えている、破天荒に見えて、その実この人の頭は極めて立体的かつ合理的に動いている、その点を理解しているかどうかが、将軍と仕事をする上で大事になるのだ

 

 私はまだ計画の2割も話していないが、たぶんもう全体の9割くらいは理解している

 

と、思う

 

 

「…話の大前提になるんだが『退役武官』を利用するのは良い、だがその後お前達が望んだ役職に就ける保証は無いぞ?一度軍隊を辞めてしまえばその後の人事は文官の領域だ、そもそも公募が出ているとも限らない…ハッキリ言うが博打が過ぎる、と感じる」

 

 

 うん、流石に気がつくか

 

 エスデス将軍の言う通り、私の計画には致命的かつ大きな穴がある。『博打が過ぎる』とは正にそのとうりで、私や数人の部下の警備隊出向組は、おそらく通る、だが他の部下達はそうでもない、そもそも本来なら順番が逆なのだ、先に民間の公募があり、文官の人事が『退役武官』に応募した軍人から適正のあるものを斡旋する、決して軍人側の要望に沿って民間企業へ送る訳ではない

 この制度は、軍人の救済措置であると同時に、文官の権威誇示のためでもある、軍事独裁である帝国において、自分達も決して無視できる存在ではないと知らしめる、そういった側面も持つのだ

 仮にもし、軍人が望んだ職業につきたいならば文官側への強いパイプが必須だ、当然、私はそんなもの持ってない

 

だからこそ、私がここに来たというもの

 

 

「そこは、将軍のいわゆる『コネ』に頼るしかないです」

 

「…ほぅ?」

 

 

 エスデス将軍はニィと笑った、怖い

 

 

「私のような戦争屋に政治的なコネがあると思うか?」

 

 

 試すような深い笑み、そうと知らないものが見たら見惚れるほど美しいのだが、私を含め北軍の兵士は知っている、エスデス将軍は笑ってる時が一番ヤバいのだ、具体的には敵をいたぶってる時とかめっちゃ笑ってる

 いや別にこの状況は何も責められるような事はないので、単純におもしろいから笑ってるんだろうけど、トラウマが蘇っておしりがムズムズしてしまう 

 

 

「私も無いと思ってましたけど、ナイトレイド狩りに限らず、将軍が作戦を指揮なさるのなら必ず陛下の御裁可が必要になりますから、将軍が志願なさったにしろ、要請を受けたにしろ、戦後をほったらかして新しい戦に出るなら何かしらの根回しがないと可決されませんよ」

 

「ん?じゃあ何だ、お前もしかして私にナイトレイド狩りを要請した奴を頼ろうとしてるのか?」

 

 

 何だ?エスデス将軍が急に口をへの字にして難しい顔をしている

 

 

「そのとうりですけど、え?何か不味いですかね」

 

「…いや、不味くはないが…不味いかな?いや、だいぶマズいな」

 

 

 え?え?なになに?急にエスデス将軍がボソボソ言い始めた、何か凄い不穏な事言ってる気がする、やめた方がいい感じ?結構良いプランだと思ってたんだけど

 

 

「いやあ、これは勿体ぶった私が悪いな」

 

「その、さっきから言ってる意味がよくわからないのですけど、何か問題があれば仰って下さい、最悪予備の計画もあります」

 

「大臣なんだ」

 

「…ん?」

 

「だから、大臣なんだよ、私にナイトレイド狩りを要請してきたのは」

 

「…総務大臣のセイギさん?」

 

 

 

「文民指導大臣のオネストだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然であるが、我が国はかなり腐っている

 

 役人や貴族は金と権力に幅を利かせて好き勝手やるし、それを取り締まる筈の司法官や執行官すら既に汚職の常習犯と化している。

 では何故こんな事になってしまったのか、千年のあいだ安寧を保ってきた国家体制だ、当たり前だが汚職や不正に対する事後策も予防策も完成されたシステムが組み込まれていた

 

にも関わらず、国は腐り果てた

 

 私は政治の事とかはよくわからないが、人々は皆口を揃えて言う『大臣オネストのせいである』と、理由は単純で、彼が就任した時期と腐敗が横行し始めた時期が被るからだ、続いて人格者とされた高名な文官達が次々と失脚、ないしは謎の死を遂げ、空いたポストには能力に甚だ疑問が残るような、有り体に言えば無能が就いた、その背後を探れば何故か皆オネストに辿り着き、探った者もまた闇へと消えた

 

 と言うのが、その手の陰謀論が大好きなゴシップオタクの言い分で、私は話半分程度の認識だ、常識的に考えて人1人が国を腐らせるだなんて不可能だし、帝国の腐り具合は割と末端の役人にまで及んでる、そんな連中の悪事まで人のせいされては大臣もたまったものではないだろう

 

 

 

 総評として、私はオネスト大臣の事を『極めて有能、かつ誰の下にもつかないプライドと野心を持った生粋のサディスト』と言う認識を持った

 

 

 

これは、私がエスデス将軍に待つ印象と似通っている

 

 

 

「…まぁ、オネスト大臣なら不足はないですね、ただそうなると、彼方の利になるような事もしないといけない、また細部を練り直さないと」

 

 

 少々面食らったが、後ろ盾が大臣とは頼もしい、上手く事が運べばかなり行動に融通が効く、エスデス将軍が北方を制圧する前に何としてもオネスト大臣からの信用を得なければ

 

 と、今後の行動に思考を走らせていると、エスデス将軍は真顔でわたしを見つめていた、あれ?もしかして驚いてる?珍しいな

 

 

「そんなに見つめてどうしました?」

 

「いや、正直『えぇ!?お、オネスト大臣ですって!?辞めます、この作戦は中止です、帝国を牛耳る古狸と取引なんてできませんよ!』とか言って駄々こねるのかと思ってた」

 

「へんなモノマネしないで下さい…」

 

 

 いやまぁ、本音を言えば正にそのとうりだ、一語一句間違ってない、私は確かにそう言うだろう、だって実質この国で一位二位を争う程の悪者だ、うちの将軍といい勝負している、出来れば関わり合いになりたくはない、だが残念な事にそうはいかないのだ

 

 

「そりゃあ個人的な事を言われてもらえれば絶対に関わりたくない人種ですけど、仕事なのでワガママは言えませんよ、大臣を味方につけられる事のメリットが大きすぎる」

 

「リスクもデカいぞ?」

 

「リスクは何処にでもあります」

 

 

 そう、何をするにしてもリスクはある、なにせオネスト大臣には敵が多い、私が大臣との関係を密にすれば、そういった者達も敵に回す事になるし、最悪、大臣に取り入ろうする者にとっても邪魔になる事もあるだろう、その手の権力闘争に関しては私は素人だ、巻き込まれれば不利になるのは明白である

だがそんな事は関係がない、可能不可能の話ではないのだ

 

やるか、やらないか

 

 結局はこの二つに行き着く、そして任された以上〝やらない〟選択肢はない、私がダメなら他の者に任せる、それだけの話、残酷だが軍隊とはそういう組織だ

 何より、わたしの目の前にいる将軍こそ、到底無理な仕事を任されながら、その悉くを成し遂げてきた傑物なのだ、上官が模範を示している以上、部下はそれに倣わなくてはいけない

 

 

「そこまで言うなら、わかった、オネスト大臣には私から一筆認めてやる、どこかでアプローチが来るから見逃すなよ」

 

「了解しました」

 

 

 そりゃそうだ、白昼堂々会われたらこちらが困る、表向き退職した北軍の佐官と現役の大臣が面会だなんて、誰がどう見ても策謀の予兆だ、この時点で目立たないという前提が崩れる

 

 

「小隊の者には作戦が了承された旨、今日伝えます」

 

「ん、中途報告を忘れるな、第一報は一週間後だ」

 

「あの〜ここから帝都まで2週間なんですけど?」

 

「飛竜を一匹くれてやる、使え、退職金代わりだ、表向きな」

 

「成る程、至れり尽くせりと言うヤツですね、表向きは」

 

 

 表向き、そればっかりだが仕方ない、書類上私は明日北軍を退職する事になっている、何事も無ければ来週には警備隊に中途採用という形で入隊し、他の部下達も何かしらの職業に就く、だが実際は誰も北軍を辞めてない、ある程度情報が集まれば復員させるだろう

 だから明後日からの経歴はすべて偽造された物となる、いや、偽造ではないか、一応本当に就職して仕事をするのだから、ちょっと異色だが、キャリアを積んでいると思えば悪くない、別に出世に興味はないけどね

 

 さて、話すことは全部話したし、取り敢えずサポートのあては見つかった、あとは私が上手く立ち回るだけである

 

 

「……」

 

 

あ、聞きたいこともう一個あった

 

 

 

「将軍」

 

「何だ?」

 

「そういえば、私達の後に来る部隊ってもう決まってるんですか?」

 

「確定してるのはお前と、三獣士の面々だけだが、名前はもう決めてる」

 

「お聞きしても?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特殊警察『イェーガーズ』だ」

 

 




良ければ何ですけれど『僕の考えた最強の帝具』とかあればコメント欄に書いて下さい、ストーリーに組み込む訳ではないですけど、面白そうなので見てみたいです




鉄血制裁 『ビスマルク』

 血液を操る帝具、効果対象は2〜3m内(使用者の精神エネルギー量による為あくまで最低値)の視界に入った血液、ロングソードの柄の部分だけの武具、刀身は凝固させた血液で刃こぼれしても自分、もしくは他者の血液で賄える。一度でも斬りつけた傷口は血が止まらず、かすり傷ひとつでも放っておけばいつか死ぬ、能力の理解と即座に止血できる技量が必須、また逆に斬りつけた部分の血液を凝固させ血流を妨げる事もできる

奥の手 ブラッドボーン

 疫病に感染した血液を霧状に放つ、血液による接触感染であるため、防毒マスクをしても毛穴から侵入してしまう、疫病の感染者は免疫力が極端に下がり、生命力がジワジワと削られながら衰弱死する、また飛沫により他者へ疫病を蔓延させてしまう、防ぐには毒霧を霧散させるほどの風圧か防護服を着るしかない

 絶対に使用者を選ばないが、奥の手の特性上、この帝具を手に持った時点で疫病に感染するため、決死の覚悟か、疫病の健康保菌者である事が条件

歴代の使用者は、みな女性であった


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三話

救い難い亀更新、誠に申し訳ありません


〝おい雌豚ァ!遊びに来てやったぞ!出て来い!〟

 

 

 聞こえた、聞こえるように言ったのか、大きな声ではないけど、不気味なほど鎮まりかえった路地裏では、よく聞こえた、その声から遠ざかるように走ってはいるが、足を引きずったままでは厳しそうだ、じきに追いつかれる

 

 

〝くせぇな!臭うぞ、うす汚ねぇ混血の匂いだ〟

 

 

 声は一人、でも足音はたくさん、靴底の硬い材質なんだろう、石造りの地面をコツコツと鳴らしながら近づいてくる、捕まればアレでしこたま踏んづけられるのだ、死んでしまう、逃げないと

 

 

〝どうした負犬!足が痛むか?昨日は右脚を折ってやったな!今日は左脚を折ってやる、お前みたいな豚の血が混じった家畜はな!無様に這いつくばって腰振ってりゃ良いんだよ!〟

 

 

 やばい、声が近づいて来てる、もうすぐ後ろの角をアイツらが曲がったら私を視界に捉える、歩調は早いが足音は大きくない、多分早歩きで来ているのだ、それでも距離は徐々に縮まっている、走ってこられたらおしまいだ、追いつかれる、間に合わない、でも逃げないと

 

 

〝落ちぶれる前は兵隊だったらしいがな!今のお前はただの負け犬だ!俺たちみたいなゴロツキに追われちまってよ、惨めなもんだなぁ!おい!〟

 

 

 あ、金属音が聞こえた、ウソだろ、鉄パイプかバールかわからないけど、ぶん回す獲物を持ってる、アレで殴られたら絶対どこか折れる、いや、最悪〝穴〟に突っ込まれるかも、いやだ、二度とごめんだ、でも走れない、右脚が折れてる、アイツらに折られた、散々レイプしたくせに、散々殴ってきたくせに、最後に脚まで折られた、その辺に転がってるレンガで何度も叩きつけてくるのだ、それが昨日の事、アドレナリンはとっくに切れた、少し動く度に激痛が直に脳を刺激する、壁に寄っ掛かってなければ立つこともできない、でも逃げないと、左脚を折るって言ってた、そしたら明日からは這いつくばる事しかできない

 

 

〝見つけたぞ!ノロマな豚だな!ハッハッハァ!〟

 

 

 見つかった!?クソ、脚が痛い、ぜんぜん前に進まない、怖くて振り返ることもできない、もうアイツらの息づかいまで聞こえてきそうだ、どうしよう、捕まる、また乱暴される、今度は死んじゃうかも、いや、運良く生き残ってもコイツらはまた明日来る、そしたらいずれ殺される、なら戦う?無理だ、武器も無いし、服も着てない、それにもう、仲間もいない

 

 

〝待てって言ってんだろうがッよ!〟

 

 

ぼぐぅ と鈍い音、振りかぶった鉄製の何かが私の背中を強打した、衝撃で、倒れ込む、そのまま髪を掴まれ、顔面を地面に叩きつけられた、何度も、何度も

 

 

〝思い知れ!この国に混血の居場所なんざありゃしねぇんだよ!どこにいようとも必ず見つけて、痛めつけてやる!こんな風にな!〟

 

 

 また背中を鉄パイプでぶん殴られた、体を丸めて少しでも頭に当たらないようにしているけど、それでも痛い、絶叫するほど、でも叫んではいけない、下手に声を出すと余計に怒るのだ、だから体を丸めて耐え忍ぶ、これが嫌だから逃げて来たのに、どこに行ってもこんな感じで嫌になる

 

 

〝声を出さないな、抵抗のつもりか!生意気な奴め!〟

 

 

何だ、黙ったら黙ったで怒り出すのか、どうすりゃいんだよ

 

 途方にくれる一方で、この後にされる事は知っている、コイツらは狡猾なのだ、最初に暴力で痛めつける、体を壊し抵抗の余地をなくしたあと、存分に楽しむのだ

 

カチャカチャカチャとベルトを緩める音が聞こえる

 

 

〝咥えろ〟

 

 

嫌だね

 

髪を掴まれる

 

 

〝咥えろ!〟

 

 

間抜けめ、いつまでもそうしてろ、絶対にしてやるもんか

 

 

〝咥えろって言ったんだろ!〟

 

「ゲートハート隊長?」

 

 

 

 

 

「ッ!?ハッ!」

 

「おはようございます隊長、随分ぐっすり寝てましたけど、余程良い夢だったのですね」

 

「あ〜いや、うん、そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっき突風にぶつかってもの凄い揺れたんですよ、それでも貴女は起きなかった、いやぁ凄い、なんて無神経な人なんだ」

 

「無神経の使い方それで合ってる?」

 

 

 全身を包み込むような風に包まれ、私は青空を駆けている、比喩では無い、本当に空を飛んでいるのだ、随分不愉快な夢を見たが、今目の前に広がる光景こそ余程夢のようである、だが実際飛んでいるのだからどうしようも無い

 

 さて、また突拍子もない事を言ってると思われる前に説明しておくと、我々、と言っても小隊から抽出した私含め3名であるが、現在帝都へ向かっている、理由はもはや言うまでも無く、ナイトレイドについて調査するためだ

 

 その上で、まず先発して小隊を受け入れるだけの設備を整える必要があった、我々ボルゾイは6人を一個分隊とし、それを5分隊保有する総勢30名の部隊だ、軍全体で見たら吹けば飛ぶような勢力だが、30名の人間が一同に会する事ができる場所は帝都では限られている、しかも隠密に事を運ばなければならないのだから大変だ、モーテルに泊まるわけにもいかないし、仕事と拠点それぞれ大臣に無心しなくてはならない、向こうもある程度は承知しているであろうが、やはり直接言わねば伝わらないこともある

 

 そうゆうわけで、小隊の中で竜騎兵(ドラグーン)である私と他2名が先行して帝都に向かっているのだ

 

 残りの部下達が帝都に着くのはおよそ7日後、飛竜に乗って行けば2日で着く、この5日間にできるだけの準備をしなければならない、まぁ、それもこれも帝都までの道のりが順調に進んだ場合の話だ、私達が帝都に着くのが遅れれば準備期間が減り、部下達の到着が遅くれれば準備期間は増えるが、肝心の調査が遅れる

 

 なるべくいそげ

 

 これに尽きる

 

 

「フータオの調子はどうだ?かれこれ6時間ぶっ通しで飛んでるだろ、疲れてないか?」

 

「まさか!進路さえ決まってれば後は上昇と滑空を繰り返すだけですからね!人間で言えば歩いているようなものです!まだまだ彼女は余裕ですよ!」

 

「頼もしい!引き続き宜しく」

 

「寝ないでくださいよ?フータオは大丈夫ですが、後20分したらゲートハート少佐が乗るんですから、寝ぼけた頭で彼女の首に乗ったら振り落とされますからね!」

 

 

 フータオとは我々が乗せてもらっている飛竜の名前だ、赤い鱗の竜で、珍しい竜種の中では比較的よく見る部類の竜だ、肉食だが温和で賢く、単独で狩りを行うのに群れで生活をしている

 

 本来なら決して人間に御せられるような生き物ではないが、幼体の内に人間のコミュニティで育てれば、人の言葉を理解しこうして背に乗ることも許してくれる、だから竜を操る者にとってもっとも重要なのは、まず竜に〝乗せてもらっている〟という自覚と、人語を話さない彼らの機微を理解し、互いに互いを尊敬し合う関係を築き上げる事なのだ、故に、ドラグーンの多くは相棒の竜を名前、もしくは〝彼〟〝彼女〟と呼ぶ

 

 

「ところで少佐!」

 

「うん?」

 

「天測が間違ってなければ明日には帝都に着きますけど、フータオはどうすれば良いんですか?たしか帝都の上宮って飛行禁止区域ですよね?あの辺に彼女を繋げる施設なんてありましたっけ?」

 

 

 フータオに乗っているフロスト軍曹が訪ねてきた、まぁ当然か、普通は輸送に竜を使ったらそのまま部隊に返す、だが今回は我々が運用するのだ、一等竜を愛しているフロスト軍曹からしたら気になるところだろう

 

 

「私は帝都の近くで降ろして良いよ、二人はそのまま宮殿へ向かって、近くまで行けば近衛のドラグーンが近づいて来ると思うから、彼らの誘導に従って着陸しなさい」

 

「いきなり攻撃とかされないですよね?」

 

「飛び立つ前にフータオの首に帝国旗を模したネックレスみたいなのつけたでしょ?アレは伝令兵の証だから、攻撃はされないよ、多分」

 

「あぁ、あれフータオがつけるの嫌がって凄い大変だったんですよ」

 

 

 その時を思い出したのか、フロスト軍曹は顔を顰めた、強く賢く、また気高い竜は、それでいて繊細な生き物だ、背中に操竜用の鞍をつけるのも激しく嫌がる、その辺が難しく、だからこそ乗れる竜と乗りこなすドラグーンは貴重なのだ

 

 

「俺がフータオの首にたくさんキスしてやったおかげで機嫌が取れましたがね、こんなのはつける物じゃない」

 

「う〜ん?私には〝もう付けるからキスはやめて〟って言ってるように見えたけど」

 

「まさかぁ〜?」

 

 

 なんて、下らない会話をしながら、私はゴーグルと手持ちの背嚢を持ちフロスト軍曹が座る首元に四つん這いで近づく、何度か言ったと思うが、我々は3人組で竜を操る、普段はそんな事ないが、長距離を飛ぶ場合は交代要員と予備を含めて3人でローテーションをする、何だかんだ、竜を操るだけでも風の抵抗に耐えながら天測をして飛んでいく方位を決めなきゃならない、意外と体力と集中力を使うのだ

 

 

「交代するよ、今どの辺?」

 

「説明します、地図を出して下さい」

 

 

 この世界にはレーダーもなければGPSも無い、それどころかおよそもっとも精度が高いとされる軍用の地図すら精度はあまり期待できない、そんななか、広い帝国領内において今自分がいる位置を正確に測る事は難しい、まして馬とは比べられない程早く動いている竜の上なのだから尚更だ

 

 結論から言えば、我々の今の技術では正確な座標を測る事はできない、ではどうやって進む方角を知るのかと言えば、それは〝天測〟と呼ばれる技術を使う

 

 やり方は簡単、まず地図と方位磁石を出して、方位磁石の北と地図の北を合わせる、その後に現在時と時期を照らし合わせ、昼なら太陽、夜は星を目印にしてそれぞれの方角を出す、後は北の方角と太陽(夜なら星)に交差する地点から山や町などの著名な地物を目印にしておおよその地点を割り出す

 

 これがまぁ、言うは易しと言うか、理論はわかるが精度が上がるまで慣れとセンスがいるのだ、幸い私もフロスト軍曹もそれなりに場数は踏んでる、まぁそう多くはズレないだろう

 

 

「先程ニジリ山脈を越えるのに大きく迂回したため、現在は山脈の北から西に回って南東へ向かってます、これ以降は標高700mを超える山脈はないので、現在の方位のまま進めば明日の昼には帝都に着きそうです」

 

「うん、でももうそろそろ春になるよ、洞窟で眠ってた危険種が目覚めるかも、あんまり肥沃な土地の上は飛びたくないな、寝起きで獣は皆んな飢えてる、フータオが遅れをとる事はないけど、機嫌が悪くなるかも」

 

「ならフィリル渓谷は迂回しますか?ただそうなると必ずロブの森を通らないといけませんよ、あの辺は天候が不安定ですぐに雨が降る、向かい風と豪雨でずぶ濡れになりながら飛ぶのと、雲の上に出て低酸素と日照りに焼かれるの、どちらが良いですか?」

 

「甲乙付け難いね」

 

「個人的には多少危険でもフィリル渓谷を通った方が良いと思いますよ、我々の荷物には書類もありますから、一応防水処置を施してますけど、やはり濡れないこした事はない」

 

 

 あーだこーだ言いながら、手に持った地図にバツをつけてゆく、それらは飛行する上で避けなければならないポイントで、そこを迂回するように飛んで行かねばならない、めんどくさいが、空を飛ぶと言うのは地形による経路の不自由から解放される代わりに、逆に地に足をつけることで得る恩恵を手放す事になる

 

 まぁ、何事にもメリットデメリットはある、これは仕方の無いことである、重要なのは選択肢を持つ事だ、有効な手段の中から良いものを選べている内は幸いなのだ、最悪の中から〝マシ〟な道を選ばなければならない時もある

 

閑話休題

 

 

「じゃあこのままフィリル渓谷を抜けて帝都へ向かうと言う事で、天測と経路の修正頼みましたよ、俺は寝ます」

 

 

 流石に疲れたのか、航空の引き継ぎが終わったと判断したところで、フロスト曹長は仮眠に入るようだった、竜の背中にくくりつけられたロープにカラビナを引っ掛け、そのまま前足兼翼の付け根に移動していった、そのままロープに体重を委託して寝るのだが、いつ見ても落ちてしまわないかハラハラする、実際ロープの取り付けが甘いとそのまま落ちてしまう事もあるが、まぁ最悪フータオにキャッチして貰えれば良い、彼女も器用なので、自由落下する人間を後脚で捕まえる事くらいこの高度なら楽勝だ

 

絶対に何処かしらの骨は折れるけどね

 

 

「寝るの?」

 

「えぇ、ダメですか?」

 

「いや、おやすみ」

 

 

 最低限の申し受けを終わらせ、私は首にかけていたゴーグルを嵌めた、冬に入る前の乾燥した空気が首筋を撫でる、寒風が服の中に入らないように私は外套のボタンを一番上まで留めた

 

 

「あと半日だよ、よろしくフータオ」

 

 

 フータオから返事はない、ただ長い首を少しだけよじってわたしの顔を確認すると、また何も言わず正面を向いた

 

 天則が正しければ、多分明日には帝都に着く、そう、着いてしまうのだ、忌まわしき帝国の都、千年続いた偉大なる帝国、その繁栄のシンボル、地方の者にとっては正に憧れの街だ

 

 市民権一つ手に入れるために、地道に行くなら3世代にも渡って帝国の公職につき忠誠を示さねばならない、故に彼らは皆何よりも血を重んじ、帝国人である事を誇りに思う、それは同時に隔絶された身分差を産んだ、皇族、貴族、豪商、軍人、様々な身分の者が帝都に住んでいるが、彼らは共通して純血を尊ぶ、そして何よりも混血を忌み嫌うのだ

 

 

混血、つまりハーフ、私と私の部隊の事である

 

 

 今までは軍人である事が私を差別から守ってくれていたが、今やそれも無い、大臣と接触し、彼にうまく取り入らなければナイトレイドの追跡どころでは無いのだ

 

 そんな事エスデス将軍も分かりきっているのに、何で我々にこんな任務託したのかは、正直さっぱりわからないが、まぁ何か理由はあるのだろう、どのみち我々に選択肢は無い、やれる事をやるしかないのだ、今や私たち〝ボルゾイ〟の居場所は北軍をおいて他に無い、我々が生き残る為にもエスデス将軍に失望されるわけにはいかない

 

 不安は無い、我々ボルゾイにはいつも後がないのだ、それでも仲間と共に幾つもの苦境を乗り越えてきた、生き残ること、それこそボルゾイの掟であり、その為ならば手段は選ばない

 

 

 たとえ毒蟲が跋扈する魔都であろうとも、邪魔するならば踏み潰すまでだ

 

 

 

 

 

 

「……私も、随分エスデス将軍に毒されてるなぁ」

 

 

 




『ぼくの考えた最強の危険種』や『ぼくの考えた最強の帝具』などがあったら感想欄に書いてみて下さい、ストーリーに出すかは分かりませんが、面白そうなので見てみたいです


例)


名前: 怒癪(どしゃく)

等級: 一級危険種

 全身を真っ赤な毛皮で包んだ大きな猿、体長は4メートル程で人間に近い骨格をしている、全身を覆う赤紅の体毛と般若面によく似た顔から気性の荒い凶暴な動物と思われがちだが、実際は優しく温厚な生き物、草食で枯れた大木などを食べて生きている、威圧的に見える外観は雌の気を引くためのシンボル、体毛の紅が鮮やかである程モテる

 地方によっては〝猩々〟とも呼ばれており、繁殖期には雄が山の中腹で雄叫びを上げながら踊り出す、踊りのキレがイマイチだったり体毛がくすんでいたりすると雌に見向きもされず、ツガイを得られなかった若いオスは悲痛な叫び声を上げながら山奥に消えてゆく、これがちょうど秋に差し掛かる時期なので、山の麓の人々は怒癪の泣き声を合図に稲を刈り取るそうだ

 非常に温厚で滅多に生き物を襲うことはないが、それは彼らに天敵と呼べる生き物がいないだけであり、一度怒り出すと手がつけられない、毒や発電器などの特別な器官は備わっていないが、単純に力が強い、目安として怒癪一世帯で小国の軍隊並み、特級に至らないのは一重にその温厚な性格が故である


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四話

お疲れ様です、予防注射の副作用を甘く見ていたせいで地獄を見ました、皆さんも予防注射を打つ際は解熱剤と冷えピタくらは準備していた方が良いですよ


          質問票

 

 

 栄えある帝国軍の末席に名を連ね、恐れ多くも陛下より賜りし名誉ある職務、大栄帝国陸軍第一近衛師団隷下首都警備大隊長たる貴官に、今一度その責任を問う

 

 帝国暦XXXX年XX月XX日に行われし文民指導大会に於いて、警備隊の任務遂行について重大な過失があると議題が挙げられた、議題の提出者(匿名)によれば、ナイトレイド(仮称)なる営利犯罪者集団による犯罪が横行しており、尚且つ警備隊による対処が不十分であるとの指摘を挙げた

 

 帝都は栄えある大帝国の繁栄の象徴であり、偉大なる皇帝陛下のおわす神聖不可侵なる都であれば、言うまでもなく不正ならびに犯罪の横行など論外である、しかしながら、既に起きてしまった事実を無に帰す事は不可能である、であればこそ、事後処置に手間取る事などあってはならない、正に言語道断である。現在事実確認を執り行っている次第であるが、これにより其の方の過失が認められた場合、誠に遺憾であるが現職を辞さねばならい事を深く認識して貰いたい

 

 常であれば、この様な雑事が議題に挙がる事それそのものが異常であり、その時点で貴官の過失は最早疑い様な無い事であるが、慈悲深い大臣並びに格官吏の決定により、警備隊に対し今一度弁明の機会を賜るとの事ここに達する

 

 

・ ナイトレイドに関する情報の開示

 

・ 現在警備隊が行なっている対処行動

 

・ 今後予測される犯行並びにその予防措置

 

・ その他副案の構想

 

 

 上記4項目につき、十分な根拠のもと嘘偽りなく説明されたし

 

 

 繰り返すようであるが、本来この様な事態になる事そのものが、既に貴官の資質がその職務に比して不足である事を深く認識し、その上で挽回の機会を得られた幸福を噛み締め、3日後の総務調整会議にて寄り集う高名なる大臣並びに文民官吏皆々様へ簡潔明瞭なる説明によって、方々をご心労させるあらゆる不足が万事杞憂である事を証明せよ

 

 

 帝都の守護を担うその誇り高い職責に誓い、此度の任一分の不足なく完璧にやり遂げ、もって偉大なる皇帝陛下への忠誠を示せ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4話

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都警備隊の長あるオーガにとって、人生最悪の日は本日をもって更新された

 

 

 突然である、何の前触れもなく帝都警備隊の公用便に乗って、それはオーガの執務室に送られてきた、これといって特徴の無いごく普通の文書であったが、中身を見たオーガは思わず二度見した

 

 中に入っていたのは招聘状と簡素な質問表、そしてそれらがオーガの下へ送られるに至った経緯と理由、今後の行動を記した文が、古めかしい語彙と高圧的な文章で綴られていた

 

 

「クソが!何だって急にこんな事!?上には大事にならないよう手は打ってただろうが!連中にはわざわざ金まで払ってやったのに!クソがぁどうなってんだちくしょう!」

 

 

誰もいない隊長室でオーガの悪態は止まらない

 

 ナイトレイド、最近羽振り良い暗殺集団である、2月ほど前に突如として現れ、その過激な殺し方と死人の多さから一気に注目の的となった、被害に遭うのは決まって後ろ暗い噂が流れる貴族や豪商、果ては政府の役人に至るまで、正に天をも恐れぬ所業と言える

 

 一見して義賊とも取れる行動であり、腐敗が蔓延る現在の帝国おいては決して相容れないタイプの者達であると、当初のオーガは彼らの排除に重い腰をあげようとも思ったが、どうもクライアントからはしっかり金を巻き上げているあたり、やはり所詮は殺し屋なのだと判断して、オーガは彼らを刺激しない事に決めた

 

 勿論、いくら帝国が腐りきっていようとも、流石に殺人は犯罪だ、営利目的であっても許される行為では無い、それでもオーガが静観を決め込んだのは、一重にナイトレイドの保有する武力を警戒したが故だ

 

 ナイトレイドが殺し回った連中は、全員下衆だが自分が殺される程恨まれている事くらいは自覚していた、故に自己の保身には熱心な者達である、当然護衛は雇っていたし、質も数も十分に備えていた、しかし、ナイトレイドはそれらを悉く殺し尽くしてみせたのだ、中には標的を殺害してから逃げる護衛の背中を切った跡すらあった、徹底した皆殺し、余程身元がバレたくないのか、或いは唯の気狂いか

 

 兎にも角にも、そんな連中と一戦交えればどうなるのか、馬鹿でもわかる、勝敗は別として夥しい量の血が流れるだろう、そうなればもう警備隊長としてのオーガのキャリアは終わりだ、そしてそれは実質オーガの敗北である、断じて受け入れられない

 

 この男にとって、自身の人生を棒に振ってまで行う正義など何一つとして無いのである

 

 

「ナイトレイドのクソどもがぁ、忌々しいぜ!今すぐぶっ殺してやりてぇ!やりてぇが……それはもう、良い」

 

 

 怒り狂った様子から一転、オーガはすぐに落ち着きを取り戻した、この男とてなにも腕力と恫喝だけで警備隊長の椅子に座ったわけではない、相応に頭はキレるし知恵もある、魑魅魍魎が跋扈する帝国において狡猾さと残虐性は出世する為の必須科目なのだ

 

 

「ナイトレイドは…もうどうでも良い、今更何をしても無駄だ、問題はこの難局をどう乗り切るか」

 

 

 自身の執務室の椅子に座り、じっくりと頭を働かせる、妙に落ち着くオーガの椅子は、もともと備え付けられている物ではない、金と権力にものを言わせて買い取った高級品だ、このお気に入りの椅子に座り続けるためにも、今しくじるわけにはいかない

 

 

「どうする?どうやったら宮殿の狸どもをだし抜ける」

 

 

 机に両肘をつきながら、オーガの頭は既に議場でボコボコに叩かれる自分の姿が浮かんだ、現状のナイトレイド捜査線はお世辞にも順調とは言えない、寧ろ悪い、何かの間違いで警備隊がナイトレイドと接触しないように対策チームには積極性に欠けるものを集めた、チームリーダーには能力のある者をつけたが、情報収集に徹して派手な行動は控える様に言いつけている、具体的な成果は望むべくもないだろう

 

 この時点で既に詰みであるともいえる、言い訳など百も二百も思いつくが、おそらくどれも相手にされない、文官達は確かな成果を欲している、口先だけで煙に撒けるとは思えない、彼らは揚げ足を取るスペシャリストなのだ

 

 

「嘘は論外だ、説明だ何だ言っちゃいるが、どうせもう俺らよりもずっと質の良い情報を持ってるに違いねぇ、下手をうてば終わりだ」

 

 

 この場合、敵はナイトレイドというより宮殿にいる文官達である、彼らは明らかにオーガの地位を奪いに来ている、事ここに至るまで何の準備もしてないなどありえない、根回しと調整を重ねて必殺の布陣で責め立ててくるだろう、1日や2日の準備でどうにかなるわけがないのだ

 

 

 だがやるしかない、オーガはかつてない程頭を稼働させるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既にオーガの頭の中には夥しい数の言い訳が浮かび、その悉くを論破される姿が思い浮かんだ、そうして嫌になる程のシチュエーションをイメージしていると

 

 

それは突然オーガの頭の中に落ちてきた

 

 

「……いや、何かおかしいな」

 

 

 ストーンとあらゆる思考を飛び越えてオーガの頭にひとつ違和感が芽生えた、それはある種当たり前で、何で今まで気がつかなかったのか不思議なくらい当然の疑問だった

 

 敵の強大さは想像するに余りある、全く歯が立たないであろう事も、だからこそわからない

 

 

「何でこんな面倒臭い真似して俺を消しにかかるんだ?下手に猶予があるのもわからねぇ、何より連中がその気になりゃ俺なんて通知ひとつで解任できる、この手間は何だ?」

 

 

 何とも腑に落ちない、考えれば考える程、敵の姿と想像する手段が噛み合わないのだ

 

 

 自慢するような事ではないが、オーガは世渡り上手である、弱者から搾り取り、強者へ貢ぎ媚を売る、残った金で私服を肥やす、典型的な腐敗役人だ、それが寄生虫が如き卑しい行いである事はオーガも重々承知している、だがそうでなければ生き残れない時代なのだ

 

 打ち捨てられた死体と、それに群がる蛆虫がいたとして、どちらになりたいかと聞かれれば、醜くとも飢えることのない矮小な虫に成り下がる事もオーガは受け入れる

 

 それに、慣れたしまえば案外忌避感はなかった、もともと自分はこうゆう人間なのだと思えば、寧ろ現在の帝国は理想的な環境と言える、あらゆる生物が日のもとで生きれる訳では無い、暗く澱んだ不浄な世界でしか生きれない者もいるのだ

 

 

閑話休題

 

 

 兎にも角にも、オーガという人間はまかり間違っても強者を敵に回すような立ち回りはしない、その事を大前提として考えれば、今回の攻撃は単にオーガよりも都合の良い駒を警備隊長の椅子に座らせたい何者かの陰謀、という事になる、そこでまた最初の疑問に戻るのだ

 

何でこんな回りくどい真似をするのか?

 

 

「何だぁ?何か根本的におかしいぜこりゃ」

 

 

 違和感はどんどん膨らんでゆく、オーガの経験上相手の意図の読めない行動と言うのは、単に相手が狂人であるか、オーガの感知する事柄から外れた所にある企みであるか、である、この場合は間違いなく後者であろう

 

 

「俺を消すネタなんぞいくらでもある、そう考えりゃナイトレイドを名指して出すあたり、本命はやっぱアイツらの排除か?」

 

 

 スルスルと紐解くようにこんがらがった状況が整理される、腐っても策謀渦巻く帝国を生き抜いて来た男だ、長年の経験が複雑に絡み合った因果の意図を解してくれるのだ

 

 

どこの誰かもわからない者が、どうやら一つ芝居うつらしい

 

 ソイツはこれから行われる件の〝総務調整会議〟に参加している、そして必ず議題にナイトレイドを出す筈だ、帝国政府高官の前でソイツは如何にナイトレイドが危険な存在か声高らかに囀る筈だろう、そしてオーガの出番である、オーガは自己の保身のためにナイトレイドに対する備えは万全であると言う、そこでまたソイツはロクに捜査もしていない警備隊の実情を赤裸々に話す、自身の有能さをアピールしつつ、臆病な政府高官の恐怖心を煽り、最終的にはおそらく警備隊の大規模な改革を提案する筈だ、弱腰で保身的な前任の隊長、要はオーガを解任し、自分の手駒を新しい警備隊長に仕立て上げるために

 

 

「俺はダシに使われるって事か」

 

 

 何の根拠もない唯の憶測でしかないが、何故だか異様にしっくりきた、事実どうであるかは別として、オーガはこの予測を前提として考える事にした

 

 とは言え、依然として状況は最悪のまま動いていないのだ、敵の最大目的がナイトレイドの殲滅だったとしても、その過程でオーガの排除が組み込まれているなら、オーガにとってはそれが全てだ、何としても阻止しなければならない

 

 

「さて、どうするか」

 

 

 そして話は振り出しに戻る、結局のところ警備隊の現状ではこの状況を打開する事は出来ないのだ、今から捜査方針を変える事も可能だが、それは明らかに責任追求を逃れる為の苦し紛れの言い訳にしか見えないし、実際そうなのだから困ったものである

 

つまるところ、オーガが生き残るために必要なのは

 

1 ナイトレイドを殲滅させる具体的なプラン

2 計画が実現可能な根拠

3 警備隊長がオーガでなければいけない理由

 

 

 最低限、上の三つは明確に説明できなければならない、更に言えば、まずもってこれらは敵の目的がナイトレイドの殲滅である、という大前提のもとに組み上げられている、だがそれすら何の根拠もないオーガの妄想なのだ

 

 か細い、余りにもか細い希望の糸である、それしか無いとわかっていても手を伸ばすのを躊躇うほどに

 

 

「だがやるしかねぇ」

 

 

 オーガにはもう後も先もない、ヒラ隊員から警備隊で勤務し、煌々と燃える野心を燃料に絶えず努力し続けて来た、この警備隊長という椅子に座るまで、今は正に若い頃に積み上げた努力が報われている所なのだ、人生の絶頂期である、それをこんな道端の石を退かす程度の感覚で退場させられるだなんて許せない、絶対に許せないのだ

 

 何より、積み上げて来たのは何も努力だけではない、上にのしあがるためにはライバルは蹴落とさねばならないのだ、今ちょうどオーガがそうされているように、彼もまた他者を貶め踏み台にして今に至る、溜め込んだ恨みも相当なものだ、もし今警備隊長の座から転げ落ちれば、自分が地獄に堕とした者達の復讐に遭う可能性がある、オーガが警備隊長でいる事は、彼の人生を豊かにしてくれるだけでなく、脅威から身を護る盾でもある

 

 

 逆に言えば、警備隊長でないオーガなど、もはや唯の腐り切った粗暴な大男でしかない、生きて帝都から出られる事はないだろう、栄光から転落して惨めな腐乱死体でしかなくなった人間を、オーガは散々目にして来たし、そのようにした事もある

 

 

「そうだ、俺はこんなところじゃ終わらねぇ!誰だか知らねぇがこの俺をそう簡単に引きずり下ろせるとは思わねぇ事だ!」

 

 

硬く拳を握りしめ、オーガは決意を新たに行動を開始した

 

 

 まずは何も知らずに仕事をサボり続けているナイトレイドの対策チームのケツを蹴り飛ばし、明日中にナイトレイドに関する情報を纏めて報告するよう指示をした、出来なければクビだと脅したのだ

 

「言っとくがクビってのは仕事の話じゃねぇぞ、テメェの空っぽな頭をくっつけてるそれの事だ、トばされたくなきゃ結果を出せ!この無能どもがぁ!」

 

 蜂の子を散らすように仕事にかかる面々を見て、オーガは少しだけ気分が良くなった

 

 

 続いて彼らの報告があがる間に、オーガは警備隊に関わる法律をもう一度勉強し直した、実に10年ぶりに警備隊の教本を開く事になる、警備隊の成り立ち、理念、使命、歴史、それらを大事なところだけマーキングし、受験生さながらの勢いで勉強し直した、3日後の総務調整会議にて自分の印象を良くする為には、知識的な補強が必要不可欠なのだ、それも些細な違いでしかないが、少しでも良くなるのならやらない理由はなかった、オーガは寝ずに一夜漬けをまる2日敢行した

 

 

「もぅ無理ですよ〜!今何時だと思ってます!?」

 

「おはよう諸君!まだいける」

 

「昨日だって30分しか寝てないんですよ!」

 

「大丈夫だ、逆に大丈夫だ。」

 

「何ですか逆って!」

 

「お前らが舐めた報告書を作るのが悪い、小学生の作文じゃねぇんだぞ、こんなもんチンパンジーでも出来る」

 

 

 勿論ナイトレイド対策チームにも同じルーチンで仕事をして貰う、当然今まで緩い業務を続けていた彼らは悲鳴をあげた、もともと業務ができる者達でないのだ、報告書一つ作るのに何度も失敗してはやり直し、失敗してはやり直す、誤字脱字は勿論の事、言葉遣い一つ言い回し一つのミスすらオーガは許さなかった

 

 

 元来オーガは努力家だったのだ、自分の為になる努力は絶対に惜しまない、それこそ正にオーガが今の地位に上り詰めた所以である

 

 そして、まる2日の夜なべを行い、対策チームの報告書の点索、修正、編集、それらの合間を縫った猛勉強、その他通常業務を無事完遂し、遂にオーガの手元には質問票の回答書が握られていた




 『ぼくの考えた最強の危険種』や『ぼくの考えた最強の帝具』などがあったら感想欄に書いてみて下さい、ストーリーに出すかは分かりませんが、面白そうなので見てみたいです

ストーリーの感想もお待ちしてます

追記

 別に帝具でなくとも臣具でも良いですし、危険種であっても特級である必要はありません、書きたい事を書いて頂いて結構です


例)



四死累々 『カトルカール』


 サバイバルナイフの形をした帝具、四種類のそれぞれ効果の違う毒を刃に生成する、どれも強力だが一部を除き死には至らない、どちらかと言えば武器というより拷問器具、四種類の毒はそれぞれ帝国法で死罪にあたる悪徳を示している

誘拐

 非常に強力な神経毒、かすっただけで全身が麻痺して動けなくなる


脅迫

 脳に作用する毒、五感から得られるあらゆる情報にストレスを感じるようになり、神経をすり減らしながら徐々に発狂していく


 拷問

 血中から神経に潜り込み、体の末端から激しい痛みを生み出す、毒というより恐ろしく小さい寄生虫で、人間の神経に鉤爪のような脚を引っ掛けながら身体の中央に移動する、寄生虫の本体は被害者の脳に住み着いており、痛みを和らげる為に分泌されるアドレナリンを食べて成長する


 暗殺

 非常にシンプルな毒で、心臓を動かす筋肉を弛緩させ対象を殺害する、似た効果で〝村雨〟と呼ばれる帝具の呪毒と対比されるが、まったく別物



奥の手 屍姦

 口にするのも憚りき五つ目の悪徳、死体を斬りつけ発動させる、斬りつけた死体が媒介となりあたり一帯に伝染病を拡散してさせてしまう、感染者は血中の赤血球が崩れてゆき体に酸素が行き届かなくなる、やがて手足の先から腐り落ちるように死んでゆく。この伝染病により死亡した者の体が新たなウイルスの温床になるため、死体は必ず焼かねばならない


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