前回のあらすじ
カイザー「師範の【サイバー】デッキ……《サイバー・オーガ》の3枚以外は【マシンナーズ】ばかりで――もはや【マシンナーズ】デッキなのでは?」
鮫島「……贅沢者め」
平和な学園生活から一転して、闇色の霧のようなモヤに囲まれた明日香たちは困惑の只中にいた。
「い、一体なにが起こっているの……」
――ユベル! これって!
『ああ、闇のデュエルだ。アイツ、今までのセブンスターズとは別物みたいだね』
「佐藤教諭、あの女は一体……」
「詳細な説明は省きます。彼女は『カミューラ』、テロをもくろむ犯罪者とでも考えてください」
「……? そんな危険人物が何故アカデミアに?」
「あら? 何も教えて貰ってなかったのね。酷い先生たち」
十代とユベルが目配せする中、万丈目たちがパニックにならぬよう簡潔に情報を開示した佐藤だが、カミューラは恐怖感を煽るように薄く笑みを浮かべて説明を追加してみせる。
「可哀想だから教えてあげるわ。この学園には世界を支配できる程の強大な力――幻魔の力が眠っているのよ。私はそれを頂きに来たって訳」
「……それって確かコブラ校長が言っていた学園の伝承の話よね?」
「所詮は尾ひれのついた昔話だと思っていたが……」
――この謎の空間……まるっきりデタラメという訳ではないらしい。
しかし、彼らも仮にもフォース生――多少のことでは崩れぬメンタルを以て明日香と万丈目は自分たちの置かれる状況を把握していくが、十代が待ったをかけた。
「でもよ、万丈目! だったら警察でもなんでも通報すりゃあ良かっただけじゃん! なのに何で……」
「落ち着け馬鹿者。それなら、あの女は襲撃を取りやめれば良いだけの話だ」
「……コブラ校長は司法機関を動かせる程の確証を用意できなかったのね」
『まぁ、こんな荒唐無稽な話をされても普通の人間は困るだろうさ』
とはいえ、十代のある種の当然の疑問が万丈目たちによって説き伏せられれば、その光景にカミューラはパチパチと軽い調子で拍手し嘲わらうように賞賛してみせる。
「おりこうさんね――でも安心なさい。私の狙いは遊城 十代なの。アンタたちに用はないわ」
『気を付けろ、十代。こいつ、真っ当なデュエリストじゃない』
「遊城くん、下がっていなさい」
「アはハは! 意外と勇ましい先生ね! でも残ァ念、一度始まった闇のゲームは何人たりとも介入できないのよ!」
そうして、己の目的を明かしたカミューラは十代を庇うように前へ出た佐藤を大きく裂けた口で嘲笑って見せる。
「だから其処で大人しく生徒が傷つく姿を指でもくわえて見ていなさいな!!」
やがて、裂けた口を元に戻したカミューラは十代を指さしながらデュエルディスクを構えて見せた。
もう、逃げ場などないのだと示すように。
そして嗤い声が響いた。
『うひひ!』
「――ッ!?」
大きく身体を揺らしながら彼らの周囲をクルクルと回るのは白と紺のタキシードにも見える衣装を纏った球体状の白い頭を持つ人型の大道芸人こと《ジョングルグールの幻術師》。
『うひひひっ!!』
「今度は何だ!?」
「な、なにこれ!?」
「精霊……じゃない?」
『ああ、違うよ、十代。「これ」はもっと悍ましいなにかだ』
そんな何処か異様な姿の《ジョングルグールの幻術師》が赤い2重丸の目玉をギョロギョロ動かし嗤いながら万丈目たちの周りをウロチョロして踊り続ける姿に、その本質を十代とユベルが掴み始めれば――
『ぴんち だね。ぴんち だね! ぴんち だね!!』
「そっちも闇のアイテムは持ってたって訳ね……」
「まあ、そんなところです」
――精霊の鍵【下級】、使用者に闇のデュエルへの多少の耐性と優先権を与える代物。あの人の置き土産ですが……
カミューラと佐藤の周囲をオーバーなポーズを一々取り、裂けたような広い口に歯を剥き出しにしながらクルクル周回し始める《ジョングルグールの幻術師》へ佐藤はカミューラへ心中を悟られぬようにしながら思案する。
なにせ、オカルト課の生み出した「
そうした無意識化で「得体のしれない」との佐藤の認識が精霊の鍵【下級】のアバターを《ジョングルグールの幻術師》なんて得体のしれない代物として定着させている。
『だいじょうぶ。だいじょうぶ? だいじょうぶ!?』
「この鍵を持つ者がいる限り、貴方は遊城くんはおろか他の面々へ闇のゲームを仕掛けることは叶いません」
――
そう、闇のゲームを自在に行使できる闇のアイテムを持つカミューラに反し、佐藤のそれが持つメリットはハッキリ言って見劣りする。
ゆえに背後から佐藤の肩に手を置いて《ジョングルグールの幻術師》が己の頭を佐藤の右肩、左肩へと交互に乗せるウザったらしい行為に晒される中、佐藤はデメリットをまるでメリットのように語ってみせた。
『がんばれ。がんばれ! がんばれ!!』
「ふん、ようするにアンタを倒せば問題ないって話でしょう!!」
「ええ、お相手願いましょうか」
やがて、佐藤の背中を全身を使ってバシバシ叩いていた《ジョングルグールの幻術師》はカミューラたちがデュエルディスクを構えた瞬間に――
『せいぜい がんばれ』
捨て台詞と共に闇へ溶けていくように消えていった。
「 「 デュエル!! 」 」
かくして始まった闇のデュエルの先攻を得た佐藤はデッキに手をかけカードをドロー。
「私の先攻、ドロー。魔法カード《強欲で金満な壺》を発動。エクストラデッキを6枚除外し、2枚ドロー。『スカブ・スカーナイト』を召喚」
砕け散った壺の残骸から濃水色の装甲に身を包んだ人型の兵器が心臓と手足の関節部の赤い宝玉を鈍く光らせながらゆっくりと歩み出る。
(ほぼ同じ効果の《惑星からの物体A》)
『スカブ・スカーナイト』 攻撃表示
星1 光属性 爬虫類族
攻 0 守 500
「更に永続魔法《
佐藤LP:4000 手札1
『スカブ・スカーナイト』攻0
伏せ×4
《
VS
カミューラLP:4000 手札5
そんなかつてない程にアッサリ終わった佐藤のターンを余所に、十代たちの意識は散々ふざけまくっていた精霊の鍵【下級】のアバターたる《ジョングルグールの幻術師》の消失へと注がれていた。
「アイツ、なんだったんだ?」
『あくまで佐藤を闇のゲームとやらに参加させる為の代物だったみたいだね』
「俺に分かる訳がないだろう」
「……今の私たちはデュエルの結果を見守るしかないようね」
とはいえ、行動含めて意味☆不明すぎて考える余地すらなかった為、明日香の言う通りデュエルへと意識を向けた方が遥かに建設的だろう。
「あら、随分と貧相なモンスターね。私のターン! ドロー! 魔法カード《トレード・イン》でレベル8《冥帝エレボス》を墓地に送り、2枚ドロー! 更に――」
そんな最中、カミューラは連続手札交換に勤しんでいた。今しがた発動した《トレードイン》を筆頭に――
魔法カード《
墓地に送られた《
最後に2枚目の魔法カード《
――攻撃力0に大量のセットカード……どう見ても罠。不用意に攻め込みたくないけれど、コイツは遊城 十代の
「《ヴァンパイアの幽鬼》を召喚! 効果発動! 手札の【ヴァンパイア】を墓地に送り、デッキから【ヴァンパイア】のレベル5以上を手札に、レベル4以下を墓地へ!!」
カミューラの確かな警戒心の只中で黒いローブの黒髪の青年ヴァンパイアが闇より現れ、その真っ白な腕の肌に己の爪を突き立てれば、人を狂わせるような血の香りが広がり――
《ヴァンパイアの幽鬼》攻撃表示
星3 闇属性 アンデット族
攻1500 守 0
「更に墓地に送られた《ヴァンパイアの眷属》の効果! 手札の【ヴァンパイア】を墓地に送り、復活!」
滴り落ちた血から逆再生のように新たな姿が形成され、その身の半分が影に覆われた白猫となってカミューラの肩に飛び乗った。
《ヴァンパイアの眷属》攻撃表示
星2 闇属性 アンデット族
攻1200 守 0
「まだよ! 復活した《ヴァンパイアの眷属》の効果! ライフを500払いデッキから【ヴァンパイア】魔法・罠1枚を手札に加えるわ!」
カミューラLP:4000 → 3500
そんなカミューラの肩の《ヴァンパイアの眷属》がカミューラの首筋を甘噛みすれば《ヴァンパイアの眷属》の瞳が真っ赤に輝いた後、「ニャー」と一鳴きすればデッキよりコウモリの群れが1枚のカードに変質しながら手札に集っていく。
「そして今、手札に加えた永続魔法《ヴァンパイアの領域》を発動! ライフを500支払い【ヴァンパイア】1体を召喚する! 来なさい! 《ヴァンパイア・ソーサラー》!!」
カミューラLP:3500 → 3000
やがてフィールドにコウモリを模した杖が突き立てば、その周囲をヴァンパイアたちの世界――夜と影の世界に変えていく中、地面の影がせり上がるように姿を現し、
紫色の手の平に掴まれた装飾のある黒い法衣に身を包んだ長い緑髪の男がコウモリを模した杖を地面から引き抜きながら、つばの広い魔法使いのような帽子を手に会釈してみせた。
《ヴァンパイア・ソーサラー》攻撃表示
星4 闇属性 アンデット族
攻1500 守1500
「バトル!! 《ヴァンパイア・ソーサラー》で『スカブ・スカーナイト』を攻撃!」
そして《ヴァンパイア・ソーサラー》はつばの広い帽子をかぶった後、己の杖を敵へ向ければ地面より影の槍が現れ『スカブ・スカーナイト』を貫き、その装甲に傷を刻んでいく。
「ですが永続魔法
「でもダメージは受けて貰うわ! 更に永続魔法《ヴァンパイアの領域》の効果! 【ヴァンパイア】が与えたダメージ分、回復よ!」
「ぐっ……!!」
だが、倒れぬ『スカブ・スカーナイト』の装甲の破片が返り血のように《ヴァンパイア・ソーサラー》へかかる中、その余波が佐藤の身に実際のダメージとなって襲い、己の身を打つ衝撃を前に、僅かに佐藤は己の顔を苦痛に歪ませる。
佐藤LP:4000 → 2500
カミューラLP:3000 → 4500
そうして、佐藤を切り裂き血の代わりに生命エネルギーが霧散すれば、それらは血の如き赤い液体となったヴァンパイアたちを潤していった。
――伏せカードを発動しない? ブラフ? それとも条件を満たしていないだけ? いえ、関係ないわ!!
「更に《ヴァンパイアの幽鬼》で『スカブ・スカーナイト』を攻撃よ!!」
無防備でダメージを受けた佐藤をカミューラは怪訝に思うも攻勢の意思を見せれば、《ヴァンパイアの幽鬼》が白い腕を突き出し、
しかし、今度も何事もなく『スカブ・スカーナイト』の装甲を傷つけ佐藤はその余波を受けてたたらを踏んだ。
そして此方も同様に返り血代わりに飛び散った『スカブ・スカーナイト』の装甲の破片が思わず顔を隠した《ヴァンパイアの幽鬼》の腕に付着していく。
佐藤LP:2500 → 1000
カミューラLP:4500 → 6000
「……あら、呆気ない最後ね。なら止めよ! 『スカブ・スカーナイト』を始末なさい、《ヴァンパイアの眷属》!」
「永続罠《ディメンション・ガーディアン》と、罠カード《ダメージ・ダイエット》。破壊を回避し、このターン受ける全てのダメージを半減します」
「このタイミングで!?」
かくして止めとばかりに《ヴァンパイアの眷属》が「ミ゛ャ゛ー!」と可愛くない声を上げて跳び掛かり『スカブ・スカーナイト』へ爪を振るうが、その爪は『スカブ・スカーナイト』の装甲を覆った白いオーラに僅かに阻まれパキンと圧し折れる。
そうして折れた爪が飛んで行き佐藤を僅かに傷つける中、『スカブ・スカーナイト』の装甲の破片に汚れた爪が折れた痛みに「ミ゛ャ゛ォ゛オ゛ン゛ッ゛!」と可愛くない声と共にゴロゴロと可愛い感じでのたうち回る《ヴァンパイアの眷属》。
佐藤LP:1000 → 400
カミューラLP:6000 → 6600
だが、そんな《ヴァンパイアの眷属》の七転八倒を余所に万丈目たちは不可解さを覚えていた。
「佐藤教諭は何をされているんだ……?」
「えっと……最初の攻撃で発動していれば、もっとダメージは減らせていた筈よね?」
「……先生って、ひょっとしてそんなに強くないのか?」
『どうだかね。オカルト課にいた奴らは変なのばっかりだからボクには分からないよ』
なにせ、罠カード《ダメージ・ダイエット》は「発動ターンの間の全てのダメージを半減する」カード。
先程の状況では明日香の言う通り最初の攻撃の時点で発動しておくのがセオリーだろう。
「……酷い言われようね。でも恥じることはないわ。闇のゲームの恐怖でまともにデュエルできないなんて、よくある話よ」
しかし、十代たちの懸念を他ならぬカミューラは否定してみせる。なにせ闇のデュエルは命すら弄ぶ残酷な代物。
そんな危機的な状況にて平時と変わらぬようにデュエルできる方が少数派だ。
「バトルを終了して――」
「バトルフェイズ終了時、『スカブ・スカーナイト』の効果発動。このカードとバトルしたモンスターのコントロールを得ます」
「ッ!?」
ただ、佐藤はその少数派側だった。
『スカブ・スカーナイト』を傷つけたヴァンパイアたちの武器や腕に、カサブタのように貼りつく呪いが彼らから正気を奪いフラフラと『スカブ・スカーナイト』を守るように歩を進めていく。
「私の相棒たる『スカブ・スカーナイト』はバトルしなければ、その真価を発揮できませんから」
「チッ、人間風情が私の同胞たちを、よくも……!!」
そんな奪われて行くヴァンパイアたちの姿に、過去に目の前で同胞の命を奪われた光景がフラッシュバックするカミューラは小さく歯嚙みする他ない。
「……攻撃を誘導する為のプレイングか」
「破壊を防ぐ《ディメンション・ガーディアン》があるのに《
「だからって、ライフがたった400になっちまうのは危なくねぇか?」
『幾ら3体のモンスターを奪う為だからって、ハイリスクなプレイングではあるね』
やがて万丈目たちも不可解な佐藤のデュエルへ僅かに理解を示すも、何処か納得しきれない中、人の悪意を良く知るカミューラは挑発して見せるが――
「ああ、そういう
「おや、意外と馬が合うかと思ったのですが」
「あら、意外と軟派だったなんて驚きよ」
堪えた様子のない佐藤の姿を前に、軽口を以て会話を打ち切ったカミューラは思案する。
――手痛い反撃だけど大局に問題ないわ。精々得意気になってなさい。
「今度こそバトルを終了し、カードを2枚セットしてターンエンドよ」
「では、そのメインフェイズ2の終了時に永続罠《連撃の帝王》を発動。その効果によりアドバンス召喚します」
そして、次のターンへの盤石な備えを持ってターンを終えたカミューラへ佐藤はフィールドに手をかざしながら宣言すれば、奪われた3体のヴァンパイアたちが苦悶の声を漏らし始める。
「3体のモンスターをリリースし、《神獣王バルバロス》をアドバンス召喚」
さすればヴァンパイアたちの命を握り潰しながら獣の四脚を持つ獅子の獣人が咆哮と共に現れた。
やがて、贄を握り潰し血に染まった手の平より、ヴァンパイアの血を以て深紅の突撃槍を形成し――
《神獣王バルバロス》攻撃表示
星8 地属性 獣戦士族
攻3000 守1200
――……成程ね。奪ったモンスターを素材に強力なモンスターを呼び出していくタイプのデッキ。
同胞の無残な最期を前に、少しでも得られた情報を整理するカミューラは己の伏せた2枚のカードへ視線を向ける。
――でも、伏せたカードは新たな【ヴァンパイア】を呼び出す《ヴァンパイア・アウェイク》に、カウンター罠《ヴァンパイアの支配》……挽回は十二分に可能よ。
「3体のモンスターをリリースしたバルバロスの効果、相手フィールドの全てのカードを破壊します」
「――ッ!?」
「トルネード・ジャベリン」
そんな中、《神獣王バルバロス》より深紅の突撃槍がカミューラのフィールドに放たれた。
当然、その一撃が大地に着弾すれば、その破壊の奔流は最後に残ったカミューラのフィールドの2枚の伏せカードを粉砕。
結果、更地へと変えたフィールドに残るのは大地に突き刺さった一本の突撃槍のみ。
「【ヴァンパイア】たちはお返しします。どうやら大事になされている様子だったので」
「……気が利くのね」
「よく言われます」
「――チッ、ならメインフェイズ2を続行よ! 魔法カード《一時休戦》! 互いに1枚ドローし、次のターンの終わりまでお互いはダメージを受けない!!」
やがて嫌味すら意に介さない佐藤へ、意識を切り替えたカミューラはなけなしの己の2枚の手札の1枚に手をかけた後、墓地こと散って行った同胞たちへと手をかざす。
「まだよ! 墓地の《ヴァンパイア・ソーサラー》の効果! 自身を除外し、1度だけ【ヴァンパイア】召喚のリリースを0にする!」
さすれば墓地に眠る《ヴァンパイア・ソーサラー》のコウモリを模した杖だけが、カミューラのフィールドに顔を出し――
「そして墓地の《ヴァンパイアの幽鬼》を除外し、ライフを500支払って【ヴァンパイア】を召喚!!」
カミューラLP:6600 → 6100
その杖が贄となって消えていく中、血風が吹き荒れた。
「現れなさい! 《ヴァンパイア・ロード》!!」
やがて逆巻く血風の只中より黒いタキシードを纏った青みがかった白髪の青年が空中よりマントを翼のように揺らしながら現れ、同胞たちの命をもてあそんだ下手人を冷たく見下しながら地に降り立つ。
《ヴァンパイア・ロード》攻撃表示
星5 闇属性 アンデット族
攻2000 守1500
「カードを1枚セットして今度こそターンエンドよ!!」
佐藤LP:400 手札1
『スカブ・スカーナイト』攻0
《神獣王バルバロス》攻3000
伏せ×1
《
《連撃の帝王》
《ディメンション・ガーディアン》
VS
カミューラLP:6100 手札0
《ヴァンパイア・ロード》攻2000
伏せ×1
かくして、デュエルの流れを大きく引き寄せた佐藤はカミューラという存在を一先ず推し量ってみせる。
――最低限は立て直して来ましたか。腕は悪くはない――が、疑問が残る。この程度であの人を出し抜けるとは思えない……「何かある」と考えるのが自然でしょうか。
良く言えば「弱みがない」、悪く言えば「凡庸」――カミューラから突出して秀でた部分、つまり「警戒に値するもの」が佐藤には感じ取れなかった。
「私のターン、ドロー。早速バトルと行きましょう。バルバロスで《ヴァンパイア・ロード》を攻撃」
雄たけびを上げながら大地を駆け抜ける《神獣王バルバロス》を前に《ヴァンパイア・ロード》が己の血をコウモリのような形に変えて弾丸の如く放ってみせる。
だが、突撃する《神獣王バルバロス》が左腕の大盾で一薙ぎすれば全て弾かれ血へと戻り地面を汚し――
「でも《一時休戦》の効果でダメージはないわ!」
《神獣王バルバロス》の突撃槍に貫かれた《ヴァンパイア・ロード》の身体はピシリ、ピシリとひび割れていくと同時に色を失い最後は灰となって崩れて消えた。
「そしてモンスターが破壊されたことで罠カード《セットアッパー》を発動! デッキから《メタモルポット》を裏側守備表示で特殊召喚する!!」
しかし、その灰の中からうごめく何者かがカードの裏面に隠れて現れる。
「では『スカブ・スカーナイト』で裏側守備表示の《メタモルポット》を攻撃」
「リバースした《メタモルポット》の効果! お互いは手札を全て捨て5枚になるようにドローする!! 私の手札は0! そのまま5枚ドローよ!!」
「2枚の手札を捨て、新たに5枚ドローさせて貰います」
とはいえ、灰の中から現れた壺は『スカブ・スカーナイト』の両手で挟むように掴まれ、地面に叩きつけられ砕け散る。
と思いきや、地面にめり込んだまま未だ己が無事な事実に壺こと《メタモルポット》は壺の中から目玉をギョロギョロと動かして辺りを見回した後、去りゆく『スカブ・スカーナイト』の背にホッと気を緩めた途端に壺から大量のカードがお互いの手札へと飛び散った。
《メタモルポット》裏側守備表示 → 守備表示
星2 地属性 岩石族
攻 700 守 600
「バトルを終了し、魔法カード《アドバンスドロー》を発動。レベル8の《神獣王バルバロス》をリリースし、2枚ドロー。カードを1枚セットしてターンエンドです」
やがて臣下の礼を取るように跪いた《神獣王バルバロス》が光となって消えていき、姿形をカードに変えて己の手札へ戻らせる佐藤。
だが、5枚のドローを得たというのに、このターンもあまり動きを見せずにターンを終えた。
佐藤LP:400 手札5
『スカブ・スカーナイト』攻0
伏せ×2
《
《連撃の帝王》
《ディメンション・ガーディアン》
VS
カミューラLP:6100 手札5
《メタモルポット》守600
そんな動きらしい動きが少ない佐藤のデュエルを前に、万丈目たちは旗色の悪さを感じ始めていた。
「この5枚のドローは佐藤教諭にとって厳しいものだな……」
「ええ、折角《神獣王バルバロス》で不意を突いて相手のリソースを大きく削ったのに即座に補充されてしまったわ……」
「それに『スカブ・スカーナイト』の効果が分かってりゃ攻撃しなきゃ良いだけだもんな」
『まぁ、どちらにせよ、キミが危ない目に合わなそうでボクは一安心だよ』
なにせ、明日香の言う通り《メタモルポット》の5枚のドローは佐藤にとってプラスよりマイナスが多く、『スカブ・スカーナイト』の戦術の穴も十代が直ぐ察せられる程度に対策は容易なのだから。
そういった具合で十代たち視点では勝負の流れを取り戻せつつあるカミューラだったが――
「私のターン、ドロー!!」
――っ! このカードは……! でも……
ドローしたカードを視界に収めた途端に、その手は止まる。
それは凡そ確実に勝利を約束する1枚――だが、同時に非道な行いを前提にした1枚。
そして、タニヤとアビドス三世に「
その1枚の闇のカードが手招きするような誘惑にカミューラの心は揺れる。
十代たちは「カミューラが勝負の流れを取り戻しつつある」と考えているようだが、実際に闇のカードの1枚を除いた5枚の手札の内実を知るカミューラの考えは違う。
――攻撃力0が相手じゃ、《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》の効果で装備カードにすることも出来ない……
今、用意できる範囲では『スカブ・スカーナイト』を突破する材料がなく、
――《冥帝エレボス》の効果でデッキに戻す? ダメよ。2体のリリースに召喚権を用意できない。それに、最初のターン発動しなかった伏せカード……恐らく、『スカブ・スカーナイト』を守るカードの筈。
よしんば多くのリソースを払って『スカブ・スカーナイト』を無理やり突破しようにも、それが防がれれば5枚の手札を有する佐藤とのリソース差は広がるばかり、
――魔法・罠カードを破壊できるカードを引くまで待つべき? いいえ、時間を与えれば相手の盤面はより強固になっていく……
消極的な時間稼ぎが脳裏を過るも、《神獣王バルバロス》にフィールドを一掃された件が突き付けられる。
――相手のライフはたったの400……後一撃、一撃で良いのに……
たった400ぽっちのライフを前に足踏みしなければならない状況が、勝利を目前にしているカミューラには只々歯痒い。
――アイツの風前の灯火のライフを守るのは、たった2枚の伏せカード。2枚の伏せカードが守り……
だが、此処でカミューラの視線は佐藤の最初のターンに伏せられたカードを捉えた。
それと同時に己が大きな思い違いをしていた事実に気づく。
――いや、違うわ。
「私は《メタモルポット》をリリースし、2枚目の《ヴァンパイア・ロード》をアドバンス召喚!!」
突如として《メタモルポット》の潜む壺を砕く程のおびただしい血が溢れ出せば、その血液が竜巻のように逆巻き始め、その血の渦より《ヴァンパイア・ロード》がマントを翻しながら再臨。
《ヴァンパイア・ロード》攻撃表示
星5 闇属性 アンデット族
攻2000 守1500
「私はカードを1枚セットしてターンエ――」
「そのメインフェイズ1の終了時、永続罠《竜星の極み》を発動。これにより、攻撃可能な場合は必ずバトルしなければなりません」
――かかった!!
そして即座にターンを終えようとしたカミューラを前に、動きを見せた佐藤の姿にカミューラは己の直感を信じ、己の手札の1枚に手をかけた。
「ならメインフェイズ1を続行! 墓地の《ヴァンパイアの使い魔》の効果! 手札の【ヴァンパイア】を墓地に送り復活! その効果によりライフを500支払いデッキから新たな【ヴァンパイア】を手札に!」
カミューラLP:6100 → 5600
やがて己の首筋を差し出し、その血を吸った影のコウモリたちを手札から繰り出してみせる。
さすれば数多の影のコウモリこと《ヴァンパイアの使い魔》たちはカミューラのデッキに飛びつき、1枚のカードを運び出せば――
《ヴァンパイアの使い魔》守備表示
星1 闇属性 アンデット族
攻 500 守 0
「そして《ヴァンパイア・ロード》を除外し、真なる始祖よ、今ここに顕現したまえ!」
《ヴァンパイア・ロード》の身体がボコボコと脈動を始め肥大化し始めた。
「――《ヴァンパイアジェネシス》!!」
そうして《ヴァンパイア・ロード》の肉体を内側から弾き飛ばしながら、紫色の肌を持つ筋骨隆々な化け物のような姿を現したヴァンパイアの始祖は円状の翼を広げ、生誕の雄たけびを上げた。
《ヴァンパイアジェネシス》攻撃表示
星8 闇属性 アンデット族
攻3000 守2100
「墓地の《
「では《再臨の帝王》を選びましょう」
「どれを選んでも同じよ! 墓地の《冥帝エレボス》の効果! 手札の『帝王』カードを墓地に送り、攻撃力2800守備力1000のカード――《冥帝エレボス》自身を手札に戻す!」
かくして《ヴァンパイアジェネシス》が手の平を大地にかざせば、墓地より《冥帝エレボス》の闇色の魂が手中に収まり――
「そして《冥帝エレボス》を墓地に送り、《ヴァンパイアジェネシス》の効果! 《冥帝エレボス》のレベル以下のアンデット族1体を復活させる!! 舞い戻れ、《ヴァンパイア・ロード》!!」
《ヴァンパイアジェネシス》の血と共に握りつぶされ滴り落ちた血だまりより、先程弾け消えた《ヴァンパイア・ロード》が真祖の血を浴びた姿で舞い戻る。
《ヴァンパイア・ロード》攻撃表示
星5 闇属性 アンデット族
攻2000 守1500
「さぁ、今度こそ遠慮なく行かせて貰うわ! バトル!!」
――前提条件が間違っていたのよ!
そう、カミューラは思い違いをしていた。如何にして厄介な『スカブ・スカーナイト』を退けるか、そればかり考えてしまっていた。
――あの男が『スカブ・スカーナイト』を守り切る必要なんて何処にもない! 危なくなったら《連撃の帝王》でアドバンス召喚のリリースにすれば良いだけ!!
カミューラの考えはシンプルだった。佐藤に「『スカブ・スカーナイト』の維持をしている場合ではない」と判断させること。
「《ヴァンパイアの使い魔》で攻撃!!」
なにせ、今の佐藤のライフはたった400――小さな《ヴァンパイアの使い魔》たちを『スカブ・スカーナイト』に殺到させるだけで吹き飛ぶ程度しかない。
――仮にあの伏せカードがダメージを防ぐ類のカードであっても、1度が限度! なら2度目以降の攻撃を用意すればアイツは『スカブ・スカーナイト』を捨てざるを得なくなるわ!!
佐藤の残り1枚の伏せカードでライフを守りたいなら好きにすれば良い。
ライフを守り切れなくなった時が佐藤の最後。
「永続罠を発動」
――ほら、『スカブ・スカーナイト』を手放した!!
そうすればカミューラにとって邪魔な『スカブ・スカーナイト』は他ならぬ佐藤の手によって盤面から消える。
後は
そして、カミューラの読み通り、佐藤は残り僅かなライフを守るべく札を切った。
「永続罠《スピリットバリア》を発動」
カミューラが予想していなかった1枚を以て。
「…………え?」
佐藤を守るように半透明の壁が『スカブ・スカーナイト』ごと包んでいく光景に、カミューラは呆気にとられた声を漏らす。
「す、すぴりっと……ばりあ……?」
「ええ、これで私のフィールドにモンスターがいる限り、私のバトルダメージは常に0です」
そう、《スピリットバリア》により佐藤の元にモンスターが――『スカブ・スカーナイト』がいる限り、そのライフを傷つけることは叶わない。
そのカードの存在はカミューラも知っていた。いや、知っていただけに選択肢から無意識に除外していた。
「そ、そんなカードがあるなら……最初から発動してれば――」
なにせ、最初のターンから伏せられていたのだ。本来であれば最初の攻防の時点で発動しておくべきカードである。
「“ライフが残り僅かになることもなかったのに?”」
ゆえに動揺に揺れるカミューラの言葉の先を佐藤は引き継いで見せた。
当然である。最初のカミューラの攻撃の際に《スピリットバリア》を発動していれば、4000の初期ライフを維持できた。ライフを残り僅かにする綱渡りをする必要など何処にもない。
「『残り僅か』だからこそ意味があるんですよ。『後少しで倒せる』と攻め気が抑えきれない」
しかし、佐藤は生徒へ教え説くかのような口調で告げた。
誰もが「普通なら発動する」と考えるからこそ、「発動しなかった」のだと。
そうして間違った前提で推理させ、あの伏せカードは「《スピリットバリア》以外のカードだ」と幻影を追わせ、
己のライフを残り僅かにしてみせることで、誤った戦況を植え付け――
「――今の貴方のように」
罠にかかるのを待っていたのだと。
そう温和な口調で語る佐藤を前にカミューラはギリッと歯を食いしばり、呆けた己の意識に喝を入れる。
「バトルはキャンセルよ!」
「永続罠《竜星の極み》の効果をお忘れですか?」
「――ま、待ちなさいお前たち!」
だが、そんなカミューラの怒りに呼応するように『スカブ・スカーナイト』へ《ヴァンパイア・ロード》は血の弾丸を浴びせ、《ヴァンパイアジェネシス》は瘴気の旋風をぶつけてしまう。
さすれば、その衝撃ではがれた『スカブ・スカーナイト』の甲殻がヴァンパイアたちに呪いのようにへばりつき、その意識を奪っていった。
そうして残るのはカミューラのフィールドから離れ、佐藤のフィールドで――いや、『スカブ・スカーナイト』の元で虚ろな瞳で佇む3体の【ヴァンパイア】たち。
奪われていった同胞たち。
そう、再び同胞たちが奪われていく。
また全てが奪われていく。
カミューラの手の平から全てが零れ落ちていく。
「…………タ、ターンエンドよ」
「そのメインフェイズ2終了時、永続罠《連撃の帝王》の効果――《ヴァンパイアの使い魔》、《
更に闇夜の住人たる
やがて、太陽と見紛う輝きの天より現れたのは
《真竜機兵ダースメタトロン》攻撃表示
星9 光属性 幻竜族
攻3000 守3000
「魔法・罠カードをリリースですって!?」
――いいえ、それよりも今、此処で《スピリットバリア》を捨てるなんて……!?
「ええ、このカードは召喚に3体のリリースを必要としますが、永続魔法・永続罠もリリース素材とすることが可能です」
かくして、宙にて尾を揺らす《真竜機兵ダースメタトロン》の特徴的な召喚方法に動揺を加速させるカミューラ。
なにせ、あえてダメージを負ってまで温存した永続罠《スピリットバリア》を佐藤はアッサリ放棄したのだ。たった400のライフしか持たない身で。
カミューラの理解が追い付かない。
――なんなの、こいつ……闇のデュエルのダメージへの恐怖が一切感じられない。
もはや「闇のデュエルに負けた者の末路」を理解していないようにすら見える始末。
そう単純な話であればカミューラも迷わずに済むのだが、今までの佐藤の立ち振る舞いやデュエルを鑑みれば只々異質さだけがカミューラの目に映る。
佐藤LP:400 手札4
『スカブ・スカーナイト』攻0
《真竜機兵ダースメタトロン》攻3000
《ヴァンパイアジェネシス》攻3000
《ヴァンパイア・ロード》攻2000
《連撃の帝王》
《ディメンション・ガーディアン》
《竜星の極み》
VS
カミューラLP:5600 手札3
伏せ×1
「私のターン、ドロー。魔法カード《強欲で金満な壺》を発動。エクストラデッキを6枚除外し、2枚ドロー」
そうして終始デュエルをコントロールし続ける佐藤の前にて壺が砕け散り、カードが散らばる中――
「《神獣王バルバロス》を自身の効果によりリリースなしで妥協召喚。ただし、その攻撃力は1900となります」
その散らばったカードの1枚から《神獣王バルバロス》が飛び出し、フィールドに音もなく着地するも、その手には突撃槍も大盾も握られてはいない。
《神獣王バルバロス》攻撃表示
星8 地属性 獣戦士族
攻3000 守1200
↓
攻1900
「バトル。ダースメタトロンでダイレクトアタック」
空中に浮かぶ《真竜機兵ダースメタトロン》が天へと三又の矛を構えれば、その刃を起点に黄金に輝き巨大な光の矛と化す。
そして《真竜機兵ダースメタトロン》は己の体ごと尾を捻じり、遠心力を加えた矛の投擲がカミューラへと一筋の閃光となって放たれた。
「~~ッ! まだよ! リバースカードオープン! 罠カード《ヴァンパイア・アウェイク》を発動! デッキから【ヴァンパイア】1体! 《ヴァンパイア・グリムゾン》を特殊召喚!!」
だが、カミューラを守るように闇より深紅のローブのヴァンパイアが現れ、その手の巨大な大鎌を振るい迫る光の矛を打ち払わんとする。
《ヴァンパイア・グリムゾン》守備表示
星5 闇属性 アンデット族
攻2000 守1400
「ですが攻撃力は此方が上、攻撃続行と行きましょう」
「《ヴァンパイア・グリムゾン》の効果! 私のライフ1000を糧に相手から破壊をまぬがれる!」
しかし、《真竜機兵ダースメタトロン》が放った矛に内包する圧倒的エネルギーを前に《ヴァンパイア・グリムゾン》の大鎌はベキベキと音を立ててヒビ割れて行き――
カミューラLP:5600 → 4600
パキンと大鎌が砕けた音と共に、巨大な衝撃波がカミューラたちを襲った。
だが、大鎌が砕け散ろうとも両手を盾のように前に突き出し膝をつく《ヴァンパイア・グリムゾン》は熱で煤けた灰色の髪を揺らし、肩で大きく息をしながらも健在。
「でしたら《ヴァンパイアジェネシス》、《ヴァンパイア・ロード》、そして《神獣王バルバロス》で追撃です」
「《ヴァンパイア・グリムゾン》の効果よ!! くぅうぅううッ!!」
やがて虚ろな瞳となった同胞からの瘴気の旋風が放たれようとも、《神獣王バルバロス》の咆哮の音撃を受けようとも、カミューラを守るべくその身を盾とする《ヴァンパイア・グリムゾン》。
カミューラLP:4600 → → 1600
そのボロ切れになった深紅のローブ、流血により血に染まった灰色の髪、内出血により所々黒ずんだ真っ白な腕――今の《ヴァンパイア・グリムゾン》はまさに満身創痍と言う他ない。
「では、カードを1枚セットしてターンエンドです」
「くぅっ……ターンの終わりに《ヴァンパイア・アウェイク》で呼び出された《ヴァンパイア・グリムゾン》は破壊されるわ……」
そうして、限界が来たように倒れた《ヴァンパイア・グリムゾン》はカミューラを守り切れた事実に満足そうな表情で血霧となって消えていった。
佐藤LP:400 手札3
『スカブ・スカーナイト』攻0
《真竜機兵ダースメタトロン》攻3000
《神獣王バルバロス》攻1900
《ヴァンパイアジェネシス》攻3000
《ヴァンパイア・ロード》攻2000
伏せ×1
《進撃の帝王》
《連撃の帝王》
《ディメンション・ガーディアン》
《竜星の極み》
VS
カミューラLP:1600 手札3
相も変わらず手短にターンを終えた佐藤だが、その光景を前に思わず十代は呟いた。
「つ、強ぇ……」
――ちょっと前まで、ライフもギリギリで負けそうに見えてたのに……
『口うるさくするだけの実力はあったってことか』
それが佐藤のデュエリストの腕――正直、十代はどこか甘く見ていた。
元とはいえ実技最高責任者だったクロノスや、プロデュエリストを弟に持つ響みどりたちと同程度だと考えていたが、そんな単純な比較では測れぬ物が眼前には広がっている。
「あのカミューラとかいう女も弱くはない……が、自分のデュエルをさせて貰えていないんだろう」
「佐藤先生自身のライフをエサとして撒いて、選択を強いながら『スカブ・スカーナイト』の効果を誘発させて一斉に反撃に出る――そんな感じかしら」
『焦れた相手が少しでも安易な選択を取った瞬間が最後……か』
「クロノス先生たちとは、また違った強さだぜ……」
『真正面からぶつかり合うクロノスや響に反して、徹底して待ちの姿勢の佐藤って訳だ』
万丈目たちもカミューラが弱いとは考えていない。最初のターンに自分フィールドを更地にされても瞬時に盤面を整えるだけでなく、手札を揃えて見せた。
今のターンもそうだ。絶望的な盤面差から来る連撃をギリギリのリソースで凌いで見せている。
そう、カミューラは弱くはない。
ただ、
ただ――
「わ、わ私のターン……ド、ドロー……」
震える手でカードを引いたカミューラは全てを察し始めていた。
――ダメよ、勝てるビジョンが見えない。
違う。勝てるビジョンは見えていた。
ただ、正真正銘の
佐藤の誘導に気づかず、その流れに乗ってしまったことが致命的だった。
――相手のライフはたった400なのに……
さっきもそう考えて下手を打ったと言うのに、また同じことを考えてしまう。
その「後1度の小さなダメージで倒せる」事実ゆえに、カミューラは諦めきれない。
いや、唯一生き残った己だけが一族の復興を成せる現実が、その現実だけが今のカミューラを支えている。
――負ける……? 負けるの? 一族の復興も果たせずに?
いいや、もう1つばかり支えがあった。
カミューラの視線が己の手札の1枚を捉える。
必勝を約束する文字通り魔法のようなカードが。
――人間風情に……!! 誇り高きヴァンパイアである私が……!!
やがて己の矜持を言い訳に、そのカードに手をかけるカミューラだが――
「……私は…………為に……」
――…………悪いわね、2人とも。
その脳裏にこんな己に手を貸してくれた仲間の存在がチラつき、カードにかけた手の力が緩む。
「…………一族の復興の為に…………」
しかし、その葛藤を振り切り己の手札のカードを引き抜いた。
「――負けられないのよ!!」
そして、1枚のカードがデュエルディスクに差し込まれた瞬間、空間が軋みを上げる。
「――発動せよ、『幻魔の扉』!!」
さすればカミューラの背後より悪魔の石像が鎮座する石造りの落雷の彫られた巨大な扉が現れる。
「その効果により、相手フィールドの全てのカードを破壊! 更に、このデュエル中に呼び出されたモンスター1体を私のフィールドに呼び出す!!」
やがて中央より左右に僅かに開いた巨大な扉の隙間から闇色の風が周囲の空間に吹き荒れ始めた。
そんな異常事態が加速する最中、万丈目たちは思わず叫ぶ。
「!? なんだ、そのふざけた効果は!?」
「発動条件に対して、効果が無茶苦茶じゃない!」
「なんだ、あのカード……すげぇヤバイ感じがする……!!」
『明らかに普通のカードじゃないね……十代、ボクの後ろに下がるんだ』
なにせ、デッキに1枚しか採用できない制限カードに指定されている――
相手フィールドの全てのモンスターを破壊する《サンダー・ボルト》、
相手フィールドの全ての魔法・罠カードを破壊する《ハーピィの羽根箒》、
相手の墓地のモンスターであっても己のしもべとする《死者蘇生》、
これら3枚のカードを1枚にまとめたような効果を有しているのだ。
どう考えても『幻魔の扉』は公式のデュエルで使用できない「禁止カード」に分類される代物だろう。
それに加えて歪んだ歴史によりカードプールが広がったせいか
しかし、カミューラは『幻魔の扉』の重すぎる発動コストを明かす。
「いいえ、十二分に見合っているわ。なにせ、このカードの発動には私の魂が必要!!」
それが己の魂。
「このデュエルに敗北した時、私の魂は幻魔に捧げられる!!」
『幻魔の扉』を使用し、敗北すれば捧げられた先での魂の末路は考えるまでもないだろう。
「命がけのイカサマカードって訳か……!」
「でも、発動タイミングさえ見極めれば必勝たりえるカードじゃ、あってないようなデメリットよ!」
だが明日香の言う通り、その圧倒的なカードパワーを鑑みれば殆ど「発動 ≒ 勝利」である。敗北の可能性は低いだろう。
しかし、カミューラは首元のウジャトの瞳のある黄金のチョーカーを指さし微笑んで見せる。
「あら、勘違いしないで――そんなデメリットはないわ。この闇のアイテムによって、必要な魂は私が選択できるんだから」
「俺たちを人質にする気か!!」
「う、嘘よ……そんなのありえる訳が――」
「ふざけんな!!」
『安心するんだ、十代。キミだけはボクが絶対に守ってみせる』
『クリー!』
そして飛び出した「もはや負ける方が難しい」レベルの蛮行を前に、万丈目たちは非難の声を飛ばすか、言葉を失う他ない。
そんな闇のデュエルの観客では終われそうにない状況にユベルはハネクリボーが見守る十代を守ろうと前に出るが――
「――だったら俺の魂を選べ!!」
『十代!? 何を言って――』
逆に十代は一歩前に出て叫んだ。
――俺の中にあるって言う「覇」の力なら、なんとかなるかもしれない! そうだろう、ユベル!!
『絶対にダメだ! 幻魔の力は未知数なんだよ!』
「ダメよ。忘れたのかしら? 私の目的はボウヤなんだから」
そんな一縷の勝算にかけた十代の賭けだったが、反対するユベルを余所にカミューラ側から拒否される。当然だろう。
カミューラが佐藤と闇のデュエルをしているのは、十代を目的としているのだから、その魂を幻魔に捧げれば本末転倒だ。
――使ったからには確実に勝たなきゃならない……闇のゲームに対して確実に耐性がないのは――
やがて、精霊の存在を加味し、念には念を入れて不確定要素を排しようと思案するカミューラへ――
「なら俺の魂を選べ!!」
「ま、万丈目くん!?」
今度は万丈目の声が届いた。
「奪うなら俺の魂にしろ!! 佐藤教諭! 構いません、俺ごとやってください! こいつは此処で止めなきゃならない! そうでしょう!!」
「そんなのダメよ!」
「安心してくれ、天上院くん! アカデミア側も無策ではない筈だ! それに兄さんたちの伝手があれば、魂とやらを取り戻す方法もきっと見つけてくれる!!」
その万丈目の決意は「此処で佐藤が負けても、同じ状況が他の教員でも起こる」ことを理解してのものだったが、己の命を軽んじた訳ではない。
それは兄たちへの信頼――どちらも社会的に大きな力を持っており、「カミューラが闇のアイテムを見つけられる」のなら「兄さんたちが見つけられない訳がない」との認識が彼の決断を後押しする。
そして何より――
「良い覚悟ね――なら特別に選択肢からは除外してあげるわ。感謝しなさい」
――こいつを選ぶと、本当に構わず攻撃されかねない……
「待――」
「あら? 大変だわ。そうなると消去法でお嬢ちゃんになるわね」
「そ、そんな……!?」
カミューラが選ぶであろう「もっとも不確定要素の少ないこの場の人間」が明日香だったからだ。
「やめろ!! 天上院くんのお兄さんはプロデュエリストだ!! そんな相手の怒りを買えば、貴様のようなイカサマデュエリストなど――」
「大丈夫よ、安心なさい。闇のゲームにサレンダーはないけど、そっちの先生がワザと負ければ、みーんな助かるんだから」
やがて一歩後ずさった明日香の顔に恐怖が色付き始める中、万丈目の物言いもほくそ笑むカミューラには届かない。
「だから、怖がる必要はないわ」
そう、何も怖がる必要はない。
このデュエルの勝利をカミューラに譲るだけで、この場は全て丸く収まろう。
「ハァ」
そんな状況ゆえか佐藤からため息が零れた。
そこには分かり切った事実を前に、右往左往する周囲への呆れも見える。
「……?」
「早く選んで頂けませんか?」
「……随分と薄情なのね」
「結局、やることは変わりませんので」
やがて普段と変わらぬ様相で先を促す佐藤に、カミューラは教師の道理を説くが――
「それもそうね。生徒の為にワザと負ける未来は決まって――…………まさか、お前ッ!!」
カミューラの思考は最悪の可能性に辿り着いた。
「ちょ、ちょっと待てよ、佐藤先生!! まさか――」
「ええ、私はこの中の誰が選ばれようとも彼女を倒す――それは確定事項でしょう?」
そして十代の言葉を先回りするように、佐藤は断言する。
なにせ、次も同じことをされれば永遠に勝てず、状況は悪化し続けるのだから。
必ず何処かで誰かを犠牲にしなければカミューラは止められない。
しかし、そんな唯一の犠牲者に選ばれた明日香はすがるような様子で声を震わせる。
「さ、佐藤先生……嘘ですよね……?」
曲がりなりにも教師として尊敬していた相手に「死ね」と言われて冷静でいられる程、明日香の精神は強くはない。
だが、佐藤は眼鏡の位置を直しながら安心させるような声色で語る。
「安心してください。貴方のお兄さんを助けた時のように、この手の分野を熟知した方がいますので」
誰がどう見ても気休めだった。
「佐藤教諭!! 天上院くんを犠牲にだなんて――考え直してください!!」
「佐藤先生!!」
『こいつ……』
「アンタみたいな屑がよく教師やってるわね」
万丈目たちの必死の懇願にも口を閉ざす佐藤に、原因であるカミューラも思わず冷たい視線を送るが――
「貴方も他人のことをとやかく言えた義理ではないと思いますが?」
「…………それもそうね」
そう返されてはカミューラも返す言葉がない。
カミューラとて想定はしていた。十代を守る者たちの中に「非情な決断を取れる人間」がいることは。
ゆえに、カミューラは己の首元の黄金のチョーカーを強引に外し、天へと掲げればチョーカーに記されたウジャトの瞳が怪しく輝き始めた。
さすれば幻魔の扉から吹き荒れる風が明らかに指向性を持ち始め――
「さぁ、幻魔の扉よ! 対価とする魂はアイツよ!!」
「天上院くん! 俺の後ろに!!」
咄嗟に明日香を庇うように前に出た万丈目。
その行為が何の意味もないことは当人も理解していた。それでも動かずにはいられなかった。
やがて、幻魔の扉により吹き荒れる風が明日香たち目がけて殺到し、素通りし、佐藤の元で渦巻いて見せれば――
「佐藤……先生……?」
十代の呟きが証明するように、佐藤の身体より半透明な分身のような存在が浮かび上がり、幻魔の扉へと吸い込まれていったと同時に幻魔の扉から吹きすさぶ風が止んだ。
「これで私の敗北と共に、アンタの魂は幻魔に捧げられる! 死にたくなかったら無抵抗でいることね!!」
――この闇のアイテムが一時休眠してしまう奥の手……だけど、遊城 十代が目前なら惜しくはないわ!
そうして、カミューラの手の中で闇のアイテムたる黄金のチョーカーに浮かぶウジャトの瞳がゆっくりと閉じていく。
そう、原作でも「カミューラ自身の魂を『幻魔の扉』の発動コスト」にしても「闇のデュエルは続行可能」だった。
それはつまり「対戦相手の魂も『幻魔の扉』の発動コストにすることが可能」なことが伺える。
なにせ原作でもカミューラが絶対の自信を持っていたカードが「相手が同行者を連れていない」だけで瓦解する代物の筈がない。
とはいえ、この歪んだ歴史においてはノーリスクという訳ではないようだが。
「わ、私、生きてる……?」
「た、対戦相手の命にすら介入できるのか……!?」
「そんなの初めから勝ち目なんてないじゃんか!!」
やがて、『幻魔の扉』の力によって薙ぎ払われ土煙を上げる佐藤のフィールドを余所に万丈目たちが常軌を逸した現実を前に言葉を失うが――
「ですが、ダースメタトロンはリリースした素材――モンスター・魔法・罠の効果を受けない状態です」
先の破壊の奔流を前に、土煙の中から悠然と宙に浮かぶ《真竜機兵ダースメタトロン》には、その黄金の鎧には傷一つない。
「アハハハ! 私の心配は無用よ! 攻撃力0の『スカブ・スカーナイト』を攻撃すれば良いだけの話!!」
しかし、佐藤の元で《ディメンション・ガーディアン》を犠牲に『スカブ・スカーナイト』が静かに佇む姿を指さしカミューラは嘲笑う。
「さぁ、従属神らしく私の元に跪きなさい! バルバロス!!」
やがてカミューラの元で忠誠を誓うように四足で膝をついた《神獣王バルバロス》の身体が、そのまま膝から崩れ落ち、苦し気に横たわる。
《神獣王バルバロス》
星8 地属性 獣戦士族
攻3000 守1200
↓
攻 0
「なっ!?」
「1ターン、遅かったようですね。『幻魔の扉』の発動に対し、永続罠《連撃の帝王》の効果でアドバンス召喚させて頂きました」
やがて佐藤の声と共に土煙が晴れ、白きマントを風に揺らす何処か近未来的な青き鎧の姿が露になる。
だが、両の肩より宙に浮かぶ円錐状が回転するばかりで微動だにせず、石仮面に覆われ表情すら見えぬゆえ、何処か無機質さを感じさせていた。
《
星8 水属性 水族
攻2000 守2000
「プラネット……シリーズ……」
「3体のモンスターをリリースして召喚された《
「そうか……モンスターと魔法・罠の『破壊が同時』なら永続魔法《進撃の帝王》の破壊耐性が残る……」
『成程ね。これで『スカブ・スカーナイト』の弱点を完全にカバーするって寸法か』
かくして、《
だが、カミューラは理解できなかった――いや、「そこ」に関しては万丈目たちも理解はしていない。
「な、なにしてるの?」
「……?」
「どうして……デュエルを続けて……」
「言ったでしょう? 『誰が選ばれようとも貴方は倒す』と」
「――馬鹿なんじゃないの!!」
当然のように先と同じ言葉を繰り返した佐藤へカミューラは怒声を上げる。
理解できない。
「アンタ、死ぬのよ!! 私が負ければ!! 魂を幻魔に食われて!!」
今、佐藤がしようとしていることは手の込んだ自殺だ。
『幻魔の扉』が発動した以上、カミューラが負ければ佐藤は死ぬ。
まさか「幻魔に捧げられた魂」が丁重に扱われると思っているのか?
そんな慈悲深い存在なら、そもそも「贄に魂を求めない」ことが分からないのか?
「無抵抗で負けるのが普通でしょう!!」
それに加えて、カミューラの勝利が世界の滅亡に繋がっている訳でもない。
佐藤が負けても、アカデミアに無駄に集められたデュエリストが今この瞬間もカミューラを捕縛するべく動いていることは明白だ。
今、佐藤が命をかけるような状況ではない。なにせ、現在カミューラの闇のアイテムは一時的に休眠しているのだから。戦果としては十分だろう。
ただ、その情報を佐藤は――いや、神崎も有していなかった。
「死ぬのが怖くないの!!」
「怖いですね」
ゆえに、佐藤は万が一の可能性を鑑みて命をかける。
死が恐ろしくとも。
「だったら――」
「ただ、まぁ、そうですね」
ただ、怒声を上げ続けるカミューラへ此処で少し言葉を探した佐藤は――
「恩人がいるんですよ」
「ハァ!?」
少しばかり自分語りを始めた。
「私の守りたいもの全てに手を差し伸べてくれた恩人が。まぁ、当人には別の思惑があったのでしょうけど」
佐藤の家は酷く貧しかった。
常に爪に火を点すような生活で、ないものばかりで伝手すらない。あるのは佐藤のデュエルの腕だけ。
ゆえにデュエルの腕一本で稼げるプロデュエルの世界くらいが佐藤が持ちえる唯一身内を支える選択肢だったくらいだ。
原作では、その身内への仕送りの為に己を切り売りするような過酷なスケジュールで前座であろうとも数多くの試合を熟し――やがて、身体を壊す。後はアカデミア教師となって原作通りの末路を辿る。
そんな佐藤の過酷な現実へ、重苦しい現実へ、手を差し伸べてくれた人がいた。
正直、佐藤は――いや、その恩人に関わりのある多くの面々は、彼のことがよく分かっていない。
「そんな恩人が『貴方を危険視』し、地位も立場も捨ててこんな孤島くんだりまで足を運んで、不向きな仕事で四苦八苦している」
なにせ、恩を着せた割に佐藤たちへ見返りとして求めるのは、なんでもないことばかり。もはや逆に仕事の斡旋をして貰っているようにすら思えることもある。
それに加えて、金も地位も名誉も興味を示さず、いつも自分のことは後回し。
はっきり言って恩人がアカデミアに来た時、「危険人物がいるから警戒するように」とは言われても佐藤は彼が何をしたいのか分からなかった。
「きっと今の状況を生み出さない為に、奔走していたんでしょうね――ふふっ、全て無駄になってしまったようですが。くくく……」
「なに笑ってるのよ……気でも触れた?」
やがて「
だが、佐藤は「至って
「いえね、幾らつついたところで何も話してくれないあの人が……」
どうして、何も教えてくれないのだろう。
いいや、何も教えてくれなくても良い。
「いつも一番の危険地帯に我先にと突っ込んでいく人が……」
ただ一言、「一緒に戦ってくれ」と言って欲しかった。
それだけあれば、佐藤は世界だって敵に回せた。
そんな心持ちだった佐藤に届いたのは一通の途中で打ち損じたメッセージ。コブラでもなく、海馬でもなく、乃亜でもない己に届いたメッセージ。
その意味する所を即座に理解した佐藤は今――
「その一番槍を初めて奪うのが、まさか私になるなんて――かつての同期が聞いたら、どんな顔をするのかと思いまして」
恩人が戦うべきだった相手と戦っている。
それは彼が助けた誰にも願わなかったこと。
やがて恩人から一番最初に手を差し伸べられた
そうして、死が目前に迫った中で穏やかな様相の佐藤の姿に、カミューラはようやく悟った。
「…………どうかしてる」
こいつ、死ぬ気だ。
あらかじめ死ぬ準備をして来た上で、このデュエルに挑んでいる。
そして件の恩人とやらは「死兵とする為」に「恩を売った」。
これがクロノスたちや、コブラでは死を選べない。家族や仲間などの残した存在が後ろ髪を引く。
恩人に「死ね」と言われて「是」と返せる佐藤に、カミューラは思わず一歩後ずさる。
しかし、そんなカミューラへ佐藤は同胞のように語りかけた。
「おや、命がけで一族を復興しようとされている貴方になら共感して貰えると思ったのですが」
「……馬鹿じゃないの。私が死んだら誰が一族を復興するのよ」
「それもそうでしたね。こんな当然に思い至らないとは――意外と動揺していたようだ」
やがて、己を落ち着かせるように眼鏡の位置を直しながら死ぬ前の自分語りを終えた佐藤へ、カミューラは
「ふん、安心することね。どのみち此処まで場を荒らせれば、アンタに勝ち目なんてないのよ!!」
――こっちの攻撃力が下がるのなら逆に《ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア》の効果が狙いやすくなるわ!!
なにせ、『幻魔の扉』により佐藤の魔法・罠カードは消えた。
《真竜機兵ダースメタトロン》と《
そして何より「佐藤のライフはたった400ポイント」だ。吹けば飛ぶ。
「ですが破壊される前に発動しておいた罠カード《レインボーライフ》により、このターン私が受けるダメージは全て回復に変換されます」
「なら次のターンに仕留めれば良いだけの話! 魔法カード《貪欲な壺》! 墓地の5枚のモンスターをデッキに戻し、2枚ドロー!」
しかし、佐藤の前に半透明の虹色の壁が浮かぶ光景に、方針をかえたカミューラは墓地に眠る同胞たちを収納した欲深き顔の浮かぶ壺を破壊し、デッキへ転生させた後――
「魔法カード《死者蘇生》!! 蘇りなさい! 《ヴァンパイア・ロード》!!」
カミューラの決意に応えるように影から《ヴァンパイア・ロード》が飛び出し、マントを翻して膝をつく。
《ヴァンパイア・ロード》守備表示
星5 闇属性 アンデット族
攻2000 守1500
「そして《ヴァンパイア・ロード》を除外し、再び降臨せよ! 《ヴァンパイアジェネシス》!!」
やがて、今までの焼き増しのように《ヴァンパイア・ロード》の身体は肥大化し、弾けた先から《ヴァンパイアジェネシス》が怒りの雄たけびを上げてカミューラを守るように立ち塞がり、その拳を大地にめり込ませれば――
《ヴァンパイアジェネシス》守備表示
星8 闇属性 アンデット族
攻3000 守2100
「手札の『帝王』カードを捨てて墓地の《冥帝エレボス》を回収し、そのまま捨て《ヴァンパイアジェネシス》の効果!! 復活の時よ、《ヴァンパイア・グリムゾン》!!」
大地に染み込んだ《ヴァンパイアジェネシス》の血を以て、《ヴァンパイア・グリムゾン》が傷ついた身体を再生させ、干からびたミイラのようだった身体に活力を漲らせて行った。
《ヴァンパイア・グリムゾン》守備表示
星5 闇属性 アンデット族
攻2000 守1400
「私はこれでターンエンド!!」
佐藤LP:400 手札2
『スカブ・スカーナイト』攻0
《
《真竜機兵ダースメタトロン》攻3000
VS
カミューラLP:1600 手札3
《ヴァンパイアジェネシス》守2100
《ヴァンパイア・グリムゾン》守1400
《神獣王バルバロス》守1200
やがて、守備を固めて次の己のラストアタックに備えたカミューラは言外に「命を惜しめ」と恐怖を煽るように軽口を飛ばすが――
「これでアンタのモンスターだけじゃ突破は厳しいんじゃないかしら?」
「ご安心を。《
「でも私のライフは削り切れないわ。諦めなさい。アンタの前にも後にも活路なんてないの」
「墓地の魔法カード《妨げられた壊獣の眠り》を除外し、デッキから【壊獣】カードを手札に」
堪えた様子のない佐藤はドローしたカードを余所に大地へ手をかざせば、周囲に異音めいた鳴き声が響き渡った。
「そして貴方の《ヴァンパイア・グリムゾン》をリリースし、貴方のフィールドに《粘糸壊獣クモグス》を特殊召喚」
と同時に、大地より飛び出した刃のついた昆虫の八足が《ヴァンパイア・グリムゾン》を貫き、地中へ引きずり込まれていく。
やがて僅かに捕食音が鳴った後、地中から巨大な蜘蛛がカミューラの元に現れるが、そのフィールドに覆われた《
《粘糸壊獣クモグス》攻撃表示
星7 地属性 昆虫族
攻2400 守2500
↓
攻 0
そう、カミューラの元に攻撃力0のモンスターが現れた。
それはカミューラのライフを削り切る的が出来たに等しい。
その事実を前に、カミューラは思わず問いかける。
「…………最後にもう1度だけ聞いてあげる」
答えは分かっているとしても、問いかけてしまう。
「――考え直す気はないの?」
これが正真正銘、最後のチャンスだと。
「貴方だって『幻魔に食われた魂を必ず取り戻せる』なんて確証はないんでしょう?」
佐藤の唯一の希望になりえる万丈目が語った「幻魔に捧げた魂の回収法」の不確定さを指摘してみせるカミューラ。
ただ、カミューラには確信があった。
「貴方は一族の復興を諦められるのですか?」
「…………馬鹿な人ね」
「ええ、厄介な人に恩を着せられてしまったものだ」
眼前の人間は希望がなくても死を選べるのだと。
もうカミューラに投げかけられる言葉はない。
だが、声が響いた。
「佐藤先生!!」
「なんでしょう、遊城くん」
「サ、サレンダーしようぜ!!」
『十代、闇のゲームにサレンダーはないからワザと負けるように言わないと』
それは懇願に近しい十代の提案。
「か、神崎さんとかならアイツのカードへの対抗手段持ってるかもしれないし! コブラ校長なら、あのカードを使われる前に勝てるかもしれないし!」
そうして十代は必死に頭を回した様子で希望に満ちた可能性を並べて見せる。
十代はカミューラ以上に詳しくオカルト方面の知識を持つ人間を知っていた。
十代は佐藤より強そうなデュエリストを知っていた。だが――
「べ、別に此処で負けたってさ……きっと大丈夫だって!!」
「遊城くん」
「だ、だって此処で負けても、学園側はまだ6人も残ってるんだぜ? ほ、殆ど無傷じゃん!」
今、十代が語っているのは「楽観」だった。
問題を先送りにした場合に生じる危険については何一つ考慮されていない。「誰かがきっと何とかしてくれる」なんて浅はかな愚考。
しかし、この場の誰も十代を責めることは出来ない。なにせ、それは「ただ佐藤に死んで欲しくない」――たった、それだけの話なのだから。
ゆえに、佐藤はそんな生徒へ教師として言葉を贈る。
「キミの直感は蓄積された実体験に基づいたものだ。そこに知識の蓄積が加わればカイザーの
「な、なんだよ、それ……」
だが、十代が聞きたかった言葉は「そんなもの」ではなかった。
「万丈目くん、キミは意外と繊細だからあまり人と比べるのは止めなさい。人は自分以外の何者にもなれないのだから。自分を捨てた者の末路は悲惨なんてものじゃないですよ」
「はい……!」
そして、万丈目は最後の教えを噛み締める他ない。
「天上院さん、貴方にはいつも苦労をかけましたね。クラスメイトは話題にこと欠かない人ばかり――ですが我の強さと実力を混同しないように」
「佐藤先生……」
明日香も涙をこらえる以外、何も出来なかった。
「自信をもってください。貴方たちは良いデュエリストになる」
そうして、十代たちを初めて明瞭に褒めて見せた佐藤。
まるで、それは――
「――やめてくれよ!! そんなこと聞きたくねぇ!!」
遺言のような言葉を前に、十代は叫ぶ。
「頼むよ、先生!! 負けてくれ!!」
ワガママな子供のように叫ぶ。
「テストの勉強以外も、もっと頑張るし! 校則もちゃんと守るし! 学園の規範ってのもなんとかするからさぁ!!
『十代……』
しかし、それでも――
「バトル。《粘糸壊獣クモグス》を《
《
「佐藤先生ッ!!」
「攻撃」
そして振り切られた交差の一撃によって十字に両断された《粘糸壊獣クモグス》を突き抜け、十字の衝撃がカミューラに迫り――
カミューラLP:1600 → 0
やがて一つの命が幻魔に食われた。
神崎「(戦力大勢用意させたし)……ま、なんとかなるか(なお)」