ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ。
「ただいま」
「おけーり。……あれ、青髪人形は?」
「いやー、その……」
「まぁ、一時間ほど籠っておったからの。一発でよいと言ったじゃろうに」
「あー、やりすぎたのね? ……人形潰すほどとかこいつ本当に色ボケ……絶倫王ね……」
……盛り上がってしまったことは確かに否定できない。タバサとそっくりだけど、ちょっとだけ違う人形とのひと時は、まぁなんというか……新鮮さに溢れていたというのは確かだ。最後に出したとき、再起動やら一時スリープだか言っていたから、たぶん初期設定のあとの再起動をしているんだろう。決してオーバーフローしたからいったん再起動するとか、そういう俺発信の問題ではないはず。……はず、だが、起きたら一旦タバサ人形には謝罪するとしよう。
「つ、次は、壱与の番……イヨ、ギルサマ、マルカジリ……」
「あーあー、バーサーカーなところ出ちゃって。お預けしすぎたのかしらね」
「まぁ、あの子が起きるまで時間もあるしな。……卑弥呼も来るか?」
「あら、いいのかしら? 長くなるわよ?」
「なんじゃ、おぬしらくんずほぐれつかぁ? ……しゃーないのぉ、ワシもこのぷりちーぼでーを持て余しとったんじゃ。世話になるとしよう」
「えぇー? やーねー。中身老いてるんだから、介護みたいになるんじゃないの?」
「馬鹿言うでない! 魂は体に引っ張られる。中身だってぷりちーになってるに決まっとるじゃろ!」
ぷりぷり怒りながら寝室へと向かっていくアルキメデス。卑弥呼は仕方ないわねぇと言いながらもそれに続き、俺も壱与をもってそこに参戦する。
……結局、タバサ人形が再起動を終わらせるまで、久しぶりの鯖小屋を楽しむのであった。
・・・
「ええ? 公王……?」
「そうですわ! さすがに今回のジョゼフ王討伐、アルビオン復興の褒賞として、それが一番いいと思ったのです!」
マリー経由でアンリが要件があると言ってきたので顔を出すと、マザリーニとともに待ち構えていたアンリからそんな話を聞かされた。なんの相談もなしにだけど……大丈夫か……?
「それに、シャルロット王女と婚姻を結ぶのであれば、辺境伯では格が落ちます。ここでアルビオンを公国にして、貴方を初代公王にすれば、結びつきを強めるという理屈にもなりますわ」
「そういうもんなのか……」
「……まぁそう表向きにしておけばやりやすいですからの」
「マザリーニ、黙って」
何やらマザリーニがいつもより疲れた顔をしているようだが……まぁ、俺なんかをこんなに短期間で偉くさせるんだ。それなりの問題もあったのだろう。今度疲れの取れる何かを送るとしよう。
「それに、王さまがそうなってくだされば、私の問題も解決しますし」
「問題? 何かあったのか?」
「ええ。お母さま……それにマザリーニからも、世継ぎを作るように、と……」
顔を赤くして照れながらそう言ったアンリに、そういうことか、とマザリーニを見る。マザリーニもこちらを見ていて、お互いに視線で分かり合った。アンリ、最終的に俺と結婚する方向で動いてるな……?
「以前のガリア戦役で一人でジョゼフ王のところに飛び込んでいったのをお母さまが大変心配していて……私がいなくなってしまっては、王族の血脈が途絶える、と」
なるほど……確かにそうだ。そこには俺も同意する。
「それに、周りのうるさい貴族たちを黙らせるのにも有効ですわ。王さまは今まで多大な功績をあげております。何か文句があるのなら、それを上回る功績をあげてから言いなさい、と言えるようになったんです」
「うふふ。アンリったら、アンリのお母様が持ってきた結婚相手の紙を跳ねのけて、私が世継ぎを作る相手は決まってますわ、って言ったのよ。あの時のマザリーニの顔ったら!」
「ははは……この老骨、さすがに心臓が止まったと思いましたぞ」
さすさすと心臓のあるあたりを手でさするマザリーニ。本当に苦労人だな、この人……。
「叙勲式も準備してますわ。ふふふ、とってもいいマントを作ったんです。気に入ってもらえると嬉しいわ」
「私も細かいところで色々口出ししたの。女王二人の手が入ったマントなんて、とっても豪華ね!」
そのあと、俺は近々行われるという叙勲式のことを聞いて、城を後にした。……マントについてはどうも教えてもらえなかったので、当日のお楽しみなんだそうだ。それに合うお洋服で来てくださいね、と言われたので、その辺詳しそうなマスターに聞くとしよう。
・・・
「はああああああああああああああ!? あんたが!? 公王!?」
「らしい」
「『らしい』じゃないわよ! ……って、あんた元々王さまだったんだものね。落ち着いてるのもわかるわ。……でも! 使い魔のあんたが私より先に……いやでも待って? めちゃくちゃお嫁さんには行きやすくなったんじゃないの……? こ、これは、チャンス……?」
「そんな感じで叙勲式が王城であるらしいんだけど……俺こっちの世界のセンスわからないからさ。その辺はマスターに頼ろうかなって」
そういって、俺は宝物庫を開く。中から現れた自動人形たちが持っているのは、カタログのようなものだ。いちいちこんな感じの、と言って取り出すのも面倒なので、ある程度見てよさそうな奴を改めて取り出そうと思ったのだ。……ただ、中に入っている衣装は膨大だ。そもそも入っていたものから、俺が新たに集めて入れたものまで、その数は本当に数えきれない。カタログ自体も分厚く、それを持っている自動人形が十人以上いて、さらに宝物庫の中にはまだカタログをもって待機している自動人形もいるのだ。カタログだけでも相当な数になる。
「とりあえず色とかなんかそれっぽいこと言ったら自動人形がカタログ厳選して持ってきてくれるから、雰囲気とかこういうデザインで、とか伝えてくれたらいいよ」
「そ、そうはいってもね……アンタこれ一冊始祖の祈祷書より分厚いじゃない……」
文句を言いながらも早速ぺらぺらとカタログをめくるマスター。うんうん、真面目なところ、いいところだと思うよ。
「あ、これ良いわね。ね、白地のカタログ見せて」
マスターの言葉で、自動人形が入れ替わり立ち代わり宝物庫を出入りする。
「ふんふん……ねえ、これの……そうそう、そんな感じのある? ……うん、ギル、これ着てみて」
ある程度イメージが固まると、俺も着せ替え人形になる。……と言っても早着替えの宝具があるので、スパッと一瞬だ。……そこ、なんだ、脱がないのか、みたいな顔しないの。後できちんと相手するから。
「……アンタ本当に顔もスタイルも良いわよねぇ……」
「はっはっは、当然だろう。英霊王だぞ?」
この容姿はかのギルガメッシュの物なのだ。かっこいいに決まってるだろう。
「となると……これ! これ着て!」
「ん? ……よっと。どうだ?」
マスターに言われて着たのは、白地に金糸で刺繍の入ったもの。俺は種類には詳しくないから多分礼服のド派手な奴なんだろうなぁと思いつつも、いくつかポーズを取ってみる。マスターが顔を真っ赤にしてはわあわ言い始めたので、相当にあっているのだろう。……ふむぅ、俺だと選ばないセンスだから、わからんが、まぁマスターに刺さるんならトリステインの貴族たちには大体刺さるだろう。……俺だったらこれの裏地にヒョウ柄を入れてだな……え? やめろ? ……そっかー、夜の帝王スタイル、だめかー……。
「いいわ……完璧よ。当日も髪下していきなさいよね」
「ああ、その辺のスタイリングも任せるよ。アクセサリーとかいるか?」
「んー、下手に付けてもマントと喧嘩しそうだし……そのかっこなら、マントが何色でも合うと思うわ。……まぁ大体赤か紫だけど」
「お、赤なら鎧にもついてるぞ。聖骸布のやつだけど」
「……赤じゃないことを祈ってるわ。あんたの聖骸布と一緒の色はちょっとね……」
かっこいいんだけどなー、と心の中だけでしょんぼりしておく。
「さて、マスターにここまでやってもらったんだ。当日はみんなの心を奪ってやらねばな!」
これでも王だったんだ。カリスマの力を借りることもあるが、王としての振る舞いやら威厳ある動きなんかは身についている。ふっふっふ、久しぶりの王さまロール、張り切っていこー!
「……気合入れすぎて変なことにならなきゃいいけど……」
・・・
何やら新しくアルビオンに王さまが誕生するらしい、と騒ぎになったのはつい先日のことだ。
トリステインの城下町はアルビオンにいる貴族のことを、それなりに耳にしていた。曰く、アルビオンに起きた戦争で、あわや壊走しそうになった戦線を抑え、あまつさえ逆襲して一日で王城を取り返しただとか、あの戦火に包まれた白の国を瞬く間に立て直したとか、ロマリアが起こした『聖戦』に単身乗り込み、悪逆非道のジョゼフ王を一対一で打ち取ったのだ、とか、尾ひれがついているのだろうがその話は平民の間にも広まっており、アルビオンから商品を仕入れる商人からの話も広まって、今や演劇の舞台にすらなるほどであった。
いつもは貴族を恐れ、一部では嫌っているであろう平民ですら、アルビオン戦における『オルレアン七騎士』の話は好きだというものまでいる。アルビオン辺境伯……『オルレアン伯爵』は、魔法の使えない平民を七人、近衛騎士にしており、それが八面六臂の大活躍をしたというのもあって、平民の英雄譚ともいえるありさまにもなっているのだ。
演劇はこの『オルレアン七騎士の反撃』と『オルレアン伯爵の一騎駆け』の演目が繰り返し行われており、前者は平民が、後者は貴族が盛り上がっているらしい。
「はー、しっかし、そんなすごい騎士様がいるものかねぇ」
「俺らの知らないだけでそういう凄腕の騎士様はいるもんなんだろ」
酒場……魅惑の妖精亭でも、その話でもちきりである。ここに来るのと同じくらい、その演劇を見ている人の数は多い。かくいう私も、お休みの日は二回に一回演劇を見に行っている。個人的には剣の騎士様がとってもかっこいいので一押しだ。
お客さんだけではなく、私たち店員の中にも派閥のようなものができており、『剣の騎士』さまがかっこいいやら『鏡の騎士』さまが強いだとかたびたび論争になっている。お客さんの中にもやれ誰がかっこいいだのアレもすごいだのと大騒ぎだ。
……平民の身だととっても見に行きづらいけど、『オルレアン伯爵の一騎駆け』の方もとても面白い。アルビオン戦の最後、トリステインの軍がバラバラになってしまったのをまとめ上げ、その強力な風の魔法の力で単身軍隊の戦闘を馬に乗って駆け抜け、城門を突破し、最後にはそのお城を取り戻すという、オルレアン伯爵の活躍を演じたものだ。お貴族様にはそちらの方が性に合っているらしく、やれあの魔法はきっとトライアングルだ、とか頭のよさそうなことを話していたのを覚えている。たまーに一人むすっとした顔でその演目を見て、風魔法で活躍するたびに嬉しそうな顔をするおじさんもいたけど……どういう気持ちで見てるんだろ?
ともかく、今トリステインの城下町ではオルレアンフィーバーなのである。んー、今度いっつも来てくれるお大尽さまのギル様をお誘いしてみようかなー。ここに入ったばかりの時、私をよく呼んでくれて、チップも弾んでくれる良い人だし……ジェシカさんもお世話になってるとかで、どんなお客さんの相手をしていても、ギル様が来るといの一番に駆け寄り、お席に案内しているのを見る。このお店ではもう見慣れた景色らしく、お客さんも何も言わず次にお酌をする店員と楽しくお話し始めるのだ。そして、ギル様はいつも一番奥にある少しだけ豪華な席に座って、お話をしたり、何かおめでたいことがあったらたくさんお酒を入れてくれたり、上品にお店を楽しんで、帰っていくのだ。チップレースの時なんかはギル様の取り合いというかどれだけ気に入られるかを競うようなものなので、珍しいお話とかをその日のためにいろいろ仕入れておくのが、最近の魅惑の妖精亭での嗜みだ。
「明日パレードで大通りを通って王城まで行くらしい」
「おお、となると叙勲式ってやつか! トリステインの花、アンリエッタ女王に直々にマントを貰えるなんて、こりゃめでたいことだなぁ」
お客さんたちの会話を耳にしながら、そうなんだ、と明日の予定を入れていく。明日はお昼の鐘が鳴ると同時に、オルレアン辺境伯……アルビオン公王が城門からパレードを開始するらしい。となるとこのお店の前を通るのは……と逆算して、そのくらいに休憩を貰おうかなと考える。……でも、たぶんみんな気になるだろうからその時間はお仕事にならなさそうだし、心配しなくても出れるだろうなぁ、なんて思う。後でちらっとジェシカさんに話だけは振っておこう。
「お二人も見に行かれるんですか?」
私と一緒にお客さんにお酌をしていたジャンヌさんが、会話に混ざる。杯を空にしたお客さんにとぷとぷとよさげなワインを注ぐと、上機嫌そうなお客さんはもちろんよ、と気勢を上げた。確かにギル様と一緒でいいお貴族様みたいだし、演目そのままなら七騎士も一緒に来るだろうから、一目見ようとその日の城下町は大変な騒ぎになりそうだ。
「私もお仕事の合間を縫って見に行こうかなー」
私も負けじと会話に混ざり、あざとく指を口につけながら、できるだけ上目遣いになるようにお客さんを見上げる。これもギル様に教えてもらった魅惑のテクその一、『男は上目遣いで堕とせ』である。確かにこれをやるとボトルの注文が入りやすかったり、チップが少し多めになったりと、やり取りが有利になるのだ。……さすがギル様。すごい。ジェシカさんを骨抜きにするだけあるなぁ……。
それから私たち二人は一緒にパレードを見に行きたがるお客さんをうまくかわしながら注文を増やし、最終的にはつぶれてしまった一人をもう一人が連れて帰っていった。ふぅ、何とかかわせたかなぁ。
さて、明日のパレードまでにきちんと仕事を終わらせて、見に行かないと。
・・・
「――わぁ」
お昼の鐘が鳴る前。そろそろ見に行こうか、と店長のミ・マドモワゼルが言ってくれたので、私たちはお店の前の大通りに足を運んだ。そこにはいつもより多い人だかり。何かのお祭りでもこんなに人が集まることはないだろうってくらいに、道路の両脇には人がひしめいていた。
それを狙ってか、屋台や出店もたくさん出ていて、活気の良い声が、通りの喧噪の一つとなっていた。
「すごい人ね。……みんな、はぐれないでよね」
ジェシカさんの言葉に、みんなはうなずく。ここではぐれてしまっては、次に合流できるのはパレードが終わった後になるだろう。……まぁここはお店の前だし、何かあればすぐにお店に引っ込めばいいや、なんて軽く考える。お店の周りは常連さんたちが壁となってくれていて、私たちのいる空間を作ってくれていたからだ。
「それにしても、オルレアン辺境伯ってどんな方なのかなぁ……」
私的なカッコよさだと、人生で一位なのはギルさまなんだけど……お話を聞くに、どうも辺境伯様も精悍な顔立ちをされているんだとか。むむむ、ばっちり見て、白黒つけますからね、ギル様! たとえギル様よりカッコよくても、外見だけじゃない要素で一位は揺らぎませんから! と心の中でギル様のことを想う。そういえばギル様もお貴族様なんだし、今頃は王城で辺境伯の登城を待っているのかしら……な、なんてこと……ギル様と辺境伯様……二人並んだらトリステインの二大美丈夫としてとっても眼福なんじゃ……!?
「あ、ほら、入ってきたわよ! 七騎士さまたちだわ!」
ぶわ、と声が大きくなる。飾り付けられた馬に乗ってやってきたのは、噂の七騎士さまたち。それぞれに家紋の入ったマントを付け、それ以外は統一感の感じられないそれぞれの衣装を身に着けている。
一人は、赤い鎧を着こんだ騎士様。口元までおおわれているからあまり顔立ちはわからないけど、おそらく女性だわ。人を良く見ているからか、なんとなくその辺はわかってしまう。その横を進むのは、真っ白な頭巾をかぶり、不思議な鎧で体の所々を覆っている女性。長く、きれいな髪の毛が頭巾の下から風を受けて広がるのが見えた。……腰に佩いた長い剣! やはりあれが、『剣の騎士』さま! 演劇の役者の姿と似ているのでもしや、と思ったけれど、そうだったんだわ。赤い鎧の『鎧の騎士』さま、長く細い剣の『剣の騎士』さま。その後ろに続くのは、きっと『鏡の騎士』さまね! ……でも、鏡を持っているのが二人いる……どちらかが『光の騎士』さまだと思うのだけれど……。流石に戦いの場でもないから『光の騎士』さまの『光球』は出さないのかしらね。そして、その後ろに続くのは……あの大きな旗! あれが『旗の騎士』さまね! なんでも世にも珍しい旗と剣の二刀流で、後ろに続く兵士さんたちを導くように戦うんだとか! 今もオルレアン辺境伯の家紋が刻まれた、とても綺麗な旗を掲げて進んでいるし!
残りの二騎士は今日はいないのかしら。流石に領地の防衛もあるだろうし、全員は連れてこれないわよね。噂だと『炎の騎士』さまと『盾の騎士』さまがいると演劇ではやっていたけど……。
そこからは、しばらく楽士隊が続く。どんどんと騒ぎの大きいところが王城に近づいているのを感じて、向こうでも騎士様たちに声を上げているのだろう、と思った。
……騎士様たちを見送ってから、不思議なことに気づく。……なんか、静か……? 城門の方が、とても静かになったように感じた。なんでだろう、と思って、少し背伸びをして向こうをみる。辺境伯さまが来る方向だけど、そんなに恐ろしい人が来たのかしら……?
「――ああ」
その姿が目に入った瞬間、その理由を察した。真っ白な馬車。普通の馬車よりも窓が大きくとられているから見えるその姿は、まさに『黄金』と言って差し支えなかった。たまに見ることのある金貨。あれの何倍も何十倍も輝く黄金。金色に輝く髪に、いやらしさの感じられない、汚れ一つない白いお洋服。アンリエッタ女王がまだお姫様だったころ、バルコニーで手を振っていた時にみたドレスと同じか、それよりも白く輝く衣装は、ただ座っているだけの辺境伯さまを完璧に飾り立てている。
みんな、これに感動して、息をのんでいるんだ、と直感した。……でも、あの髪色と瞳……誰かを思い出すような……? んー? と視線はくぎ付けになりつつも頭を回すと、にこやかに座っていた辺境伯さまがこちらに視線を向けたような気がした。
「――あのバカ」
ジェシカさんの小さな悪態が聞こえたような気がしたけど、私は辺境伯さまの行動に驚いてそれどころじゃなかったのだ。
辺境伯さまはこちらに顔を向け、ニコリと笑うと、その手でご自分の髪をかき上げたのだ――!
「ぎっ、ギルしゃむぐっ……!?」
「はいはい、気づいてても黙ってよーね」
反射的にその名前を出そうとして、ジェシカさんに口をふさがれる。むぐぐ、苦しい……。
先ほどまでのにこやかな顔ではなく、からかうような笑顔で私たちの前を通っていった辺境伯……いや、ギル様。あのいつもおおらかで楽しそうに遊ぶ方がまさかの辺境伯さまだったということを知って、私は、静かになった沿道で、うるさい音を立てる心臓を抑えようと、胸の前で手を重ねるのだった。
「……ほんっと、あのバカめ」
私の後ろで、ジェシカさんがため息をついたような気がした。
・・・
「ふふ、悪い遊びは楽しいな、小碓」
「……人の心を弄ぶのは王は王でも魔王の振る舞いでは?」
きらり、と手に持つ小刀を光らせる小碓。……や、やだなぁ、ちょっとしたお茶目じゃないか。
俺……ギルガメッシュの容姿は髪を下したときと上げた時でだいぶ異なる。いつもは戦ったりするときには上げ、そうでないときに下しているのだが、そうするのと表情を意図して変えることで、結構気づかれなかったりするのだ。
だからああいう風にどちらかでしか触れあってない子がいたりすると、こういう時のドッキリができる……というライフハックだ。君たちも使っていいぞ。
トリステインの城門前からこうして馬車に乗って揺られていると、こういう遊びでもないと心も落ち着かんからな。沿道の人たちが俺が通るたびにしんとするのがちょっと怖いけど……あれ、俺アルビオンで圧政敷いてるとか言われてないよな……? 結構民に優しい高速復興RTAしたつもりではあるんだけど……。
そんな風に不安になっている俺の隣で、小碓は沿道の様子を見ながら何やら悦に入っているらしい。ぼそぼそ何かしゃべっている。
「ふはぁ~……主が賞賛されてるのきんもちいぃ~……この沿道の中にどれだけ主のややこを生んでくれる子がいるかなー……魅惑の妖精亭は……フフフ……」
……うん、聞かなかったことにしよう。これからの王城での礼儀作法のことでも不安抱いてるのに、こんなところでさらに大きい不安抱えたくないし。……でも次にお店行く時が少し楽しみだなぁ……。あの新入りの子、すごい驚いてくれてたっぽいし。次行くときはあの子を指名してどう思ったか聞くことにしよう。ドッキリはかけられた側のリアクションまで見て完成だからな!
心の中で算段を付けていると、王城が近づいてくる。このまま正面の入り口から入り、先導役の貴族に従って王宮へ。そのまま玉座の間へ進み、アンリからマントを貰って、宣言したら終わりだ。……始まっちゃえばぱっと流れに乗れると思うんだが……こう、始まる前が一番緊張するよな!
隣で気配遮断をしながら馬車に潜んで俺の護衛をしてくれている小碓をむにむに弄りながら緊張をほぐしていると、がらごろと馬車はついに王宮の入口へ。扉が開かれ、先導役の貴族が……。
「おや、マリーか」
「ええ、私よ、王さまっ。……んー、似合ってるわねぇ……さすがは王さまのマスターが選んだ服ってところかしら!」
「はは、結構悩んでたからなぁ。そういって貰えると嬉しいよ」
フランスの女王からのお墨付きなら問題ないと思っていいだろう。
「んー……」
「ん? どうした、マリー」
「ふふ、一つ足りないところがあると思うの……直してもよろしくて?」
「おっと、着崩れてたか? こういうの久しぶりに着るからな」
頼むよ、と服を直しやすいように軽く腕を広げてマリーに任せる。あんまり動かないようにしたけどな、と思っていると、ぽふ、と軽い衝撃。
「はは、どうしたマリー。寂しくなっちゃったか?」
マリーが俺に正面から抱き着いてきていたのだ。かわいいところあるじゃないか。正装した俺とハグしたかったのか? とこちらからも軽く抱きしめ返す。しばらく俺の胸に顔をうずめていたマリーだったが、ぱっと顔を上げて離れた。……もう少ししててもよかったと思うけど……。ま、またチャンスもあるか。
「はい、おしまいっ。これで私と同じ香りよ? ……ふふふ、これであなたの輝きも増すわね」
確かに、ふわりと花のような香りがマリーから移ったのを感じる。…… おしゃれなことをする子だなぁ。
「じゃあ、行きましょうか? みんなお待ちかねよ?」
そういって、マリーは軽い足取りで歩きだす。苦笑しながらも、俺はその後ろに続くのだった。
・・・
「ギルバート・オルレアン辺境伯、ご入場!」
兵士の先触れの号令で、玉座の間への扉が開く。おー、緊張がマックスだな。
視線の端でマリーが礼をするのを見て、ゆっくりと歩きだす。正面の玉座には、当然アンリ。横に控えてるのはマザリーニだな。ちょっと下がったところにいるのは……アンリのお母さんかな? アンリに任せて一歩下がったところで補佐をしていると聞く。
玉座の間に足を踏み入れると、その場にいる貴族たちの意識がこちらに向いたのを感じる。お、これは軍議の時の将軍たちみたいな圧を感じるな。懐かしいものだ。一歩歩くたびに、少しずつ圧が強まっていくのを感じる。それでも、俺も色々と修羅場をくぐった自覚がある。このくらいなんともないと跳ねのけて、むしろ俺の存在で押し返すくらいの意識で進んでいく。ふっふっふ、俺はともかく俺のスキル、カリスマを舐めるなよ?
ゆっくりめ、とは言ってもすぐにアンリの前までは到着する。えーっと、とりあえずアンリのちょっと前で止まって、跪いてっと。……やはり厳かな式の場だからか、衣擦れの音も聞こえないほど静かだな。
そんな中で、正面からかつ、とヒールの音がする。アンリエッタが玉座から立ち上がって、こちらに来ているのだろう。先ほど見た顔は、だいぶきりっとした顔をしていたから、王女頑張ってるんだなぁ、と感心したものだ。アンリは俺のすぐ目の前までくると、その王錫を俺の方に触れさせる。おー、こういう感じの儀礼は受けたことないから新鮮だぞ。
「オルレアン辺境伯、ギルバート。貴方はアルビオンの地を再び『白の国』へと復し、さらには『聖戦』においてトリステインの槍として狂王ジョゼフを討ち取りました」
すぅ、と息を吸うのが聞こえる。アンリも緊張してるんだなぁと視線を地面に向けながら思う。……うーん、スカートが長くてアンリの美脚は見えないか……。
「その武勇、知略をもってこのハルケギニアに安寧を齎した貴方の忠誠を持って、貴方はトリステイン王家に何を求めますか?」
「は。此度のアルビオン奪還、そして復興には多くの民が力となってくれました。ならば私が求めるは民を導く理と、陛下との変わらぬ絆を」
「……よろしい。表をあげなさい」
そういわれて、俺は顔だけを上げる。……お、今日も可愛らしい顔をしている。向こうも何かしら思ったのか、少しだけ目が優しくなったような気がする。
「それでは、その証を受け取りなさい」
そういうと、背後で扉の閉まる音がする。……えーっと、あ、マリーがマント持ってきたのか。マリーのブーツの音が響き、俺の後ろで止まる。そのままごそごそと音がして、俺の肩にふわりと肌触りの良いマントがかけられる。後はこれをアンリが留めてくれれば、俺の宣言の番である。
「……ん」
少し硬いのか、アンリが少し留め具を付けるのに手間取っている。俺はマントを抑えるふりをしながら、アンリの手に手を重ね、少し手伝う。
「あ……」
近くにいる俺にだけ聞こえるくらいの息を漏らしたアンリが、口角だけを上げてニコリと笑った。
「ありがとうございます」
俺にだけ聞こえるように、つぶやくように告げ、アンリは立ち上がる。
「貴方は今この時より『アルビオン公王』となります。このトリステインを変わらず支え、絆を深められるよう、励みなさい」
「は。『アルビオン公王』、しかと承りました」
そういってから、しっかりと立ち上がる。……お、紫色なんだ。いいね、高貴な感じで好きだよ、紫。赤も良いと思うんだけどね。ま、鎧つけてるときはこっちつけないから、使い分けだな。
床が綺麗だから俺が膝ついてもマントが地面撫でても汚れ一つつかないのはさすがだな。シエスタみたいなメイドたちが頑張ってくれたのだろう。こういう時に支えてくれる人たちの力を感じるものだ。……だからマフラーについてはもうちょっと待ってくれるか、自動人形たち。流石に千越えはなかなかな重労働だ。
考えていることとは裏腹に、俺の身体は自然と動く。先ほどから働いているカリスマに任せて、貴族たちを圧倒する。こういう宮廷政治みたいなのはパワーで圧倒するのが早いって眼鏡で褐色で黒髪が綺麗な軍師が言っていた。
「アルビオン公王、ギルバートである。空の大地、白の国。アルビオンはこれより俺が治める公国となった。我が公国はトリステイン、そして友好な国々との絆を重んじ、深めていく」
並ぶ貴族たちを見回しながら、宣言していく。最前列にいるのは有力な貴族とかなのかな? ……そういえばマスターのお父さんの姿が見えないな。公爵だからいるもんだと思ってたけど……。別の用事で欠席なんだろうか。まぁ俺前にマスターの家で大立ち回りしちゃったしな。嫌われてるのかもしれない。だがまぁ、いなくてよかったかもな。あの人は別にトリステインの敵じゃないし。……この中にいるだろう、悪いこと考えてる貴族に釘を刺すのが俺のやることである。
「故に、俺はその絆を蔑ろにするものを許しはしない。……空からの雷のごとく、俺は容赦しない」
これでどの貴族もちょっかいを出そうとはしなくなるだろう。……ふー。肩凝るなぁ……。ま、マスターの安全と未来のためだ! もうちょい頑張ってくとしよう!
そのあと、アンリに退出を許可されて、マリーに先導されて俺は玉座の間を後にするのだった。
「よかったわよ、王さま」
「そういって貰えると助かるよ。ふー、肩凝った」
「後でマッサージに向かいますわ」
「はは、頼もうかな」
お姫様にマッサージしてもらえるなんて、相当な役得ってものだ。……マリーって筋力あったっけ……?
・・・
叙勲式の後は晩餐会である。トリステインの中での叙勲式だったためそこにはトリステインの貴族……いわゆる身内しか参列していなかったが、ここからは俺の……アルビオン公王のお披露目ということで、他国からの使者も当然参列する。
その中にはガリア王家の王位継承者第一位として、タバサもいた。舞踏会が始まる前にタバサとタバサ人形……うーん、ややこしいな。シャルロットとタバサと言おう。その二人を目通しさせて、さらに行動やらを完璧にトレースできるようにしておこう。俺の目で見ても微細な違いしか分からないので、ここまでくると極まった人形師くらいにしか違いは分からないんじゃないかと思うくらいではあるのだが……念には念だ。
「ほらほら、とっとと御脱ぎになって、王さま? また舞踏会で着る衣装を選ばなければならないわ」
頭の中で舞踏会までの予定を考えていると、マリーが手慣れた様子で俺の肩からマントを外す。丁寧に畳まれたそれをこれまた豪華な箱に仕舞って、叙勲式用に着てきたこの服を脱ぐよう迫ってくる。……いや脱ぐけどさぁ。ちょっと休憩とか……。
「いーからいーから。ほら、マッサージ。するって言ったでしょう? ……そこにベッドもあるわ。ふふ。もう大体着せるもののイメージは固めてるから……後は自由時間、ね?」
いつもの朗らかな笑みではなく、腹に一物抱えてる笑みを浮かべて、マリーは俺の胸に指をとんとんと突きつける。
「そういうことか」
「そういうことよ」
ならばまぁ、しつこく拒否するほどでもない。手早く着ているものを宝物庫へと片付ける。おっと、ちょっと気合が入って下着まで脱いでしまったが……目的には沿っているだろう。マリーもさらに笑みを深くしている。
「んー、良い脱ぎっぷり。それじゃあ私も……っと」
マリーも同じく王冠のような帽子を外し、かなり軽装になる。
「ほら、そこに寝て? まずは背中からマッサージしてあげる」
あー、タバサのことについて色々固めなきゃいけないこともあるんだけどなー、舞踏会に来る客のリスト見てもう一個面倒そうなもの見つけたんだけどなー……後でいっかぁ……。
俺がそんな風に色々と未来の自分にまかせようとしていると、扉が大きな音を立てて開く。あれ、アンリだ。アンリはベッドにうつぶせになっている俺と、その上にまたがっているマリーを見て、驚いた顔をしたり顔を赤くしてみたり表情を変えた後、ずんずんこちらに近づいてくる。……あんまり女王様からしてはいけない足音してるな……。
「マリー? ……私も混ぜなさい」
「ふふ。はいはい。じゃあ、アンリには背中を任せようかしら」
マリーの言葉にうなずくと、アンリはごそごそとドレスを脱ぎ始めた。先ほどの叙勲式で着ていたドレスからは着替えていたようだが、それでも結構なドレスだ。マッサージするには邪魔なのだろう。その下のコルセットも緩めて外し、ほぼ下着姿になったアンリが、マリーの代わりに俺の上に乗った。
「私、誰かのことをマッサージするのは初めてなので拙いかもしれませんが……許してくれますわよね?」
「ん? ああ、もちろん。アンリのことだ。しっかりと導くこととしよう」
「ありがとうございます、公王さま?」
……もちろん、うつ伏せから仰向けになった後、我慢できなくなった俺が二人に手を出したことは想像に難くない。……おかげで舞踏会の時間ギリギリになっちゃったけどな。俺とマリーは早着替えできるから、二人がかりでアンリのドレスアップを手伝ったのは、笑い話だ。
・・・
「……これが、私の代わり?」
「そう。俺たちの目から見ても違和感はないようになってるけど……本人から見てどうだ?」
準備のためにどたばたと出て行ったアンリとマリーを見送り、俺は時間の迫る中タバサ……じゃなくてシャルロットの部屋を訪れていた。タバサとの交代を試してみるため、こうして宝物庫からタバサを出してみたのだが……。
「ん。私を鏡で見たみたい。違和感はないように思える」
「それはよかった。タバサの方はどうだ? 代われそうか?」
「大丈夫。ご主人様からの任務はこなせると思う」
「……ご主人様と呼ばせてる? ……私もそう呼んだ方がいい?」
「シャルロットにはいつも通り呼んでほしいな」
さすがに二人共からご主人様と呼ばれては結構倒錯したプレイだと思われてしまう。
「……シャルロットと呼ばれるのは、慣れない。……なんか、照れる」
「お、そうか? けどまぁ、こっちの方を呼ぶのも差別化しないとならないし……」
「ん。まぁ、そのうち、慣れる。……タバサ、よろしく」
「よろしく」
お互いに言葉少ないが、何やら通じ合ったらしい。軽く握手をして、早速入れ替わり始める。
「うん、ドレスもぴったりだな」
「じゃあ、私はいったん隠れる。何かあれば教えて」
俺の姿隠しの宝具を羽織ったシャルロットが、こちらを見上げて言う。この宝具であればメイジの探知をごまかすことはできるだろう。
「ああ。それじゃあタバサ。後は頼むな」
「ん」
短い返答だが、それでこそシャルロットだ。後は今回の舞踏会で、周りにいるガリアの貴族たちが気づかなければ、テストは完璧だろう。
・・・
「……これは……?」「王さまの特別な存在感を現すにはこうするのがよいとマリーが! 光を受けて七色に光るんですよ!? しかもほら! こうして魔力を通すと……次々と色が変わるのです!」「……このゲーミングマントを提案したのはマリーだったな?」「? ……は、はい。そうですが……?」「……ちょっと待っててくれ」
その後、「やっぱり普通のがいいと思うわ」とちょっと涙目になったお姫様から言われたとかなんとか……。
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