ゼロの使い魔 ご都合主義でサーヴァント! 作:AUOジョンソン
それでは、どうぞ。
ガリアで行われる女王即位の園遊会は、つつがなく準備が進められていった。シャルロット……の代わりにいたタバサとジョゼットという隠し子が秘密裏に交代しているということ以外は。
「……で、これか」
「ええ。ガリア女王、シャルロット女王との婚姻を許可するというトリステインからの免状……の、ようなものですわ。ま、ロマリアの方が拒否してくるかもしれませんが……」
「その時はその時だな。アルビオンも今はかなり発展してきてる。俺のもとにいたみんなをトップに据えた省庁もうまく回ってるみたいだし……」
トップにあの子たちを付けたのは最近だが、そもそも復興しているときからそれなりにシステムは作ってきていたのだ。本当に彼女たちをトップに据えただけなので、特に最近動き始めたシステムというわけではない。
今のアルビオンの王都はすんごいことになってるぞ。帰るたびにどんどん変わって行ってるし、なんだったら少しずつ「土地が足りなくなるかも」みたいなことも言われてきている。浮遊大陸で土地も制限されているからその問題も出るとは思ったけど、アルビオンもアルビオンで大きいんだぞ……。まぁ復興のために戦災孤児やら難民やらすんごい受け入れまくってるから、人口の増え方がV字とかじゃなくて垂直くらいになってるからな……。
「ふむ……ガリアとの結婚とあれば、トリステインとしても貴方の『公王』としての立場をより強固なものとして諸外国へ示す書状が必要ですわね。まぁ、それでもロマリアの方から拒否してくるかもしれませんが……」
「俺の今の立場だけでも、いろんなところから狙われまくってるんだけど?」
「ですが……市井にも王さまの話は広まってしまっている以上、すでに公王である貴方の威厳を、民も貴族も無視することはできませんわ。……それに、狙ってくる『そういう』者には、すでに対応しているのでしょう?」
「……まぁ、そりゃな」
そもそも公王になった時点で、それなりの貴族からの色んな妨害やら暗殺やらあったのだが、その辺は俺も経験者。狙ってきた貴族たちをちぎっては投げちぎっては投げ……というのは比喩だが、そういう貴族たちは色々後ろ暗いものを持っていたりするものだ。それをアニエス率いる銃士隊で逮捕したりしていると、どんどん『公王を狙うと破滅する』みたいなのが噂として広まったらしく、最近ではほとんど聞かなくなったものである。
「それもあって、もうトリステインでは王さまのことを悪く思う人間は少数派ですわ。……それとは別に、トリステインの王の座を明け渡すべきでは? みたいなことを言い出す貴族も、少数いるらしいですが」
「……アルビオン独立するか?」
「そうなると叛意ありとしてトリステインからの宣戦布告、そしてその後数分でトリスタニアの王城を取られて私たちトリステインの負けが決まりますわね。……あら? そうなると私も王さまのお嫁さんになれたりするのかしら……? ……戦争に負けた姫が、下克上をした公王に手籠めにされて……ああっ、ごめんなさいねルイズ。私がお先に王さまのモノになってしまうかも……!」
後半ぶつぶつ言って妄想に入ったっぽいアンリをいったんスルーして、マリーに紅茶を入れてもらう。……んー、マリーも女王なのにこういうの得意なのすごいよな。まぁ? 俺も? そういうのは負けてないけど?
「ふふ、アンリったら、王さまとお話してるととっても楽しそう。ね、王さま? 今はあの国だけですけど……きっとこの国も、あの小さなお姫様の国も、きっとあなたのモノになるのでしょう?」
「んー……色々と脅威がある時点で、人手は必要になってくるからな。それにこの世界での力、『虚無』も必要になる。ルイズ、テファ、そしてジョゼット……ヴィットーリオが仲間になってくれる可能性が低い以上、こちらが多く抱えておきたいからな。……それに、きっとこの先エルフとの交流もある。そのために、いろんな選択肢を取れるようにしておきたい」
ガリアは薄いとはいえエルフの国と親交のある国だ。そのルートを教えてもらえるのも大きい。エルフもさすがに全員が全員あの人間を下等にみているエルフばかりではないのだろう。……まぁこちらで言う『異端』とか『変わり者』くらいのレッテルははられてるかもしれないが……。
「まずは園遊会ですわね。そこで向こうがどう出てくるか……シャルロット女王はすでにそのジョゼットという方に代わっているのでしょう? ロマリアが仕掛けるなら園遊会で、になりそうですわね」
「そうだな。……ま、そのために準備してきてるんだ。何が起きても対抗するさ」
・・・
というわけで園遊会当日。トリステインはトリステインとしてアンリたちが来ているが、こちらもこちらで公国として俺が参加している。外交を担当する人間がいないので、その辺は俺が兼務することになるな。
外交できるサーヴァント……いたかなぁ……。できるとしたら謙信か卑弥呼……後はカルキもできたりしそうだな。んー……手が足りないし、今後のことも考えて召喚するのもありか……? まぁその辺も帰ったら考えるとしよう。
「いまはとりあえず……」
園遊会ということであまり堅苦しくはないようだが……。それなりに外交の場ではある。ガリアやトリステインはもちろん、ロマリアやゲルマニアの貴族たちも大勢来ている。ジョゼフとの戦いでのことが知られているからか、ゲルマニアやガリアの一部の貴族からは結構好意的な対応を受けている。シャルロットを王位につけたからか、王弟派もひっきりなしにこちらに来ては乾杯! と叫んで去っていく。こういう気質の貴族はどこの国にもいるのだろう。快活で豪快。うちで言えば信玄のようなタイプだな。
「王さま」
「アンリ。楽しんで……はいないか」
「ふふ、さすがにこの状況では……。あのロマリアの神官たち……そして代わりに王座に付こうとしているジョゼット。……この後のあいさつで、何を言うかが問題ですわね」
アンリが言う通り、この後少しすれば一度区切りがつけられ、即位するシャルロットのあいさつ、ということになるのだろう。お、動き始めたな。一段高いところに誂えられた席にジョゼットが向かい、こほん、と咳ばらいを一つ。それなりの場数を踏んできている貴族たちだ。女王になる人物の動きには注意を払っているだろうし、小さい咳払いだったが大体の参加客が静かになる。
壇上のジョゼットは、最初に集まってくれたみんなへの感謝やら定型文らしきものを話した後、手に持つ杯を掲げ、締めに
「そしてガリアは、ロマリアに協力していく。乾杯」
そんなとんでもない発言をかましたのだった。……そういうことか。ロマリアはジョゼットを虚無に目覚めさせるだけじゃなくて、そのシャルロットとの瓜二つな外見を利用してガリアを掌握、傀儡にしてこの大国を味方につけようという算段だったんだな。
これなら、ロマリアで宗教的に『異端』とされていることができるようになる。つまり大義名分がなくてもガリアに『宣戦布告』させれば代理で戦争をさせることができるのだ。……その先はおそらく、俺たちトリステイン側か、その逆……エルフの側に、だろう。
「ふぅむ……やられたな、アンリ」
「確かに……言うにしても、ここではないと思ってましたから……」
さすがに驚いたのか、アンリも笑みを浮かべてはいられないようだ。ガリアの貴族ですらざわざわと騒いでいるみたいだしな。ここで冷静なのはロマリア側の参加者……特にヴィットーリオとジュリオたちだ。……さすがにここで勝利の笑みを浮かべるほどではないだろうが、着実に彼らの計画が進んでいることを感じる。
「……ま、準備が無駄にならなくて良かった、ってことにしておくか」
「確かにそうですわね。……マリー、いつでも動けるようにね?」
「わかってるわ」
よしよし、こういうところでは思い切りが大切だからな。下手にビビると説得力がなくなる。
「それは素晴らしい!」
ざわめきに負けない声で、俺は両手を広げて声を上げる。さて、あんまり演劇には力を入れていなかったが……王になるなんて言うのがそもそも役者みたいなものだ。それなら俺はこの中のどの演者よりも経験がある。ふっふっふ、あんまり見せ所はないがな!
俺が声を上げたのを見て、大体三種類くらいの反応に分かれたな。ヴィットーリオ達をはじめとする警戒をあらわにしているのと、何かしらの対応を打ってくれるのだと信じてくれている王弟派たち。そして、何が起こってるかわからないと混乱している者たち。
よし、大多数が混乱しているなら、行けるだろう。
「このような良き日に、素晴らしき知らせを三つも届けられるとはな」
「……三つ、ですか?」
ジョゼットに近づいていくと、他の貴族たちは道を開け、ジュリオたち神官が立ちふさがるように出てくる。これは質問の体をなした妨害だろう。何かしら俺がジョゼットに仕掛けると思っているのだ。ジョゼット自身にディテクトマジックはかけられていたから、魔法人形や薬で洗脳させられたわけじゃないと示してはいるようだが……俺がここで『ガリア女王』をどうかしようとしていたら、止めなくてはならないからな。
俺はジュリオの目を見て、ニコリと笑う。公王としてよくぞ聞いてくれたという笑みと、俺として、よくぞ聞いてくれたという二つの意味を込めた笑みだ。
「そうだ。一つはもちろんガリア女王の戴冠。二つ目はロマリアとの協力体制の樹立。最後三つめは……ガリア女王、シャルロット殿下とこの俺との婚約の発表だ!」
しん、と会場が静まり返る。園遊会なだけあって野外で実施されているが、風の音すら止まったようだ。
「は、こ、んやく……?」
「ああ。なんせこれだけのことだ。シャルロット殿下とアンリエッタ殿下、そして俺を主として秘密裏に進めていたのだが……ことここに至っては隠す必要もなくなった。そうだろう?」
俺の目配せに、アンリが俺の通った貴族の道を通って俺の横までやってくる。
「その通り。私と、公王。シャルロット殿下のサインの入った婚約に向けての書類もございますわ」
「……それは……そんな、聞いてないぞ」
ジュリオが、固まった笑みのまま汗を垂らした。
「そりゃあそうだろう。ガリアとトリステインの話だ。なぜロマリアが関係する?」
俺がそういうと、ジュリオはぐ、と苦々しい顔をした。ジョゼットが王位に就くのは認めてやろう。シャルロットもほかのガリア貴族が困るからと就いた王位だ。そこにこだわりはないと本人も言っている。だが、それを利用して何かをしようとするのなら、俺も抵抗するだけ、という話だ。ここで引くなら良いだろう。このジョゼットという少女をどこかに隠し、タバサを修道院から戻して王位につけるというのなら、それはそれでロマリアの逃げ勝ちだ。だが、このままガリアを欲し、ジョゼットを王位につけたままならば……いいだろう。そちらの秘策ごと、こちらも食い尽くすまでだ。
「さ、どいてくれ弟よ。この場でシャルロットと並び祝いたい。……許してくれるな?」
「……ああ、もちろん。……その前に、シャルロット女王に祝いの言葉をかけてきてもいいだろうか」
「ああ、そうしてくれ。ロマリアの神官からの言葉だ。ありがたいものになるだろうな」
俺がそういうと、ジュリオはそのまま踵を返し、ジョゼットのもとへ向かう。……さて、どうするのかな。
いくつか言葉を交わすと、ジュリオはそのままヴィットーリオの元へ下がる。それを見て、俺は歩みを進めると、ロマリアの神官たちも道を開けてくれた。そりゃそうだろう。一応こちらはアルビオン戦、ガリア戦ともに戦果を挙げたということになっている。下手に刺激したくないというのがロマリアの者たちの本音だろうしな。ふっふっふ、俺は危険な男なんだぜぇ……?
「シャルロット、以前からの話がまとまってこうして発表できること、嬉しく思うよ」
「……私も。あなたとようやく結ばれて、嬉しい」
……ふむ。ジュリオから何か吹き込まれたかな。納得いかない顔をしているが、とりあえずこちらの話に乗ることにしたらしい。それならまぁ、こちらもそのまま進めるだけだ。
俺はジョゼットの隣に立ち、杯を上げる。
「今日は騒がせてしまってすまないな! さぁ、もう一度乾杯をしようじゃないか! 我らの未来に!」
そういって杯を上げると、少しして皆が乾杯! と杯を上げてくれた。カリスマの力は大いにあるだろうが、今の流れはとても良いことなので普通にうれしく思ってくれているというのもあるのだろう。
隣を見れば、不安そうにジュリオたちに視線を向けるジョゼット。ロマリアとしてはここで宗教的な理由を付けて俺たちの婚約を認めないとするか、この園遊会のあとジョゼットとシャルロットを再び入れ替えるという二つのルートがあるだろう。……まぁなんかしら俺の知らない虚無とかで抜け道はあるかもしれないが、大まかにはこの二つだ。
前者ではガリアを手に入れることはできるだろうが、トリステインとアルビオンを巻き込んだ騒ぎになるため、ロマリアはこの先の計画に遅れか練り直しが発生するだろう。それを嫌ってその手は使えないと思われる。それにガリアとの『聖戦』を行った後では、この婚約をさかのぼって拒否するようなことをしてはロマリアの権威に傷がつく。そしてシャルロットを戻すのもそれはそれで不可能だ。彼らの作戦にガリアは必須。シャルロットではロマリアの味方には付かないだろうし、ジョゼットとの入れ替わりということをシャルロットから暴露されてはそれこそロマリアの……少なくともヴィットーリオの立場は終わるだろう。ということでこれもできない。
今あの顔をしているということは、虚無の力による何かしらの方法もないとみて良いだろう。……暗殺者くらいは向けられるかもな。ジュリオのサーヴァント、フランシス・ドレイクは暗殺とまではいかないが相当に高位のサーヴァントだ。星の開拓者というスキルもそうだが、彼女は戦闘センスがかなりある。戦って負けるつもりもないが、その間にロマリアに動かれても厄介だ。……が、向こうもサーヴァントは虎の子だろう。ここで切ってくるとは思えない。それはない……と思うが、一応周りを小碓と謙信にみてもらうつもりだ。
「この後は今後についての話もある。アルビオンから色々持ってきたり連れてきたりしているのだ。忙しくなるぞ」
「……うん」
目線を向けたジュリオは少し悔しそうに視線をそらしていた。それでショックを受けたのかあきらめたのか、ジョゼットは小さくうなずく。……可哀そうだがここに来ることを選んだ責任は自分で取らないとな。
俺もアンリに視線を向けてみると、にっこり笑っていた。あれは嬉しいのではなく「ジョゼットのあとはきちんと私のところにも来いよ」という笑顔である。めっちゃ怖い。
一応ヴィットーリオの方も確認してみるが、色々と考えているようで余裕はなさそうだ。今必死にアルビオン公国を取り込むすべを考えているのだろう。
後ほど言うつもりではあるが、アルビオンもガリアとともにロマリアに協力していくつもりである、と発表することにしている。まぁ今の感じだともう少し落ち着いたときに言った方がいいと思うからとりあえずは婚約騒ぎでざわついているこの園遊会をしっかりと進めていくことだがな。
隣に立つジョゼットに嫌われないよう、一応笑いかけてみたのだが、すっごい渋い顔をされた。シャルロットってことになってるんだから、もうちょっと愛想よく……あ、そっか。俺がシャルロットと仲が良いってこと、あんまり知られてないのか。それでも俺とアンリ、シャルロットの三人で交わしたという今回の婚約なのだから、笑顔くらいはできるようにならないとな。これから女王として過ごすならその辺も教えてやらねばな。
かといってこの子とそのまま結婚して……というのは少し可哀そうではある。向こうの計画がとん挫するかもしれないが、このジョゼットのことを想ってこの作戦を中止し、今夜までにシャルロットを戻すなら見逃すことにしよう。だが、このまま作戦を続けるというのなら……ま、ジョゼットは俺がいただくことになるな。さて、どうするかをしっかり見ておくとするか。
・・・
「……作戦はこのまま進めます」
「それしかないでしょうね」
「彼女には辛い思いをさせるかもしれませんが……逆に考えれば公王の庇護下に入るとも思える。何かあっても危害を加えられることはないでしょう」
園遊会が終わった後。ガリア城内に用意されたロマリアの控室にて、虚無の使い手とその使い魔の二人が深刻そうな顔をして椅子に座っていた。
「彼女は強い。我らの今後の計画のためにこうして身を捧げてくれたことに感謝しつつ、次の一手を打ちましょう。ここで引いてしまっては、彼女の覚悟を無駄にすることとなる」
「……そう、ですね。して、園遊会の最後に言っていた公王の……ギルの言っていたことですが……」
「ええ。アルビオン公国もロマリアに協力する、と。まぁガリアが協力する立場であるからこちらも、ということなのでしょうが……彼が来るというのなら、こちらといても望むところです」
そういって、ヴィットーリオはふぅと小さく息をつく。
「さすがは英霊と言ったところでしょうか。こちらの嫌がることを的確について、自由に動けないように策を張り巡らせてくる」
「……私がもっと策謀に長けたサーヴァントを召喚していれば対策も打てたのでしょうが……暗殺は」
「しない方がいいでしょうね。あなたのサーヴァントの能力は見せて貰いましたが、戦闘力という線では優秀なものの、隠れ潜むという点では向いていない。やっても確実にトドメをさせる確信もない」
二人しかいない部屋に光が集まり、人を象っていく。
「なんだい辛気臭い男が二人してアタシのことを馬鹿にしてさ。そこまで言うんならアンタら二人を始末して最後にドカンとあいつにぶつかってきてもいいんだけど?」
「はは……いや、すまない。こちらとしてもできることをすべて考えておかないといけないからね。君に何か不快なことを思わせたなら謝るよ」
「ふん。神に仕える坊主ってやつはどこでもそんなもんかい。ま、あのギルが相手なんだ。アンタら二人には期待してるよ。アタシとあいつが戦える土俵を作るのをね」
そういって、ライダーはどかりと椅子に腰かけた。背中まで深めに腰かけているので、これ以上話に参加する気はない、という意思表示のようだ。
「……とにかく、ガリアとアルビオンは仲間にできた、という前提で動きましょう。公国がこちら側なら、公王の説得でトリステインも動かせると思って貰っていいでしょう」
「では、残りはゲルマニアということですか。あそこは実利で動く。始祖の血を引かない彼らには、こちらの語る聖地への思いが通じない可能性もある」
「そこはこちらも大きく賭けるしかないでしょう。それに『聖地』は『ある』のです。勝ちのわかっている賭けなら、乗らない理由はない」
「はは、聖職者が賭けですか。始祖ブリミルも見逃してくれればいいのですが」
「そうですね。それを祈りましょう」
・・・
夜。園遊会での衝撃で、ここまでくる間のことはぼんやりとしか覚えていない。突然のアルビオン公王というあの男の人の宣言。私が、あの人のお嫁さんに……? ジュリオに助けを求めてみたけれど、彼は「俺のために、このまま話に乗ってくれ」と言われてしまった。
「……このまま……あの人のお嫁さんに、かぁ」
ジュリオのためなら何でもすると誓った。どんなことでも裏切らないし、どんなことがあっても投げ出さないと。……ジュリオと結ばれるなんて、本気で思ってたわけじゃない。世間知らずすぎる私が、修道院から出てきて頼れるのはジュリオしかいなかったから、少し頼りすぎていたのもあっただろう。けれど、知らない人と婚約してお嫁さんになるなんて……。
「この数日で、一生分びっくりしちゃったかもな……」
はぁ、とため息をついて座っていた大きなベッドにそのまま倒れこむ。……婚約、ってことは。い、いつかはその、跡継ぎを……作らなきゃ、だよね?
「……今のうちにジュリオに頼んで……見張りもいるし、無理かぁ……」
初めては好きな人と、なんて修道院のみんなときゃいきゃい騒いだこともあったっけ。キスはしてくれたけど、それ以上は流石に……っていうか。一瞬しか会ってないけど、私の双子の姉、シャルロット。……あの人と仲良かったのかな。婚約の書類まで作って……。それなら、私は姉から愛する人を奪ったことになる。……なら、私がこんな状況になるのも、自業自得、かなぁ……。
「うー……っていうか、園遊会も何日もあるなんてびっくりしちゃうわ。明後日はダンスもしなければだし……ステップは一応聞いたけれど……」
こういう時にジュリオに相談したいのだが……アルビオンの王様が婚約なんて発表しちゃうものだから、周りに人も増えてジュリオも楽には近づけなくなってしまったらしい。この部屋の中にはさすがに誰もいないが、外にはアルビオン公王の七騎士の一人、剣の騎士さまが立っている。さっきなんて窓から何とかジュリオと連絡できないかしらと窓に近づくと「どうかしたのかい?」と扉越しに声をかけられてしまった。……なんで部屋の中の私の動きがわかるんだろう。……魔法……とか……?
あとは公王の領地から来たというメイドたちもすごい働きをしてくれる。なぜか一言もしゃべってくれないし目も開けてないけれど、すべてがわかっているかのように動くし、私がしたいことを先読みしたかのように動いてくれる。外の世界にはこんなにもすごいことができるメイドがいるのだと、修道院の子たちに教えてあげたいくらいだった。
「……みんな、元気にしてるかな」
私の姉、シャルロットが代わりに行っているらしいから、仲良くしてくれるといいけれど。それが立場を奪った私からできる、ただ一つのことだ。そんなことを思っていると、こんこん、とノックがされる。
「……はい」
慌てて言葉少ない姉の真似をしながら、応答する。
「アルビオン公王、ギルバート殿下がこられたよ。通すね」
「えっ」
結構素で声が出た。いや、その、来ること自体はまぁ、あるかもって言われたし、その時は言われるがままにして情報を収集しろって言われてるけど……普通に外の剣の騎士さんが素通りさせようとしてる……! これでも一応ガリアの女王なんですけど……! 「通しても良いか」じゃなくて「通すね」って言った!
「こんばんわ。久しぶりだなシャルロット」
待って、という言葉は間に合わなかった。すでにメイドが扉を開けていて、そこから公王が部屋へと入ってきたからだ。
「……急に来るのは、無礼」
一応そういってみる。向こうよりもこちらの方が一応は上。だけど、想像通りの仲なら、そんなの飛び越えられるくらいのことはできるのだろう。
「はは、そういうな。最近はこの園遊会のことで会えなかっただろう? あの婚約の発表でこちらのもので周りを固められたからな。こうして会いに来た」
そういって、公王は近くの椅子を取り、ベッドに腰かける私の対面に座った。……美しい白い肌に、血よりも真っ赤な目。ふと視線を上げると、キラキラ輝いているかのような金髪。
園遊会で貴族の子女たちが騒いでいるのもわかるほどの美丈夫。そのうえで戦も上手く、人を引っ張っていける王気とでも言うべきカリスマがある。まるで、おとぎ話から出てきたかのような、完璧な王。こんな人物に、私がシャルロットではないとバレてしまっては、ガリア、そしてロマリアにこの王の力が向くことになる。……それだけは、防がないと。
「よっと」
「きゃ……!」
自然な動きで、私は彼に抱え上げられ、ベッドに押し倒された。……うそ、姉とはもう、そこまでの関係に……!? そ、そんなの、バレるに決まってる! 私そんなことしたことないし……!
「……いつもより動きが硬いな? 今日の園遊会で疲れたか?」
……そうだ。園遊会で疲れたってことにしておいて、今日は休ませてもらおう。後は何とか園遊会が終わるまでにジュリオと作戦を立てて……。
「……そ、そう。慣れないことをしたから、少し疲れた。だから――」
今日のところは、と言おうとして、彼の人差し指が私の唇に当てられる。
「なんてな。からかうのはここまでにしておこう。ジョゼット、話がある」
そんな衝撃的なことを言いながら、彼は私から離れて再び椅子に座る。
「え、いま……」
「調べはついてる。ジョゼット、それが君の名だろう? ほら、まぁ座って水でも飲みなよ」
そういって、王様はテーブルにあった水差しからコップに水を注いでくれて、私に手渡してくれた。……衝撃のまま受け取って、喉が渇いていたのは確かだったので、一口飲む。
「ま、色々聞きたいことはあるだろうが……重要なことを一つ、言うとしよう。ジョゼット、この件から手を引け」
「――!」
「ジュリオたちの何かしらの策謀のために代わったのだろうが、それをただ見逃すほどこちらも甘くはない。俺の前でシャルロットを騙ろうとした覚悟、それをもってして、一度のチャンスを与える」
真っ赤なルビーのような瞳が、私を射抜く。
「今、この場で手を引いてシャルロットと再び入れ替わるのなら、見逃そう。……だが、このままシャルロットとして振舞うのなら……俺も、お前をシャルロットとして扱おう」
つまり、と言って、彼は私の手を取った。
「ま、つまるところ結婚する者同士、やることは全部やるってことだ」
「だから、な?」という彼に……私はこの人を今、優しい、と感じてしまった。ここで見逃す理由なんて一つもない。入れ替わりにも気づいているのだ。私の姉の居場所もその内わかるに違いない。だから、私を殺して姉を再び王位につけるだけでいいのに、彼は私の怖がるようなことを言って、私が身を引いても良い理由を作ってくれているのだ。
「……いいえ。逃げない」
だけど、私も引けはしない。ジュリオのために、ガリア女王という立場は逃せない。シャルロットが見つかるまでの間だろうと、ジュリオたちが目的を果たすまでガリア女王であれればそれでいいのだ。
それまでの時間は稼いでみせる。すべてを擲ち協力するって決めたんだから。
「……そっか。君はいい子だな。けどま、俺も俺で王としての役割もある。……シャルロットとして扱うって言ったな。俺はもうシャルロットとは大分シてるんだ。……意味は分かるよな?」
そういって、彼は私を押し倒す。……こんなの、犬にかまれたと思えばいいんだ。どうせ好きな人とは結ばれないんだし、ここですることになっても何の問題もない。そのために私の周りの警備を自分の手の者で固めたのだろう。
「……流石に嫌な思い出だけでは苦しいだろうから……優しくはするよ」
「……気にしなくていい。いつも通りにして」
私がそういうと同時に、王様は私の服に手をかけるのだった。
・・・
「……流石に可哀そうじゃない? 騙されてやらされてるだけかもよ?」「それでも、一度言ったことを言った本人である俺が取りやめるのは、言葉が軽くなるから駄目だと思ったんだよね」「そんなこと言って、かわいいから手出しただけじゃないの?」「……まぁ、それがないとは言わないんだけど。……手を出した以上、この子のことは大切にするよ。何を思っててもね」「はいはい。ご馳走様。……んで? 君はここにいる熱情を持て余している女に対してはどうするのかな?」「なんか誘い文句が詩的だな。おいで、もっと熱くしてあげよう」「んふ。せーかい」
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