憐憫の獣、再び   作:逆真

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何が……足りないんだ……教えてくれよ――ッ! なぁ、いるんだろッ!?
なぁ頼むよ……一度、たった一度の勝利さえ許されないのか。だったら――
だったらなんで――人間に『心』なんてくれたぁぁッ!
『ノーゲーム・ノーライフ』より


動機

 あの日を思い出す。貴方が死んだ日を。

 

 あの戦いを思い直す。貴方を殺すための戦いを。

 

 あの言葉を思い返す。貴方が俺たちを捨てた時の言葉を。

 

 貴方に俺を見て欲しかった。貴方に俺たちを見て欲しかった。貴方は、俺たちだけを見るべきだった。

 

 あの忌々しい魔術王などではなく、弱々しい人間などではなく、俺たちこそが貴方に相応しいのだと認めるべきだったのだ。

 

 だってそうだろう?

 

 人間など弱いだけだ。人間など愚かなだけだ。

 

 何の価値がある。何の魅力がある。

 

 貴方に縋らねば生きていけないのに。貴方がいなければ容易く滅ぶのに。

 

 ああ――父さん。貴方はどこにいるのですか? 二天龍なぞに負けるものか。魔王なぞに殺せるものか。貴方が死ぬとしたら――それは俺たちの手でそうなるべきだ。

 

 俺たちが殺していないのに、どうして貴方はいないのだ?

 

 どうすれば、貴方の場所に戻れるのだ。

 

 ……ああ、そうだ。戦争だ。戦争を始めるしかない。また、戦争をするのだ。俺たちこそが至高だと証明しなければならない。

 

 魔王の妹が、赤い龍の飼い主になったという。

 

 俺たちの下には白い龍がいる。

 

 ならば、これは運命だ。この時代こそが再戦の狼煙だ。

 

 ミカエル。サーゼクス。そして、アザゼル。

 

 俺だけでも続ける。俺だけでもやり直す。

 

 俺は今度こそ――――人間如きに負けるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 駒王町のとあるアパートの一室。

 

 ロマニ・アーキマンと『彼』は久方ぶりに顔を合わせていた。

 

「――というわけで、コカビエルの戦争を引き起こそうとする目論見は阻止された」

 

 ロマニは両手で顔を覆った。今しがた『彼』から聞いた話によれば、グレモリー眷属とエクスカリバー使いという少人数相手にではあるが、コカビエルが神の死を暴露したというのだ。問題なのは、高確率でその真実が魔神の耳に入っているということである。

 

 戦争が開始されるのは魔神たちの目的を考えれば喜ばしい事態ではない。阻止しようと暗躍するのは必然だ。当然、コカビエルとリアスが接触した場面も影で監視していたと考えるべきだ。

 

「あいつらが神の死を知ったらどうするんだろうね」

「やることはかわらないだろう。むしろ問題が勝手に解決したと喜んでいるのでは?」

「まあ、『俺たちが神を殺したかったのに!』みたいに荒れてはいないだろうね」

 

 正直、人理補正式として作り出し、人理焼却式という獣に堕ちた彼らが、すでに死亡している神に対してそこまで温度のある感情を向けるとは思えない。そんな無駄な機能も時間も彼らにはない。感情を向けるとしても、七十二柱の中で二柱いるかどうかと言った具合か。

 

「それこそ、三大勢力の動き次第かなぁ。天使は無理でも、悪魔や堕天使が聖書の神に気づいて協力関係を築けないかな」

「無理だな。太陽神の座を全神話で共有するくらい無理だな」

「そこまで言うかい? 君の世界の、君の生命のことなのに」

「……奴らがそこまで融通の利く存在なら、俺もここまで苦労していない。俺だけではない。グレートレッドもメフィストも、サマエルも、ソロモンもな」

「何とも言えないところだなあ」

 

 心底疲れたとばかりに深い溜め息を吐き出すロマニ。

 

「ところで、英霊剣豪という言葉に聞き覚えは?」

「……英霊は知っている。剣豪も単語としてなら。でも、英霊剣豪という言葉に覚えはない。少なくとも、僕には」

「では宮本武蔵という英霊は知っているか? カルデアに召喚されたことは?」

「いや、少なくとも僕の知るカルデアに召喚されたサーヴァントの中にそんな真名の英霊はいなかったはずだ。日本のサーヴァントはそれなりにいたけど、平安時代のサーヴァントが多かったからね。江戸時代のサーヴァントは、幕末の沖田総司くらいだ」

 

 僕のいなくなった後で召喚した場合は分からないけど、と付け加えておく。

 

「英霊剣豪がひとり、セイバー・無間地獄。宮本武蔵と名乗る者がいるそうだ。分かっていることは強いことと、日本刀を所持していることだけだ」

「成程……。察するにゲ―ティア側が召喚したサーヴァントじゃないっぽいのかい?」

「ああ」

「それはとても面倒だ。メフィストやグレートレッドが召喚したわけじゃないんだろう?」

「ああ」

「ソロモンはまだ覚醒していないと仮定すると、候補はサマエルくらいかな。でも、これはこれで引っ掛けなような気も……。レオナルドがいてくれたらよかったんだけど」

 

 付き合いの長かった相棒を思い出すが、頭を振るう。

 

「考えても仕方がない。情報が入ったらまた教えてくれ。僕は今まで通り、イッセーくんに接触を続けるよ。……ところで、彼が本当にこの星の命運を担う存在なのかい? 悪魔だと知っていても、僕には普通の高校生にしか思えなかったけど」

「その言葉、そっくりそのまま返すぞ。藤丸立香やマシュ・キリエライトを俺たちが見ても、全く同じ感想を抱くだろうさ」

 

 

 

 

 

 

「――以上で、バアルの報告を終了する」

「バルバトスより結論。堕天使幹部コカビエルによる戦争再開は回避された。喜ばしい。これで貴重な燃料を無駄に消費せずに済んだ」

「ガミジンより要請。これより覗覚星は此度の事件にてコカビエルが暴露した真実――『聖書の神の崩御』の事実確認に集中する。現在担当している任務の代行・補佐を情報室または観測所に任せたい」

「フラウロスより受諾。現在集まった教会に関する情報も共有しよう」

「アムドゥシアスより危惧。しかし、損失もある。フリードも間者としての役割は無理だろう。間者はまだ複数潜ませているが、より上層の動きを知る必要がある。今後の堕天使内の動きを探る駒の心当たりがあるものはいるか?」

「ガープより提案。以前より打診していたが、此度の事件にも登場した白龍皇ヴァーリを勧誘すべきではないか? 無論、『狗』の方でも構わないが」

「フルフルより否定。かの神滅具所有者は双方とも堕天使総督アザゼルに拾われたという過去がある。それ以前の情報を入手していないため断定はできないが、彼らが堕天使を裏切る可能性は低い」

「デカラビアより同意。上層部の情報が確保できないのは歯がゆいが、現状維持に努めるべきだ」

「グレモリーより通達。天界陣営上層部が悪魔陣営と接触する模様。不本意ながら、堕天使側の動きについて議論を交わすようだ」

「グラシャ=ラボラスより補足。なお、この会談には堕天使側も参加する模様。この会談の結果によっては、三大勢力は和平に進む可能性がある。逆に、戦争の再発の可能性もある」

「……面倒なことだ。何千年も戦っていたのだ。神が死んでいたとはいえ、今更和平などやめて欲しいものだな。どうせあと少しで滅びるというのに。問題なのは、奴らがどの程度の期間を前提に和平を為すつもりか、という点か。数千年のしこりの解消が、我々の計画より早く進むはずもないが」

「ゲ―ティアの話、難しい。ずるずる」

「本当ねー、オーフィスちゃん。ずるずる」

「武蔵の姉御。私ですら真面目に会議を拝聴している空間でオーフィスとすするうどんは美味しいですかい?」

「じゃあリントちゃんも食べましょうよ」

「遠慮しますぜ。魔神柱のセンセたちからの視線が痛いんで……」

「どーも、ゲ―ティアの大将。フリード・セルゼン、ただいま戻りましたぜー」

「早かったな。五体満足で何より。さて、アーチャーやキャスターから合図がなかったということは自力で脱出したのか? 今更追っ手の心配などしていないが、堕天使連中に尋問されて情報は漏らしていないだろうな?」

「それは問題ありませんぜ、大将。普通に解雇されただけですんで」

「そうか……は?」

「適当なんですよ、教会もグリゴリも。まあ? だからこそ僕ちんはここにこうしているわけなんですが?」

「連中が敵であることを前提で尋ねるんだが、それで大丈夫なのか?」

「所属していた頃はそうも思ってなかったですけど、大丈夫じゃないんじゃないんです?」

「そうか……そうか」

「二回も言うほど腑に落ちないんですかい?」

「腑に落ちないというか拍子抜けというかな。だが、今回の事件から考えても、少し大胆に動いても良いのかもしれないな。……フラウロス、物は試しだ。例のデュリオ・ジェズアルドとの接触を進めろ」

「了解」

「ん? 大将や旦那たちから見て、今回教会について何か思うところでも?」

「マルコシアスより解説。此度の一件、何よりも目立つのは聖書の教会陣営における杜撰さである」

「ほう? 杜撰ですとな?」

「詳しく教えてくださいな、マルコシアスのセンセ」

「第一に、フリードやバルパー・ガリレイのような危険人物を排除できていないという点。異端認定はいいが、同時に処分すべき存在のはず。特に、バルパー・ガリレイは思想的に危険なだけではなく、聖剣計画に関する知識や記憶を持っている。これが他勢力に渡れば非常に危険である。案の定バルパー・ガリレイは此度の事件に深く関わった」

「違いないですなぁ。いやあ、俺みたいな天才を異端にしたこともそうだけど、人材の扱いが雑すぎる!」

「私らシグルド機関の作品も、ほとんど裏切ってますしねー。生き残っている実験体の中でここにいないのは英雄派のジークのセンセくらいですし」

「第二に、派遣された人材。エクスカリバーが三本も盗まれるという失態を犯したにも拘わらず、派遣された人材は未成熟な聖剣使い二人と、試し切りで全滅するような低位の悪魔祓い。堕天使の大物であるコカビエルが関与していると知っておきながら、この対応だ。本気で解決しようとはしていないと見て良い」

「おそらくは、リアス・グレモリーの領地にコカビエルが入ったこともあるのだろう。教会も政治的に立場のある人材を送れなくなってしまったが、好機でもあった。建前としてリアス・グレモリーには『手出し無用』としているが、実際は魔王が出しゃばってくることを期待していたと見るべきだろうな」

「手出し無用を破ったのは悪魔側であるために、未熟で経歴の浅い聖剣使いたちに『実績』を与えることもできるという算段だったのかもしれん」

「あー、納得納得。……で、結果的にその二人が神の不在を知っちゃ世話ねえよな」

「全くだ。万一に備えて駒王町に控えていたバアルとグレモリーが拾ってきたはいいが、あの様子では大した仕事は任せられないな」

「所有者を追放するだけではなく、聖剣ごと捨てるのは本当にどうかと思うが」

「ん? 聖剣といえば、バルパー・ガリレイに関してなんすけど」

「何かな? 我々も忙しいが、協力者には義理を果たすべきだろう。一つだけなら質問に答えるぞ?」

「じゃ遠慮なく。いや、そんなに深い疑問じゃないんですけど何で――コカビエルの奴はバルパーを殺したんでしょうね?」

「何言ってんの、アニキ。神の死に気づいたから殺したんじゃないんですか?」

「んー、そうでもないのよ、これが。だって、不自然じゃないですかい? 確かに神の死は重大な秘密でしょうよ。でも、戦争を再開するってことはその重大な秘密を世界に暴露するも同然なわけでして。実際、あの野郎、自分から口を滑らせて勝手に言い放ちましたし」

「そういや、その場にいたのは最初から殺す予定の連中しかいなかったんだから自分の部下を口封じする理由も意味不明ですな」

「……『最初から殺すつもりだったが、いい機会だったので殺した』、『本心では戦争を決意ができていなかった』、『本当に手が滑っただけ』、『神の死を公開するタイミングを掴めていなかった』など考えられる可能性は多いが、我々が辿り着いたそれらしい答えがある」

「ほほう? それはどんなもんなんで?」

「神の死を聞きたくなかったのだろう」

「はい? コカビエルは神の死を知っていたじゃないですか」

「ああ、すまんな。言葉が足りなかったか。『神の死を人間如きの口から聞きたくなかった』。その一点に尽きるのではないか?」




まあ、コカビエルがどうあがいても戦争なんて起きなかったとは思うのですよ。
エクスカリバー事件でコカビエル以外の堕天使がいなかったこと、コカビエルを回収に来たのが堕天使の幹部ではなくヴァーリだったことが、堕天使側の意見なわけで。
リアスやソーナが死んでいた場合はどうか分かりませんけど。

ちなみに、今年の水着は大勝利でした。
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