狸とグルメ   作:満漢全席

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未成年? の飲酒シーンが含まれますがこの物語はフィクションなので(以下略
将来的には人間には食えない料理とかも出す予定です。
未成年じゃなくてもマネしないでください。



第七話 鯛の塩焼き

 本日のハナビの髪型はサイドテールであった。ぴょんぴょんと跳ねる度に揺れる黒髪が尊い。

 そんな跳ねるほど上機嫌なハナビがリュックから本日の戦利品を取り出す。

 

「今日はこれだよ、サツキ兄様!」

 

 どん、と鈍い音と共に調理台の上へと叩き付けられたのは、赤い真鯛だった。

 

「こりゃまた立派な……」

 

 サツキは感嘆しつつ、鯛の状態を確認する。目は透き通っている。新鮮な証拠だ。

 エラと内蔵の処理もキッチリしてある。ここだけは最初に取っておかないと、身が痛む原因になる。丁寧な仕事ぶりだ。流石は日向宗家の台所といったところだろうか。

 

「しっかし悩むなぁ……」

 

 ここまでモノが良いとなると、調理法は多岐に渡る。

 鯛は煮ても焼いても蒸しても揚げても、なんなら生のまま刺身にしても、どう調理しても美味しい魚なのだ。

 

「とはいえ丸のままの鯛なんて中々にお目にかかれるモノじゃねぇしな、これを活かした料理にしてぇなぁ」

 

 いわゆる尾頭付きというやつだ。どうせなら豪勢にいきたい。

 シンプルな塩焼きや姿煮辺りが尾頭付きの迫力があって良いかなと思うのだが、刺身に出来るほど新鮮となるとそれも勿体ない気がしてしまう。

 どうしたものか、と顎に手をやるサツキに、無言でスルメを齧りながら昼から一杯ひっかけていた砂狸が提案をする。

 

「ならよ、塩釜焼きってのはどうだ、サツキ」

「塩釜焼きか……」

「ここにゃ業務用のでっけぇオーブンもあるしよ、その立派な鯛でも収まるだろうぜ」

「確かになぁ……たまにはマトモな案も出せるんじゃねぇか、砂狸」

「たまには、は余計だ」

 

 ふん、と鼻を鳴らして再びスルメを齧る作業に戻る砂狸。

 そんなに拗ねないで欲しい。良いアイデアを出してくれたことに関しては感謝しているのだから。

 

「しっかしそうなると、塩が足りねぇな」

 

 鯛は両方の手の平では覆い切れないほどのサイズだ。塩釜を作ろうと思うと、相応の量の塩が必要になる。

 日頃からある程度はストックしているものの、流石にそれほどの量は常備していない。

 

「仕方ねぇ、買いに出るか」

「サツキ兄様、お買い物に行くの?」

「ああ、ハナビも来るか?」

「うん、行く! 師匠は?」

「俺様はここで先に一杯やってるぜ。ついでに追加のスルメでも買って来てくれ」

 

 そうなるだろうとは思った。この砂狸は基本的には出不精だ。

 そもそも姿を衆目に晒すわけにはいかない、ということもあるのだが、元来の性格からしてサツキ以上の引きこもり気質だった。

 

「じゃあ行ってくるけどよ、昼前から飲み過ぎるなよ、砂狸」

「へいへい、わかってらい」

 

 砂狸の体は所詮は分体なので、酔っぱらう気分にはなっても泥酔までは絶対にしないのだが、一応は念を押しておく。値の張る酒を飲み干されてはたまらない。

 そしてサツキはいつもの買い物かごに財布を突っ込み、ハナビを連れたっていざ買い物へと出発をしたのだった。

 したのだったが、目的である塩を購入したところで問題に遭遇した。文字通り、遭遇したのだ。

 

「……こっちからサツキの気配が……」

「だから気のせいじゃん、もうアイツのことは忘れろって」

 

 巨大な扇子を背負った金髪の少女と、少女をたしなめながらその後ろを歩く隈取をした少年。

 その二人を見た瞬間、サツキは己の顔から急速に血の気が引いていくのがわかった。

 

「やっべぇ……隠れるぞハナビ」

「えっ?」

 

 サツキはハナビを抱え込むと、素早く路地の隙間へと身を隠す。

 そして素早く印を結んで術を発動させる。

 

「磁遁、砂鉄迷彩の術!」

 

 地面から舞い上がった砂鉄が、まるで光学迷彩のようにサツキ達の姿を覆い隠した。

 砂狸が居ればほぼほぼ完璧な迷彩を形成できるのだが、アレを家に置いてきてしまった以上、サツキに出来るのは視覚を誤魔化すことくらいだ。

 

「サツキ兄様、どうして隠れるの?」

「静かにしてろハナビ、あいつらに見つかる」

 

 全身からどっと冷や汗が噴き出る。

 どうして連中が木ノ葉に居るのか。ぐるぐると思考が回り始めるが、よくよく考えればもう物語はスタートしている。つまりアレだ、中忍選抜試験が始まったのだ。

 金髪の少女はしきりに首を傾げながら、サツキ達が隠れている辺りをウロウロと行ったり来たりしている。恐ろしいまでの勘だった。

 

「おかしいな……こっちからサツキの気配がしたような気がしたんだけどな」

「だから気のせいだって言ってるじゃんテマリ。アイツがこんなとこに居るわけねぇじゃんよ」

「うるさいよカンクロウ、私がサツキの気配を読み間違えるわけないだろ?」

 

 全く笑えない話だった。忍者の世界であるため、そういう気配やらに敏感な人種というのは割と多い。下手をすれば街一つを覆うほどの感知網を形成できるような奴も居る。

 頼むから気付いてくれるなと祈りながらジッと息を潜めていると、金髪の少女こと、テマリはおかしいなぁと訝しげに呟きながらも、なんとかこの場を後にしてくれた。

 テマリが感知タイプでないのは幸いだった。ホッと息を吐くサツキに、ハナビが問いかける。

 

「あの金髪のお姉さん、サツキ兄様にそっくりだったけど……知ってる人?」

「知ってるというか身内というか……絶対にここに居ることがバレちゃいけねぇ相手だ」

「バレるとどうなるの?」

「……最悪は木ノ葉に居られなくなるな」

 

 頬から冷や汗を流しながらサツキが呟くと、ハナビの表情が一瞬で変わった。

 

「だ、ダメだよ! それは絶対にダメ!」

「お、おう……」

 

 今までに見たことがないハナビの剣幕に、サツキは思わずたじろいでしまう。

 迷彩のカーテンの中でジッとサツキを見上げるハナビの瞳には、幼女とは思えないほどの、なんとも言えない迫力のようなものがある。

 

「サツキ兄様は木ノ葉に居てくれなきゃヤダ!」

「いやな、ハナビ。そりゃあくまで最悪の場合の話であって……」

 

 じわり、とハナビの瞳に涙が滲む。

 あ、これはヤバいパターンだとサツキは瞬時に悟った。

 

「や!」

「あ、はい」

 

 一言で言葉をぶった切られてしまった。駄々をこねたハナビには誰も敵わない。こういう時だけ年相応の幼女に変身してしまうのがハナビなのである。

 サツキ家のヒエラルキー、堂々のトップに君臨するハナビに逆らえる者など居ない。幼女強い。実際に物理的にも強いから余計に手に負えない。

 この後、サツキは当然のように、帰路の全てをハナビのご機嫌取りに費やすハメになった。

 

 

 

 店に戻る頃にはケロっとしたもので、先ほどの涙はなんだったのかと問い詰めたいくらいにはハナビは元の調子を取り戻していた。

 そんなこんなで帰って来られたサツキは、早速とばかりに厨房にて調理に入る。

 塩釜焼きとは素材全体を塩で覆い尽し、それをオーブンで焼き上げる料理だ。自然な塩気と素材の味を楽しめる、ある種、贅沢な調理法でもある。

 

「さて、まずは塩の下ごしらえからだな」

 

 当然だが塩をそのまま使っては覆う前にボロボロと崩れてしまうので、事前に卵白と混ぜ合わせて粘りをつけておく。

 

「鯛はウロコ、背びれ、胸びれを取って、腹の中に香草を詰めるっと」

 

 今回はハーブのタイムと、スライスしたニンニクを数枚入れてみた。

 鶏やら豚の丸焼きのように腹の容積があるわけでもないので、ほんのり香りづけ程度に留めるのがベターだろう。

 

「次は塩で土台を作って、その上に鯛をドン!」

 

 そしてその上をさらに塩で覆っていくわけだが、ここで少しだけ遊び心を加えよう。

 単純に覆うだけでも料理としては成立するが、覆った後にバターナイフを使って塩を成形していく。

 パッチリした目、大きなウロコ。そして背びれ、尾びれ。

 そうして出来上がった塩釜の覆いは、たい焼きの如くデフォルメされた鯛である。

 

「あとはこいつをオーブンに放り込んで焼き上げる!」

 

 調理としては以上である。とても簡単だ。だが簡単であるだけに、素材本来の味が重要になってくる難しい料理でもある。

 とはいえ今回の鯛はかなりモノが良い。期待も自然と高まるというものだ。

 焼き上がりを待っている間に例の如く、木ノ葉隠れで密かに発刊されているグルメ御用達雑誌、月刊木ノ葉の料理を読み進める。

 巻頭はまたもや一楽の特集であった。店主のテウチが相変らず良い笑顔を浮かべている。中忍選抜試験から続く一連の事件が一段落したら、ハナビと一緒に一杯食べに行こうか。

 そんなことをボンヤリと頭の隅で考えながら、サツキは焼き上がりをジッと待つのだった。

 

 

 

「そういうわけで、今日の昼飯は鯛の塩釜焼きだ」

「昼から豪勢だなぁ! 酒が進むなぁ!」

「……うーん」

 

 ギャアギャアとテンションの高い砂狸とは対照的に、ハナビは思案顔だ。

 首を傾げながら、たい焼き風に成形され、ほんのりと狐色に焼き色のついた塩釜を凝視している。

 

「ねぇ、サツキ兄様、これどうやって食べるの? しょっぱくない?」

「うん? ああそうか、ハナビは塩釜焼きは初めてか」

 

 確かに初見では確かに鯛の形をした塩の塊にしか見えないだろう。

 ふっふっふと悪役のような笑い声を上げながら、サツキは木槌をハナビに手渡した。塩釜を叩き割るのは年少者の特権なのである。

 

「そいつでな、この鯛を叩き割るんだ」

「え? 割っちゃうの? こんなに可愛いいのに?」

 

 躊躇するハナビを急かすように、砂狸が吼える。

 

「おいハナビ、さっさとソイツで割ってくれよ! 俺様はもう辛抱堪らねぇぜ!」

「う、うん……師匠がそう言うなら……えいっ」

 

 ハナビが木槌を振り下ろすと、塩のたい焼き君は呆気なく崩れてしまう。

 そして割れた隙間から一気に蒸気が噴き出した。そして蒸気と共に鯛の気品ある香りが一気に部屋中に広がっていく。

 

「おっほぉ! これだこれぇ!」

 

 もうもうと隙間から湯気を立てる粉々になった塩釜の蓋を、砂狸が待ちきれぬとばかりにヒョイヒョイと指先で器用によけていく。

 こういう時は熱さに強い体が少しだけ羨ましくなる。常人があんな真似をすれば火傷待ったなしである。

 そして砂狸が塩釜の蓋をよけ終わると、そこに現れるのはホクホクに蒸しあげられた鯛の御身だ。

 

「わぁ! すごーい!」

 

 ハナビが感嘆の声を上げる。その気持ちは良くわかる。

 塩釜焼きを割り、その中身を開帳する瞬間というのは、いくつになってもドキドキと胸が高鳴るものだ。初見ならその感動もひとしおだろう。

 

「さて、じゃあいただくとするか」

「はーい、いただきまーす!」

「いただくぜぇ!」

 

 サツキの音頭と共に、三人で一斉に箸を取る。

 塩釜の中で蒸し焼き状態になった鯛の身は、箸でつつけば崩れてしまうほどに柔らかい。

 そしてその身を口に運べば、芳醇な脂がジュワっと溢れ出す。脂の後に来る爽やかなハーブの香りがクドさを全く感じさせない。

 塩気はとても自然で、素材の良さを最大限にまで引き出している。これが塩釜焼きの利点だろう。

 

「たまんねぇなぁ、おい!」

 

 砂狸は喜々とした様子でそれに冷酒を合わせている。濃厚な脂にはキリっとした辛口が合う。

 

「んぐんぐ……ご飯にも合うよ!」

 

 ハナビはまだ飲めないので、白米と一緒に掻き込んでいる。それもまた食べ方としてはアリだろう。

 ほんのりと香るニンニクが食欲を増進させてくれるはずだ。

 

「……俺はコイツかな」

 

 鯛のような淡白な白身魚には、甘みの強い白ワイン。使った香草のチョイスからして洋風なので、今回は日本酒ではなくワインで頂こうと思う。

 ワイングラスに注ぎ、まずは香りを楽しむ。そして軽く唇を湿らせるように一口。

 雷の国で作られたワインだ。まだ若く熟成が進んでいないためか深みはないが、ジュースのようにフルーティーでフレッシュな味わいがある。

 未成年の飲酒はダメ、絶対であるのだが、サツキの場合は諸々含めると三十路近いのでセーフ。セーフったらセーフ。ハナビの咎めるような視線に少しだけ背筋がゾクっとしたがセーフなのである。

 

「ああ、砂狸。骨は食うなよ、他で使い道があるからな」

「へいへい、わかってるぜ、サツキ」

「えー、師匠、こんな固い骨も食べちゃうの?」

「こんくらいならまぁ、奥歯辺りで磨り潰せばイケるぜ、ハナビも齧ってみるか?」

「おいコラ砂狸、ハナビにやらせようとすんじゃねぇ」

 

 ちなみにだが。鯛の骨は割と固くて丈夫なので、食用に加工されたもの以外は食べないほうが良い。刺さる危険性がある。

 ハナビは素直に感心しているが、奥歯で磨り潰すなんていう砂狸の所業はミニサイズとはいえ尾獣という人外の存在だから可能な一種の離れ業だ。

 というか疑問なのだが、砂狸の奥歯はどの部位にあるのだろうか。というか歯という概念がコイツに存在したのか。砂狸との付き合いも随分と長いが、その生態が解明されることはない。謎は深まるばかりである。

 今日も満足の一品であった。

 

 




ローズマリーとかオレガノも試したんですが、タイムがバランス良かったかなと。
書いてる時間より取材というかロケハンのほうが長かったです。
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