辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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春雨ちゃん
最近jis8501を完璧に暗記した。

マジギレ浜風さん(乙改)
最近、提督がやたらとカルシウムを勧めてくるのが気に入らない。
提督以外には別に切れない。

提督
甲羅棲姫に手足を折られ現在は車椅子生活を余儀なくされる。
本名は表島良太郎。


提督と村雨と深海の起源

 

 

 

「本当に良かったの?春雨を連れて行かなくて」

 

 ガタンゴトンと揺れる鈍行の車窓から景色を眺めていると向かいに座る村雨がそう尋ねてきた。その隣に座る時雨、俺の横に座る浜風も視線を此方へ寄越し興味深げに回答を待っている。

 

「しゃーないだろ。春雨ちゃんに渡す指輪(仮)をゲットしに行くんだ、まさか本人を連れて行く訳にもいかねぇよ」

 

「後で絶対に面倒なことになるよ……」

 

 そう呟いた時雨の表情はなんだか気だるげだ。頼りにならない長女に代わりいつも面倒事の始末をするのはコイツなので少し同情する。まあ、自重はしないのだが。

 

「でも春雨抜きで合同演習大会で勝てるの?参加するのは高練度の艦娘ばかり、しかも舞鶴での開催ってことは当然あの人も出てくるんでしょ?」

 

 数時間前、春雨ちゃんへ送る為に必要なケッコン指輪の入手方法として浜風が提示したのクシャクシャになった一枚の紙、そこに書かれていたのは対深海棲艦海軍により開催される合同演習大会の案内だった。

「何故お前がそんな物を持っているのか」と浜風に問うと「企業秘密です」

と表情一つ変えることなく言い放った。こいつ、俺がろくに目を通さずに捨てた書類を漁ってやがる……。

 

 しかし今回に限って云えば浜風の奇行に救われた。なんと言ってもその演習大会の景品は都合の良いことに試作段階であるケッコン指輪の支給、これを入手して春雨ちゃんに送ればケッコン(ガチ)を回避出来るかもしれない。しかも開催は翌日、こうしちゃいられないと現在俺は時雨、村雨、浜風を連れて開催場所の舞鶴鎮守府へと向かっている最中だった。

 

「あの人、とは誰のことですか?」

 

 続く村雨の言葉に再び浜風が首を傾げた。そうか、自分の身内以外に興味を持たないこいつなら有名な舞鶴中将の事を知らないのも不思議はない。

 

「舞鶴の提督。通称『最強の鎮守府』の中将だ」

 

「えっ。最強って私達の鎮守府ではなかったのですか。春雨さんや私もいるんですよ」

 

「すげぇ自信だな……。いや、お前の言う通り現時点での艦娘最強は春雨ちゃんだしお前(浜風)も上位に食い込む。けどあくまでもそれは個々の強さだ。艦隊としての完成度は舞鶴のが圧倒的に上なんだよ」

 

 春雨ちゃんは確かに強い。けれどその強さはドラム缶爆弾や硫化水素、アスファルト等の危険物の使用による所が大きい。そんな物を使えば味方まで被害を受けるのは明白だ。

 最近は『兵:消防設備士』等の資格を取得し消火器を新たな兵装として研究しているようだがまだまだ運用段階にはない。つーか普通に連装砲やらを使う気はないのだろうか。

 

「随分詳しいんですね、舞鶴のこと」

 

「まぁな。俺と村雨は一時期アソコで世話になってたからな」

 

「先輩と村雨さんが?鉄底の鎮守府で知り合った訳ではなくそれ以前から面識があったのですか」

 

「そうよ、(村雨)は元々舞鶴の所属だったの。それで訓練学校を卒業したこの人が現場研修のために舞鶴に来たのよ。昔はこの人ももう少し提督らしかったのだけど……今じゃ見る影もないわね」

 

「大きなお世話だ」

 

 過去と現在の俺を比べ溜息を吐く村雨に俺は毒づいた。確かに思い返して見ればあの時の俺は今よりもやる気に満ち、小っ恥ずかしい事を言っていた気もする。

 

「けどまぁこっちには浜風がいるから大丈夫だろ。案内によると今回の演習は個人戦で相手を大破させた方の勝ちで他の細かいルールは書かれてねぇ。浜風の外道(げどう)戦術が使えるなら余裕だろ」

 

 言うまでもないことだが細かな裁定が取り決められていないのは参加者全員の『良識』を信頼してのことだろう。そもそも軍のそれなりの役職の人間が集まる中で常識から外れた行動をする者などいないという考えもあるのだろうが……生憎と提督を辞めようとしている俺に上からの評価など関係ない。どんな手を使おうと指輪さえ手に入ればいいのだ。

 

「釘を刺しておきますが私はタダでは出場しませんよ。一試合毎にそれなりの対価を先輩に要求します」

 

「わーってるよ」

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 甲羅棲姫に手足を折られ歩く事すらままならない俺は時雨と浜風に担がれ、鈍行とタクシーを乗り継ぐこと数時間、ようやく目的地である舞鶴鎮守府に到着した。デカい、元から大規模な鎮守府ではあったが俺が居た研修時代よりも更に改築が進んでいる。

 

「流石は最強の鎮守府……僕達の鎮守府とは比べ物にならないくらい大きくて綺麗だねって……どうして提督と村雨まで驚いているんだい?二人は元々ここの所属だったんでしょ?」

 

「いや、確かにそうなんだが……俺達がいた頃よりも更にデカくなってる。村雨、お前も知らなかったのか?」

 

「えっ、ええ。あの事件の後から少しづつ改築をしているとは昔の仲間から聞いてたけどまさかここまでとは……。いや、でも中将ならやりかねないわね」

 

 俺達が驚愕していると門の方から誰かが此方に歩いてくるのに気がついた。男だった。180cmは有るだろう長身に軍服の上からでも分かる鍛え上げられた肉体。最も特徴的なのはその片袖だろうか、彼が歩く度にヒラヒラと風に舞うその袖口が男の隻腕を知らしめている。けれどその男には人体の欠損などまるで気にした様子はない。隻腕というハンデがあって尚、他者に劣ることなどないも無いという絶対的な自信をその佇まいから感じさせる。

 

 舞鶴中将だ。

 

「走れ時雨ッ!」

 

 ソイツを認識した瞬間、俺を担ぐ時雨に奴から距離を取るよう命令した。時雨は困惑していたようだがそれでも俺の指示に従って走り出す。クソったれ、まさか中将自ら出迎えに来るなんて思わなかった。合同演習の申し込みだけしてあとはコソコソと身を隠そうとしていたのに!!

 

「おいこら。折角オレが出迎えに来てやったのに直ぐに逃亡とはどういう了見ですか」

 

 耳元でそう声が聞こえた。有り得ない。さっきまで少なく見積もっても50m以上は離れていたのにこの一瞬で───────

 

 ドスン、と思考が終わる前に俺の脇腹に拳が叩き込まれた。その余りの威力に俺の身体が一瞬中に浮く。痛いけど懐かしい拳だ。研修生時代は何度貰ったか分からない。

 

「痛ってぇ。クソっ、わざわざ遠方から尋ねてきた弟子をいきなり殴るとはどういう了見でだッ!?」

 

「黙ってください種無し野郎。お前など弟子でもなんでもない。ここで介錯してやります」

 

「種くらいあるわ!!」

 

 腹に拳がめり込んだまま抗議するが中将はさらに拳に力を込める。

 こいつは昔からこうだ。普段は丁寧な言葉遣いに紳士的な態度の癖に自分の気に入らないことは全て力ずくで解決する脳筋野郎。凡そ上に立つものとは思えないそのやり方に何度苦汁を飲まされた事か。

 

 だが俺だってこの数年、何もしてこなかった訳じゃない。幾度となく白露達と死闘を繰り広げてきたのだ。もう暴力に屈していた頃の俺じゃない。

 

「なめんなクソ中将!!」

 

 中将の拳を支点に体を回転させ唯一残された折れていない方の足を中将のこめかみへ向けて振りかぶる。これまでの恨み辛みそれら全てを込めてその足を振り下ろした。

 

「しゃらくせぇですね」

 

 俺の右足は確かに中将の首にヒットした。だと云うのにそいつは顔色一つ変えずそう言い放つと俺をコンクリの地面に叩きつけそのまま意識を刈り取った。

 

 こいつ人間じゃねぇよ……

 

 

◻️◻️◻️

 

 

 

 目を覚ますとベッドの上だった。体を起こし辺りを見渡すと椅子に腰掛けナイフで林檎の皮を剥く中将、それに不安げに俺の顔を覗き込む村雨の姿があった。

 

「ようやく起きた……。まったく、無茶ばかりするんだから。手足が折れた状態で中将に喧嘩を売るなんて無謀もいいところよ」

 

「村雨……お前も見てただろうが。俺は襲われたから抵抗しただけ、悪いのはソコの脳筋野郎だ」

 

「誰が脳筋野郎ですか」

 

 そう言って脳筋野郎(舞鶴中将)は林檎を持ったままこちらを睨んだ。

 

「まったく、久しぶりの再会だというのに憎まれ口ばかり……。貴方が研修を終えてここを出て以来ですか。貴方の活躍は聞き及んでいますよ。誰も、オレさえも攻略の糸口すら掴めなかった鉄底海峡を終わらせたと。かつての師として鼻が高い」

 

「そりゃどーも。んじゃ俺はこれから所用があるんで失礼しますわ。村雨、おぶってくれ」

 

「待ちなさい。貴方をここに拉致したのは協力を要請したい件があるからです。村雨さん、少し彼と話をします。その間こちらを召し上がってお待ちください」

 

「はーい。いただきまーす」

 

 そう言って中将から林檎を受け取った村雨は満足そうにそれを頬張り始めた。このやろう、俺が中将のこと苦手なの知っていてわざと放置してやがる。

 

「さて、先ずは質問なのですが表島君、先日、人語を解す上位種の深海棲艦に襲われたそうですね?」

 

「さすが耳が早いっすね。ええ、一体どこで気づかれたのやら伊根の観光の最中に襲われましたよ」

 

「提督適性、即ち妖精視認の才を持つものは深海棲艦に狙われる。だから提督は不用意に鎮守府の外に出るべきでは無い。研修生時代に教えたはずです。ですが……どうして深海棲艦は私達提督をこうも容易に見つけだすのか、貴方は考えた事はありますか?」

 

「……」

 

 俺は目を瞑り思考する振りをする。正直な話、先日の甲羅棲姫との遭遇は亀型の深海棲艦に仕組まれたものである可能性が高い。だから見つけられたと言うより嵌められたと言った方が正しいのだが……それを中将に言う訳にもいかない。ここは適当に話を合わせておこう。

 

「さぁ?内部に情報を流してる裏切り者がいるか、それか提督にだけ反応するレーダーを持ってるとかそんなとこじゃないすかね」

 

「同意見です。しかし裏切り者がいると仮定してもソイツが提督達の動向を全て把握出来るとは思えません。だから恐らくは後者、提督レーダーを所持していると考えるのが妥当でしょう。ここまでを踏まえて次の疑問です。現在世界で確認されている妖精視認の才を持つ人間の総数は五十人です。何故ここまで極端に少ないのか、貴方の意見を聞かせてください」

 

「……深海棲艦がそのレーダーを使って提督が赤ん坊、もしくは胎児の間に殺しているから……ですかね」

 

「流石、鉄底英雄と呼ばれるようになっただけはありますね。それもオレと同じ考えです」

 

「けどこの仮説が正しいとするなら今回開いたこの合同演習会は失策もいい所っすね。鎮守府同士の交流だか研鑽だかしらないけどそこを敵に狙われて一網打尽にされたら最悪だ」

 

「いえ、今回の演習の狙いはそこにあります。今この舞鶴には提督と共に各鎮守の精鋭も集結しています。貴方の所の浜風、あきつ丸、うちの子日、その他戦力を投入し攻め込んできた深海棲艦の上位種を鹵獲する」

 

「俺達は生き餌ってわけですか」

 

「言葉を選んで貰いたいものです。ですがこの作戦に協力してもらうにあたり、もう一つ、貴方に聞いておきたいことがあります」

 

 そう言って中将の視線が鋭さを増した。

 

「単刀直入に聞きます。表島君、あなた何処まで知っているんですか?」

 

「……俺は何も知りませんよ。妖精視認の才があったが為に無理やり今の階級に据えられている人間に何を期待しているんですか」

 

「質問が悪かったですね。では具体的にお尋ねします。貴方は原初の深海棲艦の本当の名が『乙姫』である事をご存知ですか?」

 

「ッ……!」

 

「知っている様ですね。次の質問です」

 

「待ってくれ。どうしてあんたがソレを知っているんだ。おかしいだろう、だってソレを知るには──────」

 

「その質問には最後にお答えします。では次の質問です。貴方はこの戦争が何故始まったのか、その理由を正しく把握していますか?」

 

「教科書通りに答えるなら、海に住む深海棲艦の領土侵略……。少なくとも俺は研修生時代にあんたからそう教わった」

 

「そうですね、そう教えました。けれどそれは嘘です。汚くも醜い人類が自分達に都合よく捻じ曲げた偽りの歴史です」

 

「……いいのか?中将であるアンタがそんな事を口にして」

 

「貴方と村雨さんの事()信用していますから」

 

「はッ、嫌われているのか好かれているのやら。相変わらず読めない人だな」

 

「閑話休題です。ここからはこの戦争の真のルーツを貴方にお話ししましょう」

 

 

---------

-----

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---

 

 

 そもそもの話、この世界には『深海棲艦』等という生物は存在していなかったんです。

 

 ただ、かつて海の底の底、太陽の光すらも届かない深海に佇む城に蓬莱山(とこよ)の民という一族が暮らしていました。

 

 ある日蓬莱山(とこよ)の国は陸地から初めて客人を招き入れます。彼の名は浦島太郎といいそれはそれは実直で心の清らかな青年であったそうです。

 

 そんな青年に蓬莱山の姫である乙姫は恋をします。やがて二人は結ばれ、()を成し、蓬莱山の秘宝である不老不死の薬を飲んだ浦嶋と乙姫は悠久の時を共に過ごす……はずでした。

 

 ある日、浦嶋はこう言ったんです。

 

 『一日だけ陸に上がりたい。故郷の皆に別れを告げたいのだ』

 

 乙姫は悩みました。このまま返せば二度と浦嶋は蓬莱山に帰ってこないのではないか。陸で女に誑かされでもしたら、そんな不安が脳裏をよぎったからでしょう。

 

 ですが結局、乙姫は浦嶋の願いを聞き届けました。

 

 一日千秋。乙姫にとって最も永い一日を彼女は過ごしたのです。

 

 けれど、その一日が過ぎても、さらに一日が過ぎても浦嶋は帰って来ません。

 

 それからも浦嶋を信じ乙姫は待ち続けました。けれど一年が経っても彼は帰ってこない。そして遂に痺れを切らした乙姫は決意を固めます。

 

『彼を迎えに行く』

 

 そう、深海棲艦の首領『乙姫』はただ想い人を求めていただけだったのです。それこそ、私達人類が彼女達を『深海棲艦』と名付け、敵対するようになるずっと前から一人の男を探していただけでした。深く暗い深海に沈む竜宮城から乙姫はたった一人、この浦島を求め陸にやって来たのです。

 

 当然、乙姫に人類と争うつもりなどありませんでした。それどころか乙姫の想い人浦島太郎はこちら側の人間、友好的にすら思っていたことでしょう。深海と人類は手を取り合える可能性を秘めていたのです。

 

 だがその可能性を潰してしまったのは人類(我々)でした。

 

 人類は彼女の想い人、浦島太郎を利用し乙姫を捕獲しようとした。だがその計画は利用しようとした浦島太郎本人の妨害により失敗に終わる──────浦島太郎はその命をもって乙姫を守ったのです。

 

 人類に裏切られ、骸となった浦島太郎の前で乙姫は泣き続けました。

 

 涙が枯れると、代わりに血の涙を流し乙姫は泣き続けました。悲しみはやがて人類への憎悪へと変換され、その恨みは乙姫の頭部に禍々しい二本の角を生やし、綺麗な薄桃色だった着物は赤黒く血の色に染まってゆきます。

 

 どれくらいの間泣き続けたのか……ついには血の涙すらも枯れ果てた時、そこにはあの美しき乙姫の姿はなく、代わりに憎しみと想い人への執着だけに囚われた『化物』がただ一人空を見上げていたのです。

 

 これが深海棲艦の誕生の瞬間(ルーツ)です。







前回の投稿11月でびっくりしてます。
お待たせしてすみません。
評価にて点数を付けて貰えると嬉しく思います。
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