向カイ風ニモ負ケズ   作:柴猫侍

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終章
滝隠れ秘伝 ‐祝言日和‐


―――月日が流れるのは早いものだ。

 

 火影としての業務に追われる綱手は、山のような書類に囲まれながら、生きた骸のように生気を失った顔で筆を動かしていた。

 

 うちはマダラが起こした“第四次忍界大戦”が終わり、早一年。

 戦争の傷跡は未だ残っているものの、以前とは違い里と里が手を取り合う時代が到来し、心なしか人々の心には、また別の希望が宿っているように思える。

 

 だが、それとこれとは話が違う。

 幾ら手を動かせども少なくならない書類に綱手は辟易しつつ、とうとう船を漕ぎ始めてしまった。

 今に始まった訳ではないが、業務中に仮眠(と言う名の居眠り)をとらなければ、火影としての激務はこなせない。いや、こなせるとは断言していないが、不眠不休で働いてどうにかなるものではないのだ。

 

 夢見心地で居眠りする綱手。

 だが、そんな彼女を叩き起こすように、音を立てて扉を開ける者が一人現れた。

 

「綱手様!!」

「ふがっ!?」

「……今、寝ていらっしゃいましたね、綱手様?」

「そ、そんなことはあるハズなかろう。私は火影だぞ」

「ブーブー」

 

 シズネの問いに対し、苦しい言い訳をする綱手に、机の上に寝っ転がっていたトントンが呆れたように鳴き声を上げる。

 

「それよりシズネ。なんだ、そんな慌てて……」

「それが、シライト君から手紙が届いていて」

「シライトからだと? 珍しいな……いや、初めてだな」

 

 弟子の一人であるシライトからの手紙とのことで、綱手は何事かと眉を顰める。

 柄にもない事をしてまで手紙を出してくるとは、まさか大事があったのではないかと不安を煽ってくるようなものだ。

 

「内容は?」

「それがですね……っ!」

 

 やや興奮した様子で手紙を広げるシズネ。

 バッと全体を綱手が見渡せるように手紙の内容は、要約すれば、こう書いてあった。

 

 

 

 

 

『結婚します。たきのシライト フウ』

 

 

 

 

 

「……」

「……」

「ブー」

「―――なにぃぃぃいいいいい!!?」

 

 火影邸を震わすほどの絶叫が、昼間の木ノ葉隠れの里に響き渡った。

 

 

 

 ***

 

 

 

「あ~~~! 疲れたっス!」

「……まだ始めてちょっとだよ」

「それにしても、良い日当たりっスねェ……眠くなってきたっス」

 

 手に持っていた荷物を放り出し、畳の上に転がるフウ。

 そんな彼女に目を遣るシライトは、困ったものだとため息を吐きつつも、穏やかな笑みを浮かべる。

 

 二人は現在、引っ越しの荷物を片付けている途中だ。

 とは言っても、フウが以前より住んで居た家にシライトが移り住むだけの話である。これから隣に診療所を立てる予定ではあるが、要するにはシライトがフウの家に転がり込んだという訳だ。

 

 季節は秋。

 滝隠れの里も、紅葉が青色の空に美しく映える季節である。

 程よく涼しい風に当たりながら横たわれば、すぐにでも眠りにつけるだろう。

 

「それにしてもワクワクっスね、新婚生活!」

「……フウは……お泊り会か何かだと思ってない?」

 

 目を爛々と輝かせて言い放つフウに、シライトは一旦荷物を運ぶことを止め、転がるフウの隣に正座する。

 こんな彼らだが、結婚した。

 フウの知り合いの忍であるクンという女性は、『フウに先に越されるなんて……!』と手拭いを噛んで、悔しがっていたと言う。

 

 そんな二人の馴れ初めは―――

 

『どうやってあっしを助けたんスか?』

『……それは……まず心肺蘇生を……』

『それってつまり……人工呼吸したってことっスよね?』

『……そうだね』

『あ、あっしのふぁーすときっすは、シライトに奪われちゃったってことっスか!?』

『……人工呼吸は……医療行為であって接吻では……』

『責任とって欲しいっス!』

 

 ―――などというやり取りから交際に発展し、今に至る。

 だが、上記の素っ頓狂なやり取りは置いておくとしても、幼い頃からの付き合いであり、尚且つ命の恩人ともあれば、二人の間に合意さえあればなんら不思議ではない話だ。

 現に、こうして結婚にこぎつけている。

 

 シライトの両親は、内気で旅に出ていた息子に嫁が出来たことを大層喜んだとな。

 

「いやぁ……子どもは何人欲しいっスか?」

「話が……飛んだね」

「あっし、一人っ子で寂しかったっスからね。寂しい思いさせない為にも、七人くらい欲しいっス!」

「……七人は流石に……養えないかな」

 

 七人子どもが欲しいと口にするフウに、シライトは戦慄したように目を細めつつ、現実的な意見を口にする。

 七人は、よほど盛んな夫婦であっても作らない人数だ。

 彼女は子作りを―――生命の神秘をなんだと思っているのだろうか。医学的な知識を十分に蓄えているシライトは、楽観的なフウの言葉にいちいち驚いてしまう。

 

 しかし、一方でフウから子作りの話を提示されることについても驚いたりもする。

 

 そんな彼らではあるが、結婚式はまだだ。

 シライトは、恩師たる綱手を招待できるように少し待つつもりである。

 今はまだ五代目火影のままだが、彼女は六代目をカカシに決めているらしく、もうすぐ六代目襲名式を行うとのこと。

 それからは綱手とシズネを呼び、結婚式だ。

 シライトは兎も角とし、フウには友人がかなり多いため、相応に賑やかな式になるとの見通しだ。

 

(お腹が痛い)

 

 式に来る者の大半が知らない人間。

 そう思うと、胃痛になることも致し方ないだろう。ここに来て、旅に出てロクに里内に知り合いを作らなかったことを呪うとは思っていなかった。

 

「なんだなんだ? 新郎がなんつー顔してんだ、コラ?」

「……ヒナイさん」

「おー! お客さん、いらっしゃ~~~い!」

 

そんなシライトたちの下に訪れた人物が一人。

 旅で長年世話になったヒナイだ。

 彼女は里に定住することに決めたシライトとは違い、また別の目的のために旅をしている途中だ。今日は、その途中に寄ってくれたのだろう。

 どっこいしょと縁側に腰を掛けるヒナイは、からかうような笑みを浮かべつつ、シライトに顔を向ける。

 

「どうなんだ、新婚生活。もうヤったのか?」

「まだです」

「ちぇー、即答かよ……」

「……自来也様に少し似てきましたね」

「そうか? んー、まあ蝦蟇仙人の小説読み漁ってるからな」

 

 そう言いつつ背嚢から本を取り出すヒナイ。

 彼女一押しの『ド根性忍伝』を始め、『ド純情忍伝』、『イチャイチャパラダイス』、『イチャイチャバイオレンス』、そして自来也の遺作となった『イチャイチャタクティクス』まで、自来也が物書きとして書き上げた本は網羅しているようだ。

 

「……まだ……かかりそうですか?」

「ん! 学がねえと一頁書くのも大変だな、コラ」

「……楽しみにしてますから」

「おう、任せとけ!」

 

 シライトの激励に、ヒナイは快活な笑みを浮かべる。

 彼女は現在、物書きとしての活動を始めた。

 師である自来也を習っての行動だろうか。

 

 自来也は―――もうこの世には居ない。

 

 ヒナイは、彼の死に目に出会えた訳ではない。だが、事の顛末を妙木山の二大仙蝦蟇とナルトから聞き、何かを思ったのだろう。

 

 今は、自来也の生き様を本にするべく、彼の軌跡を辿るようにあちこちを歩き回っているとのこと。特に、幼少期の自来也を描く上で、妙木山の仙蝦蟇であるフカサクやシマ(もう一人、大ガマ仙人と呼ばれる老蝦蟇が居るのだが、歳の所為か物忘れがひどく、取材にならない)にはよく話を聞きに行っているようだ。

 その上で綱手などにも取材したいと考えている彼女だが、綱手は木ノ葉の要人。火影を辞めるまで取材は難しいと、ヒナイは愚痴を零す。

 

 更には、もう一人自来也を知る人物にも取材を申し込んだらしい。

 

「そろそろアイツも来るハズなんだけどな……遅いな、コラ」

「アイツって……」

「お待た~♪」

 

 文句を垂れながら唇を尖らせていたヒナイの下にやってくる人影。

 

「ミズチさん……」

「お久しぶりね、センセー。フウちゃんもね」

「久しぶりっス!」

 

 少し顔を合わせぬ間、何故かより女性らしくなったミズチだ。

 男のハズ。なのにも拘わらず、その身に纏う雰囲気はより女性らしくなっている。

 

「ミズチ! ちゃんと聞いてきてくれたんだろうな、コラ!!」

「ちゃんと大蛇丸様に聞いてきたわ。ちょ~っとリップサービスされてるかもしれないけど、参考にはなるんじゃないかしら」

「おお、助かる!」

 

 ほかほかと顔を上気させ、ミズチから巻物を受けとるヒナイ。

 彼女が取材を申し込んだ相手―――それは自来也、綱手と同じく木ノ葉の伝説の三人と称される大蛇丸だ。

 様々な罪を起こした彼であるが、第四次忍界大戦での働きと、彼ほどの研究者を易々と処分することは木ノ葉にとって不利益だと、木ノ葉の上役が考えたのだろう。大蛇丸は、監視つきで研究に没頭しているらしい。

 

 一方、ミズチはと言うと、今は大蛇丸の元に戻り、助手をしていると言うではないか。

 同業者の香燐や水月、重吾などと共に、“弟たち”の面倒を看るのが最近の日課だ。

 

「弟さんたちは……どうですか?」

「元気よ。でも、大蛇丸様って最近になってからお盛んだから、弟もっと増えちゃうかも……♡」

「っ! ……シライト、負けられないっスよ!」

「対抗心は覚えなくていいから……」

 

 何故か大蛇丸に対抗心を覚えるフウを窘めるシライト。

 綱手といい大蛇丸といい、生きている伝説の三忍は異様に若い。そして、シズネも中々老けない。不思議な話だとシライトは思う。

 

 綱手は細胞を活性化させているため、若々しい見た目を保っているとのことだが、シライトは今後若返りするつもりはない。

 

 好きになった人と、共に歳を重ねていくつもりだ。

 

 仲睦まじく談笑する四人。

 彼ら四人の繋がりは、フウがシライトと出会い、シライトがヒナイと、そしてミズチと出会ったことで出来たものだ。

 この世に運命があるのかは分からない。

 しかし、間違いなく言えることは、今こうして共に居る以上、この出会いは偶然ではなく必然であったものなのだろう。

 

 フウとの出会い。

 大蛞蝓仙人との出会い。

 綱手との出会い、シズネとの出会い。

 ヒナイ、ミズチと出会い、他にもナルトや自来也など、様々な出会いを経て、フウに再会した。

 

 そして今は、より強い絆で結ばれていることをひしひしと感じる。

 

 これかたの道のり、シライトはフウと共に歩んでいく。

 

 にわか雨にも負けず、向かい風にも負けず。

 

 

 

 ずっとずっと、トモに―――。

 

 

 

 ***

 

 

 

「シャハハハハ! 人柱力が結婚か。我愛羅には縁の無さそうな話だぜ」

「それはそうとも限らないわ、守鶴。風影ともあろうものが、妻を娶らないことなんてありえるのかしら?」

「そうだね。水影のやぐらも結婚してたし、孫も居るよ」

「老紫の頑固ジジイは、あの性格だったからなぁ……」

「ですね」

「それは兎も角……おれやよォ、めでたい話だと思うぜ! なあ、重明」

「ラッキーだぜ。あんなお転婆能天気娘に嫁入り先が見つかるなんざ」

「その分、ナルトの奴は安心だな。大戦の英雄だから、女たちがホイホイやってくる。寄り付き過ぎて、自分の相手されなくなるんじゃねえかって、九喇嘛が不安がるくらいだもんな」

「なにテキトーなことほざいてやがる、牛鬼!! 誰がいつそんなこと言った!」

 

『ハハハハっ!』

「てめえら、全員面貸せェ!!」

 

 また別の場所でも、話の話題につきない獣たちが、寄り合い所にて他愛のない話をする。

 

 やはり、持つべきは友だ。

 七尾―――重明は、そう思うのだった。

 




皆様、『向カイ風ニモ負ケズ』を最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。
この作品の主旨としては、『フウかわいい! 生きててほしいなぁ』というくだらないものでしたが、そこを着地点とし、物語に肉付けをしていって、ようやく完結まで漕ぎ着ける事ができました。
自己満足な拙作ではございますが、露ほどでも皆様に楽しんで頂けたのであれば幸いです。
NARUTOでまた別の作品を書くことは未定ではありますが、機会があれば……―――。

何はともあれ、完結できたのは読者の皆様の温かいお言葉があってこそです。
改めて、感謝の言葉をお送り致します。
本当に、ありがとうございました!

それでは、柴猫侍でした。
またの機会、もしくは別の作品にて。

***オマケ***

↓シライト

【挿絵表示】

↓ヒナイ

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↓ミズチ

【挿絵表示】
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