第1話中編【https://syosetu.org/novel/144266/2.html】
第1話後編【https://syosetu.org/novel/144266/3.html】
第1話番外編1【https://syosetu.org/novel/144266/4.html】
シャワー
(第1話・後編 猫だましのサイドストーリーです)
ラルは1つしか無い脱衣所に入る。ボロボロの防具を外し、さらに上着も脱ぐと湿った空気が肌を撫でた。
シャワールームが分かれているとはいえ、念のため腰にタオルを巻き、脱衣所を抜ける。シャワールームに入ると湿った木の香りがする。シャワールームは4つに仕切られており、入れば足と肩から上くらいが見えるであろう木製扉でそれぞれ閉じられていた。
左から3番目の扉から水の音と鼻歌が、隙間からは湯気が漏れていた。
ラルが1番手前にあった扉、つまり1番左の扉を開けようとしたその時、湯気の漏れる扉からカランの声がした。
「ラル~、隣に入りな」
「…」
ラルは扉を開けようと扉に手をかけたまま固まる。カランはラルの返答が無かったので続けた。
「なんだ…?一緒に入りたいのか?」
「何言ってんだ!?そんなわけないだろ!」
ラルが焦る。水の音が止まり、カランが扉に組んだ腕を乗せ、頭を出して扉に寄りかかった。
「冗談さ、せっかくだから話そうやラル、特訓の反省会だ」
「うっ…」
ラルは嫌そうな顔をして扉に力を入れた。
「断る!」
「おっと」
ラルが扉を開けようとしたのを見てカランがパチンと指を鳴らす。指先から光が散った。
「あぁクッソ…開かねぇ!」
ラルが両手でするがビクともしなかった。カランがその様子を見てにやける。
「ラルほど弄りがいがあるやつは久しぶりだよ」
ラルは悔しそうな顔をして、扉を見直してあることに気付く。
「へっ、詰めが甘いなカラン、下からくぐって…」
ラルがそこまで言ったところで、下でシュルっと何かが這ってくる音がした。
「え…」
音に気付いた時には遅く、ラルの足にはカランの尻尾が巻き付いていた。
「まっまま待てカラン!反省会!しよう、うん」
カランと手合わせした時の記憶が甦る。尻尾は離れていった。
ラルがしぶしぶ隣に入る。シャワーヘッドが壁に固定されており、レバーを回すと上から湯の雨が降ってくる。小さな傷にしみた。
「カラン、これは脅しだぞ。今や緑色のヒモを見ただけで受け身を取りそうになる。」
「え?なんだよそんなトラウマになったのか…?」
「そうだな、もう尻尾の生えた子供と手合わせするのはごめんだ。」
「大げさだな~、今度また手合わせしてやるよ。」
「お前話聞いてたのか…?」
ラルは頭を掻いて湯をなじませる。カランはどこ吹く風と聞き流し続ける。
「さ、反省会だラル。まず初撃だが、君は油断し過ぎだな、ボクが丸腰だと意識してたからだろうけど、得体のしれない敵と戦うときはまず相手の動きを観察するんだ、いきなり突っ込んでくんな」
「相手が子供で非武装でもか?」
「この手合わせでラルは何を学んだのさ、ボクは薬草を隠し持っていた。君は単純なんだ。『魔法も使わないし武器も使わない』って言われたら相手は丸腰なんだと勝手に解釈する。疑わないんだ。」
「そりゃあだって…相手はカランだから…」
「ボクたちは出会ってまだ1日だよ。人間を信じるのは決して悪いことじゃない、でもダンジョン内では他の人間を警戒しておいて損はない。」
「…なんで人間を警戒するんだよ、相手は獣だろ…?」
カランは半回転して背にシャワーを当てる。少し間を空けてまた話し出す。
「ラルはまだ浅層にしか潜ったことないんだっけ?」
「ん?まぁそうだな…最初は森を進むのも大変だったけど、最近になって浅層に潜るようになったんだ。」
「そっか、じゃあ探索家がダンジョンに潜ったら何をしていると思う?」
「え、そりゃ底を目指してひたすら進んで…探索をするんじゃないのか?」
「そう、探索をするんだ、それには『史物』の発見も含まれる」
「『史物』?」
「そう、ダンジョンの中層くらいからぽつぽつ見つかる、謎の人工物と言ったところかなぁ。ボクの扱うあの武器もそのうちの1つさ。」
「…昔の探索家が落としたものか?」
「かもしれないね、でも奇妙なことにその史物の中にはあらゆる技術を以てしても再現不可の道具だったり。用途不明の物体だったり…」
「それはまた…不思議だな」
「話を戻すと、その史物をめぐって争いが起きることがあるんだ。ダンジョンで探索家が命を落とす原因の2割から3割は、探索家同士の争いだとも言われている。」
「そんなに大事なものなのか…?史物ってのは。」
「んまぁ~それで生活を成り立たせてる奴もいるだろうしなぁ。とにかくチームの人選と、ダンジョン内での他の探索家にはある程度気を付けるこった。」
「頭に入れておくよ…」
カランはシャワーを止め、台に置いてあったハーブ石鹸を手に取る。シャワーヘッドから垂れる水滴がカランの頭を叩いた。
「なぁラル、手合わせするとな、相手の心情が垣間見える瞬間ってのがあるんだ。君がボクに刃を向けた時の君の表情が…」
「先に上がる」
カランに被せるようにそう言ったラルはシャワーを止めて、出る支度をする。タオルを手に取り振り返ると…扉の向こうにカランがいた。
「君の表情はとても複雑なものだった。」
そう言いながら扉を開け、真剣な面持ちでズイズイと距離を詰めてくる。ラルは顔を真っ赤にして目を背ける。
カランは手を伸ばし、ラルの頬に指を触れた。一瞬光を纏うと少し浮遊してラルの額に自分の額を当てた。頬に当てた手が少しだけ光る。
「不安にさせてしまってごめんね」
時間は流れカランは離れて行き、尻尾を揺らしながら脱衣所へと姿を消す。
ラルはシャワーのレバーを回してその場に座り込む。
「親父…俺、もっとしっかりしないとな…」
カランは扉を開けて静かに脱衣所に入っていった。
「…勘弁してくれよセイト坊、これじゃボクがやりにくいじゃないか。」
1人やれやれとそんな言葉を漏らす。
セイトに自分が生きていることを秘密にしてくれと頼まれたカランは、それなりにやりにくさを感じていた。
体を拭いて着替えを手に取り、袖に手を通す。
するとシャワールームの方から鈍い音が響いてきた。
数秒後、シャワールームの扉は乱暴に開かれ、頭にこぶができたラルが飛び入ってきた。腰にタオルを巻き、片手にはハーブ石鹸が握られている。
「おいゴルァ!!すっ転んだじゃねぇか!!」
今度は怒りで顔を真っ赤にする。
「怒るなよラル…ぷっ…っく…」
カランが笑いを堪えながら腹を抑えて屈む。
「こんの…!」
ラルはハーブ石鹸を投げ、カランはそれをキャッチする。
「ラル、その性格は美点だぜ。」
「…一応どんな性格か聞いておこうか?」
カランは右手の人差し指を立て、
「そのチョロイ感じさ。」
下ろした。
「クッソ…好き勝手言いやがって…」
そんなラルをよそにカランが再び笑い出す。
「ラル、その浅層の獣はきちんとしまっとけよ。」
「…?」
ラルは腰に巻いてたタオルが下に落ちていることに気が付いた。
ボイスドラマ「自由の少女」投稿しました。
YouTube【https://www.youtube.com/watch?v=MPsBAcVV4og&t=10s】
ニコニコ【http://www.nicovideo.jp/watch/sm32894629】
改めて小説としても書こうと考えておりますのでお楽しみに。