花山薫(10)は、目の前に広がる光景に目を細める。
見渡す限り、街は炎の海に呑まれている。
家は崩れ、火の手が上がっている。
組員達のうめき声が微かに聞こる。
薫は炎の近くに歩み寄り、瓦礫をどかし始めた。
服に火が点けば破り捨て、肌が溶け始めても瓦礫の除去は決してやめない。
――お袋。
ようやく、見つけた。
薫は母親を抱き上げ、急いで炎から遠ざかる。
上手く歩けなかったが、決して母を落とすことはしない。
家がまた崩れた。
今度こそ完全に崩れたらしい。
ぎりぎり、薫は崩壊から逃れることが出来た。
「……坊ちゃん」
「!」
教育係の声がした。
どうやら家が崩れた拍子に運よく半分だけ体が出たようだ。
母親をそっと地面に下ろそうとしたところで、教育係りの厳しい叱咤が飛んでくる。
「いけません! 私はもうダメです! お母様とお逃げ下さい!」
「……」
薫は母を地面に横たえ、教育係りの元へ急ぐ。
「くっ、坊ちゃま、お行きなさい! ……ぐふ」
「!」
教育係りは自由に動く片腕で匕首を抜き、首をかき切った。
薫は手を合わせ、今まで自分の世話をしてきてくれたことに感謝をする。
「……」
薫は母を抱き上げ、思い出の丘へ向かう。
あそこなら川もある。
川の中まで火の手はこないだろう。
「……」
結果から言うと、薫は丘へたどり着けなかった。
喉は火傷で潰れ、手足の感覚は無い。
それでもなお、薫は母を持ち続ける。
――すまない。お袋。
ひゅーひゅーという音にしかならなかった。
薫は家訓の「漢立ち」のことを思い出す。
少々話と違うが、このまま動けないのなら、せめて母を持ったまま立ち続けよう。
「……」
数分か、数十分か、とても長い間立ち続けた気がする。
気がつくと、30半ばの男が泣きながら立っていた。
「良かった……」
男は青い物を取り出し、自分に向けてくる。
薫は首を振り、母を差し出す。
「……すまない。君のお母さんは……」
「……」
薫は目を閉じた。
涙が一筋、流れ落ちる。
――のちに、薫は男に引き取られ、衛宮薫と名を変える。
それは月の綺麗な夜だった。
切嗣と薫は縁側で月を見上げていた。
「安心しろ、爺さん。あんたの夢は俺が叶える」
「……やりすぎには、気をつけるんだよ」
「分かった」
「ああ、安心した……」
切嗣は満足そうな顔で静かに息を引き取った。
それは、あり得ない戦いだった。
白い男と、青い男。
青い男が繰り出す槍は閃光。
白い男はその全てを受けるが、眉1つ動かすことなく拳を振り上げる。
ドガア!
青い男が血を吐きながら吹き飛ぶ。
青い男はそれでも空中で態勢を立て直し、足から着地する。
「てめえ、何しやがった?!」
「……」
白い男は答えない。
ゆっくりと拳を後ろに引き、次の攻撃に備える。
「へっ。御託はいいからかかってこいってか。いいぜ! やってやらぁ!」
青い男も腰を落とす。
手に持つ槍が禍々しい光を帯び始めた。
その時、バキッ、という乾いた音がした。
「ちっ、目撃者か?!」
青い男が風のように音のした方へ走る。
「なっ?!」
そこにいたのは、さっき戦っていたはずの白い男。
「……」
青い男は後ろを振り返る。
拳を構えたまま、白い男は動いていなかった。
訳が分からない。
青い男がもう1人の白い男の方に向き直る。
ドカア!
青い男は顔面を殴られた。
「クソが! 分身? てめえ何者だ!」
「……」
白い男は両方とも答えない。
ただ、拳を引いて青い男を見据えるのみ。
「は? ……ちっ、命拾いしたな。うちのマスターは臆病者でな。1度帰ってこいとよ」
「……」
「……」
青い男は透明になり、姿を消す。
残ったのは白い男2人と、赤い少女のみ。
「やっぱり衛宮、君、よね?」
「……」
白い男、衛宮薫は静かに頷く。
「……紹介するわ。こちら、アーチャー……未来のあなた、みたいね」
「……」
「……」
「はぁ、どうなってんの、本当にもう」
凛はがっくりとうな垂れるのだった。
その日の夜、薫は土蔵で日課の魔術鍛錬を始めた。
光が土蔵を埋め尽くし、金砂の髪の少女が現れる。
「……貴方は……私のマスターか?」
「……」
ものすごく不安そうに尋ねてくる鎧の少女。
そんなこと聞かれても薫だって困る。
薫は携帯を取り出し、凜にかけた。
「どうしたの? まさか、あいつが戻ってきたの?!」
「……」
「いや何か言いなさいよ!?」
「失礼、代わってくれませんか」
「……」
薫はセイバーに携帯を渡す。
「すみません。あなたもマスターの1人ですか?」
「ええ、そうよ。あっ、もしかしてセイバー? 待ってて! すぐ行くから!」
「……切られてしまった」
現在、薫の家には4人が集まっていた。
1人は赤い魔術師遠坂凜。
1人は空腹王ことセイバー。
1人はアーチャーこと花山薫。
1人は衛宮薫こと花山薫。
「……」
「……」
「あの、凜。彼らは何故一言も喋らないのでしょう」
「寡黙なのよ。必要最低限しか話さないわ」
「そ、そうでしたか」
セイバーはほっと胸を撫で下ろす。
切嗣から何か言われているのかと心配していたのだ。
「それじゃ、教会に行くわよ」
「……奴とことを構えるのは、まだ早い」
衛宮薫はそう断言する。
「は? なんでよ。てか、知り合いだったの?」
「……」
薫はただ頷いた。
「そう。ま、別に義務ってわけじゃないしね。衛宮君がそういう方針なら同じマスターとして口は挟まないわ」
凛は席を立った。
その後をアーチャーがついていく。
襖を閉める前に、アーチャーは一言だけ呟いた。
「奴は、お前が倒せ」
「……」
薫は静かに頷いた。
「あの、何のことでしょう?」
「……」
「……」
セイバーは部屋の隅でいじけた。
「あれー? 誰もいない……」
そこの頃、イリヤは寒空の下、墓地の近くをうろうろしていた。
「帰ろっか、バーサーカー」
「……」
「薫! 正気に戻って下さい!」
「ふふふ。無駄よ。坊やはもう私の術中……」
ボキィ!
キャスターは首を折られ、消滅した。
「久しぶりに、お袋に会えた。感謝するぜ」
「か、薫? あなた、操られていたのではなかったんですか?」
「……」
セイバーは地面にのの字を書き始めた。
「ふ、女狐の上を行くとは、大した小僧よ」
アサシンもついでに消滅する。
アインツベルン城にて。
「……」
「……」
「……」
「やっちゃえ、バーサーカー」
「――!!」
バーサーカー、ヘラクレスガ吼える。
花山薫と衛宮薫は眼鏡を放り、拳を構えた。
まったく同じ動作をする2人に凜は頭が痛くなってくる。
「衛宮君は無理でしょ。サーヴァント相手に生身で立ち向かう気? ここは逃げるわよ。いいわね、アーチャー」
「……」
凜は唇を噛む。
彼女の言葉は、アーチャーに死んでも時間を稼げと言っているに等しい。
凜は残りたい気持ちを振り払うように薫の裾を掴んで駆け出そうとした。
「……凜」
凜の背中に、聖杯戦争を戦い抜いてきた相棒の言葉が投げかけられる。
「……なに?」
「……そっちはアーチャーだ」
「まっぎらわしいのよ! アンタ達は!」
うがーと吼える凜。
イリヤとセイバーは思わず笑ってしまった。
「……セイバー」
「はい、なんでしょう」
薫が声をかけてきた。
もしかしたら初めて声をかけられたかもしれない。
しかし、薫が右の甲を見せてきたことで嫌な思い出が蘇る。
前回の聖杯戦争で、自らの願いを破壊するきっかけとなった令呪。
「令呪を以てセイバーに命ず。宝具にて、バーサーカーを破壊せよ……久しぶりの出番だ。思いっきりやっちまいな」
「薫……!」
初めて頼りにされた!
セイバーは嬉しそうにエクスカリバーを放つ
「バーサーカー!」
「――!」
「も」
「」
3画を使った全力全開のスターライト・ブレイカー。
大聖杯、ワカメと金ぴかも巻き込んで、すべてを光の彼方に消し飛ばした。
「お腹が空きました……」
セイバーはそう呟くと、光の塵となって消えていった。
凛はアーチャーに駆け寄っていく。
なんか色々壊れたらしく、聖杯自体が消えてしまったようだ。
アーチャーとのラインから感じる存在感も微弱なものになっていた。
凜は走った。
そして、見覚えのある大きな背中に追いついた。
「……」
「……」
凜の前に立ち塞がる、2人の花山薫。
(だから、どっちよ……)
ここ1番でヘマをする凜。
迷っているうちにアーチャーが光になって消えてしまう。
「まー、いっか。あいつも衛宮君も、同一人物だもんね」
「……俺がアーチャーだ」
「さすがにそれは無理があるわよ……あ! あんた達、さてはあの時騙したわね!?」
「ふ」
薫は歩き出す。
薫は後に、花山薫と名乗り、花山組を興す。
冬木市に止まらず、花山組は関東一円を代表する巨大組織へと成長するのだが、それはまた別の物語。
Fin
キャスティング
遠坂凜……遠坂凜
セイバー……セイバー
キャスター……キャスター
アサシン……アサシン
衛宮切嗣……衛宮切嗣
衛宮士郎……花山薫
アーチャー……花山薫
バーサーカー……花山薫
存在を忘れられていた人
ライダー
感謝
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