番取り! ~これはときめきエクスペリエンスですか? いいえゴールドエクスペリエンスです~   作:ふたやじまこなみ

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第32話「ラストフレンズ」

「くそっ! くそっ! くそガァっっっ!!!」

 

薄暗い路地裏で、何者かが壁を叩き咆哮を上げた。

そこにいたのは神崎。崩壊したツインズの元リーダーである。

 

神崎は全身の酷い傷により入院を余儀なくされていたが、痛みを意志の力でねじ伏せ、この人目につかない場所まで逃げだしてきたのである。

病院から隙を見て抜け出してきたせいで、体には病衣をまとったままだ。その下には、あの日の傷が痛々しく残っていた。

 

だが足取りは確かであり、瞳には憎しみからくる昏い炎が宿っている。

あの悪夢から数週間が過ぎていたが、神崎の心に宿る憎しみは消えるどころかより一層燃え上がっていた。

 

「あの女……円谷こがねといったか。絶対に許さねぇ」

 

神崎の脳裏に浮かんでいるのは、あの日のこがねの姿だ。

 

あの女に神崎は全てを奪われた。

今まで築き上げてきたもの、これから手に入れるはずだったもの。その他諸々の全て。

 

だが全てと言いつつも、手に残ったものもある。

病院を抜け出した神崎は、何を差し置いてもまず先にこれを確保しに動いた。

 

神崎は自らの手で握りしめたそれを見つめるーーあの工場跡地の権利証だ。

これがある限り、再起は可能である。再開発が実行されればあの工場跡地の地価は跳ね上がり、恐ろしく高値で売り飛ばすことができるからだ。

 

その多額の金を元手にやり直す自信が、神崎にはあった。

今度こそ上手くやってみせると、神崎は意気込む。

 

そして第二のツインズを再建した暁には、必ず円谷こがねに復讐するとも。

神崎はその意志の強さと執念深さで、ここまでやってきた男だった。

 

確かにあの戦闘力は異常だ。

今になってすら信じられない。正直、ヤツが人間かどうかすらも怪しい。

あの人数を集めてダメなら、正攻法でヤツを打倒するのは諦めたほうがいいだろう。

 

「だがな、やりようはある」

 

しかしそれならば、正面からやり合わなければいいだけの話だ。弱点を叩けば良い。

ヤツにだって大事なもの、大事な人がいるはずである。

自宅、学校、両親、友達。狙うべき対象はいくらでもある。その全てを守ることなど何者もできるはずがない。

 

この俺が受けた苦しみと絶望を、ヤツにも味あわせてやるのだ。

何年かかろうと、俺が生きている限り必ずっ!

 

「覚えてやがれ……次に会う時、この恨みは必ず晴らす……」

 

そう呟き、神崎は確かな足取りで路地の奥深くへと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ! 今がその次ってやつですよ! 是非恨みとやらを晴らしてください!」

 

目の前に、ぽかんとした神崎くんの顔。

 

せっかく路地の奥深くで待ち構えててあげたのに、なんかブツブツ呟いてた神崎くんはちっとも気づいてくれなかった。

 

なので、わざわざ声をかけてあげたというのに、その顔はなんだい?

ちゃんと前を見ようぜ。なんのためにその目は前についてるのかな。

 

「あれれー? どうしたんですか? 私の名前をつぶやいたのは会いたかったからじゃないんですか?」

「て、てめぇは円谷こがね……っ! なんでこんなところに!?」

 

質問を質問で返すな間抜け。

しかもそれだとHOWなのかWHYなのかわからないぞ。

 

まぁ、いい。賢いこがねちゃんは両方に答えてあげよう。

俺は腰掛けていたポリバケツの上から降り立ち、人差し指を立てた。

 

「どうやって、についてでしたら……蛇ってピット器官でしたっけ? そのおかげで追跡が得意だそうじゃないですか。

 私も似たような力がありまして、追跡は得意なんですよ」

 

実際に追ったのはてんとう虫だけどな。

 

あの工場で殴った際に、神崎の髪の毛は回収済みである。

それがこの手にある限り、ゴールドエクスペリエンスの力があれば地の果てだって追いかけてみせるさ。

ま、大魔王からは逃げられないってやつだな。

 

「なぜ、については……あ、神崎さんって執念深いことで有名なんですよね。ツインズは逆らったやつは必ず報復するのだとか。怖いですねぇ。

 私は執念深くはありませんが、非常に用心深いんです。そんな恐ろしい人が、たかが病院送りになったくらいで安心すると思いますか?」

 

感覚暴走に耐性のあるヤツなんて、俺がほっとくわけあるか。

 

俺はラノベや推理小説でも、敵キャラや犯人について地の文で「死んだ」という記述がない限り、安心しないタチだ。

なんせ宇宙空間で戦艦かばったキャラの機体が爆発。ヘルメットが宇宙空間を漂う演出があっても、二期が始まったらそいつがひょっこり現れるアニメだってあるくらいだ。

 

お前がコマの欄外で「神崎 再起不能」とか書かれてない限り、見逃しとかあり得ないよ。

 

「それに聞きましたよ、神崎さん。地上げの次に山内組に任される予定の大きな仕事って、ドラッグの売買らしいじゃないですか」

「なっ! なんでそれをっ」

 

やれやれ。

 

「また質問ですか。神崎さんは喋ってくれませんでしたが、幹部格の連中はちょっとつついたら面白いようにペラってくれましたよ。

 神崎さんも得意でしょ? 敵が強いなら、弱い部分を叩けばいい。弱い味方など、弱点にすぎません」

「……っ」

 

情報管理は徹底するんだな。

俺は是清も穴澤もSKBも、誰も信用してないぞ。だって不良なんだもん。

 

硬派とか言ってるけど、悪いことをしない不良とか矛盾が服着て歩いてるような存在だぜ?

「決して人は襲いません」って名札つけたライオンより信用ないわ。

 

味方などいなくていい。

香澄やたえについては、味方ではなく守る対象だ。別枠だな。

額縁に入れて、金庫に入れておくSSRだ。間違ってもカードゲームで使用しちゃいけない。

 

それに危害を及ぼす一切を、俺は許さん。

 

「ドラッグは良くない。非常に良くない」

 

ドラッグとキラキラってめっちゃ相性いいんだよね……

香澄の目がキラキラしてると思ったら、キメてたとか洒落にならんわ!

 

暴力・ドラッグ・セックスは暴力団の三種の神器だからな。

当然、芸能界もドラッグが大好き。

 

したがってドラッグは発見次第、即刻消さなきゃいけん案件だ。

 

「ドラッグを街に広めようとしていた……そんなアナタを生かしておくわけにはいきませんよね。

 もっとも、本拠地もツインズも失ったアナタにできるかどうかは別ですけど」

 

そう告げると、神崎は何かを恐れるような仕草で、握りしめたものを背に隠した。

 

なんだよ。気になるじゃねーか。

 

ゴールドエクスペリエンスで、すかさず奪い取る。

 

「なっ! 返せ!!」

「……なんだと思ったら、ただのあの工場の登記証じゃないですか。そんなに慌てなくても返してあげますよ。ほらっ」

 

今となっては、ただのゴミである。

放り投げると神崎は、母ガメが卵を守るように大事そうに抱えこんだ。

 

そんなに必死にならなくても取りゃしないよ。

だいたい現在の登記制度においては、土地の権利書なんか証明書類の一種に過ぎないんだから、それを奪ったところで土地を奪えるわけでもない。

 

こんなことくらい平常時のコイツならわかりそうなもんだけど、何をそんなにテンパってるんだ?

 

「つーか、今更そんなゴミ持ってても仕方ないんじゃないですか?」

「ゴミ……だと」

 

「? 再開発は止まっちゃったんですから、あんな工場跡地、二束三文に逆戻りじゃないですか。むしろ税金の方がかかりそうなもんですけど」

「再開発が、中止?」

 

「え!? ご存知ないのですか? 今、世間じゃその話題で持ちきりですよ?」

 

こいつマジで知らないのかよ。

そういやずっと入院してたんだったね。でもニュースくらい見ろよ。

 

だから未だに、そんな権利証に固執してんのか。

 

哀れな……こいつの中では、まだ再開発が続行されて、その土地が高値で売れることにノリノリになっていたのか。

何が「乗らないでどうする」だよ。盛大にビッグウェーブに乗り遅れてんじゃねーか。

 

「仕方ありませんね、説明してあげましょう……あ、ちょうどいいところに。ほら、新聞の一面にもこの通り」

 

俺はポリバケツのゴミ箱の中から一週間ほど前の新聞を引っ張り出し、神崎の目前に放り投げた。

 

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「奇跡の命トキ 星見の丘で発見か」

 

「ーー学名「ニッポニア・ニッポン」とされ日本を象徴する鳥とも呼ばれるトキが、星見の丘で発見された。

 野生絶滅したとされるトキが、宣言後、野生で発見されるのはこれが初めて。

 星見の丘周辺は繁華街となっており、なぜ水田も湿地もないのに生育しているのか不明であるが、多数の報告が相次いでおり近く調査が行われるとのこと。

 ~~~

 なお、この星見の丘は再開発計画の対象となっていたが、この発見を受けて同計画は近く見直される模様ーー」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「な、な、な、なんだこりゃあ……嘘だっ! こんなことがあるはずねぇ!!」

 

嘘じゃないぜ。

岐阜県の山奥村には、人をおかしくする寄生虫だっているんだ。

星見の丘にトキがいたとしても、なんもおかしくないよ。

 

「すごいですよねぇ。絶滅したはずのあのトキが、こんなに身近にいたんですからね。

 今や日本中が大騒ぎですよ!」

 

なんせ絶滅危惧種を通り越して、すでに野生絶滅したのがトキである。

それに日本人はトキが大好きだからな。フレンズになりたい動物ランキングでも上位だ。

その昔、最後のトキーー「キン」が死んじゃったときも、報道はそうとう加熱した。

 

それが突然、繁華街の真ん中にある丘で繁殖していたのである。不思議!

 

「それだけじゃありませんよ。環境省やトキ保護センターだけじゃなく、各種保護団体やIUCN(国際自然保護連合)にも誰かがレポートを上げたみたいで、国際的にも注目されてるんですって!」

 

熱心な奴がいるよねぇ〜誰かな〜?

 

「果たしてそんな中、星見の丘をぶっ壊して道路通すなんてことができるんでしょうかねー?

 再開発計画は見直しって書いてありますけど……ま、中止でしょう」

 

下請けをいくら潰しても受注が止まらないなら、もとの事業の息の根を止めてやればいい。

 

一度決まった開発計画でも、現地の希少生物の発見によって見直されることは稀にだがある。

特にトンネル開通が立ち消えたり、山間地域の道路建設のルートが変わったりする。

 

その発想のもと、打った手がこれだ。

 

そう!!

ジャパリパークの開設である!!

 

ヒントは香澄たちとの星見イベントにあった。

あの時俺は虫の合奏会を演出するため、鈴虫やコオロギを量産しまくったわけだが、どうやって再開発計画を止めようか悩んでいるときに、ふとそれを思い出したのだ。

 

そういえばハルゼミって絶滅危惧種だったようなーーと。

 

思いついてしまえば、あとは早い。

反射やら感覚暴走だのが評価されがちなゴールドエクスペリエンスだが、真の力は生命創造である。

想像上の生物である幻獣や、完全絶滅した生物こそ生み出すことはできないものの、1匹でも残っているなら量産することは容易い。

 

野生絶滅したはずのトキも、はいこの通りというわけである。

 

「ちなみにトキだけじゃありませんよ」

 

神崎が読んでいる新聞記事は一週間前のものであり、実はその後も続々と星見の丘から希少生物が見つかっている。

オオサンショウオ、シマアオジ、ニホンイヌワシ、ヤンバルクイナ……お前らなんでそんなとこいるのレベルの絶滅危惧フレンズたちが勢ぞろいし、生物学会のお歴々たちも頭カバンちゃん状態になっている有様である。

 

今や日本中のみならず海外の目も星見の丘、ひいては再開発計画に向けられており行政も完全に及び腰となった。

地元の再開発に反発する団体も息を吹き返し、これ見よがしに猛反対を開始している。

 

このまま再開発を推し進め、あの丘をすりつぶせるかな?

 

ま、無理だろうね。

もはや、中止あるいは大幅な見直しが入ることは確実だろう。

 

説明を受けた神崎は、すっかり放心してしまった。

 

「元気出してください。神崎さんだけ世間の波に乗り遅れて、完全にのけものフレンズでしたけど。それでもフレンズはフレンズです」

「……ぇぞ」

「え?」

「再開発は止まんねぇぞぉぉぉぉおおおお!!!!」

 

プルプル震えだした神崎が、突然雄叫びを上げた。

 

うおっ、これはケダモノフレンズ。

 

「再開発で、いったいいくらの金が動いてると思ってる!!? 何十億じゃきかねぇ……何百億だぞ!!

 それがこんなことくらいで止まるわけねぇだろうが!!!! このまま終わるわけがねぇ!!! そんなもんは潰されるに決まってる!!」

 

……へぇ。

 

なかなか鋭いとこ突くじゃないか。

さすが道具を使う猿は一味違うね。またランクアップだぜ、喜べ神崎くん。

 

実際、再開発の裏で動いてる金を考えれば、神崎くんの意見も一理ある。

このまま再開発計画を実行することは、十分可能だ。

 

例えば俺なら、そこらへんのクソガキを捕まえてキャンプしてこいって道具を渡し、星見の丘にガソリン撒いて火をつけさせる。

 

あとはマスコミに金を渡し、適当なコメンテーターに「いやー、けしからんですね。実にけしからん! この悪ガキたちは刑務所に入れるべきだ!! ……でも無くなっちゃった以上は、利用しないともったいない。再開発で丘を利用しましょう。それが動物たちの供養にもなります」とかなんとか言わせておけばいい。

 

あとはもう強引に推し進める。無いものは無いといって。

 

「確かに神崎さんの言うこともわかりますよ。再開発に賭けていた悪い人なら、そういう無茶もするかもしれませんね」

「そうだ。なんだったら俺がこの手でっ!!!」

 

「でもすぐに次が始まりますよ?」

「……なに?」

 

「三笠公園、通川、桟橋神社……旧市街地にはまだまだ素敵な立地がありますからね。今度はそこに楽しい生き物があふれ出しますよ」

「は?」

 

「わかりませんか? 神崎さんだって言ってたじゃ無いですか……ツインズがなくなっても、第2第3が現れるって。

 それと同じですよ。

 星見の丘がなくなってもね、第2第3の星見の丘が現れるんです。延々と現れますよ延々とね……この私が望む限り」

 

だってジャパリパークが大成功してるんだもん。

2期をやらない手はないよね。

 

果たして俺を止められるかな?

 

それに加えて言えば、再開発計画が完全にストップする必要もない。

本当に重要なことを、履き違えてはいけない。

大事なのは、再開発計画が先延ばしにされることだ。

 

5年ーーいや3年でいい。

香澄たちが入学して卒業するまでの期間……その間さえ花咲川女子学園高校が廃校を免れてくれさえすれば、目的の達成は可能である。

 

そして現時点で、中止するかどうかはともかく、計画の見直しが入ることは確定しているのだ。

十分な成果はすでに上がっている。

 

「お前がやっている……のか? ありえねぇ……ありえるはずがねぇだろ……」

 

神崎が俺を見る目が、明らかに人間を見る視線ではなくなってしまった。

 

わかるよ。

だって数あるスタンドの中でもゴールドエクスペリエンスって、とびっきりのチートだもん。

人の手にあまるというか、神の領域というか……

 

「……お前は一体なんなんだ?」

 

だから、これは何かと聞かれたら。俺はこう答える。

 

「ゴールドエクスペリエンスです」

 

今度こそ、あの日の神崎くんの哲学的質問に答えてあげると、神崎はそれでも理解不能だと首を振った。

俺との再会、再開発中止、二束三文となった工場跡地。怒涛の黄金体験に頭の許容量がパンクしてしまったようだ。

 

そして、恐れと憎しみが混ぜこぜになった瞳で俺を睨みつける。

 

「ゴールドォ……お前さえ、お前さえいなければぁ!!!」

 

ん? あ、トカレフだ。

 

ソ連製の傑作拳銃である。

暴力団とつながっていたし、この規模のチームのリーダーなら持っていてもおかしくないか。

土地の権利証と一緒に、そんなものまで回収していたようだ。

 

神崎は震える両手で、それを構えた。

 

「あー、やめといたほうがいいと思いますよ。ホントに。

 こんな言葉を知っていますか? 撃っていいのは……」

 

俺も一応なだめてやったのだが、完全に我を失った神崎は血走った形相で引き金を引いた。

 

「死ねっ!!!」

 

そして当然のようにーー木から落ちたリンゴが地面で砕けるように、神崎は地面に倒れた。

 

あーあ、だから言ったのに。

撃たれる覚悟……してたのかな。

 

このゴールドエクスペリエンス、レクイエム前提だからかもしれないんだけど、飛び道具も反射するんだよね。

核ミサイルとか受けたらどうなるんだろ。やっぱ発射ボタン押した奴が爆死するのかな。謎だ。

 

「ぐほっ……ぐぐぐ……」

 

反射したダメージは、見事に神崎くんの腹に風穴をあけた。

明らかに致命傷である。

 

「大丈夫ですか……ダメそうですね」

 

治そうと思えば治せる。それもゴールドエクスペリエンス。

 

しかしこの神崎という男は、少々ランクを上げすぎた。危険度ランクをな。

 

大規模な不良集団を作り、店々を脅迫し、ドラッグを街に蔓延させようとし、あげく俺を闇討ちすることを計画するような奴である。しかも躊躇なく拳銃をぶっ放す。

 

治す理由がない。

 

俺は「こんな男、殺す価値もない(キッ」と言ったり、「これから精一杯生きて、罪を償うんだ」と言ったりするようなノーテンキな思考はとてもできない。

 

悪・即・斬。

危険な輩は消すに限る。

そんな嫌な中学1年生なので、あとは最期を看取るだけだ。

 

まぁ、恨み言くらいなら聞いてやってもいいぞ。

 

「言い残すことはありますか?」

「どこで……」

 

「はい」

「俺は、どこで間違えた……」

 

「うーん、どこでと言われましてもね……」

 

最期まで質問の多い奴だな。

 

とはいえ神崎の表情は血の気も引いて、瞳からはさっきまであった感情の光がなくなっている。

だからすでにこれは質問ですらないのだろう。ただのうわごとだ。

 

でも最期だし、答えてやるか。

 

「そもそも不良なんてのになったのが間違いなのでは?」

「……」

「尊大な自尊心を引っ込めて、目立たず、人に優しく、穏やかに暮らしていれば、間違いはなかったと思いますよ」

 

ここはバンドリ世界なんだからさ、モブになろう。

 

つーか俺なんか、生まれながらにして間違いの塊みたいな存在である。

なぜか過ちをおかしたあの邪神の罰だけ背負ってる。

 

そう考えるとこの神崎も、あの邪神の被害者なのかもしれない。

あの邪神が年甲斐もなくバンドリのライブでハッスルしなければ、みんな平和だったのだ。哀れな。

 

「……」

 

神崎からの返答は、もはやない。

 

仕方ない。

俺も転生には一家言もつ男。

神崎くんにもチャンスをあげようではないか。

 

チャンスかな? チャンスだよね?

少なくとも俺よりは罰ゲームじゃないと思うよ。

 

「では神崎さん。もう聞いてないと思いますが、チャンスをあげますよ。

 これもある意味、転生でしょう。来世では頑張って下さいね。バイバイ」

 

 

「こんにちわ~」

「フッフー☆ こがねちゃん! いらしゃ〜」

 

学校終わりにEDOGAWAGAKKIに入店すると、鵜沢が明るく俺を出迎えた。

 

「えらく嬉しそうですね。どうしました?」

「よく聞いてくれたんじゃ! 実はこの店の3Fスタジオの修理が終わってね、ここでも練習できるようになったの」

 

「へー、それはそれは。なによりですね」

「再開発の話もなくなって、変な人たちも来なくなったし。いいことばかりだよ。ほんと星見の丘様様♪」

 

鵜沢はルンルン気分で、はたきを振っている。

うんうん。そこまで喜ばれるとちょっとした達成感があるってもんだ。

 

それに今日は嬉しいお知らせもある。

 

「星見の丘ってここからそう離れてないし、今度ゆりちゃんを誘って、見に行ってみようかなって思ってるんだけど、こがねちゃんも来る?」

「あー、あそこまた新しい動物見つかったみたいで、めちゃくちゃ騒がしいのでやめといたほうがいいと思いますよ?」

 

「え、そうなの?」

「はい。なんか珍しい蛇が見つかったみたいで……」

 

蛇と聞いた鵜沢は、瞬時に顔色を青くした。

 

「へ、蛇!? リィちゃん蛇は苦手なんじゃー」

「ええ、蛇は危ないのでいかないのが正解です」

 

本物のジャパリパークは弱肉強食。

危ないところですからね。ぜひ頑張って欲しいもんだ。

 

「ところでこがねちゃん、今日は紹介したい人がいるって聞いたけど、誰のことなの?」

 

おっとそうだった。本日のメインを紹介しなければな。

 

「あ、それですよ。それ。ふふふ、鵜沢さん驚いてくれていいですよ。きっと鵜沢さんも気に入ってくれるはず……新しいメンバーですよ!」

「え、紹介? 新たなメンバー?」

 

「はい。どうぞ、入ってきてください」

 

というわけで俺は店の前で待機させていた彼女を招き入れる。

 

「二十騎ひなこでーす! よろしく☆ ぶい」

 

こうして物語もグリグリも新たなステージへ移行した。

 




区切りもいいので、一休みします。
( ˘ω˘)スヤァ

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