私と先輩が結婚すべき理由   作:おかぴ1129

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chatstoryでの公式連載の方で、
薫たち登場人物のキャラデザインを担当しているtoiroさんが、
とてもステキな薫のイラストを描いてくださいました。
https://twitter.com/okapi1192/status/1085499037262831617

そちらの薫をなんとか形にしたくて、大晦日の日の2人を書いてみました。
chatstoryでも大晦日の話を展開してますが、その小説版という感じです。


小話
大晦日の二人


「はいおまたせー」

「ありがとうございます」

「ついでに玉子焼きも焼いた」

「でかした我が夫」

「調子いいこと言って……」

 

 俺が日本酒、獺祭の冷が入った冷酒用の背が高いデキャンタとおちょことぐいのみ、そしてついでにパパッと焼いた玉子焼きを持ってきたのを見て、薫はいつもの仏頂面で鼻の穴をぷくっと膨らませていた。

 

 今日は大晦日。一年の終わりは二人で静かに締めくくりたい……そう思っていた俺は、8時頃に来た金森くんからの初詣のお誘いを断り、こうして家で薫と二人、くつろいでいる。

 

 『金森くん』てのは、今年うちの会社に入ってきた新人、金森千尋くんのことだ。

 

 新人といっても、元々は大企業で働いていたやり手のビジネスマンで、入社当初から新人とは思えないほどの腕前を発揮。今では薫の片腕として、日々仕事を頑張っている。時折『正嗣さんを愛しています』と真顔で言ってくること以外は、好感が持てる後輩だ。

 

『今日は大晦日だ。大晦日は夫婦ふたりで静かに過ごしたいんだよ』

『……』

『年の終わりはゆく年くる年見ないと気持ち悪いしさ』

『そうですか……わかりました!』

『すまんな金森くん』

『いえ! 僕はあなたが幸せなら、それでいいんです……』

『メランコリックな受け答えはやめろと言ったはずだ。あの小娘との初詣デートを楽しんでくれ。あいつにもよろしくな』

『はい。……では正嗣さん、良いお年を!』

『おう。金森くんもよいお年を!』

 

 金森くんとの、そんな会話を思い出す。最後のメランコリックな返事はまぁ、置いておいて……小娘も行くというのなら、金森くんも退屈はしないだろう。あいつが薫に向ける卑猥な眼差しは正直不快だが、話をしていて楽しいヤツだしな。

 

 『小娘』ってのは、やっぱり今年うちの会社に入った新人の女の子、小塚真琴ちゃんのことだ。

 

 一応、金森くんとは同期になるわけなのだが、すでに大企業で働いていた経験のある金森くんとは異なり、あの小娘……小塚ちゃんはまったくの社会人経験皆無の状態で入社した。そのため血迷った上層部(薫を含む)によって指導社員として俺があてがわれ、今では俺と一緒に日々の雑務をこなす、俺のムカつく後輩だ。

 

 『薫お姉さまを愛しています』と日々豪語し、獲物を狙う猛禽類みたいな眼差しでうちの妻をねぶりあげるように見つめる以外は、性格もカラッとしていて付き合いやすい。

 

 金森くんは俺、小娘の小塚ちゃんは薫を慕ってよく絡んでくる関係上、あの二人と俺達はとても仲がいい。先日のクリスマスの日も二人を我が家に呼んで、四人でスマ◯ラで盛り上がった。薫が変な性癖に目覚めたりと中々にカオスなパーティーだったが、まぁそれなりに楽しかった。

 

 今回、その金森くんが『四人で初詣に行きませんか?』と俺達をめくるめくダブルデート(組み合わせが変だが……)に誘ってきたわけだが……

 

 これがいつもの日であれば、別に外出するのもやぶさかでなかった。だがそれが、今年最後の日というなら話は別だ。最後の日は二人で静かに過ごす。それがうちの毎年の恒例だし。

 

 それに……

 

――ゆく年くる年見ないと、一年が気持ち悪いのです

 

 去年うちの妻が、そんなことをぼやいていたからな。

 

「先輩?」

「うん?」

「どうしました?」

「いや別に」

 

 俺の隣の薫が、ちゃんちゃんこに包まれた身体をもこもこと動かし、俺の顔を覗き込んでくる。相変わらずの仏頂面だが、その顔はどこかリラックスして自然体だ。自然体が仏頂面というのも、俺はどうかと思うけれど……

 

「……ほら、ぐいのみこっちによこせよ」

「ありがとうございます。……先輩もおちょこをこちらへ」

「……ありがと」

 

 二人で肩を寄せ合って、互いの器に日本酒を注ぐ。こたつは横長の大きいものを購入して正解だった。結婚した年に薫が『横長のものを買いましょう』と言い出した時は正直『何を言ってるんだこの仏頂面は……』と思ったのだが……買ってみたら大正解だ。二人で並んで座れるし、二人でくっついても何の違和感もない。時々こたつの中でうたたねすることもあるが、そんな時に二人で並んで寝られるのもうれしい。

 

「では先輩」

「おう」

「……今年もお疲れ様でした」

「薫も、お疲れ様でした」

 

 二人で寄り添ったまま、静かにチンと乾杯する。小娘の小塚ちゃんと金森くんの二人とよくつるむようになってからは日々がとてもにぎやかで、こんなに静かな時間を二人で過ごすのも久しぶりな気がする。

 

 テレビではゆく年くる年が始まった。ナレーターが静かに今年一年を振り返り、日本各地の神社仏閣の様子が中継されている。その様子はいずれも静かで、一年の締めくくりに相応しい厳かさだ。

 

「今年もそろそろ終わるな」

「そうですね」

 

 そんな静かなゆく年くる年を、俺と薫は言葉少なめに眺めていた。

 

「……」

 

 仏頂面でテレビ画面を眺める薫の横顔を、こっそりと眺める。薫にバレないように……

 

「……」

 

 そろそろ新婚というのも憚られる俺達なのだが、俺の自慢の妻は、今も変わらず横顔がキレイだ。

 

「……?」

 

 そんな薫の座高が、『ピコン』と音を立てて少し伸びた。そのあと鼻を少しだけぷくっと膨らませ、ゆっくりと俺の方に顔を向ける。

 

「どうかしました?」

 

 言えん……まさか『横顔に見とれていた』とは、恥ずかしくて言えん……

 

「……なんでもない」

「そうですか」

「おう」

 

 薫は別段何の感慨も沸かない顔を浮かべ、また静かにテレビを見つめ始めた。俺も薫の横顔を見つめるのを中断し、テレビの様子を静かに眺めながら、自分のおちょこの日本酒を煽る。

 

 今、テレビにはどこかの神社の様子が映されている。雪が降りしきる寒そうな境内では、初詣を待ち続けるたくさんの参拝客でひしめいているようだ。篝火がパチパチと音をたてて炎を上げているから、境内はそんなに寒くないのだろうか……いやそんなことはないな。めっちゃ雪積もってるし。

 

 ……そういえば、ちょうど今金森くんと小娘の小塚ちゃんも、うちの町内の神社で初詣の参拝客にまぎれて、二人で年明けを待っているのだろうか。今日は外はいつも以上に肌寒い。風邪でもひかなきゃいいんだが……

 

 と、今年出来た二人の後輩の心配をしていたら、である。

 

「先輩」

 

 さっきの俺と同じように、薫が俺の顔を見つめていることに気付いた。まぁ二人並んでくっついてるから、顔をジッと見られていたら、誰だって気付くか。さっきの俺はちょっとだけうかつだったわけだな。

 

「ん? どうした?」

 

 俺も薫を振り返る。ゆく年くる年が始まって、室内が静かになったからだろうか。俺たちの耳に、かすかに除夜の鐘の音が届き始めた。

 

「今年ももう終わりですね」

「だな」

 

 小さいはずの除夜の鐘の音が、妙に胸をゴーンゴーンと揺さぶってくる。薫が手に持っていたぐいのみを静かにコトリとこたつに置いた。

 

 そして……

 

「……来年も、よろしくおねがいしますね。先輩」

 

 俺の顔を見つめたまま、ふんわりと柔らかく微笑んだ。

 

「……」

 

 正直なところ、薫の自然な微笑みを見たのは、今回が初めてではない。

 

「……」

「? 先輩?」

 

 初めてではないのだが……仏頂面が平常運転で調子が良い時はニヘラとキモい笑みを浮かべるこいつの優しい微笑みは……正直に言うと、心臓に悪い。

 

「どうかしました?」

「……あ、いや」

「?」

 

 だって、こいつがふわっと笑う度、俺の心臓がドキンってするから。そのあと、年甲斐もなく胸がドキドキして、それがしばらく収まらないから。

 

「……おう」

「はぁ……?」

「……こちらこそ、よろしく頼む」

 

 こう答えるのが精一杯だった。だって今、完全に頭が止まってたから。

 

 そんな精一杯の俺のアンサーを聞いた薫は、ふわっとした微笑みを浮かべたまま、小さくコクリと頷いていた。

 

 

 そんな風に薫とひとしきり見つめ合った後、俺はカーテンの隙間を見つめた。俺の角度から見ると、カーテンの隙間から外の様子が少しだけ見える。

 

 外は真っ暗でまったく様子がつかめないが、それでも分かる。外は今、恐ろしいほどの寒さだろう。それこそ、薫が外に出たら約2秒で『ひやぁぁあああ』と悲鳴を上げて逃げ帰り、このこたつの中に全力で引きこもるぐらいの寒さのハズだ。

 

 そんな寒さの中、初詣に出た二人が気にかかる。ちゃんと暖かい格好をしているだろうか……風邪をひいてないだろうか……あいつらはどんな願い事をするのだろうか……いい加減うちの妻に卑猥な眼差しを向けるのは謹んでくれるだろうか……

 

 あいつらにとって、来年は良い年になるだろうか……

 

 

 ちなみにこれはおいおい分かることだが、あいつら二人にとって来年の始まりは、かなりの嵐が吹き荒れることになる。

 

 どれぐらいの嵐かというと……それは二人の問題だけにとどまらず、大口の取引先との契約がご破産になりかけ、珍しく薫が怒りを顕にし、これまた珍しく俺が表舞台に立って仕事に全力を出すという、うちの会社始まって以来の大珍事が発生するぐらいの嵐だ。

 

 聞けばそれは、今日の大晦日から遡ること一週間……クリスマス・イブの日から徴候が現れていたそうな……まったく……若い子ってのは元気だね。いやはや……

 

「……先輩」

「ん?」

「明けました」

 

 ふんわりと微笑んだまま、薫がテレビ画面を見ることを促した。画面を見ると男女一組のレポーターが、さわやかな営業スマイルをこっちに向け、元気よく新年の挨拶を行っている。照明に照らされた二人の白い息が、その場の寒さを物語っていた。

 

『新年、あけまして、おめでとうございます!』

 

 無事に明けた。新しい年のはじまりだ。

 

「薫、今年もよろしく」

「はい。よろしくお願いいたします」

 

 改めて肩を寄せ合い、互いの器に日本酒を注ぎ合って、新年の到来を二人で静かに祝う。薫は変わらずふわっとした笑顔を浮かべながら、静かにぐいのみを煽っていた。

 

 今年も俺達にとっていい年になるといいな……至近距離にまで接近していたその嵐にはまったく気付いてなかった俺は、呑気にそんなことを思いつつ、目の前の愛しい妻が注いでくれた日本酒を煽った。

 

「……ふう」

「おかわりどうぞ」

「もういらん」

「あら。もう呑まないんですか」

「あんな醜態はもう晒したくない」

「別にいいのに」

「俺がよくない」

「私は先輩を膝枕して頭をなでなでしてあげるのは好きですが」

「……」

「なんせ先輩、筋金入りの赤ちゃんですから」

「……もう絶対にやらん」

「ちくしょう」

 

 もう、膝枕をせがんで頭なでなでを強要するような醜態は二度と晒すまい。俺は今煽っている日本酒で今日は終わりにしようと決心し、静かにコトリとおちょこを置いた。

 

 おわり

 




話の中で渡部がボヤいていた小塚ちゃんと金森くんの騒動は、
現在こちらで連載中!!

『勘違いをしたのかもしれない』
https://syosetu.org/novel/181691/

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