二天の孤狼 ─落第騎士の英雄譚─   作:嵐牛

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終章:詠塚琉奈の述懐

 

 

 

 

 

 

 

え? あっ、ステラさん?

奇遇ですね。まさかまた用事が被るとは思っていませんでした。

その、事件の事後処理は……ああ、それはよかったです。ジンロウはああ言ってくれましたが、やはり気がかりで……厚かましいですが、心残りが無くなりました。

 

……ところで、『それ』は今夜黒鉄さんにお披露目の予定ですか?

あらあらまあ、随分と(きわ)ど、ゲフン、大人なチョイスですね。それって黒鉄さんの好みですか? それともあなたの気合いの表れ……ああごめんなさい、やめてください死んでしまいます、どうか火を引っ込めてください。

 

……まあ、確かに私のチョイスも大概かもしれませんが。

これで私も結構必死なんですよ?

ジンロウの気を向かせるのに。

 

ええ、大好きですよ。

私はずっと昔から、あの不器用の塊を何より愛しています。

……聞いておいて照れないでくださいよ。私だって結構恥ずかしいんですから。

とはいえ今までも色々とやっているんですけど、ジンロウが応えてくれた事は残念ながら1度もないんですが。

 

鈍感という訳ではないんです。

私の好意を理解不能と思ってるんでしょう。

ジンロウにとって私は、『そういう対象』ではありませんから。

 

……怒って下さる気持ちだけ受け取らせてください。

しょうがないんですよ。

私が彼にした事を考えれば、しょうがない事なんです。

私は彼に、とても酷い事をした。

 

 

私の家は剣術の道場なんですが、ジンロウは父が連れてきた子なんですよ。

思うところあって孤児院から連れてきて、そのまま養子にしちゃったんです。

そしたら、その次の日から見てるこっちが泣きそうになるくらい厳しい修行が始まって。

身体を好きに動かせるようになった後は、今度はずっと剣の修行でしたが……彼なりに恩義もあったんでしょう。

ジンロウは必死で修行に食い付いて、そんな彼が私も大好きでした。

 

でもね。

ある日ジンロウ、とうとう家出しちゃったんです。

修行の厳しさじゃなくて、身に付けた業を1つも認めてもらえない辛さで。

父は私の前ではジンロウをべた褒めしてたから、私も気付けなかったんです。

連絡もつかないまま、そのまま何ヵ月も帰って来なくて……

 

………その間に、父は病気を悪化させて天に昇りました。

 

そうしたら、ジンロウ、帰って来たんですよ。

大慌てで帰って来た彼の必死な声が、凄く嬉しかったんです。

捨てないでいてくれたんだ、って。

私達をずっと気にしていたんだ、って。

 

でもその時のジンロウ、凄い格好でして。

髪は金色だわ肌は黒いわピアス開いてるわ、一瞬誰だかわからない位でしたからね。

……それを見て私、カッとなっちゃったんです。

『随分羽目を外していたみたいですね』って。

楽しいはずなんてなかっただろうに、身も心も荒れた生活をしてるって予想できてたはずなのに。

ただジンロウを傷付けたくて、ありもしない事を並べて……父の最期まで悲劇的にねじ曲げて伝えました。

ええ、()()()()()()()()()()()()

 

 

その時から、ジンロウは変わりました。

意識のある間は剣、剣、剣。

比喩じゃないですよ。衣食住ぜんぶ投げ捨ててましたから。

あちこち折れた身体で修行してるのを見たときは本当に泣きましたよ。

謝りましたよ、もちろん。

人生であそこまで頭を下げる時はもう無いでしょう。言ってはなんですが、最悪斬られる覚悟もしてました。

 

……どうなったか?

許してくれましたよ。

怒られた方がずっとましでした。

 

『無かった事にしてくれなくていい』、ですって。穏やかな顔して。

それからもうずっと、『大丈夫』としか言ってくれないんです。

 

優しい子でした。

人も物も自分が触れたら壊してしまうんじゃないかといつも怯えていたくらい怖がりで、そのくせ父が趣味でやっていた和楽器も習いたがる人懐っこい子で。

そんなかけがえのない情緒や感性を、私がぜんぶ戦いの血と泥で塗り潰させてしまいました。

……信じる事なんて出来るはずないですよね。

こんな十字架を背負わせた女の愛なんて。

 

 

………だけど、ジンロウは勝ちます。勝たせます。

ジンロウの剣は、償いなんです。

()()()()に報いる為にこの世界で1番強くなる、と。黒鉄さんに挑むのはその足掛かりだと言っていました。

 

ジンロウの悲願を叶える為に、私も全力で支えてきたんです。

 

そうすればいつか、私の想いも届く日が来るかもしれないから。

 

いつか全ての強者を倒して、彼が世界で最強になる時が来れば───

 

 

────また、昔みたいに笑い合えた時に戻れるかもしれないから。

 

 

 

 

 

【終】

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