皆様は、肉焼きをご存じだろうか?

これは、ハンターの基本、肉焼きに芸術性を見いだし、敢えて危険な状況で肉を焼く……肉焼きに命をかけた(バカ)の話である。

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思いついただけの1発ネタです。


モンスターハンターMeat ~肉焼きに命をかけた男~

 皆様は、肉焼きと言うものをご存じだろうか?

 肉焼きセットを用い、生肉をこんがりと焼くあれである。戦場に出てモンスターを狩るハンターたちの基本の1つであり、ある種の生命線ともなるものだ。

 肉焼きは危険である。なにせ、モンスターから採取する生肉は、焼きすぎればこげ、火から上げるのが少しでも早ければ生焼けとなる。こんがりと焼き上げるためには肉の色を見る必要があり、ハンターはそれに集中せねばならない。新米ハンターの中には、採取クエストに出てはひたすら肉焼きを行い、感覚を掴んでから狩りに出る慎重派も居るとか居ないとか。

 そんなことはさておいて。集中力が大事な肉焼きは危険なため、多くのハンターは安全な場所で行う。

 キャンプで狩りに出る前に。はたまた、モンスターとの激戦の小休止。モンスターの移動の際にちょこっと、など。

 だが。ハンターの中には、あろうことかモンスターとの戦闘中に肉焼きを行うという剛の者(バカ)も居る。

 

 ラフィオ活火山に、普段の熱量を超える灼熱の風が吹く。普段我が物顔で火山を闊歩するモンスターたちは身の危険を感じ、怯え、その全てが姿を見せなくなっていた。

 何ものも存在しない火山に灼熱の風を吹かせ、自分がそこの主であるかのように悠然と闊歩するそのモンスターの名は、テオ・テスカトル。炎王龍とも呼ばれ、炎を自在に操る古龍である。

 

 唐突にテオ・テスカトルの動きが止まった。彼の目の前に、何かがいる。その何かは彼よりも遙かに小さく、ゴテゴテとした鎧を着込んでいた。だが、彼は眼前に立つ小さな生き物を眺めると、そんな小さな存在などどうでもいいかとでもいうように無視し、通り過ぎようとした。

 しかし、彼の左前足に鋭い痛みが走る。見ると、その小さな存在が刃を持ち、テオ・テスカトルの足を切りつけていた。

 

 テオ・テスカトルは素早く身を翻し、その体からばふんと粉塵を出す。時間経過で爆発する、危険な粉塵である。そして、相手を大きく威圧するように、咆哮を轟かせた。開戦の合図である。

 

 弱い炎鎧を纏いつつ、自らの体を傷つけた敵をよく観察すると、彼の持つ刃……大剣からは、古龍の圧が感じられた。なるほど、その刃は自らを傷つけるのに十分だと、テオ・テスカトルは認めた。

 テオ・テスカトルと対峙する小さな存在、ハンターは、リオレウスの防具を着込み、鈍い銀色に輝くクシャルダオラの大剣を構えている。リオレウスを何度も狩猟し、鋼龍クシャルダオラすらも狩りうる力を持った強力なハンターだ。

 

 テオ・テスカトルが動いた。素早い動きでハンターの側面に回り込むと右前足を使ってパンチを繰り出す。素早く、隙の少ない攻撃。だがそれは紛れもない古龍の一撃だ。その一撃は並の鎧なら砕き、ハンターを瀕死にするほどのパワーを持っている。

 しかし、予備動作のほとんどないその攻撃を、ハンターは軽々と避けた。ならばとブレスを吐くべく息を大きく吸い込んだテオ・テスカトルの口元で……ハンターは、肉焼きセットを取り出した。

 

 もう一度言おう。ハンターは肉焼きセットを取り出した。

 自殺行為である。いくら熟練のハンターと言えど、古龍の前で肉を焼くなど正気では無い。それも、今まさにブレスを吐こうとしている目の前で。

 

 だが彼は肉を焼く。生肉を取り出し、肉焼き機に置き、くるくると回し始める。どこからか軽快な音楽が聞こえだし、静かなラフィオ活火山を賑やかにした。

 

 そんな時、テオ・テスカトルのブレスが吐き出される。しかし、彼の口元に居るはずのハンターが焼かれる様子は無い。何故ならば、彼の龍炎によるブレスは、吐き出され口の近くを焼かないからだ。このことはアタリハンテイ力学の学術書にも載っている有名な事象である。

 

 大迫力のテオのブレスを眺めつつ肉を焼いていたハンターは、的確に焼き加減を見極め、生肉を炎からあげる。生肉は中まで火が通り、美味しそうなこんがり肉へと変化していた。ラフィオ活火山を賑やかにする軽快な音楽は止まったが、その代わりに『上手に焼けましたー!』という楽しそうな声が響き渡る。

 古龍は賢い生き物だ。ハンターが仕掛ける罠を見極め、その罠にかからないほどの知能を持つ。故に、テオ・テスカトルは理解した。自分が、眼前のこの生き物に舐められていることを。

 

 テオ・テスカトルは激怒した。必ず、この邪知暴虐のハンターを除かねばならぬと決意した。

 

 つまり、怒り状態である。テオの炎鎧は活性化し、鎧の上からハンターの肌を焼く。堪らず距離をとろうとしたハンターに、テオは素早く飛びかかった。

 身のこなしが軽く、一撃が重い。通常状態とは比べものにならない暴力がハンターを襲う。しかしハンターは、その悉くを躱し、防ぎ、反撃までしてのけた。怒り状態のテオ・テスカトルを完全に手玉に取っている。テオ・テスカトルに焦りが募り、興奮と共に纏う龍炎が激しくなっていく。

 

 そして、臨界に達した。

 

 テオ・テスカトルはふわりと浮き上がり、力を溜め始める。これは、広範囲を焼き尽くす灼熱を、まるで超新星爆発のように爆発させる彼の必殺技。『スーパーノヴァ』だ。

 

 その範囲は広い。彼が力を溜め始めた時、その爆発の中心付近に居ればもう逃れることは出来ないほどに。

 そして、威力も高い。例え爆発の範囲ギリギリで喰らったとしても、鎧を貫通し、ハンターを中までしっかり焼き尽くすであろう。

 そんな爆発の兆候を見たハンターは、凄まじい早さで大剣を納刀した。そして、全力ダッシュで中心から遠ざかる。そして、おもむろに生肉を取り出した彼は。テオ・テスカトルからかなり離れた位置に、生肉を置いた。そして、前転一回分距離を取り、またも肉焼きセットを取り出し、肉を焼き始めた。

 

 テオ・テスカトルのパワーが高まる。肉の焼き加減もいい感じになる。そして、テオ・テスカトルが溜め込んだ炎が全て、開放され……大爆発を起こした。

 

 しかしてその爆発はハンターに届かず。丁度爆発が起きたその時に、ハンターはこんがり肉を焼き上げていた。

 

 そして、地面に置かれた生肉は、範囲ギリギリのスーパーノヴァを受け……これも、こんがりと焼き上がっていた。

 

『じ、上手に焼けましたー』

 

 少し引き気味の声がラフィオ活火山を彩る。顔を隠す兜の下でやりきった表情のハンターは、それから一切の油断も隙もなく、全力でテオ・テスカトルを攻めたてた……。

 

 

 ラフィオ活火山に、小型のモンスターが少しずつ戻ってきた。君臨していたテオ・テスカトルはもういない。活火山を訪れたハンターが、その命を絶ったからだ。これでしばらく、ラフィオ活火山に古龍の影は無いだろう。

 

 テオ・テスカトルを狩ったハンターはその後、カイザー一式防具を身につけるようになったという。果たして、彼が手にかけたテオ・テスカトルは、一体何体なのだろうか……。



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