料理は道楽! 作:うおォン
えりなは先ほど、カレーを食したヴィジョンを振りかぶり改めて一口食す。
やはり、ありふれた普通の
(ん?)
ありふれた普通で
だがこれは何だ?スパイスも言ってしまえば市販品で買えるような品だし、肉のヨーグルトマリネの工夫だって昨今では珍しい物ではない。隠し味はリンゴにハチミツ、やはりありふれた物。
「不思議そうだね、えりな。美味しくは無かったかな?」
祖父がそう問いかける。美味しいか美味しくないかその答えは出ているが、今まで経験したことの無い美味しさだった故に中々口に出来なかった。もし、これを同年代の大衆食堂の息子等が出してきたのなら素直に美味しいとは言えなかっただろう。
「美味しかったですわ。こう、懐が広く優しい味です」
普段なら、もっとどう美味しかったのか、どう不味かったのか具体的な感想がでるのだが、まさか祖父が用意させた料理に普通に美味しいという感想が言えるわけがなかった。
「そうだね、甘めに仕上がったルーはそれこそカレー嫌いな人間以外なら誰でも美味しく食べらる優しい味だ。懐の深い味、なるほど確かに、醤油やソースといった調味料は勿論、ラッキョウや福神漬けも問題なく受け止められる味だ。だがね、えりな。儂や雄山殿は真逆の事も感じた」
「真逆ですか?」
「不思議かな?勿論甘い辛いといったことじゃない。優しい味、懐の深い味確かにそうだとも、だが真逆の厳しく定められた味でもある。普通の極めて美味しいということは、ある意味完璧な味だということでもあるのだ」
「完璧ですか!?」
まさか、食の魔王から味において完璧などという言葉が聞けるとは思いもしなかっただろう、えりなは大きな声で聞き返していた。
「アレを」
そう言って持ってこさせた物は、電話帳かと見間違うか程積み上げれられた紙束だ。
「レシピ帖ですか?」
「いいや、このポークカレーのレシピだよ」
「そんな、ばかな!?」
普通、簡単な料理のレシピはA4レポート用紙1、2枚で、多くとも3、4枚程で事足りる。このカレーならばどんなに丁寧なレシピであっても、3枚位だろう。
「目を通して、みなさい」
そう祖父に促され、えりなは紙をめくる。1ページ目~3ページ目はある意味良かったのかもしれない、やたらと事細かにスパイスの配合比率やスパイスを炒る時間、水分量、具材やスパイスの投入時間、米の配合比率・水分量が指示されていたがあえて挙げるとそれ位で、具材の種類も、豚バラブロック肉、ジャガイモ、人参、玉ねぎとやはり一般的なものだ。4ページ目からも同じカレーのレシピが乗っている。何度も何度も同じカレーのレシピが乗っており5度目のカレーのレシピの所で漸く気が付いた。ページの右下に小さな字で気温○○度湿度○○%におけるレシピと書かれている。つまり、このレシピは気温や湿度の違いを取り入れていれてその都度、調整してあるのだ。
「流石、美食倶楽部、流石、海原雄山先生です。たかが、大衆カレーにこれほどの情熱をいれ完璧に仕上げるだなんて、感服ですわ。このカレーの後だと、大半の食材を吟味し工夫を凝らせたカレー料理では、無粋な物に感じられるでしょう」
その言葉を聞いた、仙左衛門はニヤリと笑みを深め言い放った。
「いいや、違うぞえりな。確かに、儂は美食倶楽部でこのカレーを食した。だが、これを調理したのは美食倶楽部の料理人でも、海原雄山でも無い。お前と同じ歳の女子だ!」
「!?」
「インドで知り合ったそうでな、その女子はインド・タイでスパイスの勉強と称して市場を熱心に巡っていたそうでな。そこを偶然雄山殿が見つけて興味を持って話しかけたそうだ」
遠月の学生かとえりなは一瞬考えたが、自身と同性で同じ歳の者で祖父と海原雄山にここまで関心を引かせる学生がはたして中等部にいたかと思い、そしてインド・タイでスパイスの勉強をしてきて、美食倶楽部で調理して海原雄山に出したのがこのカレーなのか!?アホなのか、肝が据わっているのか……世界レベルの料理人でも出そうとは考えないし、出す勇気は出ないだろう。
「話そうその女子と出会った時のことを」
カレー対決回の原作がどっか逝った。いくら探しても見つかりそうにないので古本屋で探してきます。コンビニ本で妥協すればすぐに見つかるかしら。