Game of Vampire   作:のみみず@白月

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十五年後

 

 

「待ちなさい、バートリ! まだ説教は終わっていませんよ! 貴女はいつもそうやって──」

 

ええい、本当に鬱陶しいヤツだな。しつこいぞ。背後のスキマが閉じるのと同時に説教の声が聞こえなくなったことを確認しつつ、アンネリーゼ・バートリはロンドンの裏通りから出るために一歩を踏み出していた。忌々しい説教閻魔め。私の行動に長々と口を出している暇があるなら、先ず人里でサボっている部下をどうにかすべきだろうが。

 

2015年にも本格的な夏が訪れ始めた今日、私はスキマを使って外界に出てきているのだ。さとりやこいし、そして無縁塚のぽんこつ賢将から頼まれた買い物もあるし、早苗から受け取った日本魔法界宛ての手紙もあれば、アリスやフランから託されたイギリス魔法界の知り合い連中への手紙もある。他にも用事が盛り沢山だから、今回は一泊か二泊はすることになりそうだな。後でホテルを取っておこう。

 

脳内で予定を整理しながらロンドンの街中に出て、翼を消した状態で歩道を進んでいく。さて、何から片付けるべきだ? 何だか知らないが、時が経つにつれて外界での『頼まれ事』が増えている気がするぞ。昔は紅魔館の面々が手紙の受け渡しや細々とした買い物を頼んでくる程度だったのに、今や誰も彼もが要求してきているな。そういえば羽毛派の迷惑ブン屋にカメラのレンズも頼まれていたんだっけ。

 

まあうん、きちんと対価は受け取っているわけだし、一つ一つ順番に処理していくか。面倒くさいなとため息を吐いたところで、進行方向に一軒の古ぼけたパブが見えてきた。言わずもがな、『漏れ鍋』だ。先にダイアゴン横丁で魔法界側の買い物を済ませてしまおう。魔理沙から依頼された箒関連の品々と、パチュリーから頼まれた調合用の素材なんかを。

 

非魔法族からは隠されている店のドアを抜けて、これまた古ぼけている店内に入ってみれば……おー、ガラッガラだな。いつもより更に客入りが少ないようだ。今日はそこそこの気温だから、皆外に出たがらないのかもしれない。

 

「これは、バートリ女史。いらっしゃいませ。」

 

「やあ、残念ながら今回は通り過ぎるだけだよ。悪いね。」

 

猫背のバーテンに軽く挨拶しながら店内を横断して、裏手のレンガのアーチを潜ってダイアゴン横丁に足を踏み入れてみれば、予想外に賑わっている通りの光景が目に入ってくる。漏れ鍋がガラガラなのは夏の暑さの所為ではなく、漏れ鍋自体の問題だったらしい。

 

歴史あるダイアゴン横丁の『玄関』を担っているんだから、いい加減改装とかをすべきだぞと考えつつ、魔理沙が毎回『買い物先』として指定してくる箒屋へとひた歩く。何年経っても変わらんな、この通りは。私が嘗て有能なしもべ妖精と一緒に訪れたあの日。百二十年も前のあの日とほぼ同じ風景だぞ。

 

変わらず迎えてくれることにホッとすべきなのか、変わらないことを不安に思うべきなのか。そんなことを思考しながら箒屋の前にたどり着くと、ショーウィンドウに一本の箒が飾られているのが視界に映った。箒の隣には直筆サイン入りのプロプレーヤーの写真が展示されており、写真の中の女性が棍棒を手にした状態で不器用なウィンクをしてきている。おいおい、二回に一回は両目を瞑っちゃっているぞ。

 

「……慣れないことをするからそうなるんだよ。」

 

多分、宣伝用にと無理やりやらされたんだろうな。最近は凄い人気らしいし、イギリス魔法界のトッププレーヤーとしてこういう仕事もやらないといけないってことか。アーモンド色の髪の名ビーターどのに同情の思念を送りつつ、『壊し屋リヴィングストンおすすめの箒! 本人来店済み!』という宣伝文句が書かれてあるディスプレイから視線を外して、やれやれと首を振りながら箒屋へと入店した。

 

「いらっしゃい。……っと、バートリ女史。また『お使い』ですか?」

 

「どうも、店主君。如何にもその通りだよ。いつものように小娘からのメモを預かってきているから、書いてある品々をそっちで揃えてくれたまえ。部品だの箒磨きクリームだの、私には見分けが付かないからね。」

 

「見た目はともかくとして、もうあいつは小娘って歳じゃないでしょうに。」

 

「私にとってはいつまでも『生意気な小娘』なのさ。……最近はちょっと忙しいから無理だが、それが一段落したら直接来ると言っていたよ。」

 

中年の男性店主に魔理沙から預かったメモを渡しつつ言ってやれば、彼は嬉しそうに笑って応答してくる。

 

「そいつはありがたいですね。あいつはプロ選手に知り合いが多いので、店を宣伝してくれて助かってますよ。……ショーウィンドウのサイン、見ましたか? バートリ女史も知り合いなんですよね?」

 

「見たよ。後輩が頑張っているようで何よりってところさ。」

 

「今やヨーロッパのクィディッチプレーヤーとなれば、真っ先に名前が挙がるほどの存在ですからね。贔屓にしてもらえるのは嬉しい限りです。……それにほら、あっちのサインもあいつの紹介で店に来たプレーヤーたちに書いてもらった物ですよ。『黄金世代』の有名どころばっかりだから店が華やぐし、お陰で客入りも増えました。感謝してます。」

 

「ま、礼は今度本人が来た時に言いたまえ。明後日あたりにまた寄るから、品はその時に受け取るよ。」

 

店内の壁に貼られているプロプレーヤーたちのポスター。そこにオリバー・ウッドやカスミ・ナカジョウ、オルオチ・ワガドゥなんかの物もあることを確認した後、苦笑しながら店主に応じて店を出た。去年のは予定が重なった所為でハリーたちと一緒に観に行けなかったから、次のワールドカップを楽しみにさせてもらおう。

 

そのままダイアゴン横丁の魔法薬の店を巡って、パチュリーから頼まれた長い買い物リストを地道に処理していると……おやまあ、相変わらず繁盛しているらしいじゃないか。若年層の客で大賑わいの悪戯専門店が見えてくる。ウィーズリー・ウィザード・ウィーズだ。

 

うーむ、チラッと顔を出そうかと思っていたんだが、どうも忙しそうだしやめておくか。どうせ明日の夜に隠れ穴に行く予定なのだから、双子とはそこで会えばいいだろう。今の時期はこの『本店』に居るわけだし、となれば双子も夕食会には参加するはずだ。

 

あまりの繁盛っぷりを目にして小さく鼻を鳴らした後、騒がしい店を背に買い物を再開しようと歩き出す。……ああ、そうだ。ペットショップにも寄らないとな。相柳にウズラ味の蛇用フードを頼まれていたんだっけ。おやつとして最近ハマっているらしい。

 

───

 

そしてダイアゴン横丁で買い物全体の四分の一ほどを終わらせた夕刻、私はロンドンから遠く離れた丘陵地へと姿あらわしで移動してきていた。つまり、十年ほど前に結婚したロンとハーマイオニーの家がある場所にだ。

 

手紙で知らせた時間よりもちょっと早くなっちゃったし、留守だったらのんびり待とうと考えながら、なだらかな丘の上にある大きめの白い家に近付いていくと……おや、外で遊んでいたのか。木の柵に囲まれた庭で何かをしている赤毛の女の子と、茶色い癖っ毛の男の子の姿が目に入ってくる。

 

「やあ、二人とも。花壇に何か植えていたのかい?」

 

「あっ、アンネリーゼさん! ヒューゴと一緒にお花を植えてたんです!」

 

「こんばんは、アンネリーゼさん。」

 

九歳のローズと七歳のヒューゴ。ハーマイオニーとロンの長女と長男だ。私を発見するや否や元気に駆け寄ってきた姉と、きちんと挨拶をしてきた弟の性格の違いに苦笑しつつ、ここには居ない五歳の次女についてをローズに対して問いかけた。

 

「セシリアは家の中かい?」

 

「みんなで植えようって言ったのに、セシリーったらいつの間にか寝ちゃったんです。」

 

「何とまあ、あの子らしいマイペースさだね。ハーマイオニーとロンは?」

 

「パパとママはまだ帰ってません。でも、ハリーおじさんたちかアンネリーゼさんが来たら入れてあげてって言われてます。」

 

ふむ、やっぱり早すぎたか。『教育ママ』の指導のお陰で口調そのものは礼儀正しいものの、動作の方は子供らしく元気いっぱいのローズは、私の手を取って家の中へと引っ張ってくる。夕食のテーブルを共にする予定のハリーたちも未到着らしい。

 

ヒューゴがよいしょと開けてくれたドアをローズに手を引かれた状態で抜けつつ、壁にある時計をちらりと確認してからダイニングテーブルに歩み寄った。隠れ穴にも設置されている、時間ではなく家族の『状態』を示す時計だ。ハーマイオニーとロンの針は『仕事中』の文字を指していて、セシリアは『就寝中』となっている。

 

「僕、セシリーを起こしてきます。」

 

「いや、いいよ。ハーマイオニーたちが帰ってくるまで寝かせといてあげよう。」

 

「じゃあ私、紅茶を淹れます!」

 

「ありがたいが、火傷しないようにね。……今日は隠れ穴の方には行っていないのかい?」

 

妹を起こすために二階に行こうとしたヒューゴをやんわりと制止した後、キッチンへと移動したローズに応じつつ質問してみれば、私の隣に座った長男どのが回答してきた。

 

「いつもはお婆ちゃんのところに行くんですけど、今日は三人でお留守番してました。アンネリーゼさんがいつ来てもいいようにって。」

 

「それはそれは、気を使わせちゃったみたいだね。そのお礼ってわけじゃないが、お土産を持ってきたよ。うちのメイドが作った菓子と、三人それぞれへのプレゼントを。ヒューゴのは……ほら、これさ。贔屓にしている『技術屋』が作ったおもちゃだ。」

 

「ありがとうございます!」

 

「ん、どういたしまして。」

 

おもちゃ自体は良い品なんだが、どこかに必ず『にとり作』と製作者のサインが入っているのが欠点だな。ちなみにローズはちらちらとこちらを見ながらも、紅茶の準備を継続している。私の手土産が気になって仕方がないものの、先ずは紅茶を出すのを優先すべきだと判断したようだ。順調にお姉さんらしくなってきているじゃないか。

 

「……これ、凄いです。ひょっとして走るんですか?」

 

私がプレゼントした車のおもちゃ……というか、製作者曰く『小さいだけの本物の車』を前に聞いてきたヒューゴへと、肩を竦めて応答した。祖父たるアーサーと同じく、彼はこういう技術が大好物なのだ。食い付くと思ったぞ。

 

「小さいだけで構造自体は本物の車とほぼ同じらしいよ。リモコンで動かせるようになっているはずだ。」

 

「お爺ちゃんが見たら喜びそうです。」

 

「小躍りして喜ぶだろうね。だからアーサーには内緒にしておきたまえ。『研究』のためとか言って取られちゃうぞ。……ローズ、キミにはこれだ。アリスに頼んで作ってもらったんだよ。『メイクちゃん』さ。」

 

「アリスさんのお人形? ありがとうございます!」

 

紅茶を持ってきてくれたローズにもプレゼントを渡してやれば、彼女は顔を綻ばせながら小さな人形を受け取る。その反応に満足してうんうん頷きつつ、アリスから聞いておいた『機能説明』を送った。

 

「髪の結い方とか、軽いメイクの仕方なんかを教えてくれる人形だよ。今のうちから勉強して差を付けてやりたまえ。」

 

「嬉しいです! ……クッキーも食べていいですか?」

 

「そっちは夕食前だからちょっとにしておくべきだね。」

 

クスクス微笑みながら注意したところで、部屋の隅にある暖炉に緑色の炎が燃え上がる。そちらに目を向けてみると、茶色いスーツを着た赤毛のノッポ君の姿が視界に映った。ロンが先に帰ってきたようだ。

 

「ただいま。……リーゼ? 着いてたのか。悪いな、子供たちの相手をさせちゃって。」

 

「どっちも良い子だから私が相手をしてもらっていたよ。ハーマイオニーはまだかかりそうかい?」

 

「ああ、もう少しかかりそうだ。九月には大臣室に異動だからな。引き継ぎとかで最近は忙しいみたいなんだよ。……けど、ハリーはすぐ来るぞ。一回家に戻ってジニーと子供たちを『回収』してから向かうって言ってた。」

 

「ハリーもキミも残業無しで済んで何よりだが……そうか、ハーマイオニーはいよいよ大臣室入りか。シャックルボルトの補佐官になるんだろう?」

 

現在のハーマイオニーは若くして国際魔法協力部の副部長をやっているのだが、今年の九月から政治の中枢たる大臣室に移ることになったらしい。現在の魔法大臣であるキングズリー・シャックルボルトから引き抜かれたのだとか。

 

ローズが淹れてくれた紅茶を飲みながら尋ねた私に、ロンは対面の席に腰掛けて肯定してくる。

 

「みたいだな。協力部のブリックス部長が嘆いてたぜ。ハーマイオニーが抜けると一気に大変になるだろうって。」

 

「協力部副部長の後釜は誰になるんだい?」

 

「スーザンだよ。スーザン・ボーンズ。国際連盟への出向から戻ってくるんだってさ。」

 

「あー、なるほどね。……闇祓い局の方は? この前現局長が引退するとかって言っていたじゃないか。」

 

となれば、局長の席が空くことになるはず。前に来た時にも話題になったことを問いかけてみると、ロンは疲れたような苦笑いで答えてきた。その顔、昔のアーサーそっくりだぞ。三十を過ぎた頃から急に雰囲気が似てきたな。

 

「現副局長のハリーが局長になるだろうさ。史上最年少でな。」

 

「そして今度はキミが副局長か。苦労しそうだね。」

 

「きっついぜ。歳上の局員とかも多いしな。ハリーも僕もシャフィク先輩かドラコが局長になると思ってたんだけど、二人とも執行部本局に行っちゃったし……憂鬱だよ。副局長って柄じゃないぞ、僕は。」

 

「ま、頑張りたまえよ。私としては同級生たちが順調に出世していて嬉しい限りさ。」

 

ロンと同期入局のマルフォイは、現在執行部本局で副部長の椅子に座っているらしい。こっちもこっちで『黄金世代』かもしれんなと感心したところで、暖炉に再び緑の炎が燃え上がる。ハーマイオニーも帰ってきたようだ。

 

「ただいま、みんな。……あら、リーゼ。いらっしゃい。待たせちゃった?」

 

「いいや、そんなに待ってはいないよ。思ったより早かったね。ロンから引き継ぎ云々の話を聞いていたんだが。」

 

「リーゼが来るって話したら、ブリックス部長が後はやっておくって言ってくれたのよ。『どんな時でも、吸血鬼を待たせるべきじゃない』って。」

 

「おやおや、ブリックス君はレミィから得た教訓を未だに覚えているらしいね。その辺が出世の秘訣かな?」

 

ハリーの闇祓い局長就任やハーマイオニーの大臣室入りなんかも中々の快挙だが、あの若さで協力部の部長になっているブリックスも相当だぞ。『平社員』の時にレミリア経由で上との繋がりをしこたま作れたのが影響しているのかもしれない。

 

ハーマイオニーの上司のことを思い浮かべつつ思考している私に、当の部下どのがキッチンへと移動してから声を返してきた。

 

「ブリックス部長はまあ、良い人なのよ。だからみんなが手を貸して、結果としてどんどん出世していったわけ。……ローズ、料理を温めるから手伝って頂戴。それと、セシリアはどこ?」

 

「セシリーは部屋で寝てるよ。……ねえねえ、ママ。それよりこれ見て。アンネリーゼさんから貰ったの。お菓子も。」

 

「マーガトロイド先生の人形? 良かったわね。お礼はちゃんと言った?」

 

「お礼はきちんと受け取り済みだよ。ローズからも、ヒューゴからもね。」

 

ジャケットを脱いで慌ただしくキッチンで作業し始めたハーマイオニーへと、忙しないなと呆れつつ横から応じてやれば、続いて玄関の呼び鈴の音が部屋に響く。ハリーたちも到着したらしい。

 

「僕が出るよ。……よう、アル。リリーもよく来たな。」

 

「あのね、ロン? 私たちも居るんだけど? 可愛い妹への挨拶は無し? ……やっほ、アンネリーゼ。」

 

「リーゼ、久し振り。」

 

「やあ、ジニー、ハリー。元気そうだね。」

 

二人の子供を連れて部屋に入ってきたハリーとジニーに近付いて挨拶した後、子供たちの方にも声をかける。九歳で次男のアルバスと、七歳で長女のリリーだ。ふむ? 十一歳のやんちゃな長男であるジェームズが足りないな。連れて来なかったのか?

 

「こんばんは、アル、リリー。良い子にしていたかい?」

 

「こんばんは、アンネリーゼさん。僕、良い子にしてました。……多分してたと思います。」

 

「リーゼさんったら、サンタさんみたいな言い方だわ。」

 

「だろう? プレゼントもあるよ。ジェームズの分もあったんだが、将来有望な悪戯小僧どのは来られなかったみたいだね。」

 

何故か自信なさげに返答してきたアルバスと、可愛らしく微笑みながらハグしてきたリリー。二人にプレゼントを渡しつつポッター夫妻に問いかけの目線を送ってみれば、ジニーの方がやれやれと首を振って回答してきた。

 

「ジェームズはもうダメ。こっちの言うことを何にも聞いてくれないわ。今日も勝手に友達の家に泊まりに行っちゃったの。手が付けられないわよ、まったく。」

 

「双子なんかに預けるからそうなるのさ。私はこの展開を予想していたよ。」

 

「つくづく失敗だったわ。あの邪悪な悪戯専門店に入り浸る『リスク』を考えるべきだったみたい。……バカ兄貴たち以外だと、唯一マリサ相手には素直なのよね。」

 

「共通点があるからだろうさ。『悪戯』って共通点がね。……まあ、ホグワーツに行けば多少は大人しくなると思うよ。ジェームズは今年からだろう?」

 

皆でダイニングテーブルに移動しながら相槌を打つと、ジニーは肩を竦めて首肯してくる。

 

「ええ、九月にはもう一年生。トラブルを起こして大量減点されないことを祈るばかりだわ。……ハーマイオニー、手伝うから先ず着替えてきなさいよ。スーツが汚れちゃったら大変でしょ?」

 

「そう? なら、着替えてくるわ。セシリアも起こしてくるわね。」

 

キッチンに立ったジニーの言葉に従ってハーマイオニーが二階へと向かったところで、ハリーが私のプレゼントで遊んでいる子供たちの方を見ながら話しかけてきた。

 

「ありがとね、プレゼント。リーゼは非魔法界にも魔法界にも無い物を持ってくるから、毎回みんな喜んでるよ。」

 

「嫌われないために必死なのさ。魔理沙や咲夜に負けるわけにはいかないからね。こっちは帰ったらジェームズに渡してやってくれたまえ。」

 

「うん、渡しておくよ。……二人はやっぱり来られなかったんだね。」

 

「今はちょっと忙しくてね。魔理沙が師匠からの『最終課題』に取り組んでいるんだ。土地中を巻き込んで大わらわさ。咲夜もアリスもその手伝いで多忙なんだよ。」

 

大分騒ぎが大きくなってきたし、そろそろ久々の『異変認定』になりそうだな。この前博麗神社に行った時にも話題になったから、巫女もいい加減動き出すはずだぞ。今度こそ巻き込まれないように気を付けようと内心で決意している私に、ハリーが残念そうな面持ちで返事をしてくる。

 

「そっか、久し振りに会いたかったんだけどね。またの機会を楽しみにしておくよ。……そういえば、明日の隠れ穴での夕食会には参加するんでしょ? 今日はホテルに泊まるの?」

 

「ん、そうなるかな。もう非魔法界のホテルを取ってあるよ。……そうだ、明日はパーシーも来るかい? 非魔法界対策のことを聞きたいんだが。」

 

「パーシーもビルもチャーリーも来るはずだよ。もちろんジョージとフレッドもね。」

 

「いいね、久々に勢揃いか。今やそれぞれの家族を連れて来るだけで結構な規模になっちゃいそうだね。」

 

ウィーズリー家の場合は食事会というか、『パーティー』って規模になっちゃうぞ。賑やかになりそうだと予想したところで、ハーマイオニーが次女を連れて二階から戻ってきた。

 

「こんばんは、リーゼ。」

 

「おおっと、私の可愛いふわふわちゃんじゃないか。少し背が伸びたね。」

 

「リーゼ『さん』でしょう? セシリア。」

 

「いいんだよ、ハーマイオニー。名付け親相手に気を使う必要はないさ。」

 

つまるところ、この子の……セシリアの名付けは私がしたのだ。ポッター家とウィーズリー家の子供たちは皆私の身内だが、この子は特別可愛く思えてしまうぞ。抱き着いてきたふわふわの赤毛ちゃんを優しく撫でていると、彼女はふにゃりとした笑顔で私の手を引いてくる。

 

「リーゼ、一緒にお散歩しよう?」

 

「お散歩?」

 

「家の周りをのんびり歩くのが、最近のセシリアの『マイブーム』なんだよ。先々週くらいから毎日欠かさずにやってるんだ。」

 

「また奇妙なことをし始めたね。……いいよ、行こうか。料理の準備が出来るまで少しかかりそうだし、喋りながら二人で散歩しよう。」

 

うーむ、『不思議ちゃん』っぷりに磨きがかかっているな。ロンの苦笑しながらの説明に同じ表情で応答した後、五歳の名付け子を連れて玄関から外に出た。夏なのでまだ明るい庭を二人で歩いていると、セシリアがふと私の左腕を見て指摘を放つ。

 

「リーゼ、リーゼ。時計、止まってるよ?」

 

「おや、いい発見をしたじゃないか。ずっと止まっているのさ、この腕時計は。キミが生まれる前からね。」

 

「……直さないの?」

 

「ああ、直さない。止まっていていいんだよ。セシリアも疲れたら休みたくなるだろう? この時計は長い間頑張ったから、もう休まないといけないんだ。だけどその頑張りをみんなが忘れてしまうのは悲しいからね。私だけは覚えていようと思って、こうして着け続けているのさ。」

 

あの日、ゴドリックの谷にも吹いていた夏の風を感じながら語ってやれば……どうしたんだ? セシリアは立ち止まって時計をジッと見つめ始める。色褪せた革のベルトが付いた、もう動かない腕時計を。

 

「どうしたんだい? セシリア。」

 

「私も覚えておこうと思ったの。私が覚えておけば、リーゼはちょっとだけ悲しくなくなるでしょ?」

 

「……なるほど、賢い子だね。その通りだよ。キミが覚えておいてくれるなら、私はちょっとだけ悲しくなくなるかな。」

 

「じゃあ、頑張って覚えておく。……でも私、賢くはないよ。あのね、ローカンとライサンダーはもう足し算と引き算が出来るの。だけど私は出来ないんだ。」

 

ローカンとライサンダーというのは、セシリアと同い年のルーナの双子の息子だ。ジェームズだけは先に入学してしまうが、ローズはアルバスやマルフォイの息子のスコーピウスと、ヒューゴはリリーと、そしてセシリアはローカンやライサンダーとそれぞれ同じ学年でホグワーツに入学することになるので……昔私たちが卒業した時、ホグワーツ特急で語り合った夢は実現しそうだな。

 

今はもう遠い昔に思えてしまう会話を思い出しながら、落ち込んでしまっているセシリアに言葉をかけた。

 

「キミだってすぐに出来るようになるさ。何なら私が教えてあげるよ。」

 

「だけど、魔法もまだ使えないの。ローカンは家の窓を消しちゃったし、ライサンダーはサボテンに花を咲かせたんだって。ローズもヒューゴも五歳の時には何かしてたのに、私だけ何も出来てない。私、魔法を使えないのかも。」

 

「キミね、ホグワーツへの入学はまだまだ先だろうに。もう少しすればキミも『騒ぎ』を起こすさ。……いいかい? セシリア。キミの名付け親は世界で最も偉大な吸血鬼で、キミの名は同じくらい偉大な吸血鬼である私の母上から貰ったんだ。そんなキミが偉大な人物にならないはずがないだろう? きっと晩成なのさ、キミは。大器とは常に晩成するものだよ。」

 

「……よく分かんない。」

 

ぬう、難しすぎたか。きょとんと小首を傾げてしまったセシリアへと、柔らかな草の上に座って話を続ける。遠くで駆け回っている庭小人たちを眺めながらだ。

 

「要するにだね、自分が信じられないなら名付け親たる私を信じろってことだよ。私が見た限りキミは賢い子だ。だから大丈夫なのさ。」

 

「そうかな? ……リーゼってそんなに凄いの?」

 

「おいおい、知らなかったのかい? ……それなら教えてあげようじゃないか。夕食が出来るまでの間でどこまで話せるかは分からんが、キミの名付け親がどれほど偉大な吸血鬼なのかを聞かせてあげよう。」

 

「お話ししてくれるの?」

 

わくわくしている時の顔で私の隣に腰を下ろしたセシリアに、空を見上げながら口を開く。どこから始めるべきかな。……よし、この際最初からいくか。名付け子たるこの子には、全てを聞かせておくべきだろう。私たちのイギリス魔法界でのゲームの話を。偉大な吸血鬼たちと、そして偉大な人間たちの物語を。

 

「全ての始まりは……そう、一通の手紙だ。空に三日月が輝く夜、私が幼馴染に送った一通の手紙。そこから全てが始まったのさ。」

 

小さな『未来』へと物語の始まりを語りながら、アンネリーゼ・バートリは静かに微笑むのだった。

 




一先ずここで完結となります。ご愛読ありがとうございました!
あまりにも長くなっているため、ここから更に幻想郷側を描く場合は別作品としての投稿になりそうですが……もしかしたらこちらに『十五年後の魔法界での騒動』、『第一次魔法戦争時の騎士団の話』を追加するかもしれません。その時はまた軽い暇潰しとして本作を使っていただければ幸いです!
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