もしかしたら連載するかもしれません。
ユウキは、もはや遥かな昔のように思えるあの日、二人が剣を交えたまさにその場所に立っていた。
「――ありがとう、アスナ。ボク、大事なことをひとつ忘れてたよ。アスナに、渡すものがあったんだ。だから、どうしてももう一度ここで会いたかった」
これだけは渡さなくっちゃね。
「なに? わたしに渡すものって」
「えーとね……いま作るから、ちょっと待って」
ウインドウを操作して……よし。
ふぅ。全力でいくよ!
「やあっ!!」
お母さん、アスナを守ってね。
ユウキが大樹をへし折る勢いで放った高速の十一連撃は、青紫色の眩い光を四方に迸らせ、ユウキを倒さんばかりの突風を生み出した。
ユウキが突き出した剣尖を中心にして、小さな紋章が展開した。
四角い羊皮紙が大樹の表面から湧き出すようにジェネレートし、青く光る紋章を写し取ると、端から細く巻き上げられていく。
剣を戻し、完成したスクロールを左手で掴み……かしゃん。
「へんだな……。痛くも、苦しくもないのに、力が入らないや……」
≪確認しました。『痛覚無効』獲得……成功しました。続けて『精神攻撃耐性』獲得……成功しました。さらにエクストラスキル『剛力』獲得……成功しました≫
「だいじょぶ、ちょっと疲れただけだよ。休めば、すぐによくなるよ」
「うん……。アスナ……これ、受け取って……。ボクの……OSS……」
≪確認しました。OSS……オリジナル・ソード・スキル……情報不足により一部実行不能。失敗しました。代行措置として、エクストラスキル『剣技習熟』を獲得……成功しました≫
「わたしに、くれるの……?」
「アスナに……受け取って……ほしいんだ……。さ……ウインドウを……」
≪確認しました。ユニークスキル『情報一覧(システムウインドウ)』獲得……成功しました≫
「……うん」
アスナはウインドウをだし、ユウキはOSS設定画面のウインドウの表面にスクロールを置いた。ユウキはふわりと笑ってから、消え入るような声で囁く。
「技の……名前は……≪マザーズ・ロザリオ≫……。きっと……アスナを……守って、くれる……」
≪確認しました。ユニークスキル『祈祷者』獲得……成功しました≫
アスナはついに堪えきれなくなった涙を幾粒か、ユウキの胸元に落とす。だが微笑みは消さないまま、はっきりとした声で言った。
「ありがとう、ユウキ。――約束するよ。もしわたしがいつか、この世界から立ち去る時が来ても、その前に必ずこの技は誰かに伝える。あなたの剣は……永遠に絶えることはない」
「うん……ありがと……」
≪確認しました。エクストラスキル『剣技習熟』をユニークスキル『絶剣(タエナキケン)』に進化させます……成功しました≫
だれか、きたのかな?
あれ、みんな? なんで?
「なんだよ……みんな、お別れ会は……こないだ、したじゃん。最後の見送りは……しないって、約束……なのに……」
「見送りじゃねぇ、カツ入れに来たんだよ。次の世界で、リーダーが俺たち抜きでしょぼくれてちゃ困るからな」
ジュン……。
「次に行ってもあんまウロウロしねえで待ってろよ。俺たちもすぐに行くからさ」
「何……言ってるの……。あんますぐ……来たら、怒る……からね」
「だめだめ、リーダーはあたしらがいなきゃなんもできないんだから。ちゃんと、おとなしく待っ……待って……」
ノリ……。
「だめですよ、ノリさん……泣かないって、約束ですよ……」
シウネー……。
タルケン……、テッチ……。
「しょうがないなあ……みんな……。ちゃんと、待ってる……から、なるべくゆっくり……来るんだ、よ……」
元気でいてね……。
≪確認しました。ユニークスキル『祈念者』獲得……成功しました。続けてユニークスキル『祈念者』をユニークスキル『祈祷者』に、『情報一覧(システムウインドウ)』により統合。同系統の能力を得たことにより、ユニークスキル『祈祷者』はユニークスキル『祈願者』に進化しました≫
そのあと、キリトにユイ、リズベット、リーファ、シリカが飛んできた。
みんな……。
そのあとも飛翔音は続く。幾つも、幾つも重なって、荘厳なパイプオルガンの如く……。
それは世界中に反響していく。妖精たちが、愛した(・・・)妖精の門出を寂しがりながらも、祝う(・・)が如く……。
あぁ……。
「うわあ……すごい……。妖精たちが……あんなに、たくさん……」
≪確認しました。ユニークスキル『妖精之寵子(アイサレルモノ)』獲得……成功しました≫
「ごめんね、ユウキは嫌がるかもって思ったんだけど……わたしが、リズたちにお願いして呼んでもらったの」
「嫌なんて……そんなこと、ないよ……。でも、なんで……こんなに、たくさん……夢……見てるのかな……」
「だって……だって……」
アスナは再び、ポタポタと涙をこぼす。
「ユウキ……あなたは、かつてこの世界に降り立った、最強の剣士……。あなたほどの剣士は、もう二度と現われない。そんな人を、寂しく見送るなんて……できないよ。みんな、みんなが、祈ってるんだよ(・・・・・・・)……ユウキの、新しい旅が、ここと同じくらい素敵なものに、なりますように、って」
「…………嬉しい……ボク、嬉しいよ……」
すぅ……、ふぅ――。
「ずっと……ずっと、考えてた。死ぬために生まれてきたボクが……この世界に存在する意味は、なんだろう……って」
≪確認しました。ユニークスキル『求道者(モトメルモノ)』獲得……成功しました≫
「何を生み出す(・・・・)ことも、与える(・・・)こともせず……たくさんの薬や、機械を無駄遣いして……周りの人たちを困らせて……自分も悩み(・・)、苦しんで(・・・・)……その果てに、ただ消えるだけなら……今この瞬間にいなくなったほうがいい……何度も何度もそう思った……。なんで……ボクは……生きてるんだろう……って……ずっと……」
≪確認しました。ユニークスキル『死逝者(シニイクモノ)』獲得……成功しました≫
「でも……でもね……ようやく、答えが……見つかった、気がするよ……。意味、なんて……なくても……いきてて、いいんだ……って……。だって……最後の、瞬間が、こんなにも……満たされて……いるんだから……。こんなに……たくさんの人に……囲まれて……大好きな人の、腕のなかで……旅を、終えられるんだから…………」
「わたし……わたしは、必ず、もう一度あなたと出会う。どこか違う場所、違う世界で、絶対にまた巡り合うから……その時に、教えてね……ユウキが、見つけたものを……」
瞬間、ユウキの紫の瞳が、ぴたりとアスナの瞳を捉えた。その奥に、かつて出会った時と同じ、無限の活力(・・・・・)と勇気に満ちた輝き(・・・・・・・・)が、刹那のあいだ煌めいた。それはすぐに二つの水滴へと形を変え、溢れ、ユウキの白い頬を伝って滴り、光となって消えた。
唇がごくわずかに動いて、微笑みのかたちを作った。
それは世界に直接、響くかのように……。
ボク、がんばって、生きた……。ここで、生きたよ……。
無垢な雪原に最後の結晶がひとつ落ちるように、≪絶剣≫と呼ばれた"勇者(ユウキ)"の魂は、世界を渡った。
あれ? ここ、何処だろう?
そこには、何処までも生い茂るであろう広大な大森林があった。
先ほどまでの綺麗な青空はもちろん、妖精の一匹すらいない深い森の中。
あまりにも非現実的な様子にユウキは悟った。
「あは! まさか本当に"次の世界"にこられるなんて……」
ユウキが辺り一帯を確認すると、近くに巨大なムカデの化物が現れた。
ユウキは咄嗟に左腰に手を伸ばし、愛用の細めの片手用両刃直剣(マクアフィテル)を抜き放つ。じゃりーん、と高い音が響き、木々に吸収される。黒曜石で作られたその剣は紫黒色に輝いている。
「みんな、ボクはここで、精一杯生きるよ! 待ってるからね。だから、ゆっくり、うんうん。当分来なくて良いからね!」
そして、ユウキはムカデの化物――エビルムカデ――に向かって走り出す。
悩んで苦しんだ旅は、大好きな人の腕の中で終わった。
今度はここから始めよう!
≪確認しました。ユニークスキル『死逝者(シニイクモノ)』がユニークスキル『旅立者(イキダスモノ)』に変化しました≫
≪確認しました。"界渡り"により魂が鍛えられたことにより、条件を満たしました。群衆からの『寵愛』『祈り』『祝福』の三要素が揃ったのを確認しました。また、『悩み』『苦しみ』『勇気』などの要素を確認しました。"勇者の卵"が宿ったことを確認しました。自動的に"能力改変(オルタレーション)"が発動……成功しました。ユニークスキル『妖精の寵子』、ユニークスキル『旅立者(イキダスモノ)』を統合して、ユニークスキル『祈願者』は究極能力(アルティメットスキル)『祈望の神(ガネーシャ)』に進化しました≫
少女の旅は終わり、また新たに始まった。
しかし、少女の祈りと願いは世界を越えて届くだろう。
これは"眠る騎士"たちがすぐには集まらないように祈り願った、一人の"勇者"の物語。
だが、因果は巡る。再び騎士たちが相見(あいまみ)えるまで。
楽しめましたか?
個人的には、泣きそうなのに"世界の声"がシュールで、泣けませんでした。
皆様にそんなことがないように"祈り"ます。
PRESENT STATUS
ユウキ・コンノ
種族――闇妖精族(インプ)
加護――勇者の卵
称号――絶剣
魔法――なし
固有スキル――『暗視』『飛行』
アルティメットスキル――『祈望の神(ガネーシャ)』
ユニークスキル――『情報一覧(システムウインドウ)』『絶剣(タエナキケン)』『求道者(モトメルモノ)』
エクストラスキル――『剛力』
耐性――『痛覚無効』『精神攻撃耐性』