というわでダブル投稿の東方扇仙詩sideでございます
自転車ネタにした理由は特にないです
月が導くある晩。
なぜか知らねぇけど、茨華仙の屋敷にどー見ても似つかわしくないブツが置いてあった。
「なぁオイ、華扇」
「はい? 何ですか?」
「いや何ですかってぇ……なしてオメーんところにチャリなんざあんだよ」
オレが素朴な疑問を投げつければ、柔らかな桃色の仙人サマは赤みがかった瞳をキラリと光らせてドヤ顔で両腕を組んだ。薔薇が飾られた中華衣装の前垂れごと豊満な膨らみが押し上げられる。しょっちゅうそのポーズしとるけどお気に入りなんか。
この場にいないハズの依神紫苑と比那名居天子のチベットスナギツネみてぇなツラが脳裏を過った。ま、コイツと彼奴等じゃ圧倒的に格差がありすぎる。中には見るに堪えず「もうやめてあげて!」と懇願する輩も現れよう。
「オレを呼んだのもコレが理由ってか」
「まぁそうですね」
あっさり華扇が白状した。なお、呼ばれたと言ったものの現実はこの女に連れてこられたのだが。正規のルートで行かねば辿り着けないとかオレにどうしろと。
中国四千年の歴史を匂わせ、しかもトラまで放し飼いにしている旧い立派な屋敷。その庭先に通学用っぽい自転車が紛れ込んでいやがった。瞬きしようが瞼を擦ろうが目の前にあるものは同じ。
いくらド田舎ファンタジー異世界の幻想郷つってもさすがに違和感だろ。ミスマッチっぷりがハンパない。まるでド素人が作った出来の悪い合成コラ画像みてぇだわな。
何ともアンバランスな光景にオレの方がチベットスナギツネさながらの乏しい面構えになっちまった。
「ほっ」
華扇が一歩前に躍り出てこっちを振り返った。美人な顔立ちもあってあざといスキップさえも見栄えする。説教がうるさかろうが容姿は抜群にイイのだ。本人には言わんけど。
「これを綿間部に見てもらいたかったんです。そのためにわざわざ香霖堂から借りてきたのですよ?」
「買ったんじゃなくてレンタルかよ。ったく、こんな山奥までどーやって運んだんだか。まさかお前、コレ乗れんのか?」
「いいえ。この屋敷までは紫にお願いしました」
「っかー、あの女もいたんかい」
「ええ、わりと来ていますよ?」
例のガラクタショップ、閑古鳥の巣窟かと思いきや意外と人の出入りはあるらしい。ただし、買い物客よりも見物客の方が多いし店主も商売っ気のねぇ骨董マニア。そんなん博物館の間違いじゃねぇのか。
「ま、エエわ。んで? 何でまた急にこんなモン持ち帰ったんだ?」
この女がクソマジメな仙人でありながら、実を言うと食道楽かつ酒豪で俗世にも興味津なのはオレも知っている。というより、わりかし周知の事実ではなかろうか。
だとすれば、おそらく幻想郷じゃ珍しい部類の自転車に関心を持つのも頷ける。もっとも、腹の足しにもならんチャリンコよりもタコ焼き機とかの方が喜びそうな気がするけど。
「綿間部? 今とても失礼なことを考えませんでしたか?」
「気のせいだろ」
「まったく白々しい。本当に貴方という人は、どうしていつもそうなのですか」
「だから気のせいだって」
紅い中華衣装の仙人サマに赤蛮奇ばりのジト目で疑われる。図星を突かれたが平然としらを切っておいた。それでも小言は避けられなかった。いきなり察しが良くなるのやめーや。
しばらくオレに非難の眼差しとネチネチ説教を続けていた華扇だったが、自ら話を脱線させていたことに気付いて「こほん」と咳払いした。
「えっとですね。魔法の森に人形遣いと外来人が住んでいるのは知ってますよね? この間、彼らが楽しげにこれに乗っていたと聞かされまして」
「聞かされて?」
テキトーな相槌で続きを促すと、桃色ミディアムヘアの仙人サマは目を泳がせながら人差し指をつんつんと突き合わせた。
「それなら同じく外来人の綿間部も心得があるのではないか、と」
「ほーん、要するに自分も乗ってみたくなったってぇクチか?」
「……はい」
そう問い質すと、どこか照れ臭そうにコクリと小さく頷かれた。いじらしい態度になられて僅かに戸惑う。あざといなチクショウ。オレじゃなかったら勘違いしてんぞ。
事情はどうあれ、魔法の森で暮らしているそのカップルの二人乗りが羨ましかったらしい。乗り方を教えてくれじゃなくて乗せろときたか。ま、コイツも虎だの儂だの背中に跨っているし、そんなモンか。
「フッ、やれやれ」
「むぅ」
これ見よがしに余裕ぶったツラで肩をすくめる。オレの見透かした態度が気に食わなかったのか、華扇がわかりやすく頬を膨らませた。さっきまでしおらしかったのに、相変わらず表情がコロコロ変わるやっちゃな。
しかし揶揄えたのも束の間。すると今度は華扇の方が何かに勘付いた様子でハッとしたかと思えば、どーゆーつもりかニヤニヤと口角を上げた。あまつさえこんなコトまで言い出す。
「もしかして綿間部には荷が重かったのでしょうか? ごめんなさいね、できないなら正直に言ってくれてもいいんですよ? 別に恥ずかしくないですから」
「んだとコラ。上等だコノヤロウやってやろうじゃねーか見てやがれ」
「……うふふ。思いのほか単純な人ですよね」
「うるへー。男ってぇのはなぁ、なめられたらオシマイなんだよ」
挑発的な煽りにまんまと乗せられて、売り言葉に買い言葉で受けて立つ。幼稚と言うなかれ。
オールバックの髪型を指で梳きつつ、チャリンコの前に座り込んだ。手始めにコキコキと指を鳴らすオレを見つめて、華扇は包帯に包まれた指を口元に添えてほくそ笑む。なにわろてんねん。
先客がいたおかげであろう。チェーンの回転も悪くないしタイヤの空気も充分に残っていた。せいぜいサドルの高さを調整するだけで片付く。
「手慣れてますね」
「まーな。チャリのメンテぐれぇできなきゃ何でも屋なんかやってられねぇさ」
「ふぅん、少し見直しました」
「少しだけかよ」
「先ほどみたいに意地悪するからです、馬鹿者」
カチャカチャと器用に弄るオレの隣にしゃがんで華扇が小さく唇を尖らせる。やはり興味が沸いたのかそのまま作業を見守る。というか近ぇって。ちょいちょい肩が当たってんじゃねーか。ったく、この無防備め。
その辺で寝そべっていた虎が、主と客人をチラリと一瞥して退屈そうに欠伸をかます。昔そんな感じの歌があったな。アレは駐車場の猫だったか。
そうこうしているうちに仕上がった。試しに乗っかってみたがイイ塩梅の高さだ。悪くねぇ。
「ま、こんなモンだろ。オイ華扇、二ケツすんぞ」
「け……ッ!? へ、変態! 私のお尻でナニする気ですか!?」
緑のミニスカごと臀部を両手で覆い隠しながら、すかさず華扇がオレから飛び引いた。整った顔立ちを赤らめながらも鋭い目つきで睨みつけてくる。オメーこそ何考えてんだ。
毎度お馴染みの勘違い仙人サマに呆れ顔で憐れみの視線をぶつけつつ、後ろの荷台を顎で示してやった。
「後ろに乗せてやるって言ってんだよ。お前がリクエストしたんだろうが」
「んなっ!? そそっ、それならそうと初めから言ってください紛らわしい!!」
「向こうじゃ二人乗りのことそー言うんだっつの……」
理不尽な仕打ちにゲンナリするオレの後ろで、まだおかんむりな仙人サマが口とは裏腹に素直に荷台に跨った。さりげなく自然とオレの腰に両腕を絡める。
「……フッ」
まさか異世界でチャリに乗るハメになるとは思わなかった。ま、久しぶりに夜道のサイクリングと洒落込もうか。
ライトの光が暗闇の前方を照らす。
頭上に木枝が生い茂って月明りも遮られていた。夜行性らしき野鳥の囀り。自転車の滑車と小刻みにブレーキ音が鳴り響く。
華扇の屋敷から麓まで下り峠が続いた。まとまりのない山道コースをハンドルとブレーキで捌き切る。アスファルト舗装されてない天然の砂利道なせいで路面が凸凹しやがる。せめてコレがマウンテンバイクならまだマシなんだが。
そんな中でも、真後ろに座る桃色ミディアムヘアと白いシニョンの女はご満悦で感想を述べる。
「なかなか上手いですね。てっきり転がり落ちていくものかと思いましたけど、速さも制御できるものなのですか?」
「そら今はブレーキ握ってっからな。もし手放したらそうなるだろうよ。試してみるか?」
「結構です。余計なことはしないでください」
「へーへー」
仰せの通りに手綱をしっかり握りしめて、Uターン染みた急カーブを一気に曲がる。夜目が効いてなかったら今のでコースアウトしていたかもしれん。しかしオレならできる。なぜならオレは夜に生きる男。
それはそれとして、心には時として天邪鬼が影を差す。早い話、そー言われるとやりたくなってしまうってぇのが人の性とでもいおうか。ま、そんなワケで。
「え……?」
さすが仙人サマは察しの良いこって。だがもう遅い。
停止装置を担うグリップからパッと手を離す。間髪入れず、フツーのチャリンコが傾斜に沿って爆走し始めた。
向かい風を突っ切り、土と砂利に細身のタイヤが激しく浮き沈みする。サドルまでもが衝撃にガタガタと揺らいだ。
下り坂に身を委ねた暴れ馬をハンドルだけ駆使して乗りこなす。なかなかにスリリングだ。頭文字な漫画で池谷も言っていた通り。とくでもなくヤバいぜ、下りは……!
「きゃああ!?」
「オ゛ゲェッ!? ちょば、苦し……ッ!?」
女らしい悲鳴を上げて華扇が落ちないようにオレに強くしがみ付く。
可愛らしい声音に反して実際には万力のベアハッグが襲い来る。両手が塞がってガラ空きのボディを内蔵諸共に締め上げられた。ほんの一瞬、手元が狂う。
前輪が石ころを踏んでしまった。
「げ」
その後はあたかも走馬灯もかくやのスローモーションだった。
タイヤが地面を離れる。一昔前の有名な洋画――少年がカゴに宇宙人を乗せたチャリで夜空を駆けるやつ、みたくはならなかった。そんなスムーズな展開にはいかず、それでも車体は宙に浮く。
つまるところ、ただ空中に放り投げられただけであった。
「うぉおおお!」
「ひゃあああ!」
いつの間にかオレも仙人サマもすでにサドルや荷台に座ってなかった。チャリンコ本体も含めて三者三様、もはやギャグ漫画の如くバラバラになって前へ投げ出されていた。
「アイデッ」
ムダにキレーな放物線の軌道を描いて、真っ先に背中から草むらに叩きつけられた。平地だ、地面が斜めじゃない。どうやら猛スピードで下っているうちに麓に到着していたらしい。草の青臭さを吸い込み、嘆息する。
数秒後、派手な物音とともに自転車が転倒するのを視界の隅に捉えた。ヤベ、借り物つってたけど壊れてねぇよな……
そんな心配も間もなくかき消される。ある存在によって。
真上から落下してくる人影があった。両手両足を大の字に伸ばして仰向けになったオレを目掛けて、そいつはどんどん近付いていき――
「あう!」
「ブボォッ!!」
茨木華扇がボディプレスの勢いで墜落してきやがった。
肺にあったハズの空気が根こそぎ吐き出される。一時的な酸欠に陥って視界がチカチカ眩み、脳ミソがボヤけて意識が霞んだ。赤髪二つ結びの死神女が見えた。またサボってんじゃねーよ。
「いったぁ……」
「いつつ……」
だーもう、とんだ誤算だったぜ。背中は痛むわ、網膜が眩しさと暗さが交互に入り乱れるわ。悪運に多少の自負はあったが、今回ばかりは己が不運を呪った。
ほどなくして視界が回復してくる。そしてオレは思い知ることになる。
ミニスカ越しに女の尻が目の前にあった。
ほどよい肉付きの健脚が、太腿の付け根あたりまで惜しげもなく曝け出されている。きめ細かな素肌の生足が大胆に開かれてオレに跨っていた。
滑らかな丸みに質感も漂う。均整の取れたラインがくっきりと浮かび上がって、フリフリと左右に揺れる。その魅惑的な有り様に、オレは我を忘れて言葉を失う。
「――ハ!?」
いやいやいや何をじっくり凝視してんだオレは。
そこでふと気付いた。こんな時にこそ真っ先に騒ぎ出しそうなコイツが未だに何も言ってこないことに。いくら何でもおかしい。一体どーした――
「…………」
オーケー。ちょいと落ち着こう。
どうにもミニスカ中華衣装な女の眼差しが、ちょうどベルトの下らへんに注がれている気がしてならない。こっちの勘違いかもしれんが、そのわりに部分的に熱い視線を感じる。誤解だったとしても意識してしまうとむず痒い。
かろうじて首を動かしてそっちを見やる。柔らかな桃色の髪から覗く耳も朱が差していた。あと一向にオレから退く素振りすらない。
ごくり、と生唾を飲む音が聞こえた。
「いやゴクリじゃねーよ」
「ひゃっ!? こ、これは違――きゃあああッ!! どどっどこ見てるんですかぁ!!」
「どこって――」
「や、や、やっぱり最初から私のお尻が狙いだったんですね!? こんのケダモノ!!」
「いや違ぇから! どー見ても事故だろ事故!」
「うるさいスケベ! いいからあっち向いて!!」
華扇の臀部がオレの目と鼻の先にある現状に気付くや否や、あたかも痴漢に遭ったみたいに叫びやがった。ついでに暴れ出した。
人の上にうつ伏せで圧し掛かっているのもお構いなしに両足をバタつかせる。顔面を蹴り飛ばされかねない。身の危険を感じて冷や汗が溢れる。というか誰がスケベでケダモノだコラ。
シニョンの共通点もあり、ストリートファイターの春麗の如き蹴り技を浴びせてくる。足癖の悪い女から我が身を守るべく、オレは眼前に迫る太腿に指を這わせた。
「んやぁあっ! ダメ、そこは――ぁっ、あん!」
「ちょおま――うくっ!?」
瑞々しい唇から艶やかな嬌声を漏らして、華扇がビクンッと官能的に背筋を仰け反らせた。それによって柔らかく押し潰れていた胸がオレの下腹部をシゴくような動きで擦り上げた。
衣服の上からでもマシュマロめいた感触が肌に伝う。むにゅりと形を変える。焦らされているようで、もどかしい微弱な刺激に頭が甘く痺れる。思わず歯を食いしばった。ヤ、ヤバい……!
それでも力を弱めてはならぬと、両脚を抑えつける手を決して緩めなかった。ふとした拍子に指先にも微かな握力が加わった。ますます華扇が切なげに呼吸を乱す。
「はぁ、はぁ。やだぁ、そんなところひろげないでぇ……っ」
「ばっ、変な声だすんじゃねぇ……うっ、くぅ!?」
「だ、だって――あぁっ、はぁん!」
宵の深まった草原に、互いの熱く湿った息遣いが荒く混ざり合う。時折、どこか甘くも切羽詰まった女の声が夜風に溶けていった。月下の人静けさに、男女の体が煽情的にうごめきながら折り重なる。
どーにかしなきゃいけないってぇのに、体が思うように動かない。ついには緑のミニスカから下着までもが晒されかけていた。目の前の景色に釘付けになる。だから見てんじゃねぇ!
「はっ、あぁ……あっ、んんぅ!」
「く……ぉ!?」
僅かに残った理性が打開策を求める。何か、何かねぇのか。
視線を巡らす。少し離れた場所に無造作に引っ繰り返った自転車。ダメだ、使い道がない。
もっと遠くに目線を飛ばした。その先に、見慣れた暖簾と赤提灯の屋台が確認できた。
「……何、だと?」
あれだけ朧気だった意識が瞬く間にブッ飛んで正気に戻った。先刻までとは違う意味で冷や汗をダラダラ流しながら二度見する。
屋台のすぐ傍ら。和服鳥娘の女将が驚いた様子であざとく口元に手を当てておった。もちろんオレともバッチリ目が合ったってオィイイイイ!?
目と目が合う瞬間どうたら。女将ことミスティア・ローレライがそれこそファンが見たら狂喜乱舞しそうな恥じらいにポッと頬を染めて、気遣うように言った。
「あはは、お邪魔しちゃった?」
その直後、第三者がガン見していると知った仙人サマの本日最大の悲鳴とともに、全力の後ろ蹴りがオレの顎をカチ割った。
END
次こそ本編を投稿します
ぼくも富樫先生を見習ってガンバルぞい