ところでニコニコ動画で一世を風靡した森の妖精っていうのがいましたね…
本文書ではシリアスと書いて尻♂ASS♂と読む。
いざぁ…♂
殺風景な廊下に張り出された一枚の紙。
仮称:AR小隊採用人形告知書。
新規編成される部隊に編入される
この私が落ちるわけがないと自らを鼓舞させながらも、それでも一抹の不安を拭いきれずにいた。早まる鼓動と正反対に、ゆっくりと視界が狭まる。焦点が合う。順番に名前を確認していく。
不安が的中してしまった。どこにも名前がない。
膝から力が抜けてよろめく。
列挙されていたのは歴戦のAR-15、認めたくないが実力のあるM16A1、新進気鋭のSOPMODⅡ。最後に一番負けたくない人形のM4A1の名があった。
「あんな奴に…私が…負けるだなんて…絶対に認めない…」
思い描いてきた夢が、これまでの努力と共に暗闇に沈んでゆく。
はたと気がつくと、目の前にUMP9の顔があった。
「珍しく時間ギリギリまで寝てるから顔に落書きでもしてやろうかと思ったのに、残念だわ。」
赤いマーカーが翻り、彼女のポケットに消える。泣きっ面に蜂は避けられたようだ。
「寝坊助の顔に絵を書くのが楽しいなら、あそこに自由帳みたいな奴が寝てるわよ。」
「11じゃつまんないよ。目が覚めたとき歌舞伎役者みたいな顔だったとしても、あの子気づかないでしょ。」
相変わらずこの姉妹はG11に甘い。悪夢の鬱憤を毛布に乗せて、ニヤついた9の顔にぶつける。
「おー、怖い怖い。朝からどうしてそんなに不機嫌になれるのかしら。」
笑みを湛えた9が視界から消える。休みなら不貞寝を続行するところだが、鳴り響くアラームが現実を告げた。
午前3時45分を示す目覚まし時計を止め、起き上がる。朝日が昇る前の漆黒と寒さが支配する時刻。締め切られた窓はカーテンで覆われ、常夜灯だけが仄かに部屋を照らす。
既に着替え終え、装備の確認に入っていたUMP45が声をかけてくる。
「あらおはよう、416。そろそろ起こそうかと思っていたのだけれど、起きられたみたいね。」
「…おはよう。」
「時間までに動けるようにしておいてねー」
一瞬怪訝な顔をした45だが、敢えて触れずに流してくれたらしい。何気ない言葉に気遣いを感じて少し気が軽くなる。
ベッドから抜け出して着替える。いつもの戦闘服、いつものスカート、いつもの靴下にベレー帽、そして装備品を確認しようとすると、いつものように寝ている同僚が否が応でも視界に入ってしまった。銀髪の少女が穏やかな寝息をたてている。一般的には微笑ましい風景なのだが、その顔は苛立ちを再燃させるには十分だった。
何も見なかったことして弾倉に装弾する。無機質な音を立てながら弾がマガジンに吸い込まれていく。感情を持つモノよりも言うことを聞く道具の方が扱いやすい、などと考えているとすぐに手元の弾倉はポーチに収まっていた。それでも
他の隊員に任せようと思ったが45は弾を込めている最中で、9に至っては呑気に鼻歌を唄いながら髪を梳かしている。
「悠長に身支度とは、いい御身分ね。」
手持ち無沙汰で9に無駄口を叩いてみる。
「髪を結ばない人には女の子の気持ちなんてわからないんだよ。それより、そんなに暇なら11を起こしてあげてよ。」
「嫌よ。自己管理の出来てない奴をなんで助けないといけないの?」
「でも起こさないと皆が怒られるよ。誰かがやらなきゃ。」
そう言うと髪を結い始めた。45はスケジュールの確認など忙しいらしく、そもそも話を聞く余裕が無いようだ。
二人の無言の圧力に負け、重い腰を上げて11の枕元に向かう。よだれを垂らして寝ている11の鼻を摘まみ、枕から10cmほどの高さまで持ち上げる。
「起きなさい。いつになったら独りで起きるようになるの?」
「…痛い、痛いよぉ~~」
顔中から様々な液体を飛ばしながら、11が遂に目覚めた。
「ひどいなぁ。こんな起こし方あんまりだよ。」
「起こしてあげたのに酷いですって?あなたが起きないのが悪いのよ。」
「まだ演習まで時間があるよ。まだ寝れるじゃないか。」
「5分前に起きるのは余裕とは言わないわ。シューティングレンジで的が出てから弾を込める気なの?」
「鉄血の連中と違って的は待ってくれるもん。」
「じゃあ今朝は鉄血と戦いに行きましょう。だからさっさと弾を込めて。」
「…発煙弾を撃てば、鉄血も待ってくれるよ。」
11の屁理屈に唖然とした瞬間、両脇から吹き出す音が聞こえた。
「416、一本取られたみたいね。」
「この寝坊助を起こしたのに、あなたは感謝の一つも言えないの?」
腹を抱えて笑う9に負けじと言い返した。
「はいはい、そこまで。いい加減おちょくるのをやめなさい9。そして今朝の言い訳は上出来だったけど、11は準備をして。演習中に弾込めは出来ないわよ。あと416のプランは面白そうだから今度上奏してみようかしらね。」
果てしない口喧嘩に45が終止符を打った。こうして、404小隊のいつもの一日が始まった。
午前4時、軽い運動を終えてシューティングレンジに到着する。グリフィンのドール全員のための訓練場だが、この時間は404の貸し切りだ。
誰が号令をかける訳でもなく、各々思い思いのレンジに入っていく。中は近距離から中、遠距離にかけて何体かの標的が置いてあり、無個性な机が宿舎と戦場の境界線になっていた。机まで近づくと、ドールを検知した訓練用AIが起動してレンジが淡い光に包まれる。
「おはよう、416。今日も朝からご苦労様。準備はできてるかナ?」
何故か会話機能が搭載されているAIが世間話を振ってくるが、既に彼女の耳には届いていなかった。
両手で出番を待ち続けているもう一人の自分を眺める。HK416A5。先端に
物言わぬHK416を撫でると、彼の声が聞こえた気がした。
臨戦態勢に入る。
腰に取り付けた弾帯からマガジンを抜き取って装着、チャージングハンドルを引く。ガチャリという音が確かな手応えと共に響き、弾丸が薬室に送られたことを示した。右手でトリガーを、左手にフォアグリップを握り、ストックを肩に構える。頬をストックに接触させ、サイトを覗く。手元のセレクターを回し、
一瞬の静寂の後引き金が引かれた。
トリガーが産声を上げ、それに呼応した炸薬の雄叫びが重なり、一発の銃弾を飛翔させる。レンジを塗り潰した爆音が消え始める頃、ボルトが次弾装填済みを告げた。
二発、三発、彼女は撃ち続ける。四発、五発、空薬莢が不揃いなリズムを刻み始める。六発、七発、セレクターが回り、
もはや弾丸狂の撃ち方に等しいはずだが、弾丸は全て人型−−正確には鉄血の姿を模した標的に吸い込まれていく。彼女は反動を肩で受け止めながら指切りバーストをも操り、尽く往なしていた。
最後の弾丸が的を貫き、薬莢が高らかな音をたてながら、どこか物悲しそうに跳ねた。銃身は連続射撃で熱を帯び、白い煙が燻っている。
「あ…あナたねェ、システムをロードしてる最中は撃ッても無駄ナんですよ!?今の射撃データを採れナいじャナいですか!!」
「ポンコツ。あなたが遅いだけよ。」
「失礼ナ!!私はあナたたちを…」
「おしゃべりをするより急ぐべき仕事があなたにはあるはずよ?」
「…」
話す労力を減らしたからといってプログラムのセットアップが短くなるはずがない。それでも訓練用AIは素早くやってのけた。標的がランダムに表示され、射撃の素早さと正確さを計測するプログラムが立ち上がる。
「それでいいわ。もう少し早ければ申し分ないのだけれど。」
次のマガジンを装填し終えた416が、彼女なりの最大限の賛辞を贈った。AIがそれに応えようとしたが、砲火でかき消されてしまう。
朝日が昇る頃になると、404小隊が使う4つのレンジは、轟音と空薬莢で満たされていた。
午前7時、一通り射撃訓練を終え、指揮官との面会の時間となった。
「今日は珍しくヘリアントスが用事があるんだって。なんだろうね。」
45から先行情報を得た9が楽しげに話してくる。404小隊は隠密行動や夜襲を旨とする特性上、一般的な指揮下になく上級指揮官ヘリアントスの配下に属していた。
「どうせ次の任務だよ…嫌だなぁ。」
「ヘリアントスならきっと面白い任務だよ。で、416はどう思うの?」
「どうって…どうでもいいわ。言われたことをただやるだけ。それが何であるかに興味はない。」
「つまんないなぁ。45姉はなにか知ってるの?」
「知ってるわよ。でも言わないわ。驚くみんなの顔が見たいから。」
「けちー、教えてくれたっていいじゃない。」
騒がしい9と話を楽しむ45に引きずられる11と、私。ここまではいつもの日常だった。
「紹介しよう。これが君達404小隊に配属される妖精だ。」
「米倉でーす♂」
ヘリアントスの部屋に入るやいなや、半袖短パンの筋骨隆々な男性と引き合わされる、その瞬間までは。
続きます。
皆様よい糞晦日をお過ごしください。
それと
R.I.P. Billy Herrington.