犬兄弟の適当な長男   作:丸猫

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感想と評価、ありがとうございます。
お久しぶりです、感想いただけると、嬉しいです。

薄めです。風牙さんを忘れている。



自覚

 

「犬夜叉!!」

 

情けない声と共に、木々の向こうから現れた姿に犬夜叉はほっとした。そこには、確かに無事な様子の七宝だった。

が、それを抱き上げている存在に犬夜叉は顔をしかめた。

 

「・・・風牙。」

「おお、犬夜叉か。ほれ、ちび助。」

 

自分を抱く腕の力が緩んだことを理解してか、七宝は躍り出るように飛び出した。そうして、犬夜叉の隣にいたかごめの腕の中に飛び込んだ。

 

「かごめええええええええ!!」

「よかった、七宝ちゃん、無事だったのね。」

「おら、おらあ、怖かったああああああ!!」

 

七宝は軽いパニックになっているのか、かごめの胸の中でわんわんと泣く。それを見つつ、風牙は己に近寄る一坊に視線をやった。

 

「・・・・風牙様、命を遂行できなかったこと、真にお詫びいたします。罰は。」

「いや、よい。どうせ、どうなろうとこれのおもちゃになっているだろうことは分かっていたからな。」

 

気だるそうにため息を吐き、風牙はそっとその真白な刀を撫でる。そうすれば、きいいいんと澄んだ音が刀から聞こえた。

 

「てめえ、あの男に何しやがった?」

「何、とは?」

 

不思議そうに風牙は首を傾げた。

 

「何、何、何・・・・ふうむ。願いを叶えてやったんだが。どうも、思っていたものではなかったらしくてな。」

 

その言葉に犬夜叉は男の言葉を思い出し、顔をしかめた。願いを叶えただけ、そうだ。聞く限り、犬夜叉が理解できる範囲でさえも、どこまでも目の前のそれは男の願いを叶えただけだ。

 

「・・・・その、刀は。」

「ああ、俺の牙だ。」

「牙?」

「ああ、犬夜叉の鉄砕牙。親父の刀と同じだ。うちの一族は、己の牙を武器にする。俺のはこれだ。まあ、正直に言えば、つまらん牙だ。」

「さっきの男の人は?」

 

かごめの問いかけに、風牙は困ったような顔をする。

 

「さあ?少々、これが張り切ってしまってな。まあ、殺しはしていないから安心しなさい。」

「・・・死んだ方がましな目に遭ってるんじゃないか?」

 

犬夜叉のそれに、皆がごくりと生唾を飲み込んだ。

それが嘘を言っていないのはなんとなしにわかった。なにせ、それには偽る理由が無い。

偽るというのは、後ろめたいことがあると言うことだ。

風牙は、偽る理由が無い。それは、どこまでも、語るべき事と語らないことの分別が曖昧なだけで。

 

黙り込んだ犬夜叉たちに不思議そうな顔をした後、風牙は理解したかのように頷いた。

 

「ああ、そうだ。もしや、もう一つ、守り刀が欲しいのか?だが、すまんな。これは、今の今まで散々放っておいたせいで少々拗ねてしまったようでな。」

 

きいいいんと、涼やかな音が辺りに広がる。

 

「いらねえよ!」

「そうか、お前の刀、重くて使いにくくなっているんじゃ無いのか?」

 

黙り込んだ犬夜叉にくすりとそれは微笑んだ。

 

「図星か?」

「だったらなんだ?」

「いや、そうだな。使えない刀を持っていても仕方が無いと思っているかも知れないが。ちゃんと、それは持っておきなさい。それは、親父殿がお前のために残した、守り刀なのだから。」

「・・・・風牙。前から疑問だったんだ。どうして、この刀を俺の元に置いておくんだ?」

「おや、どうした、急に?」

「・・・あんたの性格なら、あんた自身の牙を俺に持たせるはずだ。だが、それをしてねえ、何故だ?」

 

その言葉に、風牙は少し悩んだような顔をした後、にこりと、いつも通り微笑んだ。

 

「もしも、面倒だと思うなら、一度それを放り出して戦うのもいいかもしれないな。」

お前には、その戦い方も一つの選択肢だ。

 

ひどく、意味深な言葉のように聞こえる言葉を吐き、風牙はさらに続けた。

 

「まあ、よかった。犬夜叉よ、実はな、お前に渡したいものがあったんだ。」

「は?」

 

風牙はそう言って、小さな、緑色の玉を犬夜叉に放り投げた。咄嗟にそれを掴んだ犬夜叉は困惑したように風牙を見た。

 

「今のお前には今後、必要になるものだろう。」

「どういう・・・・」

 

その言葉と共に、辺りに突風が吹いた。それにより目を一瞬離した隙に、風牙は一坊と共に姿を消していた。

 

 

 

「・・・・申し訳ございません。風牙様。」

「いや、かまわん。放っておいたせいで癇癪を起している可能性もあったからなあ。」

 

犬夜叉たちから離れた後、跪き謝罪の意を唱える中、風牙は忌々しそうに抜いた刀を見つめている。

その刀は、やはり、美しい。

この世の、純粋で、穢れない全てのものを固めて作ったかのような、そんな真白な刀だった。

それは、微かに、きいいいんと涼やかな音が聞こえてくる。

 

「はあ、久しぶりなせいか。楽しそうだなあ。久しぶりに会ったんだから、もっと遊びたかったんだが。これが調子に乗ってちょっかいかけられても困るから。仕方が無いか。」

「ふん、我の方がずっと良い刀だ。持ち手に勝手なことをせん。」

「それはそれとして、お前は使いにくい。」

 

それに叢雲牙の悲壮な声がこだまする。

 

そんな言葉を無視し、風牙は刀に話しかける。

 

「無牙よ、そろそろ赦せ。前も、お前が好き勝手にする故にああなったんだろうが。また、勝手なことをするなら今度は海に沈めるぞ。」

 

そう言えば、鳴っていた金属音が止む。それと同時に、風牙は、何故か、未だに見える一つの縁の糸があることに気づく。

それが、無牙の詫びであると理解する。それを辿れば、きっと、面白いことがあると。

 

(・・・行ってみるか?この先にあるのは、産霊山?いや、それよりも先に。)

 

「一坊、お前は先に戻れ。」

「賜りました。ですが、どちらに?」

「うーん?殺のやつに、ご機嫌伺いに牙を用意してやりたいって言ってただろ?丁度、よさそうなものがあるんだが。その前に、犬夜叉を焚きつけないとと、思ってな。」

奈落の元に行ってくる。

 

それに一坊は深々と頭を下げる。そうすれば、まるで夢幻のように主人が消えていた。

 

 

 

「お前、名は?」

 

その日、神楽は奈落の側にいたことを心底後悔した。

 

新たな奈落の分身が産まれたのか、壺の中で小姓を食い殺すのを見た時、突然、声がした。

 

「奈落よ、器用なことが出来るようになっているな?」

 

御簾越しに神楽は驚きで目を見開いた。何せ、今の今までまったく気配を感じなかった存在が突然現れたのだ。

銀の髪をした、偉丈夫の見目には覚えがあった。

 

(・・・・殺生丸に、似ている?)

 

神楽のそんな考えをしながら、その妖怪がすぐに死ぬことを予想した。何せ、奈落の居城で、あんなにも彼に気安く話しかけているのだ。けれど、その予想は容易くひっくり返された。

奈落は、自分を見下ろす形になった男に目を見開くだけだった。妖怪は、特別なためらいも無く、奈落の首を拾い上げる。

 

「自分の肉でも切り取ったか。眷属を増やす上では器用だな。」

よくやったな。

 

その言葉、その、最後にそんなことを吐きながら、その妖怪はまるで愛らしい赤ん坊にでもするように抱き、そうして乱れた髪を整えてやる。

そうすれば、奈落はまるで恋でもしているように妖怪のことを見上げてうっとりと目を細める。

 

「・・・・はい、先生。」

 

その、ドロドロに蜜でも煮詰めたような、甘ったるい声に神楽はぞわりと背筋を冷たくした。

なんだ、その、甘い声は?

あの、奈落が。誰も信じず、己の分身を造り出す程までに、誰のことも信じていない奈落が?

奈落の近くにいた神楽には分かる。

それは、誰かをたぶらかすものでも、信用を得るためでも、媚びを売るためのものでもない。

ただ、甘えているのだと、気づいた。

 

神楽の中に産まれたのは恐怖だった。

奈落という存在に、それだけの感情を持たせる存在。

奈落への不快さなどさえも消え失せて、それだけが神楽の中でまざまざと暴れていた。

恐怖でその場で動けずにいると、先生と呼ばれたそれはそのまま続ける。

 

「ふむ、にしても。分身か。」

 

そう言った後、妖怪は特別な感慨を持たず、ただ、ゆっくりとした足取りで神楽の方に歩み寄ってくる。逃げようとした、けれど、男が自分を確実に捕らえていると理解した瞬間、動けなくなる。

逃げるという選択肢が、消し飛んだのだ。

その歩み寄りは、例えば、警戒だとか、そんなものはない。まるで、何も出来ない幼子に歩み寄るような気軽さだった。

それに、自分がその妖怪に屈服してしまっているのだと理解してしまった。

 

「ほお、これもお前が作ったのか?」

 

御簾を上げて自分を見下ろすそれに、神楽は目を合わせることも出来ずに畳を見つめることしか出来ない。

 

「・・・・はい、神楽と申します。」

 

奈落の不快そうな声がした。

 

「雅な名だな。」

 

そんな言葉が降ってくると同時に、自分の顎をすくい上げるのが分かった。目の前に、金の瞳が、あった。

ぴかぴかと輝くそれは、まるで太陽のように輝かしいのに、静まりかえった瞳の奥が淀みのように自分を見つめていた。

怖い、怖いのに、淡く微笑むその手つきが恐ろしいほどに優しい。

 

「これも、お前の一部か?」

「はい、風、と定義して切り落としました。」

「ほう、そうか、神楽!俺の名も風牙というのだ。同じ風とは、よき縁だな。」

 

そう言った瞬間、今までの監察するような何かは消え失せて、まるで人好きの青年のように無邪気で朗らかな笑みを浮かべていた。

その、相容れない先ほどまで、今の乖離が、それがなんなのか分からなくさせる。

指先が、自分の顎をゆっくりとなぞり上げる。

体が震えた。

 

金の瞳から目を離したい。なのに、目を離した瞬間、何が起こるか分からずにそれもできない。金の瞳が、自分を見つめる。

 

「美しい、赤い瞳をしているな。」

 

すっと顔が自分に近づいてくる、その時だ。

 

「・・・・先生。」

 

奈落の、ドロドロに腐敗したような怒りの混ざった声が聞こえてくる。それに神楽は我に返り、風牙から距離を取った。

ぜえぜえと荒い息を吐きながら、神楽は宙をかいた手を見つめる。

 

「女を、お望みですか?」

 

その、奈落から感じた感情。それが、嫉妬であると理解して、神楽は一瞬、考える。

自分が自由になるためにそれを利用できないだろうか?

けれど、風牙が吐いた言葉でその考えをすぐに消した。

 

「おうおう、奈落よ。焼き餅か?お前は、ほんとうにかあいいねえ。」

 

甘ったるい、その言葉で神楽は、奈落を愛でる風牙が自分の話が通じる相手ではないことをすぐに察した。

誰が、あんな化け物を愛でる存在を利用などできるなどするのか。

慈しむように変わること無く、奈落の頬に指を滑らせて生首をあやすように抱くそれは確かに異様だった。

 

「・・・・そんなものでは、ございません。」

「そうか?」

「・・・・神楽よ、この方は風牙様だ。いいか、無礼は許さん。分かったのならすぐに失せろ。」

 

その言葉に神楽は一目散にその場を後にした。

 

「・・・なんだ、残念だな。」

「女をお望みなら、女になりますが?」

「うーん?ただ、お前の分身だから、同じように愛でてやろうと思っただけだ。」

「・・・あれは、あくまで分身です。愛でるならば、この身だけ十分です。」

「そうか?それは、残念だ。」

 

くすくすと楽しそうに笑うそれに、奈落は問いかけた。

奈落は、己だけを見つめ、そうして慈しむように頬を撫でる手つきにうっとりと、夢を見ているかのような気分になった。

けれど、すぐに我に返る。

かのあやかしが、己のことを訪ねるのは、何かしら用があるだけのなのだ。故に、勘違いなどしてはいけない。すれば、空しいのは己だけだ。

 

「何か、ご用があったのではないですか?」

「ああ、そうだ。実はな、奈落。犬夜叉に何かしら部下でも、分身でも構わないから差し向けて欲しくてな。」

 

その言葉に、奈落は不可思議そうに顔をしかめた。

 

「それは、何故?」

「うーん?そうだなあ、覚悟を、決めて欲しくてな。」

 

くすくすと、それは、楽しそうに笑っている。その、ささやかな声を聞いているだけで奈落にとっては十分だった。

けれど、それと同時に奈落は、以前から感じていたことも存在した。

 

この感情は所詮、鬼蜘蛛の心でしか無いのだと。

桔梗への執着心、そうして、目の前の先生への、この心。

 

それらが、鬼蜘蛛で無い奈落という存在を捕らえて放さない事実に突きつけられる。

手放したい、放り出してしまいたい。

その、浅ましいとも言える、人間の心に。

けれど、今、そうやって先生が己の首を抱き、静かに微笑む様を見ているだけで満たされるような感覚に囚われる。

 

「・・・・新しく分身が出来ましたので。それを向かわせましょう。」

「おお、すまんな。」

 

上機嫌そうに微笑むそれの腕にずっと抱かれていたいという感情に奈落は気づく。それに愕然とする。

 

「・・・・ご用がお済みならば、どうぞ、お帰りください。」

「うん?用事か?」

「ええ、そうですね。頼まれごともできましたので。」

 

早く、この場から去って欲しい。自分の、目の前の存在への慕わしさを自覚すればするほどに、忌避する心が、その弱さへの苛立ちが募る。

 

風牙と再会してから、奈落は、改めて慕わしさと自覚するようになった。

毎日、毎日、四魂の欠片を探しながら、それと同時に、先生が来てはくれやしないかと外を伺っている己を自覚し、愕然とした。

まるで、あの穴蔵であの人を待ち続ける鬼蜘蛛のようでは無いか!

 

それに苛立つ、怒りがある。

こんなに焦がれても、あの人は弟たちしか見ていないという事実に憎悪する。

そうして、その感情に自分がどうしようもなく、鬼蜘蛛の心に囚われていると自覚する。

 

(切り落とさなくては・・・・)

 

どうにかして、この、鬼蜘蛛の心を。そうでなければ、もしも、風牙と自分が敵対すれば?

気にしていないと言いながら、もし、自分が犬夜叉を害したとき、その人は自分を赦さない。

今でさえ、その首に手が掛かる距離でありながら、指一つも動かせない自分を理解した。

 

自分は、今の己では先生を殺せない。

 

「・・・奈落。」

「はい、なんでしょう?」

「この頃会いに来れていなかったから、怒っているのか?」

 

その言葉に、奈落は目の前の人が何を言っているのか理解できなかった。いや、自分の考えていたことを見通されたような、気恥ずかしさを覚える。

それと同時に、自分のことをきちんと気にしてくれていたことを喜んでしまった。

 

「すまないな。少々、東の方の存在と敵対していてな。それのために、やることができてしまったんだ。怒ってくれるな。」

「怒って、など、おりません・・・・」

「そうか?」

 

風牙は不思議そうな顔をした後、ゆるりと微笑み、奈落に囁くように言った。

 

「奈落よ、お前、もしや鬼蜘蛛の心に苛立っているのか?」

「・・・・何故、そのようなことを?」

「お前は分かりやすいからなあ。そんなところが、本当に、かあいいなあ。」

 

すっそりとそう言った後、それは、少しだけ考えた後に頷いた。

 

「そうだなあ、奈落よ。なら、鬼蜘蛛をお前から引き剥がしてやろうか?」

「できる、のですか?」

「ああ、できる。消すことは難しいが。お前が、鬼蜘蛛の影響を受けることは防ぐことが出来る。」

 

それに奈落は考える。出来るのか、と。けれど、それと同時に分かりもする。目の前のそれは、出来ることしか、そんなことを口にすることは無いのだと。

嘘をつく理由も無い。

 

(・・・・解放される。)

 

目の前の存在への慕わしさ、来ない日々へのむなしさと恨めしさ。

それらから、解放される。

 

「よ、ろしいのですか?」

「何故?」

「鬼蜘蛛の心を失えば、あなたへの忠義も無くなる。」

 

その、奈落の言葉に、風牙はひどく、楽しそうに笑った。

 

「ふ、ふふふふふふふ、あはははははははははは!ああ、奈落よ。俺が、そんなことを気にしていると?お前の、忠義程度が無くなることを怖れると?そんなこと程度で、俺が、お前を愛でることを止めると。」

 

風牙は、目を細めて、するりと奈落の頬に指を滑らせる。その表情は、まるで、目を見開いた赤子に微笑みかけるような顔だった。

 

「お前は、本当に、かあいいねえ。」

「・・・・あなたを、利用することしかしなくなる、この身を、それでも?」

「ああ、お前のようなそれはあるだけで愛おしいのだから。」

 

愛おしい。ただ、あるだけで。自分が言うことを聞かなくなっても、利用しかしようとしなくなっても、その人は自分を愛でてくれるのか。

幼い子どもが、まるで、親の愛に奇妙な確信を得たときのような感覚で、奈落は風牙を見上げる。

 

それならば、いいかもしれない。いっそのこと、桔梗へのこんな感情は邪魔でしかないのなら。

そこまで考えて、奈落は、風牙の言っていた言葉で目が覚める。

 

「お前が捨てた鬼蜘蛛のことも可愛がってやれるなら、俺の嬉しいしな。鬼蜘蛛が願ったように、旅に連れて行くのもいいだろう。」

「おやめください!」

 

叩きつけるような声に、風牙は目を瞬かせる。

 

己が捨てた鬼蜘蛛を?この人は、旅に連れて行く?

自分さえも、叶わないのに?

なんの憂いも無く、その人の側にずっと、侍り続けるというのか?

 

そんなもの、赦せるはずが無い。

 

「儂のことさえも連れて行かない旅に、何故、それのことは連れて行くと!?」

 

そうだ、切り離した鬼蜘蛛は、この、慕わしさと、安心感と、満たされる感覚を享受するのだ。

それを、失った自分を横目に。

苛烈なまでの嫉妬心が奈落の中で渦巻く。ぎらぎらと、怒りをたぎらせたそれに、風牙は呆れたように乱れた前髪を整えてやった。

 

「・・・・はあ、そんなに怒るなら、鬼蜘蛛の心は捨てない方がいいな。」

「・・・・申し訳、ございません。」

「ああ、怒ってはいないさ。健気な嫉妬心は嬉しいぐらいだ。」

 

黙り込む奈落に、風牙は変わらず微笑み、甘やかす。

 

「そんなにも求められるなら、いくらでも旅にでも連れて行ってやりたいが。」

「いえ、まだ、半端なこの身であなたの旅についていくことなどできません。」

「そうか、だが、お前が望むならいつでも、俺の元に来てもかまわんからな?」

「・・・はい、わかっております。」

 

男の胸に抱かれて、奈落は、その安心感に身を委ねる。それと同時に、奈落は、静かに決意する。

鬼蜘蛛を己から切り離すその時は、けして、目の前の妖怪に気取られてはいけないと。

 

 

 

「・・・・犬夜叉様に渡された玉は、あの方を守るためのものなのですか?」

「まあ、それもある。」

 

風牙は、なだめるように無牙を抱えながら一坊の問いかけに答えた。そうして、木の枝に座り、犬夜叉の竜骨精との争いを見つめている。

 

「あれはな、もしも、鉄砕牙を犬夜叉が放り出したときのためのものだ。事実、幾度か、妖怪の血に飲まれかけたからな。鉄砕牙は、それを防ぐためのものだ。」

「・・・ならば、疑問なのですが。何故、鉄砕牙を放り出すなどと?」

 

それに風牙は特別な感慨も無く答える。

 

「うーん?竜骨精の牙を、殺の牙に使いたくてな。」

 

風牙が、奈落を焚きつけ、犬夜叉に妖怪の血が暴走する可能性を指し示したのは、偏に、その選択肢に向かわせるためだった。

風牙は殺生丸の牙のための素材を探していた。それの牙にするならば、それ相応の者を使わなくては保たないだろう。

 

別段、風牙もやろうと思えば、竜骨精の牙程度手に入れることは出来た。

闘牙王よりもずっと器用であり、手数も多い風牙にとって、再度封印することも、封印された状態から殆どの無力化することも出来なくは無かった。

けれど、そうはしなかった。

 

それでは、つまらないだろうと。

 

(・・・いっそ、犬夜叉が死ぬことも、いいかもしれないなあ。)

 

反魂の術を手に入れた風牙は、殺生丸よりも、ずっと弱い末を出来れば自分の手元に置いておきたかった。

死んでしまえば、きっと、あれは、従順に、愛らしく、己の手の中に収ってくれるだろう。

その様は、なんてかあいいことだろうか?

生意気で、軽やかに、自分の元に居続けてくれない末も悪くは無い。

けれど、きっと、それもまた、かあいくてたまらなくなるだろうから。

 

だから、奈落に殺されるのもそれはそれでいいかと飲み下した。

その辺りの妖怪に殺されるのは面白くないが、奈落程度とのやり合いは犬夜叉を強くするだろう程度だったが。

殺されたときは、ときで自分にとって都合がよくなる。

 

「・・・まあ、そう都合よくはいかないだろう。」

 

犬夜叉たちがいるだろう方向から、何かが飛んでくる。それは、収るべき場所に収るように、風牙の手の中に飛び込んできた。

 

それは、風牙が犬夜叉に渡した緑色の玉であり、そうして、その玉の中には牙が閉じ込められるように浮んでいた。

 

「よーしよし。まあ、今の殺なら、この程度の牙、制御できるだろう。」

 

上機嫌にそう言った風牙はそのまま立ち上がった。

 

参考までになんですが風牙さんのヒロインていると思いますか?もしも、具体的なこの人がいいなっていうのがあるなら活動報告の方に言っていただけると嬉しいです。

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