酒呑物語   作:ヘイ!タクシー!

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年越ちまった







錐揉回転

 魔理沙は一早くその攻撃を察知していた。

 妖力で出来たソレ。以前の魔理沙も、魔法と道具を使って擬似的に生み出しオリジナルの技へと昇華させた、その大元の技。

 全てを焼き尽くし荒野へと変える光の奔流にして、太陽を思わせる力の強さ。

 

 その技に名はない。しかし、魔理沙がそれを見て必死に習得した技には名があった。

 その名がマスタースパーク。かつて、パチュリーに人間には余りある、過ぎた力の奔流と言わしめた必殺の一撃。

 

 2人を襲った光は、その何倍も大きく、熱量や威力共に何倍も膨らんだ一撃であった。

 

 とは言え弾幕ごっこにおいて無類の強さを誇る魔理沙である。意表をつかれたとは言え、避けるだけならそこまで難しいことでは無かった。

 身体を捻り進路を変えることで難なく避けた魔理沙は、襲ってきた相手を確認するべく光の放たれた地へと目を向けた。

 

 

 

『黄』

 

 それは暴力的なまでの黄色の景色である。太陽の放つ光を一身に受けようと花開く向日葵の黄色。土の色を掻き消す黄色の絨毯がどこまでも広がっている。

 

 その向日葵の群れの中に、襲撃者はいた。

 

「ふん………目障りな気配が漂って来たと思ったら、貴女なのね魔理沙。随分とヘンテコな様子になってるじゃない」

 

 

 風見幽香。

 花を愛し、花に愛され、花を汚した尽くを殺す最凶にして最悪の妖怪。

 それが魔理沙を襲い、悪びれる様子もなく君臨する彼女の名前である。

 

 

「────…………幽香」

 

「ごきげんよう魔理沙。脆弱な人間にして惰弱な魔法使いの魔理沙。見ない内に仙人の真似事かしら? いつの間に宗教変えなんてしたの?」

 

 馬鹿にした様に彼女は魔理沙へと話しかける。厳密に言うならば『魔理沙を』と言うよりは『人間を』であるが。

 それでも魔理沙の名前だけは知っているのだから、多少は認めているのかもしれない。魔理沙は一度だけ幽香と弾幕ごっこで勝ったことがある。

 遊びとは言え勝負事で負けた。それは幽香にとって多少なりとも名前を覚えるに値する出来事だったのかもしれない。

 

 とは言え彼女は妖怪。生存競争において強さこそが最も敬われるものであり、己の強さを疑わないからこそ誰であろうとも見下すのが彼女である。

 そんな彼女が人間相手に気まぐれで声をかけることはあっても、刺すような殺気を向ける事は無い筈なのだ。ましてや、見かけたからと塵一つ残さない程の攻撃を仕掛ける事なんて、見下している人間相手にするわけがない。

 

「────不意打ちなんて、随分なご挨拶だな。お前はもっと余裕のある妖怪だと思ってたけど、そうじゃないらしい」

 

「いえ…………懐かしい妖気を感じた気がして思わず苛ついてしまったのよ、ごめんなさいね。まあそれが貴女だとは思ってなかったけど」

 

 そう言って幽香は魔理沙の全身を見回した。

 元々着ていた魔女っ子満載な衣服は何処にもなく、霊夢や早苗の様な黒い巫女服へと着ている服が変わっている。しかしソレを見ても誰も仙人とは思わないだろう。

 彼女の身体の内側。厳密には全身へと流している源のその脚。そこから幽香は龍気を感じていた。

 

 『龍』。仙人が山で千年、海で千年の修行を積む事で至る存在。神子とは違う、仙人が目指すもう一つの指標。

 その気をあろうことか、『魔』を目指していたはずの魔理沙が纏っていた。限りなく龍に近付いた仙人が放つ龍気を、魔法使いの魔理沙が宿している。これは本来有ってはならない事である。

 

 俗世を捨て去り、自然の体現者として世界を知る仙人。この世の真理を解き明かし、魔へと堕ちていく導師。

 真逆だ。いや、至る目的地はどちらかと言えば限りなく近いだろう。龍へと至った者はこの世の摂理を知る。この世の根源に至った導師は魔術を修め深淵を知る。

 目的はほぼ同じ。しかし辿り着く過程はあまりにもかけ離れた対局の位置。

 性別で男と女が分かれている様に。空と大地が交わらない様に。無と有で隔たれている様に。そこには違いがあり、仮に合わされば摂理は崩壊する。

 

 

 だからもし、それが可能となるならば。

 

 

 そこには摂理を覆す何かがあるのだ。

 

 

「酒臭い…………ああ、酒の匂いがプンプンするわね。お前、あの鬼に会ったな? それも、少量とは言え濃密な『(栄え)』を浴びたな?」

 

 妖気。自然の気に満ちた龍気の中に混じる、隠し様も無い鬼の妖気。

 魔理沙の身体から漏れ出すその気配を幽香はしっかりと…………むしろ、嫌でも感じ取ってしまっていた。

 

「ハッ……流石の私も同情するわ。あのロクデナシに目を付けられるなんて…………しかもそれ、ほぼ眷属化させられているわね。もはやどこまで自我が残っているのかしら?」

 

「────…………五月蝿いな。さっきからよくわからない事ばっかペラペラと……独り言か? 何か話すならもうちょっと人に分かりやすく喋る事をお勧めするぜ?」

 

「ああ、いいわよ喋らなくて。どうせまともに話せないんだし。ただ、聴こえてるのかはわからないから、一応親切で言ってるのよ」

 

 幽香の言葉を聞き届けるよりも早くに、魔理沙の手から光の弾が幾百にも散らばり飛び出した。

 もはや言葉は要らない。いや、そもそも仕掛けて来たのは幽香の方である。戦闘は不可避であり、話す事すら無駄に尽きるのだ。

 

 襲い掛かる光の弾の群。幽香は持っている傘を大雑把に構え、横凪ぎに一閃する。

 直後、空中を奔る光の弾は視界の端から次々と連鎖爆発を起こし、空を巨大な爆風で覆った。

 

「危ないじゃない。向日葵に少しでも当たったら殺しじゃ済まなくなるわよ?」

 

 邪悪な笑みを浮かべてそう告げる幽香は、ふわりと浮かび上がり空に身を躍らせる。

 

「仙魔符『スターダストレヴァリエ』」

 

 優雅に浮遊する彼女に魔理沙は再び光の弾幕を飛ばした。

 先程と同じ量の弾。しかし違うのはその弾の形である。星の形をした色取り取りの弾が幽香の四方八方から襲い掛かる。

 

「ふん。芸のない…………ッ?」

 

 もう一度全ての弾幕を吹き飛ばそうと傘を振るえば、魔理沙の星の弾幕が軽い音と共に弾け…………幾つにも分かれ幽香へと殺到した。

 

 瞬時に幽香は傘を開いて腕を振り回し、弾幕の弾を叩き落としていく。

 

 が────

 

「────まだまだ、これだけじゃ終わらないぜ」

 

「チッ……」

 

 再び星の弾幕が魔理沙の後方へと浮かび上がり、幾百にも散らばって幽香へと迫り爆発した。途切れる事のない弾幕の嵐が幽香を襲い続ける。

 

 かつて魔理沙が弾幕ごっこで言っていた一言。『弾幕はパワーだぜ』の言葉を体現した通りの、途方もない数の星の弾。それが一斉に一つの妖怪へと殺到するその光景は、果たして弾幕『ごっこ』と呼べるのだろうか。

 爆風の余波で周囲の雲が掻き消される。近くの森に細々と暮らす弱小妖怪は、その光景を見て震え上がった。

 

「で? 私をそれで倒せると思ったのかしら?」

 

 

 爆発が途切れ光の束に覆われていた幽香の姿が露わになる。

 その体に傷一つ入っておらず、先程の焼き直しの様に魔理沙の眼前に佇んでいる。

 

「────それだけで倒せると思ってないぜ」

 

「なにを────」

 

 しかしそれを予想していたかのように魔理沙は次なる一手を仕掛けるために、その手には一枚の御札を手に掲げていた。

 直後、幽香が気付くよりも早く、彼女の周りに霧散していた魔理沙の魔力が、いつの間にか2つの魔力塊となって幽香の真横に浮遊していた。

 

「恋心『ダブルスパーク』」

 

 その2つの魔力塊から解き放たれた極太のビームが幽香を襲った。

 迫るビームを彼女は咄嗟に腕を広げてその攻撃を掌で受け止める。高音質で奇っ怪な音を周囲に響かせながらも、幽香は魔理沙のビームを掌で受け止め続けていた。

 

「小賢しい芸当──」

 

「────まだ終わりじゃないぜ。恋符『マスタースパーク』」

 

 幽香の気を逸らしたその一瞬の間に、魔理沙はその一撃を放っていた。視界を埋め尽くす程の巨大なレーザー。それが魔理沙から放たれると、コンマ数秒も満たない内に幽香の全身を襲う。

 直撃を感じ取った魔理沙はこのまま灼き尽くすとばかりにさらに火力を上げた。

 そしてとうとう荒れ狂う膨大な魔力が行き場を失い、幻想郷の空に大爆発を起こす。その衝撃は地上まで伸びると、粉塵を巻き上げ巨大なキノコ雲となってその威力を知らしめていた。

 

 最大火力の魔法攻撃に大爆発の二段構え。それでも、遠い昔の過去にかつて経験した理不尽なまでの大妖怪との戦いの記憶が、魔理沙に戦闘が終わっていない事を警告していた。

 

 

「────…………これでも倒せないか。つくづく妖怪ってのは化物だぜ」

 

 先程の焼き直し。平然とキノコ雲を振り払い姿を表した幽香に、魔理沙はその事実を無表情のまま受け入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁああぁあぁぁあぁああああ」

 

 突然の光の襲撃。それによって魔理沙から振るい落された私は飛行スピードのまま錐揉回転して何処かを飛んでいる。

 てかヤバいせめて回転止まってくれない!? 気持ち悪い! おえぇ……。

 腕を広げて、なんとか体勢をッ。逆回転を意識して身体を捻れば…………止まんねぇ!! クソ、なんで私には飛行能力無いかなぁ!? 頭湧いてんじゃねぇの? って────

 

「おべぇ!!?!?」

 

 視界が真っ白に染まった。直前に見た大きな建造物。気付いたときには私はそこに突っ込んでいた。凄い音を撒き散らしながら私の身体が何か硬いものにぶつかってようやく止まった。

 

「…………」

 

 一体全体何があったのか。てか、最近私の運気悪くね? なんなんほんま。

 

 

「イタタ…………あー、死ななくて良かった」

 

 とは言え、私の悪運は捨てた物ではなかったらしい。派手に建物にぶつかったがそれだけだ。衝撃こそ強かったけど意外とそこまで大きな怪我は無かった。

 どうやら私は襖やら障子やらを突き破ってこの建物内にダイナミック・エントリーしたみたいだけど、それがかえって衝撃を緩和してくれたみたいだ。ありがたい事である。仮にぶつかったのが大木とか岩とかだったら私の身体が派手に飛び散ってたと思う…………自分で考えて恐ろしくなっちゃったじゃないか!

 

「ここは、どこでしょうか?」

 

 一体私は何処まで飛ばされたのか。そう思って私が着弾?した場所を見渡せば、散乱した紙の束があちらこちらに舞い上がり散らかっていた。

 

「うわっ………汚いですね。この家の主はあまり掃除が出来ない方なのでしょうか?」

 

「貴女のせいですよ!!」

 

 突如、鼓膜を破るような大きな叫び声が私の横から放たれた。

 突然な上に大きな声過ぎて心臓が飛び出るかと思った。び、び、びっくりさせるんじゃない!!

とは言え、やはり私は誰かの家に突入してしまった様子。プンスカ怒る少女を宥める為にも、ここは頭を低くして(遺憾に思いながら)謝罪の意を述べることにする。

 

「ここの家の方………娘さんでしょうか? 突然押し入って申し訳ございません。すみませんが親御さんを呼んできてもらいませんか? 家を荒らしてしまったので謝りたいのです」

 

私はそう謝罪しながら声を掛けてきた少女を観察した。

歳は……13、4歳ぐらいだろうか。若草色の着物の上に、袖が花柄な黄色の振袖を艶姿のような感じで重ね着している。紫の髪を肩口で切り揃えており、ワンポイントなのか花の髪飾りを付けている。

そんな少女が何やら警戒した様子で私を睨みつけていた。

 

「………どうやら、少しは話の通じる妖怪のようですね。あと、親はいません。今は私がこの稗田家の当主です」

 

「ほう。若い見た目をしているのに当主ですか。御立派なのですね」

 

幼そうなのに偉いなぁと思った。そう尊敬の念も込めて言った言葉だったのだけど、何故か睨まれてしまう。

はて、何か気に障ることでも言っただろうか。そう思い考えに耽ようと思ったのだけど、外の部屋からドタドタと騒がしい音がして考える暇は無かった。

 

「阿求様! ご無事ですか!!?」

 

駆け込んできたのは槍や刺又などの長物で武装した男達だった。

まず始めに私の前にいる少女を見て、次に対面の私を見て………その刃を向けてきやがった。

 

「貴様、妖怪だな!! ここが稗田家と知っての襲撃か!?」

 

「いえ知りませんでしたけど」

 

「何用があって我等を襲う!? 人里を襲えば博麗の巫女が黙っておらんぞ!!」

 

「襲うつもりも無いんですが」

 

おいおい、止めちくれ給え。こちとら無害な鬼だぞ!? なんの理由があって武器を私に向けるのさ!!

 

「落ち着いてください。私は貴方達に危害を加えるつもりはありません………ここに落ちてきたのは偶々なんです。悪意はありません」

 

「妖怪の言葉など信じられるか!! ………阿求様、お逃げください。我々が命を賭してこの妖怪を足止めしますから」

 

「はぁ………危害を加えないと言っているではないですか」

 

まあ、妖怪を恐れる気持ちもわかるが。少しはこんなにも可愛い可愛い酒吞ちゃんの言葉を信じてみても良いんじゃない………? 余裕の無い男はモテないゾ☆

 

「本当に、危害を加えませんか?」

 

「阿求様!?」

 

お互いが相手を恐れて硬直状態だった中、阿求と呼ばれた少女が私に声を掛けてきた。

今だ警戒しながらも………なんだろうか。私を興味深げに見ている気がする。

 

「はい。本当に偶々、偶然、悪意なく、縁があったのか、不幸な事故があった為にここに落ちてきてしまっただけで。ここで何か悪事を働こうなど一切考えていません」

 

「………そう必死に言葉を並べられると逆に怪しく見えますが…………」

 

私のことをジト目で見ながらも、少女は覚悟を決めたように私の前に一歩躍り出た。

 

「貴女の事が知りたいんです。私とお話ししませんか?」

 

 

そんな風に私はロリっ娘に口説かれたのだった。

 

 

 

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