偽から出た真   作:白雪桜

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第七十三話 敵陣での対話

「――すぐに来い黒崎。緊急事態だ」

 

 ――そう告げた冬獅郎と共に訪れたのは井上の家。

 何やら物々しい機械の置かれた部屋に入り、集まった面々の顔を見回す。

 

「あれ? 朔良は来てねえのか?」

「……雲居はどういう訳か、しばらく前から連絡がつかねえ」

「え」

「今、夜一さんが捜索に行ってる。浦原さんに心当たりがあるらしくてな」

「そう、か……」

 

 どういうことだろうか。朔良とはグリムジョーと戦う時、別れたのが最後だ。生真面目な彼女が、何の連絡もなしに突然居なくなるなど。

 

(……何があったんだ、朔良)

 

 しかし、その心配を超える凶報が、通信を繋いだ浮竹からもたらされた。

 

 ――井上織姫が、殺害された可能性がある、と。

 

「情報によれば、彼女は破面の襲撃を受け、破面と共に姿を消した……」

「……ふっ……ふざけんな! 証拠もねえのに死んだだと!? 勝手なこと言ってんじゃねえ! こいつを見てくれ!」

 

 昨日の戦いで大怪我をした筈の、一護の手首。今現世に居る誰もが治せなかった傷。それが、朝起きたら跡形もなく治っていた。

 

「ここに……手首に、井上の霊圧が残ってんだよ!」

《……!》

「これでもまだ井上は死んでるって……」

《――そうか、それは残念じゃ》

 

 浮竹の後ろから聞こえた、威厳に満ちた声。護廷十三隊総隊長が、通信画面に姿を現した。

 

「残念……? どういうことだよ?」

《確かにお主の話通りなら、井上織姫は生きておることになる。しかしそれは同時に一つの裏切りをも意味しておる》

「!?」

 

 拉致されたのならば、誰かに会いに行く余裕など無い。にも拘わらず、彼女は一護の元へ赴き、傷を治して消えた。

 それ即ち、自ら破面の元へ向かったということだ、と。

 

「バッ……!」

「よせ、これ以上喋っても立場を悪くするだけだ」

 

「――事はそれだけではない」

 

 恋次に窘められ黙り込んだ直後、背後から掛けられた声に振り返る。

 

「夜一さん……!」

「……朔良が最後に居たと思われる場所に行って来た。戦った痕はあったが……現場を検分したところ、僅かじゃが麻酔薬の類の痕跡を発見した」

「「「!」」」

「藍染が容易にあの子を殺すとは思えぬ。薬で意識を奪われ、連れ去られたと推測するのが妥当じゃろう。……儂は浦原商店に戻る」

 

 必要事項のみ告げ、すぐさま消えた夜一。重なった悪い報せに緊迫感が満ちる中、沈黙を破ったのは恋次だった。

 

「お話は解りました総隊長。それではこれより日番谷先遣隊が一六番隊副隊長、阿散井恋次。反逆の徒、井上織姫の目を覚まさせる為、並びに十三番隊副隊長、雲居朔良殿の救出の為、虚圏(ウェコムンド)へ向かいます」

「……恋次……」

《ならぬ》

「「!?」」

 

 瞠目する一護達に、告げる元柳斎の声は淡々としている。

 曰く、破面側の戦闘準備が整っている以上、先遣隊は尸魂界の守護の為帰還せよとのことだ。

 

「それは井上を……見捨てろと言うことですか……」

《如何にも。一人の命と世界の全て、秤に掛ける迄も無い》

「……恐れながら総隊長殿……その命令には……従いかねます……」

 

 僅かに声を震わせ意見するルキアに、「やはりな」と元柳斎が返すと同時に。

 

《――手を打っておいて良かった》

 

 背後で開いた穿界門――現れたるは二人の隊長格。

 

「「「―――!!」」」

 

 朽木白哉と、更木剣八。

 十番隊の二人を除いた先遣隊の面々を、強引にも連れ帰ることのできる人選だ。

 

「そういう訳だ。戻れ、テメーら」

「手向かうな。力ずくでも連れ戻せと命を受けている」

 

 ルキアと恋次が息を呑む。こうなっては、彼等に拒む術は無い。

 しかしそれでも。問いかけずにはいられない。

 

「……白哉お前……朔良を放っとくつもりかよ……」

「……朔良は護廷十三隊、十三番隊副隊長だ。自身で判断し行動した結果が現状というならば、その責は本人にある」

「っ……」

 

 正論、なのだろう。到底呑み下せるものではないが、これが護廷十三隊の決断だと言うならば。

 

「……分かった。尸魂界に力を貸してくれとは言わねえ。せめて、虚圏への入り方を教えてくれ。井上も朔良も、俺達の仲間だ。俺が一人で助けに行く」

 

 だが、それさえも。

 

《ならぬ》

 

 一蹴された。

 

「……何……だと……?」

《お主の力はこの戦いに必要じゃ。勝手な行動も、犬死にも許さぬ》

 

 命あるまで待機せよ――と。そう言い置いて、通信が切れる。

 そして。

 

「……一護…………済まぬ」

 

 ルキアの声を最後に、穿界門もまた閉じる。

 一護一人、この場に残して。

 

(……冗談じゃねえ)

 

 ふと、朔良と交わした最後の言葉が思い浮かぶ。

 

“無理はするなよ”

 

(……悪ぃな朔良、無理するぜ)

 

 ここで諦めるなど有り得ない。仲間を護り、助ける。

 その為に手に入れた力なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

「……知らない天井だ」

 

 確か、現世の小説とかで使い古された台詞だった筈。前にルキアが言っていた。

 いやいや、そうではなくて。

 

(……敵の本拠地、なのかな)

 

 仰向けの体勢から身を起こし、周囲を見渡す。

 殺風景な部屋だ。置いてあるのはテーブルと、朔良が寝かされていたソファのみ。さして広くもなく、一面真っ白なのが印象的だ。

 

「……まあ、そりゃそうだよね」

 

 両の手首を持ち上げて呟けば、小さくじゃら、と音がする。そこには鉛色の手枷が嵌められていた。

 

(他は……珠水が無いくらいか)

 

 捕縛したのだ、霊圧を封じ斬魄刀を取り上げるのは当然のこと。その他の武器や道具の類が奪われていない分、まだ良い方だろう。

 

(意外に甘いね、藍染も)

 

 と言うより、遊んでいるつもりなのかもしれない。もしくは試されているのか。

 

(まず現状把握からだね)

 

 ソファから下り、直立の姿勢を取って目を閉じる。

 霊圧を封じられていても、霊圧知覚を展開することは可能だ。壁は殺気石ではないようだし、何の問題もない。

 ……と思ったら、早速問題が二つ発覚した。

 

(……何で“彼女”が居るんだよ)

 

 虚圏においては異質極まりない霊圧が一つ目の問題。大層気にはなるけれど。

 

(そっちはひとまず置いといて、目下の課題は――)

 

 ――この部屋の前で止まった、敵意剥き出しの霊圧の持ち主にどう対応するかだ。

 

 派手な音を立て、扉が開かれる。いや、文字通り蹴破られた。

 

「……あァ? んだよ、起きてんじゃねえか。折角叩き起こしてやろうと思ったのによ」

 

 ……出会い頭でコレとは、何ともヤバイ奴である。

 入って来たのは一人の破面。細身で長い黒髪に、左目を眼帯で隠した男だ。

 

「何の用だ? 敵とはいえ、初対面でそこまで因縁付けられる意味が判らないんだが」

「初対面、なあ……」

 

 何やら引っ掛かる言い方をするが、弱腰になったら負けだ。上から下まで見定めるような不躾な視線を受けつつ、返答を待つ。

 

「……やっぱりテメェだ。間違いねえ」

 

 ……理解不能だ。珍しい。

 一度会った相手の霊圧は忘れないのが朔良なのだけれど、目の前の破面の霊圧には覚えが無い。にも拘わらず、この男の言動は以前にも会ったことがあるかのようだ。

 

「私と面識のある破面は、三、四人しか居ない筈なんだがな。きみには見覚えが無いぞ」

「ああそうだろうよ。見覚えねえのは当然だ。何せ姿が変わってんだから――なっ!」

「っ!」

 

 響転(ソニード)で急速に距離を詰めて来た破面に胸倉を掴まれる。その勢いのまま壁に叩き付けられ、息が詰まった。

 

「ぐっ……」

「別にテメェが思い出すかどうかなんて関係ねえ。俺はテメェを嬲れれば、それでいいんだよ!」

 

(……面倒だなあ。どうしよっか)

 

 ……状況の割に、余裕のある朔良である。

 しかしどうしたものか。相手が“思い出す”とか言っている以上、面識はある筈なのだろう。姿が変わったとも言ったが――

 

(……ん? 確か破面って、虚が進化した連中だよね)

 

 ということはつまり。

 今一度、目の前の破面の霊圧に集中してみる。次は根っこの辺りまで鮮明に。

 

「……ああ成る程」

 

 結果、思い当たる霊圧があった。

 

「数十年前に尸魂界で遭遇した中級大虚(アジューカス)か」

「!!」

「随分立派になったものだな」

「……へえ、覚えてやがるとは……いや、破面に進化しても判るとは驚いたぜ」

「まあな。根本の霊圧が変わらないのは、死神も虚も同じらしい」

 

 仮面の軍勢(ヴァイザード)の面々がそうであったように。

 

「けど、それなら話は早いよなあ? あの時の借り……ここで返させてもらうぜ」

 

(あ、ヤバい)

 

 流石に霊圧を封じられた今の状態で、色々攻撃を喰らうのは避けたい。ここは常識破りの手で行くとしよう。

 

「おいおい、良いのか? 私に手出しして」

「何がだ?」

「藍染のことさ。命令があるまで、私に手を出すなって言われているんじゃないのか?」

 

 目を逸らし、更には舌打ちまで聞こえた。予想通りだ。

 

「きみが十刃(エスパーダ)だとしても、バレるのは良くないんじゃないか?」

「……だから何だ? 要はバレなきゃいい話だ。見えねえところなら問題ねえ」

 

 開き直った。しかし、そうは問屋が卸さない。

 

「それはどうかな」

「何?」

「私が藍染に何も言わないという保証は無いだろう?」

「……ハッ! 保身の為に敵に告げ口するだと? そんなみっともねえ真似する馬鹿が何処に居やがる?」

「此処だ」

 

 自由にならない手を持ち上げ自らを指差せば、目の前の余裕綽々の顔が愕然としたものになった。それはそうだろう。普通に考えれば、この破面の言い分は間違っていない。

 しかし、目的の為なら手段を選ばないのが朔良なのだ。伊達に喜助の元で幼少期を過ごし、京楽の妹弟子をやってきてはいない。……どっちも何気に手段を選ばない人物筆頭だ。

 それはさておき。

 御託を並べてみたものの、これで本当に引き下がるとは思っていない。そんな大人しくて話の判る奴なら、そもそも此処へ来ていない。故にこれは“時間稼ぎ”なのだ。恐らくこの部屋を目指しているであろう、もう一人の霊圧の持ち主が来るまでの――

 

「つべこべ言ってんじゃねえよクソアマが!」

「っ!」

 

 再び乱暴に背を打ち付ける。引かれた拳は、腹部を狙ってのものだろう。認識した上で、朔良は冷静だった。と言うのも先程感じた霊圧の持ち主が――

 

「――はい、そこまでや」

 

 ――耳に届いたのは、いつかと同じ言葉。

 あの時と同じだった。一方的にやられそうになっていた朔良を助けに入った行動も、理不尽な力を振るわんとした腕を止めた様も。

 百年前と、同じ。

 

「市丸……ギン……!」

「あかんなあノイトラ。この()に手え出したら」

 

 ノイトラ、と呼ばれた破面の後ろに気配もなく立ったギン。その顔に浮かぶのはいつもの笑み。

 

「いくら君でも、藍染隊長に怒られてしまうよ?」

「……チッ!」

 

 大きな舌打ちと共に、胸ぐらを掴んでいた手が離れる。

 突然の来客は、乱暴な足取りで去って行った。

 

「……怪我してへんね?」

「問題ないよ」

「にしても、君もええタイミングで起きたもんやね。持ってきた気付け薬、使わんと済んで良かったよ」

「それはそれは、ご丁寧なことだね」

 

 少し乱れた襟元を直しつつ、無難に返事をする。いいタイミング、ということは。

 

「おいで。藍染隊長がお呼びや」

 

 予想的中。

 

「……どうせ拒否権は無いんでしょ」

「判っとるやないの。どうする? 身体辛いんやったら抱きかかえてあげようか?」

「結構だ。自分で歩くよ」

 

 いかにもわざとらしく差し出された手を払い、背筋を伸ばす。ここから先、一挙一動が命取りになる。間違えればそこで終わりだ。

 けれど、不安は無かった。

 

(大丈夫、“私”なら)

 

 藍染にとって利用価値のある“自分”なら、どうにか切り抜けられる筈。

 その確信があった。

 

 

 

 

 

 ―――――……。

 

 想定通りというか何というか。

 高い位置、玉座のような場所に座った藍染と、恐らくは今回奴らの策に参加した者達が集った広間にて、よく見知った少女と顔を合わせることになった。

 

「……織姫」

「さ……朔良さん……? 何で……」

 

 戸惑う様を見ると、やはり朔良も連れて来られていたことは知らなかったらしい。彼女も霊圧を封じられていないのは不幸中の幸いか。

 ちなみにギンは、此処へ到着した後さっさと何処かへ行ってしまった。

 

「君と雲居朔良の件は全く別物でね」

 

 驚きを隠せない織姫に対し、藍染が声を掛けた。

 

「口を出さないでもらえるかな」

「……はい」

 

 柔らかい口調ながらも有無を言わせないその響きは、人に命を下すことに慣れたもの。彼女が大人しく引き下がってくれたことに内心安堵しつつ、思考を巡らす。

 藍染が織姫を拉致した目的は、十中八九彼女の能力(チカラ)目当てだろう。それがどういうものなのかは、喜助から聞いている。当然ながら、織姫が裏切るとは思えない。であれば、藍染等が何かしら策を講じたのだろう。彼女と藍染、両方の性格を考慮すれば推測するのは容易いが――

 

「早速で悪いが、織姫。君の能力(チカラ)を見せてくれるかい」

 

 ――相変わらず、尋常じゃない威圧感だ。

 

「どうやら君を連れてきたことに、納得していない者も居るようだからね。……そうだね、ルピ?」

「……当たり前じゃないですか」

 

 答えたのは割と小柄な、少年のような姿をした破面だ。

 

「ボクらの戦いが全部……こんな女二匹連れ出す為の目くらましだったなんて……。そっちの死神は卍解を使えるらしいし……まだ判りますけど……」

 

 納得できる訳ない――と、見るからに不満そうだ。

 

「済まない、君がそんなにやられるとは予想外でね」

「……!」

「さて、そうだな。織姫、君の能力(チカラ)を端的に示す為に、グリムジョーの左腕を治してやってくれ」

「バカな! そりゃ無茶だよ藍染様! グリムジョー!? あいつの腕は東仙統括官に灰にされた! 消えたものをどうやって治すってんだ! 神じゃあるまいし!」

 

 声高に叫ぶルピを無視してグリムジョーに歩み寄った織姫が、盾舜六花を展開する。尚も喚くルピの前で、否、この場に居る全員の目の前で、失われた彼の腕が見る見る内に元通りになっていく。

 

「……な……何で……回復とか……そんなレベルの話じゃないぞ……! 一体何をしたんだ、女……!?」

「解らないかい。ウルキオラはこれを“時間回帰”若しくは“空間回帰”と見た」

「はい」

「バカな……人間がそんな高度な能力(チカラ)を……そんな訳ないだろ……!」

「その通りだ。どちらも違う」

 

 そして、藍染がわざわざこの場で能力(チカラ)を使わせたもう一つの意図(・・・・・・・)は。

 

「これは、“事象の拒絶”だよ」

 

 ――朔良に確実に観せ、はっきりと理解させる為。

 

 喜助も知っていた。

 対象に起こったあらゆる事象を限定し・拒絶し・否定する能力。何事も起こる前の状態に帰すことができるそれは、“時間回帰”や“空間回帰”よりも更に上の、神の定めた領域を易々と踏み越える――

 

「神の領域を侵す能力(チカラ)だよ」

 

(……やっぱりそういう(・・・・)魂胆か)

 

 藍染は、この能力を朔良に認識させたかったのだ。でなければ、二人を引き合わせる理由が無い。これまでの戦いで目にする機会はあったかもしれないが、絶対ではない。藍染の目の届く範囲で、間違いなく観せておきたかったのだ。

 

(全くもって……傲慢な人だ)

 

 だが、その傲慢さは彼の弱みとなるだろう。他に弱点と呼べるものが見当たらない以上、そこを突くしかあるまい。

 なんて考察をしている間に、事態がまた動いていた。

 どうもあのルピという破面は、グリムジョーの代わりにNo.6(セスタ)として十刃入りしていたらしい。

 グリムジョーが元通りになった左腕でルピの身体を貫き、虚閃(セロ)で吹き飛ばす。後には下半身が残るのみとなった。

 

「戻った! 戻ったぜ力が! 俺がNo.6(セスタ)だ! No.6十刃(セスタエスパーダ)、グリムジョーだ!!」

 

(……これも藍染の想定の範疇なんだろうなあ)

 

 そもそもルピに対し、「そんなにやられるとは予想外」とか抜かした時点で予想はついていた。何かしらの手段を以て始末するのだろうと。

 ……彼の思考を“理解できる”ということ自体が、不本意ではあるけれど。

 

 

 

 その後。

 ウルキオラによって織姫が広間から連れ出され、ワンダーワイスと呼ばれた何やら得体の知れない破面も退出し。

 ギンと東仙、そして初めて会う破面達が続々とやって来た。最後にウルキオラが戻って来て、藍染が再び口を開く。

 

「さて、待たせて済まない」

 

 漸く朔良の番のようだ。

 集まった破面の数は、丁度十人。

 十刃全員集合、ということのようだ。

 

「改めて、久しぶりだね朔良ちゃん」

「雲居で結構ですよ。寧ろその呼び方やめてもらえます? 今更気持ち悪いので」

「貴様、藍染様に向かって――」

「構わないよハリベル」

 

 この場に居る唯一の女破面は、ハリベルと言うらしい。彼が一言窘めるだけで即座に下がる辺り、藍染に対して忠誠心があると見える。

 

「では、他の名で呼ぼうかな?」

「雲居で結構、と言った筈ですが?」

「了承した覚えもないね」

 

 戯言に等しき会話。けれど、この“名”に関しては慎重だった。

 

(主導権を握られる訳にはいかない)

 

 あくまで、対等に。

 それこそが、この場を生き抜く唯一の方法だ。

 

「まあいいさ。“今”はね。それより君を此処へ連れてきた理由だが、察しはついているだろう? 君はとても聡明だからね」

「それはどうも。理解できても納得できるかは別の話ですが。珠水も取り上げられて、その上こんな状態じゃあね」

 

 じゃらり、と鳴る両手を持ち上げて見せる。当然の対応とは判っているが、不満は不満だ。

 

「悪いとは思っているよ」

「とてもそうは見えませんが」

「本当さ。そこで――」

「その前に一点、いいですか」

「うん? 何だい?」

「“アレ”……一体何なんですか?」

 

 朔良が示した視線の先。そこに立つのはやたらと細長いフードで顔全体を隠した破面だ。まるで筒のようなヘルメットを着用しているようにも見える。

 

「ああ、彼はNo.9十刃(ヌベーノ・エスパーダ)、アーロニーロ・アルルエリだ。志波海燕の魂魄を食らった虚を更に喰らい、進化した破面だよ」

「……不愉快極まりないことを随分あっさり言ってくれますね」

 

 おかげで奴から海燕の霊圧を感じ、その姿を取れるという謎は解けたが、それとこれとは話が別だ。

 

「事実は変わらない」

 

 内心で舌打ちする。文句を言ったところでこの男が取り合ってくれる訳もない。

 

「話はそれだけなら、どうかな。一つ、ゲームをしないか」

「ゲーム?」

「そうだ。この巨大な虚夜宮(ラスノーチェス)を舞台とし、鬼事をしよう。逃げるのは君一人。鬼はこの場に居るギンと要以外の者と、その従属官(フラシオン)だ。勿論その枷は外してから始めよう。斬魄刀は返せないが、その代わり破面達も解放を禁ずる。うっかり(・・・・)解放した時点でその者は失格。それ以外の鬼道や虚閃等は自由とする。制限時間は一時間。君が勝てたなら、こちらはそれ以上君を追わず、そのまま逃げることを許そう。どうだい?」

 

 どうも何も、ふざけた内容だ。

 先程の気持ちを即座に切り替え、油断ならない会話に挑む。

 

「お話になりませんね。地の利がそちらにある上、通常の鬼事と違って鬼も多数です。私に明らかに不利ではありませんか」

 

 こんな一方的なルールは吞めない。故に。

 

「隠れ鬼の要素を追加しましょう。鬼が捕まえるチャンスは一度だけ。私を発見しても、撒かれたらその時点でその鬼は失格。それ以上追跡・捜索してはならない。それと私を直接捕らえることができるのはこの場に居る者のみで、従属官とやらにその権利は無いとします」

「おや、それは随分と君に有利過ぎる条件だね」

 

 言葉の割に、彼の表情は実に愉しそうだ。だからこそ、引く姿勢を見せてなならない。

 

「妥当なところでしょう? そこのNo.6十刃(セスタエスパーダ)には以前、複数人の従属官が居た筈です。他の十刃にも居ると……いや、もっとたくさん従えている可能性もありますね。最終的に何人参加してくるか判らない以上、この条件は外せません。それに、貴方がたのホームグラウンドで遊ぶんです。これくらい、ハンデにもならないでしょう?」

 

 ここで、最後の一押しだ。右手を上げの甲を下に向けた形で――枷が嵌められている為左手も多少持ち上がるが――藍染を指差し、挑戦的な笑みと共に言い放つ。

 

「それとも、貴方は圧倒的に有利なルールのゲームで勝利して、満足できるんですか? “私”を相手に」

 

 彼の方が、引くことのできなくなる一言を。

 

「……ふ」

 

 案の定――

 

「いいだろう。そのルールで遊ぼうじゃないか」

 

 ――乗ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 十刃達は各々程度は違えど、戦慄、或いは驚愕していた。

 何に? 無論、目の前の二人の遣り取りにだ。

 

 彼等にとって、藍染の存在は絶対だった。忠誠の有無はピンからキリまであるとしても、その強さに関しては他に類を見ないと評価しているのである。そして彼の心には、何時如何なる時も恐怖というものが存在しない。

 なればこそ、絶大の力を誇る破面達が従っているのだ。自分達の上を行く力と心を持つ者が故に。

 だが――

 

 

 

 No.1十刃(プリメーラ)は。

 

(……一体全体、何だってんだよ)

 

 

 No.2十刃(セグンダ)は。

 

(何者なのだ、この得体の知れん娘は)

 

 

 No.3十刃(トレス)は。

 

(……藍染様と完全に対等に……それも交渉するなど……)

 

 

 No.4十刃(クアトロ)は。

 

(……やはり、俺の見立ては間違っていなかった)

 

 

 No.5十刃(クイント)は。

 

(……俺が気圧されるなんざ……冗談じゃねえぞ……!)

 

 

 No.6十刃(セスタ)は。

 

(初めて会った時、只者じゃないと思っちゃいたがよ……)

 

 

 No.7十刃(セプティマ)は。

 

(……どうやら、想像以上に油断のならない人物のようです……)

 

 

 No.8十刃(オクターバ)は。

 

(あわよくば研究に……と思ったけど……ヤバそうだね)

 

 

 No.9十刃(ヌベーノ)は。

 

(相当怖イヨ……コイツ)

(……不意打ちできたのが信じられねえくらいだな)

 

 

 No10.十刃(ディエス)は。

 

(今までで一番、面白そうな死神じゃねえか)

 

 

 

 ――目の前の、この状況は何だ。

 少女にしか見えない小柄な娘から放たれる、異様な威圧感は何だ。

 霊圧を封じられ、斬魄刀は取り上げられ。

 敵の本拠地に単身放り込まれた四面楚歌。

 圧倒的窮地に追い込まれている筈だ。

 

 にも拘らず、まるで動揺が見られない。

 しかも。

 

「そうだね……君がこの場を離れてから、二十分後に開始しようか」

「三十分は下さい。さっきも言いましたが、私には地の利が無いんですから」

 

 他の追随を許さぬ強さを誇る藍染と、一歩も引かずに対等の相手として話すこの娘は、一体何だ。

 恐怖という感情を持たぬ藍染に対し、怯えの欠片も無く余裕すら見せて立つこの娘は、一体何だ。

 

 まるで二人が。

 

 まるで双方が。

 

 

 “同じ”存在のようではないか――

 

 

「では」

「ええ」

 

 

 ――それは、錯覚だったのか。

 

 容姿も声も、性別も違う二人が。

 

 鏡合わせのように見えたのは。

 

 

「「始めようか」」

 

 

 ――答えは、誰にも判らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――所変わって現世の浦原商店、地下“勉強部屋”。

 

 黒腔(ガルガンタ)に飛び込もうとした一護、雨竜、チャドに向けて、喜助が思い出したように告げる。

 

「あ、そーっス黒崎サン」

「? 何だよ」

「朔良のことは気にしなくていいっスから。皆さんは井上サンに集中してください」

「……はい?」

「いやいやいや、そーいうワケにもいかねえだろ!? あいつだって攫われてんだから!」

「ム……」

「嫌っスねえ。まさかあの()がただ捕まったまま、大人しくしていると本気で思ってるんスか」

「「え……」」

「ム?」

「あの娘はアタシの弟子っス。囚われたなら囚われたなりに、上手く切り抜けるっスよ」

「「「…………」」」

「だから、心配ご無用ってコトっス!」

 

 

 ――それが正しく言葉通りだったと彼等が知るのは、しばらく後になってからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お待たせいたしました、白雪桜です。

 やっとここまで書けました……。‟ゲーム”の話まで持って行こうか悩んだのですが、思いの外長くなってきましたのでここで切りました。次はかなり大変な気もしますが……頑張ります。

 ちなみにギンが朔良を助けに入った場面ですが、ここで示した昔の展開が分からない方は『第二十八話 思いがけないきっかけ』を参照して下さい。

では。
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双頭の骸、虚圏に立つ(作者:ハンバーグ男爵)(原作:BLEACH)

生まれ変わったら、イカでした。▼魔改造されたオストガロアが殺伐とした虚圏に放り込まれる話。▼身体はイカ、頭脳は残念系女子。▼好き勝手していたら骸骨に目をつけられ、ムチムチボディの褐色お姉さんとマヴダチになり、マッドなサイエンティストが悪友で、知らない死神とホイホイ契約して破面になる。▼え?死神と戦えって?ヤダ、めんどくさい。▼


総合評価:19971/評価:8.63/連載:25話/更新日時:2024年05月19日(日) 22:55 小説情報

雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」(作者:ろぼと)(原作:BLEACH)

最高峰の美少女に憑依転生したクソ主が歪んだ愛情でイケメンショタ幼馴染を愛でて色々引っ掻き回して満足するお話だゾ。▼【挿絵表示】▼


総合評価:71721/評価:9.14/連載:145話/更新日時:2022年11月29日(火) 22:00 小説情報

師匠は藍染惣右介~A bouquet for your smile~(作者:如月姫乃)(原作:BLEACH)

西流魂街第一地区 潤林安に住む少女―如月姫乃。▼彼女の頭の中に流れ込んできたのは、BLEACH原作知識。▼彼女の師匠は藍染惣右介。▼父親は浦原喜助。▼父が与えた希望と▼ 師が伸ばした才能と▼  仲間が授けた勇気を抱きしめて▼ ――私は 私の弱さを打ち壊す▼BLEACH▼ A▼bouquet ▼for ▼your▼smile▼※▼鰤虹『親の七光り』のリメイク版…


総合評価:6286/評価:8.86/完結:89話/更新日時:2023年04月20日(木) 21:02 小説情報


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