転生して魔理沙(♂)と化した主人公が色々拗らせてヤンデレとなった原作キャラに襲われる話   作:みかん

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2話

 最早米粒ほどの大きさになった人里を背に黄昏の空を二人で駆ける。

 こうしていると初めて空を飛んだ時を思い出す。その時の感動は筆舌に尽くし難い。

 最初は少し浮かぶ度に頻りに興奮していたが今では慣れたものだ。その身一つで空中を飛行するアリスに対して俺は横向きで箒に両足乗せたスノボースタイル。……間違っても跨がって飛ぶようなことはしない。何故なら死ぬほど痛かったから。

 初めて現実を突き付けられた瞬間だった。

 それでも執念深く痛みに堪えてしばらく飛行して、箒の柄の部分に膝を乗せる格好――つまり女の子座りをすると幾分かマシになることに気が付いたが、それをすると自分が酷く間抜けに見える気がして直ぐに止めた。その所為で靴裏に箒の柄を粘着させるというクソみたいにニッチな呪文を覚えざるを得なくなったのは余談である。それもこれも箒で空を飛ぶというロマンの為だ。仕方ない。

 

 そしてこれも余談だが、この呪文をなんとか他のことにも有効活用出来ないかと考えた当時の俺は、何を思ったのかとある神社の紅白の巫女に向けてこっそり使用した。

 持っていた箒が勝手に動き出し、自分の足目掛けて突進して来る。

 そうしてド派手にスッ転んだ巫女が――起き上がってどんな行動を取るか。

 

 今振り返っても当時の俺はかなりのチャレンジャーだった。……好奇心の代償はあまりにも大き過ぎたが。

 博麗の巫女を怒らせてはいけない。

 

「着いたわよ」

 

 心底どうでもいいことを思い出しているとアリスから声が掛けられる。眼下を見下ろすと魔法の森にぽつねんと建設された洋風の一軒家。ここがアリスの住居である。

 

「今紅茶とお茶請けを持って来るから、そこで座って待ってて」

 

「おう」

 

 部屋に案内されるとそう言ってアリスは奥の方に消えて行った。埃一つ見当たらないリビングは主人の性格を現してるようで、置かれた家具や照明を見ても中々お洒落に感じる。唯一の難点は部屋のどこを見ても必ず人形が視界に入るというところか。

 

 さて、他の部屋はどうなっているのかと腰を浮かせたところで素早く近付いてきた人形に両肩を押さえ付けられた。

 クッキーと紅茶を乗せたトレーを持ったアリスが現れるとジト目をこちらに注いでくる。

 

「待っててって言ったでしょ」

 

「いや、ちょっとトイレを探しに」

 

「同じようなことを言ってずっと帰って来なかった奴が前にいたわね。因みにそいつは私の部屋の本棚を漁っていた」

 

 言うまでもなく俺のことである。

 最初にアリスの家に来た時感動して羽目を外し過ぎたのを根に持ってるらしい。

 こちらとしては魔法使いとしての知的好奇心と原作キャラへの憧れが半々といったところか。魔法云々を抜きにしても、あのアリス・マーガトロイドの家というのは前世のファンとして興味を引かれる物がある。気分的にはちょっとした文化遺産に来た感じ。

 

「別に何か盗んだわけじゃないから良いだろー?」

 

「論外ね。盗人だったらそもそも家に招かない」

 

 有無をいわさぬ雰囲気に思わず気圧される。

 死ぬまで借りるなんて言おう物なら即座に戦争に突入するだろう。

 

 原作の魔理沙は無断で紅魔館から本を持ち出していたが俺はそれをやっていない。理由は単純に前世の知識による忌避感からだ。

 その代わり読みたい本があったら図書館に泊まり込んでいた。尤も二週間くらい連続寝泊まりした辺りで不機嫌な顔をした魔女に『期限までに本を返すなら持って行って良い。だから出ていけ』と追い出されたが、これはファインプレーだったかも知れない。今のアリスの態度を見てると強くそう思う。

 

「そんなことより、本を出しなさい。時間は有限なんだから」

 

「へぇへぇ」

 

 クッキーを一つ摘みながら魔道書を取り出す。何だか真面目な先生と駄目な生徒みたいなやり取りだなと少し笑ってしまった。

 

 

 

 *

 

 

 

「―― 少し休憩しましょう。夕食は食べるでしょ?」

 

「ん」

 

「何か食べたい物はある? リクエストがあれば作るけど」

 

「ああ」

 

「……魔理沙」

 

「そうだな」

 

「魔理沙」

 

 どんと机を叩かれる。ペンを置いて顔をあげるとアリスが険しい顔でこちらを睥睨していた。

 

「私の話、聞いてる?」

 

「えっと……何の話だっけ?」

 

「ご飯、食べたい物は?」

 

「あー……何でもいい」

 

 こちらをじっと見据えた後、小さくため息を吐いて台所に向かうアリスを尻目に俺は軽く伸びをした。

 うーんやっぱりアリスは凄い魔法使いだなと実感する。間近で作業して改めて気付かされたが、アリスはこの数時間、ただの一度も淀みなく、その上俺にも分かりやすいように噛み砕いて解説してやってのけた。それは今の俺には絶対に出来ないことである。こういった細かな所に明確な実力差を感じさせられた。

 せめて今日聞いたことは忘れないようメモをする。同じ事を何度も訪ねるのは情けないから。

 

 再び机に視線を戻し、ペンを持ち直す。特に重要だと思った部分を別の用紙に書き込んでいるとアリスが戻って来る気配と共に本の横に食事が置かれたのを横目で確認する。

 そのまま視線を用紙に固定したまま片手で箸を手に取りご飯を食べようとするとぽかりと人形に頭を叩かれた。

 

「いたっ」

 

「食事中に他のことをするのを止めなさい」

 

「今良いところなんだよ。もう少し」

 

「駄目よ」

 

 ひょいと用紙を取り上げられては為す術もない。無言の抗議の視線をアリスに向けるがそれも無視され、改めて眼前に料理を乗せた皿が置かれた。

 

 ほかほかと湯気が立った白米に大根と油揚げの入った味噌汁、牛肉の佃煮に山菜の天ぷらとアリスは見た目に似合わず最近は和食に凝っているらしい。

 因みに俺はどちらかというと洋食派だが、さすがに善意で作って貰った物にケチをつけるほど厚顔無恥な人間ではない。和食も嫌いじゃないし。

 

 いただきますと両手を合わせてから食事を開始する。お世話を抜きにしてアリスの料理は美味しかった。俺も一人暮らしという都合上自炊はするが、腕前は完全に負けている。

 

「それにしても、あなた少し痩せすぎね。ちゃんと食事は取ってるの?」

 

「一緒に餡蜜食べただろ?」

 

「そういうのはいいから」

 

 米とおかずを含み、しっかりと咀嚼してから嚥下する。しばらく間を置いて、向かいの席で苦笑するアリスに応えた。

 

「最近は家に籠って魔法の研究ばっかりだったからな。こういうちゃんとしたのを食べたのは……一週間ぶりくらいか?」

 

「はぁ?」

 

 笑みを消して真顔でこちらを凝視するアリス。美人なだけにこういう反応はちょっと怖い。俺は何だか居心地の悪さを感じて身じろぎをする。

 寝て、起きて、魔法の練習。忘れる前に素早く効果を紙に書いて、気が付くと朝日が昇っている。しばらく寝て、昼頃に目を醒ますと、また魔法の練習。最近の一日のサイクルは大体こんな感じ。

 お腹が減ったら木の実などを間食して空腹を凌いでいた。

 

「私の記憶が正しければあなたは捨食の魔法を習得していなかったはずだけど。……それとも仙人でも目指しているの?」

 

「料理をする時間が惜しいのさ、なにせ時間は有限だからな。それに軽食は済ませてるから問題ない」

 

 絶対に言葉には出さないが、常々俺は自分の力不足を感じていた。異変解決に赴く度、それはより顕著になる。

 だからこそ努力をしなければならないわけだが、最近は進歩がまるで見られない。スランプなんだと思うが、実力が全く上がっている気がしない。だからこうしてアリスに教えを乞うている。前世の知識も、魔法の修行や弾幕ごっこにはまるで役に立ちやしないから。

 

「あなた、何を焦っているの?」

 

「焦ってなんかないさ。ただ強くなりたいってだけだ」

 

「……捨食と捨虫の魔法を覚える気はないの? 人間の身では、限界があるでしょう」

 

「んー、ちょっとな。……本当に必要になった時は、考えるさ」

 

 言いながらへらりと笑ってみせるが、その実俺はそれらの魔法を覚えることはないだろうなと内心考えていた。

 人間なのでその内考えが変わるかもしれないが、今のところ妖怪としての魔法使いになるつもりは全くない。

 

「…………」

 

 まだ何か言いたげなアリスだったが、僅かに口を開いた後、視線を逸らした。会話が途切れたので食事を再開する。

 器の中のご飯を食べ切るとそっと近付いてきた人形に追加の白米をよそわれた。……もしかして、気を遣われてるのかもしれない。お腹が減ってるのは事実なので、有り難く頂くことにした。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 人も動物も寝静まり、入れ替わるように妖怪の活動が最も活発になる深夜。「もう夜も遅いから今日は泊まっていきなさい」という家主の一言を受け、俺は今、アリスの家の客室にいた。風呂にも入ってさっぱりした後、いつもの白黒の衣装を脱いでゆったりとした寝間着に着替えた俺はベッドの上に寝そべる。

 

 そのままなんとなく窓枠の外で煌々と光る星空を眺めていると軽めのノック音が鳴る。

 

「魔理沙、まだ起きてる?」

 

 扉の開閉音と共に現れたのは何やらボトルとグラスを持ったアリスの姿だった。

 

「どうした?」

 

「寝酒でもどうかと思って。ワインを用意したの」

 

「へぇ、ずいぶん気前が良いんだな」

 

 上体を起こしてグラスを受け取るとアリスはボトルを傾けて、真っ赤な液体をグラスに注ぐ。

 グラスを傾けて、中身を呷ると花のような香りと共に爽やかな甘味が口一杯に広がる。

 

「……どうかしら?」

 

「美味いな、これ。どこで買ったんだ?」

 

「これは、私が作ったの。だから売り物じゃない」

 

 ベッドに腰掛けたアリスが、覗き込むようにこちらを見ながら空になったグラスにワインをなみなみと注ぐ。

 アリスは料理だけでなく酒作りも上手いらしい。飲みやすいのですいすい口に運んでしまうが、案外度数が高いのか段々頭がぽぉっとしてくる。

 

「アリスは飲まないのか? こんなに美味しいのに」

 

「……私はいいわ」

 

 勿体ないなーと思いながら俺はグラスに口を付ける。アリスは自分で作ったと言っていたから、いつでもこの酒を飲めるのかもしれない。

 

「……うーん」

 

「どうかした?」

 

「この酒、結構強いな。もう酔ってきたみたいだ」

 

「……そう」

 

 視線を落として、手元のグラスをゆらゆら揺らす。窓から注ぐ月光に照らされ、真っ赤に輝く液体をぼんやり眺めているとベッドの軋む音。アリスが距離を詰めてくる気配を感じる。

 

「 最近はどう? 何か悩みがあるみたいだけれど。私でよければ、相談に乗るわ」

 

 肩に手を置き、アリスがぞっとするほど優しい声音で囁いた。鼓膜から脳内にアリスの言葉が滑り込み、何もかも委ねたくなるような気分に陥る。

 そしてそれは瓦解した土砂のように、俺は自然と口から言葉をまろび出していた。

 

「……魔法の研究が上手くいってないんだ。俺一人じゃ、限界があって……。だからアリスには感謝してる」

 

「他には? まだあるでしょう?」

 

「……霊夢との、弾幕ごっこで負けることが多くなった。今では、二割も勝てない。だから、もっと頑張らなくちゃいけない」

 

「では、捨食の魔法を覚えないのは何故?」

 

「……それは、返さなきゃならないから」

 

「返す? 誰に、何を?」

「魔理沙に、身体を」

 

「…………魔理沙は、あなたの事でしょう?」

 

「……それは、違う。本物の魔理沙は此処に――ちょっと待て」

 

 ぱちりと目の前で火花が散るような感覚と共に俺は我に返った。手からグラスが零れ落ち、カーペットに深紅の染みを作り出す。

 

「魔理沙」

 

 即座に立ち上がろうとするが、両手首をアリスに掴まれてベッドの上に押し倒された。身体強化の魔法を使っているらしく、抵抗しようにも、万力のような力で押さえ付けられた両手はピクリとも動かない。

 

「魔理沙、落ち着いて。私の目を見て」

 

「…………う」

 

 限界まで近付いたアリスの顔が視界一杯に広がる。逸らそうにも目が離せない。と、また思考に靄が掛かり始めた。

 混濁する意識の中でアリスの言葉だけが耳に届く。

 

「明けない夜。永夜異変の時、あなたは私を助けてくれた。その時から――私はあなたに好意を抱いている。だから、教えて欲しい」

 

 

 

「――あなたは、誰?」

 

 

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