俺ガイル主にサキサキの短編集(仮)   作:なごみムナカタ

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奉仕部の二人と小町の四人で初詣でに行った冬のお話。

いつもなら怪我するんじゃないかって勢いで布団の上にダイブして起こしにくる小町が今朝はおかしいんだが……

一体なにがあったんだ……



小町(?)視点はこちら→https://syosetu.org/novel/194482/3.html
沙希(?)視点はこちら→https://syosetu.org/novel/194482/4.html


初詣でお願いが叶っちゃった
「どうしたんだよ小町?」


「あ! いっけなーい! 小町ったらお守りを買い忘れてしまいましたー」

「それに絵馬も書き忘れちゃったのでダッシュで戻りまーす!」

「ああ、お守りなら俺も買っとこうk……」

「お兄ちゃん何言ってんの⁉ ごみいちゃんのバカ! ボケナス! はちまん‼」

「は、八幡は悪口じゃねえだろ」

 

 初詣でいつものごとく小町に理不尽に罵倒され、それでも怒らない俺は本当に出来たお兄ちゃんである。小町が可愛すぎるせいもあるが。ただお兄ちゃんとして優秀でも人としては底辺なんですけどね。

 そう、いつもと変わらないはずだった。だが、その日は突然訪れる。

 

 

 

ヒッ⁉ ナンデネコガ⁉

コマチー、ハチマンオコシテキテネ。シゴトイッテクルカラ。

エ? エ? ハチマンテ…?

 

 

コンコン ガチャッ

「……ひっ、ひ……お、お……にいちゃん……起きて……る?」

「…………ん……小町ぃ……もうちっと寝かせてくれ……今日は日曜日じゃないだろ……」

 

 日曜朝はプリキュアがあるので早起きは当たり前だ。何だったら週5でプリキュアやってくれれば平日起きるのも苦じゃなくなるのに、といつもながらの益体のない妄想を膨らませていると顔に何かが当たることに気付く。

 

「……ん?」

「…………」

 

 顔の近くに熱を感じる。寝る時は暖房とめてるし他に熱源なんてあるはずがない。薄く目を開けて周囲を探るとその正体は至近距離にいた小町の吐息であった。

 

「…………え」

「…………ひゃいっ⁉」

 

 N極同士が反発しあうように飛びのく小町。あえてN極で例えたのは決してニートだからではないぞ。小町までニートになっちまうからな。大体、俺なんかがニートになろうとしたら親に勘当される。小町のように愛情を注がれた選ばれし者がなるべきだ。……やっぱり小町もN極なのかよ。

 

「小町……そんなにお兄ちゃん見つめてどしたの?」

「え、え、ううん、な、なんでもない、なんでもないから!」

 

 態度がなんでもなくないんだよなあ、キョドリ過ぎで。お前は俺か。確かに兄妹だけど似てるとこなんてアホ毛ぐらいしかないと思っていたのに。ってか顔赤くね? こいつ熱あるんじゃないのか?

 

「小町、ちょっとこっち来てくれ」

「え? な、なに、ひっ……お、にいちゃん」

 

 なんでさっきから俺のこと呼ぶ前に小さく悲鳴あげるんですかね。お兄ちゃんさすがに傷付いちゃうよ。と、そんなことより小町だ。俺は近づいてきた小町の後頭部に右手を伸ばし、優しく引き寄せた。

 

「はへ? ひっ、き⁉」

「……んー、ちょっと熱っぽいんじゃねえか?」

 

 おでこ同士をつけて熱を測る。心なしか高い気がするがこっちは寝起きで体温が下がり気味だし正確に比較はできない。じゃあなんでこんなことしたかって? そりゃ愛しの小町におでこをつけれるチャンスだったからだ。いや、この答えは完全にシスコンだからよそう。俺はシスコンじゃない。小町を溺愛しているだけだ。うん、シスコンだね。

 とにかく熱があるという疑いが浮上しただけでもおでこチョンした甲斐があるというもんだ。

 

「俺は着替えとくから熱計ってこい。風邪なら一緒に病院行ってやるから診察券と保険証用意しとけ」

 

 ここで用意しとくと言えればカッコよかったんだが、生憎そういった類は俺の管轄外なのでどこに仕舞ってあるのかも分からない。

 

「……小町?」

「…………あ、え、ああ、うん、熱計ってくるね」

 

 普段の快活さは何処に行ってしまったのか。

 俺がなにかする度に呆然と立ち尽くし、話しかける度にキョドる。

 いつから内面までお兄ちゃんに似ちゃったの。なぜ俺から学び取ってしまったの。反面教師にしてくれなかったの。

 

「……ま、体調が悪いせいかもしれないし治れば普段通りなるか」

 

 着替え終え一階(した)に降りると小町がキッチンに立っていた。熱はなかったようだがこれから朝飯作るのか?

 

「あ、ひっ、おにいちゃん、熱なかったから朝ご飯作るね」

「今から作るのか?」

「うん、今日はちょっと寝坊しちゃって……」

 

 俺はバカか。小町は受験生だぞ。もう本番まで一ヶ月に迫ってるんだぞ。朝飯くらい気を利かして作ろうとは思わないのか。それでも千葉の兄か。

 

「ああ……それじゃ俺が作るから小町は座ってていいぞ」

「え?」

 

 鳩が豆鉄砲をくったという表現がピッタリな小町の表情に自然と笑みがこぼれてしまう。あれ、そこまで驚かれるくらい珍しいですかね。珍しいんだな。

 普段、小町が自分でやるって家事を率先してるから元々怠け者である俺にシナジー効果を生み出してしまい何もやらなくなっていた。

 って何もやらないシナジーってなんだよ。何も生み出してねえだろ。使い方間違ってんな。玉縄のこと言えんわ。

 

「え? え? い、いいよ別に、ひっ、お、おにいちゃんは座っててってば!」

「遠慮するな。いつもやってもらってるし、たまにはいいだろ」

 

 反論を一切認めるつもりはないと行動で示す。晩飯を豪勢に、となるとかなり準備して料理本なども見なければいけないが、朝食程度なら小学6年生レベルな俺の家事能力でも事足りる。小町ほど手際は良くないが味噌汁の出汁をとり、サラダをトマト抜きで作ってとそれなりにテキパキこなしていく。

 

「お、鮭があるな。目玉も焼くか」

「あ、それ、あた……こ、小町、がやるから」

「んじゃ頼むわ」

 

 なにその『あた』って。この鮭、当たりなの? いつから鮭の切り身にガチャ要素できたの? などと細かいツッコミは控え、言われた通りフライパンの方を任せる。熱もないようだし不調の原因が今のところ思い浮かばん。

 やっぱあれか、受験勉強のし過ぎなんだろうか。地頭はいいと思うが基本的に小町はアホの子だし、勉強し過ぎて知恵熱でオーバーヒートでも起こしたのかもしれん。頭に虎徹や忍者でも付けて生活させてはどうか。ダメだな、別の意味でも終わってしまう画づらだ。

 

「…………」

「…………」

 

 キッチンに並んで作業していると小町がチラチラとこちらを見てくる。大丈夫、手も洗ったし毒なんて入ってないから。あ、でも比企谷菌の有無までは保証できない。

 

「……ひっ、おにいちゃん、サラダが緑ばっかなんだけど。トマトとかで彩りつけないの?」

「……やっぱ今日調子悪いだろ小町」

 

 俺がトマトを嫌いなのは知っているはずだ。皮肉なら調子ではなく機嫌が悪いのだが、当の本人はなんのことか分からないという表情。とぼけてるわけでもなさそうだ。

 

「? なんのこと?」

「……トマト嫌いって前も言っただろ」

 

 それでも食卓に出すのが小町クオリティだが、世の母親からすればそれは多数派だろう。やだ、小町って彼氏も出来てないのにオカンなの? 噂に聞くシングルマザーってやつなのかしら。あれ、視界が歪んで小町の愛らしいご尊顔がぼやけてしまうよ……。

 

「あ、ご、ごめん忘れてた。そっか、ひっ、おにいちゃんはトマト嫌いなんだよね」

 

 いよいよおかしい。普段ならたとえうっかり忘れていたとしても『そっかー、トマト嫌いだったよね、はいこれ』と言って更にトマトを乗せてくるはずだ。受験勉強のし過ぎで本格的に壊れてしまったのでは……?

 

「小町、ちょっと勉強しすぎなんじゃないのか? 時には休むことが必要なときもある。無理はするんじゃないぞ」

「⁉ う、わわわ…………お、おにいちゃん、へ、平気、だから……」

 

 いつもより労わり優しく頭をなでてやると「ふわぁ……」という嬌声が聞こえてきそうなくらい相好を崩して俯く小町が妙に愛らしい。いやいつも愛らしいんだけど、なんでか今日は別次元の可愛さ。やっぱ風邪か?

 元気な小町もいいが調子が出ずにあわあわ戸惑い気味の小町はさらに可愛い。この世の存在とは思えないほど可愛すぎる。戸塚、危うしな可愛さ。

 

「……顔赤いが? やっぱ熱とか……」

「へ、平気! 熱なんかないから、これはアレで、アレだから!」

 

 やだなにこの子。お兄ちゃんの生き写しみたいになってる。本気で普段の言動直さないきゃやばいと思ったどうも俺です。

 朝飯くってる時にチラチラ視線を感じるので食器洗ってくれのサインだと思い、さりげなく洗い始めたら慌てて小町があたしがやるからと止めに入り結局二人で洗っているどうも千葉の兄妹です。

 ていうか朝飯二人分の食器を二人で洗うとかそんな必要ねえんだよな。人的リソースの無駄としか言いようがない。

 

 起こしてもらっておいてなんだが今日はまだ冬休み。ただ明日から始業式なので、今日は日曜日じゃないのに夕方サザエさん症候群になりそうで怖え。誰か養ってくんねえかな。

 この季節の外気を下回る温度を眼差しだけで操る我が奉仕部部長の誕プレは既に準備済み。

 懸案がなにもない俺は去年からリビングに設置されている冬の要塞『KO・TA・TU』でぬくぬくと丸くなる。いやそれはカマクラだった。俺は普通に手足入れて机に顎つけてぐでーっとしてる。

 その斜向かいでは緊張した面持ちで受験勉強している小町。あれ、もしかして勉強の邪魔になってない? 俺ならこんな目の腐った奴が一緒の炬燵に入ってゾンビみたいな挙動を見せてるなんて気が散ってしょうがない。

 

カリカリ...

「…………」チラッ

「…………」グデー

カリカリ...

「…………」チラッ

「…………」

 

 やっぱ集中出来てないよな、時折りどころか2分に一回はこっち見てるし。せめて25分おきに5分間くらい俺を見つめてくれませんかね。なんだそれ、どこのポモドーロだよ。

 部屋でラノベでも読んで静かにしてるか。その前に珈琲でも淹れよう。

 

「小町、珈琲飲むか?」

「え、あ、うん、飲む」

 

 珈琲を持ってくると既に参考書と問題集が閉じられていた。やっぱり集中できてなかったのか。軽く溜め息を吐いてカップを渡す。

 

「もう勉強終わりか?」

「うん、終わったよ」

「え?」

 

 問題集を見せてもらうと確かに答えは埋まっている。ついでに解答と照らし合わせて採点してみるも間違いはなかった。つまり満点だ。

 

「どうしたんだよ小町? お前いつの間にこんな勉強できるようになったの?」

「む……別に大したことじゃないでしょ。授業聞いて塾でも勉強してれば分かるよ」

 

 うそ、なにが起こったの? 小町が雪ノ下のような優等生の発言をしている。今の小町なら俺より数学が出来そうな気がしてきた。なんだったら小町に教えてもらって苦手な数学克服したら国公立目指す未来まである。

 また夜にも勉強するんだろうが、ひとまず昼間の分を終わらせた小町は俺と同様ぐでーっと過ごしている。

 

ツン

 

 不意に小町の足に俺の足先がつんと触れる。ビクッとなった小町が驚いた様子でこっちを向いた。

 

 やめて!

 わざとじゃないから!

 お願いだから通報しないで!

 相手が雪ノ下なら通報待ったなしだが、小町なら平気か。平気、だよね?

 

 そんな被害妄想は杞憂だったようでそっぽを向いてまたぐでーっとなる小町。アホ毛がゆらゆらしてるのを見るとカマクラじゃなくてもじゃれたくなる。

 

チョン

 

「ん?」

「……………………」

 

 小町はそっぽを向いたままだ。たまたまか。

 

チョンチョン

 

「……………………」

 

 こいつ……

 この炬燵かなりデカいからこんな頻繁に足が接触することなんてありえない。通報を恐れた先ほどの行為を向こうから繰り返してくるとは。

 そっちがその気ならこっちからも手……もとい足を出してもいいよな、正当防衛だ。

 

ツン

「⁉」

 

 小町が目を見開きこっちに向き直る。俺はぐでーっとしながら視線を外す。あまりの白々しさに噴き出しそうになるのを堪えるので必死だった。

 

ツンツン

「‼ ~~~~っ」

 

 視線は逸らしても目の端に小町の顔は映ってる。表情がくるくると変わる様は見ていて愉快だ。

 

チョンチョン

ツンツン

チョンチョン

ツンツン

 

 チョンとツンのパンチ交換、もとい、キック(?)交換。こうしてじゃれ合うのは何年ぶりだろうか。小町が小学生くらいまではこんなことしてた記憶もあるが、俺の代わりに家事をするようになり所帯じみてからはこんなくだらないことしなくなったな。何だって今日は童心にかえってるんだろう。

 そういえば去年のクリスマス合同イベント打ち合わせ期間にも似たようなことあったな。

 あの時は炬燵の中で意志を持った柔らかいなにかか足に絡んできた。小町の脚といちゃこらしてると勘違いした挙句、気恥ずかしくて足で押し出したのはカマクラでした。そういうことしちゃうから俺に懐かないんだよな。八幡反省。

 

 水面下でチョンツン戦争を繰り広げながら、炬燵に入りながらミカン食うとどうして止まらないのだろうか、という哲学的な話をしていると小町がぽしょり呟く。

 

「…………なんか、部屋が広いね」

「は? 家は成長しないだろ。むしろ俺達がデカくなって部屋が狭く感じるはずだが」

 

 マンガやドラマでありそうな表現をするものの、まるで聞こえなかったかの如く華麗にスルーされ小町は呟き続ける。

 

「…………二人だと、広い、ね……」

 

 そういう意味か。昔、家出したことを思い出すかのような独白。

 大きくなってもうそんなことはないと思っていたが、まだ小町にはそんな幼いところが残っているらしい。童心を見せたのもこの言葉の布石だったようだ。

 俺は炬燵布団を捲り隣を空ける。

 

「…………ほれ」

「……………………え」

 

 あるぇ~?

 こうじゃなかった?

 お兄ちゃん空気読み間違えちゃったのかなぁ?

 モシャスでガハマさんに変化したい。空気読みセンサーの感度マックスでもう一度挑みたい。でもそれどころじゃなくなる気もするなあ。何とは言わんが、自分に実った果実二つに気を取られる未来しか視えない。

 そんな他人には口にできない妄想を働かせていると、察した小町がおずおずと隣に座り炬燵に足を入れてきた。

 

「……お、お邪魔……しま、す」

 

 なにこれ色っぽい。

 顔を赤くしながら足を入れる所作はまるで『混浴で恥じらいながらも湯船に浸かってしっぽりとする見返り美人』のような、なんだそれ頭おかしいな俺。妹になに抱いてんだよ気持ち悪い。

 自戒の念に苛まれている俺とは裏腹に小町はなんだか幸せそう。昔は炬燵に入る時、こうして隣同士で座ったもんだ。

 

「…………あの」

「ん?」

「…………課題終わらせたし、その、ご、ご褒美、ほしい……っていうか……」

 

 なんだかおねだりの仕方までいつもと違う。

 いつもなら『今日の課題もう終わっちゃった! 余った小町の時間をお兄ちゃんにプレゼントしちゃうからこれからデートしようよ!』などとそれらしいことを言って引くほど奢らされる未来が見えたものだ。まあ、そんなところも可愛いんだけど。

 こうやって控え目にお願いするのも新鮮でいいな、うん。っていうか慎ましい小町ってすっげえ可愛い。親父キラー改め親父スレイヤーと呼んでやろう。暴力的可愛さで親父を屠る者。うん、厨二っぽい。

 

「いいぞ。何がいい? ハーゲンダッツか? ケーキか? そんなんでいいならコンビニいってすぐに買って来てやるぞ」

「あ、そういうんじゃなくて…………」

 

 指を交差させくるくる。えー、いまどきこんなもじもじしてますアピールできる子いる? 一色ですら成し得ないであろうあざとさ。さすが小町!

 

「あ、頭……撫で、て?」

「へ?」

 

 お兄ちゃんスキルをして欲しいって? さっきもしたけどまだ足りないのだろうか。

 まあ小町の御指名だし、それで喜んでくれるなら安いもんだ。

 

「ぅぁ…………」

 蚊の鳴くような声にならない音が漏れる。

 うわっ、だらしなぁ……。人様には見せられん顔になってるぞ。見てるのが俺だけで良かった。小町のこの顔は俺だけのもんだ。

 

 しばらく撫で続けてると段々俺に寄りかかる比重が強くなり終いには胸に頭を埋めて寝息を立てていた。

 やっぱ疲れてたんだな。受験まであと一ヶ月ちょいだ。頑張れ小町。あ、頑張ってない奴に言われてもムカつくだけだったりするから去年小町自身に助言されたな。

 

「…………愛してるぞ」

「」ビクッ

 

 あれー、この子寝てたのでは? なんかプルプルが伝わってくるんですけど。

 世界でたった一台、新型スマートフォン『KO・MA・CHI・エクスペリア』このバイブ機能を体験してみよう。

 なにこれ、CMできそう。

 

 ってかこの反応、絶対起きてるでしょ。

 俺の「愛してる」に対してのテンプレ「小町はそうでもないけど、ありがとうお兄ちゃん!」はどうしたの?

 なんでしなだれかかったままなの。あざといよ小町ちゃん。

 総武に入学できても絶対生徒会とか関わらせないようにしなくちゃ。

 

 とはいえ甘えられるのは嫌じゃないし、っていうかめちゃくちゃ好き。なのでお兄ちゃんはお兄ちゃんの責務を果たすべく頭を撫で、時にはポンポンしたり、わしゃわしゃする。

 ああ、なにこれめっちゃ幸せ......

 

×  ×  ×

 

「…………ん……んにゃ?」

「…………おう、おはよう」

「‼ あ、あた、小町寝ちゃった⁉」

「ぐっすり寝てたな」

「どれくらい⁉」

「二時間くらいかな。とっくに昼過ぎてるけど」

 

 がばっと起き上がり机の上を片付けながら慌てて喋り出す。

 

「ご、ごめん、このあと約束があって、ついでに勉強も一緒にしてくるからお昼テキトーに食べてて!」

「あ、お、おう。それはいいんだが何時くらいに帰る予定だ?」

「えっと、18時くらいまでには帰るつもりだから」

 

 パタパタと自室に駆け込んだかと思えば、アーマリーシステムもびっくりの早着替え。

 小町ちゃん? あなたいくつのジョブできるんですか?

 そんなボケを独り言にした我が妹は颯爽と家を出て行った。

 

 小町が最後に残した言葉が気になる。

 

『――――勉強も一緒にしてくるから――――』

 

 …………誰と?

 

 

      × × ×

 

 

 ……………………遅い。

 

 

 17時半の連絡を最後に小町の携帯に繋がらなくなった。

 時刻はすでに20時を過ぎようとしている。

 テーブルに乗ってる俺にしては頑張った夕飯達の熱気も冷め、覇気のない様子で小町に食されるのを心待ちにしている。

 

 

 …………………………………………遅い!

 

 

 まさか一緒に勉強してる相手は男で、勉強にかこつけて小町を…………

 いや待て待て! 小町に限ってそんなことあるはずがない。

 あいつはあざとくて、しっかり者で、計算高い自慢の妹だぞ。間違ってもそこらの男の姦計などに引っかかるものか。

 ……ん? なんかそう評すと別の奴を思い浮かべそうになるが今は黙殺することにしよう。すまん、いろはす。

 

 そうなると別の心配事が脳裏に過る。

 考えたくはないが、非常に考えたくはないのだが、大事なことなので二回言ったが、代表的な心配事は…………

 

 ――――事故とか。

 

 有り得ない話じゃない。

 一番身近な交通事故でいえば日本だけで年間50万件近く起きているし、その死者数は3500人にも上るという。なにより俺自身がその経験者なわけでリアルに実感できる。

 

 料理が冷めていくのに比例して小町に対する不安の度合いが増していく。こんなことなら一緒に付いて行けば良かったと益体もないifに心を捕らわれてしまう。

 俺が事故に遭ったとき、小町はこんな気持ちだったのだろうか。いや、あのときは入学式前だったから帰りが遅くなるとか以前に連絡が入ったのでこんな心境ではないだろう。だが、突然の電話の相手が警察関係者や病院からだと分かった瞬間、平時ではなくなる。仮に今その類の電話がきたら俺は事態を小町に直結させるだろう。その不安、焦燥は筆舌に尽くし難い。

 

「小町はこんな思いをしてたのか……」

 

 退院した後もサブレを助けたことを追想し、あんな思い二度と御免だと思っていた。

 そう言いつつも同じ状況になればまた身体が勝手に動くんだろうなと己が在り方に諦念していたが、こんな思いを小町にさせるくらいならその在り方を矯正していくべきだろうと本気で考えていた。変わることが現状に対しての逃避と宣ったこの俺が、だ。

 

 ――――21時

 

 …………不安で一杯になり祈るように小町の帰宅を待つ。

 

 探しに行きたいがどこを探す?

 闇雲に探しても成果は上がらないだろうし小町の交友関係は俺と違って広い。まず無駄足になるだろう。それどころか家を空けて入れ違いになったり、もし、もしも家の電話に警察や病院から連絡がきたら対処が遅れてしまう。

 家を支配する静寂が、俺の心音をより際立たせる。それは徐々に早くなり、頭に浮かぶのは悪いことばかりだ。

 

 

ガチャッ

 

 

「‼」

 

ダッ

 

「ひっ、おにいちゃん、ただいm「遅いだろ‼」遅くなっ⁉ ……って…………」

 

 怒鳴りつけると小町は固まってしまう。俺が小町に怒るなんて滅多にないし、悪いとは思ったが抑え切れなかった。

 

「なんで連絡しなかった‼ 心配したんだぞ⁉」

 

 小町は答えない。というより答えられない。小刻みに震えている。それに気付いた俺は「やっちまったー」と叫びそうになったがなんとか押し殺す。

 

 いや、心配するのは当然だし自覚はしてもらいたいが、俺が小町を怯えさせてどうすんだよ。反省させるためには『叱る』じゃなきゃ…………『怒る』と個人的な感情をぶつけてこじれちまう。小町の為に、小町を愛してるが故にかけるべき言葉、するべき行動は…………

 

 俺は小町にゆっくりと近づいた。怯えて半歩後退る。それを見てどれだけ愚かな行為だったか痛感した。

 ゆっくりゆっくり。普段よりも優しく、壊れ物を扱うように。

 

 小町をそっと抱き締めた。

 

「……ひっ、お、おにい……ちゃん……?」

 

 はじめは強張ってた身体の力が徐々に抜けていく。

 落ち着いてくると小町の身体が冷え切っていることに気付く余裕が出てくる。

 

「…………ごめんな、怒鳴っちまって。お前のことが心配過ぎてつい、な」

「‼ ――――っ」

 

 小町の手が俺の背中にまわされた。もう十分伝わっただろうけどちゃんと言葉にしておかないと。俺に言葉足らずなところがあるせいで奉仕部でも軋轢を生んだ経験をしたわけだし。

 ていうか怒鳴りつけた後に優しい言葉をかけて安心させるとかDV夫のテンプレみたいだな。うん、気をつけよう。

 

「……どうして連絡してくれなかったんだ?」

 

 あくまでも理由を、原因を問う為の言葉。いつもの小町に話しかける優しい声音だったと思う。

 

「……スマホのバッテリー切れちゃって……勉強の後にあた、さ、沙希、さんとちょっと話してたら長くなっちゃったの……」

「そうか……」

 

 これで行先と原因は分かった。あとはどうすれば良かったのか、最善を模索する。

 

「川崎んちで電話借りて連絡することも出来ただろ? 今度からそうしろよ。予定より二時間も遅くなったらどう楽観的にみても不安になっちまう」

「…………うん、反省してる……」

「…………で、大志にちゃんと送らせたんだろうな?」

「え?」

「え? ってあの野郎、小町にこんな夜道を歩かせたのか。墓石抱かせて岩井海水浴場に沈めてやる…………」

「わー、待った待った! 大志、くん、にはちゃんと送ってもらったから、ひっ、おにいちゃんは手を汚す必要ないんだよ‼」

「そ、そうか……まあ、こんな大事なときに役に立ったことは認めてやってもいいかもしれんな」

「え? ひっ、おにいちゃんが、大志、くん、にそんなこと言うなんて……‼」

「うっ…………とにかく! 小町が無事で良かった。夕飯冷めちまったから温めなおして一緒に食おうぜ」

「え……つ、作って待っててくれたの……?」

「いつもやってもらってるからな。受験目前の妹に代わってこれくらいやるのはお兄ちゃんとして当然だろ」

 

 今日一の驚きを見せ次の瞬間、顔をくしゃりと歪めて瞳を涙で一杯にする。

 

「ぅぅう…………ひっ、おにいちゃ、ん…………ずるいよぉ…………」

「? なにがずるい?」

「…………そんなんされたら……諦められなくなっちゃう……よ……」

 

 主語がないので、いくら国語学年3位の俺でも汲み取るのが難しい。

 こういう場合は余計な質問をせずオート発動のお兄ちゃんスキルで乗り切るのが正解だ。そして本日三度目となるなでなでを敢行する。

 

「ホントに心配かけてごめんね……」

「俺も入学式の時、心配かけたしお相子だな」

「……………………入学式?」

 

 …………入院したこと忘れるなんて台無しだよ‼ お兄ちゃん泣くよ? これは泣いてもいいよね⁉

 

 夕飯のあとも小町とのイチャイチャはとどまるところを知らず、小町の部屋で耳掃除をしてもらうという至福まで味わってしまう。

 女子(妹)に耳掃除してもらうなんて初めての経験で、俺の耳の穴童貞は小町に捧げられました。って耳の穴童貞ってなんだよ。造語が気持ち悪すぎだろ。せめて穴はとれ。

 

 耳掃除も終わり、そのまま小町の膝枕で耳をマッサージしてもらう。受験生の妹に何やらせてんだよって思うかもしれんが、小町から言い出したことなんだぜ? やだ、この子お兄ちゃん好き過ぎでしょ!

 この世の天国を味わい意識が朦朧とする中、こんなことをいってきた。

 

「ひっ、おにいちゃん、明日始業式ですぐ授業もあるんだよね?」

「…………んー、あー……確か午後までみっちりなぁ……スケジュール設定したやつ誰だよ、いままでこんなんなかったろって感じだわ…………あー、行く前から帰りてぇ…………」

 

 なにこのダメな人間。ナマケモノだってもうちょっとマシな受け答えするわ。いや、実際ナマケモノと対話なんてしたことないから知らんけど。そんなダメダメな兄に対しても慈愛に満ちた声音で話しかける最愛の妹。

 

「……いつもパンでしょ? そ、その……お弁当作ってあげよっか?」

「…………あー…………えっ⁉」

 

 急に覚醒した。小町の弁当とか半年に一回とか年に数回レベルのレアアイテムだぞ! ガチャで当たり引けなくても小町に弁当作ってもらえたら、それだけでご飯三杯は軽い。あれ、表現が合ってるせいで逆に凄いと感じないじゃん。でも実際はそんなもんじゃないからな?

 

「マジか、頼むわ‼ 俺の妹が天使すぎるから早く家に帰りたい件」

「結局、帰りたいのに変わりないんだ……」

「家大好きだからな……………………お前がいるし」ポソ

「――――っ‼」

 

 ああ、ぽしょぽしょ言ったのに聞かれたわ。今日なんだよ、『家族羞恥プレイの日』かよ。新たに制定してほしい。どこに訴えれば通るかね。

 

「…………ってか勉強の御褒美が頭撫でるだけで、小町がしてくれるのが膝枕と耳掃除と弁当作りって釣り合い全然取れてなくね?」

 

 ずっと思ってたことがつい口を吐く。これ俺が得しかしてねえじゃん。

 今年のタイトルホルダーで言えば俺が松井裕樹を放出して小町から森・山川・中村の合わせて三冠王トリオを貰うようなもん。

 誰が膝枕と耳掃除と弁当作り担当だろう、興味が湧くな。いや、暗に松井裕樹をディスってるみたいになってるがセーブ王すごいことだからね? 俺の頭ナデナデも17年間のお兄ちゃん生活で培われた職人的な……すいません、黙ります、はい。

 

「じゃ、じゃあ……もうちょっと御褒美もらって、い、いい?」

「おう、なにがいい? ハーゲンダッツならお兄ちゃんすぐに走って買いに行ってくるぞ」

 

 これってむしろ俺がハーゲンダッツ食いたいんじゃね? って具合に押してるな。俺ってそんなハーゲンダッツ好きだっけ。自らに嗜好を問い質そうとするも小町に遮られた。

 

「ううん、このままでいてくれればいいよ……」

「えぇ…………いや、それって御褒美のターン、ずっと俺じゃん…………」

 

 などと正論で返すが、本当に! メッチャ‼ このまま永眠してもいいまであるくらい心地良いので思考を放棄した。

 

 はぁああぁぁぁ……今日の小町やさしー……いつもが優しくないとは決して思わないけど、それにしたって今日のは別格だ。こりゃ二ヶ月後の誕プレは奮発しないとな…………

 クリスマスのとき希望プレゼントリストに白物家電ってあったな。物によってはお年玉使い切っても足りねーよってのばっかだし何とかちょうどいいの見繕ってみるか。

 そういえば最後に『俺の幸せ』って書いてあったの思い出した。こうしてもらってるのが幸せだから俺が小町にプレゼントするのか小町からプレゼントされてるのかわっかんねーなぁ…………スースー

 

 身体が溶け出しそうに気持ちいい…………

 体温よりも少しだけ高い湯船に浸かっているような、自分と世界の境界線が曖昧な感覚。

 そんな甘美な環境に身を置くと自然と意識まで手放してしまう。

 だが、完全に眠るわけにはいかない。こんなところにこのまま寝たら小町が迷惑する。起きて自室に行くべきだ。

 そんな意志力が働いたのか、瞼は最後の抵抗をし薄くだか開かれ、一足飛びで時間を跨いでいく。

 

 ―――1分?

 

  ―――――――3分?

 

   ――――――――――――10分?

 

 朦朧とするどこかの意識の中で小町の顔がやけに大きくなった気がした。気がしたというだけで本当にそうなのか、いつだったのかなど不確かなことばかりだった。

 

「……………………んぁ……?」

............ゃん、おにいちゃん、そろそろお布団で寝てきなよ」

「あ、ああ、悪い、そうする…………」

 

 のそのそと、まるでカマクラにでも生まれ変わったような足取りで小町の部屋を出る。背筋だけはもともとカマクラだけどな。

 ベッドに入ると野比家の長男に勝てるかもしれない速度で眠りにおちた。

 

 

      × × ×

 

 

 いつものように寝起きが悪い俺を小町が起こしにきてくれたのだが様子が昨日と違う。

 いつも通り深いため息とともにそれは始まり……

 

「いつまで寝てんの、今日から学校でしょ? 早くご飯食べてくれないと片付かないでしょ。これだからごみいちゃんは……」

 

 ……なんだろう?

 昨日とのギャップが酷過ぎるせいか、いつもなら怪我するんじゃないかって勢いで布団の上にダイブして起こす工程がない分、優しく起こされてるはずなのに。あれ、目から汗が滲みでて…………。

 

「…………」モグモグ

「…………」モグモグ

 

 大した会話もなしに恙無く食べ終わる。いつも通りのはずなのにひどく物足りない。何かを期待している自分がいる。

 ――――そうだ。

 

「小町、そういえばもう弁当って作ってくれたか?」

「へっ? いつもお弁当なんて作ってないじゃん。それに小町まだ受験生だし、今は家事も忙しいお母さんに手伝ってもらってるくらいなんだから作る暇ないよ?」

「……………………え」

 

 カレンダーの日付を見る。時計の日付を見る。スマホの...以下略

 うむ、今日は一月九日だ。四月じゃない。昨日は四月一日で、一日経って一月九日になったんだな。それなら納得だ。

 

 ……

 ……

 ……

 

 って時空捻じ曲がってるだろそれ‼

 

 なんなの⁉

 昨日あんなに優しかった小町がすっごく普通なんだけど⁉

 四月バカだったとかでないと説明がつかない、いやもう俺がバカでも説明つくけどさ‼

 

「お兄ちゃん、朝からキモいよ? 今日は始業式なんだしピシッとしてよね。じゃ、小町さき行ってるね!」

 

 そう残して元気よく家を出ていく小町。

 

 ……小町……お前だけは俺を裏切らないと思っていたのに…………

 やっぱり最初から期待なんてするからショックが大きいんだな……ってちょっと待て。なんでショック受けてんだよ。小町は妹だぞ、マイシスター! なに彼女にしたいみたいに振舞ってんだよ、ってか俺乙女かよ、女々しいなオイ!

 

 朝起きたら優しい妹が元に戻っていた件について。なんてラノベのタイトルみたいな現象に頭がついていかなかったが総武高には着いていた。

 

「はぁ~、マジ今日の日程調整したやつ誰だよ……始業式の日に6限までフルに入ってるとか有り得んだろ……」

 

 だが始業式の日がそれだけだった場合はきっと昨日が始業式になっていただろう。

 

『どこかで帳尻は合せられる。世界はそういうふうにできている』

 

 やべ。あんなにカッコいい恩師の言葉を台無しにする使い方だわ。

 自嘲気味に笑うと自転車を停めて教室へ向かおうとする。そこに青みがかった黒髪の泣きぼくろが魅力的なクラスメイトの姿があった。

 えーっと、川上……川島……川なんだっけ、川なんとかさんでいっか。

 え……これ挨拶した方がいいの? いやするべきだよな、さすがに。俺のことヒキタニって呼んでるクラスメイトならいざ知らず、こいつはちゃんと比企谷って呼ぶしな。

 あれ、でも俺の方が川なんとかさんの名前覚えてねえじゃん。逆に俺のが川崎を知らないパターン。あ、川崎だわ、良かった。これでwin-winだね!

 

「…………お、よう」

「お、おはよ……」

 

 それだけ? それだけか。そりゃそうか。朝の挨拶だもんな。たまたま駐輪場で逢っただけだし、このまま一緒に教室とか行くとなんかバツが悪いしトイレでも……そう思っていると川崎に呼び止められた。その顔は赤い。うん、今日も寒いしな。納得。

 

「こ、これ、お弁当!」

「へ?」

 

 弁当を渡すとすごい勢いでダッシュして行ってしまった。

 あ、ちょっと、あなたスカート短いんだからそんなパタパタ走ると……

 

 …………うん、ご馳走様。まだ弁当食ってないけどな。

 

 っていうか…………

 

「…………………………………………なんで?」

 

 

 何故かクラスメイトがお弁当を作って来てくれた件について。

 

 ちなみにトマトは入っていませんでした。

 

 

 

了?




最後まで読んでいただきありがとうございます。

小町(沙希)視点がようやく完成しました。
小町(沙希)視点はこちら→https://syosetu.org/novel/194482/3.html
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