もしも切嗣が喚んだセイバーがオルタ化してたら   作:ひきがやもとまち

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失礼。実は前話の前半で何度かリメイクしてたのを途中で別けてあったんですが、清書するときに続きを書くのを間違えてしまい、気づかないまま投稿してたのを遅まきながら気づいた次第です。

今さら余計に不快なだけかもしれないとは思ったのですが、作者的には頭がこんがらがってしまいやすいため、前半部分だけでも出し直させていただきます。

本来はこんな内容の物を出す予定でした。失礼しました(陳謝)


ACT39(本来の予定だったバージョン)

 自らの手で、自らの首筋を切り裂いて鮮血の中で事切れたソラウ・ヌアザレ・ソフィアリの亡骸を前にして、セイバー・オルタは今更手の施しようのない相手に駆け寄る無意味な行為をする意思はなく、別のことについて思案していた。

 

 ソラウの死によってケイネス陣営は完全に聖杯戦争から脱落し、かくして黒く染まった騎士王の剣はランサーとの誓いを果たすことなく、さりとて破棄したという訳でもない。

 栄誉とは程遠そうな恋情に満ちあふれた、けれど誇りという『自分の中では有ったように信じれれば有る』そんな主観的な場合の「誇り」で良ければあったかもしれない戦いで決着の一斬だけは振るうことができた。

 

 そんな戦場跡となった、数瞬前まで死闘が行われていた廃工場前の空き地の中央近くに立ちながら。

 

 

「――っ、切嗣――ッ!!」

 

 

 そんな悲鳴じみた叫びの声を上げたのは、果たしてアイリスィールであったか久宇舞弥か両方か。それは分からない。

 ただ一つ確かなのは、叫び声を上げさせたのは、名を呼ばれた一人でも名を呼んだ二人でもなく、この場で生き残っている者達の中で最後に一人だけしかあり得ない、という事実のみ。

 

「・・・エミヤ、キリツグ・・・・・・私が剣を捧げたマスターよ。今日こそは貴様に確認しておかねばならぬ事がある。正直に答えてもらおうか?」

「―――」

「答えよ、マスター。貴様が万能の願望機とやらを求める真の理由とは何なのかを。

 まさか本当に、『世界の救済』などという幻想に使う気でいるわけでもあるまいに」

 

 まるで穢らわしいものを眺めるかのように、切嗣が見据える先に映っているのは、暗くくすんで灰色に変色したような翠緑と、その手に握った鈍い光を放つ長剣。

 その切っ先は真っ直ぐ、切嗣の首元に据えられてピタリと動きを止めている。

 

 鋭利な刃の先は、かすかに切嗣の首皮にめり込まされ、ちょっとでも互いの体を動かすために力を込めれば細い赤い糸が、首から流れ落ちはじめるのは確実な状況。

 

 だが、予想外すぎるであろう現状にいたっても尚、衛宮切嗣は答えない。

 むしろ予想していた範疇の出来事の中で、最も出来が悪い劇を見せつけられたかのように興醒めした表情を瞳に浮かべたまま、冷ややかな視線で自身のサーヴァントと無言のまま見つめ合っている。

 

 一方で、その問いの言葉を聞かされて、アイリスフィールと久宇舞弥はハッキリと悟っていた。

 あるいは、彼らの愛する一人の男も気づいたかもしれない。

 

 

 ・・・・・・セイバーが、英雄叙事詩に詠われた護国の王は――やはり黒く染まっても尚、『清廉なる騎士王だった』という事実に。

 

 

 彼女の問いは、それを示すものだった。

 先まで行われていたセイバーとランサー、二騎の騎士クラス同士による最終決戦。

 その在り方に、その戦いの中で用いられるはずだった衛宮切嗣の『殺し方』に、誇り高き騎士王の矜持が我慢できないものを感じさせられ、黒く染まった心に本来の在り方が戻ってしまう時が、遂に来てしまったのだ――と。

 

「・・・・・・セイバーに答えてあげて、切嗣。いくら何でも今回あなたが行うつもりだったことについては、あなたにも説明の義務があ――」

「悪いがアイリスフィール。今はお前は黙っていて欲しい。私はマスターの口から直接に答えを聞かせてもらう必要がある。そうでなければ、この問答に意味はない」

 

 夫に全幅の信頼を寄せているアイリスフィールだが、相手の心情も慮って取りなすための言葉を言おうとしたところで、だがセイバーは片手を上げて彼女を制すると好意を謝絶する。

 その反応に強い拒絶の意思を感じ取らされ、アイリスフィールは黙したままハラハラしながら事態を見守るしかない道を選択したが・・・・・・それによって愛する妻に全幅の信頼と同等の愛情を抱きながらも、必要とあらば切り捨てることに躊躇いを抱けなくなってしまった夫の男性に、『自分まで方針を変える必要性』を認めてやる理由にはなりようもない。

 

「―――いいや、アイリ。そこのサーヴァントに話すことなど何もない。栄光だの名誉だの、そんなものを嬉々としてもてはやす殺人者には、何を語り聞かせても無駄なことだ」

 

 この状況に至って尚、衛宮切嗣のセイバーに対するスタンスは変える気はなかったし、変えることの危険性を疑う気は微塵もないままだった。

 むしろ現状の変化により、悪化したと言っていいかもしれない。

 

 突如として『英雄らしい青臭い主張』を言い出したセイバーからの脅迫への返答として、今まで通り『アイリスフィールを仲介役の壁』として挟ませた体勢での会話のみに終始する。

 魔術師殺しとしての衛宮切嗣が最強クラスのサーヴァントを使いこなすために考案された指揮系統を、一歩も崩すことなく彼は維持する道を選びとる。

 

 

 ―――だが・・・・・・。

 

 

「そうか。では、答えなければ今ここで私が首をはねて、お前は聖杯戦争から脱落することを約束してやると言ったら、どうだ?

 念のため言っておくが、私には“聖杯にかける願い”はない」

 

 

 

 冷たい瞳と冷たい表情のまま、冷たい声音で告げられた『ただの事実』を突きつけられた瞬間。

 切嗣の瞳と表情に、わずかとはいえ動揺と戦慄が走ったのは、まさにその瞬間が初めての出来事だった。

 

 今更になって彼はようやく気づいたのだ。

 いや、思い出したのである。

 

 

 自分には、この黒く染まって悪性を得た英霊を、制御する術を一つも持ち合わせていなかった―――という事実を。

 

 

 本来は喚ばれるはずだった、蒼く、理想を貫く、“青臭い”セイバーとは異なり、アーサー王伝説を元に派生した『可能性上の英霊』である黒い暴君としてのセイバー・オルタには『聖杯にかける願い』がない。

 

 『腹いっぱいのアイスキャンディーが食べたい』とか『無限に貯められる器だったら山のようなジャンクフードが・・・』とか、そんなバカ話なら何度か(一方的に)聞かされたことはあるものの、まさか本気でそんな願いを叶えるために聖杯戦争を勝ち抜こうと思っている馬鹿すぎるバカ英霊は実在しないだろう。多分だが。

 

 令呪による縛りも、この黒いセイバーに対しては絶対強制権にはなり切れない。

 たった3回しか使用できない絶対命令権では、今の窮地を『殺すな』と命じて脱することが出来るだけで、自分のサーヴァントと永遠に別行動で聖杯獲得を目指すわけにもいかない。と言って自決を命じれば、自らも聖杯を諦めるに直結してしまう。

 

 黒いセイバーには、切嗣を殺したくなったときに『聖杯への願い』という、自主的な抑止がない。

 今の問いかけに切嗣が応じなければ、拒否したと判断して彼女は切嗣を殺したところで何の問題もなく、令呪によって今の窮地を逃れることは3回後には詰みになる。

 そもそも今からでは、令呪を使用できる時間すら与えられることはないだろう。使われる前に首を跳ね飛ばされるのは目に見えている。

 

 

 ・・・・・・自分が致命的な相手に、致命的な距離まで接近を許してしまっていたことを、衛宮切嗣は今この時はじめて自覚し、自らの失態を心から悔やまされていた。

 今までずっと支障がなかった問題だからと、気づかぬ内に油断してしまっていた己の迂闊さが呪わしい。

 

 その油断が、先程まで友好的な態度で接していた存在と、いきなり殺し合いの場面へと激変させられてしまった今がある。

 これだから暴君サーヴァントという存在は度しがたいのだ・・・ッ!!

 

「どうした? 今のような場合、『返事がない』という対応は、『拒否する意思』を示した仕草だと判断されるものだということぐらい言われずとも貴様なら理解しているだろうに。

 それとも、そう判断して良いということか? ――解った。名残惜しいが、お前たちのことは記録として英霊の座に持ち帰ることだけは約束してやろう。さらばd―――」

「~~~~・・・・・・っっ!! ・・・・・・わかった、セイバー。お前からの要求を聞いてやる・・・っ」

 

 歯を食いしばる想いで切嗣はそう答え、まるで羽ペンで書簡でも書くかのように軽い仕草で振りかぶられ、いつの間にか首筋の寸前にまで再度迫りつつあった斬首の刃が、首の皮一枚を斬られた地点で停止する。

 

 間一髪のタイミングだった。

 あまりにも自然体な挙動だったため、意識の死角に入られてしまって、切嗣でさえ首に食い込まされた刃の冷たい感触を実感する瞬間まで察知できなかった必殺の黒剣はギリギリで、衛宮切嗣の命を救ったのだ。自らが殺そうとした処刑を自ら辞める、という救済によって。

 

 

「では、話すがいいマスターよ。お前の口から、お前の言葉で、私に聞かせるための言葉としてお前が選んだ表現を用いて、お前の意思と願いを、お前のサーヴァントである私に向かってな。

 なに、安心するがいい。たしかに私は暴君にはなったアーサー王ではあるが、ブリタニアの王であり、マスターに仕えるメイドであるのも、また事実。

 メイドからの要請を聞き入れてくれたご主人様の真意が如何なるものであったとしても、私は寛大なるご主人様であるマスターを殺すようなモードレットになることだけは決してない。安堵して話すがいい」

「・・・・・・僕が聖杯にかける願いは、アイリスフィールから聞かせたとおりさ。変わることは決してない。

 僕は聖杯を勝ち取り、世界を救う。それが僕の、聖杯にかける願いだ――」

 

 

 苦々しい口調と表情で、衛宮切嗣は目線だけは反らしたまま、召喚の日以降はじめて己のサーヴァントと向き合い、己のサーヴァントの問いに答える形で会話を交わし始める。

 ――語られ合った言葉の後半と前半だけを繋げると、あんまり会話が成立してるようには見えなかったかもしれない内容ではあったものの、前半と前半だったら合っているので成立している。

 

 単に今さっきまで自分がやってたこと考えたら、「どの口が・・・!」としか言いようない発言してくる暴君が暴君だったから悪かっただけである。暴君とは「自分が正しい」を地でいく存在だから仕方がない。

 

 そういう経緯を経てはじめられた、衛宮切嗣の悲憤と絶望と、怨嗟と失望、底知れぬ悲嘆と怒りの念に満たされた彼の吐露。

 今までは貝のように閉ざされ続け、沈黙のみを答えとして返し続けてきた切嗣から乾いた声で語られる独白。

 

 

 それは彼が――如何に争いや闘争を憎んでいるか、という悲憤。

 

 戦場という場所が、正義も悪もなく地獄でしかない、という怒り。

 

 にも関わらず、人類全てが憎しみの対象とすべき戦場に、今なお幻想が在り続けている、という悲嘆。

 

 そんな幻想を、戦場に抱かせ続ける原因を創り続けてきた過去の英雄たち、という怨嗟。

 

 

 そのような幻想をヒトが信じ続ける限り、一人残らず全ての者が闘争への憎しみと戦場への禁忌の念を抱かなければ、人類史が戦争を放棄することはできないのに、現状の世界では、現在の人間たちの在りようでは、永遠に世界はこのままで、最終的には殺し合いが「必要悪」として肯定されて実行されてしまうしかない。

 

 それも全ては、さも戦場に尊いものがあるかのように演出し、掛け値なしの地獄でしかない戦場を「地獄よりはマシな場所だ」とする幻想を、美談として売り込んでしまった過去の英雄たちの殺戮劇を、華やかな武勇譚として語り継いできてしまった結果。

 

 その結果が、今もこうして世界中で争いが起き続けている現在。いい迷惑だ――と。

 

 

 

 

「それじゃあ――それじゃあ切嗣。

 あなたがセイバーやランサーに屈辱を与えるような戦い方を殊更に選んで実行したのは・・・・・・英雄に対する憎しみのせい・・・?」

「まさか。そんな私情は交えないさ。僕は聖杯を勝ち取って世界を救う。その為の戦いに、もっとも相応しく効率的な手段で臨んでいるだけさ。

 ――もっとも、“そういう手段”が、その手の奴らには有効打になりやすかったから多用してきたのは、否定しないけどね」

 

 夫から初めて聞かされる話に、かける言葉を失っていたアイリスフィールからの問いかけに、切嗣は肩をすくめて答えに応ずる。

 おそらく彼は、この地で戦いの火蓋が切って落とされた日から、目の前で颯爽と武勇を誇るべく召喚された英雄たちの姿を、抑えきれぬ憤怒と共に見守ってきたのだろう。

 

 英名を遺す者、英名に憧れる者、それらの者達が夢見た目標が叶えられることは、多くの犠牲と地獄を生み出されてきた『生贄』が支払われた後になっている事実を意味する。

 それは人々の『英雄への祈り』が、偉業と呼ばれるほどの大事を成し遂げるため犠牲の山を築いてきた者達を神聖視する『英霊』という概念を生み出す構造のシステム。それは彼から見て、双方共に許しがたい欺瞞と殺戮の共犯にしかなりえない。

 

 そんな彼にとって、『小綺麗な騎士の誇りある戦いを貫き通したいだけ』を理由と目的に召喚に応じたランサーや、騎士道の祖として高名な騎士王のセイバーというサーヴァントたちは、最も怒りと憎しみの感情を刺激される存在でしかなかっただろう。

 

 そう思ったからこそ、気遣いと共に放たれたアイリスフィールからの問いであったが、切嗣にとってそれは別の問題であり、憎いには憎いが、感情を戦いに持ち込んで策を見誤るケイネス・エルロイやランサーの鐵を不向きは彼にはない。

 

「今の世界、今の人間の在りようでは、どう巡ったところで戦いは避けられない。最後には必要悪としての殺し合いが要求される。だったら最大の効率と最小の浪費で最短のうちに処理をつけるのが最善の方法だ。

 それを卑劣と蔑むのなら、悪辣と詰るなら、ああ大いに結構だとも。

 正義で世界は救えない。そんなものに僕はまったく興味がない」

 

 そして――彼は遂に明かす。

 今まで明かさなかった、自分の望みを。聖杯にかける願いを。

 万能の願望機を手にすることで叶えたいと欲する、自分の悲願を。

 

 世界の救済。戦いを終わらせる。――そんな曖昧模糊とした抽象的な表現のみで語られてきた、自己の具体的な目標を。手にした聖杯の使い方を。

 

 彼は今、はじめてセイバー・オルタたちにも聞こえる場所で、遂に明かす刻が訪れる。

 

 

「終わらぬ連鎖を、終わらせる。それを果たしうるのが聖杯だ。

 世界の改変、ヒトの魂の変革を、奇跡を以て成し遂げる。僕がこの冬木で流す血を、人類最後の流血にしてみせる。

 そのために、たとえ“この世のすべての悪”を担うことになろうとも―――構わないさ。

 それで世界が救えるなら、僕は喜んで引き受ける」

 

「・・・・・・なるほど・・・・・・」

 

 

 そこまでの話を聞き終えて。

 セイバー・オルタは誰にともなく独言のように呟いてから、吐息する音を漏らす。

 今ようやく分かった、己がマスターの目指すところ。叶えたい願い。その内訳を彼女は今はじめて、ようやく『相手からの言葉』として聞くことが出来、理解して。

 

 

 

「つまり貴様は――マスターは・・・・・・やはり“世界を救う気はなかった”という事だな?」

 

 

 

 バッサリ切り捨ててしまうのだった。

 再び同じ場所に、同じぐらい重苦しくて微妙な沈黙が訪れちまったのは・・・・・・言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてランサーが、魔術師殺し的価値観から見れば、許しがたい生き方を割と貫き通して満足のうちに終わることが出来、世界救済を目指して聖杯戦争に参加したマスターの願いを使い魔のサーヴァントに一言で否定されてしまったのと、同じ日の昼頃。

 

 ウェイバー・ベルベットは、緑地公園の名目で取り残された雑木林の中で、コンビニ弁当食いまくって寝袋で夜まで熟睡する。

 そんな、嘘のように凪いだままの一日を過ごす生活スタイルを、ホームレスのように実行していた。

 

 三大騎士サーヴァント連合にライダーが加わって、キャスターと巨大海魔を討伐できた日から今日までずっと続けている、半ば日課のようになってしまっている彼の日常での過ごし方がコレだったからである。

 

 ほんの数日しか続けていないものの、それなりに勝手が分かってきて効率化もできるようにはなってきている。

 当初は冷めてから食べるのも嫌だったので、目的地の間近にあったコンビニで購入した直後にレンジで加熱してもらっていたが、距離が在るせいで結局は冷めてしまってから食べていた鰻卵弁当を、『最初から暖めなくても食べれる弁当だ』という意外な特徴があることに気づいたので、買ったときの状態で持ってきて食うようになっている程だ。

 

 日本の食文化も思っていたよりは意外にイケる――もちろん倫敦の美食と比べれば取るに足らないのは言うまでもないが、極東の島国としてはなかなかだ。

 

 そんな感想まで抱くようにはなっていたが、何となく悔しいしイラつくので声には出さず、ただただ無言のまま食いまくって、食い終わったら栄養ドリンクを飲みまくり、いっぱい食って大量に飲み終えたら、断熱シートの上に敷いた寝袋に入って寝る。夜まで寝続ける。

 

 見ようによっては、見る人によっては大変に羨ましいニート生活を満喫しているようにすら見えかねない彼の、ここ数日の日常風景。

 だが場所は、彼が催眠術かけてパラサイトしているマッケンジー宅の自室ではない。真冬の公園の雑木林の中である。

 

 立地条件という場所一つだけによって、彼が自堕落な引きこもり生活を送りたいという願いを抱いて、悲願として聖杯に叶えてもらいたくなったから行っている行動ではないことは誰の目にも明らかだったろう。

 

 普通に考えれば考えるまでもなく、あり得ない可能性上の平行世界ダメェイバーだったが・・・・・・何分にも召喚したサーヴァントが“アレ”なのだ。

 

 そういう可能性を疑われてしまっても仕方のない生活を普段から送っているデカ物のマスターとしては、自分個人の名誉のためにも声に出して誤解される危険性は消滅させておきたい彼であった。

 

 まして誤解される大本になりかねないデカ物が―――日常の中で姿を現さなくなっている現状では尚更に・・・・・・

 

 

 

『坊主、貴様さっきはまたしても新都の「お好み焼き・鍾馗」を素通りしおったな? あそこのモダン焼きは絶品だと言ってやってるだろうに、何故そうまで意地を張りたがるのだ。

 食と酒と女を楽しまずして人生は闇だというのに、まったくお前という奴は・・・・・・』

「うるさい。そんなに食いたいなら、さっさと実体化して自分で食いに行けるまで回復しろって言ってるだろうが、馬クリ」

 

 霊体のまま、姿を現さずに思念だけを伝えてきたライダーに対して、二日ほど前に言った言葉と同じような内容のやり取りを再び繰り返すウェイバー。

 最後の一言だけ、『馬鹿』と言おうとした瞬間に、ソーザイを口に放り込んでしまったせいで変な単語になってしまったが、言わなければ思わなければバレないだろう。

 コイツに知られるのは、なんか悔しくて嫌。だから言わないし思わないプライド高き見習い魔術師の少年ウェイバーくん。

 

 切嗣辺りからすれば、意地だの面子だのといった下らない感情に固執して行動するなど、愚かなこととしか思わなかったかもしれない思考だったかもしれないが、今のウェイバーにとっては深刻な拘るに足る重要事ではあったのだ。

 

 自分が『見習い』でしかない、魔術師として『実力不足のマスター』でしかないという事実は―――

 

 

「・・・で? 結局どれぐらい回復できたんだ、ここ数日でお前の魔力って。

 霊格は極上とは言えないけど、お前を召喚するのに使ったそれなりの場所ではあるし、あの晩の魔法陣もまだ解れてない。そんなところで日がな一日食って寝て過ごしてやってるんだ。

 これだけやってるのに、初日よりかは大分マシになったぐらいじゃ割に合わないからな」

『ハハハ、確かに。坊主の“らしくない”気遣いのおかげで余の魔力も大分調子を取り戻せたし、セイバーをはじめとする他の連中が動きを止めてくれて助かったわい』

「まったくな・・・・・・」

 

 声だけで伝えられる内容に、ウェイバーは珍しく素直に心からの弱音としての賛同を示す。

 今の状態で敵に襲われたら流石に不味い。

 それが今のウェイバーたちにとって、最優先の解決すべき重要問題であり、ウェイバー自身が抱えている個人的に大きな心理面での問題になっている部分だった。

 

 ライダーが、自身の魔力不足で実体化できない状態に陥っていたのである。

 

 

 

 

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