神様にされたら愛され過ぎてヤバい件について。   作:Am.

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GWの詫び高速投稿三連打。これも不定期更新。


06.聖剣(ソーマ)

 翌日の輸送車両。任務(ミッション)を受注し現場に赴くその室内は、何とも重苦しい沈黙に包まれていた。

 

 

『じゃあ今日は私がオペレーターするから、二人ともよろしくね……って。なんか凄い静かじゃない?二人とも大丈夫?』

「僕は別に問題ないよ。ソーマが静かなだけ。」

「………………馴れ合う趣味は無い。」

 

 

 そんなどうにか空気を取り持とうとするサクヤさんのオペレーター音声だけが虚しく響く。元々僕もそんな口数多い方ではないけど、こいつに至っては「話しかけんな」って壁すら感じるからな。正直こうなる予感はしてたからいいんだけどさ。

 

 ソーマ・シックザール。かのシックザール支部長の実子にしてマーナガルム計画の産物。ほぼ純アラガミの人間にして神機使いのオリジナル。そうした境遇は表向きになってないから僕も触れないが、彼はある意味で僕に一番近い存在と言える。

 

 そして僕からしても攻撃性能という一点に関して言えばサクヤさん────下手すりゃリンドウ以上に厄介な相手だ。神機への高い適合率による破壊力に加え、バスターと呼ばれる一撃に特化した大剣型。そして本人の潜在能力が噛み合った結果、その突破力は第一部隊の中でも突出してる。

 

 リンドウが戦局を詰める役なら、ソーマは戦況を覆す鬼札だ。その上戦闘経験こそはリンドウに劣るが、年を考えれば十分すぎるほどのベテランと呼べる。片付けようにも小型の神骸種をけしかける程度では歯が立たない。

 

 

 ………その挙句に、だ。

 

 

「ねえソーマ?」

「………………なんだ。」

「その神機さ。どうしたの?」

 

 

 相も変わらず沈黙が続く輸送車の中。僕はソーマの手にする()()()()を指さして尋ねた。そうすればソーマは僕の方に僅かに上げた視線をふいっと逸らして黙りやがったが。そうなんだよ。どういう訳かソーマの神機が妙な事になってるんだよ。

 

 何しろソーマの神機────イーブルワンは元々漆黒のバスタータイプの神機だった。それが何をどうしたのやら、ものの見事に神機が変色してる。

 

 そして僕は僕で、実はと言うとソーマの神機の色が変わることは知っていた。何しろもっと先の未来、ソーマは人型アラガミの抜け殻────「シオ」と呼ばれた少女のアラガミの亡骸を当の漆黒の神機で捕喰する。その際に変質した姿が今僕の目の前にあるソーマの神機なのだ。

 

 だがそれは本来であればまだまだ先の出来事のはず。一体何をどうやって神機を白く変質させたのか。少なくともロシアを攻め落とす際に交戦した時はまだ黒いままだった筈なのに。

 

 

「………知るか。気付いたらこうなっていた。」

「そういうものなんだ?神機が突然変異するなんてそう有るものじゃないと思うけど。」

「………………………………。」

 

 

 もう少し踏み入って話を聞こうとするが、そうするとソーマが無言で僕を睨みつけてくる。「黙れ」と暗に訴えているのは分かったから僕も黙るけどさ。要はこいつの神機がいつの間にか謎のパワーアップを遂げていた。僕にとっては最悪も最悪の想定外なんだよ。

 

 

 だから今回の任務からジゼルに魂の書(テウルギア)を貸し与えたのは大正解だった。何しろ彼女が戦場を牛耳る以上、その親睦会の難易度は先の二つを遥かに上回る。流石のソーマとはいえ中身の入った神骸種相手では、単騎で生き延びる事は困難だろう。

 

 

 

 

 

「………………………ゼロ。」

「ん。なに?」

「………何故お前は、そこまでして戦う?」

 

 

 なんてソーマに迫る死の予感に内心浮ついていた矢先。ふとソーマが藪から棒にそう尋ねてきた。そういう無駄な会話とか嫌いそうなヤツなのに。さっきだって僕の問いを黙らせたくせにどうしたと言うのか。一瞬そう思ったが、その理由は少し考えれば分かった。

 

 だから敢えて、こう答えた。

 

 

「君と同じだよ。ソーマ・シックザール。」

「………………なんだと?」

「大切な人を奪われ、奪われそうになり、それを恐れた。だからまた奪われる前に殺そうと躍起になっている。そうしないと不安で不安で仕方ないから。」

 

 

「だからソーマは第零接触禁忌種(ソロモン)を殺そうと必死になっている」。そして「それと同じだ」と暗に僕が答えれば、ソーマは僕に向けた視線を僅かに落とした。なるほど。こうして話してみるとソーマは実際口数は少ないが、思っていたよりずっと分かりやすい。

 

 そして────

 

 

「………それは、本当にお前の役目か?」

「仕方なかったってやつさ。僕は新型(こいつ)に適合したんだから。」

「………………………そうか。」

 

 

 ────意外と、優しい。

 

 

 まあ分かっちゃいたさ。「自分と居ると人が死ぬ」って思い込んで人を遠ざけようと振る舞う奴だ。根底が善良で無ければそうはならない。ましてやそれが過去の自分が重なる相手ともなれば多少は軟化するってものか。

 

 高い素養を持つ半人外故に幼年期から危険な任務に駆り出され続けた神機使い。この一点に於いてはソーマと僕は表面上は似た者同士と言える。強いて異なるとすればそれは「強制された」か「自ら望んだ」か。そこだけだ。

 

 ………ああ。だからソーマは、僕に「なんでそこまで」って聞いたのか。ソーマは支部長にやらされてたんだもんな。僕が好き好んで自ら死にに行くのを本気で理解出来なかったんだ。こいつ口数少ないコミュ障なだけで感性は割と常識人寄りだから。

 

 

「………まあいい。足手纏いになるようなら置いていく。邪魔なだけだからな。」

「どうにかついて行くさ。そうでなければ僕が生き残った意味が無いもの。」

『そろそろ着くわ。二人とも降りる準備をして。』

「………………………行くぞ。」

 

 

 輸送車両が目的地に着いた事で、僕とソーマが神機を片手に作戦区域に降り立つ。予め僕が準備を済ませておいた処刑場にして、岩山に囲まれた拓けた大地。さながら闘技場を思わす地形のそこは、ロシア支部では【劫罰(ごうばつ)天牢(てんろう)】と呼ばれている。極東で言う【エイジス】のようなエリアだ。

 

 何でもロシア支部の神機使いは厄介な大型アラガミをここに追い込み、他の邪魔が入らない状況で討伐に臨むらしい。要するにこのエリアを指定される時点で、任務の内容が大型アラガミとの一騎打ちである証左である。

 

 

「ヴォルルルル………」

『目標の出現を確認。……付近に他アラガミの気配は無いけど、一応警戒して。』

「ソーマ、僕は後ろから銃形態で援護する。君は前線を。」

「………………元からそのつもりだ。」

 

 

 そう、目の前の虎のような大型アラガミ────【ヴァジュラ】を前にソーマに戦略を伝える。何しろヴァジュラはロシア支部圏内に於いては最強クラスのアラガミ。一体が確認されただけで支部全体が騒然とし、部隊混在の合同作戦が行われるほどだ。

 

 確かにリンドウとの任務中、僕は乱入したヴァジュラを一匹片付けている。しかし今回のこの親睦会は正式に「ヴァジュラを一体討伐してこい」という任務だった。

 

 つまりロシア基準だとほぼ最高難易度の任務と言っていい。傍から見れば親睦会に叩きつけるにはあまりに無茶振りだ。

 

 

「先の二作戦での働きが評価されたかな。いきなり大物狩りとはね。」

「グア"アァオォ!!!」

『言ってる場合ですか。来ますよ。』

「分かってるよレン。」

 

 

 そんな任務をいきなり僕に任せたのはシックザールの過大評価────もありそうだが。それ以上に極東神機使いの異常さがあるからだろう。

 

 何しろ極東の連中は「ヴァジュラを単騎討伐したら一人前」という、ロシアからすればトチ狂った基準を持つ。そしてそれは今僕に同行するソーマもそうだ。

 

 極論すればこの程度の任務は「僕が役に立とうが立つまいがソーマ一人で片付く」。そう支部長が確信するからこそ、ソーマとの親睦会にこんな任務が当てられたと言っていい。

 

 現にヴァジュラが跳躍と共に僕に爪を振りにかかる瞬間。ソーマが僕の面前に躍り出ると、神機のシールドを展開してその軌道を塞ぐ。

 

 

「────────ッ!??グゥ……!!」

「………フン。」

「ありがとねソーマ。」

 

 

 タワーシールドと呼ばれるそのシールドは、展開速度と引き換えに大抵の攻撃を無効化する。最重量の大盾だ。その分見た目通りにくっそ重い……筈なんだけどな。

 

 それをソーマは一瞬で展開すると同時。ヴァジュラの爪を受け止めると、瞬時にそのまま神機を振り抜いた。

 

 

「失せろ。」

「ギャンッ!??」

「うお、よく飛ぶね。」

 

 

 俗に言う【パリングアッパー】と呼ばれる、バスター専用の強力なカウンター技術だ。その性能は僕もアラガミの姿で取り入れる当たりお墨付き、決まれば大抵の攻撃を防ぎつつ手痛い反撃を加えられる。

 

 現にモロに切り上げを受けたヴァジュラは、その巨体を浮かせて吹っ飛んだ。そこに直ぐさま僕も銃弾を撃ち出す。

 

 それは何発かは外れたものの、ものの見事に()()()()()()撃ち抜く。そのせいでヴァジュラはマトモに受け身を取ることも出来ず、地面に叩きつけられるようにしてダウンした。

 

 

『ヴァジュラのダウンを確認!……ソーマ、決めるなら今よ。』

「………………もう終わりか。呆気ないな。」

 

 

 そしてそれを予見したソーマは、既に【チャージクラッシュ】という全身全霊の一撃の構えを取っている。現に刀身にはオラクル細胞が収束して刃を生成し始めており、振り下ろすのにそうは掛からない。

 

 その上でコアを捉えるように振り下ろせば、それこそソーマの言う通りにヴァジュラは()()()だ。ロシアの頂点捕喰者が何とも呆気ないものである。

 

 

 ………だからこそだ。僕が行ったヴァジュラへの()()はこの場の誰しもが見逃していた。気付ける訳が無かった。僕が自らの細胞を込めてコアに撃ち込んだ弾丸────通称【血の烙印】を。

 

 援護射撃のフリしてヴァジュラのコアに撃ち込んだそれは、既にヴァジュラの身体を内側から蝕んでいる。

 

 

(準備は整えた。やれ、ジゼル。)

『………りょーかい。魂の書(テウルギア)、起動っ!!』

「────────グオ"オ"ォ"ォ"!?!??」

「………ッ、なにっ!!?」

 

 

 ソーマから一歩引いた位置で気付かれぬよう、ジゼルに感応現象で告げると同時。突如として倒れたヴァジュラから雷光が走った。

 

 蒼く輝き爆ぜるそれは徐々に赤黒い異形に変わり、身体の上に巨大な光輪のようなものを象る。それに伴いヴァジュラの甲殻から色が失われ、体毛が一層深い黒へと変色する。

 

 同時に無色の感情のない眼は赤い狂光を帯び、その気配が一変する。赤黒く変色したオラクル細胞を纏うそれは、ゆらりと身体を起こすと無言で僕らに相対した。

 

 

『!?……ヴァジュラの反応の変化を確認!!これは……神骸種!?そんな、周りには何もいなかったのに!!』

「今の今まで通常種のフリをしてたみたいだね。ソーマ、大丈夫?立てる?」

「………問題ない。それよりお前こそ────」

 

 

 そう形だけでもソーマに手を差し伸べると同時。ヴァジュラは前脚を大きく振りかぶると、なんと地形を巻き上げて僕らに撃ち出してきた。

 

 帯電した前脚で放たれたその岩礫は、牽制ながらに僅かに帯電している。それを土煙と共に浴びせられた僕は当然視界を塞がれ照準が出来なくなる。ダメージはそれほどでもないが、後衛としては致命傷だ。

 

 だから僕はすぐさま近接形態に切り替え、ヴァリアントサイズを一閃する。そうやって周囲の土煙を斬り払う訳だが、そうすれば既に目の前にはヴァジュラの姿があった。

 

 

【………………………ッ!!!】

「っと。僕から狙ってくるか。」

「なんだ……!?あいつ、潰す順番を理解してんのか……!?あのゴミみてえな真似しやがって………!!」

 

 

 確かに前衛と後衛だったら後ろから狙うけどさ。その挙句に視界を塞ぎ、鳴き声を潜めての最短での奇襲。挙句に僕が神機を振り抜いて出来た隙に捩じ込んできた。

 

 神骸種でも普通のアラガミでは出来ない高度な思考と反応速度。その動きだけで僕は目の前のヴァジュラ神骸種を裏で操る意識を確信する。ジゼルめ、初めてにしては上手い事動かすじゃないか。

 

 

【ガア"ァッ!!!】

「い"っ!?」

「────ゼロ!!くそっ、どいてろ!!」

 

 

 僕が横薙ぎに振るわれる前脚を神機の盾で受け止めるも、小盾(バックラー)なのもあって受け切れない。お陰で僕は吹っ飛ばされて地面に転がり、それを庇うようにソーマが距離を詰めた。お優しいことで。

 

 

「てめえ!!こっち見やがれ!!」

『ゼロ大丈夫!?無理しないで後衛に徹して!!前衛はソーマに任せて大丈夫だから!!』

 

 

 なんてサクヤさんは僕の身ばっか案じてるが、その認識は甘いんじゃないかな。現にソーマは神機を振り下ろすが、ジゼルの操るヴァジュラはヴァジュラは目視することも無く頭を僅かに傾ける。

 

 そうすると背を覆うマント状の鬣で、なんと振り下ろされたソーマの神機を受け止めた。

 

 

「………………なにっ!?」

【グァルルッ!!!】

「ぐ………ッ!??」

 

 

 そのせいでソーマの刃は情けない音を立てて弾かれ、その隙にヴァジュラは側面にタックルを繰り出す。ちょうど真横から斬りかかったソーマはモロにそれを食らい、思いっきり吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

 

『ソーマ!!………なに!?今なにが起きたの!?』

「あのヴァジュラ、ソーマの攻撃をガードしたんだ。ほらソーマ、しっかりして。」

「ッ、余計な真似を………!!それよりてめえの身の安全を優先しろ!!」

 

 

 倒れるソーマに銃口を向け、サクヤさんの代理として回復弾を撃ち込む。当のソーマは悪態吐いてるが、今回の僕は言われた通りに後衛に徹する。そうして実質的にソーマとヴァジュラ(ジゼル)一対一(タイマン)に持ち込んでやる。

 

 そう絶好の狩場をジゼルに提供してやるのにさ。ジゼルが操るヴァジュラはソーマを一瞥すると、僕を視界に据えたまま赤黒い電流を身に纏う。

 

 

【ガルルルル………ッ!!!】

「あくまで回復潰しか。面倒だね。」

【グア"ァッ!!!】

 

 

 その上でヴァジュラは両脚を前に叩き付け、赤黒い雷光を巨大な雷の砲弾として撃ち出してくる。色合い以外は通常のヴァジュラのそれと大差ない砲撃。防ぐだけならそう苦労はしない。

 

 だから僕はそれに対してヴァジュラのアラガミバレットを放とうと神機を構えたんだけどさ。それより前になんとソーマが僕の前へと躍り出た。

 

 お陰で僕の射線はソーマに塞がれ、ソーマは全身を神骸種特有の赤黒いオラクル細胞に焼き払われる事になる。細胞を侵蝕する、僕のオラクル細胞に。

 

 

「ぐっ………あ"あ"あ"あ"あ"!!?」

『ソーマ!!!………ッ、バイタルに異常発生!!これは……』

「全く無茶をするね。あの赤黒い雷撃は細胞を直に侵す。サクヤさんの報告書を読まなかったのかい。」

 

 

 一応黒煙を上げるソーマの身体に回復弾は撃ち込むけど、最大体力を直に削る以上はそう効果は無い。現にソーマは回復した後にも膝をつき、再度充電を始めたヴァジュラを睨み付けている。

 

 にしてもジゼルめ、さてはソーマが僕を庇うと分かって僕を狙ったな?こいつがここまで博愛精神持ちだとは僕も予想外だったけどさ。ジゼルは僕が思った以上にえげつない真似をするね。

 

 お陰でこれならこのままソーマを無事に殺せる。第一部隊最初の犠牲者がこいつになるのは僕にとっても僥倖だ。回復弾も撃った手前、建前的にも僕がソーマに出来ることはもう無い。

 

 あとはこれで────

 

 

『────ゼロ、お願い!!ソーマを助けて!!』

 

 

 ………………………………。

 

 ………………うん。まあ何もせずに死ぬとこ見守る、なんて真似は出来ないよな。流石に。

 

 

「言われずともだよサクヤさん。」

【………………ッ!??】

 

 

 だから僕は神機の銃身を帯電させると、ヴァジュラの放つ赤黒い雷撃に対して引き金を引く。この前リンドウと一緒に戦った際、ヴァジュラを捕喰して手に入れたアラガミバレットだ。僕は正体が正体な以上、一度捕喰して学習したアラガミの能力(バレット)は何度でも扱えるからね。

 

 で、赤黒い雷撃に蒼白のレーザーをぶち込んで相殺する訳だけど。そのついでに僕は神機を近接形態に変形させると、ヴァリアントサイズを雷撃の衝突に向けて振り抜いた。

 

 爆ぜる雷光を目眩しに明らかに射程外からの一閃。しかしヴァリアントサイズはその刀身の長さを自在に瞬時に切り替える。そんな遠隔斬撃は意識の虚を付く形で、ヴァジュラの両目を斬り裂いた。

 

 

【────ギャンッ!??】

「意趣返しみたいになっちゃったね。ソーマ、まだ行ける?それとももう撤退する?」

「っ、ざけんな……!!この位なんともねぇよ!!」

 

 

 怯むヴァジュラに対し、ソーマが再び距離を詰める。加速を乗せたバスターの振り上げは何の変哲もない通常攻撃だが、ソーマの身体能力で振るわれれば話は別だ。その一振りは腹を縦に引き裂く形でヴァジュラの身体を打ち上げた。

 

 ……いや。あれは神機が直撃する前に後ろに跳んで衝撃を逃がしたのか。それでも裂傷刻まれるあたりは流石ソーマって感じだが。

 

 しかもソーマは神機を振り上げた反動をそのままに、打ち下ろす形でチャージクラッシュを放とうと構える。本来チャージクラッシュはそんな連撃の合間に挟めるようなもんじゃねえだろ化け物が。

 

 お陰で余計な手を加えちまったせいで、ジゼルのヴァジュラが一気に窮地に陥る。そんな僕含めてソーマの勝利を確信する盤面、()()()()ヴァジュラの眼が赤く煌めく。

 

 

 その直後。構えるソーマの目の前に、コクーンメイデンの神骸種ことパンドールが生えてきた。

 

 

「………………なにっ!?」

『は!?こ、小型のアラガミ発生!!しかもこれって……』

「神骸種だね。小型を呼びつけて肉壁にするとは。」

 

 

 お陰でソーマの振り下ろすチャージクラッシュはパンドールに阻まれ、ヴァジュラにとどめを刺すには至らない。しかもソーマが斬り捨てたパンドールは腹部に内蔵したミサイルに着火すると、死なば諸共とばかりに自爆の体勢に入る。

 

 

「ソーマ気を付けて。そいつ爆発するよ。」

「チッ………!!」

 

 

 だがそうしてソーマが反射で飛び退くと同時。目の前の自爆体勢に入ったパンドールが、唐突に予備動作を解除した。それどころか着火したミサイルを腹部を展開して構えると、なんとソーマに向けて斉射する。

 

 

「………こいつ、小型の分際でフェイントを────」

 

 

 咄嗟にソーマはタワーシールドを構えて爆撃を防ぐも、絶好の隙を晒したヴァジュラからは随分と後退させられる。肉壁にする防御と自爆匂わせのフェイントによる後退。そしてそこを狩るような爆撃。

 

 今の動作見るにあのパンドール、ヴァジュラと合わせてジゼルの操作入ってんな?流石に野生個体があそこまで高度な戦術は披露しないもの。小型と大型の神骸種を同時に操作するとは器用な真似をするものだ。

 

 ただまあ今のミサイルもほぼ最後っ屁みたいなものだ。残弾を撃ち尽くしたパンドールはぐったりと項垂れ、活動を停止する。ソーマのチャージクラッシュ食らって最後っ屁撃つ辺り、寧ろ外殻が頑丈すぎると言える。

 

 何にせよパンドールの召喚により、ジゼルのヴァジュラはどうにか体勢を立て直した。小型神骸種の召喚なんて初見殺しのせいですっかり戦況は仕切り直しだ。ソーマもヴァジュラもまあまあ手傷負ってるって意味では痛み分けだが。

 

 

『ゼロ、ソーマのバイタルが危険域から回復しないわ。……このままじゃジリ貧よ。一回ここは撤退しない?流石に不測の事態が多すぎるわ。』

「だってよソーマ。流石に一度退いた方がいいと思うけど?君の傷には回復弾も効かないし。」

「何ともねえって言ってんだろうが……!!逃げたきゃてめえ一人で先に帰ってろ………!!」

「まあそう答えるよね。」

 

 

 リンドウさんが居たら間違いなく撤退を選ぶ状況。しかしソーマは僕の前に立ち塞がると、退く気配もなくヴァジュラに神機を構える。

 

 何しろソーマは分かってない。ジゼルは単なるヴァジュラの肉壁としてあのパンドールを召喚した訳ではない。むしろ大型の神骸種との戦いは、ここからが本番なんだ。

 

 

【ガルルルル………ッッッ!!!】

「……来やがれ化け物が!!ぶっ殺して────」

 

 

 両者が共に駆け出した矢先。ヴァジュラを狙うソーマに対し、ヴァジュラは跳躍する形で虫の息のパンドールに襲い掛かる。

 

 

「────なにっ!??」

 

 

 帯電した身体を捻るように突っ込ませる突進攻撃は、一撃で地中に根を張るパンドールの身体を喰い破る。そうしてデスロールにも似た動作でパンドールをぶっこ抜くと、ヴァジュラはそれをその場で()()()()

 

 

「なんだあいつ……召喚したアラガミを喰い殺した!?回復するつもりか!!」

「あれは違うね。ソーマはロシアで見てなかったか。」

「なんだと?」

 

 

 そうしてパンドールをバラバラに噛み砕いた後。ヴァジュラが纏う赤黒い電流が内側に収束し、その電圧を爆発的に高める。あの圧縮具合……離れないと僕もヤバイな。かと言ってソーマを無言で置き去りにする訳にも行かないか。

 

 

「ソーマ離れて。デカい一撃が来るよ。」

「……なんなんだあれは。怒りによる活性化じゃねえな。」

「【捕喰攻撃】による体細胞の活性化。……僕はあれを神骸種の【バースト】って呼んでる。」

 

 

 さながら近接型の神機使いが用いる捕喰攻撃と自己強化によるバースト。数多の神機使いを捕喰しその能力を分析した僕は、全ての神骸種にそうした能力を植え付けている。

 

 だが護衛に小型の神骸種を呼び寄せ、さらにそれを的に捕喰攻撃を成功させてバーストを引き起こすとは。流石に僕としても想定外。「その手があったか」って感じだよ。

 

 

【────ア"オ"オ"ォ"ン"!!!】

「来るよソーマ。全力で走れ。」

「………………チッ!!」

 

 

 全身が赤黒い輝きを放つヴァジュラが天を仰ぎ、咆哮と共に圧縮した電流を解放する。それは周囲を焼き払うに留まらず、地走りとなって周囲に無数の雷の柱を発生させる。

 

 周囲を無差別に破壊し尽くす大放電は逃げ場など存在せず、雷撃を見切りこそすれ僕も真面目に命の危機を感じる。普通に僕も対処誤ったら死ぬやつだもの。僕がそう命じたからとはいえジゼルめ、マジで僕ごと殺す気だね。

 

 けどそんな攻撃に晒されてもソーマは冷静でさ。なんか神機の刀身を地面に突き刺してタワーシールドを展開すると、即席の遮蔽物を作り出した。

 

 その上でソーマは僕の手を掴んで乱暴に引くと、僕の身体を神機の陰に運ぶ形で守る。流石に僕もされるがままに盾の傘に入るけどさ。

 

 

「いいか?てめえはここに隠れてろ。あいつは俺がどうにかする。」

「神機も持たずにその身体で?……流石に無茶だと思うけど。なんか作戦あるの。」

閃光弾(こいつ)であの化け物を黙らせる。……元がヴァジュラな以上は多少は効くだろうが!!」

 

 

 そんな無謀な特攻じみた案を出すとソーマは僕の答えを聞く前に閃光弾(スタングレネード)を片手に飛び出す。重ね重ねそれで死んでくれれば御の字ではあるんだが。

 

 なんて言うかこいつ、ちょっと過保護すぎない?さっきもヴァジュラの雷撃から僕を庇って感電してたし。僕としてはそっちの方がありがたいんだけど。

 

 ありがたいんだけどあいつ、あのまま行くと死ぬ前に侵蝕の方が先に完了しそうでな。そうなると「神骸種は神機使いをアラガミ化させる」って性質が露呈する。それは避けたい。

 

 だからソーマに塩を送る形にはなっちゃうんだけどさ。神機の陰に隠れた状態で僕は、光輪を展開する形で造書庫(ライブラ)を起動した。

 

 

 そして────

 

 

(────命の書(アルスノヴァ)展開。レン、ソーマ・シックザールの侵蝕を解除しろ。)

『はいはい。侵蝕の痛みとかも消えるけどいいんですか?』

(削れた最大体力が元に戻るだけだ。現在値は変わらん。)

 

 

 そう造書庫の管理者たるレンに命じる形で、ソーマの身体から神骸種の侵蝕を解除する。これで雷撃に当たればアラガミ化を引き起こす前に大人しく死んでくれる。同時に神骸種の細胞侵蝕が時間経過で回復するものだと、改めて錯覚させられる。

 

 断じてあいつを助けた訳ではない。

 助けた訳では無い、のだが。

 

 

『………ゼロ!!ソーマのバイタル異常が解けたわ!!今なら回復できるはず!!』

「そっか。………ナイスタイミングだね。」

 

 

 そんな転機をうちのオペレーターは見逃さない。

 そしてそう指示が飛んできた以上、僕も助けざるを得ない。

 

 僕は吹き荒れる雷光の中神機を構え、回復レーザーでソーマを後ろから撃ち抜く。同時にソーマは閃光弾をヴァジュラ(ジゼル)の顔面に叩きつけると、雷光に焼かれながらもその放電を阻止した。

 

 

【────ギャンッ!!?】

「本当に君は身体を張るのが好きだね。ソーマ・シックザール。」

 

 

 僕の神機を左手に持ち替え、右手で地面に刺さったソーマの神機を引き抜く。その上で僕は銃口を背後に向けて引き金を引くと、その反動を用いる形で一気に正面に加速した。

 

 その上で神機をソーマに投げ渡し、僕もすれ違いざまに神機を変形。ヴァジュラに向けてヴァリアントサイズを一閃する。

 

 とはいえその刃がヴァジュラに通じる事は無い。それもそのはず。そもそも神骸種は捕喰攻撃によりバーストした時点で、その時点で最もダメージを与えた攻撃に完全な耐性を得る。僕が【装甲化】と名付けた共通能力だ。

 

 だからこそ今回はソーマの攻撃を集中させ、ダメージを近接攻撃に偏らせた。その上でバースト状態に移行すれば、ジゼルの操るヴァジュラは近接攻撃を完全に無効化する。つまり近接攻撃しか攻撃手段を持たないソーマは詰みって訳だ。

 

 何ならターミナルにもそこまでは僕も開示した筈なんだがソーマはそんなもの読んでないんだろうね。ダウンしたヴァジュラにバスターを構え、チャージクラッシュの体勢に入ってる。もうそんなもん効かないってのに。

 

 にも関わらず()()()()オラクル刃を展開し、ソーマは身動きの取れないヴァジュラに神機を振り下ろす。ジゼルも装甲化の性能は把握してるから、特に防御を図るような気配もない。

 

 チャージクラッシュを不発に終わらせて、その後隙を狩れば今度こそソーマは殺せる。僕と同じようにそう身構えていたのだろう。

 

 

「────くたばりやがれ!!化け物が!!!」

 

 

 ……そんな咆哮と共に、光の刃が身体を引き裂くなんて想像すらしなかったのだと思う。本来なら装甲化により弾かれる筈の一振りは、なんとヴァジュラの頭から背中にかけてを一撃で両断した。

 

 

 ………………………は???

 

 

【グギャア"ア………ッ、グゥ………!!!】

『ヴァジュラの反応、活動停止寸前よ!!あとひと押し!!頑張って!!』

「今だゼロ!!トドメを刺せ!!」

「っ、了解。」

 

 ソーマの声に従う形で、僕はヴァリアントサイズの刀身を展開する。その上で今なおバースト状態のヴァジュラに刃を振るったところ、遠心力を乗せた刃は易々と装甲化が適応された筈の肉体を引き裂いてしまった。

 

 ………間違いない。バーストで発動した装甲化が解除されている。

 

 考えられる原因は二つ。先ほどソーマが捨て身でお見舞いした閃光弾。あれでダウンさせられた際に、ヴァジュラの装甲化が解けたか。

 

 そうでなければ考えられるのは、ソーマの神機だ。

 

 

【ア"………ア"ァ………………!!!】

『ヴァ、ヴァジュラの討伐を確認……今度こそ、終わったの……?』

「……恐らくね。本当、手こずらせてくれたね。」

 

 

 大きく仰け反って倒れると同時、捕喰回収を行う間もなくヴァジュラの身体が霧散する。……僕のヴァリアントサイズもトドメになった辺り、単純な装甲化の貫通だけじゃない。ソーマの神機は神骸種の装甲化を消し去る能力があるのか?

 

 ………だとしたらなんでだろうね。なんであいつの神機だけがあんな進化を遂げているんだ?ソーマとは僕も何度かソロモンの姿で刃を交えたが、その時に特別な事なんて────

 

 

「────いや、そういう事か。」

「………ッ、なにしてんだゼロ……ぐっ。さっさと帰るぞ……」

「ああ、ごめんごめん。ロシアで戦った個体よりずっと強かったからさ。生き延びたのに安心しちゃって。」

 

 

 ボロボロの身体を引きずるソーマに急かされ、僕は輸送車へと足を進める。………そう。ロシアだ。今思い出したけど、僕は確かにロシア支部を襲撃した際にソーマと刃を交えた*1

 

 

 そしてその際、僕はソーマの神機に捕喰された。

 

 

 その後だ。確かソーマの神機が白く変色を始めていたのは。つまりあの白い神機は僕を捕喰し、僕の能力の一部を宿しているわけだ。全ての神骸種の支配者である僕の力を。

 

 

 重ね重ね厄介な敵を生み出したものだ。神骸種の【装甲化】を解除できるということはつまり、僕の能力にも明確な突破口になるということだ。今この瞬間、ソーマは第一部隊の誰よりも優先して殺すべき対象となった。

 

 ……それこそ侵蝕でアラガミ化させてでも消しておいた方が良かったんじゃないか。今さらながらに僕は、自ら打った悪手に後悔を覚えていた。

*1
「14.蹂躙(パレード)」を参照。





判明済みの大型神骸種の能力

◈共通

・全ての攻撃が侵蝕状態を付与。
・侵蝕状態は進行により最大体力を削る。
・最大体力を削り切られるとアラガミ化。
・なんと捕喰攻撃を使用。成功でバーストする。

◈バースト後

・攻撃力と侵蝕率の大幅アップ。
・バースト前に剣戟か銃撃のうち、最もダメージを受けた攻撃に完全耐性を獲得。もう一方が全身弱点と化す。
・上記の【装甲化】はソーマのチャージクラッシュにより解除が可能。但しバースト状態は継続される。
・バーストは時間経過で終了。但し再度捕喰攻撃が成功した場合、バーストレベルが引き上げられる。

魂の書(テウルギア)発動個体

・明らかに中に人がいる挙動。
・罠無効。
・小型の神骸種の召喚。場合によっては捕喰する。
・バーストレベル毎に専用の攻撃が解放。



控えめに言ってクソゲーでは?
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