ロキがフェンリル達に俺を殺す出した瞬間――部長が手を挙げた。
「にゃん♪」
黒歌が笑むのと同時に親フェンリルの周辺に魔法陣が展開し、地面から巨大で太い鎖が出現した。魔法の鎖、グレイプニルだ。既に届いていたけど、持ち運ぶのが難儀なため、黒かが独自の領域にしまい込んでいた。本当だったら兄貴がやる筈だったが、オッタルと戦わなければいけない事情があったので、やむを得なく黒歌に任せるしかなかった。
出現した鎖をタンニーンのおっさん、バラキエルさんに続き、後方に控えていたメンバー全員が掴み、親フェンリルの方へ投げつける。
「ふはははははっ! 無駄だ!
バヂヂヂヂヂヂヂッ!
哄笑するロキの思惑が外れたように、ダークエルフによって強化された魔法の鎖は意思を持つように親フェンリルの体に巻き付いていった。
オオオオオオオオオオオンッ……。
親フェンリルが苦しそうな悲鳴を辺り一帯に響かせる。
「――取り敢えず親のフェンリル、捕縛完了だ」
バラキエルさんが身動き出来なくなった親フェンリルを見て、そう口にした。
本当だったら一番厄介な敵を制止させた事に大喜びしたいとこだが、生憎とまだ一匹だけだ。アレ以外に二体の小フェンリルがいる。ロキ曰く、『スペックは落ちても、神を屠る牙は健在』だから。
そのロキは予想通りと言うべきか、焦った様子は全然見受けられなかった。未だ不敵に笑っている。
「ふむ、少しばかり赤龍帝を意識し過ぎたか。ならば――スコルとハティよ! 予定変更だ! 父を捕らえた不届き者たちを、その牙と爪で食らい千切るがいいっ!」
指示された子フェンリル二匹は、風を切る音と共に折れの仲間たちの元へ向かっていく。一匹はヴァーリのチームへ、もう一匹はグレモリー眷族の方へ。
もう鎖は親フェンリルの方に使っちまったから無い。一旦ロキは後回しにすべきかと考えていると――。
「ふん! 犬風情がっ!」
ゴオオオオオオオオオッ!
タンニーンのおっさんが業火の炎を口から吐き出し、それで子フェンリル二匹を包み込んだ。
並みの相手なら即座に焼死する威力だが……子フェンリルは何事も無かったかのように動き続けている。ダメージは受けてるが、怯む様子は全くなかった。
「赤龍帝、どうやら仲間の方へ向かいたいようだな。だが貴殿の相手は我である事を忘れていないか?」
「!」
すると、ロキが俺に向かってどデカい魔術の球を撃ちだしてきた!
手にしてるハンマーで打ち返したかったが、反応が遅れた為にギリギリで避けた。けど、それは却って正しい判断だと認識する。俺を包み込んでる赤い
さっき俺に使った魔術の光は
「
今度はヴァーリが手元から幾重にも北欧の術式を混ぜた魔力の攻撃を撃ちだした。殆どはロキの魔術でなぎ払われるが、何発かは奴の体に当たるも、大したダメージを与えている様子はなかった。
「忘れてはいないさ白龍皇! 短期間で北欧の魔術を覚えたのは流石だが――まだ甘い!」
虹のように輝く膨大な魔術の波動をロキが放つも、ヴァーリは背中の光の翼を大きく展開して迎撃しようとする。
『
白龍皇の能力――ディバイン・ディバイディングが発動し、ロキの攻撃を連続で縮小させていく。
アレを見てると、新校舎を半分にした技を思い出す。あの時は手加減していたが、今は本気だ。分かってはいたが、どうやら本当に修行して新しい能力を得てるようだな。
とは言え、いくつか撃ち漏らしたものがヴァーリの鎧を撃ち抜いていた。が、ヴァーリは即座に復元させていく。
「隙ありだ!」
「っ!」
ヴァーリを攻撃して気を取られてるロキに仕掛けようと、即座にハンマーを小さくして一旦仕舞い、そのまま超スピードで突っ込んでいく。
既にハンマーを持った俺を警戒しているから、何の考えも無しに振るえば簡単に躱されてしまう。だから最大の隙を見せない限り使う事は出来なかった。
気付いたロキは再び魔術で迎撃するが、今度は俺の方が速く――
「だぁっ! ぜあぁぁぁぁぁ!」
「ぬっ、小癪な!」
ダァンッ! ダダダダンッッ! ドゥン!
懐に入って早々に強く握りしめた拳で攻撃するが、向こうは咄嗟に腕で防御する。
防がれた俺は臆する事無く、拳だけでなく肘や膝に脚と、純粋な格闘戦へと持ち込んでいく。
けど、ロキも負けじと魔術を使わずに俺に合わせた格闘をする。
コイツ、見た目とは裏腹に格闘戦も出来るのかよ!
「ロキ、俺と兄貴の修行をバカにしてたくせに、お前もやれるんだな!」
「ふはははは! 我はこんな野蛮な戦いなど好まぬが、出来ないと言った憶えはないぞ!」
ドゴォ! ドォォンッッ!
拳や脚が激突する度、そこから発する衝撃波で大気が震えていた。
回し蹴りをする俺にロキは腕で防御でいなしながら、もう片方の開いてる片手を此方に向けて魔術の光弾を放った。
それを見て即座に超スピードで躱し、そのまま距離を取り、お返しをしようと開いた両手を前に出し――
「はぁっ!」
ズオォォッ!
ドラゴン波ではないが、それなりの威力がある
俺が放った一撃に、ロキは不敵に鬼気迫る表情を浮かべて真正面から俺の攻撃を受け止め――
ドンッ!
そのままヴァーリの方へといなした。俺の
「ふはははは。白龍皇の方は熟練した強さを誇っている。そして赤龍帝は神であるこの我相手に近接戦を仕掛けるだけでなく、先程の凄まじいオーラを放つとは。本当にヴァルハラへ来た時とは大違いだ。もはや別人ではないかと思うほどに成長したではないか。流石だ。あの聖書の神に鍛えられているのは伊達ではないようだな。この我も内に響いたぞ」
俺の攻撃を防御していたロキの手足は軽く痙攣している様子だった。
これが魔術や小細工抜きの真っ向勝負だったら勝てるかもしれないが、相手はあのロキだ。ヴァーリと共闘してるからって、決して油断できない。
どうしようか。アイツの事だから俺がサポートに徹しようと、ヴァーリや仲間に力を譲渡すると分かった途端、即行で狙ってくると兄貴に言われたな。
「高速で動き回る白龍皇よりも――やはりミョルニルを持った赤龍帝だ! 倍増した力を譲渡をされたら面倒極まりない! 先ずは貴殿からぶっ殺しだッ!」
くそっ! 何で俺が考えていた事を読みやがるんだよ! 顔に出してねぇ筈なのに!
完全に狙いを定めたロキが此方を向く。
「――この俺を無視するとはいい度胸だ」
瞬時に動いたヴァーリが、俺に攻撃の矛先を向けていたロキの背後を捕らえた。
けど、ロキは全く焦った様子は見せていない。それどころかまるで引っ掛かったかのように笑みを浮かべ………っ! 不味い!
「下がれヴァーリ! そこは罠だ!」
「!」
バグンッ!
俺の声に反応したヴァーリだったが一足遅く、横から現れたフェンリルの大きな口に喰われた。
「ぐはっ!」
吐血するヴァーリ。例の牙が白銀の鎧を難なく砕き、ヴァーリの体すら完全に貫いていた。
白龍皇の鮮血によってフェンリルの口元を赤く濡らしている。
やっぱり罠だったか。ヴァーリの神経を逆撫でさせる為に、
………ん? ちょっと待て。よく見たらあのフェンリルは子供の方じゃない。大きい親の方じゃねぇか! 鎖で捕縛されていた筈なのに、ってまさか!
俺が振り向いた先には、子フェンリルが口に鎖を咥えていた。思った通り親を開放する為に、俺の仲間と戦う振りをしていたようだ。
「ふははははっ! まずは白龍皇を噛み砕いたぞ!」
まるで上手く言ったように哄笑するロキ。やっぱり全部思惑通りに動かされていた!
あの野郎にとって、親フェンリルが最大の武器。なのに捕縛されたのを見ても大して気に留めなかったのは、俺達に親フェンリルへの意識を逸らす為の策略だったんだ!
そして子フェンリル二匹が最大の切り札と思わせるよう、俺の仲間達と戦わせる嘘の命令を出して、親フェンリルをグレイプニルから解放させる。そして自由になった親フェンリルが無防備な姿となってるロキを助けさせようと、仕掛けてるヴァーリに奇襲をさせたってところだろう。
くそっ! 『策が成功したからって油断するなよ。ロキのやる事には必ず何か裏がある筈だ』って兄貴に言われたのに! 完全に失態だ!
ともかく今はヴァーリの救出だ! 非常に情けないが、俺一人でロキは倒せない!
突貫する俺に親フェンリルはこの前の事もあってか、少しばかり身構える様子を見せていた。
「この駄犬がッ!」
俺が鼻面に
アレと真正面で戦ったら手痛いしっぺ返しを食らうのは分かっていた。だから虚を突かせてもらう!
背骨ごと砕こうと、渾身の一撃を繰り出すも――何と親フェンリルが俺と同じく超スピードで姿を消しやがった!
「げっ!」
背後を取った親フェンリルが爪を振るおうとしていたので、俺は再び超スピードで躱し反撃する。が、向こうも同じく躱して反撃。もう完全にイタチごっこも同然だった。
あの駄犬、ヴァーリを咥えたままでも俺と同じスピードを出せるのかよ! ふざけやがって!
「離れろ! 兵藤一誠!」
タンニーンのおっさんが火炎の球で支援してきたので、俺は言われた通り離れた。凄い熱量と大きさの炎だが、親フェンリルは逃げる素振りを見せようとしない。
いくらフェンリルでも、元龍王タンニーンの攻撃は――
オオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
透き通る美声での咆哮がこの一帯の空気を震わせ、おっさんの炎を打ち消しやがった! 嘘だろ! 俺でも簡単に防げない龍王の一撃を咆哮だけで削除かよ!
すると、フェンリルの姿が一瞬で消えた。
「おっさん! 避け――」
ザシュンッ!
俺が言ってる最中、何かが斬り裂かれる音がした!
「ぐおおおおおおっ!」
おっさんの悲鳴が聞こえた。
生半可な攻撃が一切通じないおっさんの体をズタズタに斬り裂いてやがるッ! 本当に厄介だな、あの爪や牙は!
最強の生物と呼ばれている誇り高いドラゴンがこうもあっさりとやられるって最悪だ。……つっても、それに対抗出来る存在だっている。『最強だからって必ずしも絶対ではない』と兄貴が言ってた。目の前のフェンリルが正にソレだ。
負傷してるおっさんは奥歯にしまっていた回復アイテム――フェニックスの涙を使って傷を治していた。今回のロキ戦に、メンバー全員フェニックスの涙を所持している。悪魔サイドからの物資として。
俺は今のところ無傷だが、いつでも出せるように懐にしまっている。もうついでに、兄貴から貰った別の回復アイテムも一緒に。
それにしても、フェンリルの規格外っぷりには驚かされる。伝説のドラゴン三体を相手にして、今も余裕を見せて戦うなんてとんでもない怪物だッ!
俺がタンニーンのおっさんに加勢したところで、フェンリルは何の障害にもならないように、あの恐ろしい爪を振るうだろう。アレに当たったら最後、俺の
残念だけど、今の俺じゃフェンリルを完全に捉えきれない。爪や牙だけじゃなく、あの反射神経とスピードの所為で攻撃が全然当たらない。捨て身覚悟でやれば当たるかもしれないが、リスクが余りにも高過ぎるから悪手だ。
くそっ! こんな時に兄貴がいてくれたら……! 今はオッタルと戦ってるから無理だと分かってても、どうしてもそう考えちまいやがる!
いっそのこと、この状態のまま
とは言え、この状況は余りにも不味い。何とかヴァーリを助け出さないと!
「まだ赤龍帝が健在だから、念の為にこいつらも出しておこうか」
すると、ロキの足元の影が広がり、そこから――いきなり巨大な蛇が出た! と言うより、身体が細長いドラゴンだ!
……って、よく見るとあの姿! かなり小さいけど、間違いなくアイツだ!
「ロキめ! ミドガルズオルムも量産していたかッ!」
タンニーンのおっさんが憎々しげに吐いた。
その通りだ。この前会ったミドそっくりで、タンニーンのおっさんぐらいのサイズのミドが……五匹いやがる!
ゴオオオオオゥッ!
ミドの量産型共が一斉に炎を吐いてきやがった。
だが!
「ドラゴン波ァァァァァ!!!」
ドォォォォォォオオオオオオオオオオオンッッ!!
量産型ミドの炎はフルパワーに近い俺のドラゴン波で吹き飛ばした。
タンニーンのおっさんに比べれば、あんなもん大した事ねぇ!
「ほう。量産とはいえ、ミドガルズオルムの攻撃をたった一撃で吹き飛ばすとは見事ではないか」
自分が優勢なのか、ロキの野郎は俺に称賛の言葉を送っていた。
余裕ぶりやがって! 絶対あの顔にハンマーで当ててやるから覚えてろ!
兄貴、情けなくて悪いけど一刻も早くオッタルを倒して加勢してくれ! やっぱり俺達だけじゃフェンリルは抑えきれねぇ!
次回はリューセー側の視点になります。
感想お待ちしています。