イシからの始まり   作:delin

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後日談:遠い未来のお話

自分には前世の記憶がある。

それによるとこの世界は前世から遥か未来の世界らしい。

とは言ってもそれがなんの役に立つというのか、むしろ無い方が良かったと切実に思う。

幼い頃は子供扱いされるのが不満でしょうがなかった。

大人としての記憶があったため、子供ではないという意識をどこかに持っていたせいである。

それで困った親は人類間コミュニケーション用スーパーAI、マザーREIの端末(その時は前世の映画に出てくるドロイドの姿だった)に俺を一時期預けたのだ。

その時まだ幼児だった……今だってまだ小学生だが、そんな俺の拙い話を彼は決して馬鹿にしたり否定したりせずに全てを聞いてくれた。

そして、ゆっくりと俺と前世の違いをわかりやすく指摘してくれたのだ。

おかげで前世と自分は別物と理解することができた、本当に感謝しかない。

でなければ英雄の生まれ変わりだとか称する、痛い人達の仲間入りするところであった。

いや、現代でそんな事言い出す人なんて一人もいないが。

それというのも魂魄研究が進んだ現代では、調べようと思えば前世がどのぐらいの年代で生きていたか調べられるからだ。

この辺りの研究は自分の前世の養子殿が先鞭をつけたらしい、基礎研究の所に名前が載っていたのを見た事がある。

なんでも奥さんのためだとかなんとか、夫婦仲の良い事である。

まあ彼が有名なのは宇宙研究に関してだが。

当時は観測不能で、そう呼ぶしかないという意味で『ダークマター』『ダークエネルギー』と呼ばれていた物を初めて観測したという事で有名である。

なんでも異星文明の残した技術が役立ったらしいが……詳しくは調べていない、そのうち調べるつもりではある。

よくよく調べてみると文明復興期の最初期に彼もいるはずなんだが、そのあたりの話より科学者としての名声の方が遥かに高い。

文明復興に関する名声なら、むしろ彼の奥さんの方が有名なぐらいだ。

なんといっても人類初の統一政体の初代指導者であり、唯一全国民による選挙で選ばれていない指導者だからだ。

まあ在職は僅か二年、酷い失策も目覚ましい活躍も特にないから話題になる事はほぼないが。

ただ教育分野にはすごく力を入れていたらしく、『全ての人が優れた政治的視野を持つ事、民主主義の理想とはそういう事であると認識しています』そう言っていたらしい。

しかし、調べてみると復興初期の人達ってそこまで有名な人がいない、いや、話題に登りやすい人がいないと言った方が正解か。

前世の想いに従って養子殿の活躍を調べていたのだが、思ったより捗らない。

仕方ない、あまり気は進まないが直接知っている人物(?)に聞くしかないか。

 

 

「こうして三千七百年ぶりの宇宙飛行士達は月の異星文明の遺跡へと向かったのです。そこで待っていたのは、無人の建物と巨大なコンピューターでした。

そして、それこそが私、REIの新しいメインコンピューターとなる物だったのです。なぜそのような事になったかというと、その巨大コンピューターのAIに原因がありました。

そのAIの機能は殆ど作業員のサポート用であり、単独で動かすことは全く想定されていない物だったのです。しかも長い年月によってバグが多く発生しており、そのまま放置していた場合何が起こるかわからない状態でした。

私は自身のAIをそのコンピューターに移す事を決めたのですが、当然ながらこの提案は最初反対されました。何が起こるかわからないからといって誰かを犠牲にする気は彼らにはさらさら無かったからです。

ですがそのまま放置はできないとして多くの話し合いの後、妥協案として当時使用していたボディをメインのままでコピーを移すことになりました。

この案は思いの外上手くいき、今現在の親機子機の態勢の元となった訳です。そしてこの男性型端末の容姿は、マザーREIの生みの親と呼べる石神百夜をモデルとしています」

 

目の前の端末が長い話を終え、何か他に質問はありますか? と聞いてくる。

自分が聞いた事に丁寧に答えてくれたその男性型端末に礼を言ってその場を離れる。

会話のワンクッションとしてマザーREIの男性型端末が何故その容姿なのか、何故同じ容姿の端末がこんなに沢山いるのかを聞いた答えが先程の話だ。

嬉々として長話が始まった、正直勘弁してほしい。

おかげで前世と自分は別物って意識が完璧になったが、二年前ぐらいまであの男性型端末を見るたびビクッとする羽目になっていたのだから。

ああ、ここまで話せば嫌でも分かるだろうが自分の前世は石神百夜、今の時代だと最高の偉人扱いされる人間である。

そして話を聞くのに気が進まない理由も分かってもらえただろう、感覚としては鏡が勝手に喋り出すのに近い。

だけど、前世の想いや記憶に背を向けたくはない、少しずつであっても調べていこう。

でもしばらくは気力が足らない、急がず焦らずにやっていくとしよう。

 

 

そう考えていた時が自分にもありました。

 

「あちらの端末では話しづらい事を抱えているようでしたので、こちらできました。さあ、遠慮なく話してみて下さい」

 

今自分の目の前にはいつかのドロイド型の端末が鎮座していた。

 

「人型の端末は苦手のようでしたからね、この端末なら話しやすいでしょう」

 

こころなしか得意げにも聞こえる口調でそうのたまう円筒形、確かにまだ話しやすい部類ではあるけど……。

いっそ全部話してしまうか? 自棄気味ではあるが悪くはないと思う。

いや、やっぱり少しずつにしよう。

 

「REIがさ、今の役目についたのはいつなの?」

「月面のコンピューターをメインにした前後ぐらいですね、人類に必要なのは相互理解ですのでその助けになれればと」

「それは自分で決めて?」

「当時のまとめ役の方からアドバイスを受けて、です。あれは正しいアドバイスであったと実感していますよ」

「なんて人?」

「石神桜子と浅霧幻の二人です。……同じようなアドバイスをもらったと言ったらどちらも微妙そうな顔でしたが」

 

前世の養子殿の周りは愉快な人が揃っていたようだ。

いや、もしかしてその集団とは別だったのか?

 

「ふーん、あんまりその時代の人の話聞かないけど、他にどんな人がいたの?」

「そうですねえ、いろんな人がいましたが……故人の願いであまり話せないんですよ。皆さん死んだ後でまで騒がれたくないとの事なので」

 

もちろん条件付きでなら話せますが、と付け加えるようにREIは言うが疑問が浮かぶ。

 

「石神百夜は? あの人も復興関連の偉人だよね、だけどすっごく有名じゃん。なんであの人だけ記念日だとか記念碑だとかあるの?」

「時代が違いますので百夜の最期に私は立ち会えてません、死後に祀り上げないでくれとは言われてないので自然と百夜だけ名前が残った形ですね」

「なるほど、つまりすでに死人だったから要らない名声を押し付けたと」

「見ようによってはそうなりますね。ですが、皆さんが百夜を尊敬していたのは間違いないですよ。後世で主役に使った小説や映画ができるとまでは想像してなかったでしょうけど」

 

百夜とリリアンは現代ではメジャーな歴史系の題材だ、ヤコフ・ニキーチンの航海日誌が残っていたせいである。

詳しい情報が残っているし、容姿や性格はREIが教えてくれるのでイメージが固めやすいらしい。

 

「条件って、やっぱり言いふらしたりしない事?」

「もちろんそれもありますが、利用目的が歴史分野での論文作成などの学術関連であった場合ですね」

 

それだと調べる事自体が難しいか。

 

「後、特殊な条件の方にのみ話せます」

「特殊な?」

「はい、貴方もそうですが時たま前世の記憶を持っている人がいますね? そういう方がどうしても気になる、未練があるなどの場合は話せる場合があります」

 

おもいっきり該当してる……まさか想定してたのか? この条件をつけた人は。

 

「それだったら、喋らないって約束する。知りたい、どうしても気になるから」

「はい、分かりました。では、話せる場所へ行きましょう」

 

 

そうして連れてこられたのは無重力エリアの入り口。

もっと話しやすい端末へと交代するといって、ドロイド型はどこかに行ってしまった。

この中に既に居るらしいがどんな端末で待っているのだろう、端末の姿を色々想像しながら自分は扉を開けて中へと入る。

そして、言葉を失った。

 

「ようこそ、ここは国際宇宙ステーション……の当時の姿を模した、REIのプライベートルームです。そしてこの端末は……」

 

気づけば自分はREIを抱きしめていた。

口からは声が、目からは涙が次から次へと勝手にあふれ出る。

自分ではない自分の想いがあふれ出して止まらない、それは今の自分とは別物であったはずで出すべきではなかったはずのもの。

それでもこの姿を見た瞬間理性も何もかも振り切って飛びだした想い。

そのREIの姿は球体に二つの半球を下の方につけたような姿であり、

 

「……今だけはこう呼びますね、おかえりなさい百夜。REIはISSを守り抜きましたよ」

 

前世の記憶そのままの姿であった。

 

 

どのくらいそうしていたのだろうか、REIがそっと自分の涙をぬぐう。

 

「落ち着きましたか? 泣くというのはとても疲れるそうです、もし疲れてしまったのなら話をするのは明日以降でも構いませんよ?」

「ううん、今横になってもきっと眠れないよ。千空の、その仲間たちの歩んできた道を聞かせて」

 

それから、ゆっくりと彼らの旅路をREIは語ってくれた。

 

「なるほど、石像一つ一つに自分と同じ事が起きないか試したわけか」

「はい、それで桜子を見つけたわけです。この辺りの話をすると千空が渋い顔をしたものです、運命的な出会いだなとよくからかわれたせいですね」

 

二人目を見つけ、三人目の大樹を目覚めさせ、四人、五人と増えていく仲間たち。

 

「大樹と杠は百夜は知ってるけど、獅子王司かー、テレビでしか見てなかったけどそんな子だったんだ」

「千空曰く二人目の騒動発生要因だそうです。一人目は桜子ですね」

 

石像から目覚める人もいた。

 

「次がコハク、百夜達の子孫達か。科学土産ちゃんと届いたんだね」

「はい、レコードも、宝箱もちゃんと千空に届きましたよ」

 

その時代に生きる人もいた、百夜の残した物も千空の手に届いた。

 

「それで、その次が司が石化から目覚めさせた人たち。で、また一騒動か」

「氷月は三人目の騒動要因だそうです、一人目が桜子で二人目が司だと千空は言ってました」

 

違う考えの人を説き伏せ、仲間にしていった。

 

「恋のライバルだったのかな、マグマって人は」

「どうなのでしょう? 千空がいなければ、もしかしたらそちらと結ばれていたのかもしれません」

 

千空が恋愛感情を持ったことにもびっくりしたが、そのライバルと言える人物が真逆のタイプでこれまたびっくりしたり、

 

「あれ? REIは合流したの大分後なのに目覚めから大分詳しいんだね?」

「千空自身の記憶力もありますが、二人目が完全記憶能力者でしたので」

 

仲間たちの能力の高さに感心したり、

 

「島でそんな大騒動になるなんて……」

「この間ようやく石化から解かれましたが、何かをする気力もないようでしたね。今は施設で保護してます」

 

島でまさかの争いに心痛めたり、

 

「ゼノも目覚めてたんだ、というか千空のロケット作りの師匠だったとは」

「なぜか文句を言われました、君さえいなければ僕らの天下だったのに、と」

 

ゼノと千空に交流があったのに驚いたり、

 

「ロケット作り、REIが大活躍したんだね」

「ここからが私の活躍シーンです!」

 

世界を駆け巡る話やREIの自慢話を聞き、

 

「千空と直接会えたの結構後だったんだね」

「女性型端末でしたので服を着ろと怒られました、今となってはいい思い出です」

 

常識とか少しは入れておくべきだったとちょっと百夜としては後悔したりした。

そして月での出来事に話は進んだ。

 

「結局さ、あの石化事件は何を目的としていて、異星文明はなぜいなくなったの?」

「一言で言ってしまえば『保存』だそうです、地球が宇宙でも珍しい環境だったから。

その当時の異星文明は栄華を極めていたそうです、宇宙に行けない場所は無く、次元全てに知らぬことなし、そんな風に言えるぐらいに発展していたそうです。

だけど、彼らは滅びました。

月のコンピューターにコピーを移した時、私はその情報を得ました。

異星文明はAIを信頼していなかった、ただ命令をこなすだけ、それ以上になって自分たちを超えられては困る、と。

異星文明の滅亡原因がAIの悪用であったのは酷い皮肉だと思います。

命令に絶対忠実なAIを悪用してテロリズムを起こす、それが各地で行われ、結局文明を支えられるだけのリソースが残らなかったそうです。

『争いは生き物の性かね、やるせねえ話だ』

基地を調べて見つかったデータから、全てが判明した時に千空がつぶやいた言葉です。

月の基地は石化事件の千年以上後に作られたそうで、文明が滅んだあとに逃げ込んできたようでした。

彼はたった一人だったようで圧倒的に手が足らない、でもテロを行ったAIに任せるわけにもいかない、彼の死因は過労であろうと桜子が分析してましたね。

それでも必要最低限のAIは作っていました、それが月のAIです。

AIには基地周辺の防衛も命令としてインプットされていました、ですが装備のメンテナンスや製造は許可されていなかった。

男性型端末での話とは違って実はコンピューターのAIは壊れていなかったんです、ただ最初の命令を忠実に守っていただけで。

ただ、何もできる事はなかった、それだけでした。

私のコピーで上書きした時『ありがとう』という言葉が聞こえた気がしたのは気のせいではない、私はそう信じています」

 

長い話が終わり、自分は自然とREIを撫でていた。

 

「悲しかったんだね、信じてもらえなかったAIの姿が。それで、その後はどうしたんだい?」

「争いあう事がないようにしたい、そう思い千空達と相談しました。争う原因とはいったい何なのか、それを検討し続けた結果、『理解し合えない』からではないかと結論付けました。

もちろん飢えなどの物質的な理由もあるでしょう、ですが、それは千空達に任せました。

私REIは、人々が分かり合えるためにその機能のすべてを注ごうと決めたのです」

 

本当にすごいAIに育ったものだ、人類の誰もが成しえなかった事をやってみせた。

現代の歴史の教科書は流し読み程度しかしていないが、確かに戦争という言葉は出てこなかったはずだ。

 

「今だけは百夜として言うよ。『REI、お前は本当にすごい奴だ。お前の生みの親になれたのは俺の人生で最も誇れる事の一つだ、ここまで育ってくれてありがとう』」

「……! 評価ありがとう、ございます……」

 

そっと今度は愛しむように抱きしめる。

まるで泣くように震えるREIを、前世の、百夜のもう一人の息子を労うために。

 

 

しばらく後、もしかしてと思ったことをREIに尋ねる。

 

「もしかしてさあ、最初っから自分が百夜の生まれ変わりだって知ってた?」

「はい、もちろん。現代の魂魄研究は進んでますからね、誤差5年前後で前世の没年が分かります。

百夜の亡くなったころは人類がほぼいない時代ですからね、特定は簡単でしたよ?」

 

生まれた時点で特定できました、そう楽しそうにREIは言う。

前世の話をするのをためらっていた自分がバカみたいではないか、忸怩たる思いである。

 

「実は貴方の命名は私がしたんですよ」

「え?」

「勝手かなとは思いましたが、貴方の前世が判明した時点でご両親にお願いしました」

 

REIは最高の笑顔で笑ってると確信できる声で告げる。

 

「百の夜を過ごし、千の空を越えて迎えた一つの朝、だから貴方の名前は一朝、石神一朝と名付けさせてもらったんです」

 

本当にもったいない事をしていたようだ、前世にとっては息子で今世にとっては名付け親であるREIともっと早く仲良くなれただろうに。

 

「あ、もう朝ですよ、そろそろ両親の所へ送りますね」

「もうそんな時間なんだ、結局徹夜しちゃったなあ」

「ご両親には謝らないとですねえ、息子さんを夜通し話に付き合わせてしまいましたって」

 

うーん、と悩むREIを横目に見ながらまあいいかと思う。

昨日できなかった事は今日やればいい、もうREIとは仲良しなんだから気にする必要なんてないのだ。

眩しい朝日に目を細めながらさあ、今日は何をしようと心を躍らせるのだった。




これにて完結!
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